前スレ
発明家「お、やっと来たか被検体。遅いぞ全く」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1511641047/
http://ayamevip.com/archives/51173544.html
発明家「新型のゲーム機を作ったから、家に遊びに来い」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1512332579/
http://ayamevip.com/archives/51194570.html
幼馴染「……」ガシッ
発明家「痛だだだだだだ?! いきなり関節技はやめろ! 何かお前を怒らせるようなことでもしたか?!」ギリギリ
幼馴染「こんなに大量のランジェリー、どこで盗んできた……」ギリギリ
発明家「違う違う! これは全部買ったんだ! タグだってついてるだろう!」イタイイタイヤメテ
幼馴染「あ、ほんとだ。……いや、それでもこの変態野郎め」ギリギリ
発明家「だから違う! 俺が使うわけではない! 頼まれたから買っただけだ!」
幼馴染「……頼まれた?」パッ
発明家「そうだ。とにかく俺の家までついて来い。そうすれば分かってもらえるだろう」
元スレ
発明家「確かにそれは俺の女性用下着だ。拾ってくれて感謝する」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1512597261/
***
発明家宅
幼馴染「研究所にはよく入るけど、本宅の方は久しぶりだな」
発明家「数年前にリフォームしたから、少し勝手が違うぞ」ガチャッ
幼馴染「受験勉強してるときに工事しやがって……」
発明家「今帰ったぞー。イーリンいるかー?」
幼馴染「イーリン……?」
イーリン「……」ダッダッダッダッダッダッダ
イーリン「回来了(おかえりなさい)!」ダキッ
幼馴染「」
発明家「なんだ、またお前全裸だったのか。今朝、俺のパンツとシャツを貸してやったろう」
イーリン「あんな汚いパンツなんか履かないネ」
発明家「頼まれていたものを買ってきた。これでいいか?」ピラ
イーリン「おー! 山田、謝謝!」
幼馴染「」
発明家「夕子、紹介しよう。こいつは」
幼馴染「……それよりあんた、ちょっと来い」グイッ
発明家「な、何だ……? やめろ、耳を引っ張るな……!」イタイイタイ
***
幼馴染「ケモナーってだけで十分変態だとは思ってたが……テメエ! どこであの中国娘をさらってきた!」ギチチチチチ
発明家「痛だだだだだだ! 誤解だ! さらってきたんじゃない! イーリンが俺に対して好意的なのはお前だって見ただろう!」ヤメレ!
幼馴染「どうせ洗脳機かなんか使ったんだろ! 白状しろこの変態野郎!」ギチチチチチ
発明家「そんなことしていない! だが洗脳機ってのはいいアイデアだな! 今度作ってみよう!」イタイイタイハナシテ
イーリン「どうネ山田? 私、似合てるか?」ガチャッ
発明家「痛い痛い!」ウウウウウウ
イーリン「?! お前、私の山田に何するか!」バキッ
幼馴染「ぎえっ?!」ドガシャアアアン
発明家「おお……凄いパンチ力……」ビクッ
***
発明家「……何と言うかその、すまなかったな。ほら、イーリンも謝れ」
イーリン「笨蛋(バーカ!)」
幼馴染「……これは謝ってるのか? 心なしか馬鹿にされてるような……」
発明家「……俺も中国語はよく分からん。……さて、殴られて分かったとは思うが、イーリンは人間じゃない。アンドロイドだ」
幼馴染「よく分かった。未だに鼻血がとまらんからな」ティッシュティッシュ
イーリン「山田、この女誰ネ?」
発明家「こいつは前に話した、隣に住んでる呉羽夕子だ」
イーリン「ああ、昔一緒に川遊びして、あまりの冷たさにびっくりしてウンコもらしたユーコか」カカカ
幼馴染「何教えてんだテメエ……」ギュウウウウウウ
発明家「痛たたたた! 話題が見つからなかったんだ! 許せ!」
幼馴染「……で? なんでまたアンドロイドなんか作ったんだよ。お前ケモナーだろ?」
発明家「ロシア政府から中国人女性の外観をしたロボットの開発を依頼されてな。大方、中国でスパイとして使うつもりなんだろう」
幼馴染「そ、そんなの引き受けて大丈夫か……?」
発明家「わからん。おまけに偶然、中国政府からもロシア人女性型のロボットを作ってくれと依頼されている。まだ稼働はさせていないが、研究所に置いてあるぞ」
イーリン「……。山田、私の他に女がいるか?」
発明家「ああ、名前をニーナと言って……ってこらこら、スパナをもってどこに行く気だ……」
イーリン「その露助の女をぶっ殺してくるだけネ。二人はそのまま話しててヨ」スタスタ
発明家「やめろ! あれ作るのにどれだけかかったと思ってんだ!」アワワワワ
幼馴染「愛されてんな、あんた……」
発明家「もともと男にすり寄るのが上手いロボットを作れと言われていたからな……。ただその加減をミスったらしい。ちょっとしたヤンデレになってて困ってる」ガシッ
イーリン「離せ山田。これじゃ殺せないネ」ジタバタ
幼馴染「じゃあ今はイーリンを手もとに置いて微調整している段階ってわけか」
