少女「コミケ行くので泊めてください!」男「は……?」【前編】
ザァー…
少女「……、んっ……」
少女「ぐっ、うぅ~……、くぁ~~~」ノビッ
少女「あれ、ココは……」ガバッ
少女「……そっか、男さんの家か」
少女「あれ、でもさっきまで、COMIKEから帰って……」
少女「…………」
チクタク チクタク
少女「……3時」
少女「外は真っ暗……」
少女「ああ、そうか。もう朝になったのか……」
少女「…………」
少女「なんだか、肌寒いな」
少女「…………」
少女「……寒いのは、イヤだな……」
少女「……?」
少女「あれ。そういえば、男さんがいないな……」
少女「昨日は、この部屋で一緒に寝てたハズなのに」
少女「ああ、でも向こうの部屋だけ明かりがついてる」
少女「ヨイショっと」タタッ
少女「髪を……、まとめて……」
――ダイニング
少女「男さーん!」
男「ん。今、起きたか」
少女「ええ。ゆうべはグッスリ眠れたようです!」
男「なら良かった。出発まではまだ時間がある。体の調子を整えろ」スイッ スイ
少女「……? あの、男さんは、何を?」
男「ケータイで今の状況を調べていた」
男「どうやらココと同じく、有開でも雨が降っているらしいな」
少女「雨……」
男「天気予報では、昨日と同じく、朝は降ってても昼にはやむようだが」
男「とはいえ、待機列で雨に降られるコトは間違いない」
男「ある程度カクゴしておくことだな」
少女「……そうですか」
男「……? どうした。元気無いな。朝は低血圧か?」
少女「ええと……、ですね。それも、ありますが……」
少女「……ちょっと、私のハナシ、してもいいですか?」
男「…………」
男「わかった。聞こう」
男「ソコに座れ」ガタ
少女「ありがとうございます」
男「…………」
少女「…………」
男「……何か、飲み物を入れるよ」
男「寒いし、ホットコーヒーでいいか?」
少女「ホットコーヒー……」
少女「……ええ。お願いします」フフ
男「……? なに笑ってるんだ……」
男「ああ、そうだ。俺はあいにくとブラック派でな。牛乳と」
少女「―――牛乳とガムシロップの貯蔵は無いが、フレッシュならある」
少女「……ですか?」
男「……!」
男「あ……、ああ。たしかにそうだが……」
少女「いいえ、構いませんよ。実は私もブラック派なので」
男「ほう。その年の頃で、たいしたモノだ」
少女「ムカシから飲んでいますから」
男「……そら、コーヒーだ」コト
少女「うぅ……ん。おごそかな闇色の薫り……」スン
少女「一日はコレが無いと始まりませんね」
男「ふふっ。通だな」
男「俺も食にコダワリは無いが、コレだけはな」ズズ
少女「……苦くて、熱いですね。五臓六腑に染みわたります」
男「飲みすぎはキンモツだぞ。さて、ハナシを聞こうか」
少女「…………」
男「…………」
男「……話しにくいなら、別にいいんだが」ボリボリ
少女「いえ。私から言い出したコトですから、喋らせてください」
少女「……そうですね。男さんには、知るヨシも無いと、ことわっておきますが……」
少女「私の“ふるさと”のハナシです」
男「ふるさと。そういえばお前、いったいどこから来たんだ?」
少女「お教えしても良いんですが、絶対にご存知無いので、やめておきます」
男「おいおい。俺だって、そんなに世間知らずじゃ……」
少女「私にはそう断言できるのです」
男「…………」
男「……そうか。なら、まあいいがな」
男「で。お前の“ふるさと”というのは、どういうところなんだ?」ズズ
少女「……。そう、ですね……」
少女「……いいですか。カーテン」
男「ああ」
シャアッ
ザァー…
少女「私のふるさとは、こんな風に、いつでも“雨”が降っているところです」
少女「いつでも。どこでも。いつまでも」
少女「やむコトの無い雨が、永遠に降り続けている場所です」
男「…………」
少女「まあ、そんなワケですから。私は生まれてからずっと、屋根の下で育ちました」
少女「別に、私にはソレが常識でしたので、何とも思いませんでしたが」
少女「この国に来て、青い空、白い雲、眩い海、瞬く星というのは」
少女「絵本の創作ではなく、本当に存在するモノだと、初めてこの肌で感じたのです」
男「それは、東狂の海か?」
少女「ええ。どこまでも眩く照らされる海、無窮に瞬く星々……」
少女「世界というのは、スバラシイものですね」
男「田舎のほうに行けば、自然はもっとキレイだぞ」
少女「ええ。一度、行ってみたいモノです」
少女「でも、私の“ふるさと”は」
少女「今の、この景色のように」
少女「ずっと、雨が降っていました」
ザァー…
少女「ずっと、ずっと、ずっと……。終わるコトの無い雨」
少女「それに、この“雨”というのは、いささかタチの悪いモノでして」
少女「浴びると、カラダに良くないのですね」
男「……酸性雨のようなモノか?」
少女「きっと似ていますが、もっと、もっとタチの悪いモノをご想像いただければ」
少女「とにかく、その“雨”は、人々の往来を億劫にさせました」
少女「必然、一ヶ所に多くのヒトが住むと、食糧や資材も大量に必要になりますから」
少女「なるたけ行動しなくて済むように、少人数が分かれて住むようになったのです」
男「……それは、面白くないな」
少女「ええ。面白くありません」
少女「一緒に遊んでくれるオトナのヒトも、同年代の友達も少ないですから」
ザァー…
少女「でも、そんな私にも、一つだけ楽しみがありました」
少女「それは、おじいちゃんから、大人数のヒトが集まっていた時のハナシを聞くことです」
男「君のおじいちゃんか。いったい、どんなヒトなんだ?」
少女「うーんと。そうですねえ……」
少女「普通のおじいちゃんでしたよ。うん、ごく普通の」
少女「物静かで、落ち着いていて……。優しくて、モノ知りで……」
少女「私の、大切なおじいちゃんでした」
男「…………」
少女「そんなおじいちゃんから聞いたんですね。私は、COMIKEのハナシを」
少女「もっとも、私が聞いたのは“コミケ”だったような気もしますが……」
男「ほーう。孫にCOMIKEのハナシをするとは、かなり変わったおじいちゃんだな」
少女「ええ、本人もそう言っていました」
少女「でも、私はそのハナシが好きでした」
少女「私には考えられないくらいのヒトが集まって……」
少女「その人々には、それぞれ一人一人に、目的が、嗜好が、人生があって……」
少女「自分のほんの人生の一部を見せ合い、認め合う」
少女「COMIKEはそんなところだと、おじいちゃんは話していました」
男「そんなキレイなモンじゃないぞ? COMIKEは」
男「色んなヒトが集まりすぎて、体臭はクサいし、変なヤツもやってくる」
男「昨日今日はマシそうだが、もし気温が上がれば、会場自体どうなるコトか」
少女「あはは。ソレについては、身をもって体感するコトにします」
少女「でも、伝え聞くCOMIKEの姿は、とても楽しそうで……」
少女「貸してもらったチャームや同人誌からも、その光景を想像していました」
男「お、おい……。お前のおじいちゃん、同人誌も持ってたのか?」
少女「ええ。その手のマニア、というワケではないようでしたが」
男「ちなみに聞くが、同人誌といっても、普通の本と変わらない健全なやつだよな?」
少女「いいえ? えっちぃのも多かったですが。えへへ」
男「えへへて……」
男「おじいちゃん。あなたは孫を、どんな風に育てたいんですか……?」
少女「ふふ。でも、ソレも、必要なコトだったのかもしれませんね」
少女「そしていつしか、私は、生でそのお祭に参加してみたい」
少女「そう思うようになりました」
男「だから、一昨日、ココに来たのか」
少女「ええ! その機会を手に入れた私は、それはもう、バビューンと!!」スッ…
少女「はるばるやってきたのですよ!!」シャキーン
男「……ふっふっ。エネルギッシュなヤツだ」
少女「ええ! 不肖私、元気なコトだけが取り柄なので!」
男「結構。だけどその元気も、二日目、三日目のいつまで保つかな?」
少女「いつまでも、ですよーっ!!」
少女「……ふう。話してたら、なんだか目も覚めました」コト
少女「さあ、男さん! 出発はいつにしますか!?」
男「そうだな、それじゃあそろそろ行くとするか」ガタ
男「だが、出来ればその前に腸の中のモノは出しておけ」
男「並び始めたら、待機列確定まではガマンしてもらうぞ」
少女「うぅ……。ちなみに、どうしてもダメだったら?」
男「喜べ。一気に十数万人の中のスターダムだ」
少女「そんなの喜べませんよーっ!!」
男「スターダストともいうな」
少女「ぐぅぅ……っ、そんなハナシしてたら、なんだか下ってきました」ゴロゴロピー
少女「では! ちょっと! おトイレお借りしますね!」ダダダッ
男「はいはい。……やれやれ、生理現象までニギヤカなヤツだ」
男「さて、アイツ薄着だし、防寒用のズボンも用意してやるか……」ガサガサ
男「それと上着。夏コミで追加の上着なんて、珍しいコトだが」
男「この雨だとレインコートじゃダメかもしれんな。使うかどうかは別にして、折り畳み傘か……」
男「あと、重要なのが防水カバー。戦利品を濡らすワケにはいくまい」ゴソゴソ
男「…………」ピタ
男「雨の降り続ける世界、ね」
男「一日中昼だったり、夜だったり、凍ってたりする国ならまだしも」
男「ニワカには信じがたいハナシだ、が」ギュウギュウ
男「……アイツがウソをついているというワケでもないだろう」
男「……本当に存在するのか、そんな国が」
男「…………」
男「少人数で人々が暮らして、COMIKEも行えない世界か」
男「……ふん」
男「あまり、好かんな」ギュウギュウ
――アパート前の道路
少女「男さん! 今日も今日とて重装備ですね!」
男「雨だから、特にな。それに列待機用のジュンビもある」
ブロロロロロ
キキー
カパッ
運転手「どうぞ」
少女「おっ! 昨日の運転手さん!」
運転手「またお会いしましたな」
男「この地区の担当なんですか?」
運転手「そんなところです。では、どうぞ」
ブロロロロロ…
バシャバシャ
運転手「今日はドシャブリの雨ですなあ」
男「ええ。雨の日は、やっぱり客足も遠くなるモンなんですか?」
運転手「いかにも。今朝は、お二人が最初のお客様で」
男「そうですか……。やっぱり雨の日はCOMIKEの人も少ないのかな」
運転手「経験則から言うと。ですが、しかし」
運転手「やはり行くヒトは行っておられますよ」
少女「私たちも今から行くところですもんね!」
男「お前、言っておくがそんなジマンするハナシじゃないからな……」
運転手「はっは。しかしこの十数年、COMIKEもずいぶん一般的になりました」
運転手「私としては喜ばしくも、フクザツでもありますな」
男(この運転手さんも、あるいは一家言あるヒトなのか……?)
