女「じゃんけん、ぽん」
二人の教室。
男「……俺の勝ちだな」
女「うむ……負けてしまったね」
男「じゃあ帰るぞ」
女「せっかく二人なんだよ?」
男「どういうことだ」
何を考えてたんだよ。
教室に、帰宅部が残る理由なんてない。
せめてなにかの行事でもなきゃ、いる意味なんて全然ないぞ。
女「じゃんけんで勝ったら、なんでも一つ命令できるんだよ?」
男「だから、『帰る』んだ」
女「それはダメだよ。ゲームが終わっちゃうじゃないか」
また、このパターンか。
男「毎日毎日、俺に勝てないお前が悪いんだろ」
ここまで弱いと逆に凄い。
女「確かにそうかもしれない、だけど、それじゃあ君は毎日勝ち逃げじゃないか」
男「命令を聞くゲームなんだからそれでいいんだろうが」
お前に文句を言われる筋合いはない。
女「……仕方ない、今日は帰るよ」
男「今日も、な」
女「ふふ、そうだね」
バッグを持って、教室を後にした。
女「ふむ……」
今日は物思いにふけっている。
男「……」
横目でチラリと見る。
女「ん?」
そのチラリに、タイミング良くこちらをみる。
本当に、一瞬だったのに。
女「どうしたんだい?」
男「別に」
女「ボクに色目をつかうなんて」
使ってない。
女「ふふ、魅力的だったよ」
男「してないだろうが」
女「嘘だね、くずぐっちゃうよ?」
手をワキワキとさせる。
男「意味無いからやめろ」
女「それはどうかな? えいっ!」
俺の脇の下やら、首筋やらを攻めてくる。
女「こちょこちょこちょ」
やめい。
男「……」
俺、効かないから。
女「だいぶ、効いたみたいだね」
効いてねぇよ。
女「ふふっ、参ったか」
なんて爽やかな笑顔だろう。
女「というわけで、ボクの勝ち、命令は……」
男「……」
俺は無言で、やつの脇をつつく。
女「あっ」
こいつは、くすぐりに相当弱い。
男「誰がお前に負けたって?」
女「あはっ、ちょ、ちょっと、ダメだよ」
脇をちょこまかとくすぐる。
やっぱり効いてる。
女「ぼ、ボクは、そこをいじられると……あぁん」
男「!」
思わず手を止める。
男「変な声を出すな」
なんか、変なことしたみたいだろうが。
女「当然の成り行きさ」
どこがだ。
女「ボクは君のテクニックにやられた、一人の被害者である」
さっきのくすぐりのどこがテクニックだ。
男「認めん」
女「判決、半ケツ……」
男「くだらん」
誰でも思いつくようなダジャレで笑ってんじゃねえ。
女「でも、半ケツだよ?」
男「女の子がそういうことを言うもんじゃない」
女「ほほう」
とても嬉しそうに笑って。
女「ボクはおんな、にカテゴリされているのか」
ああ、そうだ。
女「どこで? 胸? 顔? お尻? はたまた脚?」
えっと、だな。
女「も、もしかして……ないから?」
下半身を抑えて、顔を朱に染める。
見た事ねえよ。
男「違う」
女「じゃあ……なんだい? 履いているパンツ? ブラジャー? におい?」
お前、ブラジャーつけてたのか。
一応、パンツも見てないし、ブラジャーも見てないからな。
男「……服装」
女「ふむ」
やつの服装は、制服で、スカートだ。
だから、おんなだ。
女「女装、という可能性は?」
男「そんなやつが学校に通えるか」
女「ふふっ、そうだね」
またつっかかってくるかと思ったが、そんなことはなかった。
女「ボクももっと色んなことを知っていればなぁ」
空を仰いで、そうぼやいた。
男「十分色んなこと知ってるだろ」
女「そうかな?」
ああ。
俺はそう思う。
女「でも、ボクは君を笑わせる術を知らない」
男「……」
その背中は、切なそうだった。
女「ふふっ、帰ろう」
知らぬ間に足を止めていた俺達だったが、やつが歩き始める。
女「!」
そんなやつを、俺が止める。
男「明日も、じゃんけんしようぜ」
女「え?」
男「それでいい、お前は俺を笑わせることができる」
それだけでいい。
女「……そうか」
やつは口に微笑みを浮かべた。
女「ここでお別れだね」
男「おう」
俺とやつの家路分断の道だ。
男「じゃあな」
女「うん」
そう言って、別れる。
女「男」
男「あん?」
女「また、二人の教室で」
男「ああ、二人の教室で」
END

