男「この資料を処理しとけばいいんですよね?」
生徒会長「うん、お願い」
男「はーい」
生徒会長「…………」
男「……ん? 会長、どうかしましたか。じっと見たりして……僕の顔に何かついてます?」
生徒会長「目と口がついてる」
男「やべぇ、鼻がどっかいってる」
生徒会長「鼻も」
男「それはよかった。じゃ、もらった案件片づけちゃいますね」
生徒会長「…………」
男「…………」
生徒会長「…………」
男「…………」
生徒会長「…………」
男「…………」
生徒会長「…………」
男「…………」
生徒会長「男君」
男「なんでしょ」
生徒会長「額の肉の字は……趣味?」
男「それ最初に教えてくださいよ!?」
元スレ
生徒会長「……男君」 男「かしこまりー」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1368706036/
男「くそぅ、まさかの油性。どうせ友だろうから、明日きつく言っておかないと……」
生徒会長「いつも仲良し」
男「いつも僕は困らされてますけどね。これ、いつ書かれたんだろう……どうりで今日は周りで不自然なくらい笑顔が溢れてたわけだよ……。会長がいつも通りだから気づかなかった……」
生徒会長「そのまま?」
男「まさか。でも、顔を洗ってきても落ちないし、前髪で隠すしかないかなぁ」
生徒会長「……男君」
男「なんでしょ……ってそれは櫛ですか? そういう昔のお姫様が使うようなやつ、僕初めて見ました。とてもお高そう」
生徒会長「私の」
男「素人目に学生が持ってる代物じゃなさそうですが、会長のものだと知ると不思議と違和感がなくなります」
生徒会長「宝物」
男「珍しくドヤ顔。……ところで会長、ここでそれを取り出したということは」
生徒会長「前髪、この櫛を使えばいい」
男「やっぱりそうですか。いいですよ、汚くなっちゃいますから」
生徒会長「……!」
男「えぇ!? どうしてここで傷ついた顔を!? なぜぇ!?」
生徒会長「…………私が使った櫛なんて、ばっちいよね。ごめん、さない」
男「えぅあちょま、違います! 汚いのは僕の方です! ほら、今日体育あったし! 走り高跳びで顔面から砂場に突っ込んだんですよ! それはもう砂被りですよ! それに引き換え、会長の髪ときたら烏の濡羽色と言うべき綺麗な髪でして! もうあれだよね、会長の髪に顔埋めたいよねと言いますか! だから……」
生徒会長「じゃあ、はい」
男「この人、打って変わっていつもの無表情だよ。僕の緊張と焦りはなんだったのか」
生徒会長「女はみんな女優」
男「って、女先輩が昨日言ってましたね。身を以って知りましたよ。くそぅ」
男「はぁ……まぁ、ご好意自体はありがたいので、素直にお借りし……」
生徒会長「…………」
男「お借りしま……」
生徒会長「…………」
男「……会長、僕が砂を被ったことを聞いて、貸すのが嫌になりましたか?」
生徒会長「そんなことない」
男「では、どうしてお櫛様は私めの手からお逃げになるのでしょうか」
生徒会長「男君」
男「はい」
生徒会長「ここ」
男「ニーソックスとスカートからなる、会長の絶対領域がどうかなさいましたか?」
生徒会長「ぜったいりょういき……?」
男「なんでもございませぬ。お忘れくだされ」
生徒会長「口調が変」
男「おっと……それで、膝がどうかしましたか?」
生徒会長「座って」
男「はい? 『僕』が『会長』の膝の上にですか?」
生徒会長「うん」
男「……また不思議なことを言い出した」
生徒会長「早く」
男「いやいや、体格差を考えて下さいよ。僕は一年生男子の平均くらいですが、会長は二年生女子の平均より……えっと、小柄じゃないですか」
生徒会長「だから?」
男「学年成績トップとは思えない切り替えしだぜ。普通に考えて、会長が潰れちゃいますよ」
生徒会長「やってみなくちゃ分からない」
男「そのチャレンジ精神は素直に好感を覚えますけどね」
男「百歩譲って、仮に会長が僕の重みに耐えられるとしても、僕の方に心理的抵抗があるんですが」
生徒会長「……嫌なの?」
男「女の子の上に乗るのが好きだぜぇ、いぇーい! っていう男もどうかと」
生徒会長「そう……」
男「残念そうな顔をしてもだめです。まだ逆ならともかく……」
生徒会長「逆?」
男「はい。会長が僕の膝の上に来るなら……あ」
生徒会長「なら、そうする」
男「ちょま、前言撤回……来るのはぇええ! って、待って、本当に待って! ストップ! フリーズ!」
生徒会長「……なに?」
男「この吐息が顔にかかるような状況に、どうして疑問を抱かない!? 膝の上って、椅子代わりにする感じじゃなかったの!? どうして向かい合ってるの? なぜぇ!?」
生徒会長「男君、そんなに大きな声で言わなくても聞こえる」
男「そりゃこんだけ近ければね! 会長、マジ、本当、真剣に、それ以上こっちに、密着しないで下さいね? というか、すぐに降りてください! 僕の理性が保たれている内に!」
生徒会長「理性……? 男君、顔赤い。大丈夫?」
男「おでことおでこを合わせようとしてますが、絶対にやらないで下さいね? やったら僕、来世分を上乗せしてでも悪魔に魂を売り渡します」
生徒会長「変な男君。……ふふっ」
男「あれ、天使? 僕の目の前にいるの天使?」
生徒会長「何を言ってるの?」
男「あ、会長だった。貴重な会長スマイルがあまりにも破壊力ありすぎて、天使かと思っちゃいましたよ」
生徒会長「男君がいつも以上に変なことを言っている」
男「えぇ、会長が僕の膝の上にいる、こんなことでも言ってないと、女の子ってやわらかい、とても理性が保てそうに、やべぇ良い匂いがする、ないんですよ」
生徒会長「支離滅裂」
男「限界間近のようです……」
男「はぁっ……はぁっ……あと十秒でも降りるのが遅かったら、僕は明日退学になっていたかも知れない……」
生徒会長「よく分からない」
男「会長って奇跡的なくらい純粋ですよね。……もしかして、今回も女先輩からまた変な指令を与えられてたりしますか?」
生徒会長「違う」
男「ならば完全なる天然攻撃だったのか。会長、恐ろしい人……! じゃあ、どうして膝の上に?」
生徒会長「……髪」
男「かみ……って、髪ですか。そういえば前髪……それと櫛の話をしてましたね。辛くて幸せな時間のせいで、すっかり忘れてました。それがさっきの状況とどう繋がるんです?」
生徒会長「櫛で梳く」
男「あ、はい。ですから貸していただけるなら……」
生徒会長「貸さない。これはとても大切なもの」
男「宝物、って言ってましたもんね。じゃあ、やっぱり手でなんとか頑張りますよ」
生徒会長「私の櫛、やっぱり使いたくない? ばっちい?」
男「えー……。会長、もはや互いが違う言語で話しているかのように、会話がかみ合ってないんですが」
生徒会長「嘘をつく人は嫌い」
男「冤罪ってこういう風に成り立つんだろうな。一つ賢くなった」
生徒会長「……代案。ここ、座って」
男「椅子を並べてるところを見ると、つまりは向かい合っていればいいんですか?」
生徒会長「結果的には」
男「なら、最初からそうしましょうよ……」
生徒会長「…………」
男(椅子に座ってお互いに向かい合う。櫛を使うけど貸してはくれない)
生徒会長「…………」
男(その答えがこれか)
生徒会長「…………ふふっ」
男(ははっ、人の髪を弄ってるだけなのに楽しそう。やっぱり会長は変な人だな)
☆☆その一 終わり☆☆
■■その二■■
生徒会長「間違えてる」
男「え? あぁ、昨日集められたやつですね。……確かに、これとこれはちょっと違いますね。明日にでも返して、再提出をお願いしておきますよ」
生徒会長「私が……」
男「いいですよ。ちょっと用事があるので、ついでに渡しておきます」
生徒会長「そう……」
男「はい。では、こっちはパソコンで作業してるので」
生徒会長「…………」
男「…………」
生徒会長「…………」
男「…………」
生徒会長「男君」
男「なんですかー?」
生徒会長「パソコン、便利?」
男「もう便利という次元を超えてます。今じゃなんでもパソコンの時代ですからね。会長、そろそろ機械音痴を克服しますか? 教えますよー」
生徒会長「……また今度」
男「わかりましたー」
生徒会長「…………」
男「…………」
生徒会長「男君」
男「なんですかー?」
生徒会長「ほっぺの三本髭はファッション?」
男「それ二時間前に会った際に教えてくださいよ!?」
男「友のやつ、懲りずに二度もやりおって……許さん、絶対に許さんぞ……」
生徒会長「どうして気づかないの?」
男「え?」
生徒会長「書かれてること」
男「あぁ、えっと、その……多分、寝ている間にやられてるからかと」
生徒会長「寝ている間?」
男「うへぇ、会長のその『どうして学校で寝ている瞬間があるのか』という心底不思議そうな表情が、怒られるよりも辛いものがありますね」
生徒会長「学校で寝てる暇なんて……」
男「授業中に寝落ちしている学生なんていませんよね、ええ。退屈な授業でも学生なら真面目に取り組むものですよね!」
生徒会長「…………?」
男「そんなの当たり前って顔されたー!」
生徒会長「変な男君……」
男(きっと会長の目には机に突っ伏している生徒は、体調が悪いか、そういう勉強スタイルなのだと映ってるんだろうな……)
生徒会長「お髭、猫さんみたい」
男「はい?」
生徒会長「にゃー、にゃー」
男「……なんて、こった。ただでさえ女の子がにゃーって言うのは可愛いのに、狙いのない不意打ちだと……!?」
生徒会長「男君、次はこれ……」
男「にゃー」
生徒会長「……? 男君、次はこれにゃー」
男「はい、喜んで!」
生徒会長「?」
■■その二 終わり■■
■■その三■■
体育教師「おー、生徒会長。昼前の四限だったのに、ナイスな走りだったぞー」
生徒会長「……ご用ですか?」
体育教師「よく分かったな」
生徒会長「大体、そうなので」
体育教師「はははっ、お前は他の先生達からも頼りにされているからな」
生徒会長「…………」
体育教師「おっとそうだ、用件用件。実はだな、体育倉庫の備品調査を頼みたいんだが」
生徒会長「……体育委員の管轄では?」
体育教師「あいつらは身体を使う仕事ならともかく、頭を使う仕事は向いてないのばかりなんだよ」
