女「やってしまった・・・・・」
女「やってしまったよ・・・・・」
女「・・・・・・」
女「どうしようか・・・・」
女「・・・・・・・」
元スレ
女「やってしまった・・・」
http://takeshima.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1241105341/
木々に囲まれた林の中で
私は1人呟いた
女「・・・・・・」
女「・・・・まさか」
女「・・・・・」
女「・・・こんなとこで」
女「迷うなんて・・・・」
女「こうなったのも・・・・」
女「あんな事考えたからだ・・・・」
女「・・・・・・」
女「気まぐれで・・・・」
女「・・・・・・・」
事の発端は
さっきの思いつき
発端っていう程、大事ではないけど
休日の昼
そんな時間から塾にいた私は
無事勉強を終えて
家に帰ることにした
私の通っている塾は
家から自転車で数十分くらいの
まぁなんともいえない距離
ちなみにこの塾を選んだのは
他に近場の塾が無かったからで
別に有名なとこだからとかで選んだわけじゃないわけで
そんでもって
問題はそこじゃないわけで
塾 帰り道途中
女「はぁ・・・・」
女「なんで休みの昼から塾に行かなきゃ・・・・」
自転車をこいでいた私は
女「でも帰ったらどうしよう・・・・」
女「いつもと違って時間もあるし・・・・」
ふと思いついた
女「・・・そうだ」
女「いつもと違う道で帰ってみようかな・・・・・」
時間も有り余っていた私は
普通に帰るのもつまらないと思い
違う道を通ってみる事にした
女「どうせ家に帰っても暇だし・・・・」
女「それにいくらなんでも」
女「迷うなんてないだろうし・・・・」
そう
油断してた
そして今現在
女「・・・・それにしても」
女「ここはどこなんだろう・・・」
女「見たことも無い場所だよ・・・・」
女「・・・まぁいつも通らない道だから当たり前なんだけど」
初の試みを試した私は
案の定迷っていた
まさか迷うなんて思ってなかった
そして
それだけならよかった
だが私は
よりにもよってなぜか
林の中で迷っていた
女「・・・まさか公道だと思ってたあの林道が」
女「まんま林に続いてるなんて・・・・・」
女「周り木ばっかだし・・・・・」
女「足場も悪くて自転車こぎにくい・・・・・」
女「ホントどうしよう・・・・」
女「・・・・・・」
こういうのを方向音痴っていうのかな
自覚がなかった
女「・・・う~ん」
とりあえず辺りを見てはみるが、
やはり何度見ても周りは木ばかり
女「近くに木しか見当たらない・・・・」
どう見ても
やっぱり木ばかり・・・・
女「んん?」
・・・よく見ると
木と木の間から何かが見える
女「なんだろうあれ・・・・」
目を細める
女「あれは・・・・・」
首を左右に動かす
女「・・・・・・・」
女「・・・・家?」
いや
家というにはやけに大きく見える
こんな遠く且つ一部だけ見て
大きいと分かるくらい
女「なんだろうあれ・・・・」
女「なんていうか」
女「館みたいな・・・・」
女「・・・・・・」
私はまたまた
思いついてしまった
女「・・・・どうせだし」
女「見に行ってみようかな・・・・」
焦っているようにこそ見えるけど
正直さほど危機感は無かった
いくら林に迷ったとしても
まだまだ明るい昼間の時間
それに
いざとなればなんとかなるだろう
その程度くらいしか思ってなかったはず
だからこそ
私は好奇心に負けたんだと思う
女「・・・・・・」
女「凄い・・・」
私は
好奇心の元に着いた
これは・・・・
女「これは・・・・」
女「洋館、かな・・・・?」
林の中で私が見つけたのは
洋館らしき建物
周りの木々に負けないほどの
大きさと存在感がある建物
女「凄い・・・・」
改めて呆然とする
女「・・・・あれ」
私は洋館の前に
看板らしき物を見つけた
女「これは」
女「洋館の看板・・・?」
書かれている文字を見た
女「えっと・・・・」
女「・・・・『図書館』?」
女「これ・・・・」
女「図書館、なんだ・・・・・」
そうはとても見えない
でも図書館なら
女「・・・・・・」
女「・・・・入りたい」
女「もの凄く入りたい・・・・」
無類の本好きの私にとっては
とても興味を惹かれる
図書館に見えない外見
こんな林の中に孤立している建物
むちゃくっちゃ惹かれる
女「・・・・如何わしい店とかじゃないよね」
女「よし、入ろう」
女「入ってしまおう」
洋館の前まで近づいてみた
扉まで大きい
女「ノックとかは・・・いらないよね」
女「一応図書館なんだし」
ガチャ
