1 : 以下、名... - 2019/07/06 22:08:41.76 qjfQMCET0 1/14

プロデューサー(以下、P)「うーん、どうしたものか……」

小鳥「お疲れ様ですPさん。どうかされたんですか?」

P「あ、音無さんお疲れ様です。いえ今度まつりと育が出演することになったCMのことで、ちょっとね」

小鳥「あら、美咲ちゃんから聞きましたよ。若い女性向けの整髪スプレーのCMだそうですね。主演はまつりちゃん。まさにターゲット層にピッタリですよね」

小鳥「しかもお姫様に扮したまつりちゃんがスプレーで素敵に変身して、育ちゃん扮する王子様と白馬で月夜に飛び出す――可愛くてロマンチックなCMに仕上がりそうです」

P「はい。音無さんのおっしゃるとおり先方のコンセプトがしっかりしていてやり甲斐のある仕事になりそうなんですが、追加の注文が来まして」

P「商品の公式サイトでスペシャルショートムービーが観られる仕様になるらしく、そこに二人がCMの配役そのままで出演することになったんです」

小鳥「まあ!」

P「さしあたってどんなストーリーにしたいか、出演する二人からも意見が欲しいそうです」

小鳥「二人の意見をストーリーに取り入れるってことですね」

P「そういうことです。ただ、育の方がそれで煮詰まっちゃったようで……張り切ってくれてはいるんですが」

小鳥「それはちょっと心配ですね」

元スレ
【ミリマス】育「王子様になれたら」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1562418521/

2 : 以下、名... - 2019/07/06 22:09:42.40 qjfQMCET0 2/14

――劇場、控え室


「真、ちょうど良いところに! ちょっと助けてくれないかな。アタシらもうヘトヘトでさ」

「歩、ジュリア。どうしたんだい?」

ジュリア「それが、今朝からずっと育に密着取材されてるっていうか、観察されてるっていうか……」

「とにかくアタシらにはもう手に負えないんだよ。時間空いてるなら、少しだけ育に付き合ってもらえないかな」

「育が二人をこんなに困らせちゃうなんて、珍しいな……わかった。ちょっと行ってくるよ。レッスンルームでいいんだよね?」

ジュリア「ああ。頼む」

3 : 以下、名... - 2019/07/06 22:10:28.45 qjfQMCET0 3/14

「うーん……ダンスでエスコートするけど、ちょっぴりドジな王子様……。楽器の演奏でお姫様をとりこにするけど、はずかしがり屋な王子様……」

「やあ育、何やら頑張ってるみたいだね」

「あっ真さん! えっと……わたしね、こんどまつりさんといっしょに出るショートドラマで、王子様の役をやるんだけど…」

「なるほど、育が王子様――」

「それでどんな王子様になりたいか、わたしが自分で決めることになったんだ。もちろんまつりさんがお姫様役だよ」

「面白そうな企画だね。役のイメージはもう決まってる感じかな?」

「うん。わたし、まつりさんみたいなすてきなお姫様をエスコートできる立派な王子様になりたい!」

「だからね、劇場のみんなのかっこいいところをたくさん観察して研究してるんだけど……」

(なるほど。さっき歩やジュリアたちが言ってたのはそういうことか)

