
元スレ
【ハルヒ】涼宮ハルヒの冷夏【SS】
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涼宮ハルヒの冷夏
思い立ったら吉日という言葉があるが、俺が知りうる限り、この世に思い立った末に吉日になるどころか厄日になる人物が一人いる。
考えなくても脳内検索バーに一発でヒットするそいつ、つまり我らがSOS団の団長である涼宮ハルヒは、世界に蔓延る不思議を求めて日々思い立っている。
その思い付きに振り回されるのが俺のお役目であるところだが、今回ばかりは、不本意ながらあいつではなく俺が思い立ってやった。
実際のところ、事の発端は似非スマイル超能力者が俺にけしかけてきたわけだが、まんま話に乗ってやるほど俺も馬鹿ではない。
それにしても、あろうことかハルヒをデートに誘えという頭のネジが外れたことを言い出してきたのには呆れを通り越してもはや慈愛にすらなりつつあるな。
あいつもハルヒによる気苦労がたたってまともな思考ができなくなったんだろう。
しかしながら、自称エスパー・古泉一樹が言うには、去年のループした夏休みを回避するべくして何かしらの手を打つ為に、俺の助力が必要だそうだ。
そこで、ハルヒを退屈させないようデートしてこい、っていう結論を放り投げてきたわけで、もはや助力どころではないと抗議したいのを飲み込み、昨夜なんとかハルヒを遊びに誘うことに成功した。
去年のエンドレスな夏のせいで長門にも負荷をかけさせちまったし、俺も俺で自分が無力であることを知っているから、仕方なく今回は古泉の茶番に付き合ってやるとしよう。これで多少なりともハルヒのワガママパワーが抑えられればいいが。
◇
じんわりと額に流れる汗を拭いつつ、愛用の自転車で駅前公園に辿り着いた俺は、真っ先にハルヒの到着有無を確認する。
夏休みということもあり、駅前は学生っぽい若い集団でごった返していた。
その中でも一際存在感を放つ姿を見逃すことはない。ハルヒは、公園内に設置されている時計塔の真下に立って地面を睨んでいた。
自転車を適当な所に置いてふてくされた顔をしている団長様のもとへ向かう。
「よお。待たせたか」
一応、待ち合わせ時刻の五分前だから遅刻ではない。
それでも、ハルヒを待たせるということはあってはならないらしい。
「遅い。罰金」
口をへの字にしているハルヒは鬱陶しそうに髪を仰ぎ、俺の腹あたりに視線を注ぎながら、
「ほんと、人が多いったらないわね。こんなしょぼくれた駅前に集まって何が楽しいのかしら」
毎週末、駅前に集まって不思議探索をしている方が傍から見たら奇怪な集団だろうよ。その中に俺もカウントされていることに胃を痛めるぜ。
「行きましょ」
ずいずいと駅方向へ歩き出すハルヒを追いかける。
その足取りは先程までの不機嫌そうな表情に比べ、やや軽そうに見えた。
◇
さて、目的地の遊園地は地元の駅から三十分ほどの距離に位置している。
朝比奈さんからのアドバイスによって決めた遊園地は、複合レジャー施設と言った方が適切な場所で、遊園地のほかにプールや動物園、博物館などが併設されている。
全てを一挙に楽しめるフリーパス券と、各施設別の入園券とチケットが分かれているのでハルヒに聞いてみたところ、「遊園地のみで良いんじゃない」という鶴の一声を頂き、あらかじめ昨夜のうちにオンライン購入しておいた。
しかも、夏季限定の割引サービスというものが実施されていたので条件を見てみたところ、『学生服着用で入園』というものだったので、実は今俺とハルヒは夏休みだってのに夏季制服で来ている。
多少不安だったが、制服で遊園地を楽しむというある種の非日常感をハルヒは気に入ったようで、意外にも乗り気だったのには助かった。
そんなこんなで、夏のSOS団行動指針という途方もない話を延々と聞きながら電車に揺られること三十分。予定通り目的地に到着した。遊園地に併合するように駅が作られている仕様のため、改札を出てすぐにチープな入園ゲートが姿を現す。
週末ということもあって家族連れの姿や、俺らと同じように割引につられて学生服を着用した連中が蟻のように列を形成している。
と言っても俺らは既に入園券を購入しているので、長蛇の列を作っているチケット販売所には並ぶことなくそのままゲートをくぐることができるのだ。
チケット購入時に携帯に送られてきたQRコードを係員に見せて、腕にリストバンドをしてもらうって感じらしいが、今時のレジャー施設は便利になったものだと感心していると、
「ここ、あたしが小さいころ両親に連れてきてもらったことがあるの。あの時はこの入園ゲートがすごく大きく感じたわ。異世界への入り口って感じで」
ハルヒはゲート上部に設置されている錆びれたパンダの看板を見ながら懐かしそうに呟く。