――秋羽原
ゴー
少女「やっぱり朝はスイスイですね」
男「夕方はえらく混んでたがな」
運転手「東狂という街の日常ですな。……と!」
プァーン
少女「あ……っ! 左手の路地から、別のクルマが!」
男「危ない、ぶつかる!!」
運転手「――――――ふ」
キキッ!!
シュゴオオオオオオオオ!! ジャバアアアア
少女「な……っ!」
男「ドリフト走行で、回避した……ッ!?」
運転手「ほっほ」ギュウウウウン
男「運転手さん、あなたはいったい……?」
運転手「東狂という街の日常ですな」
――豊州
少女「ちょっと、男さん! 何ですかアレは!」
少女「前方の水たまりが、毒沼のような瘴気を発していますよ!」
ゴポゴポ…
男「音がおかしい! アレ絶対入ったらダメージ受けるやつじゃん……!」
男「明らかに色もグレープ味のそれだし!」
男「運転手さん! 何かご存知ですか……!?」
運転手「ああ。アレは、いま話題の“土壌汚染”の影響ですな」
男「土壌汚染!? それってそんな殺人的な問題でしたっけ!?」
運転手「新市場予定地から漏れ出した化学物質が、突然変異して道路を侵食しているのです」
運転手「東狂という街の日常ですな」
少女「と、東狂とはいったい……!!」
運転手「さて、日が昇れば、行政が対処に動き出すでしょうが……」
運転手「我らは悠長に待っていられませんな」キキッ
シュバ!! シュババ!! シュババババババ!!!!!!
男「た、ターンに次ぐターンで毒沼をかわしていく……!」
少女「車体は方向転換と、急失速、急発進を繰り返している……」
少女「なのに!!」
少女「サイドブレーキ脇の、紙コップに入れられた水が、一切こぼれていない……!!!」
運転手「一万一千回転まで」
運転手「キッチリ回せ!!」バッ!!
男「ソレは誰に向けて!?」
ブオオオオオオオオ…
――鷲ントンホテル前
運転手「さて、今日もココで良かったですかな」
男「ありがとうございます……。あの、スゴいドライビングテクニックでしたね」
運転手「なんの。ココは峠でもなければ、張り合う相手もいない」
運転手「文字通り、ロートルの朝飯前ですよ。では」
ブロロロロロ…
少女「……なんで、ただのタクシー運転手さんに、あんなヒトがいるんですか?」
男「ううむ、わからん。東狂、おそるべし……」
――鷲ントンホテル 1029号室
友人「おやwww男氏、少女氏wwwヤケモーニンwwwwwwぴゃっwww」
白い死神「来たか。男とカノジョさん」
少女「おっはよーございまーす!!」
男「二人とも揃い踏みか。……だから、そういうんじゃないからな」
男「ていうか死神、今日はお前もいたのか?」
白い死神「ああ。昨日は初日だから、下見も兼ねて、早くに出てたが……」
白い死神「今日は二日目だからな。しかも雨だ。濡れネズミになるシュミは無い」
友人「それでは死神氏www最後の作戦確認をwww」
白い死神「ああ。まず今日は二日目、女性向けの日だ。さらにこの天気、低い気温」
白い死神「さして混むというコトはあるまい」
白い死神「だが、それでも待機列は既に徹夜組でごった返している……」
白い死神「主な大手は瞬殺と考えるべきだろうな」
友人「んんwwwCOMIKEの厳しい現実www」
白い死神「お前さんたちが狙う黒ずくめも、結構な大手だが……大丈夫か?」
友人「ダイジョウブかwwwダイジョバナイかでいえばwww断言はできないwww」
友人「COMIKEには常に例外が存在するwww」
友人「だがwwwその例外の中でwww最善を尽くすwww」
友人「それが我ら“戦士”たちのやり方wwwwww」
白い死神「さすが、ベテランは言うコトが違うね」
白い死神「じゃあ、黒ずくめはお前たちに任せるとして」
白い死神「俺たちは天帝をはじめとした商業作家の大手に波状攻撃を仕掛ける」
白い死神「いちばん人気は、おそらく、ボッチ系ラブコメの柑橘類だろうが……」
白い死神「今回、俺たちはココはトラッシュだ。リスクが高すぎる」
友人「委託もありますからなwww適切なリスクマネジメントと言わざるを得ないwww」
白い死神「俺も柑橘類の絵は好きなんだがな……」
白い死神「しかし、限5なら、派遣するのは一人で十分といえる」
白い死神「また、同じ理由で、企業もパスだ」
白い死神「企業といえば、昨日レジ1台で牛歩作ってたところもあるらしいから、恐ろしいハナシだ」
友人「それでも一時期に比べればwww企業の失態も聞かなくなったwww」
友人「スナオに喜ぶべきか、なんとするべきかwww」
白い死神「逆に今回速攻をかけるべきは、限3の行楽地だ」
白い死神「よほど在庫に自信があるのか、それともただのバカなのか……」
白い死神「開場一時間くらい経ってから行って、やっぱ限1にしましたー」
白い死神「なんて言われたら、たまったモンじゃない」
友人「自分の人気を適切に見極めるのもwwwサークル主の重要なスキルですなwww」
友人「謙虚すぎるのも、傲慢すぎるのもいけないwww」
白い死神「ちなみにお前は昨日、売れ行きはどうだったんだ?」
友人「んんwwwあの後、宅配便を利用しましたなwwwwww」
白い死神「余ったってコトね。やっぱオワコンじゃねえの?」
友人「委託は売れているからwww根強いファンはいると信じたいwww」
少女「……お、男さん! 専門用語がバンバン飛び出していて、ワケがわかりません!」
男「別にわからなくてもいいよ。俺たちには関係の無いハナシだ」
少女「でも、気になりますよぅ……」
男「そうだな……。じゃあ、何が訊きたい」
少女「まず、二日目が女性向けの日、というのは?」
男「文字通りだな。二日目は、女性向け作品の頒布物が多い日だ」
男「そもそも、COMIKEは、開催日ごとに頒布物の傾向がある」
男「ちなみに一日目は小説・ゲーム・アニメ中心。三日目は……、男性向けだな」
少女「ほう。私がキョーミありそうな作品も、頒布やってますかね?」
男「そんなの知らん。自分の…………、……胸に訊け」
少女「……? ハイ、わかりましたとも」
少女「じゃあ、限5とか、限3というのは?」
男「限は限数のコトで、そのサークルで一人が一度に買える頒布物の数のコトだ」
男「たとえば限5なら、一人が一度に買えるのは5セットまで、となる」
少女「そんなの、あらかじめ決めておく必要あるんですか? 適宜対応すれば?」
男「決めておかないと、転売屋に在庫根こそぎ持っていかれるんだよ」
男「限数決まってないのを良いコトに、ダダコネられると、列も停滞するしな」
少女「なるほど……。色々と、メンドクサいんですね」
男「もしこんなコトを何も知らないCOMIKE初参加の大手なんか現れたら、大事故だろうな」
男「つまらん暗黙の了解で参加の敷居が上がるのも、如何なものかと思うが……」
少女「秩序と自由の兼ね合い、ですか」フーム
男「そんなところだ。まあ、売れるのがわかってるなら、限1にしてもらえると親切だな」
男「限1にすると、今度はアイツらファンネルが苦しむコトになるんだが……」
男「まあ、それでも転売屋なら、一度買って、二周目並んだりするけどな」
少女「むーぅ。二回以上並ぶのって、オッケーなんですか?」
男「マナーとして良くはないが、並んだヤツの顔一人なんて、覚えられないからな……。黙認だろう」
少女「それでは、柑橘類とか、行楽地っていうのは?」
男「それは、参加サークルの名前の隠語だ……。わからないなら、深く追究するな」
男「検索しても出てこないぞ! もし出てきても人違いだ!」
少女「別にしませんよ……」
白い死神「おっ、そろそろ始発の時間だぞ」
友人「んんwwwではwww出陣といきますかなwwwwww」
男「本当に、あの待機列に並ぶのか……。苦労しそうだな」
白い死神「お前らが並んでるとこ、まずは文字通り高みの見物と洒落込ませてもらうよ」
少女「あれ? 死神さんは、列には並ばないんですか?」
白い死神「ああ。俺は7時半ごろ、サークル待機列から入場させてもらう」
少女「え……? 死神さん、サークル参加してたんですか?」
白い死神「いやいや、違うよ。コイツを使うのさ」ピラッ
少女「それは……、サークルチケット……!」
白い死神「ああ。始発組よりも、徹夜組よりも早く入場できる、魔法のチケットさ」
友人「んんwwwその言い方はwww」
白い死神「おっと、悪い悪い。本来そういう使い方じゃなかったな」
白い死神「んじゃま、お三方。健闘を祈るぜ」ビッ
少女「ええ! 死神さんも、お目当てのモノが買えるように!」
白い死神「ああ。この白い死神の名にかけて、狙い撃つぜ」
――鷲ントンホテル前
男「雨、だな……」
少女「今朝からずっと、降ってますね……」
友人「んんwww待機列につくまで、傘は必須www」ブバッ
友人「ついでに今日の始発ダッシュも見ていきますかなwww」
――シーサイド線 国際展覧場駅
始発組「「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」」」」」」ドドドドドドドド
コ ミ ケ ッ ト
スタッフ長「 C o m e G e t (来たりて取れ) !!!!!!」
スタッフ「「「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」」」」」」
アナウンス『は し ら な い で く だ さ い』
ブアァァァァァァァァッ
少女「う……、ぐ。すさまじい、風圧……!!」
男「二日目だってのに、元気なコトだ……」
友人「ですが始発組は毎回、同じ人間とは限りませんからなwww」
友人「真に賞賛するべきは300人のスタッフ兵ですぞwwwwww」
ダン!! ガン!! ギン!! グチャァ ドン!!