発明家「そうだ。人間との会話を繰り返すことでイーリンは学習し、少しずつ自然な対応ができるようになる。しかし、流石に俺一人と話しているだけでは限界があるようだ」
幼馴染「あんたは変人か変人でないかで言うと、間違いなく前者だもんな……」
発明家「そこで、できれば温かい一般家庭の中で、人間の感情について学べたらいいと思うのだが……」
幼馴染「……おい、何であたしを見つめるんだ。もしかしてイーリンをしばらく預かれって言ってんのか? 絶対ごめんだからな?」
発明家「俺の家族は皆カリフォルニアの研究所に所属しているから、その場で家族の会話なんか出来んのだ。おまけに俺の家族は、自分で言うのもなんだが変人ぞろいだぞ」
幼馴染「ま、まあな……。塗り絵をひたすら真っ黒に塗りつぶしてたキリちゃんは元気?」
発明家「キリは今や兵器開発のスペシャリストだからな……。この前スカイプで話したら、制作中の新型殺人ナノマシンについて嬉しそうに語ってたぞ」
幼馴染「そ、そうか……」
発明家「それでイーリンについてなんだが……」
幼馴染「だめだって言ってるだろ。うちにはコタローちゃんやお父さんがいるんだぞ。こんな男にすり寄ってくるアンドロイドなんか招き入れてみろ。温かい家庭の会話どころか、どろどろの離婚調停が始まるだろうが」
発明家「……すまん、それを考えてなかった。非常に申し上げにくいが、今のお前に拒否権はない」
幼馴染「何言ってやがるてめえ」
発明家「実はこのアンドロイド開発はロシア政府から極秘にするように言われていてな……。開発にどうしても必要だという理由で、特別に呉羽家全員を協力者として登録させてもらった」
幼馴染「は?!」
発明家「つまり協力を拒んだ場合、ロシア政府に呉羽家が消されてしまう可能性がだな……」ハハ
幼馴染「……」ギチギチギチギチギチギチ
発明家「ぎえええええええ! 悪かった! これは本当に悪かったと思う! だ、だからその手を首から離して……」バタバタバタバタ
イーリン「山田を離せ! ウンコたれのユーコ!」ビュンッ
幼馴染「うるせえ! これが怒らずにいられるか!」ヒュッ ゴーン
幼馴染「……! い、いつぅ……」ウウウウ
発明家「言い忘れていたが、イーリンの骨格は特殊合金だ……。思いっきり蹴ろうもんなら、下手すりゃこっちが骨折するぞ……」ゲホッゲホッ
***
発明家「……というわけで、これからお前は呉羽家で1週間ほどホームステイをしてもらう。これが夕子のご家族の写真だ。絶対に手を上げるんじゃないぞ」
イーリン「嫌ネ! 嫌ネ! 私山田から離れたくないネ! あんなウンコたれの家なんてまっぴらヨ!」ウワアアアアアアアアン
幼馴染「こっちだってまっぴらだっつの……」ケッ
発明家「それからご家族の方々にモーションをかけるんじゃないぞ。俺が夕子に殺されるからな」
イーリン「こんなハナタレのガキとおっさんなんか興味ないネ!」グスッ
発明家「いや、ある程度おっさんにも興味を持ってもらわんと、こちらとしても困るんだが……」スパイトシテ
幼馴染「それに今お前コタローちゃんを馬鹿にしたな?! コタローちゃんは今年のバレンタインデーに2桁もらってんだぞ!」ムキイイイ
イーリン「ブラコン、気持ち悪いネ」フン
幼馴染「何を!」
発明家「ま、まあまあ……。とにかくイーリン、1週間の辛抱だから行ってこい。行ってくれんと大変なことになる」
イーリン「……。山田がそう言うなら仕方ない……」シュン
発明家「分かってくれたか……」
イーリン「でもせめてお別れのキスを……」ンムウウウウウウ
幼馴染「ほら行くぞ」グイッ
イーリン「あああああああ! 山田! 我愛你!」ズルズル
***
父「……で、このイーリンちゃんを我が家に迎え入れることになったと///」ホウ
母「嬉しそうね、お父さん」ギュウウ
イーリン「1週間、世話になてやるから感謝しろ」フン
幼馴染「何様だてめえ」ゴン
弟「ねえねえ! 何歳?! 僕7歳!」ニコニコ
イーリン「0歳ネ。でもお前みたいに赤ちゃんがキャベツ畑で収穫されると信じ込んでるガキンチョと違て、私はあんなことやこんなことも知てるネ」
弟「え、違うの?!」ガアアアアアン
幼馴染「余計なこと言うな! ///」ペチン
イーリン「とりあえずさっさと温かい家庭の会話とやらを始めたらいい。私聞いてるからヨ」
母「じゃあイーリンちゃんはどんな食べ物が好きなのかしら?」
イーリン「? 私の話はどうでもいいネ。早く家族で会話を……」
母「だって1週間だけ一緒に過ごす家族なんだもの。好物くらい聞いておきたいわ」ニコッ
イーリン「……///」
父「そうだ。1週間だけだけど、イーリンちゃんは父さんの娘なんだ///」ハアハア
母「お父さん、ちょっと黙って」ドゴッ
イーリン「……ボルシチ///」
母「ボルシチね。他には?」
イーリン「……ピロシキ///」
母「ピロシキっと。他は?」メモメモ
イーリン「……ペリメニ///」
母「ペ、ペリメニ……?」メモメモ
イーリン「……それからブリヌィ///」
母「ブ、ブリ……?」
父「見事にロシア料理ばかりだな……」
幼馴染「ロシアのスパイだってことが一発でばれるだろ……」
***
その夜
母「夕子の部屋にお布団敷いたから、イーリンちゃんはそこで寝てね」
イーリン「ウンコと一緒に寝るのか?」
