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~現状~
男「はぁ・・・」
もはや癖になっているため息をついて、死んだような目でぼんやりと焦点の合わない空間を見続ける。
ふと空間の奥にある時計に目をやった。
男「もう12時か・・・」
“また”無意味な時間を過ごしている自分に情けない様な、苛立つ様なそんな複雑な気分になる。
他人から見ればごく単純な逃げにか見えないのだろうか。
元スレ
女「あなたの過去売りませんか?」
http://hayabusa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1339072981/
過去のトラウマによるものなのか、何をするにしてもやる気の起きない状態が長く続いている。
無理にやろうとすると、すぐに体調を崩してしまう。
男「どうして・・・こうなったんだろう・・・」
死にたいという思いだけがいつも頭のなかに居座っている。
リストカットやODは既に試してみた。ただ、死ぬのはやはり怖いのだろう。
血が多少出るだけで死ぬことは出来ず、ODも中毒症状が起き吐き続けるだけで終わった。
またぼんやりとしていると、雀が鳴くチュンチュンという音や、
トラックなどが道路を行き交うゴォーという低い音が聞こえてくる。
そしていつの間にか男はその音を聴くようになっていた。その時
ピンポーンピンポーン
丁度2回丁寧に鳴らされたインターホンの音が響いた。
Amazonの注文は先週の配達で最後だったはずだが・・・
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~トラウマ~
だいたい今から4年前の出来事になる。
男が中2になりしばらく経ち、季節は秋から冬に変わる頃だろう。
男は中学校生活では特に目立たない、どこにでもいるような生徒だった。
勉強も全く出来ないわけじゃない。
定期テストなら10位以内には入れるし、友達も少なからずいた。
部活動の関係もあり30人程度は居ただろうか。
幸せなことにその年の春から交際している女性も居た。
充実している楽しい日々だった。
ただ、それは冬が終わる頃には全て失っていた。
学校裏サイトと言われるネット掲示板に、毎日の様に匿名での書き込みが行われるようになった。
1:男 死 ね(39) 2:男死んでーwwwwww(22) 3:学校来るなwwww気持ち悪いwwww(34)
4:なんでお前みたいな奴生きてんの??(15) 5:死んで欲しいやつの名前書き込むスレ(48)
6:男早く死んでーwww命令だよーwwww(42) スレッド一覧はこちら
学校でも居場所がなくなり始める。
机にはゴミが入れられる様になり、上靴は隠され、クラス中から無視されるようになった。
クラスでは誰が書き込んだのかの話で盛り上がり、聞こえる様に自分が書いたと笑いながら話す生徒もいた。
警察、学校、掲示板の運営会社など出来るだけのことはしたつもりだ。
ただ、どこもまともな対応はしてくれなかった。
警察「そういうのはその会社に最初に連絡してね。うちのほうでは出来ないから。」
学校「アンケートとって調べたけど誰もやってないって。犯人分からなかったわ。だからこの学校には犯人いないよ。」
運営「その掲示板を作った管理人に問い合わせてください。」
男は次第に人を信じられないようになり、最後の砦だった彼女とも、彼女に迷惑をかけたくないという理由から離れることになった。
頑張っていただけだったはずだ。
そう思うようになってから頑張るという行為が馬鹿馬鹿しく感じ、同時に体調を崩すようになった。
その後1年、一人で家で勉強することになった。
学校には課題を出すことで進学出来る様にしてもらった。
だが、高校に入った後もいじめは続き、2年に上がって少し経つ頃には中退することになった。
何にもやる気が起きないまま、時間が過ぎ1日が終わる生活が随分と続いていた。
またいつもの様にぼーとして外の音でも聞いていた時、インターホンの鳴る音が響いた。
