<アパート>
チンピラ「ただいまー!」
子分「兄貴、お帰りっす」カチカチッ
チンピラ「なにやってんだお前?」
子分「TVゲームっすよ。知らないんすか? 今これ、メチャクチャ流行ってるんすよ!」カチカチッ
子分「今はステージ4の海まで来たんす! 兄貴もどうです?」
チンピラ「やらねえよ。俺はこれから商売すんだから」ドッサリ
子分「うわっ、消火器じゃないすか! それもこんなたくさん!」
チンピラ「弱み握ってる消火器メーカーの奴から、格安で買い叩いてきたのさ」
元スレ
チンピラ「ババアに消火器を10万円で売りつけようぜ!」子分「ボロ儲けっすね!」
http://viper.2ch.sc/test/read.cgi/news4vip/1546254604/
子分「だけどこんなに消火器集めてどうすんすか? 松岡修造と戦うんすか?」
チンピラ「ちっげーよ、ジジババに売りつけんだよ。10万くらいで」
子分「こんなもん買いますかねえ?」
チンピラ「ジジイとかババアって、消防法がどうとか脅せば、すぐ金払うらしいぜ。ボケてっから」
子分「マジすか!? マジならボロ儲けっすね!」
子分「でも、もし買わなかったら?」
チンピラ「そんときゃ、ちょっと殴ってでも買わすんだよ」
子分「うひょ~! 兄貴、ワルっすねえ! ウシジマ君出れそう!」
チンピラ「だろ!? だろぉ!?」
チンピラ「そういや俺、近所で一人暮らししてるババア知ってんだ。さっそく売りつけに行くぞ!」
子分「はいっす!」
<老婆の家>
老婆「おやおや、若いお二人がなんの用だい?」
チンピラ「あのさぁ、おばあちゃん、この家……消火器ってある?」
老婆「消火器? ないけどねえ……」
チンピラ「えええっ、そりゃまずいよ!」
チンピラ「今は消防法でね、一家に一本、消火器を置くことが義務付けられてるんだ!」
老婆「そうなのかい?」
子分「このままじゃ、おばあちゃん、逮捕されるっすよ!」
老婆「逮捕はイヤだねえ……」
チンピラ「だけど、これを買えばもう安心!」
チンピラ「おばあちゃんが逮捕されることはなくなるよ!」
老婆「本当かい? いくらなのかねえ?」
チンピラ「10万円なんだけど……」
老婆「それぐらいなら払えるねえ。ちょっと待ってておくれ」
老婆「これでいいかい?」
チンピラ「毎度ありぃ!」
チンピラ「やったなオイ!」
子分「やったっすね!」
チンピラ「ほれ、お前にも少しやるよ」
子分「あざっす!」
チンピラ「これで軍資金ができた……さっそく『山物語』でも打ちに行くか」
子分「兄貴も好きっすねえ」
ウーウー… ウーウー… カンカンカン…
チンピラ「……ん?」
子分「消防車っすね。最近多いっすねー」
チンピラ「おい、親指隠せ!」サッ
子分「へ? 親指を隠すのは霊柩車じゃなかったっすか?」
チンピラ「うるせえな、いいから隠せったら!」
子分「なんなんすか、もう……」
<アパート>
子分「このっ、このっ!」カチカチッ
子分「やった、ついにステージ5のゴミ山まで来たっすよ!」
チンピラ「海の次がゴミ山ってどういうステージ構成だよ……」
チンピラ「ところでさ、金貸してくんね?」
子分「俺が貸せるほど持ってるわけねえでしょう。てか、消火器売った金はどうしたんすか?」
チンピラ「あんなもん、とっくにスッちまったよ」
子分「だからパチなんてやるもんじゃねえんすよ。あんなの負けるようになってんだから」
チンピラ「しゃーねーな……またあのババアに売りつけに行くぞ」
<老婆の家>
老婆「消火器ならこの間買ったけどねえ……」
チンピラ「いや、実は消防法が改正されてね……一家に二本が義務化されたんだ」
