男「はぁ・・・」
メリー「悪いんですけど今からそちらにお伺いしてもいいですか?」
男「罰ゲームかなんかですか?」
メリー「いえ、個人的な用件と言いますか、仕事なんです」
男「そうっすか・・・いいですけど別に」
メリー「ありがとうございます、15分ほどで着きますのでお願いします」
そう言って電話は切れた
電話を掛けた方から切るといったマナーを守っているなと考えつつ
自称メリーさんを待つことにした
元スレ
メリーさん「すみません、私メリーと言う者ですが・・・」
http://wwwww.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1181401734/
メリーさん「すみません、私メリーと言う者ですが・・・」
http://wwwww.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1181478821/
世界の車窓から「メリーさんのいた街」
http://wwwww.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1181570095/
私メリーさん。今あなたの車が見えているの
http://wwwww.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1181826166/
私メリーさん。今あなたの車の前にいるの
http://wwwww.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1182081245/
私メリーさん。あの日一緒に見た夕焼けが一番好きです。
http://wwwww.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1182292294/
私メリーさん。あの日一緒に見た夕焼けが一番好きです。
http://wwwww.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1182521404/
そしてぴったり15分後にもう一度着信音が鳴った
男「もしもし」
メリー「私メリー今あなたの後ろにいるの」
振り返るとそこにはずぶ濡れの女携帯を手にが正座していた
男「・・・」
メリー「・・・驚かないんですか?」
男「驚いてますよこれでも、でもあまりに普通なんで」
そこに正座していたのは街中で見かけるような
女、というか女の子と言った方がいいだろうか
スカートを履いているが今流行のレギンスが見えている
服装はzipper系とでも言うのだろうか
女の子の服装はよくわからない
男「メリーさんってあれですよね妖怪と言うか幽霊の・・・」
メリー「はい、そうですメリーさんです」
「どう見ても日本人にしか見えないんですけど」
髪型はショートカット、黒髪が雨に濡れて黒々と光っている
まさにカラスの濡れ羽色とでも言うのだろうか
メリーさんは黒々とした瞳でこっちを見つめている
「ああ、これは役職なので私に割り振られたのがメリーさんなんです」
「職業なの・・・?」
「はい、ちなみに生前は中山です」
死んでからもいろいろあるんだなと僕は思った
「それで中山さん、どうして家に?」
「あ、メリーでお願いします。
今日ここに来たのはあなたに驚いてもらう予定だったんですが・・・」
驚いてませんでしたよね・・・と下を向いてメリーさんは落ち込みだした
「仕事って言ってたけど驚かすのが仕事なの?」
「はい、そうなんですけどまぁ自分の為ですね説明すると長くなるけどいいですか」
「いいけど、どうせ暇だし」
せっかくの休日を雨に邪魔されどこへも行けない僕には
ちょうどいい暇つぶしだ
この自称メリーさんに付き合う事にした
メリーさん曰く死後はこんな仕組みらしい
死んだら成仏するかこの場に残るかを選ぶ事ができる
成仏するを選べば死後の世界とやらにいけるらしい
この場に残るを選べばこの世に留まる事ができる
しかし、その場合ある条件があるのだ。
「役職に付き人を驚かす事」
有名な妖怪から地方の噂までピンからキリまである役職の
どれかに割り当てられ、人を驚かす事で
この世への滞在時間を稼ぐらしい
「私に割り当てられたのはメリーさん
1人驚かすごとに14日の滞在期間がもらえます」
「結構シビアな世界だな」
「有名になるほど報酬滞在期間も少なくなるんです
トイレの花子さんなんて一人あたり3日ですよ」
「切ないな花子さん」
この世に留まる事を選んだ人は大抵この世に未練があり
果たせなかった事、恨みなどを晴らすために
必死で人を驚かすのだという
「そこで、あなたに驚いていただきたいんです。形だけでいいんで」
「はぁ・・・形だけでいいんですね?」
「いいんです」
後ろを向くようにと促すメリーさん
しぶしぶ後ろを向くと携帯電話の着信音が鳴り響いた
「もしもし」
「私メリーさんあなたの後ろにいるの」
すぐ後ろで聞こえる声と携帯から聞こえる声が
ほんの少しずれて聞こえておかしな感じだった
そして振り向くとさっきと同じ姿勢のメリーさんが
アイコンタクトをとってきた驚けという合図なんだろう。
僕は迫真の演技で驚きを演じた
「う、うわーびっくりしたー」
「・・・」
「・・・」
「はい、OKです。ありがとうございました」
「変なところがアバウトだな」
驚きの審査基準を聞いてみたいものだ
きっと驚くほど適当なんだろう
「あ、ちゃんと14日加算されてます」
携帯で確認するメリーさん
あの世も電子化が進んでいるらしい
「それより濡れたままで平気か?」
「あ~ちょっと寒いですけど平気です」
「ちょっと待ってろ」
そう言って1階へと降りる、タオルを取りにだ
女の子はいたわれ。親父から毎日のように言われていた言葉だ
たとえ幽霊であっても女の子なのだ
バスタオルとついでに紅茶も持っていく事にした
チョイスは上質のアールグレイ俺のひそかな楽しみを分けてやることにした
右手にマグカップ、脇にバスタオルを抱え
自分の部屋へ入ると
メリーさんがベットの下を覗いていた
ドアが開く音に気づいたのか慌ててメリーさんが最初に座っていた
位置へ戻り、何もなかったかのような顔でおかえりなさいと言った
「何してたの?」
「い、いや!そのっ男の子の部屋に入るのは初めてでして
そっそのやっおぱりあ~いうものがあるのかなと思いましてっ」
声が裏返っていたり
ごにょごにょと後半は聞き取りづらかったがあまりにも必死だったので
文字通りタオルを投げてやることにした
甘いな、俺の隠し場所は鍵付きの引き出しの中だしかも一枚の板の下。
その上特殊なあけ方をしないと燃えてしまう。ベットの下など馬鹿のやることさ
それはさて置き片手のマグカップをメリーさんへ差し出す
「あったかい紅茶」
「ありがとうございます、ご親切にどうも」
ここでこの紅茶が高いだの有名なものだといわないのがコツだ。
純粋に感想を聞きたいが為だ。紅茶好きの血が騒ぐ。
メリーさんはマグカップを受け取りそのまま口へと運んだ
一口啜るとマグカップをおいた。
「ところで、相談があるのですが・・・」
おいしいの一言も無しか。残念
ちくしょうと一人で落ち込む。
髪をタオルで拭きながらメリーさんは続ける
「実は、驚かすのはあなたが初めてなんです。
いつもは最初に電話した時に断られてしまって・・・」
それはそうだろう、いちいち断りをいれずに強引にくれば
いいのだろうに。律儀な奴だな。
承諾するのは僕かよっぽどの寂しい奴だろう。
「それで・・・どうしたら驚いてもらえるようになると思いますか?
滞在期間を稼がないといけないんです」
「突っ込むところが多すぎてどこから直せばいいかわからないけど」
「それじゃあ最初からお願いします」
お願いと言われると断れない僕。
流されやすいなと思いつつ協力することにした
「まずだ、その丁寧語を何とかしろ
腰の低い幽霊なんてどこにいる」
「こっちからお伺いするのに相手に失礼じゃないですか!」
思わぬ逆ギレ、戸惑う僕。
「次に服装だ。なんで流行の最先端なんだ」
「幽霊がオシャレしちゃいけないんですか?
女の子の楽しみなんですよ?」
女の子と言う単語に弱い僕。
オシャレしたいのはしょうがないと妥協することにした
「脅かす時に笑顔もやめた方がいい」
「じゃあ、どういう顔してたらいいんですか」
「恨めしそうな顔で脅かせばいいじゃないか」
「恨めしくないですもん」
「直す気あんのか!」
その後も小一時間欠点の克服に務めたが
どうにも引き下がる事は無く
結局は今のままで行く事になった
しょうじき疲れたので話題を変える事にした
「ところでなんでこっちに留まってるんだ?」
「あ・・・それは・・・」
しまったと思った時にはもう遅かった
なんてデリカシーの無い事を言ってしまったのか
「それが思い出せなくて」
「は?」
「私が死んだのは確か交通事故なんです
事故ショックで忘れてしまったのかも、でも
何かやらなくちゃいけないと思ってたのでここに留まったんです」
「でもそれじゃ、ずっと用事を済ませられないじゃないか」
「断片的には覚えてるんですけど、雨の日の事故でした。
私はなぜかうかれててそれで・・・」
メリーさんの目に涙が滲んできた
やはり地雷を踏んでしまったようだ
後先考えず俺は慌ててこう言った
「よかったら手伝うよ」
「・・・本当に?」
「いいよ、暇だし」
女の子はいたわれと言う家訓だけじゃないだろう
それに他人の気がしないし、ほおって置けない
流されやすい僕だけどみずから流れに飛び込むことにした
「ありがとぅ」
笑顔でそう言った時、彼女の頬を涙が流れた
髪の毛から垂れた水かもしれないけど
柄にもなくドキッとしてしまった。
その時、一階の玄関が開く音がした
親が帰ってきたのだろう。
「あ、そろそろ私は帰ります
これ以上お邪魔しちゃ悪いですし」
「ああ、また連絡してくれ」
「はい!それでは」
立ち上がるとメリーさんは窓の外へ消えていった
僕は彼女のためにがんばって果たせなかった事を見つけてあげようと
思った。
残ったマグカップとバスタオルを片付けようと立ち上がると
すぅっとメリーさんが帰ってきた。
「あ、それとお茶ごちそうさまでした
アールグレイですよね?ものすごくおいしかったです。それでは」
それだけ言うとメリーさんは再び窓の外へと消えた。
僕は彼女のためにがんばって果たせなかった事を絶対に
見つけてあげようと思った。
次の日も雨だった。
朝からずっと降り続いている
昨日ほどの激しい雨ではなく小雨程度だが
体を濡らすには十分な量だろう。
メリーさんの事が気にかかる。
そう思っていると突然着信音が鳴った。
「おはようメリーさん」
2コールで出てそう言うと
「私、メリー…ってなんでわかるんですか」
おなじみのセリフを邪魔してしまった
「昨日電話帳に登録しておいた」
着信とともに画面に出るメリーさんの文字
「そ、そうですか…私の仕事が…」
困ったような声が受話器の奥から聞こえて来た
「それで、今日も家来るの?」
「あっお邪魔でないのならお願いしたいです」
「いいよ、親もいないし」
「ありがとうございます、それでは15分ほどで」
そう言うとプツンと通話が切れた
うん、やはりマナーを弁えてるなと思いつつ
メリーさんが来てもいいように準備をする事にした。
またずぶ濡れなんじゃないかと思いバスタオル。
それから紅茶を用意する事にした。
今日はキャンディでミルクティーでも作ろうかな
時間はあるしと15分を掛けてお茶を準備した
喜んでくれるだろうか。
お茶を持ちバスタオルを抱え自分の部屋に戻る。
メリーさんはまだ来てないようだ
お茶とバスタオルを中央の机に置き、ベットへ腰掛ける
照明から吊り下げられた紐を眺めなら
これからどうしたらいいか考えていると
携帯が鳴った。
画面を確認すると案の定メリーさん。
電話に出ずに振り向いて見た
するとメリーさんはすでにそこにいた
やはりずぶ濡れでベットの上に正座。
こちらを向けて、ちょっとふて腐れたような顔で
こっちを見ている。
「まだ振り向かないでくさだざいよ」
と、ちょっと怒っているのだろうか
少し声が低い
「ごめん、つい」
素直に謝ることした。
我が家の家訓その2。
何が悪いのかは謝ってから考えろ。
親父の口癖だ。
まぁ検討は付くが電話に出ていたほうが
よかったのだろう。
「もう2回目なんでいいんですけどね」
でも私の存在意義が…とメリーさんは言った。
「悪いんだけど布団が濡れてしまう」
そこらへんはきっちりしてもらおう。
寝ることが好きな僕にとっては死活問題だ。
「あっごめんなさい!」
すぐさまメリーさんはベットを降り
昨日の定位置へと付いた。
やはりいい娘だな。
あらかじめ用意して置いたバスタオルと
紅茶を手渡す。
なぜこの娘はいつもびしょ濡れなのか。
疑問に思った事を素直に聞いて見た。
「傘とか持ってないの?」
「か…さ…?持って…ないですね」
「…?」
なんだろうか今の曖昧な返事は
よくわからないが
帰りがけに傘を貸してやろうと思った。
「本題に入りたいのですが」
メリーさんは紅茶を啜りながら言う。
「私はたぶん、これ以上人を驚かす事はできないと思うんです」
うん、なんとなくわかる
あれで驚ける人間はほぼいないだろう。
「それで考えたんですが残りの滞在期間で目的を果たそうかと」
「何日残ってるんだ?」
「死んでからの初回ポイント1ヶ月はほとんど使ってしまったので
昨日の14日を合わせると残り18日です」
18日か…どうだろうか長いようで短い気がする
そもそも初回ポイントは気になるがあえてスルーしよう。
「わかった、その間に目的を果たせばいいんだな?」
「はい、お願いできますか?」
僕は二つ返事で承諾した。
「困ってる女は助けろって親父によく言われててね」
「優しいお父さんですね」
正確には困ってる女は不細工でも助けろなんだけど
なんでも妹や姉は可愛いかもしれないとの事
それは口にしないが。
とりあえず、明日学校で事故について調べる事にしよう。
「とりあえず、覚えてる事を話してくれるかな
何か手がかりがあるかもしれないし」
「はい、わかりました。」
話を聞いて愕然とした。
メリーさんは自分の名前以外
ほとんどのことを覚えていない。
家族のことさえも家族がいたとしかそんな認識しかない。
ほぼ記憶喪失と言っていいだろう。
それでも断片的な記憶は残っているようだ。
屋上、川、神社など地名もいくつかでてきた。
この場所をたどる事で目的が見つかるのだろうか。
思ったよりもかなり難しいかもしれない前途多難だ。
あらかた話し終わると
メリーさんはまた泣きそうな顔になっていた。
これはいけない、女だけは泣かすな
これは最優先事項だと言っていた親父に殴らる。
慌てて話題をそらす事にした。
「メリーさんは食事とかどうしてるの?」
「え?え~と別に食べなくても生きて?いけますが
食べる事はできます。私は結構上級霊なので物を食べることも
触れる事もできるんです」
ほぉ。と、いろいろ勉強になるな
僕もいつか死ぬのだから今のうちに仕組みを覚えておくのも
いいかもしれない。
その後も他愛も無い世間話が続いた。
「ところでその素敵なお父さんは何をしてるんです」
「あ~去年死んじゃった」
「あ…ごめんなさい…」
親父は去年死んだ。
病気だったが死ぬ直前まで看護婦をはべらせて
病室はハーレム状態だった。
そう思うと親父は成仏したのだろうか。
あらかたこの世に残って妖怪枕返しとか微妙な
役職をやってる気がする。
女の部屋に入り、枕を返して喜んでいるかもしれない。
そう考えると親父らしくて可笑しくなってしまった。
「ところで…メリーさんは
この辺りでその…死んじゃったの?」
「そうなりますね、自分の死んだ場所からあまり
遠くには行けませんから」
「そうなの?」
「はい、ちなみ私はN県O市担当メリーさんです
