もう慣れた。あぁ、慣れた
幽霊「遅刻するよー」
わかってる。今日の俺は遅刻じゃ済まないぜ。
幽霊「はやくーっ」
ええいっ!お前は冬の朝の煩わしさを知らんのか!もういい、寝たフリ続行!
幽霊「もういい私も入っちゃおうっ」
布団の中に突如、暖かいものが
男「…出てけ…」
幽霊「起きてるし!」
からからと笑い声が耳元できこえる
元スレ
幽霊「ね、あったかいでしょ」
http://raicho.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1297523755/
そう、こいつには体温(?)がある。普通幽霊は冷たいんじゃないのか?ていうか、幽霊なんているのか?
幽霊「あー、雪降ってるー!」
そうか
男「はいはい、おやすみなさいませご主人さまっ」
バフッと布団を被り、学校サボリを決め込んだ。だって、寒いんだもんっ。
幽霊「起きなさいっ男!そんな年になって一人で起きられないの」
男「どこの母親だお前は…」
幽霊「ここから始まるニートの夜明けか…」
男「はいはい学校行きます!」
ニートは嫌だ
今日も寒い。多分明日も寒い。冬眠中のクマが羨ましい。
幽霊「今日は寒いの?」
男「雪振ってんでしょーが、寒いに決まってるでしょー」
幽霊「私、生きてる時はあんまり外に出られなかったから、わかんないなー」
そう、こいつは生前体が弱かった。死因に関しては、あまり思い出したくない。俺自身が。
幽霊「雪って冷たいらしいね」
男「ふう…冷たいよ…てこれ去年も言っただろ」
幽霊「そうだっけ?」
幽霊のくせに、いっちょ前に制服来やがって
ようやくついた、学校に。いつもより真っ白な壁につつまれてる。クラスの悪友どもが雪合戦をしてる。石は入れるな?雪爆弾?何歳だお前たちは。
幽霊「寒いんでしょ?」
男「あぁ、寒い」
幽霊「じゃ、早くいこ」
軽やかに走っていく。道行く人を避けながら。幽霊なのに足はあるのな。本当に幽霊なのかと、この時いつも疑う。
幽霊「はやくーっ」
あいつの声も俺にしか聞こえない
俺は統合失調症の疑いは出てませんよ
教室に入る。暖かいなぁ。人がいっぱいいるからか。否、腕にこいつが抱きついてるから。
男「…何しとる…」
幽霊「こうしたら、あったかい?」
あったかいけど、あったかいけども…!
男「お離れなさい」
幽霊「いいじゃないかーっ」
普通の人が見たらただ独り言言って腕ぶんぶん振り回してんだぞ。確実にアブナイ人じゃねーか
席に座る。こいつの席は…ない。制服は生前の奴を着てる。姿も生前のまま。
だから授業中は俺の居眠りを妨げることしかして来ない。ちょっとくらい寝たっていいじゃないか!
幽霊「仕返しですよ、アレに比べたら綿より軽い」
それ、お前は簡単に言うけど、俺には結構クるんだ、やめてくれ
男「はいはい」
とは言えない
なんとか睡魔と奮闘しつつ学校のスケジュールを終え、帰宅。
妹「お兄ちゃん、お姉ちゃんおかえりー」
俺はともかく、こいつは血繋がってないぞ。
男「ただいまっと」
幽霊「ただいまー妹ちゃん」
小学生なら幽霊が見えるのか。大人になったら見えないとか聞くけど、線引きがよくわからない
男「あぁ待ってろ、今から作るから」
今日は久々に豚汁でも作るか
食後、あいつは我が妹とオセロをしている。端から見たら、小学生が一人遊びして白黒両方の駒をひっくり返してるだけに見えるだろうな。
妹「うわー、負けたー…ちくしょー…」
幽霊「出直してこいっ」
あいつがここに憑いてから5年、今日も我が家は平和でございます。
俺の部屋に入るなり、いきなり参考書を読み出す。そう、ポルターガイストである。
幽霊「はぁ…今日の数学難しかったねー」
こいつは昔から勤勉だった
男「見習いたいもんだ、その復習の習慣」
幽霊「じゃあ始めよう!今から始めよう!さぁ始めよう!」
…
男「明日から頑張るネ」
幽霊「ああっこらー!テレビを見るな!!」
明日になっても頑張れる気はしない。正直こいつが羨ましい…。
風呂は済ませた。歯も磨いた。目覚ましはセットしてない。
男「さぁ寝るかっ」
電気を消す
幽霊「おやすみー」
こいつは妹の部屋…いや布団の中で寝る。
しかし、夜中にふと目を覚ますと、俺の部屋のそばにこいつが立っている
たのむからやめてくれ
5年休まず繋いできた1日1日は、こんな感じである。
幽霊「起きろ」
男「…」
い や だ
幽霊「起きろー!」
今日は絶対にやだねーっ!日光がさんさんと降り注ごうが、犬が喜び庭駆け回ろうが、絶対に今日は外に出ない!