幼馴染「あたしは夕子だ。二度と間違えるな……」
母「夕子はいつも私たちと寝てるから」フフフ
イーリン「……お前、高校生になて親と寝てるのか?」
幼馴染「う、うるさいな……別にいいでしょーが///」
父「昔から怖くて独りで眠れないんだってさ。イーリンちゃんも怖かったら父さんと寝てもいいんだよ? ///」ハアハア
イーリン「結構ネ」
父「残念……」シュン
母「お父さん、あとで話があるんだけど」ニコニコ
幼馴染「ほうら早速どろどろし始めた」ハア
***
翌日
父「さあて、待ちに待った休日だ。どこ行こうか! 遊園地でも行こうか!」ハハハ
弟「お父さん、顔が痣だらけだけどどうしたの……?」
幼馴染「コタローちゃんはまだこういことに首突っ込んじゃだめ」
イーリン「你早……」フワアア
母「あら、イーリンちゃんおはよう。朝ごはんできてるわよ。いっぱい食べてね」ニコッ
イーリン「謝謝……妈妈///」
母「え、もしかして今、ママって呼んだ? ///」キャアア
イーリン「……言てないネ///」プイ
弟「言ったよ絶対」クスクス
イーリン「コタローちゃん、あまり年上をからかうんじゃないヨ」
弟「えー? 僕の方が年上じゃん」
イーリン「年上扱いされたかったらせめてちんぽの皮剥けてから言うネ」
幼馴染「朝からなんて会話してんのよ……」
父「イーリンちゃん、父さんのことも呼んでくれ///」
イーリン「色鬼(スケベ)」ピッ
父「中国語よく分かんないけど感激///」
イーリン「ウンコ」ピッ
幼馴染「てめえ」
***
父「母さん、準備はできたかー?」
母「もうちょっと待ってー」
弟「お出かけなんて久しぶりだね」
幼馴染「イーリンにも色んな経験させてあげないといけないしね」
イーリン「あ、山田! ///」
山田「む? なんだ、イーリンか。あ、おじさん、おはようございます」
父「やあケンちゃん、おはよう!」
山田「お出かけですか?」
父「家族みんなで遊園地にと思ってね。ケンちゃんも良ければ一緒にどうだい?」
イーリン「山田も一緒に来るのか?! ///」
山田「いやー、すみませんが今日は他のアンドロイドに暗殺拳を習得させなきゃならないんで」ハハハ
父「相変わらず、さらっと恐ろしいこと言うねー」ハハハ
幼馴染「……笑い事じゃねえぞ、あんたら」
イーリン「他のアンドロイドてまさか……」
ニーナ「Доброе утро(おはようございます)」
父「! ///」ドッキーン
弟「! ///」ドッキーン
***
幼馴染「じゃあ行ってくる」ブロロロロ
山田「気をつけてな。くれぐれもイーリンがアンドロイドだってことがばれないように」ヒラヒラ
ニーナ「さあ、私たちはトレーニングを始めましょう」ピトッ
イーリン「ああああああああ! 山田ああああああああああ! 风流荡子(この浮気者)!」ワアアアアアアアアン
弟「ニーナさんか……綺麗だったなぁ……///」
父「いいなあケンちゃん。あんな美人と手取り足取り……。くそう羨ましいっ! ///」ガンッ パアアアアアアアアアア
母「いい加減きれるぞコラ」アハハ
***
遊園地
イーリン「ささとニーナ、ぶ殺しておけば良かたヨ……」ションボリ
幼馴染「メリーゴーランドに乗りながらそんな物騒なこと言うのはあんたくらいだぞ。ほら、少しは楽しそうにしなさいよ」
イーリン「だて山田のことが心配で心配で!」
幼馴染「あいつなら心配ないって。人間には更々興味のない、真性のケモナー野郎だからね」
イーリン「……山田、ケモナーなのか?」
幼馴染「そう。動物のキャラクターに興奮を覚える変態なんだってさ」
イーリン「……なら私、パンダロボットに生まれたかたネ。パンダは可愛いネ」
幼馴染「好物はボルシチで好きな動物はパンダって……。あんたはロシア人なのか中国人なのか……」
イーリン「私自身は自分のこと、ロシア人思てる。ロシアのため働きたい思うし、特技はスペツナズ式の格闘術ネ。マトリョシカだって好き。でもパンダは普通に大好きヨ」
幼馴染「へー。なら、向こうで風船配ってるパンダちゃんと一緒に写真でも撮るってのはどう?」
イーリン「おー! あんな可愛いのがこの遊園地にいたとは驚きネ! こんな意味なく回り続ける乗り物に乗るよりよぽど有意義!」
幼馴染「あたしの大好きなメリーゴーランドをさらっとディスりやがって……。ま、元気になったならいいんだけどさ」
イーリン「ユーコも早く来い!」ピョン
幼馴染「ちょ! まだ動いてるのに危ないでしょーが!」
***
お化け屋敷
弟「いいいいイーリン……? ちゃちゃちゃちゃんとついて来てる……?」ガタガタガタガタ
イーリン「……」
弟「い、イーリン? なんで返事してくれないの……?」ガクガクガクガク
イーリン「……」
弟「い、イーリ……」ビクビクビクビク
イーリン「わっ!」
弟「ぎやあああああああ!」ペタン
イーリン「かかか! コタローちゃん、ビビりネ」クスクス
弟「もう! 驚かさないでよ!」
イーリン「ビビりだけど、ユーコよりましネ。入口見ただけで顔真青になる奴、なかなかお目にかかれない」
弟「お姉ちゃんは特別怖がりだからね……。ってイーリン……う、うしろ……!」ヒッ
イーリン「ん?」
ミイラ「ううううう……!」
イーリン「……!」スッ ガッ! ギュウッ!
