雪女「あーつーいー!」
男「今年は猛暑だからなぁ」
雪女「エアコン買ってー!」
男「しがないバイト暮らしにそんな金ないよ」
雪女「買って買って買ってー!」
男「ほらアイス」
雪女「命の恩人への仕打ちが……アイスかぁ……おいしいけど」ペロペロ
男(そう……俺は彼女に命を助けられてる)
元スレ
雪女「あ、暑い……っ! 駄目……溶けちゃうっ……!」
http://hebi.5ch.net/test/read.cgi/news4vip/1589886121/
冬の雪山――
ビュゴォォォォ…
男(スキーでコースから外れて……完全に迷った……)
ドサッ…
男(俺はこのまま、ここで凍死するのか……)
雪女「あら、人間が転がってる」
男「え……?」
雪女「あなた、生きたい? それとも死にたい?」
男「い、生きたい……です」
雪女「じゃあ助けてあげる」
雪女「ここまで来れば、自力で帰れるでしょ」
男「助けてくれて……ありがとう」
雪女「いいのいいの。気にしないで」
男「また……会えるかな?」
雪女「会いたいの?」
男「うん……」
雪女「ふーん、じゃあ住所教えてくれる? 行けたら行くから」
男「え、あ、うん」
男(行けたら行くって絶対来ないパターンじゃん)
男(なのに、まさかホントに来るとは……しかもよりによってこんな暑い時期に)
男(俺から誘っておいてなんだけど、ちょっと扱いに困る……)
雪女「あ、もうアイスなくなっちゃった」
男「食べるの早いな!」
雪女「あーつーいー! あーつーいー!」
男「しょうがないな……ほら、もう一本」
雪女「うーまーいー! うーまーいー!」ペロペロ
雪女「アイスなくなっちゃった」
男「もうないよ」
雪女「えー、じゃあ冷凍庫で涼む!」パカッ
男「わっ、やめてくれ! 中の冷凍食品が全部ダメになる!」
雪女「じゃ、エアコン買ってー!」
男「だからそんな金ないって……」
雪女「あーつーいー! あーつーいー!」
男「ああ、もう……。あ、もうこんな時間だ」
男「バイト行ってくる!」タタタッ
バタン…
雪女「……」
雪女「行っちゃった……」
雪女(あの時……また会いたいっていってくれた時、すごく嬉しかったのに。ドキドキしたのに)
雪女(いざやってきても、あまり喜んでる様子ないなぁ)
雪女(あたし……迷惑なだけなのかなぁ……)
雪女(寂しい……)
男「ただいまー」
雪女「あ、お帰り……なにそれ?」
男「大きい水槽と、大量の氷だよ。バイト先で格安で手に入ったんだ」
男「この水槽の中に氷を入れれば……」ガラガラ
男「即席の冷凍室の出来上がり! ほら、入ってみてよ」
雪女「う、うん」
雪女「おおっ……」
雪女「ひんやり、気持ちいい~!」
男「おおっ、よかった!」
男「氷はどんどん足すから、しばらくはこれで我慢してくれ」
雪女「うん、分かった」
雪女(水槽も氷も重かったでしょうに……どうもありがとう。あたし嬉しいよ)
……
雪女(さて、今日もあたしは一人でお留守番)
雪女(この水槽のおかげで、わりと快適なわけだけど……)
雪女(冷気を逃がさないようにしたいなぁ……)
雪女「そうだ!」
雪女「蓋すれば冷気を漏らさずに済むじゃない!」
雪女「あたしってアッタマいい~!」
雪女「はうう……」
雪女(今日は……特に西日が強くて……暑い!)
