部活帰り。空は真っ赤に染められており、ノスタルジックな感じがする。
赤い空の下、人気の無い公園で私はブランコに乗って揺れていた。
そろそろ行こうかな、と立ち上がった瞬間だった。
赤いコートを着て白い大きなマスクをつけた女性が、ぼうっと、ブランコの近くに現れたのだ。
あっけにとられる少女に女性が一言、こう尋ねた。
「私、キレイ?」
元スレ
百合少女「口裂け女……?」
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女「ぁ……」
声が出ない。喉がカラカラになって、汗がダラダラと流れ始めているのが分かる。
女性は少女を急かす様に、「私、キレイ?」と何度も言った。
それに女性は笑っているように見える。マスク越しからでもわかった。
なぜなら――何かの裂け目がマスクからはみ出るほどの半月を描いたからだ。
……しかし、少女は気にしない。
それは、少女は目を奪われていたから。女性に目を奪われていたから。
そして、少女は顔を赤らめさせて、こう言った。
女「とても……キレイです///」
「ふうん」
女「キレイです!」ドキドキ
「それじゃあさ」
女性はマスクを外した。ひどく裂けた口を露わにさせた。
「これでも、キレイ?」
女「すっごく!」カァァ
「……は?」
女「あ、あのあの! お名前をお聞きしてもよろしいでしょうか!」
「……」
「口裂け女ってこの地域だと知名度低いのか……?」
女「口裂け……口裂け女さんですか……」
女「素敵な名前///」
口裂け女「……」
~~~~~~~~~
口裂け女「……」スタスタ
女「どこに行ってるんですか? 好きな食べ物は?」タタタッ
あの後、私はダッシュで逃げた。
逃げた、はずなんだけどコイツは平然と私のあとをついてきている。100m12秒なんだけど。
そんなことより、どうして私はこいつを殺さなかったのか。
今までの私は、奇を衒った答えを言った奴も、「キレイ」と答えた奴も理不尽に殺してきたのに。
女「3サイズは? ご自宅は?」
口裂け女「うるせえ」
口裂け女「つーか、なんでついてくるんだよ」
女「えっ、だって……」モジモジ
口裂け女「だあーっ! もうっ! 早く言え!」
女「今別れたら、会えなくなっちゃう気がして……///」
口裂け女(なんなんだよコイツ……)
口裂け女「私になんか恨みでもあんの?」
女「えっと……///」
女「私を無理やり恋に落とさせた恨み、ですかね……」
口裂け女「謝るからどっか行ってくれ!」
女「ずっと気になっていたんですが……」
口裂け女「あ?」
女「その可愛いお口はどうなされたんですか? ワイルドで素敵です」
口裂け女「……」
女「でも、縫ったりしないんですか? 私ぐらいにか分かりませんよ。その美しさ」
口裂け女「まあ、この世でお前くらいだな」
女「で、縫ったりしないんですか……?」
口裂け女「……」
女「縫ったりしないんですか?」
口裂け女「……るさい……」
女「あ、あのー「うるさい!!」
女「!」ビクッ
口裂け女「……」
女「ご、ごめんなさい……」
口裂け女「……もう行く。ついてくるな」
彼女にとってこの口は苦しみであり、武器であり、そして、存在意義だった。
これがなければ私は語られることもない。そうなると、どこぞの落ちぶれた神のように消えるだけ。
この口はコンプレックス。だけど、これがないと生きていけない。
女「ご、ごめんなさいっ……」ポロポロ
女「わ、わたし……」
口裂け女「うるさいって言っただろ。今度何か喋ったら殺す」
女「ひっぐ……」
少女が泣いている間だろうか、いつのまにか口裂け女は消えてしまっていた。
~自宅~
女「はあ……」
妹「?」
妹「お姉ちゃんどうしたの?」
女「口裂け女さんには何処で会えるのかな」
妹「し、知らねーよ」
女「む。馬鹿にしたでしょ」
妹「えっ、し、してないよ~……」
女「真剣に考えて。怒るよ」
妹「ええー……」
~~~~~~~~~
妹「えっと、パソコンで調べたんだけどね。飴が大好きらしいよ」
女「へー……可愛い///」
妹「神社に寝泊りしているとかとか……」
女「ふむ……」
女「……よし……」
女「……うん、ありがとね!」
妹「えへへ///」
女「こんな訳わかんない質問にも答えてくれるなんて……ちょっと引いたけど」
女「やっぱり持つべきものはシスコンだなあ」ウンウン
妹「おい」
~翌日~
一日目。私は神社で待ち伏せすることにした。
でもやっぱり夜の神社はちょっと怖い。はやく来ないかなあ……。
女「うー、さむ」
ガサッ
女「ファッ!?」ビクッ
女「……?」
まさか、まさかアイツがいるとは思わなかった。怖い。
なぜここが分かったのか。神社なんかアホほどあるはず。それをピンポイントで突いてくるアイツが怖い。
アイツが、怖い。何を考えているのかわからないのが怖い。気になってしまう。
