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佐天「独裁スイッチ?」【前編】
佐天「う…うーん…」
佐天「…………」
佐天「ここは……?」
初春「あ、佐天さん、ようやく気付きましたね!!」
初春「良かったー」
靄が視界にかかったような違和感を覚え、佐天は
徐々に目を開いていく。
女の子の声が聞こえたかと思うと、次に目に飛び込んできたのは
誰かの頭と花飾りだった。
佐天「うい…はる…?」
佐天「初春!!!」ガバッ
上体を起こす佐天。
目の前にいたのは、親友の初春飾利だった。
初春「わっ、びっくりした…」
初春「駄目ですよ佐天さん。安静にしとかないと…」
佐天「ここは…病室?」
初春「そうですよ。お医者さんの話によると、特に命に別状は無いようですから安心しました」
佐天「私……」
初春「佐天さん、スキルアウトに追いかけられてたんですよ」
初春「たまたまジャッジメントの仕事で現場近くにいたら、佐天さんの声がして…行ってみたら佐天さんがスキルアウトの人たちに囲まれてて驚きました」
佐天「!!」
佐天の脳裏に気絶した直前の記憶が蘇る。
スキルアウトに追いかけられたことも、ボタンを用水路に捨てようとしたことも、御坂美琴も消してしまったことも。
佐天「………っ」
佐天「…初春…貴女、あの時、電気で攻撃してなかった?」
初春「?? そうですよ。だって私の能力は電撃を操ることですから。何てったって私はレベル5の超電磁砲ですから!佐天さんを苛める男の人なんかちょちょいのちょいです!」
佐天「……!」
佐天「…そっか…そうなんだね…また、この世界、変わっちゃった……いや、変えちゃったんだ…」
初春「何を言ってるんですか佐天さん?」
佐天「ちょっと聞くけどさ…」
初春「何です?」
佐天「『御坂美琴』、っていう人知ってる?」
初春「…御坂…美琴」
佐天「…………」
初春「いえ、知りませんけど」
佐天「(やっぱりか…)」
初春「佐天さんのお友達ですか?」
佐天「ううん、気にしないで」
佐天「(……そうだよ、御坂さんは確かに消えた。でも。その穴埋めとして代わりに初春がレベル5の超電磁砲(レールガン)になった…よくよく考えれば、そうなるのも最初から分ってたことじゃん…)」
初春「お医者さんが言うには、今日中には退院出来るそうですから、安心して下さいね!」
佐天「うん、ありがとう初春…」
佐天「(でも、常盤台の制服着てて、レベルも5になったけど、それ以外は前と変わらない初春…。)」
佐天「(これでまた…初春と二人で楽しく過ごせるのかな……?)」
佐天「(そういやあのボタンは……あ、そうか。スキルアウトに襲われた時、無くしたんだっけ。ならいいやもう。これでやっと楽になれる)」
初春「じゃあちょっと私、お医者さんとお話してきますね」
佐天「あ、うん、分かった」
初春「あ、そうだそうだ…」
佐天「?」
初春「これ、現場に落ちてました。佐天さんの忘れ物ですよね?」コトッ
佐天「!!!!」
初春「じゃ、行ってきまーす」
ガラガラガラ ピシャッ
佐天「これ……何で…」
佐天の目の前に置かれた忘れ物。
それは、佐天を何度となく苦しめ、多くの人間の存在を消してきた禍々しきボタンだった。
午後・佐天の家―。
初春「今日は、私が佐天さんの代わりにご飯作ってあげますねー」
佐天「うん、ありがと…」
初春「何だか元気ないですねー?」
初春「でも、私が作った料理食べたらきっと佐天さんも元気が出るはずです!」
作り笑いを見せる佐天。
彼女は初春に背中を向けると、ポケットからボタンを取り出した。
佐天「(結局…持って帰って来ちゃった…もう、いらないはずなのに…)」
佐天「(でも、もう、使わなきゃいいんだ…使わなきゃ…)」
初春「あ!」
初春「佐天さーん、食材がほとんどありませんよー」
佐天「え? あ、そうか…うん、ごめん。ここ最近、食欲無かったから」
初春「もう駄目ですよ!」
佐天「ちょっと買ってくるよ…」
初春「駄目です。佐天さんは病み上がりなんだから。私が買ってきますからここで待ってて下さいね」
佐天「…分かった」
そう言い、初春は部屋を出て行く。
佐天「初春…ああ見るといつもの初春なんだけどな…本当にレベル5になったのかな?」
ズキッと胸が痛むのを佐天は感じた。
レベル1だった親友が自分を差し置いて、レベル4からレベル5に進化する。
周りの世界が変わっても自分自身は何も変わらない今の佐天にとって、その事実は思ったより痛かった。
とある公園―。
初春「佐天さん、いつもより元気ないなー。ここは元気がつくもの作ってあげないとね」
「ふふふん♪ふふふん♪ふんふんふーん♪」
初春「ん? あ、あれは…」
上条「ふふふん♪ふふふん♪ふんふんふーん♪」
ビリビリビリッ ズオオオオオオン!!!!!
上条「ぎゃああああああああああああ!!!!!」
上条「な、な、何だぁ???」
上条「ビ、ビリビリか!?」
煙が晴れていく。
その中から出てきたのは、初春飾利だった。
上条「あれ?初春さん?」
初春「今日こそ決着を着けてもらいますよぉ!!」
上条「はぁ?」
初春「いつもいつも私からちょこまか逃げて…たまには私と正々堂々と勝負して下さい!!!」
上条「何だこりゃ?」
上条「あ、もしかしてそういうことか?」
初春「貴方の右手と私の超電磁砲、どっちが強いか今日こそ明らかにするときです!!」
上条「あっはっはっは」
初春「何がおかしいんですか!!??」
上条「あはははははは!!!!!ヒーおかしい~」
腹を抱え笑う上条。それを見て更に怒りを上げた初春が恐い顔で叫ぶ。
初春「ふ、ふざけないで下さい!!こっちはシンケンなんです!!!」
上条「プククク…い、いやごめん…くくく」
上条「まあ大方、あいつの代わりに初春さんがレベル5になったんだろうが…プククク」
初春「何を訳の分からないことを仰ってるんですか!!??」ビリビリッ
上条「だーーーーーっはっはっは!!!!迫力ねーーーー!!」
初春「ななななな」バチバチッ
上条「あいつらならいざ知らず、初春さんが怒っても迫力ないなwwww 寧ろ可愛いwwww」
初春「か、可愛い!?///」
上条「カオス過ぎだ……って、うわああああ!!!!」
飛んでくる電撃。
上条は急いで右手を突き出し、能力を消滅させる。
上条「ふー危ねー。能力だけは変わってないんだな。寧ろ凶暴になったような…」
上条「頭の花飾りが笑いを誘うが…」
初春「また私の電気が効かない…」
上条「どっちみちヤバそうだし逃げるか!」
走り出す上条。
初春「あ、待ちなさいコラー!!!」バチバチバチビリビリビリッ
上条「上条さんの不幸は相変わらずか」
上条「なー初春さ……じゃないのか。ここは…ビリビリ~」
初春「何ですかもう!!」プンプン
上条「佐天さんは元気にしてるかー?」
初春「佐天さん!? あ、そうだった…」
立ち止まる初春。
それにつられ、上条も足を止める。
上条「ん?」
初春「料理の材料買いに行く途中だったんだ…佐天さん、元気ないから…」
上条「ふーん(やっぱりな)」
初春「今日の勝負はお預けです!」プンスカ
上条「ププッww」
初春「何ですかもう!!!」
顔を赤くし、頬を膨らませる初春。
上条「あー同じレベルでも人間違うだけでここまで可愛くなるものなのか」
初春「か、可愛い/// ま、また貴方はそんなことを!!!///」
初春「はっ! じゃなかった。急いで帰らないと…。とにかく次こそはちゃんと勝負して下さいね!」
上条「あーわぁったわぁった。いつでも勝負してやるよププ」
初春「むー」
ふてくされ、帰っていく初春。
上条はその後姿を見送る。
上条「あの子が常盤台の制服着てると違和感たっぷりだな…可愛かったけど」
上条「にしても、佐天さん、やっぱりあのボタン使ったようだな」
上条「それも 修 復 不 可 能 なレベルで」
上条「ま、俺には関係ねーや」
上条「ふふふん♪ふふふん♪ふんふんふーん♪」
踵を返し、上条はそのまま帰路に着いた。
佐天宅―。
初春「じゃじゃーん!!!初春さん特製元気がもりもりつく夕飯メニューでーす」
部屋の中央にセットされた机の上に並ぶ料理の数々。そのどれもが初春が意気揚々として作ったものだった。
佐天「わー初春すごいよ。ありがとー」
初春「いえいえこれぐらい。さー召し上がれ」
佐天「いただきまーす」
佐天「パクッ…もぐもぐ…うわぁ、おいしいよ初春ぅ、とっても美味しい!」
初春「えへへ、良かったー」
佐天「ありがとうね初春…私、とても嬉しいよ……私の為にこんなにも…」
初春「だって佐天さんは私の親友なんですもん。当然じゃないですか」
佐天「初春……(やっぱり、どんなに世界が変わっても、初春は私の親友なんだ…うう)」ポロポロ
初春「わ、泣いてるんですか佐天さん」
佐天「だって…嬉しくて…とても…感激しちゃって…グス」
初春「佐天さん…」
佐天「よーし!初春がここまでやってくれたんだ!元気を取り戻さないと失礼だもんね!!食うぞー」
初春「おかわりは一杯あります。どうぞじゃんじゃん召し上がれ」
夕食後―。
佐天「ごちそうさま。あーおいしかったー」
初春「ふふふありがとうございます。わざわざ遠くまで食材買いに行って良かった」
初春「にしても、あの人には毎回毎回、腹が立ちますねー」
初春「たまには私と正々堂々勝負したらいいのに…」
佐天「ん?何のこと?」
初春「ななななな何でもないです///」
佐天「?」
佐天「あ、そうだ!ねぇねぇ初春ぅ」
初春「何です佐天さん?」
佐天「私たち、親友だよね?」
初春「もちろんですよ♪」
佐天「じゃあさ、今夜はまた一緒にベッドに寝ない?」
初春「一緒に?」
佐天「駄目かな?」
初春「いいですよ」
佐天「やったー」
初春「えへへ」
佐天「ふふ」
佐天「では早速…枕を二つ用意しますかゲヘヘ」
初春「えーまだ早いですよー佐天さん。それにその言い方、なんか変態親父さんみたいです」
佐天「うふふ今夜は寝かせないぞ♪」
初春「もー……」
初春「!!!!」
佐天「ん?どうしたの?」
不意にスクッと立ち上がったかと思うと、初春は
真剣な顔つきで窓に近付き、カーテンの隙間から外を覗き見た。
佐天「な、なに?」
窓を開ける初春。
そのまましゃがみ込み、彼女はベランダに落ちた何かを拾った。
佐天「何それ?」
初春「何かが窓にぶつかる音がしたんですけど…これ、ナイフですね」
佐天「え…私こんなナイフ知らないよ…」
初春「先端が欠けてる……もしかして窓にぶつかった時に欠けたのかも…」
佐天「ちょ、ちょっと待って。ここ何階だと思ってるの?誰かが投げたとして、上手く先端が窓に当たるかなあ?」
初春「……………」
佐天「初春?」
ヒュッ
ガァン!!!
