「さぁ、どうぞ召しあがれ」
赤ずきんちゃんはそう言うと、するすると服をぬいでいきました
「ちょ、ちょっとまって」
おおかみさんは、あわててしまいました
たしかに、"たべちまうぞ"とは、いったけど
そういういみじゃあないから
なにやってんの、この娘
元スレ
赤ずきん「さぁ、どうぞ召しあがれ」 おおかみ「ちょ、ちょっとまって」
http://hebi.5ch.net/test/read.cgi/news4vip/1516103418/
そんな、おおかみさんの言葉など気にせずに
赤ずきんちゃんはぬいだ服を、
一枚ずつ、だんろにくべていきました
「お、おい、ちょ、え……!?」
服がもえていくようすと、それを見てあぜんとしている
おおかみさんのようすを見て、赤ずきんちゃんの
"ほお"がこうちょうしていきます
赤ずきんちゃんは、おとなしそうに見えて、
とんでもないだいたんさを、かねそなえていました
赤ずきんちゃんは、"とれーどまーく"の
赤ずきんもはずしてしまいました
今日は、私を、"赤ずきんちゃん"とよばないでほしい
私はわたし
おおかみさんには、ありのままの、自分を見てほしかったのです
だって、おおかみさんに、出会ってから、私――
ちょっと前の赤ずきんちゃんなら、
こんなことをするなんて、考えられませんでした
"赤ずきん"とは、"にっくねーむ"であり
本名ではありません
なんで"赤ずきん"とよばれるように
なったのでしょうか
赤ずきんちゃんは、かつての自分のすがたを
思いだしました
――
―――
「おいばばぁ、めし!」
赤ずきんちゃんは、とってもやさしいおばあさんに
いつものように、どなりつけました
「ごめんね、ごめんね」
おばあさんは、あやまるひつようもないのに
あやまってしまいます
そんなようすが、赤ずきんちゃんを
どんどん調子づかせます
くそっ
赤ずきんちゃんは、いらいらしてました
毎日ごはんがでてくるのが、あたりまえだと
思っているのです
「おい、ばばぁ、はやくしろ」
そもそも何で、私が言う前に
ごはんが出てこないのか
赤ずきんちゃんは、それすら
はらだたしかったのです
「ちょっと何よ、今日はこれだけ?」
「ごめんね、うちもきびしいのよ、ごめんね」
あかずきんちゃんは、したうちをすると、
しぶしぶ食べはじめました
ごはんをよういしてくれた、おばあさんよりも先に
「かけいがきびしいなら、はたらけよ、ばばあ!」
赤ずきんちゃんは、ごはんを食べながら、
ひにひに、やつれていく
おばあさんに向かって、つぶやきました
「ごめんね、ごめんね」
おばあさんは、またあやまってしまいます
そういう赤ずきんちゃんは、
いわゆる、"なにもしてないこ"でした
おばあさんを、どなりつけるだけの、毎日です
外では"むしょく"のあかずきんちゃんの、
家での、やくしょくは"じょうおうさま"です
家には、おばあさんと赤ずきんちゃんの
二人だけです
"ざいげん"がありません
ためていたお金が、そこを尽きかけていたので、
おばあさんは、家にある"かざい"などを売って
せいけいをたてて、いました
"いつかどうにかしないといけない"
そう思いながら、おばあさんは、
やさしいえがおをくずしません
こんな、赤ずきんちゃんでも
おばあさんにとっては、たからものでした
ぜったいに"だいじに育てる"と
心に決めているのです
あるていど、きびしくすることも"あいじょう"だと
おばあさんは分かっていましたが、
本来のやさしいせいかくからか、
なかなか、心を"おに"にできません
「ごめんね、ちょっと、かいものに行ってくれるかい」
ある日、おばあさんが、赤ずきんちゃんに
思い切って、たのみごとをしてみました
おばあさんは、このたった一言を、言うだけでも
つよい"ゆうき"がひつようでした
「はぁ、じぶんでいけよ、ばばぁ」
赤ずきんちゃんは、きれました
「ごめんね、足をいためてしまってね、
ちょっと今、あるくことが出来ないんだよ」
すかさず言ったそれは、
おばあさんが、考えたうそ"でした
たしかに、おばあさんは、足をいためていましたが
歩けないほどじゃあありません
「このまま、かいものに行けないと
今日はごはんが食べられないのよ、ごめんね」
おばあさんは、どうしても、赤ずきんちゃんに
"いっぽ"を、ふみだしてほしかったのです
ごはんが食べられなくてはこまると、
赤ずきんちゃんは、
しぶしぶかいものに行きました
赤ずきんちゃんが、家を出たあと、
おばあさんは小さな声で、つぶやきました
「あなたは、本当は、やさしい子なんだから
おばあちゃんは、分かっているからね」
「くそっ、あのばばぁ、ころしてやろうか」
ふきげんな赤ずきんちゃんは、そんなことをつぶやきながら
とことこ道を歩いてゆきました
赤ずきんちゃんの、住んでいるはなれから、
お店のある村までは、
いちじかん位、歩かなければいけませんでした
「へい、いらっしゃい!」
赤ずきんちゃんは、お店につくと、
元気の良い、お兄さんのかけごえに、
きょどうふしんになってしまいました
「あ、え、あの、う……」
ことばが、上手くでてきません
赤ずきんちゃんは、ほしいもの指でさして
なんとかかいものを、おえました
たったこれだけのやりとりでも、
むねのたかなりが止まりません
「そうそう、さいきんは"人食いおおかみ"があらわれるらしいから
お姉ちゃんも気をつけてかえりなよ」
かえりぎわ、お店のお兄さんがこんなことを言ってくれました
まあ、私はだいじょうぶだろう
そう思い、赤ずきんちゃんは
とくにふか考えずに店をあとにしました
"とにかく早くかえろう"
赤ずきんちゃんは、もうそのことしか頭にありませんでした
まわりを見ずに、かけ足でかえろうとすると、
男女の二人ぐみとぶつかってしまいました
「あら、ごめんなさい」
こいびと同士でしょうか
"くそっ、しあわせそうにしやがって"
赤ずきんちゃんは、自分からぶつかったにもかかわらず、
何にも言わずにそのばを、走り去ってしまいまいした
赤ずきんちゃんは、あらためて、村の人たちを
見わたしてみました
"楽しそうにあそぶ子供たち"
"仲良くすごしているかぞく"
そんなこうけいが、やたらと"はなにつき"ました
