関連
侍「道に迷ったらエルフに捕まっちまってござる」【全編】
翌朝
エルフ「……ん」ピク
エルフ「うーん……」ムクリ
エルフ「やだ、寝ちゃって――あら?」キョロキョロ
エルフ「侍さんがいない……!?」
ガチャッ
メイドエルフ「あ、おはようございますお嬢さ――」
エルフ「侍さんはどこですの!」
メイドエルフ「ああ、お侍様でしたら外の空気を吸いたいと言って――」
エルフ「外ですわね!?」ダッ
メイドエルフ「あ」
バタン――
メイドエルフ「……やっぱゾッコンだわ」
外
ガチャッ
エルフ「侍さん!」
侍「……」
エルフ「あ……」
エルフ(岩の上で、黙想……)
侍「――ふぅ」
エルフ「っ」
侍「どうした。そんなに慌てて」スタッ
エルフ「……」ポロ
侍「は? え、ちょっ」
エルフ「……う」ポロ ポロ
侍「いやいやいや待て待て」
エルフ「――うえぇぇぇぇん!」ガクッ
侍「子供か! いやそうじゃなくてどうした? 何で泣く?」
エルフ「だ、だって、うぅっく、侍さんが」
侍「俺!? な、何かしたか?」
エルフ「あたし、あたしのせいで、ひっく、でもやっと無事で、うぅ、うわあああああん!」
侍「あー……悪かったよ。心配かけた」ナデナデ
エルフ「違うの! 悪いのあたし、なのに……うえぇぇぇ!」ダキッ
侍「よしよし」ナデナデ
侍(あたし?)
数分後
エルフ「ぐす……」
侍「落ち着いたか?」
エルフ「……うん。大丈夫」
侍「悪かったな。まさかそんなに心配かけてたとは思わなかった」
エルフ「あ、あなたは悪くないわよ。あたしが油断してたから」
侍「……さっきも思ったんだが、口調がいつもと違うぞ」
エルフ「へ? あっ!」ハッ
侍「ひょっとして、そっちが素なのか?」
エルフ「……うん」
侍「何でまた口調を変えて」
エルフ「その……笑わない?」
侍「? あ、ああ」
エルフ「子供の頃に読んだ読み物語に出てきた誇り高い姫君の影響、というか、あやかってというか……」カァッ
エルフ「その……物語の中で強い女性として描かれていたから……」
侍「自分もそうなりたかった、か」
エルフ「……」コクン
侍(そんな小さな願掛けでも、試さずにはいられなかったか。それとも、別に何かきっかけが?)
エルフ「その、理由はメイドエルフしか知らないことだから」
侍「わかってる。他言はしないさ」
エルフ「……ありがと」
ガチャッ
???「あ、二人ともこんなところ……に……」
侍「ん?」
エルフ「あら、あなたは」
???「あ、えーと、その……お邪魔してすみませんごゆっくり」バタン――
侍「なんだ?」
エルフ「あ」
エルフ(さ、さっきからずっと抱きついたまま!?)カァッ
侍「なあ」
エルフ「ひゃい!?」バッ
侍「あいつ、誰?」
エルフ「え? あ、ええ。彼は……」
エルフ「……気にしてなかったけど、そういえば誰なのかしら?」
騎士「騎士ですよ! 前に一回会ったことあるじゃないですか!」
エルフ「……?」
侍「……?」
騎士「ほら! 国境での戦のときに!」
エルフ「……ああ」
侍「そう言われればいた……ような気がしないこともないような気がしないでもない」
騎士「それつまり覚えてないってことだよねちくしょー!」
男「あっはっはっはっはっ!」
騎士「あんたが笑うな!」
メイドエルフ「あの、一つよろしいですか?」
男「何かな?」
メイドエルフ「今ふと気になったんですけど。その騎士?様は男様の配下の方と仰られていましたよね」
騎士「あれ、何で私の名前が疑問系になってるんだろう」
メイドエルフ「で、彼は地味ですが隣国の騎士団所属だと。地味ですが」
騎士「地味って二回言った」
メイドエルフ「騎士団所属の方を配下だというあなたは、一体何者ですか?」
エルフ「あ……」
侍「そう言われれば……」
エルフ母「……」
男「ふむ。まあ、そろそろいい頃かな」
エルフ「いい頃?」
男「騎士くん。帰国の準備をしよう」
騎士「あ、はい! よかった、やっと帰れる……」
エルフ「ち、ちょっと! まだ何も答えてないじゃありませんの!」
男「知りたいんなら、君たちも着いてくるといい。口で説明しても、信じてもらえるかわからないし」
侍「着いてこいって、隣国までか?」
メイドエルフ「でも、確か今は……」
男「うん。今は僕たちの国とエルフの国が国境で睨み合っているね」
男「けど大丈夫。ここからほど近くに、エルフ軍の警戒網の穴となっているルートがあるんだ」
エルフ「そこを通れば、安全に隣国まで行けると?」
男「そういうこと。どうする? このまま隠れ続けるのも限界があるでしょ」
エルフ「それは……」
男「強制はしないけどね。ただこのまま残っても、事態は好転しないことは確かだ」
エルフ「……」
男「そして、君もどうするんだい?」
侍「何がだ」
男「おや、淡白な態度。もう腹は決まってる?」
侍「決まってるけど決まってないな」
メイドエルフ「どういうことです?」
侍「こいつが行くのなら俺も行く。その逆もまた然りだ」
エルフ「え……」
侍「ここまで来たら一蓮托生。俺の命は貸してやるから、好きに使え」
エルフ母「侍さん……」
メイドエルフ「お侍様……」
男「ははは。自分の命運をそうもあっさり預けるなんてね。姫君に仕えるナイトのようだ」
侍「ナイトじゃなくてもののふだ。そこ間違えるな」
男「姫君に仕えるってところは否定しないのかい?」
侍「本当の主君は故郷にいるが、まあ、こんなときだからいいだろ」
エルフ(姫と、騎士……じゃなくて、武士?)
エルフ(あたしと、侍さんが……)ドキッ
メイドエルフ「お嬢様、お顔が赤いですよ」
エルフ「そ、そんなことありませんわよ!」
侍「?」
男「で、どうする?」
エルフ「……」
二日後
エルフ「まさかとは思うのですが」
男「うん?」
エルフ「騎士団の警戒網の穴って、このルートのことですの?」
男「ああそうさ。意外だろ」
侍「意外というか、そういえばというか」
エルフ「まさか、あの動物たちの洞窟が隣国にまで繋がっていたなんて……」
男「僕たちあそこであったんだよ? 少し考えたら、僕の国とエルフの国とが繋がっていることは簡単にわかったはずさ」
侍「確かに」
エルフ「不覚ですわ」
侍「しかし、お前はよく隠れ家からここまでの道を一晩で往復できたな」
騎士「誰かのせいで、足腰を妙に鍛えられたおかげですかね」
男「はっはっはっ」
騎士「だからあなたが笑わないでください」
メイドエルフ「それはさておき」
騎士「さておかれた」
メイドエルフ「何故、男様がご主人様をおぶっておられるのです? それは本来わたしの役目なのですが」
エルフ「娘であるわたくしの役目でもあるのですが」
男「何を言う。レディをエスコートするのが紳士のたしなみだよ?」
メイドエルフ「うーん……ですが」
エルフ母「いいのよ。あなたたちはいざというときに両手が塞がっていたら困るでしょう?」
エルフ「それは、まあそうですけれど」
男「その点、僕は足さえ動けばいいんだからね。少数精鋭は適材適所が鉄則だよ」
侍「道理と言えば道理だな」
エルフ「あなたがそう言うのでしたら……」
メイドエルフ(すっかり従順になっちゃって。一理あるのは確かだけど)
男「じゃ、決まり。というわけで、あの洞窟までもう少しだから、厄介払いは任せたよ若人たち」
侍「やれやれ」キンッ
エルフ「え?」
メイドエルフ「お嬢様、囲まれています」ボソッ
エルフ「!」チャキッ
侍「……ざっと三十五人か」
メイドエルフ「でしたら、そちらが正しいと見るべきですね。わたしは三十人までしか読めませんでした」
エルフ「……何ですの、この敗北感」
騎士「ご安心を。読めなかったのは私も一緒です」
エルフ「嬉しくありません」
騎士「あれ、もしかして最後までこんな扱い?」
メイドエルフ「隠れていても無駄です。いるのはわかっていますよ」ジャキジャキッ
刺客たち「……」ザザザザザッ
エルフ「……三人足りない?」
侍「――エルフ!」バッ
エルフ「きゃっ!」ドサッ
ヒュン――
騎士「矢が!」
男「エルフ族の狙撃兵か。こいつは厄介な奴が出てきたもんだ」
侍「噂に聞いた。エルフ族は、本来剣より弓の腕に秀でると」
メイドエルフ「わたしやお嬢様のような例外も多いですけれどね」
エルフ「どこから射てきましたの?」
侍「今のは後ろからだったが、もう移動しただろうな。そいつ以外にもあと二人潜んでる」
騎士「そいつらは私に任せてください! 隠れている相手を見つけるのは得意なんです!」
男「へー、そーなんだー」
騎士「何で棒読みなんですかあなたは! まったく……」ダッ ガサガサガサ
侍「で、姿を現したるは三十二人」
刺客たち「……」
エルフ「前の二人と比べてずいぶんと無口ね」
メイドエルフ「顔を隠していないのは、確実に仕留める自信があるか、正式な命令で動いている――か!」シュッ
ヒュン――カンッ!
エルフ(木々の陰から飛んできた矢をナイフで……)
メイドエルフ「さもなくば、余裕と迂濶の区別も出来ないただの雑魚か、ですね」
刺客たち「……!」
侍(殺気立った)
メイドエルフ(こんな挑発にあっさり乗る程度)
エルフ(ということは)
エルフ「メイドエルフ、何人いける?」
メイドエルフ「ご所望とあらば、全員きれいにお方付けしておきますが」ジャキンッ
侍「なら半分頼む。俺はまださすがに本調子とはいかん」
メイドエルフ「かしこまりました。半分片付けておきます」
エルフ「残り十六人。十人はわたくしが引き受けますわ」
侍「平気か? お前だって足の傷はまだ」
エルフ「さすがにあなたよりは動けましてよ」
侍「そうか。なら任せる」
刺客「……相談は終わりか? ならばそろ――」
メイドエルフ「逝ってらっしゃいませ♪」シュバババババッ
刺客「いやちょっ早っ!?」ザスザスザスザスザスザスッ
ギャー! グワー! アベシ!
刺客「二秒……わずか二秒で十六人の精鋭が全滅だと!?」
エルフ「そんなどこかで聞いたような事言ってると!」ダッ
刺客「ぬおっ!?」
エルフ「はぁっ!」ズバ ザシュッ
ウオワー! ギエー!
刺客「ぬう。落ち着け、焦らずに取り囲んで――」
侍「予想済みなんだよ」
刺客「え?」
ザン ブシュ ザシュ ドサドサドサ
刺客「ば、ばかな! いつの間に仲間たちを!」
侍「戦ですらない小競り合いで、指示を逐一大声で出すリーダーがいるか阿呆」
エルフ「しかも弱すぎです。白眼視は結構ですけど、見くびられるのは心外ですわね」
メイドエルフ「わたしやお侍様はともかく、お嬢様の実力は有名なはずなんですけどねー(評価は不当だけど)」
刺客「え、ええい! 安心するのはまだ早い! こちらにはまだ弓兵が――」ガサッ
騎士「あ、もう倒してきました」
刺客「なんだと!? ていうか誰だ貴様!」
騎士「敵の雑魚からまでそんな扱いですか」
メイドエルフ「あら、意外と良い仕事をなさるのですね」
男「あれでうちの将軍の腹心だからね。実力はそれなりにあるんだよ」
刺客「く、くそ……」
侍「で、お前はどうする。まだ戦うというのなら相手になるが」
男「いや、いくつか聞きたいこともある。ここは生け捕りにしよう」
メイドエルフ「かしこまりました」
刺客「そうはいくか!」ダッ
メイドエルフ「無駄なあがきは見苦しいだけですよー」シュッ ドス
刺客「ぐあ!」ドサ
メイドエルフ「足に当てました。これでもう逃げられませんよ」
男「さすがメイドちゃん。いい腕してるねー」
エルフ母「……」
エルフ「お母様……」
エルフ母「大丈夫よ。心配しないで」
侍(母君は片足が悪いようだが、その原因を想起させる事だったのか?)