--Page.3
~女~
ピンポーンピンポーン
男「どうしよ・・・出たほういいかな・・・」
長い間引きこもっていたせいか、髭は伸び放題になり、人と話すことも苦手になっていた。
そんなことを考えている間に音は止み、静かになりまた車の行き交う音が聞こえてくる。
男「・・・帰ったかn」
考えを呟き終わる前にまた音が響いた。
ピンポーン
男「出るか・・・」
玄関の戸を顔半分程度だけ開け返事をした。
男「・・・はい、なんでしょう」
そこに居たのは20代半ばの女。仕事中なのか黒い服を着てそこに立っていた。
そして、男が顔を見たとき女は営業スマイルを浮かべ話しかけてきた。
女「どーも! 男さん・・・ですよね?」首を少し傾ける。
男「はい・・・そうですが・・・」
女「いやーよかった! 居ないのかと思って焦りましたよー」両手をパンッと合わせまたにっこりと笑みを浮かべてる。
この女上機嫌である。
男「何の用でしょうか・・・」
女「あぁーと!そうでしたそうでした。実はご相談があって今日は来たんですよ。あげてもらえますか?」そういうと戸に手をかけ最後まで開けてしまった。
この女入る気満々である。
男「え、あの・・・ちょっと」
女「ダイジョーブですよ。何も変なことしませんから。ただの相談です!」またニコッと笑う。
男はそのテンションの高さと笑顔に負け入れることにした。
御茶菓子とお茶を用意し、テーブルに並べる。
男「どーぞ・・・」
女「おぉ!これはどーもどーも! あ、でもそんなに気使わなくても大丈夫ですよ!」モグモグ
そんなことを言ってはいるが、お茶菓子の袋が既に2つ空いている。
そして口がモグモグ言ってる。全く説得力がない。
女「・・・!」ガタッ
女が急に動揺し始め、手が揺れテーブルにその振動が伝わってくる。
男「あの・・・どうしました?」
女「か・・・カ・・・」
男「カ?」
女「カントリーマアムの白!白ですよ!私大好きなんです!!」
一体この女何しに来たんだ。
男「は、はぁ・・・遠慮せずにどうぞ・・・って、そうじゃない!」
我慢の限界。男突っ込む。女落ち込む。
男「あ、いや別に食べるのはいいですよ・・・」
女復活。
男「相談って言ってましたよね?何のことですか?保険とかですか?」
女「ほーほーほーなのほ!ほーあんはってひたほ!」モグモグ
(そーそーそーなのよ!相談あってきたの!)
お茶をゴクゴクッと喉を鳴らし流し込む。
女「あなたの過去売ってくれない?」
男「は?」
女「あれ、聞こえなかった? あなたの過去売りませんか?」
男「は?」
意味が分からない。何を言っているんだこの女。過去を売る?は?
女「もう、希望なんて見えないでしょ?」ニコッ
女は困惑している男に笑顔を浮かべながらそう言った。
たださっきまでとはまるで違う。“人を嘲笑うかのような笑顔”だった。
男「どういう意味?」
男は少し苛立ち始める。俺の何を知っている。そんな目で俺を見るな・・・。
女「あなたがどういう人生を送っているのかなんて知っていますよ。」
息をつく暇もない。いや、与えないようにと言ったほうが正確か。女は話を続ける。
女「詰まらない人生。不安におびえ続ける生活。無意味な未来。」
女「光。見えますか?今のあなたに。」
男「・・・。」
男が黙り30秒程度無言の状態が続いただろうか。
女「あなたは過去と未来の関係をどう考えていますか?」
女は唐突にそう質問してきた。
男は眉間に皺をよせ考え始め、その後口を動かした。
男「・・・過去は変えられないけど、未来は変えられる。どうとでも・・・」
女「確かに未来は変えることが出来ます。ただ、」
女はそこで一旦話をやめ、お茶を一口飲みしっかり間を取る。
女「・・・どうとでもなるというわけじゃなんです。」
男「・・・。どういう意味だ・・・。」
女「生きることは、ただ単純な選択の連続です。」
女の口調は先ほどより話す速度を落とし相手に説明するような優しい話し方に変わった。
女「未来と呼ばれる部分には、その選択の光がいくつも存在しています。