「育、ボクに手伝えることがあればなんでも言ってね。力になるよ。なんたってボク、王子様役なら何度も経験してきたからね。ちょっと複雑だけど…」

4 : 以下、名... - 2019/07/06 22:10:59.13 qjfQMCET0 4/14

「真さん、いいの? ありがとう!」

「へへっ。任せてよ」

「それじゃあ、真さんが今までにやったかっこいい人の演技、わたしに全部教えて!」

「ええっ、全部って。それはさすがに無茶じゃないかな」

「おねがい真さん。わたしがなりたい王子様は、まつりさんをぶとう会にむかえにいけるくらいすごい王子様なの」

「まつりに相応しい王子か……なるほど。詳しく聞かせて」

「うん。まつりさんは、だれもが認めるお姫様。そんなまつりさんと尊敬し合える王子様にならなきゃいけないんだから、なんでもできなくっちゃ」

「ダンスでも、歌でも、演奏でも……まつりさんを夢中にさせられる人こそが、まつりさんの王子様だと思うから」

「そっか……うん。育らしい、気持ちのこもった良い目標だと思う」

「ほんと? それじゃあ――」

5 : 以下、名... - 2019/07/06 22:11:28.90 qjfQMCET0 5/14

「大丈夫。ボクが教えなくったって育はもうじゅうぶん王子様になれてるんじゃないかな」

「えっ、どうして?」

「だって、まつりに相応しい王子様になりたいって、一生懸命色んなことを考えて頑張れてるじゃないか。それが育の良いところだってボクは思うな」

「でも、わたし歩さんやジュリアさんみたいに、まつりさんをかっこよくエスコートできたことなんてないよ」

「まつりの王子様になりたいって、真剣な気持ちを持てたなら、それだけで育は立派な王子様だ。きっとまつりだってそう思うはずだよ」

「だけど……」

「だってボクも、こんな風に自分のことを真剣に考えてくれる王子様が迎えに来てくれたら、とっても嬉しいから。正直ちょっとまつりに妬けちゃってるよ」

「?」

「もしボクがお姫様なら、今のありのままの育が演じる王子様に迎えに来てほしい。だから今の育にボクから教えられることは何もないよ」

「でも、わたしわかんないよ。どうして今のわたしがまつりさんにふさわしい王子様だっていえるの?」

「それはぜひまつり本人に聞いてみたらいいよ。頑張ってね、育」

6 : 以下、名... - 2019/07/06 22:12:05.75 qjfQMCET0 6/14

~~回想~~

ジュリア「お前ら、今日はあたしら二人で最高のハーモニーを奏でてやるから覚悟しろよな! いくぜマツ!」ジャカジャーン

まつり「はいほー!」


「ここからはアタシらのダンスバトルをたっぷり楽しんでいってくれよ! まずはアタシから――お次はまつりだ!」

まつり「姫のわんだほー!なステップから、目を離しちゃダメなのですよ♪」


~~~~~~


(……真さんが言ってることって、どういうことなんだろう)

(前に歩さんやジュリアさんとペアのステージに出たときのまつりさん、とってもきらきらしてて、幸せそうだった。まるで王子様と過ごすお姫様みたいに…)

(二人みたいにエスコートできたら、わたしもまつりさんをきらきらにできるのになって思って、いっぱい研究して練習してみたけど……)

(やっぱり、今のわたしじゃ歩さんみたいにはおどれないし、歌も演奏もジュリアさんみたいにはできない)

(こんなんじゃ王子様じゃなくて、王子様のかっこうをしたわたしにしかなれない。そんな演技でお姫様のまつりさんのとなりに立ちたくない!)

(本当にまつりさんと直接お話すれば、わかるのかな。真さんが今のわたしを立派な王子様だと思う理由が…)

7 : 以下、名... - 2019/07/06 22:12:45.37 qjfQMCET0 7/14

まつり「はいほー! 育ちゃん、ドラマのプラン作りは順調なのです?」

「ううん。ぜんぜん。真さんから王子様の演技を教わりたかったんだけど、育はもうじゅうぶん立派な王子様だよって言われちゃって」

まつり「ふむふむ」

「けど、わたしには真さんがそう言う理由がわからなくて…」

「ねぇまつりさん。わたし、まつりさんにふさわしい王子様になりたい。だけど今のままじゃ、まつりさんのすてきなところをぜんぜん伝えられないと思う」

