老人(年が明け、正月がやってきた……)
老人(毎年恒例、ヤツとの戦いが始まる……!)
ジジジ…
プクー…
老人「お、焼けてきたわい」
餅「ジジイ……一年ぶりだな」
老人「ふん、相変わらずの憎たらしさで何よりじゃ」
餅「今年こそアンタを仕留めてやるぜ!」
老人「やってみい!」
元スレ
餅「今年こそアンタを仕留めてやるぜ!」老人「やってみい!」
http://hebi.5ch.net/test/read.cgi/news4vip/1514997005/
餅「いくぜっ!」ニュルルッ
老人「もが……!」
老人(餅がワシの喉を塞ぐように、張り付いた! なんという粘着力!)
餅「ククク……終わりだっ……!」
老人(なんの……これしき……!)
老人「もごぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」
餅「!?」
老人(仏様……ワシに力を貸しとくれぇっ!)メキメキ…
餅「な!?」
メキビキ… ビキビキ…
餅(喉仏が隆起して、俺を上へ上へとせり上げていくっ!)
老人「おごぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」
ペッ!
餅「へっ、やるじゃねえか……」
老人「お前さんこそ……」
餅「去年より腕を上げたんじゃねえか? いや、“喉を上げた”っていうべきかな」
老人「そっちこそ、粘着力が上がっておる。三途の川の向こう側にいる婆さんが見えたわい」
餅「何してた?」
老人「閻魔様をシバいておったよ」
餅「あの婆さんも相変わらずだな……」
老人「ダンプカーに轢かれたにもかかわらず、死因が老衰だったからのう……」
餅「しみったれた話はよそうや! こっからが本番だ!」ジリ…
老人「来るがよい!」ジリ…
ジリ… ジリジリ… ジリ…
老人からは汗が、餅からはきな粉が噴き出す。
ピンポーン…
老人「む、来客のようじゃの」
餅「ちっ、勝負はお預けにしとくか」
孫娘「おじいちゃん、やっほーっ!」
父「年始の挨拶に来たよ」
母「ご無沙汰してます」
老人「おお、よく来てくれたのう。入るがよい」
老人「やれやれ、とんだ邪魔が入ったわい。これじゃお前さんとの勝負ができん」
餅「嬉しそうなツラで何いってやがる」
父「オヤジ、元気そうだな」
母「ええ、足腰もしっかりしてらっしゃって」
老人「そんなことはない。だいぶ衰えたよ。100メートルも11秒切れなくなってきた」
孫娘「お父さんたち、いつも『オヤジがボケちゃったらどうするー?』なんて話してるもんね!」
父「お、おい……!」
母「こ、こら……!」
老人「ほっほっほ、かまわんよ」
孫娘「ってわけで、ボケないうちにお年玉ちょうだい!」
老人「ほれ、五千円」
孫娘「えー、また五千円~!? そろそろ一万円にしてよ~!」
老人「小学生のお前に福沢さんはまだまだ早い。同じ女として、樋口一葉の生きざまを学ぶがよい」
孫娘「ちぇーっ!」
孫娘「ま、いいや。それじゃ、一緒にあそぼっか、おじいちゃん」
孫娘「……と、お餅ちゃん」ニタリ
餅「!?」ギクッ
餅(このガキ、俺に意志があることに気づいてやがる!)