佐天「!!!!」
その時、空中から飛来した物体が初春の頭に衝突した。
部屋の中に倒れ込む初春。
佐天「初春!!!大丈夫初春!!??しっかりして!!!」
初春「う…大丈夫です…」
佐天「でも、額から血が…」
初春「ちょっとしたかすり傷です…消毒したら治ります」
佐天「はっ!!これは…石?」
見ると、床に一つ、子供の拳大の石が落ちていた。
それが初春の頭にぶつかったのは火を見るより明らかだった。
佐天「誰がこんないたずらを…!!」
立ち上がる佐天。
しかし、それを初春が制止した。
初春「駄目です佐天さん!!窓から離れて下さい!!」
佐天「え…でも…」
初春「とにかく、早く窓とカーテンを閉めてください!あ、外に気を付けながらで!」
佐天「わ、分かった…」
しゃがみながら、佐天は窓とカーテンを閉めた。
ガラガラガラ ピシャッ
佐天「閉めたけど…ねぇ初春ぅ…このナイフと石って一体……初春?」
黙りこくり、何かを考え込むように石を見つめる初春。
佐天には、彼女が何らかの事情を抱え込んでいるように見えた。
初春「…………」
佐天「初春…もしかしてストーカーの被害とか受けてるの?」
初春「そんな生易しいもんじゃありません……」
佐天「え?」
初春「ごめんなさい佐天さん。私、今日は帰ります」
佐天「えええ?そ、そんな何で…」
初春「ホントごめんなさい。また明日か明後日、ジャッジメントの仕事がない時に会いましょう」
初春「では」
そう言い、立ち上がったかと思うと、初春は急ぐように佐天の部屋を出て行った。
佐天「あ、初春…」
佐天「何で…せっかく、初春とまた二人だけで楽しく過ごせると思ったのに……」
床に置かれたナイフと石を恨めしそうな顔で見、佐天は一つ、大きな溜息を吐き出した。
放課後―。
初春「佐天さん、まだかなあ…」
待ち合わせ場所で佐天を待つ初春。
そんな彼女に近付く一つの影があった。
バサアッ
佐天「うーーーいーーーはーーーるーーー!!!」
初春「へ?」
初春「ひゃあぁぁぁぁまた佐天さんはもう!!!///」
佐天「うっはぁ…常盤台のミニスカでパンチラも結構そそりますなぁ」
初春「もももももう!!!佐天さんの馬鹿ぁ///」
佐天「あっはっは、可愛い可愛い」ナデナデ
初春「うー……」ビリッ
佐天「あいた!こら、今放電したな?」
初春「さあ?何のことでしょう?」ピリッ
佐天「またやったこのー」グリグリグリ
初春「ぎゃん、痛いです佐天さぁん」
学生「おい見たか今の!」
学生「ひゃー常盤台の超電磁砲のパンチラとかすげー」
学生「いいもんみたぜ」
学生「パンツもレベル5だったな」
佐天「ありゃりゃ」
初春「佐天さんのせいですよ!!///」プンスカ
佐天「ごめんごめん。じゃ、気を取り直していきますか」
初春「はい!」パァァ
佐天「(こうして見ると前の初春と変わらないはずなんだけどな……でも、レベル5なんだよねこの世界では…)」
佐天「見てー初春ぅーこのパンツ、初春に似合ってそうじゃない?」
初春「わわわわ///なんてもの手にしてるんですか!そんなもの似合いませんよ><」
佐天「あはははは冗談冗談」
初春「逆にこれなんか佐天さんに似合ってそうです!」
佐天「そ、それは幼すぎだろどう見てもー」
初春「私を馬鹿にした罰です!」プンプン
佐天「ふふふふふ」
初春「えへへへへ」
とある喫茶店―。
佐天「よーし佐天さん今日はパフェ2つ食べちゃうぞー」
初春「2つも食べたら太りますよ」
佐天「ふっふっふ私の能力は体重維持(ウェイトキーパー)、何を食べても太らないレベル5なのだ!」
初春「ぬっふぇ!!そうだったんですかぁ?」
佐天「な訳ないじゃん!」
佐天「でもたくさん食べたほうが、小さいものも色々と大きくなるかもよ」チラッ
初春「へ?」
初春「あ、うー…い、今は歳相応に小さいだけです/// 佐天さんが大きすぎるんですよ/// 私も一年ぐらいしたらそのうち…」
佐天「あ、初春、今日花飾り違うんだね」
初春「って無視ですか!!」
佐天「こうやって話している間にも頭から生えた花は初春本体の養分を吸い取っていく…」
初春「生えてません!! そして本体は私です!!」
佐天「あははー」
佐天「(何だか久しぶりだな…こうやって笑って初春と話すのなんて…)」
初春「??」
初春「どうしたんですか佐天さん?真剣な顔して」
佐天「あ、ううん。ちょっとねー…」
初春「もし、悩みがあるなら聞きますけど…」
佐天「いや、悩みっって言うかなんて言うか」
初春「遠慮せずになんでも話してください。私たち、親友じゃないですか」
佐天「初春……ありがとう…」
佐天「…………(初春が心配してくれてる…私も本音で語らないと駄目だよね…)」
佐天「……ちょっと最近さ…私、ずっと自暴自棄というか利己的というか、そんなんになってたんだ…」
初春「はい」
佐天「変えられない現実から目を背いて、幼稚な誘惑に負けて、間違った方法で自分の中のストレスを解消してた…」
佐天「間違いに気付いても、自分は何も悪くない、悪くないって見て見ぬ素振りをしてずっと逃げてた。なのに、反省するどころかそれを何回も繰り返してさ」
佐天「失ったものもたくさんあるんだ。もう、取り戻したくても絶対に取り戻せないものが…」
初春「佐天さん…」
佐天「で、ずっとふてくされてた…。だけど、こうやって久しぶりに初春と二人だけで買い物とかしたりパフェを食べに来たりしたら気付いたんだ」
佐天「ああ、私は別に不必要な人間じゃないんだ。こうやって、初春みたいに私を必要としてくれる人間がいるんだ、って」
初春「…………」
佐天「嬉しかった。とても嬉しかった…」
佐天「ねぇ初春…」
初春「何です佐天さん?」
佐天「私たち、親友だよね?」
初春「もちろんですよ!」
佐天「絶対?」
初春「絶対です!!」ムムッ
佐天「ずっとだよ?」
初春「ずっとです」
佐天「ずっとずっとずっと?」
初春「ずっとずっとずっとずっとです!」
佐天「信じていい?」
初春「当然です!!」
佐天「そっか…ありがとう…初春」
目頭を押さえる佐天。
初春は黙って佐天の次の言葉を待っている。
佐天「初春がずっと親友でいてくれるなら、私、自分に正直に生きれる気がするよ」
佐天「辛い現実にも向き合って、逃げたりしない。もう、絶対に間違った方法で自分の悩みを解消しようとしないから」
佐天「初春がいてくれる限りずっと…………誓うよ」
初春「佐天さん…」
初春「安心して下さい。私は佐天さんの親友としてずっと側にいますから」
佐天「初春…」
初春「だから、もう泣かないで。ね」
佐天「うん…ありがと初春…グス…」
初春「(佐天さん、ありがとうございます。私も貴女のお陰で救われる思いです)」
初春「(佐天さんは私を信じてくれた…。なら、 あ の こ と は話しておくべきなんじゃ…)」
初春「(…でも、佐天さんはレベル0で能力が全く使えない…。そんな佐天さんに余計なこと話して、下手に巻き込んだりしたら私は……)」
佐天「グス…どうしたの初春?」
初春「え、あ、ううん。何でもありません。これからも親友ですよ佐天さん!」
佐天「うん…」
初春「………(ごめんなさい佐天さん、貴女を巻き込みたくないので、今は言えません…)」
店員「お待ちしました」
佐天「あ、来たようだね。さ、食べよ食べよ」
初春「はい!」
それからも二人は、パフェを食べながらずっと話していた。
彼女たちにとってそれは時の流れを忘れるようなひと時だった。
お互いを褒め合ったり、からかったり、時にパフェの中身を
交換して食べてみたり。二人にとってそれは幸せ以外の何モノでもない時間だった。
佐天「あーたくさん食べたね!!」
初春「もう、何杯頼むんですか佐天さん。冗談抜きで太っちゃいますよ」
佐天「まぁまぁまぁ。でも吹っ切れた感じだからいいんだ」
初春「ならいいんですけど」
佐天「さて、これからどうしようかねー」
初春「どうしましょうかねー」
佐天「常盤台の門限は大丈夫そうだけど…そろそろ帰る?」
初春「うーん、それも何だか…」
学生「おい、あれ見ろよ」
学生「なんだかやばくないか?」
学生「ぐらぐらしてやがる」
佐天「何だろ?みんな何を騒いで…」
初春「さぁ…」
初春「!!!!」
次の瞬間、初春の目に飛び込んで来たのは信じられない光景だった。
風に飛ばされたかと思われる、ビルの看板が今まさに、背後から
佐天に衝突しようとしていたのだ。
佐天「初春?」
咄嗟にコインを取り出す初春。
即座に彼女は超電磁砲を看板に向けて解き放った。
その行動を目の前にして、佐天は微動だに出来なかった。
学生「あぶねー」
学生「あれ常盤台の超電磁砲だよな?」
学生「ちょっとでも遅れてたらあの女の子死んでたわよ」
学生「二次災害も無いし、さすがはレベル5だな」
周囲の喧騒から聞き取った声を耳にし、振り返る佐天。
そこには道の中央で半ば焼け焦げたビルの看板が
小さな電気を所々発し黒くなっていた。
佐天「…何…これ…」
初春「怪我はありませんでしたか佐天さん!!!」
佐天「大丈夫だけど…これ、初春が助けてくれたの?」
佐天「初春?」
初春「…………っ」
初春「佐天さん、私、今すぐ寮に帰ります」
佐天「え?」
初春「佐天さんも急いで家に帰って、なるべく夜間は外出を控えて下さい」
佐天「え、そんな、いきなり…」
初春「約束ですよ!!」
それだけ言い残し、その場を立ち去る初春。
一人残された佐天は、訳も分からずそこで茫然と立っていた。
初春「(あんなの…ビルから落下地点までは距離にして何十メートルも離れてた……)」
初春「(ただの風であれほど重さがあるものがあそこまで飛ぶわけない……)」
初春「(あれは明らかに佐天さんを狙ったものだった…!! やっぱり、佐天さんを巻き込めない……)」
初春「(ごめんなさい佐天さん!!)」
夜・佐天宅―。
佐天「あんなに慌てて…何だったんだろうな初春…」
佐天「でも久しぶりに初春と二人だけのお出かけは楽しかったな♪」
佐天「……まあ、二人だけじゃ物足りない、って気がしないでもないけど………仕方ないしね……」
佐天「これからは初春と一緒に人生を楽しく謳歌するんだ。早く私も元気を取り戻さないと…」
ドゴオオオオオオオオン!!!!!!
その時だった。唐突に激しい大音量が爆ぜ、重なるように背後から突風が吹き込んできた。
室内に飛び込んだ巨大な物体を視認するより早く、部屋の電灯が切れ暗闇が佐天を包み込む。
意識が混濁する中、佐天はキッチンに衝突した物体を確認した。
佐天「…何これ……コンクリートの一部…?」
次いで、振り返ると、そこにあったはずの窓が無くなっていたのだ。
冷たい風が室内に流れ込み、佐天を冷気に浸らせる。
佐天「………っ」ゾクッ
もし、立ち位置が違えば佐天は飛んできたコンクリートに押し潰され即死していただろう。
佐天の背中を一筋の冷や汗が流れ落ちた。
佐天「何でこんな…」
「あら…どうやら死ななかったようねぇ…運のいい子」
佐天「だ、誰!?」
「あいつへの脅迫として貴女の死体を見せたやろうと思ったけど計画変更。貴女、人質になってくれるぅ?」
明らかに殺意のある声。
その女の、人を逆撫でするような声に恐怖を覚えた佐天は、
例のボタンの存在を思い出した。今、ポケットに入ってるはず。
しかし、ポケットに手を入れるだけの時間を、その女が許すとも思えなかった。
常盤台中学女子寮―。
ベッドの上に座り、考え事をする初春。
初春「佐天さん…怒ってるかな…」
rrrrrrrrrr.......
初春「電話…佐天さんからだ!!」
初春「もしもし、佐天さん、今日はごめ…」
「あら…どうやらこの番号で正解だったようねぇ」
初春「あ、貴女は誰ですか!?」
「貴女のお友達は預かったわ」
初春「!!??」
「助けたかったら今すぐにでも来たらぁ?」
初春「………佐天さんに手を出したら許しませんよ!!!」
「うっふっふ」
とある廃工場―。
「貴女もいい友達を持ったわね…佐天さんだっけぇ…」
突如、佐天の部屋に襲撃を掛け、人質にとった一人の女。
その女を前にして、佐天は身体を縄でぐるぐる巻きにされていた。
爪を鑢で研ぐその女は、佐天とそう歳も変わらないように見える。
制服も着ていることから、学園都市の学生であることは想像できた。
唯一つ、佐天と違う点は不思議な能力を持っていることだった。
佐天「貴女誰よ!!! 初春に何の用なの?」
「私はね…超能力者よぉ…」
佐天「え!?」
女超能力者「貴女気付いてた?私がたびたび密かに初春さんにちょっかいかけてたの…」
佐天「…まさか!」
女超能力者「そうよ…昨夜、貴女の家にナイフを投げ込んだのも、石で初春さんの頭を傷つけたのも…」
女超能力者「今日の昼、ビルの看板で貴女を殺そうとしたのも全部わたしぃ…」
佐天「…そんな…」
女超能力者「もっとも、本当はずっと前から初春さん一人にちょっかいかけてたんだけどねぇ」
女超能力者「恐らくあの子も、超能力者の仕業だって気付いてたでしょうねぇ」
佐天「でも、初春は何も言ってなかったのに…」
佐天「!!」
佐天「(…そんな…初春…)」
女超能力者「お喋りはこの辺りで終わりにしましょう。本日の招待客さんがようやく来たようだから」
佐天「!」
顔の向きを変える佐天。
そこには鬼の形相をした初春が一人、立っていた。
佐天「初春…」
初春「貴女ですね、ここ最近ずっと私の命を狙っていたのは…」
女超能力者「こわいこわい…可愛い顔が台無しよぅ」
初春「一体何が目的なんですか!?」
女超能力者「さぁて…何でしょう…」
初春「正直、目的なんてどうでもいいです。別に私を狙っていたことも特に問題ではありません」
女超能力者「じゃぁ何で貴女、そんなに怒ってるのぅ?」
初春「私の親友の佐天さんに手を出したからです!!!」
佐天「初春…」
超能力者の女を前にし、啖呵を切る初春。
彼女の姿はまさに、学園都市第3位のレベル5の名に恥じないものだった。
それは、佐天が知る以前の初春とは明らかに違っていた。
初春「佐天さんを、返して下さい」
女超能力者「私を倒せたら、ねぇ…もっとも、レベル5と同等の力を持つ私、物体操作(オブジェクトコントローラー)を倒せるのは容易ではないと思うけど?」
初春「いいでしょう。その勝負…ジャッジメントにして常盤台の超電磁砲(レールガン)、この初春飾利が承ります!!!」
ヒュウウウウウ……ドガアアアッ
ズオオオオオオオン
唐突に、何の合図も無く戦火の火蓋は切って落とされた。
佐天がそれを理解するよりも早く、初春と女超能力者は既に戦闘状態の真っ只中にあった。
女超能力者「くらいなさい!!」
物体を自由に操り、攻撃を行う女超能力者。
ただの空き缶や空き瓶から始まって、石、自転車、車のタイヤが次々と初春を襲う。
が、怯むことなく初春は次々とそれらを電撃で撃ち落としていく。
佐天「初春…すごい…まるで御坂さんみたい…」
佐天「危ない初春!!!」
前方からの攻撃に集中していたのか、初春は背後から飛来する
鉄骨に気付かなかった。
しかし、初春は刹那の速さで振り返り、いつの間にか手にしていた蹉跌の剣で鉄骨を真っ二つに叩き切った。
女超能力者「油断大敵ねぇ!!」
正面に身体を向けた初春の目に写ったのは、飛来する自動車のバンパーだった。
初春「くっ」
咄嗟にコインを取り出し、初春は超電磁砲を自動車に向けて撃ち放った。
ズオオオオオオオオオオオン!!!