私は迷子の事を少し気にかけながらも
ほとんどの意識を洋館に向けて
中に入った
洋館 中
女「うわぁ・・・・・・・」
女「やっぱり広い・・・・・」
女「しかも・・・・・」
女「本がいっぱい・・・・」
女「でも・・・・」
女「やけに暗い・・・・・・」
日中の真昼間とは思えないほど
光の入らない洋館
けれど
それは決して陰湿な暗さではなく
独特な静けさという感じ
なにより
暗くても分かる空気の広さは
幻想的な何かがある
暗くて奥のほうこそ見えないが
とにかくたくさんの本棚と
その本棚にしきつめられた本達
それらはしっかり確認できる
そして確認した時には
女「最近の図書館って小綺麗な感じがあったけど・・・・」
女「なんかここは変わってるなぁ・・・・・・」
私はとっくに
本達と洋館の虜になっていた
「・・・・お客様ですか?」
虜になっていた私の耳に
声が聞こえた
女「?」
声は
暗い奥のほうから聞こえる
「ああ、失敬失敬」
「今そちらに行きますんで」
奥から出てきたのは
スーツとネクタイを見事に着こなす
紳士みたいなおじいさん
女「もしかして」
女「ここの管理人の方ですか?」
管理人「ええ、その通りです」
管理人「私、ここの本の管理をしております」
女「そうでしたか・・・・」
女「すいません、勝手に入っちゃって・・・・」
女「料金とかっていくらですか?」
女「もし足りなかったら家に取りに帰りますんで・・・・」
管理人「いえいえ」
管理人「お金取りませんよ」
女「え?」
管理人「私」
管理人「正直、本の為になる物以外はさほど興味が無いんですよ」
管理人「かといってお金で本を買うというのも好きではなくて」
女「い、いいんですか?」
管理人「ええ」
まさか
タダでこんなにもたくさんの本を・・・・
罪悪感すら感じる・・・
でも
女「・・・・じゃあ」
女「お言葉に甘えて・・・・」
またしても
好奇心と使命感に負けた
なんて弱いんだ私は
とりあえず
手身近な本棚の本を取ってみた
記念すべき最初の本のタイトルは
女「『科学者の思い出』・・・・」
女「・・・・・・」
女「凄い面白そう・・・・」
私は
その本を読み始めた
--------------------------
ある所に科学者がいました
その科学者はいつも発明と研究につきっきりでした
家族を顧みる事もせず、ひたすら没頭しました
しかしある日
科学者はある所で、家族の大切さを知りました
そして科学者は
家族思いのいいお父さんになりました
しかし
科学者としての才能は無くなってしまいました
---------------------------
私は本を閉じた
女「ふぅ」
女「読み終わった・・・・」
女「さて次はっと・・・・・」
次の本を取る
今度のタイトルは
女「『記者の思い出』・・・・・」
女「・・・・・・」
女「同じシリーズ物なのかな?」
--------------------------
ある所に記者がいました
その記者は、どんな記事でも書く曲者でした
書かれた他人の気持ちなど知らずに
しかしある日
記者はある所で、心の大切さを知りました
そして記者は
ボランティアをするようになりました
しかし
記者としての才能は無くなってしまいました
----------------------------
私は本を閉じた
女「なんか・・・・」
女「どっちも切ないお話だったなぁ・・・」
管理人「おや」
管理人「もう2冊ですか」
管理人「読み終わるの早いですねぇ」
女「?そうですか?」
管理人「もしかして、本がお好きとか?」
女「・・・・ばれましたか」
管理人「こんな辺鄙なところまで来て下さるくらいですからね」
管理人「きっとそうだと思いましたよ」
女「えへへ・・・・」
管理人「やはり同じ趣向をお持ちの方と出会えると」
管理人「嬉しい物ですね」
女「いえいえ・・・・」
女「管理人さんには敵いませんよ・・・・」
管理人「そうだ」
管理人「最近入った新しい本があるんですよ」
女「そうなんですか?」
管理人「はい」
管理人「ぜひとも同士のアナタにも」
そう言って管理人さんは
さっきワタシが本を取った場所の
近くの本を取りだした
そしてその手のまま
私は本を差し出された
女「これですか?」
管理人「はい」
管理人「別に無理して読んでくださらなくても大丈夫ですよ」
女「いえ」
女「せっかく勧めてくださったんですし」
女「ありがたく読ませていただきますよ」
私は
本を開いた
その刹那
突然閃光が襲った
私は
本に吸い込まれたような気がした
壁も何もない空間
今多分
そんなところにいる
