青年「こんにちは」
村娘「あら、旅人さん?」
青年「はい。ここは……いい村ですね」
村娘「お上手ね。だけど、この村にはなんの用で?」
青年「えぇと……ボク、大陸の歴史について調べて回っていて……」
青年「この村で歴史に詳しい人というと、どの方になるでしょう?」
村娘「歴史に詳しいというと、やっぱり長老ね」
青年「長老さんはどちらに?」
村娘「あの家にいるわ」
青年「ありがとうございます!」
元スレ
青年「村を救うために化け物に変身したら……」村の長老「この化け物がァァァ!」村娘「ぎょええええ!」
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―長老の家―
長老「これはこれは、ようこそいらっしゃいました」
長老「なにもない村ですが、ゆっくりしていきなされ」
青年「ありがとうございます」
長老「このところ、国王がしょっちゅう兵隊を動かしている影響で、国中に緊張が走ってしまい」
長老「おぬしのような旅人も少なくなったからのう」
青年「噂では化け物討伐のために兵を動かしているとか……」
長老「しょせん噂じゃよ。化け物などおるわけない」
青年「…………」
……
青年「貴重なお話をたくさん聞かせて頂いて、ありがとうございました」
長老「なんのなんの」
長老「そうじゃ! よかったら、ワシの家に宿泊するかね?」
青年「はい、そうさせてもら――」
キャァァァッ!
青年「!?」
長老「!?」
頭領「この村は俺たちが制圧した!」
頭領「村から食料を奪えーっ!」
ワアァァァ……! ワアァァァ……!
村娘「山賊が……! なんてことなの……!」
村人「ちくしょう……せっかく収穫した作物が……!」
長老「あれは……近くの山に巣食っとる山賊どもじゃのう」
青年「ひどい……!」
長老「旅の方、もうこの村から出た方がええ。このままでは巻き込まれてしまう」
青年「いえ、ここはボクにお任せ下さい」
長老「……なにをいっとる?」
青年「山賊ぐらいなら……ボクが追い返してみせます!」キッ
長老「なにをいう……君のような好青年に何ができるというんじゃ」
青年「はああああああああああああああああああ……!!!」メキメキ…
ズオッ!!!
化け物「グオオオオオオオオオンッ!!!」
化け物(この姿にはなりたくなかった……でも、村を守らなきゃ!)
化け物「グルル……山賊ども!」
頭領「ひっ、なんだあいつは!? バケモノじゃねーか!」
化け物「村から奪った食料を置いて、この村から立ち去れ!」
頭領「ひい……!」
頭領「逃げろぉぉぉぉぉっ!!!」
ダダダダダッ!!!
化け物「皆さん、お怪我はありませんか?」ニコッ
長老「…………」
村娘「…………」
村人「…………」
長老「この化け物がァァァァァ!」
村娘「ぎょえええええ!」
村人「伝説の存在かと思ったら、まさか本当にいやがったとは……!」
化け物「え……」
化け物(やっぱり……こうなってしまうのか……!)
長老「化け物め!」
化け物「ううっ……」
長老「いや、化け物というのは失礼じゃな。人にあらざる者よ」バサッ
化け物(服を脱いだ……!?)
長老「頼みがある!」
化け物「へ?」
長老「このワシと……勝負してくれんか?」
化け物「…………!?」
化け物「勝負……!? どういうことでしょう……?」
長老「実はな……全ては芝居だったんじゃよ」
化け物「……へ?」
長老「ワシは長年、おぬしのような“人にあらざる者”と戦いたかった」
長老「しかし、人にあらざる者は正体を隠していることがほとんどだから、出会うことすら難しい」
長老「こっちから探そうとして見つかるものではない」
長老「だから、村に来訪者があるたび、さっきのような芝居をしておったのじゃよ」
長老「正義感の強い“人にあらざる者”が正体をあらわしてくれるようにな」
化け物「じゃあ、さっきの山賊団は……」
長老「この村の住民じゃよ。名づけて≪劇団“山賊”≫ってとこじゃな」ニッコリ
長老「さて、ワシの挑戦、受けてはくれぬか?」
化け物「しかし、ボクが戦うと周囲に被害が――」
長老「心配無用! この村は村全体がワシの道場みたいなもんで、村民は門下生みたいなもんじゃ」
長老「みんな最低限の武は身につけておる!」
長老「少なくとも、ワシとおぬしの戦いの巻き添えを食って死んでしまうようなボンクラはおらんよ」
化け物「…………!」ウズッ
化け物(ボクは戦いがあまり好きじゃないけど――)
化け物(ボクの内に眠れる野性が、ボクに命じている!)
戦いたいんだろう?
自分の力を思う存分出したいんだろう?
