1 : milktea ◆FbOBNw0his - 2020/07/19 15:03:41.26 qABICU120 1/23・シャニマスのssです。
・既に書き終わっているので一気に投稿していきます。
・初めてss速報vipに書き込みますので、色々と至らない部分があると思います。
何か不備がありましたら教えて頂けますと幸いです。
それでは、投稿を始めたいと思います。
元スレ
【シャニマス】小糸「プロデューサーさんの事は、ずっとわたしが見ていてあげます!」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1595138620/
1.
------レッスン室------
小糸(……サビ入ったらすぐに決めのポーズ。この前のリハで見た感じだとカメラの位置はこことここだから……円香ちゃんが正面から左に移動するのに合わせて今度はわたしが正面に移動…….下が見えないから足がもつれないように……次は雛菜ちゃんとタイミング合わせて……ダンスレッスンで言われたことを思い出して……)
『小糸ちゃん、この前の中間テストの話なんだけど……』
小糸(……違う。思い出すのはこれじゃなくて……)
小糸(……………)
小糸(明日は期末試験1日目……教科は……現代文と化学と……あとなんだったっけ?
あとで日程表確認して……現代文は特に心配ないと思うから、化学の暗記部分だけ確認して……明日はテストで早く帰れるからライブの曲の確認と……)
小糸(……あれ?)
小糸(わたし、今何をしてるんだっけ……)
***
『……小糸……小糸……!小糸!!』
小糸「ぴぇ……?……プロデューサーさん?……え?ここ、事務所……?」
P「良かった……!目が覚めた。取り敢えずこれ、飲んでくれ。スポーツドリンク」
小糸「あ、ありがとうございます……美味しい……」
小糸(20時35分……さっき練習してた時は20時くらいだったから……)
小糸「……プロデューサーさん。えっと、わたしは……自主レッスンしてたはずなんですけど」
P「そのレッスンの途中で気を失ってたみたいだ。見つけた時は意識が朦朧としてたから、ここまで運んで……正直もう少ししたら救急車呼ぼうかと思ってた」
小糸「……そうですか……」
小糸(……今から着替えて帰って……40分くらい。お母さんには透ちゃんとかと話してたら遅くなったって言えばいいかな……それからご飯食べてお風呂入って……)
P「小糸……小糸?大丈夫か?話聞こえてるか?」
小糸「ぴゃ……!?ご、ごめんなさい……!ちょっとボーっとしてて……!な、なんでしたっけ?」
P「明日のボーカルレッスンは中止にして、場合によっては病院に行って検査受けようって話だ」
小糸「……え?」
小糸「そ、それはダメです……!わざわざはづきさんに時間作ってもらったのに……!」
P「はづきさんには俺から言っておく。……それに、小糸が体壊す方がもっとダメだよ。そうだろ?」
小糸「そ、それは……そうかもしれないですけど……」
小糸「こ、今回はたまたま疲れちゃってただけで……!今日ちゃんと寝れば明日はよゆーです!だから……!」
P「……明日はテストだけど、ちゃんと寝れるのか?」
小糸「……!」
P「学校の行事表、もらってるんだ。……分かるよ」
小糸「……で、でも……!」
P「…………」
P「……なあ小糸。今、楽しいか?」
小糸「え……?」
P「W.I.N.Gに優勝した時にさ、話してくれたよな。小糸を応援していれば仲間がいて楽しい、そういう風に思えるようなアイドルになりたい。みんなとわたしの居場所を作りたいって」
小糸「……はい」
P「確かに小糸はそういうアイドルとして、順調に成長してる。……でも、あまり楽しそうには見えない。ずっと無理してるような気がする」
P「そんな小糸を見てるのは俺も……きっと見てるファンだって辛いと思うんだ」
小糸「わ、わたし無理なんてしてません!」
小糸「それに……わたしが頑張らないと透ちゃんや円香ちゃん、雛菜ちゃんにも迷惑かけちゃいます……ファンの人の居場所だって無くなっちゃうかも……!」
