荒野を歩く一人の老人――
老人「……」ザッザッ
老人「……」ザッザッ
老人「……」ザッザッ
老いを感じさせない足取りで、老人は歩き続ける。ひたすらに……
元スレ
老人「文明が崩壊した地球(ほし)で……ワシはひたすら旅を続ける」
http://hebi.5ch.net/test/read.cgi/news4vip/1590164705/
かつて、この惑星――地球を前代未聞の超巨大地震が襲った。
ゴゴゴゴゴ… グラグラグラ… ドドドドドド…
「きゃあああああっ!」
「うわぁぁぁっ……!」
「助けてくれーっ!」
世界中を巻き込んだ大災害は、何もかもを破壊した。
人類が永い時間をかけて築き上げた文明は、一瞬で崩壊してしまった。
しかし、人類は滅びてはいなかった。
ほんのわずかに生き残った人々は、手を取り合い、少しずつ少しずつ……
「家が建ったぞ!」
「おーっ、やったーっ!」
「水汲んできたぞー!」
人間らしい生活を取り戻していったのだ。
そして、現在――
人々はかつての文明を取り戻したというには程遠いものの、
各地にそれぞれの集落を形成しつつ、超巨大地震後の新時代を生き抜いているのである……。
老人「……」ザッザッザッ
老人「……」ザッザッザッ
老人(この近くには集落があるようだ……)
老人(しばらくはそこを拠点に……“捜す”としようか)
チンピラ「なんだ、あのジジイ? きったねえナリでここらへんうろちょろしやがって……」
チンピラ「おい、ジジイ!」
老人「ふぉ?」
チンピラ「ここらは俺のナワバリなんだ。通るんなら、何か食い物の一つでもよこしな!」
老人「食い物なんか持っとらん」
チンピラ「あ? だったらここを通すわけには……」
老人「……」
チンピラ「……!」
チンピラ(なんだこのジジイ……なんつう目をしてやがるんだよ……!)
仲間「おい、やめとけ!」
チンピラ「なんでだよ!?」
老人「……」ザッザッザッ…
チンピラ「なんなんだ、あのジジイは……」
仲間「聞いた話じゃ、あのジジイ、軽く数百年は生きてるらしいぜ」
チンピラ「す、数百年!?」
仲間「かつて文明が栄えてた頃から生きてて、それからずっと世界をさまよってるなんて噂もある」
チンピラ「なんだそりゃ……バケモノじゃねえか」
仲間「とにかく、あんなのには近づかない方がいい」
仲間「どんな呪いや病気持ってるか分かんねえし、ろくなことにならないぜ」
ワイワイ… ガヤガヤ…
老人「ふむ……」
老人「しばらくはこの集落で過ごすか……」
老人「……」
集落民A「あの爺さん、ここに来てからずっと飲まず食わずだぜ? どうなってんだ」
集落民B「時折、近くの瓦礫やゴミを漁ってるのを見かけるが、なにか食ってる様子はねえしな」
集落民A「やっぱり不死身だっつう噂は本当なのか……」
集落民B「かもな。いずれにせよ、関わることはねえ。触らぬ神になんとやらさ」
老人「……」
少女「……」スタスタ
老人「……ん? なんだいお嬢ちゃん」
少女「これ……」
老人「これは……スープかな?」
少女「……」コクッ
少女「これ……ガレキドリのスープ。この集落の人たち、みんな飲んでるの」
少女「おじいさん、なにも食べてないんでしょ? よかったら……どうぞ」
老人「……」
老人「ありがたく頂くとするかのう」
少女「……」パァッ
老人「……」ゴクッ
少女「どう?」
老人「ありがとう……おいしいよ」ニコッ
少女「……よかった!」
少女「じゃあ、またね、おじいさん!」
老人「ああ……」
しばらくして、老人は集落を発とうと準備をしていた。
老人(どうやら……ここに求めるものはなかった。また別の地に移るとしよう)
少女「おじいさん!」
老人「……ん?」
少女「もう……行っちゃうの?」
老人「ああ、もう行っちゃうんだ」
少女「そうなんだ……」
少女「だったら最後に、少しだけお話してくれない?」
老人「……いいとも」
老人「スープのお礼をしなくちゃいけないもんな」
少女「……!」パァッ
老人と少女は座り込んで、話を始めた。
少女「おじいさんは、かつてこの星に文明があった頃から生きてるの?」
老人「その通り」
少女「どんな世界だったの?」
老人「今よりずっと人口が多く、食べ物は豊富で、暑さも寒さも機械で克服し」
老人「テレビという装置で、楽しいお話を見ることができ」
老人「自動車や飛行機で、遠くにもすぐ行くことができ」
老人「分からないことがあってもすぐ調べることができた」
少女「へえ、じゃあみんな今よりずっと幸せだったんだ!」
老人「そうとも限らないのが、人間の難しいところなんじゃよ」
少女「ふうん……」
少女「おじいさんは……どうして旅をしてるの?」
老人「探し物をしておるのじゃよ」
少女「それは……人?」
老人「そうじゃな、人でもあるのう」
少女「それは……絵?」
老人「そうじゃな、絵でもあるのう」
少女「それは……機械?」
老人「そうじゃな、機械でもあるのう」
少女「それは……思い出?」
老人「思い出……そうじゃな、それが一番近いかもしれんのう」
老人「思い出を見つけ出すまでは……ワシは死ぬわけにはいかんのじゃ」
老人「その執念が、ワシを生き長らえさせておるんじゃよ」
少女「見つかるといいね!」
老人「ありがとう」
少女「じゃーねー! 元気でねー!」
老人「おーう」
老人「……」ザッザッザッ
老人(見つけるまで……死ねない)
老人(あの巨大地震で埋もれてどっか行ったオレのパソコンのHDD……)
老人(もしも万が一まだ機能が死んでなくて、いつか誰かに中の画像を見られでもしたら……)
老人(あれを捜し出して、この手でブッ壊すまで、オレは死ぬわけにはいかねんだぁぁぁぁぁ!!!)
― END ―


