犯人「クックック、この時をどんなに待ったことか……」
男「お、お前は……!」
犯人「今こそ恨みを晴らしてやる! 死ねえっ!」ダッ
グサッ!
男「ぎゃああああああっ!」
犯人「はぁっ、はぁっ、ざまあみやがれ!」タタタッ
男「ぐっ……!」
男「ナイフで脇腹を刺された……ダイイングメッセージ書かなきゃ!」
元スレ
男「ぐっ、ナイフで刺された……ダイイングメッセージ書かなきゃ!」
http://viper.2ch.sc/test/read.cgi/news4vip/1504701189/
探偵「男さん、ずいぶん遅いな……」
助手娘「ええ、トイレにしては遅すぎます」
大阪人「何かあったんちゃうか?」
犯人「まさか……トラブルに巻き込まれんじゃ!? 誰かにナイフで襲われたとか……」
女剣士「考えられるわね……」
料理人「心配デース!」
助手娘「先生、男さんの部屋に行ってみましょう!」
探偵「うん、そうしよう」
探偵「こ、これは……!?」
助手娘「ひどい……」
大阪人「男さんが血を流して倒れとるやんけ!」
犯人「きっとナイフで刺されたに違いない……誰がこんなことを!」
女剣士「とにかく死体を片付けないと……」
料理人「そうデースね!」
探偵「いや待て! さわるな!」
探偵「男さんは指に血をつけて、何かを書き残している! 犯人の手掛かりになるかもしれん!」
犯人(な、なんだと!?)
大阪人「ダイイングメッセージっちゅうやつやな、工藤!」
探偵「誰が工藤だ!」
男「……」プルプル…
助手娘「っていうか先生、男さんまだ書いてる途中ですよ! プルプルしてます!」
探偵「なんだと!?」
大阪人「なんやて!?」
女剣士「まだ生きてるってことじゃない。すぐ手当てしないと……」
犯人(ちいっ、しまった!)
探偵「よし、このロッジには救急箱もあるし、応急手当てをしよう。助手、手伝ってくれ」
助手娘「はいっ!」
男「やめろ!!!」
男「まだ俺はダイイングメッセージを書いてるんだ……!」
男「邪魔……するな……!」
探偵「しかし、そのままでは死んでしまうぞ!」
助手娘「そうですよ、すぐ手当てしないと!」
男「うるさい!!!」
男「俺のダイイングメッセージを邪魔した奴は……殺す!」
探偵「……いいでしょう」
探偵「そこまでの覚悟であれば、あなたが書き終わるのを待ちましょう」
男「えぇ~と……私を指し殺した犯人は、と……」プルプル…
探偵「あ、字が間違ってますよ」
探偵「刃物とかの“さす”は“指す”ではなく“刺す”です」
男「あ、そうでしたっけ」
男「誰か修正液持ってませんかね?」
助手娘「あ、あたし持ってます!」
男「ありがとうございます」
犯人(まずい……このままではまずい……。俺の名前を書かれてしまう……)
男「……」プルプル…
大阪人「ったく、いつまで書いてるんや、あいつ……。もう五時間やで!」
大阪人「このまま待つんか、工藤?」
探偵「邪魔したら殺されるんだから、待つしかないだろう。あと俺は工藤じゃねえ」
大阪人「まったく……とんでもないことになってしもたわ」
犯人(時間が経つにつれ、だんだん罪悪感が大きくなってきた……)
犯人(もう全てを話した方が……)
犯人「あ、あの……」
探偵「なんですか?」
犯人「実は……あいつを刺し殺したのは……」
探偵「?」
犯人「この俺――」
男「やめろーっ!!!」
犯人「お、お前!?」
男「心配すんな……必ずダイイングメッセージを書き切ってやるからよ!」
男「だから……見守っててくれ! 自白しないでくれ! 一生のお願いだ、頼む!」
犯人「……う、うん!」
探偵「あの、何をいおうとしたんですか?」
犯人「あ、いや、なんでもないです! ハハハ……」
女剣士「ところで、お腹減ってきたわ。そろそろご飯にしない?」
助手娘「そうですね。もう夕ご飯の時間ですし……」
料理人「それが……」
探偵「どうしたんですか?」
料理人「ワタシが味見しすぎて、食料なくなってしまったんデース!」
探偵「な、なんだって!?」
大阪人「ホンマかいな!?」
料理人「ホンマデース」
女剣士「殺人事件が起きた上に、ご飯がないなんて、冗談じゃないわ! もう帰りましょうよ!」
探偵「それもそうですね」
助手娘「ご飯抜きはツライですもんね」
犯人「え、でも事件は……?」
探偵「このロッジを出てから、警察に通報すればいいんですよ。あとは全て警察に任せればいい」
大阪人「それは名案やで、工藤!」
探偵「工藤じゃないっちゅうに」
男「そうはいくか!」ポチッ
ドゴォォォォォォンッ!!!
