― コンビニ ―
男「これください」
女店員「……315円のお釣りです」
男「ん?」
男(415円あるぞ)
男「あのー、お釣りが多いですよ」
女店員「うわ……キモッ」
元スレ
男「お釣りが多いですよ」女店員「うわ……キモッ」
http://hebi.5ch.net/test/read.cgi/news4vip/1512577807/
男「は?」
女店員「なに今のドヤ顔」
女店員「お釣りが多いことをちゃんと申告する俺、かっこいいって?」
女店員「バカじゃない?」
男「……!」
女店員「全然かっこよくなんかないから。バカ正直通り越してただのバカよ。バ、カ」
男「な……!」
女店員「もしかして、そうやってお釣り多いって正直にいうことで」
女店員「あたしを惚れさせようとでもしてるわけ?」
女店員「で、バイト帰りに声かけてそのままラブホってか?」
男「ぐ……!」
女店員「バッカじゃない? なにその妄想全開サクセスストーリー」
女店員「釣り銭多いの正直にいったぐらいで惚れる女なんかいるわけないじゃん」
男「し、失礼するっ!」スタスタ
― コンビニ ―
女店員「2円のお釣りです」チャリンッ
男「2円か……」
男「募金しよ」チャリンッ
女店員「うわ……キモッ」
男「な……!」
女店員「たかが2円募金して、いいことしたつもり?」
女店員「こんなんじゃ、アフリカの子供達なんか少しも救われないんだから」
女店員「あんたのやってることはね、ただの偽善」
女店員「いや、これでいいことしてると思ってるなら、偽善どころか邪悪よ、邪悪」
男「……!」
女店員「で、俺いいことしただろって、あたしをナンパしてそのままラブホってか?」
女店員「考えが浅すぎんの。浅瀬だよ、浅瀬」
男「さよなら!」スタスタ
― コンビニ ―
男「これください」
女店員「……」ガサガサ
男「あ、ビニールいりません」
女店員「うわ……キモッ」
男「む……!」
女店員「ビニール袋断って、環境に優しいアピール?」
女店員「ビニール袋使わないからって、環境に優しいなんてこと全然ないの」
女店員「本当に環境をよくしたいのなら、今すぐ砂漠で植林でもしてきなさいよ」
男「ぐぐぐ……!」
女店員「で、エコな男を演じてから、あたしに誘いをかけるって魂胆でしょ?」
女店員「エコどころかエロじゃん。バレバレなんだから」
男「おのれ……!」スタスタ
― コンビニ ―
女店員「700円になります」
男「1200円」
女店員「うわ……キモッ」
女店員「500円になるよう支払いましたよ、あまり手間はかけさせませんよアピール?」
女店員「あるいは瞬時に計算できる僕ちゃんかっこいい、インテリだろアピール?」
女店員「そうやって体を狙うわけだ。はいはい、下心バレバレ」
男「ぐぐぐ……!」
女店員「たかがコンビニでそうやっていちいち自分をアピールするの恥ずかしくない?」
女店員「あんたみたいな性欲丸出しの男が女を不幸にすんのよ」
女店員「ねえ分かってる? 自分が気持ち悪いって自覚してる?」
男「店長を呼べえええええええっ!!!」
男「なんなんだ、あの女は!?」
店長「申し訳ございません! 申し訳ございません!」ペコペコ
男「常連客に向かって!」
店長「よぉっく教育しますんで!」
男「いや、よく教育が行き届いてるじゃないか」
店長「はい?」
男「なぜあの女は、俺の下心をこうも的確に読み取るんだ!?」
男「ええと……今はストーカーって罪なんですよね」
店長「そうみたいですね……色々と事件もありましたし」
男「やっぱりそうか……俺のコンビニ通いも今日限りだな」
男「俺、自首します」
店長「待った待った待った!」
男「なにを待つ必要が?」
店長「まだ事件があったわけじゃないですし」
男「事件になってからじゃ遅いでしょ?」
店長「いや、まあ、そうなんですけど……」
店長「あ、そうだ! そんなに償いがしたいんだったら、ウチの店で働いて下さい! ねえ?」
男「はぁ……分かりました」
― コンビニ ―
男「というわけで働くことになりました」
女店員「うわ……キモッ」
女店員「いくらあたしに付きまといたいからって、ここまでする?」
男(へっ、なにも言い返せねえ)
男「とにかく頑張りますんで……」
女店員「いっとくけど、あたしは教育しないから。見て覚えてね」
男(ああ……見てやるともさ!)ジロジロ
男「いらっしゃいませー!」
女店員「……」
男「ありがとうございましたー!」
男(客として来てた時は気づかなかったけど、この子ほとんど黙ってんのな)
男(コンビニ店員として、これ大丈夫なのかなぁ?)
