1 : ◆02/1zAmSVg - 2019/03/03 23:43:26.89 IvAUS8fAO 1/796
ー注意書きー
ニューダンガンロンパV3とBLEACHのクロスオーバーSSです
ニューダンガンロンパV3をクリアしていない人は読まないようお願いします
独自解釈や独自設定が多分に含まれているので、苦手な人はブラウザバックを推奨します
また、クロスオーバーの結果、V3原作・BLEACH原作と別物と呼べるレベルになっています。というか、別物と断言しても差し支えないと思います
そういうのが苦手な人な場合も、ブラウザバックを推奨します
以上の注意を守れる方のみ、お読みください
元スレ
キーボ 「砕かれた先にある世界」【BLEACH】【ロンパV3】
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1551624206/
ー尸魂界・流魂街ー
キーボ「………」
ガヤガヤ…ワイワイ…
キーボ「………………」
ガヤガヤ…ワイワイ…
キーボ「…………なんなんですか、ここは?」
キーボ(…落ち着きましょう。まずは現状の整理からです)
ガヤガヤッ…ザワッ…
キーボ(…周囲の建造物や人の服装から見るに、ここは旧時代の日本を再現したテーマパークか何かでしょうか?)
ザワザワッ…
キーボ(…ですが、なぜ、そのようなところに、ボクがいるのでしょう)
ヒソヒソッ…ヒソヒソ…
キーボ(そもそも、ボクは確かーーーー)
「………あれれー? そこにいるの、ひょっとしてー、キーボ?」
キーボ「………っ、!?」
「………うん、キーボ君で間違いなさそうだネ」
キーボ「!??」
キーボ「…え? え? え?」
キーボ「ち、ちょっと待ってください! まさかキミ達はーーーー」
アンジー「キーボ! 久しぶりー!」ダキッ
キーボ「アンジーさん!?」
真宮寺「………まさか、ここで、それも君と再会することになるとはネ…」
キーボ「真宮寺クン!?」
アンジー「………うんうん、このゴテゴテでヒヤヒヤした感じーーーーーーやっぱり、キーボだー!」ナデナデ
キーボ「そ、そんな、どうして、キミ達がここに…!?」
キーボ「キミ達は、何日以上も前に、既にーーー」
真宮寺「………それはーーー」
アンジー「………あのよー、あの世ー、ここが死後の世界だからなのだー!」
キーボ「し、死後の世界!?」
真宮寺「…そういうことになるネ」
真宮寺「ようこそ、尸魂界(ソウル・ソサエティ)へ」
キーボ「…そ、ソウル・ソサエティ?」
真宮寺「この死後の世界は、そう呼ばれているヨ」
キーボ「…そ、そもそも、死後の世界だなんて、そんなーーー」
真宮寺「そうでもなければ、ボク達が再会するなんてありえないと思うけどネ」
真宮寺「というか、君もここに来ている以上、死後の世界に来る心当たりくらいあるんじゃないかな?」
キーボ「あっ、いや、それは…」
真宮寺「…それが、ここが死後の世界であるという証拠だヨ」
キーボ「っ、」
アンジー「………ところでー、キーボ、整理券はー?」
キーボ「………はい?」
アンジー「だからー、しにがみから貰った整理券はー、どこー?」
キーボ「死神? 整理券? アンジーさんは何を言っているんですか?」
真宮寺「………一応確認しておくけど、君は死神から何も説明を受けていないーーー」
真宮寺「ーーーそういうことで、良いのかな?」
キーボ「いや、説明も何もボクはここに来たばかりでーーーーーーそれに、死神って、いったい何の話をーーー」
真宮寺「…仕方がないネ。代わりに僕から説明させて貰うとするヨ」
キーボ「えっ、?」
真宮寺「本来なら死神に任せる話ではあるけれど、君には借りがあるし………それに君が死神と接触するとややこしくなりそうだからネ」
キーボ「はっ、? いや、でも…」
アンジー「キーボ? ここは、是清の言う通りにすべきだよー? 神さまもきっとそう言ってるよー?」
キーボ「えっ、あの、その…」
アンジー「とりまー、レッツゴーだよー!」
真宮寺「そうだネ、それにこの流魂街(ルコンがい)だと君は目立つし、こっちに来た方が良いヨ」
キーボ「えっ、あっ、?」
………………………………………………………………
ー流魂街・志波家の屋敷ー
スタスタ………
キーボ(…言われるがまま、引かれるがままについてきてしまいました)
真宮寺「………」
アンジー「えっほー、ほいさー」トテトテ
ガチャッ…ギイイッ…
キーボ「…ここは、どこなんですか? 見たところ、豪邸の地下のようですが」
真宮寺「………ここは、【志波家】の屋敷。僕と夜長さんが世話になっているところだヨ」バタンッ
キーボ「志波家? 世話?」
アンジー「そうだよー、アンジーと是清は、この家に居候させて貰っているのだー!」
キーボ「…えっ、」
真宮寺「………」
アンジー「…どうしたー、キーボ?」
キーボ「いや、その…」
キーボ「平気…なんですか?」
真宮寺「………」
アンジー「…にゃははー、大丈夫ー、大丈夫ー!」
アンジー「ここは、死後の世界、だよー?」
アンジー「… “ もう意味は無い ” 、そうでしょー?」
キーボ「………」
真宮寺「…それに、この死後の世界の住民から聞いたのサ」
キーボ「…何をですか?」
真宮寺「…僕が執着していた “ あの人 ” のことを」
キーボ「………………その人が、どうかしたんですか?」
真宮寺「… “ あの人 ” は、とうの昔に生まれ変わっていたそうだヨ」
キーボ「………!?!」
真宮寺「… “ あれ ” は、幻ーーー」
キーボ「………」
真宮寺「ーーーそういうこと、だったんだろうネ…」
アンジー「………………」
真宮寺「いまでは何も、聞こえはしないヨ………」
キーボ「…………………………」
キーボ(……… “ 元々 ” 有していた血縁関係ーーー)
真宮寺「………………………」
キーボ(ーーーなるほど、 “ 元々 ” 有していた関係だとすれば、それほど、おかしな話でもーーーー)
アンジー「ーーーとにかく、もう大丈夫だからー」
キーボ「…ですがーーー」
アンジー「…それに、なにかあったら、空鶴(くうかく)と岩鷲(ガンジュ)が黙ってないからねー!」
キーボ「………?」
キーボ「それは、ひょっとして、人の名前ですか?」
真宮寺「…そうだネ、この屋敷の主とその弟さんの名前だヨ」
キーボ「………」
真宮寺「もし、妙な真似をすれば、彼女達が黙っていない」
真宮寺「彼女達は抑止力…その力の前では、何もできはしない…」
キーボ「………」
真宮寺「それに、そんなに心配なら、君の目で直接確かめて見れば良いんじゃないかな?」
真宮寺「空鶴さん達が帰ってきた、その時に」
真宮寺「抑止力になり得るか、どうかを、ネ」
キーボ「…そうですね」
キーボ「…とりあえず、いまは、ボクが見張っていることにしますよ」
真宮寺「…うん、それがいいネ…」
アンジー「…………」
真宮寺「ーーーそれで話を戻すけど、いま僕達のいるこの部屋は、志波家の屋敷の一室、僕の部屋として使わせて貰っている空間サ」
キーボ「………」
真宮寺「…キーボ君、いろいろと混乱しているとは思うけど、まずは僕達のいるこの世界が死後の世界であるということーーー」
真宮寺「ーーーそこを、しっかりと受け入れて貰うヨ」
キーボ「…死後の世界………」
真宮寺「そう、この世界は、尸魂界と言ってネ。紛れも無い、正真正銘の、死後の世界なんだヨ」
真宮寺「現世…あァ、僕達がいた世界のことだけど、そこで死んだ人の魂が尸魂界に流れ着くのさ」
アンジー「…一部を除いてねー!」
キーボ「………やはり、にわかには信じがたいことですがーーーーーーこうして、お二人と会ってしまうと、信じざるを得ませんね」
アンジー「…アンジーはねー、キーボには、ホントにビックリしたよー!」
キーボ「…ビックリですか」
真宮寺「まァ、回覧板を渡しに行ったら、帰り際に生前の知り合いと…それもキーボ君と再会したわけだからネ…」
アンジー「ホントのホントにビックリー!」
アンジー「どわー、って! おわー、って!」
キーボ「いや、そんなリアクションはしていなかったはずですが」
真宮寺「…夜長さんの反応はさておき、機械文明の産物が死後の世界に迎えられるという事実ーーー」
真宮寺「ーーーそれには、僕としても、驚愕せざるを得ないヨ」
キーボ「…死後の世界でも、ロボット差別を受けるとは…そっちの方が驚きですよ」
真宮寺「…ンー、差別する意図は無かったんだけどネ」
キーボ「…どういう意味ですか?」
真宮寺「君は機械文明の産物でありながら、死後の世界に逝けるだけの器… “ 魂魄 ” を持っていた」
真宮寺「それだけ人に近いロボットもそうはいない。むしろ貴重な存在であることを誇るべきだと思うヨ」
アンジー「…うんうんー! キーボは『すごいもの』だったー!」
アンジー「ーーーって、きっと神さまも言ってるよー!」
キーボ「………」
アンジー「…アンジーも、そう思うー!」
キーボ「………そうですね! ほめていただき、ありがとうございます! アンジーさん!」
真宮寺「ーーーそう、君は、死後の世界………尸魂界の迷いを振り払い、こうしてここにやってくることができた存在だ」
真宮寺「それは、充分に誇るに値することだと思うヨ」
キーボ「………はい?」
アンジー「………」
キーボ「迷う?」
真宮寺「………」
キーボ「それは、どういう意味ですか?」
真宮寺「………それを話す前に、一応確認しておくけどサ」
真宮寺「さっき会ったばかりの君の発言から推測するに、君の認識では、僕達と何ヶ月かぶりに再会したわけではない……
…」
キーボ「………?」
真宮寺「………事実として、さっき君は、 “ 何日以上も前に、既にーーー ” という発言をしていた」
真宮寺「そうだよネ、キーボ君?」
キーボ「? え、ええ…そうですけど………?」
キーボ「それが、何かーーー」
アンジー「うーん、不思議ミラクルだねー?」
アンジー「アンジーたちには、2ヶ月ぶりー、なのにー!」
キーボ「ーーー2ヶ月!?」
真宮寺「そう、今日は、夜長さんと僕が尸魂界に来てから約2ヶ月となる」
真宮寺「その時に、君は来たんだ」
キーボ「そんな…あれから2ヶ月も経っているはずが…」
真宮寺「でも、実際に2ヶ月という時間が経過している」
真宮寺「それは、確かな事実だ」
キーボ「………!」
真宮寺「そして、君はこの世界の管理者から、この世界に関する説明を受けていない」
真宮寺「つまり、夜長さんと僕のように、最初は魂魄を説明会場に送られたわけではないことになる」
真宮寺「…事実として、君の認識では、さっきの、あの場所にその魂魄を直接送られたんでしョ?」
真宮寺「気がついた時には、さっきの、あの場所にいたんだよネ?」
キーボ「………」
アンジー「なんでだろー? なんでだろー?」
真宮寺「…死後の世界も迷っていた、ということなんだろうネ」
真宮寺「キーボ君を受け入れるべきかどうかを」
真宮寺「だからこそ、魂魄の移動に2ヶ月という時間がかかり、死者の住む街にいきなり送られることになった」
真宮寺「そうした不具合が起きてしまったんだろうネ」
キーボ「…世界が迷うだなんて、そんなことがあり得るんですか?」
真宮寺「…世界が、生物の一種だとすれば、あり得ない話ではないと思うヨ」
真宮寺「生物的な機能が、体内に受け入れても良い菌と、そうでない菌の判断に迷うというのは、よくある話だからネ」
キーボ「ちょっと! ボクを菌なんかと一緒にしないでください!」
真宮寺「………悪いネ、菌は生物と無機物の中間って言うから、つい、ネ…」
キーボ「王馬クンみたいなこと言わないでください! 流石にロボット差別でーーー」
キーボ「ーーーーーーえっ、?」
真宮寺「…どうしたんだい、キーボ君? 急に止まってしまって?」
アンジー「ひょっとしてー、ガソリンが切れちゃったりー?」
キーボ「…違いますよ! そもそもボクのエネルギー源はガソリンじゃありません!」
キーボ「ーーーって、そんなことより、ここが死後の世界ってことはーーー」
キーボ「ーーー王馬クン達、ほかの皆さんもいるんですか!?」
真宮寺「………」
アンジー「………そうだねー、キーボの言う通りだよー」
キーボ「!」
アンジー「………いるのは、小吉だけじゃないよー?」
アンジー「蘭太郎も、楓も、転子も、ゴン太も、解斗も、斬美も、竜馬も、美兎もーーー」
アンジー「みんな、ここにいてーーー」
キーボ「どこですか!?」
アンジー「えっ、」
キーボ「皆さんは、どこにいるんですか!?」
真宮寺「…キーボ君?」
キーボ「教えてください、二人とも! キミ達も含めて、皆さんには、早急にお伝えしなければならないことがーーー」
アンジー「…伝えなきゃいけないことって、どんなことー?」
キーボ「…えっ、」
真宮寺「そうだネ、まずはそれを教えてくれないかな。でないと、すぐに伝えるべきかどうか判断できないヨ」
キーボ「はっ、? いや、でもーーー」
アンジー「キーボ? まずはアンジーたちに教えてー?」
アンジー「…ショックな話だったらー、最初に知る人は、少ない方が良いはずだよー?」
キーボ「っ、」
真宮寺「…そういうわけで、教えてくれるかな、キーボ君」
真宮寺「君が知っていることについて」
キーボ「………………わかりました。お教えします」
真宮寺「………」
アンジー「………」
キーボ「実はーーーー」
………………………………………………………………
キーボ「ーーーということなんです」
アンジー「…なるなるー、よくわかったよー!」
真宮寺「それが、君の知っていることなんだネ…」
キーボ「ええ、まあ…」
キーボ「………なぜ、ボク達、【超高校級が集められて】【あんなことをさせられたのか】まではわかりませんでしたがーーー」
キーボ「ーーー【黒幕を突き止め】【全て終わらせた】」
キーボ「それは、確かな事実です」
アンジー「………」
キーボ「…ボクはこの話を今すぐ赤松さん達に伝えるべきだと思います」
キーボ「そうでないと、赤松さん達はーーー」
真宮寺「ーーーその必要はないヨ」
キーボ「ーーーえっ、?」
真宮寺「今すぐ赤松さん達に伝える必要はないヨ」
キーボ「はっ、? いや、でもーーー」
真宮寺「というか、君の語ったことは、赤松さん達も大体検討の付いていることだからネ」
キーボ「………!?」
キーボ「それは、どういうことですか?」
アンジー「…実はねー、見てたんだよー」
キーボ「…見ていた?」
真宮寺「…そう、『彼』が殺された時、その魂魄が肉体から抜け出た瞬間ーーー」
真宮寺「ーーー【誰が】【どこに向かって行ったのか】をネ………」
キーボ「!?」
真宮寺「そして、その後どんな理不尽が起きたのかは、僕達も知っての通り…」
真宮寺「つまりは、そういうことだったんだろうネ…」
アンジー「だからねー、楓たちも、アンジーたちも、キーボがいま言ったことについては大体わかってるんだー」
真宮寺「【何度も起きていた】という話も、『彼』の証言から、ある程度は検討の付いていたことーーー」
アンジー「ーーー【黒幕を突き止め】【全て終わらせた】っていうのは、いま、はじめて知ったことだけどーーー」
キーボ「………!!?」
アンジー「ーーーみんな、いつかそうなるってことは、信じてるからねー」
アンジー「だから、急いで伝えるような話でもないしー」
アンジー「…キーボの知ってること、いま伝えなくても良いと思うよー?」
キーボ「………」
キーボ「………しかし、裏付けとなる証言は早めに知っておいた方が良いのではないでしょうか?」
キーボ「でなければ………あの人でなしが、赤松さん達のところに向かって、口八丁で騙して混乱させてくる可能性だって出てきます」
キーボ「ここが死後の世界である以上、可能性はゼロではありません」
キーボ「ならば、早めにボクの証言を伝えた方がーーー」
真宮寺「その必要もないヨ」
キーボ「…それは、何故でしょうか?」
真宮寺「君の語ったことが真実なのであれば、君が危惧しているような事態には絶対にならないからサ」
キーボ「?」
アンジー「さっきー、アンジーは言ったよねー?」
アンジー「 “ 一部を除いて ” 、って………」
キーボ「………それは、まさかーーー」
真宮寺「そう、現世で死を迎えたとしても、全ての魂魄が尸魂界に送られるわけじゃないんだ」
真宮寺「生前、非道な行為に手を染めた者は、地獄に送られる決まりだからネ」
キーボ「………」
キーボ「………………えっ、」
真宮寺「………何かな?」
キーボ「………あっ、いや、その…」
アンジー「………」
真宮寺「………このことで何か気になることがあるなら、言ったらどうだい? いつだって受け付けるヨ?」
キーボ「………いえ、」
キーボ「…もう、 “ 意味は無い ” んでしょう…?」
真宮寺「………」
キーボ「なら、わざわざ『送る』必要もない…」
キーボ「そういう…こと、なんでしょう…」
アンジー「………」
真宮寺「…話を戻すけど、兎に角、生前、非道な行為に手を染めた者は基本的に地獄に送られる決まりになっている」
真宮寺「【その時代の現世】【その場所における倫理から見て】【許されない行為】でーーー」
真宮寺「ーーー【死後の世界でも非道を行う気があるような者】ならば、尚更ネ」
キーボ「………」
真宮寺「そういう者は、 “ 地獄の鎖 ” に囚われ続けーーー」
真宮寺「ーーー “ クシャナーダ ” と呼ばれる地獄の管理者の手によって、責め苦を受け続けることになるのサ」
キーボ「………………」
真宮寺「 “ 人でなし ” は、地獄に送られる」
真宮寺「 “ 人でなし ” である限り、地獄から “ 解放 ” されることは無い」
真宮寺「だから、赤松さん達が騙されてーーーーーーなんてことには絶対にならないヨ」
キーボ「………なるほど、よくわかりました」
アンジー「………」
キーボ「ーーーただ、真宮寺クン達の話で気になったことが二つあります」
真宮寺「…何かな?」
アンジー「なーにー? キーボ?」
キーボ「まず、一つ目に気になったことですがーーー」
キーボ「ーーーキミ達は、なぜボク達、【超高校級が集められて】【あんなことをさせられたのか】についてーーー」
キーボ「ーーーこの死後の世界から、何か突き止めることはできたのでしょうか?」
キーボ「もし、そうなら、是非とも教えて欲しいのですがーーー」
真宮寺「…いや、残念ながら、何もわかっていないままだヨ」
アンジー「…神さまも、きっとよくわかんないってー」
キーボ「…一応確認しておきますけど、ソウル・ソサエティの他の住民に対して、聞き込みはしていないんですか?」
真宮寺「…しているヨ」
真宮寺「…現在も過去も、僕達が巻き込まれた案件に関して何か突き止められることは無いか、定期的な聞き込みは行っている」
真宮寺「 “ 生き残った皆がどうなったか? ” なども含めてネ」
キーボ「………それは、キミ達よりも前に亡くなられた方に対してだけですか?」
アンジー「いやいやー? そんなことはないよー?」
真宮寺「夜長さんの言う通りだヨ」
真宮寺「僕達は、僕達よりも後に亡くなった人にも………それこそ今日から見て数日前に亡くなった、新しく死後の世界に来た人達に対してだって、聞き込みを続けている」
アンジー「今日から1ヶ月前の人でも、10日前の人でも、3日前の人でも、新しい人が来るたびに、いろいろ聞いてーーー」
アンジー「ーーーおとといだって、そうしてたからねー?」
キーボ「………そうでしたか」
キーボ「………」
キーボ「………………」
キーボ「………………………………………」
キーボ(………なるほど)
キーボ(どうやら、この死後の世界でも、『世界の管理者』が存在し、世界に住まう人々の記憶を操作しているーーー)
キーボ(ーーーそう、考えて、間違いなさそうですね)
キーボ(この世界が、死後の世界ならば、そこにいるアンジーさん達が何も知らないままでいる………という状況が成立するはずが無い)
キーボ(あれから2ヶ月も経過したというのならば、なおさらです)
キーボ( “ あの事実 ” を考慮すれば、そのような状況が、成立するはずが無いのです)
キーボ(ボクやアンジーさん達以外に人がいないなら話は別ですが、ボク達以外にも死者は存在するようですからね…)
キーボ(その条件下で、アンジーさん達が何も知らないままでいる………という状況など、 “ あの事実 ” を考慮すれば、成立するはずが無いのです。普通ならば)
キーボ(ならば、どうして、このような状況が成立しているのか?)