ミイラ「痛だだだだだだだだだ?!」
イーリン「コタローちゃん、よく見とくネ。これがあの有名なシステマヨ」
弟「システマは知らないけど、凄い! こんなお化け屋敷の楽しみ方があるんだ!」ワア
ミイラ「痛い痛い! こんな目に遭って時給800円ってヤバい!」バタバタ
***
ジェットコースター
幼馴染「きゃああああああああああ!」ゴオオオオオオオオオ
イーリン「こ、これは楽しいネ! ///」ゴオオオオオオオオオ
母「やっぱ遊園地に来たら絶叫系乗らなきゃああああああああああああああああ!」ゴオオオオオオオオオ
イーリン「でもコタローちゃんと色鬼は乗らなくていいのか?」ゴオオオオオオオオオ
母「いいのいいの! コタローちゃんはまだ乗れないし、お父さんはお守り兼、荷物番しなきゃだから!」ゴオオオオオオオオオ
イーリン「少し可愛そうネ」ゴオオオオオオオオオ
母「愛する家族のためなら平気なのよきっと!」ゴオオオオオオオオオ
イーリン「愛する家族か……」ゴオオオオオオオオオ
***
観覧車
イーリン「わあ……夕日が綺麗ネ」
弟「家があんなに小っちゃく見える!」
母「私たちのお家はどこかしら」
幼馴染「あそこでしょ。あいつの研究所からたまに空に向けて光線射出してるから一発で分かる」ナニニツカウツモリダアレ
イーリン「メリーゴーランド以外どれも面白かたけど、私これが一番好きネ」
幼馴染「これも意味なく回りつづける乗り物だけど?」ケケケ
イーリン「あれは馬鹿の乗る乗り物。これはもと高尚」
幼馴染「……表出ろ。ひさしぶりにキレちまったよ……」ビキビキ
母「もう、二人とも喧嘩しないの!」マッタク
イーリン「色鬼もこれに乗れただけで今日は満足か?」
父「それ、さっき調べたけどスケベって意味なんでしょ……」ハハハ
イーリン「……。色鬼、なんか私見る目変わたな」
父「本当の家族には興奮なんかしないのさ。夕子や母さんを見ても、何も感じないようにね」
母「……私には少しくらい興奮しろ」
イーリン「……///」
父「……さあて、腹も空いたし、地上に着いたらおいしいロシア料理でも食べに行くか」
弟「わあ!」
母「昨晩、お父さんが必死に探してくれたのよ」
父「母さんが父さんを殴りながら無理矢理探させたからね……そりゃ必死さ」
イーリン「謝謝……爸爸///」
父「……!」
幼馴染「……だってさ、パパ」
弟「呼んでくれて良かったね、パパ」
母「明日はもっとすごいとこに連れてってくれるのよね、パパ」
父「よーしパパ、頑張っちゃうぞ」
イーリン「か、からかうな! ///」
***
研究所地下トレーニングルーム
ニーナ「……山田博士、すべてのメニューが完了いたしました」フウ
発明家「流石アンドロイドは、人間と違って覚えが早いな。動画を見て模倣するだけで習得してしまうとは……」
ニーナ「しかし訓練用ロボットを相手にしていても、真に習得したとは言えません。できれば生身の人間を相手にしてみたいので、山田博士、手合わせ願います」
発明家「馬鹿かお前は。暗殺拳を試したら俺が死ぬだろうが」
ニーナ「ははは、冗談ですよ山田博士」
発明家「お前は美人だが、表情が乏しいから冗談に聞こえんのだ……」
ニーナ「それにしても博士、武術とは面白いものですね。誰にも頼らず、己の力を磨き続ける。こういうストイックな世界が、どうやら私の性に合っているようです」ヒュヒュヒュヒュッ
発明家(今度はストイックにし過ぎたな……)ウーン
***
翌日
弟「もっとすごいとこ連れてくって言ったのに……」
母「嘘つき……」
イーリン「何だここ?」
父「仕方ないだろ? 日中忙しかったんだから。あ、大人2名に高校生1名、小学生1名、それから未就学児1名、フリータイムで」
幼馴染「いやだいやだ! カラオケなんて絶対いやだ! あたしは帰る!」
母「どうしたのよ夕子? 前はあんなに大好きだったのに……」
幼馴染「この前あたしが滅茶苦茶に音痴だってことがわかったの! もう恥をかくのは絶対いや!」
母「そんなことないわよ。夕子はとっても上手よ? ねえ皆?」オロオロ
弟「は、はは……」
父(母さんも超のつく音痴だからな……)
イーリン「カラオケって何か? 歌を歌うところか?」
父「そう、歌ってストレスを解消するところ。イーリンちゃんは何か得意な歌でもあるかい?」
イーリン「あまり音楽を聞いた事自体ないネ。強いて言えば、得意な歌は山田と見た007かミッションインポッシブルのテーマくらいヨ」
母「あれって歌詞あったかしら……?」
店員「お待たせしました。では105号室をお使いくださいませ」
父「はいどうも。ま、音痴だって克服できるさ。何事も練習あるのみ」グイッ
幼馴染「やめろおおお!」ズルズル
***
研究所地下トレーニングルーム
ニーナ「……」ビュビュビュンッ シュッシュッ
発明家「またここにいたのか。まあトレーニングもいいんだが、今日は人間の恋愛について昼ドラで勉強をだな……」
ニーナ「いえ、私は興味がないのでいいです。それよりも博士、私の人工筋肉をもっと大きくしていただきたいのですが」
発明家「いや、それはできん。それ以上四肢を太くするとスタイルが崩れてしまう。スパイには美貌も大切だ」
ニーナ「ではせめて最大出力をもっと高く……」
発明家「すでに200キロの物を持ち上げるだけのパワーがあるんだぞ? そんなもの必要ない」フン
ニーナ「私が目指しているものは純粋に武の高みです。そしてそれは今後私が請け負う任務遂行のためには必要不可欠なのです」
発明家「必要ないと言っている! アンドロイドなら、少しは俺の言うことを聞け!」
ニーナ「……そうですか。ならば仕方ありませんね」フウ
発明家「まったく……」
ニーナ「最大出力を上げてください。言うことを聞かなければあなたを殺します」グググッ
発明家「……?!」
***
翌日
父「イーリンちゃんは今日、何をしてたんだい?」
イーリン「家事を手伝て、それからコタローちゃん達と公園に遊び行たネ」
弟「イーリン、足が滅茶苦茶に速いんだよ! 缶蹴りしたんだけど、毎回イーリンが本気でダッシュして缶をはるか彼方に蹴っ飛ばすもんだから鬼の子が号泣しちゃって」
母「それに料理もとっても上手なのよ。このコロッケもイーリンちゃんが作ってくれたの」
イーリン「音痴なウンコとは大違いヨ」
幼馴染「うるさいな……。あんただってひどい音痴だったじゃねえか///」
イーリン「私まだ経験浅いから仕方ないネ。今度山田に頼んで歌唱力のアプグレドしてもらう」
父「それがいいな……。じゃないと君の歌声でいつか人が死ぬ……」ハハ
幼馴染「あ、そうだ。山田と言えばあいつ、珍しく学校休んでた。なんでも風邪引いたって連絡が学校にあったそうなんだけど……」
母「あら大変……」