アイツのことが気になってしまう。そんな自分も怖い。
口裂け女は踵を返し、闇夜に紛れてしまった。
二日目。今日は飴をたっぷり持ってあの公園で待つことにした。
一晩中神社にいたおかげで、少し風邪気味だ。
女「んまい」ペロペロ
女「んー、『飴』はおいしいなあ!!」
砂場で遊んでいる子ども達はぎょっとした。
女「口裂け女さん好みの味だぁー(棒)」
子どもたちの母親はそそくさと我が子を連れて公園から出て行った。
女「……はぁ……」
女「早く会って、謝りたいな……」
女「そして……この想いを……」
「……」
三日目。私は風邪をひいてしまった。
とてもひどいものだった。もうベットから動けないくらい。
それでも私は行きたい。会いたい。口裂け女さんに会いたい。
女「はぁ……はぁ……」
妹「……駄目だよお姉ちゃん動いちゃ……」ナデナデ
女「……行く……行かせて」
妹「お姉ちゃん……」
妹「あのね。ほんと言いたくなかったんだけど」
女「……?」
妹「お姉ちゃん。もうやめようよ。こういうの」
女「えっ?」
妹「ほんとは嘘なんでしょ……? 馬鹿らしいし、もうやm「出てって」
妹「お、お姉ちゃん……」
女「ごめん。ここから出て行って」
妹は悲しそうな顔をしてこの部屋を去っていった。
女「ごほっ……ごほっ」
~~~~~~~~~~~~
深夜。一時くらいだろうか。しんと静まり返った部屋。
明かりをつけて、少女は天井をまっすぐ見ている。どうも眠れない。
そんな時、がちゃりとドアノブが回った。ゆっくりと、10cmくらい隙間が空く。
少女はすぐに分かった。
口裂け女「……」
口裂け女が申し訳なさそうに、コンビニの袋をぶら下げて少女の部屋に入ってきた。
女「! 口裂け女さん……!」
口裂け女「……」スタスタ
口裂け女はそっと少女のベッドに腰を掛けた。
女「い、いわなきゃいけないことが……」
口裂け女「……大丈夫。全部見てたし。言いたいことも伝わってる」
少女は安堵の溜息をついた。
女「ごほっ、ごほっ……」
口裂け女「……大丈夫?」ナデナデ
女「えへへ///」デレデレ
口裂け女「大丈夫そうだな……」
口裂け女「これ、ゼリーとか、飴とか買ってきたから」ヒョイ
女「あーんしてくれるなんて……」
口裂け女は溜息をついてから、優しく微笑んだ。
ゼリーのふたをはがし、スプーンで一すくい。
それを少女の口元に持っていく。少女は苦しそうにしながらも笑みを絶やさず、ゼリーを口に含む。
口裂け女「おいしい?」
女「とっても……」ニコ
~~~~~~~~~~~~
TV「――」
女「ふふっ……」
口裂け女「……」
なんとなく気まずくなったのでテレビをつけ、深夜の番組を見る二人。さりげなく手を繋ぎながら。
10分くらいたった頃、口裂け女はこの静寂を切り裂いた。
口裂け女「私さ、まあ、はっきり言うけどこの口、コンプレックスなんだよ」
女「……」
口裂け女「人間だった頃も、今も。すごくつらい」
女「口裂け女さん……」
口裂け女「でもさ……お前が言ってくれたんだ」
口裂け女「心から言ってるってのが分かった。この口が、私がキレイだって」
女「は、はい///」
口裂け女「それでさ。好きになっちゃったんだ。お前の事」
女「ああ、はい……って、えっ!?」カァァッ
口裂け女「だ、だから好きになったんだよ///」
口裂け女「よくわかんねーけど……ああっ、もうっ///」
女「わ、私も!」
女「私も好きです!」
少し我に帰った口裂け女は「キスはできないんだろ?」と言った。
そして、口裂け女はマスクを外した。
女「え、していいんですか?」
口裂け女「やれるもんならな」ハハ
チュッ
女「ん……///」
口裂け女「!?///」
口裂け女「お、おいっ! 何してるんだよ!」カア
女「だ、だって……口裂け女さんが誘うもんですから……///」
まあなんやかんやでキスしまくったあと
口裂け女「……」
口裂け女「私さ、人を攫う、とかも言われてるんだけどさ」
口裂け女「ま、まあしてないんだけど……」
女「……」
口裂け女「……攫ってしまいたいっていったら……どうする?」
女「えっと……///」
女「攫われますっ!」
~完~
~後日~
口裂け女「ごほっ……」
女「ごめんなさい……」
口裂け女「いいよ……別に……」ゴホゴホ
女「ごめんなさい、私、キスしかしてあげることがないんです……」
口裂け女「ちょっ!?」
~~~~~~~~~
口裂け女さんは今、私の部屋に住んでいる。というか家族の一員になってしまいました。
母と父はどうぞどうぞと、妹は気絶。無理もないよね。
で、で! なんと、口裂け女さんは社会に出るため、口を縫ってしまいました! かなり雑だけどそれがまたお美しいんですよ。
社会に出てお金を貯めるらしいんですけど……何に使うんでしょうか。まーさか、私の為なんかじゃないですよね。
口裂け女「結婚かぁ……」ボソッ
女「およ?」
~完~