戦え!!!
化け物(――と!)
化け物「いいでしょう、受けましょう!」
長老「こんな老いぼれの挑戦を受けてくれて、ありがとう」ペコリ
長老「では、ゆくぞ!!!」
長老「カァッ!!!」ボンッ
枯れ枝のようだった長老の肉体が、空気の入れられた風船のように膨れ上がった。
村娘「始まったわ!」
村人「久々に見たな……長老のパンプアップ」ニヤッ
頭領「とても70超えたジジイの肉体とは思えねえ! 全身に精気がみなぎってやがる!」
化け物(このおじいさん……強い……! ボクが挑戦を受けて立つ? ……違う!)
化け物(どちらかというと、挑戦者はボク……!)
長老「さあ、来るがいい」ゴゴゴ…
化け物「はいっ!」
化け物「ぬうううっ!!!」ギュオッ
ドゴォッ!!!
化け物の巨拳が、長老の全身にクリーンヒットした。
しかし――
化け物(ビクともしない……! 一ミリも動かない……ッ!)
長老「ぬんっ!!!」ブオッ
ベキィッ!!!
長老のローキックで、10トンある化け物の巨体がぐらつく。
化け物「ぐうっ……!?」ヨロッ…
化け物(なんて重さだ……! 骨の芯まで響くようだ!)
長老「遠慮はいらんぞ。命を奪うつもりで参れ」クイクイッ
化け物「……分かりました。全開でいきます」
化け物「ガァァァッ!!!」グワッ
ガブゥッ!!!
長老「ほう……ッ」ブシュッ…
化け物が長老の肩の肉を食いちぎる。
さらに、立て続けに巨大な拳を長老めがけて叩きつける。
ドゴンッ! ドゴンッ! ドゴンッ! ドゴォォンッ!
村娘「一撃浴びせるたびに、地面が揺れるわ!」グラグラ…
村人「さっすが……たまんねえや!」グラグラ…
頭領「あの長老が戦いたいといっただけのことはあるぜ」グラグラ…
化け物「まだまだァ!」ガシッ
ブオンッ!
長老を村の外まで放り投げる。
そして――
化け物「ボクの必殺技――エクスプロージョン・ブレス!!!」
化け物の口から巨大な光線が発射される。
ズオッ!!!!!
ドグォォォォォォォォォォォンッ!!!!!
グゴゴゴゴゴ……!
村娘「うわ、すっごいキノコ雲……!」
村人「決まったか!?」
頭領「これじゃ、いくらあの長老でもひとたまりも……」
化け物「…………!」ピクッ
化け物「あ、あああ……あ……」
化け物「そ、そんな……ッ!」
長老「ほっほっほ、やるのう……」モクモク…
村娘「ウ、ウソでしょ……!?」
村人「ほとんどダメージを受けてねえ! 食いちぎられた肩の肉も再生してる!」
頭領「これが……長老……ッ!」
長老「人にあらざる者のパワー……堪能させてもらった」
長老「では次はワシの番じゃな」
化け物「ぐ……!」
化け物(か、勝てない……! 格が違う……! いや、次元が違いすぎる……!)
村娘(このままじゃ……青年君が長老に殺されちゃう!)
村娘「逃げてーっ! 逃げるのよーっ!!!」
長老「ゆくぞォッ!!!」
化け物(ここまでか――)
無数のしわが刻まれた長老の拳が、化け物に迫る!
グオンッ!!!
――ピタッ!
長老の一撃は、寸止めであった。
長老「ほっほっほ、勝負ありってとこじゃな」
化け物「はい……完敗です」
長老「久しぶりに楽しませてもらった……ありがとう」
化け物「いえ、とんだ力不足でした……」
村娘「よかった……」ホッ
村人「長老は最初から、命の奪い合いをするつもりはなかったみたいだな」
頭領「長老……いずれ俺が倒してやるぜ!」
戦いは決着したかに見えたが――
ザザザザザッ!!!
国王「フハハハハ、やっと見つけたぞ!」
王国軍一万を率いた国王が現れた。
村娘「あれは……王国軍!?」
村人「なぜ、こんな田舎の村に!?」
頭領「いくらなんでもタイミングがよすぎるぜ!」
化け物(そ、そうか……ボクを討伐しに……!)