助手娘「きゃあぁぁぁっ!」
料理人「爆発の音デース!」
探偵「何をした!?」
男「ククク……このロッジの近くにある吊り橋を爆破したのさ」
男「さらに、電話線も切ったし、もちろんここは携帯電話も圏外だ!」
男「町の連中がここの異変に気づいて救助を出すまで……ざっと三日はかかるだろうな!」
男「つまり、お前たちは閉じ込められたというわけさ!」
男「おとなしく俺が書き終わるのを待ってるんだな!」
探偵「くっ……!」
助手娘「なんて人なの!?」
大阪人「意地でも俺らにダイイングメッセージを見せたいっちゅうことかい!」
女剣士「おのれぇ……!」
料理人「なんてこっターイ!」
犯人(そこまでしてダイイングメッセージを……なんて執念だ!)
犯人(俺、あいつのこと誤解してたのかも……)
三日後――
男「……あれ?」
男「血がなくなっちゃった」
探偵「そりゃそうですよ」
探偵「こんな長々と血でダイイングメッセージを書いてたら、出血は止まるし、血は乾きますからね」
大阪人「しかも、あんたのキズ、治りかけとるしなぁ。カサブタできとるで」
助手娘「いわば、今の男さんはインクの切れたボールペン……ということですね?」
大阪人「そういうことやな。なぁ、工藤?」
探偵「だから工藤じゃないって」
男「そ、そんな……! せっかくここまで書いたのに……!」
男「おい!」グイッ
犯人「ひっ!?」
男「お前、もう一回俺を刺せ! 出血させろ!」
犯人「ええっ!?」
男「そうしないと、俺がダイイングメッセージを書き切れない!」
犯人「い、イヤだ! もう人を刺すなんて懲り懲りだ!」
男「ちっ、この臆病者が! どうしてもやらないんならムリヤリ……」
探偵「よせ! 嫌がってるじゃないか!」
男「よくない! ここまできて諦め切れるか!」
男「こうなったら、お前たちの血を使うしかない……全員殺す!!!」
探偵「な……!?」
助手娘「先生、あの人本気ですよ!」
大阪人「ああ……ヤツの目には殺意がビンビンしとるでえ!」
女剣士「こうなったらやるしかないようね!」チャキッ
料理人「六対一ですが、仕方ありまセーン!」
犯人「お前のことは……必ず止めてみせる!」
男「さぁ、まとめてかかってこい!!!」
……
男「この程度か?」
探偵「つ、強い……」
助手娘「いたたた……」
大阪人「あいつの強さ……ホンモノやでぇ……」
女剣士「くっ……!」
料理人「ワタシの包丁が通用しまセーン!」
犯人「俺では彼の凶行を止めることはできないのか……!」
女剣士「まだよ!」チャキッ
探偵「女剣士さん!」
女剣士「私の剣に諦めの文字はない! 諦めなければ……必ず道は切り開ける!」
男「な、なに!? どこにこんな力が!?」
女剣士「うわぁぁぁぁぁっ!!!」
ザンッ!
ボトッ……
男「ぐおおぉぉぉ……!」ブシュゥゥゥゥ…
探偵「おおっ、ヤツの右腕を斬り落とした!」
大阪人「やるやないか、あの姉ちゃん! なぁ、工藤!」
探偵「だから工藤じゃねえっての!」
男「ぐっ……! この俺が……あんな女一匹に……ッ!」
女剣士「片腕になった今、あなたの戦闘力は半減したわ! 私の勝ちよ!」
男「ちくしょう……ちくしょおおおおおおおおお!!!」
女剣士「アーッハッハッハッハッハ!」
男「なんちゃって!」
女剣士「は……?」
男「バカ笑いしやがって。俺が右腕を切り落とされたぐらいで死ぬと思ったのか?」
女剣士「なんですって……!?」
男「ふんっ!」グニュグニュ…
助手娘「み、右腕が……」
料理人「生えていきマース! まるでトカゲデース!」
男「ぬうう……」グニュグニュグニュ…
ギュバッ!
