― のび太の家 ―
のび太「川!」バッ
のび太「はしご!」ババッ
のび太「東京タワー!」バババッ
ドラえもん「君も相変わらずあやとりが好きだね」
ドラえもん「その才能がもっと勉強や運動といった方面にあればねえ……」
のび太「うるさいな! ほっといてよ!」ブチッ
のび太「あ、あやとりの糸が切れちゃった!」
元スレ
のび太「もしもぼくが糸使いになったら」
http://viper.2ch.sc/test/read.cgi/news4vip/1502897970/
のび太「ドラえもんが余計なこというから、力が入りすぎちゃったじゃないか!」
のび太「どうしてくれるんだよ!」
ドラえもん「しょうがないなぁ……」モゾモゾ…
ドラえもん「未来のあやとりの糸~!」
のび太「未来のあやとりの糸?」
ドラえもん「この糸はとても丈夫で、長さも自由自在なんだ」シュルルッ
ドラえもん「これを使えば、君ならすごいあやとりができるかもしれない」
のび太「へぇ~、貸して貸して!」
のび太「よっ、ほっ」バッババッ
のび太「わっ、ホントだ! すっごぉ~い!」
ドラえもん「ま、頑張りなよ」スタスタ
ドラえもん「調子はどうだい?」
ドラえもん「うわっ、なんだそれ!?」
ジャン!!!
のび太「ぼくが独自に編み出したあやとり“スカイツリー”さ!」
ドラえもん「す、すごい!」
ドラえもん(まさか、こんな短時間でこんなに糸を自在に操れるようになるなんて!)
のび太「まだまだあるよ!」
のび太「川を進化させた“大河”!」バッ
のび太「はしごを進化させた“はしご車”!!」ババッ
ドラえもん「こりゃ大したもんだ」
ドラえもん「さっきはバカにしちゃったけど、ここまでくると立派な才能だよ」
のび太「へへへ、だろう?」
ドラえもん「でも、あやとりはそれぐらいにして、そろそろおやつにしようよ」
ドラえもん「ほら、どら焼き」
のび太「ああ、いいよ。ぼくの分はそこに置いといてくれれば」
ドラえもん「えっ?」
のび太「この糸で取るから」シュルンッ
ドラえもん(糸でどら焼きを取った!? まるで釣りみたいに!)
のび太「うん、おいし~!」ムシャムシャ
のび太「その気になれば、鉛筆を糸で動かせるよ」クイッ
のび太「ほら、宿題もこの通り」サササッ
ドラえもん「むむむ、すごい! 答えは間違いだらけだけど!」
のび太「だろう?」
のび太(ひょっとしてこれ、もっと練習すればもっとすごい技ができるようになるんじゃ……)
のび太(よぉ~し……)
………………
…………
……
次の日――
― 空き地 ―
ジャイアン「なんだと!? のび太のくせに俺たちに逆らう気か!?」
のび太「そうだよ、ぼくはもう君たちのいうことなんか聞かないよ」
ジャイアン「この野郎~!」ムカッ
スネ夫「やっちゃってよ、ジャイアン!」
のび太「やっちゃえるものならね」クイッ
ジャイアン「う!?」
ジャイアン「う、動けない……!」ビィン…
スネ夫「どうしたの、ジャイアン!?」
スネ夫「はうっ!」ビクッ
スネ夫「ぼくも……動けない……」
のび太「君らの体の自由はぼくの糸で奪わせてもらったよ」
ジャイアン「な、なんだとぉ~!?」
ジャイアン「こんな糸! こんな糸ぉっ!」グッグッ…
のび太「ムリムリ、この糸は絶対切れないよ」
のび太「じゃ、君ら二人、仲良くケンカしてもらおうか」クイッ
ジャイアン「わわっ!」グルンッ
スネ夫「体が勝手に!」グルンッ
ジャイアン「うわわぁぁぁっ!」グオオオッ
スネ夫「やめろぉぉぉっ!」グオオオッ
ドカボカバキッ! ボカドカバカッ! バキドカボコッ!
のび太「アッハッハ、いい気味だ!」
― のび太の家 ―
玉子「のび太、草むしりをしてちょうだい」
のび太「えぇ~、めんどくさいなぁ」
玉子「いつも昼寝ばかりしてるんだから、たまには家の手伝いをしなさい!」
のび太「やだよ。どうしてもっていうんなら、自分でやりなよ」クイッ
玉子「あうっ!?」ビクッ
玉子「体が動かない……!」
ブチッ ブチッ ブチッ
玉子「なんなのこれ!? どういうことなの!?」ブチッ
玉子「体が勝手に草むしりを……!」ブチチッ
のび太「草むしりってのは、草が伸びてるのに気づいた人が自分でやらなきゃ」
ドラえもん(のび太君、まさか……!)
