男「お前ってさ、いつもぼけ~っとしてるよな」
男「お気楽マイペースっていうかさ」
男「なんというか、迫力に欠けるんだよ」
友人「そうかなぁ」
男「お前がどうしてそんな人間になったのか、俺には分かる」
友人「え、教えてよ」
男「ずばり、お前には夢や野望ってもんがないからだよ!」
友人「夢や野望、ねえ……」
男「ほら、全然ピンときてない時点で、お前にゃ夢や野望がないってことだ」
友人「じゃあ、君には夢とか野望があるの?」
元スレ
男「俺は世界を征服する!」友人「は!?」
http://hayabusa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1353501380/
男「ある」
友人「へぇ~、もしよかったら教えてよ」
男「本当は極秘にすべきなんだが……」
男「幼稚園の頃からの親友にそこまでいわれたら、教えないわけにはいかないな」
男「お前だけには、俺の夢、俺の野望をこっそり教えてやろう」
友人「うん」
男「いいか……。耳をかっぽじって、よおく聞けよ」
男「俺は世界を征服する!」
友人「は!?」
友人「全然こっそりじゃなかったね、ってそれはいいとして」
友人「世界を征服……ってなんでまた、そんな大それた野望を……」
男「お前は今の日本……いや世界をどう思っている?」
友人「どうっていわれても……」
友人「……ごめん、あんまりそういうことを考えたことがなくて」
男「腐ってる」
友人「え?」
男「世界は腐りきってしまっている」
友人「はぁ……」
男「戦争や紛争は今だなくならず」
男「発展途上国は疫病と貧困にあえぎ」
男「先進国はというと、欲にまみれた利権争いを繰り返している」
男「そうして人々が下らない小競り合いを続けているうちに」
男「環境破壊はとどまることを知らない……」
男「どうだ」
男「世界を腐りきってるだろう」
友人「まあ……あまりいい状態とはいえないかもしれないね」
男「ふふ……だろう?」
友人「でもさ、世界を征服ったって、どうやってやるの?」
男「千里の道も一歩から、という」
男「まずは俺たちの手でこの町内を征服する!」
友人(町内からか……先は長いな)
友人(しかも俺たちって、いつの間にかボクがメンバーに入ってるし……)
男「町を征服するには、やっぱ町役場を占領するのが手っ取り早い」
男「役場に乗り込んで、町長を人質にしてやる」
友人「ず、ずいぶん荒っぽいね……」
男「役場を占領したら、今度は兵を集める」
友人「兵を集めるって……いったいどうやって?」
男「んなもん、町内放送で呼びかけるに決まってるだろ」
男「俺がいかに世界が腐ってるか説明すりゃ、人がどんどん集まるはずだ」
男「しかも、今はネット時代だ」
男「ネット上の掲示板とかに書き込めば、町中どころか全国から兵を集められる!」
友人(インターネット掲示板に“世界征服やるから集まれ”なんて書き込んでも)
友人(無視されるか、いいオモチャにされるだけだと思うけど……)
友人「だけど、悠長に兵を集めるヒマがあるかな?」
友人「まずまちがいなく通報されて、警官が来ると思うんだけど……」
友人「そこで捕まっちゃったらいきなり世界征服計画がパーだよ」
男「警官……?」
男「ふん、あんな奴ら俺の敵じゃない」
男「警官がいくら来ようと、俺が全員叩きのめしてやる」
友人「叩きのめせるかなぁ……」
友人「だって警官って、みんな仕事で武道をやってるでしょ?」
男「ハハハ、武道ねえ」
男「武道ったって、しょせん柔道と剣道だろ?」
男「柔術ならいざ知らず、柔道は組んで投げるしか能のない武道だ」
男「近づかず、ある程度の間合いを置いて」
男「打撃戦に持ち込めば奴らは手も足も出せなくなる」
男「しかも柔道技の大半は、相手が柔道着を着てることが前提の技だ」
男「つまり柔道着を着ず、パンチやキックで戦えば、警官は敵じゃないってことだ」
友人「……まあ君の理論は正しいとして」
友人「そしたら、今度は剣道で立ち向かってくるんじゃない?」
