<屋上>
ヒュゥゥゥゥゥ…
男「下らん……」
男「薄汚れた人間ばかり……こんな世界ならいっそ……」
闇ギャル「あんた、もしかして死ぬつもり?」
男「! なんだお前は……」
闇ギャル「どうせ死ぬんならさ、あーしと一緒に悪魔召喚しない?」
男(なんだこいつは……!?)
元スレ
闇ギャル「あーしと一緒に悪魔召喚しない?」男(なんだこのバカ女は……)
http://hebi.5ch.net/test/read.cgi/news4vip/1587988804/
男「悪魔を召喚だと……?」
闇ギャル「あーしさ、ちょっと黒魔術に凝っててー。ちょっと友達と勉強してんだけどー」
闇ギャル「ちょっと悪魔を召喚しよっかなーとか思ってー」
男「ちょっとが多い」
男(なんなんだ、このバカ女は……)
男「悪いが、お前などに付き合うつもりは……」
闇ギャル「ま、いいじゃない! さ、行こ行こ!」グイッ
男「お、おいっ!」
男「召喚って……どうやるつもりなんだ?」
闇ギャル「えーとねー」
闇ギャル「魔法陣描いてー、動物の肉と生き血と骨があればできるんだって!」
男「……で、それはもう調達したのか?」
闇ギャル「んー、これから!」
男「どうやって調達するつもりだ?」
闇ギャル「んーと……スーパーで!」
男「は……?」
<スーパー>
闇ギャル「動物の肉は……豚肉でいっか!」
闇ギャル「生き血は……ケチャップで代用!」
闇ギャル「骨はフライドチキンの骨でいーかなぁ」
男「お前は悪魔をナメてるのか……」
闇ギャル「えー、全然ナメてないってー! マジ真剣だから!」
男「はぁ……」
男「……ん」
少年「へへへ……」コソコソ
男(あの小僧、盗みを働いてるな……。盗まなきゃ生きていけないというわけでもなかろうに……)
闇ギャル「コラーッ!」
少年「わっ!」
男「え」
闇ギャル「万引きなんかしちゃダメっしょー!」
少年「うう……」
闇ギャル「お店の人に迷惑かかるしー、あんたも絶対後悔するから!」
闇ギャル「ね? だから商品戻そ?」
少年「……うん」
男(ほう……)
買い物を終えた二人――
闇ギャル「買っちゃった、買っちゃった」
闇ギャル「んじゃ、一緒に悪魔召喚しようねー!」
男「……うむ」
幼女「ワーイワーイ!」タタタッ
男(あの小娘、死相が見える……)
幼女「あっちいこうっと!」タタタッ
ブロロロロロ…
幼女「えっ!」
「女の子が車道に!」 「車が来てんぞ!」 「轢かれちまう!」
男(死んだな……)
闇ギャル「あーしが助けるッ!」タタタッ
男「……は!?」
男「ちっ、バカが!」
闇ギャル「あぶなーいっ!」
幼女「きゃっ!」
運転手「うわぁっ!?」
ギュルルルルッ! ブロロロロロ…
運転手「俺……運転の天才なのかも……」
「すげえ!」 「車が神回避した!」 「動画撮っときゃよかったー!」
闇ギャル「あー、助かってよかったー!」
男「助かったからよかったものの、あんな飛び出し方しやがって……」
男「お前、命がいらないのか!?」
闇ギャル「んー……」
闇ギャル「うん、あんまり!」
男「……」
男「!」ピクッ
男(また死の臭いが……)
闇ギャル「あーっ! ビルの上! 人がいる!」
会社員「死のう……」
男「あそこから飛び降りるつもりか……」
闇ギャル「あーしがクッションになる!」ダッ
男「なにい!?」
会社員「でやっ!」バッ
ヒュゥゥゥゥゥ…
闇ギャル「……」タタタッ
会社員「うわっ、下に女の子が――!?」
フワッ…
会社員「あれ? 体がふわっとなって……」フワフワ
会社員「着地しちゃった」スタッ
闇ギャル「えー、超スゴイ! おじさん、もしかして超能力者!? 鶴仙流!?」
会社員「いや……」
男「……」