キーボ(………敢えて真相を隠しているということは無いでしょう)
キーボ(真相を知っているのならば、ボクに隠したところで意味が無いことは知っているはずですからね)
キーボ(さっきボクが、とっさに誤魔化した時だって、もっと追求するようなことを言ったはず)
キーボ(それでも、いまの状況が成立する理由があるとすればーーー)
キーボ(ーーーこの死後の世界に来た者達は、生前の倫理的価値観をもって死後の世界を混乱させないよう、『世界の管理者』からある程度の記憶操作を受けていると考える他ない)
キーボ(アンジーさん達とボクの間に記憶の食い違いが無いことから見て、個人レベルならば内容はどうあれ、いちいち記憶操作は受けないようですがーーー)
キーボ(ーーー民衆レベルで溶け込んだ価値観は、それも偏ったものは、記憶操作の対象となる可能性は極めて高い)
キーボ(ボク達のように民衆から “ 外れた ” 存在とは異なる、ごくごく普通の民衆である他の死者達ーーー)
キーボ(ーーーすなわちボクがここに来た時に見た人々などは、きっと記憶操作を受けている)
キーボ(おそらくは、あの、 “ 人でなし ” の場合であっても、同じように記憶操作を受け、無害な存在へと変わるのでしょう)
キーボ(でなければ、時代によっては、偏った倫理的価値観が死後の世界でも蔓延し、無視できない混乱を発生させる可能性がある。それを避けるためには、記憶操作が必要となる)
キーボ(故に、アンジーさん達は、誰からも真相を聞くことができてないのでしょう。聞く対象の記憶が操作されているとすれば当然のこと)
キーボ(…さっき、とっさにああ言って誤魔化してしまいましたが、結果的には良かったかもしれませんね)
キーボ(何事も大勢に伝えるためには、最初に伝えるべき人・場所・状況を、よく考えなくてはならない)
キーボ(そうです。アンジーさんと真宮寺クンに対し、ここでいきなり “ あの事実 ” を伝えるべきではーーーー)
真宮寺「…また、止まってしまったネ、キーボ君」
アンジー「ひょっとしてー、石炭が切れちゃったりー?」
キーボ「なっ、違いますって! ボクのエネルギー源は石炭でもありません!」
キーボ「…動きが止まったのは、単純に思考の処理に時間がかかったからです」
キーボ「人が考えごとをしている最中にじっとしているようなものです。大したことではありませんよ」
真宮寺「…そうかい? なら良いけどーーー」
アンジー「ーーーところでー、キーボ? さっき言ってたことの、ふたつ目って、なーにー?」
キーボ「…ああ、二つ目に気になったことについてですね」
キーボ「それなら単純にーーーー」
キーボ「ーーーひょっとして、キミ達は、赤松さん達とボクが再会することを、避けようとしているのではないか?ーーー」
真宮寺「………」
アンジー「………」
キーボ「ーーーそれが、二つ目に気になったことです」
真宮寺「………確かに、僕達は、キーボ君が赤松さん達と今すぐ再会することを避けようとはしているヨ…」
キーボ「やはり、ですか」
真宮寺「だけど、それはーーー」
アンジー「それはねー! いま、楓たちは、大事な時期だからなのだー!」
キーボ「…大事な時期?」
真宮寺「………うん、最近の赤松さん達は、この死後の世界での生活基盤を形作るのに忙しくてネ」
真宮寺「故に、君と赤松さん達をいま会わせるわけにはいかない」
アンジー「もし、キーボが来たって知ったらー、楓たちは、無理にでも会おうとするだろうねー」
真宮寺「だから、皆が落ち着くまで、我慢してくれると助かるヨ…」
キーボ「…わかりました。そういう事情があるのであれば、仕方の無いことでしょう」
真宮寺「………」
キーボ「ですが、これだけは聞かせてください」
キーボ「赤松さん達は、いまどちらにいるのでしょうか?」
アンジー「………」
キーボ「彼女達の居場所を知っていると知っていないでは、有事の対処の仕方も変わってきます」
キーボ「なので、そこだけは聞かせて頂けますか?」
真宮寺「…赤松さん達だったら、瀞霊廷(せいれいてい)に住んでいるヨ」
キーボ「セイレイテイ…ですか?」
真宮寺「そう、瀞霊廷」
真宮寺「この尸魂界の中心部にある首都のことサ」
キーボ「首都…」
アンジー「………」
真宮寺「ここから先の説明は、 “ 本来ならば ” 説明会場で、この世界の管理者から教えられる基本事項でもある」
キーボ「………」
真宮寺「………遅れちゃったけど、それをこれから僕が代わりに説明しようと思う」
真宮寺「基本事項について理解していた方が、これからの会話もスムーズに進みやすいだろうからネ」
真宮寺「だから、君にはまず、その説明を聞いて欲しい」
キーボ「…わかりました、真宮寺クン」
キーボ「説明、お願いします」
真宮寺「………ありがとう、キーボ君」
アンジー「………」
真宮寺「それじゃあ、さっそく説明させて貰うネ」
キーボ「はい………!」
真宮寺「ーーー尸魂界において、居住する場所は主に二つに分かれている」
真宮寺「一つは流魂街と呼ばれる場所で、僕達のいるこの屋敷、君と再会したあの街は、流魂街に位置している」
真宮寺「そして、尸魂界に来た魂魄は、説明会場で世界の管理者から、この世界における基本事項を教えて貰った後は、流魂街に住むことになる」
アンジー「整理券を貰ってねー!」
真宮寺「そう、整理券を貰い、それに記された通りの区域に住むことになる」
真宮寺「基本的にはネ」
キーボ「………」
真宮寺「だけど、条件を満たせるのであれば、瀞霊廷という、人が居住するもう一つの場所に住むことが可能なんだ」
キーボ「…条件、ですか」
真宮寺「そう、条件」
真宮寺「その条件こそが、 “ 霊力 ” を有していることであり、それがあれば瀞霊廷の居住を許されるのサ」
キーボ「…霊力?」
アンジー「………」
真宮寺「…霊力とは、霊的な力を操る霊能力のことサ」
キーボ「霊能力………」
真宮寺「その力を、赤松さん達は死後に目覚めさせていた」
キーボ「………?」
キーボ「待ってください。どうして、赤松さん達にそんな力がーーー」
真宮寺「ーーーそれは、わからない」
真宮寺「ただ、少なくとも、2ヶ月前、君を除いた僕達全員がこちらに来た時には目覚めていたそうだヨ」
キーボ「………………」
真宮寺「そう、僕達全員が、尸魂界の同じ時間の同じ場所に送られた時に、ネ」
キーボ「…時間や場所が同じだった?」
真宮寺「そうだヨ」
真宮寺「…後から聞いた話だけど、【心中でもしない限り】【送られる時間や場所が同じになるなんてことは】【まずありえない】らしいんだ」
真宮寺「だけど、なぜか、僕達は全員、同じ時間の同じ場所にいたんだ」
真宮寺「それぞれ、死亡した時、はたまた死亡して肉体から魂魄が出て少し経った時に、意識を失いーーー」
真宮寺「ーーー気づいた時には尸魂界、その説明会場まで来ていた」
真宮寺「………同じように、霊力が目覚めた状態で、ネ」
アンジー「………………」
キーボ「どうして、そんなことがーーー」
真宮寺「ーーーそれも、わからない」
キーボ「………………」
真宮寺「いま、わかることは、たった一つ」
真宮寺「君もまた霊力を持っているということだ」
キーボ「………はい?」
アンジー「………」
真宮寺「………」
キーボ「それは、どういうーーーー」
岩鷲「ーーーおおーい! オメーら! 帰ったぞー!!」バタンッ
キーボ「!?」
岩鷲「………っ、!?!?」
キーボ「えっ、あっ、」
岩鷲「………………」
キーボ「キ、キミはいったいーーー」
岩鷲「うおおおおおおおおおおおおお!!!」
キーボ「!?」
岩鷲「オメーか!」ダダッ
キーボ「!?!」
岩鷲「オメーが、アンジーちゃんと真宮寺の言ってた “ ろぼっと ” って奴だな!?」ガシッ
キーボ「え、あ、その………」
岩鷲「そうなんだな!?」キラキラ…
アンジー「…そうだよー、キーボはロボットなんだよー!」
真宮寺「…彼こそが、【超高校級のロボット】キーボ君。紛れもなく僕達が話した存在サ」
岩鷲「…そうかそうか! よろしくな、キーボ!!」ガシッ
キーボ「えっ、あっ、」
岩鷲「いやー、それにしてもホント、すげーなおい! こんなすげー “ ろぼっと ” なんて、俺はじめて見たぞ!」ベタベタ
キーボ「いや、ちょっと」
岩鷲「ロケットパンチとかどうなってんだ!? 変形とか合体とかどうやんだ!?」ユサユサ
キーボ「あ、え、う、」
岩鷲「…ああ、そうだ、まだ俺の自己紹介がまだだったな!」
岩鷲「俺こそ、自称、【西流魂街のーーー」
空鶴「うるっせえぞ、岩鷲!」ヒュンッ
ドゴオッッッ!!!
岩鷲「ぶほおっ、!?」
バッターンッッッ!!!
キーボ「!?」
岩鷲「…いてて、姉ちゃん! 何すんだよ、いきなり!?」ガバァッ
キーボ「!?」
空鶴「それはこっちのセリフだ!」
空鶴「汚ねえ手でベタベタ触ってんじゃねえ!! 礼儀を忘れたのか!? ああ!!」
岩鷲「はっ、!?」
キーボ「」ポカーン
岩鷲「す、すまねえ! “ ろぼっと ” さん! この通りだ! 許してくれ!」ババッ
キーボ(…この光景は、現実なのでしょうか?)
キーボ(細身の女性が、一瞬で部屋の中まで入り込み、体格の良い男性を一撃で部屋の外まで殴り飛ばすだなんてーーー)
キーボ(ーーーしかも、それだけの力を身に受けた男性の方もまた、すぐに立ち上がった………)
キーボ(………まさか、彼らがーーー)
空鶴「…おい、聞いてるか? “ ろぼっと ” っての」
キーボ「…あっ、」
空鶴「…安心しろ。岩鷲には、おれがよく言い聞かせておく」
キーボ「…えーと、はい、彼も謝っていることですし、それは構わないのですがーーー」
岩鷲「…お、おう! ありがとな、 “ ろぼっと ” さんーーー」
空鶴「黙ってろ」ゲシッ
岩鷲「ぶふぉう!?」ドザアッ
キーボ「ーーーもしかして、あなた達がーーーー」
空鶴「…おれの名は志波空鶴! この志波家の家主、そして流魂街一の花火師だ!」
キーボ「やはりあなたが、クウカクさん…」
空鶴「ああ、ついでに、そこで土下座してるのが、弟の岩鷲だ」カラッ
岩鷲「つ、ついで、って…」
キーボ「………」
空鶴「…事情は真宮寺から全部聞いてる」
キーボ「えっ、」
真宮寺「あァ、実はここに向かう途中で、空鶴さん達に連絡しておいたんだヨ」
キーボ「なっ、!? そんなの、いつの間にーーー」
空鶴「ーーーしばらくこっちに泊めてやる」
キーボ「えっ、」
アンジー「!」
真宮寺「………」
空鶴「寝床はしばらく真宮寺に貸してる部屋を二人で使いな」
キーボ「…いや、ちょっとーーー」
岩鷲「ん? ちょっと待ってくれよ、姉ちゃん。まずは俺の部屋じゃねえのか? 真宮寺の時はーーー」
空鶴「ベタベタ触る奴とされた奴を同じ部屋にできるか、バカ」
岩鷲「うっ、」
キーボ「…あのーーー」
空鶴「…気にすんな、死神とのゴチャゴチャした手続きはこっちでやっておく」
キーボ「えっ、」
空鶴「今のテメエが、死神と直接かち合うわけにはいかねえだろ?」
空鶴「足元を示す手型一つ持たねえ今のテメエじゃあ、無駄に時間がかかることは目に見えてるからな」
キーボ「………」
空鶴「手続きが終われば、おれの元に通知が来る」
空鶴「テメエの手型が、おれのもとに来るんだ」
アンジー「………」
空鶴「瀞霊廷に住めるかどうかも、そこでわかるーーー」
空鶴「ーーーそんで住めるってなったら、実際に住める日まで、泊めてやる」
空鶴「まあ、手続きなんざ普通は即日で済むんだが、テメエの場合はそうもいかねえだろうからな…」
キーボ「…えーと………」
空鶴「実際に、テメエが瀞霊廷に住めるかどうかはわからねえがーーー」
空鶴「ーーーもし、この流魂街に住み続けることになったら、転生の日まで正式に居候させてやるよ」
アンジー「!!」
真宮寺「………………」
キーボ「………あっ、えっ、?」
空鶴「…何年か前は、居候が三人もいたんだ。また居候を三人抱え込もうが、大したことでもねえ」
空鶴「まっ、なんにしろ、ここで食って寝る以上は、みっちり働いて貰う! そこは覚悟しとけ!」
キーボ「ち、ちょっと待ってくださいよ!」
キーボ「ここに住むって、いきなりそんなーーー」
空鶴「ああ? なんだ、テメエ、おれの家に住めねえってか?」
キーボ「あっ、いや、そうではなくーーー」
アンジー「キーボ、ここは空鶴の言う通りにした方が良いって、きっと神さまも言ってるよー?」
真宮寺「…そうだネ、彼女には逆らわないことを勧めるヨ」
岩鷲「そうだ! “ ろぼっと ” さん…いや、キーボ! 姉ちゃんに逆らったらそれはもう恐ろしいことにーーーぶべえっ!?」ドザアッ
空鶴「雑音は兎も角、住むか住まねえかハッキリしな」ゲシゲシッ
空鶴「それで、テメエの今後が決まる…!」ゴオオッ
キーボ「ーーーわ、わかりました! わかりましたから! どうか、ボクをここに住まわせてください!」
空鶴「よしっ、そんじゃあ、決まりだな!」
キーボ(ううっ、勢いで言ってしまいましたが、大丈夫なんでしょうか………)
空鶴「ーーーただ、もう遅いし、ゆっくりしな。今日はお前ら居候の休みの日でもあるしな」
キーボ「あっ、はい…」
空鶴「しばらくしたら飯にすんぞ」スタスタ
空鶴「…おい、岩鷲、いつまでも土下座してねえで、しゃんと立ちやがれ! そんで、ベタベタした罰として飯の準備手伝え!」グイッ
岩鷲「わ、わかったよ、姉ちゃん! いてて! そんな引っ張んなって!」ズルズル…
キーボ「………」
アンジー「あれまー、キーボ、また固まっちゃってるねー」
アンジー「今度は、ゼンマイがほどけちゃったりー?」
キーボ「………」
アンジー「…うんうん、ホントにカチコチだよー、何も返さないしー」
真宮寺「まァ、空鶴さんも岩鷲君も、中々に強烈な個性の持ち主だからネ、思考処理のために動作を停止させてしまうのも無理は無いヨ」
真宮寺「ただ、彼女が言っていた通り、キーボ君にはしばらくボクの部屋に寝泊まりして貰うからネ」
真宮寺「そこは記憶領域に残して欲しいかな、でないとーーー」
キーボ「ーーーわかってますよ、クウカクさんに逆らうわけにはいかないのでしょう?」
キーボ「だったら、泊まりますよ! 誰の部屋であっても!」
真宮寺「ククク…助かるヨ」
浦原「ーーーあー、あー、スイマセ~ン! ちょおっと、お時間よろしいでしょうか~?」トテトテ
キーボ「!?」
アンジー「………あー、喜助ー!」
真宮寺「これはこれは…もう到着したのかい?」
浦原「ええ、ただいま到着しました~! 毎度ご贔屓に~!」
真宮寺「今日は、商品を買うわけでは無いんだけれどネ」
浦原「わかってますよ~! これは、毎度、ウチを贔屓にして貰ってる真宮寺サンに対する特別サービスでもあるんスから!」
キーボ「………え、えーと、すいません?ーーー」
浦原「………」
キーボ「ーーーあなたは、いったいーーー」
浦原「………ああっ、これは失礼しました!」
浦原「アタシ、浦原喜助という者っス! 駄菓子屋の店主をしております!」
浦原「どうぞ、よろしく~!」パッパラ~!
キーボ「あっ、これは、どうも…」
浦原「………」
キーボ「それでは、ボクもーーー」
キーボ「ーーーボクは、キーボです。見ての通り、ロボットをしています」
浦原「…はじめまして、キーボさん! どうか、今後、浦原商店をご贔屓に~!」
真宮寺「ククク…浦原さん、商売も良いけど、まずはメールで頼んだことをお願いするヨ」
浦原「わかってますよ~、それでは、キーボさん、さっそくーーー」スッ
キーボ「ち、ちょっと、急になんですか? 近づいてきてーーー」
浦原「あー、スイマセン、失礼ながらこれから検査をさせて頂きます」
キーボ「検査?」
浦原「…ええ、検査です」
浦原「そのステキなボディの中に、危険物でもあれば、大事になりかねませんから」
キーボ「!?」
キーボ「き、危険物ってーーー」
浦原「ーーーいやあ~、だって、ロボットと言ったらドリルやミサイルってイメージあるじゃないっスか?」
キーボ「………あっ、」
浦原「そういったものが付いていたら日常生活も大変でしょう?」
キーボ「………っ、」
浦原「それにアタシ、こんな成りしてますが、科学者の端くれではありましてね」
キーボ「科学者…?」
浦原「ええ、科学者です」
キーボ「…ここは、オカルトな死後の世界では無かったのですか?」
浦原「確かにここは、オカルト現象の吹き荒れる死後の世界ではありますがーーー、科学者は普通に存在していますよ」
浦原「実際に入間サンという科学者の方が、こちらに来ているじゃないっスか」
キーボ「………」
浦原「それで、もしキーボさんの身に何か大事があったらアタシの力でどうにか解決できたら、と思っています」
キーボ「………」
真宮寺「…大丈夫だとは思うけど、一応ネ」
アンジー「アンジーも、やった方が良いと思うなー」
浦原「ーーーというわけで、検査、させて頂けませんか?」
キーボ「っ、しかしーーー」
アンジー「…キーボ、大丈夫だよー」
キーボ「…アンジーさん?」
アンジー「喜助はねー、ものすごーく、うさんくさいけど、信頼できる人だからー!」
真宮寺「そうだネ、非常に怪しい人物ではあるけど、信頼は大切にする人だヨ」
浦原「信頼第一、商売人として当然っス!」
キーボ「………」
真宮寺「ーーーどうか、彼を信じて、検査を受け入れてくれないかな、キーボ君?」
キーボ「ーーーわかりました」
浦原「!」
キーボ「…たしかに、危険物があっては迷惑をかけかねませんからね」
キーボ「検査、お願いします」
浦原「ありがとうございます! それでは、さっそくーーー」
キーボ「ただし!」
真宮寺&アンジー「「!?」」
浦原「………」
キーボ「ボクの記憶領域には、決して干渉しないでください。それが検査の条件です」
真宮寺「………」
アンジー「………」
浦原「………」
キーボ「良いですね?」
浦原「…もちろんっス。キーボさんの記憶領域には一切触れません。その条件で検査させて頂きます」
キーボ「…それでは、検査をーーー」
浦原「その前に、場所を変えようと思います」
キーボ「えっ、」
浦原「いやー、もし、ここで “ ドカン! ” ってなったら大変でしょう? なので空いている修練場…広く頑丈な部屋の方まで移動してから、検査させて頂きます」
浦原「いまのあの部屋は、防音設備も充実しているっスからねえ。いろいろと話しやすくもあると思うっスよ?」
キーボ「………」
浦原「…構わないっスよね?」
キーボ「…わかりました。移動しましょう」
浦原「ありがとうございます! それでは、さっそくレッツゴーといきましょう!」
スタスタ……
………………………………………………………………
………………………………………………………………
キーボ(ーーーそうして、ボクは、アンジーさんと真宮寺クンといったん別れて、浦原さんと共に修練場に行った)
キーボ(それから、検査が始まるーーー)
キーボ(ーーーそのはずだったんですがーーーー)
ー志波家の屋敷・修練場ー
キーボ「………………」
浦原「…………………………」
キーボ「…あの、すいません」
浦原「…なんでしょう?」
キーボ「さっきからボク、浦原さんに言われた通り、ずっと目を瞑っているんですけど、いつ検査は始まるんでしょうか?」
浦原「…ああ、大丈夫っス」
キーボ「…なにがですか?」
浦原「もう検査は終わりましたから」
キーボ「!?」
浦原「………」
キーボ「そんな、いつの間にーーー」
浦原「一応言っておきますが、インチキとかサギとかではありませんよ」
浦原「アタシは確かに、キーボさんが目を瞑っている間に検査させて頂きました」
浦原「というか、そうでもなければ、あのお強い空鶴さんからどんな目に遭わされるかわかりませんから」
浦原「いいかげんな商売は、できません」
浦原「まっ、具体的な方法は、企業秘密っスけどね」
キーボ「………」
浦原「その上で検査結果を報告させて貰いますがーーー」
浦原「ーーー現在のキーボさんには、危険な機能は、何一つ付いていませんでした」
キーボ「………え?」
浦原「入間サンからお聞きしていた通りの設計っス」
浦原「人と一緒に生活していても、何ら危険の生じない、安全安心の設計っスよ!」
キーボ「ま、待ってください! そんなはずーーー」
浦原「おや、何かおかしなことでもあるんスか?」
キーボ「…っ、」
浦原「何か危険なものを取り付けたご記憶でも?」
キーボ「…………っ、」
浦原「一応断っておきますが、この尸魂界で “ それら ” が付いていない状態になっていたとしても、何ら不思議は無いっスよ」
キーボ「………どういうことですか?」
浦原「尸魂界には、現世から持ち込めるものとそうでないものがあるんス」
浦原「例えば、最近身に付けた…いわゆる “ 外付け ” したような、肉体との繋がりの小さいものは、持ち込めない仕組みなんスよ」
キーボ「………」
浦原「まあ、それが生命活動の維持に必要なものだったりする場合は、肉体との繋がりも大きくなるため、尸魂界に持ち込むことは可能っスけどーーー」
浦原「ーーー裏を返せば、生命維持に必要の無い、 “ 外付け ” アイテムは全く持ち込めないってわけっス」
キーボ「…なるほど」
キーボ「しかし、そうなると、衣服なども持ち込めないということになりますがーーー」
浦原「おっしゃる通り、衣服を持ち込むことはできません」
キーボ「………」
浦原「衣服は、定期的に着脱を繰り返すものですし、その情報が完全に魂魄に定着することは無い」
浦原「まず、持ち込めないっスね」
浦原「…もし、ずっと衣服を着用したままの人であれば、可能かもしれませんがーーーーーーそんな人は限りなくゼロに近しいでしょう」
浦原「故に、キーボさんのおっしゃる通り、衣服は尸魂界に持ち込めず、基本的に誰もが、ありのままの姿で送られるってわけっス」
キーボ「ありのまま…つまりは、裸ってことですね」
浦原「ええ、現世で亡くなり魂魄だけとなった者は、現世では魂魄が衣服を着た状態にありますがーーー」
浦原「ーーーその衣服の情報定着が不充分であるため、尸魂界に送られる場合、基本的に裸の状態で、ということになります」
キーボ「………」
浦原「とは言っても、別に人が目を覆うような、あられもない、ふしだらな事態にはなりません」
浦原「きちんと、衣服は自動的に着用されることになります」
キーボ「………?」
浦原「尸魂界に来た魂魄は、その瞬間、真宮寺サンとアンジーさんがいま着ているような和服が自動で着用されるシステムなんスよ」
キーボ「………?!?」
浦原「…修多羅千手丸(しゅたら せんじゅまる)サンという科学者の方が、そのシステムを作ってくれたんス」
キーボ「瞬間的に、着用………」
浦原「………」
キーボ「ーーーそんなこと、どうやってーーー」
浦原「…残念ながら、秘匿技術でして、アタシも詳しくは答えられません」
キーボ「…そうですか」
浦原「ーーーですが、何はともあれ、無償で和服を貰えて、あられもない姿を晒すことが無くなったわけっスからね」
浦原「現世で亡くなられた方たちにとっては安心できる話だと思うっスよ」
キーボ「…あれ、でも、真宮寺クンは、和服だけじゃなくて、マスクやバンダナをつけていたような気がーーー」
浦原「ああ! あれはウチの商品っス!」
キーボ「…商品? 駄菓子屋では無かったんですか?」
浦原「フフフ…駄菓子屋だからと言って、その名の通りのことばかりしていれば、時代に取り残されてしまいます」キラーンッ
浦原「浦原商店では、マスクやバンダナ、パンツだって売ってるんスからねー!」パッパラ~!