爆発を起こす自動車。爆風に巻き込まれ、初春は何十メートルも飛ばされてしまう。
初春「きゃぁぁぁあああああ!!!」
佐天「初春ーーーーーーー!!!!!」
女は空中に浮かした幾つかの廃棄物を階段を昇るように駆け上がり、
初春の直上に来ると、先が尖ったパイプを振り下ろそうとした。
女超能力者「終わりよ!!」
しかし、女の動きを予想していた初春は新たに取り出したコインを
電気に乗せて上空の女に向け解き放った。
女超能力者「なっ…!!」
再び超電磁砲が空を駆け抜ける。回避するのが精一杯だった女超能力者は、そのまま地上へ向けて5メートル落下した。
女超能力者「くっ…うっ……」
先程の自動車の爆発で飛び散った破片を身体中に浴びているのか、
初春の制服は所々破け、頬からは一筋の血が流れていた。
一方、女超能力者もまた落下の衝撃で何本か骨を折っているようだった。
初春「ハァハァハァ…(コインはあと一つ……もし次の大きな攻撃で使い切ってしまったら、もう切り札は残ってない……)
佐天「(どうしよう…初春が…初春があんなに血だらけになって……)」
佐天「(何で……あんなおとなしくて優しい初春がこんな目に……)」
佐天「(私のせいだ…私があのボタンを使って御坂さんを消したから、代わりに初春がこんな目に……)」
佐天「(やだよぉ……ごめん神様……もう、絶対に人は消さないから…初春を助けて…)」
初春「ここで引いて…くれませんか?」
女超能力者「なん…ですって…?…はぁはぁはぁ」
初春「これ以上やっても、お互い傷つくだけです。だから、ここでやめましょう…」
女超能力者「ふざっけんじゃないわよ!!! こんなところで終わってるなら、誰もこんなことしないわ!!!」
女超能力者「あんたには分かる?『レベルアウト』の気持ちが?」
初春「レベル…アウト?」
女超能力者「レベル5の力を持っていながら、その序列に加えられず、ゼロ落ちした超能力者の呼称よ!!」
初春「………?」
女超能力者「本来なら、レベル5として学園都市にその名を馳せるはずだった人間のことよ…」
女超能力者「将来性が見込めない、という下らない理由だけでレベル0まで格下げされた超能力者たち…その一人が私なのよ!!」
女超能力者「ある者は、『オチ零れ』と蔑まれ、ある者は犯罪に染め、ある者は学園都市上層部に粛清され、ある者は人体実験させられて、ある者は学園都市を去っていった」
女超能力者「それが私たちなのよ!!!」
初春「そんな……酷い」
女超能力者「同情なんかいらないわ!!あんたには分かる?夢の学園都市に来て、憧れのレベル5になるためにレベル0の無能力から必死に努力して、ようやくレベル5になれたかと思ったら、その途端レベル0に落とされた人間の気持ちが!!!」
佐天「!!!」
佐天「(あの人……まるで私みたい……)」
女超能力者「だから、見返してやるのよ!!!現役のレベル5を倒して私の実力を学園都市に見せしめるのよ!!!!」
初春「そんな…理由が…」
女超能力者「そのためには何だってやるわ。卑劣な手段を使ってでもね」
初春「!!」
佐天「!!」
佐天の方に顔を向ける女超能力者。
地面に落ちていたパイプが浮かび上がり、その先端が佐天の方に向いた。
初春「佐天さん!!!逃げて下さい!!!」
佐天「え?」
高速で飛来するパイプ。空を飛ぶ槍のように、それは佐天に向かっていった。
初春「佐天さん!!!」
が、反射的に身体が動いたのが幸いだったのか、パイプは佐天の身体を貫くことなく、後ろの壁に突き刺さった。
しかし、寸でのところでかすったため、佐天の左腕からは血が吹き出した。
女超能力者「あらぁ残念……避けられたみたいね。もっとも私の力が弱っているせいもあるだろうけど」
暗がりの中、地面に上体を倒した佐天を見、初春は自分の中で何かがぶち切れる感覚を覚えた。
彼女には、佐天が死んだかのように思えたのだった。
初春「………佐天さん…?」
初春「……佐天さん………」
女超能力者「ん?」
初春「よくも…佐天さんを……」
佐天「…くっ……初春?」
初春「よくも佐天さんをおおおおおおおおお!!!!!!」
目を開けた佐天が見たもの。それは、我を忘れた初春の姿だった。
女超能力者「!!!!」
最後のコインを取り出す初春。彼女はそれを女超能力者に向けた。
初春「死んじゃえええぇぇぇぇぇええぇええええ!!!!!」
佐天「だめぇぇ初春ぅううううううう!!!!!!」
女超能力者「…………っ」
ズオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!!!!!
数秒後―。永遠にも思われるような時が過ぎ、女超能力者は目を開けた。
女超能力者「し、死んでない……?」
女超能力者の数メートル先には、初春の身体に圧し掛かるように佐天の姿があった。
女超能力者「私、生きてるのね……」
それだけ残し、女の意識は切れた。
初春「佐天さん……どうしてこんな……」
佐天「駄目だよ……初春まで…私と同じようになっちゃ……」
佐天「初春は、本当は優しい女の子なんだからさ……」
そこで事が切れた。
佐天は初春の胸の中で、しばしの休眠に就いた。
薄れ行く意識の中、彼女は親友が自分の名前を呼ぶ声を聞いた気がした。
蛙顔の医者がいる病院―。
佐天「はっ!!」
飛び上がるように目を覚ました佐天。
しばらく思考を停止した後、状況を確かめるように周囲を確認する。
どうやらどこかの病室であることは理解できた。
佐天「ここは…病院?また前とは違うところか…」
佐天「にしても、最近私気絶してばっかりだな…。私、助かったのかな…?」
初春「さて…ん…さ…ん?」
横から掛けられた声に反応し、振り向く佐天。
そこには、隣のベッドからこちらを見ている初春の姿があった。
佐天は投げるように布団をめくり、ベッドから降りた。
佐天「初春!!!無事だったんだね!!!」
初春「うん……私も……佐天さんが無事で…良かった…」
佐天「?? …どうしたの初春?何か様子が変だよ」
見ると、初春の目は空ろになっており、口調もたどたどしい。
蛙医者「出来るだけ今の彼女には安静にさせてあげてくれないかな?」
いつの間にか、蛙顔の医者が病室に入ってきていた。
佐天「先生!初春はどうしたんですか!!??」
蛙医者「なーに、ちょっと色々あったから一時的にショック状態にあるだけだ」
蛙医者「こちらの質問にもちゃんと答えてくれたし、脳に障害が出来たわけでもない。安心しなさい」
佐天「なら、初春は大丈夫なんですね」
蛙医者「ああ、もちろん」
佐天「でも…私、ずっと眠ってたみたいで…一体あの後どうなったのか、さっぱり…」
蛙医者「その子が必死になって説明してくれたよ。何が起こったのかね」
蛙医者「私は非番だったけどその子には色々互いに世話になってるからね?急いで救急車を向かわせたんだ」
蛙医者「彼女、救急車の中でずっと君の手を握り名前を呼んでいたようだよ?」
佐天「そうだったんだ…」
蛙医者「いいお友達を持ったね」
話を聞き終えると、佐天は初春の方に向き直った。
佐天「ありがとね、初春」
初春「……どういたしまして…」
空ろな目だったが、初春は笑顔で佐天に返事をした。
佐天「先生…そういえばその…」
蛙医者「何だね?」
佐天「もう一人…一緒に運ばれて来た人がいませんでしたか?」
蛙医者「ああ、いるよ。彼女も命に別状は無い。身体中のあちこちが骨折してたけどね」
佐天「もし出来るなら…会わせてもらえますか?」
蛙医者「本来は面会謝絶だけど…特別に許してあげるよ」
佐天「ありがとうございます!」
佐天「(あの人…とても怖い超能力者だったけど、一度話しておきたい…)」
蛙医者「じゃあこっちに来なさい」
佐天「はい」
佐天「ごめんね初春、ちょっとあの女の人に会ってくるや」
初春「…………(女の…人…)」
佐天「待っててね」
ガラガラガラ ピシャッ
初春「佐天……さん…あの人は…佐天さんに…佐天さんを…傷つけたのに…」
初春「…会いに……行っちゃ…やです…」
初春は部屋を見回す。ふと、ある物が目に入った。
佐天のベッドの横、窓際の棚の上に小さな物体が置かれてある。
初春「(あれ…確か、以前も佐天さんが持ってた…ボタン……)」
初春「(何だろう……前も思ったけど……どこかで見覚えがある…)」
蛙医者「いいかね?ほんの少しだけだよ」
佐天「はい」
女超能力者「あら…あんたは…初春さんの…」
佐天「御身体の方は大丈夫ですか?」
女超能力者「別に…あんたに心配される筋合いないからぁ」
佐天「これからどうなさるんですか?」
女超能力者「何だか知らないけど、あの冥土返しが世話してくれるみたい。私みたいなレベル落ちの学生を面倒見てくれる組織とツテがあるとか…」
女超能力者「あの医者自身、学園都市上層部に多少、睨みが聞ける立場のようだしぃ」
佐天「それは良かったですね」
女超能力者「ふん別にどうでもいいし。っていうかあんた、何でここに来たのぉ?早く帰りなさいよぅ」
佐天「ちょっと言いたいことがあって…」
女超能力者「言いたいこと?」
ベッドから、のそのそと身体を出した初春は佐天のベッドに近付き、
棚の上にあったボタンに手を伸ばした。
初春「(これ……以前、固法先輩に連れられてジャッジメント本部に行ったときに見せてもらった『学園都市計画中止道具目録』に載ってた道具じゃ……)」
初春「(確か……名前を呼んだ人の存在を消せるとか……)」
初春「……………」
初春「(本当にあったんだ……これ……)」
初春「(ふーん……)」
初春「一度ぐらい、使ってみてもいいよね」
佐天「私さ…レベル0の無能力者なんだ」
女超能力者「言われなくても分かるわよそれぐらい」
佐天「うっ…で、さあ。貴女、言ってたじゃん。無能力から必死に努力してレベル5になったって」
女超能力者「正確にはレベル5じゃないわよ」
佐天「そ、そうですけど…」
佐天「何て言うか、私は、貴女が味わった全ての辛さや悩みは余りにも大きすぎて理解できないと思う。だけど、貴女が過去に味わった無能力者としての辛さだけは分かる気がするんだ」
女超能力者「…………」
佐天「私もこの学園都市を夢見て来て、レベル5を憧れてたけど、判明した私の能力値はレベル0。まったくの無能力者だったってわけ…」
佐天「悔しかった……とっても……。友達はみんな、高レベルなのに私だけ無能力。コンプレックス抱き続けてさ…レベルアッパーで友達巻き込んで……挙げ句、大切な友達を2人もなくしちゃった……」
女超能力者「…………」
佐天「馬鹿だよね…自分でやったことなのに……でも、もうあの2人は会えないし…仕方が無いよ…私が背負っていかなきゃならないことだから…」
佐天「これから先、もっと辛い人生になると思うけど、私、初春がずっと親友でいてくれたら必死に生きていけると思うんだ」
佐天「だから私頑張ろうと思う……もう、同じ過ちを繰り返さないように。だから、偉そうに言える立場じゃないけどさ…貴女も頑張ってほしいなー、って思ってたり」
女超能力者「馬鹿じゃないのぅ?」
佐天「なっ!!」
女超能力者「あんた、私を同列にみなしてるようだけど、一応は私、レベル5相当の力があるのよぅ」
佐天「そ、それはそうだけど…」
女超能力者「下賎な貴女と一緒にしないでくれる?」
佐天「…ご、ごめんなさい」
女超能力者「………でも」
佐天「?」
女超能力者「貴女の言う通りかもね。少しは元気出たわ」
女超能力者「一応ありがとぅ」
佐天「!!!」
佐天「いえ、こちらこそすいません」パァァ
女超能力者「用が終わったらさっさと行きなさい。もう、私に会いに来るんじゃないわよぅ」
佐天「はい!!分かりました!!」
女超能力者「しっしっ」
佐天「それではまた、お元気で」
女超能力者「ふん」
