【比企谷家】
八幡「ふぁーあ……朝か。いや、もう昼か」
八幡(ぶっちゃけこのまま寝ててもいいが……まあぼちぼち起きるとしますかね)
八幡(しかし、学校がないとこうもきっちり昼夜逆転しちまうのは不思議なもんだな)
八幡(早寝早起きみたいな良い習慣は続かないのに、悪い習慣はいくらでも続いちまう)
八幡(日記を書くのは三日坊主でも日記を書かない習慣は何十年でも継続できる)
元スレ
八幡「やはり俺の自粛生活はまちがっている」
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/14562/1587819996/
八幡(パチンカスやアル中やソシャゲ課金廃人もヤバいと思いながら自分の習慣を毎日ちゃんと継続しているわけだ)
八幡(それはそれで凄いんじゃないか。ある意味才能あるんじゃね、あいつら)
八幡(まあ、継続したところで何の成果も得られないんですけどね。場合によっては死ぬまである。いや、やっぱダメじゃねーか依存症)
八幡「くだらないこと考えてないで何か腹に入れるか。もう朝飯か昼飯かわからねぇけど」
<リビング>
小町「……」
八幡「おう、起きてたのか小町」
小町「……」
八幡「何テーブルに突っ伏してるんだ」
小町「……」
八幡「寝てるのか?」
小町「……」
八幡「その姿勢あんまりよくないらしいからやめといたほうがいいぞ」
小町「あーもーやだぁ―――――!!」バァンッ
八幡「!?」
八幡(え、なに……小町ちゃんったらいきなり奇声あげてテーブル叩いちゃって。そういうお年頃なの?)
八幡(まあ年齢的に反抗期になってもおかしくないんだが。小町に限ってそんなこと……)
小町「もーやんなるよ……いつまで続くのこんな生活」どよ~ん
八幡「ああ、自粛生活でストレス溜まってんのか」
小町「いや溜まるに決まってるでしょ……毎日毎日ずーっと家の中に居なきゃいけない、もううんざり」
八幡「まあ確かに、世間じゃストレスでDVとか虐待とか増えてるって聞くしな」
小町「お兄ちゃんストレス溜まらないの、こんな閉じこもってばっかで」
八幡「全然。むしろ理想のニート生活過ぎて居心地良すぎるまである」
小町「うわぁ……」
八幡「おい、ゴミを見るような目やめろ。まるでニートがゴミみたいじゃねぇか」
小町「え、ニートってゴミでしょ。ていうかゴミ以下」
八幡「真顔で本当のことを言うのやめろ」
小町「まあ、お兄ちゃん何だかんだでニートにはならなそうだけどね。やるときは仕方なくでもやるとこが奴隷的で社畜っぽいし」
八幡「やるときはやるのにネガティブでしかない形容やめて……。まあ実際、俺はそこそこスペック高いからな。就職はできるだろ」
小町「でも結局仕事の善し悪しよりも人間関係がすべてでしょ。バイトですらあっさりバックレるお兄ちゃんが長続きするはずもなく……」
八幡「おいやめろ。いや、本当に入社3か月以内にそういうのありそうだからやめて……」
小町「ま、お兄ちゃんの予定調和な未来は置いといて。今起きたんでしょ、ごはん食べる?」
八幡「ああ、小町はもう食べたのか」
小町「うん、あり合わせで焼きそば作って食べた。お兄ちゃんのぶんも冷蔵庫入ってるからチンして」
八幡「了解、サンキュな」ガタン
小町「どういたしまして」
小町「そういや、お父さんとお母さんってテレワークやるとか何とか言ってたけど。結局仕事行ってるね」
八幡「ああ。親父が言うには、テレワークしてもいいけど出退勤時のタイムカードは会社に行って押さなきゃならんらしい」モグ
八幡「あと、決済で会社のハンコがいるとか、機密情報は持ち出せないとかで制約が多くてな」モグ
八幡「もう面倒だから会社行くわ! ってなったんだと」
小町「なにそれ……」
八幡「ちなみに時差出勤で遅く出たら、よその会社も同じように時差出勤してて、もともとラッシュタイムより電車の本数が少ないからかえって混雑してたんだと」
小町「ええ……」
八幡「こんな時にも修羅の外界に働きに出なきゃいけないとか……やっぱ社畜とかクソだな! 俺は働かない選択肢を選ぶぞ!」
小町「まーたそこに戻って来たよこの人……」
八幡「いや、だから専業主夫という道がだな」
小町「専業主夫目指すんならもっと家事とかしようよ。お兄ちゃん、休みになってもからずっとだらけてるだけじゃん」
八幡「いや、それは小町が何でもやってくれてるからでな……。出来のいい妹にはつい頼っちまう。これ八幡的にポイント高い!」
小町「え、なに。キモい」
八幡「ちょっと小町の真似しただけなのに……そんな辛辣な言葉やめてくれない? マジでへこむんだが」
小町「もー冗談だってば、この人本当にめんどくさいなぁ。お褒めに預かり光栄ですよ、お兄ちゃん様」
八幡「おう、褒めてつかわすぞ妹様」
小町「妹様ってなにその呼び方~」ぷっ
八幡「ごちそうさん。食洗機かけとくわ」
小町「あ、うんお願い」
八幡「これでよし」カチッ
小町「お茶入れようか?」
八幡「あーいい。自分で入れる」
八幡(そういやマッカンの在庫がそろそろ切れそうだな……一週間ぶりに買い出し行ってくるか)
小町「お兄ちゃんさ」
八幡「ん?」
小町「今年受験生でしょ。いろいろ不安とかない? 学校休みになってて」
八幡「ああ、まあ全くないというわけでもないが、俺だけの問題じゃないしな。他の連中も条件は同じなんだし」