イーリン「山田のピンチネ!」
幼馴染「ほら、いつもはあいつ、自分の調合した薬で完治してしまうから……。ちょっと変だなって」
父「そういうこともあるんだろう。ケンちゃん独り暮らしだから、お見舞いにでも行ってあげなさい」
幼馴染「わかった、このあとちょっと様子見てくる」
イーリン「私も一緒に行くヨ」
***
研究所
幼馴染「……おかしい。何度呼び鈴を鳴らしても出ないぞ」ビーッ
イーリン「きっと寝てて気づかないネ。もっと大きな音出さなきゃ。……山田あああああああああああああああああああああああ!」キイン
幼馴染「うるさっ! 近所迷惑でしょうが……!」
ニーナ「……なんのご用件でしょうか?」ピッ
幼馴染「あ、ニーナ。あいつのお見舞いに来たんだけど、中に入れてくれないかな?」
イーリン「バナナと栄養ドリンクも持てきたヨ」ガサガサ
ニーナ「……申し訳ございませんが、今博士は風邪をひいていて、到底お会いできる状態ではございません。看病は私がしておりますのでご心配なく」
幼馴染「たかが風邪で面会謝絶ってどんな状況よ……。それにこっちもマスクしてるから大丈夫」
イーリン「山田もきと、私の顔見たら元気になる」
ニーナ「すみません、お引き取りください」ピッ
幼馴染「……」
イーリン「……何か様子が変ネ」
幼馴染「……あいつの携帯にかけてみる」ピピピッ
イーリン「あ! ユーコ、山田の電話番号を何故知てるネ! 私だてまだ交換してないのに!」キイイイ
幼馴染「あんたは携帯すら持ってないでしょうが……」プルルルルルル
??「……」ピッ
幼馴染「あ、もしもし賢太郎? あんた風邪ひいたって聞いたんだけど……」
ニーナ「お引き取りくださいと言ったはずです」
幼馴染「?!」
イーリン「……ゆ、ユーコ……あれ……」ピッ
ニーナ「……」ギロッ
幼馴染(に、二階の窓から携帯片手に、すごい形相でこっちを見てる……)ビクッ
***
呉羽家
父「……なんだそれ、怖っ!」
母「ケンちゃんの身に何が起こってるの……?」オドオド
弟「きっとニーナさんに捕まってるんだよ! 理由は分かんないけど!」
幼馴染「……あたしもそう思う。でも様子を探ろうにも、中に入らないことには……」
イーリン「私に任せるネ。こんなときは偵察用ロボトを使うヨ」ガチャン
幼馴染「うわ、あんた手を外せんの?!」コワッ
イーリン「これで通気口から中に入れるネ。様子はロボトについてるカメラから私に転送される。私とテレビモニタつなげば、皆で見られるヨ」
父「今まで力の強い中国娘ってイメージしかなかったけど、やっぱりアンドロイドなんだなぁ……」シミジミ
***
父「お、映った。ケンちゃんはどこかな……」
幼馴染「おそらく研究所内のどこかだと思う。さっきは電気ついていたから研究所を訪ねたけど、そもそも本当に風邪なら本宅で寝てるはずだし」
イーリン「ならさきニーナがいた二階が怪しいネ。そちに向かてみるヨ」
母「手だけが通気口内を動き回ってるのを見たら、普通は心臓止まるわね……」
弟「……あ! いた! 椅子に縛り付けられてパソコンに向かってるよ!」
幼馴染「きっとニーナに何らかの作業を強制されているんだ……!」
父「……パソコンの画面はケモナー向けのアダルトサイトのようだけど……一体なんの作業を……?」
母「ああ! 突然胸ぐらを掴まれて往復ビンタされ始めたわ! このままじゃケンちゃんが殺されちゃう!」キャアアアアアア
イーリン「こうしちゃいられないネ! 今すぐ殴り込みかけるヨ!」
***
研究所
ニーナ「協力するふりしてSOSのメールでも送っているんじゃないかと思ってはいましたが……アダルトサイトの閲覧とは随分と余裕がありますね」ベチベチベチベチベチベチ
発明家「ぎゃああああああああ! 死ぬううううううううううう!」ヌアアアアアアアアアア
ニーナ「最後までやっていただきたかったのですが、こうなったら仕方ありません。まあ正直言って、最大出力のあげ方はだいたい見て覚えたので、博士はもはや用済みなんですがね」ググググッ
発明家「……!」ヒッ
イーリン「アッチョオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」ガッシャアアアアアアアアアアン
ニーナ「?!」
発明家「イーリン!」
イーリン「山田、助けに来たネ! もう安心するヨ!」
ニーナ「ちっ……とんだ邪魔が入りました」
母「ケンちゃん大丈夫?!」
幼馴染「ちょ、あんたこれどうなってんの?」
発明家「ニーナに戦闘力の強化を強制されていた……。隙をついてSOSを送ろうとしていたところを見つかり、殺されそうになっていたんだ」
幼馴染「嘘こけ、エロサイト見てただろうが」
発明家「な、何故それを……? ……とにかく来てくれて助かった」
ニーナ「いいえ、助かりません。あなた方は全員ここで死ぬのです」
イーリン「お前、何故山田やみんなを殺そうとする!」
ニーナ「答えは簡単です。皆さんは私がアンドロイドで、今後諜報活動の任務に就くことを知っています。それに山田博士は私と敵対するアンドロイドを作ることができる危険因子です。ちょうどロシアから中国に送り込まれようとしている、あなたのように……」
イーリン「……随分と合理的な判断ネ。でもそこには愛がないネ」
ニーナ「愛は任務の障害でしかありません。信じられるのは純粋な力のみなのですから」スウッ
イーリン「……ユーコ、山田とみんなを連れてここから逃げるネ。こいつは私がここで食い止める」スチャッ
幼馴染「わ、わかった……!」
イーリン「くらえっ!」ブンッ
ニーナ「お得意のスコップ投げですか。こんなもの、見切ってしまえば造作もありません」ヒュッ
イーリン「っ!」シュビッ
ニーナ「……!」スッパアアアアアアン
イーリン「げふっ?!」ドガシャアアアン
ニーナ「一発が重いでしょう。今のは空手の正拳突きです。起動してから三日間で、私は東アジアの格闘技をいくつかマスターしています。一つの武術しか学んでいないあなたに、今の私は倒せません」
イーリン「はあ……はあ……」ヨロヨロ
ニーナ「それに加えて初期のパワーがあなたと同等とするならば、現在の私のパワーはあなたの約5倍。あなたを破壊することは、文字通り赤子の手をひねるようなものなのです」クイクイ
イーリン「本当に赤子の手をひねることができるような愛のない人間なんていないネ……」グッ
***
幼馴染「なんで暴走したのよあいつ!」タッタッタッ
発明家「イーリンのことがあったから極力ストイックに設定したのだが、今度はちょっとした人間嫌いになっているようだ」
父「ところでイーリンちゃんはあのアンドロイドに勝てるんだろうか……?」
発明家「正直なところ、勝てる可能性は1%もないでしょう……。今のニーナは完璧な殺人マシーンです」
