男「どうも!底辺ユーチューバーです!」
男「今回はですねー!今日暇だったんでランニングしてたんですけどぉ!」
男「見てくださいよこれ!この汚いノート!」
男「うちから徒歩10分のとこにあるコンビニに落ちてたんですけど」
男「なんか『デスノート』って書いてあるんで拾ってきちゃいましたぁ」
男「直訳すると死のノート?」
男「とりあえず面白そうなんで友達の名前、書いていきたいと思いますっ!」
友「ちょwwwwwお前wwwwww?」
元スレ
ユーチューバ―「本日紹介するのはデスノートです!」
http://hebi.5ch.net/test/read.cgi/news4vip/1597465161/
男「えぇー、隣の彼がごねたので代わりに他の友達の名前を書いちゃいました!」
友「さっさと電話して死んでるかどうか確認しろよ」
男「電話してるけど出ないっすね」
友「これじゃ死んでるかわかんねえよな。あいつ、家にいるときほとんど寝てるしな」
男「じゃあ家に突撃しますか」
友「自宅突撃編に続きます!」
男「……」
友「……」
男「これ真面目に死んでね?」
友「ウソだろ? え? 寝てんじゃないのこれ?」
男「ドッキリ?ドッキリなの? あ、ドッキリか!」
友「泡ふいてんぞ。顔が青いしクオリティ高すぎじゃね?」
男「……やっぱ死んでるよな、これ。体、キンキンに冷えてやがる」
友「いやいやなんで死んでんだよ!?」
男「と、とにかく警察!あと救急車も!」
友「事情聴取やらなんやらでさすがに疲れたな」
男「……お前、あのノートの説明読んだ?」
友「あんな糞長い英語なんて読めるわけねえだろ」
男「『このノートに名前を書かれた人間は死ぬ』」
友「お前英語読めるの?」
男「なんとなくレベルだよ。全部は分かんねえ」
友「まさか本気でそのノートのせいで死んだって思ってんの?」
男「じゃあ試してみるか」
友「は?」
男「このノート、名前を書かれた人間は40秒で死ぬんだってよ」
友「名前って、誰の名前を書くんだよ?」
男「生放送に出てる芸能人あたりがベストじゃね?あ、この人でいいや」
友「てきとうすぎだろ」
男「……さあ40秒になるぞ。どうなる?」
ドウシタンデスカ?ナニナニ?ダイジョウブナノ!? チョットカメラトメテ!
友「嘘だろ?」
男「決まりだ。デスノート、本物だ」
友「ドッキリじゃないんだよなこれ?」
男「こんな手の込んだドッキリができるなら底辺なんてやってないだろ」
友「名前書いたら死ぬってヤバすぎだろこのノート」
男「……このノートを上手く使えばさ、なれるんじゃね?」
友「なれる?何に?」
男「トップユーチューバーだよ」
友「お前、人気のユーチューバーを片っ端から始末してく気か?」
男「アホか。そんなことしたらユーチューバーそのものが廃れるぞ」
友「じゃあそのノートですげえ動画でも撮る気か?」
男「そうだよ。このノートがありゃ100万再生される動画だって簡単に作れる」
友「どうやって?」
男「その答えはこの動画にある」
友「……貞子?」
1週間後
友「うわっ、ガチで100万再生突破しちゃったよ」
男「な? 俺の言ったとおりだったろ」
友「『見たら呪われる動画を作ってみた』。大成功じゃん」
男「動画自体はリングの呪いのビデオを参考に作ったしょーもないもんだけどな」
男「概要欄に『この動画を見た人間は1週間以内に死ぬ』」
男「『呪いを解くには、SNSで呪いを解いてください、って文言を添えてこの動画を拡散して自分以外の人間に見せなければならない』」
男「なんて書いてあるけどまあ、普通ならこんなんじゃ伸びないわな」
友「だけど俺らにはこの最強のノートがあるってわけだ」
友「このノート、名前を書いた奴を殺せるってだけでもヤバイのに操ることまでできるもんな」
男「『名前の後に40秒以内に死因を書くとそのとおりになる』」
男「『死因を書くと更に6分40秒、詳しい死の状況を記載する時間が与えられる』」
男「①10代のフォロワーを抱えてる有名人をノートで操る」
男「②ノートに名前を書かれた本人が動画を見る」