八幡「そもそも普通に学校行ってたところで、たいして授業なんて聞いてねぇよ」
八幡「むしろ捨ててる科目でこそこそ内職なんかせずに、家で自分の時間配分で勉強できるんだ」
八幡「私立文系で絞ってる俺にとっては、むしろやりやすいくらいだな。登下校の時間ロスとかもなくなるし」
小町「……うん、そうだね。そういう意味だとお兄ちゃんには合ってるのかも」
八幡「……。小町は」
小町「あーうん、一応、高校から課題とか送られてきたからそれはやってるけど」
小町「でも、やっぱいろいろ不安なんだよね。受験終わって、合格してさ……さあ、これからってときに」
八幡「……」
小町「それに、……部活のこととか」
八幡「部活か。何かやりたいことでもあるのか? まあ、中学のとき生徒会やってたんならそっち系もあるだろうが」
小町「ふふふ、内緒♪」
八幡「えぇ……思わせぶりに言っておいて秘密なの?」
小町「まあね、でもお兄ちゃんきっと喜ぶよ。涙流しながら小町を妹に持って良かったって感動するんだ……」
八幡「何だよそれ……嫌な予感しかしないんだが」
小町「はぁー! 早く学校始まらないかなー」
八幡「いつかは始まるんだから気長に待ってろよ。そんなことよりプリキュアの放送延期がショックすぎる……再開いつになるんだよ」
小町「いやもっと現実問題でショック受けようよ……」
八幡「プリキュアのヒーリングがないと、地球を蝕み人類を侵略しているコロナビョーゲンズは倒せない……このままでは世界が終わる」
小町「お兄ちゃん、大丈夫……? 何か別の病気発症してない? ちゃんと現実とフィクションの区別ついてる……?」
八幡「まあ、こんな状況になったら逆にフィクションの世界とかに救いを求めたくなるだろ?」
八幡「あのラノベのあのキャラとか、あの漫画のアイツとか、あのアニメのあの人とかがいたら……この状況を何とかしてくれるんじゃないかっていう」
小町「あぁ。まあ、うん。分からなくはないかも」
小町「よぉし」スクッ
八幡「小町?」
小町「わたし、魔法少女になる」
八幡「!?」
小町「小町の願いは世界中のすべてのコロナを消し去ることだよ」
小町「もう誰も自粛してイライラしたり無職になって絶望したり悲しんだりしない世界をつくるんだ……」
小町「お兄ちゃん。小町行ってくるね。必ず帰ってくるから……ほんのちょっとだけお別れだね」にこっ
八幡「小町……!」
八幡「頭大丈夫か?」
小町「お兄ちゃんにだけは言われたくないよっ」
八幡「つか、そのアニメ見てたのかよ」
小町「だって暇だから、ドラマとかアニメとか見放題のサイトで見てるの。アニメストアってやつ」
八幡「ああ、あれね」
八幡(妹が面と向かってこんなセリフ言ってきたら『残念な娘かな?』って思っちまうが)
八幡(でもよくよく考えると小町って魔法少女適性あるんじゃね? 主に声的な意味で)
小町「プリキュア再開したらまた一緒に見よっか」
八幡「いいんじゃねぇの。この年になって見ると普通に泣けるぞ」
小町「朝っぱらからキッズ向けアニメを見てるいい年した兄妹の後ろ姿でお母さんも泣いちゃうかもね……」
八幡「おいやめろ。リアルに構図想像できて辛くなるから……」
小町「さーてと、じゃあ小町ちょっと出てくる」
八幡「出るのか?」
小町「軽く散歩に。さすがに体なまっちゃうしね。お兄ちゃんも一緒にいかない?」
小町「たまには日光浴びた方がいいよ」
八幡「……そうだな。ちょうどマッカンを買い締めしようと思ってたんだ。ついでに少し歩くか」
小町「いや、お兄ちゃん買い締め禁止じゃない?」
八幡「マッカンはマスクのように不足してないからいいんだよ。むしろマッカンの本当の価値に気づいていない千葉市民が多すぎる。そもそも」
小町「あー、面倒なスイッチ押しちゃったなー」
ガタン
小町「はぁー、もうすっかり暖かくなったよね。軽く汗ばむくらい」
八幡「だな」
八幡(ちょっと出てない間にも、季節はちゃんと移り変わっていく)
八幡(世間で何が起きようと時間は同じリズムで流れていくし、いずれ次の局面を迎えることになる)
八幡(思わぬ休校でできた貴重な時間は、来るべき未来のために有効活用しなければならない)
八幡(そういう意味では、自堕落に生活が乱れて非生産的に過ごしている俺の自粛生活は、やはりまちがっているといえるだろう)
八幡(とはいえ)
小町「こんな感じで一緒に歩くのも久しぶりだね」
八幡「だな」
小町「こーゆー時間は、小町嫌いじゃないよ」
八幡「そうかい」
小町「なんてね、いまの小町的にポイント高い! 2%還元しちゃう」
八幡「えー還元率低くない?」
八幡(同じ高校に通うことになるとはいえ、小町は小町でやりたいことがあるだろう)
八幡(この年齢で一緒に通学するっていうのも考えづらい。小町にもいろいろ付き合いはあるだろうし)
八幡(俺が卒業して大学に行けば、まあ家を出るかどうかは別として、小町と関わる時間はさらに減るはずだ)
八幡(社会人になればなおのこと。まあ、兄妹揃って“働かないふたり”にでもならない限りな)
八幡(だから小町とこうやって長いときを一緒に過ごせるのは今が最後かもしれない)
八幡(これはこれで、悪くない時間だろう。――まあ、さっさと終息してくれるに越したことはないがな)
やはり妹さえいればいい。
(完)