ただ無数ではありますが、無限ではありません。そしてその光も、見えるもの、間違いじゃないもの、自分が選べるもの。
そんな風にどんどん絞っていくとそんなに多くは残りません。」
男「・・・。」
女は男がしっかりと話に聞く耳を持っていることを目で確認すると話を続けた。
女「そして過去は、その選択した光の点とその点と点を繋ぐ線で出来ています。
あなたはが過去を売り、過去の選択の失敗を回避すれば未来は今とは別のもとへと変わります。」
男「・・・人生はゲームとは違う。」
過去の記憶を思い出し、少し胸が苦しい思いになりながら、男はそれを吐き捨てる様に言った。
男「そんなゲームみたいにチャプターごとにセーブされてるわけじゃないんだから・・・。」
そんなゲームみたいだったらこんなクソゲーになんてなるかよ・・・。
女「ゲームのセーブデータなんてただの記録・記憶でしょう。同じじゃない。」
また馬鹿にするような笑みを浮かべる。
男「同じなわけあるか!ふざけるのもいい加減にしろ!」
女「過去は記録・記憶でしか保証されないんですよ。もし記録が残っていない過去の文明があったとしたらそれは無かったことと同義です。」
男「・・・。」
女「もしその記録を書き換えれば?記憶を書き換えれば? ここまで言えば分かりますよね。」
女は男の返事を待つ合図に、顎の下で手を組んだ。
男「・・・俺の過去を知っている人の記憶を改竄するってことか?残っている記録も全部!無理に決まってるだろ。」
男はついに笑い出してしまった。流石にこんなこと“あぁ~なるほど!そりゃ便利だ!”なんて納得出来るわけがないのだ。
だが、女は真剣な顔でそれに答えた。
女「あなたの常識では無理なことでも、私たちになら出来ることだってあるんですよ。」
女「それに、全ての記録・記憶を書き換えた時、あんたはその書き換えられたあとの人生を疑うことは無いでしょう。
どうせ、このまま何も変わらず死んでいく人生なら掛けてみるのもいいとは思いませんか?」
男「あぁ~はいはい。もういいよ。もう帰ってくれ。」
信じられるわけないだろ。
女「彼女さんと別れずに幸せな未来を築くチャンスを捨てるんですか?」
男「な・・・」
女「これだって一つの選択の光なんですよ。信じてみませんかこのチャンスを。」
女は優しい笑顔で問いかける様にそう言った。
男が少し冷め始めたお茶を飲んだ。
男「今答えを出さないとだめか? 少し考えたい・・・」
女「おぉー!ありがとう!! 大丈夫まだ時間はあるから。今度はいつ来ればいいかな?」
女はいつの間にか来た時の最初のテンションに戻っている。
男「3日後でも大丈夫かな・・・?」
女「ダイジョーブ! じゃ、今日はこれで帰るね!」
男「あ、はい・・・」
女「じゃ、またねー」
男「何だったんだ・・・。」
一人になった男はそう呟き、窓の外を見た。
外は先ほどの青空とは一変し今にも雨が降りそうな暗さになっていた。雀の鳴き声ももう聞こえない。
--Page.4
~過去と未来~
あれから2日が経過した。1日かけて、この間の過去だとか選択の光だとか過去を買うだとか飛んでもない話を、自分なりに整理してみたもののさっぱり分からない。
男「・・・過去はただの記録でしかない・・・かぁ・・・。」
確かに過去はただの記録でしかないってのは分かる。だから未来はその過去により制限される。そういうことだろ?ここまではいいだよ・・・
男「だからって、どうやってそれを書き換えるんだって話だ・・・むr」
“あなたの常識では無理なことでも、私たちになら出来ることだってあるんですよ。”
その言葉が蘇る。常識っていうか科学的に無理だろ・・・。電話レンジでも使うってのかよ。
男「はぁ・・・頭痛くなってきた・・・。というか俺に方法なんて分かるわけないよな・・・」
男「やめたやめた! 風呂はいろ・・・」
そう自分に言い聞かせ男は風呂へ向かった。
ざぱぁ~
男「はぁぅ・・・ふぅ」
湯に浸かり上を見上げる。そして上に向かい上っていく湯気を目で追った。だんだんと天井にぶつかる湯気が水滴へと変わり始める。
男「5・・・4・・・3・・・2・・・1・・・」
男「0」ピチャン!