キーボ「…服屋も兼ねているってことですか」
浦原「服だけじゃあ無いんスけど………まあ、わかりやすく言うなら、そんな感じにはなるっスね」
キーボ「…ですが、気になることがあります」
浦原「…なんでしょう?」
キーボ「なぜ、ボクは、以前の装甲を着用したままなのでしょうか?」
浦原「………」
キーボ「先ほど、あなたの返答から、この尸魂界に衣服を持ち込めないということについて確認させて貰いました」
浦原「…ええ、そうっスね」
キーボ「しかし、そうだとすると、なぜボクは、この装甲を着用したままなのか…」
浦原「………」
キーボ「この装甲も、服とは違いますが、メンテナンスのために定期的に着脱はしています」
キーボ「なのに、どうして、着用したままなのかーーー」
浦原「…そこは、まあ、アレじゃないですかね?」
キーボ「……… “ アレ ” ? アレとはいったいーーー」
浦原「いや、単純に “ ロボットだから ” じゃ、ないんスかね?」
キーボ「ーーーあなたも、ロボット差別ですか」
浦原「とんでもありません! アタクシ共、浦原商店では、ロボットも人も関係なく、ステキな商品をお届けさせて頂く所存っスよ!」
浦原「ーーーああ、それはそうとお気づきかもしれませんがーーー」
キーボ「?」
浦原「キーボさんの、カメラと集音器、どちらも情報伝達の際のフィルターがあったようですが、その両方が撤去されていますね」
キーボ「…フィルター、ですか」
浦原「ええ、キーボさんは、視力と聴力に関しては “ 元から ” 規格外の性能をお持ちだったようなのですがーーー」
キーボ「………」
浦原「ーーーそこから電子頭脳に伝達される情報が、外付けのフィルターを介して大幅に制限されていたようです」
浦原「実際問題、入間サンから教えて貰った内部構造には、フィルターの存在がありましたから」
浦原「それが、 “ どういうわけか ” 、撤去されているという話です」
キーボ「………なぜ、フィルターなんてあったのでしょうね?」
浦原「………」
キーボ「ーーーなぜ、視力と聴力だけ、元から規格外の性能があったのでしょう?」
浦原「…なぜ、それをアタシに訊くんですか? アタシに答えられるはずが無いじゃないですか」
キーボ「………」
浦原「【キーボさんの開発者が】【どういう目的で】【視力と聴力だけ】【規格外の性能にして】【さらにはフィルターをかけて情報制限していたか】なんて、それこそ開発者の方しか答えられないことでしょう」
浦原「その辺りについて、アタシから答えられることは何もありません」
キーボ「…それもそうですね」
浦原「ーーー兎も角、ここで大切なのは、【なぜ規格外の性能があったか?】【なぜフィルターがかけられていたのか?】などではなくーーー」
浦原「ーーー【規格外の性能を制限するフィルターが取り付けられていたものの】【それが撤去された状態にある】ってことっス」
浦原「実際に、いまのキーボさんは、非常に高い視力と聴力を有し続けているのでは?」
キーボ「………」
浦原「キーボさん…アナタはその気になれば、この屋敷にいる小さな生き物たちの姿とその鳴き声がわかるんじゃないっスか?」
キーボ「…言われてみれば、確かに、この屋敷では、小さな虫のような生き物の群れがさえずっているように見えますね」キュルキュル
キーボ「それらは主に、天井の穴と両わきの木枠の上にある植物らしきものから発生しているようですがーーー」ジー…
浦原「ご名答! その天井にあるのは、【ホタルカズラO】と言いまして、発光型の植物に品種改良を重ねて作り出した、浦原商店の自信作なんスよ!」
キーボ「発光…ああ、だから、こちらの屋敷は電球も無しにここまで明るいのですね」
浦原「その通り! なお、ここが地下にありながらこうまで明るいのも、全ては【ホタルカズラO】のお陰っス!」
浦原「そして、そのOの花粉から生まれる変種の菌が、この空気中を漂う小さな虫みたいな生き物なんスよ!」
キーボ「菌………」
浦原「この菌は、人の肉眼ではまず見えないサイズですがーーー」
浦原「ーーー有害となるような悪い菌、人や植物に悪影響を与える菌を捕食し、一瞬で無害なものに変換して取り込んでくれる良菌なんス!」
キーボ「………」
浦原「さらには、O本体の購入者の言葉一つで、本体の発光を止めるよう働きかけることも可能です!」
浦原「【ホタルカズラO】! 少々、お値段は張りますが、当店イチオシの商品ですよ!」
キーボ「…あー、その、申し訳無いのですが、今はお金の持ち合わせはおろか、ゲームに使用するようなメダルすら持っていない状況でしてーーー」
浦原「いえいえ、今回はあくまでキーボさんの視力や聴力が上がっていることの証明を兼ねて宣伝しただけっスから! 購入するかどうか決めるのはまた別の機会です!」
浦原「志波家で働けばご給金は充分に出ますしーーー」
浦原「ーーーもし、キーボさんにも個室が与えられる時があれば、是非ご一考を!」
キーボ「はあ………」
浦原「………さて、話を元に戻しますがーーーーーーこの空気中の菌を、意識一つ切り替えることでキチンと認識できるくらいには、キーボさんの視力と聴力が規格外のレベルに達していることは証明されたわけです」
浦原「フィルターが撤去されたことについて、納得して頂けましたでしょうか?」
キーボ「…ええ、とてもよく理解しました」
浦原「…どうっスかね? いまなら、 サービスで、無料で似たようなフィルターを付け直すこともーーー」
キーボ「結構です」
浦原「…良いんスか? 本当に」
キーボ「ええ、構いません」
キーボ「………このカメラと集音器の機能は、オート及びマニュアルの両方で調整可能な状態にありますしーーー」キュルキュル
キーボ「ーーーそれに、今はむしろ、機能の高い状態がデフォルトである方が好都合ですから」
浦原「ーーーそうっスか。それじゃあ、今回のサービスはーーーー」
………………………………………………………………
………………………………………………………………
キーボ(ーーーそうして、話が脱線しながらも検査は終了し、さらなるサービスとして無料でボクの身体を洗浄してくれた後、浦原さんは帰り、ボクは真宮寺クンの部屋に戻りました)
真宮寺(…布団には予備があるし、一応それも敷いた方が良いかな………)
真宮寺(そして、それからーーー)
キーボ(………また、浦原さんは帰り際に、浦原商店初の “ ロボット消費者 ” であることを理由に、 “ 伝令神機 ” …いわゆる携帯電話のプレゼントをしてくださいました)
キーボ(もし、ボクの【機械の身体に異常が発生した時】【いつでも電話してくれて構いません】【いつでも修理にかけつけます】と言伝と、取扱説明書を残してーーー)
キーボ(ーーー浦原さん、あの人にはいずれ、キチンとお礼をしなくてはなりませんね)
キーボ(…浦原さんに検査をお願いしてくれた真宮寺クンにもお礼をするべきでしょうかーーー)チラッ
真宮寺「ーーーよし、あとは、 “ これ ” をーーー」スッ
キーボ(ーーーーーーーーーーーーーーーー)
岩鷲「おーい! オメーら、飯ができたぞ!」バタンッ
真宮寺「ありがとう、岩鷲君、すぐにでも行かせて貰うヨ」
岩鷲「おう! 先に行ってるぞ、オメーら!」スタスタ
真宮寺「さァ、キーボ君も」
キーボ「…ボクも行って良いんでしょうか?」
真宮寺「………」
キーボ「…キミも知っているでしょう?」
キーボ「…ボクは、皆さんのように、食事をーーー」
真宮寺「ーーー大丈夫だヨ、キーボ君」
キーボ「?」
真宮寺「 “ これ ” があれば、ネ」スッ
キーボ「? それはーーー」
真宮寺「はい、キーボ君」ポンッ
キーボ「…なんですか、この、メカメカしい蚊取り線香みたいなものは?」ジー…
真宮寺「これは、入間さんがこっちで発明した、 “ 物質電力変換装置 ” ーーー」
真宮寺「ーーーその名も【エレキイーター】だヨ」
キーボ「【エレキイーター】…ですか?」
真宮寺「これが近くにあれば、その特殊な力場によって、君は食事が可能となる」
キーボ「………………」
キーボ「………………………………はい?」
真宮寺「そして、君の口の中にある物質…すなわち食料を電力に変換して、そのままエネルギーにできるのサ」
キーボ「………!?!?」
キーボ「ーーーな、なんなんですか!? その発明は!?」
キーボ「入間さんはそんなものまで発明したって言うんですか!?」
真宮寺「そうだネ、紆余曲折はあったものの、入間さんの発明品であることは間違い無いヨ」
キーボ「………」
真宮寺「効果が気になるならば、食事場まで向かうことだヨ」
真宮寺「僕が案内するからサ」
キーボ「………そうですね、試してみないことには始まりません」
キーボ「案内をお願いします、真宮寺クン」
………………………………………………………………
ー志波家の屋敷・食事場ー
金彦「食事の準備が」
銀彦「整いました」
キーボ「………」
空鶴「よし、飯の時間だ、テメエら!」
空鶴「まずは、全員でーーー」
岩鷲「いっただっきまーす!」
アンジー「いただきまーす、だよー!」
真宮寺「ククク…今日も美味しく頂かせて貰うヨ」
キーボ「ーーーいただきます!」
キーボ「………」ジー…
アンジー「………うんうん、ちゃんと美兎のキカイ持ってきてるね、キーボ」
キーボ「アンジーさん…」
アンジー「…でもでもー、食べないと、ご飯もキカイももったいないよー?」
岩鷲「そうだぞ、キーボ! この料理はウチの金彦(こがねひこ)と銀彦(しろがねひこ)が俺達のために! その機械は入間ちゃんがオメーのために! それぞれ真心込めて作ったもんだ!」
岩鷲「なのに、食わないってのは、人の心を大切にしないってことだ! 俺様の目の黒いうちは、そんな真似、させやしねえぞ!」
キーボ「………そうですね。キミ達の言う通りです」
キーボ「さっそく、食べさせて頂きます」
岩鷲「よく言った! さあ、食え! 遠慮はいらねえぞ!」
アンジー「パクッといっちゃえー! キーボ!」
キーボ「…はい!」
真宮寺「………」
キーボ(…これで本当に食事がーーー)
キーボ(ーーーまずは、一口、いきましょうか)スッ…
キーボ「………」パクッ
キーボ「…はっーーーー!」
キーボ「………」
アンジー「んー? どうしちゃったー、キーボ?」
真宮寺「…もし、何か気になることがあるなら、浦原さんから貰った電話でーーー」
キーボ「ーーー食える」
アンジー「…へっ、?」
キーボ「食える、食えますよ…入間さん!」
真宮寺「…キーボ君?」
キーボ「ふはははははははははははははは!!!」
キーボ「食える、食える、食える、食えますよー!!」
キーボ「これが、甘味か!」パクパク
キーボ「これが、辛味か!」ガツガツ
キーボ「これが、旨味か!」
キーボ「そして、これが、旨味の染み渡る感覚……!」モグモグ
キーボ「ああ、思っていたよりーーー」
キーボ「悪くなーーー」
アンジー「ーーー静かにして、キーボ」
真宮寺「流石に叫ばれるのは、ちょっとネ」
キーボ「………すいません」
………………………………………………………………
空鶴「ーーー食い終わったな、テメエら!」
空鶴「それならーーー」
岩鷲「ーーーごちそうさまでした!」
アンジー「神ったごちそう、ありがとー! にゃははー!」
真宮寺「ごちそうさま、だヨ」
キーボ「…ごちそうさまでした!」
空鶴「よし、あとは身体休めて明日に備えろ! そんで、みっちり働いて貰うからな!」
キーボ「………」
真宮寺「ククク…どうだい? はじめて食事を摂ったことに対する気持ちは?」
真宮寺「食事の終わった今なら、多少は声を張り上げても許されると思うヨ?」
アンジー「そうだねー、それに美兎が言うには、そのキカイで食べるとお口の中にご飯がぜんぜん残んないんだってー! 口臭とか気にしなくて良いんだってー!」
アンジー「だから、いまなら元気な声でも大丈夫なんだよー!」
キーボ「…冷静になってみると居た堪れない気持ちになるので、声のボリュームは上げませんがーーーーーー食事を摂ったことへの気持ちについては答えます」
アンジー「…どんな気持ちー?」
キーボ「…嬉しいに決まってるじゃないですか。はじめての食事ですよ?」
キーボ「どうも、ありがとうございました。コガネヒコさん………シロガネヒコさん」
金彦「こちらこそ、味わって頂き光栄の極みです」
銀彦「それと出来れば、彼女の方にもお礼を」
キーボ「…そうですね」
キーボ「この美味しいという感覚…それをボクに味わって貰うため、入間さんはこの発明品を作ってくれたーーー」
キーボ「ーーー次にあなたに会った時には、必ずお礼を言わせて頂きます、入間さん!」
真宮寺「…そうだネ、それが良いヨ」
真宮寺「きっと、彼女も喜ぶだろうからサ…」
アンジー「………にゃははー! 美兎は、キカイには素直だからねー!」
キーボ「ええ…その通りですね」
109 : ◆02/1zAmSVg - 2019/03/08 22:25:20.82 xnD0gfu6O 90/796今日はここまで
110 : 以下、名... - 2019/03/09 00:02:46.69 ar8ARQReo 91/796今のところひたすらBLEACH世界の説明と日常トークでこれからどんな話になるのか全くわからないな
111 : ◆02/1zAmSVg - 2019/03/09 19:05:20.65 sIOuNwy0O 92/796このSSは、しばらくは基本的にBLEACH世界の説明や日常トークしながら話を進める予定です
なお、これからどんな話になるか、その着地点も考え済みです
いまは、(非)日常編みたいなものだと思って頂ければ
前回の続きから投下します
金彦「…それでは、私どもはこれで」
銀彦「仕事がまだ残っておりますゆえ、申し訳ありませんが席を外させて頂きます」
キーボ「いえ、こちらこそ、お忙しい中、引き止めてしまって申し訳ありません」
キーボ「これからも、よろしくお願いしますね! コガネヒコさん!シロガネヒコさん!」
金彦「…ええ!」
銀彦「こちらからも、よろしくお願いします、キーボ殿!」
スタスタ………
真宮寺「…礼儀正しいんだネ、君って」
キーボ「…相手は立派な社会人の方々です」
キーボ「だとすれば、親しい関係になるプログラムではなく、礼儀を尽くすプログラムに切り替えるのは当然でしょう」
アンジー「………うんうんー、ここで、そういうこと言っちゃうところ、キーボらしいねー」
真宮寺「…まさかとは思うけど、君は自分から行動するのを怠って、そのプログラムに任せて機械的かつ自動的に礼儀正しく振る舞っていたのかい?」
キーボ「そんなことしませんよ! 礼儀のプログラムも親しい関係になるプログラムも、あくまでも参考にしただけで、ボクはボク自身の意思によるマニュアル操作で動いています! 怠けてなんていません!」
真宮寺「………そう、それなら良かったヨ」
アンジー「そうだねー! そこでサボってたら、きっと神さまも罰を当ててたよー!」
キーボ「ーーーしかし、入間さんも、よくこんな、すごい発明が出来ましたね」
真宮寺「? まァ、確かに、すごい発明ではあるけど…」
アンジー「でもでもー、美兎ならこのくらい普通にできるんじゃないのー?」
キーボ「いえ、入間さんがすごいことはボクも同感ですが、死後の世界でも生前と同じように発明できたことに驚いたんです」
キーボ「いくら、入間さんでも、自身の研究教室も無しに、ここまでの発明ができるとは思えません」
キーボ「いったい、どうやって発明をーーー」
真宮寺「あァ、その説明は簡単だヨ」
キーボ「え?」
真宮寺「さっきの人…浦原さんから、器具や機材を貸して貰ったんだヨ」
キーボ「浦原さんが、ですか?」
アンジー「そうだよー、喜助が美兎にサービスしてくれたのだー!」
真宮寺「浦原さんは、入間さんに興味を持っていてネ」
真宮寺「自分の目の前で、入間さんの才能を披露して貰う代わりに、霊的科学に関する知識と、発明のための器具や機材を貸して………いや、ほぼ無償で提供してあげたのサ」
真宮寺「それを用いて誕生した発明の一つが、さっきの【エレキイーター】なんだヨ」
キーボ「………一つ?」
キーボ「まさか、他にもあるんですか?」
真宮寺「そうだネ、たとえば、装着するだけで、片手の指の動きだけでメールを打てるようにするバングルがあるヨ」スチャッ
キーボ「………なっ、!?」
真宮寺「バングルから読み取られた片手の動きでメールが作成され、自動的に装着者の脳内に転送され、内容を確認した後は伝令神機に転送し、そこからメール送信ができる」
真宮寺「これなら、視覚や聴覚を阻害しないから、慣れてしまえば移動中に息をするようにメールの送信が可能となるんだヨ」
キーボ「そんなものまで…って、まさか、それはーーー」
真宮寺「そう、僕が気づかれることなく、空鶴さん達と浦原さんにキーボ君のことを伝えることができたのは、その方法を使ったからなんだヨ」
キーボ「なるほど…入間さんの発明品ならば納得です」
真宮寺「ちなみに、今は押し入れの中だけど、君の身体を自動で洗浄する【ロボットウォッシャー】、自動でメンテナンスを行う【ロボットチェッカー】というのもあるしーーー」
真宮寺「ーーーあと、最近発明したものの中には、霊力ある存在を感知する装置、【パワーセンサー】があるヨ」スッ
キーボ「霊力………」
真宮寺「この装置を使って、僕は君に霊力があることを確認したのサ」
キーボ「…そういえば、ガンジュ…クンが現れる直前、そういった話をしていましたね」
真宮寺「そう、そして、それは入間さんの【パワーセンサー】のおかげだったんだヨ」
キーボ「ーーーなるほど! 流石です、入間さん!」
真宮寺(………本当に、彼女には恐れ入るヨ)
真宮寺(今の忙しい中、霊力ある存在を感知する装置を発明するなんてネ)
真宮寺(僕達が持っている伝令神機にも似たような機能はあるけれどーーー)
真宮寺(ーーーあれで反応するのは、悪霊だけだからネ。他の魂魄………ましてやロボットの霊力感知なんて出来やしない)
真宮寺(………他の発明といい、ここに来るかどうかもわからないキーボ君がために、ここまでするとはネ………)
真宮寺(入間さん、彼女は、本当にーーーー)
キーボ「ーーーですが、同時に驚きましたよ」
キーボ「ボクに、霊力などというものが宿っているとは…」
真宮寺「…どういう理由かまでは、わからないけどネ」
アンジー「………」
キーボ(ーーーなぜ、霊力などというものがボクに、ひいては赤松さん達に宿っているのか大変気になるところですがーーー)
キーボ(ーーーここで思考を繰り返したところで、おそらく結論は出ないでしょう)
キーボ(そういったことに時間を費やすくらいならば、そうーーー)
キーボ(ーーー赤松さん達の現状、それに加えてこの死後の世界のことを、もっと深く知るべきでしょう)
キーボ(その内容次第では、ボクがこの死後の世界でどう立ち回るべきかも変わってくるでしょうから)
キーボ(………これからしばらくは、情報収集に集中した方が良さそうですね)
キーボ(そうなると、まず聞くべきはーーーー)
キーボ「ーーーこれまでの話を振り返るに、赤松さん達はセイレイテイに住んでいて、いま忙しいんですよね?」
真宮寺「…まァ、そうだネ」
キーボ「具体的に、どう忙しいのでしょうか?」
真宮寺「………」
アンジー「………」
キーボ「………?」
キーボ「真宮寺クン? どうかしましたーーー」
真宮寺「ーーー赤松さん達は、それぞれの目指すもののために、日夜努力しているんだヨ」
キーボ「…目指すもの、ですか?」
真宮寺「そうだネ、それぞれ目指すものがある」
真宮寺「そのために、今を懸命に頑張っている」
アンジー「………」
キーボ「…具体的には、どういうことなのでしょうか?」
真宮寺「ーーー本来ならば、そうホイホイ話すようなことでも無いけどーーー」
キーボ「?」
真宮寺「ーーー赤松さん達は、【もし仲間が来たら】【無用な心配をかけることの無いよう】【自分達のことについて話してくれて構わない】って言ってたからネ」
真宮寺「だから、今回は特例で話すことにするヨ」
キーボ「ーーーわかりました、是非、お願いします」
真宮寺「ただ、その話は、僕が貸して貰ってる部屋に戻ってから行うとするヨ」
真宮寺「いつまでも、食事場で話すわけにはいかないからネ」
キーボ「…そうですね。それでは移動しましょう」
アンジー「…レディゴー、是清部屋ー!」
………………………………………………………………
………….………….………….………….………….……
真宮寺「ーーー部屋に戻ったし、さっそく皆について順番に説明させて貰うヨ」
キーボ「はい、お願いします」
アンジー「………」
真宮寺「まず………茶柱さん、東条さん、ゴン太君、入間さん、百田君の5名についてだけどーーー」
真宮寺「ーーー彼女たちは、死神を目指しているヨ」
キーボ「そうですか、死神にーーーー」
キーボ「ーーーって、死神!?」
アンジー「んー? どうしたー、キーボ?」
アンジー「ここは死後の世界だよー?」
アンジー「しにがみがいても、おかしくはーーー」
キーボ「そういうことじゃありませんよ!?」
キーボ「たしかに、ここは死後の世界! 死神がいてもおかしくはないでしょう!」
キーボ「ですが、死神って言ったら、生きている人を無理やりあの世に連れて行く恐ろしい存在じゃないですか!?」
アンジー「…あー、なるほどねー」
キーボ「なぜ、彼女たちはそんな存在になろうとするんです!? というか、人が死神になれるんですか!!?」
真宮寺「…そうだネ、まずはそこから説明しないとネ」
キーボ「? どういうことですか?」
真宮寺「キーボ君、この世界の死神とは、君が想像しているようなものじゃあないんだヨ」
キーボ「???」
真宮寺「まず、この尸魂界における死神とは、尸魂界、ひいては現世を守護するための存在ーーー」
真宮寺「ーーーいわゆる、世界の管理者なんだヨ」
キーボ「管理者……」
真宮寺「この世界が一つの国だとするならば、死神は兵士に該当するネ」
キーボ「………」
真宮寺「人の魂をあの世に持っていくというのも間違いでは無いけれどーーーーーーそれは何らかの理由で現世に残ってしまった魂魄を昇華…わかりやすい言い方にすれば、成仏させるということなんだ」
真宮寺「だから、生きている人を殺して、無理やりあの世に連れて行くだとかーーーーーー間違ってもそんな存在では無いヨ」
キーボ「ーーーですが、茶柱さん達は、あくまでも人であって、妖怪などではありませんよね?」
アンジー「………」
キーボ「それが、死神になれるんですか?」
真宮寺「………おそらく君は、死神と聞いて、大鎌を手にした黒装束の骸骨を想像していると思うけどーーー」
キーボ「? 違うんですか?」
真宮寺「ーーー違うんだヨ」
真宮寺「確かに、死覇装(しはくしょう)と呼ばれる黒い着物は着ているけれど、大鎌を手にしているとは限らないし、骸骨でもない」
真宮寺「なぜなら、この、尸魂界における死神とは、人の魂魄が進化した存在を指すのだから」
キーボ「進化?」
真宮寺「そう、進化」
