ゾンビ女「ねえねえ!」
男「ん?」
ゾンビ女「あたしホームセンターに行きたい!」
男「君は本当にホームセンターが好きだねえ」
男「ゾンビがホームセンター好きってなんかおかしくない?」
男「普通、ゾンビはホームセンターを襲う側なのに」
ゾンビ女「そんなこといったって好きなんだからしょうがないじゃない」
ゾンビ女「好きでゾンビになったわけじゃないし」
男「まあ、そうなんだけどさ」
ゾンビ女「あれは、人気のない真夜中のことだったわねえ……」
元スレ
ゾンビ女「ねえねえ、ホームセンターに行きたい!」男「君はホームセンターが好きだねえ」
http://hebi.5ch.net/test/read.cgi/news4vip/1513614067/
~回想~
キキーッ!
女『キャーッ!』
男『危ないっ!』
ドンッ!
ドザッ…
ガチャッ
加害者『だ、大丈夫ですか!?』
男『大丈夫じゃないよ! ぐったりしてるよ!』
加害者『ああ……やっぱり轢いちゃってたか……スピード出しすぎた……』
男『出しすぎどころじゃないよ! なんであんなに急いでたんだよ!』
加害者『やべえ、仕事クビになっちまう……親に泣かれちまう……』
男『なに自分の心配ばかりしてんだ!』
男『知り合ってまもなかったけど、僕にとっては大切な人だったんだぞ!』
男『どうしてくれる!』
加害者『とっ、とにかく、すぐ病院へ運びます!』
医者『残念ながら……たった今亡くなられました』
男『そ、そんな……』ガクッ
加害者『申し訳ありません! 申し訳ありません!』
男『うああああ……』
男『うわあああああああああああああああっ!!!』
加害者『……』
男『せめて、彼女の前で祈らせて下さい! お願いします!』
医者『わ、分かりました!』
加害者『ああ……キレイな顔してる。死んでるのか、これで』
男『ゾゾゾゾンビ~、ゾゾゾンビ~、ゾゾゾゾンビ~、ゾゾゾンビ~』
加害者『何やってんです……?』
男『バイオハ、ザ~ド、バイオハ、ザ~ド。ホムセン、ホムセン、ホ~ムセン』
男『かの者に命を与えたまへ~~~~~!』
ムクッ…
加害者『うわああああっ! 彼女がよみがえった……!?』
男『成功だ……!』
加害者『へ!?』
男『彼女は≪ゾンビ女≫になったんだ……!』
加害者『なんだって……!?』
男「いやぁ~まさか、適当に唱えた呪文でうまくいくとはね」
ゾンビ女「きっとあたしたちの愛が生んだ奇跡よ!」
男「こういう奇跡ってあるんだね」
ゾンビ女「ただ、どうせならもうちょっと美しく蘇生して欲しかったな」
ゾンビ女「どんどん顔色が悪くなってるんだけど」
男「贅沢いわない」
男「じゃあ、ホームセンターに行こうか」
ゾンビ女「だけど、ここからは距離あるわねえ」
ゾンビ女「せっかくだから……召使いになってくれたあの人使いましょうよ」ニヤッ
ブロロロロ… キキッ
加害者「……お待たせしました」
加害者「さ、どうぞ」
ゾンビ女「タクシーよりはやーい!」
男「駅前のホームセンターまで頼むよ」
加害者「かしこまりました」
ブロロロロ…
男「いやー悪いね」
加害者「いえいえ、自分から言い出したことですから」
ゾンビ女「あたしは顔色悪いでしょ」
加害者「そ、そんなことないですよ」
加害者「とにかく、私は自分の意志であなたがたの召使いになると決めたんです」
ゾンビ女「まあ、人一人殺しといて一生召使いで済むなら安いもんよね」
加害者「うぐっ……」
加害者「本当にすみませんでした……。スピード出しすぎてました……」
