女「――ん?」
ボトッ
ステーキ「いてて……」
女「きゃぁぁぁぁぁ!」
ステーキ「親父め、荒っぽいマネしやがって……」
女「なんなの!? いきなりステーキが落ちてきたわ!」
ステーキ「どこだここ……」キョロキョロ
元スレ
女「きゃぁぁぁ! いきなりステーキが落ちてきたわ!」ステーキ「いてて……」
http://viper.2ch.sc/test/read.cgi/news4vip/1506687604/
ステーキ「おい女」
女「きゃぁぁぁっ!」
ステーキ「なんでそんな驚いてるんだよ」
ステーキ「お前にとって、ステーキってのはそんなに珍しいのか?」
女「うーん……あんまり珍しくないかも」
ステーキ「なら驚くことないだろ」
ステーキ「聞きたいことがあるんだが」
女「しゃべってるぅぅぅぅぅ!」
ステーキ「なんでそんな驚いてるんだよ」
ステーキ「お前にとって、しゃべる奴ってのはそんなに珍しいのか?」
女「うーん……あんまり珍しくないかも」
ステーキ「なら驚くことないだろ」
女「でも……しゃべるステーキは珍しいわ!」
ステーキ「理解した!」
ステーキ「女、ここはどこだ?」
女「ここは……日本よ」
ステーキ「ニホン……人間界にある国家の一つだな」
ステーキ「よし女、とりあえずお前の部屋に俺を連れていけ」
女「えぇ~……」
女(でも困ってる人を見かけたら、助けてやれっていうのがおじいちゃんの遺言だし……肉だけど)
女「分かったわ、ついてきて」
ステーキ「よろしく頼む」
―アパート―
ステーキ「一人暮らしか……なかなか悪くない部屋だな」
女「そう?」
ステーキ「四方を鉄板に囲まれてれば、完璧だったがな」
女「そんな部屋にいたら、夏場死んじゃうわよ!」
ステーキ「しばらく世話になるぞ」ゴロン…
女「それはいいけど……あなたって何者なの?」
ステーキ「俺か? 俺はステーキ界の王子だ」
女「王子!?」
ステーキ「なぜ王子である俺が、人間界に来たかというと……」
~回想~
―ステーキ界―
ステーキ王「来たか」ジュワァァァ
ステーキ「親父、いきなり呼び出してなんの用だ」ジュワァァァ
ステーキ王「お前ももういい年になった……」
ステーキ「お? ってことは、やっと俺に王位を譲る気になったか?」
ステーキ「いつまでも老いぼれが王様じゃ、国民だってかわいそうだしな」
ステーキ王「いいや……その逆じゃ!」
ステーキ「!?」
ステーキ「逆ってどういうことだよ!?」
ステーキ王「お前にはまだまだ王の座は荷が重すぎるということじゃ」
ステーキ「なんだと!?」
ステーキ「いっておくが、俺はステーキ界一の上質な肉だと自負している」
ステーキ「俺が王になれば、ステーキ界はさらに発展するに決まってるんだ!」
ステーキ王「お前は、ステーキとは肉が上質であればそれでいいと思っておるのか?」
ステーキ「当然だろ?」
ステーキ「上質な肉をぐわっと焼く! これがステーキってもんだろ!」
ステーキ王「やはり、お前は何も分かっておらんな。今のままではとても王など務まらぬ」
ステーキ「なんだと~!?」
ステーキ王「お前には修行に行ってもらう」
ステーキ「修行!? どこへ!?」
ステーキ王「人間界だ」
ステーキ「ふざけるな! いきなりそんなこといわれても――」
ステーキ王「問答無用! いきなりですまんが、人間界へ転移してもらうぞ」
ステーキ王「むんっ!」ジュワァァァ
ステーキ「うっ、うわぁぁぁぁぁっ!!!」
―アパート―
ステーキ「……というわけだ」
女「それで、いきなり私の前に落ちてきたわけね」
女(ありがちっちゃありがちな話ね。登場人物がステーキなのを除けば)
ステーキ「おそらく、人間界でなんらかの成果を上げねば帰ることはできないだろう」
ステーキ「だから……そうだ! お前、俺を食ってみてくれ!」
女「ええ!? いきなり!?」
ステーキ「お前にうまいといわせれば、多分その時点で帰れるはずだ!」
女「分かったわ。じゃあ、遠慮なく」
女「いただきます」モグッ…
ステーキ「どうだ? 俺はうまいだろう?」
女「うん……たしかにおいしいわ」モグモグ
女「だけど、なーんか物足りないのよね。肉がおいしいのはたしかなんだけど……」
ステーキ「なんかってなにが!?」
女「そんなこと聞かれても、私はグルメ評論家じゃないからうまく答えられないわよ!」
女「でも……物足りないってのはたしかよ。多分、私じゃなくてもそう感じると思う」
ステーキ(うむむ……親父のいうとおり、俺はまだまだ未熟だったということか!)
