八幡(……年が明けて初めての奉仕部の活動)
八幡(雪ノ下さんは早速先日罵倒語ディクショナリーに追加された言葉を開放なされたようです)
八幡「あら雪ノ下さん、言葉遣いがお下品よ。もう少し品のある言葉を用いられてはいかがかしら」
雪乃「それは誰の真似かしら? 新年早々酷く不愉快な心地だわ。全く本当に比企谷君は八幡ね」
結衣「!!?」
八幡(雪ノ下さん? めっちゃ楽し気な顔で八幡八幡連呼してますけどその言葉っていったいどれほどランクの高い罵倒語なんですかね)
八幡「おい、俺の名前を口にして楽しそうにすんなよ。勘違いしそうになっちゃうだろ」
雪乃「だって酷く語感のいい言葉なのだから仕方がないじゃない。ばか、ボケナス、八幡……ふふ」
八幡(何この子そのフレーズどんだけ気に入っちゃってんの? 雪ノ下的流行語大賞早くも決まっちゃった系ですか?)
結衣「ちょちょ、待ってよー!」
雪乃「あら、どうしたの由比ヶ浜さん?」
元スレ
雪乃「うるさいわね。ばか、ボケナス、八幡」結衣「!?」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1510748998/
結衣「ゆ、ゆきのん、さっきからヒッキーのこと……」
雪乃「八幡のことを言っているのかしら?」
結衣「そう、それ! 何時の間にヒッキーをそう呼ぶようになったの?」
雪乃「初詣の時に、ね」
八幡「そんな含みを持たせても特に何もなかったからな? なかったよな?」
雪乃「うるさいわね、八幡は黙っていなさい」
八幡「おい雪ノ下さん? その使い方は少しおかしくないですか?」
結衣「う、うー……もしかして、二人ってもう……ううう」ジワ
雪乃「あら由比ヶ浜さん。あなた、何か大きな勘違いをしているのではないかしら」
結衣「え? もう二人って付き合ってるんじゃないの?」ウルウル
八幡「なんだその恋愛脳……これだからビッチは」
結衣「び、ビッチってなんだし!? だってゆきのん、ヒッキーのこと名前で呼んでるし、凄い楽しそうじゃん……」
雪乃「はぁ……」
雪乃「由比ヶ浜さん、その勘違いは酷く不愉快だわ。私と比企谷君が付き合うなんて天地がひっくり返ってもあり得るはずがないでしょう? 私がその男のファーストネームを口にしているのは全く別の理由からよ」
結衣「……素直じゃないなぁ……でもそっか、付き合ってないんだぁ……よかった」ボソッ
結衣「でも、それじゃなんでゆきのんはヒッキーの名前呼んでるの?」
雪乃「それはね……」
結衣「……ぷっ、あはは! なるほど、そーいう理由なんだ」
雪乃「小町さんもなかなか趣深い言い回しをするものだと思って、思わず私も真似してしまったのよ」
結衣「なるほど……こほん、ヒッキーのばか、ボケナス、八幡! えへへ」
八幡(うっ……。罵倒されてるのは分かってるのにはにかんだような笑顔についドキッとしてしまった……男って単純)
結衣「でもなんか、違う意味だって分かっててもヒッキーの名前言うのって恥ずかしいなぁ……///」
八幡「おーい? それは暗に俺の名前が恥ずかしいと言いたいんですかね」
結衣「そーいう意味じゃないし……」
雪乃「由比ヶ浜さん、そこは発想の転換をすればいいのよ」
結衣「発送の点火?」
八幡「燃やしてどうするんだよ、転換だ転換」
雪乃「ふぅ……まずこの言葉、『ばか、ボケナス、八幡』だけれど、三つの言葉に区切ることが出来るのは分かるわね?」
結衣「そ、それくらいはわかるよ!」
雪乃「そう。そして、この三つの言葉は段階的に比企谷君を罵倒するランクが上がっていると私は考えたのよ」
雪乃「すなわち、八幡という言葉はボケナスという罵倒語よりも上のランクで比企谷君を貶めているわけね」
雪乃「自分のファーストネームが最上級の罵倒語として用いられるというのは中々ない体験なのではないかしら? そういう意味でも私はこのフレーズを気に入っているわ」
結衣「ふえー……な、なんかすごいんだね」