のび助「ただいま~!」
のび太「お帰りなさい」
のび太「さっそくだけどパパ、欲しいマンガがあるからお小遣いちょうだい!」
のび助「なにをいってるんだ。今月の分はもうあげただろう。来月までガマンしなさい」
のび太「どうしても欲しいんだよ」ヒュルッ
のび助「むむ!?」ビシッ
のび助「あ、あれ? なんでだ? どうしてだ?」
のび助「体が勝手に財布を開いて、のび太に小遣いを……!」
のび太「えぇっ、こんなにくれるの!? どうもありがとう、パパ!」
ドラえもん(やっぱり……!)
ドラえもん(のび太君は“未来のあやとりの糸”を悪用している……!)
ドラえもん「のび太君!」
のび太「どうしたの、ドラえもん?」
ドラえもん「パパやママを糸で操るなんて、とんでもないことだ! 未来のあやとり糸を返せ!」
のび太「いやだよ。こんなにぼくと相性がいい道具、他にないもの」
ドラえもん「ぐぬぬ……だったら――」モゾモゾ…
のび太「おっと、そうはいかないよ」シュルンッ
ドラえもん「あっ、四次元ポケットが!」
のび太「念のためスペアポケットもいただいておこうかな」シュルルッ
のび太「今のぼくはこんなこともできるんだよ」シュルルルルッ
ドラえもん(糸をぐるぐる巻いて、なにかを作っている……!?)
シュルルルルルルッ
ドラえもん(これは……まさか!?)
ジャーンッ!
ドラえもん「ネズミ!?」
ドラえもん「ギャーッ!!!」タタタタタッ
のび太「アッハッハッハ、大正解!」
― 空き地 ―
ドラえもん「……というわけなんだ」
ドラえもん「頼む、のび太君を止めてくれ!」
ジャイアン「未来のあやとりの糸を使ってやがったのか、なんかおかしいと思ったぜ!」
スネ夫「任せといてよ! タネさえ分かればあんな奴!」
しずか「あやとりが得意なのび太さんが糸を悪用したら大変なことになっちゃうわ!」
ドラえもん「のび太君はあやとり技を披露しに空き地に来るはずだ。頼んだよ!」
のび太「ふんふ~ん」スタスタ
ジャイアン「よく来たな、のび太!」
スネ夫「よくもやってくれたな!」
ジャイアン「糸を使うって分かってりゃもう怖くねえ! このバットでブン殴ってやる!」
スネ夫「このラジコンカーで追い回してやる!」
のび太「ん? ぼくに挑むつもり?」
のび太「あいにくだけど、もうケンカは終わってるんだよ」
ジャイアン「どういう意味――」
のび太「ほいっ」クイッ
スパパパパパパッ!!!
ジャイアン&スネ夫「!?」パラパラ…
ジャイアン「わわっ、俺らの服が……!?」
スネ夫「うわわ、裸になっちゃった!」
のび太「君らの姿を見かけた瞬間、糸を張り巡らせておいたのさ」
ジャイアン「なんだとぉ~!?」
スネ夫「こ、こんなのインチキだ!」
ジャイアン「ち、ちくしょう~!」タタタタタッ
スネ夫「ママァ~!」タタタタタッ
のび太「アッハッハッハッハ! どんなもんだい!」
しずか「のび太さん!」
のび太「し、しずかちゃん!」
しずか「糸を悪用するのをやめないと、私、のび太さんのこと嫌いになっちゃうわよ!」
のび太「しずかちゃん……」
のび太「残念だけど、そうはいかない」シュルッ
しずか(のび太さんの糸が、私の小指に……!?)ギュッ…
のび太「ほら、これでぼくたちは糸と糸でつながった」
しずか「…………!」ビビビッ
しずか「のび太さん、ステキ!」
ドラえもん(のび太君の糸の技は、とうとう心を操るレベルにまでなったのか……)
ドラえもん(こうなったら頼れるのは彼しかいない!)
― 出木杉の家 ―
出木杉「野比君があやとりの糸を悪用してる?」
ドラえもん「うん、すでにぼくとジャイアン、スネ夫はやられちゃって」
ドラえもん「しずかちゃんものび太君のとりこになっちゃった」
ドラえもん「今は糸のバリアーを張って、空き地に陣取って王様気取りになってる」
出木杉「つまり糸の弱点を突かなきゃならないわけか……」
出木杉「う~ん……だったらあれしかないな」
出木杉「剛田君、このテープに君の歌を録音してくれ」
ジャイアン「おう、分かったぜ!」
ジャイアン「ボエ~~~~~~~~~~~!!!!!」
出木杉「ぐうう……っ!」
ドラえもん「オエーッ!」
スネ夫「し、死ぬ……!」
ドラえもん(出木杉君は録音したテープをどうするつもりなんだ?)