幽霊「もう…なんでそんなに強情なのか理解に苦しむわ」
なんでかって?
男「…」
今日は バ レ ン タ イ ン だから
妹「まだ起きないのー?」
幽霊「もう…妹ちゃんからも何か言ってあげてよー起きないの、このバカモノは」
妹「ほら、お姉ちゃん困ってるよー、起きてよー」
ごめんな、今日ばっかりは兄ちゃん起きられないわ…
妹「お兄ちゃん熱あんのかなー…じゃ、私も学校休もうかな」
男「それはダメだ!」
あ。
学校に渋々行くことになる。
恋人同士のテンションが妙に高い。やめて。
悪友のテンションが妙に低い。雪合戦はどうした。
幽霊「あ、そうか、今日はバレンタインかぁ…」
男「今頃気づいたのか」
幽霊「いやぁ、この姿だと、季節とかそういうの、どうでもよくなってさぁ」
幽霊「そっかーバレンタインかー」
忘れようとしてるんだ、やめてくれ
幽霊「バレンタイン…か…」
放課後
クラスの女の子が声をあげた
「はーい、男子集まってー、義理だけど!」
群がる野郎ども。わーいっ俺も混ぜてー!!
わいわいガヤガヤ。うん、美味しい。義理とはいえ同級生からもらうお菓子ってなんでこんなに美味しいんだ。
幽霊「いいなぁ、バレンタインって」
男「まぁ恋人たちにとってはな。俺にとってはただの平日」
もらったチョコは応募者全員サービスのあのクッキーのみで、今年もカップルのイチャイチャビームを背に受けて校門を後にした
幽霊「それでも…いいな、バレンタイン…」
このときこいつは俺の前を歩いていて、顔は見えなかった
妹「はい、おめでとー」
誕生日じゃないです、むしろめでたくないです。
帰宅するなり、妹から溶かして好きに固め直したチョコを貰う。
羨ましいと言われたことはあるけど、皆が母親から貰うのと同じ感覚だと思ってもらって差し支えない。
男「お、ありがとな」
それでも礼はいいますよ。
幽霊「よかったですね。2個ですよ」
男「うん…2個ってむなしい響きだな…1個のほうがまだ…」
幽霊「…ぷっ…」
笑うな
幽霊「来年はもっと貰えるよ」
男「去年も聞いたぞそれ」
幽霊「やっぱり?」
さぁ、寝る時間だ。嫌な日って、過ぎるのが早いなぁ。助かる助かる。
男「よっ…とっ!」
今日1日のイチャイチャビームのエネルギーをベッドへのエルボードロップに変換して発散する。
布団にくるまる。やけに暖かい
男「…お前か…」
幽霊「へへー」
男「妹のところに行かないのか?」
幽霊「今日はバレンタインでしょ?」
おいやめろ
男「それがなんだよ」
幽霊「寒いんでしょ?」
寒いよ。寒いから早く寝かせてくれよ。
幽霊「私…ちゃんと人並みには体温あるからさ、こうやって温めることしかできないけど」
幽霊「湯たんぽ代わりにはなるでしょ?」
ずいぶん大きな湯たんぽだこと…
男「ホワイトデーになったら冷やすとかいいだすんじゃねーぞ」
幽霊「えへへー」