男「③SNSで呪いの動画をSNSに載せる」
男「④最後に死ぬ」
男「で、『呪いを解いてください』の文を付けずに拡散した有名人を1週間で2人、お陀仏させて俺たちの動画はバズりまくり」
友「お前がデスノートを落としてくれてガチでよかったよ、死神」
死神「そんなに褒められたら照れちゃうよ///」
男「いや、マジで君には感謝してるから」
死神「初めて会ったとき、酷いこと沢山言われた気がするんだけど?」
友「それはさあ、死神が出て来るとか予想してなかったからさあ。なあ?」
男「あの時はな。ビビったし予想外だし、で。なあ?」
友「人殺しの罰で魂持ってかれるかと思ったぜ」
死神「その割にはけっこう簡単に名前書くよねえ」
男「漫画のキャラが死んだのと同じような感覚みたいな?」
友「は?俺はエースが死んだとき真剣に落ち込んだぞ?」
死神「分かる。私もそこで泣いちゃった」
友「動画はバズったけどこっからどうやって人気になればいいんだよ?」
死神「そうだよね。動画のおかげで2人とも注目されてるけど人気とは違うもんね」
男「もちろんそこらへんも考えてあるって」
男「まず呪いの動画は近いうちに消す」
友「はあ!?あの動画のためにマツゲ全部抜いたんだぞ俺!」
男「そのかわり、『呪いを解く動画』を撮ってアップする」
死神「呪いを解く動画?」
男「あと1人、あの動画を見たせいで死んだ奴が出たらいよいよヤバイってなるだろ、間違いなく」
男「で、解くほうの動画で大量の視聴者を釣るってわけよ」
男「まあ、あとは世間を騒がせたってことでその動画で謝罪もしておくかね」
男「あの動画をいつまでも残しておくと垢BANされる可能性もあるしな」
友「もったいねえ。初100万再生突破動画なのに」
男「どうせ呪いの動画は消しても、どっかの馬鹿がまたアップロードするよ」
友「そうは言っても簡単じゃないだろ、人気の出る動画をまた撮るってのも」
男「だから考えてあるって」
男「今、俺たち二人は注目されてるだろ?」
死神「そうだね、2人ともまとめサイトや5ちゃんで滅茶苦茶叩かれてるね」
友「俺のスマホ勝手に使うなっつーの」
男「現状、俺たちの好感度は最低最悪」
死神「人殺しの守銭奴扱いされてるもんね、ネットでは」
友「ほんとネットって糞だわ」
男「まっ、ここからやることは1つ。好感度をガンガン上げてく」
友「ボランティアをするんだな?」
男「自粛中だぞ。そんなことしねえよ、ノートを使うんだよ」
友「はあ?ノートに名前書いて好感度上がるならとっくに上がってんだろ」
男「じゃあ次にノートに書くのは嫌われ者だったら?」
友「嫌われてる奴を殺す=俺らの人気が上がるって理屈が分かんねえ」
友「まさかお前、ノートで殺るところを配信する気か?」
男「お前、もう喋んな。とりあえずジャパレン行くぞ」
死神「車を借りに行くの?」
男「次に撮る動画のために必要になる」
友「なんのために?」
男「それを説明する前に。次にノートに名前を書く奴を教えとくよ」
友「誰だよ、このおっさん」
男「最近ネットでもテレビでも話題になってたろ」
死神「私でも知ってるよ。煽り運転で指名手配になってる人でしょ?」
男「これぐらい知っとけよ、恥ずかしい」
友「んなことよりもったいぶらずに早く動画の内容教えろや」
男「カーチェイスだよ」
数日後
男『どうも!今話題の底辺ユーチューバーです!』
男『え?何で話題になってるかって?』
男『またまたぁ。皆さんもご存じでしょって、うおおぉ!?』
男『舌噛むだろ!安全運転しろよボケっ!』
友『馬鹿か!今の状況考えてから言え!』
男『ええー、まあ何が起こっているのかと言うと、ご覧ください』
男『そうなんです。今、煽り運転食らってるんですよ』
男『実は今回、我々の呪いの動画が世間を騒がせてしまって』
男『まあ悪ふざけみたいな動画だったんですけど、世間に迷惑をかけたのは事実なんで』
男『謝罪の意味もこめてなんらかの形で世間の役に立ちたいな、と』
男『そんなわけで、僕らと同じく世間を騒がせてる煽り運転野郎を捕まえてやろうと思いっ!』