担当場所以外は出られません」
そういう事か、各地で目撃されてる幽霊や妖怪が
場所によって姿や形が違うのはそのせいか
つまりメリーさんだけでもかなりの人数がいるということだ。
ますます、シビアな世界だ。
その後も話は続いた
メリーさんに一方的質問ばかりしていたが。
整理するとこうだ。
約1ヶ月前の雨の日に交通事故で死んだ。
記憶はほとんど飛んでいるが断片的なものは残っている。
屋上、神社、クレープ屋、川などのキーワード
俺と同じ17歳
好きな食べ物は蕎麦
残った日数は18日
なんとかなるかならないかは微妙だが
何しろ小さい町だ範囲は絞られてくる
曖昧なヒントしかないのは心元無いが
だが、彼女を助けると決めたからには
がんばるしかないだろう。
そもそもなんで僕はこんなに必死になっているのだろうか
メリーさんが可愛いのは一つの原因だろうがそれだけでは無い
気がする。
ふと、時計を見ると3時間ほどが経過していた
そろそろ親が帰ってくる頃だろう
今日はお開きにすることにした
本格的に行動するのは明日からだ。
しかし学校という物がある。
放課後から探すとしても時間は限られてくる。
実質18日より少ないかもしれない。
「そろそろ帰りますね」
「わかった、あっちょっと待ってて」
僕は玄関へと向かった、小雨とはいえまだ雨は降っている。
傘を貸してやろう。
傘立にを見ると傘は1本しかなかった。
僕の傘は前に誰かに貸したまま返ってこない。
最後の1本は親父の傘だった
形見のようなものだが女の子を助けるためだ
親父なら許してくれるだろう、というか貸さなかったら呪われそうだ。
黒の大きめの傘を手に取り2階へと戻った
「傘さしていきなよ」
メリーさんに差し出すと、驚いたと言うか
なんと言うか微妙な顔をしていた。
「傘…いいんですか?」
「いいよ、明日は晴れるらしいし
というか貸さないと…」
親父に呪われると、言うとメリーさんは笑った。
「幽霊に傘を貸すなんておかしな人ですね
でも…それではお借りします」
途中ごにょごにょとよく聞こえなかった
「ああ、また連絡してくれ
今度はちゃんととってから振り向くから」
と、メリーさんは笑顔で会釈した。
傘は壁を抜けられないので窓を開けメリーさんは雨の中へ消えていった。
さぁ、明日から忙しくなるな
そう思いながら開けっ放しの窓を閉じる。
と、同時に玄関のドアが開く音がした。
親が帰って来たのだろう。今日の晩御飯はなんだろうな。
蕎麦だったらいいな。
翌朝目覚めてカーテンを開けると
天気予報通り晴れていた。
いつもは外れる天気予報士にやればできるじゃないかと
心の中で褒める。
顔を洗い、朝食を取り学校へ行く準備を整える。
制服のネクタイを締めている途中でメリーさんは普段どこにいるのだろう
などと考えていた。
最近はメリーさんの事ばかり考えてる自分が気恥ずかしかった。
家を出てバス停へ向かう。
学校までは少し遠く、バスで10分そこから10分先が学校だ。
いつも通りバスを待つ。
バスが到着し中へ入ると同じ制服の中に
見慣れた顔を見つけた。
「やぁ」
「おはよう」
一歩遅れで挨拶を交わした。
一番後ろの5人が座れる席を独り占めしている
このメガネは友達の浩平だ。
正直僕から見てもなかなかの美男子で
成績も優秀。先生から信頼もあるが
中学の時からタバコを吸っている事を知っているのは
僕だけだ。
タバコ臭いぞと僕。
「何それは本当か、外で吸うように心がけているのだがな
つくものはついてしまうか」
いつもの用に芝居がかった口調でそう言った。
こいつの親が歌舞伎役者なせいだろう
前にいえに行ったが馬鹿でかい日本庭園付きの豪邸に住んでいた。
軽く雑談を交わしていると
すぐにバス停へとついた。
がやがやとバスの中の3分の2が降りる。
その流れに乗り僕と浩平も降りた。
ここから僕は自転車だが浩平は歩きだ
なんでも自転車は好かん。との事らしい
浩平に先行くぞといい、自転車を漕いだ。
しばらく行くと携帯が震えた。マナーモードなので
音は鳴らない。
ポケットから携帯を出し、画面を確認すると案の定メリーさんだった。
僕は通話ボタンを押した
「もしもし」
「私メリーさん、今あなたの後ろにいるの」
おいおい、と思いつつ振り向くと
自転車の荷台にメリーさんが座っていた。
「!」
「きゃっ!」
僕は自転車ごと倒れそうになったがなんとか持ちこたえた。
「はぁはぁ…今のはビビッた…。」
「わ、私も驚きました…」
これは予想外、全然気が付かなかった。
自転車を漕いでいるがほとんど重みは無い
やっぱり幽霊なんだなと再認識した。
「驚かせてしまってすみません」
「いや、それが仕事でしょ」
幽霊に突っ込む僕。
「途中で見かけたもので乗らせていただきました」
やっと平常心を取り戻した僕は
いつも通りメリーさんと接した。
「さっき驚いたけど…14日加算されたの?」
「いえ、一人一回までで、同じ人は無理なんです。
でも驚いてもらえて嬉しいです、ちょっと自信が付きました。」
「そりゃよかった。」
他の人から見たらどう思うだろうか。
女の子を後ろに乗せて学校へ登校。
恋人同士に見えるかなと、そんな事を考えていた。
メリーさん曰く今は僕以外の人間には見えないそうだ
メリーさんは単発タイプで一度に大勢の人を驚かせられないとの事
こんな可愛い子と登校している所を他の人に見せたい気もあったが
それはかなわないらしい。
「ちょっと残念」
「え?」
「いや、なんでも」
やがて校門が見えてきた。
この二人乗りが終わるとなると
少し名残惜しかった。
駐輪場へ自転車を止め
教室へと向かう。
ここではメリーさんとは会話をしなかった
メリーさんと会話をしていても
他の人から見ればただの独り言だ。
ただの変な人には思われたくないので。
教室に到着し、先日の席替えでゲットした。
窓側の席へと座る。
「それじゃあ、ちょっと友達に会ってきますね」
学校に友達なんかいるのかと聞きたかったが
「ああ」
と僕は短く小声でそう言った。
メリーさんが別れを告げ教室の扉に向かう。
それとすれ違いに浩平が入って来た。
そして僕の前の席へと座る。
「自転車は好かんが、徒歩となると不便なものだな」
「自転車を買えばいい」
「自転車は好かん」
そんな事を話していると担任が入って来た。
短く連絡事項を告げすぐにSHRは終わる。
担任の唯一好きな所はここだ。
さて、今日の1時間目は嫌いな英語か。
嫌だ嫌だと浩平と口を揃えてそう言った
退屈な授業を4時限こなし
待ちに待った昼休み。
メリーさんは見えない。
ちょっとこれから調べる事があったのだが。
どうしようと思ったがこちらから掛ける事にした。
メモリーのマ行からメリーさんを選び発信
3コール目でメリーさんは出た
「は、はい!なかや…じゃなくてメリーですっ」
「どうしたの慌てて」
「あっ電話が掛かってくる事は今まで無かったので驚いてしまって」
ああ、掛けることはあっても掛けられる事はないもんなと
少しかわいそうに思った。
「今から昇降口の前にこれる?」
「はい、すぐに」
じゃあ、と言って僕から電話を切った。
昼食を10秒チャージして僕は昇降口へと向かった。
昇降口へと行くとメリーさんが下駄箱に寄りかかっていた
時間に律儀。生前はさぞかし優等生だったのだろう。
メリーさんは僕に気づくと軽く会釈をした。
「それじゃ行こうか」
「どこへですか?」
「図書室」
図書室には過去の新聞が3ヶ月分まで保存されている。
1年の時、図書委員だった頃に知った事だ。
病死なら新聞には載らないが、事故ならばおそらく載っているだろう。
図書室は教室棟とは真逆の教員などが使う文化棟にある。
今の時間生徒は教室で昼食を取っているので
辺りに生徒はいない。
「それじゃあ行こう」
と、僕の独り言を聞かれる心配もないので
メリーさんと会話をしながら図書室へと向かった
「そういえば友達って?」
僕は朝の疑問を聞いて見た
「ああ、花子さんです教室棟3階のトイレの」
「いるの?」
「いますよ、この学校だけでも4人の花子さんがいます」
「多いなっ!」
眩暈がした。こんな身近に花子さんがいるとは思わなかった
しかも4人…
まぁ人が死んで未練があると残るんだし普通なのかな。
「へぇ、会って見たいけど女子トイレに入るのはちょっとね」
「男子トイレですよ?」
再び眩暈がした。
あのトイレはよく利用する。もしかして見られていたのだろうか…
「今度紹介しますよ」
ああ、ありがとう…と、あまり気が進まなかったが
とりあえずお礼を言っておいた。
そんな会話をしていると図書室の扉が見えてきた。
古臭い大きな木製の扉。開けにくくて有名だが
開放されていたので開館中と言う事だろう。
中へ入ると独特の紙の匂いがした。
懐かしいな、ここに来るのは図書委員をやめてから
一度も来ていない。
辺りを見渡すと、本を読んでる生徒は一人もいない
だがカウンターの椅子に座っている見慣れた顔を見つけた。
弁当箱が重箱なんて奴は一人しかいない。
「やぁ、おまえが図書室に来るなんて今日は雨でも降るのかな?」
古い例えをもってくる浩平。
現、図書委員なのだからここにいるのは不思議じゃない。
「過去の新聞はどこだ?」
と、軽く皮肉を無視して浩平に尋ねる。
「うむ、それならそこの保管室の中だ
ダンボールに入っているが日付が書かれているから
おまえならすぐ見つけるだろう」
ありがとうと言い。保管室へと入る。
古い本など倉庫代わりに使われているらしいこの部屋はカビ臭かった。
電気をつけるとダンボールが山積みになっていた
3ヶ月以降の新聞は捨てるのが図書委員の役目だが
あいつめ、仕事していないな。
メリーさんとともにダンボールに書かれた
日付を頼りに目当ての箱を探した。
「あ、この辺りだと思います」
メリーさんがそう言った。
見ると4段積み重なったダンボールタワーの一番下に
約一ヶ月前の日付の書かれたダンボールがあった。
「すごく…大きいです…」
これをどかさないといけないのかと途方にくれていると
メリーさんの顔が申し訳なさそうのこっちを見ていた。
「よし、どかそうか」
女の子の期待は裏切れない。
僕は立派な親父の息子だった。
一番上のダンボールは背伸びをしてやっと届く位だった
ちくしょう、もっと背が高ければと心の中で思ったが
そんな事を考えてる余裕は無かった。
気合を入れて一番上のダンボールを引き抜いた。
僕はてっきり中は新聞紙だと思っていのだが違った。
中に入ってるのは新聞紙では無くこの重さは本。
しかも重量級。
僕は思わぬ重さにふらつき背中から地面に叩きつけられた。
間髪をいれずそのダンボールが顔を目掛けて落ちてくる。
「あ」
「あぶない!」
僕は顔が間違いなく潰れるのだと確信したが。
顔のすれすれでダンボールの角が止まっていた。
ダンボールが宙に浮いている。
冷汗を拭いながら立ち上がる。
「どうして…?」
「よかった…間に合って」
メリーさんがやってくれたのだろうか?
「近くの浮遊霊さんに手伝ってもらったんです
ここは締め切っていてじめじめしていたので結構人数がいたので」
やがて、ダンボールがゆっくりと床に置かれる。
そしてさらに、残っていたダンボールタワーも
次々と下ろされていき一番したのダンボール取り出せるようになった。
「そんな事できるのか?」
「もちろん無償ではやってくれません。こう言ったんです。
滞在期間1日を譲るのでダンボールをどかしてください。」
「それじゃあ、まさか…」
「はい、4人が手伝ってくれました
滞在期間4日減です。」
なんと言うとりかえしのつかない事を
僕が注意していればこんなことにはならなかったのに。
貴重な滞在期間を無駄にしてしまった。
「ごめん…」
「いいんですよ私のためにやってくれた事なんですから」
メリーさんは笑顔で言った。残された時間は13日になってしまったけど
僕はかならずこの子にこの恩を返そうと心に決めた。
気を取り直し、一番下のダンボールを取り出す。
その中から今から一ヶ月、プラスマイナス1週間の新聞を
取り出し開けたスペースに広げる。
メリーさんは一週間前から
僕は一週間後から読み進めた。
新聞をめくる音と時間だけが過ぎる。
5枚冊目の新聞のわずかなスペースに交通事故の記事を見つけた。
4月26日。5時50分頃
O市西区交差点付近で同じ市内に通う高校生、中山 准(17)が車にはねられ
病院に運ばれたが死亡した。
「これだ…」
「これですね…」
新聞記事を見つけた事に多少の喜びを感じたが
次の一行でそんな嬉しさなど消し飛んだ。
中山 准さんは轢かれた後、30分放置されており
近くに住む主婦によって発見された。
なお、犯人は捕まっておらず。
警察はひき逃げとして調査している。
全身がかぁっと熱くなった。
怒りとやるせなさでいっぱいになる。
「すぐ助けを呼べば助かったかもしれないのに!」
「…少し思い出しました。雨の日で、歩道を歩いてたら
車が前から…それで投げ飛ばされて川原の下に…」
メリーさんの目に涙が溜まっていた。
それを見て僕の怒りはどこかへ消えた。
怒っている場合じゃない。手がかりは見つけた。
そして僕のやるべき事は二つに増えた。
メリーさんの果たせなかった事を果たす事。
それから犯人を…捜すこと。
期間は13日。限られた時間。
僕は成し遂げることができるだろうか。
そう心に誓うと
昼休み終了のチャイムが鳴った。
昼休みの50分間をフルに使ってしまった。
「ここまでにしようか」
「はい」
次は10分の校内清掃時間。
とりえず新聞の記事を切り抜き。保管室を後にする。
図書室を出る時に浩平に声を掛ける。
「清掃だぞ」
「図書当番は図書室の掃除をせねばならない
悪いが、後は頼んだぞ。」
結局、僕一人でやるのか…
しょうがないと思いつつ掃除場所はどこだったかと
思い出す。
確か今日は月曜日、清掃場所が変わる日。
「あ」
「どうしたんですか?」
タイミングがいいのか悪いのか。
今日から1週間僕の掃除場所は
花子さん在住教室棟3階の男子トイレ。
もう掃除の時間が始まっているので
急ぎ足で清掃場所へと向かう。
トイレのドアを開けると
男子トイレ特有の匂いが鼻を突いた。
到着はしたが清掃をやる気は毛頭なかった。
後ろを着いてきたメリーさんが言う。
「花子さん、私ですけどー」
すると誰もいないはずの奥の個室から声がした。
「おう!メリーか」
ゆっくりと個室から女の子が出てきた。
タバコを咥え、けだるそうな顔。
髪型はポニーテイル服装はシンプルな黒のセーターに
ハーフパンツというラフな格好そして…
「ちっさっ!」
「ちっさいいうな!誰だお前」
僕もそんなに背が高い方ではないが
背の低いメリーさんよりさらに低い。
「花子さん。この人がさっき話した協力してくれる方です」
「はっお前がか、頼りねぇな~」
ポニーテイルの花子さんはジト目で紫煙を吹かしながら言う
「小学生がタバコを吸うのはよろしくないと思うよ」
「私しゃ20だ!」
すごい剣幕で言い返された。
そのルックス、その身長。どうみても小学生にしか見えない。
とりあえずこれ以上ややこしくなるので
仮にも信じてやる事にした
「その自称20さんが花子さん?」
「自称はいらねぇよ。ムカつく奴だな」
ツリ目の花子さんはご立腹の様子だ。
「そうです、その人が花子さんですよ」
メリーさんがフォローを入れる
「そういや、おまえ今朝見たな
ちょっと耳かせ」
僕はそばに寄って花子さんの横に立った
花子さんが何か言いたげな表情をしている。
僕は何のことかわからず首をかしげていると
観念したように花子さんは言った。
「…しゃがめ」
ああ、耳までとどかないのかと理解し
僕はその場にしゃがんだ。
花子さんの口が耳に近づく
吐息が耳に当たってくすぐったい。
そして花子さんはこう言った。
「今朝見たぜ。この○○」
瞬間僕の心臓は大きく跳ね上がった。
このちびっ子人が一番気にしている事を!