アンジー「………」
真宮寺「人の魂魄は、 “ 真央霊術院 ” …死神の学校に入学して6年かけることで、完全なる死神の魂魄へと、進化を遂げることが出来る」
真宮寺「基本的に、ネ」
真宮寺「故に、人の魂魄である茶柱さん達も、死神になることは可能だしーーー」
真宮寺「ーーー元が人である以上、人と変わらない姿をしているってわけだヨ」
キーボ「………」
真宮寺「キーボ君にもわかりやすく言うならーーーーーー尸魂界における死神とは、バージョンアップした人の魂魄なのサ」
キーボ「…人のバージョンアップって、サイボーグか何かですか?」
真宮寺「………サイボーグというよりも、エスパーと呼んだ方が、僕としては適切だと思うネ」
キーボ「エスパー?」
真宮寺「人から死神への昇華、それは人の魂魄が持つ霊能力、すなわち超能力を鍛えた末に起こる進化現象だ」
真宮寺「例えば、霊能力を鍛えると、【パワーセンサー】のようなものが無くとも、身体の感覚だけで、周囲に霊力ある魂魄がいるかどうか感知することができるしーーー」
キーボ「!」
真宮寺「ーーーその相手の霊力の “ 質 ” を感じ取り、相手が死神かそれとも別の存在か、細かく見分けることも可能となる」
真宮寺「それこそ、その霊力ある魂魄が何処の誰か? 個人レベルで見分けることだって可能となるのサ」
キーボ「………」
真宮寺「ならば、それはサイボーグというよりもエスパーと言った方が近い」
真宮寺「僕はそう思うヨ」
キーボ「ーーーなるほど、勉強になります」
真宮寺「僕の説明が役に立ったようでなによりだヨ」
アンジー「………」
キーボ「ですが、気になることがあります」
真宮寺「何かな?」
キーボ「そもそも、なぜ茶柱さん達は死神になろうとしているのでしょうか?」
真宮寺「ーーーそうだネ。それについても詳しく説明するヨ」
キーボ「お願いします」
アンジー「………」
真宮寺「………まずは、茶柱さん、東条さん、ゴン太くんの三人について説明させて貰うネ」
キーボ「………」
真宮寺「茶柱さん達三人が死神になろうとしている理由ーーーーーーそれは単純に、恐怖で心の弱った人達を助ける仕事がしたいからサ」
キーボ「恐怖…ですか?」
真宮寺「そう、恐怖」
真宮寺「死神の仕事には、悪霊との戦いも含まれていてネ。それには死の危険がつきまとうし、現実として殉職率も高い」
真宮寺「故に、恐怖に呑まれてしまう死神は、決して少なくは無いんだ」
アンジー「………」
キーボ「…死神って、真宮寺クンが言うには、死者の魂が進化した存在ですよね? 既に死んでいる人が死ぬとはどういうことなのでしょうか?」
真宮寺「確かにおかしな話に感じるかもしれないけど、死者でも死ぬことはあるんだヨ」
真宮寺「そして、死者が死ぬということは、生身の肉体ではなく魂魄の死を意味している」
真宮寺「魂魄が死んでしまえば、転生することも不可能」
真宮寺「死の究極の形と言っても差し支えは無いヨ」
キーボ「なるほど…」
真宮寺「そうした死を、死神達は恐れている。その恐怖に呑まれることだってある」
真宮寺「それで、時に誤った判断を下してしまう人だっている」
キーボ「………」
アンジー「………」
真宮寺「それは、覆しようの無い、確かな事実なのサ」
真宮寺「………だからこそ、茶柱さん達は、誰よりも死を恐れる死神達のために、自分達も死神になろうとしているんだヨ」
キーボ「それは、茶柱さん達も、悪霊と戦う…ということですか?」
真宮寺「それも視野に入れてはいるけれど、第一志望は死神を救護する部隊に入ることみたいだネ」
キーボ「救護部隊、ですか」
真宮寺「そうだネ、さっき述べた通り、死神と言っても決して不死では無い」
真宮寺「故に、死なせないよう、壊さないよう、心身ともに支え、全身全霊を込めて救護する部隊も存在する」
真宮寺「そこを、茶柱さん達は第一志望として、入ろうとしているのサ」
真宮寺「それが、自分達だからこそ、できることであると信じてーーー」
キーボ「…茶柱さんらしいですね。生前も死後も、前向きに真っ直ぐ生きているなんて」
キーボ「彼女が死神になれば、影響されて元気になる人も、きっと多く現れることでしょうね」
真宮寺「…そうだネ、その通りだと思うヨ」
キーボ「………」
真宮寺「実際、東条さんも、ゴン太君も、茶柱さんに影響されて、同じ道を選んだわけだからネ」
アンジー「………」
キーボ「…やはり、そうだったんですか」
真宮寺「そうだネ、君が察している通りだヨ」
真宮寺「東条さんも、ゴン太君も、茶柱さんの前向きな気持ちに影響されて、自分達も同じ道を歩むことに決めた」
真宮寺「だけど、それは決して流されたわけじゃない」
真宮寺「東条さん達が、熟慮の末に、決めたことだ」
真宮寺「それは、わかって欲しい」
キーボ「ーーーわかってますよ」
キーボ「東条さんも、ゴン太君も、それぞれ懸命に、必死になって考え抜こうとする人です」
キーボ「だからこそ、茶柱さんと、そして多くの死神達と協力しあった上で、人を恐怖から守ることに決めたーーー」
キーボ「ーーー少なくとも、ボクはそう思っています」
真宮寺「…そうーーー」
アンジー「………」
真宮寺「ーーーとりあえずとして、以上が茶柱さん達が死神を目指す主な理由だネーーー」
キーボ「………」
真宮寺「ーーーそして、次は、入間さんと百田君が死神を目指す理由について、説明させて貰うヨ」
キーボ「…よろしくお願いします」
真宮寺「それで、入間さん達が死神を目指す理由だけどーーーーーーそれは、尸魂界の科学者となるためだヨ」
キーボ「…科学者? なぜ、科学者になるために死神になる必要があるんですか?」
真宮寺「その答えは単純明解」
真宮寺「尸魂界の科学は、基本的に死神が発展させているからサ」
真宮寺「霊術を扱える死神でないと、物理的に不可能な実験もあるからネ」
キーボ(…なるほど、そういうことですか)
キーボ(だとすれば、浦原さんもーーー)
真宮寺「そういった実験を行う代表的な場所が、瀞霊廷の “ 技術開発局 ” であり、死神しか局員になることを許されない」
アンジー「………」
真宮寺「だから、入間さん達は、科学者になるため、死神を目指すことにしたのサ」
キーボ「…入間さんらしいですね。死後の世界でも研究に打ち込むだなんて」
真宮寺「………」
アンジー「………」
キーボ「ですが、百田クンまで、科学者を目指すとは驚きでした」
真宮寺「………」
キーボ「いったい、百田クンに何があったのでしょうか?」
真宮寺「…簡単な話だヨ」
真宮寺「百田君には、新たな夢ができたからサ」
キーボ「夢…?」
真宮寺「そう、夢」
真宮寺「ただ、それを達成するためには、科学者となる必要がある」
真宮寺「だから、死神となり、科学者を目指すことにしたのサ」
アンジー「………」
キーボ「百田クンの夢って、いったいどのような夢なんでしょうか?」
真宮寺「…生前とそうは変わらないヨ」
真宮寺「ただ、目指すものが、 “ 宇宙 ” から、 “ 尸魂界の空の上 ” に、変わっただけの話サ」
キーボ「…空の上?」
真宮寺「そう、百田君は、確かめようとしているんだ」
真宮寺「尸魂界の空の上にあるものを、ネ」
キーボ「ーーー空の上にあるものって、宇宙では無いのですか?」
真宮寺「それは違うヨ」
真宮寺「そもそも、尸魂界に宇宙という概念があるかどうか自体怪しいものだネ」
キーボ「宇宙が…無い?」
真宮寺「少なくとも、尸魂界が宇宙進出していることを示す文献は見当たらなかったネ」
キーボ「………」
真宮寺「だけど、宇宙の代わりに、 “ 霊王宮 ” なるものが存在しているということは知った」
キーボ「…霊王宮?」
真宮寺「そこは、死神の王である “ 霊王 ” …様とその血族であるとされる王族、ひいてはその守護者である死神達が暮らす場所なのサ」
キーボ「王族…」
アンジー「………」
真宮寺「そこには、尸魂界、ならびに現世が始まった根源があるとされている」
キーボ「根源、ですか」
真宮寺「そう、根源」
真宮寺「それこそが、霊王様」
真宮寺「霊王様は、世界の始まりであり楔であり、過去から未来に渡り、世界を支え続けている存在とされている」
キーボ「………」
真宮寺「それがどういうことを意味しているのか、百田君はとても興味を持ったようでネ」
真宮寺「だから百田君は、まずは自身も死神となって、技術開発局で科学者としての腕を磨き、霊王宮の守護を任される立場を得ようとしているんだヨ」
アンジー「………」
キーボ「…奇妙ですね。なぜ、王様の護衛になることと、科学者になることがイコールで結ばれるのでしょうか?」
真宮寺「その答えは簡単だヨ」
真宮寺「霊王様を守護する立場を得るためには、尸魂界全体にとって “ 歴史そのものとなるほどの価値ある何か ” を発明し、霊王様に認められる必要があるからサ」
キーボ「発明、ですか」
真宮寺「そう、発明。入間さんの得意分野だネ」
アンジー「………」
真宮寺「だけど、発明を成し遂げるには科学者として、相応の知識と実力を身に付けなければならない」
真宮寺「そのために百田君は、努力して科学者になろうとしているんだヨ」
キーボ「…そうですか」
アンジー「………」
キーボ「死後の世界でも、なりたい自分を見つけられるなんて、流石は百田クンです」
キーボ「羨ましいですよ、本当に」
真宮寺「…そうだネ、僕もそう思うヨ」
キーボ「…百田クンも、入間さんも、きっとそれぞれの長所をもって、尸魂界の名だたる科学者にーーー」
真宮寺「ーーーそれは、まだちょっとわからないけどネ」
キーボ「ーーーえ?」
キーボ「…どういうことですか、真宮寺クン?」
真宮寺「………」
キーボ「キミは、百田クンの心の強さを、入間さんの才能のすごさを、信じていないのですか?」
真宮寺「…いや、彼らならば、実力的には信じることはできるヨ」
キーボ「だったら、どうして、二人の未来を疑うようなことを言ったのですか?」
真宮寺「…単純な話サ」
真宮寺「それは、技術開発局という場所と、百田君や入間さんの性質が合致しているようには思えないからだヨ」
キーボ「性質?」
真宮寺「まァ、正確には、性質というよりも、性格的な相性の問題になるネ」
真宮寺「それも、技術開発局の、現局長との、ネ」
キーボ「…どういうことです?」
真宮寺「…直接話したわけじゃないから断定するようなことは言いたくないのだけれどーーー」
真宮寺「ーーーただ、もし、技術開発局の現局長が、多数が証言する通りの人物だった場合ーーー」
真宮寺「ーーーその人の元で、百田君と入間さんがやっていけるとは、とても思えないネ」
キーボ「ちょっと待ってください。入間さんならまだしも、百田クンとまで相性が悪いんですか?」
真宮寺「そうだネ、それも致命的なまでに」
キーボ「致命的なまでに百田クンと相性が悪いだなんて、そんなーーー」
真宮寺「百田君のような人だからこそ、だヨ」
真宮寺「もし、技術開発局の現局長が、多数が証言する通りの人物だった場合、その人の元で百田君がやっていけるはずがない」
真宮寺「僕はそう信じているヨ」
キーボ「………」
アンジー「………」
キーボ「…その現在の局長って、どのような人なんですか? ものすごく気になるんですけど………」
真宮寺「それは、言えないかな…」
キーボ「どうして、言えないんですか?」
真宮寺「さっきも言った通り、僕はその人と直接話すことができたわけじゃあ無い。だから、僕の口から断定するような…先入観を与えるようなことは、なるべく言いたく無いんだヨ」
キーボ「………」
真宮寺「僕は、個人を評する時は、その人と直接話をした上で評したい」
真宮寺「そうでないと失礼だと思う。たとえ、相手がどういう人であったとしても」
真宮寺「だから、僕の口から言うことは、とてもじゃないけどできないんだヨ」
キーボ「…そうですか。それなら仕方ないですね」
アンジー「………」
キーボ「しかし、そうなると、入間さんも百田クンも、技術開発局に入るのは難しそうですね」
真宮寺「そうだネ、しかも技術開発局は、瀞霊廷における最先端技術の集まる場所」
真宮寺「そこに行かずして科学者として研究を行うのは、難しいと言わざるを得ないヨ」
キーボ「…他に、研究機関は無いんですか?」
真宮寺「そうだネ、他にあるとすれば、貴族が個人的に抱える研究機関になるだろうネ」
キーボ「………貴族?」
アンジー「………」
真宮寺「あァ、実は尸魂界には、王族だけでなく貴族も存在していてネ。充分な財源を確保できる裕福な家であれば、そこで個人的な研究機関を抱えていることはある」
真宮寺「そこでなら、技術開発局のそれには及ばないまでもーーーーーー科学者として研究を行うことはできるはずだヨ」
キーボ「なるほど………」
アンジー「………」
真宮寺「まァ、都合よく貴族の研究機関に勤められるとは限らないけれどーーーーーー入間さんほどの才能や百田君ほどの心の強さがあれば、可能性は高いと思うヨ」
真宮寺「人事としても、あれほどの人材を遊ばせておくのは、避けたいことだろうからネ」
真宮寺「おそらくは、信頼できる貴族が抱える研究機関の元に、配属されるんじゃないかと思うヨ」
真宮寺「ただ、技術開発局ではない場所で、どこまで科学者として大成できるかはわからないけどネ」
キーボ「………」
真宮寺「いや、入間さんなら、持ち前の才能でどうにかできるかもしれないけど、この場合は貴族の元で働くことになるわけだからネ」
真宮寺「どんなに才能があったとしても、あの言動の根本を改めないと、最悪、不敬罪で処断されかねない」
真宮寺「それらを考慮するとーーー」
キーボ「ーーー大丈夫ですよ、入間さんと百田クンならば」
真宮寺「………」
アンジー「………」
キーボ「入間さんと百田クンなら、きっと上手くやっていけます」
キーボ「 “ あの経験 ” が残っているのであれば、それを糧にできる」
キーボ「お互いに必要なところを学び合って補い、支え合うことだってできる」
キーボ「紆余曲折はあるかもしれませんが、それでも、いまの入間さん達ならば上手くやっていける」
キーボ「ボクは、そう、信じたいです」
真宮寺「…そうだネ」
真宮寺「実際、君の言う通り、入間さんと百田君は、今でもお互いに学び合っている」
キーボ「!」
真宮寺「百田君は、 “ 常識的に ” 可能な限り入間さんと一緒にいるようにして、彼女から発想力を学んでいる」
真宮寺「入間さんも百田君を “ 信頼して ” 、彼が自分と一緒にいることを許し、その見返りに百田君からコミュニケーション能力や精神論を教わっている」
キーボ「………」
真宮寺「…過去を糧に、お互いに必要なところを学び合って補い、支え合っている」
真宮寺「これからも、そう在り続けることを望むヨ」
キーボ「…そうですね」
アンジー「………」
真宮寺「ーーーとりあえずとして、以上が百田君達が死神を目指す主な理由だネ」
キーボ「………」
真宮寺「ーーー何か質問はあるかい?」
キーボ「…それなら、二つ、良いですか?」
真宮寺「何かな?」
キーボ「まず一つ目ですが、百田クン達は死神学校に入学しているのですか?」
真宮寺「………いや、それはまだだヨ」
真宮寺「百田君達も熟慮の末に死神になる道を選んだからネ」
真宮寺「死神の学校に入学するための手続きをしたのも比較的最近の話だから、まだ入学はできていない。入学のための勉強と生活のためのアルバイトを重ねているのが現状だヨ」
キーボ「…わかりました。ありがとうございます」
アンジー「………」
キーボ「それでは、二つ目の質問ですがーーー」
キーボ「ーーーと、その前に確認しておきますが、キミの話によると、死神はこの世界の管理者側に位置する存在ですよね?」
真宮寺「…うん、まあ、確かにそうだネ」
キーボ「ーーーわかりました。それでは二つ目の質問に移ります」
真宮寺「………」
キーボ「…キミの話通り、6年かけて死神になれば、現世に関する詳しい情報を得ることは可能なのでしょうか?」
真宮寺「…普通に可能だと思うヨ?」
キーボ「!」
真宮寺「どうしてそんなことを訊くんだい?」
キーボ「…いえ、単純に気になっただけです」
アンジー「………」
真宮寺「…まァ、現世の詳しい情報を得られるとしても、その情報の取り扱いには制限がかかるだろうけどネ」
キーボ「制限、ですか?」
真宮寺「そうだネ、例えば情報の伝達制限などが挙げられるかな」
キーボ「………」
真宮寺「貴族や死神は、現世の情報を得たとしても、それが尸魂界に混乱を引き起こすような内容である場合、民間人に伝えることは禁止されている」
真宮寺「これは、何らかの理由で貴族や死神を辞めた場合でも同じだ」
キーボ「………」
真宮寺「だから、何でも伝えられるわけでは無い」
真宮寺「情報の伝達に、制限がかかってしまうんだヨ」
キーボ「…伝える相手が、一人だけでも、ですか?」
真宮寺「一人だけでも、充分に問題になるヨ」
真宮寺「一人だけだろうと、ルールを破ることを許してしまえば、それが前例となってしまう」
真宮寺「そして、一度ルール破りを許すという前例を作ってしまったが最後、何度も繰り返されかねない。そうなれば、致命的な破綻を引き起こす可能性が生じてくる」
キーボ「………」
アンジー「………」
真宮寺「だから、よほど特別な理由が無い限りは、一人たりとも認められないだろうネ」
キーボ「…なるほど、よくわかりました」
キーボ(浦原さんから、色々と訊くのは、難しそうですね………)
真宮寺「ーーーさて、そろそろ赤松さん達についての説明に移っても良いかな?」
キーボ「…お願いします」
アンジー「………」
真宮寺「ーーーそれじゃあ、最後に赤松さん・天海君・星君・王馬君の四名について説明するヨ」
キーボ「…赤松さん達は死神になるわけでは無いんですよね? 何を目指しているのでしょうか?」
真宮寺「赤松さん達は、芸人を目指しているヨ」
キーボ「芸人…ひょっとして、音楽芸人でしょうか?」
真宮寺「そうだネ、だいたいイメージは合っているヨ」
アンジー「ーーー楓はねー、美兎が作ったピアノを弾いてるんだー!」
キーボ「…そうなんですか?」
アンジー「そうだよー!」
アンジー「その間に、小吉たちが踊ったり回ったり、いろいろ楽しいショーを見せてくれたりもー!」
真宮寺「…夜長さんの言う通りだヨ」
真宮寺「赤松さん達は、そういったことをして、生計を立てられるようになることを目指しているのサ」
キーボ「ーーーピアノで、ショー、ですか」
キーボ「…ちなみに、この死後の世界において、ピアノはどのくらい一般的なものなのでしょうか?」
真宮寺「ーーー少なくとも、死神達にとっては、そこまで一般的なものでは無いネ」
キーボ「確かに、この屋敷やあの街の造形を見るに、この死後の世界の文化は平安から江戸時代のそれを彷彿とさせますからね」
キーボ「逆にピアノが大流行りしているという方が驚きです」
アンジー「でもでもー、それでも楓はーーー」
キーボ「ーーーわかっていますよ」
アンジー「…本当にー?」
キーボ「ええ、わかっています」
キーボ「演奏するのは、あの赤松さんですよ?」
キーボ「彼女なら、多少の文化の違いくらい、ものともしない…」
キーボ「『想い』のこもった演奏を、人々の心に届けようとしている。そうでしょう?」
アンジー「…にゃははー! 大アタリだねー、キーボ!」
真宮寺「…まったくもって、その通りと言わざるを得ないネ」
キーボ「ーーーただ、それでも気になるところはありますけどね」
真宮寺「…それは、ひょっとして、赤松さんが王馬君と一緒に芸人となったことを気にしているのかな?」
キーボ「ええ、その通りです」
真宮寺「…確かに、違和感のある組み合わせではあるよネ」
アンジー「………」
キーボ「一緒に芸人になれるということは、今の王馬クンは無害なんでしょうけどーーー」
キーボ「ーーーどうすれば、あの王馬クンが無害になれるのかーーー」
キーボ「ーーーいったい王馬クンに、何があったというのでしょうか?」
真宮寺「ーーーまァ、赤松さん達と仲良くなったとでも言っておくヨ」
キーボ「仲良く、ですか」
真宮寺「ーーーもっとも、王馬君に、はじめはそんなつもりは無かったらしい」
アンジー「だからー、最初は一人で、どこかに違うところに行こうとしてたんだってー」
キーボ「一人でーーー」
真宮寺「…まァ、王馬君としては、皆のことを思って、一人になろうとしたんだろうけどサ」
真宮寺「それに赤松さん達が気づいて、必死に引き止めたみたいなんだヨ」
真宮寺「………赤松さんは、今度こそ、皆で友達になることを、望んでいたから………」
キーボ「………」
真宮寺「僕はその引き止めた現場を見たわけでは無いけれどーーーーーー赤松さん達は王馬君を根気よく説得したようでネ」
アンジー「最後はー、すっごく仲良しになって、一緒に芸人になることに決めたんだってー!」
真宮寺「…ただ、王馬君が何を仕出かすかわからないということで、天海君と星君も、王馬君の監視という名目で一緒に芸人になることにはなったんだけどネ」
キーボ「なるほど…そういった事情が………」
真宮寺「ーーー以上で、皆についての話を終えさせて貰うヨ」
キーボ「ありがとうございます、真宮寺クン、アンジーさんも…」
アンジー「………」
真宮寺「…何かわからないところがあれば、いつでも訊いてくれて構わないヨ?」
キーボ「それでは、一つ、良いですか?」
真宮寺「うん、何かな?」
キーボ「ーーーなぜ、キミ達は、赤松さん達のようにセイレイテイに住まないのでしょうか?」
真宮寺「………」
アンジー「………………」
キーボ「赤松さん達に何故か霊力があったことから考えて、キミ達にも霊力があると考えるのが自然です」
キーボ「なのに、どうして、キミ達は赤松さん達のようにセイレイテイに住まないのでしょうか?」
キーボ「………キミ達は、ボクのように、存在自体がイレギュラーというわけでも無いのですから」
キーボ「ならば、霊力さえあれば、普通に住めるのではありませんか?」
真宮寺「………………」
アンジー「…………………………………」
キーボ「…? 二人とも、どうかしたんですかーーー」
アンジー「さあねー? アンジーはよくわからないやー! にゃははー!」
キーボ「…わからない?」
真宮寺「………アー、とりあえず、僕については答えるヨ」
キーボ「真宮寺クン…?」
真宮寺「君の言う通り、僕は霊力を持っている。だけど、瀞霊廷には住めない」
キーボ「…え?」
アンジー「………」
キーボ「それは、どういうーーー」
真宮寺「近いうちに無くなるからサ」
キーボ「無くなる…?」
真宮寺「僕の霊力は、赤松さん達のそれと違って、期間限定のものなんだヨ」
真宮寺「だから、瀞霊廷に住むことはできない」
キーボ「期間限定って、どういうことなんですか?」
真宮寺「…詳しいメカニズムは知らない」
アンジー「………」
真宮寺「ーーーただ、魂魄が酷く損壊すると、少しずつ霊力が失われていくこともあるようでネ………」
キーボ「魂魄が、損壊………?」
真宮寺「………………」
キーボ「………………………」
キーボ「………………………………っ、!!!」