ステーキ(仕方ない……しばらく人間界に留まるとしよう)
ステーキ「そうと決まれば腹が減った。なにかメシを出してくれ」
女「え!?」
ステーキ「不服か?」
女「っていうか、あなたご飯食べるの?」
ステーキ「食べるよ」
女「なんで!? 食べ物なのに!?」
ステーキ「食物連鎖って知ってるか?」
ステーキ「大きな動物に食べられる小動物とて、昆虫などを食べて生きているのだ」
ステーキ「食べられる立場の者が、何かを食べてもなんら不思議はないじゃないか」
女(うーん、納得いくようないかないような)
女「ま、いいわ。残り物でいいならすぐ出してあげる」
女「ほら、ご飯とお味噌汁」
ステーキ「ほう、これはこれは……」
ステーキ「まずは味噌汁から」ジュルッ…
ステーキ「――!」ハッ
女「いきなりどうしたの?」
ステーキ「そうか……そういうことだったのか!」
女「えっ、いきなりどうしたの!?」
ステーキ「女、この部屋をできる限り暑くしてくれ! 早く!」
女「分かったわ!」ピッ
ゴォォォォォ…
女「エアコンの設定温度を80℃にしたわ!」
ステーキ「かたじけない」
ムワァァァ…
ステーキ「……」
女(あっつぅ~……だけどこれで一体どうなるというの……!?)
ステーキ「……」ダラダラ…
女(ステーキが汗をかいてる!?)
女「あっ、分かった! ――肉汁か!」
ステーキ「その通り!」ダラダラ…
ステーキ「うまいステーキには、ほっぺたが落ちるような肉汁がつきもの!」ダラダラ…
ステーキ「今までの俺にはそれがなかったんだ!」ダラダラ…
女「あ~、たしかに! さっき食べた時もまったく肉汁を味わえなかったもの!」
ステーキ「しかし、これでコツを掴めた! 俺はもう自在に肉汁を出せる!」
ステーキ「それと同時に、俺にはまだまだ足りないものがあると実感させられた!」
女「たとえるならスポーツで上達したら、かえって上級者との差を痛感した、みたいなことね」
ステーキ「そういうことだ」
ステーキ「だが、俺はこの調子で自分に足りないものをどんどん見つけてみせる!」
ステーキ「協力してくれるか、女!」
女「もっちろん!」
―会社―
女「……って、なんで会社までついてくるのよ」
ステーキ「お前についていけば、さらなるヒントが得られるかもしれないからな」
女「まぁ、好きにすればいいけど、仕事の邪魔はしないでよ!」
ステーキ「分かっている」フワァァァ
女(ステーキのいい匂いが……。こいつがいるだけで十分仕事の邪魔になるっつーの!)