男「さて、メイドちゃん。尋問は僕がするから、君は一応手当てしてあげて」
メイドエルフ「よろしいのですか?」
刺客「く……絶対に何も喋らんぞ!」
男「あ、今みたいに反抗的になったらまた刺しちゃっていいから。同じ箇所をね」
刺客「っ!?」ゾワッ
メイドエルフ「は、はい……」
エルフ(え、エグイことを平然と……)
侍(はったり、にしては言葉が不自然に軽い……本気だ)
男「さって。何から聞くとしようか」
男「さしあたって聞きたいことは二つ。一つはどうやってこちらの居場所を突き止めたか」
男「もう一つは、誰が今のエルフの国を牛耳っているか。ま、こっちは確認の意味合いが強いけどね」
刺客「い、言ったはずだ。何も話したりはしないと」
男「おや、声が震えているよ? さっき言ったことがよっぽど恐いのかな」
刺客「だ、誰が貴様ら人間如きに……!」
男「そうかいそうかい。なかなかいい度胸をしているね。メイドちゃん、ナイフ貸して」
メイドエルフ「え?」
男「さっきはああ言ったけど、やっぱりこういうことを女の子にやらせるのは気が引けてね」
メイドエルフ「あ、あの、本気で……?」
男「もちろんさ。あ、もしかして自分のナイフが使われるのは嫌かな?」
メイドエルフ「嫌と言いますか……」
男「なら仕方ない。護身用だけど、自分のを使うかな」スラリ
侍「……おい、今抜いた時刃が紫色に光ってたぞ」
男「あ、やっぱり君は気がついたね。うん、毒を塗ってあるから」
エルフ「ど……!?」
侍「護身用どころか、相手殺る気満々じゃないか」
男「なーに。毒とはいえ、命を奪うほどのものじゃない。精々一ヶ月程度、眠ることすら出来ない高熱と頭痛、嘔吐感と下痢にさいなまれ続けるくらいさ」
エルフ「どんな毒ですの!?」
メイドエルフ「いっそ一思いに殺っちゃった方がまだ気楽ですね……」
刺客「ふ、ふん! そんなデタラメな毒があるか!」
男「じゃあ試してみようか」ドスッ
刺客「え――があああっ!!」ブシュッ
エルフ母「っ!」
エルフ「く……」
メイドエルフ「ほ、本当に刺した……」
侍(さすがにメイドエルフがやった傷は避けたか)
刺客「ぐっ……くそ! 何度刺されようと俺は何も――(グラリ)」
刺客「!?」
男「ほーら、もう効いてきた」
刺客「ぐっ……か……う、げぇっ……!」
男「嘔吐感が先にきたか。よかったねー、麗しき乙女たちの前でいきなり汚物を垂れ流さずに済んで」
刺客「きさ――うげっ……ぐおぇぇぇっ!!」
エルフ「!」
侍(紫……)
メイドエルフ「う……」
侍「お前たちは母君と離れてろ」
エルフ「……そうさせてもらうわ」
メイドエルフ「さすがにキツイです……」
刺客「ぐか……げぇ……」
男「さて、どうする? 正直に話すと約束すれば、すぐにでも解毒と手当てをしてあげるけど」
男「ちなみにこの毒、すぐに解毒薬を飲めば一時間くらいで症状は全快するけど、遅くなると飲んでも一週間は症状が持続するよ」
男「あ、その前に刺した傷が化膿してえらいことになるかもしれないねぇ」
刺客「ぐ……あぇ……」
侍(顔色一つ変えずにえげつないことを平然と。これが……いや、これもこいつの偽らざる顔か)
侍(しかし、これはもう尋問じゃなく拷問だな)
男「さ、どうする? 答えられなきゃ、首を縦に振るだけでもいいよ」
刺客「……ぐがっ」コクコク
侍(選択肢を一つしか提示していなかった。それ以外は許さないということか)
男「わかってくれたようだね。じゃ、これを飲むといい。すさまじくまずいけど、効き目は保障しよう」
刺客「っ」ガバッ グビッ
刺客「ぅごふっ!」
男「まっずいよねそれ。でも苦しみたくなかったら全部飲まなきゃ」
刺客「く……!」グビグビグビ
刺客「うげぇ……!」
男「今度はあまりの不味さに吐き気がするだろうけど我慢だね。戻したら意味ないから」
侍(どちらにしろエグい奴だな)
数時間後
刺客「はぁ……はぁ……」
男「うん。だいぶ落ち着いたようだ。刺した傷も手当てしてあげたし、もうそろそろ話せるかな?」
刺客「あ、ああ」
エルフ(すっかり素直に……)
メイドエルフ(この方の認識、改める必要がありそうだわ)
侍(必要とあらば、どこまでも非情に徹することもできる人間か)
エルフ母(相変わらず厳しい人。他人にも、何より自分にも)
男「さて、まずは最初の質問だ。君たちはどうやってこちらの動向を掴んでいたのかな?」
刺客「……鳥報だ」
エルフ「鳥報?」
刺客「貴様は教えられていなかったな。文字通り、調教した小型の鳥に対象の人相を記憶させ、空から偵察させるのだ」
メイドエルフ「そんなことが?」
侍(やはり、あの時エルフの肩に止まったあの鳥か)
男「鳥も種類によっては、その知能はバカにできないしね。嘘を言っている風でもないし、信用してあげよう」
侍「で、次がある意味本題か」
男「そうだね。今君たちエルフの国を事実上導いているのは誰かな?」
刺客「陛下が貴様らにより崩御なされて後、騎士団司令が総指揮を執られている。もう話すことはないぞ」
男「エルフ王を殺す動機はあの子らには無いんだけどなぁ。まあともかく、やっぱりあの司令が率いているんだね」
エルフ「あの?」
メイドエルフ「まるで知り合いであるかのような口ぶりですね」
男「ん? 何のことかな?」
侍「……」
男「今になって仕掛けてきたということは、あの隠れ家はその鳥にも見つかっていなかったか」
エルフ母「森林でも特に緑が濃い場所を選んだから」
侍「上からでは探しにくかったわけか」
男「よし。知りたかったことは聞けたからいいか」
エルフ「解放するんですの?」
男「どうせすぐにこの国を発つんだ。わざわざトドメを刺す必要もないよね」
エルフ「なら、一つだけ」スッ
刺客「ふん。混血の小娘が何の用――」
――パンッ!
刺客「――っ!」
メイドエルフ「お、お嬢様?」
男「おー、いいビンタだ」
エルフ「……本当ならたくさん、たくさん言いたいことがございますけど」
エルフ「今のは、二度もわたくしの大切な人を傷つけてくれたお礼です。今はそれで勘弁して差し上げます」
メイドエルフ(ご主人様とお侍様のことね……)
刺客「ふん。汚れた混血の一撃など、痛くも痒くもないわ」
メイドエルフ「あなた、このごに及んで――」
侍「そうか。なら」シャンッ――
刺客「……っえ?」ツー
侍「次は首が飛ぶと思え」チャキッ
刺客「ひっ!?」
メイドエルフ(太刀筋どころか抜く瞬間すら見えなかった!?)
男(ほー。あれが居合というやつか)
侍「貴様らの思想そのものにどうこう言うつもりはない」
侍「だが、不必要に他者を貶めんとする発言は、はっきり言って不愉快だ」
侍「特にあいつに関してはな」
エルフ(侍……さん)
侍「……行こう。もうこいつに構う必要は無い」
男「だね。じゃ、あの洞窟を目指そうか」
洞窟
エルフ「また戻ってきましたわね」
侍「そんなに経っていないはずだが、懐かしい気分だ」
エルフ「本当。それに」
熊「……」
兎「……」
リス「……」
メイドエルフ「な、なんかありそうでない組み合わせの動物たちが共生してますね」
エルフ「そうね。みんな元気だった?」
熊「ヴォウ」
騎士「返事した!」
侍「ていうかいたのかお前」
騎士「定期的に発言する必要がありました」
エルフ「あ」
エルフ母「まぁ。精霊が」
メイドエルフ「お嬢様に挨拶されてますね」
エルフ「ふふ。みんなありがとう」
侍「……」
男「ん? 初めて見る純粋な笑顔に見惚れた?」
侍「別に初めてじゃない。精霊にはいつもあんな感じだった」
男(見惚れたってところは否定しないんだ)
エルフ「ここからどう行きますの?」
男「泉があったのは覚えてるかな? あそこを東回りにぐるっと回ると、奥に続く道があるんだ」
侍「そこから隣国に繋がっているわけか」
男「そういうこと」
エルフ「せっかく再会できたばかりだけど、ごめんね。わたくしたち、もう行かなければなりませんの」
熊・兎・リス「」フリフリ
騎士「手と耳と尻尾で!?」
メイドエルフ「か、かわいい……」
エルフ(お持ち帰りできないかしら)
侍「もの欲しそうな顔してないで、さっさと行くぞ」
エルフ「べ、別にそんな顔してませんわよ!」カァッ
一時間後
エルフ母「あれは」
エルフ「外からの光……ということは」
男「そういうこと」
騎士「では、私は先行して将軍に報告してきます!」ダッ
男「あ、こら待ちたまえ……って、行ってしまったか」
エルフ「何か問題でもありまして?」
男「問題というほどでもないんだけどね。もう僕たちの行動バレてるわけだし」
エルフ「は?」
侍「……おい」
男「まぁ君は気づくよねー」
メイドエルフ「どういうことですか?」
男「ま、行ってしばらくすればわかるよ」
外 隣国領内
エルフ「ここが……」
男「そういうこと。ようこそ、僕たちの国へ」
メイドエルフ「エルフの国を出たのは初めてです」
エルフ「わたくしも……」
――ワー!!
エルフ「あら、遠くから何か声が」
侍「……はぁ」
エルフ「どうなさいましたの?」
侍「到着して早々、戦の気配が濃いからついな」
エルフ「戦?」
男「そりゃーそうでしょうよ」
メイドエルフ「それはそうって――あ」
男「言ったでしょ? 僕たちの行動はバレてるって。エルフの司令は、報告を受けてこれ幸いと、ついに戦を仕掛けてきたんだよ。君たちのことを口実にしてね」
ワ―!