奥行きも隔たりもないばかりか
私はどこにも足を置いていない
なのに私は落ちることも無く
一定の位置を保っている
女「なに・・・・これ・・・・?」
女「さっきの図書館は・・・・?」
女「ここはどこ・・・・・?」
女「なんで・・・・・?」
女「何があったの・・・・・?」
女「私はどうなったの・・・・・?」
管理人「・・・・ぶですか?!」
管理人「大丈夫ですか?!」
女「え・・・・?」
気付いたら
私は長椅子に横になっていた
管理人「ああ良かった!目覚めた!」
管理人「びっくりしましたよ、急に倒れるもんですから」
女「あれ・・・・・」
管理人さんによると
どうやら私は
本を開いた瞬間に気を失ったらしい
なんでだろう
女「じゃああれは・・・・」
女「夢、かぁ・・・・・・」
管理人「大丈夫ですか?立てます?」
女「はい大丈夫です・・・」
女「なんとか・・・」
まだ少しクラクラする
管理人「・・・まだその様子だと」
管理人「ちょっときつそうですね」
女「ごめんなさい・・・・」
管理人「親御さんに迎えに来てもらった方がよさそうですね」
管理人「電話しますので電話番号教えてもらえます?」
女「はい・・・・」
女「電話番号は・・・」
女「・・・・・・」
あれ
女「・・・えーっと」
おかしい
女「・・・・・・」
女「・・・・いくつだっけ」
電話番号が出てこない
女「すいません・・・」
女「電話番号が頭に出てこなくて・・・・」
管理人「無理も無いですよその様子じゃあ」
管理人「きっとショックでド忘れちゃったんでしょう」
管理人「とりあえず」
管理人「鞄の中見せてもらってもいいですか?」
管理人「多分何かしらに電話番号が書いてあると思うので」
女「お願いします・・・」
その後なんとか番号も分かり
管理人さんに電話してもらった
管理人さんが
親に電話で場所の説明やらしている時も
私は
電話番号を思い出せなかった
管理人さんに教えてもらえば
済む話だったのだが
バタン
扉を開く音
母「女!大丈夫?!」
1人の女性が
飛び込んできた
管理人「この方がお母さんですか?」
女「・・・・・・」
管理人「まだ喋るのは少し厳しいですか・・・」
管理人さんは
女性に事情を説明した
管理人「先ほどよりは落ち着きましたが・・・」
管理人「まだつらそうですね・・・」
母「・・・そうですか」
母「本当にすいませんご迷惑をおかけして」
管理人「いえいえ」
母「女、立てる?」
女「・・・・・・」
管理人「私が外まで肩を貸しますよ」
肩を貸してもらった私は
なんとか外まで連れていってもらい
女性が乗ってきたらしい車に乗り込んだ
母「どうもありがとうございました」
管理人「いえいえ」
管理人「一応病院に行ったほうがいいかもしれません」
管理人「それではお大事に」
女性は軽く会釈をすると
車を走らせた
車の中
母「女、大丈夫?」
女「・・・・・はい」
女「なんとか・・・」
母「良かったぁ」
母「いきなり知らない人から倒れたって電話が来て」
母「お母さん焦っちゃったわよ」
女「・・・・・・」
母「でもその様子なら」
母「病院に行かなくても大丈夫そうね」
女性は
車の進行方向を変えた
女「・・・・・・」
女「あの・・・・」
母「どうしたの?」
母「そういえば今日はやけに他人行儀だけど」
女「その・・・・・」
女「一つ・・・・・」
女「聞いてもいいですか・・・・?」
私は
恐る恐る聞いた
母「あれ」
母「やっぱりまだ体調悪い?」
女「いや・・・・」
女「そうじゃないんですが・・・・」
女「あなたは・・・・・」
女「どなたですか?」
私は不思議だった
なんでこの女性が迎えに来たのか
私のお母さんでもないのに
あれ
そういえば
私のお母さんってどんな人だっけ
顔どころか何もでてこない
やっぱり体調が悪いせいだろうか
私がその言葉を告げた瞬間
その女性は目を見開き
唇を少しばかり振るわせた後
なぜか急カーブをし
車の進行方向を戻した
病院
その女性は車を駐車場に止め
私を引っ張り出した
女「な、なにを・・・・」
女「もう体調は大分良くなりましたけど・・・・」
母「いいから来なさい!」
何を怒っているのだろうか
私は
何か怒らせるような事をしたのだろうか
それから私は
名も知らない女性に手を引かれ
病院に入った
何度も大丈夫ですと言ったけれど
その女性は聞く耳を持たず
更に
女性の青ざめた顔を見て
私は
随分心配性な人だなぁとか思った
診察室
看護婦さんに呼ばれ
私たちは入った
医者「今日はどうされました?」
母「大変なんです!」
母「娘が・・・娘が・・・・・」
・・・娘?