餅「何して遊ぶんだ?」
孫娘「そりゃもちろん、テレビゲームでしょ! あたし強いんだから!」
老人「なんという堕落!」
老人「せっかくの正月なのに、テレビゲームだなんて味気なさすぎじゃろう!」
老人「お正月には凧揚げて、コマ回すのが子供ってもんじゃろう!」
孫娘「そんな子供、今時天然記念物だっての」
孫娘「絶対盛り上がらないし、やめといた方がいいよ~?」
老人「なにをいうか!」
孫娘「分かった分かった。じゃ、近くの広場に行こうか。お餅ちゃんも一緒にね!」
餅「“ちゃん”はやめてくんねえかな……」
―広場―
孫娘「ほらほら~」スルスル…
餅「すげえな! 50メートルぐらい揚がってら! おめえ、凧揚げの天才なんじゃねえか!?」
餅「それに比べて、おめえのジジイは……」
老人「……」ヘナヘナ…
餅「全然揚がってねえじゃん! 凧揚げっつうか凧引きずりだな!」
孫娘「まるでおじいちゃんのアソコみたい!」
老人「バ、バカをいえ! まだまだワシは現役じゃぞ!」
孫娘「今から年下の叔父さんが出来ても困るんだけど」
老人「んなもん作るか!」
孫娘「それっ!」シュバッ
ギュルルルルルルッ
餅「お~、コマがドリルかなにかみてえに回ってやがる!」
老人「それっ!」シュバッ
クルクル… ボトッ
餅「ろくに回らずに、倒れたな」
孫娘「おじいちゃんの残り少ない人生を暗示してるみたい!」
老人「ぐぬぬ……こうなったら、羽根つきじゃ! 墨まみれにして、泣かしてやるからな!」
孫娘「じゃ、打つよ~」
老人「来いやっ! こっちはダブルスじゃ!」サッ
餅「ジジイ、俺たちのコンビネーション見せてやろうぜ!」サッ
通行人「ほう、オーストラリアンフォーメーションですか……たいしたものですね」
孫娘「そりゃっ!」
バシュッ! ズバンッ!
老人「い、一歩も……」
餅「動けなかった……」
通行人「フィフティーンラブ!」
孫娘「えへへ~、あたしの圧勝!」
老人「うぐぐ……顔面墨まみれじゃ」
餅「俺は餡子まみれにされちまったぜ……」
孫娘「だからやめといた方がいいって忠告したのに」
老人「ち、ちくしょう! 遊びはやめじゃ! どこかに出かけるのじゃ!」
孫娘「どこかってどこよ?」
老人「デパートじゃ! 福袋を買いに行こう!」
―デパート―
ザワザワ… ガヤガヤ…
孫娘「わぁっ、混んでるねー!」
老人「お、福袋があるぞ」
餅「よーし、俺がこの軟体を生かして、どの福袋がアタリかチェックしてやるぜ!」
孫娘「頼んだよ~!」
餅「侵入!」ニュルルッ
老人「どうじゃった?」
餅「どれもハズレだ! なにが福袋だ、体のいい在庫処分じゃねえか! ろくなもんがねえ!」プクーッ
老人「なんじゃと~!? 許せんな、訴えてやる!」
孫娘「まあまあ、熱くならないで二人とも。福袋なんてそんなもんよ」
孫娘「みんなそれが分かってて買ってるとこあるしね。縁日の当たらないクジと一緒」
孫娘「雰囲気が楽しめればそれでいいの」
老人「我が孫ながら冷めてるのう……」
餅「あんま早い時期から冷めてると、カチカチになっちまうぞ!」
―映画館―
『行くぞ、正義の名にかけてお前を倒す!』
ズガガーン バリバリッ ドカーン
老人「ゆけーっ、正義のヒーロー!」
餅「やっちまえーっ! 焼けーっ! 膨らませーっ! 詰まらせろーっ!」
孫娘「二人とも、映画は静かに見なさい」
老人&餅「はい」
老人「たまには時代劇でなく子供向け映画もいいもんじゃな」
餅「ああ……熱くなりすぎて、だいぶ膨らんじまった」プクーッ
餅「最後、悪のボスを窒息させて倒すクライマックスも熱かったぜ!」
孫娘「……」
餅「ん? あんま面白くなかったか?」
孫娘「ううん、なかなかよくできたシナリオだったと思うよ。子供向け映画にしては」
孫娘「出演者の演技も演出も及第点。ただ、終盤のご都合主義が目立ったかな」
孫娘「ま、90分の映画で尺がなかったから、強引な展開は仕方ないと思うけど」
餅「前言撤回。こいつはもうすでにカチカチだ」
―老紳士の家―
老紳士「やぁ、いらっしゃい」
老人「突然すまんな。近くに来たんで、立ち寄らせてもらったよ」
孫娘「こんにちはー! おじいちゃんと違っていい年の取り方してますね!」
老人「今、大丈夫かの?」
老紳士「私の息子夫婦は年始に挨拶など来ないからね。正月はヒマなものさ……」
老人「お年玉をもらいに来たりせんのか?」
老紳士「お年玉は郵送してるよ。味気ないもんさ……」
老人「……まあ、それだけ息子さんも忙しいということじゃろ。気落ちすることはない」
老紳士「せっかく来てくれたんだ。はい、お年玉」
孫娘「わっ、一万円! どうもありがとー!」
老人(ワシの立場が……!)
