上司「君、関西出身なんだって?」
男「ええ、一応……」
上司「じゃあ、ちっちゃい頃からボケとツッコミばかりやってきたわけだ!」
男「いや、そんなことは……」
上司「せっかくだからみんなを笑わせてよ!」
男「そういうのはちょっと……」
上司「ダメ? やっぱりお笑いを安売りしたりしないか! さっすが関西人!」
男(なにが“さすが”なんだろう……)
元スレ
上司「関西人なんだからみんなを笑わせてよw」男「そういうのはちょっと……」
http://hebi.5ch.net/test/read.cgi/news4vip/1592830816/
同僚「課長に聞いたけど、お前関西人なんだって?」
男「うん、まぁね」
同僚「だったら、コントとか漫才とか大得意なわけだ!」
男「そんなことないけど……」
同僚「ん、電話かかってきた」
同僚(と言いつつ、名刺入れを耳に当てる)サッ
男「……」
同僚「やっぱりこの程度のボケじゃ突っ込んでくれないか! さっすが関西人! レベルが高い!」
男「あ、いや、ごめん……」
OL「男さんって関西人なんですって? 知らなかった~」
男「どうも……」
OL「関西の人ってみんな持ちネタの一つや二つ持ってるんでしょ?」
男「え……」
OL「なにか披露してくれない?」
男「いや、特に持ちネタとかないんで……」
OL「そう簡単に手の内は明かさないか。かっこいい! やっぱり関西の人ってすごい!」
男「いや、本当にないんで……」
上司「この条件でなんとか……」
取引先「うーん、難しいですなぁ……」
男(今日も打ち合わせは平行線で終わりそうだな)
上司「そういえば、ここにいる私の部下は関西人なんですよ」
取引先「ほう! 関西人! ということはさぞ面白いんでしょうなぁ」
上司「もちろんです。会社では“爆笑の伝道師”と呼ばれてますから」
男(呼ばれてない……)
上司「君、なにか面白いことをやって、この方を爆笑させたまえ」
男「そんなこといきなりいわれても……」
男「……」
上司「……」ゴクッ
取引先「……」ゴクッ
男「すいません……本当になにもありません」
取引先「いや……関西人だからといって、安易に人を笑わそうとしないその態度が気に入った!」
取引先「この条件で契約しましょう!」
上司「ありがとうございます!」
男「あ、ありがとうございます」
上司「大口契約を取れたので、今夜は飲み会だ!」
上司「カンパーイ!」
同僚「カンパーイ!」
OL「カンパーイ!」
男「カンパーイ」
上司「じゃあ、今回の功労者である男君から、面白いショートコントを頂戴しようじゃないか!」
男「え!?」
パチパチパチパチパチ… ヒューヒュー!
男「えぇっと……」
男「今回はマグレとはいえ、契約を取れてよかったです」
男「今後も社に貢献したいと思います……以上です」
上司「普通だ!」
上司「しかし、あえて普通にしてくるところが……関西イズムを感じるねえ。さすが、関西人……」
同僚「その通り! やっぱり関西の人はすごいなぁ」
OL「私ったら感動して涙が出てきたわ!」ポロッ…
男「……」スタスタ
社長「うぉっほん」
男「! しゃ、社長!」
社長「君は関西出身だそうだね」
男「はい……そうですけど……」
社長「ならば、この私を笑わせてみてくれないか? 本場関西の笑いというものをぜひ生で堪能したいのだ」
男「えぇっと……」
男「……」
男「……」
男「すいません、なにも思い浮かばなくて……」
社長「いや……それがいい!」
男「え」
社長「関西人でありながらあえて面白いことをいわないという……その心意気が気に入った!」
社長「今時の若者は骨がないなどというがとんでもない! 骨ありまくりじゃないか!」
社長「君はきっと出世する! いや、出世どころかもっと上に……」
男「買い被りすぎだと思いますけど……」
ある日――
大物「こんにちは」
男「あ、あなたは……!」
男(テレビや新聞で見ない日はない、政財界の大物じゃないか!)