エルフ「結構近いですわね」
侍「迂回路は無いのか?」
男「ふーむ。確かに、レディを背負ったまま戦場に出るのは紳士的とは言えないな」
メイドエルフ「それに、人間とエルフ族が一緒にノコノコと出ていったら、両軍から狙われかねません」
男「あ、それは大丈夫。僕がいれば、少なくとも隣国――いや、もうこの国か。ともかくこっちから狙われることはないよ」
エルフ「何故言い切れますの?」
エルフ母「それは――」
男「もうすぐ分かるよ。そのときまでのお楽しみさ」
侍(……まさかとは思うが)
男「さておき、ひとまず目前の森を西に迂回しようか」
男「そのまま進めば、国境の砦の裏手に回れるからね」
メイドエルフ「お味方の中に出られるというわけですね」
男「そういうこと」
エルフ「彼もそちらへ向かったのかしら」
男「どうだろうね。少し迂濶なところが彼の短所だからなぁ」
そのころ
兵士「はあああ!」
エルフ兵「やあああ!」
キン キン ギン――
騎士「……戦場の真っ只中に出てしまったどうしよう今軽装なのに」
エルフ兵「そこの人間、そんな軽装でこの場にいるとは愚かなり! 覚悟!」
騎士「やっぱ狙われるよねちくしょー」
砦 門
男「着いた着いた、と」
メイドエルフ「い、いきなり攻撃されたりしませんよね?」
男「だーいじょぶだーいじょぶ。おーい、見張りやーい」
エルフ「いきなりなんて軽さですの」
見張り「む、何奴か……って、あ、あなたは!」
男「おー、今帰ったよー。門を開けておくれー」
見張り「は、は……しかし、その者たちは」
男「だーいじょぶだーいじょぶ。僕の客人だからみんな」
見張り「はっ! 陛下のお帰りである! 開門! 開もーん!」
エルフ「……は?」
メイドエルフ「今なんて?」
男「ん? 僕が帰ったぞーって伝えただけだよ?」
エルフ「いえそれはわかってますわ。そうではなく」
メイドエルフ「あの見張りさん、今確か、陛下、と言いませんでした?」
男「言ってたね」
エルフ「……ええっと。つまりそれは、あなたが」
国王「うん。僕がこの国の現国王ってことになるね」
エルフ・メイドエルフ「」
国王「ところで、君はあんまり驚かないね」
侍「薄々は感づいていた。ついさっきのことだがな」
国王「さすがと言ったところかな」
エルフ「お、お母様はそのことを?」
エルフ母「ええ。黙っていてごめんなさい」
国王「君が謝ることじゃないさ。僕が言わさずにきたんだから」
エルフ母「でもあなた」
エルフ「……あなた?」
メイドエルフ「あの、またもやもしかして嫌な予感ですか?」
国王「嫌な予感はひどいなぁ」
エルフ「もしかして、初めて会ったときにわたくしの剣のことを大切にしろと言ったのは……」
国王「ああ、そうさ」
エルフ母「その剣はこの人が昔使っていたもの。つまりこの人が……あなたの父親よ」
エルフ「っ!?」
三日後 砦後方陣地
エルフ母「あの子はまだ?」
メイドエルフ「はい。テントに篭られたままです」
エルフ母「そう……」
メイドエルフ「その……正直無理もないかと。いきなり父親が現れて、しかも隣国の王だなんて」
エルフ母「やっぱり、最初から全部話しておくべきだったのかしら……」
メイドエルフ「難しいですね。その場合、お嬢様の境遇に対する恨みの対象がはっきりしてしまうわけですから、性格に問題を生じた可能性が」
エルフ母「……」
メイドエルフ「やめましょう、こんな話」
エルフ母「そうね。侍さんは?」
メイドエルフ「前線に出て戦っています。ただ飯は食べないと」
エルフ母「わかってはいたけど、律儀な方なのね」
メイドエルフ「ご自分を武士だと仰っていましたけど、義即人生って感じです」
戦場
ズバッ バシュッ ザスッ
エルフ兵「ぐわあああ!」
バタバタバタ
侍「弱い」
エルフ兵「くっ、あいつを取り囲め!」
将軍「ふっ。無駄よ――ぬぅん!」ブオーン
エルフ兵「うわ!」
将軍「この程度で怯む者が奴に挑もうとはな」
エルフ兵「くそ、なんだこの二人!?」
将軍「まさかこうして肩を並べることになるとはな」
侍「あの時は想像すらしなかったが」
将軍「それはわしとて同じこと。さて」
将軍「当国髄一たるこの老将と、東国髄一たるこの若武者に挑まんとする者誰ぞある!」
侍「ふっ。覚悟決まりし者からかかってこい!」
エルフ兵「ええい、あの二人を討て! 奴らさえ倒せば我々の勝利だ!」
ワー!
将軍「ぬるいわ!」ブオン
エルフ兵たち「うわああ!」バタバタバタ
侍「遅い!」ザンッ
エルフ兵たち「ぐわああ!」バタバタバタ
侍「まだまだ!」
将軍「次の命知らずは誰か!」
後方テント
エルフ「……」
――出ていけ! 混血!
――うちの子に近付かないで。汚らわしい。
――混血とケガれた女なんかどれだけ金を積まれても診るつもりはないよ。
エルフ「……」
バサッ
国王「少しいいかい?」
エルフ「……」
国王「うーん、まだご機嫌ナナメかな」
エルフ「……別に」
国王「すぐに言わなかったことは、もう何度も謝ったでしょ? そろそろ顔ぐらい見てくれたって――」
エルフ「いつまでわたくしやお母様にそんな顔を見せるつもりですの?」
国王「……手厳しいね、こいつは」
エルフ「……」
国王「でもまあ、それはそうか。君たちをずっと放っておいたのは事実だし」
エルフ「……わたくしとて、あなたの立場というものは理解しています。でも、だからといって」
国王「簡単には割り切れない、か」
エルフ「……」
国王「その点については何も言えない、というか言えた立場じゃないから好きに恨んでくれていい」
国王「ただ僕にも彼女にも、当時ではどうにもできない事情があったことだけは理解してほしい。言い訳にしかならないのはわかっているけどね」
エルフ「……」
国王「ま、納得しろとまでは言わないさ。言いたかったことはそれだけ。邪魔したね」
エルフ「……戦況はどうなんですの」
国王「幸い優勢さ。将軍ももちろんだが、侍くんも負けずに活躍してくれてるおかげでね」
エルフ「そう」
国王「そういうわけだから、ゆっくり自分の気持ちと向き合うといい」
エルフ「……」
国王「じゃ、また後で」バサッ
国王(侍くんが活躍してるってことを当然のように受け止めたか)
国王(……ま、彼なら申し分ないか。あの子らがどういう道を選ぼうともね)
国王「さておき、せっかく優勢なんだし……ここいらで因縁とケリをつけるのも悪くないかな」
砦 軍議室
将軍「攻勢に転ずる、と?」
国王「うん。向こうの中を直に見て解ったけど、白黒はっきりさせないともうこの戦は終わらない」
国王「前は牽制で十分かと思ったけど、甘かった。故にこちらも態度をはっきりさせよう」
侍「つまら、こちらからエルフの国の領土へ攻めこむと」
国王「そういうことさ」
騎士「しかし、何故侍殿がさも当然のようにこの場にいるのでしょう。別に異論は無いのですが」
将軍「客将とはいえ、十分な戦果を上げておるからな」
国王「そういうこと。君たちのおかげで戦術的勝利が積み重なったから、戦略的勝利を得るための決断も容易だったよ」
騎士「将軍と肩を並べて一騎当千を体現してましたからね」
侍「というより、エルフ族ってのはどうも白兵戦があまり得意じゃないように感じたが」
将軍「あの娘のような例外もおるがな。基本的に、エルフ族の主力は弓兵だ」
侍(あの娘、ね。知らないだけか、知っていてわざとそう言っているか)
国王「攻めるに当たって注意すべきはそこだ。侍くんが受けた毒矢のこともある。自然の民だけあって、地の利だけじゃなくそこらの知識も向こうが上をいく」
国王「もっとも、僕自身あの国を少し調べたから、地の利に関してはさほど心配はない。伏兵にだけ気を付ければいい」
国王「弓矢の方は、重装部隊を中心に編制して被害を抑えよう」
将軍「白兵戦はわしと小僧がおれば問題はなかろう」
侍(そう簡単にいけばいいがな)
国王「ま、大雑把にはそれでいいでしょ。細かいことは後で詰めるとして。ときに侍くん」
侍「ん?」
国王「あの子のことで一つ頼みがあるんだけど、いいかな」
侍「あいつのこと?」
一週間後
国王「んじゃ、進軍開始といこうか」
将軍「全軍、前進!」
ザッ ザッ ザッ ザッ
メイドエルフ「間近で見ると中々壮観ですねー。軍団の進軍風景って」
エルフ「そうね」
侍「お前たち、本当についてきて良かったのか?」
メイドエルフ「お嬢様が行くと仰るのなら、メイドとしてお供するのがわたしの勤めですから」
エルフ「……」
侍「私怨で戦うなとは言わない。だが――」
エルフ「大丈夫よ」
侍「?」
エルフ「恨みが無いと言えば、確かに嘘。でも、その原因が誰なのかははっきりしてるから」
侍「……そうか」
メイドエルフ(いつの間にかお侍様にも素で話すようになってるし)
メイドエルフ「恨みと言えば、わたしもたっぷりありますからねぇ。同胞相手とはいえ、容赦無しでいきますよ」
侍「わかった。ならもう何も言うまい」
エルフ「ありがとう」
侍「……」
国境付近 エルフ領内
騎士「案外あっさりエルフの国の領土内に入れましたね」
将軍「ふむ」
国王「こういう場合、むやみに進軍せず慎重に行動するのが罠の被害を抑えるための定石だけど」
エルフ「正解ですわ」
メイドエルフ「精霊が教えてくれてます。前方の森の中に、多数の弓兵が配置されていると」
国王「なるほど。行軍停止しようか」
将軍「全軍、止まれ!」
騎士「全軍、止まれ!」
ザッ ザッ ピタ
国王「さて。このまま進めば弓矢の餌食」
侍「さりとてこのまま止まっていても、向こうから出てきて狙い撃ちということも考えられる」
将軍「以前陛下が通られたという抜け道は越えられないので?」
国王「いやー、さすがにもうばれちゃってるでしょ。ばれちゃってること前提で、昨日までにこちら側の出口を封鎖させたし」
侍「どっちみち使えんか」
騎士「どうしましょう。強攻突破しますか?」
将軍「いくら重装歩兵が主力とはいえ、それはさすがに無謀だな」
エルフ「……」
メイドエルフ「お嬢様?」
エルフ「……一つ、考えがあります」
侍「考え?」
森 エルフ軍
エルフ隊長「むっ。人間共め、こちらの存在を察したのか」
エルフ兵「さっきから森の手前で止まったままですね。如何しましょう」
エルフ隊長「しばらくこのまま待機。進んでくれば予定通り、あのまま動かなければこちらから仕掛け、森の中へと誘いこむ」
エルフ兵「はっ――て、ん?」
エルフ隊長「どうした?」
――チガウヨ
エルフ隊長「む、精霊か?」
――アッチハ、マワリコムツモリ
エルフ兵「回りこむ?」
エルフ隊長「つまり、森を迂回して進むつもりか」
――ヒガシニムカウミタイ
エルフ隊長「東か。感謝するぞ精霊よ。総員を東に向かわせよ。側面から奴らを射抜く」
エルフ兵「しかし」
エルフ隊長「どうした?」
エルフ兵「これまでこちらに協力的ではなかった精霊が、何故急に」
エルフ隊長「精霊は気分屋だ。これまでも今も、たんにそういう気分だっただけだろう」
エルフ兵「そうでしょうか」
エルフ隊長「とにかく、移動だ!」
しばらくして
エルフ隊長「……遅い」
エルフ兵「そろそろ敵の姿が見えてもいい頃ですが……」
エルフ隊長「どういうことだ精霊よ」
――クスクス
エルフ兵「な、なんか笑ってますよ?」
エルフ隊長「真面目に答えてくれ。人間共は今どこにいる」
――オシエテホシイ?
エルフ隊長「ああ。教えてほしい」
――キミタチノウシロニイルヨ
エルフ兵「は?」
エルフ隊長「なっ」
将軍「かかれー!」
――ワー!
エルフ兵「は、背後から敵襲ー!」
エルフ隊長「偽情報だと!? ばかな! 何故精霊が我々ではなく、人間共に味方するのだ!?」
――チガウヨ
エルフ隊長「なに!?」
――ニンゲンノミカタジャナクテ、トモダチノミカタダヨ
エルフ隊長「と、友達!?」
ワー!