医者「えっと」
医者「そこにいらっしゃるのが娘さんで?」
・・・え?
母「はい、そうなんです」
母「この子が・・・・・」
母「記憶喪失になっちゃったかもしれないんです」
・・・これって
医者「・・・・事情はよく分かりませんが」
医者「一体どういう経緯で?」
母「はい、実はかくかくじかじかで・・・・」
・・・・もしかして私の話?
医者「なるほど・・・・」
医者「あなたの事をまったく覚えてない、と」
どういうこと?
母「はい多分・・・・・」
母「きっとショックで倒れたのも何か関係が・・・・」
まさか
医者「とりあえず検査してみましょうか」
医者「そうすれば恐らく分かります」
母「お願いします・・・・」
涙ぐむ女性
おかしい
他人の為にここまでするどころか
泣くなんて
それに記憶喪失がどうとかって
なにより
車の中でお母さんって言ってた
じゃあもしかしてこの人・・・・
私のお母さんなの?
脳波測定スキャン血液検査etc
全ての検査を終えた私は
診察室に戻った
医者「検査は無事終わりました」
医者「もうすぐ結果がでるでしょう」
母「うう・・・うう・・・・」
まだ泣いている
女「・・・・・・・」
もしも私がこの人の子供だったら
例え覚えていなくても
私はきっと反省しなくてはならない
車の中で
私が告げた一言
『どなたですか?』
あれはきっと
この人を・・・・・・
数分後
検査結果らしき紙を
看護婦さんが届けてきた
医者はそれを受け取り
その内容を見た後
医者「・・・・・・・」
医者「う~ん・・・・・?」
困惑したような
そんな表情を浮かべた
母「どうでしたか・・・?」
自然と眉間に皺が寄る
医者「・・・・・・」
医者「・・・特に」
医者「特に異常は無いですねぇ・・・・・」
母「・・・・・・」
母「・・・・え?」
医者「脳内の伝達神経等に特に傷も見当たりませんし」
医者「血液内にも酸反応は無いですし」
医者「脳の大きさ形等も普通の人と大差ないです」
母「それじゃあ・・・・・」
医者「そうですねぇ」
医者「少なくとも医学的には何の問題もないはずなんですが」
母「そ、そんな・・・・・」
女「・・・・・・」
母「それじゃあ・・・・」
母「治療は・・・・・」
医者「残念ながら」
医者「“病気自体発症してない”という結論に行かざるを得ません」
医者「つまり」
医者「治療のしようが無いという・・・・・」
母「で、でも・・・・」
母「この子は実際に記憶が・・・・」
医者「こう言うのは非常にあれなのですが」
医者「それは、いくらでも説明が出来ます」
医者「例えばそう」
医者「そちらの娘さんが嘘をついていらっしゃるとか」
母「な・・・・」
医者「心苦しい上に申し訳ないのですが」
医者「こちらではそういう判断をせざるをえないんですよ」
母「・・・・・」
結局
入院どころか薬の処方すらしてもらえず
そのまま帰らされる事になった
女性はまた涙を浮かべながら
そっと
「信じてるからね私は」
そう呟き
私は表情に迷った
その後
病院を後にし
車にしばらく乗り続けた後
母「・・・・・女」
母「着いたよ」
ある場所に到着した
女「ここは・・・・・?」
母「ここはね」
母「あなたが一番長い時間いた場所で」
母「あなたが多分大好きだった場所で」
母「私も大好きな場所で」
母「何よりも最も大切な場所」
女「?」
母「・・・・・・・」
母「・・・おかえり、女」
母「ここがあなたのお家よ」
その女性はそう言った
ここがあなたの家なのよと
女「ここが・・・・・」
まったく思い出せないけど
微かな覚えすらないんだけれど
私は、信じる
女「ここが、私の家」
私のお母さんを
家の中
母「ここがリビングで、こっちが居間」
母「トイレはすぐ横で、個人の部屋は全部2階よ」
母は
家の中を案内してくれた
そして私も
必死に聞いたり見たい
でも
母「・・・・やっぱり思い出せない?」
やっぱり何も
思い出す事はなかった
女「・・・・ごめんなさい」
母「いいのよいいのよそんな」
母「ゆっくり思い出していきましょ」
母は微笑む
凄く薄く
母「それより」
母「今日は早いけどもう寝ましょう」
母「お風呂の入り方とかは分かる?」
コクリ
母「そう、良かった」
母「じゃあ夜ご飯作っとくね」
母「女が大好きだったものいっぱい作るから」
母「それに明日」