水滴が湯船に戻るのを合図に男がそこから出て体を洗う作業へ移った。
タオルに石鹸を付け泡立て体を洗う。
正面にあるガラスは既に曇り止めの効果を失い見えなくなっていた。
なんとなく男は手で自分の顔の高さの部分の曇りを払った。
行き場を失くした水分が光をまとった水滴となり、左に寄れては向きを変え、右に寄れてはまた向きを変え下へ下へと流れていく。
男「・・・選択の光と線か・・・丁度こういうのなのかな。」
そんなことを考えながら男は体の石鹸をシャワーで流し風呂を出た。
男「ついに明日か・・・そう言えば何時に来るとか言ってなかったな・・・早めに寝るか」
翌日。
男「12時15分・・・この間は確かこれ位の時間だったはず・・・」
そんなことをぼそぼそ呟いていると・・・
ピンポーンピンポーン
丁度2回丁寧に鳴らされたインターホンの音が響いた。
前回と同じだ。
男「はい。どうぞ。」
今度は戸をしっかりと開けた。やはりそこには先日の女の姿があった。
女「どもー!こんにちはー」ニコッ
あの営業スマイルに、このテンション。相変わらずだ。
男「どうぞ中へ」
女「うん。どーも」
また前回のお茶菓子とお茶を出す。
女「おー!白ー!では早速・・・うん、うまい!」
男「それはよかったです。」
女「あ、そうだそうだ。考えてくれた?」
男「はい。ただ少し聞きたいことがあって・・・」
お茶をゴクッと飲み干し女は話を続けた。
女「お、質問だね!いいよいいよ!どんどんこーい!」
男「あなた達は一体どういう人達なのか教えてほしい・・・
あなたは私のこと知っている様な言い方を前してましたけど、俺はあなた達を全く知らない。だから信用するのも怖い。」
女「ふむふむ。まあそうだよね。でも、なんていうかねぇ・・・難しいのよこれがまた。」
女はん~と唸った。
男「言えない様な決まりでもあるんですか?」
女「あー違うの。そういう難しいじゃなくて、説明の仕方がってこと。まぁいいわ。少し時間かかるかもしれないけどいい?」
男「はい。お願いします。」
女は30秒程度ぼそぼそと何かを言っている。言いたいことの整理でもしているのだろうか。
女「あのね私は、・・・未来から来たの。と言っても今のあなたの未来じゃないけど。」
男は目頭を指で摘み必死に理解しようとしている。
男「あ~・・・と、えっともう少し分かりやすく・・・」
ただ理解出来るかは別である。
女「えっとね、この間も説明した未来と過去の関係は覚えてる?」
男「はい。点と線ですよね?」
女「そうそう。この世に生を受ける生の光と、あの世に生を受ける死の光。
その間にある沢山の選択の光とで点は作られていて、それを図に表すと夜空に光る星みたいな感じになるの。」
男「・・・。」
上を見て頭の中で夜空をイメージする。
女「そしてその点と点を繋ぐ線はどこへでも行ける。ただし線の長さは決まってるから移動できる点も限られるんだけどね。それが、自分が選べる光。」
男「この間の話の、見えるもの、間違いじゃないもの、自分が選べるものってやつですね。」
女「そうそう!物分りいいね!じゃ、見えるものってどういうことか分かったりする?」
男「えっと・・・。過去は記録・記憶だから・・・なんだ・・・未来だから・・・」
女「そうそう。だいたいあってる。未来から見れば過去はすべて見える。
この時代ではまだ発見されてないけど、過去の自分の進まなかったほかの光への憧れを」
男「・・・後悔、ですか・・・」
女「うん!そういうこと。 どうかな・・・信じてくれる?」
男「・・・なんていうか、ここまではっきり言われると信じたくなっちゃいますね・・・未来から来た、ですか・・・」
女「うん。p・・・!」
男「?」
女「うんうん!なんでもないよ!ほ、ほかに質問は!?」
なぜか女は焦り始めた。どうしたのだろうか。
男「俺の過去の選択を変えてこういうことになる前に、事態を回避出来るところがあるからこういう提案してくれてるんだよね?」
女「そう。わたしの居た未来の工程図とこっちのここまでの工程図を」
男「あ、あの工程図ってなんですか・・・」
女「あ!そうだね。それも説明しないとね・・・。工程図は点と線の流れを図に表したものなの。まあ、人生の地図みたいなやつ!」
女はお茶を指につけテーブルに水滴を適当に垂らし、いくつかの点と点と結び始めた。
男「なるほどね。あ、話戻してもらって大丈夫です。」
女「つまり私たちの未来とこっちのここまでとを照らし合わせて違う場所が見つかったからそこを変えれば未来は変わる!」
女はテーブルの水滴を指差して説明している。
だが、ここで男は根本的な問題に気づいた。
男「・・・未来ってそんな簡単に変わるものなの?というか変えていいものなの?」