男『ニュースやらネットやらの情報から、交通ルートを予想して張ってたんですよ』
男『そしたら煽り運転に遭遇しちゃいました!』
男『しかもこの煽り運転してる奴、どうも今話題になってる人っぽいんです』
友『のんきに解説してんなよ!前に回りこんで来たぞ!どうすんだマジで!?』
男『なんとかしろ!お前!俺より唯一優れてる点は免許持ってることだろ!』
友『ふざけろ!下手したら死ぬ!死ぬぞ俺ら!?冗談抜きで!』
男『お前こんなとこで死ねんのか!?トップユーチューバーになるって決めただろ!?』
男『俺たち二人で!』
友『……そうだったな!俺らがこんなとこで死んでいいはずがねえ!』
男『そうだ!どんなことがあったって走り続けるぞ!』
男・友『『うおおおおおおおおおおおおお』』
死神「そして、最終的に二人は恐怖の煽り運転から無事に生還しましたとさ」
死神「めでたしめでたし」
男「いやあ、ここまで胸アツな動画になるとは思わなかったな」
友「運転してるとき、アドレナリンがドバドバだったわ」
男「動画、ヤバいほどバズってるしテレビでも使われてる。最高だよな?」
友「うはははは」
死神「今、2人が日本で一番有名なユーチューバーなんじゃない?」
男「いや、さすがにヒカキンには勝てねえよ」
宮埼文雄 事故死
8月18日 日曜日
阪神高速道路を走行中、ナンバー『23-32』のヴェルファイアを
自身が運転する乗用車でしつこく追い回すが
警察に追跡され、焦ってハンドル操作を誤り、
同日11時45分 同高速道路で壁に衝突し死亡
男「日時、状況、シチュエーション、全て書いたとおりになるんだもんな」
死神「すごいよねー、デスノートって」
友「死神のくせにノートに感心すんなよ」
死神「だって死神はノートをこんなふうに使うことなんてまずないもん」
男「だけどいつまでもノートに頼ってるのはマズイんだよなあ」
友「なんでだよ?」
死神「このままノートを使い続けてたら、動画を出すたびに人を殺すことになるってことでしょ?」
友「そんなん分かるか? ノートで人が死ぬなんて普通は思わねえよ」
男「ダメだコイツ、早くなんとかしないと」
友「あ? 分かるように説明しろよ」
男「イメージの問題だよ」
男「俺たちの動画に出る人間が必ず死ぬってなったらどう思うよ?」
男「このままの勢いなら金も入るようになるし、そのうち企業から案件ももらえるようになる」
男「だからこそノートの使い方は考えなくちゃいけない」
死神「そんなうまく行く?ツイッターとかでもまだまだ叩かれてるよ?」
友「もう少しイメージがよくなりゃ俺らもイケるようになるだろ。なあ?」
男「もちろん。俺たちは本気でトップになれると思ってるよ」
友「でもそのためには、また新しいネタを考えなきゃならねえんだよな」
友「前みたいにオナラソムリエとか喘ぎ声当て選手権とかみたいなネタはやめたほうがいいよなあ」
男「ネタ考えるのもしんどいな」
友「ノート使えば過激な動画も作れるんじゃね?」
男「過激動画はキリがないしBANされるかもしれないから却下」
男「うーん、簡単に出せる動画だとルームツアーとか?」
友「ワンルームの紹介なんて誰が見るんだよ」
死神「でもワンルームや1Kも多くない?ルームツアー動画って」
友「部屋にある小物紹介になってる動画ばっかじゃねえか」
友「つうかルームツアーって言い方うぜえしキメえわ」
男「ヒカキンレベルの家にならないと見ごたえなんてないわな」
男「なんか普段見てる動画とかある?」
死神「私、猫の動画大好きなんだよね。喋る猫なんて癒されるよ?」
友「お前、俺のパソコンでずっと猫の動画見てるもんな」
男「猫飼うなら犬のほうがマシだわ。犬はお手もおすわりもするし」
友「俺の部屋もお前の部屋もペット禁止だから、どっちにしたって無理だろ」
死神「えー、じゃあ占い動画とかは?」
友「なにそれ?」
死神「最近話題になってるの。絶対に当たる占い師ユーチューバー」
男「ノートは使わない方向で考えてみるか」
死神「えー、それは許せないなあ」