イケメン「やぁ、女さん」
女「おはよう、イケメンさん」
イケメン「会社にステーキを持ってくるなんて、君はなかなかユーモアがあるね」クスッ
女「持ってくるっていうか、ついてきちゃったんだけどね」
イケメン「――そうだ!」
イケメン「おいしいステーキの店を知ってるんだけど、よかったら今晩どうだい?」
女「ホント? どうしようかな……」
ステーキ「……」
ステーキ「ふんっ!」ピョンッ
ジュワァァァ…
イケメン「!? ――あちっ、あちぃっ!」
女「ステーキ!?」
イケメン「あちちちち……」ヒリヒリ…
女「イケメンさん、大丈夫?」
イケメン「うん、大丈夫……」
イケメン「それにしても驚きだ。いきなりステーキが飛びかかってくるなんて……」
女「彼は世にも珍しい、しゃべるステーキなのよ」
イケメン「そ、そうなのかい。それじゃボクはこれで……」スタスタ
女「ちょっと! イケメンさんになんてことすんのよ!」
ステーキ「悪い、ついヤキモチを焼いちまって」
女「ヤキモチを焼かれるのは悪い気分じゃないけど、加減を考えないと!」
ステーキ(ヤキモチ……加減……)
ステーキ「そうか、そういうことか!」
女「え、なになに? またなにか閃いたの?」
ステーキ「ああ、俺は今までステーキとは焼かれまくってナンボだと思っていたが」
ステーキ「客の好みに合わせて、千差万別の焼き加減を生み出せなければ真のステーキとはいえない」
ステーキ「レア、ミディアム、ウェルダン、さまざまな焼け方をマスターしなければならないんだ!」
女「そうね……! 私はどっちかといえばレアが好きだし」
ステーキ「またしても、自分に足りないものを発見できた! ありがとうよ!」
―アパート―
女「……よし、これは正解!」
ステーキ「なにをやってるんだ?」
女「『頭の体操』っていう、頭のクイズよ。あなたもやる?」
ステーキ「ふん、いきなり一瞬で解いてやろう。どれどれ」
・水族館でアシカ使いの美女がアシカに口移しで角砂糖を与えた。
すると、観客の男が「俺ならもっと上手くできる」といって、うまくやってみせた。
男はアシカのトレーナーの経験などないのに、なぜ可能だったのだろうか。
ステーキ「う~む……アシカを魅了するフェロモンでも持ってたとか?」
女「答えはこうよ」
・男はアシカのマネをして美女から角砂糖をもらった。
ステーキ「なんだそりゃ!? こんなの分かるわけないぞ!」
女「だから『頭の体操』なのよ。頭をやわらかくしないと解けないようになってんだから」
ステーキ(頭をやわらかく……やわらかく……)
ステーキ「そっ、そうか!」
ステーキ「俺は今まで、肉は噛みごたえがなければならないという考えだったが……」
ステーキ「それだけじゃダメだったんだ!」
ステーキ「柔軟さを備えなければ、ほっぺたが落ちるようなおいしさにはなれない!」
女「そうね、やわらかければお年寄りも安心して食べられるしね」
ステーキ「よぉし、今日は『頭の体操』を解きまくって、やわらかくなってやる!」
女「ファイト!」
―アパート―
女「お化粧しなくっちゃ」ポンポン
ステーキ「毎日毎日大変だな、女ってのは」
女「だけど、しないわけにもいかないしね」
ステーキ「しかし、化粧というものはしょせん素材を台無しにするだけの行為だと思うがな」
女「あら、そんなことないわよ」
女「わずかな化粧が、素材の魅力をアップさせることだってあるんだから」
ステーキ「――!」ハッ
ステーキ「た、たしかに……!」
ステーキ「またも気づいてしまった……俺に足りないもの!」
ステーキ「俺は素材の味を追い求めるあまり、調味料というものを嫌っていた……」
ステーキ「塩コショウや、バター、ソースは質の悪いドーピング薬物としか思ってなかった」
ステーキ「調味料に頼った料理はみんなベンジョンソンだと決めつけてた!」
ステーキ「だが、そうじゃなかった!」
ステーキ「調味料の性質を見極め、適切な量をふりかければステーキの味はさらに引き立つ!」
ステーキ「そう……化粧する女性のように!」
女「あまりに厚化粧なのもなんだけど、必ずしもスッピンがいいとは限らないものね」
ステーキ「よし……俺はさらに王たるステーキに近づいたぞ!」
―会社―
ステーキ(しかし、まだ足りない……まだなにか足りないんだ。ピースがあと一つ……)
イケメン「やぁ、女さん、ステーキ君」
ステーキ「……」ギロッ
女「こら、睨まないの!」
イケメン「ハハ……いいよいいよ」
イケメン「ところで三時だし、おやつにポップコーンでもどうかなと思ったんだけど……」
女「あ、おいしそう!」
ステーキ(ポップコーン……)
ステーキ(コーン……)
ステーキ(コンコン……キツネ……きつねうどん……油揚げ……油……オイル……)
ステーキ(オリーブオイル……もこみち……女性に人気……黄色い声援……)
ステーキ(黄色……トウモロコシ……)
ステーキ(トウモロコシ!?)
ステーキ(そうか! 分かったぞ!)