生徒会長「……分かりました」
体育教師「おお、そうか! いやぁ、やっぱり生徒会長は仕事を頼みやすくて助かるよ。じゃ、今日はもう体育の授業ないし、この鍵を預けておく。放課後にでもやっておいてくれ」
生徒会長「……はい」
体育教師「それじゃ、頼んだからな~」
生徒会長「…………ふぅ」
生徒会長(体育倉庫。重い物あるだろうし、一人ですぐに終わるかな……。他の仕事もあるのに……)
男「あっ、会長お疲れ様ですって、うひょー! ジャージに着替えた上に、髪を後ろで縛ってる会長だぁあ! 学年違うからこそ、貴重度が鰻登りだぜぇ!」
生徒会長「…………男、君?」
男「はい、僕ですよー。まったく、こういう仕事を女の子一人にさせるとかありえんですよね」
生徒会長「なんでいるの?」
男「なんで、って備品調査があると聞いたからですよ」
生徒会長「私、今日は仕事ないから帰っていいと、昼休みに教室へ行って友君に伝言頼んだ。男君、いなかったから」
男「はい、ちゃんと友から聞きましたよ。すみません、あの時は空けていて。というか、携帯持ってるんですから、いい加減メール機能使いましょうよ。携帯が泣いちゃいますよ? 今度教えます」
生徒会長「聞いているなら、なんで……?」
男「……嘘が下手なんですよ、会長は。いつも忙しそうにしてるのに今日だけ何もないなんて、おかしいと思いに決まってるじゃないですか。ちなみにおかしいと思って調べた結果、ここにいるという訳です」
生徒会長「…………うぅ」
男「それで、どうして嘘が嫌いな会長が、あるものをないと言ったんですか?」
生徒会長「……最近、男君に頼りっぱなしだから一人でやろうと思って。それに、私に任された仕事だし」
男「……そういうことでしたか」
生徒会長「うん、だから今日はもう帰ってゆっくり……」
男「会長」
生徒会長「なに?」
男「お馬鹿さん!」
生徒会長「え……?」
男「会長の気持ち、僕、嬉しいです。感動しています。けど、喜べないです。言い方は大げさかもしれませんが、会長の自己犠牲の上で成り立つ労いなんて、僕は欲しくないです」
生徒会長「……」
男「生意気なことは分かってます。自分勝手なのも承知の上です。でも、やっぱり僕は嫌なんですよ。会長が一人で仕事をするのは」
生徒会長「けど、私は――」
男「始めてあったあの日にした約束、忘れましたか?」
生徒会長「!」
男「僕を嘘つきにしないでください。じゃないと、僕は嘘が嫌いな人に嫌われてしまいます」
生徒会長「男君……」
男「それに休めということなら、会長の傍にいることが僕にとっての安らぎになりみゃふゅ」
生徒会長「……みゃふゅ」
男「ちくしょぉおおお! いいところで噛んだぁ!」
生徒会長「似合わない言い方をしようとするから」
男「ですよねー。キザ路線は自分でもあってないと思いました」
生徒会長「…………ふふっ」
男「あー、もう。とにかく、会長は変に遠慮なんかしないで下さい。むしろ、された方が逆にこっちは気にしますので」
生徒会長「……分かった。嘘ついてごめんなさい」
男「いいですよ。僕に気を使って下さっただけのようですし。さて、ちゃっちゃっと備品調査終わらせてしまいましょう。それで、お茶でも飲みましょう」
生徒会長「……はい。お手伝い、よろしくお願いします」
男「かしこまりー」
■■その三 終わり■■
■■その四■■
生徒会長「男君」
男「お? あ、会長だ。こんにちは」
生徒会長「……髪はボサボサ、制服もぐちゃぐちゃ」
男「いやぁ、うちの購買って漫画みたいに混み合うじゃないですか。スタートダッシュを決めて一番で買えたんですが、あとから来た学生の波にぶつかりましてね……」
生徒会長「……今度改善案を考える。手、いっぱい」
男「約千円と三百円分ですからね。入手難易度最高値のカツサンドを始め、いろいろありますよ」
生徒会長「……普段から千円以上も買ってるの?」
男「そんなリッチな生活には憧れますが、小市民の僕には縁遠い話です。違いますよ、今日は事情ありです」
生徒会長「事情……?」
男「えーっと、あー……」
生徒会長「……言いづらいこと?」
男「あわわ、深刻なことじゃないんで、気まずそうな顔しないで下さい。……実は、友のやつと時間があれば学校で将棋をしておりまして」
生徒会長「将棋?」
男「はい。それでですね、その、なんと言いますか。勝負事として互いの力を引き出すために、負けた側には罰が定められておりまして」
生徒会長「罰……」
男「そうです。内容というのが、負けたほうが買った方のご飯を奢るというもので――――はい、そうですよね。学生が賭け事とかしてはいけませんよね。会長の半眼は可愛らしいですが、堪えるものがありますのでどうか勘弁して下さい……」
生徒会長「千円も賭けて……いつも?」
男「あ、いえ、今回は合計百五十戦目ということで、千円は今回のみの限定価格となっております」
生徒会長「ふぅん……」
男「勝率は僕のが圧倒的に高いのに、友はここぞという時に強かったりするんですよね。いやぁ、参った参った」
生徒会長「男君」
男「は、はい、なんでしょう?」
生徒会長「つまり、最低でも百五十回は賭け事を?」
男「やべぇ、墓穴を掘った」
生徒会長「だめ」
男「腕を掴まれると戦利品がっ! 始めてみる怒った顔の会長が、こんな状況になるとは……」
生徒会長「男君?」
男「……ごめんなさい、もうしません」
生徒会長「ん」
男「…………」
生徒会長「…………」
男「……あの、会長」
生徒会長「?」
男「そろそろ手を離していただけませんか?」
生徒会長「だめ」
男「なぜぇ!? 反省してますから、どうかお許しを」
生徒会長「こっち」
男「これが強制連行ってやつか。我が人生に体験の時がくるとは、な……」
生徒会長「ちゃんと歩く」
男「あ、はい、ごめんなさい」
男(人気のない裏庭に連れてこられた時は、てっきり場所を変えて叱られるのかと思ったけど)
生徒会長「…………ふふっ」
男(会長はだらしなく乱れた僕の制服を正し、ネクタイを締めてくれた。乱れる前よりもきっちりしているくらいだ。そして、今は僕をベンチに座らせると前に立ち、いつぞやの櫛を取り出して髪を梳いてくれている)
生徒会長「~~~~」
男(どうしてご機嫌なのか、いつも櫛を持ちあるいているのか、と疑問は尽きないけれど)
生徒会長「~~~~」
男(空気に溶けてしまいそうなメロディだけの小さな歌。そして、楽しそうな会長の姿に不思議と居心地の良さを覚えて、僕は黙ってこの時間に身を委ねるのだった)
男「というわけで、そのまま自然な成り行きで会長とお昼してきた。これ残りね」
友「ざっけんな! もう五限始まるわ! ていうか、せめてカツサンド残しとけよ!」
■■その四 おわり■■
■■その五■■
生徒会長「戻りました」
男「おかえりなさい。科学の先生でしたっけ、呼び出しがあったの」
生徒会長「うん、カマキリ先生」
男「また変なあだ名を……どうせ女先輩発祥なんでしょうね。んで、用件はなんだったのかお聞きしても?」
生徒会長「実験室の道具を大切にしない生徒が多いので、何かしらの対策をとって欲しい」
男「って、言ってたんですか。……それって生徒会の仕事なんですかね? カマキリ先生自身が呼びかければいいと思うんですが」
生徒会長「生徒会は、学校と生徒の架け橋だから……」
男「そうは言っても、わざわざ呼び出した結果が雑用の上乗せですよ? いくらなんでも限度があります。カマキリ先生は気の弱い方ですら、体よく注意を会長にやらせようとしているだけとしか思えません」
生徒会長「男君、でも……」
男「……引き受けちゃったんですよね。言っても仕方ないか。会長、あんまり何でもかんでも頷くのはよくないですよ」
生徒会長「……うん」
男「……まぁ、この件にもう関してはいいです。処理してしまいましょう。生徒会からの対策としてはポスターの張り出しと、月一の朝会で話すということでいいですか?」
生徒会長「それで、お願いします」
男「ポスターに関しては美術部の方に依頼しておきます。簡単なものなら、多分引き受けてもらえるので」
生徒会長「大丈夫、なの?」
男「実はこういう時のために、前々から部長さんとお話してありまして。簡単なものでよければ一年生部員の練習になるので、むしろ進んで依頼を受けてくださるそうです」
生徒会長「いつの間に……」
男「こうやって生徒会の仕事に携わるようになって、やっぱり人脈作りって大事だなと思う日々ですよ」
生徒会長「男君、凄い」
男「うへへ、会長からの尊敬の眼差しで、鼻がぐんぐん伸びていく気がします。それで、間接的には学校からの依頼とはいえ、生徒会からお願いをするわけじゃないですか。だから、ちゃんとお礼を言おうと思うんですよ」
生徒会長「大事」
男「ですです。そこでやっぱり会長からお礼を伝えるべきだと思うんですよね」
生徒会長「でも、知り合いなら男君からのお礼がいいんじゃ……?」
男「いえいえ、やっぱりここは長たる会長の方がいいですって。便箋を用意しますので、書いていただけませんか?」
生徒会長「お礼なら、直接言った方が……」
男「それはだめです。あっちがもたないので」
生徒会長「?」
男「こっちの話です。相手の方も忙しいと思いますので、手紙の方が都合がいいんですよ」
生徒会長「そう……。なら、私、頑張って書く」
男「はい、その意気です。これが便箋です」
生徒会長「うん」
男(…………これで契約完了ですね、美術部部長さん。なんでもいいから会長の直筆の手紙が欲しいとは、マニアックな交換条件だ)
男「あ、会長。もっと他人行儀な感じでいいですよ。お礼状なんですから、殿とかでいいです」
生徒会長「うん、わかった」
男(まぁ、気持ちはわかっちゃうんですけど)
■■その五 終わり■■
■■その六■■
男「会長、例のグランドの話……運動部が争っている問題に対して、解決策の草案を作ってきました。後で目を通しておいてもらっていいですか?」
生徒会長「うん」
男「それと、吹奏楽部の方から上がってきていた話ですが……」
生徒会長「できてる」
男「流石ですね――――はい、確認しました。吹奏楽部の部長さんには、月曜日に僕から渡しておきます」
生徒会長「任せた」
男「かしこまりー」