始発組「ぶるああああああああああああああああああ」
始発組「なのはは完売しましたーー!!!」
――LAMSON 国際展覧場駅前店
店員「ラーシャッセー」
男「今日はココで本格的に食糧調達していくか」
友人「ツナマヨとかいう邪道具材は悪ですぞwwwwww」
少女「ツナマヨもオイシイのに……。あっ、私イクラにしようーっと」ガシッ
男「やめておけ、生モノは腐りやすい。しかも今日湿ってるからな」
少女「えぇ? でもさすがに数時間じゃ……」
男「死にたいヤツだけ前に出ろ……」
少女「やれやれ……」ポス
少女「あれ、ていうか商品棚、なんか食べ物減ってます?」
少女「ところどころに穴が……」
男「消費期限切れの早いモノは、即日入れ替えしてるだろうが……」
男「それでもやっぱり、減ってるな」
友人「んんwww昨日どれだけの人が食糧を買い求めたかは想像に難くないwww」
友人「むしろLAMSONの在庫入荷能力に感心せざるを得ないwww」
少女「ある意味ちょっとコワいですね」
男「戦いはこれからだ。さて、明日にはどうなってるかな……」
――ビッグサイト周辺
男「さて、待機列の最後尾は、このへんか……」
スタッフ「COMIKEに参加される皆さんはコチラでーす!!」
スタッフ「東待機列と、西待機列に分かれてくださーい!」
少女「おや。二つの列のどちらかに分かれないといけないみたいですが」
少女「いったいどっちに並ぶんですか?」
男「むう……」
少女「……? 男さん、どうしたんですか?」
男「……いや、どちらにするべきか、と思ってな」
少女「え。男さんにも、列の意味わからないんですか?」
男「いや、列の意味はわかる。東ホールに行く待機列と、西ホールに行く待機列」
男「今回は大まかにいって、同人サークルが目当てなら、東ホール」
男「企業サークルが目当てなら、西ホールだ」
少女「なあんだ! ソレならカンタンじゃないですか!」
少女「黒ずくめさんは当然同人サークルでしたよね」
少女「ならば、東ホールに行く列でキマリです!」
友人「…………、いや、少女氏www」ジジジ
友人「ここはあえて西ホールに行く列へ行く列を選ぶwwwwww」
少女「ええっ! どうしてですか!?」
男「なるほど……。西東、というワケか」
友人「いかにもwwwwww」
少女「え……。西東……、って、何ですか?」
友人「んんwwwこれはCOMIKE上級者の高等テクwww」
友人「たしかに本来、東ホール、つまり東館が目当てなら」
友人「当然東ホールに行く列を選ぶべきwww」
男「だが、“東ホールに行く列のほうが早く東ホールに入れるか”、」
男「“西ホールに行く列のほうが早く東ホールに入れるか”は」
男「開催されるCOMIKEごとに傾向が違ってな」
友人「この場合、後者が“西東”と呼ばれるルートになるワケですなwww」
少女「えぇ……。東に入るのに、西から行ったほうが早いコトがあるんですか?」
男「ある。常識的に東に入るなら東からだから、東に待機列が殺到するコトが多い」
男「その結果、西のほうが空いて、西からのほうが東に入りやすくなるんだ」
男「実際、一日目の昨日はそうだったらしい」
友人「そして今日もwwwどうやらその傾向にある様子wwwwww」
少女「その傾向って……。どうしてそんなコトがわかるんですか?」
友人「それはwwwコレを聞いてみるといいですぞwww」ジジジ
少女「イヤホン……? ハイ、わかりました」
男「おい……」イラッ
友人「んんwwwこうみえて耳の穴は毎日洗っているwww」
スタッフ『こちら東待機列。西待機列の現状は?』
スタッフ『こちら西待機列。雨足は強く、人影もまばら』
スタッフ『東も雨はキツいが、既に待機列は長いな』
少女「……こ、これは……!」
男「無線傍受か。なかなかハデなコトをやるな」
友人「んんwwwコレは死神氏の贈り物www」
友人「我は盗聴器を自作できるほどキカイには強くないwww」
男「だけどソレ、ちょっとヤバくないか? 見つかったらどうする?」
友人「死神氏にはwwwカン付かれたらキカイごと壊せと言われているwww」
友人「ですが、そもそもこの雨では傍受してる音なんて周りに聞こえませんなwww」
少女「おお……。なんか、キンチョー感出てきましたね!」
友人「とにかくwwwスタッフの無線によるとwww」
友人「今日も西待機列のほうが空いているwwwwww」
友人「つまり、西東が正解ですなwwwwww」
男「よし。じゃあ、西ホールに行く列に並ぶとしよう」
少女「しかしこの盗聴器。いったいどういう仕組みなんですか?」
友人「借り物なので我にも詳しいコトはわからないがwww」
友人「どうやら市販のトランシーバーを受信専用にしてwwwwww」
友人「かつ、周波数をスタッフが使っている数値に固定しているもようwww」
少女「へえ……。けっこうアナログなんですね」
友人「ちなみに、西待機列のほうが、コンビニやトイレなどの施設もジュージツしていますなwww」
少女「え? 東待機列のほうは、無いんですか?」
男「ああ。人気ジャンルを狙う時は、東待機列に並ぶコトになるが……」
男「施設も無いし、日陰も無い。本当にタイヘンだぞ」
友人「そのため、仮設トイレなどの施設が当日のみ出現しますがwww」
友人「まさに最大手の名に恥じぬ威容を誇りますなwww」
少女「うへえ……。さすがに行きたくないなぁ……」
男「欲を出さなければいいんだ。欲を」
男「もっとも、本当に欲しい頒布物があるなら、なりふり構ってられないだろうがな」
署長「……?」ギロ
署長「おい、君」ポン
友人「あひぃっ!」ビクッ
友人「なっ、ななな、なんですかなwww」
少女「うっ!」
男「……!」
男「……、警察官か……」
署長「……いや。……君の持っている、この、黒いキカイ……」
署長「コレは、何かね?」
友人「んんんんんwwwwwwこ、コレはwwwwww」
友人「……そ、そう!」
友人「知り合いと連絡を取るためのトランシーバーですなwww」
署長「…………」ギロ
友人「んんんwwwwww」
友人「COMIKEではwww通信回線が渋滞しwwwケータイでの連絡もままならないwww」
友人「ゆえに一般人でもトランシーバーが重宝されるのですなwwwwww」
少女「……ちょっと。男さん。ポリスメンですよ……」
男「ああ……。ウワサをすればナントヤラ、だ……」
男「なんで警察って、会いたくない時に限って会っちまうんだろうな」
男「COMIKEだと本当に会いたいヤツには会えないのに」
少女「まあ、昨日から待機列の外、見回りしてましたからね……」
少女「……しかし、あのおまわりさん。すっごい威圧感だな」
少女「大家さんとはまた違った、別種の凄みを感じます」
少女「東狂のおまわりさんって、皆がああなんですか?」
男「いや……。いくら大都市の警察官でも、あんなのがゴロゴロはいないだろう」
男「あのヒトがたぶん特別なんだと思う」
署長「このあたりを管轄する警察署の署長だ」
少女「……!」
男「……き、聞こえてたんですか」ダラダラ
署長「COMIKEの開催にあたって、治安維持のため」
署長「私をはじめとした警官隊自ら会場近辺に赴き、都民の“保護”を行っている」
署長「……あまり、かぶいたマネはせんコトだ」
男「は……、はぁぁいっっっっっっ!!!」
少女「お、お勤めご苦労様です!!」ビシィッ
署長「うむ」
署長「君たちも、法律と法令を守って、健康的な営みに努めるように」
男「……は、はい……」
署長「それで、君」
友人「……ん、んんwwwなんですかなwww」
署長「……ふん。トランシーバーか……」
署長「たしかに、COMIKEでは、一般都民でもトランシーバーを重宝しているのを見るが……」
友人「…………」
署長「重宝、ね」フン
署長「諜報のマチガイではないかね?」
友人「……!!!」
男「……、…………」ダラダラ
友人「めめめ、めwww滅相も無いwww」
友人「コレはスタッフの中にいる知人と連絡を取っているだけにあるからしてwww」
署長「…………」
署長「……そうか。なら、構わないが」
友人「ほっ」
署長「だが」
友人「……!!」
男「……!」
署長「無線通信を傍受して存在や内容を漏らし、また窃用した場合は」
署長「国が定める電波法第59条に抵触するコトになる」
友人「……、…………」
署長「もし当該行為が発覚し、物的証拠が提示された場合には」
署長「われわれ警察も。それ相応の対処を迫られる」
署長「ゆめ、忘れぬコトだ」
友人「りょ、了解でございまするwwwwww」
署長「……では」
ザッ、ザッ、ザッ…
少女「…………」
少女「…………あー、キンチョーしたぁー!」
男「はあ、はあ……。焦った……」
友人「んんwwwあやうく豚箱行きかと思いましたなwww」
男「友人、やっぱソレ使うの、やめたほうがいいんじゃね?」
友人「たしかにwww常用しないにしても、油断はキンモツですなwww」
少女「情報の漏洩は生死に関わる。まさに、戦場……」
少女「警察の方とこんなにカンタンにエンカウントするとは。気を抜けませんね!」
男「なんでお前は燃えてるんだ」
友人「ふとした行動が犯罪に繋がるのはコワいモノですなwww」
スタッフ「おはようございまーす! 雨の中ですが、大丈夫ですかー? 生きてますかー?」
スタッフ「本日のCOMIKE、シャワー機能が開放されておりまーす」
スタッフ「ただしみなさんの心の醜さは洗い流せませーん」
少女「うへぇ……、相変わらず雨はやむ気配がありませんね……」
男「昨晩から降り続けてるんだったか? いい加減やんでほしいが」
男「というか今回もスタッフ、相変わらずキレッキレだな」
友人「んんwwwここまで寒い夏コミは世にも珍しいwww」
友人「ですが、その影響で体調を崩している参加者も少なくない様子www」
スタッフ「本日、低体温症が多発していまーす」
スタッフ「具合の悪いヒト居ませんかー。冷たくなってるヒトいたら声かけてくださーい」
スタッフ「そいつは死んでる!! 置いていけ!!」
男「ここは冬将軍に襲われたナポレオンの陣営か何かか……?」
少女「まさに、カコクな戦場ですね……」
少女「かくいう私も……。ブルブルブル」
男「おい、大丈夫か? 革ジャンを貸してやる」ホイッ
少女「あ、ありがとうございます。はーっ、ファーがあったかい……」
男「あとはモノ食べてカラダあっためるくらいだな」
少女「やったー! あさごはん、あさごはん!」バタバタ
男「騒ぐな……。メイワク女としてネットに晒しあげられるぞ」
友人「非日常の場とて、公共の場には違いありませんからなwww」
友人「テンションが上がっても常識はわきまえるべきですぞwww」
男「あ。スレに不審者情報の書き込みだ」
友人「ほうwwwBIPの民が食いつくような参加者でも現れましたかなwww」
男「リアルで論者口調のヤバい奴が近くの待機列にいるんだって」
友人「んんwwwwwwwwwwwwwwwwww」
男「やっぱお前その口調やめられないの?」
友人「んんwww我がもしこの口調を変えてしまったらwww」
友人「それはもはや我ではありませんなwwwwwwぴゃっwww」
男「バンダナ、メガネ、チェックのシャツじゃ周りに埋没しちまうもんな」
男「ほら、梅おにぎりとスポーツドリンクだ」
男「涼しいように思えても水分と塩分は確実に失ってる。補給を怠るな」
少女「はーい。いただきまーす」モシャモシャ