雪女(氷もあっという間に溶けちゃって……)
雪女(それどころか、なんかこの中、閉め切ったせいかサウナみたいになってきた……)
雪女「あ、暑い……っ! 駄目……溶けちゃうっ……!」
雪女「これ以上はまずい! いったん出ないと!」グッ…
雪女「あ、開かない!?」ガタガタ
雪女「ま、まずいぃ……っ!」
雪女「あたしの体……どんどん、溶けて……く……」
雪女「あ、ああ……だめ……」
雪女「いやぁぁ……」
雪女「あ……ぁ……ぁ……」
チャプンッ…
男「ただいまー」
男「ん……?」
男「ただいまー!」
男「おかしいな、あいつどこ行ったんだ?」
『ううう……溶けて液体になっちゃった……。あたしとしたことが……』
『死ぬわけじゃないけど……こりゃしばらく戻れないわ』
男「……いないみたいだな」
『この状態じゃ、こっちから呼びかけるのは無理ね……』
男「水槽に、水がやたら溜まってるな」
男「氷が溶けちゃったのか? それにしちゃ量が多いけど……」
『あーたーしー! あーたーしー!』
男「触ってみるか」チャプッ
『ひゃんっ!』
男「……」ザブザブ
『や、やめっ……! か、かき混ぜないでぇっ……!』
『んもう……』ハァハァ…
男「この水、ひんやりしてて気持ちいいな……」
『そりゃあひんやりでしょうよ。溶けた雪女なんだから!』
男「今日のバイトはハードだったからな……」
男「ふんふ~ん」ヌギヌギ
『へ?』
男「たまには水風呂もいいなっと」ヌギヌギ
『ちょ、ちょっとまさか!? ウソでしょ!? なに考えてんの!?』
男「右足から」チャプ…
『ま、待ってっ! お願いだからっ! それだけはっ!』
男「ふぅ~……」ザブ…
『あ……ああああああああああああっ!』
男「くううっ……! 気持ちいい~!」
『こ、こんなっ……! 裸の男が……あたしの中にッ……!』
男「なんか、普通の水と違うなこれ」バシャバシャ
『あ、あああっ……! かき回すなっ……! だ、駄目っ……』
男「なんだろ、この気持ちよさ。まるで……雪女に抱き締められてるような」
『抱き締めてるなんてもんじゃないってのぉ!』
男「気持ちいい……」チャプ…
『いつまで入ってんのよ、んも~! 戻れないじゃん!』
男「それにしても、あいつ……どこ行っちゃったんだろ」
『すぐ近くにいるよ! ものすごく近くに!』
男「エアコンも買えない俺に愛想尽かして、どこか行っちゃったかな?」
『そうよ! おかげであたしはこんな無様な目に……』
男「だとしたら、これでよかったんだ……」
『!』
『なに……よ! なによそれ……結局あたしは迷惑だったってことか……』
男「あんないい女……俺にはもったいないもんな」
『え』
男「とても俺に釣り合う人じゃない……」
男「それにこのまま同居してたら、きっと俺、あの子に変なことしちまう」
男「俺みたいな奴が、雪女を汚していいわけがない」
『……』
男「これで……よかったんだ……」
男「雪女は……俺なんかと一緒にいていい人じゃない。もっといい男と出会うべきだ」
『……』
男「!」ブルッ
男「やべっ、冷えてきた」
男「そろそろ上がろっと」ザバザバ…
男「あったかいシャワー浴びなきゃ! 風邪ひいちゃうぅ! フリーターは休めない!」バタバタ…
『……』
『ん……もう元に戻れそう』
ムクムク…
雪女「……」
男「ふぅ~、温まった……」ホカホカ
男「……あ!」
雪女「……」
男「お帰り! てっきり俺に愛想尽かしたのかと……」
雪女「ねえ……」
雪女「もっといい人がいるとか、自分とは釣り合わないとか、そういうの……やめてよ」
雪女「あたしのこと、勝手に判断しないでよ」
男「あ……!」
男(さっきの独り言……全部聞かれてたのか! どこにいたんだ……?)
雪女「……どうなの?」
男「え?」
雪女「あたしのこと、どう思ってるの? もっといて欲しい?」
男「い……いて欲しい!」
雪女「好き……なの?」
男「す……好き、だ」
雪女「よかった! あたしも好き!」ギュッ
男「おほっ!」
雪女「それに……あたしのこと、あそこまでした責任はちゃーんと取ってもらわなくちゃ!」
男「え……?」
雪女「かき混ぜたり、浸かったり、バシャバシャしたり……」
雪女「男にあんなにされちゃったの……初めてなんだから……!」
男(へ? なに? なんの話……?)
…………
……
男「ただいまー!」
雪女「どうしたの? やけに嬉しそうじゃん」
男「俺……なんと社員にしてもらえることになったんだ!」
雪女「え、ホント?」
男「給料もぐんと上がるから……これでやっとエアコン買えるよ!」
雪女「やったぁ! 嬉しい!」
男「さっそく設置してもらおう!」
作業員「では私はこれで」
男「ありがとうございましたー!」
雪女「ついに我が家もエアコン生活ね!」
男「それじゃさっそく……」ピッ
雪女「……」ワクワク
ゴォォォォォォォォ…
男「うひょお~!」
雪女「わぁ~お!」
男「安いのにしたのに、やっぱ今のエアコンは性能いいな!」
雪女「快適~!」
男「これでもう暑くないだろ?」
雪女「うんっ!」
雪女「だけどこれでもう……あんたにかき混ぜられたりすることもなくなると思うと、ちょっと寂しいかも」
男「へ?」
おわり