生徒会長「狐先生の……」
男「狐? ……あぁ、教頭先生からの依頼のことですか。そっちは各委員会の方へ通達済みです」
生徒会長「何か問題、あった……?」
男「特には。根回しをしっかりやっといたので」
生徒会長「ん……」
男「…………」
生徒会長「…………」
男「……会長」
生徒会長「…………なに?」
男「今、十五時なのを知ってます?」
生徒会長「知ってる」
男「十二時頃に僕がご飯食べておくように言ったの覚えてます?」
生徒会長「…………」
男「会長、人と話をする時は目を合わせましょう」
生徒会長「…………ちゃんと食べた」
男「目がめちゃくちゃ泳いでますが。では、何を食べました?」
生徒会長「……サンドウィッチ」
男「何処のです?」
生徒会長「え?」
男「ですから、何処で買ったものですか?」
生徒会長「こ、購買……」
男「普段行かないから知らないみたいですね。今日、土曜日は授業が昼までなので、購買はやっていませんよ?」
生徒会長「…………あぅ」
男「……昨日、僕は散々言いましたよね? 明日残って生徒会の仕事をするなら、お昼を持ってこなきゃだめですよって」
生徒会長「あぅあぅ……」
男「約束もしましたよね? お昼を食べなきゃ仕事をしちゃいけないって」
生徒会長「そ、そうだった、け?」
男「指きりまでしたの会長じゃないですか」
生徒会長「男君、何故か顔が真っ赤になってた。可愛かった」
男「なんでそんなことは覚えてるのに、肝心の内容は覚えてないんですか! それとその件は忘れてくださいお願いします!」
生徒会長「でも、仕事……」
男「ご飯が先。なんなら、今日は帰ってもらってもいいんですよ? あとは僕が残ってやっておくので」
生徒会長「それは、できない」
男「……まぁ、そうでしょうね。はぁ、こうなると思ってましたよ。はい、これ」
生徒会長「……これは?」
男「コンビニのですが、パンです」
生徒会長「買っておいて、くれたの?」
男「念のためにです。仮に会長がちゃんと持ってきていた場合、自分のおやつにすれば良いだけですから」
生徒会長「……いいの?」
男「針を千本飲ませるなんて、鬼畜なことしたくないので。食べるまで仕事はなしですからね?」
生徒会長「はい。あっ……お金」
男「いいですよ、それくらい……と言っても会長は引き下がらないと思うので、ここは素直に受け取っておきます。袋の中の好きなやつとって、その分のお金をそこに置いといてください」
生徒会長「分かった」
男「……僕はまたパソコンでやる作業を進めておくんで」
生徒会長「…………」
男「…………」
生徒会長「…………」
男「…………」
生徒会長「…………」
男「…………」
生徒会長「……ごめんなさい」
男「…………」
生徒会長「……男君、怒ってる」
男「そうですね、否定はしません」
生徒会長「…………ごめんなさい」
男「僕が怒ってる理由、わかってますか?」
生徒会長「……わかってる」
男「なら、いいです」
生徒会長「……男君」
男「はい」
生徒会長「ありがとう」
男「……はい」
■■その六 終わり■■
■■その七■■
男「ただいま戻りましたー」
?「ほう、おのれがわしの愛しい会長ちゃんにまとわりつく、男ってやつか」
男「ん?」
?「ええ度胸じゃないか。あぁ!? 二人の逢引を邪魔しようっていうのに、そないな気の抜けた態度で登場とはのぉこら」
男「あ、二学年成績二位だ。方言がめちゃくちゃですよ、女先輩」
女先輩「今日の男はノリが悪いな」
男「今日、というか今は仕事中なので」
女先輩「ふん、そんなこと言って。会長ちゃんが何かした時はノリノリになるくせに」
男「会長は別にふざけてるわけじゃないですからね。女先輩と違って」
女先輩「実は失礼だよな、君」
男「……会長はいらっしゃらないんですね。目を通しておいてもらいたい書類を預かってきたんですが」
女先輩「スルーか……ま、いいが。狐が来て連れていってしまったんだ。そう、私と会長ちゃんは無理やり引き離され、悲哀を味わっているんだよ……」
男「女先輩は会長待ちですか……ん? 狐って教頭先生ですよね? もしかして荷物運びっぽいこととか言ってましたか? あの先生、自分が面倒な話をすぐ持ち込んでくるんですよ」
女先輩「いや、文化祭実行委員達が揉めてるらしく、収拾つけるためにリーダー的な存在が欲しいようだった」
男「場合によっては荷物運びより厄介な案件か。……この学校は会長を便利屋か何かと勘違いしている人が多すぎる」
女先輩「ははっ、実際、会長ちゃんはなんでもやれてしまってるからね。容姿端麗、成績優秀、文武両道、品行方正。冗談みたいに絵に描いたような優等生だ。みんなが頼るし、みんながあの子に任せれば、万事解決だと思ってる」
男「そうですね。僕もそう思いますよ」
女先輩「……本気でそう思っているかい?」
男「まさか。そんな訳がない」
女先輩「だろうな。君はそうだろうさ」
男「わざわざ聞くまでもないというやつですよ」
女先輩「愚問だったね、忘れてくれ。……しかし、私達ってこうしてちゃんと話すのは初めてじゃないか?」
男「そうでしたっけ? ……いや、そうですね。お互い会長を通して顔は知っていましたが、まともに話したのはこれが初めてですね」
女先輩「私は会長ちゃんの後輩という覚え方」
男「僕は会長のお友達って覚え方です」
女先輩「あとは廊下ですれ違う時にやる、さっきみたいな三文芝居くらいだね」
男「やめてくださいよ、あれ。やってるの友人に見られる度、からかわれてるんですから。顔見知り程度の相手にやることじゃないですって」
女先輩「その割には、毎回ノリノリに見えたけど?」
男「そう見えるだけですよ。小心者なので注目が集まるのは恥ずかしい限りです。……っと、そろそろ会長のフォローに行ってきます」
女先輩「あいよ。留守番は任せておきなさい」
男「お願いします。用のある人が来たら、今日の生徒会は店じまいなので、急ぎの用がある人は扉の番号へ連絡するように伝えてください」
女先輩「店じまいって、もう戻ってこないってこと?」
男「いやいや、会長連れて戻ってきたら、今日はすぐに解散するってことですよ」
女先輩「なるほどね。ちなみに扉の番号って?」
男「僕の携帯の番号です。では、よろしくお願いします」
女先輩(……くく、注目が集まるのは恥ずかしい限り、ね。よく言うよ男君)
■■その七 終わり■■
■■その八■■
友『お、見ろよ、男』
男『そうやって視線を逸らさせた後に、銀と角の位置を変えるつもりなのはお見通しだよ』
友『お前って、もしやエスパー?』
男『冗談だったんだけど……』
友『誘導尋問だ! ちっ、いいさいいさ、今日のところは俺の負けでよぅ』
男『これで五戦四勝目、だっけ。将棋が得意って言って、持ってきたの友の方なのに……』
友『うっせ! それよりいいから、あれ見とけって』
男『なに? 将棋はもう終わったよ?』
友『そうじゃないから。ほら、あそこにいるだろ?』
男『あそこって……あっ』
友『うちの高校の生徒会長にして、全学年で一番可愛いって評判の会長さん! 聞いた限りだと、なんでもできるんだと』
男『なんでも?』
友『そそ、勉強も運動は当然。生徒にやらせるレベルだろうけど仕事もできるし、人をまとめるのも上手いらしい。なんでも超人だよな』
男『なんでも超人……』
友『天は二物を与えずって言葉は、彼女の存在で否定されるよな。なんでもできるって、どんな感じなんだろう。やっぱり人生が楽なんかね、羨ましい』
男『そうかな……』
友『そうだろ。楽に決まってるさ』
男(それは違うんじゃないだろうか。根拠もなければ、証拠もないけど。――――だけど、違う、そんなことはないだろうと何故か確信していた)
友『仏頂面っちゃあそうだけど、容姿のせいかクールって印象が強いよな。あーあ、お近づきになりたいもんだね。一人でいることが多いって聞くし、高嶺の花ってやつなのかなー」
男(だって、無感動に世界を見つめる彼女の姿が、あまりに辛そうだったから。――――どうしようもないくらい、僕の胸を締め付けたから)
■■その八 終わり■■
■■その九■■
男「こんにちはー」
生徒会長「こんにちは。……男君、髪ぐしゃぐしゃ」
男「ん? あー、そうなんですよ。昼休み前の時間帯、風が強かったじゃないですか。その時ちょうど体育で外にいたんですよね」
生徒会長「今もぼさぼさな理由になってない」
男「体育終わった直後は、どうせまた帰るときになったら髪乱れるだろうから、別に直さなくていいかと思ったんですよ。結局、風は止みましたけどね」
生徒会長「じゃあ、直せばいい」
男「ぶっちゃけ、誰かが困るわけじゃないからいいかな、と」
生徒会長「……男君はしっかり者なのに、自分に対してはしっかりしてない」
男「無精者なんですよ、実は」
生徒会長「ん」
男「会長、櫛を持って膝を叩くその仕草はなんでしょう?」
生徒会長「乗って」
男「これ前にやったやり取りですよね!?」
生徒会長「早く」
男「まっ、待ってください! タイム! ストップ! 冷静になってください! ぬぉおお、なんだこの膂力は! 腕を掴まれたと思ったら間接が極められていた! 体格的にも性別的にも僕の方に分があるはずなのに!?」
生徒会長「大丈夫、身を委ねて……」
男「優しくしてくださぃいい!」
女先輩「たのもー」
男(結局押し切られたものの、最後の抵抗で椅子に座って向かい合う形に……」
生徒会長「……ふふっ」
女先輩「お、なんだか面白そうなことしてるね」
男「女先輩、こんにちは」
女先輩「なんだ、男。女装でもするのか?」
男「どうしてこの状況を見て、そこまで発想が飛躍するかなぁ。違いますよ、髪を整えてもらってるだけです」
女先輩「なんだつまらん。……いっそ路線変更して、このまま本当に試してみないかい?」
男「言いながら化粧道具取り出すあたり、マジっぽさが伝わってきます。もちろん、やりませんよ。校内に変質者を生み出すわけにはいきませんから」
女先輩「そうかな? 男は中性的な顔立ちだから、いい線いくと思うんだけど」
男「無理です。絶対に却下です」
女先輩「ちっ、もったいない。…………あ」
生徒会長「…………」
男「どうかしましたか? 女先輩」
女先輩「いや、なんでもないよ。櫛を使って髪をすいてるなって」