「たとえば真さんが王子様になった方が、きっとまつりさんをもっとすてきなお姫様にできるはずだよ。真さんはかっこいいし、演技の経験もいっぱいあるし…」

「わたしはそういう、まつりさんの王子様としてだれもが納得してくれるようなかっこいい王子様になりたいのに…」

まつり「なるほど。育ちゃんは今回の王子様役に、本当に真剣に取り組んでくれているのですね」

「当たり前だよ。だって責任重大だもん。まつりさんの王子様になるんだよ? こんな大事ですてきな役、ぜったい成功させたいもん」

まつり「育ちゃん、まつりの王子様になるなら、一つだけ覚えておいてほしいことがあるのです。それさえわかれば、育ちゃんはたちまち素敵な王子様なのです」

「ほんと? それってどんなこと? 教えてまつりさん」

まつり「育ちゃんがまつりに相応しい王子様になりたいと思ってくれているのと同じように、まつりも育ちゃん王子に相応しいお姫様になりたいのですよ?」

「……どういうこと?」

8 : 以下、名... - 2019/07/06 22:13:25.18 qjfQMCET0 8/14

まつり「まつりは、育ちゃんだからこその王子様に会いたいのです。ぜひそんな王子様に迎えに来てほしいのです」

「わたしだからこその……」

まつり「どんなにカッコいい俳優さんでもなれない、育ちゃんだけが演じられる王子様。そんな王子様に相応しい姫になれるよう、まつりもぱわほー!に頑張るのです」

「まつりさんが、わたしにふさわしいお姫様になりたい……? わぁ、うれしい! そっか。わたし、大事なことを忘れてたんだ」

「まつり姫は、王子様のわたしを待っててくれてるんだ……。なら王子様は、その気持ちにこたえなきゃダメだよね!」

まつり「育ちゃんだって、お姫様に憧れる一人の女の子……だからきっとわかってくれると信じていたのです」

「待たせちゃってごめんねまつりさん。うん……わたし、わかったよ」

「わたしが――ううん、ぼくが君をすてきな夢の世界につれていってあげる。だからいっしょにがんばろうね、まつり姫!」

まつり「もちろんなのです。では早速打ち合わせをはじめましょー! ナイト様の元へ――Pさんのところへ急ぐのです」

「うん!」

9 : 以下、名... - 2019/07/06 22:14:04.44 qjfQMCET0 9/14

まつり「マジカルスプレーの魔法を受けた私の前に、一人の王子様が現れました」


「やあまつり姫、こんな月夜に一人で星にいのるだけなんて……いったい何をねがっていたの?」

まつり「まあ、白馬の王子様。月と星がこんなに美しく輝く夜だから、あなたと二人で過ごせたらいいなって願っていたの」

「君は、ぼくを待っていてくれたのかい?」

まつり「ええ。そしてあなたは、私の願いに応えてくれた」

「これもきっと何かの縁。さあ、まつり姫。ぼくの手を取って」

まつり「嬉しい。私ね、夢だったの。こんな風に王子様と舞踏会で踊るのが…」

「ぼくには、自分でぶとう会を開くなんて夢のまた夢だけど……君に喜んでほしい気持ちならだれにも負けないよ」

まつり「おませな王子様、今夜は私にどんな夢を見せてくれるのかしら?」

「そうだね。では、この美しい空の下でおどろう。君にとどけたい歌があるんだ」

まつり「私も。あなたに届けたい歌が――いいえ、あなたと二人で歌いたいの。二人だけの、二人にしか歌えない歌を」


まつり「マジカルスプレーで、あなたも王子様と素敵な夢を……」

10 : 以下、名... - 2019/07/06 22:14:38.17 qjfQMCET0 10/14

監督「カット! オーケー! 素晴らしいよ!」

まつり「ありがとうございます!」

監督「いやぁ実に良いものをみせてもらった。私からも礼を言わせてくれ。ありがとう」

まつり「そう言ってもらえると嬉しいのです。ね、育ちゃん」

「うん! そっか……わたし、ちゃんと王子様になれたんだ」

監督「みんなも、二人に大きな拍手を」

スタッフたち「お疲れ様でした!」パチパチパチ…

11 : 以下、名... - 2019/07/06 22:15:28.40 qjfQMCET0 11/14

「まつりさん、わたしを王子様にしてくれてありがとう!」

「わたし演技には自信あったけど、こんな風に王子様役でみんなを幸せな気持ちにできるって思ってなかった。まつりさんのおかげだよ!」

