―教室―
男(あーあ……)ボケー…
男(憧れのあの子と……キスしてえなぁ)
男(いや、そんな高望みはしねえ。間接キスでもいいからしてみてえなぁ~)
女「……」ゴクゴク
男(おおっ、女さんがペットボトルに入ったポカリを飲んでる!)
男(チャンスじゃねーか!!!)
元スレ
男「憧れのあの子と間接キスしてえなぁ~」 女「……」ゴクゴク 男「チャンスじゃねーか!!!」
http://viper.2ch.sc/test/read.cgi/news4vip/1509550447/
女「……」ゴクゴク
男(早くペットボトルを置くんだ!)
女「……」ゴクゴクゴク
男(いつまで飲んでやがる!)ギロッ
女「!?」ビクッ
女「な、なに……?」
男「え、あぁ~……えぇ~と……その……」
女「まるで私がポカリを飲んでるのを気に食わないみたいだったけど……」
男「ん~とね、それはだね……」
男「清涼飲料水を一気に飲むと、血糖値の急激な上昇を招くから、体によくないよ……って」
女「そ、そう。ありがとう」コトッ
男(ふぅ~……上手くごまかせたぜ)
女「……」スタスタ
男(やった! ペットボトルを置いてどこか行った!)
ドクンッ…
男「このポカリに口をつければ、あの子と間接キスできる…」
ドクン… ドクン…
男「憧れの……女さんと……!」
ドクン… ドクン… ドクン…
男「よ、よし……やってやる、やってやるぞ!」
ドクン… ドクン… ドクン… ドクン…
男(焦るな、一歩ずつペットボトルに近づくんだ……!)
ブス子「あ、こんなとこにポカリの飲み残しがあるわ」
ブス子「ラッキィ~!」グビッ
男「あーっ!!!」
ブス子「なによ、アンタのだったの? 大騒ぎしちゃって……」スタスタ…
男(くそっ、よりによってクラス一……いや学年一のブスが口をつけちゃうなんて!)
男(今からボトルに口をつけたら、あのブスともキスすることになってしまう!)
男(だけど……まだフィフティ・フィフティだ)
男(ついてる唾液のうち、1/2は憧れの子の唾液なんだから、それで十分!)
男(ブスとキスすることになっても、十分お釣りはくる……!)
大男「お、ポカリじゃん!」
大男「飲んじゃおっと!」グビグビッ
男「ワァーオ!!!」
大男「わりぃ、お前のだったの? 全部飲んじまったわ! ま、許してくれや!」
男(よりによって、男が口をつけちまうとは~~~~~!)
男(だが、まだ絶望するには早い!)
男(ペットボトルのうち、1/3はあの子なんだから、まだ間接キスする価値はある!)
男(これぞ1/3の純情な感情ッ!)
男「よし……今こそキスを強行だ!」ン~…
ゴキブリ「……」カサカサ
男「何ィーッ!!!」
男「てめえ、ふざけんな!」
ゴキブリ「……?」
男「シッ、シッ! 消え失せろ!」
ゴキブリ「……」カサカサカサカサカサ
男「まさか、ゴキブリが飲み口をピンポイントで通過するとは……っ!」
男「さすがにゴキブリとキスするのはばっちいよな……いや!」
男「まだ1/4はあの子……キスしてやる……」
美化委員「あ、こんなところに空のペットボトルが! 捨てなきゃ!」サッ
男「あ、ちょっと!」
美化委員「なんだい?」
男「そのペットボトル……どうする気だ?」
美化委員「そりゃもちろん、捨てるのさ」
美化委員「校内の美化を完璧に仕上げるのが、ボクの役目だからね!」
男(さっきゴキブリ見かけたっつーの)
男「待ってくれ……そのペットボトルは持ってかないでくれ……」
美化委員「どうして? キミのなの、これ?」
男「いや……違うけど……」
美化委員「じゃあ、キミに渡す理由はないね」タタタタタッ
男「おい、待てって!」
美化委員「今日はもうすぐ業者さんが来るから、急いでゴミを集めなきゃならないのさ!」タタタタタッ
男「くっ、速い!」タタタッ
男(美化委員は100メートルを10秒台で走る! とても追いつけない!)タタタッ
男「どこだ!? どこ行った!?」
男「見失っちまった……!」ガクッ
男「あああ……!」