くそ、こいつら、私のふこうも知らないで
"こいつらが、あわてふためく姿を見てみたい"
そんな思いから、赤ずきんちゃんは、
ある"あいであ"を思いつきました
――
赤ずきんちゃんは、村のいちばん人が多いばしょへ
やってきて、赤ずきんで顔ををかくしました
そして、お店の人と話した時の小声からはそうぞう出来ないような
大声で、こうさけびました
「おおかみが、来たぞー」
"さあ、逃げまどえ"
赤ずきんちゃんは、にやつきながら、ようすをながめていました
ふだんは、外界から"かくり"されて生きているので
周りの人たちに何かえいきょうをあたえるのが、
楽しみで仕方がありませんでした
あたりは、きゅうきょ、大ぱにっくになりました
泣き出す子供、ころんでしまうお年寄り
にげまどい、あわてふためく人たちのようすを見て、
赤ずきんちゃんは、自分でおどろいてしまいました
"まさか、ほんとうにこんなさわぎになってしまうとは"
自分でやったことなのに、どこかげんじつみがなかったようです
赤ずきんちゃんは、あっというまに、
ざいあくかんで、むねが一杯になり、にげだしたくなりました
そのときです
子どもたちのあそんでいた近くのしげみから、
おおかみさんが出てきました
「ちっ、何でこんなに早く見つかったんだ」
おおかみさんは、あっという間にひなんしてしまった
村の人々のようすを見て、いさぎよくあきらめ、
かえっていきました
おおかみがかえっていくようすを見て、村の人たちは
大よろこびしました
もちろん、おおかみが村へ来ていたのは、たんなるぐうぜんです
「は、……え?」
このこうけいに、いちばんおどろいたのは、赤ずきんちゃんでした
「ありがとう、お姉ちゃん」
まっさきに、おおかみの近くであそんでいた
子供のうちの一人がかけよってきました
「う……あ……」
赤ずきんちゃんは、ばつがわるいようすでした
だって、赤ずきんちゃんは、
ただいやがらせをしようとしていただけなのです
「ほんとうに、ありがとうございました」
こんどは、その子の親たちが近づいてきました
その他の人たちも、どんどんとあつまって来ました
「いやー、お姉ちゃんはいのちのおんじんだ」
「あんなにとおくにいた、おおかみに、気が付けたなんて」
「なんて、ゆうきのあるお姉ちゃんだ」
村の人たちが、次々と声をかけてきます
こんなに、こういてきな目をたくさん向けられたのは
赤ずきんちゃんにとって、初めてのけいけんでした
赤ずきんちゃんは、なんだか恥ずかしくなり
赤ずきんで、かおをかくしてしまいました
「なー、赤ずきんの姉ちゃん、お礼にうちで食事してってよ」
「いやいや、うちで食べていって下さい」
赤ずきんちゃんは、ほんとうはその場から
にげだしたかったのですが、
村の人たちに、ごういんにひっぱられ、
お礼として、おもてなしをうけることになりました
その後、村の人たちとにぎやかにしょくたくをかこみました
「いやー、ほんとうにありがとうございました」
「赤ずきんの姉ちゃんいがい、だれもおおかみに気が付いていなかったんだよ」
そんなことを言われるたびに、赤ずきんちゃんは
ほんの少し、胸がいたみました
"ほんとうは、あんたらの困っているかおが見たくてやったのよ"
そんなこと、言えるはずがありません
うれしさと、はずさしさと、もうしわけなさで、
話しかけられるたびに、かおがまっかになりました
そして、そのたびに赤ずきんでかおをかくしてしまいました
そのようすから、しぜんと"赤ずきんちゃん"と
よばれるようになりました
村の人たちとの、しょくたくでのわだいの中心は、
ずっと赤ずきんちゃんでした
これも、赤ずきんちゃんにとって初めてのけいけんでした
赤ずきんちゃんは、そのじかんが、楽しくて、楽しくて
仕方がありませんでした
"なによ、いい人たちじゃない"
赤ずきんちゃんは小さな声でつぶやきました
こんな人たちに、なんてことをしてしまったのだろうか
赤ずきんちゃんは、その日、せけんに"いいほうこう"で
えいきょうを与えるよろこびを知りました
いやがらせをすることなんかより、今のきもちの方が
ずっとずっと、ここち良いのです
赤ずきんちゃんは、心の中で
村の人たちに、こう言いました
"たすけさせてくれて、ありがとう"
こんなよろこびを、またかんじてみたい
赤ずきんちゃんが、こんな気持ちになったのは
いつ振りでしょうか
いや、そもそも、そんなことがあったでしょうか
何をすれば、またこんなあたたかい気持ちが味わえるのか
赤ずきんちゃんは、考えながら、帰りました
そうして考えながら帰り道を歩いていてると、
なんと、"人食いおおかみ"にそうぐうしてしまいました
「ん、うおっ」
おおかみさんは、知り合いにそうぐうしただけのような
軽い"りあくしょん"で、赤ずきんちゃんと"たいじ"しました
「ひっ……たすけ……あ……」
赤ずきんちゃんは、きょうふのあまり動けず、
大声も上手くだせませんでした
「あー、だいじょうぶ、おじょうさんは、食べないよ」
そんな赤ずきんちゃんに、おおかみさんはおちついて
声をかけました
「え、え……?」
あかずきんちゃんは、わけがわかりませんでした
"おおかみさんにあったら、かならず食べられてしまう"
そう思っていたのです
「さっき村での狩りにしっぱいしてな、
かわりに森でいのししを食べたから、はらがいっぱいなんだ」
「"不要な狩り"はしないのが、にくしょくどうぶつのほこりなのさ」
聞いてもいないのに、おおかみさんが、かっこうつけながら、
教えてくれました
"なんだよ、人を食わなくてもいいのかよ"
赤ずきんちゃんは心の中でつっこみました
「じゃあな」
去っていこうとするおおかみさんに、赤ずきんちゃんは、
思いきって声をかけました
「な、何で……人を食べるの?」
「いや、そんなに俺、人を食わないぞ」
「……え?」
「そんなに人間ばっかり狩ってても、俺の方がもたないしな」
"確かに"と赤ずきんちゃんは、なぜかなっとくしてしまいました
「まあでも、食いたいものを狩る、これがきほんだな」
おおかみさんはつづけます
「"やりたいことをやる"、おじょうさんは、そうじゃないのか?」
"やりたいこと?"