お辞儀をする佐天。病室の部屋を扉を閉め、佐天は戻っていった。
佐天「ちょっと話すとき怖かったけど、後味悪い別れにならなくて良かった…」
佐天「最後に打ち解けた気がするし……あの人には幸せになってほしいな」
ガラガラガラ
佐天「初春ー!!戻ったよー!!」
佐天「………え?」
初春「あ、佐天さん、お帰りなさい…」
佐天「…何…やってるの、初春……」
病室の中央に立ち、いびつな笑みを見せる初春。
彼女の手には、ボタンが握られていた。
佐天「それ……」
初春「これですか?」
初春「佐天さん知ってます?このボタン、人を消す力があるんですよ」ニコッ
信じられない光景を目にし、信じられない言葉を耳にした佐天。
彼女の頭の中は今にも真っ白になりそうで、親友の行動を前にして
微動だに出来なかった。
佐天「初春……どうして知ってるのそんなこと…?」
初春「あ、佐天さんも既に使用してましたか」
初春「もしかして佐天さんが言ってた『御坂美琴』って女の子、佐天さんが消した人ですか?」
佐天「!!!」
初春「なんだぁー、佐天さん、知ってたんだー」
佐天「やめてよ初春……何するつもりなの?」
初春「何って?決まってるじゃないですか…」
初春「あ の 女 の 存 在 を 抹 消 す る ん で す よ ♪」
佐天「なっ…」
初春「佐天さんは私の親友なのに、あの女はその佐天さんを傷つけました」
初春「私だけならいざ知らず、まったくの無関係の佐天さんを…」
佐天「で、でもあれは…」
初春「私、許せないんですよ。常盤台の超電磁砲(レールガン)として。あの女が…仮にも私と同レベル相当の超能力者が、佐天さんを巻き込んだことを」
初春「私も確かに彼女のこと、可哀想だと思いますよ。でもあれだけの強大な力を持ちながら、レベル0の佐天さんを痛い目に合わすなんて、ほっとけませんよ」
佐天「初春……」
初春「何より佐天さんを巻き込んでしまった自分が許せません。だからその責任として、あの人を消しますね」
淡々と述べられる言葉に、佐天はただ息を呑むしかない。
そんな彼女を無視し、初春がボタンにつけられた蓋を開けようとする。
佐天「待ってよ!!」
初春「…何ですか佐天さんもう…」
佐天「初春、今、戦闘のショックでちょっと混乱してるだけなんだよ…」
佐天「それに今、あの人と会ってきたけど、あの人根は悪くない人だよ。寧ろ純粋っていうか、彼女なりの信念があるって言うか…」
初春「…佐天さん」
佐天「な、何?」
初春「あの女を擁護するんですか?」
佐天「えっ…」
初春「だったら…」
初春「 佐 天 さ ん も 消 し ち ゃ い ま す よ 」
佐天「!!」ゾクッ
初めて、消される側としての恐怖を覚えた佐天。
無論、初春には佐天を消す気は無かっただろうが、佐天には今の初春が別人のように見えた。
初春「邪魔しないで下さい」
そう言って、初春はボタンの蓋を開けた。
佐天「やめてぇ!!」
佐天が初春の腕を強く握った。
初春「離して下さい佐天さん!!! これが私なりの責任のつけ方なんですよ!!!」
揉み合う二人。
佐天「それだけは駄目だよ!!絶対駄目!!」
初春「どうして佐天さんはあの人を許せるんですか!!傷つけられたんですよ!!!」
佐天「だけど…駄目だよ…!!!」
佐天「初春は、私みたいになったら駄目だよ!!優しい子なんだから!!!」
初春「そんなの関係ありません!!!!」
初春「佐天さんだってこのボタン使ったくせに、何言ってるんですか!!」
佐天「!!」
確かにそうだった。初春の言葉が佐天の胸を貫く。
佐天「…でも!!でも…!!私は初春には私と同じ目に合ってほしくない!!!」
初春「いい加減…離してください…!!!」
佐天「お願いだからやめて!!!」
いつの間にか佐天の目からは涙が零れていた。
しかし、彼女はそれに気付くことなく、腕を振り払おうとする初春にしがみつく。
そして……。
初春「あの女を消せえええええええええええ!!!!!!!!」
佐天「!!」
佐天「駄目えええぇぇぇえええ!!!!!初春うううううううううう!!!!!!」
最後の力を振り絞り、佐天が初春の腕を再び掴んだ時だった。
その衝撃で、初春はボタンを押してしまった。
初春「……え?…」
ピシュン!!!!
…コトン…カランカラン…
空中に投げ出されたボタンは重力に従い、床に落下した。
佐天「きゃっ!!」
ドサアアッ
支えを失ったことで佐天はバランスを崩し、ベッドに倒れ込んでしまう。
佐天「……くっ…」
佐天「初春!!」
振り返る佐天。
しかし、そこには誰もいなかった。
佐天「うい…はる…?」
佐天「どこ…?」
―「駄目えええぇぇぇえええ!!!!!初春うううううううううう!!!!!!」―
佐天「まさか…そんな…」
佐天「嘘だよね初春!!」
立ち上がり、叫ぶ佐天。
しかし、彼女の声が空しく響くだけで誰も返事はしない。
と、彼女の足元に何かがぶつかった。
佐天「これ…」
ボタンの横に、一つの花飾りが落ちてあった。
それを佐天は拾い上げる。
佐天「……初春…やだよ…出てきてよ…」
佐天「私…初春まで…消しちゃったの……?」
佐天「そんなの…嘘……これは夢だよ……」
佐天「初春うううううううううううううううううううううう!!!!!!!!!!!!!」
病室を飛び出していく佐天。
佐天「初春!!!どこ!!!返事して!!」
佐天「お願いだよ!!もう、初春に迷惑かけないからさ!!!」
佐天「出てきてよ!!!」
医師「君、病院内では静かにしなさい!!!」
叫びながら病院内を駆け巡る佐天。
彼女に注意を喚起する医者や看護士の声は、もはや意識の外だった。
佐天「私、初春まで失ったら……どうやって生きてけばいいの!!??」
ガシッ
誰かが佐天の腕を掴む。
佐天「初春!?」
背後を振り返る佐天。しかし。
蛙医者「落ち着きなさい、君」
佐天「初春じゃない…。先生!初春はどこ行ったんですか!!」
蛙医者「ういはる?」
佐天「急に病室から消えたんです!!!知ってるならどこにいるのか教えてください!!!」
蛙医者「誰だね、初春って?」
佐天「!!??」
佐天「先生…何言って……私と同じ病室に収容されてた初春飾利ですよ!!!」
蛙医者「おかしいね?君がいた病室には君以外誰もいなかったはずだが?」
佐天「…そんな!!」
蛙医者「お友達か見舞い客かね?」
佐天「(やだ…そんな…そんなの…嘘…有り得ない…)」
ダッ
蛙医者「どこへ行くんだ!」
蛙医者の声を背後に浴びながら再び走り出した佐天。
突如消えた初春の居場所。それを探し求め、佐天はとある病室に辿り着いた。
ガラガラガラ
病室の扉を開ける佐天。挨拶もなしに彼女は患者のところへ近付いた。
女超能力者「あら貴女は」
佐天「初春飾利」
女超能力者「はぁ?」
※押した人に関わらず最後に叫ばれた名前によってと解釈して下さい
佐天「初春飾利です!知ってますよね?」
佐天「どこに行ったか知りませんか!?」
女超能力者「………また戻ってきたら何を言うかと思えば」
女超能力者「知らないわよぅ『初春飾利』なんて子…」
佐天「!!!!」
女超能力者「お友達?」
佐天「そんな……」
佐天「何で貴女が知らないんですか!!深夜、貴女と戦った常盤台中学のレベル5ですよ!!」
女超能力者「………?」
佐天「学園都市第3位の超電磁砲(レールガン)のことです!!! 何で昨夜戦った相手なのに覚えてないんですか!!??」
女超能力者「………何言ってるの?」
佐天「え?」
女超能力者「私は学園都市への見せしめとして、無差別に学生を狙っていたのよ。昨夜はたまたま貴女が目標だっただけでレベル5の超能力者とは戦ってないわよぅ」
佐天「な、え…そ…」
女超能力者「あんたが私に説教してる間に気を取られて誤って能力で自爆して…その後、一緒にここに連れて来られたんでしょうがぁ」
女超能力者「そもそも初春飾利なんてレベル5の超能力者、常盤台…いえ、この学園都市にいたっけぇ?」
女超能力者「…まったく。何しに来たのかと思えば…もう人は襲わないって貴女と約束したんだからいい加減……どうしたの?」
佐天「やだ…そんなの…」
女超能力者「ちょっと聞いてる?」
抗いようの無い事実。
それを受け入れられる余裕は、今の佐天には皆無だった。
佐天「イやァああああああああああああ!!!!!」
女超能力者「ちょっと貴女!!!」
病室を飛び出していく佐天。
ただひたすら走り、走った。
自分が今どこにいるのか分からないまま、足の疲れなど
まったく意識の外にして、彼女は走り続けた。
佐天「(やだやだやだやだやだやだやだやだ!!!!!!!!!!!)」
佐天「(初春は消えてない!!!!!今もどこかで隠れてるだけ…みんなで私を騙してるだけなんだ!!)」
佐天「(信じない!!私は信じないよ!!!すぐまた初春は出てくるもん!!!)」
佐天「(だよね初春…)」
佐天「初春うううううううううううううううううううううううううううううう!!!!!!!!!!」
とある路地裏にて―。
佐天「グスン…初春…グス…出て…きてよ…初春ぅ…」
佐天が病院から逃げ出してから、何時間が経ったのか。
彼女にそれを知る術は無かった。恐らく半日はとうに過ぎていただろう。
走り疲れた今の状態ではまともに立ち上がることすら出来ず、佐天に
出来たのは泣くことぐらいであった。
―「ジャッジメントですの!」―
佐天「白井さん…グス」
―「何か困ったことあったら私に相談しなさいよ!」―
佐天「御坂さん…ひぐ」
―「当たり前ですよ。今更何を言ってるんですか。私たちはいつまでも親友です」―
―「だって佐天さんは私の親友なんですもん。当然じゃないですか」―
―「安心して下さい。私は佐天さんの親友としてずっと側にいますから」―
佐天「うい……はるぅ……」
佐天「うわぁあぁあぁぁぁぁぁぁぁん!!!!!」
その日、佐天涙子は一晩中泣き通した。
佐天宅―。
佐天「…………ただいま」
佐天「……朝の6時半か………私、何時間泣いてたんだろ……」
佐天「…部屋滅茶苦茶だな……そっか…初春が初めから存在してなくても……私があの超能力者に襲われた事実は…変わってないんだ……」
茫然としたままベッドに腰を降ろす佐天。
佐天「もう、初春と一緒に…ベッドで眠ることもできない…」
佐天「……なんかもう…どうでもいいや……初春もいなくなったし……もう、何もかも…どうでも…いい」
佐天「……でも、何だか……すっきりしないや……何でだろ…」
―「初春がずっと親友でいてくれるなら、私、自分に正直に生きれる気がするよ」―
佐天「………」
―「辛い現実にも向き合って、逃げたりしない。もう、絶対に間違った方法で自分の悩みを解消しようとしないから」―
佐天「………」
―「初春がいてくれる限りずっと…………誓うよ」―
佐天「………」
佐天「そっか……もう誓う相手いないんだ………だったら…守る必要……ないよね」
のそっと立ち上がったかと思うと、佐天はそのまま散らかった部屋を進み、机の引き出しを開けた。
彼女がそこから取り出したのは、一枚の紙切れだった。
『誰を消すかは貴方次第。例えば、身近に嫌な人間がいれば消すのも良し、嫌いな政治家がいれば消すのも良し。
もちろん、貴方の一言で総理大臣も大統領も消すことが可能です。その他、死刑にならなかった殺人犯がいて個人
的に納得できないのなら消すのもまた一つの道です。世界の人口が過剰に溢れていると思ったら、人工の半分を
消すことも出来ます。好きな人と二人だけで過ごしたいならご自身と好きな人以外の全ての人間をこの地球上から
消すことも可能。もちろん、使い方によってはこの世界を貴方の独り占めにすることだって夢じゃない。さあ、手始め
に身近な人間を消して試してみましょう!この世は全て貴方次第!さあ、貴方の理想の世界を創り上げましょう!