僕は男としてこの自称20の小学生に敗北を喫した。
「かははは!ちびって言った罰だ、滞在期間3日分GETだぜ」
「…どうやら敵になるしかないようだな」
と、ここで試合終了がごとく掃除終了のチャイムが鳴った。
「この勝負おあずけだ。」
そういい残して扉へと向かう。
メリーさんを先頭に外へ出ようとしたが
花子さんに呼び止められた。
「おい!ちゃんと見つけてやれよ」
「言われなくとも」
僕はそう言ってトイレのドアを閉めた。
「今、なんていったんですか?」
メリーさんがその黒い瞳で尋ねてくる
「いや、なんでもないよ」
5、6時間目はメリーさんは辺りを散歩してくるのだという。
別れを告げ、メリーさんは中庭の方へ歩いて行った。
僕は睡魔に身をまかせ寝ることにしする。
古典の文法なんてなんに使うんだと考えながら
気がつくと夢の中にいた。
メリーさんいる。
夢の中ではメリーさんは中山 准として普通に生活してた。
普通に学校の制服を来て本を読んでいる。
本を読みながらにこにこしていてとても楽しそうだ。
でもなぜか僕は悲しくなった。
夢でしか会えない中山 准。
その時突然夢から覚めた。
夢から覚めると僕は泣いているのに気づく。
自分の涙で起きるなんてどんだけだよと
突っ込みを入れる。
あれ?なんで泣いてるんだっけ。
さっき見た夢を思い出せないまま
放課後を迎えた。
放課後、昇降口に向かう途中
中庭のベンチで寝ているメリーさんを発見し。
がんばって起こして、駐輪場へと向かった。
再びメリーさんを荷台に乗せ
今朝とは別の軽い傾斜の道を降りていった。
メリーさん、中山 准が通っていた学校へ向かうためだ。
事故現場と学校どっちを先に行くか迷ったが
僕はこっちを選んだ。
T高校は進学校で、バスで僕の学校を降りずに
さらに10分先に行った場所にある。
T高校へ向かう坂の途中、メリーさんが聞いてきた。
「どうして私の通う高校がわかったんですか?
新聞にも詳しく書いてなかったのに」
「…あれ?なんでだろう」
そういえばそうだ。
なんで僕は知っているんだろう
しかもかなりの確信がある。
「制服が一緒だから…って会った時制服着てなかったよね?」
「はい、私服ですけど」
どこで彼女の制服姿を見たのだろうか
疑問は解けぬままT高校の校門の前についた。
「ここが、私の学校…」
ふらふらとメリーさんは校舎の中に入っていったが
僕は校門に残った。やるべき仕事があるからだ。
下校のピークは過ぎたが、まだちらほら校門から出てくる生徒はいる。
紫が3年、赤が2年、青が1年の校章バッチで判断をする
狙うは赤、それも女子。片っ端からメリーさん、中山 准の事を聞く
そう思って校門の前をうろうろしていた。
たまにでてくる女子の胸の校章を見てはタメ息をつく。
6人連続で青の校章が続く。
次こそはと思っていると
後ろから肩を叩かれた。
振り向くとそこにはいかにもガチムチといった首から
笛を下げた体育教師であろう男が立っていた。
「校門に立って女子生徒の胸を見ているというのはおまえか?
ちょっと来てもらおうか。」
僕は、心の中で人生オワタと思った。
僕は職員室であろう場所に連れてこられた。
他の先生はいない、野球部の声だけが聞こえる。
扉を閉めようとしたらメリーさんが、扉を突き抜けてきた。
「ど、どうしたんですかっ!?」
僕は声出すわけには行かないので口パクで大丈夫とだけ行った。
そこに座れと促されたので素直にそこに座る。
「ふぅ、女子生徒から苦情が来てな
校門の前に変態がいるとの事だ。胸を見ていたんだな?」
「そ、そうなんですか!?」
「違う!」
メリーさんまで僕を疑うのか
味方もいない四面楚歌。
「じゃあ、なんでだ」
下手に隠すよりそのまま話した方がいいと判断した僕は
経緯と中山 准の住所を知りたい事を話した。
体育教師はふぅ~と長いため息をついた
「…おまえと中山の関係は?」
「ずっと前から好きだったんです!」
間髪入れずにそう答えた。
後ろでメリーさんがいろいろ言ってるが
この際無視する事にする。
体育教師が頭を掻いてから言った
「俺はなぁ、中山の担任だと言うか担任だった。
住所を教えてやる。線香でもあげさせてもらえ」
そう言うと机から生徒名簿を取り出し
小さなメモ用紙に住所を書き移してくれた。
メモを見て驚いたのは意外と字が丸っこくて可愛い事と
さらに驚いた事が僕の家の割と近くだった。
体育教師にお礼を告げ誰もいなくなった校門へと向かう。
その際メリーさんの顔が赤く様子がどこかおかしかったが
特に気にしなかった。
これで住所がわかった。
辺りは暗くなりはじめた頃だったが
自転車なら間にあう気がする。
メリーさんに自転車の後ろに乗るように促して
自転車を漕ぐ。
メリーさんは黙ったままだった。
僕は彼女の家に行っていいのかと迷った。
もしかしたらつらい思いをするかもしれない
「メリーさん…君の家行って見る?」
「…行きます」
それ以外僕もメリーさんも何もも言わなかった。
星が見え始めた夜空を眺めながら
僕は自転車を漕ぎ続ける。
30分ほど自転車を漕ぎ続けると
辺りはすっかり真っ暗だった。
自転車の明かりを頼りに進み続ける
いつのまにかメリーさんの手が僕の制服の
掴んでいたが。僕は無言で走り続けた。
やがて僕の家が見えてきた。
明かりがついているので親が帰って来ているのだろう。
だが、僕は自分の家の前をスルーした。
メリーさんの家は僕の家のすこし先
5分と言ったところだろうか。
民家が立ち並んでいる場所で自転車を降りた。
メリーさんと共に中山の表札を探す。
お世辞にも大きいとは言えないが
アットホームな家の玄関に掲げられた中山の文字。
「ここだ…」
メリーさんはずっと僕の背中の裾を掴んでいる。
押すよと、一言いい。僕は呼び鈴のボタンを押した。
インターフォンが無く
呼び鈴だけのシンプルな物だったので
僕とメリーさんはドアが開くのを待った。
やがてガチャリとドアが開く。
鍵は掛けていなかったらしい。
地方の片田舎の家じゃめずらしくもない。
中から出てきたのは中年のおばさん
おばさんというわりには若々しく美人だと思ったが
すこしやつれているようにも見える。
「どちらさまで?」
声が少し枯れているようにも思える。
「准さんの友達です…すみませんが
お線香をあげさせてもらえないでしょうか」
「准の…ありがとうございます、さぁ上がって」
僕は中へと案内され、今の片隅に作られた
真新しい仏壇の前に座った。
メリーさんは何も言わず付いて来たが。
裾を掴む力が強くなっていた。
遺影にはメリーさんではなく中山 准が笑っていた。
僕は線香を3本取り火をつけ香炉に立てて手を合わした。
後ろからおばさんのすすり泣く声が聞こえた。
振り向くとメリーさんがおばさんをずっと見ている。
「おかあ…さん」
メリーさんが消え入りそうな声でそう言った。
「おかあさん!」
と、おばさんに飛びついたが触れる事はできず
宙をかくように手を交差させる。
僕はその光景をただ見ている事しかできない。
心が痛む光景だった。唯一できそうな事を僕はした
泣いているメリーさんの頭を撫でてやる。
おばさんから見たら空中で手を動かしているようにしか
見えないんだろうが、気にせず撫でてあげる。
しばらくの間2人は泣き続けた。
「今日はここに泊まります」
泣き止んだメリーさんはそう言って続けた
せっかく少し記憶も戻りましたしおかあさんと一緒に居たいですしと
僕はわかったと一言言って中山家を後にする
今晩だけはメリーでは無く中山 准として過ごせればいいなと
満天の星空を眺めながらそう思った。
さて、帰ろうか母親の待つ家へ。
翌朝はメリーさんの着信で起きた。
まだ完全に目が覚めていない状態で
気の抜けた声で電話に出る。
「…もしもし」
「あっメリーですが、朝早くごめんなさい。
その今日は私、自分の学校へ行ってきます。」
昨日よりもメリーさんの言動がはきはきとしているのは
記憶が少し戻ったからだろうか。
僕も少しうれしくなる。
「ああ、いっといで。それじゃあ放課後にまた」
「はい!いってきます!」
そう言って電話は切れた。
メリーさんと登校できないのは少し寂しい気もするが
少しずつだがメリーさんの
中山 准としての記憶が戻りはじめていることはいい事だ
僕はベットから降り、鼻歌交じりで洗面所へと向かった。
顔を洗い。朝食をとり。学校へ行く準備をする。
いつもの事だがメリーさんと出会ってから
そのいつも通りが大切なのかもしれないと思うようになり始めた。
そして僕はいつも通り家を出る。
バス亭で5分ほど待ってからバスに乗り、
一人で5人分の席を独占する奴へ声をかけた。
「おはよう」
「やぁおはよう。いつも通りだな。」
「それがいいんだよ」
「?」
浩平はなんの事かわからず訝しげな表情をしたが
すぐに考える事をやめたらしい。
いつもの顔に戻り、昨日有ったニュースなど
浩平らしい世間話を話し始めた。
浩平がニュースの内容をとその感想を一方的に
話すだけだなのだが、退屈はしない。
僕は普段テレビはあまり見ないのだが
情報通の浩平のおかげで時事にはわりとついて行ける。
ニュースを通り越して世界の車窓からに話が移ろうとしたとき。
僕たちが降りるべきバス亭へと止まった。
もう着いてしまったのかと残念がる浩平と共に
他の生徒に混じりバスを降りる。
いつもは自転車なのだが、昨日は自転車で家まで
帰ってしまったので今日は歩きになる。
その事を浩平に話すとうれしそうな顔をし
さっきの続きだとバスの中で話せなかった
世界の車窓からの話を語りだした。
まぁこんな日もいいだろうと学校までの通学路を歩き始めた。
昨日の放送はボリビアらしく
アンデス山脈の素晴らしさについて熱く語っていたが
軽く流す。ボーっとしながら歩いていると
いつもの通学路のはずなのに自転車に乗っている時と
ずいぶん違う道に見えるなとそんな事を思っていた。
前方に見慣れた後姿を見つけた。
浩平がアンデスを語るのを一旦やめ
おはようございますと
僕らの担任に頭を下げる。
こういうマメな所が優等生として先生達に信頼されるんだろう。
先生はああ。とだけ言った。
僕は軽く会釈だけをし、2人で先生を追い抜いた。
辺りを見回すと他にも何人か先生や見たことの無い生徒など
普段は会えない人たちがいた。
自転車を家に置いていかなかったら会えなかったでだろう。
これもメリーさんのおかげなのかなと
心の中でそっと感謝した。
浩平の話は教室まで続く。
いつもは教室に着いてからSHRまで時間があるのだが
時計を見るとギリギリだった。
教室に担任が入ってきてやっと浩平の話は終わった。
悪いが明日からはまた自転車を使用する事にさせてもらおう。
担任の持ち味の短いSHRがいつものように終る。
1時間目はまた英語。
引き続き担任が授業の準備を始めと、
浩平は嫌いな授業の前に一服するといい
教室棟3階トイレへ向かった。
僕もトイレへ行っておきたかったが昨日の今日なので
一階したのトイレを使用させてもらおう。
悪いな浩平。
友達を売った気持ちになった。
あっという間に昼休みになった。
それはそうだろう、ほとんど寝ていたのだから。
2時間目の途中からほぼ記憶が無い。
こんな事で次のテストは大丈夫なのだろうか
その時は頼むぞ浩平。
一区切りついた所で昼食にする
いつもならあいつと一緒だが
図書当番の期間は一週間。
しばらくは一緒に食えそうに無い。
どっちにしろ僕はパン一個なのですぐに
終わってしまうのだけれど。
他のグループの所へ行くことも考えたが
あきらかに出遅れていたので今から入れてもらうのも
気が引ける。しかたなく一人寂しく食べることにした。
ああ、メリーさんは今頃どうしているだろう。
メリーさんに思いを馳せる事5分。
手元のカレーパンもなくなってしまった。
昼休みもメリーさんの滞在期間も限られているのだ。
少しは何か行動しようと立ち上がる。
図書館に行く事を最初に考えたが
おそらくあれ以上の発見は望めないだろう。
そう思った僕はもう一つの考えた場所へ行くことにした。
あまり気は進まないが早めに清掃場所に
行くのもいいだろう。
と、僕は歩き始めた。
戦場へ。
扉の前に立ち、一度深呼吸をしてから扉を開く。
バケツを逆さにし、足を組みながら案の定
タバコをふかしている自称20の小学生。
開けられた窓の外に煙が逃げていく。
花子さんは僕に気づくとこう言った。
「よう、○○」
一瞬ひるんだが、落ち着いて切り返す。
「自分だって小さいだろ小学生」
ここに第三者がいたらどう思うだろうか。
とりあえず満場一致で僕の方が負けだと言うだろう。
「今日はメリーはどうした」
「登校日だよ」
あえて遠まわしな言い方をしたが
花子さんはそうかとだけ言った。
なかなか頭の回転が速いらしい。
侮れない。
「どうなんだ?調子は」
「そこそこ」
僕は昨日の放課後からの出来事を花子さんに話した。
まぁ途中恥ずかしい所は端折ったのだが。
あらかた話し終わると
花子さんはなるほどねぇといい
ポケットから携帯灰皿を取り出し
小さくなったタバコを収めた。
マナーができている。ちょっと意外。
「ところで、そのタバコは
どこから補充されてるんだ」
「ちゃんと買ってるぞ、滞在期間1日で
1カートン」
「はい…?」
衝撃の事実を聞いてしまった。
あんなにメリーさんが苦労してやりくりしている
滞在期間をこのちびっ子はタバコに使っていやがったのか。
「去年までは時間単位だったんだが
今年から時上げされちまってな」
花子さんは、まったくいい迷惑だとため息をついていた。
僕はどうも死んでからの仕組みを理解し切れていない
幸い昼休みはまだ残っているし、なんなら清掃の時間もある。
僕は花子さんにもう少し詳しい話を聞くことにした。
滞在期間は幽霊同士の間では
通貨のような役割をしている。
頼み事はもちろんの事、服から娯楽用品まで
大抵の物は手に入るらしい。
どこから運ばれてくるかを聞いたが
死ねばわかるよと含み笑いをして結局教えてくれなかった。
「タバコを吸ってるとき僕は花子さんが見えるから
特に違和感はないんだけど普通の人から見れば
タバコが宙に浮いているように見えるのか?」
「いや、これがうまい事できててな
私とタバコはセットのようなもんだ」
それから花子さんは仕組みの解説を続けた。
「私達の姿は2つの方法でしか見えない。
一つは自分自信が脅かそうと思った相手にしか見えない。
二つ目は残り人同士の紹介だ。私の事が見える奴が
そこにいると言わなければ認識する事はできない」
よくわからないが、会員制のようなものだろうか
漠然とだがなんとなくはわかった。
その後もこんな約束事と言うか法則のようなものを聞いた。
担当地区より外へ出ることは可能だが
遠くに行くにつれ多くの滞在期間が失われるので
ほとんどの奴は担当区の外へ出たがらない事。
そして原則として生き物には触れない事。
「なんでメリーさんは俺に触れられるんだ?」
「おまえを脅かすターゲットに指定してるからだ」
単発式は一度に一人まで指定できるとの事。
いろいろ細かいんだなと思ったが
そうでもしないと世の中がおかしくなってしまうのだろう。
閻魔さまが決めたのだろうか。
「こんなところか」
花子さんは再びポケットからタバコを取り出し口に咥えた。
紫煙をふかす花子さんに気になっていた事を
聞いて見ることにした。
「花子さんは何でこっちに残ったの?」
僕を見る花子さんの目が鋭くなる。
「私らの中には生きてる奴を妬ましく思ってる奴も
大勢いる。迂闊にそんな事聞くもんじゃない」
そうだった。メリーさんの時もこれで軽く失敗したじゃないか
またやってしまったと。学習能力の無い自分に腹が立つ
「すみませんでした。」
僕は深々と頭を下げて素直に謝った。
しばらくして顔を上げ、花子さんの顔を窺うと
面を食らったような顔をしていた。
もしかして変な事をしてしまったのかと不安になる。
花子さんの目つきか元に戻る
それでも睨んでいるようにしか見えないのは
元からだろう。
「まぁいいか…。私が残ってる理由か
そんな昔の事は忘れた。何しろ20年は前の事だしな
まぁ忘れる位だからそんな大した事じゃないんだろ」
まだタバコが吸い足りないのかなと、自嘲気に笑う。
20年って。そんなに長い間こんな場所に…
「確かバイク事故だったかな…
ガードレールに突っ込んだ気がする」
「ああ、足が届かないからか」