P「それを無理してるって言うんだ。充分すぎるくらい小糸は頑張ってるよ。……そう言っても、今は信じてもらえないかな」
P「前にも言った気がするけど……やっぱり、小糸がどれくらい頑張ったのか、ちゃんと教えて欲しい。小糸は頑張ってない、皆はすごいからこれは普通だって言うかもしれないけど……そんな事は絶対にないって、ちゃんと伝えたい。それで……」
P「俺も小糸の居場所を守れたらいいなって、そう思ってる」
小糸「……プロデューサーさん、えっと……」
P「……あ、すまん。ちょっと気持ち悪い事言ったか……?」
小糸「い、いえ……!そんな事……!」
小糸「……すごく嬉しいです」
小糸(それからの事は、あまり覚えていない。気が付いたら部屋のベッドにいた。プロデューサーさんが車で家まで送ってくれたらしい)
小糸(……けれど、寝る時。テストとか、ライブみたいな大きな出来事の前は不安で上手く寝付けないのが普通だったけど)
『俺も小糸の居場所を守れたらいいなって、そう思ってる』
小糸(あの言葉を思い出したら、よく眠れたことだけは覚えている)
2.
小糸(あれから1年。わたしは18歳になった)
小糸(相談の結果、わたしの受験が終わるまではノクチルとしての活動は減らすことになった。透ちゃんと円香ちゃんは『私たちも大学に慣れたいから』なんて言ってくれたけど、きっとわたしに合わせてくれたんだと思う)
小糸(雛菜ちゃんは『来年の雛菜の事は来年の雛菜しか分からないよ~』って言って進路指導の先生に怒られたらしい。まあいつも通り)
小糸(……そのいつも通りさが、今のわたしには少し妬ましい)
P「小糸~自主練終わりの時間だぞ~」
小糸「プロデューサーさん…….分かりました!切り上げますね!」
***
小糸(去年にわたしが倒れて以降、レッスンの後はプロデューサーさんと面談をするようになった)
小糸(面談といってもそんなに堅苦しいものではなくて、ただ今週やったレッスンの事とか、学校の事とかをわたしが話してプロデューサーさんが応えるだけ。雑談タイムと言った方が適切かもしれない)
小糸(最初のうちはわたしが何を話して良いのか分からなかったり、そもそもプロデューサーさんが忙しくて時間が取れなかったりであまり上手くいっていなかったけれど……)
小糸(最近はこの時間が楽しみで事務所に来ている気がする)
P「……なるほど。自分の進路が分からない、と」
小糸「はい。も、もちろんアイドルは続けていきたいですよ!?でも……その、ずっと続けていける職業ではないのも確かだと思うので……その後の事もちゃんと考えないとって…...」
P「うん。正直な話、俺もそう思う。だから、ちゃんと将来の事を自分でも考えてくれてるのは助かるし、偉い」
小糸「そんな事は……多分ないです。今のもお母さんが言ってたことで、わたしが考えたわけじゃなくて……」
P「言われた事でもちゃんと考えてるんだろ?それで充分だよ」
小糸「考えても、あんまりよく分からなくて。それに、わたしは……わたしは、仮にやりたい事があったとしても……自分で選択するのが、怖くなっちゃうと思うんです」
小糸「……だって自分で選んだら、全部自分の責任になっちゃうから」
P「…………」
P「俺もさ、高校生の頃は何にも考えてなかったよ。ただ両親とか先生に言われた事そのまま鵜呑みにしただけ。……それでも今はやりたいこと、見つけられてる」
P「だからって言うのもあんまり良くないけど……大丈夫。今はやりたい事、アイドルの他に見つからなくても、いつかは絶対に見つかるから」
P「それに選択を間違えて失敗したとしても、小糸だけが悪いなんて誰も言わないよ」
P「……なんか具体的な話全然出来なくてごめんな。もっとこう、悩みがパッと晴れるような、気の利いた事が言えたら良いんだけど……」
小糸「え、えっと……!全然そんな事無いです!ありがとうございます!」
小糸「気持ち、結構楽になりました」
P「そっか。それなら良かった」