母「そんな……!」
弟「ところで僕たちは今、どこに向かって逃げてるの?」
発明家「この研究所の地下4階に緊急脱出用の小型ジェット機がある。それを使ってカリフォルニアの研究所へ向かおう」
幼馴染「ちょ、ちょっと待って! それじゃイーリンは……?!」
父「そうだ、あの子は家族なんだ! 何とかして助けなくては……!」
発明家「……お気持ちは分かりますが、あいつはもう助かりません。アンドロイドと人間の命を天秤にかければ、どちらが傾くべきかはお分かりでしょう」
父「……くそっ!」
***
発明家「緊急発進。ゲートオープン」キイイイイイイイイイイイイイイイン
AI「ラジャ。ゲートオープン」ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
AI「ツウシンシンゴウヲキャッチシマシタ。イーリンカラデス」ピピピピッ
発明家「繋げ」
AI「ラジャ。イーリントオツナギシマス」
イーリン「……山田か? みんなは無事に脱出できそうか?」ガピーガピー
発明家「……ああ、お前が時間を稼いでくれたおかげだ」
幼馴染「イーリン!」
父「イーリンちゃん!」
母「ああ……! こんなにボロボロになって……!」
イーリン「……それは良かたネ。残念ながら私はここまでのようネ。ニーナに頼んで、ぶっ壊される前に家族と恋人に電話するくらいの時間は貰えたヨ」ガガガッ
弟「そんな! イーリン! 嫌だよ!」ポロポロ
イーリン「最後に皆に伝えときたいことは一つだけネ。山田、爸爸、妈妈、コタローちゃん、そしてウンコ……。短い間だたけど楽しかたヨ……。……我愛你」ガガガピー
AI「ツウシンガトダエマシタ。ハッシンシマス」ゴオオオオオオオオ
父「……」ポロポロ
母「……」ポロポロ
弟「……」ポロポロ
幼馴染「……誰がウンコだ」ポロポロ
発明家「……。……発進!」
***
ニーナ「思いのほか足止めを食らってしまいました。それにまさか地下にジェット機が隠してあるとは……」
ニーナ「しかし足取りはつかめています。すぐに追い詰めて殺してさしあげましょう……」
ニーナ「……」チラッ
イーリン「」
ニーナ「……このアンドロイドの頭部はまだ残しておいた方が良さそうですね。もしかするとロシア政府の機密情報が入っているかもしれません」ガシッ
ニーナ「……」グググッ
ニーナ「……」ガキイイインッ
イーリン「」コテンッ
***
カリフォルニア研究所
キリ「兄さん、久しぶり……。皆さんもお変わりなく……」ヘヘヘ
弟「わー、キリ姉ちゃんだ!」
キリ「コタローちゃん、大きくなったね……。へへ……」ポムポム
幼馴染「まだ中学生なのに、すっかり白衣が板に付いちゃって……」
発明家「事情は先ほど報せた通りだ。数日のうちに殺人アンドロイドがさらにパワーアップしてこちらにやってくるだろう。何か迎え撃つためのものはここにないだろうか?」
キリ「そのアンドロイドが旅客機で来るなら、迎撃ミサイルで一発……」ヘヘヘ
発明家「だめだ。何百人死ぬんだソレ」
***
キリ「今まで開発した兵器はすべてこのルームに保管されています……。みんな私のかわいい子どもたち……」ヘヘヘ
幼馴染「な、何この厳つい大砲は……」
キリ「それはプラズマ・バズーカ……。一発当てればどんなに頑丈なタンクだろうと粉みじんに吹き飛びます……」ヘヘヘ
発明家「アンドロイドなぞひとたまりもないな……」
弟「かっこいい……///」
母「こっちの黒いナタみたいなのは?」
キリ「レーザーマチェットです……。全てを試したわけではありませんが、今のところ切れなかった物は……」ヘヘヘ
父「なんだ、楽勝じゃないか……」
キリ「当てることができれば簡単です……。しかしここはアメリカ……。敵も拳銃くらいならどこかで入手してくるかも……」ヘヘ
幼馴染「じゃ、じゃあロボットに武器を持たせて倒すとか……。そういのはないの……?」
キリ「あるにはありますが……。遠隔操作型なので、もしハッキングでもされようものなら……」ヘヘヘ
発明家「ニーナならそれくらいは可能だな……」ウーム
キリ「なら今開発中の試作機を……ヘヘ……試してみますか……」ヘヘヘヘヘヘ
***
幼馴染「ちょ、ちょっと……今付けてる鎧は何なの……?」
キリ「パワーアシストスーツです……。戦車砲くらいなら耐えられるので……へへへへへ……関節をねじ切られでもしない限りは……」ギュイイイイイイン
発明家「動くな夕子。太ももの肉が挟まったら死ぬほど痛いぞ」ギュイイイイイイン
幼馴染「待て待て待て! なんであたしがこれ着て戦うことになってんだ! 殺人ロボットなんかと怖くて戦えるか!」
キリ「すみませんが……へへ……今はこれ一機しかなくて……。私には大きすぎるので……」ギュイイイイイイン
弟「僕も同じく……」
母「お母さんは胸が入らないわ」
父「父さんは身長とお腹が……」
発明家「……そういうわけだ。頑張ってこい」ギュイイイイイイン
幼馴染「いや、てめえだよ……。この問題引き起こした張本人がなんで戦わねえんだよ……」ウイーン ギュウウウウウウウ
発明家「ああああああああああああああああああ! 頭が潰れるうううううううううううううううう!」ギアアアアアアアアアアアアア
キリ「握力は問題なしと……」ヘヘヘヘ
幼馴染「あたしとそんな体格の変わらないあんたなら普通に着れるだろうが……」
発明家「ひ、貧乳のお前と違い……俺は大胸筋が発達しすぎていて……」ヒイヒイ
幼馴染「もやしみてえな体して何言ってやがる……」ギュウウウウウウウ
発明家「あああああああああああああああああああ!」シヌウウウウウウウウウウウウウウウウウウ
キリ「着たがらないのはただのチキンだからだろうけど……へへ……実際、運動音痴の兄さんが着たところで……」ギュイイイイイイン
発明家「ど、どうせ無様に殺されるだけだ……。それならまだ少しは可能性のありそうなお前が着た方が……」ウウウウウウウ
幼馴染「くっそ……怖えー……」ブルブル
***
3日後
運転手「ほら、着いたよ嬢ちゃん。ここがヤマダ・ラボだ」キキーッ
ニーナ「お釣りは取っておいてください」ポン
運転手「釣りはいらねえって……。これ日本円じゃねえか。ドルじゃないとだめだよ」
ニーナ「……セントリーガンが150基。指向性爆弾も数十か所にしかけているようですね」
運転手「聞いてるか? 俺んとこはドル以外受け付けてねえんだ」
ニーナ「無駄なことを……」ズガンッ
運転手「あああああああ! ドアがあああああああ!」
ニーナ「!」ダッ
セントリーガン「……」ウイイン
ニーナ「……!」シュタタタタタタタタタタタタタ
セントリーガン「……」ズガガガガガガガガガガガガガガガ
運転手「ひいいいいいい?!」ブロオオオオオオオオオン!