キーボ(ーーーそんな、まさかーーー)
真宮寺「………………」
キーボ(ーーー “ あれ ” は、悪意による合成映像ではーーー)
真宮寺「ーーー兎に角、僕の霊力は期間限定のもの」
真宮寺「いずれは、跡形も無く消え去るだろうネ」
真宮寺「瀞霊廷への居住申請が通るはずが無いんだヨ」
アンジー「…だからねー、アンジーは、是清もここに住めるよう、空鶴たちにお願いしたんだー」
キーボ「…アンジー、さん、が?」
アンジー「そうだよー、空鶴たちは優しくてねー。行く宛の無いアンジーに、この家のお掃除をお手伝いする、お仕事を紹介してくれたんだー」
アンジー「しかも、空鶴たちは、アンジーにお仕事を紹介してくれたあと、もう一人募集してたからねー」
アンジー「それで、アンジーが、 “ 是清も ” ってお願いしたら、叶えてくれたのー!」
アンジー「空鶴たちには感謝しか無いよー、にゃははー!」
キーボ「………」
キーボ「………なぜ、ですか?」
アンジー「………………」
キーボ「なぜ、アンジーさんは、自分からーーーー」
アンジー「あー、キーボ、ちょっとアンジーの部屋まで来てくれるー?」
キーボ「えっ、」
真宮寺「………」
アンジー「来てー?」
キーボ「いや、しかしーーー」
アンジー「いいから、来てー?」
キーボ「…はい」
アンジー「ごめんねー、是清! ちょっと、キーボとふたりでお話するから、男の方のお風呂にでも入っといてー」
真宮寺「…わかったヨ、夜長さん」
真宮寺「今のうちに入浴させて貰うとするヨ………」
キーボ「………」
………………………………………………………………
………………………………………………………………
スタスタ………
アンジー「とうちゃーく!」バタンッ
キーボ「…こちらがアンジーさんのお部屋ですか」
アンジー「………」ガチャリ
キーボ「…なんと言いますかーーー」
アンジー「………」
キーボ「ーーー思っていたよりも、さっぱりしているんですね」
ガラーン………
キーボ「アンジーさんの作品らしきものも見当たりませんしーーー」
アンジー「………」
キーボ「ーーー少し、意外でした」
アンジー「…キレイに使わないと空鶴に怒られちゃうからねー」
アンジー「アンジーはねー、岩鷲みたいにしばかれたくは無いんだー」
キーボ「…なるほど、充分に理解できる話です」
アンジー「ーーーそんなことよりも、さっきの質問の続きだけど、一応その先を聞かせてくれるー?」
キーボ「…わかりました。続きを言います」
キーボ「なぜ、アンジーさんは、真宮寺クンと一緒に住まわせて貰うよう、お願いしたんですか?」
アンジー「………」
キーボ「…もし、 “ 寂しく無いように ” 、というのであれば、ガンジュ…クン達がいるじゃないですか」
キーボ「あの人達と一緒にいるだけでも、楽しく過ごせるのでは?」
アンジー「…うんうん、それには島から見える海よりも深いものがあってねー」
アンジー「だから、それを話すと、どうしても是清のことまで話すことになるんだよー、そうしないと意味が通じないからねー」
キーボ「………」
アンジー「まー、是清に聞けば、答えてくれるだろうけどー、ちょっと是清の口から言わせるようなことじゃないからねー」
アンジー「だから、アンジーが今回だけ特別にー、是清と居候する理由について話すねー」
キーボ「…わかりました、お願いします」
アンジー「…それじゃー、話すよー」
アンジー「アンジーが是清といっしょに居候する理由はねーーー」
アンジー「ーーーもう意味はないからだよー」
キーボ「ーーー “ 意味はない ” ことは知っています」
キーボ「ここは死後の世界ですし、何より真宮寺クン自体が “ あの人 ” に執着しなくなったようですからね」
キーボ「だとすれば、真宮寺クンが…奇怪な行為に走る “ 意味はない ” 、故に、今の真宮寺クンは無害ーーー」
キーボ「ーーーそう、おっしゃりたいのでしょう?」
アンジー「…うんうん、その通りだよー、キーボ!」
キーボ「…確かに、それならば、一緒にいてあげても構わないと、思えることもあるのかもしれませんがーーー」
アンジー「………」
キーボ「ーーーだからといって、信じられるんですか?」
キーボ「あの、真宮寺クンのことを」
アンジー「………」
キーボ「ひょっとしたら、自身の所業の意味を否定し続けることに耐えられず、また、同じことをーーー」
アンジー「…それは無いよ」
キーボ「…なぜ、そう言いきれるんですか?」
アンジー「だって、いまの是清はーーーー」
アンジー「ーーー本当の “ あの人 ” のーーー」
アンジー「ーーーそしてみんなの『想い』のために、生きているから」
キーボ「………本当の、 “ あの人 ” ?」
アンジー「是清はねー、聞いたんだー」
アンジー「しにがみ、から、 “ あの人 ” の伝言を」
キーボ「………」
アンジー「伝言の内容はねー、是清はー、【是清自身とその友だちを大切にして欲しい】って話だったみたいだねー」
キーボ「真宮寺クン、自身の…?」
アンジー「そう、 “ あの人 ” は、それを、是清がこっちに来たら伝えるよう、しにがみに頼んだんだってー」
キーボ「………」
アンジー「ーーーしにがみが言うにはー、 “ あの人 ” はどういうわけか、現世で生きていた時のことについて、ほとんど話さなかったみたいでねー」
アンジー「だけど、それでも、是清に言葉を送ることを選んだってー。それも、自分のことじゃなくてー、是清やその友だちのことを、大切にする言葉を」
キーボ「………」
アンジー「しかも、しにがみは、 “ あの人 ” は是清が言ってたような人じゃないって、根気よく話したみたいだねー」
アンジー「………だからかなー」
アンジー「是清は、 “ あの人 ” からの伝言を受けてからいろいろ考えてー、人の『想い』を大切にする生き方をするように決めたんだってー」
アンジー「………本気の本気で」
キーボ「………」
アンジー「だから、もう是清は、大丈夫なんだよー」
キーボ「ーーーですが、それは、よく知らない人からの情報ですよね? 真宮寺クンがそういった情報を信じたんですか?」
アンジー「………そうだねー、信じたんだねー」
キーボ「なぜ、信じたのでしょうか?」
アンジー「それはねー、是清が人を観察し続けてきたからなんだってー」
キーボ「…観察ですか」
アンジー「うん、是清は人を観察し続けてきた」
アンジー「だから、長く話しているとー、その人が誰をどう大切に思っているかがわかるみたいー」
アンジー「実際に、しにがみは、 “ あの人 ” はもちろん、伝言の相手の是清のことも、大切に思ってたんだってー」
アンジー「その気持ちが、是清にも伝わったみたいだねー」
キーボ「…大切って、その死神の方と “ あの人 ” は、いったいどんな関係だったんですか?」
アンジー「先生とー、教え子だねー」
キーボ「………」
アンジー「しにがみは先生でー、 “ あの人 ” は、見習いのしにがみだったんだってー」
キーボ「死神の………見習い?」
アンジー「………なんでもねー、しにがみガッコーの生徒は、しにがみとしての『すごい才能』があれば、しにがみの見習いになることがあるんだってー」
アンジー「実際に、 “ あの人 ” は、しにがみとして、『すごい才能』があったみたいー」
アンジー「だからー、 “ あの人 ” は、見習いのしにがみでーーー」
アンジー「ーーーその見習いを育てる先生が、是清と話をした、しにがみだったんだってー」
キーボ「………ちょっと待ってください、 “ あの人 ” は見習いの死神だったんですか?」
アンジー「んー? そう言ってるけどー?」
キーボ「だったら、どうして正式に死神となる前に生まれ変わったんですか?」
アンジー「………」
キーボ「真宮寺クンが言うにはとっくに生まれ変わったってーーー」
アンジー「ーーーそうしないと、いけない事情があったからだよー」
キーボ「…事情?」
アンジー「なんでもねー? “ あの人 ” は、虚(ホロウ)………しにがみが言う悪い幽霊の名前なんだけど、その悪い幽霊に襲われて死にかけたみたいなんだよー」
キーボ「………………」
アンジー「それで、なんとか、命は繋げたけど、代わりに魂がすごく傷ついたみたいでねー?」
アンジー「………それで、霊力を失ってー、しかも是清と違って、すぐに、ぜんぶ霊力を失ってー….……」
アンジー「………それで、瀞霊廷に住めなくなったあと、生まれ変わることになったんだってー………」
キーボ「………」
アンジー「 “ あの人 ” は、元しにがみだからー。瀞霊廷に住めない人から………差別されやすかったんだってー」
キーボ「差別…」
アンジー「しかも、 “ あの人 ” は、すごい美人さんだったみたいでねー? それでアブナイ目に遭うことをー、ものすごい怖がったみたいー」
アンジー「………だからー、瀞霊廷の外に住むんじゃなくて、すぐに生まれ変わることにしたんだってー」
キーボ「…なるほど」
アンジー「あー、話を戻すけどー、ふたりはとにかく仲が良い見習いと先生だったみたいでねー?」
アンジー「だから、しにがみの先生は、 “ あの人 ” を大切に思ってたしー、伝言相手の是清も、大切に思ってたみたいだねー」
アンジー「その気持ちが、是清にも伝わったみたいなんだよー」
キーボ「………」
アンジー「だから、是清は、しにがみの伝言を信じて、いろいろと考えて考えてーーー」
アンジー「ーーー最後には、 “ もう人の『想い』を踏みにじりたくない ” って思うようになって、これまでとは違う生き方を選んだんだー」
キーボ「………」
アンジー「それから、是清は、やらなきゃいけないことを考えた」
アンジー「 “ あの人 ” だけじゃない、みんなの『想い』をどう大切にすべきか考えた」
アンジー「それで、是清は、アンジーに、みんなに、頭を下げた」
アンジー「いっぱい、いっぱい、たくさん、たくさん、頭を下げたんだよ」
キーボ「………」
アンジー「アンジーはねー? そんな是清なら、信じられると思ったんだー」
アンジー「そんな是清といっしょになら、それだけ寂しくなくなるって」
アンジー「そう、思ったんだー」
アンジー「だから、いっしょに居候させて貰うのを、空鶴たちにお願いしたんだよー」
キーボ「………」
アンジー「….……それから、是清は、アンジーが退屈しないように、この家や図書館から借りた本を読んでくれたりーーー」
アンジー「ーーー難しい本とかで勉強したりしてー、アンジーにいろいろ面白い話をしてくれるようになったんだー」
キーボ「………」
アンジー「………いまでは、そういう意味でも、いっしょにいたいって思える」
アンジー「…この気持ち、そんなにダメかな?」
キーボ「………………………………………………」
キーボ「………それが、アンジーさんの望みならば、誰かが無理に止めるようなことではありませんよ」
アンジー「………」
キーボ「実際に、百田クン達からも止められていないのでしょう?」
アンジー「…うん、解斗たちは、止めなかった」
アンジー「もちろん、最初は止めようとしたけど、アンジーが良いならって、認めてくれたんだ」
キーボ「それに加えて、ここの家主の空鶴さん達が信頼できる人だった」
キーボ「だからこそ、今の状況が成立している」
キーボ「きっと、そういうことなんでしょうね………」
アンジー「そう、だねー………」
キーボ「ならば、ボクも、アンジーさんの選択を尊重しますよ」
アンジー「ありがとね、キーボ………」
キーボ「………ただーーーー」
キーボ「ーーーただ、一つ、訊かせて貰ってもよろしいでしょうか?」
アンジー「ーーー何かな?」
キーボ「………」
アンジー「答えるよ?」
アンジー「それが、アンジーに答えられることなら」
キーボ「…ならば、訊かせて貰います」
キーボ「ボクが訊きたいこと、それはーーーー」
………………………………………………………………
………………………………………………………………
バタンッ………
キーボ「………」ガチャリ
真宮寺「………お帰り、キーボ君」
真宮寺「これから僕達が “ 夜 ” を共にする、この部屋まで」
キーボ「…おかしな言い回しはしないでください」
真宮寺「…そうだネ、ちょっと誤解を招く言い方だったかもしれないネ」
真宮寺「これからは、気をつけるヨ」
キーボ「………」
真宮寺「…それで、夜長さんとの話は終わったのかい?」
キーボ「………ええ、まあ」
真宮寺「………夜長さんは?」
キーボ「アンジーさんなら、女性用の浴槽場まで向かうとのことでした」
キーボ「入浴が終わり次第、睡眠に移るそうです」
真宮寺「確かに、そろそろ寝る時間に入る頃合いだネ」
真宮寺「………うん、僕も、もうそろそろ寝ることにするヨ」
キーボ「…ボクも一緒ですからね」
真宮寺「………ごめんネ」
キーボ「…….…何に謝っているんですか」
真宮寺「………何もかもサ」
真宮寺「僕はーーー」
キーボ「ーーーボクにそれを言うくらいなら、 “ しっかりと ” 生きてください。それが、キミが一番やり続けなければならないことでしょう」
真宮寺「………」
キーボ「………これからもこの死後の世界について教えてください」
真宮寺「!」
キーボ「それが、ボクの、当面の望みです」
真宮寺「………」
真宮寺「………………」
真宮寺「…………………………………」
真宮寺「………もちろん、だヨ」
キーボ「………………」
真宮寺「それが許される限り………なんだって、答えてみせるヨ」
キーボ「………それなら、いまボクの質問に一つ答えて頂けますか?」
真宮寺「…質問?」
キーボ「真宮寺クン」
真宮寺「…なんだい?」
キーボ「キミは、この死後の世界に来る前に、夢を見ましたか?」
真宮寺「夢…?」
キーボ「…実はボクの記憶領域には、ここに来る前、夢ともエラーともわからない光景が残されているんです」
真宮寺「………」
キーボ「その内容は…ボク達死者が、みんな同じ場所に囚われているというものです」
真宮寺「…囚われる? まさか、あの学園のことかい?」
キーボ「いえ、違います。もっと、暗くて、狭い空間でした」
真宮寺「暗くて、狭い…」
キーボ「気づいたらそこにいて………しばらくするとエネルギー不足に陥ったかのように力が抜けて、うつぶせに身体が倒れてしまいました」
キーボ「その後も、急に重力が倍になったかのごとく、うまく身体を動すことが出来なくてーーー」
真宮寺「………」
キーボ「ーーーそうして、もがいている中、光が差し込んでくるのが見えたんです」
真宮寺「…光?」
キーボ「………ただの光じゃありません」
キーボ「天使の光です」
真宮寺「…天使?」
キーボ「ええ、そうです」
キーボ「光が差し込んでくる中、見上げると光り輝く天使がいたんです」
真宮寺「天使…一応確認しておくけど、死神の間違いとかじゃないのかな?」
キーボ「………おそらく、違います」
真宮寺「………人型の黒装束では無いんだネ?」
キーボ「………明らかに、違います」
真宮寺「………」
キーボ(それに、あの、あたたかさーーー)
キーボ(ーーーあれは、まるでーーーー)
真宮寺「…それ、写真にはできるかな?」
キーボ「………」
真宮寺「………あァ、もし良かったら入間さんが置いていった、君用の現像機を使うかい?」
真宮寺「あれなら、外付けではあるけど、写真にできるはずだヨ」
キーボ「…残念ですが、それも難しいですね」
真宮寺「…そうなの?」
キーボ「ええ…急に倒れたことによる衝撃が理由かは不明ですが、映像の解像度は高くありませんでした」
真宮寺「つまり、写真には、できないんだネ」
キーボ「…そうですね」
真宮寺「それは、残念だネ…」
キーボ「…ですが、大まかな形は、一般的に天使と呼ばれるそれでした」
真宮寺「………」
キーボ「その天使を見上げていたら、何故か暗闇にヒビが入りましてね」
キーボ「そのヒビから、さらなる光が差したと思ったら気を失ってーーー」
キーボ「ーーー気づいた時には、ここにいたんです」
真宮寺「………」
キーボ「もしかしたら、キミも、そうした夢をーーー」
真宮寺「ーーー悪いけど、僕にはそんな記憶は無いヨ…」
キーボ「…そうですか」
真宮寺「…ひょっとして、夜長さんにも、同じことを訊いたのかい?」
キーボ「ええ、去り際に、一応」
真宮寺「…夜長さんは、何て?」
キーボ「…実は、アンジーさんも同じように、夢を見ていたようでーーー」
真宮寺「!」
キーボ「ーーー先ほど話した “ 光 ” 」
キーボ「それは、あるいは、アンジーさんも、同じものを認識していたのかもしれません」
真宮寺「…かも、しれない?」
キーボ「ええ…」
キーボ「アンジーさんは、夢の内容を語る際、 “ ビカビカー ” という擬音語を出していましたので」
キーボ「同じ光を、認識していた可能性はあると思います」
真宮寺「………」
キーボ「ただ、アンジーさんは、光以外、特に認識はしていなかったようですが」
真宮寺「ーーー興味深い話だネ」
キーボ「………」
真宮寺「実に、実に、知的好奇心を刺激させられる題材だヨ」
真宮寺「想像力を掻き立てる」
キーボ「………………」
真宮寺「………ただ、残念ながら、僕は早起きでネ。もうそろそろ寝ないといけない時間が来てしまう」
真宮寺「夢の考察は、またの機会にさせて貰うヨ」
真宮寺「残念だけど、ネ」
キーボ「…そうですか」
真宮寺「…そろそろ部屋の明かり、消しても良いかな?」
キーボ「…どうぞ」
真宮寺「…ホタルカズラO」
真宮寺「今日も、照らしてくれて、ありがとう」
真宮寺「 “ お疲れ様 ” 」
フッ………
真宮寺「………」
キーボ「ーーーキミが寝る前に断っておきますが、キミが寝ている間も、ボクは起きていますからね」
真宮寺「………まァ、君は寝る必要が無さそうだからネ」
キーボ「ええ、先ほど夢を見たかのようなことを言っておいてなんですが、ボクはキミ達で言うところの睡眠が必要ではありません」
キーボ「身体の動きを止めているだけでも充分な休息になります」
キーボ「なので、君が用意したこの布団の上で、そうさせて貰いますね」
真宮寺「………」
キーボ「また、今のボクの視力と聴力はとても高いです。そのため、この暗闇の中でも君が何か妙な真似をすれば、すぐにわかります」
真宮寺「…初耳だネ」
キーボ「事実です」
真宮寺「…僕の指、何本に見える?」
キーボ「現在立たせている指でしたら、左手の親指・薬指・小指と右手の親指・中指・薬指・小指の計7本です。ああ、いま、急いで小指2本に変えましたね」
真宮寺「…正解だヨ」
真宮寺「…………………ねえ、いま僕がーーー」
キーボ「ああ、いまキミが、うっすら呟いた言葉ならわかりますよ」
キーボ「 “ 一昨日の夕飯はおでん ” 、そうでしょう?」
真宮寺「…それも正解だヨ」
キーボ「わかって頂けました?」
真宮寺「…充分にネ」
キーボ「そして、いまのボクは大した力はありませんが、音声のボリュームを上げる機能は付いています」
キーボ「それで叫び続ければ、近くにいるキミの脳はダメージを受け身体の動きは鈍ります」
キーボ「その後、ボクにのしかかられた場合、キミは碌な身動きが取れなくなるでしょうね」
真宮寺「………」
キーボ「それからも叫び続ければ、キミの脳のダメージは増大し、余りのうるささにクウカクさん達も起きて、ここに駆け付けてくるでしょう」
キーボ「そのことを決して忘れないよう、お願いします」
真宮寺「…肝に銘じておくとするヨ」
キーボ「…それと最後にーーー」
真宮寺「…何かな?」
キーボ「ーーーおやすみなさい、真宮寺クン」
真宮寺「………」
キーボ「そして、今日は休日の中、いろいろ気遣ってくれて、本当にありがとうございました」
キーボ「物理的なお礼をするかはまだ未定ですが、精神的なお礼はいま実行いたします」
キーボ「…ありがとう、ございました」
真宮寺「…そうかい」
真宮寺「喜んでくれたのらなら、何よりだヨ…」
………………………………………………………………
ー翌日・志波家の庭ー
キーボ「………」
真宮寺「ーーー以上で、今日の仕事、今日の、この夕方までに行う分の掃除は終わりだヨ」
アンジー「お疲れー!是清ー、キーボ!」
真宮寺「お疲れ様だネ、夜長さん、キーボ君」
キーボ「…お疲れ様です、アンジーさん、真宮寺クン」
キーボ(ボクは疲れないのですがーーーそれでも、労わって貰うというのは悪いものではありませんね、やはり)
キーボ「ーーーそれで、真宮寺クン」
キーボ「今日の朝食前の約束についてですがーーー」
真宮寺「ーーーわかっているヨ」
真宮寺「この世界について、改めて説明させて貰うヨ」
真宮寺「それに、昨日は、流魂街や瀞霊廷などについて、そこまで詳しく話せたわけじゃなかったからネ」
真宮寺「改めて君にも、しっかりと説明するヨ」
キーボ「ありがとうございます、真宮寺クン」
アンジー「…ねー、キーボ、是清、良かったらーーー」
岩鷲「おおう! オメーら、終わったか!」
アンジー「………」
キーボ「あっ、岩鷲クン」
真宮寺「お帰り…薪拾いは終わったのかい?」
岩鷲「おう! そのくらい、朝飯前よ!」
キーボ「?」
キーボ「待ってください、朝御飯でしたら、既に終わって、今日の食事は夕飯を残すだけのはずですよ?」
キーボ「なのに、どうして、朝飯前なんてーーー」
アンジー「…キーボは、アンジー以上にニホンゴの勉強が必要みたいだねー」
真宮寺「キーボ君、君の語彙記録には、朝飯前という言葉の使い方が無いのかな?」
キーボ「えっ、あー、ちょっと待ってくださいーーー」
キーボ「ーーーああ、ありますね。申し訳ありません。データの認識が不充分だったようです」
岩鷲「はっはっは! 気にすんな! 誰にだって失敗はある!」
岩鷲「俺だって、ここに来る前、うっかりオメーのこと話しちまったからな!」
キーボ「…なっ、!?」
岩鷲「いや、そいつらは昔の居候共なんだがよ、 “ 流魂街に現れた謎のロボット ” について聞かれてな」
岩鷲「そうしたら、話の流れでポロっとーーー」
空鶴「ーーーどういうつもりだ、岩鷲?」
岩鷲「ーーーね、姉ちゃん!」
空鶴「なんで、そんなことをした?」
岩鷲「あっ、いや、だから、そのーーー」
空鶴「テメエの今の狼狽えっぷりからして、コイツ本人が、 “ そうしてくれて構わない ” って言ったわけでもねえんだろ?」
岩鷲「うぐっ………」
キーボ「………」
空鶴「………それをする必要あっても、まずは、家主のおれに許可を取れっつったよな?」
空鶴「なのに、どうして、勝手に話した? ああ?」
岩鷲「…あ、いや、でも、無駄に話が広まんないように、あいつらが “ 場所 ” を作ってくれたしよ」
岩鷲「それに、あいつらなら、口だって固えしーーー」
空鶴「ーーーそれが、おれの “ 決まり付け ” を破った言い訳か? 岩鷲?」
岩鷲「あ………」
空鶴「………………」
岩鷲「びゃああああああああああああ!!!」
ーGAME OVERー
ガンジュくんがクロに決まりました。おしおきを開始します
岩鷲「どわああああああああああああああ!!?」
チュッドーンッ!!