男「は?」
死神「私が下界にノートを落としたのはね、デスノートを使って面白いものが見たかったからなんだよ」
死神「ノート使わなかったら意味ないじゃん」
男「広告費が入るようになったらスマホ買ってやるから勘弁してよ」
死神「ノート使ってくれないなら書いちゃうよ、2人の名前」
友「本気で言ってないよな?」
死神「2人とも都合良すぎ。散々ノート使っておいて人気が出てきたら使わないなんて」
男「有名になれば注目されるんだ。今のノートの使い方じゃまずいんだって」
死神「そこを工夫して乗り越えてこそユーチューバーでしょ?」
友「おいおい、どうするよ?」
男「……なら今からこのノートを使って面白いものを見せてやるよ」
男「で、もしお前が面白いと思ったら、今後ノートの使い方には口出ししないって約束してほしい」
死神「へえ、面白いね。いったい何を見せてくれるの?」
男「デスノートに名前を書かれても死なない方法」
死神「ノートに名前を書かれて死なない方法? そんなのあるわけないよ」
男「いや、ある。断言する」
友「……面白そうだな。いいぜ、俺の名前を書けよ」
男「……お前、やっぱすげえ馬鹿だな」
友「せっかくだから動画も撮っておこうぜ、な?」
友「それにこれだけ言っておいて死んだらウケね?」
死神「本当にそれでいいわけ?」
男「いいよ。ただし名前を書いたらすぐに俺にノートを渡してほしい」
死神「えっと、本当に書いて大丈夫?」
友「なに今更ためらってんだよ」
死神「名前消したりページ破ったりしても書いたことは取り消せないよ?」
男「んなことしねえって」
死神「謝れば今なら許してあげるよ?」
友「うるせえ。いいから早く書いてノートを渡せや」
死神「あーあもう知らないからね。はい、書いちゃいました、ほんとに書きましたよー」
男「じゃあノート貸してくれ。あ、40秒カウントしといてね」
友「で、こっからどうすんだよ?」
男「どうするも何ももう終わったよ」
友「は?もう終わり?」
男「お前の場合はこれで十分なんだよ」
死神「残り20秒だけどほんとに大丈夫?」
友「うるせえな、黙ってみてろよ」
死神「…………」
友「おい、なに黙ってんだよ」
死神「黙ってろって言ったじゃん」
友「やっぱカウントしろ。ほれ、あと何秒だ?」
死神「あと5秒。4、3、2、1」
友「……もう1分は経ってるよな?」
死神「信じらんない。なんでノートに名前を書かれて死なないの!?」
男「だから死なないって言ったろ」
死神「あっ、分かった!偽物のノートにすり替えたんだね!?」
男「それ、まず本物そっくりの偽物が作れなきゃ駄目だろ」
死神「じゃあどうやって?」
友「そうだぜ。前に消しゴムやら修正液やら試したけど駄目だったじゃねえか」
男「答えは自分で考えてみろよ」
友「あ? 俺様はタマ張ったんだぞ、教えろや」
死神「私も知りたーい」
男「答え聞いたらガッカリすると思うぜ、お前ら」
死神「どっちにしてもすごいよ!ふつうにビックリしちゃった!」
男「じゃあさっきの約束は守ってくれるよな?」
死神「ちぇっ、本当はイヤだけど約束だもんね。うん、守るよ」
友「うははっ、命を賭けた甲斐があったな」
男「普通にお前が一番すげえわ」
死神「その代わり私のお願いも聞いてくれる?」
男「スマホなら広告が付くようになってからだぞ?」
死神「ちがうよ。私も動画に出てみたいの」
友「動画に出たいって。お前ノートに触った奴にしか見えないんだろ?」
死神「だーかーら、それを承知でお願いしてるの」
男「いや、逆に見えないことを逆手に取ればどうよ?」
死神「さすが! それで具体的には?」
男「んー、次はイリュージョンだな」
数日後
男『今日は彼がね、ここ渋谷でイリュージョンを披露してくれます』
友『はい!今から俺がファンのみんなの前でこの林檎を食べます』
男『それではさっそく食べて頂きましょう!どうぞ!』
友『うん!うまし! ……じゃなくてっ!』
男『お味のほうはどうでしょう?』
友『いやあ、つがるの林檎はやっぱり美味しい、じゃねえよ!』