闇ギャル「おじさん、なんで自殺しようと思ったわけー?」
会社員「会社を……リストラされて……」
闇ギャル「リストラー? 聞いたことある!」
闇ギャル「リスとかトラとか、そんな動物に負けちゃダメだってー!」
男(お前はウマとシカだよ)
闇ギャル「自殺なんかしないで! 頑張ってよ! あーし、応援してっからー!」
会社員「ありがとう……君と話してたら、何とかなるような気がしてきたよ」
闇ギャル「でしょー!」
男(まあ……バカを見てると悩んでるのがバカバカしくなるってのはあるだろうな)
<公園>
男「……」
男「お前はなんなんだ?」
男「さっきから無謀な人助けを繰り返して……」
男「悪魔を呼び出して、何がしたいんだ?」
闇ギャル「んー、あーしさ、世の中にもっと明るくなって欲しいんだよね」
闇ギャル「だから悪魔を呼び出したいの!」
男「……さっぱり分からん」
男「そんなに世の中を明るくしたいなら、天使でも呼び出してみたらどうだ」
闇ギャル「天使は……嫌いなの」
男「なんで?」
闇ギャル「あーしのパパとママね、天使を崇拝する、ある教団の信者だったの」
闇ギャル「天使を崇拝して、世の中明るくしましょー、的な。その教え自体はすっごく好きだった」
闇ギャル「だけど、その教団は単なるサギ集団でさー。あ、サギっつっても鳥じゃないよ」
男「分かるわ」
闇ギャル「上の連中はみんな捕まって、あーしのパパとママは絶望して……」
男「絶望して?」
闇ギャル「死んじゃったの」
男「……そうか」
闇ギャル「世の中明るくなるどころか、お先真っ暗だもん! 超ウケるー!」
闇ギャル「だから、あんまし天使は好きじゃないの」
男「トラウマというやつか」
闇ギャル「そそ、トラとウマ! ガオーン! ヒョヒョーン!」
男「ガオーンはいいがヒョヒョーンってなんだよ」
闇ギャル「それに神様や天使って、きっと忙しいから。色んな人に頼られてて」
闇ギャル「あーしなんかに時間割いてる余裕なんかないと思うんだよね」
男「まあ、そうかもな」
闇ギャル「だけど悪魔なら、きっと暇してるだろうし」
男「ひどい言い草だな」
闇ギャル「悪魔って魂さえ差し出せば、なんだって願い叶えてくれるでしょ?」
闇ギャル「だから呼び出すの! 呼び出して、もっと世の中明るくしてって頼むの!」
男「ちゃんと悪魔を呼び出せたとして……」
男「お前の命一つで、世の中が明るくなると? どんだけ自分を高く見積もってるんだ」
闇ギャル「んー、国家予算ぐらい!」
男「お前、国家予算がいくらか知ってるのか?」
闇ギャル「100万円ぐらい?」
男「頭痛くなってきた……」
闇ギャル「え、バファリン飲むー?」
男「いらん」
男「だったら……もう好きなようにしろ」
闇ギャル「えー?」
男「やってみろ、悪魔召喚を」
闇ギャル「うん!」
闇ギャル「んじゃ、あーしんち行こ!」グイッ
男「分かったから引っぱるな!」
<ギャルの家>
男「魔法陣はもう描いていたのか」
闇ギャル「うん!」
男(思ったよりよく描けてはいるな。美術的センスはあるようだ)
闇ギャル「えーっと、お供え物して。この肉はそっち置いて」
男「……はいはい」
闇ギャル「はいは三回!」
男「悪かったよ……え、三回!?」
闇ギャル「マークアマークア、ルービデルービデ……」
男「……」
闇ギャル「出でよ、悪魔ーっ!!!」
シーン…
闇ギャル「あれー? 失敗?」
男(そりゃそうだ)
闇ギャル「はぁー、ダメだったか……」
男「まあ、そう落ち込むな――」
闇ギャル「よっしゃ、切り替えていこ!」シャキーンッ
男「!?」
闇ギャル「なんかいった?」
男「いや……励まそうと思った俺がバカだった」
闇ギャル「キャハハ、あんたもバカだった!」