「うっせ、死ねっ!」
重い空気になりかけていたので
なんとなくおちゃらけてみたが
花子さんには気づかれてしまった。
「可哀想とか思うなよ。私はこの生活のままでいいんだ
おまえはあいつの事だけ考えろ」
大きなお世話だと、心を見透かされたように言われた。
確かに少し心揺らいだが、今はメリーさんの事だけを
考える事にした。
掃除終了のチャイムが鳴る。
気がつかなかったが結構な間話し込んでいたようだ。
それじゃあと言い、教室に戻る。
花子さんに色々とありがとうと言いたかったが
面と向かって言うのは癪なので
帰り際、ドアを閉めるときに言ってやった。
花子さんの顔は見なかったが今思うとどんな顔を
していたか興味があったがもう遅い。
さて、色々と情報は得た。
今度差し入れでも持ってくることにしよう。
そう心に決め、僕はトイレを後にした。
5時間目の物理は真面目に受けた
途中、睡魔の強襲があったが何とか勝つことができた。
6時間目は体育。
今の時期は女子はバドミントン。
男子は柔道といった男女平等もへったくれもない。
完全なる別の種目をやっている。
僕も願わくばバドミントンをやりたいのだが…。
そんな願いが叶うはずもなく、あきらめて柔道着に着替える。
挌技室へと移動し、準備体操を始めた。
全員の準備が整った所で
二人組みを作って、今日の練習科目
大外刈りのを始める。
いつも通り浩平と組み、互いに足をかけては
受身を取りを繰り返した。
辺りからもバタン、バタンと人が畳に叩きつけられる音が響く。
授業が終盤に差し掛かった頃、体育教師が笛を吹いた。
あれが始まるのだろう、恒例の公開処刑が。
授業の内容によって変わるが剣道の授業なら剣道部員が
もちろん柔道なら柔道部員が成績の低い者と戦い。
勝てば評定が上がるといった一発逆転制度が設けられている。
体育教師の粋な計らいだが、挑戦者が勝つ事は極々稀で
ほとんどが返り討ちにされる事から通称、公開処刑と呼ばれている。
体育教師が僕の名前を呼ぶ。今回もまたその制度にめでたく選ばれた。
すっかりこの制度の常連となった僕は特に気にすることなく
いつも通り負けに行った。
痛くなけりゃいいけど。
対戦相手はクラス一の巨漢、
柔道部のレギュラーと聞いた。
正方形の真ん中で互いに向き合い
開始の合図を待つ。他のクラスの奴らはすっかり
観客モードだ、公開処刑を楽しんでいる。
「はじめ!」っと体育教師の気合の入った合図で試合が始まった。
相手の手に届く範囲に入ったらすぐさま投げられるだろう。
適当に間を空けていたがすぐに間合いを詰められ胸倉を掴まれる。
いきなり背負い投げでせめてきやがった。
だが、僕があまりにも力を入れていなかったせいか相手も
バランスを崩し僕は、不完全なまま畳へ叩きつけられた。
受身も中途半端だったので正直痛い。
「有効!」
むしろ一本の方がよかった。
このまま寝技が来れば僕は負けていたのに
柔道部員はそうしなかった。寝技ではなく派手に決めたいのだろう。
観戦モードの奴らがちゃかしてくる。人の気も知らないでと
睨もうとした時、挌技室の隅にちょこんと正座する人影を見つけた。
「メリーさん…?」
なんてこった。こんな無様な所を見られるとは親父に知れたら殺されそうだ。
幸い今のは有効、試合は続く。女の子が見ているのなら話は別だ。
勝ちに行く。
再び向かい合い、合図と共に試合が再開された。
試合に集中する。
勝つ術はある、僕が素人である事が大きなポイントだ。
相手は素人である僕に油断している
そして恐らく大技で一本を取ろうとするだろう。
背負い投げか一本背負い辺りだろうか、
技が予測できれば動きも大体検討がつく。
そこが狙い目だ。これはタイミングが命
賭けだったったがその2つに絞ることにした。
再び柔道着に手の届く範囲に間合いを詰められた。
向こうからしかけてきた。僕の胸倉目掛けて手が伸びてくる。
僕は横に避け紙一重でその手を交わた。
柔道部員には予想外の出来事だっただろう
この身長差を最大限に生かし相手の懐に入り胸倉を掴む。
相手の重心が前に崩れているのがわかる。
僕はそのまま背負い投げをしかけた。
相手の体が宙に浮く。取ったと思った。
だがしかし、僕は相手の重さに耐えられず
そのままバランスを崩す。
なんとか柔道部員を畳までもっていった。
「技あり!」
判定は厳しかった。
おそらく相手が常人だったのなら一本取れていただろう
少しは痩せろと心の中で理不尽な事を言う。
うぉおおおおお!と一気にギャラリーが騒がしくなった。
だがこれで僕が勝つ事はさらに難しくなってしまった。
さっきまで余裕の笑みを浮かべていた柔道部員の顔がマジだったからだ。
柔道部レギュラーの面子をかけて素人の僕に
負けるわけにはいかないからだろう。
ギャラリーは盛り上がっている。もちろん僕も。
そして、実質の勝負が決まるであろう試合が再開された。
さっきの作戦はもう使えない。
すっかり警戒されてしまい、腰を低く落として
僕の出方を待っている。
さて、どうしたものか。時間稼ぎに近づいたり
離れたりを繰り返す。
足を狙って朽木倒しかそれとも…と、勝つための作戦を練る。
これもメリーさんにいい所を見せるため。
と、メリーさんの方を見る。
相変わらず、隅っこで正座をしている。
だが、どうにも様子がおかしい。
顔は下を向き、定期的に船を漕いでいる。
つまり早い話が。
「寝てるし」
おいおい、そりゃないよと、全身の力が一気に抜ける。
そこを見逃す柔道部員ではなく。
僕がやばいと思った瞬間にはもう遅く、視界が反転していた。
そのまま畳に叩きつけられる。
「一本!」と体育教師の声が響いた。
あ~やっぱりなとギャラリーが教室に帰るために立ち上がる。
畳から起き上がれない僕は心身共に疲れ果てていた。
みんなが挌技室から出て行く中
仰向けで倒れている僕に体育教師が近づいていた。
「まぁ、負けたがなかなかいい攻めだったな
少し評定上げてやる」
ありがとうございます、と息切れ切れに言った。
浩平が行かないのか?と聞いてきたが
もう少し休んでから行くと伝え僕は目を閉じた。
そして、誰もいなくなったのを確認し、
静かになった挌技室に聞こえる
寝息を立てている娘の元へ向かう。
「お~いメリーさん?」
反応は無く規則的に寝息を立て続ける。
肩に手を置き揺さぶって見たがやはり反応なし。
昨日もそうだったがどうもこの娘は一度寝たら
なかなか起きないらしい。
もっと激しく起こそうかとほっぺに手を伸ばしかけたが
やはりやめておく。
気持ちよさそうに寝ているので起こしたら可哀想かなと思ってしまった。
どうにも僕はメリーさんに甘い気する。
しかたがなくメリーさんが自然に起き出すまで待つことした。
時間が無いのはわかっている。
だが僕はもう少しこののんびりとした時間を味わいたかったのだ。
ふと気がつくと僕は眠ってしまっていたようだ。
メリーさんが起きるのを待っていたのに
僕まで寝てしまっていたとは。不覚。
壁に掛けられた時計を見ると15分ほどが過ぎていた。
そうだ、肝心のメリーさんはと先ほどの場所を見た。
同じ場所で正座をしていたのだが
メリーさんと目が合う。
するとメリーさんは笑顔でこう言った。
「寝坊ですか?」
クスクスと笑っている。
メリーさんの方が先に起きたらしい。
その言葉に色々と突っ込みたかったが
その笑顔を見ていたらどうでもよくなった。
そろそろ部活動が一斉に始まる頃だろう
柔道部員が来る前に退散しなければ。
そういえば何でメリーさんは
僕を起こしてくれなかったのだろうか。
疑問に思いつつ挌技室を後にした。
メリーさんに校門で先に待っててといい
僕は教室へと戻る。
さすがに着替えの時に一緒にいられると
色々と困るし。
教室のドアを開けたがすでに誰もいなかった。
授業が終われば早々と部活に向かう連中だ
まぁ当たり前か。
僕は着替えを済ませ、汗缶スプレーを使い
身だしなみを整える。
そして、メリーさんが待っている校門へと急いだ。
外履きに履き替え校門を目指す。
メリーさんは門の所に寄りかかって
下校する生徒達を眺めていた。
ボーっとしていたメリーさんに声をかける。
後ろから声をかけたのがまずかったのか
あっはい!と軽く跳び上がっていた。
別に驚かすつもりはなかったんだけど。
自転車は家に置いてきたので
今日は歩きで行くことになる。
中山 准の事故現場へと。
事故現場へと向かう途中。
学校はどうだったかメリーさんに聞いて見た。
学校へ行った事で昔の記憶はほとんど戻ったそうだ。
友達やクラスメイトはいつも通り生活しており
相変わらず担任が黒板に書く字は可愛かったなど
嬉しそうに話していた。
自分の席が無かった事は正直悲しかったが
忘れているよりかはマシだと笑っていた。
そんなメリーさんの話に
僕は相槌しかうてなかった。
それでも話続けるメリーさんは強い子だと思う。
だが事故現場へ近づくに連れメリーさんの口数が
少なくなっていった。
僕の家の前に来る頃には、二人とも黙り込んでいた。
そしてまたメリーさんの右手は僕の背中の裾に伸びていた。
事故現場の交差点は僕とメリーさんの家のちょうど中心辺り
僕の家から歩きで5分ほどいった場所だった。
昨日は余計混乱させる事を避け、別の道を使い
メリーさんの家まで行ったが
普段ならこの道を使った方が早い。
僕らは今度は逃げず、
真っ直ぐ交差点へと向かった。
交差点が見えてくる。
交差点と言ってもそんなに交通量は多くない。
右側を流れている川を挟んで橋がかかっており
僕達の歩く道が交わっている。
交差点の信号付近に立っている電信柱の下に
お供え用の花束を見つけた。
メリーさんの両親が用意したものだろう。
花はどれも水々しく、いきいきと咲いている。
マメに交換されている証拠だろう。
中山 准が両親に愛されていた事が窺えた。
一瞬手を合わそうかと思ったが
本人がいるので僕はしなかった。
そして僕達は着いた。
中山 准がメリーさんへとなった場所に。
メリーさんの顔を見たが顔面蒼白と言えばいいのか
とにかく顔色が悪かった。
すぐにここを離れてあげたかったが
それでは何も進まない。
「メリーさん、辛いだろうけど
手がかりはここだけなんだ
些細な事でもいい、思い出せる事はある?」
できる限りのやさしい声で言う。
「…は、はい」
と僕の背中の裾から手を離し、僕より1歩先へ出た。
背中が震えているのがわかる。
しばらくして、メリーさんは口を開いた。
「…雨の日でした。
私はここに立って信号が青になるのを待ってから
歩き出して…」
実際にメリーさんは歩道の真ん中へと
歩いていった。
そしてゆっくりとメリーさんは続ける
「そしたら…左側から白い、たぶんスポーツカー…
突っ込んで来て…それで…
気がついたら私は倒れてました…」
メリーさんの息遣いが荒くなってきた。
「動けませんでした、でも痛くはなかったです…
ただ…地面が冷たいだけ。見るもの全部が真っ赤でした。
止まっていた車の向こう側から人が降りてきて…
顔は見えなかったけど下から革靴が見えました…
そして、私の方へ近づいてきて…それでっ!!」
メリーさんが崩れるようにしゃがみ込む。
「メリーさん!?」
僕はメリーさんの元へと駆け寄った。
「私は投げ飛ばされたんじゃない…
私を…私をっ!土手の下の川原に!」
メリーさんの目から涙が溢れだす。
僕は、もう大丈夫、大丈夫だからと
手を強く握ってあげた。
とりあえず、歩道の真ん中は危険なので
メリーさんをおぶさり、この場から離れる事にした。
背中で泣き続けるメリーさん。ほとんど重みは無かった。
メリーさんをこんな事にした奴は車で跳ねただけではなく。
土手の下へと突き落とした。絶対に許さない。
メリーさんから獲た情報を整理する
白いスポーツカー。革靴。
これだけじゃほとんど手がかりにはならない。
続けて僕は頭の中で事故を再現してみる。
雨の日、左から白の車。
と、おかしな事に気づいた。
心を落ち着かせて集中する。
話からして、メリーさんは
白い車から見て右側に跳ね飛ばされた。
そうするとおかしな事が起こる。
メリーさんは
「車の向こう側から人が降りてきて、下から革靴が見た」
と言っている。
想像すればわかるだろうが。
運転席は普通は右側。
車の向こう側から降りるのは考えられない。
となると考えられるのは運転席は左側。
つまり外車である可能性が高い。
白い外車のスポーツカーなんてこんな片田舎で
乗っている奴は数えるほどしかいない。
犯人へと繋がる大きな手がかりを見つけた。
待ってろクソ野郎。
とりえず今はメリーさんを落ち着ける事が最優先だ。
僕はメリーさんを背中に、来た道を戻る。
そして僕の家へと連れ帰った。
親はまだ帰ってきていないようだ
玄関の植木鉢の下から鍵を取りドアを開ける。
そのまま2階の僕の部屋へと運び、
メリーさんを僕のベットに寝かせた。
僕の枕を抱え込み震えるメリーさんの
頭を撫でてる。
前の時もそうだったがメリーさんの髪は
とても艶やかで細く、絹のような手触りだった。
疲れたのか、やがてメリーさんは眠ってしまった。
タオルケットを取り出しメリーさんにかけてやる。
不謹慎にも僕のベットで女の子が寝るといった
シチュエーションにドキドキしていたが。
頬を叩いて雑念を払う。
床へ座り、机に向かい合いこれからの事を考える。
大きな手がかりは見つけたが、どう探せばいいのか
わからなかった。
あの交差点は基本的に地元民しか使わないので
県外から来たようではないと思うが。
事故車が平然と街中を走っているわけがない。
隠すか、修理するかするだろう。
僕にパソコンをいじれる技術などがあれば
もしかしたら調べられたかもしれないが
僕はパソコンも何も持っていない。
特にこれと言って秀でるものが無い僕が
思いついたのはこれしかなかった。
さっそく僕は準備にとりかかった。
メリーさんが目を覚ました。
どうしてこんな所で寝ているんだろう
あれからどれだけの時間が過ぎたんだろうか。
どうにも記憶が混乱する。
と、机に向かい一心不乱に作業する背中。
僕に声をかけた。
「何…してるんですか?」
「おはよう、ちょっとね
古典的だけどこれしか思いつかなくて。」
僕は作りかけだがメリーさんにそれを見せる。
4月26日、O市西区交差点付近で発生した
ひき逃げ死亡事故への情報を求めています。
目撃された車の特徴は。
白いスポーツカー
外車
である事がわかっています。
心辺りや見た事があるといった方が入れば
下記の電話番号まで情報提供をお願いします。
××××-××-××××
と、書かれたA5の紙
中心には目立つように交差点の絵。
僕が悩んだ末に思いついたのはそれは貼り紙を
作る事だった。
「私のために…
で、でも本当にこれで情報を得られるんですか?。」
確かにそうだう。と、言うかこれで
電話がかかって来ればラッキーと言った感じだ。
本当の狙いは犯人にカマをかける事。
本当に白のスポーツカーの外車だったのなら
これほど犯人にとってのプレッシャーは無いだろう。
焦らせて、尻尾を見せるのを待つ。
しかしこれも賭けといった感じだ。
白の外車じゃなければ逆に犯人にまだ捕まらないと言う
自信を持たせてしまうかもしれない。
下手をすれば捜査妨害で警察の厄介になるかもしれない。
リスクは大きいが、僕1人ができる事と言えば
これくらいしかなかった。
出来上がった貼り紙をコピーするために
1階へと降りる。
母親の書斎にあるコピー機を使わせてもらうためだ。
出版社に勤めている母は多忙な人で
たまに僕にも手伝えと仕事をまかされる時がある。
機械オンチな僕だけどコピーのしかただけはマスターしている。
とりあえず200枚に設定しカシャンカシャンと出てくる
重大な使命を背負った貼り紙をしばし見つめていた。
印刷が終わり、刷り上った貼り紙を持つと
ズシリと重かった。
2階へと戻るとメリーさんは体育座りで
物思いにふけっていた。
とりあえず机を挟み正面に座る。
どうしたのだろうかと考えていると
メリーさんが体育座りのまま伏せ見がちで
聞いてきた。
「あの…私がベットで寝ているときに
なんていうか…何かしました?」
少しメリーさんの顔が赤い。
つられて僕まで赤くなる。
「な、何もしてないよ?本当に」
「そうですか…」
と、何故か期待を裏切られた子供のような
反応を見せるメリーさん。
え、何この反応。何かしなきゃいけなかったのか?
