女「…………」
男「何だ、緊張してんのか?」
女「うん……きょ、今日、初めて殺人事件の弁護をするから」
男「殺人か。そりゃあ確かにプレッシャーかかるかもな」
女「あ、相手の検事はお姉ちゃんだし、ぶぶ、ぶざまなところは見せられない……」
男「相変わらずアガリ症だな……水でも買ってきてやろうか」
女「う、うん。じゃ、じゃ、じゃ、じゃーよろしく」
男「ベートーベンの有名な曲みたいなテンポになってるじゃねーか」
元スレ
SS「アガリ症の弁護士(妹)とクールな検事(姉)」
http://takeshima.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1240137000/
姉「………ん?おお、君か」
男「あ、どうも。女のお姉さん」
姉「名前で呼んでくれと言ったはずだが」
男「じゃあ、姉さん。今日は遅いんですね」
姉「遅くはない。女が早過ぎるだけでな。……っと、女はどうしてる?」
男「控室で震えてますよ」
姉「やっぱりか……まあいい。どんな状態であれ、叩きのめしてやるまでさ」
男(妹相手にも容赦無いからなあ……)
男「ほら、水」
女「あ、ありがとう…………ふぅ」
男「ちょっとは落ち着いたか?」
女「うん……と、とにかく頑張るよ」
男「今回の被告人はどんな感じだ?」
女「うーんとね…多分、殺してないと思うよ。そんな印象受けなかったから」
男「……ま、何にせよ……」
女「私がお姉ちゃんに勝って、無罪にしてみせる…………多分」
男「最後の最後で自信を無くすなよ」
―法廷―
女「い、異議あり!それは先程の証言と矛盾しており、信憑性が――」
姉「異議あり!被告人にはその場に居なくとも殺人を犯す方法が――」
女「異議あり!裁判長、おねえ――いや、検事殿の発言は想像に過ぎません!!」
男(今日は女も姉さんも、気合い充分だな……)
女「勝った!!勝ったよー!!」
男「見てた見てた。……よかったな」
女「うん!……あ、私、警察署に行ってこなくちゃ」
男「あー……俺は先に帰ってていいか?」
女「いいよ、お疲れ様!」
男「じゃあ、お先に」
(バタン)
男「…………あれ?」
姉「……………」
男「どうしたんですか?」
姉「別に。……強いていうのなら、君を待っていた」
男「え?」
姉「最近……誰かに付き纏われているような気がしてな」
男「ストーカー……ですか?」
姉「どうだかな。私は法廷以外の場所でも色々と怨みを買ってるから」
男「あー、確かに。そんな感じがしますね」
姉「そこで納得するんじゃない。……という訳で、よければ送ってやってくれ」
男「いいですよ。じゃあ――」
姉「どこに行くんだ?」
男「え?姉さんの家に」
姉「……ああ、すまない。勘違いをさせてしまったかな。」
男「えーっと……?」
姉「妹のことを送ってやってくれ。私は自分の身くらいは護れる」
男「で、でも、つけられてるんですよね?」
姉「その矛先が女に向けられたらどうする。……という訳で、任せたぞ」
男「あっ、ちょ……」
女「あれ?男君何してるの?」
男「お姉さんが、女を送ってやってくれってさ」
女「……もう、いつまで子供扱いするんだろ」
男「気持ちはわからんでもないけどな」
女「そ、それどういう意味?」
男「自分の胸に聞いてみな。……二つの意味で」
女「こら。失礼だよ男君」
男「スーツなら幼児体型を隠せるからいいよな」
女「もう!!いざという時、男君の弁護してあげないからね!」
男「そんなことになってたまるか……」
姉(…………朝か)
姉(今日はオフだったな……昨日は…)
姉(ああ、そうだ。被告人が無罪になって、弁護士は……)
姉「……いい天気だ。たまには、出掛けてみるかな」
姉(昨日の疲れがとれないな……ん?)