赤ずきんちゃんは、なんのへんとうも出来ずにとまどってしまいました
"やりたいこと"って何?、そんなこと、考えたこともない
「まあ、おれは、いっぴきおおかみだからな
自分の生きたいように生きていくさ」
そういうと、おおかみさんは、
赤ずきんちゃんの前からすがたを消しました
いつのまにか、おおかみさんへのきょうふはなくなっていました
そして、しばらくそのばに立ちつくし、おおかみさんの言ったことを
あたまの中で考えました
生きたいように生きる?何それ?
それは、今まで赤ずきんちゃんの中にはなかった"がいねん"でした
私は、どういうふうに生きたいんだろう
赤ずきんちゃんは、村でのことを思い返しました
「ただいま」
かえってきた、赤ずきんちゃんのそんな一言に
おばあさんは、おおよろこびでした
ちゃんとかいものをしてくれた上に、"ただいま"なんて、言ってくれて
おばあさんはおおげさになんども"ありがとう"とくりかえしました
「うっせ、これで早く、めしつくればばぁ」
赤ずきんちゃんは、今日のできごとを
きっかけに、少しずつですが、かわっていきました
次の日、赤ずきんちゃんがいつものように
おそい時間に起きると、すでにおばあさんは、
いそがしそうに、いえじゅうをかけまわっていました
「おい、ばばあ!」
赤ずきんちゃんは、おばあさんを
大声でどなりつけました
「あ、あら、おはよう、どうしたの?」
おばあさんは、すこしびくつきながら
赤ずきんちゃんのほうを、見ました
「な、何か、手伝うこととか、ないのかよ」
赤ずきんちゃんのそんな声に、
おばあさんは、おどろきのあまり、
あぜんとしてしまいました
「へ、別に、ないんだったら、いいのよ、ないんだったら」
赤ずきんちゃんは、はずかしくなり、顔をまっかにし、
下を向いてしまいました
「ふ、ふんっ」
赤ずきんちゃんは、かおを赤くしたまま、
いすにすわりました
おばあさんは、まだぽかんとしながら、
赤ずきんちゃんをみています
「な、何みてんのよ、ばばあ、ぶっころすわよ」
あかずきんちゃんの、その"どなりごえ"には
おばあさんは、おびえることはありませんでした
――すうじつご
「おいばばあ、ふざけんな」
家には、いつものように
赤ずきんちゃんのどなり声が、ひびきわたります
「"水くみ"は、私がやるって、いったでしょ!
かってにやんないでよ」
「ごめんね、ごめんね」
くそっ
あいかわらず、むかつくばばぁだ
すぐにあやまりやがって
だいたい、足をいためているんじゃあないのかよ
わたしがやるっていったら、やるんだから
やらせなさいよ
赤ずきんちゃんは、その日、
ばんご飯のじゅんびも手伝いました
ほうちょうを使ったり、火をたいたり、
赤ずきんちゃんは、ほとんどやったことがありませんでしたので、
おばあさんが一人でやるよりも、ずっと時間がかかってしまいました
「さあ、いただこうかねえ」
けっきょく、ごはんを食べはじめるのが、いつもより、ずうっとおそくなってしまいました
赤ずきんちゃんは、自分が"あしでまとい"だったことを
じかくしていましたので、むすっとしていました
なによこれ
ごはんを作るのって、こんなにたいへんだったの?