男「見たままの状況じゃないですか。……会長これ始めると集中しちゃって、声が届かなくなるですよね」
女先輩「才女の異名は伊達ではないということさ。並外れた人間の特異さは、こういうところで出てくるんだよ。……まぁ、会長ちゃんが楽しそうで何よりだ」
男「はぁ、そうですか。でも、会長って本当に変わってますよね。人の髪を弄るのって、そんな没頭するほど楽しいかなぁ。というか、もうよくないですかこれ?」
生徒会長「まだ、だめ」
男「そこは拾うんですね……。本当、適当でいいんですから。これ毎回気恥ずかしさがやばいです」
生徒会長「だめ、ちゃんとやる」
男「……今日も時間がかかりそうだ」
女先輩「いつもやってもらってるのかい?」
男「え? ええ、そうですね……いつもというほどではありませんが、会長の気まぐれでやってくれます。女先輩もやってもらってるんですか?」
女先輩「……私はないよ。自分でさっさと済ませてしまうからね」
男「その手があったか。僕も適当に櫛を買おうかな。でも、男が櫛を持ち歩くのもなぁ……」
女先輩「止めておくといい」
男「ですよね。なんかナルシストくさいか」
女先輩「そういう意味じゃないが……ま、そのうちわかる日が来るだろうさ」
男「なんですか、その無駄に意味深な発言」
女先輩「ミステリアスな女は魅力的だろう?」
男「はいはい、またいつものとりあえずそれっぽいこと言ってみたですか」
女先輩「ははっ、好きにとってくれ。……会長ちゃんが楽しそうで、本当に何よりだ」
生徒会長「…………」
■■その九 おわり■■
■■その十■■
女先輩「――もしもし」
男「――はい。……その声はもしかして、女先輩ですか?」
女先輩「――正解。驚かないんだね、番号を交換していない相手から電話がかかってきても」
男「――そりゃ、自分で自分の個人情報を公開してるんですから」
女先輩「――それもそうか」
男「――それで、何かご用ですか?」
女先輩「――君の声が聞きたかった。それじゃ、だめかな……?」
男「――うわ、この先輩面倒くせぇ」
女先輩「――そういうのは思っても言わないものだよ。偉大な先輩から後輩に助言だ」
男「――では、卑小な後輩から先輩に忠言です。夜中の四時に電話は普通に迷惑」
女先輩「――それより、相談があるんだ」
男「――スルーですか。もしやいつかの仕返しか……何でしょう」
女先輩「――ちゃんと聞くところはお姉さん的に高ポイント。実はだね……」
女先輩「という訳で、デートに行こう!」
男「はい、今日はよろしくお願いします」
生徒会長「……えっ?」
女先輩「ちゃんと約束通り、生徒会室にいたな。褒めてつかわそう」
男「ははっ、有難き幸せ」
生徒会長「え、え、え?」
男「どうかしましたか? 会長」
生徒会長「……二人って、そこまで仲良かった、の?」
女先輩「はっはっは。そうだな、意外と相性はいいのかも知れない」
男「そうですね、一緒に何処かへって考えは一致してますし」
生徒会長「そう、なんだ……」
女先輩「というわけで会長ちゃん。念のため聞いておきたいのだが、今日の仕事は一人でも大丈夫だろうか?」
生徒会長「それは……」
男「大丈夫ですよね?」
生徒会長「……うん、大丈夫。一人でも、大丈夫」
男「よかったぁ、これで心置きなく行けますね。女先輩!」
生徒会長「ぁ……」
女先輩「会長ちゃん、どうかしたかい?」
生徒会長「……ううん、なんでもない」
女先輩「そうか? まぁ、いいさ。さぁ、行こう! 手なんか繋いじゃったりしてな!」
生徒会長「…………」
男「はい! じゃあ、会長! ――――いってらっしゃい!」
生徒会長「……うん、いってきます。…………あれ?」
女先輩「それ、時間は有限で、止めることのできない厄介なものだ。行くぞ行くぞ!」
生徒会長「ちょっ、と待っ、え? 女ちゃ」
男(まるで誘拐の現場を目撃した気分なのは何故だろう)
男「……さて、お仕事を頑張りますかね」
女先輩「それそれー」
生徒会長「女ちゃん……」
女先輩「下駄箱に到着。はいこれ君の鞄」
生徒会長「いつの間に、って、そうじゃなくて……」
女先輩「ささっ、靴に履き替えて。放課後デートというめくるめく世界にご案内しよう」
生徒会長「……どういうこと?」
女先輩「言った通りだよ。君と私がデートをする。生徒会室での話を覚えてるだろう?」
生徒会長「あれは、そういう……でも、私には仕事が……」
女先輩「そんなもの、全部男が引き受けてくれてるじゃないか。一人でできる量だって、会長ちゃん自分で言ってたよね? くく、言質は取ってるよ」
生徒会長「それは、残るの私だと、思ったからで……」
女先輩「本当はたくさんあるんだろう? 大丈夫、それを知った上で男は送り出してくれているよ」
生徒会長「でも、男君だけじゃ……」
女先輩「そう、本当は彼に君の代わりをやる資格はない」
生徒会長「…………っ! けど、男君は……!」
女先輩「分かってる。彼を蔑ろにするつもりは毛頭もない。事実を言っただけだが、それが一つの側面でしかないことをしっかり理解しているとも。彼はよくやっている」
生徒会長「…………」
女先輩「今回のことはもちろん男が協力してくれている。つまり、彼は大変だと分かりながら、君を送り出してくれたんだ。その心意気を無駄にはしてはいけないよ」
生徒会長「…………」
女先輩「納得はしてないだろうけど、とりあえず付き合ってくれればいいさ」
生徒会長「……わかった」
女先輩「そういえば、初めてだね。会長ちゃんと放課後遊ぶというのは」
生徒会長「……うん」
女先輩「君はいつも忙しそうにしてるからね」
生徒会長「……うん」
女先輩「特に、生徒会長になってからしばらくの時が酷かった。私が何を言っても君は大丈夫としか答えなかったし」
生徒会長「……うん」
女先輩「何処か行きたいところはあるかい?」
生徒会長「……うん」
女先輩「……そんな上の空だったら何処に行ってもだめそうだね。散歩でもしようか」
生徒会長「……うん」
女先輩「……ていっ」
生徒会長「あぅ……デコぴん?」
女先輩「全く、こうでもしないと会話ができないなんて。壊れかけのテレビじゃないんだよ?」
生徒会長「女ちゃん、今の時代に叩いて直ると思うのはちょっと……」
女先輩「……機会音痴の君にそう諭されるとは」
生徒会長「男君が、そう言ってた」
女先輩「……そうか。彼は不思議な人だよね」
生徒会長「うん、男君って変。……ふふっ」
女先輩(君がそういう風に笑えるんだと気づいた時、彼が君の傍にいた)
生徒会長「あのね、この前もね……」
女先輩(私は君に癒されるけど、君を癒す相手は私ではなかった)
生徒会長「それでね……」
女先輩「少し、妬けるかな」
生徒会長「……女ちゃん、聞いてる?」
女先輩「聞いているよ。予定変更だ。今日は花の女子高生らしく、喫茶店でだらだらと長話をしよう」
生徒会長「…………」
女先輩「お待たせ、はいこれ紅茶。銘柄とかはよく分からないから、ダージリンにしたよ」
生徒会長「ありがとう。女ちゃんは?」
女先輩「カプチーノ。来る度にメニューの上から順番に頼んでるから、好みとかじゃないんだけどね」
生徒会長「へぇ……」
女先輩「こだわりがないんだよ。……そんなことより、道すがら話しながら来たここまでで、何処で話が止まっていたかな?」
生徒会長「男君が生徒会室で三点倒立してた話」
女先輩「ああ、それか。意味が分からないよな。それで?」
生徒会長「私が近づいたら、何故か顔を真っ赤にしてた」
女先輩「ほぅ……」
生徒会長「その後に何故か、生まれて始めての土下座をされた」
女先輩「見えたんだろうな。黙っとけばいいものを律儀な少年だ」
生徒会長「?」
女先輩「いや、気づいていないならいいさ。会長ちゃん、スカートの中を見られないように気をつけようね」
生徒会長「そんなの、当たり前。……スカートと言えば、この間男君が」
女先輩「……ふふっ」
生徒会長「……なに?」
女先輩「いやね、君の話題は彼のことばかりだなって」
生徒会長「……だって、男君は変だから。面白い」
女先輩「変で面白い、か。他のことに無関心だった君が変わったものだ」
生徒会長「変わった……?」
女先輩「うん。そうだね、例えば先日の文化祭実行委員会の話。以前の君だったら教師に言われるまま、文化祭が終わるまでのまとめ役を引き受けていたに違いない。けど、断った。どうしてだい?」
生徒会長「……男君に怒られるから」
女先輩「そう、君はそういう風に考えるようになった。彼の存在が君を変えた」
生徒会長「……うん、そうかも知れない」
女先輩「簡単に認めるんだね」
生徒会長「最近、思うようになってたから。男君と出会って、毎日が楽しいって」
女先輩「……そっか。そうだろうね。推測が含まれるけど、君は彼と出会ってから輝くようになった」
生徒会長「輝く?」
女先輩「前の君はいつも仏頂面で、可愛いのに可愛くない女だった」
生徒会長「…………」
女先輩「何かをしていても、何もしていなくても。誰かといるときも、一人でいるときも。君はいつも同じ表情で、淡々と物事を進めていた。まるで、ロボットが与えられた指令をただこなすだけであるかのように」
生徒会長「そう、だったのかも知れない。男君と会うまで、私は誰かに言われるままに動いていた」
女先輩「……ふふっ」
生徒会長「急に笑ってる」
女先輩「いや、ね。普通、こういうことは簡単に話せることじゃないのに、君はどんどん言えるんだなって」
生徒会長「……そうかな?」
女先輩「そうだよ。……きっと、会長ちゃんは今の自分が好きなんだね。自信を持てているんだね。だから、昔の自分を真っ直ぐ見つめることができて、しっかりと対比することができる。全部が、男のおかげだ」
女先輩(……同姓に恋慕の情を抱くつもりはないが、しかし、やっぱり、なんというか……嫉妬してしまうよ、男。君の功績に」
生徒会長「……多分、女ちゃんの言うとおりなんだと思う。だけど、それだけじゃ、ない」
女先輩「だけじゃない? 他に何があるというんだ」
生徒会長「女ちゃんも、私を変えてくれた」
女先輩「私が……?」
生徒会長「男君、よく言ってる。昔の会長はそんな変なこと言わなかったって。女先輩が会長に変なこと教えたんだって。……私、女ちゃんから教えてもらったことで変になって、変わってるんだよ」