ステーキ「俺がステーキとして完成するための、最後のピースはトウモロコシだったんだ!」
女「ええっ!?」
イケメン「たしかに、ボク行きつけのステーキ店でも、ステーキにはコーンが添えられてる!」
ステーキ「だろ?」
女「でもどうしてコーンなの?」
ステーキ「多分、トウモロコシの甘さが肉の旨味を倍加させるとかそんな理由じゃないか?」
イケメン「茶色い肉の隣に、黄色いコーンがあると色彩的にも美しいしね」
イケメン「それに……コーンを食べた翌日あたりに、トイレで消化されてないコーンを見かけると」
イケメン「なんだかとても愛おしくなるんだ! “消化されずによく頑張った!”って……!」
ステーキ「分かる分かる! 嬉しくなるよな!」
イケメン「うん、ちょっとした財宝を見つけたような気分だよ!」
ステーキ「お前、案外いい奴だな!」
イケメン「君こそ!」
ガシッ!
女(妙なところで意気投合してる……)
ステーキ「よぉ~し、今までに学んだことを全部出し尽くしてみるか!」
ステーキ「たっぷり肉汁出して!」ダラダラ…
ステーキ「適切な焼き加減で焼けて!」ジュワァァァ…
ステーキ「やわらかくなって!」トローン…
ステーキ「調味料で化粧して!」パッパッパッ
ステーキ「トウモロコシを添える!」ジャキーンッ
ステーキ「さぁ、俺を食べてみてくれ!」
女「いきなり試食会か……あなたらしいわね」
女「いただきます」モグッ
イケメン「ボクも」モグッ
二人「!!!」ビビビッ
女「お、おいひい……!」
女「前の時とは比べ物にならないほどおいしい!」
イケメン「なんて味だ! ほっぺたが落ちて、地面を貫いて、ブラジルまでいってしまいそうだ!」
イケメン「コーンももちろんおいしくて、今から明日のトイレが楽しみだよ!」
ステーキ「ありがとう、二人とも……!」
『ふっふっふ、見事じゃ!』
ステーキ「この声は……親父!? 相変わらずいきなりだな!」
ステーキ王『今までのことは全て見ておった』
ステーキ王『どうやら、ようやく王にふさわしいステーキとなれたようじゃな』
ステーキ「おかげさまでな」
ステーキ王『さていきなりで悪いが、お前には帰ってきてもらう』
ステーキ王『お前には、少しでも早く王としての経験を積んでもらわねばならんからのう』
ステーキ「分かったよ……親父!」
ステーキ「……二人とも、どうやら今ここでお別れみたいだ」
女「!?」
ステーキ「親父にとっとと王様になれって、呼び出されちまったからな」
女「そ、そんな! いきなりすぎるわ!」
イケメン「せっかく仲良くなれたのに!」
ステーキ「すまない……ま、元々俺はステーキ界の住人だし、あまり長居するわけにはいかないんだ」
ステーキ「女、色んなことを教えてくれて本当にありがとう」
女「ステーキ……!」
ステーキ「イケメン、お前になら彼女を託せる。頼んだぞ」
ステーキ「未消化のコーンを愛するように、彼女を愛してあげてくれ……」
イケメン「もちろんさ!」
ステーキ「さよなら……二人とも!」
ジュワァァァッ!!!
女「ステーキーッ!!!」
イケメン「ステーキ君っ!」
…………
……
……
スタスタ…
イケメン「今夜は≪いきなりステーキ≫にでも行こうか!」
女「うん、賛成!」
女「……」
イケメン「どうしたの?」
女「いえ、ステーキっていうと、どうしてもあいつを思い出しちゃって……」
イケメン「彼か……彼なら、絶対にステキな王様になってるに決まってるさ!」
女「うん……そうよね!」
―ステーキ界―
ステーキ大臣「こちらの書類が今期の国家予算の内訳となります」バサッ
ステーキ「あいよ!」
ステーキ「あ~、忙しい、忙しい!」ジュワァァァ
ステーキ大臣「ところで、外務担当の者から、ステーキ界発展のために人間界と交流したいという」
ステーキ大臣「申し出が出てるのですが、いかがいたしましょう?」
ステーキ「ほう、面白い……」
ステーキ(よぉし、いきなりあいつらに会いに行って、驚かせるのも悪くないな!)
―終―