女「選択の光で未来は簡単に変わる。あんなに弱々しい点一つで人生なんていくらでも変わってしまうものなの。
変えても大丈夫。どうせこれも選択の光の一つになるだけだから・・・」
男「過去を変えない俺と過去を変えた俺に別れるってことか・・・」
女「正確にはここで初めて別れるわけじゃないよ。もう既に別れた後の未来は出来てるから。あなたがどっちの未来を望むかってだけ。
卑怯なこともずるいこともしてない。安心していいんだよ。」
男「でも・・・過去を変えない俺は・・・」
女「あぁ~こう考えたほう分かりやすいかも。
えっとね、過去を変えない事を毎回望まずに、変える事を望めばそれは運命になる。
つまり、過去を変えないあなたは今は存在していないの。」
男「なるほど・・・!」
女「ほかにはダイジョーブ?」
男「あ! 過去を売ってほしいって言ってましたよね?」
女「うん。言った。」
男「売ったら俺は何を貰えるんですか?」
女「ん~、売る買うって話だけどお金の問題じゃない。
私たちの未来はすごく平和で戦争とか、そういう悲しいことは起きないようになってるの。」
男「おー!それはいいことだね。・・・でもなんで?」
男が少し首を傾げて尋ねた。
女「過去を書き換えられるのは確かに便利だけど、その力は強力。どんな悪事を働こうと計画しても、計画した時に見つかる。まあ、この時代の核抑止力みたいなもんだね。」
男「なるほど・・・」
女「だから、苦しんでいるあなたを救いに来たってこと?特に見返りは求めない!あなたが幸せになれば、わたしも幸せになれるから。」
またニコッと笑顔になっている。今回はまるで子供のような無邪気な笑顔。
男「こりゃ、信じるしか・・・ないかな・・・」
ははは・・・と声が出る。」
女「今日取引しようと思ってるんだけど、もうこの時間に悔いは残ってない?」
女は真剣な顔になってそう聞いてきた。
男「この時間の記憶、全部失うの?」
女「うん・・・。書き換える過去からそれ以降は全部・・・ね」
男「そっか」
男は短いため息をはぁとついて女に笑いかけた。
男「もうこれ以上苦しまなくていいのかな・・・」
もういいんだという安心。これまでの苦しさ。結局自分では何も変えられなかった惨めさ。
それら沢山の感情が一気に押し寄せてきて、男の顔は笑っているのか、泣いているのか、怒っているのか分からない変な顔になってしまっていた。
女「・・・っぷ」
それをみた女は勿論我慢出来るわけもなく・・・
女「あははははは!! ちょなにその顔!? やめてくるしぃ~~~」
腹を抱えて笑い始めた。男もそれに釣られて・・・
男「え、ちょひでえ あははははは!! ぐすんっ・・うぇ・・・あはは!」
それから10分程二人で大笑いした。
--Page.5
~過去の書き換え~
もはや友達の様になった二人。話し方もだいぶ砕けてきている。
女「もう質問は無い?」
男「あぁ、大丈夫・・・あ!過去の書き換えってどうやるの?」
女「あぁ、そうだね。説明しておかないと。えっとね、プロセスマシンっていう・・・言わばタイムマシンのようなものに乗って過去へ行くんだ。そして・・・」
男「そして・・・」
女「選択の光の分岐点になっている場所に直接接触して、進行を変える!」
男「お、おぉ・・・なんか怖いな・・・」
女「大丈夫!わたしがいるんだから!!安心しなさいな! そんじゃ、行きますか。過去へ!」
男「れっつ・ごー!」
・・・。
・・・・・・。
・・・・・・・・・。
男「?」
女「あ、スイッチ入れてないわ・・・。」
男「おいっ!」
女「じゃ、出来るだけ近くに来て手繋いで。」
そういって女は男の手を握ってきた。
男「これでいいのか・・・?」
女「そうそう。あ、吐きそうになっても我慢してよ?絶対だよ?」
男「え、吐くn・・・」
ポチッ
女「あ」
ギュゥゥゥゥウウウウン
--Page.6
~接触~
バシュ ドサッ
女「だ、ダイジョーブ?」
男「うーう!うーーーううう!!」
女「あ、もう飛び終わったから吐いてもダイジョーブだよ?」
うえぇええええええええええええええ
男は盛大にぶちまけた。
男「うぅ・・・ぐすん・・・」
女「あははは やっぱり慣れないときついんだね~」
すごく楽しそうだ。Sの素質があるのかもしれん。全く親の顔が見てみたいわ。
男「ひでえよ・・・321ゴー!とかにして欲しかったよ」
女「いや~、私もそのつもりだったんだけど、間違って押しちゃってさ ごめんねー」
ああはははとまだ笑ってやがる。
顔を上げた男は顔をゆがませた。
男「ここ・・・」
女「うん。学校。今日だよ。」
男「まだ俺が中2の時・・・いじめの前か」
女「そう。些細なことが始まりだった。だからそれを止めれば未来は変わる。」