友『なんで渋谷で林檎の食レポしなきゃいけねえんだよ!?』
男『いやあ茶番すみません。あ、ちなみにこれは案件とかじゃないですよ?』
友『そうそう、純粋に林檎が好きなだけです』
男『では仕切り直します。で、これから林檎を食べるんですよね?」
友『食べますよ。ただし口を使わずに食べます!』
男『おおっ!まさにイリュージョン。しかしいったいどうやって?』
友『百聞は一見にしかず。実際に見てもらいましょう!』
男『そうですね。では、どうぞ!』
パキパキ……ムシャムシャ
男『これはすごい!彼の手のひらに載ってる林檎がどんどんなくなっていく!』
男『みなさん見ましたよね?手も口も何も使ってないでしょ!?』
友『是非このイリュージョンの謎を解いてください!』
友『今日は見に来てくれてセンキュー!』
死神「これ、最初の寸劇いる?」」
男「いるに決まってんだろ。こういう茶番はキッズに受けるんだよ」
友「まあこの手の茶番を寒いって叩く連中もいるけどな」
男「それでもいいんだよ。アンチはアンチで大事な養分だし」
男「あいつらの批判=宣伝だからな」
友「それにしてもツイッターやインスタで募ったといはいえ、すげえ人が来たよな」
男「それな。正直テンション上がったわ」
友「うははは、俺らもすっかり人気もんだな」
死神「ちょっとちょっと!今回頑張ったのは私なんですけど?」
友「頑張ったって言っても林檎食っただけじゃねえか」
死神「ふーん。君は誰にも見られず林檎を食べるなんて芸ができるの、公衆の面前で」
男「ケンカすんな。それより再生回数見ろよ」
友「また今回も伸びがエグイことで」
男「今回は撮影も許可して、SNSにあげるのもオッケーしたからな」
死神「それって肝心のユーチューブの再生数減っちゃわない?」
男「今はとにかく知名度をあげるのが優先」
男「不特定多数の拡散のほうが、動画の再生そのものより旨みとしてデカいはず」
友「お前も意地悪だよな。林檎の謎に答えなんてないってのに」
男「読者への挑戦状だよ。人気だろ、古畑しかり安楽椅子探偵しかり」
死神「SNSはもちろん、5ちゃんでも林檎の動画で盛り上がってるもんね」
友「今んところ合成説が一番有力らしいな」
男「まっ、トリックがないことはSNSの動画が証明してくれる」
男「そもそも俺らは種も仕掛けもあるって言ってるんだ」
男「どんな陰謀論を唱えられようが、あの動画で人気が落ちることはないっしょ」
友「どんなトンチキな説が出るかはちょっと楽しみだよな」
死神「あの動画、種も仕掛けもないってことにしたところで問題なかったんじゃ?」
男「ちがうんだよなあ。ちがうんだよ」
死神「なんか言い方がムカつく」
男「たしかに超能力系ユーチューバーって肩書は魅力的だけどさ」
男「『なんちゃって超能力ユーチューバー』ってしたほうが人気はとれる、確実にな」
死神「なんで?」
男「ユーチューバーに大事なのは、自分でもなれるんじゃないかって思わせる絶妙な安っぽさだ」
友「どっちにしろ、あの動画の謎は誰にも解けねえだろ」
男「死神が見えたりすれば別だけどな」
友「んな奴、いるわけねえじゃん」
死神「今後もこういう路線で行くの?」
友「それでいいだろ。超能力系ユーチューバーならネタが被ることもないし」
死神「いるでしょ?」
男「どこにそんなユーチューバーがいるんだよ?」
死神「前に教えてあげたでしょ。ほら、あの占い師の」
友「占いとか興味ねえんだって。死神のくせに無駄にキャピキャピしてるお前とちがって」
死神「キラキラしてる女子がキライなの?」
友「女子って……まあそうでもないけどよ」
男「お前ミサミサとか好きだったもんな、昔」
友「中学時代の話だろ。よく覚えてんな」
死神「とにかく見てよ!先生ってばほんとすごいんだから」
死神「占った人だけじゃなくてその人に関わる人のことも当てちゃうんだよ」
男「信者かよ、お前」
死神「なんなら今からでも占ってもらおうよ」
友「なんだよ、その先生には簡単に占ってもらえるのか?」
死神「うん。すでに一部ではカルト的人気だから予約制なんだけどね」