八幡「いや、感心してるところ悪いけど言ってることはめちゃくちゃ性格悪いからな?」
雪乃「まぁ、簡単に言えば八幡という言葉を比企谷君のファーストネームとして用いるのではなく、最上級の罵倒語として用いていると考えれば、恥ずかしがることもないということよ」
結衣「な、なんかそれはヒッキーがかわいそうかも……」
八幡「今更情けをかけられても大して意味ないんだよなぁ……」
雪乃「あらそう。なら私は遠慮なくこの言葉を使わせてもらうとするわ。ね、八幡」
結衣「!!??」
八幡「いや、その使い方おかしいだろ……」
雪乃「何がおかしいのかしら? 私がこの言葉を最上級の罵倒語であると思って用いているのと同じように、あなたは私のような美少女からファーストネームで呼ばれていることを妄想しておけばいいのよ。何も難しいことはないでしょう? あなたの得意分野じゃない」
八幡「人の趣味を勝手に妄想にするのやめてね。というか散々前振りがあった時点で俺にそんなポジティブな妄想が出来ると思うのか? むしろプラスな前振りがあっても裏を読んでネガティブな妄想しかできないまであるぞ」
雪乃「そんな情けないことをしたり顔で言わないでもらいたいわね。まぁ別に罵倒されていると捉えても問題ないでしょう? そちらはそちらであなたの性癖に合致するでしょう」
八幡「おい、人が罵倒されるのが好きな変態見たく言うのやめろ。俺はいたってノーマルだ」
雪乃「あらそうなの? 初めの頃は罵倒しかされていないのにニヤニヤしながら部室に来るからそういう趣味があるのかと思っていたわ」
八幡「自覚はあったんだな……というかニヤニヤはしてなかっただろ。……してないよな?」
雪乃「そこで自覚がないのが八幡の八幡たる所以ね」
結衣「むー……ゆきのんずるい……」
八幡「……なにがだよ」
雪乃「由比ヶ浜さんは優しいわね。この男を罵倒することに良心の呵責を覚えるなんて。でも大丈夫よ、この男の性根を治すよう依頼されているのは私の方だから、由比ヶ浜さんは無理してこの男を罵倒しなくてもいいわ。備品にもたまにはアメが必要でしょう」
八幡「おいさらっと人を備品扱いすんなよ」
結衣「あ、あたしだって……ひ、ヒッキーの名前言うくらい、できるもん」
八幡(なんかそれは趣旨変わってませんかね?)
結衣「これは罵倒……罵倒だから……」ボソボソ
結衣「あー……んん……」
八幡「…………」
結衣「は、はちまん……///」
八幡「……ぐっ」
八幡(上目遣い+赤面のコンボだとっ!? こいつ、いつの間に一色に弟子入りを……)
八幡(……しかし、普段そういう素振りが一切ない由比ヶ浜にやられると破壊力がダンチだな……)
雪乃「…………」ジトー
八幡「……なんだよ」
雪乃「何を赤面しているのかしら。先ほどは否定していたけれど、やはりあなたは被虐性癖の持ち主であることは間違いないようね。人の性癖にとやかく言うつもりはないけれど、由比ヶ浜さんのような純真な女子高生に対して自分の性癖を見せつけるような真似はやめなさい。通報するわよ」
八幡「勝手に罵倒されてその上通報されるとか踏んだり蹴ったりにもほどがあるだろ……」
雪乃「あら、あなたの性癖からすればご褒美じゃない。ごめんなさい気持ち悪いわ」
八幡「いつまで俺はドM扱いを受ければいいんですかねぇ……」
結衣「うー……やっぱ恥ずかしい……」
八幡「お前は無理して言わなくてもいいからな?」
結衣「で、でもゆきのんに負けてらんないし……!」
八幡「なんの勝負だよ。どれだけ俺を罵倒できるかな大会?」
雪乃「そんな比企谷君を喜ばせるだけのイベントなんて開かれるわけがないじゃない。自分に都合のいい妄想はやめなさい」
八幡「いやそんな大会があったとして一番喜ぶのは絶対お前だよね?」
雪乃「私があなたを罵倒して喜んでいるかのような言い方はやめなさい。本当あなたは八幡ね」
結衣「そ、そーだよ! 本当八幡はダメなんだから!」
雪乃・結衣「……むー」
八幡(え、なんなの? 俺罵倒大会絶賛開催中?)