友人「打撃で剣道に勝つのはキツイでしょ」
男「ふん、剣道とはいっても、奴らが使うのは本物の剣じゃない」
男「竹刀や警棒とかいう棒切れを振り回すだけ……むしろあんなもん棒道と呼ぶべきだ」
男「一度懐に入っちまえば、もうやりたい放題よ」
友人「でも懐に入ると、今度は柔道技が待ってるんじゃない?」
男「だから柔道には打撃で──」
友人「だけど打撃だと剣道には不利じゃない?」
男「剣道なんか懐に入っちまえば──」
友人「そしたら柔道が……」
男「…………」
友人「…………」
男「……分かった、じゃあこうしよう」
男「まず棒切れをかいくぐって、警官の棒切れをパンチでふっとばす」
男「そしたら、柔道しかできなくなった警官を打撃技で叩きのめす」
男「これならどうだ? バッチリだろ!?」
友人「……う、うん、それでいいと思う」
男「よし!」
男「この戦法なら、警官なんか千人来たって敵じゃないってわけだ!」
友人「うん、そうだね!」
友人(ここはもう、話を進めた方がよさそうだ)
友人「警官がダメだったら……次はなんだろ。多分、機動隊とかが来るよね」
友人「機動隊のあの大きな盾はどうするの?」
男「お、いい質問だな」
男「盾っていうのは優秀な防具だが、同時に弱点にもなりえるんだ」
友人「弱点?」
男「防具を身につけてると、どうしても守られてるから大丈夫って油断が生じてしまう」
男「つまり、あの盾をどうにかしちゃえば機動隊はどうにでもなる」
友人「……えぇと、その盾をどうにかしちゃうってのはどうやるの?」
男「簡単だよ」
男「回り込めばいいんだ」
友人「へ?」
男「機動隊ってこんな風に、盾を前方に構えてるだろ?」サッ
男「だから回り込んでしまえば、機動隊員は無防備だ」
男「無防備な首筋に手刀なりなんなりを打てば、あっさり倒せる」
男「自分には盾があるって油断し切ってるはずだからな」
友人「でも機動隊って一人だけじゃなくいっぱいいるから……」ボソッ
男「ん、なんかいったか?」
友人「い、いやなにもいってないよ! 続けて!」
男「よしよし」
男「警官と機動隊を倒したら……次は自衛隊だな」
友人「さすがに自衛隊は無理なんじゃ……」
友人「前テレビで自衛隊特集みたいなのを見たけど」
友人「あの人たち、朝から晩まですごい訓練やってるよ?」
友人「警官や機動隊をやっつけた相手なら、銃とかもバンバン撃ってくるだろうし」
男「いや、いける」
男「訓練はいくらこなそうがしょせん訓練であって、実戦じゃない」
男「自衛隊員の大半は本物の戦争を知らない、いわば素人だ」
男「素人がいくら向かってきたって、俺にはかなわねえよ」
友人「戦争を知らないって、君は戦争を知ってるの?」
男「もちろんだとも」
男「俺は戦争モノのアニメや映画を何本も見てるからな」
男「お前にもDVD貸してやったことがあるだろ?」
友人「…………」
男「なんだよ、なにかいいたげだな。いってみろよ」
友人「自衛隊の人にも、戦争モノの映画とかを見たことある人はいると思うんだけど」
男「……ふっ」
男「しょせん奴らは映画やアニメを単なる娯楽としか見てない」
男「ただ楽しむだけ……そんなんじゃ、いくら見ても血にも肉にもなりゃしない」
男「だが、俺はちがう」
男「俺は映画やアニメを現実の命のやり取りとして眺めている」
男「しかも現実より作り話の方が、スケールがでかいに決まってる」
男「なんたって宇宙を舞台に戦ったりもするわけだからな」
男「だから俺は自衛隊どもの何倍も、戦争に対する心構えができてるってわけだ」
男「毎日のように、アニメや映画で訓練してるわけだからな」
友人「でも、さっき訓練と実戦はちがうって──」
男「うるさいっ!」
男「そうやっていちいち屁理屈をこねるから、お前はダメなんだ!」
男「俺のは実戦に近い訓練、奴らのは遊びに近い訓練!」
男「同じ“四捨五入して10”でも、11と14じゃ全然ちがうだろ!?」
友人「まあ、たしかに……」
友人(もっといい例えはなかったのだろうか)