女先輩「…………」
生徒会長「私は、今の私が好き。だから、ありがとう女ちゃん。私を変えてくれて」
女先輩「……ふぅー」
生徒会長「女ちゃん?」
女先輩「敵わないな、君には」
生徒会長「試験の順位、私の方が上だしね」
女先輩「お、言ってくれるじゃないか。あれはノー勉だったからであって、本気を出せば私のほうが凄いんだよ」
生徒会長「言い訳は見苦しい」
女先輩「言ってくれる」
生徒会長「……ふふっ」
女先輩(会長ちゃんを連れ出した理由。男は私が言ったことを鵜呑みにして、仕事してばかりの会長ちゃんを遊ばせるためだと思っているだろうが……)
生徒会長「あ、紅茶冷めちゃった」
女先輩(本当は、たまには会長ちゃんに私だけ見て欲しいという、私の小さな独占欲と嫉妬心だった)
生徒会長「女ちゃん?」
女先輩(――――男が変と言うから、私も一役買ってる、か。間接的ではあるけれど、今はそれで満足しておこうかな)
生徒会長「女ちゃんってば」
女先輩「聞いているよ。……今日はぎりぎりまで帰さないからね。女子トークを楽しもうじゃないか」
生徒会長「うん!」
■■その十 おわり■■
■■その十一■■
「おじゃまー。おう、今日は副会長だけか。ちょっと頼みたいことがあるんだけど……」
男「はい、なんでしょう。…………ええ、そうですね。その件は生徒会で対応します」
「失礼します。美化委員の者ですが、先日の件で来ました」
男「ああ、先日はどうも。頼まれていたものはこちらに用意してありますよ。ご自由にお持ち……お一人ですか。なら、持って行くのは無理そうですね。お手伝いしますよ」
「便利屋さんいるー? ちょっとお願いがあってきたんだけどー、って副会長だけだー」
男「生徒会は便利屋じゃありませんよー。張り倒しますよー。…………話を伺ってみれば、意外に重要なことでしたね。すみません。先生方と検討して早急に解決します」
「おう、柔道部だが、観念して部費を上げる気になったか?」
男「また来たんですか? 何度も言ってますが無い袖は振れませんって、土下座だと!? 大きな身体をそんなに丸めて!? くっ、土下座は卑怯だ! でも出しません」
「やぁ、気さくな教頭先生が来ましたよ。生徒会長はいますか?」
男「きつ……教頭先生、また雑用の押しつけですか? 今日は残念ながら甘い会長はいないので、引き受けませ……舌打ちしました? 今、いい大人が舌打ちしましたか?」
「生徒会! 野球部とサッカー部がグランドの使用の件で揉めてるぞ!」
男「この間、曜日割り決めたばかりなのにあの人たちは……。知らせてくださってありがとうございます。至急現場に向かいますので、場所を教えてください」
「せ、生徒会長は、お、おられるだろうか!」
男「今日はいませんよー。あ、美術部の部長さんこんにちは。その大きなやつは絵ですか? 会長を描いた? 無許可で? …………多分、会長嫌がりますよ、それ。はい、出直して会長に直接お願いして、描かせてもらって下さい。自分じゃ頼めない? 知りませんよ」
「副会長、この前言われたやつ持ってきたんだけど」
男「え? あぁ、あれですね。わざわざありがとうございます。えっと――――はい、問題ありません。確かに受け取りました」
「すみません、ボランティア部なんですが……」
男「はい、どうかしましたか? 次の地域規模でやるボランティアの募集をかけたい、ですか。いえ、無理ではありませんよ。立派な活動ですし、生徒会でも協力させていただきます。具体的には朝会での呼びかけ、それとビラ配りを認可します。あと放送部の方にも依頼して、昼の放送で宣伝してもらうようにします。あ、掲示板の使用は、生徒会の認可印がないといけないので気をつけてください。もちろん、他に何かありましたらいつでも来てください。はい、それでは」
男(……ふぅ、もう日も沈みそうだ)
友「副会長ぉー、明日の英語の宿題写させてー」
男「お帰りはあちらになります」
友「冷たっ! 礼儀正しくて話の分かる副会長って評判が嘘みたい!」
男「友、会長とけしからんことしたいって意見箱に入れたの友でしょ? あれ焼却炉にぶち込んどいたから」
友「どうしてばれた。やっぱりお前、第六感とかの持ち主なのか?」
男「高校生にもなってこんな幼稚なことをするのは……いや、よそうこの話は」
友「その凄い哀れんだ目をやめてくれませんか? なんか虚しくなる。……あれ、会長さんいないのか?」
男「今日はいないよ。体調不良とかじゃないけど」
友「なに!? 副会長のお前を置いて会長さんがいないだと!? 野郎か!」
男「どちらかというと女郎かな」
友「女朗!? って、女先輩のことか。だったら大丈夫……でもないのか? あの人、女の子が好きだって噂だし、その上、美人だし! やばいじゃん、男! 会長盗られちゃう!」
男「それ、完全に噂だよ。女先輩は女性なのにかっこよくて、よく後輩の女の子とかに告白されるって言ってたけど……。別に同姓と恋愛がしたいわけじゃないって、自分で言ってたもん。友は噂に流されすぎ。よくないよ。あと、別に会長は物じゃない」
友「へいへい、どーもすいやせんで……ごめんなさい、切実に」
男「…………」
友「ほ、本気、本気で気をつけるから! 分かったから!」
男「……そう」
友「お前って怒ると本当に怖いよな。静かなのに何故か怒鳴られるより、数倍怖い気がする」
友「お前って怒ると本当に怖いよな。静かなのに何故か怒鳴られるより、数倍怖い気がする」
男「はぁ。それで、今日はどうしたの? 友が生徒会室に来るなんて珍しいじゃん。まさか冗談抜きで宿題の話をしにきたわけじゃないでしょ」
友「んにゃ、宿題はあわよくば見せてもらえないかと思ってる」
男「だめ」
友「だよな、お前は変なところで真面目だから。誰かさんの影響を受けたばっかりに」
男「前置きが長い。二十文字以内にまとめてください」
友「部活でいつもより遅くなったから一緒に帰ろ」
男「なんか女の子みたいになった。……いつもは友の方が早く終わるもんね」
友「一緒に帰ろ、友君! とか言われてみてぇー。んで、どうなんだ?」
男「ちょっと待ってくれるなら、喜んで。今、手をつけてるやつに一段落つける」
友「おー、んじゃ座って待たせてもらうわ」
男「悪いね」
友「いいってことよ」
男「…………」
友「……男」
男「我慢の限界早過ぎやしませんか。なに?」
友「お前、会長さんに告らねぇの?」
男「……思わず手が止まること言うのやめてもらえませんか」
友「しねぇの?」
男「なんだろ、分からない」
友「分からないって、お前。これだけ尽くしといて……」
男「そう言われてもね。尽くしてるって意識もないし。別にそういうつもりで、ここにいるわけでもないし」
友「じゃあ、どういうつもりなんだ? だってお前……」
男「うーん、実際のところ、僕は自分で自分の感情がなんなのか、分からないんだよね」
友「分からない?」
男「うん。会長に向けているのが、果たして恋愛感情なのか。それとも憧れだとか、友情なのか。もしかしたら、もっと違うものなのかも知れない」
友「なんだそりゃ」
男「恋だとか愛だとか、経験したことないからね。どうもよく分からない。変に思い込んで会長を傷つけることはしたくない」
友「……はぁ、このチェリーボーイが」
男「なんでしょうか、チェリーボーイさん」
友「……ま、まぁ、そもそも俺が口を挟むようなことでもないか、うん」
男「引き際が見事ですね、チェリーボーイさん」
友「俺が悪かったからやめろぉ! …………とにかく、あれだ。しっかりしろよ、副会長! ってことだ!」
男「激励されてしまった。だけど、そう言われもなぁ」
友「そこは素直に応と答えるところだろう」
男「でも僕、副会長じゃないし。みんなが勝手にそう呼んでるだけで」
友「……あ、そうだった」
■■その十一 終わり■■
■■その十二■■
生徒会長「お待たせ」
女先輩「いやいや、お風呂にしては早いから」
生徒会長「待たせたら悪いと思って」
女先輩「だから私は後でいいと言ったのに」
生徒会長「女ちゃんはお客さんなんだから当然」
女先輩「妙なところで頑固だよね、君は。……しかし、初めて遊んだからだとはいえ、勢いに任せて家まで押しかけてすまないね」
生徒会長「大丈夫……どうせ、家には他に誰もいないし」
女先輩「……家に上がった時から思っていたんだが、親御さんは? もちろん、事情があって言いたくないなら、別に言わなくていい」
生徒会長「……家族はお父さんだけ。お父さんは仕事の関係で海外にいることが多い。お母さんは三年前に…………女ちゃん、どうして急に抱きつくの?」
女先輩「言わなくていい。すまない、不躾な質問だった。君の顔を見れば分かるよ……」
生徒会長「……ううん、女ちゃんが謝ることじゃない。私が知っておいてもらおうと思って、話そうとしたことだから」
女先輩「そう、か。このことを男は?」
生徒会長「知ってる。周りにいる人で知ってるのは男君だけかな」
女先輩(……やはり、男はいつだって私の一歩先にいるんだな)
生徒会長「それと、今から女ちゃんも」
女先輩「…………くははっ、やっぱり君には敵わないよ。私が男子だったら、ドロドロの三角関係を作っていたかも知れないな」
生徒会長「なにそれ」
女先輩「分からないなら気にしなくていいよ。しかし、いきなり泊まるだなんて、すまなかったね」
生徒会長「女ちゃん、同じようなこと言うの、来たときも含めてそれで三回目」
女先輩「おっと、そうだったかな。むむ、自分で言うのもなんだけど、珍しく緊張しているらしい」
生徒会長「あの女ちゃんが?」
女先輩「失礼な。これでも私だってうら若き乙女であることに変わりないんだ。慣れない環境というのに、少なからず反応してしまうものだよ」
生徒会長「そう……ふふっ」
女先輩「くっ……まぁ、いいさ。ここからは形勢逆転させてもらうしね」
生徒会長「?」
女先輩「ずばり、男とどこまで行ってるんだい?」
生徒会長「……男君とお出かけしたことはないよ?」
女先輩「そういう意味じゃ……なに? デートもしたことないって言うのか?」
生徒会長「デートって、男君とはそういう関係じゃないから」