大物「実は君が勤めてる会社の社長と私は、昔からの知り合いでね」
大物「彼から君の話を聞いたとたん、飛んできてしまったのだ」
男「そうなんですか……」
大物「ふむ、一般的な関西人であれば、今の段階で」
大物「“話がいきなりすぎやねーん!”“歩いてきたやないかーい!”と突っ込むところであろうが……」
男(そうかなぁ……)
大物「突っ込まなかったのは、あえてツッコミを温存しているからということか!」
男「いや、温存なんて……」
大物「能ある鷹は爪を隠す……。ふむ、気に入った!」
男「え……」
大物「君は政界に進出しなさい! 君ならば私の後継者……いやそれ以上になれる!」
男「えええ……」
男(なぜか選挙に出馬することになってしまった……)
ワイワイ…
有権者A「この候補者、関西出身らしいぞ」
有権者B「ってことは、ものすごく面白い演説をしてくれるに違いない!」
有権者C「やっべぇ~、笑い死にしたらどうしよ! 遺書書いておきゃよかった!」
ザワザワ…
男「えぇと……皆さま」
男「流されるままに選挙に出馬してしまった私ではありますが……」
男「日本をよくしたいという気持ちは人一倍ありますので、皆さんの清き一票をお願いします」
ザワッ…
有権者A「全然面白くない!」
有権者B「だが、そこがいい味出してるよな! 関西人という絶対の強みをあえて封印するところが!」
有権者C「みんな、この人に投票しよう!」
オウッ!
男(議員になってしまった……)
男(しかも、大物さんのおかげというかせいというか、いきなり総理の側近みたいにされるし……)
総理「君」
男「は、はいっ!」
総理「君は関西人とのことだが……日本をよくするためにはどうしたらいいと思う?」
総理「ただし、絶対ボケないでくれたまえよ。絶対だぞ」
男「はぁ……」
男「まあ、そうですね……。政治にはあまり詳しくないですが……」
男「国民の声をよく聞いて、不正をせず、なるべく大勢が明るく暮らせるような社会を目指すべきではないでしょうか」
総理「……」
総理「“絶対ボケるな”という私のフリをスルーするとは……さすが関西人!」
男「は?」
総理「近い将来、日本を背負って立つのは君しかいない! 期待してるよ」
男(期待されても困る)
男(困るのに、総理にされてしまった……)
記者「総理大臣就任、おめでとうございます」
男「ありがとうございます」
記者「総理は関西ご出身ですよね?」
男「ええ、まぁ。生まれは……」
記者「では面白おかしく、今後の抱負をお話し頂けるでしょうか」
男「うーん、面白おかしくできるかは分かりませんけど……」
男「元は会社員ですし、やはり景気をよくして、海外との競争にも負けないようにしていきたいです」
男「環境問題にも取り組み、科学を発展させつつ、自然環境を守っていくということもしていきます」
男「優秀な人がきちんと評価される仕組みを作り、なおかつ立場が弱い人を見捨てたりはしません」
男「高齢者から若者に子供、赤ん坊まで、みんなが幸せになれる社会を築こうと思っています」
記者「なんだか、調子いいことばかりいってる感じですけど……」
男「す、すいません」
記者「あ、分かった!」
記者「“調子いいこといって、全然できませんでした!”っていう壮大なギャグの前振りですね?」
記者「国家レベルのギャグ! これはウケますよ! さすが関西の人だ……スケールが違う……」
男「いや、一応本気なんですけど……」
……
記者「あれから時が経ち……いやーまさか、全部成し遂げてしまうとは……」
記者「日本は今まさに戦後最盛……いや、史上最盛期を迎えてますよ!」
男「ありがとうございます」
記者「総理就任の時は失礼なことをいってしまってアイムソーリー!」
男「いえいえ」
記者「やはり、これぐらいじゃ突っ込んでもらえませんね……。関西の人には敵いませんよ……」
男(あ、ボケだったのか今の)
やがて――
「号外! 号外!」
「総理が亡くなった!」
「なにもかも後継者に引き継いだ後、ポックリと……」
ザワザワ… ガヤガヤ… ドヨドヨ…
国民A「総理死んじゃったなー」
国民B「ああ、日本をよくするだけよくして、思い残すことはないって感じだったな」
国民A「関西人なのに、結局最後まで面白いことはいわなかったけど……」
国民B「みんなを笑顔にしてくれたよな……」
― 完 ―