貴方は今日から神様です!!!』
佐天「誰を消すかは……貴方次第…」
佐天「この世は全て……貴方次第…」
佐天「貴方の……理想の世界……」
佐天「貴方は今日から……神様…」
佐天「神様…」
佐天「神様……」
佐天「……神様………」
佐天「フフ…神様」
この日初めて、佐天涙子は笑みを浮かべた。
学園都市・とある大通り―。
周囲の学生たちが忙しなく動き回る中、彼女はそこにいた。
佐天「一応……喪服のつもりでセーラー服着てきたけど………別にどうでもよかったか……」
佐天「……これ…病院で捨てられてなくてよかった……昨日は、何も言わず飛び出してきちゃったからな……さて…始めよっかな…」
一歩、足を踏み出す。
「私の彼ったら、優しいでしょー」
「何言ってんの?私の彼こそ良い男よー」
佐天「うざい。恋人いるやつは消えちゃえ」
ピッ
「その彼ったr… ピシュン!!!
さらに一歩、足を踏み出す。
「ジャッジメントの人間だけど、この間起こった事件について知ってることないかな?」
「えー…知らないっすよ」
佐天「ジャッジメントとか何様。ジャッジメントなんか消えろ」
ピッ
「いや僕たちも手掛かりになるこt… ピシュン!!
佐天「いいざま」
そうして、佐天は一歩一歩歩いていく。
「なー姉さんー僕かっこいいと思わへん?これから茶でもしようやー」
佐天「ナンパする人間は消えちまえ」
「ええやん、ちょっとぐらi… ピシュン!!
「私……そろそろ……目立ちたい…」
佐天「空気キャラは消えろよ」
「空気キャラじゃな… ピシュン!!
ボタンを使い、次々と目障りな人間の存在を消していく佐天涙子。もう誰にも彼女を止めることはできなかった。
「駄目じゃんそんなんじゃ……学生になめられるじゃん。分かってるじゃん?」
佐天「じゃんじゃんうっせーんだよ。消えちゃえ」
「そうじゃん。だから… ピシュン!!
「ったく…あンのガキィ、どこ行きやがったァ? 見た目が幼女だから油断しちまったなァ…クソッ」
佐天「ロリコン死ね」
「見つけたらお尻百叩きd… ピシュン!!
佐天「消えろ…」
佐天「消えろ……」
佐天「消えちまえ!!!」
歩き、歩き続ける佐天涙子。もう何時間経ったのかすら分からない。
彼女が地面を踏みしだくたび、前に進むたび、人間が次々と消えていく。
「明日はどっか行こu… ピシュン!!
「はー昨日のテストの点数やばかt… ピシュン!!
「マジ有り得… ピシュン!!
「当麻ー!迷子になっちゃったんだy… ピシュン!!
「昨日あのテレビ見t… ピシュン!!
彼女がようやく歩みを止めたとき、太陽は既に沈みかかっていた。
佐天「……いっぱい…消しちゃったな……」
佐天「でも最後にやることが残ってる……」
佐天「……私をこんな目に遭わせた……全ての元凶……」
佐天「能力者ども」
佐天「どうか……私の憂さを晴らすために……消えちゃってね…」
そして、息を吸い、佐天は大声で叫んだ。
佐天「能力者なんか全員消えちまえええええええええええええええええ!!!!!!!!!!」
皮肉にも全ての能力者は、レベル0の無能力者であった一人の少女によってその存在を抹消された。
こうして、学園都市は終わりを迎えた―。
第3部・終わり
1週間後―。
とある公園―。
「ふふふん♪ふふふん♪ふんふんふーん♪」
一人の少年の鼻歌が風に混じって聞こえてくる。
「あ、今日はそういやお買い得セールの日だったっけ…」
「あとで急いで行かないと…」
少年が歩く公園の一角…日陰の目立たないところにあるベンチ。
彼女はそこでダンボールにくるまって横になっていた。
「………何の…鼻歌だろう…」
「アッーーーー!!! 今日補習だったんだ!!!」
「あの声…どこかで聞き覚えがある……」
「チックショー…忘れてた。どうする?今から戻るか?それともサボってセールを優先するか」
「あっ…もしかして…あの姿は…」
ごそごそと上体を起こし、彼女はしっかりと確認した。
「間違いない…あの人だ…」
「上条さぁぁぁああああん!!!」
「ん?」
「どこから俺の名を呼ぶ声が…」
「ここです!上条さん!私です!!」
「誰だあれ?ホームレスに知り合いいたっけ…」
「私ですよ!佐天涙子です!!」
「佐天…さん!?」
駆け寄る上条当麻。
佐天涙子は久しぶりに見る知り合いの顔に笑顔を零した。
上条「佐天さん……こんなところで何やってんだ?」
佐天「ちょっと色々あって…」ヨロッ
上条「わっ、大丈夫か」ガシッ
佐天「ごめんなさい…」
上条「………酷いな」
上条「俺の家はすぐそこだが……寄ってくか?」
佐天「……ありがとうございます…私もずっと話したかったので…」
上条「…………」
上条宅―。
上条「すまんちらかってて…」
佐天「いえ…お構いなく…」
上条「茶だ。それとお菓子もある」
佐天「わざわざすいません。ここ数日あまり食べてなかったので」
上条「(随分変わったもんだな)」
上条「痩せた?」
佐天「ふふ…みたいですね…」
机を間にして座る佐天を見つめる上条。
セーラー服はところどころ汚れて破れており、明らかに顔はやつれていた。
目の下の隈も酷く、以前見た黒髪ロングの明るくて可愛らしい姿をした佐天涙子の面影は無かった。
佐天「にしてもあの公園で待っててよかったです。あそこにいればいつか上条さんに会えると思ってましたから」
上条「なんだってあんなところで生活してたんだ?」
佐天「行くところが無かったので…」
上条「どういうこと?」
佐天「…………」
佐天「上条さんは……それまで実在した人が急に消失してしまったらどうします?しかも、自分以外その人の記憶が無かったら…」
上条「………さあ。俺も記憶が無くなることの辛さは知らないわけでもないけど…発狂するかもな」
佐天「そうですか」
佐天「実は私、柵川中の関係者、学生も教師もみんな消してしまったんですよ…」
佐天「上条さんから貰った、あの人を消すボタンで…。だから学校にも行けなくて公園にいたんです」
上条「ああ…あれか。結局、使ったのか…」
佐天「驚くには早いですよ。それだけじゃなく、私、友達みんな消しちゃいました」
上条「…………」
佐天「白井さんも、御坂さんも、そして初春も……。全部、消しちゃった……」
上条「ふーん」
上条「あ、そういやあ…2週間…までは行かないか。とにかくそれぐらい前に初春さんと会ったぞ」
佐天「初春と…?どこで?」
上条「さっきの公園だよ。帰宅途中さ、歩いてたらいきなり電撃が飛んで来るんだよ」
上条「で、またビリビリか…と思ったら実は常盤台の制服着た初春さん! あれには一瞬拍子抜けしたよ」
佐天「そうなんだ…会ってたんですね」
上条「ああ。もう、それがおかしくてさ! だってあの初春さんがだぜ?あの可愛い顔でビリビリみたいに啖呵切ってくるんだ!あの時、あまりのギャップに笑い堪えなくなってさーだっはっは」
佐天「………」
上条「あれ、もしかして佐天さんがビリビリを消したからかな?あのボタン、ある人の存在を消したら、身近にいる人が代わりに成り代わることあるからさ」
佐天「…だと思います。御坂さんを消したのは、初春を消す前だったから」
上条「やっぱりそうかー。道理であんなおかしいことになったわけだ」
上条「だけど、消したのは君の友達だけじゃないだろ?ん?」
佐天「…はい」
上条「1週間前だったか…その日を境に一気に学園都市の人口が目で見て分かるぐらい消えやがった」
上条「学生、教師、研究者、ジャッジメント、アンチスキル、スキルアウト…どんな人間か問わずにな」
上条「街に出ても、以前のような活気はなく、学生の数もあまりにも少ない。俺は集団失踪か宇宙人によるアブ抱くションでも起こったかと思ったが…あれ、佐天さんがやったんだな」
佐天「はい。学園都市にいる能力者、全員消しちゃいましたから…」
上条「なるほどね」
上条「お陰でこの学園都市も随分、寂しくなったよ。ま、人口200万人以上越す大都市から、その恐らくは半数以上がいなくなったんだから当然だよなー」
佐天「………」
上条「まあこっちはそのお陰で目まぐるしく世界が変わっていく様子が実感できたわけだけどな」
佐天「………」
佐天「…上条さんは嫌じゃないんですか?」
上条「ん?何が?」
佐天「だって、たくさんの人がこの学園都市から消えたんですよ?貴方の友人や知人だって消えたんじゃないんですか?」
佐天「しかもその元凶である私が目の前にいるのに…怒らないんですか?」
上条「怒ったってしょうがないだろ。それに佐天さんを殴りたくないからね」
佐天「………」
上条「俺がわざわざ説教したって意味無いしさ。だって、君はこれからずっと一生辛い思いしなきゃならないからな」
佐天「……え?」
上条「そうだろ?例え俺と君以外の人間が何も事情を知らなくても、実際に消えた人は100万人以上いるんだ。いくら最初からいなかった、と仮定しても殺しているのと大差ないからね」
佐天「そんな…私は…殺すなんて…」
上条「君がどう思っているか知らないけど、君はどの道一生その重みに耐えて生きてくしかないんだよ。死ぬまでね」
佐天「………っ」ゾクッ
佐天「…そんな…やだ…」
上条「まあ今更仕方ないだろ。さ、この話は終わりだ。佐天さんは何とかして新居を探すことだな。それより女の子がその姿は駄目だな。今から風呂沸かすから、入っていきなよ」
以上で終わり、と言いたげに立ち上がる上条。風呂場に行こうとした上条の足を佐天が掴んだ。
上条「ん?何?」
佐天「……消した人間を、元に戻す方法は…無いんですか?」
上条「はぁ?」
佐天「…私…嫌だ…こんな思いして一生生きてくなんて……どうしていつも…私ばかり」
上条「佐天さんさぁ……あまりふざけないでくれるか?」
佐天「え?」
上条「消えた人間が戻ってくるわけないだろ?頭で考えたら分かることじゃねぇか」
佐天「…そんな…」
上条「そう簡単に、人を消すだの復活するだの…ただの人間にできるわけないだろ?レベル5の超能力者ですら無理だと思うぜ」
上条「こっちだってなぁ、こう見えて辛い思いしてるんだぞ?事情知ってる分、消えた人間の存在の記憶も残ってるんだ」
上条「分かるかよ?知ってる人間がいつの間にか消えてる感覚が」
佐天「…………」
上条「友達も、クラスメイトも、先生も消えて…それこそ佐天さんの友達だった初春さんや白井やビリビリだって同じことだ」
上条「まあ我が家の居候がいなくなって家計が楽になったのは助かったが、それでもその本人たちが戻ってくることはない」
上条「それだけの人間が消えて、普通でいられるわけないだろ?おまけに残った周りの人間はいつも通り飄々と生活してやがる」
佐天「でも…でも、あのボタンを私にくれたのは上条さんじゃないですか」
上条「はぁ…」
上条「だけど実際に使おうと決めたのは君自身だろ?俺としては、そういう道具がこの世に存在する、ってことを君に知ってもらうのが本当の目的だったんだよ」
上条「だってまさか佐天さんが本当に使うとは思わなかったからな。俺は佐天さんを信じてたんだけどな……残念だ」
佐天「そんな!そんな!」
上条「女の子だしビリビリの友達だからそんなことはしないけど、赤の他人だったらぶん殴ってるところだよ」
佐天「…!!」
上条「分かったろ?君の友達はもう戻ってこない。学園都市は能力者がいないまま衰退していく。それが全てなんだよ。そしてそれらは全部、佐天さんがやったことだ」
佐天「………」
上条「今もボタン持ってるんだろ?言っとくけど返さないでいいからな」
佐天はうなだれるように掴んだままだった上条の足を離した。
佐天「…………っ」
上条「気に入らないなら、俺も消してみろよ。自己責任でな」
上条「じゃ、風呂沸かしてくるわ」
佐天「…………」
数分後、上条が風呂場から部屋に戻ると、既に佐天は部屋から去った後だった。
とある公園―。
逃げるように上条宅から立ち去った佐天。
彼女はまた、ベンチの上でダンボールにくるまっていた。
佐天「…………」
佐天「…上条さんなんか大嫌い…」
佐天「御坂さんがいなくなっても、平然としてるんだもん……おまけに嫌なこと言うし」
佐天「寒い……」
寒風が吹き荒ぶ公園の中で、さすがにダンボール一枚では厳しかった。
佐天「……楽しかったな…みんながいた時は……」
佐天「初春と御坂さんと白井さんと一緒に遊んでたのが昨日みたいだ……」
手に持ったボタンを見つめる佐天。
佐天「……全部、このボタンと上条さんのせいだ……そして元を正せば能力者たちのせい……」
佐天「お陰で不幸になっちゃった……」
佐天「…もう…私を……いじめ…ないでよ…」
彼女はそのまま眠りに就いた。
佐天「あれ……ここどこだろ?あ、あの後姿は…白井さん!! 戻ってきたんですね白井さん!!!」