キーボ「岩鷲クーーーン!!?」
アンジー「あー、これまたよく飛んだねー」
真宮寺「そうだネ、毎度のことながら空鶴さんの腕には感心するヨ」
キーボ「な、何を言っているんですか、二人とも!」
アンジー「んー? どうしたー、キーボ?」
キーボ「どうもこうもありませんよ!?」
キーボ「目の前で処刑が行われたというのに、どうして、お二人はそんなーーー」
真宮寺「ーーー心配はいらないヨ」
アンジー「そうだねー、だって」
ドサッ………
キーボ「…えっ、?」
岩鷲「…いたたたた」ムクッ
アンジー&真宮寺「「普通に生きてるから」」
キーボ「………!?」
岩鷲「…あっ、キーボ、すまねえ! 勝手にオメーのこと話しちまって!」
キーボ「あっ、えっ、」
岩鷲「でも安心しろ! あいつらは口が固えし、おかしなことはしねえからよ! 心配すんな!」
キーボ「うっ、あっ、」
岩鷲「自称、【数多の通り名を持つ男】の名にかけて、そこは保証ブゲオォッ!?」
空鶴「積もる話は、風呂と掃除の後だ、岩鷲! 煤まみれで長話してんじゃねえ! 無駄に汚れるだろうが!」ズルズル
岩鷲「ええっ!? 煤まみれなのは、姉ちゃんがーーー」
空鶴「………」ズルズル
岩鷲「ーーーわ、わかった! わかったから! ちゃんと風呂も入るし、煤で汚したとこも掃除するから! 大砲の方まで引きずんのはやめてくれ、姉ちゃん!」
アンジー「あー、行っちゃったねー」
真宮寺「まァ、あれだけ派手に打ち上げたことだし、これ以上はフリだとは思うけどネ」
キーボ「ーーーなんですか、これは」
アンジー「んー?」
真宮寺「何ってそれはーーー」
キーボ「なんで大砲で打ち上げられた人が、生きているんですか!?」
真宮寺「ーーーあァ、それについては、簡単だヨ」
キーボ「??」
真宮寺「それは、岩鷲君の “ 霊圧 ” がとても高いからサ」
キーボ「………霊圧?」
真宮寺「霊圧とは、霊力ある魂魄が持つ圧力のことだヨ」
キーボ「圧力…ですか?」
真宮寺「そう、霊力ある魂魄は圧力を持っており、霊力が多ければ多いほど、その圧力は高くなる」
真宮寺「圧力は、時に “ 気 ” のようなものとして体外に発せられ、周囲にいる人を地面に叩きつけたり、場合によっては押し潰すこともできるしーーー」
キーボ「!」
真宮寺「ーーーさっきの岩鷲君のように身に纏うことで、身体の強度を高め、損傷を防ぐこともできるのサ」
キーボ「………そんなことがーーー」
真宮寺「現世じゃあり得ないような現象ではあるけど、この “ 霊子 ” しか存在しない尸魂界では至極当たり前のことだヨ」
キーボ「…霊子?」
真宮寺「霊子とは、僕達のこの魂魄など、霊的な物質を構成する原子のことサ」
キーボ「………」
真宮寺「霊子は、入間さん曰く、とても自由度の高い原子のようでネ」
真宮寺「現世では物理的にありえないような現象さえも起こし得るのサ」
アンジー「…うんうん、今日も絶好調だねー【鰤清劇場】!」
真宮寺「…【ブリキ劇場】? どうして、そこでキーボ君が出てくるんだい?」
キーボ「なっ、違いますよ! いま、アンジーさんは、【ブリキ劇場】ではなく、【ブリキヨ劇場】と言ったんです! ロボット差別に繋がるような聞き間違いはやめてください!」
アンジー「そうだよー、キーボの言う通り、ブリキじゃなくて、ブリキヨなんだよー!」
アンジー「魚の “ 鰤 ” に、是清の “ 清 ” で、 “ 鰤清 ” なのだー! にゃははー!」
キーボ「…あれ? でも、なんで、そこで魚の鰤が登場するんですか? 普通に理解しがたいのですが」
真宮寺「…まァ、どういう基準を持って命名したかは兎も角、夜長さんが付けてくれた名前であることに変わりはないからネ………」
真宮寺「………うん、僕は良いと思うヨ? 【鰤清劇場】」
アンジー「…にゃははー! 是清のお墨付きだねー! これからも【鰤清劇場】よろしくだよー!」
真宮寺「そうだネ………あァ、これからキーボ君にこの世界について更に詳しく説明するつもりだから、もし良ければ夜長さんもーーー」
アンジー「うん! アンジーも聴くよー! 何度聴いても飽きないからねー!」
アンジー「…アンジーも、いっしょに聴いても良いよね? キーボ?」
キーボ「? ええ、もちろんですよ。むしろ、そうしてくれた方が嬉しいくらいです」
キーボ(………アンジーさんと一緒の方が、和やかな気持ちで聴けますから)
アンジー「…ありがと、キーボ」
キーボ「? 何でアンジーさんがお礼をーーー」
アンジー「ーーーまー、とにかく、【鰤清劇場】楽しみだよー! にゃははー!」
真宮寺「………」
キーボ(…しかし、本当に大丈夫なんですかね? その名前でーーーー)
真宮寺「ーーーただ、約束を果たす前に、留意しなければならないことがある」
真宮寺「その説明のため、いったん話題を岩鷲君の頑強さの件に戻させて貰うネ?」
キーボ「………?」
真宮寺「命に関わる大切な話サ」
真宮寺「どうか、しっかりと聞いて欲しい」
キーボ「命…」
アンジー「………」
真宮寺「ーーー岩鷲君が空鶴さんに打ち上げられたけど、それは誰であっても、決して真似してはいけないヨ?」
真宮寺「それが、僕から伝える話サ」
キーボ「………」
アンジー「………」
真宮寺「さっき、打ち上げられても死なないとは言ったけど、それはあくまで岩鷲君のような非常に高い霊圧の持ち主だからこそ、起こり得ることだ」
真宮寺「僕達のような、小さな霊圧であんなことをやれば間違いなく死ぬだろうネ」
キーボ「………………」
アンジー「………」
真宮寺「仮に、岩鷲君ほどの霊圧があったとしても、やり方を大きく誤れば死ぬことだってあり得る」
真宮寺「岩鷲君だけじゃない、下にいる人も巻き込まれ、死ぬかもしれない」
キーボ「………」
真宮寺「空鶴さんの岩鷲君に対する折檻ーーー」
真宮寺「ーーーそれは、岩鷲君が非常に高い霊圧の持ち主であること、そして空鶴さんの花火師としての腕が優れているが故に、死を乗り越えて成立しているんだヨ」
真宮寺「花火とは、時には人の命を奪う可能性を秘めた危険物であり、爆発物に他ならない。故に、花火師とは命の危険の伴う仕事だ」
真宮寺「相応の腕が無ければ、絶対に務まらない」
アンジー「………………」
キーボ「………」
真宮寺「もし、花火師としての小手先の技術を鍛えて小器用になれたとしても、命の大切さを知らない者には務まらない」
真宮寺「打ち上げられる存在に宿る『想い』、そして地上に残された存在に宿る『想い』ーーー」
真宮寺「ーーーそれらの重みを誰よりも知っている人でなければ、油断して、加減を誤るかもしれないからネ」
真宮寺「死を乗り越えられないかもしれない」
真宮寺「あの折檻は、岩鷲君が空鶴さんの弟であり、空鶴さんが岩鷲君の姉で、お互いの命の大切さを誰よりも知っている間柄だからこそ、成立していると言って良い」
アンジー「………」
真宮寺「そう、お互いに、自身に込められた『想い』の大切さを誰よりも知っている関係性でーーー」
真宮寺「ーーーそして、下に残された人の『想い』さえも大切にできる精神性を持つが故に、空から光は降り注ぐのサ」
真宮寺「だから、あの折檻は、絶対に真似してはならない」
真宮寺「そのことを、絶対に忘れてはいけない」
真宮寺「以上が、僕から伝える話サ」
キーボ「………………なるほど、よくわかりました。ボクの記憶領域にもしっかりと記録しておきますね」
アンジー「………アンジーも、改めて覚え直したよー!」
真宮寺「………………………………」
………………………………………………………………
ー鰤清劇場・1日目ー
真宮寺「ーーーさて、それじゃあ、約束通りに劇場を開かせて貰うヨ」
キーボ「お願いします」
アンジー「よろしくだよー!」
真宮寺「こちらこそ、だヨ」
真宮寺「それでなんだけどーーーーーー、まずは、この尸魂界の基本的なことからおさらいさせて貰うネ」
キーボ「………」
真宮寺「…前にも説明した通り、この尸魂界は、現世で死んだ者達の魂魄が辿り着く死後の世界」
真宮寺「故にそこに存在する物は、全てが霊子という霊的な物質、魂を構成する原子で出来ている」
真宮寺「そして、そこでの居住区は、瀞霊廷と流魂街の二つに分けられる」
キーボ「二つ、だけなんですね」
真宮寺「………そうだネ、居住区と呼べる場所は、主にその二つしかない」
真宮寺「なお、瀞霊廷は前にも話した通り、霊力ある魂魄しか住めないけれど、流魂街は誰でも住むことが可能」
真宮寺「実際、現世で亡くなった人は、霊力の有無に関わらず、その魂魄を尸魂界の説明会場に送られ、死神から死後の世界についての説明を受けーーー」
真宮寺「ーーーその日のうちに、身元を示す手形や整理券などを貰い、記載された通りの流魂街の場所に、住むことになるのが基本だヨ」
真宮寺「………まァ、霊力ある魂魄の場合は、死神に案内されて、瀞霊廷に住むことになるのが基本ではあるのだけれどネ」
アンジー「………」
キーボ「…それで、流魂街とは、具体的にどんな場所なんですか?」
真宮寺「そうだネ、それじゃあ、まずは流魂街の詳細について説明させて貰うヨ」
アンジー「………」
真宮寺「流魂街とは、基本的に霊力の無い魂魄が住み、生まれ変わりを待つ場所サ」
真宮寺「大まかには東西南北に分かれていて、細かには東西南北それぞれ一から八十までの番地に分かれている」
真宮寺「ちなみに、僕達が今いるここは西の区域になるネ」
真宮寺「なお、流魂街は非常に広大なため、円滑な移動のために、あちこちに空間転移装置が設置されている」
キーボ「………空間転移装置?」
アンジー「うん、なんか割と最近ねー、流魂街のいろんなところに置かれたんだってー」
真宮寺「そうだネ、現世でいうところのバス停のように設置され、流魂街の住民達の行き来を非常に楽なものにしているんだ」
キーボ「そんなものが………」
真宮寺「ちなみに、その装置は、君が最初に来た流魂街からこの屋敷まで移動する際にも使われている」
キーボ「えっ、?」
アンジー「本当はねー? この家と他の家ってすっごい遠いんだー」
キーボ「そうなんですか?」
アンジー「そうだよー」
真宮寺「だからこそ、空間転移装置が使われている」
キーボ「いや、しかし、ワープしたようにも見えなかったのですがーーー」
真宮寺「それは、その転移が、移動距離が短縮される形で行われたからだネ」
キーボ「? どういうことです?」
真宮寺「空間転移装置とは言っても、すべてが瞬間移動させるタイプのものでは無いのサ」
真宮寺「空間を操作して、移動距離を短縮するタイプだってあるーーーーーーというか、それが殆どのはずだヨ」
アンジー「楽するのもほどほどにしないとー、大変なことに、なっちゃうからねー」
キーボ「………」
真宮寺「まァ、君には実感しづらいのかもしれないけど、通常の脊椎動物は運動をしなければ身体機能が落ちてしまうし、免疫機能が働かず病気にもなりやすくなる」
真宮寺「それを防ぐために、あくまでも移動距離の短縮という形を取っているんだヨ」
キーボ「…既に病気にかかってしまい、身体を動かしづらい人も、そうした運動をする必要があるのでしょうか?」
真宮寺「…もちろん、そんなことは無いヨ」
真宮寺「病気の内容にもよるけれど、普段よりも明らかに、思ったように身体を動かせられない場合は、安静にした方が良いと思うネ」
キーボ「…病院のような場所に行って、医者からの診察や治療を受ける必要が生じた場合は、どうするんですか?」
真宮寺「その場合は、伝令神機で医者を呼ぶことになる」
キーボ「伝令神機…」
真宮寺「実は、尸魂界に来た魂魄が貰えるのは、整理券や身元を示す手形だけじゃないんだヨ」
真宮寺「最近では、死神から死後の世界についての説明を受けたあと、一人一つずつ伝令神機を貰えるのサ」
真宮寺「それで、流魂街の各地区の医療所で勤務する医者を呼べば、救急車のごとく駆けつけてくれる」
真宮寺「医療所にある、瞬間移動するタイプの空間転移装置を使ってネ」
キーボ「そうだったんですか…」
アンジー「………」
真宮寺「ただ、それは、医者に負担をかける行為だ」
真宮寺「あまりにそれをやり過ぎると、医療ミスに繋がりかねないし、他に必要としている患者のもとに駆けつけることだって困難となる」
真宮寺「だから、住民には可能な限り、運動して貰って、身体の免疫機能を維持して貰う必要があるのサ」
キーボ「なるほど…勉強になります」
真宮寺「ーーーとりあえず、空間転移装置については、このくらいにして、次は流魂街の暮らし方に関する説明に移らせて貰うヨ」
キーボ「わかりました、よろしくお願いします」
アンジー「アンジーからもよろしくー!」
真宮寺「それならさっそく説明に移るけどーーーーーー流魂街では、基本的に魂魄達が互いの家族となる人を新しく決めて、その家族同士で暮らすことになっている」
キーボ「………?」
キーボ「家族となる人を新しく決める…? なぜ、そのようなことをする必要があるんですか?」
真宮寺「それは、家族という “ 集団 ” でいた方が犯罪のために狙われる確率が減るからだネ」
キーボ「犯罪…」
アンジー「………」
真宮寺「君も尸魂界に来たばかりの時、流魂街のあの家屋がどういったものであるかは、確認しただろう?」
キーボ「ええ、まあ…」
真宮寺「あの街の建物は、住民の数に応じ、死神の霊術で幾らでも作り無償で提供することが可能ではあるもののーーーその代償として作りが古い」
真宮寺「その作りは、平安から江戸時代の民家を彷彿とさせる」
真宮寺「そういった家屋では、防犯能力も相応の物になる。現世と比較しても、犯罪がやりやすい傾向にあると言っても過言では無いのサ」
真宮寺「事実として、流魂街にだって、決して犯罪が無いわけでは無いんだヨ」
真宮寺「現在の流魂街の治安は、数年前に比べれば全体的に向上していて犯罪率も低下はしているけれど、それでも犯罪はある」
真宮寺「十年近く前は、かなり治安の悪い場所もあったようだからネ。それが尾を引いているとも言える」
キーボ「………」
真宮寺「そんな中、個人と集団、どちらが狙われやすいか?という話なのサ」
キーボ(………なるほど、確かに集団でいれば狙うリスクも高くなる。それを思えば、集団でいる方が安心感を得られるでしょうね)
キーボ「ーーーですが、生前共に暮らしていた家族が、同じく死後の世界にいるケースが一般的ですよね?」
真宮寺「………」
アンジー「………」
キーボ「………人は、生まれの関係から、ほぼ間違いなく家族が存在するものですから」
キーボ「それなのに、新しく家族を決める必要があるんですか?」
真宮寺「………あるんだヨ」
キーボ「………………」
真宮寺「自分よりも前に亡くなった家族と、こちらで再会できるとは限らないからネ」
キーボ「………」
アンジー「………」
真宮寺「少なくとも、あの学園にいた僕達全員は、家族と再会できなかった」
真宮寺「そういったように、再会できなかった場合は、こちらで新しく家族を作る必要がある」
真宮寺「ただ、夜長さんと僕は、空鶴さん達のいる志波家の使用人として雇って貰えたし、赤松さん達は瀞霊廷という更に治安の良い場所に住めている」
真宮寺「故に、家族を作る必要も無く、例外的に家族関係を結んでいない状態にあるヨ」
キーボ「………死神が “ 元々の ” 家族と、合わせてくれたりはしないのですか?」
真宮寺「…家族関係に関しては、DNAなどを調べるなどして、そういうことも試みるようになったようだけれど、必ず会えるとは限らない」
キーボ「………」
アンジー「………」
真宮寺「…死んだタイミング次第では既に生まれ変わっているケースもあればーーー」
真宮寺「ーーーそもそも、既に家族関係を新しく結び直していて、いまさら前の家族と会うことができず、それを拒否しているケースもある」
キーボ「………」
アンジー「………」
真宮寺「引き合わせなんて、つい最近まではやっていなかったわけだからネ」
真宮寺「新しく家族関係を結び直していて、それを壊さないために、前の家族に会うことができないというケースが、多々存在している」
真宮寺「生前で言うなら、なんらかの事情で家族と離れ離れになった人が、新しい場所で別の人と家族関係を結んだ後、前の家族と会いづらくなるようなものサ」
真宮寺「それを思えば、まだまだ新しく家族関係を結ぶ必要は生じてくるんだヨ」
キーボ「…勉強になります」
アンジー「………」
キーボ「………話は変わりますがーーーーーー流魂街にいる他の人達はどこで働いているのですか?」
真宮寺「………」
アンジー「………」
キーボ「ボク達は、空鶴さんから、食べるからには働いて貰う必要があると言われました」
キーボ「だとしたら他の人達も同じはずでしょう。食べるためには働かないとーーー」
真宮寺「ーーー彼らに労働の義務は無いヨ」
キーボ「…えっ、?」
真宮寺「生前、人に労働の義務があるのは、いろいろな理由があるけれどーーーーーー最大の理由は食事をしないと生きていけないからだ」
真宮寺「だからこそ、労働を行い、金銭という対価を貰う必要が出てくる」
真宮寺「故に、食事を必要としなければ、金銭の必要性も減少し、必然的に労働の必要も無くなることになる」
キーボ「…食事を必要としない?」
真宮寺「………流魂街の住民の大多数は霊力を持たない」
真宮寺「そして、霊力を持たない魂魄は、物を食べないんだ。水だけで生きていける」
キーボ「なっ、!?」
真宮寺「………余談ではあるけど、老化もしない」
キーボ「ーーー!!??」
真宮寺「霊力ある魂魄は、魂魄の生体機能を維持する限界…すなわち寿命があるけれど、霊力の無い魂魄には寿命が無いんだ」
真宮寺「霊力ある魂魄は、生前よりも遥かにゆるやかに老化するのだけれど、霊力の無い魂魄はそれすら無い」
真宮寺「現世で亡くなった時から、身体の年齢は何一つ変わらないんだ」
キーボ「そんなことがーーー」
真宮寺「まァ、その代わり、霊力が無いが故に魂魄の強度も低く、いずれ現世の生命に転生する義務もあるんだけどネ」
アンジー「………」
真宮寺「…兎も角、霊力の無い多数の魂魄は、食事を必要としない」
真宮寺「故に、生前のように労働を行う必要が無く、労働義務が免除されている状態にあるんだヨ」
キーボ「………」
真宮寺「もちろん、僕達のいる屋敷のように、流魂街でも働いて金銭を稼ぐ場所は存在する」
真宮寺「例えば、流魂街に何箇所かある飲食店などがそうだヨ」
キーボ「…えっ、?」
真宮寺「そこにある店の店員として、働くこともできる」
キーボ「…いや、ちょっと、待ってください」
キーボ「確か、キミが言うには、多数の魂魄は霊力が無く、基本的に物を食べないのではーーー」
真宮寺「流魂街には、その治安維持を担当する死神達の住む基地が何箇所かあってネ」
真宮寺「飲食店などは、そうした死神達のためにあるんだヨ」
キーボ「ーーーなるほど」
真宮寺「ーーーただ、そうした働く場所があっても、霊力ある魂魄が優先して働く決まりになっている」
真宮寺「金銭という対価を得て、物を食べる必要のある、霊力ある魂魄が、ネ」
キーボ「………」
アンジー「………」
真宮寺「故に、基本的な流魂街の住民…霊力無き多数の魂魄は、労働の義務が無いも同然なのサ」
真宮寺「ーーーとりあえず、流魂街に関する説明は大体このくらいだネ」
真宮寺「他に、何か質問はあるかい?」
キーボ「…いえ、大丈夫です、ありがとうございました」
アンジー「…アンジーも、特に何も無いよー」
真宮寺「…それじゃあ、次は瀞霊廷の詳細について説明させて貰うネ」
キーボ「…よろしくお願いします」
アンジー「よろしくー!」
真宮寺「…瀞霊廷はさっきも言った通り、霊力ある魂魄のみが住めるとされている場所サ」
真宮寺「流魂街の中心部に位置する、たった一つの都市でありーーー」
真宮寺「ーーー住めば輪廻転生の輪から脱却できる」
アンジー「………」
キーボ「………」