「今日は、手伝ってくれて、ありがとうねえ」
おばあさんは、にこにこしながら、言いました
「おかげで、おばあちゃん、とっても助かっちゃった」
何いってんのよ、このばばぁ
そんなわけないじゃない
私が手伝ったせいで、ばんご飯がこんなにおくれてしまったのよ
赤ずきんちゃんに、おばあさんのやさしさが、しみわたります
赤ずきんちゃんは、ご飯がおくれたせいで、
おばあさんにどなりつけた"かこ"を、思い出して、
むねがいっぱいになりました
赤ずきんちゃんは、いそいでご飯をたいらげると、
「今日はもう、ねる」
そういって、じぶんのべっどにもぐりこみました
赤ずきんちゃんは、おばあさんのかおが
みれませんでした
赤ずきんちゃんは、"あたま"まで、
すっぽりとふとんをかぶりました
そして、ひとばんじゅう、つぶやきました
ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい
ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい
"今まで自分がどんなことをしていたか"
"おばあさんが、どんなにやさしかったか"
それに、しょうめんから向き合っていました
外からは見えませんが、
赤ずきんちゃんのかおは、"なみだ"と"はなみず"で
ぐちゃぐちゃでした
次の日、赤ずきんちゃんが目を覚ますと、
いえにおばあさんはいませんでした
しかし、いつもどおり、赤ずきんちゃんの分の
朝食が"いつものばしょ"におかれていました
「あのばばあ、いったい、何時に起きているんだ」
赤ずきんちゃんは、小さな声で、つぶやきました
そのことに気が付いたのも、赤ずきんちゃんは、初めてです
このじかん、おばあさんは、近くへ野草をつみに
行っていることが分かっていたので、
帰って来るまでに、自分のしょっきを
あらっておくことにしました
当たり前のことのようですが、
赤ずきんちゃんにとっては、そうではありませんでした
洗いおわると、赤ずきんちゃんは、
そわそわしながら、おばあさんが、
かえってくるのをまちました
しかし、いつまでまっても、
おばあさんは、かえってきません
赤ずきんちゃんは、ようすをみに
おばあさんの居そうな所へ
行ってみることにしました
おばあさんは、ただ"野草取り"に
むちゅうになっていただけでした
しゃがみながら、せっせと作業をする
おばあさんは、近づいてくる赤ずきんちゃんに
先に気が付きました
おばあさんが立ち上がって、赤ずきんちゃんの元へ
歩いて行こうとしたところ、
つい、つまずいてころんでしまいました
おばあさんは、ずっとしゃがんでいたので、
足がつかれてしまっていたのです
その"たいみんぐ"で、赤ずきんちゃんは、
おばあさんをはっけんします
「くそ、あのばばあ、こんなところでたおれてやがる」
かんちがいした赤ずきんちゃんは、
いそいでおばあさんの元へかけよりました
「立てるか、おい」
赤ずきんちゃんが、あわてたようすで
おばあさんに声をかけます
「ああ、ごめんねえ」
おばあさんは、うっかりつまずいただけでしたので
すぐに立とうとしましたが、それより前に、
赤ずきんちゃんが、おばあさんに向けて、
うしろむきにしゃがみました
「ほら、はやくのっかりなさいよ」
赤ずきんちゃんは、おばあさんが、せつめいする間もなく
ごういんにおぶっていきました
おばあさんはびっくりしました
まさか、この子に、おぶわれる日が来るなんて
いつの間に、こんなに大きくなって
おばあさんは、赤ずきんちゃんのせなかの
ぬくもりの心地よさを、かんじ、
ただつまずきただけ、ということはだまって
いることにしました
"ごめんね、家まで、このままでいさせて"
おばあさんは、心の中で、もう一言、あやまりました
あなたは、本当は、やさしいこ
おばあちゃんは、ずっと分かっていたんだからね
おばあさんは、赤ずきんちゃんのせなかで
なみだをながしていました
家につくと、赤ずきんちゃんは、おばあさんを
"べっど"にねかせました
「あ、あのね、実は……」
「うるさい、だまれ、ばばぁ」
おばあさんが、ほんとうのことを話そうとすると、
赤ずきんちゃんに一喝されてしまいました
「いいから、今日はもうだまってねてなさい」
「いえのことは、ぜんぶ私がやるから、"しじ"だけだしてくれればいいの」
赤ずきんちゃんのあまりのたのもしさに、おばあさんは
ふたたび、なみだをながしてしまいました
それをかくすように、頭まで、すっぽりとふとんをかぶったせいで、
打ち明けるきっかけをうしなってしまいました
「とりあえず、おきっぱなしにした野草を取ってくるから、
もどってきたら、やることをおしえなさいよ」
おばあさんは、赤ずきんちゃんがもどってくるまでに
なみだでぐしゃぐしゃになったかおを、
どうにかしなければなりませんでしたので、"おおいそがし"でした
――
「はい、野草もってきたわよ、あと今日は何をすればいいのかしら」
「ごめんね、今日は、これを村に売りに行こうとおもっていいたの、おねがい出来るかい」
おばあさんは、赤ずきんちゃんのあまりのたのもしさに、
心をうたれ、今日はたよってみることにしました
「……はぁ?何これ、だいじにしていた時計じゃない。何でこれを売るのよ」
「これを売らないと、しょくりょうが買えないんだよ、ごめんね」
赤ずきんちゃんは、この時はじめて、自分のいえの
"けいざいじょうたい"に気が付きました
――
赤ずきんちゃんは、考えごとをしながら、村へと向かいました
はあ?
しょくりょうが買えないって、何よそれ
いみわかんない
だから、あんなにがんばって、野草をあつめていたの?
だから、あんなにやせてしまったの?
だから、今日たおれてしまったの?
だから……
赤ずきんちゃんは、あるきながら、なみだをながしていました
今日は、おばあさんが"かろう"でたおれたものだと
かんちがいしたままでしたから、"ざいあくかん"で
いっぱいになりました
「あら、赤ずきんちゃんじゃないの」
村につくなり、いきなり村の女に声をかけられました
「赤ずきんのお姉ちゃん、こんにちは」
こんどは、その女性の子供らしき子が声をかけてきます
「こ、こ、こん……こんにち……」
あるいているだけで、声をかけられるなんて、初めてのことでしたので、