P「……もうこんな時間だ。面談は終わり。帰ろう。ちょっと待っててくれ、準備したら送るから」
小糸「分かりました。……最近は帰るの、早いんですね」
P「ノクチルの活動が減って、俺の仕事量も減ったからな。まあ、忙しくなる前の休養期間だと思って、ありがたく享受させてもらってるよ」
小糸「そうなんですね……!で、でも、ちゃんと休めているみたいで良かったです!」
P「小糸に言われるってなると相当重症なんだな……でもまあ、うん。そうかもな」
P「よし、準備出来たぞ。行こう。……それと」
小糸「お酒とおつまみ買うから、途中でスーパー寄るんですよね?」
P「……よく分かってるな。まあ毎週末同じ事言ってるから、そりゃそうか……」
小糸「きょ、今日もちゃんと余計なもの買わないか見てますからね!すぐいらないお菓子とかいっぱい買うんですから!」
P「……それ、小糸が言う?」
小糸(あの後、いつも通りスーパーに行って、買い物をして……お酒とおつまみのついでに買っていたカップ麺だとか、野菜ジュースが少し気になったけど……ちゃんとしたご飯、食べてるのかな。……心配。……わたしが、見ててあげないと)
小糸(あと1年もしたら、こんな時間も終わり。アイドルとしての活動も増えていって、ライブも増えて……それはきっと、すごく楽しくて幸せな事だけど)
小糸(今のままの時間が続いてほしいなとも、少しだけ思う)
3.
P『小糸、大学合格おめでとう!今度ノクチルの皆と一緒に打ち上げやろうな!』
小糸『ありがとうございます!打ち上げ、楽しみにしてますね!』
***
P『ライブお疲れ様!すごく良かったぞ!具体的な感想は直接会ったときに言うから、今日はゆっくり休んでくれ』
小糸『はい、ありがとうございます!(会議中にスマホが鳴ったら嫌だと思ったので、返信は朝にしました。)』
P『全然平気!気遣ってくれてありがとう。そういう時は基本電源切ってるから、これからは送ってくれても良いからな!』
***
P『すまん、次の撮影の日、はづきさんが同行することになった。俺は透と円香の地方ロケの方に行くけど、なにか問題あったらすぐ連絡してくれ』
小糸『分かりました!透ちゃんに移動する時、一人で勝手にどこか行かないように伝えておいてください!』
***
P『すまん、今回も……』
小糸(……………………………………)
小糸『分かりました』
***
------事務所------
小糸(……あった、鞄。確かここのチャックを開いたところに……あった。USB。……よし)
P「小糸~俺そろそろ帰るけど、送っていくか?」
小糸「……いいえ!もう少しオファーの資料、読みたいので」
***
小糸(……21時。もうそろそろいいかな……プロデューサーさんの携帯に電話して……)
P「……もしもし、小糸か?どうした?なにかあった?」
小糸「えっと、そういうわけじゃなくて……あの、プロデューサーさん、机の上にUSB忘れてるなって思って……これ、お仕事に使うやつですよね?」
P「あれ?確か鞄に入れといたはずなんだけどな……ちょっと確認するから……本当だ。一回出したのかな……取り敢えず、連絡してくれてありがとう。どうするかな……一回戻るか……」
小糸「でもプロデューサーさん、今お酒飲まれてるんじゃないですか?車は乗れないでしょうし……電車に乗るのも危ないと思います……!」
P「うっ……確かに……というか酒飲んでるのよく分かったな……」
小糸「こ、声を聞けばなんとなく分かります!それで、提案なんですけど……」
小糸(そう、分かっている。ノクチルが活動再開してからも、週末お酒を飲む習慣は続いていることも。その分終わらない仕事は家でしていることも。だから仕事に必要なデータはUSBに全て入れていることも)
小糸(だから、次にプロデューサーさんがどう返答するかも)
P「……分かった。申し訳ないけど届けてくれるか?家の場所は机の引き出しの……」
小糸(分かっている)
***
小糸「お、お邪魔します……!」