男(店長に相談してみるか……)
男「店長」
店長「なんだい?」
男「あの子、いくらなんでも愛想なさすぎじゃないですか?」
男「いいんですか、あれで?」
店長「ん~……いいんだよ。あの子はあれで」
男「うーん……」
男「惚れてる身でいうのもなんですけど――」
店長「ん?」
男「よくあの子を雇う気になりましたね」
店長「私は困ってる人を放っておけない主義なもんで」
男「はぁ……」
男(分かるような、分からないような回答だ)
店長「あの子も可哀想な子なんだよ」
店長「昔、ひどい男につかまって、ひどい目にあわされて、すっかり人間不信になってしまったらしい」
店長「私でさえ、あの子と口をきくことはほとんどないからね」
男「へえ……」
店長「だが、君ならもしかしたら……彼女を救えるかもしれない……」
男「……」
男「分かりました、やってみます!」
男「おはよう!」
女店員「うわ……キモッ」
男「ああ、俺はキモイよ」
女店員「そうやって自ら認めて、俺はちゃんと自分を分かってますアピール?」
女店員「気持ち悪すぎ!」
女店員「そうやってあたしに近づいて、ラブホに連れ込むって魂胆でしょ?」
男「あぐぐぐ……」
男「全然ダメだ……キモイとしかいわれない……」
店長「いや、あんなに心を開いてる彼女を見るのははじめてだよ」
男「開いてるっていうんですか、あれ?」
店長「開いてる開いてる」
店長「実は君がお釣り多いって申告した日も……」
女店員『店長』
店長『君から話しかけてくるなんて珍しいな。なんだい?』
女店員『今日、お釣りを多く渡したら、ちゃんと返してくれるお客さんに出会ったんです』
店長『へえ~』
女店員『世の中、あんな人もいるんですね……』
店長『そのお客さんは、君の働きぶりを見て気に入ったんじゃないのかな?』
店長『だから、君ももっと人を信じるように――』
女店員『いえ、もっと嫌われるようにしないと』
男「……」
男(まさか、あの子にそんな一面が……)
男(俺にだけ、やたらボロクソにいってくるのもそういうことだったのか)
男(彼女は彼女で、俺に対してそれなりの感情があることは間違いないようだ)
男(だけど、これ以上どうすりゃいいんだ?)
ある日――
― コンビニ ―
大男「おう、おめえこんなとこにいたのか」
女店員「!」ビクッ
大男「ぐっへっへ、つれねえなぁ。オレとお前の仲じゃんかよぉ~」
男(なんだ、あのデカイ奴は……)
大男「久しぶりだな~、てっきり自殺したって聞いてたが生きてたのか。よかった、よかった」
大男「あんだけ殴ったりしたのに、ケガもバッチリ治ってんじゃん」
女店員「……」
大男「金くれよ、5000円でいいんだ」
女店員「……どうぞ」サッ
大男「オレが5000円っつったら10000円だろうが! 多く渡せよ!」バシッ
女店員「す、すみません」
男(な……!)
男「やめろ!」
大男「なんだお前?」
男「その子の同僚だ」
大男「同僚がなんの用だよ? オレらの仲に口出しすんじゃねえよ」
男「いや、出してやる」
女店員「うわ……キモッ」
女店員「口出しなんかしないでよ。正義のヒーロー気取って、下心丸出しで……」
男「そうだよ」
女店員「!」
男「俺は下心丸出しのストーカー気質のキモイ男だ」
男「毎日このコンビニに通ったのも、全ては君を落とすためだった」
男「だからここでいいとこ見せて、君に惚れ直させてやる」
女店員「……!」
男「おい、でかいの。もうこの子につきまとうのはやめろ」
大男「いい度胸じゃねえか。てめえ、表に出な」
男「いいだろう」
大男「ここなら防犯カメラもねえし、思い切りやれるな」
大男「オラァッ!」
バキッ!
男「ぐはっ!」
ドカッ! バキッ! ドゴッ!
女店員「あああ……」
大男「だらぁっ!」
ドカッ!
男「ハァ、ハァ、ハァ……」ニヤ…
大男「しつけえ……お前、気持ち悪いんだよ! なんなんだよ、お前!」
男「俺はあの子に惚れてる男だよ」
男「ここで、ジャイアンと戦うのび太みてえに男気見せれば、あの子が万が一惚れてくれるかと思うと」
男「笑いが止まらねえぜ!」ニヤニヤ
大男「うわ……キモッ!」
大男「今日はこのぐらいにしてやらぁ!」タタタッ
男「ふぅ……」ガクッ
女店員「しっかりして!」
大男「うへぇ~、気持ち悪かった。ったく、なんなんだあいつ」
大男「あいつらめ、オレはまた来てやるからな」
大男「女からはまた金をもらって、あのキモイ野郎は本当にブッ殺しちまうのもいいか」
店長「あのぉ~」
大男「あん?」
店長「私、あの店の店長です」
大男「店長がなんの用だよ」
店長「私、困ってる人を放っておけないたちなんです」
大男「はぁ?」
店長「いやぁ~、よくもまあうちの従業員をあれだけ困らせてくれましたね」
大男「で?」
店長「覚悟してもらいましょうか」
大男「覚悟? なんの覚悟だよ?」
店長「二度と彼らに近づこうと思えなくなるほどズタボロにされる覚悟だよ」
大男「え……」
男「……ん」
女店員「どうしたの?」
男(さっきの大男の悲鳴が聞こえたような気がしたけど、気のせいか)
男「それより、今こそ回りくどくアピールせずに、ちゃんといおうと思う」
男「付き合って下さい!」
女店員「……」
男「……」ゴクッ
女店員「じゃああたしも、回りくどいことはやめる! もう逃げない!」
女店員「よろしくお願いします!」
男「うへへへ……ど、どうも」
女店員「うわ……キモッ」
女店員「だけど、これだけはしないで、ってことを二つだけ守って」
男「どうぞ」
女店員「一つはあまり暴力振るわないこと、もう一つはあまりお金をたからないこと」
男「余裕すぎる……」
男「この通り腕っ節はからっきしだし、お金にも困ってないしね」
男「その二つだけじゃあんまり掟って感じがしないから、もう一つぐらい作らない?」
女店員「それじゃあ、あともう一つだけ」
男「なに?」
女店員「浮……気も」
男「もちろん!」
― おわり ―