雪乃「……由比ヶ浜さん? そんなにも言うのを躊躇するくらいなら無理して八幡を八幡と呼ばなくてもいいわよ。由比ヶ浜さんの気性の穏やかさでは、八幡のようなどうしようもない男を責めることにも良心の呵責を覚えてしまうでしょう。その点私は自分で言うのもなんだけれどあまり性格の良い方ではないから、八幡を八幡と呼ぶことになんの躊躇いも覚えないわ。だから八幡という呼び名は私に任せておきなさい」
結衣「……あ、あたしはゆきのんみたいに理屈をたくさん並べるのは得意じゃないけど、あたしだって八幡のことちゃんと八幡って呼んであげたいもん。だからゆきのんばっかり八幡って呼ぶのはだめだよ。あたしにだって八幡って呼ばせてよ」
八幡(美しい友情……なのか? なんか二人の間に火花を幻視してしまうほど空気が張り詰めてるような……。八幡って罵倒語そんな競合率高いのん? それならまずマネージャーの小町を通して頂かないと)
雪乃・結衣「むむむむむ」
八幡「……どうしろと」
コンコンコン
八幡(お、ここから理由を付けて逃げるチャンス)
八幡「どうぞ」
「しつれいしまーす」
八幡「……まぁ、そんなところだと思ってたけどな」ハァ
いろは「ちょっ、顔を会わせたかと思ったら溜息吐くとか失礼すぎじゃないですかね?」プンプン
八幡「いやあざといから」
いろは「まぁいいです。今日も生徒会の仕事手伝ってくださいよー」
八幡「おう、今すぐいこうすぐ行こう」
いろは「ふぇ? な、なんですかそんなに嬉しそうに急かすとか口説いてるんですか私と早く二人きりになりたいならちゃんと口に出してそう言ってくれた方が嬉しいのでやり直しですごめんなさい」
八幡「なんでこの流れで振られるんですかね……」
雪乃「あら八幡、どこへ行こうというのかしら?」
いろは「!?」
結衣「八幡、まだ話は終わってないよ!」
いろは「!?!?」
八幡「うげぇ、見つかったか……」
雪乃「結局あなたはどちらに八幡と呼んでもらいたいのかしら? 一応言っておくけどこれはどちらにファーストネームを呼ばれたいのかという意味ではないから勘違いしないように」
八幡「いやそんな話じゃなかったよね? あれ? そんな話だっけ?」
結衣「あ、あたしは、ちゃんと名前で呼んであげるし……」ボソボソ
いろは「ちょちょちょ、どういう展開ですかこれは?」
八幡「説明するのが面倒くさいからとりあえずちょっと外で待っててくれると助かるんだが……」
いろは「ちゃ、ちゃんと説明してくださいよー!」
いろは「……もしあのお二人がまともにアタックかけ始めたらわたしに勝ち目ないじゃないですかー……」
いろは「……なるほど、そういうことですか」
八幡「まーた面倒な奴に知られたな……」
いろは「……八幡先輩」
雪乃・結衣「!?」
いろは「うーん……個人的には先輩って呼び方が一番気に入ってるんですよねぇ……だけどこれはこれでアリですね」
八幡「いやナシだろ。うしろに先輩って尊称が付いてても八幡っていう蔑称がすべてを台無しにしてるからね?」
いろは「……自分のファーストネームを蔑称扱いとか悲しくならないんですか?」
八幡「ここ三十分くらいでそう刷り込まれてきてんだからしゃーないだろうが」
いろは「まぁいいですよ。八幡先輩ですし」
八幡「今ものすごくバカにされた気がするぞ」
いろは「そうですねぇ……それじゃぁ、八幡先輩の事をバカにする代わりに、わたしのこと名前で呼んでもいいですよ?」
八幡「はぁ?」
雪乃・結衣「…………」
いろは「ほら、こんなかわいい後輩の名前を呼べるとか嬉しいでしょ? すぐ呼んでくれても構わないですよ」ウリウリ