母「自転車も取りに行かなきゃね」
女「・・・・・うん」
食後
母「女の部屋はこの中ね」
女「ここが・・・・・」
母「そうそう」
母「あなた昔っから本が大好きでね」
母「部屋の中に多分たくさん本があるから」
母「もし読みたい本とかあったら読んでみるといいかも」
女「・・・・・・」
女「・・・・ありがとうございます」
部屋
女の子の部屋には見えないほどの
たくさんの本
もうこれは
部屋というより書斎に近い
しかもぬいぐるみどころか
可愛いものと印象を受けるものが何も無い
女「・・・・私って」
女「変わってたんだなぁ・・・・・」
女「まぁ本好きの私なら分からなくもないけど」
女「あれ」
女「でも何で私、自分が本好きって事は覚えてるんだろう」
女「記憶喪失って」
女「そういう記憶は残るのかな・・・」
少し不思議に思う
何故か私は、所々覚えている事がある
本好きな事とか
自転車をあの図書館に忘れた事とか
女「・・・・・・う~ん」
女「とりあえず」
女「もう寝させてもらおう・・・・」
私は端にあるベッドに入った
女「なんか・・・」
女「人の部屋で寝てるみたい」
スヤスヤ
翌日
お母さんと私は
出かける支度をした
お母さんは仕事を休み
私も学校はしばらく休む事になったらしい
学校の事も何も覚えていないけど
母「じゃあまずは」
母「自転車を取りに行きましょ」
女「歩きで・・・・・?」
母「うん」
母「ついでに町の風景も見て行きたいなって」
母「もちろん女の体調によるけど」
母「まだ歩くのはきつい?」
女「・・・・・いや」
女「大丈夫です」
女「それに」
女「私も自分の町が見てみたいです」
外
私たちは
色んなところを回った
母「ここが公園」
母「あなた昔はここの常連だったのよ」
母「ここがケーキ屋」
母「あなた本だけじゃなくて甘い物も好きだったのよ」
母「あなたの学校や塾は」
母「遠いから今度行きましょうか」
知らない人間から受ける
知らない町の知らない思い出
女「・・・・・・」
何も分からない私は
当然口から言葉なんか出ず
静かに眺めるだけだった
そして、そうしているうちに
何も感じないまま図書館に着いてしまった
自転車は外には無かった
母「あれ・・・・」
母「確か、ここだったわよね?」
私は頷く
母「預かってくれてるのかな・・・?」
母「・・・っていうかやっぱり大きいわね」
母「まるでお屋敷みたい」
母は
私と似たような事を言った
母「まぁとりあえず入りましょうか」
図書館 中
母「やっぱり広い・・・・・」
母「でもこの時間でも薄暗いのね・・・・」
母「この雰囲気タバコが吸いたくなる・・・・」
母「家に置いてきちゃったけど」
管理人「おや」
管理人「あなた方でしたか」
母「あ」
昨日と何一つ変わらない雰囲気
変わらない容姿
母「すいません勝手に入っちゃって」
管理人「いえいえ」
管理人「いつもの事ですよ」
管理人「それより、その後娘さんは・・・?」
母「それが変わらずで・・・・」
母「しかも病院も相手にしてくれなくて・・・」
管理人「そうですか・・・・」
管理人「それはお気の毒に・・・・」
母「それで」
母「とりあえず町を見せながらここまで来たんです」
母「何か思い出してくれるかなって思って」
母「あとついでに自転車も」
管理人「ああ」
管理人「自転車でしたら裏の方に止めてあります」
母「そうですか」
母「ありがとうございます」
やっぱり変だ
町も風景も覚えていないのに
なんで私はこのおじさんを覚えているんだろう
母「ではお邪魔になってしまっても悪いので」
母「帰りますね」
母「自転車の事といい娘の事といい」
母「本当にありがとうございます」
管理人「気にしないで下さい」
管理人「それより」
おじさんは言った
管理人「せっかくですし」
管理人「本を読んでいきませんか?」
母「え?」
管理人「悪くは無い本が揃っている自信はありますよ」
管理人「それに
管理人「娘さんも何かを思い出すかもしれませんし」
母「・・・・・・」
確かにそうだ
娘は多分、この図書館で記憶を失ったらしかった
ならもしかして
ここにいれば何かのきっかけで思い出すかも
母「・・・そうですね」
母「本好きな娘なら、ここは絶好の場所ですし」
母「もしかしたら何か思い出すかも」
母「・・・よろしかったら」
母「しばらくいさせてもらってもよろしいでしょうか?」