男「いいっていいって、こうして彼女はよみがえったんだし」
ゾンビ女「ただしゾンビだけど」
加害者「くれぐれもこのことは内緒にしといて下さい! お願いしますぅぅぅぅぅ!」
ゾンビ女「……」プーン…
加害者「それにしても……狭い車内だと体臭が……」
男「ちょっと臭うね」
ゾンビ女「アハハ、ごめ~ん! たっぷり香水かけとくわ!」プシュシュシュッ
男「車にニオイ移ったらすみませんね」
加害者「いえいえ、刑務所でくさい飯食うよりはマシですから」
ゾンビ女「あんた、うまいこというじゃん! 座布団一枚ならぬ逮捕状一枚!」
加害者「……」
ブロロロロロ… キキッ
加害者「到着です。ゆっくり買い物を楽しんできて下さい」
男「快適だったよ。君は運転がうまいねえ」
加害者「素直に褒め言葉として受け取ります」
ゾンビ女「ただし、あたしのことは轢いちゃったけどね~」
男「弘法も筆の誤りってやつだね」
ゾンビ女「筆は誤っても笑い話で済むけど、運転は済まないよね」
加害者「……」
キャーキャーッ! ヒィィィィ…
通り魔「うおおおおおおおおっ!!!」ブンブンッ
男「な、なんだ!?」
加害者「通り魔だ! 刃物を持ってる!」
ゾンビ女「コンビニ店員が強盗に殺されたり、女性が集団失踪したり、物騒な事件が続くわねえ」
ゾンビ女「ああ、誰かさんに轢き殺された女もいたっけ」
加害者「ぐ……!」
ゾンビ女「ホームセンターに逃げ込みましょ!」
男「ゾンビがホームセンターに逃げ込むのかい!?」
ゾンビ女「細かいことはいいっこなし!」
<ホームセンター>
通り魔「オラァァァッ!」ブンブンブン
キャーキャーッ!
男「ど、どうしよう……!? 中まで入ってきたよ!」
ゾンビ女「こうなったら、あたしがなんとかしようか?」
男「そんなのダメだ! 君は傷ついちゃいけない!」
ゾンビ女「大丈夫だって! もう死んでるんだから!」
男「死んでるからこそだ! 傷ついたりしたら自然には治らないんだぞ!」
ゾンビ女「じゃあ、頼れるのは一人だけね」チラッ
加害者「え」
ゾンビ女「いたたたたた……! 轢かれた時の傷が……!」
男「えええ、ゾンビなのに痛いの!? でも、できればお願いします!」
加害者「分かった……分かりましたよ! ここは私にお任せ下さい!」
加害者「おい、通り魔!」
通り魔「なんだてめえは!?」
ゾンビ女「暴走魔VS通り魔ね」
男「戦ってくれるのにそんな言い方しちゃダメだよ……」
加害者「い、いくぞ……」
通り魔「ブッ殺してやるぅぅぅぅぅぅ!」
加害者「だりゃあっ!」
バキッ!
通り魔「ぐべあぁっ!」ドサッ
男「おおっ! すごい踏み込みだ!」
ゾンビ女「どうせあの踏み込みで、あの日もアクセル全開にしてたに違いないわ」
男「いやぁ~、お強いんですね!」
加害者「ハハ、これでも格闘技をかじってましてね」
ゾンビ女「強い理由はそれだけじゃないでしょ?」
加害者「へ?」
ゾンビ女「人を一人殺してるから、度胸も人一倍になってるんじゃない?」
加害者「いやホントごめんなさいマジで」
アハハハ… ハハハハ…
ゾンビ女「あ~あ、あの騒ぎのせいでホームセンター物色できずに残念!」
ゾンビ女「あたし、ホームセンターをうろつきながら、商品を見るのが大好きなのに!」
ゾンビ女「電動工具とか、ペット用品とか、木材とか、植木鉢とか、スコップとか……」
男「まあ、また来ればいいよ」
加害者「帰るということであれば、家までお送りしますよ」
男「お願いします」
ゾンビ女「くれぐれも安全運転でね」
加害者「……分かってますよ」