P「……おう。はい、これお茶。ごめんな、駅まで行ってそこで受け渡し出来ればよかったんだけど、このザマで……部屋もあんまり綺麗じゃないし……」
小糸「い、いいえ!そんな、お構いなく……?です!」
小糸(プロデューサーさんの住んでいるマンションは最寄駅から歩いて10分ほど。近くにコンビニやスーパーも無いようで、車がないと生活は多少不便であろう事が想像できた)
P「はは……ありがとう。それじゃ早速で悪いんだけど、USB渡してもらってもいいか……?」
小糸「は、はい……!これ、ですよね?」
P「そうそう……これこれ。本当に助かったよ。明日締め切りの仕事があってさ……小糸が気づいてなかったら、夜歩いてでも事務所戻らないといけなかった」
P「それで……お茶飲んで、少し話したら早めに帰ろうな。もう少ししたら酔いも醒めると思うから、そしたら駅まで頑張って送るからさ」
小糸「分かりました。それじゃあ……」
小糸「この前のライブの感想、今聞いてもいいですか?」
***
小糸「……プロデューサーさん?あの……起きてますか?」
P「ん……?ああ、起きてる……もうそろそろ帰る時間だよな……待っててくれ……あと10分……あと10分したら……本当に……起きるから…..」
P「……………………………………」
小糸「10分前も同じ事言ってましたけど……」
小糸「……もう、本当にダメダメなんですから」
小糸「やっぱり、わたしが見ててあげないと」
***
P「……ん……?あれ……朝か……」
小糸「あ、プロデューサーさん!起きたんですね!」
P「小糸!?えっと……?昨日は……そうか、送る前に寝ちゃったのか……ごめんな……」
小糸「え、ええと、全然大丈夫です!わたしも勝手にシャワーとバスタオルお借りしちゃったので……バスタオルは新しいの、今度返しますね!」
P「あ、ああ……別に気にしなくても良いけど……いや気にしなきゃダメか……?えっと、それはまあいいや。じゃあ、その……帰るか……?」
小糸「その話の前に!まずしなきゃいけない事がありますよね?」
P「?」
小糸「歯磨いて、顔洗ってきてください!それから朝ごはんです!」
P「ああ、まあ確かに……でも、朝ごはんは休みの日は食べない主義なんだ……それに食うものなんて、段ボールに入ってるカップ麺くらいしか……」
小糸「冷蔵庫も見ましたけど、水とお酒しか入ってなかったので……仕方ないから、はい、近くのコンビニで買ってきました。栄養バランスとか心配ですけど……それでも、何も食べないよりはマシなはずです!」
小糸「あと段ボールは朝ごはんを食べた後にすぐ捨てに行きますよ!部屋にゴキブリが出る原因になるってお母さんが言ってました!」
P「お、おう……分かった。取り敢えず、買ってきてくれてありがとう。お金後で払うから」
P「……ん?というかコンビニ行くとき鍵どうしたんだ……?まあ、開けっ放しで行っても別に大丈夫だと思うけど……」
小糸「ああ、これ使いました。合鍵。ベッドの横にかけてあったので、使わせていただきました!」
小糸「戻ったら返すつもりだったんですけど。……そういうわけにも、いかなくなってしまいました」
P「え、なんで」
小糸「部屋の惨状を見たからです!さっきも言いましたけど、冷蔵庫には食べ物が何も入ってない!ベランダは掃除をしてないから落ち葉だらけ!スーツ以外の服はアイロンかけてないからクタクタじゃないですか!あんなクシャクシャな服でいつも外出てるんですか!?」
P「……別に休みの日はコンビニくらいしか行かないし。……誰も俺の事なんて見てないだろ」
小糸「普段からちゃんと出来ない人が、大事な時だけちゃんと出来ると思いますか?」
P「社長みたいな事言うね……」
小糸「と、とにかく!ダメダメなプロデューサーさんがちゃんとした生活をするようになるまではこの合鍵は没収です!これから休みの日は毎日見に来ますからね!」
P「……小糸。自分の職業、覚えてるか?」
小糸「……?アイドルですけど。プロデューサーさん、まだ寝ぼけてるんですか?」
P「……寝ぼけてるなら良いんだけどなあ……」
4.