たまにメリーさんがおかしくなる事はあるが今回は重症だった。
気まずい空気が流れる。
もしかして、何かしてもよかったのだろうか。
衝動的にタイムマシンがほしくなった。
二人とも会話の無いまま時間だけが過ぎていく。
カチコチと時計の針がうるさい。
と、いいのか悪いのかガチャリと玄関のドアが
開く音にした。
いろいろやっているうちに
親が帰ってくる時間になっていた。
「あ、お母さん帰って来たんですね
きょ、今日はこの変でおいとまさせていただきます」
「そ、そうだね、それじゃまた明日」
そそくさとメリーさんが窓から出て行く。
ふぅ…とタメ息をついた。
明日は恐らく貼り紙を街中に貼るだけで
1日を使いきってしまうだろう。
いや、自分で刷っておいてなんだが
200枚と言う数を全部貼りきる自信はない。
だが、これしかないのだ。
明日は忙しくなりそうだ。
夕食をとり、風呂に入りと
日々の日課をこなす。
明日に備え早めに寝ることにした。
ベットに入るとこのベットでメリーさんが
寝ていたことを思い出した。
心なしかいい香りがしてドキドキした。
そしてゆっくりと僕は眠りに落ちていった。
期限は残り11日。
いつも通り目が覚める。
顔を洗い用意された朝食を食べ制服に着替える。
今日は、自転車で登校するので早めに家を出る事にした。
朝から日差しが強く、夏が近い事を感じさせる。
と、背中に妙な違和感を感じた。
シャンプーをしているときに後ろが気になるような。
振り向くとやはりメリーさんが乗っていた。
「ばぁ!」
と、メリーさんは
ジャスチャーつきで驚かせてくる。
「おはよう」
「あっおはようございます…」
同じ事は2度は通用しない。
メリーさんは学校につくまでいじけていた。
僕だってこれ以上かっこ悪いところを
見せるわけにはいかないのだ。
駐輪所に自転車を止め
カゴからいつもより重いバックを持ち教室へと向かった。
教室の前でメリーさんと別れる
また花子さんの所へ行って来るらしい。
また、後でと言ってメリーさんは行ってしまった。
教室に入るとめずらしく浩平が先に席についていた
「おはよう」
「やぁ、おはよう今日はバスではなかったのだな」
まぁね、といって席へ着く。
「…ん?おまえ忙しそうだな
顔に疲れが見える」
さすが長く一緒だったせいか
浩平にはわかってしまうようだ。
「ちょっと厄介事がね」
幽霊と一緒にひき逃げ犯を探してるなんて言えない。
言った所で信じてはもらえないだろう。
「ふむ…厄介事か
俺に手伝える事はあるか?お前には色々と借りがある。
あるのなら力になるぞ」
借りとは浩平が好きな女の子との
仲介人に僕がなっただけなのだが二人が
見事付き合うようになってからは、何かと
借りを返すと言って色々と手伝ってくれるようになった。
義理堅い奴なのだ、こいつは
僕は迷ったが協力者は欲しかった。
浩平なら信頼できると信じ、事情を話す事にした。
「ほう…惚れた女が
ひき逃げされたとは…難儀だな
それで俺は何をすればいい」
僕はバックから昨日刷った200枚の内の半分を
浩平へと手渡した。
「これを街中に欲しいんだ」
「心得た、お安い御用だこんな事」
浩平は快く引き受けてくれた。
100枚なら今日中になんとか終りそうだ。
やはり話してよかった。
ありがとう、そう言った時教室に担任が入って来た。
僕は担任が好きじゃないが
短いSHRは大好きだ。
いつものように早く終わった。
トイレに行こうかと思ったが
おそらく今は花子さんとメリーさんの談笑中だろう。
そんな中で事済ます勇気は僕には無い。
そんな事を考えていると浩平が
ちょっと厠にと言って席を立った。
ああ、ごめんよ浩平
花子さんだけでなく、メリーさんにまで…
何も言えない僕は薄情者なんだろうか。
退屈な時間を4時間こなし
やっと昼休みとなった。
メリーさんの姿は見えない。
まだ花子さんと話しているのだろうか。
とりえず昼飯を片付けようとカレーパンを齧る。
やばい、本当に最近メリーさんの事しか
考えてないな。
食べ終わると、ガムを一つ噛んで匂い消し。
僕はトイレへと向かった。
トイレへと入るといつもの
バケツの上と言う指定席で
タバコを吸っている花子さん。
「メリーならいないぞ」
心を読まれたのか、いつもの含み笑いで
僕が聞く前にそう言った。
そこまで僕は単純なんだろうか。
ちょっと悔しい。
「おまえ、メリーの事好きだろ」
にやにやといじめっ子のような顔で聞いてくる。
「な!?」
思わぬ攻撃にひるむ僕。
メリーさんは確かに可愛いし
性格だって悪くない。
僕はメリーさんの事好きなんだろうか。
「…好きかどうかはわからないけど
メリーさんは大切だよ」
そう、だから犯人を見つけ出し。
メリーさんの果たせなかった事を
果たしてあげなければならない。
そう考えた時、当たり前の事に気がついた。
すべてが終わった時、メリーさんはいなくなる。
忘れていたわけじゃないが、あらためて考えると
僕はとても胸が苦しくなった。
最初はにやにやしていた花子さんも
僕の真剣な顔を見て
いつものしかめっ面へと戻った。
やれやれ、青臭いと花子さんはいい。
携帯灰皿へとタバコを収めた。
この場にいても花子さんにいじられるだけだ。
メリーさんを探しにいこうかと思ったが。
なんだか自分がストーカー染みている気がしたので
やめておく事にした。
僕は中途半端時間の昼休みを
図書館で過ごすことにした。
図書館のドアは開いているので開館なのだろう。
中へ入り、浩平に声をかけようとしたが
何やら本を読んでいたので邪魔しちゃ悪いと
声はかけなかった。
僕も、読書でもしてみようかと
文庫本のコーナーへと足を運ぶ。
気になったタイトルを取り出し、あらすじを読んでは
戻すと言った事を繰り返すうちに
一つの本に出会った。
内容は幼馴染の女の子が幽霊が
見えるようになってしまい、少しずつ
日常から外れて行ってしまうっと言った
内容だった。
幽霊、と言う単語に反応した僕は、
席についてその本を読み始めた。
なかなか面白く、時間を忘れ読みふけっていた。
清掃開始の時間が迫ったので
思い切って借りる事にした。
借りる時に浩平がお前が本を借りるとは云々言っていたが
軽く流す。
借りた本を教室へ置き、清掃場所へと向かった。
トイレへ入ると、花子さんとメリーさんが
談笑していた。
メリーさんがこちらを向き会釈する。
一方、花子さんはまた来やがったのかと
不機嫌そうな目で僕を見る。
僕が近づくと、待て、と花子さんが僕を静止した。
「おまえ、ここの当番になってから掃除してないだろ
私の職場なんだ、ちったあ綺麗にしろ」
なんとなく腹が立つがが言ってる事は正しい
それが僕の役割なのだ。
僕はデッキブラシで床を擦る。
メリーさんと花子さんはまた談笑をはじめた。
僕はすっかり蚊帳の外。
ちょっと寂しかった。
結局、掃除終了まで一言もしゃべらず、
掃除を黙々とこなした。
これも花子さんの策略なのだろうか。
メリーさんにまた放課後にと告げ
トイレを出る。
後、2時間がんばろう
そうは決めたものの、いざ授業が始まると
暇で暇でしかたがなかった。
そういえば、と図書室で借りた本を読む事にした。
この主人公は日常から外れていく幼馴染をどう助けるのだろうか
それなりにわくわくしながら
6時間目終了までずっと読みふけっていた。
授業が終わり、チャイムが鳴る。
みんなが帰り支度をするなか
浩平に声をかけた。
「それじゃあ僕は西区に
浩平は東区で頼む。徒歩で大丈夫か?」
「まかされた、いざとなれば
家の者に手伝わそう」
ありがとう、そういい残して僕は先に校門へと
向かった。
駐輪所へ自転車を取りに行くと
メリーさんがすでに荷台へ腰掛けていた。
メリーさんは僕に気がつくと
あ、すみませんと言って
荷台からピョンっと飛び降りた。
別に乗ってていいのにと言いながら
僕は鍵を外す。
校門の所まで自転車を押して行き
そこから自転車にまたがる。
メリーさんに後ろへ乗るように言った。
メリーさんが後ろへ乗ると、存在感はあるのに
やはり重さは感じなかった。
物が持てるのにどうなっているんだろうと思ったが
今更気にしていたら、キリが無いのでスルーした。
そして僕は漕ぎ始める、行き先は西区。
100枚の貼り紙を持って。
「今日中に200枚貼れますかね?」
メリーさんが後ろから聞いてくる。
僕はペダルを漕ぎ続けながら答える。
「僕のクラスに浩平って奴がいてね
半分の100枚を貼ってくれることになったんだよ」
「浩平…さんですか」
そういえば、メリーさんは浩平に会った事がないのか
顔は見てるかもしれないが、
名前と顔は一致しないだろう。
僕は、浩平との思い出話を少し始める事にした。
中学からの友達で、最初はおかしな奴だと思っていたが
いつのまに仲良くなっていた。
なかなか正義感の強い人間で、何かと協力してくる。
浩平がケーキ屋を鎮圧した話をするとメリーさんはクスクスと笑った。
「おもしろい方ですね、それにいい人」
「ああ、いい奴だよ」
そんな話をしているうちに西区へ入っていた。
そろそろ、貼り出そうかと自転車を降りる。
バックから一枚と家から持参した
セロハンテープを取り出す。
まず、町の掲示板に張ることにした。
テープで端の4箇所を止める。
次は電信柱の卑猥な広告の上から被せるように貼った。
この1枚1枚が、犯人への手がかりであり、僕達の希望だった。
貼る事より、貼る場所を探し回る方が時間がかかった。
よかった、200枚なんてとてもじゃないが貼り切れなかっただろう。
60枚を過ぎた時点で、日が傾き始めた。
僕も疲れてきたが、隣でメリーさんが申し訳なさそう
な顔をしていたので。
心配させちゃいけないと平然と振舞っていた。
「どうして、私の為に
そこまでしてくれるんですか…?」
うつむいていたメリーさんは顔を上げそう言った。
余裕の顔をしていたつもりだが、疲れが顔に出ていたのだろうか
僕は手を休めず、貼り続けながら答える。
「わからない」
「わからない?」
気がつけば今もこうしてメリーさんに協力している。
手伝う事が当たり前だと思ってる僕さえいいる。
花子さんの言う通り
メリーさんの事が好きなのだろうか。
本当によくわからないのだ。
「よくわからない…けど、最後まで協力する」
僕は言い切った。
「本当に…おかしな人ですね」
後ろで言うメリーさんの声が震えいるように聞こえた。
そして最後の1枚目を貼り終えた時は
もう、辺りは真っ暗だった。
時計を確認すると8時を回っていた。
自転車に乗り、自宅を目指す。
荷台に乗っているメリーさんは
僕の腰に手を回していた。
二人の間に会話は無かったが
自然と気まずいと言った事は無かった。
沈黙が心地いい。
そんな空気を味わいながら気がつけば家は目の前だった。
僕はメリーさんに送っていこうかと聞いたが。
大丈夫ですと笑顔で返されたので
ここで別れる事にする。
おなじみとなった
それじゃあ、また明日のあいさつを交わし。
それぞれの家へと帰った。
家の中へ入ると、台所のテーブルの上に
ラップされた夕食が用意されていた。
母親はもう寝てしまったのだろう。
どんなに疲れて帰ってきても夕食の用意は
必ずしてくれる母。
僕は心の中で感謝をし、夕食を食べる。
食器を洗い、食器棚へと戻してから
自分の部屋へ向かった。
部屋着に着替えていると携帯が鳴る。
確認すると浩平からのメールだった。
「まかされた100枚、確かに貼ったぞ\(^o^)/」
ちょっと顔文字にイラっと来たが
素直にありがとう、助かった。と返信した。
今日は正直今週で1番疲れた
風呂に入って早めに寝る事にしよう。
貼り紙でなんらかのアクションがあればいいのだが…
そう願い、11日の夜は更けて行った。
残りは10日、時間は無い。
翌朝、起きて台所へ向かうと朝食だけが
用意されており。
母の姿はなかった。
「ああ、今日は木曜日か…」
何年も前から母は木曜日の早朝からでかけ
泊りがけで仕事をする。
金曜の夕方まで帰ってこない。
冷めた朝食を食べ、学校へ行く準備をする。
昨日の後遺症だろうか、肩少し凝っている
コリを感じながら制服に袖を通し、玄関へと向かった。
玄関のドアを開け、鍵を閉めて植木鉢の下へと隠す。
バス亭へ向かう途中、着信があった。
メリーさんからだ。
おそらく、後ろにいるんだろうなと一瞬振り返ろうと
したが、前それでスネられた事があるのを思い出し。
電話に出る事にした。
「もしもし私メリーさんですが。今、あなたの後ろにいます」
相変わらず、おかしなセリフだよなと思いながら振り返ろうとしたが
ちょっと僕の心にイタズラ心が芽生えた。
「おはよう、昨日はよく眠れた?」
「え?あっはい、おかげ様で」
振り返らないと言う、メリーさんの存在意義を全否定するような
行動にでる。
世間話で間を持たせ、僕は決して振り返らない。
僕の後でてくてくと足音が聞こえる。
バス亭に着いた所で、メリーさんの声が涙声になっていた。
「お願いですから、振り向いてください…」
これ以上やったら本当に泣いてしまいそうだったので
僕は観念して振り向いた。
そこには半べそかいているメリーさんがいた。
「いじわる…」
む。しまったやり過ぎた。
メリーさんは本格的にスネ始めた。
僕はどうにかしようとあの手この手を使い。
結局は放課後にクレープを奢る事で和解した。
イタズラはほどほどに。
そんなやりとりをしていると定刻通りにバスが来た。
「今日は乗ってくの?」
メリーさんにそう聞きいた。
「そうしますでも…無賃乗車じゃ…」
と、お金の心配をしていた。
どこまでも律儀な子だった。
まぁ、それがメリーさんのいい所なのだが。
バスへ乗り込むと、いつものように一番後ろの席へ。
案の定、一人で5人分の席を占領する浩平の下へ
「おはよう、昨日はありがとな」
「やぁ、いいって事よ。お前の頼みだ
いつでも手を貸そう」
そうさわやかに言いのける浩平。
「あの…この方が浩平さん?」
メリーさんが耳元で話しかける。
当たる息がくすぐったい。
僕以外に声は聞こえないのだからヒソヒソ話の意味はないのだが。
うん、そうだよ。と小声で言う。
怪訝そうな顔で浩平がこちらを見ている。
突然メリーさんが言った。
「はじめまして!私メリーと申します。
このたびは協力していただいてありがとうございました!」
深々と頭を下げる。
無論、聞こえるはずは無いのだが。
この子の律儀さときたら。
と、浩平が見えるはずの無いメリーさんの方を見ている。
「まさかとは思うが、そこに誰かいるのか?」
一瞬僕は心臓が跳ね上がり、メリーさんは頭を上げ目を
パチクリさせている。
「信じてもらえないかもしれないけど…いる
ありがとうだってさ。」
僕は包み隠さずそう言った。
「ふむ、お前がいると言うならいるのだろう」
そう言うとバス中に響き渡る声で浩平は言った。
「俺は浩平!こいつの友達ならば俺にとっても
友達だ、何か協力する事があったら言ってくれ!」
バス乗客全員が全員浩平の方を見ている。
メリーさんはポカンとした表情をしていたが
「はい!」
と、言ってもう一度深々と頭を下げた。
浩平。こいつはいったい何者なんだろうか。
浩平がすごいのかメリーさんの熱意が伝わったのかはわからないが
僕は少し嬉しくなった。
5人用の席を3人で占領し、
いつも通りの浩平のニュースの話と
世界の車窓からの話を聞きながら
学校へと向かった。
バス亭に着いてからも話は続いた。
意外だったのがメリーさんが
世界の車窓からのファンだった事。
浩平の話に興味深々だった。
時折、メリーさんが合いの手を入れるが
聞こえるはずが無い。無いはずなのだが
話が噛み合っている。
どこまでも恐ろしい男浩平。
僕はまたもや蚊帳の外だったのだが。
メリーさんの楽しそうな顔を見れただけでよかった。
でも少し嫉妬。
僕も世界の車窓から見ようかな。
そんな事を考えながら学校へと歩いていった。
下駄箱付近でメリーさんと別れる。
まぁ、また散策か花子さんと談笑なのだろう。
浩平と教室に着いた時には遅刻寸前だった。
席に着いた瞬間、担任が入って来てSHRをはじめる。
今日のSHRいつもよりさらに短かった。出席だけとって終わり。
別にいいが。
そして1時間目が始まる。
僕は読みかけの昨日の本の続きを読むことにした。
主人公に自分の姿を重ね合わせて読み進める。
やはりなかなか面白い本だ。
気がつくと本の残りも授業時間も残りわずかだった。
昼休みとなり、僕は読書をやめ
恒例のカレーパンタイムへと移る。
どんなに遅く食べても5分で無くなるのが
欠点だが今日もおいしくいただいた。
トイレへ行こうかと思ったが、連日トイレへ
入り浸っていると言う噂が流れたら
友達が減りそうだ。
どうせ、掃除で行かなければならないので
後回しにする事にした。
僕は本を手に取り残り3分の1を
消化する事にした。
物語もいよいよ終盤。
主人公がどう動くのかが見ものだ。
掃除開始のチャイムが鳴る。
いい所なのにとしぶしぶトイレへと向かう。
この調子なら6時間目まで読めば終わるだろう。
早く続きが読みたいが読んでしまえば物語が
終わる。すこし悲しい。
トイレのドアを開くと花子さん、
今日はメリーさんもいた。
「よぉ!」
「どうも」
なんだか機嫌がよさそうだ。
「まぁ、あらかたメリーに聞いたが
その貼り紙作戦とやらはうまく行きそうか?」
「確証は無いけど少しでもアクションがあれば
僕はそれを見逃さない。」
おうおう、頼もしいね~と花子さんがにやにやしながら言う。
僕は馬鹿にされているんだろうか。
「まぁ、気が向いたら私も手伝ってやる」
と、花子さんは言った。
なんだろう、さっきからやけに機嫌がいい。
どうかしたのだろうか。
「小学生に頼るほど困っちゃいないよ」
「20だ!」
トイレットペーパーが飛んできた。
根本的な部分はいつもの花子さんらしい。
いや、トイレットペーパーなら軽い方か
やっぱり今日の花子さんはどこか優しい。
「よくわからない…けど、最後まで協力するってか」
かはははは、と花子さんは笑う。
このせいか!なんだか無償に恥ずかしくなってきた。
と言うか、メリーさんちょっと口が軽いんじゃないのか?