姉「おい。……君は何をしている?」
男「何をって……見ての通り、お買い物ですよ」
姉「ふふ、男が一人でお買い物か。周りからするとただの寂しい奴だな」
男「そういう姉さんは?」
姉「私は……お買い物だ」
男「……………」
男「昨日の裁判、残念でしたね」
姉「ん?……昨日の裁判……ああ、アレか」
男「女が勝ったじゃないですか」
姉「女はどうだか知らんが、私は裁判に勝敗などは求めていないよ」
男「……はあ」
姉「弁護士と検事。それは……ある意味、協力して真実を導き出す仕事だからな」
男「わかるような気がします」
姉「昨日の裁判でわかったことは、犯人は他に居る――ただ、これだけだ」
男「カッコイイですね」
姉「だろう?だから私は、検事になったんだ」
男「……そんな理由なんですか」
姉「ああ、後悔はしていない。……いや、たまにするかな」
男「たまに?」
姉「たまに……弁護士になっておけばよかったと思うことはあるよ」
男「弁護士ですか」
姉「……検事という仕事はね、笑ってもらえないんだ」
姉「弁護士は無罪を勝ち取れば、被告人やその家族は笑顔を見せてくれる」
男「…………」
姉「でも、検事は有罪にしても被害者は笑ってくれないんだよ。……ただ、泣くだけだ」
男「じゃあ……何で検事になったんですか?」
姉「ん?……怖かったからだよ。弁護士ってのは、世間様から叩かれやすいからな」
男「……………」
男「……っと、女からメールが……」
姉「となると、私は邪魔者だな。これで失礼するよ」
男「何度も言いますけど、ただの弁護士と助手の関係です」
姉「はいはい。そういうことにしておこう……それじゃ」
男「はい、また。…………本当、クールな人だな」
男(それでいて、鈍いから困り者だ)
女「さけがたりんぞぉー!さけが、さけがーー!!」
男「女、飲み過ぎだって」
女「およ?男君が三人……ぶんひんのじゅとぅ?」
男「じゅとぅって何だよ、術だろ」
女「私はぁ、お姉ちゃんにぃ、勝ったよ」
男「何回も聞いた」
女「スタイルは……ちょっと、勝ち目が無いけどにぇー……」
男「脱ぐな脱ぐな」
女「ぐー……」
男「寝るな寝るな」
(ザー……キュッ)
姉(やれやれ……さすがに、そろそろ髪を切るべきかな。洗髪が大変だ)
姉「まあ、後ろで結べばもう少し……」
(ピンポーン)
姉「……客?こんな時間に?」
姉(まさか、例のストーカーじゃないだろうな)
(ガチャッ)
姉「……はい」
男「あー……どうも、男です」
姉「男君?……どうした、こんな時間に」
男「女が潰れちゃって……家まで持ちそうもないんです」
姉「ちょっと待ってろ。今、私は下着姿だからな」
男「それは報告しなくていいです」
姉「着替えたらドアを開ける。……少しだけ、待て」
姉「……随分衣服が乱れてるな」
男「女が悪酔いしまして……」
姉「それになんだこの……魚介類の臭い…」
男「さきいかを貪り食ってましたから」
姉「…………本当だろうな」
男「本当ですよ。こんな怖い検事さんが居るのに、裁判沙汰になんかしたくないです」
姉「まあ、それもそうか。……上がれ」
男「……案外、散らかってますね」
姉「まあな。ここ最近忙しかったから……漁るなよ。乙女の秘密が沢山だ」
男「乙女の秘密?」
姉「……下着とか、避妊具とかな」
男「ぶっ!!」
姉「冗談だ。下着は棚だし……この部屋に上がった男性は君が初めてだ」
男(それはそれでどうなんだろ……)
姉「……相当飲んでるな」
男「ええ、そりゃもう」
姉「仕方無い、コイツはここに泊めておくとしよう」
男「すいません、わざわざ」
姉「……しかし、君もアレだな」
男「ん?」
姉「自宅に連れ込んで襲う、くらいの心意気は無いのか?」
男「………えーっと…」
男「襲うって……だから、女と俺は」
姉「大体な。何度女の部屋に入れてもらった?少しくらい好機はあっただろう」
男「いや、部屋に入れてもらったからって」
姉「部屋に若い男女だぞ?女性にもその気があるということだろう」
男「……ってことは、今の姉さんもその気があるってことですか?」
姉「……何?」
男「向こうの部屋で女は寝てるし、二人ですよね。いいんですか?」
姉「ばっ……いや、その、それはだな」
男「いいんですよね?」
姉「っ………こっ、これは、誘導尋問だ!」
男「誘惑尋問です」
姉「よ、よりタチが悪い!!」
男「じゃあ、帰ります」