管理人「はい、全然大丈夫ですよ」
記憶喪失なのに
ところどころ残る記憶
そして
他にも残っているものがある
それは確か
私が倒れた時の事
母「ところで料金は・・・・?」
管理人「お代はいりません」
管理人「ご自由にどうぞ」
母「え・・・・・?」
母「無料、ですか・・・・?」
管理人「はい」
母「・・・こんなにもたくさんの本があるのに?」
管理人「はいそうですよ」
管理人「私、本の為になるもの以外は興味が沸かないんですよ」
管理人「かといってお金で本を買うのも好きじゃなくて」
母「そうなんですか・・・」
母「それじゃあ」
母「お言葉に甘えて・・・・」
母「女、管理人さんが好きな本読んでいいって」
女「・・・・・・・」
この会話も覚えている
このやりとりは前も聞いた
どういうことなんだろう
記憶が残ってたら
記憶喪失じゃないと思うんだけど
そしてなにより
私が倒れた時
管理人「そうだ」
管理人「新しく入った本があるんですよ」
管理人「この本なんですが」
そう言って管理人さんは
本を差し出してきた
母「これですか?」
母「・・・・・でもなんで私に?」
何故か娘じゃなくて
私に
管理人「いや、娘さんには一回勧めたので」
管理人「それに」
管理人「お母さんもずっと待ってるだけじゃあ暇でしょうから」
母「・・・・・・」
母「・・いいんですか?私まで」
管理人「ええ、どうぞどうぞ」
母「それじゃあ・・・・・」
母「読ませてもらっちゃおうかな・・・・」
母は本を受け取った
完全に思い出した
私は倒れる前に
勧められた一冊の本を開いた
その瞬間に、その本に吸い込まれたような
そんな感じがして
そうして気付けば倒れてて
大体の記憶を失ってた
大声で叫んだ
女「・・・・・だめ」
女「その本を開いちゃだめ!」
そうだ
私があの時読んだ二つの本の話
そのどちらもが
一部の記憶だけ失った人のお話だった
そして私も
一部の記憶は残っている
じゃああの本は
私が開いたあの本は
母が開こうとしたあの本は
『私、本のためになるもの以外興味が無いんですよ』
じゃあ
本の為になるものには興味があるって事?
『こんな辺鄙なところまで』
それは
周りに気づかれない様にしてるって事?
『お金取りませんよ』
なら
別の何かは徴収するってこと・・・・?
私は驚いた
ずっと静かだった娘が
急に大声で叫ぶから
母「ど、どうしたのよ急に・・・」
母「もしかしてこれ読みたかった?」
女「・・・違うの」
女「その本は・・・・・」
女「・・・記憶を奪う本なの!」
管理人「・・・・・・」
母「い、いきなりどうしたのよ・・・・?」
母「よく意味が・・・・・」
女「私・・・・・」
女「私、覚えてる事があるの・・・」
母「覚えてる事?」
女「私も」
女「昨日お母さんと同じ様に本を勧められた」
女「それで」
女「そのとき本に吸い込まれるような感じがして」
女「その後気づいたら記憶が無くなってた」
女「だからきっとその本は・・・・」
母「・・・・・・」
管理人「・・・・・」
彼は無表情のまま
何も言わない
母「でもいくらなんでもそんな話・・・・」
母「それこそ小説じゃないんだから・・・・」
女「・・・・・・」
女「・・・・でも」
女「多分証拠もある」
そう言うと彼女は
いきなり本棚を探り始めた
あの例の2冊の本があった本棚を
管理人「・・・・・・」
彼は口を開かない
女「・・・・・・・」
女「・・・あった!」
女「これ!」
女「この本」
母「これ・・・・?」
娘が差し出した本
タイトルは
母「『女の子の思い出』・・・・・」
女「多分これだと思うんです」
女「読んでみてください」
母「・・・・うん」
何も理解できないながらも
とりあえず本を開いた
--------------------------
ある所に女の子がいました
その女の子はとにかく本が大好きでした
本の事になると他が見えなくなるくらい本好きでした
そんなある日
女の子はある所で、不思議な本を読みました
そして女の子は
その本の素晴らしさに虜になりました
しかし
女の子は、代わりに大事な事を忘れてしまいました
---------------------------
母「あ・・・・あ・・・・・・」
母「これ・・・・・・」
母「このお話・・・・・・」
女「多分」
女「・・・・私のお話」
