カツーン… カツーン…
ギィィ…
刑務官「出ろ」
死刑囚「へっ、とうとう俺も年貢の納め時か」
刑務官「ついてこい」
死刑囚「へいへい」
カツーン… カツーン… カツーン… カツーン…
元スレ
死刑囚「へぇ~、今時の死刑は死刑囚の希望を聞いてくれるのか!」
http://viper.2ch.sc/test/read.cgi/news4vip/1534091479/
ギィィ…
死刑囚「なんだここ? 取調室みたいな場所だが」
刑務官「かけたまえ」
死刑囚「……?」ドスッ
刑務官「今日は君の処刑を行うのではない」
死刑囚「ほぉ」
刑務官「君の希望を聞くだけだ」
死刑囚「希望?」
死刑囚「希望って、どういう希望だ?」
死刑囚「まさか、死刑にしないでってお願いしたら叶えてくれるのか?」
刑務官「さすがにそういうわけにはいかないが……」
刑務官「死刑にあたって、処刑の際はこうして欲しい、などの希望があったら」
刑務官「可能な限り聞き入れてやることになっているのだ」
死刑囚「へぇ~、今時の死刑は死刑囚の希望を聞いてくれるのか!」
死刑囚「どうしてそんな計らいを?」
刑務官「今は人権がどうのいった団体がうるさくなってきてな」
刑務官「こちらとしても面倒だが、対応しないわけにはいかなくなってきたのだ」
死刑囚「なるほどねえ……」
死刑囚「罪のない男女を金目的で五人も殺した俺の希望を聞いてくれるのかい」
死刑囚「ありがてえ話だな、アッハッハ!」
刑務官「……」
死刑囚「……だけどよ」
死刑囚「ありがたすぎて……」
死刑囚「なんか裏があるんじゃねえの、と勘ぐっちまうよ」
死刑囚「希望を聞くだけ聞いて、なんも反映しませーんとかよ」
刑務官「だったら希望を出さないという選択肢もあるぞ。その方が手間が省ける」
死刑囚「……」
刑務官「出さないということでいいか?」
死刑囚「んなわけねえだろう! 出すよ、出しますよ!」
刑務官「では聞き取っていくから話してくれ」
死刑囚「まず第一に……苦しみたくねえな」
刑務官「苦しみたくない、ね」カリカリ
死刑囚「ようするに、痛みがないようにして欲しい」
刑務官「痛みがないように……ま、当然の要求だな」
死刑囚「拷問まがいの処刑なんて絶対ごめんだぜ!」
刑務官「他には?」
死刑囚「一瞬で決めて欲しい」
刑務官「あー……時間か」
死刑囚「それに、一瞬で済ませる方があんたとしても楽だろう?」
刑務官「そりゃそうだ。そうに決まってる」
死刑囚「あとは……拘束もして欲しくない」
死刑囚「手錠ぐらいは仕方ないとしても、他には一切拘束具をつけないでくれ」
刑務官「最期の時ぐらい自由の身で迎えたいってことか」
死刑囚「そういうことだ。今さら暴れるつもりもねえしよ」
刑務官「ま、きちんと書きとめておくよ。安心しておけ」
死刑囚「あ、それと!」
刑務官「まだあるのか」
死刑囚「体に傷は付けないで欲しい」
死刑囚「特に、血を流すような処刑方法は断じてゴメンだ!」
刑務官「どうせ死ぬのにそんなことを気にするのか?」
死刑囚「当たり前だろ!」
死刑囚「もしかしたら、死んだ時の状態で、あの世に行くことになるかもしれないんだからな」
死刑囚「どうせだったら、キレイな状態で死にたいってのが人情ってもんだ」
刑務官「粗暴な凶悪犯とばかり思ってたが、案外デリケートなところもあるんだな」
刑務官「場所の希望はあるか? さすがに外に出すことはできないが……」
死刑囚「明るい部屋でやって欲しい。これは簡単に叶えられるだろ?」
刑務官「ほう、暗い部屋の方が恐怖がやわらぎそうなものだが」
死刑囚「陰気くさい部屋で、ジメジメと死ぬのは嫌だからな」
死刑囚「天国に行けなくなっちまう気がする」
刑務官「未だに天国に行く気でいるとは、図々しい奴だ」
死刑囚「図々しくなきゃ、死刑囚になるようなことしねえって」
刑務官「まあ……希望を反映した部屋になるよう手配しよう」
死刑囚「そういえば、処刑前にやりたいことなんかもリクエストできるのか?」
刑務官「ああ、できる」
死刑囚「だったら、おいしいもの食べたい!」