女先輩「男め……行動力はあるくせに意外と奥手だな。いや、この場合はへたれと言うべきか」
生徒会長「いきなりこんなこと言い出してどうしたの?」
女先輩「ふふっ、女子が泊りがけで遊ぶときたら、こういう話をするものなんだよ」
生徒会長「よくわからない」
女先輩「私は楽しいよ。……それで、男から告白されたこともないのか?」
生徒会長「どうして男君が私を好きという前提で、話が進んでいるのかが分からない」
女先輩「だって、男は生徒会の仕事をする資格のない……役員に所属していない、ただの一般生徒なんだぞ? それなのに毎日生徒会室に入り浸り、面倒な仕事をこなしている」
生徒会長「うん。男君は凄く助けてくれてる」
女先輩「それは分かるよ。男は傍目から見てよくやっている。……じゃなくて、本来は生徒会とは一切関わりを持たないはずの男が、何故仕事を手伝っているのか考えないのか、って話だ」
生徒会長「……つまり、私のことを好きだから、男君は手伝いをしてるって女ちゃんは言いたいの?」
女先輩「学校の皆がそうだと認識していると思うぞ。なにせ、君はかわゆいからな。今は彼の活躍があって大きな声で言われることもなくなったが、当初は君の容姿に釣られ、好かれようと躍起になっている軟派な奴だ、と言われていたくらいだよ。今でもそう思っている者も少なからずいるだろうしね」
生徒会長「そう、だったんだ……。私、噂に疎いから……」」
女先輩(私は会長ちゃんが嫌に思うと考えて伝えなかった。男は……わざわざ自分で言うような奴じゃないか。……しまった、迂闊だったか)
生徒会長「男君、私のせいで酷いこと言われてたんだ……」
女先輩「すまない、言うべきではなかった。……会長ちゃんのせいではないよ。男は言われていることを理解している上で、君を手伝っているんだ。……どうして男が仕事を手伝うのか、疑問に思ったことは?」
生徒会長「ない」
女先輩「それはそれで凄いな……もしかして、彼の手伝う理由を把握しているのかい?」
生徒会長「うん」
女先輩「……そういうことか」
生徒会長「男君はね、約束してくれたの」
女先輩「約束? ……それは私が聞いてもいいことなのかな?」
生徒会長「むしろ、男君がいろいろ言われてるって知った今、女ちゃんには知っておいて欲しい。男君が生徒会を……私を手伝ってくれる本当の理由。男君が私としてくれた約束を」
女先輩「……分かった、聞かせてもらうよ」
生徒会長「……ありがとう」
女先輩「礼を言われるようなことじゃないさ。私自身、気になっていたことだしね……。なに、時間はたっぷりあるんだ。存分に話してくれ」
生徒会長「うん。……話は、そう。私が生徒会で一人ぼっちになったところからかな」
女先輩「……君が他の生徒会役員達が予算を横領していることを知り、それを学校に伝えた時のことか」
生徒会長「そう。学生に任せる程度の金額だったとはいえ、それでも額が多かったから話は大きくなった。その結果、私以外の役員は全員停学になって……」
女先輩「そしてそのまま転校やら自主退学となった。あれは結構な騒ぎになったから、よく覚えているよ。それで臨時の処置として、君は会計から繰り上がる形で生徒会長となった」
生徒会長「……先生達はすぐに新しい人を入れるって言っていた。けど、事件があった後だから引き受けてくれる人もいなくて、私は一人で仕事をしていた」
女先輩「それがずるずると続いて、現在も生徒会役員は会長ちゃん一人、か。よくよく考えればあり得ない話だよね。……やめようとは思わなかったのかい?」
生徒会長「……負い目があったから」
女先輩「負い目?」
生徒会長「……私がしたことは正しかったのか。他の役員達を退学に追い込んでまで、する必要があったのかって。――――だから、他の人をやめさせた私だけは、やめるわけにはいかないと思ったの」
女先輩「…………」
生徒会長「あの時の私は何に対してでも必死だった。…………お母さんが死んでしまったことから立ち直れてなくて、がむしゃらに何かをしていなければ、立ち止まってしまうと思っていたから」
女先輩「……慰めの言葉は、受け取ってくれないんだろうね。君は賢いから」
生徒会長「…………」
女先輩「――――でも、それでも私は言うよ。会長ちゃん、君は正しかった。私は君の行いを全力で支持するよ」
生徒会長「……ありがとう、女ちゃん」
女先輩「いいさ。…………生徒会を一人で動かす。普通なら無理なことを君はできた。できてしまったからこそ、仕事は増えていったというわけだ」
生徒会長「うん。どんどん仕事は舞い込んできて、私はなりふり構わずに仕事へ向かっていった。そして多分それは、限界を迎えようとしていた……そんな時だった、男君が始めて生徒会室の扉を開いたのは」
男『失礼しますー』
生徒会長『…………どうぞ』
男『クラス委員の代行でアンケート結果を持ってきたんですが』
生徒会長『…………はい』
男『……生徒会長、大丈夫ですか? なんだか顔色が悪いような……。足元もふらついてるように見えますけど」
生徒会長『……だい、じょうぶです。私は、大丈夫』
男『……今にも倒れそうな人が大丈夫なわけないでしょ』
生徒会長『え……?』
男『もう今日は帰った方がいいですよ』
生徒会長『でも、仕事が……』
男『休まないとだめですって」
生徒会長『でも……』
男『…………』
生徒会長『…………』
男『……わかりました、僕が仕事を手伝います』
生徒会長『……え?』
男『本当は代わりに全部やるって言いたいところですけど、何も知らない僕にはそれができません。だから、手伝います。生徒会長が早く休めるように』
生徒会長(彼はとても強引だった。けれど、そこには私に対する心配と労りが強く感じられて、私は彼を拒絶することができなかった)
男『これで終わりですか?』
生徒会長『そう、です。……凄い、夜になる前に終わった』
男『いつも夜まで残ってたんですか……』
生徒会長『あなた、とても手際がいい』
男『僕も自分がこんなにデスクワークが向いてるとは知りませんでした。……それで、生徒会長。帰ったらちゃんと晩御飯食べてくださいね?』
生徒会長『…………うぅ』
男『仕事しながら聞いた時は驚きましたよ。まさか、持病があるとか深刻なことかと思いきや、ここのところまともに食べていないから、なんてのが理由だとは思いませんでした』
生徒会長『……お腹の音』
男『ええ、ばっちり聞こえましたし、無表情のまま顔が赤くなっていく様もしっかり記憶しました』
生徒会長『……忘れて』
男『ははっ、前向きに検討した後、善処できるように努力します』
生徒会長『……嘘っぽい』
男『でも、ご飯食べないのはまずいですよ。もしかして、毎回さっき食べてたクッキーみたいの食べてるんですか?』
生徒会長『食べてる』
男『……それがどれくらい続いてるんですか?』
生徒会長『二週間、くらい?』
男『……家でも?』
生徒会長『家でも』
男『……これはこれで、結構深刻なことだったか』
生徒会長『……今日は付き合わせてごめんなさい』
男『いえ、僕が勝手にやったことですから、謝られることじゃありませんよ。それより、お聞きしたいんですが、生徒会っていつもこんなに仕事を抱えてるんですか?』
生徒会長『今日は少ない方』
男『マジですか……』
生徒会長『マジです』
男『……人手が増える予定ないんですよね?』
生徒会長『……いろいろ、あったから』
男『例のこと、ですか』
生徒会長『……うん』
男『……生徒会長、一つ僕と約束してくれませんか?』
生徒会長『約束?』
男『はい、生徒会長が僕に約束するんです。ご飯をちゃんと食べること、しっかりと休憩を取ること……自分を大事にすること』
生徒会長『それは……』
男『――――その代わりといってはなんですが、僕も約束します』
生徒会長『あなたが約束?』
男『はい、僕が生徒会長に約束です。僕は生徒会……いや、生徒会長の仕事を手伝います。忙しくてご飯を食べる暇がないと言うなら、その時間を僕が作ります。それが、約束です』
生徒会長『……それは、あなたに得がない』
男『んーまぁ、倒れそうになりながら働いている人がいると知って、放っておけるわけがないって話ですよ』
生徒会長『でも……』
男『それに生徒会長のお腹の音が、学校中に響き渡ったら大変ですしね』
生徒会長『……私のお腹、そんな大きな音しない』
男『さて、どうでしょうかね』
生徒会長「今思えば、あの時は誰かに助けて欲しかったのかも知れない、のかな。だから結局、私は男君の話を受けた」
女先輩「……それが、男と会長ちゃんの約束?」
生徒会長「うん、それからずっとお互いがお互いの約束を守ってる。……話してみて思ったけど、ちょっと間の抜けた話だったかも」
女先輩(この上なく嬉しそうに語っておいてよく言う)
生徒会長「やっぱり、変だよね男君。私がご飯を食べる代わりに仕事を手伝うなんて」
女先輩「君は何回彼を変と言うのか。……しかし、彼が変なことは事実か」
生徒会長「うん、男君は変。ふふっ」
女先輩「……気づけば長々と話していたね。もうこんな時間だ」
生徒会長「本当だ……。明日も学校、そろそろ寝よう」
女先輩「うん、おやすみ会長ちゃん。話してくれてありがとう。とても有意義な時間だった」
生徒会長「こちらこそ、話を聞いてくれありがとう。おやすみ」
女先輩(今の会長ちゃんがあるのは、男のおかげだったんだな。これは、彼には感謝しないといけないか。……もちろん、それを表に出そうとは思えないけれど)
女先輩「くははっ」
生徒会長「女ちゃん?」
女先輩「おっと、なんでもないよ。……ねぇ、会長ちゃん。電気は消したままでいいから、寝つくまでいろいろお話しないかい? どうやら私はまだ話したりないみたいだ」
生徒会長「……いいよ」
女先輩「ありがとう。それじゃ、自分のことを交互に話していくということで。私から話そう。そうだね、まずは――」
■■その十二 終わり■■
■■その十三■■
女先輩「やぁ、男」
男「あれ、女先輩だ。こんにちは、一年生フロアである二階にいるなんて珍しいですね。へへっ、ここは我らの縄張りだ、通行料をいただこうか!」
女先輩「ふん、使わなくなった土地を貸してやってるんだ。そちらこそ、いい加減地代を払ったらどうだ?」
男「いつだって大家と地主には勝てないのか……」