女「きっとあの本は、開いた人の記憶とか思い出を奪って」
女「そのお話を本にする・・・・とか」
女「だからきっと私は記憶喪失なのに」
女「本の事とかは覚えてた」
女「昨日見た時はこの本は多分無かったですし」
女「今日入荷したにしても」
女「こんな古ぼけてるわけないです」
女「・・・・・・」
女「・・・・・管理人さん」
管理人「・・・・・・」
まだ口を開かない
長い沈黙
広い静寂
その静かさは
洋館の元々の暗さも合わさって
より一層不気味な時間になった
そして
管理人「・・・・・・フフ」
彼は口を開いた
管理人「・・・・素晴らしい」
管理人「実に素晴らしい!」
先ほどとは打って変わっての
響く大声
女「・・・・・・」
管理人「まるでそう!」
管理人「推理小説の犯人役にでもなったみたいに!」
管理人「追い詰められる緊張と興奮」
管理人「たとえ擬似でもこの年で味わえるとは」
管理人「本好きの私にはたまりません」
母「じゃあ・・・・・」
母「本当にそんな事が・・・・・」
管理人「ええそうです」
管理人「まさにその通りですよ」
管理人「そうだ」
管理人「説明も含めまして」
管理人「私のお気に入りの昔話を話しましょうか」
管理人「きっと本好きのあなたなら」
管理人「気に入るはずですよ」
女「・・・・・・」
--------------------------
昔、まだ若い青年がおりました
その青年は無類の本好きで
希少な本があると聞けば、辺境にまで赴く変わり者でした
そんな青年でしたから
当然の如く本の情報や噂には詳しく
本への欲求へ向かう内に
ふと気づけば
図書館を開館できるくらいまで本を持っていました
---------------------------
---------------------------
そんな青年がある日
とても興味をそそられる情報を手にいれました
『人の思い出をお話にする本』
青年はとても惹かれました
その情報を元に長年の苦労を費やし
青年は遂に
その本を手に入れました
そして
青年は、その本を開きました
----------------------------
母「じゃああなたも・・・・・」
管理人「ええ、開いてしまいましたよ」
管理人「おかげで今の私に残っている記憶は」
管理人「この洋館内の本の内容だけ」
管理人「あと、来たお客様を少々くらいですか」
管理人「・・・・でも私は」
管理人「あなたとは違う道を進んだんですよ」
女「違う道・・・・?」
管理人「そう」
管理人「私は昔の記憶を探そうだなんて考えなかった!」
管理人「終わった事などどうでもいい!」
管理人「いやむしろ!」
管理人「足枷が無くなってせいせいしました!」
女「そんな・・・・・」
管理人「あなたにも分かりませんか?」
管理人「何にも邪魔されずに、一つに熱中したいこの気持ちが」
「本好きの、あなたなら」
もしこの人が
冗談で言っているのなら
私はよくそんな悪い冗談が言えるものだと
軽蔑します
もしこの人が
本気で言っているのなら
私はなんでそうなってしまったのかと
憐れみを感じます
そう
つまりは
女「・・・・・分かりません」
女「そんなの、理解できません」
管理人「・・・・・・・」
彼は首を傾げる
管理人「・・・・なぜ」
管理人「なぜなんです?」
管理人「本が好きなのに?」
女「・・・確かに」
女「確かに本は好きです・・・・・」
私の隣に立っている女性
女「でも・・・・・・」
不安でいっぱいだった私を
女「私には・・・・・」
ひたすら引っ張ってくれた女性
笑いかけてくれた
お母さん
女「本よりも」
女「ずっと大事な物があるんです」
言い終えた私は
お母さんに笑いかけた
母「女・・・・・・」
管理人「・・・・そうですか」
管理人「やはり」
管理人「私ほどの本好きは早々いないものですね・・・」
管理人「・・・まぁいいでしょう」
管理人「別に同士がいなくとも、本は読めます」
管理人「それより」
管理人「残念ながら」
管理人「このお話は、ハッピーエンドにはなりえませんよ」
女「・・・・・」
管理人「一旦本になった記憶を取り戻す方法は」
管理人「持ち主の私にも分かりませんからねぇ」
母「・・・・・・」
管理人「それに私がたとえ知っていたとしても」
管理人「私は、円満で解決するお話が大嫌いでしてね」