少女「うーん、しゅっぱぁーい!!」
男「酸っぱいのはニガテか?」
少女「いや、そーじゃないですが。それでも酸っぱいモノは、すすす、しゅっぱ……」
男「つらかったら、スポーツドリンクで押し流せ」
少女「はぁい。んっ、んっ、んっ……。ぷはぁ」
少女「……おコメとスポーツドリンクってあんまり合いませんね」
友人「んんwww白米と牛乳の次に合いませんなwwwwww」
男「……お茶は、利尿作用が強いんだ……」
男「もっとも、この雨なら漏らしてもわからんかもしれんがな」
少女「それはヒトとしての尊厳を失っています」
男「しかし、ここまで寒くなるとは、さすがに予想外だな……」
友人「今朝の東狂の気温は23度wwwwww」
友人「さすがに半袖は死にますなwww」
男「結局のところ、登山服が大正義ってワケですか……」
男「スタッフはさすがに透明のゴミ袋みたいなの被ってるヒトばかりだな」
友人「メジェド様のコスプレイヤーも混じっていますなwwwwww」
男「俺もジャンパーを着るとするかな」
友人「男氏wwwジャンパーは死語ですぞwww」
男「うっそだろお前」
カイロ屋「えー、カイロ。カイロはいりませんかー」
男「カイロ……? そんなモノを売ってる店まであるのか」
友人「普段の暑い夏コミなら、ただの嫌がらせですがwww」
友人「低体温症の犠牲者が出ている現状では、かなりオトクな買い物ですなwww」
男「……。……って、ちょっと待て……」
カイロ屋「はい、一つ300円! ありがとうございます。カイロー……」
男「ちょっと、大家さん!!」
カイロ屋「ん……? …………、あっ」
カイロ屋「その声、さては男だなオメー」
少女「大家さんじゃないですか! こんなところで何を?」
カイロ屋「少女ちゃんもおはようございます。見ての通り、カイロを売っています」
男「えぇ……。この、雨の中?」
カイロ屋「火の中、水の中、なんのその。商売チャンスは逃しませんよ!」
男「商魂たくましいコトで」
カイロ屋「だけど、さすがに寒いので自分でも使います。さながらマッチ売りの少女ですね……」
男「そこまで貧しい身の上じゃないでしょう……。しかも若干ボッタくってるし」
友人「あ、我もカイロ一つー」
少女「……っていうか、男さん」
少女「なんか、私たちより前に並んでるヒト、多くないですか?」
男「うん、多いな。1000人ではきくまい」
少女「私たちって始発組のヒトの、すぐ後についてきましたよね?」
少女「なのに、何でこんなに人が多いんですか……?」
友人「それはwwwひとえにwww徹夜組が多いからwww」
友人「おそらく現在の列の3分の2は、徹夜組と思われるwww」
少女「3分の2……。そんなに多いんですか」
少女「私たちは、ルールを守って並んでるのに」
少女「ちょっとシャクですね。納得いきません」フンス
男「まあ、徹夜は禁止されてるとはいえ、別にペナルティとか無いからな……」
少女「えっ、無いんですか? ペナルティ!?」
友人「COMIKEの徹夜組は数が多すぎて、処罰しきれないのが現状ですなwww」
男「むしろ、準備会もあらかじめ徹夜組に整理券を配ったり」
男「非公式だがスタッフが列を誘導したり、事実上、徹夜を黙認している」
少女「……。じゃあ私も徹夜してやりましょうか」
男「しんどいだけだから、やめときなさい。そこまでして欲しいモノも無いだろう」
少女「むぅー……」
スタッフ「みなさーん、お知らせでーす! つい先ほど、待機列確定しましたー!」
スタッフ「でも8時半には戻ってきてくださいねー! 遅れたらパワー系のスタッフが押し出します!」
男「おっ、列確定きたか」イソイソ
友人「それでは近くのダルイーズで時間を潰しますかな」イソイソ
少女「……? ちょ、ちょっと! 二人とも、列を抜けてどこに行こうとしてるんですか!」
男「ん?」
少女「こ、ここまで並んだのに、入場せずに帰っちゃうんですかぁ!?」
友人「んんwww少女氏www違う違うwwwwww」
少女「え……?」
男「ああ……。少女。COMIKEには、待機列確定というシステムがあってな」
男「スタッフが待機列を確定させたら、しばらく持ち場を離れててもいいんだ」
友人「ただしwww列を離れていて良い時間にも制限があるwww」
友人「今回は8時半を過ぎて列に戻っていなかったらwww問答無用で並び直しですなwww」
少女「そ、そんなシステムが……。知らなかった……」
男「まあ、誰も教えてくれない部類のハナシではあるな」
友人「前後左右の人確認や現在地の暗記は必須ですぞwww」
男「さて。目印となるモノは、何を置いておく?」
友人「んんwwwでは、コレをwww」ニョキッ
少女「わああ!!? なに、これ……」
少女「男のヒトの、巨大な、板?」
友人「等身大パネルですなwww炎の妖精のwww」
男「『できる!』、『君は最高だ!』……」
男「……相変わらず、アツい」
少女「……ほう。……ほう、ほう、ほう」
男「友人、こんなモノ、いったいどこで手に入れたんだ?」
友人「もとは書店の店頭宣伝用のパネルですなwww」
友人「ソレを、フェア期間が終わって、廃棄するのは忍びないというコトで」
友人「ならばと我が貰ってきたのですぞwwwwww」
男「お前の家、こんなのばっかで溢れかえってそうだ」
男「ちょっと待て。ソレはソレとして、今お前、コレどっから出した……?」
友人「んん、深く追究してはいけませんぞ」
友人「彼のパネルを置いておけば雨雲も吹き飛ぶかもしれませんなwww」
少女「……なるほど!! テルテルボーズのような方なんですね、この彼は!!」
友人「おおwww少女氏、炎の妖精氏が気に入りましたかなwww」
友人「彼は、諦めない、絶対できるをモットーとする熱血漢で有名な男ですぞwww」
友人「一説によると元プロテニヌプレイヤーらしいですなwww」
男「ソッチのほうがサブなのかよ。いや、俺も試合は見たコト無いけど」
少女「諦めない……、絶対できる……。スバラシイ! 最高のコトバです!!」
少女「私も信じています。前向きに生きていれば、絶対必ずイイコトあると!!」
友人「んんwww熱血少女ですなwww」
友人「では少女氏には、炎の妖精のポジティブで暑苦しい教えを伝授しますぞwww」
少女「ええ! ゼヒ、よろしくお願いします!!」ギュッ
友人「頑張れ頑張れ出来る出来る絶対出来る頑張れもっとやれるって!!」
少女「ガンバれガンバれ出来る出来るゼッタイ出来るガンバれもっとやれるってェェッ!!!」
男「!?」
待機列「!?」
友人「やれる! 気持ちの問題だ、頑張れ頑張れ、そこだ! そこで諦めんな!」
少女「やれる!! 気持ちの問題だっ、ガンバれガンバれ、そこだァ!! そこで諦めんなァァ!!!」
待機列「マツオカ…?」
待機列「シジミ?」
待機列「ザワザワ」
友人「絶対に頑張る積極的にポジティブに頑張る頑張る」
少女「ゼッタイにガンバる積極的にポジティブにガンバるガンバるゥッ!!」
友人「―――北狂だって頑張ってるんだから!!」
少女「―――ペキンだって、ガンバってるんだからァァァァァァッッッ!!!!!!」
待機列「……オオオオ」パチパチパチ
待機列「熱くなれよぉぉ!!」
待機列「オコメタベロ」パチパチパチ
男「……いつの間にか、人が集まってきてる……」
男「まあ、大声で北狂のアレ、復唱してたらなぁ」
男「しかも友人のヤツ、完コピしてるし」
男「……こりゃあ今回のマンレポに載るかもなぁ」
男「あ、マンレポってのは、COMIKEのカタログや公式ホームページに載ってる」
男「前回のCOMIKEの様子を1コマ漫画にまとめた、まんがレポートのコトな」
男「……あれ? なんか、晴れてきた?」
スタッフ「えー、西待機列に炎の妖精発見。北狂だって頑張ってるなどと意味不明なコトを……」
――喫茶店 ダルイーズコーヒー
少女「いやあ! スっとしました!!」
少女「大声で叫ぶってのは良いモノですねぇ!!」
男「……もう、謝るの俺なんだから、やめてくれよ……」
友人「んんwww我一人ならカクジツにしょっぴかれていたwww」
友人「やはりおにゃのこ補正おそるべしwww」
友人「あとは、炎の妖精氏の人徳ですかなwww」
男「あー、もうネットに動画アップされてるよ……」ガタタン
少女「え、マジですか? 見せてください!」
男「見切れてるけど、俺もハシッコに映ってるよぉ……」
友人「んんwww一部始終が完全に撮影されているwww」
男「ヘンなコトしたら、こうやって晒し上げられて一生残るんだから、気を付けろよ」
少女「一生、ですか……。うぅ。スイマセン」
少女「でもソコはソレ、なかなか良く撮れていますね! この動画!」
少女「もうちょっとお腹から声出したほうが良かったかな……」
友人「ジューブン男らしい声でしたぞwww」
友人「あ、それポチ。ダウンロード」ヴヴゥン
友人「少女氏は学校で応援団長でもやってたのですかな?www」
少女「応援団長、ですか……。いわゆる、チアガール、とかいう?」
男「いや、友人の言ってるのは、ソレじゃないと思うぞ。ソッチじゃなくって……」
男「ほら。頭にハチマキ巻いてて、膝下まである丈の長い黒の学生服のやつだろ」
友人「んんwwwいかにもwww」
友人「先程の大音声は、まさに経験者のソレでしたなwww」
少女「なるほど。ソレでしたら、似たようなモノをやったコトがあります」
少女「大きな声でテンション上げていくのは! ダイジですからねぇ!!」
男(応援団長……ねぇ。けっこう似合いそうだな)
男「……さて。この喫茶店も、けっこう混んできたな」
友人「ココのダルイーズは、列確定後によく利用するのですがwww」
友人「COMIKE期間中でも混んでないのに、今日はヤケに混んでいますなwww」
友人「おっとwwwヤがついていても、そのままヤケという意味なので悪しからずwww」
少女「やっぱ雨だからですかねえ?」
男「今日は雨だから人少ないとかいうのは何だったのか……」
少女「……ん?」
少女「おっ、窓の外を見てください男さん、友人さん! 空、晴れてきましたよ!」
男「ああ。さっきから明るくなってきてたが、雨もやんできたみたいだな」
友人「雨雲レーダーでも、徐々に赤い部分が通過しつつありますなwww」
少女「コレはさっきのペキン、効果テキメンですね!!」
少女「やっぱりやまない、雨は無い!!」ガタッ
少女「もう一回、いっちゃいますよぉぉ――――!!!」ダンッ
男「やめろ! 店の中だぞ……!」
男「コラ待て片足をテーブルに乗り上げるなァァァ!!!!」
友人「んんwww男氏の声がイチバン大きいwww」
――西待機列 某所
男「さて、もうすぐ8時半だし、待機列に戻ってきたワケだが」
ザワザワ ザワザワ ザワザワ ザワザワ…
少女「なんだかんだで、人、多いですねえ……!」
友人「んんwww晴れたはいいが、気温が上がって蒸してきたwww」
友人「すなわち、ここから開場の10時までが、戦いの佳境ですなwww」
少女「勝負とは山場の一瞬で決するモノ! 頑張りますよーっ!!」
サワ…
少女「あ、でも、風が涼しい……」
男「うん……。気温が高ければ、風なんて吹いても熱風だが」
男「気温の低い朝の風は、こうも快いか……」
少女「かすかに聞こえる波の音、あまねく漂う潮の香り……」
少女「これぞ海に面した港町、ってカンジがします」
友人「でも少し……この風……泣いています……」
友人「…………」ジジジ
