後輩「ごちそうさまでした」
先輩「うひょ~!」
後輩「?」
先輩「茶碗に米粒残ってねえじゃん! ご立派だねえ! お前飢饉でも経験してんのかよ!」
後輩「しました」
先輩「……え?」
後輩「まだ子供の頃に……」
先輩「その話、詳しく聞かせろよ」
後輩「ええ、あなたにはぜひ話しておきたい」
元スレ
先輩「うひょ~!米粒残さず食うとかお前飢饉でも経験してんのかよw」後輩「しました」
http://hebi.5ch.net/test/read.cgi/news4vip/1597748420/
後輩「僕はある地方の小さな村で育ちました」
後輩「人口でいえば、せいぜい数十人……交通の便も悪く、外界から隔絶した村でした」
先輩「どうやって生活してたんだ? たとえば食糧とか……」
後輩「たまに大人が買い出しに出てましたが、半ば自給自足の生活でした」
後輩「もちろん大変だったけど、幸せな毎日を送っていたんです」
…………
……
少年「どうだい、父ちゃん!」
父「稲は順調に育ってるぞ」
父「今年もいい米が取れそうだ!」
母「畑もバッチリよ。いいお野菜がたくさん食べられるわよ」
少年「やったぁ!」
妹「楽しみだね、お兄ちゃん!」
ビュゴォォォォォ……!
ガタガタガタ…
父「ものすごい台風だ……こんなの初めてだ!」
母「作物は大丈夫かしら……」
少年「父ちゃん、母ちゃん……」
妹「こわいよ……お兄ちゃん」
少年「大丈夫さ、お前はぼくが守る!」ギュッ
グチャッ…
父「ダメだ……田んぼが全部ダメになってる……」
母「畑も全滅だわ……」
父「他の家も……似たようなものみたいだ」
少年(ぼくたちは、自分で育てた食べ物を食べる生活をしてる……)
少年(もし、それが全部ダメになったら……どうなっちゃうんだろう)
父「蓄えてた食糧もなくなってきたし、このままじゃ村人全員飢え死にだ」
父「よその村や町に行ってくる」
ところが――
「悪いが、力にはなれんな」
「こっちもあの台風で大損害なんだ! とても助ける余裕はないよ!」
「すまんねえ……援助してやりたいのは山々だけど……」
父「いえ、すいません……」
先輩「飢饉ってのはそういうことか……」
先輩「だけど、そういう時は自治体を頼ればいいんじゃねえの?」
先輩「状況が状況だし、食糧ぐらいいくらでも援助してくれるだろ」
後輩「もちろん、父は知事のところへも行ったのですが……」
……
知事「ん~? ろくに税も納められてないちっぽけな村が今更なにをいう!」
知事「いっそ全員餓死してくれれば、土地が空いて有効利用できるしねえ!」
知事「というわけで、勝手に全滅したまえ! ファファファ!」
母「今日のご飯よ」
妹「えぇ、これだけ……?」
父「すまん……俺が不甲斐ないせいで……」
妹「おとうさんのせいじゃないよ……」
少年「ほら、ぼくの分あげるから」
妹「ううん、大丈夫! あたしこれで足りる!」
少年「いい子、いい子」ナデナデ
少年(もう何日食べてないんだろう……)
少年(ついに……ぼく以外みんな倒れてしまった……)
少年「誰か……」
少年「誰か助けて……ッ!」
ブロロロロ…
キキッ
少年「うわっ、おおきい車……」
青年「ちょいと聞きたいんだけど」
少年「なんでしょう?」
青年「風の便りで聞いたんだが、食糧に困ってる村ってのはここかな?」
少年「そうですけど……」
青年「そりゃよかった。食べ物を持ってきたから、みんなに食べてもらおうと思ってさ」
少年「えっ!」
父「おお……こんなに食べ物が……」ゲッソリ
母「あなたは神様だわ……」ゲッソリ
妹「やったぁ……」ゲッソリ
少年「じゃあさっそく――」
青年「ちょっと待った!」
少年「え?」
青年「俺もここまでの飢餓は想定してなかった」
青年「このまま食事したら、“リフィーディング症候群”を起こす危険性がある!」
少年「リフィーディング症候群?」
青年「簡単にいうと、飢えた状態で急激に栄養補給してしまうと、体に異常が起こり最悪死んでしまうって現象だ」
少年「ええっ!?」
青年「昔、兵糧攻めにあい、飢えた兵士がお粥を沢山食べたら、次々に死んでしまったという実例もある」
少年「じゃあ、どうすれば……」
青年「たくさん食べたいだろうが、しばらくはほんのちょっとずつ、ゆっくりと栄養を取るんだ」
青年「そうすれば、死に至ることはない」
少年「分かりました……あなたにお任せします!」
……
青年「そろそろいいだろう。さ、たくさん食べてくれ!」
少年「いただきます!」
妹「いただきます!」
モグモグ… パクパク… ムシャムシャ…
少年「おいしい……!」
妹「おいしー!」
父「本当にありがとう……」
母「他の村人も、みんな助かりました……」
青年「いやいや、なんのこれしき」
少年「……ふぅ」
青年「ハハハ、さすがにもう食えないか」
少年「食べきれなくて……ごめんなさい」
青年「いいんだいいんだ」
青年「食いきれないほどメシがあるってのは幸せなことなんだ」
……
青年「さて、と。そろそろ俺は村を出るか」
少年「お兄さん、本当にありがとう!」
青年「なあに気にするな。困った時はお互い様さ」
青年「じゃあな!」
ブロロロロロロ…
少年(なんてかっこいい背中なんだ……)
……
…………
先輩「……」
先輩「お前は……お前は……まさか……」
先輩「あの時の……少年!?」
後輩「思い出されましたか」
後輩「そう、そう青年こそ……あなたなんです」
後輩「僕は大きくなって、村を出て、真っ先にあなたを捜しました」
後輩「やがて、現在あなたはある会社に勤めてると分かり――」
先輩「俺を追って、この会社に入ったってわけか」
後輩「ええ、そうです」
先輩「立派なもんだ。そう簡単に入れる会社でもねえのによ」
先輩「だが……俺はお前にそこまで慕われるほど立派な人間じゃないぜ」
後輩「え?」
先輩「あん時、俺は調子に乗ってた」
先輩「羽振りがよくて、金も食い物もあり余ってて、自分が偉くなったつもりになってた」
先輩「それでふと、神様気取りで恵まれない人に愛の手を、なんてのをやってみたくなったんだ」
先輩「俺は心の底から村を救いたかったわけじゃねえ……道楽みたいなもんだったんだ」
先輩「現に、今の今まですっかり忘れてたくらいだしな」
後輩「いいじゃないですか、道楽」
先輩「!」
後輩「あの時先輩が何を考えていようと……僕らの村は救われた。それが全てです」
後輩「本当にありがとうございました、先輩!」
先輩「よせよ、恥ずかしい……」
先輩(それにしてもあの子供が……本当に立派になったもんだ)
先輩「フッ」キラッ…
後輩「先輩、目元になにか光ってますよ?」
先輩「ああ、これは……ただの米粒さ」
おわり