管理人「都合の良い設定で都合よくみんな幸せ」
管理人「ああそんなのは反吐が出る!」
管理人「真に美しいのは」
管理人「敗北と支配に満ちたバッドエンド!」
管理人「それこそ小説!」
管理人「それこそが本当のお話!」
管理人「あなたの記憶は戻らない!」
管理人「それが現実!」
荒んだ声
引きつった形相
もうそこに紳士のおじさんの面影は無く
ただの狂人にしか見えない
もうこの人は
救いようが無い
本という呪いにかかり
抜け出せなくなった人
そんな彼を救うには
こうするしかない
母「・・・・あなたがおっしゃりたい事は」
母「よく分かりました」
管理人「それはそれは」
管理人「人に理解してもらえるのは嬉しい事です」
管理人「たとえ、それが上辺だけの理解でも」
母「・・・・・・そうですね」
母「きっと、上辺だけの理解でしょうね」
母「なので私は」
母「こういう選択を取ります」
母は
ポケットからライターを取り出した
母が持っているのは
きっとタバコを吸うためのライター
母「タバコは置いてきちゃったけど・・・・」
母「まさか、こんなとこで役に立つなんてね」
彼の顔が
みるみる青ざめる
管理人「な、な、な・・・・・・・」
管理人「な、なにをす、する気ですか・・・?」
母「そんなの決まっています」
母「こうするんです」
母は
手に持っていた本とライターを掲げ
管理人「ま、まさか・・・・・」
管理人「や、やめてくれ・・・・・・」
シュボ
本に火をつけた
母はすぐに本を投げ捨てた
暗い館内を照らす火
本はみるみる燃えて行く
管理人「あああ・・・・・あ・あ・あ・あ・・・・」
管理人「なんてことを・・・・」
彼は
本に近寄った
管理人「早く・・・・消さないと・・・・」
管理人「早く・・・・・」
彼は本に手を伸ばした
すると火は
彼の服に燃え移った
管理人「ひ、ひゃああ・・・・・」
管理人「水・・・・水・・・・・・」
見るからに動揺している
管理人「燃える・・・燃えてしまう・・・!」
管理人「本も・・・・私も・・・・・!」
火の恐怖におびえたのか
はたまた焦りで何も見えていないのか
彼は突如走り回り始めた
そして当たり前のように
火は回りの本にも燃え移り
あんなに暗かった館内に
赤と黄色の照明が
ひたすら点滅を繰り返した
その後私たちは無事に逃げのび
この事は忘れる事にした
後日に人づてに聞いた話だと
あの図書館は一晩中燃え続けたらしく
周りの木々に飛び火してたら
近所まで危なかったと聞いた
それを聞いて少しばかり罪悪感を感じたものの
私達は
ほぼハッピーエンドの結末を喜んだ
とある日
受付「先生」
医者「ん?どうしたんだい?」
受付「実は」
受付「雑誌の記者の方がお見えになっていまして」
医者「ああ、そうだったね」
医者「ちゃんと事前に連絡もらってるから通してもらって」
受付「分かりました」
記者「どうもすいません」
記者「忙しいところをお時間を頂いて」
医者「いえいえ、構いませんよ」
記者「それじゃあさっそく、時間も限られていますので」
記者「実は今度」
記者「ちょっと変わった患者さん特集というのをやろうと思いまして」
医者「ほう」
記者「それで、是非現役のお医者様にお話を聞きたいなと」
記者「そんな考えで赴いた次第です」
記者「もちろん個人情報は聞きませんし書きません」
記者「出来れば程度で結構です」
医者「・・・・・・」
医者「・・・・なるほど」
記者「それで、何かありませんか?」
医者「うーん・・・・・」
医者「あ」
医者「そういえば、この前に記憶喪失の変わった患者さんが・・・・」
それから数十分に及ぶインタビューを終えた私は
帰る記者を見送った
だが
医者「・・・・おかしいなぁ」
首を傾げる
受付「?どうしたのですか?」
医者「いや」
医者「あの記者は敏腕で有名な人だったはずなんだが・・・・」
医者「なんだかあっけなく終わってしまったよ・・・・」
受付「・・・そうなのですか」
頭を掻きながら
メモを取った手帳を見る
記者「・・・・・・」
記者「・・・・だめだ」
記者「こんなんじゃ、話にならない」
そう一言呟くと
記者は
手帳を投げ捨て
どこかに向かって歩いていった
そう
物語は
常に繋がっている
あらぬところから
一本の線を見せながら
そして
その線を辿った先に
何かしらの結末がある
fin