女はそういって手を強く握りしめた。そして・・・
女「時間に余裕はないからね いくよ!」
男「え、行くってどこに・・・」
男は女に手を引かれ、学校の校門をくぐった。
生徒たちのガヤガヤという音が聞こえてくる。
男「すごく苦しい・・・」
女「仕方ないよ。でもそれももう少しで終わるから、頑張って!ね」
どうやら女は職員室に向かっているようだ。何をする気だ・・・
“職員室”
男「・・・。」
コンコン
女「失礼します。男君の親戚のものなんですが男君担任の先生はいらっしゃいますか?」
職員「え、あ~ちょっと待って下さいね。呼んでまいります。」
キンコンカンコーン
“え~男君の担任、山下先生 至急職員室までお越し下さい。 繰り返します。~~”
職員「では少々お待ちくださいね。すぐ来ると思いますので。」
女「はい、お忙しい所すみません。」
職員「いえいえ」
男「おい、いったい何を・・・」
男が女に囁いた。
女「先生を呼んで、子供の男を連れてきてもらう。そうして何でもいいから理由つけて今日は帰らせる。
それで未来は変わる!」
女もひそひそと囁くように言った。
そんなことをしていると
山下「あぁ~どーも。遅くなってすみません。今日はどうなさいました?」
女「先生どうも。実は急用が出来て男君の母から迎えに行くように頼まれたんです。男君呼んでもらえますか?」
山下「そーだったんですか。それはそれは。ちょっとお待ちくださいね。」
キンコンカンコーン
“2年C組男君至急職員室前まで来てください。”
山下「では、あと準備させて連れてきますのでお待ちください。」
女「はい。ありがとうございます。」
男「随分慣れたようにやるな・・・」
女「まあね。何度も練習してたし。」
男「あはは 通りで」
女「! 来た・・・」
男「あぁ、あんなだったなぁ・・・なんの悩みもなさそうな顔しやがって。」
女「もう大丈夫だからね。男」
男「これで終わりなんだな。全部。」
女「うん・・・。苦しみはもうなくなるよ。 あ、男は最初に外出てて会うのはまずい」
男「わかった じゃさっきの校門のところで待ってるよ」
そう言って男は歩いて行った。
女「男クーン!こっちー」
男君「? あれ、だれ?」
女「えっとねお母さんの親戚で女って言います。男君の迎え頼まれたの。」
男君「お母さんになんかあったの!?」
女「あ~大丈夫そういうのじゃないよ。ただ今日は早く帰って。いい?」
男君「ん~、よくわかんないけど、家に変えればいいんだよね?」
男君は少し疑っているようだ。
まあ当たり前か。女は2分程度作り話をして男君を帰らせることとなった。
女「うん。私はあと帰らないといけないから。じゃ、男君も気を付けて帰るんだよ!」
男君「分かった。」
女は男君に手を振って男の向かったほうへと走って行った。
タッタッタッタッタ・・・
--Page.7
~代償~
・・・タッタッタッタッタ
男「終わったようだな・・・」
女の姿を見つけた男が呟いた。
女「ただい・・・まー!」
男「お帰り うまくいった?」
女「・・・。まだ分からない・・・。」
男「そっか。うまくいけばいいn」
男が急によろめいた。
男「!?」
女「うまくいったみたい・・・」
男「ど、どういう・・・」
明らかに動揺している男に対して女は落ち着く様にと手を握る。そして
女「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。・・・」
そう何度も何度も謝っていた。
男「そうか。未来が変わったのか・・・」
女「うん・・・。記録も記憶も“全部”消える・・・」
男「俺の記録は俺もってことか・・・」
選択の光は分岐した。つまり、前の俺は消える。当たり前か・・・。まぁこれでよかったんだよな・・・。
男「ありがとうな女。救ってくれて。」
女「最後まで言えなくてごめんなさい・・・。どうしても言えなかった・・・」
涙と鼻水ともうぐちゃぐちゃだな。ひでえ顔だ。あんなに可愛かったのに。
男「いいよ。もう泣くな。な?」
男を女の頭を無い手で撫で続ける。
女「うん・・・うん・・・ありがとう・・・」
男「じゃ、また未来で合おうな。今度はこんな悲しいことならないこと祈るわ」
あははと無理な笑顔を浮かべる。
そして・・・
男「じゃあな女 元気でな」
もう体の大半はなくなっている男。それでも最後まで笑顔でいようと頑張っていた。
女「うん ありがとう 大好きだよ ぱ・・・」
女が別れの言葉を言い終わる前に男の意識は消えた。
98 : 以下、名... - 2012/06/07(木) 22:29:44.96 NM1wVkX+0 63/63
面白かった
乙!
これじゃありきたりすぎると思う…