白井「近付かないでくださいまし」
佐天「え?」
白井「貴女とはもう友達でも何でもないんですの。無能力者はさっさとどこかへお行き遊ばせ」
佐天「そんな…何で…ん?あ、あれは…御坂さん!!私です!佐天です!!!」
御坂「来るんじゃないわよ!!!」ビリビリッ
佐天「きゃっ……何で……」
御坂「よくも私を消してくれたわね!」
佐天「あ、あれは…だって…」
御坂「あんたを友達だと思ってた私が馬鹿だったわ!!このレベル0の無能力者!!!!」
佐天「!!!」
御坂「無能力者の分際で生意気なのよ!!!次、私や黒子に近付いたら超電磁砲(レールガン)本気でぶつけるからね!!」
佐天「……御坂さん…」
初春「佐天さん…」
佐天「初春!?」クルッ
佐天「初春!!良かった!!戻って来たんだね!!」
初春「佐天さん、どうして私を消したんですか?」
佐天「え?」
初春「ここ暗くて怖いです。何も見えないし何も聞こえないし動くことも出来ません」
佐天「………っ」
初春「私たち、親友だったはずですよね?何でこんな酷い目に合わせるんですか?」
初春「私、佐天さんのこと親友だと思ってたのに……」
初春「裏切り者…」
佐天「!?」
初春「佐天さんの裏切り者!!!」
佐天「待って初春!!違うの!!」
鋼盾「何が違うんだい佐天さん?」
佐天「鋼盾くん?」
鋼盾「君が僕たちを消したのは事実なのに。言い逃れなんて出来ないよ」
佐天「だって…」
「そうだよ!今更言い訳なんて卑怯なんだよ!!」
「このアマ…よくもウサ晴らしに俺たちを消してくれたな!!!」
「みじめだわぁ…やっぱり無能力者はやることが違うわねぇ」
「勝手に消された人間の気持ちが分かる?」
佐天「いや…やだ…」
「お前も消えろ!!!」
「そうだ苦しめ!!」
「この無能力者のクズが!!!」
佐天「みんなやめて…止めてよおおおおおおおお!!!!!!」
「「「「「「「「「「無能力!無能力!無能力!無能力!無能力!無能力!無能力!無能力!無能力!」」」」」」」」
佐天「やだ…」
上条「佐天さん…」
佐天「上条さん!?」クルッ
佐天「上条さん助けて!!グス…みんなして…ひぐっ…私をいじめるんです!!グス…お願い助けて!!!」
上条「…………」
上条「知らねーーーーーよバーカwwwwwwwwwwwwクソ女がwwwwwwwwwwwてめぇの幻想ぶち殺すぞwwwwwwwwwwwwwww」
佐天「……!!!」
佐天「やだ…そんな…」
「「「「「「「「「「無能力!無能力!無能力!無能力!無能力!無能力!無能力!無能力!無能力!」」」」」」」」
佐天「やめて…」
「「「「「「「「「「無能力!無能力!無能力!無能力!無能力!無能力!無能力!無能力!無能力!」」」」」」」」
佐天「やめてよ!!!やめないと怒るよ!!!」
「「「「「「「「「「無能力!無能力!無能力!無能力!無能力!無能力!無能力!無能力!無能力!」」」」」」」」
佐天「やめてええええええええええ!!!!!!」
「「「「「「「「「「無能力!無能力!無能力!無能力!無能力!無能力!無能力!無能力!無能力!」」」」」」」」
佐天「みんな消えちまええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!!!」
ピッ
佐天「はっ!!!」
目を覚ます佐天。
佐天「ハァハァハァ……」
佐天「……夢か……」
佐天「どうせなら最初から全部夢だったら良かったのに……」
ふと、辺りを見回す佐天だが、何か様子がおかしい。
まるでサイレント映画のように静か過ぎるのだ。
佐天「……何で…こんなに静かなの…?」
佐天「いつもならこの時間帯、誰か一人ぐらいは見かけるのに……」
ふと、手元を見る佐天。
そこにはボタンに手が掛けられたままの親指があった。
佐天「!!」
佐天「嘘……だ、誰も消してないよね!?」
慌てるようにボタンから手を離し、蓋をする。
―「みんな消えちまええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!!!」―
佐天「………!!」ゾクッ
佐天「…あ、あれは夢だよ……夢の中で叫んだだけなのに……」
佐天「……………誰かいるよきっと。気のせい気のせい……」
そう言って、震える足をダンボールから出す佐天。ベンチから降り、歩き始めた。
佐天「……本当に…今日は公園に人がいない……寒いからみんな家にいるんだよね…」
しかし、公園内を歩き回っても、それらしき人間は一人も見かけられず、猫のこ一匹すら
見つからなかった。
佐天「きっと、公園の外には誰かいるよ!うん」
公園を出る佐天。しかし、そこにも人の影はなく、いつもは賑わってるはずの
大通りや通学路も誰もいなかった。
佐天「………何か……災害でも起きて…屋内に避難でもしてるのかな?」
歩き続ける佐天。
人はいない、車も通らない、ビルの電光掲示板には何も映らない、モノレールも動いていない。
まるで世界が止まったようだった。
佐天「有り得ないよ…学園都市がまるで機能してないなんて……」
佐天「まだ夢の中にいるのかな?」
時々鳴り響く風の轟音だけが、彼女により一層の孤独感を与える。
耐え切れなくなったのか、佐天は叫んでいた。
佐天「誰かァあああああああああああ!!!!!」
しかし、彼女の声に気付く者はいない。
佐天「返事してよおおおおおおおおおお!!!!!」
返事の声もない。
佐天「お願いだからさああああああああああ!!!!」
やはり、彼女の悲痛な叫びに応える者は誰もいなかった。
佐天「きっと別のところに行けばいるはずだよ…そうだよ…」
佐天は尚も歩き続けた。しかし…。
佐天「どうして…誰もいないの…」
どこへ行こうが、どれだけ歩こうが、誰にも会うことはなく、ただ、無人の街が広がっているだけだった。
佐天「…………」
疲れたのか、佐天はビルの壁にもたれかかり、地面に腰を降ろした。
佐天「みんな…いなくなっちゃった………」
佐天「やっぱり…私があの時、消しちゃったんだね………」
佐天「…………」
空を仰ぎ見る。そこには青空が広がっていた。
佐天「綺麗な空……」
佐天「何でだろ……あまりショックがでかくないや……」
佐天「そっか…初春が消えた時点で……もうどうでも良くなってたからな…」
しばらくの間、佐天はずっと青空を眺めていた。そして…。
佐天「――――――っ」
佐天「よし!!!」
両手で自分の頬を叩く佐天。
佐天「決めた!いつまでもクヨクヨしてたら駄目だ!!」
立ち上がり、道路の中央まで駆けていく。
佐天「もうやっちゃったことは戻らない……それは仕方ないけど……空はまだ青し!そして雲はまだ白し!」
佐天「どうせなら今の状況を楽しんじゃえよ涙子!!」
両手を広げながら、佐天はクルクルと道路の真ん中で回る。
佐天「今この学園都市…いえ、世界には私一人しかいないんだぜ!」
佐天「それはつまり、この世界の全てが私のものだということではないでしょうか!?」
佐天「あの説明書に書いてあったとおり、私は神、いわゆるゴッドになったというわけです!!」
佐天「だったら、その世界を思い通りに楽しまないのは損というもの!」
両手を広げ、道路を駆け抜ける佐天。
佐天「もう、私を見下す能力者なんて誰もいないし、何をやったとしてもジャッジメントもいない!」
佐天「文字通り、この学園都市は私、佐天涙子ちゃんのものになったのだ!!!わっはっはっはっは!!!」
笑い声を後に残し、彼女は走っていった。
スーパーマーケット―。
佐天「まずはここ!!この数日、あまり食べてなかったからね!!!」
佐天「っふっふっふっふ、商品は選り取りみどり。しかも何と、その全てが…タダ!!これは涙子ちゃん、利用しない手はないんでしょうか?」
佐天「そうですねー佐天さん。これを利用しないのは、人として終わってるでしょう!」
佐天「ということで、狩りの始まりだあああああ!!!!」
カートを押し、広いマーケット内を走る佐天。
ゴシャアアアアアン
佐天「きゃっ」
佐天「あうーいきなりこけちゃった…。鼻が痛い…」
佐天「はっ!これが出鼻をくじかれた、という奴か!!」
佐天「よし、落ち着いていこう。別に食べ物が逃げるわけじゃないんだからね」
次々と、食べ物や飲み物をカートに入れていく佐天。
佐天「あらまァ…奥様見てくださいまし。この卵、2割引ですってよ」
佐天「まあまあ。でも全てがタダのあたくしには関係ありますぇーんことよ…ププッ。なんちゃって」
彼女がスーパーを出たのは2時間後だった。
次いで、洋服店にやって来た佐天。
佐天「いつまでもセーラー服じゃ女の子として駄目だよね。ちゃんとした服を着なきゃ」
佐天「おーっと、そう言ってるそばから可愛い洋服はっけーん!」
佐天「あ、こっちも可愛い。いや待って…こっちもいいかもー」
佐天「どれにしようかな…まあいいや。試着室で見て決めようっと」
佐天「うはーカーテン開けたまま試着室で着替えるのも開放的でいいねー」
佐天「だって誰にも見られる心配ないもんね!」
佐天「さあ、この服はどうかな…」
佐天「じゃあこっちー」
佐天「いやいやこれもいいんでは?」
佐天「って決められないよー。選んでくれる人がいるわけじゃないからなー」
佐天「………あ、全部持って帰れば済むことじゃん!!」
佐天「もう、私ったら間抜けなんだから!テヘ」
ゲームセンター―。
チャリン
佐天「よーし行くぞー涙子ちゃんのメガトンパンチくらえー!!」
佐天「えいっ!!」
ドカーン
佐天「70点!さっすが私!!」
佐天「お、このモグラ叩きおもしろそー」
チャリン
佐天「さぁ来い!!」
子供のようにゲームに夢中になる佐天。
この後、彼女はモグラ叩きを10回連続ですることになる。
佐天「終わったー」
佐天「うーん点数があまり芳しくない。でも現在で学園都市第一位の成績だからいいもんねー」
チャリン
佐天「UFOキャッチャーやるのなんて久しぶりだな…」
佐天「よーし…あの可愛いぬいぐるみをゲットするぞー」
次々とゲームをこなしていく佐天。
佐天「あ、失敗しちゃった…」
佐天「もう一回やろっかなー…でもお金がもったいないからなー」
佐天「いやいやいや、お金なんていくら使おうが関係ないじゃん!もっとやっちゃえー」
佐天「やったー!!ぬいぐるみゲットー!!!1000円ぐらい使っちゃったけど痛くも痒くもないもんね」
夜・常盤台中学寮―。
佐天「わふー」
佐天「ああ、常盤台の布団ってこんなに気持ちいいんだー」
佐天「まるで本当のお嬢様になった気分♪」
ベッドに仰向けになる佐天。
佐天「夢みたいだなー」
佐天「以前はこんなこと出来なかったもんねー」
佐天「だけど今は、こうやってたくさん食べたいもの食べれて、好きなお洋服着れて、しかも常盤台の部屋に住めるんだから幸せだよねー」
佐天「何より私を馬鹿にする能力者がいないなんてさいっこう!!」
佐天「これで初春たちもいたらいいんだけどなー…」
佐天「……………」
佐天「って、今は私一人しかいないんだから無理は言わないの!」
ベッドを降りる佐天。机の上に置いてあった紙袋を手に取ると、それを床に広げた。
佐天「うっはー、お菓子だらけ。さてと、どれから食べようかなー」
佐天「あ、太らないように注意しないとね♪」
佐天「ふふふん♪ふふふん♪ふんふんふーん♪」
絶頂の幸せの只中にいる佐天涙子。
彼女は今、人生で味わったことのない楽しみに溺れていた。
が、しかし、その幸せがいつまでも続くとは限らなかった。
二日後―。
佐天「今日はどんなお洋服着ようかな♪」
佐天「出来ればセブンスミストも行ってみたいけどなー。電車動いてないし歩いて行くのはちょっとしんどいかも」
佐天「まあいいや。洋服なんてそこらへんでタダで貰えるし」
佐天「ん?」
鏡に近付く佐天。
佐天「おーだいぶやつれが取れてきたかもー。お菓子をいっぱい食べたお陰かな?」
佐天「でもいつまでもお菓子の生活続けるのも健康に悪いしなー」
佐天「そうだ!スーパーかコンビニでも行って食材買ってこよう」
佐天「たまには自炊しないとねー」
コンビニ―。
佐天「あちゃー…これも消費期限切れかー」
佐天「あ、これもじゃん」
佐天「なんだよーほとんど期限切れてるし。これじゃあ料理なんて作れないよ…」
佐天「ん?」
佐天「あっ、これは…!!」
佐天「『新発売・期間限定ゲコ太弁当』!!」
佐天「こんなの出てたんだー。御坂さんのために一つ持って帰ってあげよっかな?」
佐天「………って何言ってるんだろ私。御坂さんはもういないじゃん……」
佐天「……………」
佐天「まあいいや。消費期限切れてるけどこれだけ持って帰ろう…」
とある寮―。
佐天「常盤台の寮は居心地良かったけど、逆に落ち着かなかったからなー。引越ししちゃった」