侍「うまくいったようだな」
メイドエルフ「後退したと見せかけると同時に精霊に偽の情報を流してもらって敵を動かし、背後を取る。お見事ですお嬢様!」
エルフ「ありがと。みんなも、ありがとうね」
――フリフリ
侍「精霊がお前に味方してくれたからこその策だな。確かに見事だ」
エルフ「たまたまよ。それに、まだ完全じゃない」チャキ
メイドエルフ「ですね。わたしたちの役目は」ジャキン
侍「敵の伝令を」シャー
エルフ伝令「――な、待ち伏せだと!?」
侍「――殲滅する!」ダッ
エルフ「そういうこと!」ダッ
侍「おおおお!」ザンッ
エルフ「はあああ!」ザシュッ
エルフ伝令「くそ、数では上なんだ! 突破しろ!」
メイドエルフ「行かせません。逝かせますが」ビュンッ
ドスドスドス
エルフ伝令「く、くそー!」
国王「やー、みんなご苦労さん」
将軍「はっ。しかし、こうもあっさりと引っ掛かってくれるとは思いませんでしたな」
騎士「こちらの被害はほとんど無し。対して敵はほぼ壊滅状態」
侍「伝令も殲滅した。このことが後続の敵に知られることもないだろう」
国王「いい感じだ。とはいえ、次もそううまく行くとは限らない。変わらず慎重に行こうか」
将軍「はっ」
戦場
侍「おおおお!」ザン ザシュ ブシュ
エルフ「はっ!」ギン ザン
将軍「ぬぅん!」ブォン ドガァッ
メイドエルフ「は~。あの三名だけ別格の強さですねー」
国王「弓兵隊を騎士くんの部隊がうまいこと引き付けてくれてるからね。白兵戦ならこちらの、とりわけあの三人の独壇場さ」
メイドエルフ「戦で一番恐いのは飛び道具ですしね。そこを抑えてしまえばあとは物量と質の差ですか」
国王「今のところ、両方ともこちらが上回っている。精霊も協力してくれているし、あとは飛び道具を使える君が加われば」
メイドエルフ「いえ、まあ、隠密作戦などには参加しますが、表立って戦場に出るとお嬢様の立場が」
国王「あー、君集団相手にはめっぽう強いからねー。将軍や侍くんならいざ知らず、二人には少々劣るあの子は存在感を君に食われるのか」
メイドエルフ「お嬢様のお顔を立てるのもメイドの勤めですので」
国王「うちのメイドたちよりよっぽど出来たメイドだ。よければ」
メイドエルフ「お断りします♪」
国王「……本当に出来たメイドだね」
メイドエルフ「そんなこと言ってるうちに、終わりそうですよ」
国王「敵が退却していくか。連戦連勝、いい流れだ……だからこそ、そろそろ恐くもあるけどね」
エルフの国 王宮
参謀「……そうですか。また敗北ですか」
エルフ兵「申し訳ございません! よもや、精霊が人間に協力するとは夢にも思わず――」
参謀「人間にというより、彼女に協力しているというのが正しい」
エルフ兵「は?」
参謀「なんでも。ここいらで流れを変える必要がありますね」
エルフ兵「いかがいたしましょう」
参謀「あなたは、禁忌を犯せますか?」
エルフ兵「……え?」
二日後
エルフ「このペースなら、首都まであと丸一日といったところですわ」
メイドエルフ「順調ですね。まさかこんな形であそこに戻ることになるとは思いませんでしたけど」
侍「……」
将軍「……」
騎士「あれ、お二人ともどうしました? 恐い顔して」
将軍「陛下」
国王「うん。この森……なーんか嫌な空気だね」
侍「動物の気配が無いのも気になる」
将軍「かといって敵の姿も見えん。あるいは何か仕掛けてくるやも」
騎士「そう言われれば、確かに変に静かなような……」
エルフ「……」
メイドエルフ「……え?」
侍「どうした?」
メイドエルフ「精霊たちが慌ただしい……?」
エルフ「……」
侍「何か言ってないか?」
メイドエルフ「――なっ!」
エルフ「なんてこと!?」
侍「おい、精霊はなんて――」
エルフ「すぐに森から撤退して! 早く!」
国王「理由は?」
メイドエルフ「敵が……火計の準備をしていると」
侍「!」
将軍「エルフ族が森で火計だと!?」
国王「……全軍反転!」
騎士「は、は! 全軍反て――」
エルフ兵「逃がさん! 放てー!」
侍「伏兵か!」
ヒュンヒュンヒュン ボッ
メイドエルフ「火矢!?」
エルフ「愚かなことを!」
パチパチパチパチ
騎士「いけません! 周囲を火で囲まれました!」
国王「重装歩兵は鎧を棄てろ! 蒸し焼きになるぞ!」
将軍「他の部隊はわしに続け! 退路を確保する!」
ヒュンヒュンヒュン ドスドスドス
歩兵「ぐあっ!」
将軍「ぬっ!? 追い討ちをかける気か!」
侍「敵は俺が引き受ける! お前たちは早く退路を!」
エルフ「わたくしも行きますわ!」
メイドエルフ「お供します!」ジャキン
国王「すまないけど頼むよ! 全軍撤退急げ!」
ヒュンヒュン ドスドス
歩兵「ぐげっ!?」
将軍「周囲は火の海、頭上からは矢の雨か」
国王「重装歩兵を中心に編成したのがここにきて仇になったか」
エルフ兵「射て射てー! 人間共を残さず射ぬくのだ!」
侍「させん!」ザシュ
エルフ兵「ぎゃっ!」ドサッ
エルフ「エルフ族が森を焼くなど……恥を知りなさい!」ザンッ
エルフ兵「ぐあ!?」ドサッ
エルフ兵「くそ、まずあいつらを排除するんだ!」
メイドエルフ「それもさぜません!」ヒュヒュヒュヒュヒュンッ
ドスドスドスドスドス
エルフ兵「があああ!」
国王「今のうちだ! 順次離脱を!」
数時間後
国王「なんとか撤退は出来たが……いかんねこれは」
騎士「味方の被害、甚大です……」
将軍「よもや、エルフ族が火を放つとはな。完全に虚を衝かれたわ」
侍「どうする? まだ戦えるだけの戦力は残っているが、今の士気では戦闘継続は厳しいぞ」
将軍「森林ではなく平野部に進軍すれば、火計の心配は無くなるが」
メイドエルフ「そこで守りを固めて、増援を待った方がいいんじゃないですか?」
国王「戦力を整えるにはそれでいいけどね。ただ、首都に行くにはどうしても森を通らなければならないよ」
侍「そう言えば、確か周囲を森に囲まれていたな」
騎士「さすがにそんなところで火計を実行したら、首都にも被害が及ぶのでは?」
メイドエルフ「いえ、首都の端とは距離がありますので、敵にその心配は無いはずです」
将軍「森を通れば焼き討ち、軽装備にすれば遠くから弓矢で射抜かれる、か」
国王「ここに来て厄介なことになったもんだね、こりゃ」
エルフ「……」
侍「……どうした?」
エルフ「精霊が怒っていますの」
侍「精霊が?」
メイドエルフ「精霊は森に住んでますから。自分の家を焼かれたとあれば怒りもしますよね」
エルフ「待って。まだ何か教えてくれてる……そう」
将軍「何と言っておるのだ?」
エルフ「敵はこの機に乗じて、全戦力をこちらに向け出陣させたそうですわ」
メイドエルフ「すっごいたくさんいるそうです」
国王「一気に決着を着けにきたか」
騎士「まずいですよ。今の士気と戦力では、いくら重装部隊が主力とはいえ」
将軍「増援も到底間に合わんな」
国王「ふむ……」
侍「……」
国王「侍くん、何か考えでも?」
侍「そういうあんたにも、何か考えがあるんじゃないか?」
国王「そうだね。たぶん、君と同じことを考えていたよ」
メイドエルフ「同じこと、ですか?」
侍「全軍を出陣させたということは、今首都の守備は薄くなっているはずだ」
エルフ「確かに……まさか」
国王「そのまさかさ。本隊は平野部で敵軍を引き付けて、その隙に精鋭を秘密裏に首都に送り込む。狙うはもちろん、敵司令の首だ」
騎士「なるほど……。でも気付かれないようにするためには、少数じゃなければなりませんね」
国王「人選はもう済んでいるよ」
将軍「では、誰が乗り込みますかな」
国王「君と騎士くんは本隊に残って指揮を執ってもらう。君たちがいなくなったら、敵が怪しむだろうからね」
エルフ「と、いうことは」
国王「そ。乗り込むのは、侍くんと君、メイドちゃんと、それに僕の四人さ」
翌日
騎士「来ました! 敵軍です!」
将軍「さすがに全軍となるとかなりの数よな。こちらの援軍は」
騎士「後詰めの部隊は合流していますが、本国からの援軍は到着までまだ時間がかかります」
将軍「だろうな。現状のまま戦うしかないか」
騎士「苦戦は必至ですね」
将軍「だが、やるしかない。それが我等の任務よ」
騎士「はっ!」
将軍「仮にも戦上手と讃えられるこの老将、これしきの差では怖じ気付かぬ」
将軍(とはいえ、末端の者たちにこの状況は厳しい。なるべく早めにお頼みしますぞ、陛下)
首都 王宮前
メイドエルフ「――こちらです」
侍「すごいな。まさかここまで誰にも見つからずに来られるとは」
メイドエルフ「まあ、元々兵士の巡回ルートは把握してましたしねー。加えて今は守備が手薄ですから」
国王「ここまで忍び込むくらいわけはない、か」
エルフ「ていうか、なんであなたが警備の巡回ルートなんか知っていますの?」
メイドエルフ「え? いやそれはまあ、メイドのたしなみと言いますか」
侍「今はそんなことはいいだろ。それよりも、ここからどうやって潜入するかだ」
エルフ「精霊からの情報では、司令は今もここにいるということですが」
国王「そいつは好都合。なら、本隊の被害が少ないうちにさっさと決めてしまおうか」
侍「さっさと、ね。何かいい手でもあるのか」
国王「ああ。正面から堂々と行けばいい」
エルフ「は?」
メイドエルフ「正面からって……」
国王「つまり、こういうことさ」スタスタスタスタ
メイドエルフ「ちょっ、ちょっと!?」
侍「本当に行きやがった……」
王宮 正門
門番A「ん? な、何故人間がここに!?」
国王「何故って、そりゃー決着を着けるために決まってるでしょ」
門番B「な……て、敵しゅ――」
国王「おーっと」ダッ ザシュッ
門番B「があ!!」ドサッ
門番A「な、はや――」
国王「よっ」ピョン ザンッ
門番A「ぎゃあっ!」ドサッ
国王「ふう」キンッ
タタタタタタッ
メイドエルフ「は、はや……もう倒して」
侍「爪を隠していやがったな」
国王「いやー、一撃で倒せたのはこの剣のおかげだよ。軽くて扱い易く、切味もいい」
侍「あんたが扱うには少し小さくないか」
国王「ま、元々僕用に造らせたものじゃないからね」
メイドエルフ「え? じゃあ本来は誰用の剣なんです?」
エルフ「そんな話は後でいいですわ。今は……」
国王「だね」
侍「仕方ない。それじゃあ正面から堂々と乗り込むとしよう」
メイドエルフ「けど、どうします? この巨大な正門を突破するのは」
エルフ「この鉄扉、力押しだけでは到底破れませんわよ」
国王「ん、そうかい?」
侍「この程度ならなんとかなるだろ」
エルフ「なんとかって……」
侍「――ふっ!」シャッ
国王「ほっ」ブンッ
――ギン ギン
メイドエルフ「……あの?」
エルフ「一体何を――」
――ズズズ
エルフ「え……」
メイドエルフ「な……」
ズズズズズ――ズゥゥゥンッ!