俺もこの遊園地には両親と妹で何度か遊びに来たことがある。
確かにあの時、この入園ゲートを見ただけでわくわくしていたような気がするな。チケットをもぎるバイトっぽい兄ちゃんの少しダルそうな顔すら、俺からしてみたら遊園地の醍醐味の一つだった。
「あたしの時もそういうのいたわ。金髪で、よくバイト合格したわねって感じのやつ」
「……もしかして、金髪でロン毛気味のやつか? あー、地黒っぽくて」
まさかとは思うがな。
ハルヒは小首を傾げるもすぐに思い出したようでうんうんと頷き、
「そう、ね。うん、そうよ! きっと同じやつね。今もバイトしてるのかしら」
「さすがにいねえだろ」
あの時は大学生っぽい感じだったが、今はもう普通に働いてるだろう。
しかし、ハルヒと同じ光景を見ていたことに少し驚きだ。そりゃ歳も一緒で、同じ町に住んでりゃ行動範囲も決まってくるけどさ。こいつと昔話を共有するってのは、なんとなくもどかしいような、気恥ずかしい感じがする。
しばらくすると集団のグループが入園したのか列が大きく前方に動き、あと何組かで俺らが案内されるぐらいの順番となって、入園口で奇妙な動きがあることに気付いてしまった。
係員が学生服の二人組、それも男女のペアを案内する際、何故か写真を撮っているのだ。
入口の一角の壁に遊園地のロゴやキャラクターがデコられている場所があり、その前で陽気にポージングをして撮影されているやつらを見て、とてつもなく嫌な予感が押し寄せる。
この一年で培われた俺の危機察知能力が警鐘を鳴らしているぞ。
俺は素早く携帯を取り出し、遊園地のHPを調べてみた。昨日はここからチケットを購入したわけだが、改めて見直してみると、
「……げ」
夏季限定割引サービス。その特記事項には、『学生服着用で入園』という条件がある。それは昨日見た通りだが、その更に下方に続けて条件が記載されてあったのを俺は見逃していたようだ。
恐ろしいことにその条件とは、『男女のペアの場合、写真撮影を行います。カップルの場合は無料で写真お渡し♪(むしろこれでカップルになれるかも⁉)』というものだった。
ああ、なんてこった。
これは強制的に写真撮影を迫られるパターンじゃねえか。しかもファンシーな背景と一緒に、しかもハルヒと一緒に。学生服で。
いやいや、どんな嫌がらせだ? なにが『カップルになれるかも⁉』だよ。
俺は暑さとは関係のない冷や汗が背中に流れるの感じながら、チラリと横目でハルヒを覗き見る。
「……」
特に横顔からは表情が読み取れないが、しかしそれは、目の前で行われている写真撮影について疑問を抱いていないということであり、いてもたってもいられなくなった俺は、
「な、なあハルヒ。写真を撮るって聞いてなくてさ」
我ながら上ずった声を出してしまい情けない。ハルヒは顔を前に向けたまま、
「そんなことだろうと思ったわ。じゃなきゃ、あんたがこんなマネするわけないもの」
俺は撮影現場を指差し、
「ああいうのがあるって分かってたのか」
「あんたみたいな試験の問題文を読み飛ばすアホと一緒にしないでくれる? あたしはね、ちゃんとリサーチしてきたの。事前にHPを読み漁ったわ。運営会社の陰謀が隠されてないとも限らないでしょ」
ただの遊園地に、陰謀も何もないと思うが。というか知ってたなら言ってくれよ。
「観念しなさい。あんたは今日一日あたしを楽しませなきゃだめなの。これは団長命令よ」
「……やれやれ」
そうしてついに俺らの順番がきてしまった。こいつは、腹を括るしかない。
係員が俺らを一瞥すると、間もなくデジカメを用意し、言われるがまま撮影場所に立たされる。
ハルヒはというと、不気味なほどに大人しく指示に従っているので、俺が抗えるわけもなく、係員が突っ立っている俺らにデジカメを向けた。
「キョン、笑いなさいよ」
隣にいるハルヒが小声でそう言うが、あいにくスマイルは古泉の専売特許なんでな。
係員は微苦笑顔を俺に向けて、
「彼氏さん、もっと笑顔で。彼女さんは素敵な笑顔ですよー」
余計に顔が引きつりそうなことを言ってくれる。
途端、左足に鈍い痛みが走った。
恐る恐る下を見ると、ハルヒの右足が俺の左足を踏みつけている。
「……ちゃんとしないと殺すわよ」
笑顔のまま零下百度の凍えるような殺気を出すハルヒを見てこれ見よがしに溜息を吐いてやる。
わかったから、足をどけろよ。ローファーの踵って硬いんだぞ。
「では撮りますよ」
係員の号令と共に発せられたデジカメのフラッシュ光に目を歪めてしまい、その気配を察したのか立て続けに三枚ほど撮影をした係員は満足そうにデジカメの液晶部分を見ながら笑顔をこぼす。
「すぐに現像するので、この引換番号をあちらの専用窓口にお渡しください」と番号が書かれたペラい紙をくれたので、