八幡「うざい、いらん」
いろは「ちょっ、即答ですか!?」
八幡「別に罵倒されるのはどうでもいいけど、お前をファーストネームで呼ぶのは普通に嫌だわ」
いろは「な、なんでですかー!」
八幡「……なんでもいいだろ。話は終わりだ、帰れ帰れ」
いろは「……そんなに嫌ですか?」ウル
八幡「うっ……」
八幡(そ、そんな仕草をしても騙されんぞ……)
いろは「わたしは先輩に名前で呼んでもらいたいだけなのに……」ウルウル
八幡「…………」
いろは「うう……」ウルウル
八幡「……はぁ」
八幡「……お互いにお互いの名前呼びあって、変な噂とか立ったら、お前の迷惑になるだろ」
いろは「え……?」
八幡「だから俺はお前の名前は呼ばん。以上」
八幡「後お前らも、俺の名前呼ぶなよ。理由は同上だ」
雪乃「……はぁ、本当にあなたは……」
結衣「…………」
いろは「……先輩」
雪乃「まぁ、私は普通に八幡と呼ぶけれど」
八幡「は? お前、人の話……」
いろは「ですねー。というか、八幡先輩やっぱ自意識過剰気味ですか? 先輩の存在感の薄さで噂とか立たないですから安心していいですよ」
八幡「流れるように罵倒するのやめてね……」
結衣「そんなの気にしなくていいよ、八幡。あたしも気にしないからさ」
八幡「だけど、俺とお前らじゃ立場が……」
雪乃「呼ばれたいか、呼ばれたくないか。それだけで十分なのよ。そのほかの要素が介入する余地はそこにはないの」
結衣「だから、八幡の気持ちを教えて?」
いろは「誰に、名前を呼ばれたいですか? ……この際、全員でもいいですけど」
八幡「…………」
雪乃「…………」ジーッ
結衣「…………」ジーッ
いろは「…………」ジーッ
八幡「……俺は」
ガラガラガラ
戸塚「失礼します。えっと、八幡いるかな……?」
八幡「戸塚で」
雪乃・結衣・いろは「えっ」
八幡「さぁ戸塚、何の用かは知らんが俺が一人で聞くよ。すぐ行こうさあ行こう」
戸塚「え、うん……?」
ガラガラガラ ピシャン
雪乃・結衣・いろは「…………」
結衣「……さいちゃんなら仕方ないかぁ」
雪乃「……年季の差かしら」
いろは「なんか釈然としないです……」
戸塚「……えっと、もしかして、なんか大切な話してたんじゃないのかな? お邪魔しちゃった……?」
八幡「バカ、お前ならいつ来たって邪魔になるわけないだろ。それに、大した話でもないよ」
戸塚「そ、そっか。それならいいんだけど」
八幡(……しかし、最後の方の雰囲気はちょっと変だったよな)
八幡(あれ、俺罵倒大会だよね? 危うくあいつらが俺の名前を呼びたいのかとかキモイ勘違いしちゃいそうになっちゃったじゃねーか)
八幡(勘違いダメ、絶対)
戸塚「……いいことあったみたいだね、八幡」クスッ
八幡「……は? 何言ってんだ戸塚。俺が学校でいい経験したことなんて金輪際ないぞ」
戸塚「そ、それはちょっと悲しすぎるけど……」
八幡「なんでそう思ったんだ?」
戸塚「……だって、さっきの八幡……嬉しそうに笑ってたよ?」
八幡「……そう、か」
八幡(なぜ俺は笑っていたのだろうか)
八幡(自分でも理由の分からないその笑顔の理由に首を傾げながら、俺は戸塚と一緒に歩を進める)
八幡(寒々しい風が、陽の当たる放課後の廊下を吹き抜ける)
八幡(その少しだけ温かい空間に、俺は、彼女たちと笑い合う、そんな風景を垣間見るのだった)
終
但し俺は幼小中高大と、男女担任家族全員から名前で呼ばれていたから、就職して姓を呼ばれても自分が呼ばれているとは気付かなかったので、今一実感出来ないかな?