赤ずきんちゃんは、とまどってしまい、じょうずにへんじができませんでした
「ねー、お姉ちゃん、あそぼうよー」
「こら、お姉ちゃんはいそがしいのよ、やめなさい」
"この人はいそがしい"
そう言われて、赤ずきんちゃんは、少しどうようしました
"いそがしい"ということばが、いやみにかんじてしまったじぶんは
すこしゆがんでいるのではないか、と思ってしまいました
「うちのみせだって、いそがしいのよ。ほら、あんたも手伝うのよ、きなさい」
「えー」
「しかなたいじゃない、こないだ一人やめてしまったんだから。
ねこの手でもガキの手でもかりたいじょうきょうなのよ」
そういうと、女性は明るく、わははっと笑いました
「あー、早くあたらしい人、入ってくれないかねぇ」
そう言いながら、かるくえしゃくをしながら、去って行こうとする女性に
赤ずきんちゃんは、ありったけのゆうきをふりしぼって、さけびました
「あ、あのっ」
女性はおどろいて、赤ずきんちゃんの方へふりかえります
「そ、それって、そのしごとって……その……」
「わ、私にも……できますか?」
赤ずきんちゃんは、がけから身を投げたような、しんきょうでした
「ん、何だ、赤ずきんちゃんがうちでしごとをするってかい?」
女性が、赤ずきんちゃんをじろじろ見てきます
やだ、やっぱりへんに思われた
やっぱり、私なんかじゃだめだったのかな
でも、だったら、どうしたらいいのかな
赤ずきんちゃんは、まだ返事をもらう前でしたが、
自信のなさからか、きえいりそうになっていました
「だって、お金をかせがないと、私 ……」
「いえが……おかねが……食べるものがないんだもの……」
気が付くと、赤ずきんちゃんは、ふたたびなみだを流していました
「私が……私がやらないと……おうちが……もう……」
そのようすを見て、女性はけっしんをしました
「とりあえず、ついといで、ほら行くよ」
女性は赤ずきんちゃんをうながしました
「わーい、お姉ちゃん、いっしょに行こう」
「うちの仕事は"らく"じゃあないからね、かくごしなよ」
わははっ、と明るく笑いかけてくれる女性のすがたと、
明るく手をひっぱてくれる子供のすがたが、
あたたかくて、
うれしくて、
ここちよくて、
赤ずきんちゃんは、あふれでて止まらないなみだをかくすため
赤ずきんで顔をかくしながら、歩いていきました
そのみせは、"いんしょくてん"でした
「おーい、早くちゅうもんたのむー」
「おあいそ、してくれー」
赤ずきんちゃんたちがついたときには
おみせの中は、てんてこまいになっていました
そのようすを見て、赤ずきんちゃんは、びっくりしてしまいました
"ここで、私がはたらけるだろうか"
そんな不安でいっぱいになっていると、女性が店のおくから、
ふくろをもってきて、赤ずきんちゃんに手わたしました
「え、何これ?……お金……?」
「うちは、"げっきゅうせい"だからね、本当ははたらいた後に
きゅうりょうをわたすんだけど、今回は"とくべつ"さ」
「や……こんなにたくさん……」
「"まえきん"ってやつさ、きゅうりょうの一部を先にわたしているだけよ」
え、うそ
なにこれ、こんなにもらっていいの?
「あんたは、うちの子供の"おんじん"だからね。じじょうは知らないけど
こういうときは、おたがいさまってやつさ」
「あ、ありがとう……ありがとうございます」
"ありがとう"
赤ずきんちゃんが、そんなことばを言ったのは、なんねんぶりでしょうか
「今日はそれで、なにかおいしいものでも家に買ってかえりなよ」
「ありがとう……ありがとう」
"ありがとう"もうそのことばしか、出てきませんでした
「はっはっ、明日から、そのぶんこき使ってやるから、かくごをしなよ」
女性は、どびっきりの笑顔で赤ずきんちゃんを見送りました
赤ずきんちゃんは、なみだが見えないよう、赤ずきんで
顔をかくすことでせいいっぱいでした
"なんてたくましくて、笑顔のすてきな女性だろう"
赤ずきんちゃんは、そんなことを考え、
おおかみさんの言っていたことを思い返していました
"じぶんの生きたい生き方"なんて、分からないけど、
できるなら、私もあんなふうに生きてみたい
「ただいま」
赤ずきんちゃんは、いきようようと、きたくしました
「おかえり、ぶじだったかい?」
「うっさいばばぁ、あんたは自分のからだをしんぱいしてなさいよ」
「そ、そうだよね、ごめんね、ごめんね」
赤ずきんちゃんはたくさんのにもつをおばあさんの前に置きました
「しょくりょうをたくさん買ってきたわ。これで、えいようをつければいいわ」
「ねえ、もしかして……」
おばあさんは、しんぱいをしてしまいました
「あのとけいを売ったお金をぜんぶ使ってしまったのかい?」
「ううん、あのとけいは、売ってこなかったわ」
赤ずきんちゃんは、おばあさんに時計を手わたしました
「まったく、だいじな時計なんでしょう、ちゃんとだいじにもってなさいよね」
「え……え?」
おばあさんは、わけがわからず、こんらんしてしまいました
「明日から、はたらくことにしたの、これは"まえきん"でかったのよ」
赤ずきんちゃんは、"まえきん"という
覚えたてのことばを、使いたくてしかたがありませんでした
そんな赤ずきんちゃんの"どうでもいい"じまんなどあたまに入らず、
おばあさんは、ただぼうぜんとしていました
"はたらく?"
"あの子が?"
「明日から、その"まえきん"をくれたところではたらくから、家のことはできなくなるわ」
「だから……その……」
赤ずきんちゃんは、赤ずきんでかおをかくしながら言いました
「今日のうちに……さっさと体をなおしなさいよ、ばばぁ」
"いつのまに、あの子がこんな……"
おばあさんは、うれしさと、こんわくと、
いろいろなかんじょうがまじりあい、出てくるなみだをかくすため、
ふとんを頭までかぶってしまいました
「ばんご飯が出来たら起こすから、それまでねてなさいよね」
赤ずきんちゃんは、買ってきたしょくりょうで、
自分なりにごはんを作りはじめました
「おいしそうだねえ、いただきます」
「……」
おばあさんは、うれしそうに赤ずきんちゃんの作ったご飯を
食べていますが、赤ずきんちゃんはどこかふきげんです
「おいしいわぁ、ほんとうにおいしい」
おばあさんがそんなことを言うたびに、
赤ずきんちゃんのこころにことばがしみわたります
これがおいしい?