子分「そうそう! 改正しやがったんすよ! 国の……ほら、消防省ってやつが!」
老婆「そうなのかい? 知らなかったよ」
チンピラ「おばあちゃんが逮捕されたら……俺、悲しいなぁ」
老婆「分かったよ、買わせておくれ。10万円でいいんだろう?」
チンピラ「毎度あり~!」
チンピラ「うへへへ……やったぜ。こりゃあと何回かはいけるな」
子分「兄貴、さすがに俺、ちょっと罪悪感が……」
チンピラ「バーカ、いいんだよ。あんな老い先短いババア、金貯め込んでてもしょうがねえだろ」
会社員「…………」スパー…
チンピラ「ん」
会社員「…………」ポイッ
チンピラ「おいてめえ! タバコポイ捨てしてんじゃねえぞ!」
会社員「ひっ、す、すみません!」
チンピラ「ったくクソが……!」
子分「詐欺はやるけど、タバコのポイ捨ては許さないんすね、兄貴」
<アパート>
子分「この寺ステージを越えれば、いよいよステージ7っす!」カチカチッ
チンピラ「まだクリアしてねえのかよ」
チンピラ「さぁて、またあのババアに消火器売りつけに行くか」
子分「もう金なくなったんすか?」
チンピラ「いんや、むしろ久々に大勝ちしたから、懐はかなり温かいんだがよ」
チンピラ「ここらでン十万するいいジャケットでも買おうかな~と思ってよ」
子分「でも俺、あのばあちゃん騙すのもう気が引けるっすよ……」
チンピラ「別にあのババアの身ぐるみ剥がそうってわけじゃねえんだ。剥がしたくもねえし」
チンピラ「罪悪感なんて感じる必要ねえよ! さ、行くぜ!」
子分「へい……」
<老婆の家>
チンピラ「っつうわけで、今時の火災は、消火器三本くらいないと消しきれないんだよ!」
チンピラ「今の油は進歩してるからさぁ~」
老婆「へぇ~、そうなのかい」
子分「…………」
チンピラ「今は火事も多いしさ、消火器はいくらあっても困らないんだよ!」
老婆「たしかに……」
老婆「今もあそこで火事が起きてるしねえ」
チンピラ「へ?」
メラメラ… メラメラ…
チンピラ「わーっ!?」
子分「外のゴミ捨て場が燃えてるっす!」
老婆「ほらね?」
チンピラ「ちっ、行くぜ!」バッ
子分「うおっ、兄貴はえーっ!」
老婆「あたしも行こうかね」ダッ
子分「ばあちゃんもはええ!」
タタタタタッ…
チンピラ「消えろぉ!」
ブシュゥゥゥゥゥゥゥ…
老婆「使い方はこうかねえ?」
ブシュゥゥゥゥゥゥゥ…
子分「あれ? あれれ? どうやって白いの出すんすか!?」グッグッ
チンピラ「黄色いピンを外すんだよ!」
子分「あ、これっすね!」サッ
ブシュゥゥゥゥゥゥゥ…
チンピラ「ふぅ~……消えた……」
子分「消火器なかったらヤバかったっすね……」
老婆「あんたがいなきゃ、きっと大火事になってたよ。ありがとうねえ」
子分「ホントっすよ! 兄貴の行動の迷いのなかったこと!」
チンピラ「…………」
チンピラ「ばあちゃん……」
老婆「なんだい?」
チンピラ「これ……20万返す」サッ
老婆「なにいってんだい? 返す必要なんて……」
チンピラ「消火器が10万もするわけねえだろう! あんた、俺に騙されたんだよ!」
老婆「…………」
子分「どうしたんすか、兄貴? いきなり……」
老婆「なにか……嫌なことを思い出しちゃったのかい?」
チンピラ「ああ……思い出しちまった」
チンピラ「そういや子分、お前の将来の夢ってなんだった?」
子分「そうっすねえ……バスの運転手、だったかな?」
チンピラ「ハハ、おめえの運転するバスには乗りたくねえな」
子分「へへへ、俺もっす……ってひでえっすよ、兄貴!」
チンピラ「俺の夢はな……消防士だったんだ」
子分「へえ~、そうだったんすか! 王道っすね!」