「写真、もらってくか?」
念のためにハルヒに聞いてみる。俺としては、こんな恥ずかしい証拠を今すぐにでもデジカメごとこの世から葬り去りたい気分なのだが。
しかしハルヒは無慈悲にも俺の意見を却下し、ちっちと指を振りながら、
「もらえるものはもらっておく。SOS団の基本概念じゃないの」
そんなどこぞのいじめっ子みたいな基礎理念など聞いたことないぞ。
やけにテンションの高いハルヒと共にそのまま入園処理を済まし、さっそく写真を取りに行くことになった。
◇
専用窓口は入園ゲートを通ってすぐ横手に設置されており、特に込み合っているということもなく簡単に引き換えることができた。
こんな早く写真を引き換えにくる熱々カップルはどんなやつらなんだ、という窓口の兄ちゃんの好奇心にあふれた視線が痛かったが、これで写真のことは記憶から消して心置きなく遊園地を満喫できるだろう。
俺は写真を見ずにさっさと鞄にしまった。
すると受け取った写真を見ていたハルヒは俺に向き直り、
「あんた、間抜けな顔してるわよ」
と吹き出しそうになるのをこらえながら、写真の中の引きつった笑みを浮かべる俺の顔を指差す。放っとけ、生まれつきだ。
しかし、だ。
変顔を決めている俺の腕を掴み、いつもより笑顔純度が増してピースポーズをしているハルヒを見て素直に思うのは、こいつは本当に黙っていれば可愛いということだ。
この可愛さを全て殺しているハルヒの珍妙行動が誠に惜しい。
神は二物を与えないというが、考えてみればこいつは一応この世界の神だったっけ。やはり、自分で自分の良さを押し潰しているということである。
俺がハルヒに対して親心にも似た同情のような視線を向けていると、
「なによ」
訝し気に俺を見上げてくる。
いや、お前が可愛く撮れているからあの係員の腕は確かだなと思ってさ。
「……実物のあたしは可愛くないってワケ?」
唇を突き出しアヒル口を作るハルヒに、
「そんなことはないさ」
朝比奈さんの次くらいに可愛いんじゃないか。たぶん。
ハルヒが虚を突かれたように目を丸くしながら次第に頬を赤くしていくのを見て、柄にもないことを言ってしまったことに気付いた俺は、
「ああ、にしても暑いな。うん、ちょっと飲み物買ってくる」
早口でそう告げると、「こ、このバカキョン!」というハルヒの罵声を背中に受けながらその場を後に自販機へ向かった。
◇
にしても、とりあえず関所の一つは越えられたって感じだろうか。
しかしながら、これからが本番の始まりだと言っても過言ではない。なんせ、一緒にいるのは涼宮ハルヒだ。単に遊園地を這いずり回ったところで満足するようなやつではないと俺は骨の髄まで知っている。
写真撮影や気の抜けた発言等で気後れしてしまったものの、このままハルヒを楽しませられず下手をこくような結果になればまた終わらない夏休みを迎えることになりかねないからな。
俺が遊園地にまつわる都市伝説を頭の中で四苦八苦しながら絞り出しつつハルヒの元へ戻ると、
「さあ、全てのアトラクションを制覇するわよ!」
ハルヒが入園券代わりのリストバンドを付けた手で俺の手をとるや否や、猪突猛進を体現するかのごとく走り出した。
「お、おい。さすがに無茶だろ」
ハルヒは太陽よりも輝き煌く瞳を俺に向け、遊園地奥手に見えるどデカい高層タワーみたいな建物を指差すと、
「まずはフリーフォールね。ほら、キョン! 足が鈍いわよ!」
あんな高いフリーフォールなんて見たことねえぞ! しかも初っ端に乗るなんて狂気の沙汰だ。
「最初だからこそ、よ! 実は頂点部が異空間に繋がっているとか、落ちる間に人がいなくなるとか、そういうことがあってもおかしくないわ」
華奢そうに見える体からは想像もできない程力強く俺を引っ張っていくハルヒの後姿に、もう俺は観念するしかなかった。
俺をSOS団創設に関わらせるためあちこち引きずり回した時から何も変わっていないな、こいつ。
しかし、そんな変わらないハルヒの後姿はもう見慣れているのだ。それに、当時より少しだけこいつの背中が近いような気がするのは、つまり俺がハルヒの歩幅に合ってきてしまっているぐらい毒されてきたってことか。
……やれやれだ。
俺は嫌々という雰囲気を出しながら、いつもの通りこう言うのだ。
「了解、団長殿」
◇
まあそんなこんなで、去年よりいくらか涼しい夏はこうして始まった。
俺としても、たまには思い立つのも悪くはない、と思えるような日だったってぐらいには楽しめたさ。
もちろん、ハルヒの宣言通りアトラクションを全制覇したことは言うもでもない。
そして、俺とハルヒをカップルだと係員は勘違いしていたんだろうが、何も言わずして写真を無料で交換できたことに気付いたのはずっと後になってからだった。
<<了>>