女先輩「ま、珍しいのは確かだよ。二年になって以来、初めて来るからね」
男「それはそれは、貴重な瞬間に立ち会えて光栄ですよ。昨日の会長とのデートはどうでした?」
女先輩「うむ、我が人生の内、上位三位に入る素晴らしい時間だったよ。という訳でついてきてもらおうか」
男「どういう訳なのか分かりませんが、かしこまりです。ただ、生徒会に行かないといけないので、あまり長くお付き合いできません」
女先輩「なに、すぐに終わるさ」
男「裏庭って人気がない割りに結構使われる気がする」
女先輩「人気がないからこそ、使うこともあるだろうさ。例えば、告白をするとか」
男「なるほど。……はっ! まさか、女先輩がここにつれてきた理由って!」
女先輩「……うん、そうなんだ。君に聞いてもらいたいことがあって」
男「あの女先輩が頬を染めてもじもじだと……。いつのまに好感度を上がったんだ。全然記憶にないぜ」
女先輩「実は、ね……」
男「ごくり」
女先輩「先週、男が買ったパン食べちゃったの……私、なんだ。ごめん」
男「告白は告白でも、そういう告白かーい」
女先輩「棒読みでの返事ありがとう」
男「まぁ、生徒会室に置いておいてなくなったわけですから、ある程度犯人の目星はついてましたけどね。会長が勝手に食べるわけないし」
女先輩「随分な信頼だ。……それで、お詫びとしていいことを教えようと思う」
男「なんですか? 僕、そろそろ生徒会に行きたいんですけど」
女先輩「会長ちゃんが持ってる櫛。あれはお母様の形見で、他人が触れるのも嫌がるくらい会長ちゃんは大切にしている代物だよ」
男「…………」
女先輩「そして会長ちゃんはその櫛で、よくお母様に髪を梳いてもらっていたらしい。それが一番の思い出だと昨日言っていたよ。……会長ちゃんはそういうものを君に使っている。この意味、考えてみるといい」
男「それは……」
女先輩「これ以上は聞かれても答えるつもりはないよ」
男「……いけずな人だ」
女先輩「なんとでも言いたまえ。これ以上は君の問題だ」
女先輩(そして、彼女との、な……)
男「……そうですか。お話は以上で?」
女先輩「おしまいだよ。もう行っていい」
男「わかりました。お話、ありがとうございました」
女先輩「感謝の言葉はいらないよ。これはお詫びであって――――むしろ、こちらからのお礼でもあるからさ」
男「お礼?」
女先輩「なんでもないよ。さっさと行かないか、会長ちゃんが待ってるよ」
男「暴君のような言動ですね……。失礼します」
女先輩(後押しになるのかな、これは。昨日まで嫉妬していたくせに、我ながら自分が理解できないね。…………認めているということなのかな、彼のことを。……男め、会長ちゃんを泣かせるようなことがあったら、承知しないからな)
■■その十三 終わり■■
■■その十四■■
友『お前、会長さんに告らねぇの?』
男(友の言葉が頭にちらつく。さっきまで、そんなことなかったのに……」
女先輩『……会長ちゃんはそういうものを君に使っている。この意味、考えてみるといい』
男(女先輩、急に呼び出したかと思えば、とんでもないことを……)
生徒会長『男君』
男(友の言葉、女先輩が教えてくれたこと、そして会長の姿が順番に巡っては繰り返す。……ああ、これはまずい。非常にまずい)
男『うん。会長に向けているのが、果たして恋愛感情なのか。それとも憧れだとか、友情なのか。もしかしたら、もっと違うものなのかも知れない』
友『なんだそりゃ』
男『恋だとか愛だとか、経験したことないからね。どうもよく分からない。変に思い込んで会長を傷つけることはしたくない』
男(僕は自分が会長に向ける感情が何なのかはっきりしないくせに、何かを思い込もうとしてしまっている。だめだ、それはいけないことだ。会長を傷つけてしまうことだ。…………このまま生徒会室へ行くのはやめておいた方がよさそうだな)
友「あ、男じゃん。どうしてこんなとこいんの? 生徒会関係?」
男「友……」
友「……でもなさそうだな。そんな弱った顔しやがって……。何かあったのか?」
男「……相談に乗って欲しい」
男「友、なんで僕達は将棋をしてるの?」
友「ばっか、男同士の相談といったらキャッチボールしたりとか、何かしながらってのが定番だろ。グローブとボールを野球部が貸してくれるかわからないし、俺とお前っていたらやっぱりこれっしょ」
男「……なんか友、楽しんでない?」
友「楽しいというか嬉しいかな。お前、滅多に相談とかする奴じゃないから。そんなお前が俺を頼ってくれたのが嬉しいわけよ」
男「……友ってさらっとそういうことが言えるのに、どうしてモテないんだろうね」
友「な、俺も自分で謎だわ。……それで、昨日の話の続きになるのか? 感情がわからなくて、生徒会室に行けないっていうのは」
男「そう、なるのかな? ちょっとあることがあって、疑問が迷いになちゃったみたいなんだ」
友「そのあることっていうのは?」
男「…………」
友「そこでお前が黙るってことは、他の人が関係してくることか。なら、いいや。どうせお前は口を割らない」
男「……相談に乗ってもらってるのに、ごめん」
友「いーよ。って、謝りながらもえぐい手を打つよな、お前」
男「桂馬はもらうよ。……人生観を変えるとか、爆弾みたいなことじゃないんだ。けど、それは少なからず僕に衝撃を与えて……なんと言えばいいのかな。水面に石が投げられたというか、穏やかだったものが形を変えようとしているみたいで……なにを言ってるか、自分でもわからないや。ははっ……」
友「男」
男「なに?」
友「お前忙しいから極たまにだけどさ、勉強を教えてくれるじゃん? そうすると俺って授業を受けてるより頭に入るんだよ。別段、お前は成績が特別良い訳じゃないなのにな」
男「いきなりどうしたの?」
友「勉強を教えるのが上手いってさ、説明が上手であることと一緒だと思うんだよな。それはお前が生徒会の仕事でいろんな人を相手にしても、嫌われない理由の一つだと俺は思ってる。もう一度言う、お前は説明が上手いんだ」
男「……何が言いたいの?」
友「つまりだ、本当は説明が上手いはずのお前が、ぐちゃぐちゃの説明をしている。それって、おかしいと思わないか?」
男「変だなんて……そもそも、説明が上手とか自覚したことないし……」
友「……俺が言いたいのはさ、お前、ちゃんとした説明を放棄してるんじゃないかってことだよ」
男「そんなこと! ……こうしてわざわざ友に聞いてもらってるのに」
友「じゃあ、多分無意識なんだろ。お前はこの問題が解決することを避けてる」
男「!」
友「手が止まったな。お前はいつも時間を置かずに次の手を打つのに。……男、お前は本質的な解決じゃなくて、誤魔化すための理由探しをしているだけじゃないのか?」
男「誤魔化すための理由……」
友「お前が探してるのは会長さんを絶対に傷つけない選択だけだ。……それじゃ、解決はできないんだよ。お前のその悩みは傷つくことを恐れていれば、一生消えることなく残るんだよ」
男「友……」
友「お前が絶対に傷つけないと思った選択で、傷つく人がいるかも知れないんだぜ? 結局、人は誰かを傷つけないで生きるってことはできないんだ。だったら、せめて選んで傷つけた方がましじゃないか? 少なくとも俺はそう思う」
男「でも、僕は……」
友「……ま、今までやっていたことを否定しろってんだ。そう簡単には決められないよな。――――そこでだ、賭けをしよう」
男「賭け?」
友「おう。お前が会長さんに止められてるのは知ってる。だから、これが最後だ。百五十一回目の賭け。俺が勝ったら、お前は今から生徒会室に行く。別に告れとは言わないさ。行って、自分の感情と向き合えばそれでいい」
男「僕が勝ったら?」
友「そしたら今日は会長さんに適当な理由を伝えて帰ればいい。それで頭を切り替えて、明日からまたいつも通りに過ごせばいいさ」
男「……でも、この時点で友の飛車も角も僕が取ってるんだよ?」
友「なに、無理を吹っかけてるんだ。劣勢ぐらい受け入れるさ」
男「……わかった。友がそう言うなら」
友「なら、始めよう。……ここからは全力で行く。じゃないとお前には勝てないからな。会話も待ったもなしだ」
男「うん」
友「…………」
男「…………」
友「――――」
男「――――!」
■■その十四 終わり■■
■■その十五■■
女先輩「夕暮れに染まる生徒会室。なんともロマンチックじゃないか」
生徒会長「女ちゃん、窓枠に座ったら危ない」
女先輩「大丈夫、ちゃんと気をつけてるよ」
生徒会長「そういうことじゃなくて」
女先輩「わかっているさ。それより、男なかなか来ないね」
生徒会長「うん……用があるから遅くなるって、さっきメールがきたっきり」
女先輩「おや、メールの使い方わかるようになったんだ」
生徒会長「メールだけなら、なんとか。男君が教えてくれた」
女先輩「なるほど、男が教えてくれたから覚えたと」
生徒会長「うん」
女先輩「……そこは恥ずかしがったりするところなんだけどね」
生徒会長「なに?」
女先輩「いいや、なんでも。……会長ちゃんは二言目には彼の名を口にする感じだよね」
生徒会長「そうかな?」
女先輩「そうだよ」
生徒会長「……そう」
女先輩「……ねぇ、会長ちゃん。君は、ある日ここに男が来なくなったらどうする?」
生徒会長「……え?」
女先輩「彼はいつも当たり前のようにここへやってくるけど、それは全然当たり前のことじゃないんだよ。小さなきっかけがあれば、簡単に消えてしまうようなことなんだ」
生徒会長「どういうこと?」
女先輩「茜色に染まるこの生徒会室はとても美しい。だけど、それは誰かが傍にいてこそだと思うんだ。私はここに一人きりでいたら、きっと寂寥感に苛まされて逃げ出してしまうと思う」
生徒会長「女、ちゃん?」
女先輩「君は、この生徒会室をどういう場所だと捉えているのかな?」
生徒会長「どこ行くの?」
女先輩「一応心配してここにいたけど、どうやらその必要はなくなったみたいだからね。今日はもう帰るよ」
生徒会長「……待って」
女先輩「待たない。今日の私はとてもお節介焼きで――――ちょっぴり意地悪なんだ」
生徒会長「…………」
生徒会長(橙色の光が差し込む生徒会室。私にとって、ここは……なに?)