チンピラ「親父が消防士でな……かっこよかったんだ。俺の憧れだった」
子分「親父さんがねえ……たまには会いに行った方がいいんじゃないすか?」
チンピラ「残念ながら、もう会えるところにはいねえんだ」
子分「え……」
チンピラ「結構でかいビル火災の時、逃げ遅れた人助けるために……焼け死んじまった」
子分「…………」
老婆「…………」
チンピラ「だが、俺はそんな親父を誇りに思った。かっこいいって思った」
チンピラ「だけど世間からは――」
『訓練不足だから死んでしまったのでしょう』
『自分の命を守れない人間が何を守れるんだよ』
チンピラ「結構バッシング喰らったりしたんだ」
子分「マジっすか……」
チンピラ「その一方で――」
『炎に消えた現代の聖人だ!』
『美談としてテレビで取り上げさせて下さい!』
チンピラ「なにが現代の聖人だよ、美談だよ」
チンピラ「親父はやるべきことをやって死んだ、立派だった。それだけなのに……」
チンピラ「みんなよってたかって親父をオモチャにしやがる」
チンピラ「思えばあれからだ。色んなことがバカらしくなってグレちまったのは……」
チンピラ「グレただけならまだしも、とうとう消火器で詐欺かますくらいになっちまった」
チンピラ「親父はこんな俺を見て、きっとガッカリしてるだろうな」
子分「兄貴……」
老婆「そんなに自分を責めるもんじゃないよ」
老婆「あんたはあたしを騙したかもしれない。だけどちゃんとお金を返してくれたじゃないか」
チンピラ「ばあちゃん……」
老婆「それにあんたはまだ若いんだ。まだまだやり直せる」
子分「ばあちゃんも若い頃があったはずっすもんね」
チンピラ「当たり前だろ」
老婆「あたしの若い頃は、白い服がよく似合う女の子だったよ」
チンピラ(白い服、ワンピースかなんかか?)
子分(うーん、想像できないっす……)
老婆「ところで、このゴミ捨て場、なんで燃えたんだろうねえ?」
チンピラ「どうせ、どっかのバカがスプレー缶かなんか捨てて……」
チンピラ「…………」
子分「どうしたんすか?」
チンピラ「これは……放火だ」
子分「え!?」
子分「放火って……マジっすか? そんな簡単に分かるもんなんすか?」
チンピラ「ああ、分かる」
チンピラ「あんまり燃えると、現場検証も難しくなっちまうんだが、これはボヤで済んだからな」
チンピラ「間違いねえ……放火だ、これは」
子分「そういや、このところ消防車がやたら出動してるのも……」
チンピラ「ああ……放火によるもの、なのかもしれねえな」
チンピラ「だとしたらまたやるぜ、こいつは……」
チンピラ「親父が教えてくれたことがある」
チンピラ「放火ってのは“自分に都合の悪いものを燃やしたくて”やる奴と」
チンピラ「“火で何かを燃やすのが楽しくて”やる奴がいるらしいが――」
チンピラ「こいつはどう考えても後者だ。放火を楽しんでやがる」
子分「やべえ野郎っすね……」
チンピラ「……よし、決めた!」
チンピラ「子分、俺はこの放火魔を捕まえる!」
チンピラ「捕まえて、人生やり直すとまではいかねえが、俺だって少しはやるんだぜってとこを」
チンピラ「親父に見せてやりてえんだ!」
子分「もちろん、俺もやるっす!」
チンピラ「ありがとよ」
老婆「だったらあたしも協力しようかねえ」
チンピラ「えっ、ばあちゃんは危ねえよ!」
老婆「なぁに、なにも放火魔とやり合うつもりはないし、あんたらの手伝いくらいならあたしにもできるさ」
チンピラ「だったら……よろしく頼むぜ、ばあちゃん」
子分「そうと決まれば、何をすればいいんすか?」
チンピラ「とりあえず、この三人で手分けして夜中にでも町内を見回りすることになるな」