男「もっと早く間接キスしてれば、こんなことにはぁ~……!」
男「うわあああああああ……!!!」シクシク…
女「ちょ、ちょっと! どうしたの!?」
男「うっ、うっ、うっ……」シクシク…
女「何かあったの?」
男「ペットボトル……持ってかれた……楽しみにしてたのに……うっ、うっ、うっ……」
女「よかったら、私のファンタ飲む? もう口つけちゃったけど」
男「いや……そんなことしてる場合じゃない」
男「急いで、あのペットボトルを見つけないと!」
女「ねえ……もしよかったら、私にも手伝わせて!」
男「どうして?」
女「さっき……一気飲みを止めてくれたこと、嬉しかったから……」
男「ここから先は辛い戦いになる。女子供が踏み込める領域じゃないぞ」
女「分かってる……だけど私、あなたの力になりたいの!」
男「オーケー、ついてきな!」
女「うん!」
男「だけど、どこを探せばいいのやら……」
女「そういえば、さっき校門の方からエンジン音がしたわ!」
男「回収業者かもしれん……行ってみるか!」
―校門―
美化委員「こちらがペットボトルを集めた袋です」ガサッ
業者「毎度どうも~!」
男「あれだ!」
女「だけど、あの業者さん、トラックでペットボトル持ってっちゃう気よ!」
ブロロロロロ…
女「行っちゃった……」
男「しょうがねえ……チャリで追うぞ! お前はここで待ってろ!」
女「ううん、私も連れてって! 足手まといにはならないから!」
男「……いいだろう! ただし自分の身は自分で守れよ!」
女「分かってる!」
男「飛ばすぜ!」シャコシャコシャコシャコシャコ
男「待てーっ!」シャコシャコシャコシャコシャコ
女「止まりなさーい!」
ブロロロロ…
業者「な、なんだァ!? 変な二人乗りのチャリが追いかけてきやがる!」
業者「まさか回収したペットボトルを狙ってやがるのか!?」
業者「そうはさせねえッ!」
ブロロロロロロ…
女「スピード上げたわ!」
男「ちいっ、逃がすかよォ!」シャコシャコシャコシャコシャコ
女「トラックはこの敷地に入ったはずだけど……」
男「……どこだここは? ……ん?」
『リサイクル工場』
男「リサイクル工場……?」
女「リサイクルといえば、廃棄物を資源として再利用することだけど……」
老人「ほっほっほ、君たちリサイクルに興味がおありかな?」
男「誰だ!?」
老人「ワシはこの工場の責任者じゃよ」
老人「若者がリサイクルに興味を持ってくれるのは嬉しいことじゃ」
老人「よかったら、先程届いたペットボトルがどうやってリサイクルされるか、見学していかんかね?」
男「……」
女「どうする?」
男「いいだろう……見せてもらおうじゃねえか!」
女(私を血糖値上昇から救ってくれただけでなく、リサイクルにも興味があるなんて……)
女(男君って実は結構かっこいいかも……)
―リサイクル工場―
老人「1997年に施行された容器包装リサイクル法により、ペットボトルのリサイクルは始まった」
老人「それから20年、ペットボトルのリサイクルはまだまだ完全とはいえん」
老人「うちではリサイクルできるのは透明な飲料用ペットボトルに限られとるし、コストもかかる」
老人「無理にリサイクルしない方がいいんじゃ、という声も多い」
男「よくやってるキャップ集めるやつなんかも、輸送費用のが高くつくなんて聞くしなぁ」
女「リサイクルって言葉自体は魅力的だけど、決していいことづくめじゃないのね……」
老人「しかし、ワシはやらねばならぬことだと信じておるよ」
老人「さて、ではさっそく工程を見てもらおうかの」
老人「回収されたペットボトルはプレスされ、ブロックにされてここに運ばれてくる」
老人「しかし、このままだとペットボトルには混在物がたくさん混じっておる」
老人「そこで、滑り台を滑らせるようにして、ガラス瓶や中身の入ったボトルを取り除くんじゃ」
老人「これを重力分離という」
男「へぇ~、なんかかっこいいな」
女「取り除いたらどうするんですか?」
老人「次にX線を用いて、塩化ビニル製のボトルを探して取り除く」