それから月日は都合よくながれ、入学シーズンという奴が来た。新入生の顔を見ると、可愛い子をつい探してしまう。
幽霊「年下趣味なの?」
男「違うわ」
私も年下の体してますよーって顔をして、こちらを見てくる
幽霊「そうだよねーバレンタインの時一緒に寝たもんねー。こんないたいけな子と体を温めあったもんねー」
男「いやらしい言い方するな!単純に同じ布団にくるまっただけだろ!」
幽霊「あら、別にソッチの意味で言ったんじゃないのに、うわー」
ぐぬぬ…。とにかくこいつの体は年下だけど、精神年齢は俺と同じだから、その、年下ゆえの初々しい魅力とか…その…
男「なに言わせんだ」
幽霊「え?」
クラス替えの発表を確認したあと、迷いつつも自分の教室に入る。
幽霊「おお…知らない顔がいっぱい」
この教室でお前のこと知ってるのは俺くらいのもんだぞ。そう、俺だけなんだ。
幽霊「ほら、あそこの席だよ!」
男「お、さんきゅ」
窓際か、見える景色が変わったから、当分飽きはしないな。これはいい。
幽霊「桜満開だよ!ほら!!見なよ!」
男「おぉー綺麗だな」
幽霊「だよねー」
妹も今頃新しいクラスメイトと上手くやってるだろうか
最初の授業だ。こいつは今外の桜に夢中になってやがる。そんなに珍しいのか…。
おかげで寝られる、うれC。
とまぁ、春の暖かさを存分に満喫しながら俺は久々の居眠りを堪能した。
もちろん、帰り道ではコイツにこっぴどく叱られるわけだが
幽霊「居眠りするなって言ったのにー」
男「いいじゃないの、春にする居眠りって」
素晴らしい
幽霊「ばーか、アンタはそんな腐った子じゃなかったのに…うぅっ…」
わざとらしく泣き真似をするコイツ、憎たらしい
幽霊「私はノート取ったりできないんだから、しっかりしてよねー」
そうだった。俺はコイツのためにノートとってるんだ。忘れてた。
幽霊「なんか今間違った考え方してたでしょ」
男「え?だってお前のためのノートだろ?」
幽霊「はぁ…」
『パンッ』
耳元で盛大にラップ音を鳴らされた
男「うわっ!なにするんだ!」
幽霊「アンタのために決まってんでしょー!私が勉強したって生かす機会ないんだから」
う…
男「はいはいわかりました!!」
なんかポロッと寂しいこというよな、コイツ
妹「おかえりー」
トテトテと妹が玄関に迎えに来る
男「おう、新しいクラスはどうだった?」
妹「なんかねー隣の子がすごくカッコいいのー」
何…だと…?
男「お兄ちゃんは認めませんっ!」
妹「何が?」
そんなキョトンとした目でこっちを見るな
男「まぁ…楽しいならそれでいいか」
妹「うん!楽しいよ!お兄ちゃんとお姉ちゃんは?」
幽霊「妹ちゃん、このバカったらねー初日で居眠…」
男「言わんでよろしい」
夜になり、最近作ってなかった肉じゃがを夕飯にした後、部屋に戻る
幽霊「夜の桜も…綺麗だね…」
男「うちは公園に近いからな、次の日曜はお花見のブルーシートでいっぱいになるだろうな」
幽霊「それだ」
はい?