友「どうする?行ってみっか?」
男「俺はパス。次の動画の編集もしなきゃいけないし」
友「しゃあねえな。どうせ暇だから俺だけでも行くか」
死神「そう来なくっちゃ!」
友「めんどくせえな。まっ、動画のネタにはなるか」
死神「ほら、早く早く!」
友「……俺ら、トップのユーチューバーになれるよな?」
男「俺たち3人ならなれるさ、必ず」
死神「3人?」
友「俺とコイツ、そしてお前。他に誰がいるんだよ?」
死神「……へへっ」
友「いちいち言わせんなっつーの。ほら、さっさと行くぞ」
男「明日その占い師の話を聞かせてよ。あと明日は遅刻すんなよ」
友「へいへい、そんじゃまた明日な」
次の日
男「あいつ、遅いな。ったく、林檎動画のコメントでも見返しておくか」
・この林檎どうやって食べてるか分かる人いないの?
・合成じゃないの?
・僕の友達が見に行ったけど仕掛けは何もなかったって。あ、明日誕生日です笑
・かまちょ○ね
・おめでとうございます
男(ま、答えなんてあってないようなもんだし分かるわけないわな)
・最初の茶番がつまらない大学生のノリで激寒。
・動画投稿無しで登録者1000人目指してます登録ヨロ
男(しょうもないコメントばかりだな)
男(また新しいコメントがついたな)
男「……なんだこのコメント?」
ノートの所有者 10秒前
りんごはしにがみがたべた
続きを読む
男(単なるクソコメントか?)
男「くそっ。あの馬鹿いつになったら来るんだよ」
死神「彼なら来ないよ」
男「なんでお前だけ? ていうか来ないって?」
死神「そのままの意味だよ」
死神「彼、心臓麻痺で死んじゃった」
※
占い師「占いにおいて本当に大事なこと。それは占う人のその先を見通すことではございません」
占い師「占った上で、その人の未来に寄り添えるかどうか。そのためにはどうすればよいか」
占い師「それらを含めてお伝えすることこそが占い師の本当の役目です」
客「……先生の占いは大変良く当たるって聞いてます」
占い師「ええ、確かに良く当たりますね。自分でも怖いぐらいに」
客「わたし、今好きな人がいるんです」
占い師「好きな人、ね。あなたはその人と自分がどうなるか知りたいんですね?」
客「えっと、その、はい」
占い師「あなたはその人とどうなりたい? その人とどんな未来をむかえたい?」
占い師「あなたのこと、その人のこと。詳しく教えてくれる?」
占い師「ありがとう、色々と詳しく話してくれて」
客「私、初対面の人に自分のことをこんなに話したのは初めてです」
占い師「占う人のことを詳しく知る。私の占いには必要なことなの」
客「これで私と彼のことを占うことができるんですよね?」
占い師「ええ。それじゃあ、その人の顔を思い浮かべて。くっきりと、はっきりと」
占い師「そしてそれができたら、この紙にその人の名前を書いてほしいの」
客「この黒枠の部分に名前を書けばいいんですね?」
占い師「名前を間違えるときちんと占えなくなるから気を付けてね」
客「……」
占い師「どうしたの?手が止まってるけど?」
客「実は友達から先生に名前を書けって言われたら、自分を呼べって言われてたんです」
占い師「……へえ。だったらその友達を呼べば?」
男「もう来てますよ。はじめまして占い師の先生」
占い師「あなたがこの人の友達?」
男「ええ。……ああ、もうお前は帰っていいよ」
客「まったく、人使いが荒いんだから。今度会った時に何か奢ってよ?」
男「次に会うことがあったらな」
男「こんな小さなテナントで占いをやってるんですね」
占い師「占い中に不特定多数の他人の視線を感じるのが嫌いなの」
男「いかにも占い師って感じのその顔隠しもそれが理由なんですか?」
男「いや、それだけが理由じゃないですよね先生?」
占い師「ここに何をしに来たわけ、売れっ子ユーチューバーさん?」
男「俺、面白いユーチューブの企画を考えたんですよ」
占い師「自分で言うなんて、よっぽど面白いんでしょうね」
男「『ユーチューバーが本物の占い師を占ってみた』。どうですか、これ?」