友人「……んんwww」
男「……? 友人、どうした」
友人「いや、今またスタッフの無線を傍受していたのですがwww」
友人「やはり今日は待機列の人が少ないとのコトwwwwww」
男「そうか。俺にはいつも通りの数に見えるが」
男「俯瞰で見れば、案外列が伸びてなかったりするのかな」
友人「だがwww少し気になるのがwww」
友人「既に入場している参加者が、気持ち多いというスタッフの発言ですなwww」
男「何……? まだ一般参加者が入場できる時間じゃないだろう」
男「……いや。そうか、……サクチケか。キナ臭いな」
スタッフ「然りwww加えて、スタチケの使用者もいるもようwww」
少女「何なに、どうかしましたか?」
男「既にサクチケやスタチケで入場しているヤツが多いらしい」
少女「スタチケ……? って、何ですか」
少女「サクチケはわかりますけど。サークルチケットのコトですよね」
友人「んんwwwスタチケとは、スタッフチケットのコトwww」
友人「サクチケと理由は同じwww当日、頒布物を買えないスタッフのためのモノですなwww」
少女「ああ、たしかに……。スタッフのヒトも、サークル参加者と同じで」
少女「COMIKE中は、自分の持ち場を離れられないから」
少女「気になる頒布物があっても、買いにいけませんもんね」
友人「また、COMIKEのスタッフはボランティアですがwww」
友人「連日の労働に対する、実質的な報酬という側面もありますなwww」
男「スタチケの場合も、サクチケと同じで、あらかじめ一人に配られる枚数は決まっている」
男「もっとも、全員が均一、というワケではないだろうがな」
友人「これらチケットを使用すればwww我ら一般参加者よりも早い入場が可能www」
友人「そんなチケット使用での入場者が今日は多いというハナシですなwww」
少女「なるほど。つまりそのヒトたちは、今日出てるサークルやスタッフの代わりに」
少女「頒布物を買うために、先に入ってる、ってコトですか!」
男「…………。まあ、そうだな」
少女「……なんですか、その沈黙は」
友人「……しかし、オカシイとは思いませんかな、少女氏www」
少女「え?」
友人「今日の一般参加者は、スタッフ自身が“少ない”と証言しているwww」
友人「なのに、チケットを使っての入場者は“多い”と、これまた別のスタッフの発言www」
男「……ちっ。そういうコトか」
少女「ど、どういうコトですか?」
少女「ええと。おハナシを聞く限りだと、チケットはサークルやスタッフのためのモノで……」
少女「別に一般参加者や、その数には関係ありませんよね?」
友人「いかにもwwwですが、こうも考えられませんかなwww」
友人「“一般参加者が少ないのは、チケット入場者が多いからだ”」
少女「……!」
男「むろん、参加者が少ない主な理由は、さっきまでの雨と、今日が女性向けの日であるコトだろう」
男「パっと見ればわかるが、COMIKEに限っては、男の参加者が多いからな」
男「だが……。それらがカモフラージュに利用されていたとしたら」
男「普通は、今日は雨だし二日目だから、人が少ない」
男「物事の表面だけ見れば、そう思うだろう」
友人「むろんwwwただの人間が天候や日程をどうこうするコトは出来ませんなwww」
友人「だが、あらかじめ予想される事象を、利用するコトができるのも人間だけwww」
少女「で、でも……。仕方なくないですか?」
少女「チケットを使って入場するヒトたちは、サークルやスタッフのために……」
男「本当にソレだけだと思っているのか」
少女「…………えっ」
友人「他の参加者よりも自分が早く入場したいと思うのは、単純な心理www」
友人「徹夜組や、我ら始発組とて、動機自体は同じですなwww」
男「それにだ……。すべてのサークルが、スタッフが、全日の頒布物を欲しいワケじゃない」
男「必然、チケットは余る場合もある。すると、どうなると思う?」
少女「……。早く入場したいヒトに、チケットを、譲る……?」
男「“無償で”譲るだけなら良いな。チケットの理念範囲内だ」
少女「……ちょ、ちょっと待ってくださいよ……」
友人「COMIKEのサークルの当落発表は、開催の数ヶ月前に行われるwww」
友人「そして、その時期になると、ネットオークションを湧かせる“商品”がありますなwww」
少女「……サークル、チケット……ですか……」
男「そうだ。サクチケやスタチケは、誰よりも早く入場できる魔法のチケット、という見方もある」
少女「そ、そんなの……。まちがってないですか!?」
少女「チケットは、当日のサークルやスタッフのためのモノなのに!!」
友人「もちろんチケットの転売行為は準備会に禁止されているwww」
友人「ですが、サクチケやスタチケに高額で取引される需要があるのも、また事実www」
男「当然チケットは、早くに入場し、貴重な大手の頒布物を手に入れるために使われるが」
男「そういった貴重な大手の頒布物は、貴重ゆえに金銭的な価値を持つ」
男「これをまたネットオークションで転売し、儲けるヤカラもいるワケだ」
少女「許せない……。そんなの、チケットが、ただの転売の引換券に成り下がってる!!」
少女「COMIKEはお金儲けのためのイベントじゃないでしょう!!?」
男「その思想は、あまり極端に振りすぎないほうがいいがな」
男「実際、COMIKEの開催によって近隣の印刷所やホテルが儲かるのは、正当な権利だし」
少女「……。でも……」
少女「サークルのヒトたちが、魂を込めて作った同人誌を、食い物にするなんて……」
少女「まちがってますよ……」
友人「んんwwwまあwww転売屋の是非は別としてwww」
友人「今日この場に、転売屋が多いかどうかは、我らの仮説に過ぎないwww」
友人「あまり本気にしすぎないほうがいいですなwww」
少女「……。はい……」
男「おどかして悪かったよ。あまり、気を落とすな」
男「ほら、エナジーバーでも食え」ポイッ
少女「……はい」モシャモシャ
男「…………」
男「それで、実際のところ、どうなんだ。友人」
友人「……んんwww」
男「その顔は知っている顔だな。正直になれよ」
友人「……今日のチケット入場者に、転売屋らしき人物が多いのは、まず間違いありませんなwww」
友人「というかソレそのものな、スタッフの発言がチラホラwww」
男「見た目で転売屋かどうかなんて、わかるモノかね」
友人「何年も毎回チケットで入場して、列に二周三周並んでるヤツはまちがいなくクロですなwww」
友人「そしてその領域になると、スタッフも顔を覚えているwww」
友人「また、死神氏も、実は同様の作戦で入場しましたなwww」
男「サクチケを持ってるな、とは思ってたが。ふん、推理そのものが受け売りだったか」
男「相変わらず、限りなくクロに近い部分を踏み込んでいくヤツだ」
友人「そうでもしなければ、と本人は言っていましたがなwww」
スタッフ「それでは列移動開始しまーす。並んでるヒトは前に進んでくださーい」
スタッフ「待機列ダイエットしまーす! 詰めてー!」
スタッフ「オイイイイイ!!! 今から入ろうとした奴はパンケーキだぁぁ!!!」
男「お……。もう8時半か」
友人「ここからは止まりつつ進みつつ、館内のいけるところまでマッシグラですなwww」
少女「…………」
男「……おい、何ぼーっとしてる。行くぞ」
少女「……え? あ、ハイ……」
男「……さ、さすがに昼前の入場と違って、人も多いな……」
友人「ですがwwwこの、ウォーリアズ・ラダーを昇って逆三角形に向かう人々を見ているとwww」
友人「COMIKEに来ている、というカンジがしますなwwwwww」
男「まあ、たしかにな……。壮観ではある」
少女「…………」
男「おい。大丈夫か?」
少女「えっ? あっ、ハイ!!」
少女「大丈夫です! 私は、大丈夫ですとも!!」
男「…………」
男「顔が青白いぞ。目の焦点も、ところどころ合っていない」
男「あまり大丈夫とは言えんな」
少女「…………」
男「……。ムリはするな。汗をふけ」ポイッ
少女「あ……。ハイ」ゴシゴシ
男「それとスポーツドリンクだ。一気には飲まないほうがいいが、それでも苦しければ言え」ポンッ
少女「…………」ギュッ
少女「……すいません」
男「……なぜお前が謝る」
少女「私が、朝並びたいとか言ったからですよね。こんなコトになってるのは」
男「並びたいと言ったのがお前なら、並んでもいいと言ったのは俺だ」
男「お前だけの責任じゃない。自分を追い詰めすぎるな」
少女「……優しいんですね、男さんは。いつでも」
男「……はんっ。俺に任せやがれ」
友人「男氏、イケメン~」
男「うるせ。お前がぶっ倒れてたら天日干しにしてやる」
――ビッグサイト 逆三角形下
男「はー……っ。冷房だー……」
男「日陰だし、風は吹いてるし。なんだココはァ!?」
少女「い、生き返る~~~……!!」
友人「まさに天国ですなwww」
友人「ですが、このまま逝ってしまわぬよう注意をwww」
男「この場面で言うと冗談じゃないからな。な?」
友人「おうふwwwwww失礼wwwwww」
少女「……おや。また、列が二つに分かれていますね」
少女「最初の待機列選び以来ですが。今度はどちらに?」
男「今度も左が東ホール、右が西ホールか……」
友人「今回は迷わず東ホール行きですぞwww」
友人「もはや会話の時は終わり、いざ行動の時www」
友人「ヘタな小細工は無用の真剣勝負ですなwww」
少女「なるほど……。あとは押し通るのみ、というコトですか!!」
男「ここからが最終ステージだ。気を抜くなよ……!」
アナウンス『リンゴンリンゴンリンゴン! 一斉点検の時間だよ~』
アナウンス『晩鐘は汝の荷物を指し示した』
少女「……? なんですか、この放送」
男「ああ。昨日は気付かなかったが、COMIKEでは定刻に不審物の一斉点検を行っている」
男「一日に三回ほどだな。コレがその一回目、開場前のタイミングだ」
スタッフ「あ、このへん点検しますねー。不審物、不審者などいましたら、お声かけくださーい」
友人「了解しましたぞwwwwwwぴゃっwww」
男「お前がイチバンの不審者では……?」
――館内 東西連絡橋
少女「あれ……。ココは、昨日も通った気がする……」
男「ビッグサイトの東館と西館を繋ぐ、東西連絡橋だな」
友人「連絡橋といってもwww入口と出口以外、完全に密閉されている通路www」
友人「その出入口の狭さと、天井の低さから、ゴキブリホイホイなんて言われていますなwww」
少女「ゴキブリホイホイ……。たしかに、ソレそのものですね」
男「ゴキホイとか誰が言い出したんだろうな。ドンピシャすぎる」
友人「言い得て妙な俗称というモノは世代を超えて受け継がれるモノですなwww」
少女「……しっかし、アッッッづゥイ゙ぃぃぃっっ!!!」
少女「む……。蒸し焼きになる……」
男「ぐぅ……。この狭い通路に、バカみたいな量の人が集まって、熱気がスゴい……」
友人「んんwwwココは、早朝からCOMIKEに並ぶ者にとって、最大の難所www」
友人「実際にゴキホイに並ぶのは、わずか十数分www」
友人「しかして、この地獄は、今までのすべての待機時間の苦しみに匹敵するwww」
少女「ふやけちゃいます。ふやけちゃいますよぅ」
友人「ゴールまで、あとほんの少しwww頑張りますぞwww」
ゴゴゴゴゴゴ…
男「なっ? なんだぁッ!?」
ゴゴゴゴゴゴ…!!