メイドエルフ「て、鉄扉を……」
エルフ「斬った!?」
国王「やっぱり君も出来たんだ。斬鉄」
侍「あんたもな。つくづくただ者じゃない」
国王「僕に言わせれば、君こそその若さでその腕前は末恐ろしく感じるよ」
メイドエルフ(あんな大技決めておいて、この会話の軽さですか)
エルフ(侍さんはともかく。悔しいけど、この人もあたしよりずっと強い)
エルフ兵「――な、正門が破られて!? て、敵襲! 敵襲ー!」
国王「おっと。のんびり話してる場合じゃなかったね」
侍「だな。先頭は俺が行く。道案内は頼むぞ、エルフ」
エルフ「わかりましたわ」
メイドエルフ「お嬢様の背中はわたしがお守りいたします」
国王「じゃ、殿は僕が引き受けようか」
エルフ兵「あそこだー! なんとしても討ち取れ! 王宮の中には絶対に入れるな!」
ワー!
エルフ「さすがに王宮にはそれなりに残ってましたわね」
侍「だがあの程度ならなんとかなる――行くぞ!」ダッ
エルフ「ひとまず三階を目指しますわ!」ダッ
メイドエルフ「三階ですね! 援護はおまかせください!」ジャキン ダッ
国王「で、討ち漏らしは僕の役目と。若人が率先してくれると楽できていいね、うん」ダッ
エルフ兵隊長「なんとしてもここで食い止めろ! 囲んで押し潰せ!」
侍「そうは!」
エルフ「させません!」
ザン ザシュ ズバ ブシュ
エルフ兵たち「ぐわあああ!」
エルフ兵隊長「く、なんたる強さ……。ならば弓兵隊で――」
メイドエルフ「お見通しです!」ヒュヒュヒュヒュヒュン
ドスドスドスドスドス
弓兵隊「ぐわっ!」
エルフ兵隊長「おのれたかが人間と混血とメイド如きに!」
国王「それが君の限界だよ」
エルフ兵隊長「!? いつの間に――」
国王「じゃーね」ザシュッ
エルフ兵隊長「がはぁ!」ドサッ
エルフ兵「な、隊長が!?」
侍「隙が出来た! 一気に突破する!」
エルフ「このまま駆け抜けますわ!」
メイドエルフ「はい!」
国王「りょーかいりょーかい」
王宮 三階通路
エルフ「はあっ!」ザン
エルフ兵「ぐえっ!」ドサッ
エルフ「はぁ、はぁ、はぁ……ひとまず今ので最後みたいですわね」
侍「そのようだな。で、この後はどうするんだ?」
メイドエルフ「一階や二階と違って、真っ直ぐな一本道ですね」
エルフ「玉座の間に繋がる通路ですわ。そして玉座の間の奥に陛下の私室がありますの」
国王「ということは、今司令はそこにいる可能性が高いと」
エルフ「というよりいます。精霊が教えてくれてますので」
メイドエルフ「ならあともう一息ですね。このまま一気に――」
侍「いきたい所だが、さすがにそうはさせたくないようだ」
エルフ「え?」
声「その通りです」
カツ カツ カツ
エルフ「目深に被ったフードの女……参謀ですわね」
参謀「私のことをご存知でしたか」
エルフ「普段からそんな格好をしていれば当然です」
参謀「それもそうですね。さておき」スッ
侍「――!」シャッ キン
エルフ「きゃっ!?」
メイドエルフ「今のは……!」
国王「投げナイフか。ここに来てメイドちゃんと被るとはね」
メイドエルフ(確かに戦闘スタイルは被ってますが……ちょっとわたしより速いかも)
参謀「ふむ。やはりこの程度の不意打ちは通用しませんね。それとも、そんなに彼女が大切ですか?」
侍「……たとえ狙われたのがこいつじゃなくとも同じ反応をしたさ」
参謀「でしょうね。ならば」ジャキンッ
メイドエルフ「!」
エルフ「なっ!」
参謀「全員同時でも、同じ反応が出来ますか?」
侍「……俺には無理だな」
参謀「意外と素直に認めましたね。ですがだからといって――手加減はいたしません!」シュババババッ
メイドエルフ「――はっ!」シュババババッ
キンキンキンキンキン
参謀「ほう? 空中で全て……」
メイドエルフ「投げナイフが十八番なのはわたしも一緒です」ジャキン
参謀「ふふ」
メイドエルフ「……ここはわたしにお任せを。皆様は先にお行き下さい」
エルフ「先にって、あなた……」
メイドエルフ「時間がありません。早くしなければ、後方のお味方が危ないんですから」
侍「……行くぞ」
国王「こっちは大丈夫だから、君は後からゆっくり来るといいよ」
エルフ「……後でね」
メイドエルフ「ええ。後で」
タッ タッ タッ タッ……
メイドエルフ「……わざと行かせましたね?」
参謀「ええ。後から来たのがあなたではなく私だったら、三人の意気は十分にくじけるでしょう」
メイドエルフ「せこい考えです」
参謀「何とでも。せこかろうが何だろうが、私は負けるわけにはいきませんので」
メイドエルフ「それはこちらのセリフです」スッ
参謀(……目付きが変わった?)
メイドエルフ「お侍様が防いでくれたとはいえ、お嬢様が狙われたことは事実」
メイドエルフ「つまり、その時点でわたしの逆鱗に触れているんですよ、あなた」
参謀「だとしたらどうします?」
メイドエルフ「知れたこと。わたしの目の前でお嬢様を狙ったその罪――死んで償いやがりませ!」
参謀「罪、ですか。それを言うなら、あなたや彼女の方が今まさに国家反逆の罪に問われているのですがね」
メイドエルフ「ではお嬢様やお侍様に濡衣を着せた挙句、森を焼くという暴挙に出たあなたたちは、一体何の罪に問われているのです?」
参謀「……」
メイドエルフ「答えられませんか。それも当然ですよね」
参謀「どう答えても、あなたは納得されないでしょう?」
メイドエルフ「当たり前です」
参謀「ならば、余計な問答は無用です」
メイドエルフ「そうですか。ならばすぐに――逝きなさい!」シュバババババッ
参謀「……」シュバババババッ
――キンキンキンキンキン
メイドエルフ「まだまだ!」ジャキジャキンッ
参謀「ふむ」ジャキジャキンッ
ヒュンヒュンヒュン キンキンキン
メイドエルフ「もっと!」ジャキジャキンッ
参謀「こちらも」ジャキジャキンッ
メイドエルフ(くっ! こっちは最初から全力で殺しにかかっているのに、向こうにはまだ余裕がある!)
メイドエルフ「はぁっ!」シュバババババッ
参謀「ふっ」シュバババババッ
ギンギンギンギンギン
参謀「……ふふ」
メイドエルフ(互いにに弾かれてはいるけれど今のは、わずかにこちらが圧された……)
メイドエルフ「――ええい!」ジャキジャキンッ
参謀「……」ジャキジャキンッ
数分後
メイドエルフ「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」
参謀「息が上がっていますね。降参しますか?」
メイドエルフ「誰が!」ジャキジャキンッ
参謀「やれやれ。一体どれだけナイフを隠しているのですか」
メイドエルフ「メイド服すなわち神秘の次元なんです!」
参謀「意味がわかりません」
メイドエルフ(こちらが構えたのに、向こうは新たなナイフを出さない……。弾切れ? でもあの余裕は……)
参謀「気になりますか?」
メイドエルフ「っ……何がです」
参謀「ふふ。私の余裕の理由ですよ」
メイドエルフ(読まれてる……さすがは参謀というところですか)
参謀「先程あなたは、投げナイフが十八番なのは自分も同じだと言いましたね」
メイドエルフ「……」チャキ
参謀「白状しますと、私の手持ちのナイフは全て投げ尽しました」
メイドエルフ(何ですって?)
参謀「ですので、今は投げられるナイフは手元にありません」
メイドエルフ「……」
参謀「でもね――」クイ
メイドエルフ「――っ!」バッ
――ヒュン ザシュッ
メイドエルフ「くっ!?」
メイドエルフ(なに!? 床のナイフが、勝手に飛んで!)
参謀「メイド服にかすっただけ……今のを避けましたか。いい勘をしていますね」
メイドエルフ「……何をしたんですか」
参謀「その答えは、これです」クイ クイ
メイドエルフ「くっ!」バッ
ヒュンヒュン ザン
メイドエルフ「くあっ!」ブシュッ
参謀「直撃、とまではいきませんでしたか」
メイドエルフ(腕をかすめた……!)
参謀「私の十八番は、実は投げナイフではありません」
メイドエルフ「なんですって?」
参謀「私の十八番は、実は投げナイフではなく繰りナイフ。すなわち」バッ
メイドエルフ「――っ!?」ゾクッ
参謀「今床に散らばっている私のナイフ全てが、あらゆる角度から敵を、あなたを襲うのです」バババババ
ザシュ ザシュ ザン ザシュ ブシュ
メイドエルフ「ぅあっ!」ヨロッ
参謀「まだまだいきますよ」バババババッ
メイドエルフ「く……!」バッ
ヒュンヒュンヒュン ザン
メイドエルフ「つぅ!」
メイドエルフ(足を……! けどこれくらいならなんとか)
参謀「またかすっただけですか。いい反射神経してますね」
メイドエルフ(なによあれ……一体どういう仕組みなの。指や腕の動きに反応しているようだけど……それに、同時に舞う様に動くのは何故?)
参謀「ですが、次で仕留めます」クイ
メイドエルフ(来る!)バッ
ヒュン――
参謀「む?」
メイドエルフ(回避できた? 今動いた指は右手。飛んできたナイフは左から……ということは)
参謀「……ふむ」クイ クイ
メイドエルフ「――そこ!」ババッ
――キンキン
メイドエルフ(右後方と左側面。やっぱり、参謀の右手が動けばわたしの左側から、左手が動けば右側から飛んでくるようね)
メイドエルフ(でも、まだ何故その動きでナイフを操れるのかがわからない。それがわからないと。考えられるとすれば……)
参謀(そろそろ気付かれる頃ですかね)
参謀「一気にいきます」バッ
シュババババババッ
メイドエルフ(……一か八か!)ダッ
参謀「!?」
ザシュザシュザシュザシュ
メイドエルフ「くぅっ!」バッ ガシッ
メイドエルフ(掴んだ! これはやっぱり――!)
参謀「……まさかナイフの雨の中に突っ込んでいくとは思いませんでしたよ」
メイドエルフ「自分でもバカだとは思いますよ。でも、あなたの繰りナイフのカラクリはわかりました」
メイドエルフ「ずばり、糸です」
参謀「……」
メイドエルフ「肉眼ではほとんど見えない程極細の糸で、ナイフを操っているんです」
メイドエルフ「一斉に仕掛けるときの舞う様な動きは、糸が絡まらないようにそれぞれのナイフを操作するため」
参謀「それを確かめるためだけの蛮勇に敬意を表しましょう。正解です」
参謀「しかし、その結果あなたが負った傷はこれまでのように軽くはない」
メイドエルフ「……」ヨロッ
参謀「その体で、次の攻撃に耐えることが出来ますか?」
メイドエルフ「仕掛けさえわかってしまえばこちらのものですよ」
参謀「果たしてそうでしょうか?」
メイドエルフ(……見破られてなお余裕がある。まだ何か隠している?)
参謀「では、試してみましょうか」クイ ヒュン
メイドエルフ「仕掛けが糸だとわかったのなら、それさえ切ってしまえば!」シュッ
――ビン
メイドエルフ「え!?」
参謀「ふふ」
メイドエルフ(ナイフの刃が糸に弾かれた!?)
参謀「仕掛けを見破られたときのために対策を施すことも、参謀たる者の努めですよ」
参謀「この糸は特殊な素材で出来ていましてね。非常に優れた対刃性を有していながら、糸が持つ柔軟性を損なっていない」
参謀「その証明は、たった今あなたが目にした通りです」
メイドエルフ「くっ……」
メイドエルフ(なんてこと……。ここまで隙が無いなんて)
参謀「さて。では」ユラリ
メイドエルフ(来る……。さすがに次は耐えられそうにないわね)
メイドエルフ(こんなことなら、わたしのメイド服にも何か防御的なものを縫い付けておけばよかったわ。もう遅いけど)
参謀「今度こそ――」
メイドエルフ(……ん? 縫い付ける……縫う?)