メリーさんの方を見ると白々しく窓から外を眺めていた。
僕、いじられっぱなし。
その後もいじられっぱなしだった。
メリーさんに助けを求めたが。
相変わらず外を見ている。
僕が恥ずかしさで死にそうになっていると
いつもの予鈴。
掃除終了のチャイムに救われた僕。
さっさと、トイレを後する事にした。
ドアを開いたとき花子さんは言った。
「協力してやるのは本当だ。
どうしても困ったら呼べよ」
僕は手を上げるだけのジェスチャーで答えた。
放課後まで後少し
後でメリーさんに文句言ってやる。
メリーさんをトイレは置き去りにして
教室へと向かう。
授業が始まるが当然僕は本を読む。
残り少ない物語を読み進めるために。
ゆっくりと時間をかけ
僕は読み終わらせた。
その物語を。
マジかよ…と、読み終わった僕の胸には
わだかまりが残った。
結局、この本の主人公は幼馴染の女の子を救えなかった。
さらに言うと最後の一押しを押したのは主人公自信だった。
自分の姿を重ね合わせて読んでいたので、
正直精神的なダメージは大きかった。
まるでこれからを暗示しているような。
だが、この本の物語は終わったが
僕は続いている。
僕はこの主人公のようにはならないと心に誓った。
放課後になり、いつものように校門へ向かう。
下校していく生徒達に混ざって校門の隅にメリーさんが
たっていた。
メリーさんは僕に気づき、気まずそうな顔をしている。
僕はメリーさんの下へと近づき、言った。
「話があります」
「…はい」
メリーさんはしょんぼりと素直に聞き入れた。
「とりあえず言い訳は?」
「え、えっと…そ、そう朝のお返しです!
全然、振り向いてくれなかったじゃないですか!」
しどろもどろにメリーさんは言った。
「じゃあクレープは無しで、これでお相子って事で」
「…ごめんなさい、言い訳しません」
メリーさんの中では怒られるより
クレープが食べられない事の方が一大事らしい。
そんな素直なメリーさんを見たら可笑しくて
笑ってしまった。
そんな僕をメリーさんはきょとんとした顔で見ている。
他にも下校途中の生徒がこちらを白い目で見ていたが
最近じゃもう気にしなくなった。
「まぁいいや、クレープ食べに行こう」
きょとんとした顔が笑顔に変わる。
「はい!」
そう、元気よく返事をするメリーさん。
僕達は繁華街へと歩き始めた。
貼り紙というタネは蒔いた。
だが、犯人探しはメリーさんの果たせなかった事ではない。
果たせなかった事は別にある。
今日は、初めて出会ったときに言っていた
断片的な記憶の中で出てきた場所へ行ってみる事にする。
この位置から行けば
川、神社、クレープ屋、屋上の順番だろうか。
曖昧な所もあるが、そこはメリーさんに案内して
もらう事にしよう。
最初に川に行くことにする。
この街を流れている川は一級河川でなかなかに広い。
とりあえず、川が見えるところまでメリーさんと行って見た。
流れる川を眺めていると、メリーさんは言った。
「知ってますか?この川って結構綺麗で
夏になれば蛍も見れるんですよ」
「へぇ、それは知らなかった。」
長年この街に住んでいるが、初めて得た情報だった。
この川周辺に蛍の光が無数に飛んでいるのを想像する。
「あのさ」
「はい?」
「いや…ごめんなんでもない」
蛍を一緒に見に行こう。そう言いかけたがやめた。
蛍が飛んでいるのを想像した時、隣にはメリーさんがいた。
叶うはずも無いのに。
でも、願う事ぐらいしてもいいだろう?。
僕は誰となく話しかけた。
ここに手がかりは無さそうだ。
気を取り直し、次の場所へと向かう事にした。
神社、と言っても漠然としていて
この街で一番大きな神社かと思っていたが
メリーさんが言うには違うらしい。
メリーさんに案内されるがまま僕は街外れへと向かった。
そこには、細く長い階段。
その先にはさびれた境内があった。
「ここ?」
「そうです」
そう一言言ってメリーさんはずんずんと階段を上っていった。
僕も後を追う。
小さな森の中にいるような気分だった。
木々が太陽の光を遮り、薄暗かったがなぜだか不気味な
感じはしない。
階段を上りきると、小さな社があった。
ちゃっちいなんて思わない。
小さいが、厳かな雰囲気があった。
無神派な僕でさえ、神様がいるような気分になる。
この社に用があるのかと思ったがそうではないらしい。
少し先の木製のベンチにメリーさんは座って手招きをしている。
近づいていくとポンポンと、ベンチの空いている部分を叩く。
隣に座れとの事らしい。
とりあえず、座ってみた。
「ここは、私が思い悩んだりした時によく来てたんです。
目を閉じると結構気持ちいいんですよ」
まぁ、そのまま寝ちゃう事が多かったんですがと
メリーさんが笑う。
僕は目を閉じてみる。
辺りが静寂に包まれ、車の騒音などは一切聞こえない。
木々の葉が擦れる音だけがする。
そして、涼しい風がどこからか吹いてきて
僕の頭を透明にする。
月並みだが清々しい気持ちになれた。
確かにここはいい場所だな。
僕も思い悩んだら、ここへ来よう。
目を開けると隣でメリーさんが目を閉じていた。
僕も、もう一度目を閉じる。
二人の間を駆ける風が心地よかった。
結局、ここにも手がかりは無かった。
僕達は、繁華街の中にある公園前へと向かう
次はメリーさん待望のクレープ屋だ。
このクレープ屋は移動式で街の人間なら誰でも知ってるほど有名。
僕が中1頃にできた老舗だ。
今日も女子高生達でにぎわっている。
メリーさんに何味がいいか聞くと
スタンダードなストロベリー味を所望した。
僕は新発売のパイン味を食べて見る事にした。
正直、男一人でクレープ屋に並ぶのは恥ずかしかった。
クレープ屋のおっちゃんが何故かおまけして
クリームもソースも多目に付けてくれた事が
気にかかるが、まぁ得したのだからいいだろう。
どで食べようかと悩んでいたが
メリーさんの提案で、最後の屋上で食べる事にした。
クレープを持ったまま、メリーさんの学校へと向かう
この屋上とはメリーさんの学校の屋上らしい。
中からは入れないが、外の非常階段から行けば入れると言う
秘密を教えてもらい。
その通りに行くと本当に屋上へ入れた。
ここで何をするのかメリーさんに聞いたが
先にクレープを食べてかららしい。
僕はメリーさんにストロベリー味を手渡し、
座って給水塔へとよりかかった。
「いただきます!」
と、行儀良く食べる前の感謝を忘れない。
口にクリームをいっぱい付けてメリーさんは
クレープを食べ始めた。
正直言って行儀は悪いが、その笑顔を見たら
誰が責められるだろう。
僕は普段あまり甘い物は食べないのだがこれはうまい。
角切りのパインがいい味を出していた。
ふと、気がつくとメリーさんは
はむはむと自分のクレープを食べながら
僕のクレープへと目が釘付けだった。
まぁ言いたい事はわかる。
「…ちょっと食べる?」
「いいんですか?」
待ってましたと言わんばかりに大きく1口、
クレープ全体で言うと3割を攫っていった。
もぐもぐとメリーさんは満面の笑みで
おいしいを表現していた。
なんだかデートみたいだな。
そう思った途端、なんだか照れてきた。
メリーさんが齧った部分を見つめる。
なんだか変な感情が沸く前に食べきる事にした。
やはり甘い。
クレープタイムもフィナーレを向かえた
「ごちそうさまでした」
二人で声を揃え、言った。
メリーさんが名残惜しそうにごみを片付ける。
と、メリーさんが指を指し、こう言った。
「そろそろですよ」
指差す先には夕日。
あの大河に反射して、二つの太陽が沈もうとしていた。
自分の街にもこんな絶景ポイントがあったのか。
僕の好きなテレビ番組、世界の絶景100選に応募してみようかな。
いや、みんなに教えるなんてもったいない。
ちょっとした独占欲が働いた。
「綺麗…ですよね…
この風景を誰かに見せたかったんです」
メリーさんフェンス越しには夕日を眺めていた。
夕日に照らされたメリーさんの顔がいつもより大人びて
それでいて儚げに見えた。
これほど絵になっている風景もなかなか無いだろう。
そんなメリーさんにドキッっとする。
だけど、同時に悲しくもなった。
メリーさんからこの日常を奪った犯人を僕は許さない。
だけど、今はこの景色を目に焼き付けておこう。
もしかしたら、二度と見れないのかもしれないのだから。
やがて、2つの太陽は地平線へと消えていった。
一気に辺りは薄暗くなる。
「帰ろっか」
メリーさんは目を袖でゴシゴシと擦り
いつもの調子でこう言った。
「はい!」
自宅の前に着く。
「ここで、お別れですね」
と、メリーさんが言ったが僕はその気はなかった。
「今日、親が帰ってこないんだ
よかったら晩御飯一緒に食べない?