少女「きゅ、急に地鳴りが……! これはいったい!?」
ゴゴゴゴゴゴ…!!!!!!
友人「んんwwwwww我にもわかりませぬwww」
待機列「お……、おい! アレを見ろ!!」
待機列「窓が! ―――ああ、窓が!!!」
友人「んんwwwまさか、ゴキホイが変形するとはwwwwww」
友人「不覚にも男のロマンをくすぐられてしまいましたぞwww」
友人「それもゴキホイにwwwwww」
待機列「うおお、涼しいー……!!」
待機列「ゴキホイ最高ォォォーーー」
少女「皆さん、換気の雄叫びを上げています!」
男「その漢字で間違いないんだな? ……と。来るぞ!」
アナウンス『お待たせしました。ただいまより、COMIKE 92――――』
アナウンス『二日目を、開催します!!』
ババババババババババババババババババババババババババババババ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
待機列「「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」」」」」」
ババババババババババババババババババババババババババババババ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
少女「おおっ、これは! 昨日は、外で聞いていた……!」パチパチパチ
男「ああ。スゴいだろう、間近で見る拍手は」パチパチパチ
友人「奇跡のカーニバル 開 幕 だ 」
待機列「うおおおおおおおおおおおお!!!!!!」ドドドドドド
待機列「突撃だああああああああああああ」ドドドドドド
少女「あっ、皆さん一斉に走り出しました! 私も……」
男「待て! 動くな!!」
少女「え……!?」
友人「んんwwwこんな光景を、つい最近、どこかで見かけませんでしたかなwww」
スタッフ長「―――走らないでください」ザッ
少女「あ、あれは。……こ、国際展覧場駅の……!」
男「300人の、スタッフ兵……!!」
待機列「うおおおおおお俺が一番乗りだああああああ」ドドドドドド
待機列「どけどけどけェェェェェェェェェェェェ」ドドドドドド
スタッフ長「我らは参加者を守るために存在する」
スタッフ長「そのためならば、参加者を害するという、ムジュンさえ呑み下そう」ジャキン
スタッフ長「選ばれし300人の精鋭よ!! 武器を取れ!!」
スタッフ「「「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」」」」」」
コ ミ ケ ッ ト
スタッフ長「 C o m e G e t (来たりて取れ) !!!!!!」
スタッフ「「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」」」」」」ドドドドドド
待機列「「「「「「うああああああああああああああああああ!!!!!!」」」」」」
待機列「徹夜で並んだのに、こんなところでぇぇぇぇぇぇ」グサグサグサ
スタッフ「ルールを守らぬからだ……」ビチャァ!!
待機列「なのはは!!! 永遠です!!!!!!」バタッ
少女「血祭り!! アレは完全に血祭りですよ!!」
男「いや……。あの最前列に並んでいるならば、おそらく歴戦の徹夜組だろう」
男「徹夜組は、ああ見えて精強だ。槍の十突きや二十突きでくたばりはしまい」
友人「しかし傍目には、コレで徹夜組が制裁を受けているように見えるwww」
友人「一種のプロレスですなwwwwww」
少女「そ。そーなんですか……」
スタッフ長「仕留めた徹夜組の首は、逆三角形の前に晒せぇぇぇぇぇぇ」
スタッフ「「「「「「うおおおおおおおおおおおお」」」」」」
男「そんなコトより、早く黒ずくめさんのサークルに向かうぞ」
少女「は、ハイ! ええと、どっちに……」
友人「コチラですなwwwゴキホイを通りぬけて、通路に出ますぞwww」
――東館 館内 2階
友人「東ホールへの入口は、ココの1階ですなwww」
少女「わあ、もうスゴい人の数……!!」
男「降りるぞ! 乗り遅れるな!」
友人「エスカレーターへフリーフォールですぞwwwwww」
――東館 ホール内
黒ずくめ「新刊2部ですね。ありがとうございます」
売り子「コチラ黒ずくめ、限2となっておりまーす」
少女「ありました! あのサークルですよね!?」
男「ああ、そうだな。……だが」
少女「ものすごく、並んでいます……!!」
男「くっ……。壁というからには、人気なのはわかっていたが……」
男「これほどか!? さすがに異常だ……!!」
友人「…………」
男「おい、友人!!」
友人「……んん、なんですかなwww」
男「この行列の最後尾はどこだ? まったく見えんぞ……!」
少女「最後尾には何か目印とかないんですか!?」
友人「最後尾なら、サークル名が書かれたカンバンを持っている者がいるハズですがwww」
少女「わかりました! カンバンですね、探してきます!」タタッ
友人「…………」
男「……おい。さっきからどうした」
男「ホールに入ったとたん、黙りこくって」
友人「……男氏、悲報ですぞ」
男「は?」
友人「“悪いニュース”と、“もっと悪いニュース”。どっちから聞きたいですかなwww」
男「……ふん。ヤケに洋画みたいな訊き方だな」
男「じゃあ、あえて“もっと悪いニュース”から聞かせてもらおうか」
友人「……待機列の途中で、我らが立てていた仮設がありましたなwww」
男「ああ。今日はチケット入場者が多いとかいう……」
男「……まさか」
友人「結論から言って大アタリですなwww」
友人「ホールに入ってから、注意深く観察しておりましたがwww」
友人「明らかに列の長さがおかしい」
男「……!」
友人「いくら大手といっても、最初に並ぶチケット組は100人もいませんな」
友人「だが見る限り、一列あたり、そのおよそ倍の人数……」
友人「それが、何ヶ所も」
男「……さすがに、偶然じゃ済ませなくなってきたな」
男「ハナシが本当なら、チケット組の動員数は、1000人近いというコトになる」
男「それらが、カモフラージュが目的でも、あるいはそれ以外の目的でも」
男「示し合わせもしないのに集まれるハズが無い」
男「つまり、コレは……」
友人「ああ。マチガイありませんな」
友人「組織的な犯行。彼らは打ち合わせた上で、今日、この場に集まっている」
友人「何者かが背後にいる、と考えるべきですな」
男「……スケールが大きくなってきたな」
友人「悔しいですが、我らにどうこう出来るハナシではありませんな」
友人「死神氏ほどの、実力者なら、また別かもしれませんが……」
男「…………」
男「……これだけ大規模に人間を動かしての、目的はなんだ?」
友人「パっと思いつくのは、転売価格のつり上げですな」
友人「同じグループで頒布物を独占し、一定の金額で出品するコトで、相場のインフレを図る」
友人「転売の一回あたりの利益を増やそうとしているワケですな」
男「……コメの買い占めや、出し渋りみたいなモンか」
友人「原理的には。一種の寡占ですからな。ギルド制にも近いモノを感じますな」
友人「……ですが、コレは、黒幕が目先の利益に囚われている場合のハナシ」
友人「もっとタチが悪ければ。あるいは……、…………」
男「…………」
友人「……いや、考えても仕方ありませんな」
友人「今は目先の問題に取り組むべきですぞ」
男「……! そうだ、少女……!」
少女「男さーん! 友人さーん! 最後尾、コッチみたいですよー!!」
男「いたか……! わかった、今行く!!」
友人「…………」
男「……それで、友人。もう一つだけ質問だ」
男「“悪いニュース”、というのはなんだ?」
友人「…………」
男「……当ててやろうか」
友人「……構いませんぞ」
男「…………」
男「今から黒ずくめさんの列に並んだところで、新刊は買えない」
友人「…………」
――行列 先頭部分
係員「黒ずくめ完売! 黒ずくめ、完売しましたー!!」
少女「え……っ。ちょ、ちょっ。黒ずくめさんとこの係員さん!!」
少女「完売したってどういうコトですか!?」
係員「す、すいません。予想外に、並んでいる方が多く……」
係員「新刊は、すべて売れてしまったのです」
少女「……!!」
男「…………」
係員「だ、だが、既刊ならまだあるので!」
係員「良ければ、お買い求めいただければ、と……!」
少女「……ハイ。わかりました……」
友人「…………」
男「……予想通りか」
友人「そのようですな」
男「これが、組織的なファンネルのチカラか」
友人「死神氏もファンネルのチームを組んでいますが……」
友人「さすがに一つの大手を全滅させるほどではありませんな」
男「……さすがに完売したと聞いて、列を抜けるヒトも多いな」
友人「…………」
男「お前はどうする?」