男「うるさい」
闇ギャル「そうと決まれば、また外を散歩でもしよっかー!」
男「せわしい奴だ」
闇ギャル「悪魔♪ 悪魔♪ 悪魔はどっこにいるの~♪ きっとトイレの中~♪」
男「変な歌を歌うな」
男「……」ピクッ
闇ギャル「どったの?」
男「邪気を感じる……」
闇ギャル「ジャギ? あーしの名をいってみろ?」
男「邪気だ!」
男「この近くに……本当に悪魔を召喚しようとしてる者がいる」
闇ギャル「……えぇ~!?」
<雑木林>
眼鏡女「うふふ……」
眼鏡女「車にひき逃げされて動かない猫と……私の生き血と……家から持ってきたおじいちゃんの遺骨」
眼鏡女「これで材料は揃ったはず……」
男「……あの女だな。お前と同じような儀式をするようだ」
闇ギャル「あれは……あーしの友達!」
男「なんだと?」
闇ギャル「止めなきゃ!」
男「他人が召喚するのは止めるのかよ」
闇ギャル「ダメーッ!」タタタッ
眼鏡女「あ、ギャルちゃん……」
闇ギャル「ダメだよ! あんたは悪魔召喚なんかしちゃ!」
眼鏡女「止めないで……」
眼鏡女「ギャルちゃんだけは……友達でいてくれたけど……」
眼鏡女「やっぱり私、何やってもダメで……みんなにバカにされて……きっとこれからもそう……」
眼鏡女「だから……悪魔を呼び出すの! 呼び出して……とびきりの女にしてもらう!」
闇ギャル「眼鏡ちゃん……!」
眼鏡女「マークアマークア、ルービデルービデ……」
眼鏡女「出でよ、悪魔……!」
ズオオオオオオオ…
闇ギャル「眼鏡ちゃ……」
男「もう遅い……出てくるぞ。離れろ」
ズゴゴゴゴゴゴゴ…
悪魔「ぐはははははは……!」
眼鏡女「あ……あ……!」
闇ギャル「これが……悪魔……!」
男「……」
悪魔「我を呼び出したのは……貴様か」
眼鏡女「あ……ひいい……あ、ああ……」
悪魔「さぁ、望みをいえ。貴様の魂と引き換えに叶えてやる」
眼鏡女「はっ、はっ、はっ……」
闇ギャル「ちょっとあんたァ、威圧しすぎ! 眼鏡ちゃん、声も出せないじゃん!」
悪魔「声も出せぬか……それすなわち、叶えたい望みは無いということ!」
闇ギャル「へ?」
悪魔「ならば魂だけ貰っていこう! 引きずり出してやる!」グワシッ
眼鏡女「あ……あああ……」ズルズル…
闇ギャル「ちょっと! なにすんの! やめてよーっ!」
悪魔「ふはははは、我に願いを叶える気などないわ! 魂さえ頂ければそれでよかったのだ!」
闇ギャル「なにそれひどい! サギ! 悪魔のくせにペテン師ーッ!」
悪魔「ふははははは……悪魔とはそういうものだ!」
闇ギャル「眼鏡ちゃんから……離れろォ!」ガシッ
眼鏡女「うう……」ドサッ
悪魔「小娘めが……」
悪魔「ならば、まずは貴様の魂から頂いてやろう!」
悪魔「今日はツイてる! 人間の女の魂を二つも手に入れられるのだからな!」ガシッ
闇ギャル「あ……!」
闇ギャル(あーしの……魂が引きずり出されて……)ズルズル…
――ガシィッ!
悪魔「……む」ミシ…
男「まともに契約もせんで魂を奪おうとするとはな……」
男「人間の質の低下を嘆いていたが……どうやら悪魔の質もだいぶ低下していたらしい」
男「これは反省せねばなるまいな」
悪魔「な……!?」
闇ギャル「え……!」
悪魔「なんだ貴様はァァァ!!!」
男「まだ分かんないか」
男「……」ゴゴゴゴゴ…
悪魔「……え」
悪魔「こ、この魔力……! き、貴様は……!」
悪魔(悪魔の中でも数えるほどしかいないという、最上級の――)
男「分かったか? 分かったら、とっとと帰れ」
悪魔「ふ、ふざけるなァ! やっと獲物が引っかかったんだ! このまま帰れるかァ!」グワァッ
男「……今日はよくバカに会う日だ」
ガシッ!