何か作るよ」
そう、勇気を出してダメ元で言って見た。
メリーさんはしばらく考えていた。
困った顔になったり赤面したりしていたが
やがて、それじゃあと言って承諾してくれた。
植木鉢の下から鍵を取りだし、ドアを開ける。
「お、お邪魔します!」
メリーさんが高らかに言った。
いつもは無断で入って来ていたのに
何をかしこまっているのだろうか。
台所へ直行し、冷蔵庫を開けると
たいした食材は入っていなかった。
ここはアレしかないだろう。
男の料理、チャーハン。
メリーさんを椅子に座らせ。
調理に取り掛かる。
まず、ご飯を皿に敷き冷凍庫に入れる。
これがポイントだ。これでご飯がパラパラになる。
親父から受け継いだ技だった。
親父曰く、チャーハンの作れない男は男では無いらしい。
それからというものチャーハンの作り方だけはマスターした。
いつものように調理する。
何百回と繰り返した事なので特に支障はない。
フライパンを振り、
パラパラとしたご飯が宙を舞った時
メリーさんが、おぉ~!と歓声を上げた。
これで完成。
付け合せのインスタントスープと
適当に盛り合わせたサラダで食卓を彩った。
「いただきます!」
二人で手と声を合わせる。
メリーさんがチャーハンを口に入れると
おいしい!と言って喜んでくれた。
「料理お上手なんですね」
「チャーハンだけだけどね」
ちょっと得意げに言う僕。
女の子に食べさせるのは初めてだった。
ひそかな夢が一つ叶い、素直にうれしかった。
それがメリーさんであった事がさらに嬉さを引き立てる。
楽しい食卓だった、これ以上無いくらい。
メリーさんとの思い出がまた一つ増えた。
食べ終えた食器を洗った所で
メリーさんはそろそろ帰りますと言った。
僕は玄関に出て見送りをする。
「それじゃ、今度こそこれで、ごちそうさまでした。
今日はいろいろと楽しかったです。」
頭を下げるメリーさん。
いつもならそれじゃあ、また明日というのだが、
僕はずっと考えていた事を
思い切って言うことにした。
「今度、蛍…見に行かない?」
メリーさんは一瞬さみしそうな顔をしたが
「ええ、かならず行きましょうね」
と、いつもの調子で言ってくれた。
「それじゃあ、また明日」
「はい、また明日」
いつものあいさつを交わし、メリーさんは帰っていった。
僕は上機嫌で風呂へ入った。
その後も顔のニヤけが収まらなかった。
布団へ入って電気を消す。
オレンジ色の光の中
メリーさんと蛍を見に行ける日の事を願い。
僕は寝ることにした。
夢の狭間をさまよっていると
突然の水の音で現実へと引き戻された。
ザーっと言う屋根に雨が当たる音が響く。
「…雨!」
僕は飛び起きた。
しまった、貼り紙が
なんの加工もしていないただの紙なので
ほとんどが水にやられるだろう。
なんでこんな事考えられなかったのか。
ガチャリ。
と、突然玄関のドアが開く音がした。
親かと思ったが、今日は泊まり込みの仕事だ。
時計を見ると2時を過ぎている。
お客さんって時間でもないだろう。
そもそもお客さんはインターホンというものを使う。
つまりお客ではない誰か…誰だ。
ギシギシと音を立てて「誰か」が2階へ上がってくる。
音を立てないように気をつけているようだが
この家の古さから言ってそれは不可能だ。
僕の部屋の前で足音が止まる。
そしてガチャリ…と、小さな音を立ててドアがゆっくりと開いた。
オレンジ色の光の向こう。皮手袋に覆面、手に持っている中型ナイフを持っている人間。
誰が見ても強盗、もしくはそれに順ずるものだとわかるだろう。
けれど僕は違った。こいつこそ中山 准を殺した犯人だと直感で判断した。
だが、なぜ家の場所が?。貼り紙には電話番号しか書いていない。
それになんでこうも親がいないタイミングで…。
僕はこの突然ぎる状況に混乱する。
真っ直ぐベットの方へ歩み寄る覆面。
そして、一気にナイフを布団に突き立てた。
ドスン!っと言う音が部屋に響いた。
驚いた事に僕を殺す事に躊躇も迷いも一切ない。
車で跳ねた中山 准を河原へ落とす奴なのだから当たり前か。
見つかれば、確実にこいつは僕を殺すだろう。
心臓が跳ね上がり。冷や汗が吹き出る。
手ごたえの無い感触に覆面があせり始めた。
僕はこいつが来る前に布団の中にタオルケットを詰めて
偽装し、別の場所へと隠れた。
だが、タオルケットを入れたのがミスだったと
今更後悔する。
元から居なかった。と言う偽装をすればよかったのに、
危険を察知し自ら別の場所へ逃げた。
と言う事を知らせてしまったのだ。
この狭い部屋、隠れられる場所は限られてくる。
状況を把握しようと少し開けていた隙間。
それに覆面が気づく。
そしてゆっくりと近づいてきた。
僕が潜んでるクローゼットへ。
まずい、さすがにこれは。
近づいてくる覆面。
このままで開けられた瞬間殺される。
こんな所で死ぬわけにはいかない
メリーさんとの約束が残ってるんだ。
ここは一か八か賭けに出た。
目いっぱい引き付けたところで
僕はクローゼットを蹴破る。
バン!っと勢いよく開かれる扉。
「!?」
覆面がひるんだ。
そのまま勢いにまかせ突進する。
こいつを転ばせてその隙に逃げる作戦だったのだが。
その作戦は失敗に終わった。
僕の体は受け止められてしまっていた。
身長差が結果に大きく響いたのだろう。
そのまま僕の力は受け流され
ベットの上へと投げ飛ばされる。
やばい。と、思った時にはもう遅い。
覆面が迫ってくる。
とっさに僕はこう叫んだ。
「待て!取引だ!」
これがダメだったら僕は死ぬ。
覆面の動きが一瞬止まる。
僕は考える暇を与えず、すぐさま続ける
「僕はあんたが犯人だって言う証拠を持っている。
それを渡すから命は助けてくれ。
それに二度と犯人探しなんてしない」
証拠。と言葉に反応したのか
覆面が考えるそぶりを見せる。
そしてゆっくりと首を縦に振った。
おそらく、証拠を渡した後で僕は殺されるだろう。
だが時間は稼げた。この時間で状況を整理する。
ドアは遠い。走ってもドアノブに手をかけたところで
後ろから刺されるだろう。
窓は近いが鍵がかかっていて開けている間にやられる
それにここは2階、ジャンプした所で
足をやられ動けなくなった所をグサリだ。
と、なるとこれに賭けるしかない。
覆面が顎をしゃくる。
証拠はどこだと言う意味らしい。
「証拠は…その机の鍵付の引き出しの中だ」
覆面はこちらの方を向きながら
ゆっくりと下がっていく。
ガチャガチャと引き出しを開けようとするが
鍵がかかっている。
「鍵はそこの猫の貯金箱の中だ」
と、素直に鍵の位置を教えた。
言われた通りに鍵を取り出し
ロックを外す覆面。
表向きの中身は文房具だ。
バラバラと中身を床に投げ捨てていく。
どこだ!っと言わんばかりに強く睨まれた。
「一枚、板が敷いてあるその下だ」
僕はタイミングを見計らう。
なかなか外れない板にいらだつ覆面。
と、瞬間一気に辺りが明るくなり、
火が勢いよく燃え上がる。
僕の仕掛けたトラップが発動した。
覆面の腕に炎が回り、声にならない悲鳴を上げる。
この隙を見逃さない。
ベットの上から
僕は渾身のドロップキックをかました。
わき腹にヒットし、壁まで吹っ飛ぶ覆面。
僕も床に叩きつけられた
ごろごろと床に転がりながら火を消そうとしている
覆面に追い討ちをかけようと、僕は起き上がったが
火が消える方が早く、逃げ出す覆面。
つかさず追いかけようとしたが
カーテンに火が引火していた。
ドタドタと階段を駆け下りる音を尻目に
僕はカーテンを引きちぎり。
窓の外へと投げる。
幸い外は雨なのですぐに消えるだろう。
窓から覆面が走って逃げていくのが見えた。
今からではもう間に合わないだろう。
間に合ったところでおそらく返り討ちだ。
はぁはぁと、乱れた息を整える。
僕はなんとか生き延びた。
危なかった、本当に…。
シャツの背中が汗で濡れていた。
とりあえず電気を点ける。
被害は特にない。カーテンが片方なくなった事と
大切な本が燃えたぐらいだ。
まさかこれに命を救われるとは夢にも思わなかった。
僕は感慨深く本を撫でる。
貼り紙でなんらかのアクションがあればいいとは思っていた。
だがこれはさすがに予想外。
床に座り深呼吸を繰り返すと段々と落ち着いてきた。
そうだ、警察に連絡を。と思い携帯に手を伸ばしたが
思いとどまる。
警察になんて言う。
家に僕を殺しに来た覆面野郎が入ってきたので
引き出しから炎を出して撃退しましたか?。
覆面野郎より、なぜ引き出しから炎が出るか突っ込まれそうだ。
この2日を通して感じた事がある。
貼り紙を交番の前の掲示板にも貼った。
その際、数々の貼り紙があったが
ひき逃げ事故の貼り紙は僕のだけだった。
それに、貼り紙を貼っても警察からなんの注意もない。
警察は使い物にならない。
警察に連絡しても、僕が動きづらくなるだけだ。
そして、一番気にかかるのは
あいつがなぜ僕の住所を知っていて。
なぜ親が留守の時に来たのかだ。
一番考えたくなかった事が脳裏をよぎる。
犯人は僕の身近な人間。
それしか考えられないだろう。
情報を整理する。
覆面にタックルした時の体付きから言って
まず男で間違いないだろう。
そして、電話番号で僕の住所がわかって
毎週木曜日は親がいない事を知っている人物。
すべてに当てはまる人間はそう多くは無い。
犯人の目星は着いた。
僕は、今日決着がつくとわかった。
夜が明けたら聞かなければならない事がある。
浩平に。
夜が明ける。結局一睡もできなかった。
だが毎日の日課はこなす。
洗面所へ行き疲れた顔に冷たい水をかける。
そして、朝は適当にパンを焼いて食べた。
制服に腕を通し。準備は整った。
雨は相変わらず降り続けていた。
玄関で傘を、と思ったが。
しまった。メリーさんに貸したままだ。
午後からは雨が上がると天気予報で言っていたが。
しょうがない、バスまで走ろうと玄関を開けた時。
一番会いたかった顔がそこにあった。
「おはようございます」
メリーさんが黒い大きな傘を持って立っていた。
「おはよう」
と、メリーさんの顔を見たら少し緊張がほぐれた。
「ごめんなさい!ずっと傘借りっぱなしで
困ってるかと思って迎えに来ました。」
ペコペコと頭を下げるメリーさんが可愛い。
長年の夢だった朝、女の子が家に迎えに来ると言う
シチュエーションが叶い、僕は感激していた。
朝起こしてくれたら完璧だったのにと、図々しいを思う。
「どうかしましたか?」
「いや、なんでもないよ
それじゃあバス亭まで行こうか」
僕達は歩きだした。
朝女の子に起こされる夢は叶わなかったけど
メリーさんと相合傘で登校しているだけで幸せだった。
メリーさんに深夜の出来事を話そうかと思ったが
おそらく心配させてしまうかもしれないし。
優しいメリーさんの事だ、自分を責め立てるだろう。
それに、なぜ引き出しから火が出るんですか?と聞かれたら
説明しづらい。
深夜の出来事は墓場まで持っていこう。
だが、これだけはどうしても言っておかなければならない。
バス亭でバスを待つ間、僕は切り出した。
「メリーさん」
はい?と、小動物のように首を傾げるメリーさん。
「たぶん…犯人わかった。」
メリーさんの顔が強張る。
「そう…ですか…」
そう言って一度うつむいたが
すぐに真っ直ぐな目で僕を見てきた。
「まだ確証はないけど、今日決着をつける」
メリーさんは力強くうなずいた。
バスが来る。中には浩平が乗っているはずだ。
バスの扉が開き、傘を閉じ中へ入る
そして一番後ろの席を目指す。
浩平が5人分の席を占領している後ろの席へ。
後ろからメリーさんも付いて来る。
「おはよう」
「やぁ。ん…?疲れているようだな
顔色が悪いぞ?」
いつもの調子で浩平が言う。
「そんな事はどうだっていいんだ
聞きたいことがある」
「俺に答えられる事ならなんでも答えよう」
そして僕は浩平の耳元で最後の鍵となる質問をした。
メリーさんが不安そうな顔でこっちを見ている。
「ふむ…確かにその通りだ」
僕は黙り込む。
浩平も察してくれたのか、いつものように話しかけては来ない。
他の席の生徒達ががやがやとうるさかったが
一番後ろの席はバス亭に着くまで終始無言だった。
バス亭で降り、傘をさす。
浩平に先に行くと言って僕は、僕達は。
急ぎ足で学校へと向かう。
今ならまだ間に合うはずだ。
確証は得た。
おそらく確実にあいつだろう。
メリーさんは何も言わず付いて来る。
降りしきる雨、ズボンの裾が雨で濡れたが気にしない。
そして僕は目的の人物を見つけた。
前に回り、歩みを止める。
「おはようございます」
いつもの無愛想な顔でこちらを見て、何も言わない。
言ってしまえばもう止まれない。
僕は最後の決め手となる事を言った。
「その腕、どうしたんですか―― 先生。」
メリーさんを跳ねて河原へと落とし、
僕までも殺そうとした犯人。
英語科教師、兼僕の担任。坂井先生。
さっき浩平に聞いたのはこうだ
「坂井先生は一ヶ月前ぐらいから
歩いて学校に来てなかったか?」
浩平はそうだと言った。
僕は知っているSHRがいつも短いのは
僕達生徒の事などに興味なんてないから。
自分の事しか頭に無い。
それに気づいてから僕はこの先生が大嫌いになった。
坂井先生が口を開く。
「…話がある、放課後残れ。」
冷たい声でそう言った。
「こっちこそ話があります」
と、僕も負けずに冷たい声で言ってやる。
指定してきた場所はいまは使われていない
焼却炉前。勝負は放課後。
もう戻れない。
僕はそう言い残し、先に行く。
先生から遠ざかった所で黙っていたメリーさんが言う。
「どうしてですかっやめてください!危ないです!!」
メリーさんが怒っているのをはじめて見た。
目に涙を浮かべながら叫ぶ。
ああ、こうなるとどうすばいいか困る。
と、思いっているとメリーさんが突進してきた。
僕の胸の部分に顔をうずめ、背中の後ろを手で掴まれる。
身動きが取れない。僕はメリーさんに抱きつかれていた。
「お願いですから…危ないことは…」
僕の胸で泣いている。
僕は女の子に抱きつかれたと言うことよりも
メリーさんはどうしたら泣きやんでくれるかそればかり考えていた。
ポン、とメリーさんの頭に手を置き僕は言った。
「大丈夫、学校じゃ派手な動きはできないよ
ただ話し合いするだけだから、危ないことはしないよ」
そのままメリーさんの頭を撫でる。
「…本当ですか?」
メリーさんが顔を上げ、上目遣いで聞いてきた。
「大丈夫」
と力強く言いうとやっとメリーさんは離してくれた。
学校に着き、メリーさんとはしばしの別れ。
メリーさんは花子さんに相談しに行くと言っていた。
僕は教室へ、しばらくすると浩平が入ってきた。
浩平に話そうかと思ったが、浩平にまで危険が及んだら僕のせいだ。
すべてが終わったら話そう。
そして坂井先生が入ってくる。
一度だけ目が合ったがすぐ逸らす。
そしていつもの短いSHRが終わる。
今日は英語の授業は無い。
次に顔を合わすのは放課後だ。
そして、1時間目が始まる。
今日ばかりは真面目に受けよう。
4時間目終了のチャイムが鳴る。
真面目に4時間きっちり受けたのはひさしぶりだった。
各教科の教師が口を揃えて今日は寝ないのかと
言って来たのがムッと来たが。
まぁ自業自得だろう。
僕はクッと背伸びをし
昼食のカレーパンをバックから取り出す。
そして一口、二口と味を噛み締めた。
そろそろカレーパンの買い置きが無くなりそうだ。
買いに行かなくては。
僕はパンを食べ終え、ガムを口に放り込み。
日課となった男子トイレへと向かった。
扉を開ける。
メリーさんはいない、いるのは花子さんだけ。
いつも通りの指定席に座っていたが
めずらしく、タバコは吸っていなかった。
花子さんはやっと来たかと言わんばかりに
こちらを見ていた。
「で、どういう作戦なんだ?
下手すりゃ死ぬぞ」
花子さんが真面目な顔で聞いてきた。
事情はあらかたメリーさんが話したのだろう。
今朝、メリーさんに言った事は嘘だ。
危ない事はしないと言ったが
まず間違いなくあいつは僕を殺しに来るだろう。
危険を冒さなければ、あいつを警察に突き出す事もできない。
虎穴になんとかだ。
僕の考えを花子さんへと伝えた。
すべて話した後、花子さんは
ため息をつき、ポケットからタバコを取り出し
口に咥え、火をつけた。
紫煙があたりに立ち込める。
「妥当だが…失敗する確立のほうが高いぞ
悪いことは言わん、やめとけ」
「それでも僕はやる」
言うと思った、そっくりだ。と
花子さんはいい、再びため息をついた。
と、急にドアからメリーさんが入ってきた
「花子さん、お使い済みまし…あっどうも!」
メリーさんは僕に気づくと深々とお辞儀をする。
つられて僕もどうも、と言い頭を下げてしまった。
花子さんが、まったくお前らは。と言って
優しい目でこちらを見ていた。
掃除開始のチャイムが鳴る。
今までの感謝を込め、しっかりと掃除する事にしよう。
ゴシゴシとデッキブラシで
床を擦り、水で流した所で
チャイムが鳴った。
5,6時間目が始まるので教室へ行かなければならない。
「花子さん、いろいろとありがとう」
今日は、素直にそういった。
「別にお前の為じゃないさ」
と、照れくさそうに言う花子さん。
「小学生に世話になるとは思わなかったけど
本当に感謝してる。」
「死んで来い。」
冷たく言い放たれてしまった。
最後かもしれないジョークなのに、結構傷ついた。
僕が扉を開け、出て行こうとすると
おい!。と花子さんに呼び止められた。
「それじゃあな」
と、手を振っていた。
何のことかよくわからず、とっさに僕も手を振った。
じゃあ、と短く言い残して。
僕はトイレを後にした。
メリーさんに放課後教室で落ち合おうと伝え。
残りの5,6時間目に挑む。
なんとか平常心を保てていた
午前とは違い。
放課後へと時間が向かうにつれ
緊張感が増していく。
正直な話逃げたい衝動に駆られたが
なんとかそんな気持ちに蓋をしめた。
そして、6時間目終了のチャイムがなる。
授業は終わり、放課後が始まった。
さすがに校内に生徒が残っている内は
先生も来ないだろう。
まだ少し時間がある。
次々と教室から人が出て行く。
浩平が話しかけてきた。
「事情は知らんが
大一番って顔だな、がんばれよ」
本当に何者なんだろうかこいつは
おう。と一言いい、浩平を見送った。
そして静まり返る教室。
いつのまにか雨は止んでいた。
そーっと教室を覗き込む人影。
メリーさんだ。
メリーさんは誰もいない事を確かめると
教室へ入って来た。
「これから行くんですよね?」
不安げな表情でメリーさんが聞いてくる。
僕は無言でうなずいた。
「本当に危なくないんですよね?」
さらに聞いてくる。
「大丈夫、危なくないよ。でも万が一の時は
メリーさんに手伝って欲しい事があるんだけど」
「私にできる事ならなんでもします」
と、強い眼差しで了承してくれた。
メリーさんに作戦を伝え、準備を整える。
細工は流々。
そろそろ、校舎に残っている生徒はあらかた
外に出ただろうか。
僕とメリーさんは指定された焼却炉へと向かう。
焼却炉がある校舎裏の周りはブロック塀で囲まれており、
中へ入るには校舎からしか入れない。
以前は使っていたがようだが法の改正で
焼却炉が使用禁止になってからは
資材やゴミ置き場として使われている。
生徒が立ち入ることは学期末の大掃除くらいだ。
聞かれたくない話をするには持って来い。
僕にとっては危険で先生にとっては好都合。
そんな場所へと続く扉を僕は開けた。
先生はまだいない。
僕はとりあえず中へ入り中を見渡す。
ゴミや机、資材などが所どころに固められている。
下に生えている雑草は雨露で濡れていて
歩くたびに靴の中が湿ってくる。
吹く風が涼しい。心を落ち着けようと
雨上がりの空を見ると赤く、毒々しい夕焼け空だった。
バタン!と扉が閉まる音が響く。
あわてて振り向くとドアの前に先生が立っていた。
しまった。
ぼうっとしていて出口を塞がれてしまった。
先生は無愛想な顔でずっとこっちを見ている。
僕も何も言わず睨み付けた。
張り詰めた空気が漂う。
先に先生の方が口を開いた。
「ここはいい場所だな」
たしかにここはいい場所かもしれない
風は気持ちいいし、人はいなく
秘密の場所のような感じだ。
「人は来ないし、血の片付けも簡単だ
おまけに焼却炉まである」
と、焼却炉を指差し淡々と言う。
そう意味か、どうやら本当にここで殺すらしい。
あらためてこいつの冷酷さを感じる。
先生が内ポケットに手を突っ込み、再び取り出すと
手には折りたたみナイフが握られていた。
パチンっとナイフの刃を出す。
刃が内側に湾曲していて動物の爪のような形だった。
緊張感が走る。
「なんで…すぐ助けなかったんですか?」
僕は低い声で言う。
「あの事か。女一人の為に人生滅茶苦茶にされてたまるか。
証拠はあらかた消し、警察の上部に高い金を渡し、
後は外車が修理から返ってくれば俺の生活は元通りだった。
それをお前が今更になってあの貼り紙だ」
よけいな事を。と、先生が言う。
僕は気がつくと拳を作っていた。
ぶん殴ってやりたい衝動に駆られたがこらえる。
「ところで何故おまえが俺の車を知ってるんだ」
少しづつ近づいてくる先生。
「聞いたんですよ…本人に」
なにを馬鹿な事を、と鼻で笑う先生。
「まぁなんでもいいか」
と、ゆっくりと歩いてきた先生が
突然走り出し、迫ってきた。
僕は突然のその行動に、一瞬反応が遅れてしまった。
すぐに後ろに下がったがすぐに追いつかれる。
僕の腹にナイフの刃が当たる。
そして、思いっきり横に引き裂かれた。
ネクタイが切れ、制服がブチブチと裂ける。
だが血は吹き出ない、その変わり地面に落ちてきた物は
「教科書?」
先生が呆気にとられている。
僕は後ろへと跳ぶ。
映画で見てからずっとやってみたかった。
僕は、ここに来る前に教科書を体に巻きつけていた
精一杯の皮肉を込め、英語の教科書を。
少し厚さに欠けていたいたのか、軽く血が出ていた。
だが作戦の第一段階は成功。
ここからは正当防衛。
無抵抗の生徒を教師がナイフで傷つけたとなれば警察沙汰だろう。
どうにかして逃げれば僕の勝ち。
先生がこっちを睨みつけ、再び迫ってきた。
続けて作戦第2段階
「メリーさん!」
「はい!」
ずっとそこにいたメリーさんが
傘を投げる、親父の傘を。
僕はそれを受け取った。
先生が驚いていた。
そうだろう、いきなり傘が出現したのだから。
世の手品師は案外幽霊と友達なのかもしれない。
傘を手にした僕。傘対ナイフ。
迫ってくる先生に向かって
僕は渾身の力で傘を振るった。
リーチでは僕が勝ち、先生の顔面へと当たる。
怯む先生。チャンスと言わんばかりに傘を振り上げた。
先生は手を交差し上部にガードを固めたが
それはフェイント。
傘では無く傘の柄を握った拳で顔を殴る。
先生が体勢を崩す。
ふらついたかと思ったが
その瞬間ナイフで突いてきた。
僕はとっさにボタンを押し、傘を広げる。
ビリッ!と音がし、ナイフが傘の布を突き抜けた。
だが僕には届かない。
傘を手放し、先生の懐へと回りこみスーツの襟を掴んだ。
体育の授業ではメリーさんに見せられなかったが
今ならいける。
バランスを崩した先生は軽い。
僕は最大の力で背負い投げを仕掛けた。
どうやら僕は女の子が見ていると力が出るらしい。
空中で手を離し、先生が宙を舞う。
そのまま資材置き場へと頭から突っ込む先生。
誰がどうみても一本。
第2段階、奇襲攻撃。
成功。
一矢は報いた。
作戦は最終段階へ。
最後は逃亡。
勝ちは確定したようなものだ。
今がチャンスとメリーさんと共に扉へと走る。
先生が起き上がってきたが
僕が扉へと辿り付く方が早かった。
ドアノブに手をかける。
ガチャ…ガチャガチャ!と、激しく
ドアノブを回転させるが開く気配はない。
鍵――!