― 空き地 ―
出木杉「この空き地中に張り巡らされた、野比君の糸……これは弱点にもなりえる」
出木杉「この一部にコップをつけて、録音した歌を流せば――」
出木杉「歌が糸をたどって持ち主に伝わり、野比君を倒せるはずだ!」
ドラえもん「なるほど、糸電話の要領か! さすが出木杉君!」
出木杉「じゃあ、やるよ」カチッ
『ボエ~~~~~~~~~~!!!!!』
のび太「!?」
ボエェェェェェェ!!!!!
のび太(な、なんだ、糸をつたってくるこの不快な音は!? ジャイアンの歌か!?)
ボエェェェェェェェェ!!!!!
のび太「ぐう、ううう……!」
ボエェェェェェェェェェェ!!!!!
のび太「お、おええっ……!」
のび太(こんなアイディアを思いつくのは……たぶん出木杉だな! さすが出木杉!)
のび太(だけどなんのこれしき……! 今のぼくは無敵なんだ……!)
のび太(このエネルギーを跳ね返してやる!)クイッ
出木杉「――――!?」
ドラえもん「どうしたの!?」
出木杉「ま、まずい! 野比君に歌のエネルギーが跳ね返されて――」
ボエ~~~~~~~~~~!!!!!
出木杉「ぐうううう……っ!」ビリビリッ…
ドラえもん「うわぁぁぁぁぁっ!」ビリビリッ…
出木杉「ぐ……まさか剛田君の歌をも跳ね返すなんて……!」
出木杉「糸使いとしての野比君の実力は、ぼくの想定をはるかに超えている……!」
ドラえもん(あの出木杉君にここまでいわせるなんて……)
ドラえもん(どうやら、ぼくはとんでもない怪物を生み出しちゃったみたいだ)
ドラえもん(とりあえず、今日のところは引き上げるしかないか……)
のび太「アッハッハ、どうやらドラえもんたちは引き上げたみたいだな」
のび太「そりゃそうさ! 今のぼくは無敵さ!」
のび太「だって、どんな人も操れるし、どんな武器も取り上げられるんだから!」
のび太「さぁて、邪魔者がいなくなったところで、あやとりしようかな」
のび太「ねえ、しずかちゃん?」
しずか「はい……のび太さん」
のび太「糸を使えば、女の子の心だってこの通りさ」
のび太「川!」バッ
のび太「はしご!」ババッ
のび太「東京タワー!」バババッ
しずか「キャーッ、のび太さんステキー!」
のび太「アハハ、あやとりは楽しいなぁ! アッハッハ……」
のび太「…………」
のび太(ぼくはいったい何をしてるんだろう?)
しずか「のび太さん?」
のび太(こうやって、普通にあやとりしてるだけで楽しかったのに……)
のび太(道具を悪用して、ジャイアンたちをやっつけて、しずかちゃんを自分のものにして……)
のび太(こんなことして、ぼくの大好きなあやとりは喜んでくれるのか!?)
のび太(いや、きっと悲しんでるにちがいない)
のび太(ぼくは……ぼくは……ッ!!!)
シュルルッ
のび太「しずかちゃん」
しずか「――! あら、のび太さん!」
のび太「君の心を縛ってた小指の糸は外したよ。もう帰っていいよ」
のび太「ごめんね、しずかちゃん」
しずか「のび太さん……」
― のび太の家 ―
のび太「ただいま、ドラえもん」
ドラえもん「のび太君!?」
のび太「迷惑かけたみんなに謝ってきた。未来の糸も返すよ。ぼくは普通の糸であやとりできればいいや」
ドラえもん「……そりゃどうも」
ドラえもん「でもどうして、急に心変わりしたの?」
のび太「うん、あやとりをやってたら、なんだか急に自分のやってることがバカバカしく思えてきてね」
のび太「だから、もういいんだ」
のび太「今日はごめんね、ドラえもん」
ドラえもん「分かってくれたらいいんだよ」
ドラえもん「それじゃおやすみ」
のび太「おやすみ」
のび太「ぐぅ……ぐぅ……」
ドラえもん「あやとりの“綾”には模様って意味の他に、“入り組んだもの”っていう意味もあるけど」
ドラえもん「もしかしたらあやとりが――」
ドラえもん「そんな複雑に入り組んだのび太君の心を解きほぐしてくれたのかもしれないな」
おわり
64 : 以下、\... - 2017/08/17 03:35:05.039 z6yWuXtY0 34/34途中規制に引っかかりましたがこれで終わりです
ありがとうございました