占い師「ユーチューバーらしい勘違いね。占いはそんな簡単にできるものじゃないの」
男「でしょうね。だけど先生と同じことをしたとしたら?」
占い師「同じこと?」
男「必要なのはノートのページと占う相手とその人の名前」
男「あと、占う人間の情報かな」
占い師「ねえ、そのノートは何か特別なものなの?」
男「すっとぼけるのはやめてくれません?デスノートで俺の相方を殺したのは先生でしょ」
占い師「なるほど、もう占いは始まってるってわけね」
男「この占いでポイントになってくるのは、占う人間に名前を書かせるってとこだ」
男「デスノートは書く対象の名前と顔が必要になる」
男「俺も色々と実験したから分かってるんだけど」
男「デスノートは先に死因や死の状況を書いた後に名前を記入しても成立する」
男「ヒアリングした情報をもとに死因と死の状況、操る内容を日付と一緒にあらかじめ書いておく」
男「詳細は不可視インクのペンを使って書いてもいいし」
男「穴の開いた封筒のようなものにノートのページを入れる、なんて方法もできるわけだ」
男「あとは客が顔をイメージして名前をページに書く」
男「そして先生はその詳細を客に伝えれば滅茶苦茶当たる占いの完成」
男「いやあ、先生の評判の高さは羨ましいぐらいですよ」
男「しかもそれでいて詳細な情報が全くない」
男「でも、これもノートで客を操れば簡単」
男「いい評判だけ垂れ流させて、秘密にしたい部分は全部漏れないようにしていた」
死神「なんだかふたを開けてみると残念って感じ」
占い師「……で? 仮にあなたが言ったことが全て真実だとして、何が目的なわけ?」
男「そんなものはありませんよ」
男「先生がノートを持ってるなら、俺にできることはもう何もない」
占い師「できることはない、まあそうでしょうね」
占い師「顔も割れていて、名前もネットで調べれば出て来る状態だものね」
男「逆に俺は先生の顔も名前も、何一つ分からない。完全にお手上げ」
占い師「だけど、だったら何しにこんなところまで?」
男「確かめに来ただけですよ。あなたがノートの持ち主かどうかってね」
占い師「じゃあ、次に私が何をするかは占うことができる?」
男「俺の名前をデスノートに書く、でしょ?」
死神「……」
死神「本当に何もしないで終わっちゃったけど、これからどうするの?」
男「あの先生に言った通り、もう俺にできることは何もないよ」
死神「どうして?前にノートを無効にして見せた方法を使えば」
男「無理だ。あの方法は今回は使えない」
男「それに、もうそれをする意味もない」
死神「意味?」
男「俺はノートで人をかなりたくさん殺した。いや、そんなことは問題じゃないな」
男「あいつが死んだんだ。たとえ運よく生き残ったとしても、もうそれに意味なんてない」
死神「そういえば聞いたことがあるんだよね」
男「何が?」
死神「デスノートを使った人間は必ず不幸になるんだって」
男「そういうことはノートの説明にでも書いとけよ」
死神「んー、じゃあ次からはそうする」
男「あーあ、これで俺はユーチューバーとしても人間としても終わり、か」
死神「人間ってあっけないね」
男「そっ、人間ってのはどうしようもなくあっけないんだよ」
男「――こんなボロイノート一冊で破滅するぐらいにはさ」
死神界
リューク「で、結局最後はどうなったんだよ?」
死神「今はなしたでしょ。結局二人のデスノート系ユーチューバーは死んだよ」
リューク「デスノート系ユーチューバー……」
死神「あとは占い師の先生も」
リューク「その占い師の名前はおろか、顔も分かってなかったんだろ?」
リューク「ノートを使えないじゃないか」
死神「それは普通にユーチューバーくんがナイフで刺し殺したんだよ」
リューク「……なんかそれもおかしくないか?」
死神「なんで?人間は死神と違って鉄砲でもナイフでも、簡単に殺せるじゃん」
リューク「その前にノートで占い師がそいつを殺そうとしなかったのか?」
死神「それは、このノートを見たら答えが分かるよ」
リューク「……なるほど。自分の名前を先に書いておいたってわけか」