P「……ん、朝か……7時50分……休みなんだしもう少し寝てても……」
P「……いや、起きないとダメだな。起きよう」
P(小糸が俺の家に来るようになってから半年ほどが経った。来るのは基本的に休みの日の朝9時ごろ。流石に寝ていて出迎え出来ないのは申し訳ないから、来る1時間前くらいに起きて部屋の掃除をするようになった)
P(前は休みの日に起きるのは大体午後だったので、少々辛い)
P(……よし。掃除完了)
ピンポーン
P(もうそろそろかな、と考えていたその時にチャイムが鳴った。ドアアイを見るまでもない。小糸だろう。……普通に合鍵で入れば良いのにと思いつつ、ドアを開ける)
小糸「プロデューサーさん!おはようございます!」
P「おう。……おはよう、小糸」
P(声を聞いて、完全に目が覚めた)
***
小糸「……で、出来ました!オムレツ!形も崩れてません!」
P「おお……!成長したな!最初はほぼスクランブルエッグと変わらなかったのに……!」
小糸「え……そんな事思ってたんですか……?」
P「あ、いや……とにかく!美味しそうだから早く食べよう!俺はコーヒー淹れるけど、小糸はいつも通りミルクティーで良いか?」
小糸「はい!お願いします!」
P(半年前と比べて、小糸の料理はずいぶんと上達した。最初のうちは指にいっぱい絆創膏を貼ってくるものだから、慌てて握手会の予定が無いか確認した事が印象に残っている)
P(レッスンに支障があったら困るとも思ったけれど、むしろ前よりも熱心に取り組んでいるらしい。トレーナーさんが褒めていた)
P「よし、用意できたぞ~」
小糸「ありがとうございます!それじゃあ……」
P・小糸「「いただきます!」」
P(……何があったのかは分からないけれど。きっとノクチルの皆にも話せないような、悩みだったり不安があるのだろう。……ベッドの横に合鍵がかけてあったなんてのは嘘だと、最初から気づいていた)
小糸「オ、オムレツ……味、どうですか?」
P(だから、今の俺に出来ることは)
P「……うん、すごく美味しいよ」
P(小糸がいつか話してくれるまで。小糸が少しでも安心できるように、接することだけ)
***
小糸「それじゃあ、図書館にレポート書きに行ってきますね!お皿はそのままにしておいていいですから!」
P「いいや、洗っておく。小糸の手が荒れたりでもしたら大変だから」
小糸「そ、そうですか……あ、あともう一つ!夕食は大丈夫ですけど、昼食前には戻ってこれないと思うので……」
P・小糸「「栄養バランスの良いものを食べてくださいね!」」
P「……だろ?分かってるよ」
小糸「ぴゃ……えへへ、そうですよね」
P「うん。それじゃあ」
P「いってらっしゃい」
小糸「……はい、いってきます!」
***
小糸「……よし、レポート終わり」
小糸(レポートは、予想よりもかなり早く終わった。少々考察が雑な気もするけれど、早く帰りたい欲に負けてしまった。……まあ、この出来でも単位はもらえるだろう)
小糸(帰る前に、途中で寄るスーパーで購入する夕食の材料を考える。……冷蔵庫には何が残っていたっけ。プロデューサーさんの家の冷蔵庫なのに、中身はもうわたしの方が詳しい)
小糸(プロデューサーさんの家に行くようになってから大体半年ほどが経つけれど。少しずつ少しずつ彼の事を知れている気がして、すごく嬉しい。……意外と休みの日はものぐさな事だったり、好きなものはすぐ食べてしまう所だったり)
小糸(プロデューサーさんは私の事、きっと全部分かってくれているけれど。それの半分くらいでいいから、わたしもプロデューサーさんの事、分かってあげたいな)