■■その十五 終わり■■
■■その十六■■
男「はぁ……はぁ……」
生徒会長「男君?」
男「はい……こんにちは、会長」
生徒会長「どうしたの? 息を切らして」
男「何ででしょうね。今日は走りたい気分だったんです」
生徒会長「廊下は走らない」
男「気をつけます」
生徒会長「……今日は、遅かったね」
男「はい、ちょっと道草を。それと、友の奴がとんでもなく粘って。あいつ、本当にここぞという時に強いんですよ」
生徒会長「……今日は男君もよくわからないことを言う」
男「え? ……あー、女先輩いたんですよね? 向かいの棟の廊下から、窓のところに立ってるの見えましたよ。目が合ったと思って手を振ったんですが、何も返してくれなかったので気になってるんですが……もうお帰りになったみたいですね」
生徒会長「うん、よくわからないことを言って帰った」
男「そうですか」
生徒会長「……ねぇ、男君」
男「はい」
生徒会長「男君にとって、この生徒会室ってどんな場所?」
男「……どんな場所、ですか」
生徒会長「女ちゃんが帰り際、私にそう言ったの」
男「……質問に質問で返してすみません。会長は、どう思いますか?」
生徒会長「私もさっきまで考えてた。それで、ついさっき答えを見つけた。ここは安心できる場所だって」
男「安心、ですか」
生徒会長「うん。仕事はたくさんあって、いろんな人が来て慌しい場所だけど。でも、ここに私の居場所がある気がする」
男「そう、ですか。居場所……そうか、居場所か」
生徒会長「男君?」
男「……僕も、同じでみたいです。ここには、僕の居場所があるような気がします」
生徒会長「本当? ……男君と一緒で嬉しい」
男「……僕もです」
生徒会長「…………」
男「…………」
生徒会長「……仕事、しようか」
男「はい、そうですね」
生徒会長「電気は、まだつけないままでいい? ちょっと暗いけど、夕日が綺麗だから」
男「問題なしです」
生徒会長「ありがとう。……これとこれ、お願い」
男「わかりました」
生徒会長「…………」
男「…………」
生徒会長「…………」
男「…………」
生徒会長「文化祭関係の書類、増えてきた」
男「そうですね。そろそろ学校全体が文化祭に向かっていこうとする時期ですから」
生徒会長「やること、増える」
男「学校生活で三本指に入るイベントですからね」
生徒会長「でも、二人ならできる」
男「……はい」
生徒会長「…………」
男「…………」
生徒会長「…………」
男「……会長」
生徒会長「なに?」
男「文化祭、一緒に回りませんか?」
生徒会長「……忙しいと思うけど」
男「その時間、僕が作りますから」
生徒会長「私で、いいの?」
男「是非、会長が」
生徒会長「なら、よろしくお願いします」
男「はい」
生徒会長「約束?」
男「約束です」
生徒会長「……ふふっ」
男「…………」
生徒会長「…………」
男「…………」
生徒会長「…………」
男「…………」
生徒会長「…………」
男「……会長」
生徒会長「なに?」
男「…………」
生徒会長「…………」
男「……好きです」
生徒会長「…………」
男「……ご存知かどうかはわかりませんが、僕は会長のお手伝いをすることでいろいろと言われていました。会長の気を引くためだって。もちろん、そんな下心で今までやってきたつもりはありません。困っている人がいるから助けていただけです」
生徒会長「…………」
男「……でも、最近はその言葉を否定できない自分がいるんです。会長の役に立ちたい、会長の傍にいたい、――――会長の気を引きたい。そんな不純な気持ちが混ざってきているんです」
生徒会長「…………」
男「会長、僕はあなたのことを敬愛や友情ではなく、一人の女の子として好きになってしまいました」
生徒会長「……そう、なんだ」
男「僕はこの気持ちからずっと目を逸らしてきました。けれど、今日は見つめてしまいました。我慢ができなくなってしまいました。……抑えることなく、感情をぶつける身勝手を許してください。あなたを好きになってしまった僕を、どうか……受け入れて、もらえないでしょう……か」
生徒会長「…………」
男「…………」
生徒会長「…………」
男「…………」
生徒会長「…………」
男「…………今なら生徒会も昔の事件の色が薄まり、役員の募集も可能だと思います。もし、僕を受け入れられなくても……遠ざけたくなっても、生徒会を動かしていくことは可能です」
生徒会長「……そうだね。役員の募集、明日からすぐにかけます」
男「……っ! そう、ですか……。わかりました、準備しておきます」
生徒会長「お願い」
男「…………」
生徒会長「…………」
男「…………」
生徒会長「…………」
男「…………」
生徒会長「……男君が来る前」
男「え?」
生徒会長「男君が来る前、女ちゃんに言われたの。男君が生徒会室に来なくなったらどうするって」
男「…………」
生徒会長「私、考えてみた」
男「……はい」
生徒会長「考えてみて、考えてみて。わからなかった」
男「わからなかった?」
生徒会長「うん。私、男君がいない生徒会、想像もできなかった」
男「…………へ?」
生徒会長「昨日、女ちゃんとデートしたの楽しかった。それで、デートしてる時、何度も思ってた。ここに男君がいたらもっと楽しいだろうな、次は男君と来てみたいなって」
男「それって……」
生徒会長「今のままじゃ、お仕事多すぎてお出かけできない。文化祭もちょっとしか回れない」
男「え、あれ、ちょ、え……? 頭が追いつかな、え、つまり……?」
生徒会長「男君、私も好きです。こんな私でよければずっと一緒にいてくれますか?」
男「――――」
生徒会長「…………」
男「――――」
生徒会長「……男君?」
男「――――ゃ」
生徒会長「え?」
男「――っしゃぁあああああああ!」
女先輩「おーおー、吠えてる吠えてる」
友「うわ、あいつ告ったのか」
女先輩「焚きつけたくせによく言うよ」
友「俺は自分の感情と向き合えとしか言ってませんよ」
女先輩「よく言う。誰がどうみても彼が会長ちゃんを好きなのは、まるわかりだった。それで感情と向き合わせれば、この結果は必然に決まってるじゃないか」
友「へへっ、まぁ、会長さんだって、どう見ても男のやつしか見てませんでしたからね。多分、学校中の奴らがとっとと付き合っちまえって思ってましたよ。あ、美術部の部長さんだけ分かってないんだっけか」
女先輩「ふん。……さて、ハッピーエンドになったようだし、私は帰るかな」
友「あれ、ここは突撃して祝福しつつからかうところでは?」
女先輩「馬鹿を言え、よく言うだろ? 人の恋路を邪魔する奴は、馬に蹴られてしまうんだよ」
友「つまり……?」
女先輩「この先の時間は彼と彼女だけのものであって、部外者の我々は退場するべきということさ」
■■その十六 終わり■■
男「会長、約束します。僕はあなたとずっと一緒にいます」
生徒会長「男君、約束します。私はあなたとずっと一緒にいます」
男「僕は」
生徒会長「私は」
男・生徒会長「ずっと約束を守っていきます」
生徒会長「……男君」
男「はい」
生徒会長「よろしくお願いします」
男「かしこまりー!」
生徒会長「……男君」 男「かしこまりー」
お終い
■■おまけ■■
男(僕が会長に告白して早三日)
生徒会長「…………」
男(僕達は恋人になったわけだけど……)
生徒会長「…………」
男(特に何も変わらない!)
生徒会長「…………」
男(いや、わかっていたことだ。付き合いだした途端、きゃぴきゃぴし始める会長とか想像できないし、急に態度を変えられてもついていけるかわからない)
生徒会長「……? 男君」
男(けど、ちょっとくらい期待した自分はおかしくないはずだ。例えば、座る場所が少し近くなってるとか、時折目とか合うようになって、意味もなくお互いにニヤニヤしちゃったりするとか!)
生徒会長「おーい、男君」
男(というか、とっても気になるんですが、恋人のステップってどういう段階で進んで行けばいいんだろう……)
生徒会長「……むぅ」
男(まずはやっぱり手を繋ぐところだよな。腕を組むのは……まだ早いな、うん。こういうのってやっぱり男から切り出すべきなのだろうか。いつだ? 帰り道とかか? ……ちきしょう、会長と僕、帰り道別々じゃないか!)
生徒会長「……男君」
男(あ、でもあれか。帰り道をちょっと遠まわりするのも青春っぽいのかな? ……いいかも知れない。今日、仕事が片づいたら会長に提案してみ――――」
生徒会長「えい」
男「…………」
生徒会長「…………」
男「…………」
生徒会長「…………」
男「会長」
生徒会長「なに?」
男「今、僕の頬に触れたやわらかな感触の詳細を教えていただけないでしょうか」
生徒会長「唇」
男「唇、ですか」
生徒会長「うん」
男「つまり、ほっぺにちゅーですか」
生徒会長「うん」
男「そうですか。なるほどなるほど、そうですか……」
男(うぉおおおおお!? 不意打ち過ぎて全然感触覚えてないんですが!? 時間巻き戻れっ! 切実に! 神様お願い返して! 僕のファーストほっぺにちゅー!)
生徒会長「……今はまだ、新しい役員さん来ないから忙しいけど」
男「うぅぅ……ふぁい?」
生徒会長「人が増えて、お仕事に余裕が出てきたら、デートしようね」
男「…………」
生徒会長「それまで二人で頑張ろうね……副会長さん」
男「……かしこまりー!」
蛇足。
今度こそ本当に終わりです。
皆様、ありがとうございました!
続き
生徒会長「……男君」 男「かしこまりー」【アフター】