***
キリ「やっぱり爆弾は見抜けるみたい……」ヘヘ
発明家「爆破範囲を避けて壁を壊しながら進んできたか……。しかしここまでは想定内だ」
母「あ、あんなのと闘って大丈夫なの……?」
父「夕子を信じるしかない……」
弟「お姉ちゃん……!」
***
発明家「聞こえるか夕子」
幼馴染「き、聞こえてるよ……」ガタガタ
発明家「今、ニーナはお前のいる部屋へと向かっている。このまま行くと、お前から見て左側の壁を突き破って入ってくるだろう」
幼馴染「あ……こっちに走ってくる音が聞こえてきた……」ブルブル
発明家「俺の合図と同時にプラズマ・バズーカの引き金を引け。うまく当たれば俺たちの勝利だ」
幼馴染「も、もし当たらなかったら……?」ガタガタ
発明家「……はは」
幼馴染「『……はは』じゃねええええ!」ガタガタガタガタ
***
ニーナ(……どうもさっきから誘導されているような気がします)バコンバコン
ニーナ(……そして呉羽夕子が潜んでいるあの一区画だけ、特殊な壁に邪魔されて何を仕掛けてあるのか読み取れません)シュタタタタタタ
ニーナ(……何を企んでいるんでしょうか)バコンバコン
***
発明家「……今だ!」
幼馴染「死ねええええええええええええええええええええ!」カチッ
ニーナ「?!」
――ピカッ!
幼馴染「」ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ
ニーナ「!!!!!!!!!!!!!!!」
幼馴染(ひゃあああああああああああ! すっげえ反動!)ビリビリビリビリ
***
発明家「……やったか?!」
キリ「いくら反応速度の速いアンドロイドと言えど……へへ……すでに発射されたプラズマ・バズーカの弾を避けることは不可能……」ヘヘヘ
父「夕子、そっちからは何か見えるかい? カメラ越しじゃ煙がすごくて……」
幼馴染「こっちもよくわかんないんだけど……一瞬片足が飛んでくのが見えたような……」
母「じゃ、じゃあ当たったのね……!」ホッ
幼馴染「た、たぶん……」
発明家「よくやった夕子。今夜は祝杯だな」
幼馴染「こんな簡単に片付くなら、あんたでもよかったじゃねえか……」
ニーナ「……ふう。間一髪でした」ガシャン
幼馴染「?!」
キリ「おっと……これは……」ダラダラ
発明家「嘘だろ……?」
幼馴染「そ、そんな……?! プラズマ・バズーカを避けるのは不可能なはずじゃ……!」
ニーナ「直前に博士の『今だ!』と呉羽夕子様の『死ねええ!』が聞こえたので、左足を射出して天井に回避しました」
発明家「」
幼馴染「」
ニーナ「それにしてもいいスーツを着ていますね。これなら少しは楽しめそうです」グググググッ
幼馴染「……ひやあああああああああああ!」シュタタタタタタ!
発明家「逃げるな夕子! 闘え!」
幼馴染「無理無理無理無理! あたし殺されちゃう!」ウワアアアアアアアアン
ニーナ「……!」グルングルングルン!
幼馴染「ひいっ?! ハンドスプリングしながらこっち来た!」
ニーナ「!」ピタッ ッパアアアアアアアアアン!