真宮寺「ちなみに、霊力の無い魂魄でも瀞霊廷の出入りは可能だヨ。住むことはできないけどネ」
真宮寺「まァ、少し前は深刻な労働力不足を理由に、流魂街の住民を住まわせることもあったけどーーーーーー今では、霊力ある魂魄以外の労働力を求めていない」
真宮寺「だから、霊力が無ければ基本的に瀞霊廷には住めないと考えて良いヨ」
キーボ「…霊力があれば住めるということはよくわかりましたが、それ以外の意味では、具体的にどういった場所なんですか?」
真宮寺「そうだネ、具体的に述べるのなら、貴族の統治下にある死神の本拠地ってところかな」
キーボ「貴族…死神…」
アンジー「うんうん、そういうお金持ちの人が住む場所だねー。流魂街とは大違いだねー」
真宮寺「…流魂街も尸魂界である以上、厳密には同じ貴族の統治下にある死神の本拠地なんだけどネ」
真宮寺「それでも、瀞霊廷は流魂街よりも遥かに、貴族や死神の意思が非常に色濃い場所…ということなのサ」
キーボ「貴族…正直、ボクには馴染みの無い制度ですね」
真宮寺「…まァ、そうなるよネ」
アンジー「………」
真宮寺「だけど、尸魂界において貴族制度は、身分制度は確かに存在するんだヨ」
キーボ「…そういえば、王族もいるんでしたね、こちらには」
真宮寺「そうだネ。実際に、百田君が目指そうとしている霊王宮は、霊王様をはじめとする王族達が住む場所とされている」
アンジー「………」
真宮寺「ただ、霊王様は絶対に霊王宮から降りることはなく、その王族達も特別な祭事でも無い限りは、決して降りないみたいでネ」
真宮寺「貴族や死神ですら、一部を除いて霊王様やその王族の御姿を見たことがないらしいヨ」
キーボ「………」
真宮寺「…とまァ、そういった身分社会ではあるけれど、奴隷身分など人権の保証されない身分があるわけじゃない」
真宮寺「そこは、安心して良いと思うヨ?」
キーボ「…ボクにも人権は保証されるんですかね?」
真宮寺「それはーーー」
アンジー「…うんうん、大丈夫だよ、キーボ!」
キーボ「…アンジーさん?」
アンジー「主はきっと言いました… “ 空鶴たちが付いているから大丈夫だ ” ………と」
真宮寺「確かに、空鶴さん達は、元貴族だからネ。それを考慮すれば、彼女達の関係者であるキーボ君をぞんざいに扱うわけにも行かないはずだヨ」
キーボ「ーーーえっ、ちょっと待ってください。空鶴さんと岩鷲クン、あの人達も貴族だったんですか?」
真宮寺「そうだヨ、今は没落しているようだけど、かつての【志波家】は “ 五大貴族 ” と言って、尸魂界でもトップクラスの権威を持つ貴族だったみたいでネ」
真宮寺「当時、志波家の人達によって助けられた死神や貴族は、決して少なくないみたいなんだ」
真宮寺「言うなれば、志波家は先祖代々から、色々な人に貸しを作っていた一族でもあったんだヨ」
キーボ「貸し、ですか」
真宮寺「まァ、空鶴さんを含む志波家の一族の人達がそれを意識してやったかどうかは兎も角として、没落した今となっても特定の死神や貴族は志波家に恩を感じ続けているようでネ」
真宮寺「その中には、位の高い死神や貴族だっているという話だ」
真宮寺「だから、君に人権があるかどうかは置いといて、志波家に対して恩がある位の高い死神や貴族がいる以上、誰であろうと余程の理由が無い限り、君をぞんざいに扱うことはできないはずだヨ」
真宮寺「空鶴さん達の関係者である君にそんなことをすれば、空鶴さん達はもちろんのこと、位の高い死神や貴族からの怒りも買ってしまうことになるのだから」
真宮寺「故に、キーボ君、君の身の安全は保証されていると言って良いヨ」
キーボ「…ですがーーー」
真宮寺「あァ、一応断っておくけど、空鶴さん達が君より先に生まれ変わっていなくなる可能性はまず無いヨ」
キーボ「…どういうことですか?」
真宮寺「あの人達は輪廻転生を免除されているからサ」
キーボ「えっ、?」
真宮寺「没落したとはいえ、かつては五大貴族だったわけだからネ」
真宮寺「瀞霊廷の貴族達も、その血筋を絶やすことは、できる限り避けたいのサ」
真宮寺「魂魄同士でも、子を成すことは可能なのだから」
キーボ「………」
アンジー「…だからー、キーボも安心して、ここにいて良いのだー!」
キーボ「…なるほど、わかりました」
キーボ(空鶴さん達には、改めて感謝しないといけませんね………)
真宮寺「ーーーちょっと話が脱線しちゃったネ。とりあえず瀞霊廷の話に戻すけど良いかな?」
キーボ「…ええ、お願いします」
真宮寺「うん、それじゃあ、瀞霊廷での生活についての話に移させて貰うネ」
真宮寺「それに関してなんだけどーーーーーーはっきり言って、生活水準は、流魂街よりも遥かに高いと言わざるを得ないかな」
キーボ「そんなに、生活水準に違いがあるんですか?」
真宮寺「文化水準に関してだったら、どちらも、平安から江戸時代並みなんだけどね…」
真宮寺「ただ、生活水準に関しては、井戸ではなく水道などが配備されていたりと、現世のものと相違ないーーーーーーいや場合によってはそれ以上の生活水準を誇っているヨ」
キーボ「そんなに…」
アンジー「………」
真宮寺「まァ、瀞霊廷は、死神と貴族の本拠地であり重要な拠点でもあるからネ」
真宮寺「故に、公共の交通機関はあっても、外敵に利用されかねない空間転移装置の設置は認められていないのだけれどーーー」
真宮寺「ーーーその代わり、セキュリティは盤石だ」
真宮寺「兵士たる死神達が居住している以上、兵力も潤沢だしーーー」
真宮寺「ーーー何より、瀞霊壁(せいれいへき)と遮魂膜(しゃこんまく)があるからネ」
キーボ「…なんですか、それらは?」
真宮寺「まず、瀞霊壁についてだけど、これは瀞霊廷を囲む壁のことだヨ」
真宮寺「普段は、空の上にある霊王宮を守っている壁なんだけど、瀞霊廷に敵が攻め込むようなことがあれば、空から降ってきて瀞霊廷を守ってくれるんだ」
キーボ「空から降ってくるって…」
アンジー「…ありえない話じゃないと思うよー?」
キーボ「…まあ、ボクらにとっては、そうでしょうがーーー」
真宮寺「また、この瀞霊壁は、殺気石(せっきせき)という霊力を遮断する鉱物で作られていて、あらゆる攻撃を受け付けない」
真宮寺「それに加えて、瀞霊壁は切断面からも波動と呼ばれる圧力が出ており、それがドーム上となって、遮魂膜と呼ばれるバリアを空地両方に形成している」
キーボ「バリア…」
真宮寺「空や地中から侵入しようとすれば、遮魂膜によって防がれてしまう」
真宮寺「だから、瀞霊廷に入るには、東西南北四つの門から入るしか無いんだけれど、そこには番人が一人ずつ存在し、敵が侵入出来ないよう立ち塞がっている」
キーボ「…ちょっと待ってください、番人はそれぞれの門に一人だけしかいなんですか?」
真宮寺「そうだネ、基本的には一人一門だヨ」
キーボ「…大丈夫なんですか、それは?」
アンジー「あー、大丈夫、大丈夫ー! 少なくとも、 “ ジダンボウ ” はすっごい強いからー!」
キーボ「…ジダンボウ? まさか、門番の名前ですか?」
真宮寺「その通り、彼は、西の門、白道門(はくとうもん)を守護する死神であり、門番なんだ」
真宮寺「そして、彼は、エグイサルの二倍以上の体躯を誇っている」
キーボ「…なっ、!? あのエグイサルの二倍!? そんな人が実在するんですか!?」
真宮寺「言ったよネ? 霊子とは自由度が高く現世じゃあり得ないような現象も起こし得る、って」
キーボ「………」
真宮寺「だから、鍛錬の結果、巨体になる人も稀に出てくるんだ」
キーボ「…そうなんですか」
真宮寺「その巨体故に、膂力も非常に高い」
真宮寺「仮に彼が生前の僕達と同じ場所にいれば、どうとでもなったかもしれないネ」
アンジー「だから、一人だけでもー、だいたい大丈夫なんだよー!」
キーボ「…なるほど、そういうことなら納得ですね」
キーボ「ーーーしかし、聞いた限りだと、瀞霊廷とは、随分と恵まれた場所なんですね」
真宮寺「………うん、確かに、その通りだネ」
アンジー「………」
キーボ「…流魂街の住民も、瀞霊廷の住民も、どちらも死者の魂でしょう? なのに、どうして、ここまで待遇に差があるのですか?」
真宮寺「…霊力ある魂魄は、物を食べる必要があるからネ。しっかりと栄養の補給ができる生活環境が必要になる」
真宮寺「それに加えて、死神になれる素質を持つ貴重な存在となれば、こうなるのも無理はないのかもしれないヨ」
真宮寺「…死神にも一応は寿命がある以上、人材確保のためにも、霊力ある魂魄を瀞霊廷で守る必要があるだろうからネ」
キーボ「…寿命って、それは具体的にどのくらいの長さなんですか?」
真宮寺「個人差はあるけど、二千年近く生きていた人もいるらしいヨ」
キーボ「そ、そんなに!?」
アンジー「………」
真宮寺「ただ、この寿命はその気になれば無限に伸ばせるとは思うけどネ」
キーボ「なっーーー」
アンジー「………………」
真宮寺「死神には様々な霊術があってネ………」
真宮寺「………中には、死んだ死神を蘇らせる霊術なんてのもあるくらいなんだ」
キーボ「…し、死者を蘇らせるってーーー」
アンジー「………………………………」
真宮寺「………死んだ死神の死体の何割かが残っていれば、蘇らせることは可能らしいヨ」
真宮寺「それを上手く用いれば、霊力ある全ての者達が、文字通り永遠を手にすることも可能なんじゃないかな?」
キーボ「………」
アンジー「………………………………」
真宮寺「だけど、倫理的な問題などがあって、未だそれはできないでいる」
キーボ「倫理、ですか」
真宮寺「…そう、倫理の壁だヨ」
アンジー「………」
真宮寺「実際、さっき話した蘇りの霊術は、行使されていた時期はあったものの、現在では禁術になっている」
キーボ「…なぜ、禁止にしたのでしょうか?」
真宮寺「………」
アンジー「………」
キーボ「一時期は行使していたのに、今更それを禁止したのは何か理由があるのでしょうか?」
真宮寺「その理由は、いろいろあるけれど、最大の理由としては、その霊術を行使する必要性が無いからだネ」
キーボ「………」
アンジー「………」
真宮寺「この霊術が開発され行使された当時は、どうしても人材を補填しなければならない事情があった。だから、緊急的に倫理は取り外され、行使が許された」
キーボ「………」
アンジー「………」
真宮寺「だけど、今ではそこまでして人材を補填する必要性は無い。だから、倫理が復活し、蘇りの行使が許されなくなった」
キーボ「…そうだったんですか」
アンジー「………」
真宮寺「…もし、尸魂界全体が実利のために、倫理を完全に廃するようになれば、蘇りの霊術は復活し、寿命は無くなるかもしれないネ」
キーボ「…逆に倫理を廃さなくても、二千年近くは生きられるわけですね」
真宮寺「…人にもよるけれどネ」
アンジー「………」
キーボ「…しかし、どうにも解せませんね」
真宮寺「…何がだい?」
キーボ「…死者の蘇りなんてことが可能ならば、別のことも出来るんじゃないですか?」
キーボ「たとえば、霊力無い人に霊力を与える、とかーーー」
真宮寺「………」
アンジー「………」
キーボ「それなら元々霊力の無い人でも瀞霊廷に住めるはずです」
キーボ「それに、霊力を与えることが、特に倫理に反するようにも思えません」
キーボ「そういったことを可能とする霊術は、存在しないのでしょうか?」
真宮寺「ーーーあると思うヨ」
キーボ「!」
アンジー「………」
真宮寺「実は、死神は人間の魂魄に対し、死神の力を譲渡することが可能らしいんだ」
キーボ「力の、譲渡…?」
真宮寺「死神の力の譲渡とは、すなわち霊力の譲渡を意味する」
真宮寺「それが可能なら、人間の魂魄に霊力を与えることは不可能ではないと思うヨ」
キーボ「だったらーーー」
真宮寺「ーーーだけど、そんなことはまず認められないだろうネ」
キーボ「ーーーそれは、どうしてですか?」
真宮寺「二つ、大きな問題があるからだヨ」
キーボ「問題…?」
真宮寺「一つ目の問題、それは、霊力ある人間は悪霊に襲われやすいということだ」
キーボ「悪霊…」
真宮寺「悪霊は自身の力を高めるために、霊力ある人間の魂魄を、その力を自らに取り込もうとする」
真宮寺「故に、霊力ある特別な魂魄は、積極的に襲われやすい傾向にある」
アンジー「………」
真宮寺「そう、霊力を与えるということは、与えられた魂魄が悪霊に危害を加えられる可能性を高めてしまうことを意味する」
真宮寺「だから、その人の安全を考慮するならば、霊力を与えることが必ずしも良いことであるとは言い切れないんだ」
キーボ「………」
真宮寺「そして、霊力を与える上での二つ目の問題だけどーーー」
真宮寺「ーーーそれは、人の輪廻転生を阻む結果を生むからだ」
キーボ「………?」
真宮寺「仮に流魂街の住民全てに霊力を与えて瀞霊廷に住まわせる…すなわち輪廻転生から脱却することを許可したらどうなると思う?」
キーボ「どうなるってーーー」
真宮寺「そうして、誰もが瀞霊廷に住むことを選んで、生まれ変わりをしなければ、現世はどうなるだろうネ?」
キーボ「…あっーーー」
真宮寺「そうなれば、現世で生命が生まれなくなる」
真宮寺「現世は、生命一つ無き、死の世界になるだろう」
キーボ「死の、世界…」
アンジー「………」
真宮寺「いや、その前に現世の魂魄が少なくなって、世界のバランスが崩れることになるかな」
キーボ「世界のバランス、ですか?」
真宮寺「世界とは、天秤のようなものでネ」
真宮寺「尸魂界と現世に存在する魂魄の数が、それぞれ適した量でなくなれば、天秤のようにバランスが崩れるんだ」
真宮寺「そうしてバランスが完全に崩れたが最後、現世と尸魂界を隔てる次元の壁が破壊され、最終的には両者が混じり合ってしまう」
キーボ「………」
アンジー「………」
真宮寺「…生と死の交わる混沌、どんな混乱と被害が起きるか想像もつかない」
真宮寺「それだけは、絶対に避けなければならない」
真宮寺「そういった問題がある以上、人間の魂魄に霊力を与える行為は、まず認められないだろうネ」
真宮寺「事実、僕が言った理由もあって、死神の力の譲渡は固く禁じられているんだヨ」
キーボ「………」
アンジー「………」
真宮寺「ーーーとまァ、以上が尸魂界の基本的な説明になるわけだけど、何か質問はあるかい?」
キーボ「ーーーそれでしたら、二つ、訊いても良いですか?」
真宮寺「ーーー何かな?」
キーボ「まず、一つ目ですがーーー」
キーボ「ーーー生まれ変わりは大体どのくらいまで待つことになりますか?」
アンジー「………」
真宮寺「………」
キーボ「ここに来たら、すぐに生まれ変わるということもあるのでしょうか?」
キーボ「その辺り、とても気になるのですがーーー」
真宮寺「ーーー転生に関しては、大体、六十年くらいを目安にしているしているようだヨ」
キーボ「六十年…ならば、ボク達はまだ大丈夫ですね」
真宮寺「…そうとも限らないヨ」
キーボ「…えっ?」
真宮寺「確かに普通に考えれば、尸魂界に来たばかりの僕達は、転生までの間、充分に時間は残されていることになる」
真宮寺「だけど、それは特に異常がなかった場合の話サ」
キーボ「異常…」
真宮寺「例えば、地球の人口が急激に増えるとなれば、必然的に生まれてくる人間の数も増える」
真宮寺「そうなると、現世に大量の魂魄を送る必要があるため、転生すべき魂魄は増えるだろうネ」
真宮寺「そうしたことが繰り返された場合、僕達が転生する順は繰り上がることになるはずだヨ」
キーボ「…なるほど、確かにそうですね」
アンジー「………」
キーボ「…それでは、二つ目の質問ですがーーー」
真宮寺「………」
キーボ「ーーーロボットのボクでも生まれ変わりは行われるんですか?」
アンジー「………」
真宮寺「…おそらくはそうなると思うヨ?」
キーボ「!」
アンジー「………」
真宮寺「転生の際は、輪廻の輪を通過し、そこで精神など魂魄に定着した情報を完全に消去した上で、霊子レベルまで分解される」
真宮寺「その後、まっさらな魂魄として再構築され、現世の生命として生まれ変わることになるんだ」
キーボ「………」
アンジー「………」
真宮寺「浦原さんが言うには、精神を消去した上で霊子レベルまで分解された場合、もう以前の形を保つことは不可能だそうだ」
真宮寺「だとすれば、君が輪廻の輪を通過した場合であっても、鉄でも何でもない、普通の真っさらな魂魄になるはずだヨ」
キーボ「…なるほど、お答え頂きありがとうございました」
真宮寺「ーーーうん、もう夕飯の時間がかなり近づいていることだしーーーーーー以上で今日の分の説明を終了させて貰うヨ」
真宮寺「…聴いてくれて、ありがとう。キーボ君、夜長さん」
キーボ「いえ、こちらこそ、ありがとうございます、真宮寺クン」
アンジー「そうだねー、今回もすごかったよー! 楽しかったー! にゃははー!」
アンジー「…また、いっしょに聴こうねー! キーボ!」ダキッ
キーボ「はい! そうですね、アンジーさん!」
アンジー「………」ギュッ
真宮寺「………」
………………………………………………………………
ー(翌日)鰤清劇場・2日目ー
真宮寺「ーーー今日は、死神の仕事と彼らの持つ力についての説明をさせて貰うヨ」
真宮寺「まァ、昨日と一昨日にも多少は説明したけれど、そこまで詳しく説明したわけでは無いからネ」
真宮寺「改めて聞くことで、きっと気になることも出てくると思う」
真宮寺「その説明のためにも、ここで、改めて話させて貰うヨ」
キーボ「…わかりました。お願いします」
アンジー「………」
真宮寺「それじゃあ、まずは確認のために、死神の仕事の基本から説明するネ」
真宮寺「…死神の仕事、それは今の世界の形と秩序を守ることだ」
真宮寺「尸魂界が国だとすれば、死神はそこの兵士」
真宮寺「尸魂界の住民による犯罪を取り締まって治安を維持したり、悪霊などといった霊的な敵から魂魄を守り通す存在だ」
真宮寺「また、そうして守り通した魂魄を、輪廻転生によって循環させ、尸魂界と現世の魂魄の量を均等にする存在でもある」
真宮寺「それを怠れば、世界のバランスが崩れ、尸魂界と現世が混じり合ってしまうからネ」
真宮寺「ここまでが基本事項ではあるけれど、何か気になったことはあるかな?」
キーボ「…あります」
真宮寺「何かな? なんでも構わないヨ」
キーボ「…もし、現世で人口爆発が起きた場合はどうやって二つの世界の魂魄を均等にするつもりなんでしょうか?」
アンジー「…あー、それは確かに、気になるねー」
キーボ「ええ、そうなってしまえば、現世で多くの命が産まれることになります」
キーボ「そして、そのためには、尸魂界から現世の妊婦のもとへと多数の魂魄を送らざるを得なくなり、世界のバランスが崩れてしまうはずです」
キーボ「いったい、どうやってーーー」
真宮寺「ーーーその場合は、現世とは異なる別の世界から尸魂界に魂魄を送り、バランスを保つことになるネ」
キーボ「別の世界?」
真宮寺「実は、尸魂界と現世の他にも、虚圏(ウェコムンド)と呼ばれる、悪霊達が住まう別世界があってネ」
真宮寺「その悪霊達を、特殊な霊術をもって誘き出し、無害な魂魄に昇華した上で尸魂界に送ってあげるのサ」
真宮寺「そうやって、尸魂界から消えた魂魄と同じ数の魂魄が、尸魂界に送られてくる仕組みとなっているヨ」
キーボ「…なるほど、そういうことでしたか…」
アンジー「…でも、逆に現世の人間の数が減ったらどうするんだろうねー?」
キーボ「あっ、確かに、それも気になりますね…」
アンジー「でしょでしょー?」
真宮寺「…その場合は、流魂街に住む一定数の魂魄達が、輪廻の輪を通ることになるネ」
キーボ「? 輪廻の輪?」
キーボ「ちょっと待ってください、輪廻の輪というのを通って現世の人間に生まれ変わろうにも、その現世の人間の数が少なければ、生まれ変われる数も限られてくるはずです」
キーボ「それでは、結局のところ、尸魂界に魂魄が残ってしまうのでは?