小糸(そんな考え事をしていたら、いつの間にか部屋の前に立っていた。無意識に歩いていても着いてしまうのは、怖さ半分嬉しさ半分といった感じ)
小糸(チャイムを鳴らして、ドア、開けてもらわないと)
小糸(………………………………)
小糸(今までは、合鍵を使うのには罪悪感があって。だから部屋に入るときはいつもチャイムを鳴らしていた。……そもそも部屋中の引き出しを漁って見つけたものだから、罪悪感があるのは当然なのだけど)
小糸(でも、そろそろ使ってもいいのかもしれない)
小糸「…………よし」
ガチャ
小糸「え、えっと……ただいまです、プロデューサーさん!」
P「ん。……おかえり、小糸」
***
P・小糸「「ごちそうさまでした」」
P「ふう……食べた食べた。それにしても、本当に料理上手くなったなあ……」
小糸「ぴぇ……そう言ってもらえると、嬉しいです」
P「さて、ここからは俺の番だな。お風呂は洗って沸かしておいたから、先入ってくれ」
P「その間に俺が、お皿を洗う!」
小糸「あはは……気合い入ってますね……分かりました。そしたら、お風呂お先に入りますね」
小糸「一応言っておきますけど……覗かないで下さいね?」
P「それ、毎回言うな……大丈夫大丈夫。覗かないよ。ふぁぁ……ねむ……」
小糸「ね、寝てもダメです!さっきのやる気はどこいったんですか!?食べてすぐ寝たら牛さんになっちゃいますからね!」
P「はいはい、分かってます。取り敢えずお風呂、入っておいで」
***
小糸「お風呂、出ました。ふう……お待たせしてすみません……あ!」
P「…………………………」
小糸「もう、寝るなってあれだけ言ったのに……お皿も洗ってないし……」
小糸「……悪いプロデューサーさんには、お仕置きです」
小糸(横になっているプロデューサーさんの腕の間に体を入れると、彼が背中に手を置いてくれた。……寝ぼけているのだろうか。全身が彼に包まれているように錯覚する。ゆっくりと息を吸い込むと、彼の匂いと安心が体に染み入るようだった)
小糸(彼の胸にわたしの顔を預けると、心臓の音が聞こえる。トクントクン。トクントクン。この音がわたしはとても好きだ)
小糸(心のコップに幸せが注がれる。そんな想像をしながら、幸せで満たされた意識を手放した)
5.
小糸「…………え?」
P「だから」
P「……やっぱり、こういう事は小糸にとっても良くないから。もうやめようって言ったんだ」
P「最近は休みの日だけじゃなくて、平日もほぼ毎日来てるじゃないか。仕事だって増えてきてるのに……自分に負担をかけすぎだ」
小糸「ふ、負担なんて事はないです!わたしは……」
P「……鏡で自分の顔、よく見た方が良い」
P「前にも言ったけど、無理してる小糸を見てるのは辛いんだ。……分かってくれ」
P「……合鍵も返してもらう。いいよな?」
小糸(何かが割れる音を、聞いた気がした)
***
ガシャン
小糸「あ、コップ……」
小糸「今は誰もいないし、注意書きはいいかな……箒とちりとり、持ってこなきゃ」
小糸(プロデューサーさんの家に行かなくなってから、しばらく経った)
小糸(無理していたというのはどうやら本当だったようで、あれからレッスンやお仕事で褒められることが増えた。パフォーマンスのキレが良くなったとか、トークに落ち着きが出てきたとか、色々)
小糸(他の人に言われる分には、特に何も感じなかったけれど、プロデューサーさんにも同じようなことを言われた時は、それなりに辛くなった)
『良かった!もう大丈夫そうだな!安心した』
小糸(……何が大丈夫なのか、教えて欲しいと思う)
小糸「確か物置部屋の奥に置いてあったような……あ、あった」
小糸(掃除をしていると、割れたガラスと同じように自分の考えも整理されるような感じがして、少し落ち着く)