老人「取り除いたらコンベアに乗せて、着色されたボトルやキャップを人の手で取り除く」
女「手作業なのは大変ね~」
男「さすがに全自動ってわけにはいかないか」
老人「ここまできたら、一度洗浄するんじゃ」
男「洗浄したらいよいよリサイクルってわけか!」
老人「焦るでない。まだまだこれからじゃよ」
男「ええっ!?」
老人「洗浄が終わったら、ボトルは粉砕してフレークにする」
男「フレーク?」
老人「フレークっていうのは、“薄い破片”という意味じゃよ」
女「ああ、コーンフレークっていうものね!」
男「あ、そっか!」
老人「そうそう。ま、ワシは朝はチョコワ派じゃがの。ほっほっほ」
男女「……」
老人「フレークは再び洗浄され、液比重分離によって、ポリエチレンなどの余計な成分を取り除く」
男「比重分離?」
老人「比重ってのは、ある物質が同じ体積の水より、どれだけ重いか軽いかの比率じゃよ」
老人「この仕組みを利用して不純物を取り除くわけじゃよ」
女「たとえば除きたい不純物の比重が水より小さければ、不純物は水に浮くってわけね!」
老人「その通り!」
男「これでいよいよリサイクル完成……」
老人「たわけ、まだ早い」コツンッ
男「いてっ!」
老人「比重分離を終えたフレークを乾燥させたら、次は風選分離じゃ」
男「ふうせん?」
老人「風船ではないぞ。風を当てて、ラベルや細かい粉末を飛ばす工程じゃな」
老人「仕上げに、静電気を使ってアルミや金属粉を取り除けば……」
老人「再生品の原料となるペットボトルフレークの完成じゃ!」
男「やったーっ!」
女「長かったわね……」
女「ちなみに、このペットボトルフレークはどういった品に再生されるんですか?」
老人「そうじゃのぉ……」
老人「たとえば、プラスチックのシートになって、クリアファイルとなったり卵パックになったり……」
男「あー……俺、クリアファイルよく使うよ!」
女「私も!」
老人「あとは繊維となって、スーツやワイシャツの材料にも生まれ変わる」
老人「洗剤のボトルなどの成形品になることもあるぞ」
男「どれも身近なものばかりだ!」
女「使い終わったペットボトルも、こんな風に社会の役に立ってるのね!」
老人「しかし最初にもいったが、ペットボトルのリサイクルはまだまだ課題が多い」
老人「ビンや缶のリサイクルに比べると技術的に難しいし、遅れておる」
男「たしかに……それは感じました」
老人「じゃが、確実に進歩はしておる。ワシらより進んだ技術を持つ業者もおるしな」
老人「ペットボトルのリサイクルが真に完成するには、ワシらのようなリサイクル業者や」
老人「自治体、そしておぬしら一般消費者が手を取り合う必要があるんじゃな」
老人「ワシが生きてるうちには難しいかもしれんが、おぬしらならきっと……」
男「俺、もっとゴミの分別ちゃんとします!」
女「私も!」
老人「ほっほっほ、頑張ってくれたまえ」
男「と、ところで……」ドキドキ…
老人「なんじゃ?」
男「さっきここに運び込まれたペットボトルって、今どうなってますか?」
老人「さっきの?」
老人「ああ、この通り、卵パックに生まれ変わったよ!」サッ
男「ずいぶん早いですね!」
老人「早さがこの工場の取り柄じゃからのう」
男(この卵パックには……憧れの女さんの残滓がある……)
男(やっと夢が叶う時がきた……!)
チュッ
男「いやったーっ! 間接キス、大・成・功ーッ!!!」
女「あのう……」モジモジ…
男「ん?」
女「今日の男君、とってもかっこよかったよ」
男「え、どこらへんが?」
女「私の血糖値上昇を阻止してくれたり、トラックを追いかけたり、リサイクルに関心を示したり……」
男「ふうん」
女「だから……」
女「私とキスしてくれない?」
男「悪いが俺は今、この卵パックに夢中なんだ……。他の人とキスする気にはなれない……」チュッ
女「もう! 男君ったら!」
女(だけど……いつか必ず憧れのこの人とキスしてみせる!)
男「んん~……間接キス最高~!」チュッチュッチュッ
老人「ほっほっほ、青春じゃのぉ~」
―おわり―

