大臣「紙幣のデザインを新しくいたします」
記者「新しい紙幣には誰の顔が入るのでしょうか?」
大臣「入りません」
記者「へ?」
大臣「新しい紙幣は肖像の入る部分を空白にし、自分の好きな顔を入れられるようにします」
記者「ええっ!?」
ザワザワ……
元スレ
政府「新しい紙幣は自分の好きな顔を入れられるようにします」
http://viper.2ch.sc/test/read.cgi/news4vip/1554827410/
記者「理由はなんでしょうか?」
大臣「誰を選んでも異論は出ると思うので、ならばいっそ各人で好きな人を描いたりしてくれればいいかな、と」
大臣「それに好きな肖像を入れられるようにすると、お金を使うのが楽しくなり」
大臣「皆が積極的にお金を使うようになり、経済活動が活発化するのではという狙いもあります」
記者「なるほど」
大臣「この新しい紙幣は、財政を黒字化させ、新しい歴史を生み出してくれるに違いありません!」
パシャッ パシャシャッ パシャシャッ
男「これが新しいお札かー」ピラピラ
男「ホントに顔が入るであろう場所が空白になってるな。真っ白だ」
女「まるで自由帳みたい!」
男「でもたしかに、下手に偉人の顔を入れるより、個人の自由にした方がお札に親近感が湧いていいかも」
女「うん、馴染みのない人の顔が入っても、なんだか乗れないしね」
男「さて、誰の顔を入れようかな……」
女「うーん……悩むね」
男「お金ってのは大切なものだから、ここはやっぱり大切な人の顔を入れるか」
女「誰?」
男「そりゃもちろん君だよ!」
女「やだ、嬉しい!」
女「だったら私もあなたの顔にするわ!」
男「新しいお札のおかげで……俺たちの仲も深まりそうだね!」
オタク「お札の顔、なに入れるか決めたかい?」
キモオタ「もちろん自分の好きなアニメの美少女キャラを入れるでござるよ」
オタク「やっぱり!」
オタク「僕も好きなゲームのキャラの顔を入れることにしたよ」
オタク「額が大きい順から、一番好きなキャラ、二番目に好きなキャラ……って具合にね」
キモオタ「わけ分からんおっさんの顔が入るより、こっちの方がいいでござるな!」
ミーハー娘「ねーねー、お札にはどういう顔入れる?」
ギャル「えー、どーしよー」
ギャル「やっぱー、自分の好きなアイドルとか、俳優とかー?」
ミーハー娘「だよねー!」
ギャル「マジ悩むー!」
ミーハー娘「○○君もいいしー、××君もいいかもー!」
金髪「おう、新しい札には誰のツラ入れる?」
グラサン「決まってんだろ! 俺の大好きなロックバンドのメンバーさ!」
金髪「俺も俺も!」
グラサン「憧れの人の顔が描かれた札を叩きつけて、物を買ったら最高にロックだよなァ!」
金髪「やりてええええ! まさにロックだな!」
グラサン「ロックンロォォォォォル!!!」
金髪「イエェェェェェイ!!!」
ナルシスト「……」
ナルシスト「ああ……僕はなんて美しいんだ」
ナルシスト「やっと……やっと長年の夢が叶う時が来た」
ナルシスト「新しいお札には僕の顔を入れる!」
ナルシスト「なぜなら、僕は世界一美しいんだから!」
歴史家「まったく……みんなふざけている! タレントやアニメのキャラをお札に描くなんて……」
歴史家「従来通り、ちゃんと歴史上の偉人の顔を入れるべきだ!」
歴史家「しかし、自分が尊敬する偉人の顔を自由に入れられるという点は素晴らしい」
歴史家「今までお札の肖像になった面々は、はっきりいって私の好みではなかったからな」
歴史家「さて、誰にするか……」
教祖「新しい紙幣には、皆さんぜひ私の顔を入れて下さい」
信者A「はいっ、教祖様!」
信者B「教祖様のご尊顔が描かれた紙幣で買い物ができる日が来るとは夢のようです!」
信者C「バンバンお金を使って、バンバン布教します!」
教祖「そうです……信じる者とお金を使う者は救われるのです!」
信者達「教祖様、バンザーイ!!!」
男子A「お前は誰かの顔入れたか? 俺は好きな野球選手にしたけど」
男子B「……」ピラッ
男子A「あれ、誰も描いてない……なんで?」
男子B「誰も描いてないわけじゃない……これは“無”なんだ」
男子A「へ?」
男子B「紙幣とは無の象徴だ……価値を保証してくれる機関がなくなれば瞬く間に紙クズと化す」
男子B「だから肖像には“無”こそが相応しい」
男子A(だいぶこじらせてんなぁ、こいつ)
幼女「パパー! ママー!」
父「どうした?」
幼女「おさつにパパとママのかおかいたよー!」
父「おっ、上手に描けてるじゃないか」
母「ありがとう、嬉しいわ」
幼女「えへへー」
大臣「新しい紙幣の反響はどうだね?」
秘書「はい、一部識者から否定的な声もありますが、好評の声の方が大きいようです」
秘書「価値観の多様化が進む今の世の中、お札の顔も多様化するのは喜ばしい、と」
秘書「ネット上ではみんなで誰の顔を入れたか見せ合う、といった現象も起きているようで」
秘書「少なくとも以前より紙幣への関心が高まったことは間違いないでしょう」
大臣「うむ、まさに我々の狙い通りだ」
ところが、人とは飽きっぽいものである。
最初のうちは張りきってお札の空白部に、尊敬する人物や好きなキャラクターを入れていた人達も……
男「ん、ピン札か」ピラッ
男「誰かの顔を描いたり印刷するのも、いい加減面倒になってきたな」
男「別に誰かの顔を入れるのは義務じゃないし、このまま使おっと」
男「これください」
店員「お釣りになります」
男「!」ピラッ
男(これは……!)
男(昔俺が作った、元カノの肖像が入ったお札だ……)
男(たしか自分の大切な人の顔を入れる、だなんていったっけ……)
男(こんなのまだ流通してたのかよ、恥ずかしいっ……!)
各地で……
「昔好きだったアニメキャラが入ったお札! もうとっくにオタクなんてやめたのに!」
「自分で自分の顔を描いた紙幣だ! あの頃は自信過剰だったなぁ……」
「インチキ宗教を開いてた時のお札か! うわぁ~、俺の顔がバッチリ描いてある!」
「うわ、こんなの描いてたっけ! 恥ずかしい~!」
「こんなのどこで使えってんだよ! 自販機で使わないと!」
大臣「秘書よ、新しい紙幣はどうだ?」
秘書「はい、ブームは過ぎ去り、肖像の部分になんの顔も入れなくなった人が増えているようです」
大臣「なるほど」
大臣「最初のうちははりきって新しい事を実践するが、飽きてくるうちやらなくなる……よくあることだ」
大臣「日記の三日坊主、毎日勉強するという誓い、などに代表されるようにな」
秘書「それどころか、昔自分が好きな顔を入れたお札を恥ずかしがる人もいるようで……」
秘書「大臣は、新しい紙幣は財政を“黒”字化させ、新しい“歴史”を生み出してくれるとおっしゃいましたが」
秘書「どうやら大量の新しい黒歴史を生み出してしまったようですね」
大臣(俺も行きつけのスナックのママの顔入れたんだよな……あー恥ずかしい)
― 終 ―
一般人でも区別して通報できるし