幽霊「私お花見とか生まれて一度もしたことないんだよ!」
男「まぁ去年も一昨年もその前も、ただ見てるだけだったな」
見てるだけで満足してたのにな。この欲張りめ
男「しかたない、じゃ、次の日曜だぞ」
幽霊「わーい」
喜んでるところはやっぱり子供だな
日曜日になった
妹「そっか、私も行っていい?」
男「あぁ、迷子になるんじゃないぞ」
この妹はよくできた妹です。迷子にはならないだろう。
思ったより公園には人がいた、公園から並木道…うむ、素晴らしい景色だ
幽霊「わぁ…綺麗。こんなの、初めて…」
幽霊「夢が一つ叶ったよ、ありがとっ!」
あぁ、そんなこと言ってたな。
迷子にならないように、妹の手を握る
妹「んーっ」
人混みに揉まれ妹は苦しそうについてくる。
コイツは霊体だから、人混みなんかすり抜ける。手を繋ぐ必要はない。
繋ぎたくても、すり抜ける
桜並木道で妹とアイツが並んだ写真を撮ってやった
端から見たら妹だけ撮ってる兄貴だろうな。心霊写真?上等でござる。
幽霊「あーあ、もう一つの夢は諦めるしかないのかー」
男「お前の夢いくつあるんだよ…」
幽霊「んー、あと3個くらい」
多いわっ
幽霊「覚えてないの?」
男「覚えてるけどなぁ」
幽霊「んー、釈然としないけど、許してあげる!!」
後日現像した心霊写真は、なぜか暖かかった
今日から6月だ…少し早めの梅雨が、鬱になりそうだ
幽霊「また今日も雨かー」
男「そうだな…この雨じゃ、学校には行けないな」
幽霊「起きろー!いいよーだ、布団入ってやる」
布団に暑苦しいのが入ってきた
男「出てけよー暑いー」
手で追い出そうとするが、すり抜けて出て行かない
幽霊「へっへーだ!」
男「お前は異性と同じ布団に入って恥ずかしくないのか」
幽霊「アンタは恥ずかしいの?」
うっ
男「恥ずかしくないけど暑いから出てけ…」
幽霊「やーだよ、汗だくにしてやる!」
幽霊「どーだ布団から出る気になったかー!」
執拗に体を押し付けてくる
が、感触はない。何か温かい。それだけ。
冬に腕に巻きついたときも、バレンタインで一緒に寝た時も、そしてこうしてる今も、抱きついてる、触ってる、押し付けてるフリだけ。
幽霊「?どーしたの?」
男「お前は…」
俺の髪とか、手の感触とかわかるのか?
幽霊「…わかんないや。言ったでしょ?私は生きてる人の体温さえわかんないよ?季節の気温の変化も実際感じないって」
男「えっ」
口に出したっけ?俺
幽霊「わかりやす~い単純な顔してるからね」
この野郎…
あぁ、もう限界
男「はいはい降参降参」
幽霊「やっと出る気になったかー。しぶとい奴め」
お前が負けることはまずないからいいよな
男「こっちはどんどん暑苦しくなるんだぞ?勝てるかっての」
幽霊「でもね、そういう、人の体温感じられるのって、すごく羨ましいよ」
男「…」
否定はしない。
幽霊「私、春夏秋冬全部同じ温度なの…退屈…」
男「…はじめにここに来たときも聞いたぞ」
幽霊「そうだっけ?」
そうだよ
人暖めることしかできないのか、体温を提供するばっかりで受け取ることはできないんだな
7月も下旬になり、いよいよ夏休みか…。そうか、そろそろ夏祭りの時期だな。
そろそろコイツと妹が騒ぎ出すぞ
幽霊「そろそろお祭りだねー」
言わんこっちゃない
普通『夏休みだねー』じゃないのか
幽霊「いつだっけ?」
男「明後日…」
幽霊「~♪」
神様の行事だからな、無理はないか。いやそもそもアイツ神じゃなかった
夏祭りだ!!やったネ!
……やっぱるテンション上がらんなー。
妹「ねぇね!お兄ちゃん!くじびきやっていい?くじびき!」
男「あぁはいはい、いいか?念じるんだぞ?」
妹「ねんじる?」
男「あぁ、自分がこれだ!ていう景品を強くイメージし、神社の御堂に向かって二礼したあと、左手でくじを引くんだ」
妹「わかった!やってみる!」
幽霊「効果あるの?」
もちろんない。だって今俺が考えたもの
妹「わーい!当たったよー!!」
!?