参謀「――終わりです!」シュババババッ
メイドエルフ「――いえ、まだです!」ダンッ
参謀「跳んでかわした!? あの傷でよく!」
メイドエルフ「はっ!」シュババババッ
ドスドスドスドス
参謀「?」キン
参謀(複数のナイフを投げたのに、私を狙ったのは一本だけ?)
トン
メイドエルフ「次!」シュババババババッ
ドスドスドスドスドス ギン
参謀(また一本だけ? これまでは全てのナイフを直撃コースで投げていたのに……何か企んでいる?)
メイドエルフ(急がないと気付かれる。その前に!)
メイドエルフ「やっ!」シュババババババババッ
参謀(私に向かってくるナイフは――やはり一本だけ。なら、他のナイフは何のために……)キン
メイドエルフ「これで最後!」シュババババババババババッ
ドスドスドスドスドスドスドスドスドスドス
参謀(ラスト? それに、今のは私を狙わなかった。となれば、先程まで私に一本だけ投げていたナイフはただの牽制?)
メイドエルフ「……」チャキ
参謀「……どうやら、さすがに弾切れのようですね。それが最後の一本ですか」
メイドエルフ「ええ」
参謀「何を企んでいたか知りませんが、悪あがきもそこまでです」
メイドエルフ「なら、一つお話してもいいですか?」
参謀「お話?」
メイドエルフ「わたし、仕事が見た通りメイドでして。家事全般が得意なんです」
参謀「……」
メイドエルフ「料理、洗濯、掃除はもちろん、特に裁縫は得意でして。このメイド服も自分で縫ったんです」
参謀「それはすごいですね。ところで、私はいつまでそのお話に付き合えばよろしいのでしょう?」
メイドエルフ「ご安心ください。ただそれが言いたかっただけですから」
参謀「そうですか。ならそろそろ終わりに――」クイ
――ビシッ
参謀「――っ!?」
参謀(なに? 今の固い感触は?)チラッ
メイドエルフ「……」ニッ
参謀「――なっ!?」
メイドエルフ「わたしが何故あんな話をしたか、理解出来ましたか?」
参謀「まさか、さっきまでバラバラに投げていたのは!」
メイドエルフ「そう。わたしは裁縫が大の得意。ですので縫い付けさせてただきました」
メイドエルフ「わたしのナイフで、あなたとあなたのナイフを繋いでいる糸を、床に」
メイドエルフ「対刃性に優れていて切ることは出来ない。でも柔軟性はあるから刃を食い込ませることは可能」
メイドエルフ「操る上では便利だったのでしょうけれども、今回はそれが仇となりましたね」
参謀「くっ……!」
メイドエルフ「しかも、あなたとナイフは糸で繋がっているから、あなた自身もそこから動くことが出来ない」
メイドエルフ「繋がっているのが一本や二本ならともかく、優に二桁を越えるナイフと繋がっていては、そうなるのも当然です」
参謀「……」
メイドエルフ「おかげであなたの言う通り、確かにこれが最後の一本ですが――これだけあれば十分です!」シュッ
――ドスッ
参謀「――がっ!」
メイドエルフ「……どうぞ、逝ってらっしゃいませ」ペコリ
参謀「……結局……こうなりました……か……」
メイドエルフ「え?」
参謀「……」ドサッ
メイドエルフ「最後の言葉は一体……まるで負けることが分かっていたみたい」
メイドエルフ「て、そんなことはいいわね。早くお嬢様たちを追わないと――」ズキッ
メイドエルフ「……その前に手当てが先ね」
メイドエルフ(手当てをしたらすぐに追い付きます。ですから皆さん、どうかご無事で!)
タタタタタタッ
エルフ「あそこですわ!」
侍「正面の扉か」
国王「玉座の間か。そこか、あるいはその奥の部屋に敵の司令がいる、と」
エルフ「ええ」
侍「さっさと片付ける、と言いたいところだが」
親衛隊A「……」
国王「ま、さすがにそうはいかないよねやっぱり」
エルフ「気を付けて。親衛隊の練度は並ではありませんわよ」
国王「その並ではない兵士諸君がおよそ十人か。ちょっと時間がかかるかなこれは」
親衛隊A「舐めるなよ。時間などかけん。貴様らさえ討ち取れば我らの勝ちなのだ」
国王「あー、頭を潰せば勝ちってのは互いに同じだねそう言えば」
侍「今更そこに気付いたのかよ……」スッ
エルフ「侍さん? 何を――」
侍「お前たちは先に行け。この場は引き受ける」
エルフ「え!? でも!」
侍「メイドエルフも言っていただろ。こっちには時間が無いんだ」
エルフ「ですがだからと言って……」
侍「それに、お前たちには敵司令と因縁があるんだろ」
エルフ「え?」
国王「この子はともかく、僕にもかい」
侍「ここまで来て隠す必要はないだろ。以前そんなことをほのめかしていたしな」
国王「……そんなことまで覚えてるんだから、やっぱりたいしたもんだよ君は」
エルフ(そう言えば、あの尋問……というか拷問のときにそんなことを漏らしていたような)
侍「そういうわけだ。こっちはなんとかするから、そっちはそっちできちんとケリを着けてこい」
国王「じゃ、お言葉に甘えさせてもらうことにしようか」
親衛隊B「何の相談か知らんが、ここは何人たりとも通さんぞ」
侍「そうか。ならば力付くで道を開けてもらう」ダッ
親衛隊A「させんぞ!」ダッ
侍「はっ!」ザンッ
親衛隊A「ぬわっ!?」ドサッ
親衛隊B「おのれ!」ブンッ
侍「遅い!」サッ ザシュッ
親衛隊B「ぐお!?」ヨロッ
侍「今だ! 行け!」
国王「はいよー」ダッ
エルフ「ちょっと!」ダッ
親衛隊C「くそ、行かせるな!」
侍「行かせないのはこっちだよ!」ギン
親衛隊C「く、貴様!」グググ
エルフ「……侍さん、気を付けて」
国王「彼なら平気でしょ。ヒーローは遅れてやってくるものだしね」
国王「それに、心配すべきはむしろ僕たち自身さ……」
エルフ「どういうことですの?」
国王「あえて言っておくよ。はっきり、僕は侍くんより強い」
エルフ「は?」
国王「『なに寝惚けたことほざいてんだこのオヤジ』みたいな顔してるけど、事実だよ。侍くんに聞いてもあっさり認めるんじゃないかな。彼潔いし」
エルフ「……」
国王「だから気を付けてね。これから闘う司令は、僕よりもたぶん強いから」
エルフ「え?」
国王「さ、到着だ」
エルフ「玉座の間……」
国王「……居るね」
エルフ「わたくしにもわかりましたわ。扉の中から漏れてくるこの殺気……」
国王「さて。それじゃ、互いの因縁に決着を着けにいきますか」ギギギギギィ
玉座の間
司令「来たか」
エルフ「司令……!」
国王「相変わらず短気な方だ。その無駄なネガティブエネルギー、もっと前向きなことに利用した方が有意義じゃないですかね」
司令「ふん。貴様こそ変わらんな、そのヘラヘラとした態度は」
エルフ(やっぱり、知り合い?)
司令「しかし、よもや貴様がその面を見せに来ようとはな。混血」
エルフ「……何故陛下を殺めましたの?」
司令「ふん、精霊から聞いたか。決まっている。人間を排除するためには、あの男が邪魔だったからだ」
エルフ「あなたは……!」
国王「あなたの人間嫌いは筋金入りですねー。何か恨みでも?」
司令「あるさ。少なくとも貴様にはな」
国王「それはあなたの単なる我が儘だと思うんですがね」
司令「何を抜かすか! 妹をたぶらかし、挙句貴様の汚れた血が混じった混血を孕ませた! これを恨まずして何を恨む!」
エルフ(……ああ、そういうことね)
国王「そこまで嫌われると、いっそ清々しいですねー。じゃあ僕も言わせてもらいますけど」
国王「僕もあなたが嫌いですよ」スラリ
エルフ「……」チャキ
国王「彼女はね、あなたの、いや、エルフ族のそんな偏った思想に辟易して家を、国を飛び出したんだ」
国王「わかってやれとは言わないまでも、この子らのことを聞く限り、ちょっと扱いが酷すぎやしないですかね」
エルフ「わたくしだけではありません。司令……いえ、あえてこう呼ばせていただきます。おじ様」
司令「……」
エルフ「わたくしを徹底的に目の敵にするのはまだ構いません。ですが十年前のあの日、あなたは……あなたは!」
司令「妹を……貴様の母を殺そうとした、か?」
エルフ「……っ」キッ
国王「……それは本当かい?」
エルフ「事実です。あの日、彼は意見が対立し続けるお母様についに激怒し、切り付けたのです」
国王「じゃあ、彼女の片足が悪くなっていたのは」
エルフ「そのときの傷が元ですわ」
国王「……」
エルフ「幸か不幸か、わたくしは居合わせませんでしたが、メイドエルフは目の前でお母様が斬られる瞬間を見ています」
国王「あの子が投げナイフを始めたきっかけがそれか」
エルフ「ええ。もう二度と目の前でお母様やわたくしを傷付けさせはしないと言って」
国王「そっか……」
司令「思い出話なら後にしろ」
エルフ「……」
国王「……」
司令「そんな話をするためにわざわざ来たわけではあるまい。こちらもそのために待っていたわけではない」
司令「貴様らが選べる道はない。ただ死、あるのみだ」スラ スラ
エルフ(二刀流……)
国王「そうだね。じゃああと一つだけ、自分のことは棚に上げて言わせてもらってから始めよう」
国王「……惚れた女と愛娘を散々傷付けてくれた恨み、ここで晴らさせてもらいますよ」
エルフ「こればかりは他人のためではない。ただわたくしとお母様があなたから受けた痛み、倍にしてお返しいたしますわ!」
司令「やれるものならやってみるがいい!」ダッ
エルフ(速い!)
司令「ぬあああっ!」ブンブン
国王「っ!」ギギンッ
司令「まだまだ――」バッ
エルフ「させません!」ダッ
国王「迂濶に踏み込むな!」
司令「遅いわ!」ブォンッ
――ギィンッ
エルフ「くぅっ!」
エルフ(切り返しが速い上に重い! この重さ、本当に侍さん以上……!)
司令「貴様は後で相手をしてやる。まずはこいつからだ!」
国王「せっかくのご指名だけど、数的有利は利用させてもらうよ。エルフ!」
エルフ「呼び捨てで呼ばないで下さい!」ダッ
国王「厳しいなぁ。けど!」ダッ
司令「……ちっ」
国王(やはりだ。実力で勝るにしても、二人同時は面倒らしい)
国王「はっ!」ブンッ
エルフ「やぁっ!」ブンッ
司令「ふん」ギン ギン
エルフ「っ」グググ
国王「……」グググ
司令「ぬるい!」ギィィィン
エルフ「きゃあっ!」
国王「くっ……!」
国王(とはいえ、両手持ち二人相手にそれぞれ片手で防ぐとは。腕の方はやはり衰えていないな)
司令「その程度で挑もうなど笑止!」ダッ
エルフ「!」チャキ
国王「行かせないさ!」ダッ
司令「どけい!」ブン
ギィィンッ
国王「うお!?」
司令「ああああ!」ブンブン
ギンギィンッ
エルフ「くぅっ!」ギギギギ
エルフ(まずい、鍔競り合いになったら……!)
司令「どうした、なんだその軟弱さは?」グググググ
エルフ(押し込まれる!)グググググ
国王「ちっ!」ダッ
司令「ふん」ドスッ
エルフ「かはっ!?」ガクッ
国王(蹴り!? しまった、誘われた!)
司令「はっ!」ブォン
国王「ぐっ!?」ギガンッ
国王(まずい、剣を!)