まつり「それは違うのですよ、育ちゃん」

「どうして?」

まつり「今回の育ちゃん王子のベースは、いつもどおりの普段の育ちゃんなのです」

まつり「誰かを幸せしたい、喜んで欲しい、という思いやりの気持ち。そしてそういう立派な人になりたいと頑張れる、一生懸命なところ」

まつり「どちらも育ちゃんらしさであり、同時に白馬の王子様に備わっていてほしい魅力なのです」

まつり「つまり育ちゃんには最初から王子様になれるだけの素質があったのです。どうです?」

「そうなのかな。今までそんな風に考えたことなかったから、ちょっとびっくりかも。もちろん、うれしいほうのびっくりね」

まつり「今回のお仕事のために、歩ちゃんやジュリアちゃん、真ちゃんたちから色んなことを学ぼうとしたこと、みんなのようになりたいとチャレンジしたこと」

まつり「そうやって誰かに憧れて、真っ直ぐに頑張れる育ちゃんのことを、姫は尊敬しているのです。とってもキラキラ輝いて見えるのですよ」

「えへへ。まつりさんにそう言ってもらえると、とってもうれしい!」

「わたし、これからもいっぱい色んなことにチャレンジして、いつかまつりさんみたいなすてきなおとなになれたらいいな」

まつり「育ちゃんならきっとなれるのです。姫も育ちゃんに負けないように、また今日から頑張るのですよ」

「うん! これからもよろしくね、まつりさん!」

12 : 以下、名... - 2019/07/06 22:16:09.89 qjfQMCET0 12/14

――それから数日後


「やぁ歩、ジュリア。まつりと育のショートムービー、もう観たかい?」

「観た観た! すごく良かったよねー。まつりはいつもどおりふわふわでキラキラだったし、育もしっかりサマになってた。なんというか、新しい可能性を見たって感じ?」

ジュリア「ああ。それにしても育のヤツ、あのザ・王子様って台詞をよくサラッと言えるよな。感心したよ。正直あたしは苦手だ。D/Zealのドラマのときを思い出す…」

「確かに、育はああいうの全然恥ずかしがらないよね。ひょっとしたらあの台詞も半分くらいは自分で考えたのかもしれないよ」

「ほんと、将来が楽しみって感じだよね。ところでアタシら、ちゃんと育の役に立てたのかな」

「育にとっては周りのすべてが教科書みたいなものだからね。何かのきっかけでどんな可能性が芽生えるかわからないから、教え甲斐があるよ」

ジュリア「だな。今後の活動次第ではあたしの次の相棒が育、なんてこともあるかもな」

「あるいは次回は育王子とジュリア姫、なんてドラマが作られたりして」

P「おっ、いいな。その企画いただき!」

ジュリア「P!」

13 : 以下、名... - 2019/07/06 22:16:42.34 qjfQMCET0 13/14

ジュリア「おいおい、冗談だよな? そもそもあたしにマツみたいなフリフリのお姫様なんて――」

「だいじょうぶだよジュリアさん。わたしにまかせて! わたしがジュリアさんのこと、世界一のお姫様にしてあげるね!」

「育までいつの間に」

「ほんとに涼しい顔でかっこいい言葉を……世界一のお姫様にしてあげるなんて、くぅ~ボクも言われてみたい! 羨ましいよジュリア!」

ジュリア「いや、育に王子役の才能があるのはわかったよ。けどな、モノには人選ってやつが」

まつり「はいほー! ジュリアちゃん、お姫様役の自信がないのです? ならまつりにおまかせなのです♪ ね?」

「ジュリアさん、お姫様役イヤなの? ならしかたないね。けど気が変わったらいつでも声をかけて。待ってるからね」ニコッ

ジュリア「くぅ……なんて純真なパワーだ。断りづらい……こいつは腹をくくるしかないのか?」

「育! ジュリアがやらないならぜひボクにお姫様役をさせてもらえないかな。もちろん、衣装の監修はまつりにお願いしたい!」

「あ、アタシもちょっと興味出てきたかも……」

P「良かったな育、引っ張りだこだ。頑張ってチャレンジした甲斐があったな」

「うん! これからもわたしに色んなお仕事させてね、Pさん♪」


おしまい

14 : 以下、名... - 2019/07/06 22:17:44.10 qjfQMCET0 14/14

短いですが、読んでくださりありがとうございました。

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