姉「帰れ帰れ、さっさとな」
男「それじゃ」
姉「ああ。………ふぅー……」
姉(緊張した……)
男「あ、そうそう」
姉「わあっ!!な、何だいきなり!!」
男「明日の仕事に遅れないよう、言っといて下さい」
姉「わ、わかった」
男「それでは」
姉「…………はあー…」
女「……スー……スー……」
姉「……すまないな、女」
姉「少しだけ……揺らぎそうになったよ」
姉「……実を言うとまだ……諦めきれていないんだ」
姉「…………いずれ、忘れるから」
姉「おやすみ……」
女「……あれ……お姉ちゃん……?」
姉「やっと起きたのか、もう十時過ぎだぞ」
女「うー……頭痛い……」
姉「二日酔いだろう。……仕事に差し支えないようにな」
女「うん、気をつける……」
姉「ほら、大根の味噌汁だ。二日酔いにはいいぞ」
女「…………ありがとう……あれ、男君は?」
姉「帰った。泥酔した女を背負って来てくれたらしくてな」
女「そっかぁ……男君、優しいね…」
姉「………そうだな」
女「……お姉ちゃん……」
姉「何だ?」
女「私、いい加減男君に告白しようと思うんだ」
姉「……っ、あ、ああ。いいんじゃないか。お似合いの二人だ」
女「うん、ありがとう……勇気が出た」
姉「……そうか」
女「あ、そろそろ行かなきゃ!お姉ちゃん、ありがとう」
姉「ああ、気をつけてな」
姉(………勇気、か……)
女「もしもし、男君?」
女「……え?何言ってるの?」
女「ちょ、ちょっと待って。落ち着いて……」
女「そんな……そんなのって……」
女「それで、犯人は?」
女「…………わかった、今から行くよ」
(バン!)
姉「女!!これは……これは一体!?」
女「おねえちゃ……男君が……」
姉「殺人容疑……くそ、悪い冗談だ」
女「私、私……どうすれば……」
姉「……決まっている。男君の弁護だ」
女「……うん……あ、検事はお姉ちゃんだって…」
姉「…………何……?」
女「よかった……不幸中の幸いだよ…」
姉「…………」
(バサッ)
女「……どこに行くの?」
姉「――彼が犯人だと言う証拠を見つけにだ」
女「………え……」
姉「私は、検事なんだよ。女」
女「でも、でも……」
姉「私たちの仕事は、庇うことでも責めることでもない。見つけることだ」
女「見つける……何を……?」
姉「――たった一つの、真実だ」
姉「ああ、ここの周辺をもう一度洗ってくれ」
姉(これで……)
姉(これで完璧に諦められる……)
姉(私は彼を全力で有罪にしようとする……間違いなく嫌われるな)
姉(ああ……最後に、後悔があるとしたら)
姉(やはり私は、弁護士になればよかった……これだけだろうか…)
男「……女……」
女「く、暗いよ男君!大丈夫、私がちゃんと弁護するから!」
男「……検事は?」
女「……お姉ちゃん、だけど。私が何とか説得して……」
男「ああ、じゃあ結構厳しいかもな」
女「……まあ、正直…お姉ちゃんは凄い人だから」
男「まあいいさ。俺はあの人のそういうところを好きになったから」
女「……え?」
男「好きなんだ、ずっと……まあ、気付いてないだろうし、脈も無いけど」
女「………あ…」
男「多分、全力で俺を潰しに来るだろうから……」
女「…………」
男「弁護は頼んだぞ、女。頼りにしてる」
女「…………うん!頑張るよ」
女(気持ちいいくらい脈無しなのは、私の方だよ……あーあ…)
―法廷―
女(苦しい状況だけど……諦めない……!)
女「いい、異議ありっ……」
姉「待て、異議ありだ。苦し紛れの反論もここまで来ると痛々しい」
女「……っ……」
姉「もう一度説明しようか。彼は犯行時刻に――」
女(待って……今……)
女(何か引っ掛かって……)
女(そっか……!!)
女「――異議あり!!!」
姉(やっと気付いたか………女……)
姉(しかし、この資料……これで)
姉(真相とは違うものの、トドメをさす事が出来る……完璧に…)
姉(検事が目指すのは勝利か……それとも……真実か……?)
裁判長「検事、何か反論は?」
姉(私は……検事だ……)
姉「反論、反論は…………ありません」
裁判長「被告人は――無罪」
女(やった……!!)
姉「…………」
姉(私は……私は正しかったのか……?)
姉(彼が犯人では無い。しかし、その真実を明らかにする為に力を抜いた)
姉(私は……検事なのか…)
姉(検事として……正しいことをしたのか……?)
