男「俺、密かな夢があるんだよね」
友「夢?」
男「俺さー、死ぬまでに一度でいいからニュースに出たいんだよね」
友「そんなの今日にでも実現できるじゃん」
男「どうやって?」
友「そこらで誰か刺してくればいい。あ、俺は勘弁な」
男「犯罪じゃダメなの!」
元スレ
男「俺さー、死ぬまでに一度でいいからニュースに出たいんだよね」
http://viper.2ch.sc/test/read.cgi/news4vip/1553767625/
友「だったら、たまにニュースで視聴者から出たい人募集みたいなことやってる番組あるじゃん?」
友「ああいうのに応募しまくれば?」
男「そういうのもなんか違うんだよなぁ……」
男「あくまで向こうから興味を持って取材に来るというか……そういう形じゃないとやだ」
友「ワガママな奴だなぁ」
友「だとしたら、なんか凄いこととか、面白いことをやるしかないな」
男「それしかないか」
男「俺の相談に乗ってくれたお礼に、一つ豆知識を教えてやろう」
友「なんだよ」
男「ニュースの語源っていうのは――」
男「方角を表すN(North)、E(East)、W(West)、S(South)の頭文字から来てるんだぞ」
友「それウソだぞ」
男「ウソォ!?」
ある日――
男「……」スタスタ
男「ん、あれは!?」
リポーター女「今度可決した法案についてどう思われますか?」
会社員「んー……そうだなぁ……」
男(街頭インタビューきたー!)
男(こういうこともあろうかと、俺はいつも新聞をくまなくチェックしてるんだ!)
男(どんな質問されようとトンチンカンな答えをすることはない!)
男(さあ、インタビューしてくれ!)チラッチラッ
男(さあ!)チラッチラッ
リポーター女(な、なにあいつ……)
リポーター女(あっち行こ……)スタスタ
男「あああ……」
男「行っちゃった……千載一遇のチャンスだったのに」ガクッ
友「そりゃ惜しかったなー」
男「ああ……」
男「もし俺がインタビューに答えてたら、完璧に的を射た回答をして」
男「きっとスタジオのニュースキャスターやコメンテーターにもベタ褒めされてただろうに……」
男「ひょっとしたら、朝まで生テレビあたりに出てくれって話になったかも……」
友「……逃がした魚はでかいっつうしな」
男「こうなりゃ仕事だ! ニュースになるような大きな仕事をするしかない!」
課長「このビッグ・プロジェクトを君に任せたい」
男「……本当ですか!?」
課長「ああ、君に一任する。しっかりやってくれたまえ!」
男「はいっ!」
男(俺にこんな大役が……よぉっし頑張るぞ!)
男「はい、その件に関しましては……」
男「絶対間に合わせて下さい! お願いします! でないとプロジェクトがぽしゃるんです!」
男「あー……今日も終電帰りだな……」
男「よし、これの準備はなんとかなった。次は――」
男(イケる! このプロジェクトを成功させれば、きっとニュースに……!)
社長「このたびのプロジェクト成功、よくやってくれた」
課長「ありがとうございます、社長」
社長「正直あまり関与できていなかったんだが、MVPといえる社員は誰なのだね?」
課長「は、私です! 全て私の主導と指示で行いました!」
男(え……!?)
社長「そうなのか、引き続きプロジェクトの進捗を報告してくれ。むろん、ボーナスは弾むよ」
課長「かしこまりました!」
男「課長!」
課長「ん?」
男「なんで……なんであんな独り占めのようなマネを……」
課長「なにをいう。このプロジェクトを君に任せたのは私だ」
課長「当然、全ての責任と手柄は私のものになる。違うかな? ん?」
男「責任って……プロジェクトがぽしゃりそうになった時、あなた、助けてくれなかったじゃないですか!」
課長「ん~? そんなことあったっけ? 忘れてしまったよ、ハッハッハ」
課長「ま、部下の失敗は部下のもの、部下の手柄は上司のもの。これが会社というものだよ」
男「課長……!」
男「――くそっ!」
友「ひでえ上司だな」
男「あんなに頑張ったのに……ちくしょう……」
友「だけど、周囲の人はお前が頑張ってるとこを見てたはずだろ? だったら――」
男「ダメだよ……うちの課長、強引な人だから。こうなった以上、全部課長の手柄だ」
友「……」
男「おかげでニュースのインタビューには課長が出るはめに……」
友「そこを悔しがってるのかよ!?」
男「当然だろ」
友「ハハ……長生きするよ、お前」
男(……なんて、あいつにはいったけど、本当は手柄を横取りされたこと自体悔しかった)
男(いくら寝ても、酒を飲んでも、愚痴を吐いても、憎悪は解消されるどころか増幅される)
男(結局、頑張っても報われない、汚い奴が勝つって、世の中が嫌になった)
男(思い詰めた俺は――)
男(最初にあいつがいった“提案”に乗る気になっていた)
課長「……」スタスタ
男(課長が歩いてきた……)
男(後はこの包丁で刺せば……恨みを晴らせるし、ニュースにも出ることができる)
男(この包丁で刺せばっ……!!!)
男(殺してやるっ!!!)
スタスタ…
スタスタスタ…
男「……」
男(なーんて。できるわけないじゃん。俺に人殺しなんて……)
男「うっ、ううっ、うっ……」グスッ
友「え、マジで包丁持って待ち伏せるとこまでいったの!?」
男「ああ」
友「で、どうなったんだよ?」
男「どうなったって……刺してたら今頃俺はここにいないだろ」
友「そりゃそっか」
男「だけど、一度刺し殺してやるってところまでやったら、なんか不思議とスッキリしたよ」
友「自殺しようと遺書を書いてたら自殺がバカバカしくなった、みたいな感じか」
男「そうそうそんな感じ」
男「それでさ、俺は悟ったよ」
男「ニュースに出ないような人生……いわゆる平凡な人生を送るのが人間にとっては」
男「一番の幸せなんじゃないかって」
友「かもな」
友「ニュースに出るような時の人になることが幸せだとは限らないしな」
友「マスコミに注目されて騒がれたせいで人生壊れちゃった、なんて人もいるし」
男「そうそう」
男「だけど……それでも」グビッ
友「?」
男「俺はまだニュースに出るのを諦めないぞーっ!!!」
友「すげえよ、お前」
………………
…………
……
リポーター「こちらのご自宅には、長寿世界一を記録なさったおじいちゃんがいらっしゃいます!」
リポーター「わぁっ、まだお元気そうですねー!」
リポーター「長寿世界一おめでとうございます! 一言ご感想をどうぞ!」
男「やっと……出れた」ニコッ
― おわり ―