――ヒュンヒュンヒュン ザクッ
司令「もらった!」
エルフ「――はあああああっ!」ブンッ
司令「ええい、しつこいわ雑魚が!」ブンブン
――キィンッ
エルフ「――!」ヨロッ
司令「ふん!」ブン
ギガンッ カシャン
エルフ(くっ、あたしまで剣を……!)
司令「そんなに死にたいのなら良かろう。まずは貴様から殺してやる」バッ
国王「……そううまくはいかないと思うけどねぇ」
司令「減らず口を。混血を仕留めたら次は貴様だ」
エルフ「っ」ギュッ
司令「死ね!」ブオンッ
――ギィィィンッ
司令「ぬぅっ!?」グググ
エルフ「……あ」
声「なんか、前にもあったなこんな事」
国王「言った通りだね。ヒーローは遅れてやってくるものだって」
司令「貴様は……!」グググ
侍「侍だ。義によってその二人に助太刀しにきた」
司令「いつぞや迷いこんできた人間か。貴様に用などない。さっさと死ね」グググ
侍「こっちにはあるんだよ。少なくとも二人が勝つか退くかするまではな」グググ
司令「その選択肢は間違いだ。貴様もそこの二人も――まとめて殺す!」ギン
侍「ぐっ!」ズザザザッ
エルフ「侍さん!」
侍(一息で押し返された? 相当鍛えてやがる)
司令「死ね」ダッ
侍「そう簡単に!」ダッ
――キン ギン ギン
国王「今のうちに、と」ダッ
エルフ「あ、ちょっと、どこに――」
国王「そら、受け取って!」ブンッ
ヒュンヒュンヒュン
エルフ「え、ちょっ、待っ!?」
ガキンッ
エルフ「きゃっ! あ、危ないじゃないですの! しかもこれあなたの剣じゃ――」
国王「いや。そいつは出陣前に、君用に打たせたものだよ」
エルフ「え?」
国王「そして今まで君が使っていた剣は、元々は僕のものだったというのは前に説明した通りさ」ガシッ
国王「それに、どっちの剣がどっちのだ、なんて言ってる余裕はもうない。侍くんも一人ではそろそろ限界だ」
――ギィンッ
侍「くっ!」
エルフ「侍さん!」
司令「やはり弱い」
侍「ちっ。これまでたくさんの猛者と闘ってきたが、こいつは飛びきりだな」
国王「時間稼ぎありがとう。ここからは僕も参加するよ」
侍「多勢に無勢は好ましくない、なんて言ってる余裕はないか。頼む」
エルフ「わ、わたくしも!」ガシッ
エルフ(! この剣、軽い。それに柄を握る感じもしっくりくる)
司令「良かろう。どうせ全員死ぬのだ。まとめてかかってきてくれた方が手間が省けるというもの」
国王(とか言ってるけど、さすがに三対一じゃ不利なのは承知しているはず)
侍(となれば、まず速攻で一人潰すために動く)
国王(その場合真っ先に狙われるのは――)
司令「さあ、行くぞ!」ダッ
エルフ「っ!」チャキ
国王「当然、この中では一番劣るあの子だよね」
侍「ああ。だが――」
司令「はあっ!」ブン
エルフ「くっ!」バッ
スカッ
司令「!?」
エルフ(かわせた?)
侍(己に合う得物に持ち変えたことで、わずかだが構えや体捌きが自然になった)
国王(結果、これまで回避しきれなかった攻撃を紙一重ではあるが回避できるようになったわけだ)
司令「ぬあああっ!」ブンブン
エルフ「――やあっ!」
キンギン
司令「ぬぅ……!」
侍(取扱いやすくなったことで、敵の攻撃も受け長しやすくなったか)
国王(とくれば、あとは)
侍・国王「挟撃あるのみ!」ダッ
司令「ちぃっ!」バッ
エルフ「……はっ!」ダッ
侍(すぐに追わず、俺たちに呼吸を合わせたか)
国王(侍くんが来たことに加えて本来の実力を発揮できるようになったことで、思考が冷静になっているね。これなら、勝てる)
国王「はっ!」ブン
侍「おおおお!」シャン
エルフ「やあああっ!」シュッ
ギンギン――ザシュッ
司令「ぬおっ!」
エルフ(当たった……けど)
侍「あの挟撃を受けてなお直撃を免れた……!」
国王「普通なら今ので終わってるところなんだけどなぁ。やっぱり一筋縄じゃいかないか」
司令「……自分の血を見たのは久しぶりだ」
国王「ま、あなたならそうでしょうね」
司令「いいだろう。人間相手に癪だが……本気で行く」ブン カシャン
エルフ(剣を片方捨てた?)
司令「ふん!」ダッ
エルフ「侍さん!」
侍「っ」バッ
――ガキンッ
侍「ぐっ!?」
侍(なんて重さだ……!)
司令「ぬああああっ!」グググググ
侍「ちぃっ!」グググ
侍(駄目だ、このままでは押し斬られる!)
エルフ「侍さん!」ダッ
司令「見え見えだ!」
シャー
侍「!」
エルフ「なっ!」
国王(侍くんの刀の刃で剣を滑らせた!? いかん!)ダッ
司令「ふん!」ブゥン
ザシュッ
エルフ「うあっ!」ブシュッ
侍「エルフ! 貴様!」バッ
国王「駄目だ! その距離で大振りは!」
司令「迂濶なんだよ!」
ザンッ
侍「っ!?」ブシュッ
国王「侍くん!」
司令「貴様もだ!」ブン
国王「くっ!」ブン
ギン キン ギン
司令「ふ、さすがに慎重だな。だが」チャキッ
国王(まずいな。二人とも急所は避けてるし、致命傷ではないけど、もう戦力としては半分以下か……)
侍「くっ……エルフ、動けるか……?」ヨロッ
エルフ「なんとか……けど」フラッ
――ボタ ボタ
侍(まずい。俺もエルフも一撃で深くまで決められた)
エルフ(これじゃあ動くことは出来ても、戦闘なんてとても……)
――ガキンッ
国王「うおっと!」ズザザザ
司令「どうした。それで終わりか」
侍「……エルフ!」ダッ
エルフ「はい!」ダッ
司令「遅いわ!」ブゥンッ
ギン ギン
侍「ぐっ」ドサッ
エルフ「きゃあっ!」ドサッ
国王「二人とも!」
司令「貴様も這いつくばれ!」ブォンッ
――ガィンッ!
国王「うおっ!?」ドサッ
司令「ふん」
侍(強い……!)
エルフ(まさか、三人がかりでも倒せないなんて……!)
国王(これは、ちょっと勝負を焦ったかな……)
司令「想像以上にはてこずらせてくれたが、それもここまで」
侍(三人とも撤退は……無理だな)
エルフ(ならせめて)
侍「あんたは退け。時間は稼ぐ」
国王「おいおい。よりにもよって君がなんてことを」
エルフ「すみませんが、わたくしも同じ意見ですわ」
侍「あんたならわかるだろ。この状況じゃ、どう転んでも勝ちは無い」
エルフ「けどわたくしたちが死んでも、あなたが生き残れば次がありますのよ」
司令「当然の判断だが、それをみすみす許すと思うか」
侍「許させるさ」
エルフ「だからといって、地に頭を付けたりなんか絶対いたしませんわよ」
侍「とにかくそういうわけだ。あんたは早く――」
国王「んー、断る」
侍「……あんたな」
エルフ「そんな軽く……!」
国王「だってさ。娘と将来義理の息子になるかもしれない男にそんなこと言われちゃ、父親としては意地でも残らなきゃ格好が悪いでしょ」
エルフ「ちょ、ちょっと! こんなときに何を!」カァッ
国王「こんなときだからだよ。それに、まだ手がないわけじゃない」
エルフ「え?」
侍「なに?」
司令「ふん。そのようなはったりが――」
国王「エルフ。部屋を見回してごらん」
エルフ「部屋を? あ……!」
司令(む?)チラッ
司令「なっ!?」
侍「なんだ?」
国王「ほらね」
侍「何が」
国王「わからない? 人間には見えないけど、彼女らには見える存在」
侍「精霊か? だが、なぜ今精霊が」
エルフ(なに? 精霊の一部があたしの回りに)
国王「前に聞いたことがある。精霊ってやつは普段は気分屋だけど温厚だ」
国王「だが、彼らに害を及ぼすもの、あるいは既に及ぼしたものには必ず報復する執念深い一面もある、と」
侍「……つまり、今ここに精霊が集っているのは」
国王「森を、彼らの住みかを焼いた者への報復のため」
――キイイイイイイイイ!!
司令「ぐおおおおっ!?」ガクッ
侍「なんだ!? 耳を押さえてうずくまったぞ」
エルフ「精霊のいななき」
侍「いななき?」
エルフ「精霊が集団で奇声を発し、相手を威嚇する行動ですわ。エルフ族や動物にしか効きませんが」
侍「お前は平気なのか?」
エルフ「ええ。一部の精霊が守ってくれていますから」
侍「なるほど。しかしてその効果の程が」
国王「あの有り様さ」
キイイイイイイイ!!
司令「ぐぅ、耳が! 耳がぁ!」
侍「しかし、エルフならともかく何故あんたが精霊のことに気付いたんだ?」
エルフ「そうですわ。しかもあんなタイミングで。わたくしだって言われるまで気付きませんでしたのに」
国王「ん? んー、実は僕見える人だから」
侍「は?」
国王「だから、精霊が見えるんだよね。僕」
エルフ「そんな精霊を幽霊みたいに……いえそれはいいとして、どういうことですの? 人間には見えないはずですわ」
侍「事実俺には見えていない」
国王「や、僕も始めっから見えてたわけじゃないよ? 見えるようになったのは、娘が出来るきっかけの後からかな」
エルフ「きっか……け……って、ちょっとあなた!」
侍「……ああ、そういう」
エルフ「マジマジと納得しないでいただけます!? 不潔極まりないですわ!」
国王「それはともかく……とどめ、刺すかい?」
エルフ「……!」
国王「今なら楽に決められる。僕が君のお母さんと離れざるを得なかったのは司令の徹底的な妨害があったからだから、斬りたい気持ちは強い」
国王「けど、それ以上に君にも思うところがあるだろう?」
エルフ「……」チラッ
侍「お前が決めろ。自分で斬るか、国王に任せるかな」
エルフ「……」
司令「ぐううううう……おのれえええええ!!」ダッ
侍「突っ込んできた!?」
国王「ある意味賢明な判断ではあるけど。さて」
エルフ「!」ダッ
侍(真っ向から行ったか)
国王(互いに消耗しての一撃。となれば、勝負を決するのは――)
司令「ぬあああああっ!」ブゥンッ
エルフ「――はぁっ!」ブン
――ザンッ
国王「一撃への集中力」
司令「がはっ……!?」ドサッ
エルフ「……つぅ」ガクッ
侍「エルフ!」ダッ
エルフ「だ、大丈夫ですわ。斬られたわけではありませんから」
侍「いや、一回食らってるだろ! 平気か?」
国王「それは君も同じでしょ。二人とも軽いケガじゃないんだから、あんまり無茶しない」
侍「なんだかんだ言って、あんたは無傷だな」
国王「あんまり役にも立てなかったけどね。ま、話は後にして、今は戻ろう。勝敗は決したんだし」
エルフ「そうですわね」ヨロッ
侍「ほら、掴まれ」
エルフ「あ、ありがとうございます……」ガシッ
司令(……) ピクッ
国王「平気かい? その体で人一人支えるのは」
侍「こいつは軽いから無理ではない」
エルフ「も、もう立ち上がれたから平気ですわ」
侍「無理するな。最後の一撃で、だいぶ神経刷り減らしただろ」
エルフ「それはそうですが――」
――ニゲテ!