ブロロロロロ… キキッ
ゾンビ女「ありがとう~!」
ブロロロロロロ… キキッ
男「どうも!」
ブロロロロロ…
加害者「ああ、イラつく……」
加害者「くそっ……いつまでこんなこと続けりゃいいんだ……!」
<レストラン>
ゾンビ女「早いもので、あたしがゾンビ化してから今日で一ヶ月ね」
男「うん、今日は僕たちの記念日にしよう」
モグモグ… ハハハ…
ゾンビ女「あ、よかったらこれ食べて! このお肉、塩がかかってるみたいで」
男「塩、苦手なのかい?」
ゾンビ女「死んでるからか、塩っぽいものダメなの~」
男「なるほど」
男「ごちそうさま。この後どうする?」
ゾンビ女「ホームセンター行く!」
男(今まではプラトニックな関係だったけど今日は記念すべき日だし、思い切って……!)ゴクッ…
男「ホームセンターもいいけど……今日は僕の家に来ないか?」
ゾンビ女「いいの?」
男「いいとも!」
ゾンビ女「あたし臭いけど?」
男「大歓迎さ!」
ブロロロロロ…
加害者「……今日はどちらまで? またホームセンターですか?」
男「僕の家まで頼むよ」
ゾンビ女「よろしく!」
加害者「かしこまりました」
男「いつも悪いね」
加害者「いえいえ」
ゾンビ女「ま、悪いのはあんただしね」
加害者「……そうですね」
キキッ
加害者「到着です」
男「さ、入って入って。二人きりで色々話そう」
ゾンビ女「初めて入る~! お邪魔しま~す!」
バタン…
加害者「……」
加害者(今日でこんなクソみたいなお役目とおさらばしてやる……!)
<男の家>
ゾンビ女「うわっ、真っ暗!」
男「ごめん、すぐ電気つけるよ」
パチッ
ゾンビ女「わぁ~、なんか色々置いてあるね」
ゾンビ女「ロウソクとか、小さな祭壇とか、ヤギの化け物みたいな人形とか!」
男「これはバフォメットっていうんだよ」
ゾンビ女「床にはなにか描いてある! なにこれ?」
男「これは魔法陣さ」
ゾンビ女「エキゾチック~!」
ゾンビ女「古そうな本やメモみたいなのもいっぱいあるね~」
ゾンビ女「この辺にあるの、読ませてもらっていい?」
男「どうぞどうぞ。君にはその資格がある」
ゾンビ女「ん、なにこれ?」
ゾンビ女「≪ただしいゾンビの作り方≫」ペラ…
『死後一時間以内に遺体を前にして
“ゾゾゾゾンビ、ゾゾゾンビ、ゾゾゾゾンビ、ゾゾゾンビ
バイオハ、ザード、バイオハ、ザード。ホムセン、ホムセン、ホームセン
かの者に命を与えたまへ”と唱えるべし。蘇生すれば第一段階は成功である。
蘇生し一ヶ月経っても肉体が崩れなければ、従順なゾンビの完成である』
ゾンビ女「これは……!?」
男「“適当に唱えた呪文で人がゾンビになる”……そんなことが本当にあると思うかい?」
ゾンビ女「ま、まさか……」
男「僕はずっと前からゾンビの作り方を研究してたんだ」
男「そこにある作り方は、僕が到達した本当に正しい作り方なのさ」
男「そして今、めでたく一ヶ月が経過した!」
男「僕の研究はようやく実を結んだんだ! 君は僕に従順なゾンビになる!」
ゾンビ女「な……!」
ゾンビ女「ってことは、あの時あなたやっぱりあたしをわざと――」
男「そうなんだ」
男「僕はわざと、君を車に向かって突き飛ばしたんだ」
ゾンビ女「むう~……怒りたいけど、怒れないや」
男「そりゃそうさ。君はもう僕に従順になってるんだから」
ゾンビ女「だけど、ぶっつけ本番でよくうまくいったよね」
男「もちろん、今までに何度も失敗したさ」
男「女を家に連れ込んで殺してはゾンビ化呪文を唱えるを繰り返したが、なかなかうまくいかなかった」