刑務官「おいしいもの?」
死刑囚「色んな地方の名産や珍味をたっぷり食べてから死にたい!」
刑務官「最後の晩餐というわけか……考慮しよう」
死刑囚「あと実は、俺ってシャバにいた頃は結構香水やアロマの類に凝ってたんだよな」
刑務官「ほう、意外な一面だな」
死刑囚「だから……最期にいい匂いを嗅がせて欲しい」
刑務官「いい匂い……と。なるほど」カリカリ
刑務官「じゃあ、こんなところで――」
死刑囚「待ってくれ、まだある!」
刑務官「……まだあるのか」
死刑囚「遺書を書く時間はたっぷり設けて欲しい」
死刑囚「どんな気分で人を殺したか、どんな気分で死ぬのかってのを後世にしっかり伝えたいからな」
刑務官「そんなこと伝えてどうするんだ」
死刑囚「人間ってやつは確定的な死を目の前にすると、何でもいいから」
死刑囚「自分の足跡ってやつを残したくなるんだよ」
刑務官「君に殺された人たちも残したかっただろうな、きっと」
死刑囚「おいおい、それをいうなって」
死刑囚「あー……あと!」
刑務官「なんだ」
死刑囚「美人のお姉さんもつけてくれると嬉しい!」
刑務官「……」
死刑囚「やっぱ無理?」
刑務官「ま、善処しよう」
死刑囚「うん……こんなとこかな。こんだけ希望をいえば悔いも残らねえや」
刑務官「痛みを感じないようにしろ、一瞬でやれ、拘束するな、体に傷をつけるな……」
刑務官「ワガママな奴だ」
死刑囚「希望をいえっていったのはそっちだろうが?」
死刑囚「それに、希望を聞かないと団体がうるさいんだろ? 頑張ってくれよ」
刑務官「まあ、なんとか頑張ってみるよ。我々もプロだ」
死刑囚「頼んだぜ!」
――
――
カツーン… カツーン…
ギィィ…
刑務官「出ろ」
死刑囚「おっ、ついに俺も年貢の納め時ってかぁ?」
刑務官「そういうことだ」
カツーン… カツーン… カツーン… カツーン…
刑務官「処刑はこの部屋で行う。入れ」
死刑囚「あいよ」
死刑囚「ところで刑務官さん、死刑にあたっての“希望”はしっかり叶えてくれたんだろうな?」
刑務官「ああ、できる限りな」
刑務官「前にもいったが、我々もプロだ」
死刑囚「おほっ、ありがてえ!」
ギィィ…
ムワァァァ…
死刑囚「うっ、くさっ!」
死刑囚「なんだこの薄暗い狭い部屋は……」
死刑囚「おいっ! どういうことだよ!? 俺は明るくいい匂いのする部屋を希望してたはずだぜ!?」
刑務官「希望を全て叶えた結果だ」
死刑囚「ハァ!?」
死刑囚「なにいってんだ、俺の希望は――」
刑務官「お前の希望じゃない」
死刑囚「え?」
刑務官「お前に殺された被害者の……遺族の希望だよ」
死刑囚「え……」
死刑囚「ちょっと待て! 今は団体がうるさいからって……」
刑務官「そうだ。今は被害者や遺族の人権どうたらって団体がうるさくて」
刑務官「死刑にあたって、処刑の際はこうして欲しい、などの希望があったら」
刑務官「可能な限り聞き入れてやることになっているのだ」
死刑囚「な……!?」
刑務官「ちなみにお前が殺した被害者の遺族の希望は――」
刑務官「“死刑囚の希望を聞いてやり、その逆をやること”だ」
死刑囚「あ……!」
刑務官「あれだけワガママをいったお前の希望の逆をやるのは一苦労だが、ちゃんと準備はできた」
刑務官「ほら、うまい料理や美人のお姉さんの“逆”もちゃんと用意してある」
プーン…
老婆「ふえっへっへ。おいしそうな小僧じゃのう」
死刑囚「……!」
死刑囚「ま、待ってくれ……勘弁してくれ……」
刑務官「だから、希望なんか出さない方が手間が省けるといったんだ」
刑務官「そうしなきゃ、我が国でごく一般的な処刑方法で終わってたんだからな」
刑務官「まったくもって面倒な仕事だが、これで遺族の気が少しは晴れるなら、と思えば」
刑務官「やりがいのある仕事ではあるな」
刑務官「さ、始めようか。全身を拘束して、たっぷり時間をかけねばならんからな」
死刑囚「やめろ……やめてくれ……。やだ……普通に殺してくれぇ……」
死刑囚「うわあああぁぁぁぁぁぁっ……!!!」
END
それ抜きでもくそつまんない