姉「八百長疑惑……か」
女「お姉ちゃん……」
姉「はは。――これは疑惑ではなく、真実だ」
女「え?」
姉「……すまない、女。私は、もう法廷に踏みいる勇気が無い」
女「………何言ってるの?」
姉「私は――検事を辞める」
男「あー、やっと自由になれた」
(バタン)
男「どうした?女」
女「お姉ちゃんが……」
男「姉さんが……?何だ、何かあったのか?」
女「検事……辞めるって……」
男「!?な、何でだよ!」
女「もう……勇気が無いって……」
男(八百長疑惑…………。俺のせいで…?)
男「……姉さんは?」
女「さっき……出ていっちゃった……」
男「場所……場所は!?」
女「携帯のGPSがある……けど…」
男「貸してくれ」
女「……どうするの?」
男「決まってる!検事を辞めるなんて発言を撤回させるんだ!」
女「……きっと、お姉ちゃんだって沢山悩んだんだよ!それで……勇気が無い、って…」
男「……勇気が無いなら、俺がいくらでも分けてやる!!」
男「俺は……俺は姉さんに、検事を辞めてほしくない!!!」
女「………!」
姉(検事という仕事)
姉(私の最初で最後の想い人)
姉(……全て失った)
姉「……涙か……何年ぶりだろう」
姉「……これから、どうするか…」
姉(いっそこの体も、心も、全て捨てるのも……いいかもしれんな…)
姉「…………んっ!?」
姉「む、むぐっ、む……っ……」
(ハンカチ……薬!?しまっ……から…だ、が……)
「へ、へへ……姉ちゃん……つーかまえた……」
姉「……………」
姉「………っ……ここは……」
ス「どうも……姉ちゃん……」
姉「何だお前は……ここは……っ!?」
(ギシッ!)
姉(動けない……縄か……)
ス「ふひひひひ」
姉「……お前………私を付けまわしていたストーカーか!?」
ス「僕ねえ………犯人なんだ」
姉「…………何…?」
ス「八百長疑惑になった、あの事件……」
姉「な……何だと!?」
ス「姉ちゃん、検事失格だってねぇ…………慰めてあげるよ…」
姉「や、やめっ……!さ、触るな……ゃ…!」
ス「ふひ、ふひひひひ」
姉「ぁ……っぅ、あ……っ…!」
ス「へへ……可愛い検事さんだなあ…」
姉「……はあっ…はあっ……あっ、あっあ…ん……!」
姉(嫌だ……嫌だ……っ!!)
(ギシギシギシッ)
ス「逃げたところでさぁ、誰か君を必要とするのかなぁ……?」
姉「………っ……!」
ス「だったらいいじゃない……全部忘れられるくらい…可愛がってあげるから……」
姉(全部……忘れられる……?)
姉(辛いことも……悲しいことも……)
姉「はあっ……は……っ」
姉(もう、永久に告げることの出来ない想いも……)
姉「っ、ふぁ……っ、あぁっ……」
姉(この快楽に……身を投じれば……忘れられる……?)
姉(男君……君のことも忘れてしまうのだとするならば……)
姉「……私はっ、そんなの、嫌だっ……!!」
姉「誰か……助け……っ……!!」
ス「誰も来ないよぉ~」
姉「男君……男君っ……!!」
ス「来る訳――」
男「それが来てるんだな、これが」
ス「…………へ?」
男「せーのぉ!!!」
(バキッ!)
ス「ぶへぇっ!!」
男「……次は、俺にあらぬ罪を被せた分な」
ス「へ……?」
男「ほぁちゃあ!!」
ス「ぐはぁぁあ!!!!」
姉「……何で………」
男「……大丈夫ですか?とりあえず、これ着て下さい」
姉「それより!何で……私は、私は君を……有罪にしようと……!!!」
男「ちゃんと無罪になりましたよ」
姉「……で、でも!!」
男「……少しくらい事実を曲げたって、貴女が見つけたのは真実です」
姉「…………」
男「犯人も見つかりました。」
姉「あ……」
男「……まだ、検事辞める気ですか?」
―約一年後―
女「あわわわわ……」
男「相変わらず緊張してるのか?」
女「ゆ、優秀な相方が居なくなったからね」
男「何言ってんだ。男友と結婚しただろうに」
女「うーん……まあね!能力は愛で挽回!みたいな感じ」
男「はいはい……それじゃあ、俺は行くぞ」
女「うん、またねー」
裁判長「弁護側」
女「もも、勿論、準備完了してまする」
男友「馬鹿、落ち着け」
女「おお、落ち着いてます!!」
裁判長「よろしい。……それでは、検事側は?」
姉「――無論、準備完了だ」
女「…………」
姉「さあ始めよう。そして見つけようじゃないか」
姉「――たった一つの、真実(ハッピーエンド)を」
完