悪魔「あうっ!」メキメキ…
男「帰らないんなら仕方ない。このまま消してやる……」ジュゥゥゥゥゥ…
悪魔「あひっ! あひひっ! や、やめれぇぇぇぇぇっ!」
男「終わりだ」ジュゥゥゥゥゥゥ…
悪魔「うぎゃぁぁぁぁぁ……!」
闇ギャル「――ちょっとちょっと、勝手に終わらせないでよ!」
男「……え」
男「なんだ、いいところだったのに」
闇ギャル「この人、たしかにペテン師だけど、元々眼鏡ちゃんに呼び出されたから来たんでしょ?」
闇ギャル「だったら、黒魔術研究してたあーしたちにも責任あるわけじゃん?」
闇ギャル「いきなり消すことないっしょー!」
男「えええ……?」
悪魔「えええ……?」
男「こいつはお前らの魂を奪おうとしてたんだぞ? それなのにかばうのか?」
闇ギャル「ま、それはそれ、これはこれ、っていうか?」
男「頭痛くなってきた……」
闇ギャル「バファリン飲む?」
男「いらねえよ!」
悪魔「あの……これってもしかして助かる流れ? ぶっちゃけ、もう滅せられると思ってたけど……」
男「そうらしいな……」
悪魔「帰ってもいいですか?」
男「ああ、帰れ」
悪魔「あ、ありがとうございました! そっちのギャルさんも!」シュゥゥゥゥ…
闇ギャル「じゃーねー!」
男「悪魔まで助けてどうするんだ」
闇ギャル「やっぱりね、後味悪いのはイヤじゃん?」
闇ギャル「ところであーし、あんたの正体分かっちゃった」
男「!」
男「……さすがに分かってしまったか」
闇ギャル「あーしの名推理によると……あんた大仏様っしょ!」
男「は?」
闇ギャル「悪魔をあんな一捻りできるといったら、大仏様しかない! 多分ナラ系?」
男「全然違う!!!」
闇ギャル「じゃー、なんなの? アンサー、プリーズ!」
男「俺は悪魔だ!」
闇ギャル「あー……もっとストレートに考えるべきだった!」
男「お前は変化球すぎるんだよ」
闇ギャル「あーし、カーブ得意だし!」
男「お前のカーブはUターンして自分に戻っていくレベルだ」
ニャ… ニャ…
男「ん?」
男「この猫、まだかすかに息があるな」
男「せっかくだ。回復させてやるか」ボアァァァァ…
猫「ニャーン」
闇ギャル「治った!」
闇ギャル「あっ、もしかして、さっきの車や飛び降りたおじさんも……」
男「ああ、俺の仕業だ」
闇ギャル「そうだったんだ! あんたすごーい!」
男「お前に褒められると、バカにされてる気にしかならんな」
闇ギャル「じゃー、バカにした方がいい?」
男「やめろ」
眼鏡女「う……ん……」
男「この娘もじきに目覚めるだろう」
男「もう悪魔を召喚したいなどとは思わんだろうが、目覚めたら今度こそ助けてやれ」
闇ギャル「うん、そーする!」
闇ギャル「さっき出会ったばっかなのに、色々とありがとね!」
男「礼などいらん」
闇ギャル「分かってるって! 欲しいのは、あーしの魂でしょ?」
闇ギャル「もう何回も助けてもらっちゃったし……いいよ、持ってって!」
男「……」
男「いらん」
闇ギャル「へ、なんで?」
男「お前のようなバカの魂など、受け取ったら俺の格が落ちる」
闇ギャル「あんたさ、キツイこと言うけど結構やさしーじゃん!」
闇ギャル「今流行りのツンデレってやつ!?」
男「ツンデレとかいうな! だいたいもうそんなに流行ってないだろ!」
闇ギャル「アハハ、ごめーん!」
男「この際打ち明けてしまうが……」
男「本当は屋上にいたあの時、俺はこの世界を滅ぼそうとしていた」
闇ギャル「えー、ウッソー!」
男「悪魔以上に薄汚れた人間に呆れ果て、いっそ消し去ってしまおうと……手始めにこの町を、とな」
闇ギャル「自殺したいんじゃなく、他殺したかったんだ! 真逆~!」
男「だが……気が変わった」
男「人間の中にもお前のような……バカがいると分かったからな」
闇ギャル「よく分かんないけど、ありがとー!」
男「分からないのに礼を言うなよ」
闇ギャル「あーしもさ、色々あって、自分なんかどうなったっていいと思ってたけど」
闇ギャル「あんたと出会って、あーしもまだまだ捨てたもんじゃないなって思えちゃった!」
男「そうか」
闇ギャル「ってわけで、これからもあーしとあんたで世の中を明るくしてこうねー!」
男「は!? なにが“ってわけ”なのか全然分からん!」
闇ギャル「いーからいーから! さ、レッツゴー!」
男(まぁ……別にいいか)
…………
……
……
ヒュゥゥゥゥゥ…
男「薄汚れた道路だ……」
闇ギャル「うわ、きたなーい! ゴミがいっぱーい!」
闇ギャル「タバコにビニール、ガム……うわ、軍手まであるー!」
闇ギャル「ねえ、なんで軍手って落ちてるの? 落ちてる理由が分かんない」
男「俺に聞くな」
闇ギャル「さ、はりきってゴミ拾いしようねー!」
男「なんで俺がこんなことを……」
闇ギャル「世の中を明るくするためー!」
男「……はいはいはい」
男(まあ、しばらく人間界に留まり、このバカ女と世直しをするのも楽しいかもしれんな)
~おわり~