チンピラ「もちろん、消火器を持ってな」ニヤッ
子分「たくさん買ったかいがあったっすね!」
老婆「使い方はもうバッチリだしねえ」
チンピラ「おっと、それとこのゴミ捨て場のことも一応通報しとかねえとな」
…………
……
見回りを始めて――
子分「ふあああ……」
子分(これで見回り三日目……特に火事はないっすね)
子分(まあ、火事が起きなきゃそれはそれでいいことなんすけど)
子分(そうだ、あそこの神社でお参りでもしてみるか……“放火犯が見つかるように”って)
子分「――ん」
メラメラ…
子分「な……!?」
子分「どわーっ! 神社に火がついてるっす!」
子分「えらいこっちゃ、えらいこっちゃ!」
子分「えーっと、どうすりゃいいんすか!? 兄貴に電話? それとも119番?」
子分「いやいや、まずは火を消し止めるのが先っすううううう!」
ブシュゥゥゥゥゥゥゥ…
ウーウー… ウーウー…
ワイワイ…
チンピラ「よくやったぞ、子分!」
老婆「お手柄だねえ」
子分「いやぁ、たまたまっすよ。たまたま……」
チンピラ「どうやら、放火魔は放火を続ける気満々らしいな」
子分「だけど、このままじゃ完全に後手後手っすよ。とても捕まえるなんて無理っす」
チンピラ「だよなぁ……」
チンピラ「とりあえず、今日のところは帰って、明日作戦会議するか!」
<アパート>
チンピラ「さっそく、今までに火事が起きた場所を地図に書き出してみるか」
チンピラ「なにか法則性みたいなもんを見出せるかもしれねえ」
子分「そっすね!」
老婆「たしか、最初は空き地が燃えたっけねえ。草がすっかり焼けちまったよ」
子分「その次は雑木林だったっすね」
チンピラ「んで、プラネタリウムと市民プールでもボヤ騒ぎがあった」
子分「で、こないだのゴミ捨て場、神社に続くっす」
三人「うーん……」
チンピラ「ダメだ! なーんも分からん!」
老婆「線でつないでみても、これといった図にはならないねえ」
チンピラ「くそっ、ゲームみたいに放火をやるような奴だし、なんか意味があると思ったんだが……」
チンピラ「適当に目をつけたところを放火してるっぽいな」
子分「ゲーム……」
子分「あの兄貴……」
チンピラ「どうした?」
子分「俺がやってるゲームのこと、なんすけど……」
チンピラ「なんだよ、ゲームやりてえのか? もうちょい我慢しろ」
子分「いや、そうじゃなくて」
子分「俺のやってるゲームのステージ1って、草原ステージだったんすよ」
チンピラ「ふうん……?」
子分「で、ステージ2は森ステージ、3は宇宙ステージ、4は海ステージっす」
チンピラ「ステージ5はゴミ山で、6は寺だったよな。まったくカオスなゲームだぜ」
子分「これ……放火されてる場所にちょっと似てないっすか」
チンピラ「…………!」
チンピラ「空き地と草原、雑木林と森、プラネタリウムと宇宙、市民プールと海……」
チンピラ「似てる……かも」
子分「ね、ね、似てるでしょ!」
チンピラ「そうか、この野郎、ゲームのステージに似た場所を順番に放火してるってことか!」
子分「ええ、大人気ゲームだから、放火魔もプレイした可能性は高いっす!」
老婆「ってことは、ゴミ山ステージはゴミ捨て場で、寺ステージは神社に置き換えられたってことかい」
子分「そうなるっすね」
チンピラ「ちょっと待てや、寺と神社って全然ちげえぞ! 寺は仏教で神社は神道だ!」
子分「そこはまあ……この辺寺って全くないし、妥協したんじゃないっすか」
チンピラ「許せねえ……! 俺は寺と神社をごっちゃにしてる奴が大嫌いなんだ!」
チンピラ「地図記号からして違うってのによぉ!」