佐天「ごめんね初春ー部屋借りるよー」
バッグに食材や衣服を詰めに詰め、移動してきた佐天。その部屋は、かつて初春が使っていた寮の部屋だった。
佐天「ふぅ…懐かしいなー。初春とよくここで話したっけ……」
佐天「…初春……」
佐天「なーんて止め止め。いつまでも過去を振り返ってたらいい女になれないぞ涙子」
佐天「そんなことより、昼ごはん昼ごはんっと」
キッチンに食材を持っていく佐天。鍋を用意し、袋から野菜を出す。出した野菜を洗おうとした時…。
佐天「あれ?」
佐天「…何で?」
佐天「何で水が出ないの?」キュッキュッ
水道の蛇口を捻っても水が出てこないのだ。
佐天「おかしいな…」キュッキュ
いくら蛇口を捻っても、水が出る気配はない。
佐天「…………」
佐天「まさか!」
トイレに駆け込む佐天。
彼女はバーを引いた。
佐天「流れない…」
何度もバーを押したり引いたりするが、水は流れない。
佐天「待って…まさか、水道を管理する人間がいないから、水が使えなくなったの?」
佐天「じゃあ…」
トイレから出、佐天はキッチンに戻る。彼女はガスの元栓を捻った。
佐天「点くよね…」
が、スイッチを押しても火が点く気配はない。
カチチチチチと空しく音がなるだけで、何の変化もない。
佐天「嘘…ガス使えなかったら最悪じゃん……」
再びスイッチを押してみる。
佐天「点け点け点け」カチチチチチ
何度やっても変わりはなく、次第にガスの臭いが充満し始めた。
佐天はスイッチから手を離した。
佐天「そんな……水もガスも使えなかったら…料理も作れないしトイレも出来ないよ…」
彼女が途方に暮れていると、追い討ちをかけるように部屋の電気が消えた。
佐天「え?」
佐天「何で消えたの?」
壁についてあったスイッチを押すも、電気は点かない。
佐天「最先端の技術を取り入れてる学園都市なのに…」
佐天「そっか。いくら自動に頼ってることがほとんどでも、本来ならどこかで人間が制御してる部分があるんだ…」
パチパチパチ、とスイッチのon/offを繰り返すが、無駄な徒労だった。
佐天「やめてよ……電気まで消されたら、夜生活できないよ」
佐天「どうしよう……どうしよう……」
佐天「やだ、どうしよう…」
ガスも、水道も、電気も使えない。その事実は、学園都市…それどころか
世界中に佐天以外誰も人間がいないという現実を思い出させるには十分だった。
佐天「こんなんじゃ…生きていけないよ……」
うずくまる佐天。堪っていた悲しみが吐き出されるように、彼女は泣き始めた。
佐天「ぐ……ぐす……どうしよう……うっ……誰か助けて…」
佐天「…誰か……」
佐天「…助けて…」
佐天「誰か助けてええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!」
彼女の叫び声を聞けるのは、地球上に誰一人いなかった。
3日後―。
夜・とある寮―。
もはや部屋に電気が点くことはなく、佐天涙子は蝋燭の灯りを頼りに生活していた。
生活、と言っても文明人らしい生活は屋根のある部屋で過ごしていることだけで、
ガスも電気も水道も使えない、移動手段も徒歩以外皆無の彼女はここ3日間、一日中
ずっとベッドにくるまっていた。やることと言えば、寝るか、外にトイレに行くか、食べることのみ…。
佐天「蝋燭の火…ちょっと小さいな」
今も佐天はベッドの中でくるまり動かずにいた。
床には空っぽになったインスタントラーメンのカップが散らかっていた。
佐天「もう…行くところないや…スーパーの食べ物はほとんど消費期限が切れてるし…ゲーセンも飽きちゃった…服も買いに行く気しないし…」
佐天「何より…どんだけ歩いても、誰にも会わないんだもん……」
佐天「つまんないや…」
佐天「せめて…初春と上条さんぐらいは残しておくんだったな……」
佐天「……………初春…」
佐天「…そういやこの一週間……人間らしいことしたっけ…?」
佐天「そもそも寝たままの生活って、いつから始まったんだっけ…?」
佐天「私って、確か女子中学生だったよね…。今時の女子中学生って普通、友達と遊びまくって青春を楽しんでるはずじゃないの……?」
視線の先の蝋燭がかすかに揺れる。その動きが部屋に映し出される光の影も揺らす。
佐天の瞳にその現象が映えた。
佐天「今気づいたけど……私って結構……充実した生活送ってたんじゃ………」
佐天「初春と……御坂さんと……白井さんと……ショッピング行ったり……パフェ食べに行ったり……喧嘩したり……仲直りしたり……」
佐天「どこからどう見ても……誰もが羨む……普通の女子中学生じゃん…」
佐天「…………」
佐天「……おかしいな…私のコンプレックスが……消えたと思ったら……私の欲求が……私の願いが……全部叶ったと思ったら……前以上に辛い目に遭ってた……」
佐天「何だそれ……?」
佐天「………結局、何だかんだ言いながら………あの頃の生活が……私にとって……一番だったんじゃ…ないの?」
佐天「馬鹿だな私……」
佐天「ホント…馬鹿だよ…!!」
この3日間で枯れ果てたと思った涙が再び流れ落ちてきた。
その涙に蝋燭の光がきらめく。
――――――――――――――――――――――――――――――
佐天「うーーーーいーーーーはーーーーるーーーーー!!!!!!」
初春「キャーー佐天さん///恥ずかしいからやめてくださーい!!」
佐天「わっはっは、今日は白かぁ」
初春「もう!!///」
白井「あらあらまあ。佐天さんにも困ったものですわね」
御坂「いや、あんたそれ言える立場じゃないでしょ?」
白井「何を仰いますのお姉さま!!!私のお姉さまへの愛は純愛ですのよー!!」
御坂「どこが純愛じゃあああああああ」ビリビリッ
白井「あん。愛の鞭気持ちいいですわーん」
佐天「あっはっは仲が宜しいことで」
御坂「そう?いくらなんでも佐天さんと初春さんには叶わないわよ」
佐天「だってさ初春。私たち両想いだね」
初春「んもう佐天さんったら」
佐天「えへへ」
初春「ふふふ」
――――――――――――――――――――――――――――――
佐天「御坂さぁぁぁん!!!白井さあぁぁあん!!!……初春ぅうううぅ!!!」
佐天「会いたいよおおおおお。会いたいよおおおおおおお。戻って来てよぉおおおおお」
悲しみに暮れる中、佐天はポケットからボタンを取り出した。
佐天「………ひぐっ…」
佐天「ぐす……全部の人間を消した時……グス…もう使わないと思ったけど…ヒッグ……最後に一回だけ…使おう……それで終わりに……グスッ……するんだ…ヒグッ」
佐天「うわぁぁああああああああぁぁぁぁぁあああぁぁぁん!!!!!」
隙間風によって蝋燭の火がフッと消える。
しかし、佐天の泣き声は一晩中止むことはなかった。
翌日・とある公園―。
地球上から全ての生物が消えてから既に1週間が経過していた。
全人類が消えた世界はどこも静かで、空しかった。
佐天「…………」
そこに、地球最後の人間―佐天涙子はいた。
所々汚れ、破れたセーラー服を着、目は充血していた。彼女にはもう、生気が微塵たりともなかった。
佐天「これで全て終わらせるんだ……」
彼女の手元には、あのボタンが握られていた。
佐天「……みんなは許してくれるか分からないけど……これが私が出来る…責任の執り方……」
佐天「…いよいよ…最期の時か……これで……私が消えることで……人類の歴史も終わるんだね……」
佐天「始めるか……」
ボタンの蓋を開ける佐天。
しかし…。
佐天「何してるの……自分の名前を叫ぶだけじゃない……」
佐天「どうして……」
恐怖からか、佐天の手は震え、自分の名前を口にすることが出来ない。彼女はその場にうずくまった。
佐天「……私ったら……卑怯だよね。他のみんなは消せたのに……いざ…自分になると出来ないなんて」
佐天「恐い……恐いよ……」
佐天「押せない……」
自分の名前を叫び、ボタンを押した瞬間、自分の存在は消える。
何秒後か、何分後か、何時間後かは定かでは無かったが、その時には既に
自分という人間が消えるという現実を想像すると、恐くて手が動かなかったのだ。
佐天「恐い…恐いよ…でも…このままずっと…一人で生きるのも嫌だ……」
佐天「…何で…こんなことに…なったのかな?」
佐天「誰か…助けてよ……辛いよ……」
弁解するように佐天は呟き続ける。が、そうしてる間にも時間はただ過ぎて行く…。
佐天「…でも…終わりにしなきゃ…ならない…」キッ
彼女は両手に収まっているボタンを見据えた。
佐天「初春…今、そっちに行くからね…そっちでも……出来たら…仲良くしてね」
佐天「よし…」
立ち上がる佐天。彼女は息を吸い込んだ。
佐天「スゥー……」
深呼吸を終える。
そして…。
佐天「 佐 天 涙 子 、 消 え ろ 」
ピッ
彼女の場合、消失までの手順は例外だった。一瞬で消えることはなかったのだ。
目を開いた彼女がまず違和感を覚えたのは、両足だった。
佐天「……私の両足が…下から…消えていく…?」
見ると、徐々に侵食していくように佐天の足がゆっくりと下から消えつつある。
佐天「どんどん…上に向かって……」
佐天「そっか……私の場合…すぐには消えないんだね……」
佐天「……罰として…最後まで恐怖を味わうためかな…?」
そうこう言っている間にも、消失の侵食は続く。
ふくらはぎから膝へ、膝から腰へ。
佐天「何だかもう……怖くないや……だけど…ただ、悲しいな……」
既に、お腹から下は完全に消失していた。しかし、彼女の涙は止まらなかった。
佐天「……私が間違ってたよ……レベルだとか…能力とか…関係無しに、御坂さんは…白井さんは……そして初春は私と友達でいてくれた……」
佐天「なのに……一人、勘違いして…暴走して……迷惑かけて…挙げ句……消しちゃって…」
佐天「馬鹿だよね私…みんなと友達でいれた……それだけで、十分幸せだったのに……本当に馬鹿…」
既に消失の侵食は胸にまで至り、佐天涙子が存在するための時間も残り僅かだった。
佐天「ごめん…」
佐天「ごめんね……」
佐天「御坂さん…」
佐天「白井さん…」
佐天「………ういはるぅ……」
「分かったかよ?自分がどれだけ愚かな行為してたってことを」
佐天「………うん…」
「友達同士の絆に、レベルだとか能力だとか関係ないんだよ」
佐天「……そうだよね、言われてみれば…」
「あの3人と親友でいれたこと。それだけでも君は充分に幸せだったんだ」
佐天「……うん……」
佐天「…………」
佐天「………えっ!?」
「なら…」
「 そ の 幻 想 を ぶ ち 殺 す 」
振り返る佐天。
上条「よっ!久しぶり佐天さん」ニコッ
そこには、あの冴えない高校生―上条当麻が笑顔で立っていた。
佐天「………上条さん…?」
上条「ああ、世界一不幸な高校生、上条さんとは俺のことですよ♪」
佐天「……何これ…夢?…幻?……走馬灯?」
上条「いやーそこまで存在感薄いですかね俺って?」
佐天「そうだ!!私消えてる最中で……」
咄嗟に自分の胸元を見る佐天。
が、そこには確かに身体があり、両足もしっかりと地に足がついていた。
佐天「…あれ…何で?何で私?消えてないの!?」
トントン
肩を叩かれ振り返る佐天。
と、突き出された上条の人差し指が佐天の頬をプニと突いた。
上条「あはは、引っかかったな」
佐天「………上条さん、一体これって…」
上条「肩だよ肩」
佐天「肩?」
上条「ああ、さっきから俺がずっと右手を乗せてるだろ?気付いてなかったか?」
佐天「………?」
確かに、上条に再び会えた衝撃で気付いていなかったが、上条の右手はずっと肩に置かれていたようだ。しかし、それがどういう意味かまでは分からなかった。
上条「そのボタンさ…」
佐天「え?はい…」
ふと手元にあったボタンを見る佐天。
上条「元々は学園都市上層部の独裁や暴走を防ぐために作られたんだ。要するに、懲らしめるためのね」
上条「だけど完成した途端、上層部に勘付かれて計画はおじゃん。反対派の連中は左遷されるか学園都市から追放されちまった」
上条「で、残ったそいつだけが都市伝説になって密かに学園都市の住人に受け継がれてたのさ」
佐天「………じゃあ、消えた人は戻ってくるんですか?」
上条「当たり前だろ?学園都市の科学技術を舐めんなよ」
佐天「…!! でも…どうやって?」
上条「ボタンを連続で3回押せばリセット出来るが、そんな面倒臭いことしなくとも俺の右手で…」
そう言って、ボタンを佐天から奪う上条。ボタンを右手に握り腕を空中に突き出す。
上条「その幻想をぶち殺す!!!」
茫然とその様子を見ていた佐天だったが、ふと周囲の様子がおかしいことに気付いた。
誰もいなかった空間に人間が突如、現われ始めたのだ。
佐天「え?」
学生たちが次々と、公園のあちこちに出現する。と、同時に話し声も聞こえてきた。