男「分かったならいい」
男「とにかく、これで自衛隊はせん滅した」
友人「せん滅したんだ」
男「兵を率いて国会議事堂を乗っ取ったら」
男「いよいよ俺の俺による俺のための政治の開始だ!」
男「これで日本は俺の国になったんだから、当然日本国なんて名前は変える」
男「俺の名前を国の名前にして、民主主義も帝政に改める」
男「俺は自由に名前をつけられるゲームだと、必ず主人公を自分の名前にするからな」
男「国家元首はもちろん俺」
男「お前はそうだな……大臣ぐらいにはしてやる」ビッ
友人「ど、どうも」
男「憲法も法律も全部俺が作る」
男「俺に刃向かう人間は即死刑、俺を崇拝する人間にだけ人権を与える」
男「そして俺により多く奉仕した奴ほど、高い階級にしてやる」
男「この腐りきった日本とはちがう、真の自由と平等の社会を作るんだ」
友人(矛盾しまくってる気がするけど……触れると怒るだろうからやめとこう)
友人「まぁとにかくこれで、日本は征服したわけだけど、次はどうするの?」
男「お、お前もだいぶ乗ってきたな」
男「もちろん、次は海外進出だ」
友人「ついに海外か……まずどこから攻めるの?」
男「古代中国で、こんな言葉が生まれたのを知ってるか?」
男「遠交近攻」
友人「エンコウキンコウ……?」
男「遠くの国と手を組み、近くの国を攻めろ、って意味だ」
友人「ふうん」
男「だからまずヨーロッパ諸国と手を組み──」
男「中国、ロシアを攻略し、アジア全土を滅ぼす」
友人「中国とロシア……どっちも相当手強いと思うけど」
男「外国人の浅い戦術なんぞ、クラウゼヴィッツの『戦争論』を読んだ俺には通じん」
友人(“遠交近攻”も“戦争論”も外国人の知恵じゃないか)
友人「あと、ヨーロッパと手を組むっていってもどうやって?」
男「金だよ」
友人「金?」
男「金で買収する」
男「ヨーロッパは今ひどい不景気だろ、ギリシャとか」
友人(とか、ってなんだよ)
友人「ヨーロッパを買収する資金はどうやって稼ぐの?」
男「ほら、あれだよ」
男「FXとか株とか、温泉とか石油とか、徳川埋蔵金とかM資金とか……」
友人「なるほどね」
友人(具体的な方策はなし、と)
男「振り込め詐欺やネズミ講とかもいいかもな」
友人(仮にも国家元首がやることじゃない)
男「んで話を戻すが、ロシアとアジアを全て平らげたら、ヨーロッパを即裏切る」
友人「え、裏切るの!?」
友人「せっかく買収したのに……」
男「当たり前だろ」
男「俺の目標は世界征服なんだから、いつまでも同盟してるつもりはない」
男「戦争には裏切りがつきものなんだよ、関ヶ原とか」
男「で、ヨーロッパを征服したら、すぐさま南下してアフリカ全土を領地にする」
男「同時にオセアニア諸国と南アメリカにも兵を送り込み、支配下に置く」
男「これで最大の難敵、アメリカ合衆国の包囲網が完成する」
友人(元々雑だったけど、ここにきて一段と雑になったなぁ)
友人(しかも包囲網が完成するまで、アメリカは全く動かないって前提なんだね)
友人「君ならボクがいうまでもなく分かってるだろうけど」
友人「アメリカ軍は強敵だよ」
友人「どうやって戦うの?」
男「まともにアメリカとやり合っても勝つ自信があるが──」
男「向こうも核とか持ってるし、俺の帝国もかなりの被害を受けるだろう」
男「世界を征服しても、地球は廃墟でしたじゃ意味がないし、面白くもない」
男「だから俺は、アメリカ大統領選に出馬する!」
友人「な!?」
友人「なんで大統領選に出るの?」
男「お前も察しが悪いな」
男「俺がアメリカ大統領になれば、アメリカと戦争する必要はなくなるだろ?」
友人「選挙にはどうやって勝つつもり?」
男「聞いた話じゃ、アメリカ大統領選ってのはスキャンダルの暴き合いらしいから」
男「スパイをいっぱい使えば楽勝だろ。CIAとかKGBとか……」
友人(CIAってアメリカじゃん……KGBはもうないし……)
男「俺は彼女無しの童貞だから、スキャンダルなんて言葉とは無縁だしな」
友人(自慢できることじゃない)