真宮寺「その辺りは大丈夫。輪廻の輪の中にある魂魄は、別次元にある状態、すなわち現世にも尸魂界にも存在しない状態になるからネ」
キーボ「…そうなんですか?」
真宮寺「そうなんだヨ、だから現世の人間の数が減少した場合、流魂街の住人は大勢で輪廻の輪を通り、まっさらな魂魄の状態になったあと、別次元で生まれ変わりを待ち続けることになる」
アンジー「………」
真宮寺「そうして、魂魄のバランスを保つのサ」
キーボ「なるほど…」
真宮寺「…逆に現世の人間が増加すれば、それだけ生まれ変わり先が多くなり、別次元で生まれ変わりを待つ魂魄も減少するだろうネ」
アンジー「…教えてくれてありがとねー、是清! すごい、ためになったよー!」
キーボ「ボクからもお礼を言わせてください、ありがとうございます、真宮寺クン」
真宮寺「…どういたしまして、だヨ…」
真宮寺「ーーーそれで、他に気になったことはあるかい? あるなら答えるけど」
キーボ「ーーーそれでは、一つ」
アンジー「?」
真宮寺「…何かな?」
キーボ「死神は、悪霊発生の原因を断つことはしないんですか?」
アンジー「??」
真宮寺「…どういうことだい?」
キーボ「…それを言う前に確認しておきたいのですが、キミのいう悪霊とは、【その魂魄が生前に受けた】【理不尽な仕打ち】によって生まれるものですよね?」
キーボ「そう、理不尽な仕打ちが、悪霊発生の “ 条件 ” に組み込まれている」
キーボ「違い、ますか?」
真宮寺「………そうだネ」
真宮寺「………ひょっとしたら他にも “ 条件 ” があるのかもしれないけど、死神が言うには、【悪霊発生の原因は】【生前に受けた理不尽な仕打ちが根幹にある】とのことだった」
真宮寺「それは確かな事実だヨ」
キーボ「…お答え頂き、ありがとうございます」
キーボ「ただ、もし、キミの言う通りならば、悪霊発生の原因は明確に存在していることになります」
キーボ「ならば、その原因そのものを断つことはしないんですか?」
真宮寺「…あァ、そういうことかい」
アンジー「…なるほどねー」
キーボ「ーーー具体的には、戦争や災害みたいなそれだけで理不尽に死者が発生するような何かを止めたりだとかーーー」
真宮寺「それは、無いネ」
キーボ「………」
アンジー「………」
真宮寺「現世の問題は可能な限り現世で処理して貰うというのが、死神達の考え方なんだヨ」
キーボ「…そうなんですか」
真宮寺「そう、だから現世がどうなろうと、それこそ戦争や災害が起ころうと、魂魄のバランスに致命的な影響を与えない限り、死神が関与することは無い」
真宮寺「というか、そうでも無ければ、現世は今ごろ死神によって支配されてしまっているヨ」
真宮寺「現世に敬意を払うが故に、現世の問題は、可能な限り、現世で処理して貰うことになっているのサ」
キーボ「…なるほど、よくわかりました」
アンジー「………」
真宮寺「ーーー以上で、死神の仕事の説明を終えようと思うけど、他に質問はあるかい?」
キーボ「…いえ、ボクは特にありません」
アンジー「…アンジーも無いよー」
真宮寺「それじゃあ、死神の仕事に関する説明はこの辺りにしてーーーーーー今度は、死神の持つ力に関する説明をするヨ」
キーボ「力…」
アンジー「………………」
真宮寺「死神の能力は、斬拳走鬼(ざんけんそうき)と言って、主に四種類に分類される」
真宮寺「まずは、斬拳走鬼の斬、斬魄刀(ざんぱくとう)についての話をするヨ」
キーボ「ザンパクトウ…?」
真宮寺「………簡単に言えば、刀だネ」
キーボ「………刀、ですか」
アンジー「………」
真宮寺「…ただの刀じゃあ無いヨ? その刀には迷える魂を死後の世界に送ったり、悪霊を無害な魂魄に昇華する力がある」
キーボ「…なっ、刀でそれをしていたというんですか!?」
真宮寺「それを可能とするのが斬魄刀なのサ」
キーボ「………」
真宮寺「ーーーだけど、斬魄刀の機能は、決してそれだけじゃないんだヨ」
キーボ「どういうことですか?」
真宮寺「斬魄刀には、固有の能力があるのサ」
キーボ「…はい?」
真宮寺「例えば、普通の刀から大鎌のような形状に変形したりーーー」
真宮寺「ーーー炎を生み出したり、氷を生み出したりと、その刀しか持たない特別な能力があるってことサ」
キーボ「…変形したり、炎や氷を生み出せるくらいでは驚きません。刀で魂をどうこう出来るのなら、そのくらいは可能でしょう」
キーボ「…しかし、何故そんな能力が必要なんですか? ザンパクトウは魂を死後の世界に送り届けるためのものではないのですか?」
真宮寺「…死神は悪霊と戦う必要があるんだヨ?」
キーボ「………」
真宮寺「悪霊の中には、強大な霊力を持つ者だっている」
真宮寺「故に、固有能力があった方が都合が良いんだ」
キーボ「…まあ、それはそうでしょうが」
真宮寺「だから、斬魄刀には固有能力がある。相手がどんなに強力な悪霊であっても、勝てるようにネ」
キーボ「………」
アンジー「………」
真宮寺「まァ、固有能力に目覚めてる斬魄刀は、全体から見ればかなり少ないんだけどネ」
キーボ「少ないんですか?」
真宮寺「そうだヨ」
真宮寺「固有能力に目覚めさせるためには、斬魄刀の名前を知る必要があるからネ」
キーボ「名前?」
真宮寺「そう、斬魄刀には、刀一振りごとに固有の名前がある」
真宮寺「なお、その名前は二段階に分かれていてネ」
真宮寺「一段階目は、 “ 始解 ” と呼ばれる基本的な名前、二段階目は、 “ 卍解 ” と呼ばれる真の名前だ」
真宮寺「そうした名前を知ることによって、その段階に応じた固有能力を引き出せるようになるのサ」
キーボ「………」
真宮寺「ただし、斬魄刀は、はじめは “ 浅打 ” と呼ばれる、魂魄を昇華して死後の世界に転送する以外は何の能力も持たない刀の状態になっているため、いきなり名前を知ることはできない」
真宮寺「だけど、持ち主である死神が、浅打と寝食を共にし、錬磨を重ねることによって、浅打は持ち主の心を参考に、己が持つべきと判断した自我と固有能力を形作る」
キーボ「………………」
真宮寺「その自我と固有能力を現すものこそが斬魄刀の名前であり、そうした斬魄刀と “ 対話と同調 ” などを試みてーーー」
真宮寺「ーーーすなわち、コミュニケーションを試みて、斬魄刀から名前を教えて貰うことによって、死神は斬魄刀の固有能力を扱えるようになるんだヨ」
キーボ「………」
アンジー「…どうしたー、キーボ?」
真宮寺「…どうかしたのかい? もし、わかりづらい部分があったのならーーー」
キーボ「いえ、似てるなって思いまして」
真宮寺「ーーー似てる?」
キーボ「ええ、ボクと」
アンジー「………」
真宮寺「…まさか、斬魄刀がかい?」
キーボ「…そうは思いませんか?」
キーボ「鉄の身体を持ち、人を観察して自己学習を繰り返す。そうして、なりたい自己を選択し、形成する人工知能…」
キーボ「まさに、ロボット…ボクそのものじゃないですか」
アンジー「………あー、なるほどー! たしかに似てるかもねー!」
キーボ「でしょう?」
キーボ「もちろん、ザンパクトウがただの凶器であるならばこんなことは思わなかったかもしれませんがーーーーーー聞いた限りでは、斬魄刀とは、一概に凶器とは呼べないものです」
キーボ「ならば、ボクはそれをーーー」
真宮寺「………………ク、クク」
キーボ「ーーーえ?」
真宮寺「ク、クク…ククク…!」
アンジー「…どうしたー? 是清ー?」
真宮寺「クククッ…ククククククッ…クククッッ、!!!」
キーボ「…真宮寺クン? どうかしてーーー」
真宮寺「ーーーあァ、そうだヨ! 君の言う通りだヨ! キーボ君!」
キーボ「!?」
真宮寺「確かに、確かに似ているヨ!」
真宮寺「君と斬魄刀は!」
キーボ「えっ、あの、その………」
アンジー「…あららー、是清、何かスイッチ入っちゃったみたいだねー」
真宮寺「ククク…まさか、そのことに君自らが気づくとはネ…!」
真宮寺「心ある者は、如何なる存在であろうと、進化を遂げることができる!」
真宮寺「その実例が、いま、目の前に、存在している!」
真宮寺「あァ、僕はいま、満たされている…!」
キーボ「…ボクが成長するロボットであると、認めてくれたことには感謝しましょう」
キーボ「ですが、そういったタイプの喜び方は、あまりして欲しく無いですね」
真宮寺「ククク…ごめんヨ。ちょっとエキサイトし過ぎたネ。もうしないヨ」
キーボ「………」
真宮寺「ーーーだけど、今の君なら気づけるんじゃないかな?」
キーボ「ーーー何をですか?」
真宮寺「…君や斬魄刀に心を与えられた、その理由を、ネ」
真宮寺「………斬魄刀もそうだけど、『物』というのは、その役目を果たすだけならば、心なんて必要が無いんだヨ」
真宮寺「なのに、どうして、心が与えられたのか?」
真宮寺「今の君なら気づけるはずだヨ?」
キーボ(…ボクや斬魄刀に心が与えられた理由?)
アンジー「………」
キーボ(…まさか、それってーーーー)
キーボ「ーーー側にいる人に、 “ 希望を与えるため ” 、ですか?」
真宮寺「ーーーその通りだヨ」
キーボ「!」
真宮寺「正解、大正解だヨ」
キーボ「………」
アンジー「………………」
真宮寺「『想い』を分かち合い、分かり合えるのは、心があるからだ」
真宮寺「心があるからこそ、その『想い』が他者に伝わる」
真宮寺「希望だって、伝染させられる」
真宮寺「そうして、人が絶望に心を折られないよう、必死になって働きかける」
真宮寺「そのために、君や斬魄刀は、心を与えられた」
真宮寺「少なくとも、僕は、そう思っているヨ」
真宮寺「…まァ、それが本当に正解であるかどうかは、君や斬魄刀の開発者と話をしてみないとわからないことだけどネ」
キーボ「………」
アンジー「………」
真宮寺「ただ、もし本当にそうだった場合、どこまで似ているか気になるところではあるネ?」
キーボ「どこまで似ているか…?」
真宮寺「ーーー斬魄刀には、生涯、従うべき主がいる」
キーボ「!?」
アンジー「………………」
真宮寺「キーボ君には、従うべき主がいるのかな?」
キーボ「………」
アンジー「………」
真宮寺「その答えこそがーーーー」
キーボ「ーーーいません」
真宮寺「………」
アンジー「………」
キーボ「ーーーボクは、存在している以上、開発者はいます」
キーボ「ですが、ボクに主なんて、いません」
キーボ「だれ、一人として………」
真宮寺「…そうかい」
キーボ「………」
アンジー「………」
真宮寺「なら、この話は、ここまでにしておくとするヨ…」
真宮寺「ーーーさて、次は、斬拳走鬼の拳、白打(はくだ)についての話に移させて貰うネ」
キーボ「………」
真宮寺「ちなみに白打というのは、死神特有の格闘術のことだヨ」
キーボ「…茶柱さんのネオ合気道みたいものですか?」
真宮寺「…僕は、彼女のネオ合気道についてそこまで詳しく知っているわけじゃないから、そこは何とも言えないネ」
アンジー「………」
真宮寺「ただ、彼女も白打という格闘術には興味があるみたいでネ。死神となる道の上で一通り修得するつもりらしいヨ」
キーボ「…茶柱さんが興味を惹くとはーーーーーーそんなに、すごい技があるんでしょうか?」
真宮寺「そうだネ、確かにすごい技がいくつもあるヨ」
キーボ「具体的には、どんな技があるんですか?」
真宮寺「ーーー僕が、もっとも目を引いたのが、 “ 千里通天掌 ” だネ」
キーボ「………せんりつうてんしょう…?」
真宮寺「この技は、その名の通り、手の平による張り手とそれが纏う “ 気 ” によって、人を千里先まで飛ばす技なのサ」
キーボ「………せ、千里先!?」
キーボ「4000キロメートル近くもですか!?」
真宮寺「そうだネ」
キーボ「…そんな技までーーー」
真宮寺「ただ、この技は修得が限りなく難しいようでネ。修得できるかどうかは茶柱さん次第かな」
アンジー「…転子なら大丈夫だと思うよー?
キーボ「…アンジーさん?」
アンジー「主はきっと言いました…転子はすごい子だと………」
アンジー「そんなすごい転子は、守りたい女の子のためなら、どんなことだって成し遂げられると」
キーボ「…そうですね、アンジーさんの言う通りです」
キーボ「茶柱さんなら、きっと大丈夫です! どんな技だって修得できますよ!」
アンジー「………」
真宮寺「………」
真宮寺「ーーー次は、斬拳走鬼の走、歩法についての説明をさせて貰うヨ」
キーボ「歩き方まで…」
真宮寺「死神の歩法には、代表的なものとして、瞬歩(しゅんぽ)が挙げられる」
キーボ「…シュンポ?」
真宮寺「その名の通り、瞬間移動したかのようにハイスピードな移動術のことサ」
キーボ「…瞬間移動、ゴン太クンならマスターできそうですね」
アンジー「………にゃははー! ゴン太なら、それで体当たりしただけで、悪霊退散できそうだよねー!」
キーボ「…確かに、ゴン太クンの身体は、鉄製のボクも驚愕せざるを得ないくらいには頑強ですからね」
キーボ「あの身体で突進されたら、大概の相手はただでは済まないでしょう」
真宮寺「そういった意味では、迂闊に瞬間移動して味方に体当たりしてしまうと大変なことになる、諸刃の剣とも言えるわけだけどーーー」
真宮寺「ーーー彼は小さな虫が傷つかないように、細心の注意を払える人だ。それを思えば、味方に体当たりしないよう、注意を払うことだって可能だろうネ」
キーボ「…ええ、ゴン太クンならば、きっと大丈夫でしょう」
真宮寺「ーーーさて、それじゃあ劇場の締め括りに、斬拳走鬼の鬼、鬼道(きどう)についての説明に移させて貰うヨ」
キーボ「キドウ、ですか」
真宮寺「鬼道とは、わかりやすく言うなら、魔法みたいなものだヨ」
キーボ「………魔法?」
真宮寺「手を伸ばしてから “ 詠唱 ” …すなわち呪文を唱えた後に、その言霊(コトダマ)に対応した霊術が手の平から発動される」
真宮寺「そうして、言霊を超常的な力に変換しているんだ」
真宮寺「まさに魔法と呼ぶに相応しい力だヨ」
キーボ「…夢野さんが積極的に習いそうな技なんですね」
アンジー「うーん、それはどうだろうねー?」
キーボ「? どういうことですか?」
アンジー「ちょっとねー、技の名前やコトダマの感じが秘密子と合わない気がするんだー」
キーボ「感じ…?」
真宮寺「鬼道とは、技名や言霊の内容が和風気味でネ。夢野さんみたいな、西洋の魔法使いを参考にしている人に合うかは微妙なところだヨ」
キーボ「なるほど、それならば夢野さんに合うかは判断しかねますね」
真宮寺「むしろ、夢野さんなら “ 西 ” のーーー」
キーボ「西?」
真宮寺「ーーーあァ、いや、なんでもないヨ。気にしないで」
キーボ「気にしないで、ってーーー」
真宮寺「ーーーいや、話しても良いヨ? ただ、ちょっと話が脱線するし、長くなるからネ。とりあえず今は気にしないで貰えると助かるヨ」
キーボ「ーーーわかりました。それでは、今は気にしないようにしましょう」
キーボ「ーーーところで、呪文って具体的にどういったものがあるんですか?」
キーボ「とても興味があるのですが」
真宮寺「…僕が気に入った技とその詠唱は、書き留めてあるから、それを見てくれれば良いヨ」スッ
キーボ「ありがとうございます、それではさっそくーーー」パラパラパラッ…
キーボ「ーーー【滲み出す混濁の紋章】」
真宮寺「ーーーえっ、?」
アンジー「………」
キーボ「【不遜なる狂気の器】」
真宮寺「ちょっと、キーボ君」
キーボ「【湧き上がり】【否定し】【痺れ】【瞬き】【眠りを妨げる】」
アンジー「…あのねー、キーボ、その技はねー」
キーボ「【爬行する鉄の王女】【絶えず自壊する泥の人形】」
キーボ「【結合せよ】【反発せよ】」
キーボ「【地に満ち】【己の無力を知れ】!!」
キーボ「破道の九十、【黒棺】!!!!」
シーン………
キーボ「ーーーって、何も起こらないじゃないですか!」
アンジー「…キーボはしにがみじゃないからねー」
キーボ「えっ、?」
真宮寺「…これは死神の技だヨ?」
真宮寺「死神の霊圧を持たなければ発動は出来ない」
真宮寺「死神でない者が詠唱をしたところで、ただの言葉の羅列にしかならないヨ」
キーボ「そ、そうだったんですか…」
アンジー「…というか、もし、本当にすごい力が出たらどうするつもりだったのー?」
キーボ「あっーーー」
アンジー「アンジーたち、巻き込まれたかもよー?」
キーボ「す、すいません! アンジーさん! 真宮寺クン!」
キーボ「あの呪文を見たら、どういうわけか口にしたい気持ちが溢れてつい………本当にすいません!」
アンジー「ーーーうんうん、ちゃんと謝れて偉いねー! アンジーは許すよー!」
真宮寺「…まァ、中々に神秘的な言葉だからネ。魅了される気持ちはよくわかるヨ」
真宮寺「とりあえず、これからは気をつけてネ?」
真宮寺「今回は何とも無かったから良いけど、不用意な言葉は人を悲しませる結果を生むこともあるからサ…」
キーボ「………はい! 本当にすいませんでした! アンジーさん、真宮寺クン…!」
真宮寺「………鬼道の説明に話を戻すけど、鬼道は番号が大きくなるほど扱うのが難しい」
真宮寺「だから、さっきのような九十番台の鬼道を扱える人は、死神の中でも比較的少数になるだろうネ」
キーボ「………」
真宮寺「ちなみにさっきキーボ君が言ったのは “ 破道 ” と言って、攻撃に使う鬼道」
真宮寺「他にも攻撃の補助などに使うための “ 縛道 ” 、回復のための “ 回道 ” などが存在しているヨ」
キーボ「…勉強になります」
真宮寺「他の鬼道、特に縛道に関しては、詳しく説明をしたいところだけどーーー」
アンジー「ーーー是清ー? そろそろーーー」
真宮寺「ーーーわかっているヨ。夕飯までの時間も押しているし、死神の仕事と彼らが持つ力に関する説明も一通り終わった」
真宮寺「今日は、ここまで、ご静聴感謝するヨ」
キーボ「…わかりました、今日も、ありがとうございます、真宮寺クン!」
アンジー「…アンジーも楽しかったよー!」
真宮寺「………ありがとう」
………………………………………………………………
続き
キーボ 「砕かれた先にある世界」(中)