子分「まあまあ、兄貴。それよりもしこの仮説があってたなら――」
チンピラ「放火魔が次狙う場所を推測できる……ってことか!」
子分「そうっす!」
チンピラ「つまり、放火魔が次狙うのはステージ7だな! ステージ7の内容は!?」
子分「それが……俺まだステージ6なんすよね。クリアしないと分からないっす」
チンピラ「なにい!? だったら早くクリアしやがれ!」
子分「は、はいっす!」カチカチッ
子分「ああっ、ムズイっす! また死んだ!」
チンピラ「なにやってやがる! お前の腕に町の平和がかかってんだぞ!」
子分「んなこといわれても……」
老婆「ステージ7は城ステージだよ」
チンピラ「えっ!?」
子分「なんで分かったんすか!?」
老婆「ゲームタイトルで検索して、攻略wikiを見たんだよ」ポチポチ
チンピラ&子分「ばあちゃんすげえええええええ!!!」
チンピラ「この辺で城っていうと……どこだ?」
子分「城跡なんてないっすよねえ」
老婆「となると、狙われるのは“城に似た建物”ってとこかねえ」
子分「城に似た建物……大豪邸とか? そんな大物、この町にいたっすかねえ」
チンピラ「だいたい大豪邸なんてセキュリティ完璧だろうから放火なんてできねえだろ」
三人「うーん……」
チンピラ「あ」
子分「兄貴?」
チンピラ「分かったぜ……ステージ7がよ」ニヤッ
<ラブホテル>
チンピラ「ここだ。この町で城に似てる建物なんてここしかねえ!」
子分「なるほど!」
老婆「たしかに西洋のお城そっくりだねえ」
チンピラ「よぉーし、ここでパンでも食いながら張り込むとすっか!」
子分「マジ俺たち刑事か探偵みたいっすね!」
老婆「ワクワクしてきたねえ」
……
チンピラ「か……カツアゲ」
子分「げ、ゲーム!」
老婆「ムール貝!」
チンピラ「い……一反木綿!」
子分「あー、兄貴の負けー!」
チンピラ「し、しまった……!」
チンピラ「……しりとりもさすがに飽きてきたな」
子分「そっすね……もう五時間ぐらいやってるっすから」
老婆「今日は現れそうにないねえ」
チンピラ「冷えてきたし、今夜はもう帰るか」
チンピラ「――お?」
子分「兄貴?」
コソコソ…
シュボッ
チンピラ「ずっとしりとりしてたかいがあったなぁ……」
チンピラ「やっと放火魔のケツに食いつけたぜぇ!」
チンピラ「てめえええええええええ!!!」タタタタタッ
放火魔「!?」ビクッ
放火魔「う、うわっ!」ダッ
チンピラ「逃がすかぁっ!」
ドカッ!
放火魔「ぐぎゃっ!」ドザッ
放火魔「くっ……」ヨタヨタ…
チンピラ「あっ、こいつ! まだ逃げるつもりか!」
子分「おっとぉ!」バッ
子分「こっちは通せんぼしたっすよ!」
放火魔「ぐ……!」
チンピラ「よくやった、子分!」
チンピラ「もう逃げられねえぞ、放火野郎!」
放火魔「そうか……このところ、僕の“ゲーム”を邪魔してくれたのはお前らだったか」
放火魔「こんな町のクズみたいな奴らに……!」
チンピラ「クズなのは否定しねえが、てめえにゃいわれたくねえなぁ!」
放火魔「僕がお前らなんかに負けるはずがない!」
放火魔「これでも喰らえ!」バシャッ
チンピラ「ぶっ!?」
チンピラ(この臭いは……灯油!)ビショビショ…
放火魔「へ、へへへ……これでお前はちょっと火をつけただけで火だるまになるぅ!」
チンピラ「…………」
子分「あ、兄貴! ここは俺がやるっす! 兄貴は……」
チンピラ「…………」ダッ
放火魔「な!?」
放火魔「望み通り、燃やしてやるよぉ!」シュボッ
放火魔「あ、あれ……燃えない?」
チンピラ「教えてやるよ……灯油はそう簡単に燃えねえのよぉっ!」
バキィッ!