そんなわけないじゃない
赤ずきんちゃんは、ちょっと良いしょくざいを使いましたが、
ちょうりほうほうが、めちゃくちゃだったので、
あまりおいしくなく、"たからの持ちぐされ料理"
となってしまったのです
くそっ、みてなさいよ
私は、明日から"いんしょくてん"で、はらたくのよ
いつか、"えんぎ"じゃなく、ほんとうにおいしいって言わせてやるんだから
――よくじつ
「ちょっと、お姉ちゃん、注文まだかー」
「さっきたのんだのと、ちがうものがきてるぞー」
赤ずきんちゃんは、軽いぱにっくじょうたいにおちいってました
「えっと、えと、次はどうしたら……」
「おい姉ちゃん、はやくー」
「ひ、は、はい」
赤ずきんちゃんは、てんやわんやのお店にたいおうできず、
てんぱってしまっていました
「はいよー、ちょっとまってね、お客さん」
すかさず、昨日の女性がふぉろーに入ってくれます
赤ずきんちゃんは、くやしくてしかたがありませんでした
このお店の、女性の、"恩にむくいたい"
そんな気持ちでがんばろうと思っていましたが、
自分の力のなさに
あこがれの女性との"力の差""きょりの遠さに"
なさけなくなってしまいました
「え、えっと、次はどうしよう……」
――その日のおわり
とっても長い一日のしごとをおえた、赤ずきんちゃんは
"ひそうかん"でいっぱいでした
"ほんとうに何も出来ないのね、私は"
赤ずきんちゃんのあたまの中はそんな考えで一杯でした
「や、お疲れさん、赤ずきんちゃん」
あの女性が、声をかけてくれましたが、あかずきんちゃんは
恥ずかしくて目を合わせることができませんでした
「ごめんなさい、私、せっかく雇ってくれたのに……ぜんぜんだめで……」
そんなことを言う赤ずきんちゃんを見て、女性は笑い出しました
「はっは、何言ってんだい、さいしょからいきなり出来る訳がないだろう
いきなり出来たら、なんねんもやっている、私のたちばはどうなるんだい」
女性のとびっきりのえがおを見て、赤ずきんちゃんは、いっきに心がかるくなりました
「そうだね、しいて注意するとすれば、あんたは"えがお"が足りないね」
「え、えがお?」
「そう、"えがお"は女のさいだいのぶきなのよ。"みす"なんて、どうでもいいから
明日は"えがお"ではたらいてみなさいよ」
女性はそういって、また思いっきり笑ってみせました
なんだろう、あの"えがお"を見ると、なんだって平気な気になるわ
私にも、できるだろうか
私も、あんなふうになれるだろうか
――つぎのひ
「い、いらっしゃいませー」
赤ずきんちゃんは、とびっきりの"えがお"でおきゃくさんに
あいさつをしました
すると、おきゃくさんも、えがおでえしゃくをしてくれました
「お、いい"えがお"じゃないか」
お店の女性が赤ずきんちゃんに声をかけてくれました
たったそれだけのことなのに、
赤ずきんちゃんは、急にはたらくことが、
たのしくなってきました
"わ、ほめられた、どうしよう"
"ちゃ、ちゃんと笑えていたのかな、私"
「おーい、こっち注文たのむー」
「はーい、おまち下さい」
赤ずきんちゃんは、とびっきりの"えがお"で
おきゃくさんのところへ向かいました
――すうじつご
「おつかれさまでしたー」
一日のしごとをおえた赤ずきんちゃんは、
"えがお"でしょくばをあとにしました
はなうたをうたいながら、かえりみちを歩いていきます
さいきん、しごとがたのしくて仕方がないのです
まだまだ"みす"をするし、おきゃくさんからどなられることだってあるし、
たいへんだけども、なんだかじゅうじつしているのです
しょくばにあこがれの人がいることや、お客さんからひそかに人気がでてきたことも、
げんいんでしたが、なによりも、
"自分が何かの役に立っているかんかく"が
うれしくって仕方がないのです
その後、家へと帰るとちゅう、
なんと、再びおおかみさんとそうぐうしてしまいました
「あ、おおかみさん、こんばんは」
赤ずきんちゃんは、よゆうであいさつをしました
「え?……あ、おう」
赤ずきんちゃんのあまりのへいぜんとしたたいどに、おおかみさんは
ぎゃくにとまどってしまいました
「ひ、久しぶりね、元気だった?」
赤ずきんちゃんは、おおかみさんにとびっきりのえがおを向けました
「……は?」
おおかみさんは、思いました
何でこの娘、俺を怖がらないんだ?
つーか、久しぶり?うーん、こんな娘とめんしきあったかな?
あー、もしかして、ちょっと前に、この道で会った娘か
思い出した、思い出した
いや、しかし……
「な、なあに、かおに何かついてるの?」
赤ずきんちゃんは、照れながら笑いかけました
"こんなに可愛いかったかな、この子"
おおかみさんは、少しこんわくしてしまいました
「お、おい、赤ずきんのお前、なんで俺をこわがらないんだ?」
「だって、そんなにお腹がふくれているんだもの。今はおなかがすいていないんでしょう」
「う……」
おおかみさんは、自分のお腹に手をあてました
「"にくしょくどうぶつのほこり"があるものね、ふふふ」
赤ずきんちゃんは、たのしそうに笑いました
おおかみさんは、なんだかはずかしくなり、かおをまっかにしてしまいました
「ねえ、それよりきいて。私もね、"自分の生き方"について
考えてみることにしたの。おおかみさんに言われてから、いろいろ考えたのよ」
おおかみさんは、"なんてなれなれしい娘だ"と思いました
人間がおおかみに"じんせいそうだん?"なんだそりゃ
「う、うるせえ」
おおかみさんは、大声で赤ずきんちゃんに
向かってどなりつけました
おおかみさんにも、ぷらいどがあります
こんな友達みたく話をされることが、たえられなかったのです
「自分の生き方なんてな、自分で決めるもんだ
いちいちだれかのしょうだくを得ようとするんじゃねえ」
その言葉で、赤ずきんちゃんは、自分の心がみすかされた気になって、はずかしくなりました
「自分が本当に良いと思った生き方なら、だれに何を言われようが、
つらぬけばいいだろう。」
「お、おおかみさんは、出来ているの?」
「俺は、それが出来るつよさを、"ゆうき"だと思っている。自分ではできていると思いたいな」
赤ずきんちゃんは、思いました
このおおかみさんは、自分がなやんでいるもんだいなんて、
ずっと前に通りこして、今はもっと先のところにいるんじゃないだろうか
"何このおおかみ、かっこいい"
赤ずきんちゃんは、そのことで頭が一杯になりました
「おい、それよりな、あまりなれなれしく話しかけるんじゃあないぜ
夜のおおかみは怖いんだ、俺の気分がかわったら、お前を食っちまうぞ」
「おなかが一杯のくせに、何を言って……」
赤ずきんちゃんは、途中で言葉を止め、はっとしました
"夜のおおかみ?""食っちまう?"