上条「やっぱりな。ほら、見たろ?」
上条「それから今回の件については佐天さんに悪いことしたな。きっと、恨まれるだけじゃ済まないだろう…」
上条「もし良かったら、気の済むまで殴って…って、おっと!」
もはや上条の言葉は意識の外だったのか、佐天は突然走り始めていた。
上条「やれやれ」
公園を出る佐天。
そこには、学園都市の住人たちが、そこここで話し、歩き、動いていた。
道路には車が走り、路地裏には野良猫の影。電光掲示板には文字が流れ、
空には飛行船が浮いている。明らかに、街は活気を取り戻していた。
そして、そこには佐天が知る学園都市が存在していた。
言葉を失い、立ちすくむ佐天。
何人かの学生は、ボロボロのセーター服姿で無言で立つ彼女を奇異の目で見ている。
佐天「………戻ったの?」
上条「ああ、全て元通りさ」
振り返ると、そこに上条がいた。
佐天「何もかも…?」
上条「ああ、何もかもだ」
佐天「私が消した人も全員?」
上条「もちろん」
佐天「御坂さんも?」
上条「ああ、ビリビリも」
佐天「白井さんは?」
上条「当然」
佐天「……じゃあ、初春は?」
上条「戻ってるに決まってるだろ」ニコッ
それを聞いた途端、止まっていた涙が再び佐天の目から溢れ始めた。
安堵と、喜びの感情が胸の奥から湧き起こり、目の前にいる上条の
笑顔が、久しぶりに人間の暖かみを感じさせるような、そんな感覚を覚えさせた。
佐天「ありがとう!上条さん!!」
ガバッ
急に上条に抱きつく佐天。
上条「おおおおおいいいいいい…さ、佐天さん?」
上条「(や、柔らかいものが……柔らかいものが当たってる……///)」
佐天「私…とても寂しかった…とても怖かったの…」
上条に抱きつきながら、佐天は言葉を紡ぐ。
彼女の目からは涙が溢れていたが、口元には笑みが零れていた。
上条「あ、ああ。そうか…辛かったな…」
学生「ピュー見ろよあれ!」
学生「真っ昼間から道のど真ん中で」
学生「お熱いこって!!」
上条「あははは…」
佐天「何より…初春たちを自分の手で消したことが怖かった……思い出すたび怖くて怖くて…」
上条「う、うんそうだよね…(人に見られてるぞおい)」
佐天「…今回のことで分かったよ…もう、私…馬鹿な真似はしないって……これからはうじうじせずに前向きに生きてくから…」
上条「ああ…ああ」
佐天「初春と、御坂さんと、白井さんと一緒に、これからもずっと仲良くやってくから…」
上条「そうだな、それがいい(いつまでこの体勢でいるんだ?)」
佐天「ふぇぇぇぇえええん上条さぁああああああん!!!!!」
胸の中で大泣きする佐天を取り合えず左腕で抱き締め、右手でその頭を撫でる上条。
上条「よしよし。もう終わったからな。安心しなさい」ナデナデナデ
学生「ピューピュー」
学生「憎いねこの女泣かせが!」
学生「面白そうだし写メ撮っとこうゼ!」
学生「お、あいつ有名なフラグメイカーじゃん」
学生「また女連れてやがるぜぎゃはははは」
学生「リア充シネヨ」
佐天「うぇぇぇぇえええん」
周囲に群がる野次馬に気付いていないのか、佐天は上条の胸で泣き続けた。
一方、上条は動こうにも動けずにいる状況にしどろもどろしていた。
上条「……幸せ…なのか…?」
第4部・終わり
とある川の橋にて。
夕焼けが学園都市の一角に沈みつつある中、佐天は眼下に見える川を眺めていた。
その手には、さんざん佐天を苦しめたボタンとその説明書が入った無地の箱が握り締められていた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
上条「そのボタンは、前の人から受け継いだ人が、敢えて大事な部分は説明せずに次の人に譲渡してきたんだ」
上条「つまり、説明してネタバレするとその人間は本物の孤独の恐怖を味わわない上に反省しないからな」
上条「まあそれで、ボタンを譲渡された人間は欲にかられ、次々と人間を消していくジレンマに陥るんだよ」
上条「そうやって、孤独の苦しみを味わった人間が、次に譲渡すべき人間を決めるんだ」
上条「俺で何人目になるのか分からないけど、そういった流れが最初からあるのは事実だ」
佐天「でも、例え孤独の体験をした後でも悪用しちゃう人がこれから出てこない、とは限りませんよね?」
上条「まあな…だからなるべく俺がずっと保管しとこうと思ったんだけど」
佐天「じゃあ…ここでその流れを断ち切るのも一つの手じゃありませんか?」
上条「と、言うと?」
佐天「私なりに処分させてもらいます。それでは駄目でしょうか?」
上条「いや…それは別に構わないけど、一人で大丈夫か?」
佐天「ええ、もう、悩むことはありませんから」
上条「そっか。なら、佐天さんに任せるよ」
佐天「因みに…」
上条「?」
佐天「これ持ってたってことは、上条さんも一度使ったことがあるってことですか?」
上条「………かもね」
佐天「やっぱり、上条さんもレベル0の自分にコンプレックス感じて?」
上条「さあ、それはどうかなー」
佐天「ブー上条さんのいけずー」
上条「ははは」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
佐天「私の中にあるコンプレックス・・・か。………さよなら!!!」
箱を放り投げる佐天。
重力に従い箱は落下していき、やがて着水した。
箱が深い川底に沈んでいくのを、彼女はいつまでも見ていた。
佐天「さて・・・と!」
佐天「行きますか!」
とある寮―。
ピンポーン!
チャイムが鳴り響く。
ピンポーン!
「誰だろ?こんな夜中に…」
ドアを開け辺りを見回すものの誰もいない。と、油断している彼女に後ろから迫る姿があった。
「うーーーーーーーいーーーーーーーはーーーーーーーーるーーーーーーーー!!!!!!!」
バサアッ
初春「…へ?」
初春「きゃぁぁぁぁあああああ/////佐天さん!!!!!」
佐天「えっへっへ、縞パンゲットオオオオオオオ!!!!!」
初春「んもう!!!ビックリするじゃないですか!!///」
佐天「ごめんごめーん!」
初春「こんな時間に一体どうしたんです?」
佐天「うん…ちょっと顔見たくなっただけなんだ…」
初春「顔って…毎日見てるじゃないですか」
佐天「うん…そうなんだけどさ…何だか、2週間ぐらい初春の顔見てなかった気がするから……」
初春「おかしな佐天さんですね。クス」
ガバッ
初春「え?え?佐天さん?」
突如、初春を抱き締める佐天。
初春「ちょ…///恥ずかしいじゃないですか///」
佐天「……初春だよね…?」
初春「へ?」
佐天「私が知ってる…初春飾利だよね……」
初春「???」
初春「そうですけど」
佐天「ジャッジメントで、レベル1で、いつも頭からお花生えてる」
初春「その通りですけど…これは生えてません!!」
佐天「それで…とっても優しくて友達思いの可愛い女の子……」
初春「……え…それは…どうでしょう…って言うか照れるじゃないですか///」
佐天「うん、初春だ…いつもの初春だ」
佐天「初春の温かさだこれは…」
初春「どうしたんですか佐天さん一体?」
初春「………もしかして…泣いてるんですか?」
肩に顔をうずめた佐天を見、初春は質した。
初春「何か…あったんですか?もし、何かあったなら言ってください」
初春「私たち、親友なんですから」
佐天「…ありがとう…ありがとう初春…」
佐天「でもね、今はこうしてるだけで……初春と一緒にいられるだけで……十分だから」
佐天「十分だから…」
初春「そうですか…」
初春「分かりました。気の済むまで、私の胸を借りてください」
佐天「初春ぅ…」
佐天涙子、長い長い一日だった。
こうして、彼女の1ヶ月に及ぶ悪夢は終わりを告げた。
そして、いつもの日常が戻ってきた。
学園都市は活気を取り戻し、学生たちの元気な声が溢れ返る。
「なー姉さんー僕かっこいいと思わへん?これから茶でもしようやー」
「キモイから近付くなクズカス!ゴミ!ゴキブリ!死ねや寄生虫!!」
「そんなー殺生なー」
「空気キャラ…じゃない。私もすぐに…人気ナンバー1のヒロインになるから…」
「駄目じゃんそんなんじゃ……学生になめられるじゃん。分かってるじゃん?」
「ごめんなさい。これでも頑張ってるつもりですけど…まだ気合足りませんか?」
「そうじゃん。だから…もっと努力するじゃん」
「ったく…あンのガキィ、どこ行きやがったァ? 見た目が幼女だから油断しちまったなァ…クソッ!見つけたらお尻百叩きだ」
「あーそんなとこにいたんだねー、ってミサカはミサカは迷子になった困ったちゃんを発見してみる!」
「アホか!お前が勝手にいなくなったンだろうがァ!」
「細かいこと言わないの、ってミサカはミサカはなだめてみる」
「こンのガキィ…取り敢えずお尻百叩きだ!!」
「キャー!!イタズラされるー!って、ミサカはミサカは大声で叫んでみたり!」
「バ、馬鹿!!怪しい目で見られてンじゃねェか!!やめろ!!」
佐天は鋼盾に声を掛け、取り敢えずはメアド仲間になることに―。
無論、彼の恋が叶う確率はとてつもなく望み薄なのだが…。
『佐天さん!僕ねハァハァ…この間佐天さんに似たフィギュア買ったんだよ!ハァハァ…今度見せてあげるよ』
『そう、良かったじゃん!でも私としては直接会うよりも写メールの方が手間が掛からなくていいかも』
あんなことがあったからか、彼女は他人との関わりは積極的に増やしているようだった。
内心、引いてはいるようだが。
取り敢えず、今のところ、鋼盾が佐天を襲うような事件は起こっていない…。恐らく、これからも?
そして、念願の喫茶店。佐天は、いつか約束したように再び4人で来れたようである。
黒子「お姉さまぁぁぁん!黒子と交換なさいますぇえん?」
御坂「気持ち悪いのよあんたはいつも!」ビリビリッ
黒子「あん!相も変わらず素晴らしい電撃ですわー」
初春「仲良いですねー」
佐天「ホント、私たちみたいだね♪」
初春「もう、佐天さんったら…」
黒子「そういえば、昨日、あの類人猿…もとい、上条さんにお会いしましたが、伝言を預かってますの」
佐天・初春・御坂「「「どどどどどどんな伝言!!??」」」
黒子「(な…何で3人一緒になってそんなに必死なのでしょう…??)」
黒子「曰く、『この間はありがとう。また暇があったら一緒に食事でもしような。感謝してるぜ!』ですの」
黒子「まったく…黒子を伝言に使うとは…失礼にも程が…って、な、何ですの!!??」
御坂「(あははぁ…当麻が…私と食事したいって…///照れるなもう当麻ったら///)」ボーッ
初春「(上条さん、やっぱり優しい人だなあ///二人だけで行けないかな?///)」ボーッ
佐天「(上条さん…一時は憎かったけど、今は何だかすぐにでも会いたいなあ…てへへ///)」ボーッ
黒子「(まさか!!!3人ともそうなんですの!!??そうなんですの!!?……世も末ですわ…)」
そして、世界一ついてない高校生・上条当麻もまたいつもの日常を取り戻す。
不良「おらぁああああ!!!待てやこんガキィイイイ!!!!」
不良「なめとったら容赦せんぞワレェ!!!」
不良「ぶっ飛ばすぞゴルァ!!!!」
上条「ゼェハァ…べ、別に絡まれてた女の子助けただけじゃねぇか!!」
上条「何でそれだけで追われるんだよチクショー!!!」
不良s「その態度がむかつくんじゃボケエエエエエ!!!!」
上条「不幸だあああああああああああああああ!!!!!!!」
佐天宅―。
窓から見える夜の学園都市を眺める佐天涙子。
佐天「いい景色だなあ……あんなに遠くまで街が光って見える」
佐天「普段は何でもない光景だけど…改めて見れば、どんだけ学園都市に人が住んでいるかがよく分かるね」
佐天「やっぱり、人がいるのといないのとでは全然違うや…」
カーテンを閉め、部屋の電気を消す佐天。そのまま彼女はベッドに潜り込んだ。
佐天「(私は以前と変わらず、いまだレベル0の無能力者だけど…何だか前以上にいつもが楽しいんだよね)」
佐天「(やっぱり、友達がいるからかな…?)」
佐天「(これからは…前向きに生きていかなきゃ…)」
佐天「よおおおおし!!!!明日から頑張るぞおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!」
こうして、佐天涙子のおかしくも、不思議な話は終わりを告げた。。。
おしまい…??
とある日・川原にて―。
「スフィンクス~待つんだよ~ハァハァ」
「まったく、スフィンクスは猫のくせに犬みたいに元気なんだから!」
ニャー
「どうしたの?」
「何か落ちてるの?」
「どれどれ」
ガサゴソ
「ん?何かなこれは?」
「開けてみるんだよ」
パカッ
「何これ?」
「…ボタン?」
おしまい