八幡「どうした。ハゲたのか?」
結衣「ハゲないし!」
元スレ
結衣「あのさ……あたし、髪のことで悩んでてね」八幡「髪?」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1511625058/
結衣「何言ってんのヒッキー! 女子に向かっていきなり『ハゲたのか?』ってありえないし!」
雪乃「…………」
結衣「デリカシーなさすぎ! ヒッキー最低!」
八幡(えぇ……ここまで非難浴びるほど俺酷いこと言ったか?)
八幡「いや、髪のことっていうからよ……」
結衣「女子が髪のこと気にしてるっていったらもっと他にあるでしょ! ほら、髪型とか寝癖とか、くせ毛とか」
八幡「いや、それならそうとはっきり言ってくれれば分かる。妙にぼかすからだろ」
結衣「それにしたっていきなり『ハゲ』とか普通聞かないもん! ゆきのんもそう思うでしょ?」
雪乃「ええ、そうね。普通なら女性に対していきなり『ハゲ』発言などしないはずよ」
結衣「だよねっ。ほんとヒッキー意味わかんない」
雪乃「髪という言葉に対してまっさきに『ハゲ』という言葉が口から出てきてしまった」
雪乃「これは比企谷くん、あなた自身の心の問題を反映しているのではないかしら」
結衣「え?」
八幡「は? どういうことだよ」
雪乃「……あなた、自分で気づいていないの?」
八幡「いや、気付くも何も。何の話をしているのかいまいち要領を得ないんだが」
結衣「あっ……(察し)」
八幡(え、何を察してるんですか由比ヶ浜さん……?)
雪乃「そう……」
八幡(ちょっと、何でそんな悲しそうな目をするんだよ……。何なの? 俺を憐れんでるの? わけがわからないよ?)
雪乃「分からないのなら、教えてあげるわ。比企谷くん、あなた最近、頭皮の……いえ、生え際の後退が著しいわよ」
八幡「え……?」
雪乃「それだけではないわ。あなたの……その、後ろ頭」
八幡「後ろ頭がどうした……」
結衣「ヒッキー、後ろ頭の真ん中あたり、ちゃんと確認したほうがいいよ。毛がないとこがあるから。十円玉くらいの大きさの」
八幡「へ……?」
雪乃「おそらく、円形脱毛症でしょうね……」
八幡「う、嘘だろ……?」
雪乃「比企谷くん、私は……嘘はつかないのよ」
結衣「ヒッキー、気付いてなかったんだ……」
雪乃「気づいてても……誰も言ってくれなかったのかもしれないわね」
結衣「……可哀想」
八幡「いや、嘘だと言ってくれ……。俺、まだ高二だぞ? 高二なのに」
雪乃「比企谷くん、たとえ辛い現実だとしても……受け入れなければならないことはあるのよ」
八幡「受け入れる……? 受け入れろというのか、この現実を……」
雪乃「ええ、そうよ。あなたが『ハゲ』てしまったという現実を」
八幡「や、やめろ! 言うな……そのワードを口にするんじゃねぇ……」
結衣「だ、大丈夫! あたしはヒッキーが『ハゲ』てても全然大丈夫だから!」
八幡「俺の頭皮は大丈夫じゃねえだろうが!」
雪乃「現実を受け入れない限り、あなたが前に進むことはできなくなるわ。比企谷ハゲ幡くん」
八幡「やめてくれよ……(絶望)」
八幡(確かに親父も、二十代後半くらいから徐々に髪が薄くなったらしくて、今や幕張の安打製造機みたいな髪型になっている)
八幡(だが、それにしても……いくらなんでも早すぎるだろ。こ、この年で……)
結衣「大丈夫だよヒッキー、ほら、最近のカツラって本物の髪そっくりらしいし。ちゃんと誤魔化せるって」
八幡「誤魔化すだと? ふざけるな!」
結衣「ヒッキー……」
雪乃「比企谷くん……」
八幡「カツラなんて……かぶらねぇ。俺はそんな、見かけだけの薄っぺらい欺瞞じみた方法は嫌いだ」
八幡「偽物なんていらねぇ(カツラ)」
八幡「俺は、本物が欲しい(地毛)」
雪乃「…………」
結衣「…………」
雪乃「そう。それがあなたの答えなのね」
八幡「ああ」
結衣「ヒッキー、頑張って。あたしも応援するから」
雪乃「頭皮に関して悩みがあったら、何でも言ってちょうだい。私も、できる限りの助言はするつもりよ」
八幡「いや、いい。これは俺自身の問題なんだ。自分の問題は自分で解決するさ」
結衣「で、でも……」
雪乃「また一人で問題を抱え込むというの? 『ハゲ』への風当たりは厳しいわ……あなた一人で生きていけるの?」
八幡「俺はいつも一人だ。これまでも、これからも、一人で生きていく」
八幡「たとえこのまま『ハゲ』が進行しようとも、泥臭く這いつくばって戦ってみせる。それが俺のやり方だ」
雪乃「そう……なら、仕方がないわね」
結衣「そんなの! そんなのまちがってる!」
八幡「由比ヶ浜……」
結衣「だってヒッキーは『ハゲ』なんだよ! 『ハゲ』たヒッキーが一人で生きていくなんて……そんなの……そんなの」
結衣「あだし……見でいられないよ……うぅっ……」
雪乃「由比ヶ浜さん……。そんな、あなた……卑怯よ。どうしてあなたが泣くの?」
雪乃「どうして……本当に泣きたいのは……ぐっ……」
八幡「何だよ……何なんだよ……っ」
八幡「何で……お前らが泣くんだよ……」
八幡「泣きたいのは……お……れ……の、う……うぁあ”あ”あ”っ……」
堪えきれずに涙があふれ、みっともなく泣き声を上げた俺の両手が優しく握られた
八幡「お……お前ら……」
結衣「大丈夫だよ。ヒッキーには、あたしたちがついてるから」
八幡「由比ヶ浜……」
雪乃「私たち三人で解決策を探っていきましょう、比企谷くん」
雪乃「今度こそ……まちがえたりしないようにね」
八幡「雪ノ下……」
八幡「……ありがとう、二人とも」
この時、この瞬間に感じた、言葉では言い尽くせない感慨、共感、情念の発露
これこそが、俺が、俺たちがいくら求めても得られないと思っていた『本物』なのだと信じて、これからも生きてゆく
この、薄れゆく頭髪とともに――
(おしまい)