幽霊「当たるんだ…」
男「妹…大した奴だ…」
祭りのフィナーレとも言える、巨大な焚き火としか名の呼び方を知らないものを眺めながら感心した
当の妹は、景品を器用に持ちながら俺の背中で寝ている。もう夜11時だ。
男「あのさ」
幽霊「ん?」
男「お前ってさ、他の幽霊とかも見えるの?」
幽霊「ううん、見えない」
え?
幽霊「見えないっていうか、見たことないって言ったほうがいいのかな?」
男「見たことない?バカ言え、こんな神社で…」
それとも俺の5年間は幻覚だったのか?
幽霊「初めは会ったんだけど、アンタと会ってからはパッタリ」
ふむ
幽霊「だから、私は男しか見えない」
男「…」
幽霊「…」
男「…」
幽霊「…私今、もしかして大変なこと言った?」
男「問題ない、安心しろ」
とはいえ、こいつがこんなに顔を赤くしたのは、死ぬ直前以来だと思った。
幽霊「…ね、今くらい…いいでしょ」
妹の足で塞がった俺の右手が暖かくなった。コイツの左手がそこにあった。
幽霊「これで2つ目、一応達成!」
2つ目?
男「なんだそれ」
幽霊「全部達成したら教えてあげるよんっ」
男「はいはい楽しみですね」
また例の夢って奴か?夏祭りなら去年も行ったし、とっくに達成できてるんじゃないのか?
幽霊「あとはお盆だねー私が里帰りしてる間、妹ちゃんに手出すなよ」
男「出すかっ!」
夏休みが始まり、特に手応えのない怠惰な日々を送りつづけたと思ったら、今度はお盆だ
俺と妹は帰らない。妹が虐待されて、兄妹ともども逃げるようにこのアパートに行き着いたからだ。その時お世話になって、ここに住まわせてくれた大家さんには本当に感謝している。
幽霊「じゃあね、あ、お土産はないからね」
男「へいへい」
こいつも、5年前から姉のような存在になってるんだ。
俺とアイツのいきさつについては、多少後ろめたいが、それでも向き合わなくてはならない理由がある。
アイツは、転校してきた。先生が『この子は体が丈夫ではないから、優しくしてあげて』と言っていた。
本人は、今と同じような、ネコのような性格だった。
席は俺の隣。もし隣でなければ、こんな状況はない。そもそもアイツは死んでなかったかもしれない
俺はインフルエンザにかかった。しかもクラスで最初の犠牲者だった。インフルエンザは発症が遅いらしく、潜伏期にウィルスをばらまき、そして発症するらしい。
俺自身はすぐに回復し、学校へ駆け込んだ。
しかし、そう、俺の隣の机は、誰も座っていなかった
体が弱いとは聞いていた。ここまで弱いとは聞いていなかった。
たんなる感染。俺はそれで済んだ。アイツはそれじゃ済まなかった。
先生に住所を聞き、すぐに家に伺った。
アイツは、酷く顔を赤くしていた。ご両親に、俺にうつったらいけないから、と止められたが、それでも会わずにはいられなかった。
アイツは俺の顔を見るなり、ケタケタ笑った
毎日、俺はアイツに会った。ただ、ただ申し訳なかった。それでもアイツは笑っていた
熱は下がらない。
そして、放課後また顔を出したとき、あいつは、震えていた
『寒い』としか言わなかった。
体は震えていた。
昏睡状態寸前だった。いや、既にそうだった。
ひたすら暖を求めていた。
そして俺の顔を見つめて精一杯笑ったと思ったら
震えが止まった。止まったのは震えだけじゃなかった
アイツが転校して来た理由は未だにわからない。
ただ、アイツが死んだあと、両親は故郷に帰ったみたいだ。
あの家はもう見る影もない。
ただただ自分を責めて、妹もはねのけ、一人途方にくれていると、急に手が暖かくなった。
初めは精神科に受診した。異常なし。じゃあ目の前にいるのは?