男「しかし、やっと君でうまくいったんだよ。場所が病院だったのがよかったのかもしれない」
ゾンビ女「キャーッ、嬉しい!」
ゾンビ女「ちなみにあたしの哀れな先輩たちはどうなったの?」
男「死体は全て秘密の地下室に隠してある」
男「床を引っぺがさなきゃならないから、たとえ警察が踏み込んできてもバレないよ」
ゾンビ女「秘密のある男ってステキ!」
男「ありがとう、理解してくれて嬉しいよ」
ゾンビ女「じゃあ、あたしもとっておきの秘密教えてあげる!」
ゾンビ女「さっきの言葉を返すね」
ゾンビ女「“呪文で死人がゾンビになる”……そんなこと本当にあると思う?」
男「……は?」
男「意味が……よく分からないんだけど」
ゾンビ女「そのまんまの意味よ。私は死んでなんかいないの」
男「なにいってんだ、君は……!?」
男「だってあの時……君は僕に突き飛ばされて、轢かれたじゃんか!」
ゾンビ女「ああ、あれ?」
ゾンビ女「あたしはスタントマンみたいに轢かれたフリして、あとは死んだフリしてただけ」
ゾンビ女「あの加害者さんも車で轢いたフリしただけ。彼の運転テク、並みじゃないから」
ゾンビ女「もちろん、あたしの死亡診断をしたお医者さんも協力者よ」
男「だけど体臭は……!」
ゾンビ女「この腐臭? こんなの腐った肉を懐に入れておいただけよ。ほら」ポイッ
男「顔色は……」
ゾンビ女「メイク」
男「な、なんでこんなことを……!」
ゾンビ女「決まってるでしょ、あんたの悪事の証拠をつかむためよ」
ゾンビ女「近頃起きてる女性の連続失踪事件」
ゾンビ女「あんたが一枚噛んでるのまではあたしらの調査で分かったけど、確証が得られなかった」
ゾンビ女「だから、一芝居打たせてもらったのよ」
ゾンビ女「あんたがゾンビ作りに傾倒してるってのは調べがついてたからね」
ゾンビ女「『ミイラとりがミイラになる』ならぬ『ゾンビづくりをとらえるにはゾンビになれ』ってわけ」
ゾンビ女「さ、観念しなさい」
男「ふ……ざけるなァァァァァッ!!!」
男「こんなとこで捕まってたまるか! 俺は絶対ゾンビを作るんだァ!」
男「死んでないんだったら、今度こそ本当に殺してやる!」
ゾンビ女「残念だけど無理よ」
男「!?」
ゾンビ女「外で今の会話を盗聴してた彼が、ジェットコースターみたいに飛び込んでくるでしょうから」
男「彼って誰――」
加害者「俺だッ!!!」
ドゴォッ!!!
男「ぐはぁぁぁ……っ!」
ドサッ…
加害者「大丈夫か?」
ゾンビ女「うん、ちょっと怖かったけど信じてた」
加害者「ごめんな……任務とはいえこんな危ない目にあわせて」
加害者「車に轢かれるフリさせたり、こんなイカレ野郎と何回もデートさせたり……」
ゾンビ女「悪いと思ってるならチューして」
加害者「ああ」
チュッ
加害者「うっ」
ゾンビ女「どうしたの? 顔しかめちゃって」
加害者「改めて嗅ぐと、香水と腐った肉の異臭が混じって凄まじいニオイになってるな……」
ゾンビ女「アハハ、本物のゾンビよりゾンビしてるかも、今のあたし」
加害者「あと、土色のメイクもさっさと落としてくれ。よく見るとすごく怖い」
ゾンビ女「こっちのが好みじゃないの~?」
加害者「やめてくれ」
加害者「連絡はしといたから、一般の警察もまもなく来るだろう」
加害者「後は彼らに任せるとして、仕事終わりにどこか行くか!」
ゾンビ女「賛成!」
加害者「どこ行く?」
ゾンビ女「ホームセンター!」
加害者「お前は本当にホームセンターが好きだよなぁ……」
おわり