え、うそ、やだ、そういういみだった?
赤ずきんちゃんは、きゅうにてんぱってしまい
どきどきがとまりませんでした
「ね、ねえ、お、おおかみさんは……」
「……あ?」
「ど、どういうときに、そういう気分になるの?」
赤ずきんちゃんは、思い切ってしつもんをしました
「食いたいと思ったら食う。"自分の気持ちにしたがう"のが、
"俺の生き方"だからなそれはつらぬくつもりだぜ」
「今は気分じゃないだけだ、じゃあな」
そう言って、おおかみさんは、去っていきました
――
おおかみさんが、"そういうきもち"になったら
私はおおかみさんにおそわれてしまうのかしら
赤ずきんちゃんは、そんなことを考えながら自宅へかえりました
――1か月後
赤ずきんちゃんの、待ちに待った"しょにんきゅう"の日がやってきました
"まえきん"で"がく"はへっていましたが、それでも十分すぎる"がく"です
赤ずきんちゃんは、いそいで帰って、おばあさんにそれをみせました
"まさか、この子がきゅうりょうを持って帰ってくるなんて"
おばあさんは、かんげきしてしまいました
赤ずきんちゃんは、その"しょにんきゅう"から、ひっそりと
"こうすい"を買っていました
"自分のみりょくが上がれば、おおかみさんが来てくれるかもしれない"
そんな想いを心にひめていました
「ねえ、赤ずきんちゃん、さいきんやけにおしゃれになったねえ」
しょくばで、女性に声をかけられました
「ほら、"かみがた"だってかわっているし、ふくの着方も前とはちがうじゃない」
「そ、そうかしら、別にそんなこと……」
「にあってて、可愛いわよ」
「う、うん……ありがとう」
赤ずきんちゃんは、かにかみながら、"えがお"を見せました
「そう、それ、いいわね、その"えがお"
ねえ、赤ずきんちゃん、覚えてなさい。女のいちばんの"けしょう"は
"えがお"なのよ、あなたの"えがお"なら、どんな男でも"いちころ"よ」
「お、男?いや、そんなんじゃ……」
赤ずきんちゃんは、あわてて否定をしようとしましたが、
ふと今の自分を振り返りました
今の自分、ちょっとまえからしたら、考えられない
いえの手伝いをして
"おしごと"が楽しくて
ちょっと、おしゃれなんかしちゃったりして
まいにちが、じゅうじつしていて
ようやく、ちょっとずつだけど、自分が好きになれてきていて……
「え、えへへ、へへ……」
赤ずきんちゃんは、そんなことを思うと"えがお"が
あふれ出てきて、止まりませんでした
――ねえ、おおかみさん
"私、今生きてる、生きてるよ"
その日のかえりみち、自宅の近くで
再びおおかみさんとそうぐうしました
「はっ、今日はおまえを食いに来たぜ」
"お、おおかみさんが、来てくれた"
"しかも、食う、とか言っている"
赤ずきんちゃんは、心の中でおおはしゃぎしました
「しかし、ぶようじんだったな、いぜん見つかった道を
おなじ時間にそうなんども通るもんじゃないぜ」
"ちがうのよ、待っていたの"
"あなたに見つかるように"
しかも、なんて"こううん"なんでしょう
「今日は、家にだれもいないの、よかったらこない?」
赤ずきんちゃんは、顔をまっかにしながら、おおかみさんをさそいました
「おい、何を言っているんだ、お前は。
俺はお前を食いにきたんだ。"ともだち"じゃあないんだぜ」
「うん、だから……外じゃあ、いやなの」
赤ずきんちゃんは、まだ顔がまっかです
"ともだち"じゃない
そんな言葉にむねがときめきました
「まあいい、"しにばしょ"くらい、えらばせてやるか」
おおかみさんは、そうつぶやき、若干いわかんをおぼえながらも
家についていくことにしまいた
家に入ると、おおかみさんは、さっそくこういいました
「さあ、いただくとしようかな」
「ま、まって、あせらないで」
赤ずきんちゃんは、だんろに火をつけました
下じゅんびはしてあったようで、あっというまに
だんろの火がもえあがります
「お、おい、ばか、やめろ」
おおかみさんは、だんろからとおざかってしまいました
火がにがてなようです
「こっちよ、こっちにいらっしゃい、あたたかいわよ」
赤ずきんちゃんは、そう言うと、だんろの火がちょうどあたる
べっどに、おおかみさんをさそいました
「うっ……」
"やられた"おおかみさんは、そう思いました
こいつ、火でじぶんを守るために、家に入ったのか
まあ、でもこのくらい火からはなれていたら、もんだいない
さっさとこの娘を食らい、家から出てしまおう
おおかみさんがそう思ったその時です
「さぁ、どうぞ召しあがれ」
赤ずきんちゃんはそう言うと、するすると服をぬいでいきました
「ちょ、ちょっとまって」
おおかみさんは、あわててしまいました
たしかに、"たべちまうぞ"とは、いったけど
そういういみじゃあないから
なにやってんの、この娘
ここで、おおかみさんは、初めて
この娘が、かんちがいをしていることに気が付きました
そんな、おおかみさんの言葉など気にせずに
赤ずきんちゃんはぬいだ服を、
一枚ずつ、だんろにくべていきました
「お、おい、ちょ、え……!?」
服がもえていくようすと、それを見てあぜんとしている
おおかみさんのようすを見て、赤ずきんちゃんの
"ほお"がこうちょうしていきます
赤ずきんちゃんは、おとなしそうに見えて、
とんでもないだいたんさを、かねそなえていました
赤ずきんちゃんは、"とれーどまーく"の
赤ずきんもはずしてしまいました
今日は、私を、"赤ずきんちゃん"とよばないでほしい
私はわたし
おおかみさんには、ありのままの、自分を見てほしかったのです
だって、おおかみさんに、出会ってから、私――
「う、うお……うぉ……」
おおかみさんは、どうようのあまり、うごけないでいました