餅「なに買うんだ?」
孫娘「貯金!」
餅「冷めてんなぁ……」
プルルルル…
老紳士「はい、もしもし。おお、お前か!」
老紳士「え、私の家に遊びに来るって!? 孫も連れて? ……そうかそうか!」
老人「おおっ!」
孫娘「よかったねー!」
餅「あのジイさんにも幸が来たみたいだな」
老紳士「でも、仕事で損失を出して500万円必要!? その穴埋めをしないといけないのか!」
老人「Oh……」
孫娘「なんだか雲行きが怪しくなってきたね……」
餅「どうやら来たのは詐欺だったみたいだな……」
老紳士「今いった口座に500万円振り込めばいいんだな!?」
老紳士「よし分かった! すぐ銀行に行くぞ! 誰になんといわれようと絶対振り込んでやる!」
老紳士「すまないが、急用ができた! 私は失敬するよ!」シュタタタタタッ
餅「……どうするよ? ありゃ完璧に騙されてるぞ」
老人「あの様子じゃ、追いかけて詐欺だといっても多分聞かんじゃろうな」
孫娘「許せないよ! めでたいお正月にあんな優しいおじいさんを騙すなんて!」
餅「おお、おめえも燃えてるじゃねえか」
老人「この子も冷めてるようで、ワシの血を引いておるからのう」
餅「となると、あのジイさんが金を振り込むより早く、詐欺グループをブチのめすしかねえな!」
孫娘「おじいちゃん、どうやってアジトを突き止めるの?」
老人「それはこの餅に任せれば大丈夫じゃ」
餅「あのジイさんが使ってた電話に侵入して……」ニュルニュル…
餅「逆探知!」モチーン
餅「よし、奴らの居場所が分かったぜ!」
孫娘「えええええ!? お餅ちゃん、何でもアリじゃん!」
餅「そう、何でもアリ!」
餅「餅は、主食にも具にもおやつにもなる、優れ物なんだぜ!」
老人「すぐに詐欺グループのアジトに向かおうぞ!」
孫娘「急がないと! あのおじいさん、お金振り込んじゃう!」
餅「ふんっ!」プクー…
餅「二人とも、俺に掴まれ!」
老人「よっ!」ガシッ
孫娘「ほいっ!」ガシッ
餅「しゅっぱぁぁぁぁぁぁつ!!!」
ブシュゥゥゥゥゥゥゥ……!
老人「空気を抜いた風船のようじゃな!」
孫娘「はやーい!」
―雑居ビルの一室―
リーダー「どうだった?」
金髪「バッチリっすよ! 500万円すぐ振り込むって!」
グラサン「年末年始はジジババの財布の紐が緩むから、稼ぎまくれますねえ!」
ピアス「あんだけ『振り込め詐欺注意』のポスター貼られてんのに未だに騙されるからな!」
リーダー「ま、ああいうボケ老人のおかげで俺らが儲かるんだ。感謝しなきゃな!」
リーダー「この調子で荒稼ぎすんぞ!」
ギャハハハハ… アハハハハ…
「ちょっと待ったァァァァァ!!!」
リーダー「なんだてめえらは!?」
老人(ここはさっきの映画みたいに決めるわい)
老人「ワシは……正義のヒーロー! ヒー老人じゃ!」ビシッ
孫娘「あたしは……孫娘じゃなく……魔法娘!」ビシッ
餅「俺は……餅……暗殺餅(あんころもち)!」ビシッ
老人「振り込め詐欺グループ! 今ここで成敗してくれるわ!」
金髪「なんだこいつら? お屠蘇でも飲んで酔っ払ってんのか?」
グラサン「甘酒かもよ」
リーダー「なんでもいい……! 俺らの邪魔するなら、始末するだけだ!」
リーダー「やっちまえっ!!!」
老人「ほれえっ!」ビュオッ
バキィッ!