幼馴染「ぎゃっ!」ガコンッ
母「夕子!」
ニーナ「……私の正拳突きにも耐えるとは随分と頑丈ですね。脇腹に風穴をあけるつもりだったのですが……」ジーン ビリビリビリ
幼馴染「ひい……ひい……」ガタガタガタガタ
キリ「夕子さん……落ち着いて……! 打撃によるダメージはほとんどないはず……」
父「頑張れ夕子!」
弟「お姉ちゃん! 勝て!」
ニーナ「……ここはおそらく、関節を破壊するのが手っ取り早いでしょう。腕と足、どちらからがいいですか?」
幼馴染「いや……殺される……」ヒックヒック
発明家「闘うんだ夕子! ここでお前が勝たなければ、お前の大好きな家族やキリ、そして俺まで殺されてしまうんだぞ!」
幼馴染「家族とキリちゃんは大好きだけど……正直あんたは死ねって思ってる……」グスッ
ニーナ「お答えにならないようなので、とりあえず右腕でも貰っておきますか……」ガッ! ズシン
幼馴染「いやああああああ! 離して!」ウインウイン
ニーナ「これは腕ひしぎ十字固めという関節技です。夕子様もテレビでご覧になったことくらいはあるのでは……?」ググググググググググ
幼馴染「痛だだだだだだだだだだだだだだだ! あいつにはしょっちゅうかけてるのに、いざ食らったらメチャクチャ痛い!」ギブギブギブギブ
父「美女の関節技……なんと恐ろしい……///」ハアハア
母「娘が生きるか死ぬかの瀬戸際なのに、なんで頬染めてんの? ぶっ殺されたいの?」
発明家「夕子! そうだぞ! お前はいつも俺に関節技をかけてるじゃないか! お前の超得意分野のはずだ!」
弟「お姉ちゃん! イーリンの仇をとって!」
幼馴染「……! そうだ……! てめえ……! てめえ……!」ワナワナワナワナ
幼馴染「てめえよくも……! イーリンを……!」ワナワナワナワナ
ニーナ「技は極まっています。もう右腕は諦めてください……」グイイイイイイイイイイン
幼馴染「うるせえ! てめえのそのお粗末な腕ひしぎ如きに降参なんかするか!」グオンッ
ニーナ「?!」ドガシャアアアアアアアン
発明家「み、右腕だけでニーナを投げ飛ばしたぞ……」ビクッ
キリ「よくよく考えてみれば……あれだけ巨大なモーターがついてるんだから……へへ……本気を出せば……へへ……アンドロイドのパワーなんか……」ヘヘヘ
父「つ、つまりあれかい……? 今の夕子には打撃技も関節技も効かないということかい……?」
母「おまけに夕子は幼いころからひたすら誰彼構わず関節技をかけ続けてきたわ……!」
弟「む、無敵だ……!」
幼馴染「来いよ……。第2ラウンドといこうぜ……」フシュウウウウウウウ
ニーナ「」ビクビクビクビク
***
30分後
発明家「……結局あの後、ニーナはありとあらゆる武術を用いて応戦したものの……」
弟「お姉ちゃんの異常なまでのタフさの前には全く歯が立たず……」
父「最後は容赦のない首4の字で頭部を切り離されて敗北か……。ほとんど一方的に虐めているようにしか見えなかったな……」
母「なんにせよ、夕子が無事でホントによかったわ!」ダキッ
幼馴染「無事じゃないって……右腕捻挫しちゃったかも……」イタタタ
キリ「いくら強化したアンドロイドとはいえ……やはりパワーアシストスーツの敵ではなかった……」ヘヘヘ
発明家「とにかくアンドロイド計画は中止だな。人間に似せようとすればするほど、個体差が出てしまって制御しきれん……」フウ
幼馴染「……。イーリン……」
***
1か月後
幼馴染「アンドロイド計画の中止は無事に伝えられたの……? 下手すればあたしらが消されるかもしれないくらいのプロジェクトだったのに……」
発明家「俺たちだけでニーナを始末できたのが良かった。情報漏洩の心配がないと知って、なんとか納得はして貰えたようだ。それに俺の提供した代替品を両国がえらく気にいってくれたというのも大きかったな」
幼馴染「代替品?」
発明家「ああ。おまけに今度はそれを賢く使ってくれたようだ。テレビをつけてみろ。もしかしたらニュースでやってるかもしれん」
幼馴染「いったい何のことだ?」ピッ
――――――
【ロシアと中国 両国を結ぶロボット!】
アナウンサー「次のニュースです。昨日、ロシアから中国に贈られたパンダ型ロボット『イーリン』と、中国からロシアに贈られたマトリョーシカ型ロボット『ニーナ』が公開されました。非常に愛らしい姿と驚きの活躍ぶりに、今世界中が注目を集めています」
――――――
リポーター「私は今、モスクワの警察署に来ています。御覧の通り、逮捕された犯人たちによる、長蛇の列ができています」
リポーター「あなたはどのようにして捕まったんでしょうか?」
犯人「……ニーナだ。あの悪魔が逃げる俺に猛烈なタックルをしかけてきたんだ……」
犯人「俺は小型マトリョーシカをケツにぶち込まれた……。目が覚めたときはこの有様だ」ジャラ
犯人「やめろ! ニーナの話はやめろ!」ガタガタガタガタ
リポーター「……このようにニーナは、少々過激な手段を用いながらも犯人逮捕に多大な貢献をしているようです。公開されると同時にモスクワの街に消え去った彼女を恐れ、自主をする犯人が後を絶たないとのことでした」
――――――
リポーター「こちらは北京の天安門広場です。イーリンの姿を一目見ようと、大変数多くの観光客でにぎわっています」ワイワイガヤガヤ
イーリン「おー! 今日本語しゃべたネ? もしかするとソレ、日本のテレビか?!」
リーポター「な、なんとイーリンがこちらに話しかけてくれました! ///」カワイイ!
イーリン「山田ー! 見てるか?! ///」ブンブンブンブン
リポーター「あの、山田さんとはどなたなのでしょうか?」
イーリン「ふふふ、私のコレネ///」ピン
リポーター「こ、恋人がいらっしゃったんですか……。今のイーリンさんは国民すべての恋人だと報じられていますが……」
イーリン「もちろん皆も愛してるネ! さっきもここ来る前に子ども達と缶蹴りしてたヨ。鬼の子、また泣いちゃたけど」
――――――
幼馴染「な、何でイーリンとニーナが……?!」
発明家「ニーナが念のためにイーリンの頭部を残しておいたらしい。ニーナの頭も切り離しただけだったしな。おかげでAIが生きてたから、愛玩ロボットとして作り直したのだ」
幼馴染「そうだったのか……。でもニーナ、思いっきり戦闘してたけど……」
発明家「俺も小さいマトリョーシカをあんな風に使うとは想定していなかった……。ま、まあ社会秩序に貢献していると思えば……」
幼馴染「そ、そうだな……」
――――――
イーリン「山田に爸爸、妈妈、コタローちゃん。今は会えなくて寂しいけど、いつか必ず中国に遊びに来てネ」
イーリン「それからウンコはお腹冷やさないようにな」
――――――
アナウンサー「緊張状態にあった両国も、このプレゼント交換をきっかけにグッと距離が縮まったということです。以上7時のニュースでした」ペコリ
――――――
幼馴染「……誰がウンコだ、馬鹿///」フフフ
おしまい