こんな"じょうきょう"は初めてでしたので、どうすればよいか分かりません
もうかんけいなく、この娘を食べてしまおうか
そう思って赤ずきんちゃんを見ると、ふと目が合ってしまいました
「ねえ、はずかしいの?だいじょうぶ、私もほんとうははずかしいのよ」
赤ずきんちゃんはそう言うと、てれながら、おおかみさんに"えがお"を向けました
"か、可愛い"
おおかみさんは、思わず目をそらし、まっかになってしまいました
"く、くそっ、何だ、このじょうきょうは"
おおかみさんには、ぷらいどがありました
相手を"せいのたいしょう"とした上で、食べる
そんなことは、"くず"のやることだと思っていました
"女をだくときは、かならず大切にするとちかって、だく"
"しょくじは、ひつよう"さいていげん"にし、相手に"けいい"を払う"
それは、おおかみさんがいつか心に決めた、"生き方でした"
ここでは、この娘を、食べることも、だくこともできない
どちらも、あいてに対する"けいい"にかけていると、おおかみさんは思いました
「……わるいな、やっぱり今日は"きぶん"じゃあないんだ」
おおかみさんは、そっとそのばを立ち去ろうとしました
「……じゃあな」
赤ずきんちゃんはくやしくなりました
"やっぱり、私なんかじゃ、おおかみさんには釣り合わないんだわ"
そう思いましたが、さいごにゆうきをもって、おおかみさんに、
ありったけ、こころのうちをうちあけることにしました
"大好き"
いや、違う
"ふざけるな"
"へたれ男"
ん?何かしっくりこないな
色々考えをめぐらせながら、赤ずきんちゃんは
自分の中でいちばんしっくりきたことばを
言い放ちました
それは、とってもいがいな言葉でした
「ありがとう」
「……は?」
おおかみさんは、わけが分かりませんでした
「あなたの言葉おかげで、私、変われたの」
――ううん、あなただけじゃあないわ
あのばばぁに、お店の人たち、それから、それから……
赤ずきんちゃんの心の中は、
まわりの人へのかんしゃのきもちがあふれだしていました
「ねえ、おおかみさん、これから私、
色々な人に"かんしゃ"をしながら生きていくことにしたの」
「……そうか」
「何か文句ある?ううん、あってもぜったいに変えないわ
それが私の生き方なんだもの。もう決めたんだもの」
おおかみさんは、何も言わず、そっとほほえんで、家を出ていきました
赤ずきんちゃんはいつのまにか、
自分の中に、だいじな"たからもの"かかえていました」
――すうじつご
赤ずきんちゃんは、ありったけのゆうきをふりしぼって、
ある"こくはく"をすることにしたのです
「おい、ばばぁ」
「う、ううん、ちがう、"おばあちゃん"、こっちにきて」
おばあさんは、びっくりしてしまいました
"おばあちゃん"そんなよびかたをされたのは、いつぶりでしょうか
「い、いつも、ありがとう」
赤ずきんちゃんは、てれくさいきもちを
せいいっぱい、おしころしながら、おばあさんの目をみて言いました
「い、いままでも、いっぱいいっぱい、私のために、ありがとう」
「こ、これ、よかったら……」
そういうと、赤ずきんちゃんは、おばあさんに
きれいな"かみどめ"を"ぷれぜんと"しました
「え……え……」
おばあさんは、うれしさのあまり、また泣き出してしまいました
さいごに"ありがとう"なんて、言われたのは、いつだったでしょうか
赤ずきんちゃんに、なにかを"ぷれぜんと"されたことなど、はじめてでした
「あ、ありが……うぅ……」
おばあさんは、なみだごえになってしまい、
うまくおれいが言えませんでした
「な、なによ、こんな"やすもの"くらいで、おおげさに泣かないでよ」
そう言う赤ずきんちゃんの目も、なみだでうるんでしまっていました
おばあさんは、"かみどめ"じたいがうれしかったのではありません
赤ずきんちゃんが、かんしゃのきもちを伝えてくれたことがうれしかったのです
その"かみどめ"が、きもちのこもったものだと、分かっていたからうれしかったのです
赤ずきんちゃんも、本当はそのことが分かっていましたので
それいじょうは、何もいいませんでした
「ありがとう……おばあちゃん、とっても……うれし……」
おばあさんは、なみだごえでも、ひっしに赤ずきんちゃんの
目をみて、おれいを伝えてくれました
「ちょ、やめてよ、おおげさ……なん……うぅ……」
その言葉にはおばあさんのきもちが、思いっきりつまっていたことが
分かってしまいましたので、赤ずきんちゃんもなきだしてしまいました
「う、ううん……こっちこそ……いつもありが……」
「ありがとう……ありがとうねえ」
二人でなみだをながしながら、"かんしゃ"のきもちを
つたえあいました
その安物の"かみどめ"は、おばあさんの
一生の"たからもの"になりました
おちついたあと、赤ずきんちゃんは考えました
次の"きゅうりょう"をもらったら、こんどは私をやとってくれた、
お店の女性に"ぷれぜんと"とかんしゃのきもちを伝えるのよ
あと、あと、
ふだん、お店に来てくれる人にも、かんしゃをしなくっちゃあ
きもちのいい"せっきゃく"をして、"おいしいりょうり"を
食べて、かえってもらうのよ
あと、あと、
それから、えっと
赤ずきんちゃんは、"やりたいこと"がやまのようにありました
それを考えること、こなしていくことが、
赤ずきんちゃんにとっての"しあわせ"でした
その後、おおかみさんへの"気持ち"が、みのることはありませんでしたが、
そんなことは、赤ずきんちゃんにとってはささいなもんだいでした
――
「よーし、今日も"えがお"でがんばるわよ、いってきまーす」
赤ずきんちゃんは、ようやくみつけた"たからもの"を
だいじにだいじにかかえながら、これからも生きていきます
――完