友人(というか、世界のほとんどを一人の人間に征服されたのに)
友人(アメリカものんきに大統領選とかやってる場合じゃないと思う)
男「もちろん大統領になったら、大統領権限でアメリカは即解体」
男「俺の帝国に組み込むけどな!」
男「これで俺の世界征服、地球帝国は完成ってわけだ!」
友人「うわぁ、すごい、やった、おめでとう!」
男「…………」
男「なんかお前、はしゃぎ方が適当じゃないか? 心がこもってないっていうか……」
友人「え!?」
友人「い、いやそんなことないって! ハハハ……!」
友人「──あ、そ、そうだ! 世界を征服したら、あとはどうするの?」
男「そしたら、やっぱり宇宙だろ! 宇宙進出は男のロマンだ!」
男「宇宙戦艦とか、宇宙要塞とか、戦闘ロボットとかいっぱい作って……」
男「火星とか金星、太陽に宣戦布告する!」
友人(火星、金星、太陽って、無人だろうけどね……)
男「どうだ、俺の世界征服計画!!!」
男「聞いてるだけで、燃えてくるだろ!?」
男「なんつうか、心の奥底にある本能みたいなのが刺激されるだろ!?」
友人「ま、まぁね……」
友人(聞けば聞くほど、心も体も冷めていったよ)
友人(なんでボク、こんな話聞いてるんだろ……って感じで)
男「──で、俺はこの計画をいよいよ明日から実行に移すつもりだ」
友人「ん?」
友人「今なんていった? もう一回いってくれる?」
男「今お前に話した計画を、明日から実行するっていってるんだよ」
友人「え~~~~~っ!?」
友人「いやぁ、さすがにそれは止めた方がいいんじゃ……」
友人「今話した内容を一度ノートに書いて、冷静に読み直した方が……」
男「なんでだよ」
友人「急いてはことを仕損じるっていうじゃない」
男「善は急げ、ともいうだろ」
友人(世界征服のどこが善なんだよ)
友人(まあ、ここは彼のやりたいようにさせるべきだろう)
友人「ボクはかげながら応援させてもらうけど、頑張って!」
男「なにいってんだ」
男「お前も俺に協力するんだよ」
友人「へ?」
男「当たり前だろ」
男「お前は俺の全計画を聞いたわけだし──」
男「お前は俺の親友だからな!」ニコッ
友人「…………」
友人(世界征服はともかく、頼ってもらえるってのは少し嬉しいな……)
友人(いやでもやっぱり世界征服ってのはどうかと思うけど)
男「前哨戦だ」
男「あそこに同級生のモヤシが歩いてるだろ」
男「手始めに、アイツを叩きのめす」
友人「え!? ちょっと待っ──」
男「おい、モヤシ」
モヤシ「!?」ビクッ
モヤシ「な、なんだよぅ……」オドオド
男「俺の野望開始の前祝いだ、悪いが再起不能になってもらう」ガシッ
モヤシ「ひぃぃ……やめてよぅ……」
ドカッ! ボカッ! バキッ!
友人「大丈夫?」
男「うぐっ……いででっ……。口の中切っちまった……」
男「ちょっと油断しちまったな……」
友人(油断っていうなら、モヤシ君はほとんど不意打ちされたようなもんだったけどね)
友人「やっぱり世界征服なんて止めた方がいいんじゃ……」
男「いや絶対やる! 男に二言はないんだ!」
男「明日の正午、俺とお前の二人で町役場に襲撃をかける!」
男「分かったな!」
友人「分かったよ……」
男「じゃあ、解散!」ヨロヨロ…
友人「やれやれ……」
友人(ふぅ……とんでもないことになっちゃったな)
友人(でも、ボクにも彼を見習わなきゃならない部分はある)
友人(たしかにボクは、なにかに本気で取り組んだことがなかった……)
友人(勉強もスポーツもなんでも、ぼけ~っといい加減にやってた気がする)
友人(彼の世界征服計画、ボクも本気で付き合ってみようかな)
友人(じゃあ、ちょっと練習しておこう)
友人(そこの高層ビルに軽~くパンチを打ってみるか)
友人「えいっ」コツンッ
ズゴゴゴゴゴ……! ズドォォォォォンッ!
友人「お、ビルを倒壊できた」
友人「けっこうボクって力持ちだったんだな、今まで知らなかったよ」
友人「よぉ~し、明日からは本気出すぞ!」
【END】