信じられないけど…
幽霊「ただいまー」
数日間妹と過ごしたあと、アイツは帰ってきた。
妹「お姉ちゃーん!」
幽霊「残念でしたー、お土産はないよー」
妹「えー」
こいつはいつもケタケタ笑う
男「…ごめんな…」
幽霊「おやま」
幽霊「なんの事か、忘れちゃった」
俺は救われたんだなぁ
夏休みも終わりを迎え、季節の巡りは早いもので、秋が来た。
ちなみに今日は十五夜というものらしい。とりあえず団子つくればいいのか?
妹「おだんごできたー?」
男「できたら呼びますよ」
妹「はーい」
いささか残念そうにテレビの前に向き直る妹。その隣にあいつもいる。
アイツは料理ができない。生前はあんな体だったから、必要以上に両親に大事にされ、包丁を握らせてもらうことはなかったらしい。
今も料理してみたいと言うが、アイツのポルターガイストは不安定だ。この前俺の足元に包丁を落とされた。
男「はーいできましたよっと」
妹「わーい」
幽霊「お団子がこんなに積まれてるのみたらテンションあがるよねー」
妹「ねーっ!」
聞いたことないわそんなん
食後、俺の部屋に戻ると、コイツは窓の外を見ていた。
幽霊「ほんとだー、若干丸い」
若干ってなんだよ。
男「まんまるじゃないの」
幽霊「気持ち楕円形」
こいつはお盆以来元気がない。元気がないというより、楽しみきれていない。そんな感じがした。
幽霊「狼男になりそうだナー」
男「お前そもそも男じゃないでしょ」
幽霊「違うー。アンタが狼!私は赤頭巾ちゃん」
なんだなんだ?なんの話だ
幽霊「襲われたらどーしよー」
男「こんなんで襲ってたら、今まで何回襲えばいいんだよ」
一緒の布団にくるまった場合の方がはるかに衝撃的だ。
幽霊「そうだね、今年はまだ2回だもんね」
男「まだってなんだよ」
確かに去年も一昨年も一緒に寝たことはあるけどだな…
幽霊「今日も寝る?一緒に」
男「えーっ」
幽霊「えーじゃない!」
こいつのことはほっといて、風呂にでも入ろう
風呂は入った。歯も磨いた。目覚ましはセットしてない。
男「さぁ寝るか」
そろそろ冷えてくる時期だ。ストーブの点検をしなければ
幽霊「おや」
布団をめくると、いた
男「またお前か」
幽霊「キャー狼ー」
男「おだまりっ」
ほらな、とっさに出た言葉が姑口調だ
男「ほれほれ、出てった出てった」
幽霊「そっかー」
出て行く気概を感じられない。
男「ええい、仕方ない!」
バフンッと布団にくるまる。そろそろ寒くなってくるな。
布団は冷たかった。こいつがいたのに。暖かさも感じなかった
朝は早めに起き、ストーブの点検の点検をしてみた。
幽霊「おぉー早起き。偉い偉い、私の調教の成果かな」
男「調教言うのやめろ」
幽霊「アダルティな響き?」
やめろってばー。朝っぱらから妹が聞いたらどうすんだよー。まだ小学生だぞアイツ
妹「おはよーちょうきょうって何ー?ちょうきょうできたら早起きできるのー?」
あぁっ!ほら見ろ!
あぁ、別に大丈夫そうだ。学校から帰ったらまた点けてみるか。
うちはガスストーブだ。ガスホースは大丈夫。本体は帰ってきたらでいいか。
男「ほれほれ、朝飯作っておいたから食べなさい、今日は遠足だろ」
妹「うんっ!遠足!」
父さん、母さん。今日も妹は素直にスクスク成長しています。ざまぁみやがれ
学校から見える山は、綺麗に赤くなっている。
幽霊「うわー!見なよ!真っ赤だよ!大量出血したみたい!」
男「その猟奇的な例えやめい。それに昨日も同じこと言ってただろうが」
もう今年だけで10回は聞いたわい、その言葉
幽霊「ねー…」
男「なに?」
幽霊「私…もう暖かくないでしょ?」
え…?