しまったっあの時鍵をかけられて!
相手は教師なのだ。
学校の鍵を入手する事なんて簡単じゃないかと。
今更ながらに気づき、愕然とする。
ざわっと後ろに気配がし振り向くと、
頭から血を流し鉄パイプを持った先生が立っていた。
「危ない!」
と、メリーさんが叫んだ。
その声に反応し、咄嗟に右手で顔を守る。
振り下ろされた鉄パイプ。
ゴンッ!と鈍い音がして、僕の腕に激痛が走った。
かはぁっ!っと息が吸えなくなるほどの痛み。
腕が上がらない。
骨折れたか、ヒビが入ったのはまず間違いない。
再び鉄パイプが振り下ろされる。
横に跳びなんとか避けるが
そこは逃げ場の無いブロック塀。
やばい、次は逃げられないし左手だけじゃ
防ぎ切れない。
先生の無愛想な顔が見たことも無い
怒りの表情をしている。
「死ね!」
そう言って鉄パイプを振り降ろす先生。
あ、ダメだ死ぬ。そう感じた。
辺りがスローモーションのように見えた。
振り下ろされる鉄パイプがゆっくりだ
その向こうでメリーさんが何か叫んでいる。
メリーさん、ごめん。僕は目を閉じた。
ガン!と音が響いく。
だが僕に痛みは無い、ゆっくり目を開けた。
そこには傘。
さっきまで向こうに転がっていたはずの黒の大きな傘。
それが振り下ろされた鉄パイプを止めていた。
「なん…で…?」
先生の顔がある方向を向いて青ざめている。
その方向に目をやると傘の芯の部分が鉄では無く。
足。
人間の足だった。
「危なかったな、あとちっとであの世逝きだったぞ?」
がはははは!と豪快な笑い声。
メリーさんでも先生でも、もちろん僕でも無い。声。
傘が…しゃべっていた。
懐かしい声、だけど2度と聞けなかったはずの声。
忘れようにも忘れられないその声は。
「親…父…?」
呆然としている先生に傘が片足で
ドロップキックをかます。
先生は吹っ飛び2回転してやっと止まった。
突然、傘がスーっと人の形へと変っていく。
下駄に黒い浴衣、一箇所大きな穴が開いてるのは
さっきのナイフの穴だろうか。
そして顔はまぎれもない僕の親父だった。
「親父…成仏してなかったのか?」
「まぁな、なんの因果か今は唐傘やっている。
人生何があるかわからないな。がはははは!」
懐かしい、耳に付く豪快な笑い。
「そんな事より、あのお嬢さんに感謝しな」
と、いきなり真面目な顔をして言った。
お嬢さんとはメリーさんの事か。
「オレは日のある内は外にでれねぇ
だが、こうしてオレが息子の大一番に
出てこれたのはあのお嬢さんが
滞在期間をすべてオレに譲歩したからだ。」
なんだって…。
「あのお嬢さんは今日の0時で消える」
メリーさんの方を見ると安堵の表情をしていた。
なんでそんな顔ができるんだ。
自分が消えるって言うのに。
また、僕のせいで…。
「う、うわぁぁぁあ!!!」
と、いきなり叫び声と共に起き上がった坂井が
鉄パイプを持って迫ってきた。
標的は親父。
だが親父は振り返ろうともしない。
振り下ろされる鉄パイプ。
親父はぎりぎりの所でかわす。
そしてそのままぐるんと周り、遠心力付きの
回し蹴りが炸裂した。
腹部にけりを受けドアの所まですっ飛ぶ坂井。
「親子水入らずだ!黙ってろ!!」
と、言い放った。
「つ、強くなったな…親父」
「はっ!おまえもな!」
がははは!と笑い声が響く。
ガチャン!と言う音と共にドアの方を見ると
坂井がいなかった。
一気に辺りが暗くなってきた。
夕日が沈むと共に、親父の体が透けていく。
「親父!?」
「ああ、オレにとって日の出のうちに出るのはタブーだ
滞在期間をすべて使っても間に合わないほどのな
まぁそんな事はどうだっていい」
親父は本当に自分の事はどうだっていいような口ぶりで続ける。
「逃げたあいつの事はオレにまかせろ、知り合いに頼んである。
お前はあのお嬢さんの果たせなかった事を果たせ
お嬢さんは気づいてるはずだ」
そうなのと、メリーさんの方を見ると
静かにうなずいた。
親父の体はどんどん見えなくなっていく。
「時間か…。いいか、絶対に女は泣かすなよ?」
何度も聞いたセリフを久々に聞いた。
僕は強くうなずく。
「それと、母さんによろしく言っといてくれ
…じゃあな、元気で暮らせよ」
「親父も…元気で」
がはははは!と握手を交わしたところで夕日が沈み。
手からあのがっしりとした感触がゆっくりと消えていった。
残ったのは黒く、大きな傘。
袖で目を擦り、それを拾い上げた。
「行こう!メリーさん」
はぁはぁと荒い息使いが暗い校舎に響く。
俺は幽霊なんて今まで信じてなかった。
でも、さっきから見えるあれはなんだ?
青白い顔の暴走族のような服装の男達。
腕がなかったり、足が無かったりと生きてる人間は
ありえないほどの致命傷。
そいつらが行く手を遮り、後ろから追いかけてくる。
階段を上がり、上がり、上がり。
逃げても逃げても追いかけてくる。
はぁはぁと、どんどん呼吸が乱れ、
何度も何度もつまずいては起き上がり。
必死で逃げた。怖い、外へ出たい。
今度は後ろからだけではなく、前にも見えた。
なんとかやりすごすそうと
とっさに横の扉へと入る。
息を整えようと深呼吸をする。
と、タバコに匂いがした。
顔を上げるとそこには
バケツを裏返しにして座っているポニーテールの女の子。
その子がタバコを口に咥え紫煙を吹かしていた。
「な、なんでこんな所に小学生が…?」
するとその小学生の顔つきが変わり
突然ジャンプし、さらに窓の枠の突起に足をかけ、より高く。
そのまま空中で一回転した。
重力と遠心力のついた強力な踵落しが坂井の延髄に決まった。
そのままトイレの床に倒れる坂井。
そしてそのポニーテールの小学生は言い放つ。
「私しゃ20だ!」
親父の言葉を信じ後はまかせ、
メリーさんと共に学校を出る。
どこへ行くのかと聞いたところ事故現場らしい。
もうすぐメリーさんとはお別れ。
そう思っただけで胸が苦しくなった。
「あ、あの!…いや何でもないです…」
と、メリーさんが言って来た。
「何?気になるけど」
「いや、たいした事じゃないんですけど…」
もじもじと下を向くメリーさん
「あの!手…繋いでもいいですか?」
僕は何も言わずメリーさんの手を握った。
「手、小さいね」
「手、大きいですね」
そんな事を言いながら歩いていった。
空を見上げればすっかり夜。
星が輝いていた。
僕達は手を繋いだまま、事故現場へと来た。
そして、メリーさんが倒れていた河原へと降りる。
川が流れる音以外が静かだった。
メリーさんが言った。
「私、嘘ついてました。
本当は昨日の朝には記憶は全部戻ってたんです。
でも、あなたと一緒に居たかったから…」
メリーさん曰く、あの三箇所はデートで行きたかった場所
なのだと言う。
僕は何も言わない。
メリーさんは続ける。
「1ヶ月前の事故の日。雨が降っていて私は傘が無く
バス亭で雨が止むのを待ってました。
そんな時に私に傘を貸してくれた男の子がいたんです」
それって、まさか…
「その人の事は知っていました、たまにバスで一緒になる時が
あったので、それに…かっこいいなぁと思って」
えへへっと照れくさそうに言うメリーさん。
「その人が傘を貸してくれて…もしかして
私に気があるのかな~なんて思いあがちゃって
でもこの1週間一緒にいて気づいたんですけど
その人にとって傘を貸すのが当たり前だったんですね」
僕が中山 准の制服姿を知っていたのは
一度見たことがあるから…話したことがあるから…
その先は。
「そんな事知らずに私は好きな人に傘してもらって
うれしかったんです。そして、傘を返す時に
思い切って告白してみようと思ってました
その時に事故で…」
僕が…傘を貸さなければ
中山 准は生きていたかもしれない。
僕が殺したも同然だ…。
「ごめん、謝って済む問題じゃないけど…」
「やめてください!そういう意味でいったんじゃないですから!」
と、本気で起こっていた。
メリーさんが歩きだす。
向かった先は、橋の下
不法投棄やゴミが散乱する場所。
たしかこの辺に、と言ってメリーさんが何かを
探している。
そして、見覚えのある柄のボロボロになった
傘を見つけ出した。
青色のチェック模様の傘。
「あの人が私を河原に落とした後、傘をそこに隠していったんです。
それを見ていた私はそればっかりが心残りで…」
そして、メリーさんはこの世に残った理由。
メリーさんとなった理由を言った。
「私はあなたに傘を返す為にここに残りました」
そう言って、僕に傘を手渡そうとするメリーさん。
これを受け取ってしまったら…メリーさんとは。
この1週間の事が甦るように頭の中で再生されていく。
礼儀正しい電話で。
初めて僕の家に来たときはびしょ濡れで
バスタオルと紅茶を出してあげた。
ベットの下を覗いていた事もあった。
母親とも再会することもできた。
ちょっといじめるとすぐ拗ねて。
甘い物が大好きで、
僕の作った料理をおいしいと言って食べてくれた。
夕日が似合うメリーさん。
そして、僕の大好きなメリーさん。
僕は…傘を受け取った…。
瞬間、メリーさんの体が透けていく。
「人生で一番楽しい一週間でした。その中でも。
あの日一緒に見た夕焼けが一番好きです。
絶対に忘れません
ホタルの約束、守れなくてごめんなさい。
そして…あなたの事が大好きです!」
僕は涙をこらえ、最後になるであろう
メリーさんの言葉へ返事を返す。
「僕もあの日の事を絶対に忘れない。
メリーさんの事大好きだよ!」
メリーさんが満面の笑みを見せる。
その目には涙が溜まっているけど。
うれし泣きは笑顔なんだ。
そして、最後に深々とお辞儀をして
メリーさんは消えていった…。
川の流れる音だけが静かに聞こる。
僕はその場でしばらく泣いていた。
なんとかメリーさんには涙を見せずにすんだ。
と、視界に光が横切った。
薄い緑色の発光体。
ふわふわと飛んでは優しい光を放つ。
今の時期では珍しい。
ホタル。
「なんだ、約束…守ってくれたじゃん」
週が明け、学校が始まる。
いつものようにバスへと乗り込む。
浩平の元へ行く。
「おはよう」
「やぁ、その腕はどうした?」
「ちょっと転んだ」
結局僕の右手にはヒビが入っていた。
石膏で固められた僕の腕。
「それはそうと、坂井教諭が
逮捕、と言っても自首したらしいが」
さすがの僕もそのニュースだけは見ていた。
すべて自白し、賄賂を受け取った警察官も
芋ズルのように逮捕されていった。
坂井は精神が不安定で近々精神病院へ移されるとか。
浩平には色々と世話になった。
少しだけ話すとしよう。
あの日からトイレへ行っても
花子さんに出会うことは無くなってしまった。
はじめの頃は成仏してしまったのかと思ったが。
浩平が最近タバコがよく減ると言っていたので
おそらく健在なのだろう。
僕はトイレに出向き裏返しのバケツに
ありがとうと誰と無く感謝の言葉を口にした。
僕の携帯のメモリーには
今でもメリーさんの電話番号が入っている。
ある日突然。
「すみません、今からお伺いしてもよろしいですか?」
なんてかかって気そうな気がする。
そして家の玄関の傘立てには青と黒のボロボロの
傘がちゃんと今でも置いてある。
これがあの1週間の証拠なのだから。
僕は生涯あの一週間を決して忘れないだろう。
メリーさんと過ごした日々。
あの夕焼けを僕は決して忘れない。
終わり
607 : efficus ◆3dGTQi3jXk - 2007/06/23(土) 04:18:00.61 lopreZb60 195/195
こんな厨2病
自己満自慰小説もどきに
最後までお付き合いいただきありがとうございました
またどこかでお会いしましょう
その時の合言葉は「efficus」で
本当にありがとうございました。