死神「これなら後から書かれた名前は無効になる」
死神「だから少なくとも先生に名前を書かれて即死、って結末は避けられたってわけ」
リューク「しかしこれじゃ、デスノートに名前を書かれて死なないって方法は分からないままだぞ」
死神「それね。結局最後まで彼は教えてくれなかったんだけど」
死神「もう一度、あの時に撮った動画とノートを見たら答えが分かったの」
死神「この動画、見てみてよ」
リューク「お前、人間界からスマホを持ち帰って来たのかよ」
リューク「……で、動画を見てもお前が名前を書いた後に、ユーチューバーがノートを受け取ったってことしか分からないぞ」
死神「もう一度、動画をよく見てよ」
リューク「よく見てよって言われてもな……あ、これ」
死神「リュークってば鈍いんだから。やっと気づいた?」
リューク「ノートを受け取った瞬間にペンで書き足してるな」
死神「すごくさりげなくね。で、その後にもう一度ノートを見てみたの」
リューク「……動画に映ってる名前とノートに書いてある名前が違うな」
死神「ねっ?もうこれで答えは分かったでしょ?」
リューク「ノートに書かれた名前に、書き足して別の名前に変えたってことか」
死神「大正解っ」
死神「彼、『雄大』って名前だったんだけど、一本線を足して『雄太』したんだよね」
リューク「お前にすぐにノートを渡せって言ったのも、この方法なら納得だな」
リューク「名前を書いてから40秒が経過したらノートの効果が成立する」
リューク「その前にノートに名前を書き足す必要があったってわけか」
死神「文字を消しゴムでも消すでも、ページを燃やすでもなく、名前を書き足す」
死神「発想の逆転ってこういうことを言うのかもね」
リューク「だが、だからこそ占い師相手にはこの方法は使えなかった」
死神「まあいつどのタイミングでノートに名前を書かれるかも分かんないし」
死神「もし仮に目の前でノートに名前を書かれても、ノートを奪えなきゃアウトだからね」
リューク「結局、最終的にはノートの所有者が死んでこっちに戻ってきたわけだ」
死神「本当はもっと下界にいるつもりだったんだけどね」
死神「なかなか運命の人に巡り合えなくてね。こう、私のシックスセンスにビビッてくる感じの」
リューク「……シックスセンス」
死神「リュークは10年前には『夜神月くん』」
死神「一年前には『田中実くん』って素敵なバディを見つけられたみたいだけどさ」
リューク「どっちも結局死んだけどな」
リューク「田中実は計画を完璧に実行したのにルールに殺された」
リューク「夜神月は結局は神になれずに俺がノートに名前を書いた」
死神「神、ね」
死神「……私ね、二人のチャンネルを使ってユーチューバーをやってみようと思ったの」
リューク「は?色んな意味で無理だろ、それは」
死神「うん、まあ何が一番無理って私の姿がノートを触った人にしか見えないってとこ?」
リューク「……他にも無理なことがある気がするけどな」
死神「そレに気づいたとき、分かっちゃったんだよね」
リューク「何に?」
死神「人間が神になれないように、死神もまた人間にはなれないってね」
リューク「……」
リューク「で、お前はこれからどうするんだ?」
死神「んー、しばらくはここから人間界を見下ろしてる。また素敵な人を見つけるまではね」
リューク「素敵な人ってどんな人間だ?」
死神「それはまだ分かんないよ。見つけてからじゃないとさ」
リューク「……そうか」
死神「そういうリュークも、所有者になってくれる人をずっと探してるんでしょ?」
リューク「俺はノートの所有者に求める条件は決まってるからな」
死神「へえ、どんな条件なの?」
リューク「デスノートを長く、そして面白く使ってくれる奴だ」
リューク「あとは林檎さえ食わせてくれれば文句なしだな」
おわり
85 : 以下、5... - 2020/08/15(土) 21:20:59.989 SVC3hnGi0 60/60おしまい
ちなみに『田中実』って誰だよってなった人は
ジャンプスクエア3月号を読んでください