幽霊「私だって知ってるよー」
男「…」
否定はしない。したいけど。
幽霊「昨日のアンタの反応見て確信したわ。私もう冷たい。」
男「…さ、教室に行くか」
幽霊「うん…」
これ以上聞きたくなかった。嫌な予感がしたから。
その予感は当たる訳だが
クリスマスを控えた12月、こいつは突然切り出した。
幽霊「もう今日にでも帰っちゃうかもね」
男「実家に?」
幽霊「無に」
妖怪かお前は
幽霊「真面目に聞いて」
男「あ、あぁはいはい」
なんだやけに真剣だな
幽霊「うーん、いつか言おうとは思ってたんだけど、とうとう直前まで言えなかったね」
男「なんだ?」
幽霊「話聞いてた?」
ごめんあんまり聞いてなかった
男「うん聞いてた聞いてた」
幽霊「む…」
幽霊「…」
なんでそんな顔をする。
幽霊「…はぁ…楽しかったなぁ…」
幽霊「…大好きっ…」
男「…」
さて、いよいよ反応に困ってきたぞ?
どうしたものか。なんとかしてこの気まず~い空気を打破しないと
幽霊「嘘じゃないよ!去年とか、いつも言ってるからかいの言葉じゃないよ!」
幽霊「だから、受け取って欲しい、私はもう、暖かくしてあげたりはできない。体温がない普通の幽霊さん」
男「…ありがとうございます」
幽霊「へっへーだ」
普通の幽霊さんって言っても幽霊自体が普通じゃないですよ。
幽霊「もう1個は…無理だから、いいか。4つ中3つ!大した成果だわ」
なんの話だ
幽霊「ほらーもうそろそろだー」
男「え?なに?どういうこと?」
幽霊「だから言ったでしょ?消えちゃうの、私がいなくなっちゃうの」
………はい…?
男「な、なんでだよ!?」
幽霊「お盆のときに、もうタイムリミット近いって知ったのさ。だから、最後の何ヶ月かは楽しもうと思ったの」
幽霊「でもさぁ…」
幽霊「やっぱり…まだここにいたいなぁ…嫌だ…帰りたくない…」
男「お、おい!?」
姿は見える。でも、その…気配みたいなものがどんどん薄くなっているのがわかった
男「唐突だな。唐突すぎるだろ!」
幽霊「当たり前じゃん…私が黙ってたんだから…」
……
幽霊「…もう、そろそろ…」
男「おい」
本当に暖かくないのか、おい、抱きついてみたが暖かくない。むしろ冷たいくらいだ。そもそも抱きつけない
幽霊「あ…」
その時、こいつから出た言葉は…
幽霊「あったかいなぁ…」
幽霊「あったかい…あったかいな…」
なにを言ってるんだこいつは
男「お前…」
幽霊「4つ目まで叶えてくれるなんて…思ってなかった…無理だと思ってたもん…」
4つ目?
幽霊「死ぬ前…すごく、寒かった…だから、布団でもない、暖房でもない、ただこうして欲しかった…」
幽霊「こんなにあったかかったっけ…あははっ…」
男「4つ全部叶えたら生き返るとか…ないんだよな…」
幽霊「ごめんね。でも、最後の最後に滑り込みセーフで私に暖かさをくれた…ありがとっ…」
礼はいいから消えないでくれ
幽霊「…幸せっ」
そう言っていたコイツは、生前死ぬ寸前まで笑っていたコイツは、それからも5年間ずっと笑っていたコイツは、初めて涙を見せた
―――
――
―
『パンッパンッ』
今年も新年を迎えた。
妹には、アイツは新年から実家ですごすことになったと言っておいた
妹「ねー」
男「ん?」
妹「お姉ちゃんも今頃、こうやって神社の前で手パンパンってしてるのかなぁ?」
男「幽霊なんだぞ?そんなことしないだろ」
二人だ、そう三人ではなく、二人で鐘を鳴らす。
俺の進路も決まり、妹も健やかに成長、暖かいいい子に育っています。
もう6年間たちました…たった6年間でいなくなってしまいました。
それでも今日から7年目、今日も我が家は平和です。
おわり