小糸(いっそのこと、大丈夫であると自分に言い聞かせた方がいいのかもしれない。少なくとも、周りにはそう見えているのだから。きっと、その方が将来的にも良いに決まっている。でもそれをしてしまったら、自分がどこにもいなくなってしまう気がした)
小糸(今頑張れば、将来幸せになれる。色んな人に、様々なタイミングで言われた言葉。それを信じて、ずっと頑張ってきた。……けれど)
小糸(わたしが幸せになれる将来は、いつやってくるのだろう)
小糸(そんな事を、今は考える)
小糸「よし、掃除終わり」
小糸「……もうそろそろ、帰ろうかな」
小糸(こんな事を考えていても何にもならない。……予定でも見直そう)
小糸(帰りに買い物行かないと。明日は休みだから、ちょっと手の込んだものを作ろう。……ハンバーグにしようか。玉ねぎとか卵はストックあったから、ひき肉とパン粉だけ買って……サラダもちゃんと作って……いつも最初におかず食べてお腹いっぱいにしちゃうんだから、ちゃんと注意しないと……)
小糸(…………………….)
小糸(あ………..)
小糸(準備する必要、ないや)
小糸「………………….」
小糸「馬鹿だな……………」
***
小糸(仕事が忙しくなって。それ以外の時間は一人でいる事が増えると、昔の事をよく思い出した)
『そういう場所が、みんなの……ううん、みんなとわたしの居場所になったらいいなって』
『俺も小糸の居場所を守れたらいいなって、そう思ってる』
『…..だって自分で選んだら、全部自分の責任になっちゃうから』
『選択を間違えて失敗したとしても、小糸だけが悪いなんて誰も言わないよ』
小糸(……わたしは…………)
***
小糸「プ、プロデューサーさん!」
P「うおっびっくりした!……小糸か。後ろから急に声かけないでくれよ……」
小糸「ご、ごめんなさい……!で、でも見てもらいたいものがあるんです。これ!」
P「……USB?」
小糸「は、はい!この前のダンスレッスンの時に撮ってもらったやつです!トレーナーさんにもっと動きに個性が欲しいって言われてしまって……どうすればいいか、一緒に考えてくれませんか?」
P「なるほど。もちろんいいよ。ちょうど仕事もキリいいし……」
P「……よし、認識した。ああ、大学のレポートとかも管理してるのか……で、どのフォルダに入ってるんだ?」
小糸「はい!ここです!」
P「おお、動画じゃなくて写真で撮ったのか……?じゃあ、最初から見ていくか」
P「……………..!?小糸、これは……」
小糸(そこにはプロデューサーさんの家でわたしと彼が一緒に寝ている写真、彼の膝にわたしが座っている写真……その他にも色々な写真が保存されている。わたしの大切な思い出)
小糸(どの写真も、『外』に出してはマズいものであるという共通点があった)
小糸「……ごめんなさい。USB、間違えちゃいました」
小糸「それで、提案なんですけど。ダンスの動画、結構長くて。……だから、プロデューサーさんの家で見て、じっくり話し合いたいなって……」
小糸(そっとプロデューサーさんの首に、指を這わせる)
小糸「いいですよね?」
小糸(指からはトクントクンと、少し早い脈の音が伝わってきて)
小糸「……ね?」
小糸(ああ、幸せは心からで無くとも伝わるのだなと)
小糸(そんな事を、思った)
26 : milktea ◆FbOBNw0his - 2020/07/19 17:21:58.02 qABICU120 23/23終わりです。読んでいただいてありがとうございました。
普段はpixivの方に投稿していますので、良かったらそっちも見てやってください。
小糸でタグ検索すればすぐ見つかると思いますので。