友人「……正直言って、他にも狙っているサークルはありましたが……」
友人「このまま男氏と少女氏を置いていくのも夢見が悪いし、ココに残りますなwww」
男「…………」
男「……いや、なら行ってこい」
友人「…………」
友人「男氏……」
男「ほら、こう話している間にも、他の列には人が並んでる」
男「加えて組織的なファンネルの攻撃があったなら」
男「ウカウカしてるヒマは無いんじゃないか?」
友人「…………」
友人「……そうですな。ありがとう」
友人「……少女氏、少女氏」
少女「…………なんですか?」
友人「申し訳ないが、我、他のサークルも回らざるを得ない」
友人「ついては、ひとまずココでお別れ、というコトに……」
少女「…………」
少女「……そうですよね。友人さんには、友人さんのCOMIKEがありますもんね」
友人「本当に、申し訳ない」
少女「いいんですよ。友人さんが謝るコトじゃありませんって」
男「…………」
男「……それじゃあ、俺たちはとりあえず、黒ずくめさんのところまで並んでみる」
男「そのあとの予定は特に決めていない。また、縁があれば会うとしよう」
友人「……どうか、黒ずくめ氏によろしく、と」
友人「それでは……、また会いましょうぞwwwwww」タタタッ
少女「…………」
男「…………」
少女「……行っちゃいましたね」
男「ああ。第一の目的がダメになっても、すぐに第二、第三に頭を切り替えなきゃいけない……」
男「それが、COMIKEという戦場でもある」
少女「…………」
少女「……本当に、戦場なんですね」
男「…………」
ザワザワ ガヤガヤ
少女「……なんか、列、ガランとしちゃいましたね」
男「ほとんどが新刊目当てのヒトだろうからな」
男「それに、友人のように、複数の目的を持っているほうが普通だ」
少女「…………」
男「…………」
男「……薄情だなんて、思わないでやってくれ」
少女「わかってますよ」
少女「……スイスイ、進めちゃいましたね」
男「そうだな。……おっ、どうやら先頭みたいだぞ」
黒ずくめ「あっ……。少女ちゃん、男さん。来てくれたのですか」
男「ああ。いちおう、約束だったからな」
少女「…………」
黒ずくめ「……あの。少女ちゃん……」
男「ああ、すまん。コイツやっぱ、熱さにやられて疲れちまったみたいでな」
男「ああいや、黒ずくめさんのせいじゃないよ。俺たちが勝手に疲れただけだ」
黒ずくめ「…………」
少女「…………」
男「……すまん。既刊はまだあるか?」
黒ずくめ「あ……。はい、3種類ほどありますよ」
男「では、一冊ずつ、お願いする」
黒ずくめ「ありがとうございます。1500円です」
男「はい、コレで」チャリン
黒ずくめ「……たしかにいただきました。良かったら、楽しんでくださいね」ニコ
少女「…………はい」
男「…………」
黒ずくめ「…………」
男「……友人のヤツも、並んでたんだがな」
黒ずくめ「すいません。新刊無いなら、並ぶ意味無いですよね」
黒ずくめ「僕が、もっと正確に、需要を読めていれば……」
男「……いや。少なくとも今回は、黒ずくめさんの責任じゃないかもしれん」
黒ずくめ「……?」
男「まあ友人のヤツにでも、会ったら尋ねてみてくれ」
男「それとアイツ本人も、黒ずくめさんによろしく、と言っていた」
黒ずくめ「……そうですか」
男「まだ二日目は始まったばかりだ」
男「俺なんかが、エラそうに言うのも、ナンだが……」
男「頑張ってください」
黒ずくめ「あ……。……ありがとう」
少女「…………」
黒ずくめ「…………」
黒ずくめ「…………そうだ、少女ちゃん!」
少女「は!? え、えっと、ハイ!?」
黒ずくめ「コレ、僕の連絡先です」
黒ずくめ「その、厚かましいかもしれないけど……」
黒ずくめ「今日並ばせちゃったコト。お詫びがしたいので」
黒ずくめ「また夕方にでも。かけてくれると、嬉しいな」
少女「……わ。わかり、ました……」
黒ずくめ「…………」
男「…………」
男「……それじゃあ、これで」
黒ずくめ「ありがとうございましたー。次の方ー……」
少女「…………」
男「…………」
少女「…………」
男「……アソコの日陰で休むか」
少女「……ハイ」
ドサ
男「ふーっ、やっぱ荷物重いな……」
少女「…………」
男「なんだかんだで、二日目、始まってまだ30分か」
男「みんな忙しそうだなー」
少女「…………」
男「……そんなに、気、落とすなよ」
男「既刊は買えたんだしさ」
少女「…………」
男「別に、黒ずくめさんのサークルのコト、前から知ってたワケじゃないし」
男「新刊も既刊も似たようなモンだろ?」
少女「…………」
少女「……そうじゃ、ないんです」
男「…………」
少女「……なんて、いうか。なんて言ったら、いいんだろう。この気持ち」
少女「ゴチャゴチャしてて、うまくコトバに言い表せません」
男「…………」
男「ムリに、口に出す必要は、無いんだぞ」
少女「…………」
少女「……そうですね」
男「…………」
少女「…………」
男「スポーツドリンク……、飲むか?」
少女「……ありがとうございます」
ゴクゴク
少女「…………」
男「…………」
チャポン
少女「……ああ、そうだ」
少女「ちょうど、このスポーツドリンクみたいなモノなのかもしれませんね」
男「……? 何がだ」
少女「今の私です」
少女「スポーツドリンクって、冷たいほうがオイシイじゃないですか」
少女「ぬるくても、飲めるけど、オイシくなくなる」
男「…………」
少女「それと一緒ですよ」
少女「たしかに私は、既刊を買えました」
少女「あの黒ずくめさんが作った本なんだから、きっと面白いモノだと思います」
少女「……だけど、新刊は買えなかった」
少女「私は、黒ずくめさんの新刊を買うために、朝起きて、ココまで来たのに」
少女「……たしかに、目的のモノは、そこにあるけれど」
少女「正直、満足なんて出来ないです」
男「…………」
少女「…………」
少女「あー、私、なんでこんな苦労してるんだろう……」
少女「なんで私が、こんなしんどい思いしなきゃならないんだろう……」
少女「なんて、思いますね。正直言って」
男「…………」
男「……腹立つか?」
男「俺たちの前に買っていったヤツらが」
少女「いいえ。そんなコトはありません」
少女「これは、競争ですから」
少女「勝つ者がいれば、負ける者がいる」
少女「生きる者がいれば、死ぬ者がいる」
少女「そこに善も悪も関係ありません」
少女「ただ、私が劣っていた、ってだけですから」
男「…………」
少女「…………でも」
少女「常識とか、摂理とか、理屈とか」
少女「そんなの全部抜きにして言うと」
少女「悔しいなぁ…………」
男「…………」
バタン
少女「!?」
男「……? なんだ、今の音……」
参加者「おい、ヒトが倒れたぞ!!」
参加者「ど、どうしよう。まずは119番か……?」
男「お、オイ!! COMIKEで救急車なんて呼ぶ奴があるか!!」
参加者「なっ?」
男「ここで呼んだところで広いビッグサイトのどこに探しに来てくれるんだ!」
男「まずは救護室だ!! どこにある!?」
参加者「きゅ、救護室なら、逆三角形のところに……」
男「なら救護室行って、車イスかタンカ持ってこい! コイツは俺が何とかする!!」
参加者「わ、わかった……!」ダダッ
徹夜組「う、うーん……」ビクッ
男「おい、大丈夫か……。ちっ、アワ吹いていやがるな」
男「しかも大量の汗……」
男「どう考えても熱中症だな。急に晴れてきたからか」
男「少女! 俺はコイツを運ぶ。お前はコイツの荷物を……」
少女「…………」
男「……? おい、少女!!」
少女「えっ? あっ、ハイ……!」
男「俺はコイツを日陰まで運ぶから、お前はコイツの荷物を持ってきてくれ!!」
少女「は、ハイ……。わかりました!」
男「ぐっ……。しかし、体臭がスゴいな。昨日風呂入ってないな、コイツ」
男「しかも、目の下のクマ。さては徹夜組か……」
徹夜組「…………」ズリズリ
少女(病人か。私も、ちょっと、チョーシ悪かったしな……)
少女「はっ。それよりも、荷物、荷物……」
少女「あった! この紙袋かな……」
少女「…………」
少女(……中身、何が入ってるんだろう)チラッ
少女「…………、……!!」
少女(……これ、黒ずくめさんの、新刊……!?)
少女「…………」ゴク
少女「……」キョロ
少女「……」キョロッ
少女「……」キョロ
少女「……、……」ドクッ
少女「…………」ドクッドクッ
少女(……今なら、誰も見てない)ゴクッ
少女(……今なら、バレない)
少女(今なら、この本を取っても、誰も気づかない)
少女(…………)
少女(……な、何を考えてるんだ、私は……)
少女(……でも、一冊くらい)
少女(私だって、並んだんだし、買えてもオカシくなかった……)
少女(そうだ。今なら誰も見てない。誰も、誰も……!)