男「これで元通りだ……ガッカリしたかね?」
女剣士「ひいい……再生できるなんて……!」
男「だが、俺を怒らせたことに変わりはない……今度こそ六人とも皆殺しにしてやる!」
犯人「あわわ……」
大阪人「あの兄ちゃん、元気いっぱいやで! なんとかせえや、工藤!」
探偵「工藤じゃねえっつってんだろ!!!」
探偵(しかし、なんとかしないと……全員あの男に殺されてしまう!)
探偵(なんとかヤツの機嫌を取らないと……あ、そうだ!)
探偵「あのさ……今流れた血でダイイングメッセージを完成させればいいじゃん!」
男「なるほど!」
一時間後――
男「や、やった……!」
男「できた……! ついにダイイングメッセージが完成したぞ!」
やったーっ!!!
パチパチパチパチパチ…
ようやく、渾身のダイイングメッセージが完成した。
文字数10万字に及ぶダイイングメッセージは、起承転結あり、笑いあり、涙あり、叙述トリックありの、芸術的な文章に仕上がっていた。
余談だが、このダイイングメッセージは「世界一長いダイイングメッセージ」として、
ギネス登録されることとなる。
犯人「やったな! すげえよ、お前!」
男「いや、みんなの力があったからだよ」
男「俺を刺してくれたお前、アドバイスしてくれた探偵さん、探偵さんを支えた助手のお嬢さん」
男「俺の右腕を切った女剣士さん、つまみ食いした料理人さん、色々やかましかった大阪人さん……」
男「このロッジに集まってくれたみんなの力がなきゃ、このダイイングメッセージは完成しなかっただろう」
男「みんな、本当にありがとう!」
料理人「ワタシ、ダイイングメッセージ完成を祝して、料理を作りマーシタ!」
探偵「えっ、本当に!?」
助手娘「やったー!」
大阪人「ほう、気がきいとるやないか!」
女剣士「嬉しいっ!」
犯人「なにしろ、三日間飯抜きだったからね……お腹ペコペコだよ」
男「さっそく三日ぶりの食事にしよう!」
いただきまーす!!!
探偵「うん、うまい!」モグモグ
助手娘「このお肉、おいしいですね!」モグモグ
大阪人「イケるでこれ!」モグモグ
女剣士「へえ、なかなかの味ね……」モグモグ
犯人「肉汁たっぷりで、とってもジューシィだ!」モグモグ
男「なんだかとても親しみのある味だ……」モグモグ
料理人「皆さんに喜んでいただけて嬉しいデース!」モグモグ
犯人「あのさ……」
男「ん?」
犯人「三日前は……お前のこと、刺してごめん」
男「俺こそすまない……俺はお前に恨まれて当然のことをしてたんだから」
犯人「いや、もう恨んじゃいないさ」
犯人「よかったら仲直り……しないか?」
男「もちろんさ!」
助手娘「あの二人、仲直りしてくれたみたいですね!」
探偵「ああ……雨降って地固まるってやつだな」
美味しい食事を通じて、互いの理解を深め、和解に至る――
これぞダイニングメッセージ!!!
バババババ…
女剣士「あっ、救助のヘリが来たわよ!」
料理人「これでやっとこのロッジから出られマース!」
大阪人「工藤……今回は俺の完敗や。だけど次は負けへんでぇ! またどこかで推理対決しようや!」
探偵「ああ、楽しみにしてるよ。あと俺は工藤じゃねえ」
探偵(これで哀しみと憎しみに満ちた一連の事件はめでたく幕を閉じた)
探偵(だけど、一つだけ解決していないことが……)
救助隊「皆さん、順にヘリコプターに乗って下さい!」
男「はい!」
犯人「お先に!」
女剣士「やっと帰れるわぁ~」
大阪人「色々あったけど、楽しかったで!」
料理人「ワタシもデース!」
探偵「……」
助手娘「先生、どうしました?」
探偵「うん……ちょっと気になることがあってな」
探偵(料理人さんはつまみ食いで食料を全部食べてしまったはずなのに)
探偵(最後の肉料理に使われた肉は一体どこから出てきたんだ……!?)
探偵「!」ハッ
探偵(女剣士に切り落とされた、男の右腕が消えている! ってことは、あの肉は――……)
助手娘「先生? なにか分かったんですか?」
探偵「いや……なんでもない。世の中には明かさない方がいい真実ってもんもある」
探偵(やれやれ、推理力が高すぎるってのも困りもんだぜ!)
― END ―