金髪「ぐげっ!」
餅「喉に入ってやるぜ!」ニュルルッ
グラサン「うげ! ぐ、ぐるじ……! もごぉ……!」
孫娘「でやぁっ!」バシュッ
ピアス「ツイストサーブ!?」
ドゴォッ!
ピアス「この女の子はテニスの王子様ならぬ……羽根つきの王女様やでえ……」ガクッ
リーダー「ほう、やるじゃねえか」
老人「残すはリーダー格のみ!」
老人「とりゃあっ!」ブンッ
リーダー「ふん、ジジイのパンチなんざかすりもしねえよ!」サッ
餅「喉に入ってやる!」ニュルルッ
リーダー(口を閉じちゃえばいい!)
餅「あっ、ずるい!」
孫娘「ツイストサーブ!」バシュッ
リーダー「こんなもん目をつぶってても取れるぜ!」パシッ
孫娘「ウソォ!?」
孫娘「おじいちゃん! お餅ちゃん! あいつ、本当に強いよ!」
老人「こうなっては仕方あるまい……」
餅「あれをやるか!」
餅「合体!」ベチャッ
餅「ジジイの腕にへばりついて、固くなる!」カチーン
老人「極限まで固くなった餅の硬度は、ダイヤモンドをも上回る! つまり絶対砕けない!」
リーダー「な、なんだと!?」
孫娘「ダイヤモンドはあくまで引っかきに対して強いんであって、衝撃には弱いけどね」
老人「いらんこというな!」
老人「とにかく、今のワシに殴られたらメチャクチャ痛いということじゃ!」
リーダー「や、やめろ……!」
老人「うおおおおおおおおおおおっ!!!」
餅「うおおおおおおおおおおおっ!!!」
老人&餅「鏡開き・チョーップ!!!」
ズガァッ!!!
リーダー「脳天を殴られて……新年まで残ってた煩悩が……砕け散った……」
リーダー「俺たち……自首します……」ドサッ…
孫娘「やるぅ! おじいちゃんもお餅ちゃんもかっこよかったよ!」
老人「ほっほっほ、孫にかっこいいとこ見せられてよかったわい」
餅「餅は扱いに気をつけねえと、立派な凶器になるんだぜ!」
孫娘「だけど……あのおじいさんはどうしよう?」
老人「……真実を伝えるしかないじゃろう」
餅「しかたねえよ、その方が本人のためだ……」
―老紳士の家―
老紳士「いやぁ、まさか銀行に向かう途中でお前たちに会うとはな」
息子「危なく大金を振り込むとこだったな……気をつけてくれよ、父さん」
息子妻「でも私たちも滅多に会いに来られなかったから……」
幼女「おじいちゃま~!」
ワイワイ… ワイワイ…
孫娘「なーんだ。結局、本物の息子さん夫婦に出会って、引っかからなかったみたい」
餅「ま、いいじゃねえか。詐欺グループブッ潰したのは事実なんだし」
老人「もうワシらの出る幕はないのう。さ、帰ろう」
―老人の家―
孫娘「ただいまー!」
父「今日はおじいちゃんとどこ行ってたんだ? デパートか? 映画館か?」
孫娘「えーとね、詐欺グループを叩き潰してきたの!」
父母「!!?」
老人「い、いや違うんじゃよ! 餅を叩いたんじゃ、餅を!」
老人「こうやって!」ペッタンペッタン
餅「そうそう!」ペッタンペッタン
父「なーんだ、ビックリした」
母(餅がしゃべってることには触れないでおきましょう)
…………
……
数日後――
父「今度は春休みになったら遊びに来るから」
母「お義父さん、お元気で」
孫娘「おじいちゃん、お餅ちゃん、じゃーねー!」
老人「またおいで~!」
餅「じゃーなー!」プクー…
餅「さて、と……正月は終わっちまったから、俺もまた眠るとするぜ」
老人「結局、今年も決着つけられんかったのう」
餅「来年こそ仕留めてやるからな! だからそれまでくたばるんじゃねえぞ、ジジイ!」
老人「お前さんこそカビるんじゃないぞ」
餅「分かってるよ! カビなんかに負けてたまるか!」
老人「また来年も勝負しような!」
餅「おう、またな!」
―おわり―