放火魔「ぶげあぁぁっ!」ドザァッ
チンピラ「放火魔のくせに、そんなことも知らなかったのか」
子分「やったっすね! 兄貴ィ!」
放火魔「うぐっ……!」
老婆「どうやら終わったようだねえ」
放火魔「!」
チンピラ「あっ……」
チンピラ「やべえ! ばあちゃんこっち来んな! そいつはまだ――」
放火魔「ヒャッハァ!」ガシッ
老婆「う!?」
放火魔「僕に近づいてみろ……! このババア、刺し殺してやるぞ!」ギラッ
チンピラ「ナイフ……!」
子分「あんなもんまで持ってたんすか……!」
放火魔「二人とも、ここから消えろ! でないとこのババアを――」
老婆「ちょいとあんた」
放火魔「なんだババア! 死にたくなきゃ大人しくしてろ!」
老婆「こんな掴み方じゃ、投げて下さいっていってるようなもんだよ」
放火魔「…………?」
老婆「セイイッ!」ガシッ
ブオンッ!
放火魔「え」グルンッ
ドザァッ!
放火魔「ぐ、は……っ!」
老婆「“一本”ってとこだねえ」
放火魔「あ、うう……」ピクピク…
チンピラ「すっげえ……」
子分「テレビで見るような鮮やかな背負い投げだったっすよ……」
チンピラ「あのさばあちゃん、前いってた“白い服”ってもしかして――」
老婆「もちろん、柔道着のことだよ」
老婆「昔はよく男どもに混じって、乱取りだってやったもんさ」
老婆「稽古ついでにワルどもを投げまくったこともあったっけねえ」
子分「兄貴……このばあちゃんに消火器を殴って売りつけなくてよかったっすね……」
チンピラ「ホントだよ……」
ウー… ウー…
刑事「まさか……町の鼻つまみ者であるお前が、放火魔を捕まえるとはな」
刑事「もしかしたら、感謝状が出るかもしれんぞ」
チンピラ「へっ、いらねえよ、んなもん。ケツ拭く紙にもなりやしねえ」
刑事「……それもそうか」
刑事「さぁ、来い! 覚悟しておくんだな!」
放火魔「う、ううう……」ヨロヨロ…
チンピラ「いやぁー、俺らもやれるもんだな」
子分「そっすね!」
チンピラ「なぁ、子分」
子分「はい?」
チンピラ「俺、これからはもうちょっと……マシな生き方してみようかな」
子分「いいっすね! 俺はどこまでもお供するっすよ!」
チンピラ「まあ、三日後には元に戻ってそうだけどな」
子分「そうっすね」
チンピラ「そうっすねじゃねえよ」コツッ
子分「いてっ!」
老婆「なぁに、三日間だけでもマシになってみるってのも一つの進歩だよ」
チンピラ「ありがとよ、ばあちゃん」
チンピラ「今日は冷えるし、家帰ったら久々に鍋でもやるか!」
子分「いいっすねえ!」
チンピラ「よかったら、ばあちゃんもどうだ?」
老婆「おや、いいのかい?」
チンピラ「今回の件、ばあちゃんにもすっかり世話になっちまったからな」
老婆「ありがとうねえ……」
子分「だけど鍋やるんなら、火事には気をつけなくちゃっすね!」
チンピラ「消火器を使うことがないようにしねえとな!」
~おわり~