エルフ「え?」
国王「二人とも後ろだ!」
侍・エルフ「!」
司令「ぬおおおおおお!!」バッ
侍「ちっ!」バッ
エルフ「侍さ――」
――シュッ ドスッ
司令「かっ……」
侍「!」
国王「ナイフ……てことは」
エルフ「おいしいところを持っていきましたわね。ありがとう、メイドエルフ」
メイドエルフ「あの日に誓ったことを実行しただけです、お嬢様。皆様、ご無事で何よりでした」ペコリ
エピローグ
一ヶ月後
将軍「ぬおおっ!」
侍「はぁっ!」
――ギィンッ
エルフ「またやってますのね。あの二人」
メイドエルフ「この一月で28戦28引き分けですから。双方とも、意地でも1勝を得ようと日に日に激しくなってますね」
エルフ「それもあるんでしょうけど、勝ち負けよりも、ただ互いに闘いたくて闘かっているように見えますわ」
騎士「それも正解でしょうね」
メイドエルフ「あら、いつの間に」
騎士「お二人とも、猛者との戦が好きな手合いですから。純粋に楽しんでいるんだと思いますよ」
エルフ「わざわざ解説するために現れましたの?」
騎士「……やっぱり扱い酷いですね」
メイドエルフ「宿命だと思って諦めてください。で、本題は?」
騎士「陛下に、侍殿を呼んでくるよう命じられまして」
エルフ「侍さんを?」
騎士「はい。なんでも、彼の国から侍殿宛てに文が届いたとか」
王城 執務室
侍「……ふむ」
国王「ま、そういうわけらしいよ」
侍「そろそろ来る頃かとは思っていたがな」
国王「僕としては、このままうちに君をスカウトしたいところなんだけどねぇ」
侍「無茶言うな。俺の主君は故郷にいるんだ」
国王「わかってるさ。言ってみただけだよ。で、いつ発つんだい?」
侍「ここから港まではどのくらいなんだ?」
国王「馬車を使えば半日かからないよ」
侍「ならもう少し余裕がある。あと二日は居られるだろう」
国王「それにしたって急な話だけどね」
侍「こればかりは仕方がないんだ。いつまでも国を離れているわけにもいかないからな」
国王「ごもっともで。ところで、あの話については考えてくれたかな?」
侍「……エルフのことか」
国王「そ。正式にあの子の母親を僕の妃として迎えた今、あとの心配はやっぱりあの子のことだからね」
侍「あいつも王女として迎えればいいだろ」
国王「それも考えてはいるよ。君が断った場合だけど」
侍「……」
国王「ただその場合、あの子が本当の意味で幸せになれるかは正直微妙だね。いろんなしがらみがついて回ることは間違いないし」
国王「何より、場合によっては政略の道具として扱わざるを得なくなることもある」
侍「王族故に、か……」
国王「あの子をそんな風に扱いたくないからね。これまで辛い目に合い続けてきたんだ。そろそろ人並の幸せを掴んでもいい頃でしょ」
侍「それは」
国王「もっとも、君には君の気持ちがあるからね。もちろん無理にとは言わないんだけど」
侍「……」
国王「ま、出発までに答えを出してくれればいいから。あの子にね」
侍「あいつの気持ちは――」
国王「今更確認するまでもないでしょうよ。君だってね」
侍「……」
国王「ま、さっきも言ったけど強制じゃあない。時間はあまりないけど、もう少し考えてみてよ」
夜 屋上
侍「……」
エルフ「あら。こんなところにいたの」
侍「ん? ああ、星を見ていた」
エルフ「星? あなたが?」
侍「似合わないか?」
エルフ「そういうわけじゃ。それより」
侍「ん?」
エルフ「あなたの国から文が届いたそうだけど」
侍「ああ」
エルフ「内容を聞いても?」
侍「……」
エルフ「あ、答えられないのなら別に――」
侍「帰国命令」
エルフ「……え?」
侍「そろそろ帰ってこいとさ。うちの殿様からな」
エルフ「い、いつまでに……」
侍「船旅が長くなるから、ここにいられるのはあと二日だ」
エルフ「二日……」
エルフ(そんな……たったそれだけなんて)
侍「殿からの命令だからな。無視することはできない」
エルフ「で、でも、いきなりあと二日だけなんて……」
侍「……ちょうどいい、か」ボソッ
エルフ「?」
侍「お前は、これからどう生きるつもりなんだ?」
エルフ「え?」
侍「この国の王と、正式に妃となった母君の娘なんだ。王女として生きる選択もあるだろう」
エルフ「それは考えられないわ。今まで騎士として生きてきたのに、そこからいきなり王女なんて言われても」
侍「ならどうする?」
エルフ「それは……人間の血が流れているとはいえ容姿はエルフ族だから、この国の騎士団に入っても浮くだろうし、まだ決めていないけど……」
侍「そうか」
エルフ「今はあたしのことよりあなたのことよ。二日なんかじゃゆっくり……お別れもできないし……せめてもう少し」
侍「それなんだがな」
エルフ「はい?」
侍「あれだ。その、良ければなんだが……お前も一緒に来ないか?」
エルフ「え?」
侍「エルフの国との戦の前に、国王から頼まれたことがあってな」
エルフ「頼まれたこと?」
侍「ああ。良ければお前のこと貰ってくれってな」
エルフ「………………は?」
侍「だけど、頼まれたとかそんなことは関係なく……ええと……ええいもう単刀直入に言うぞ! エルフ!」
エルフ「は、はい!?」
侍「嫁に来い!」
エルフ「よ、嫁!?」カァッ
王妃の部屋
エルフ母「あら、良かったじゃない。ちょっとムードは足りないけど、侍さんらしいと言えばらしいプロポーズだわ」
エルフ「それは、そうですけれど……」
エルフ母「あら、嬉しくないの? 彼のこと、好きなんでしょう?」
エルフ「……メイドエルフに聞きましたの?」カァッ
エルフ母「ばかね。そんなの、聞くまでもなくわかるわよ。普段のあなたを見ていればね」
エルフ(そんなに態度に出ているのかしら……)
エルフ母「でも、その割には本当にあんまり嬉しくなさそうね」
エルフ「いえ、嬉しいです。すごく。ただ」
エルフ母「急な話な上に、外の国で生きていくのが不安?」
エルフ「……はい」
エルフ母「なるほどね。それは無理もないかしら」
エルフ「わたくし――あたしだって、侍さんと一緒に生きたい。でも、そうするとお母様やメイドエルフとお別れすることになるし……」
エルフ母「確かに、会える機会はぐっと減るわね。でも、別に一生というわけでもないでしょ」
エルフ「そうなんですが……」
エルフ母「そうね……。私とあの人がどこで出会ったか教えてあげましょうか」
エルフ「え?」
エルフ母「私たちはね。この国でもエルフの国でもない。もっとずっと遠くの地で出会ったの」
エルフ「遠くの地で……」
エルフ母「そう。エルフ族の人間嫌いは昔から相当なものだったから。お転婆でよく国を抜け出しては人間の良い所も見ていた私には窮屈で仕方なかったの」
エルフ母「だからあなたと同じくらいの歳のときに、ついに家出してね。いろんな国を旅して回ったわ」
エルフ「そう言えば、あの人も放浪癖が酷いとか」
エルフ母「私には別に放浪癖はないけど。彼は当時から、というより、当時はもっとすごかったわね。何せ、私と出会ったのが極東の国だったのだから」
エルフ「極東……って、まさか!」
エルフ母「そう。侍さんの故郷よ。当時は鎖国していたけど、家のツテを勝手に利用して入国したの」
エルフ「侍さんの……」
エルフ母「あそこは本当に珍しい国でね。だから異国の者同士、すぐに意気投合したのよ。それが私とあの人の出会い」
エルフ母「その後一緒に旅をして、恋をして、そしてあなたを授かった」
エルフ母「その後は、あなたも知っての通りよ」
エルフ「そう、だったんだ」
エルフ母「今にして思えば、親子揃って極東の国とは縁があるのよね。私とあの人が出会い、そしてあなたがあの国の男性に恋をした」
エルフ「……」
エルフ母「まあ、色々話したけど、最終的に判断するのはあなたよ。だから参考までに、同じ女としてアドバイスしてあげる」
エルフ母「愛する人と離れ離れになるのは、辛いものよ」
エルフ「お母様……」
王妃の部屋前
メイドエルフ「……これは、忙しくなりそうだわ」
二日後 港
侍「長い間世話になった」
国王「礼を言うのはこっちの方さ。君がいなかったら、今こうして立っていることはできなかっただろうしね」
エルフ母「娘も、きっと最初の戦で命を落としていたでしょう。本当に、なんてお礼を言えばいいのか」
侍「いえ。自分がそうしたかっただけですので」
エルフ母「それでも言わせてください。本当にありがとうございます。そしてこれからも、娘をどうぞよろしくお願いします」
エルフ「お母様……」
侍「はい。若輩の身ではありすが、これからも必ず守り通してみせます」
国王「僕からもお願いするよ。で、孫ができたらぜひ見せに来てくれたまえ」
侍「はは。そのときはもちろん」
エルフ「……」カァッ
将軍「達者でな、侍よ。更に精進しろよ」
侍「ああ。30戦30分け。次に闘うときは、俺が勝ってそのまま勝ち逃げさせてもらう」
将軍「ふっ。むざむざ勝ちを譲る気は無いが、そうなったらそれもまた良し」
騎士「お二人とも、どうぞお元気で!」
侍「いたのか」
エルフ「いたんですのね」
騎士「はーいわかってましたー。最後までこうだってわかってましたー」
侍「ははは。冗談だよ。ありがとうな」
エルフ「ふふ。あなたもお元気で。お母様と……その、お父様のこと、よろしくお願いしますわ」
騎士「あ、はい! お任せを!」
国王「お。初めて父と呼んでくれたね」
エルフ「……最後くらいはちゃんとしますわよ。もうお母様を離したらいけませんわよ?」
国王「ああ、わかってる。元気でね、エルフ」
エルフ「ええ。お父様も」
エルフ母「エルフ。体に気を付けて。向こうでも侍さんと仲良くね」
エルフ「はい。お母様も、お父様と今度こそ幸せになってください」
エルフ母「ええ。ありがとう」
――ブオー
国王「お、そろそろ出港か」
エルフ「でも、まだメイドエルフが……あの子はまだ来ませんの?」
侍「少し遅れていくとは言っていたが」
エルフ母「大丈夫。船に乗ればわかるわ」
エルフ「え?」
国王「さ、船に乗りなよ」
侍「あ、ああ。それじゃあ、行こう。エルフ」
エルフ「え、ええ……」
侍「では、これにて御免。またいつか」
エルフ「お母様、お父様も。またね」
エルフ母「ええ。またね」
国王「達者でね。元気な赤ん坊を産むんだよ」
エルフ「もう、最後までそればっかり……でも、わかりました」
侍「それでは」
出港後 船上
エルフ「……船に乗ればわかるって……」
侍「なるほど。確かにわかった」
メイドエルフ「はい♪ わたしも一緒に着いていくことになりましたので、先に乗ってお待ちしておりました♪」
侍「母君に言われたのか?」
メイドエルフ「いいえ。わたし自ら申し出たんです。お城にメイドはたくさんいますけど、お嬢様の側には一人もいなくなりますから」
エルフ「ま、まあ、確かにあなたが一緒なら心強いけど」
メイドエルフ「二人きりになれなくてちょっと残念ですか?」
エルフ「べ、別にそんなことはありません!」カァッ
メイドエルフ「とにかくそういうことですので、お嬢様共々、よろしくお願いしますね。お侍様」ペコリ
侍「はは。ああ、よろしく頼む」
エルフ「そ、それではあたしも……」コホンッ
侍「ん?」
エルフ「今後とも、末永くよろしくお願いいたします。あなた」
―終―
612 : 以下、名... - 2012/06/10(日) 20:38:46 L9/NjDn2 385/385
以上です。
まさかこんなに長くなるとは思わなかった。
皆様、ご支援本当にありがとうございました。