化け物(やっぱり、ボクの命はここまでみたいだ……)
国王「……兄さん」
長老「フッ、見つかってしまったか」
化け物「え!?」
村娘「長老と王様が兄弟ってどういうことなの!?」
長老「我が国では、王族のうちで最強の者が王になるというしきたりがあるのじゃが」
長老「ワシは兄弟同士で争うのが嫌で、城を飛び出したんじゃ」
国王「最初のうちは軟弱な兄に興味はないと、追いかけることもしなかったのだが」
国王「やはり年月を経るうち、余は兄を倒さずして、最強を名乗ることなどできぬ! ……と悟った」
国王「だから、ここ数年、兵をあちこちに派遣して兄を探し出そうとしていたのだ」
国王「さっきの大爆発のおかげで、これは兄の戦いによるものに違いない、と気づくことができた」
化け物「……ということは、化け物討伐のために兵を動かしてたというのは?」
国王「さすがに兄探しのために兵を動かしてるとはいえんからな」
国王「表向きの理由はそうしていたのだ。余は人外になんの偏見もない」
化け物「そうだったんですか……」
国王「もう逃しませんよ」
国王「始めましょう、兄さん」
長老「分かった……」
国王「さて、王冠を脱ぐとするか」スッ
国王「ぬんっ!!!」グシャッ
兵士「陛下がオリハルコン製の王冠を、自ら両手でひねり潰した!」
それすなわち、王が王ではなく“一個の人間”として戦う覚悟を示したということ……!
この瞬間、王に何があろうと、王国軍が戦いに介入することは許されなくなったのだ!
長老「はあああああっ!!!」
国王「ぬがああああっ!!!」
ズガガガガガガガガガガガガガッ!!!
長老の拳と国王の拳が閃光となって、入り乱れ、ぶつかり合い、火花を散らす。
もはや村の住民や化け物、一万の兵士たちは兄弟喧嘩を固唾を飲んで見守るしかなかった。
彼らは観客でしかないのである。
長老「はっ!」ギュンッ!
国王「はっ!」ギュンッ!
化け物「消えた!?」
村娘「違うわ、上空へ跳んだだけよ!」
化け物「見えなかった……」
村娘「あなた、パワーはあるけど、まだまだ動体視力は鍛え足りないわね」クスッ
化け物「うっ……」
化け物「二人はどこへ……?」
村娘「今、あの二人は……上空5000メートルのところで死闘を繰り広げているわ」
化け物「5000メートル……! なんて瞬発力だ!」
村人「一進一退の攻防だ!」
頭領「どっちも退かないぜ! 薄い大気の中でやり合ってやがる!」
化け物(村の人はみんな観戦できている……さすが、あの長老さんの弟子だ!)
ギュゥゥゥゥゥッ!!!
化け物「流れ星!?」
村娘「違うわ! あの二人が取っ組み合いながら、落ちてきたのよ!」
村娘「衝撃波が来るから、あなたはあたしの後ろに隠れて!」
化け物「う、うん!」バッ
ズガァァァァァンッ!!!!!
グゴゴゴゴゴ……!
上空5000メートルから墜落した二人は、なおもクレーターの底で壮絶な殴り合いを続け――
長老「ハァ、ハァ、ハァ……」
国王「ゼェ、ゼェ、ゼェ……」
長老「決着をつけようぞ、弟よ!」
国王「王ッ!」
長老「ろおおおォォォォォォォォォッ!!!」
国王「おおおおォォォォォォォォォッ!!!」
――バキィッ!!!
二人の拳はクロスカウンターの形となって、互いの顔面にめり込み、二人ともブッ倒れた。
ダブル・ノックアウト――
国王「へへ……やっぱり……兄さんは強いな」
長老「おぬしこそ……成長したな」
国王「城に戻ってくる気はないんだね?」
長老「うむ……ワシはここで隠居しとる方が性にあっとる」
国王「……分かったよ。じゃあ無理強いはしない。これからもここで元気に暮らしてくれ」
長老「これからも国を頼むぞ……我が弟よ」
国王「ああ!」
国王「では全軍、撤収だ!」
ザッザッザッ……
青年「…………」
村娘「…………」
青年「ボクは元々、王国軍に討伐されると思ってあちこちを旅してたんだけど……」
村娘(歴史を調べるってのは、それを隠すための嘘だったってわけか)
青年「これでもう、逃げる必要はなくなったわけだ」
村娘「ねえ、だったらあたしと一緒に暮らさない? 一緒に強くなりましょうよ!」
青年「!」
村娘「あなたはまだまだパワー頼りだし、あたしもあなたみたいにブレス吐いてみたいし」
村娘「二人で鍛錬すれば、二人とももっともっと強くなれるわよ!」
青年「本当にいいのかい?」
村娘「もっちろん! あたし、あなたのこと気に入っちゃった!」
村人「ちぇっ、見せつけやがって!」
頭領「強力なライバルになりそうだぜ!」
長老「ほっほっほ、こりゃ村にまた新しい仲間が増えたようじゃの」
アッハッハッハッハ……
― 完 ―