男「―――おい」
少女「あっ……」
男「…………」
少女「…………」
男「……お前、いま何をしようとしていた」
少女「…………」ガチガチ
少女「ち、違う。これは、これ、は……」
男「…………」
男「その袋を貸せ」
少女「……!」
男「いいから、早く」
少女「……うん」ガサ
男「…………」
男(黒づくめさんの本……)
男(そういうコトか)
スタッフ「すいませーん! このあたりで倒れたヒトはどちらですか!?」
男「あ、コッチです!!」
スタッフ「うわ、これはヒドい……。とにかく、アワを拭いて……」
スタッフ「ひとまずタンカに乗せます。手伝ってくれますか?」
男「ええ。わかりました」
少女「…………」
男「……少女。ついてこい」
少女「え……っ。あっ、ハイ……」
男「…………」
――救護室
スタッフ「天使さん! 急病患者です!!」
天使「またですか。どうせ熱中症でしょう」
スタッフ「え、ええ……。おそらく」
天使「そこのベッドに転がしておいてください。え、ベッドが足りない……?」
天使「ならばマットで構いません。とにかく汗をふき、氷で体温を下げるように」
スタッフ「は、ハイ……!」
男「す、スゴいテキパキしてる……」
白い死神「スゲーだろ? アレであのヒト、“ビッグサイトの天使”って呼ばれてるんだぜ」
少女「し、死神さん!! いつの間に……」
白い死神「よう。なんかタイヘンだったみてーだな」ビッ
男「死神か。どうした、もう引き揚げか?」
白い死神「半分そうだな。なんと、この時間でもう、めぼしい大手が全滅しちまってな」
白い死神「これから数時間、並び続けるつもりだったんだが、やるコトも無し」
白い死神「仕方ないから、島中を回る前に、逆三角形に涼みに来たってワケだ」
男「なるほど……。今日は大荒れのようだな」
白い死神「おっ、わかるかい? まあ、さすがにここまでロコツじゃあねぇ」
白い死神「それはそうと、あんたら、黒ずくめさんトコのは買えたかい?」
男「…………」
少女「……、……」
男「…………」フルフル
白い死神「おっと。アソコも、先発で行ったのに、ヤラレちまったか……」
白い死神「まあ、COMIKEに来たらそういうコトもあるって。落ち込むな」
男「そういう死神。お前の首尾はどうだった?」
白い死神「俺か? 俺はまあ、予定通りさ」
白い死神「各自ファンネル、分担して、一つ目の狙いの獲物は仕留めた」
白い死神「だが、まあソコまでだな。二つ目を並ぶ余裕は無かった」
白い死神「なんでも大手や準大手が一瞬で根こそぎヤラレたってハナシだ」
白い死神「こりゃ、今日のオークション……。荒れるぜ?」
男「やはり転売目的だと思うか」
白い死神「そりゃそうだろ。俺たちみたいに、身内でシュミを分担してるだけならまだしも」
白い死神「ここまで大規模で組織的なのは、そうとしか思えねえ」
白い死神「しかしヤッコさん。ここまでハデにやれば明日警戒されると、わからんのかね」
白い死神「いや。今日、目立つコト、それ自体が目的というセンもあるか……」
男「陰謀の考察はソッチでやってくれ」
男「俺たちは純粋にCOMIKEを楽しみに来てるだけなんだからな」
白い死神「おや。その割には、面倒ゴトに巻き込まれたみてーだが?」
男「ふん……。黒ずくめさんトコの、帰りにな。タマタマだ」
少女「…………」
白い死神「お前が持ってる紙袋は、ソコでぶっ倒れてるあんちゃんのか?」
男「ああ。置いていきたいんだが、どうにもタイミングが無くてな……」
白い死神「いいじゃねえか。どうせこの後の予定も無いんだろ?」
白い死神「しばらくジャマにならないココで涼んでようぜ」
白い死神「ん……。ちょっと、その袋の中身、見せてもらってもいいか?」
男「…………」
白い死神「ははっ、盗りゃぁしねーよ」
少女「……、……」
白い死神「どれどれ。……げ、黒ずくめ持っていやがるのか」
白い死神「何コイツ、チケット組?」
男「いや……。俺が確認したところ、クサかったし、クマも出来てた」
男「たぶん、昨日の夜から並んでる徹夜組じゃないかな」
白い死神「徹夜か……。成仏しろよ」
男「死んではいないと思うけどな」
白い死神「いや、わからんぜ? 比較的涼しいとはいえ、灼熱の夏コミだ」
白い死神「……もっとも、ビッグサイトにあの天使ある限り、死人は出さないだろうが」
天使「氷が溶けてきました。至急、冷凍庫から新しいモノを取り出してください」
天使「起きましたか。保護者に連れていってもらいなさい、救護室のスペースは有限なのです」
天使「また徹夜組ですか。ルールを破った畜生の治療は後回しです」
男「……天使?」
白い死神「はっは。あの無慈悲な働きも含めて、神の使い、“天使”と呼ばれてるのさ」
白い死神「対となる死神の二つ名を持ってる俺としては、どうしても意識しちゃうね」
男「勝手に意識しておけ……」
白い死神「まあ実際、あの女がCOMIKEに赴任してから」
白い死神「ビッグサイトからの病院送りの数は劇的に減っている」
白い死神「病院に行かせず蹴り出しているだけ、ともいうが……」
白い死神「対処は的確で、治療は確実だ」
白い死神「野戦病院さながらの、この地獄じゃあ、崇め奉られような」
男「野戦病院か……。たしかに、そんな感じだな。ココは」
男「ベッドにも置かれず、ザコ寝してる患者が多いのが、特に」
白い死神「“戦場”の病院なんだから、野戦病院でマチガイないね」
白い死神「俺の仲間も何度かお世話になったコトがある」
白い死神「チケット組だとバレたら、白い目で見られたがな! はっはっは!」
男「ふーん。チケット組とか、関係あるのか?」
白い死神「ああ、関係大アリだ。あの天使、ルール違反者には、かなり厳しい」
白い死神「チケット組の患者はすぐに追い出され、徹夜組の患者は対処を後回しにされる」
白い死神「根っからのレイシストってヤツだぜ、アイツぁ」
男「それは、ある意味で公平ともいえるような気がするが……」
白い死神「違いない! あれほどの正義の執行者は、あとはスタッフ長くらいだね!」
白い死神「ほら、徹夜組のあんちゃんも。ソコに転がされていやがる」
徹夜組「…………」
男「まだ起き上がらないか」
男「よほど、ムリをしていたんだな……」
白い死神「徹夜組なら、ただの善良な被害者ってワケか」
白い死神「まあ、今日に当たった運が悪かった、としか言いようが無いな」
少女「…………」
男「善良、ねえ」
白い死神「おや。男も、徹夜組差別主義かい?」
男「そこまでポリシー持ってるワケじゃないが……」
男「まあ、徹夜はいけないコトなんじゃないか?」
白い死神「はん。俺に言わせれば、身勝手に徹夜組を叩くヤツこそ、本当の悪だね」
少女「……どういうコトですか?」
男「少女……」
白い死神「おや、少女ちゃん。復活かい? さっきからずいぶん、おとなしかったが」
少女「キョーミのある話題だったので」
少女「身勝手に徹夜組を叩くヤツこそ、本当の悪……って、どういうコトですか?」
白い死神「いやあ、深い意味は無いがね」
白い死神「―――事情も知らないで、準備会という公式が禁止しているのをいいコトに」
白い死神「安全な立場から、無責任に、正義をかざして非難する」
白い死神「そういった行為は、ムショーに腹が立つんでな。小市民的には」ギリ
少女「…………」
少女「……その、“事情”っていうのは?」
白い死神「…………」
白い死神「……ちと、深いハナシになるがね」
白い死神「徹夜組が、なんで徹夜行為を行うのかは、知ってるか?」
少女「え……。そりゃ、欲しい頒布物があるからですよね」
少女「でも、だからってルールを破るのは、ダメだと思います」
白い死神「ああ、そうだな。実際ダメだ」
白い死神「だが徹夜組だって、ルールを破らずに、欲しいモノが手に入るなら」
白い死神「はじめから徹夜なんてしないさ。そうだろう?」
少女「……。そりゃ、まあ……」
白い死神「どう考えてもルールに問題があるんだよ。準備会の標榜する、な」
白い死神「だから徹夜組は、いくら禁止しても、無くならない」
白い死神「そして、ルールを破って並んで、頒布物を手に入れようとした、徹夜組の末路が」
白い死神「そこのあんちゃんだ」
徹夜組「…………」
少女「…………」
白い死神「俺としても、さすがにいたたまれないね」フルフル
白い死神「黒ずくめは辛うじて手に入れているが、他にも欲しいモノがあったろう」
白い死神「だが、ココでぶっ倒れたせいで、その計画はオジャンだ」
男「たしかに徹夜組のほうが、俺たちなんかより、よほどCOMIKEに真剣なのかもしれないな」
白い死神「あんたら、黒ずくめを手に入れられなかったんだろう」
少女「……!」ドキッ
少女「……は。ハイ」
白い死神「始発と同時に行ったのに、徹夜組に先を越されている」
白い死神「ルールを守って、ルールを破った奴に出し抜かれた」
白い死神「さぞ悔しいだろうなァー」
少女「…………、……」
白い死神「だったら、盗っちまいなよ」
少女「……!!」
白い死神「コイツらはルールを破った悪だ。誰も咎めやしねえぜ?」
白い死神「むしろ、コレは正義の鉄槌だ」
白い死神「キマリを守らず、COMIKEを存亡のフチに追いやる、徹夜組へのな」
男「おい、死神……!」
白い死神「くっくっく。だが、俺の言ったコトは間違っているか?」
男「…………」
少女「……ええ。ソレはマチガイです」
男「……!」
少女「いくらルールを破ったヒトだからって、目の前で頒布物が売り切れたからって」
少女「他人の“戦利品”を奪ってはならない」
白い死神「ほう……」
少女「私が頒布物を手に入れられなかったのは、私のチカラが劣っていたから」
少女「彼が頒布物を手に入れたのは、私よりも情熱が勝っていたから」
少女「ソレを我欲に濡れた願いで覆そうとするコトこそ、マチガイです」
白い死神「…………」
白い死神「嬢ちゃん……」
白い死神「なかなか良いガッツ持ってんな」ポン
少女「え……」
白い死神「男よぅ。良い女、捕まえたじゃねえか?」
男「だから、ホントそういうんじゃないから……」
白い死神「かっかっか。よきかな、よきかな」
白い死神「ホント、準備会にこんな公平な人間がもっといれば、良かったんだがねえ」
男「何……? どういうコトだ?」
白い死神「ん? 準備会がもっと公平なら、こんなルール」
白い死神「とっくにもっと違うモンにすり替わってるだろ」
男「いや……。単に良いアイデアが無いだけなんじゃないのか?」
男「10000人にもなる徹夜組を排除するのは、難しいだろうし……」
白い死神「…………」
白い死神「あんた、本当にそう思うかい?」
男「……!」
少女「え……?」
白い死神「さっき、このあんちゃんは黒ずくめしか手に入れられなかったと言ったが」
白い死神「そんなのは氷山の一角だ」
白い死神「場合によっては、行列に並んだ挙句、何も手に入れられなかった……」
白い死神「そんな始発組と変わらないような徹夜組だって、現れる」
少女「な……。そ、それはどういうコトですか?」
少女「徹夜組のヒトは、確実に頒布物を手に入れられるから、並んでるんでしょう?」
白い死神「んっんー。その言い方には、ちと語弊がある」
白い死神「正確には、“頒布物を手に入れられる可能性が高い”から、並ぶんだ」
少女「……そ。それは……」
少女「徹夜をしても、頒布物を手に入れられないコトがある……?」
白い死神「ご名答! さすが、聡い嬢ちゃんだ」
白い死神「そう。徹夜組だって、無敵じゃあない」
白い死神「ツラい思いして、前の夜から並んでも……」
白い死神「さらに別のヤツに、出し抜かれるかもしれねえんだ」
少女「べ。別のヤツ、って……?」
男「…………」
白い死神「考えてもみろ。いくつか、方法があるだろう?」
白い死神「始発組よりも、徹夜組よりも。早くに会場に入れる、“魔法のチケット”が」
少女「……!!」
白い死神「そう。始発組は徹夜組に、徹夜組はチケット組に、さらに出し抜かれる」
白い死神「チケットを手に入れた者こそが、真の絶対正義なのさ」
男「……そして、そのチケットを発行しているのが」
白い死神「そう。まぎれもなく、準備会の連中」
白い死神「モチロン、チケットも理念通りに使えば、正しいアイテムだが」
白い死神「哀れかな。使う人間が悪ならば、アイテムも悪に成り下がる」
白い死神「そして。この二種類のチケットの通称。その名前を、なんと言った?」
少女「え……。たしか、片方がサークルチケット。ソレと……」
少女「……!!」
白い死神「……そういうコトさ」
白い死神「準備会は身内の特権を守るために、スタッフチケットを発行している」
白い死神「ソレ自体がマチガイだとは言わん。事実、当日スタッフは頒布物を買えないからな」
白い死神「だが、準備会が発行したチケットが存在するために」
白い死神「準備会が提示したルールは守られず、徹夜組があふれ出す」
白い死神「しかも、結局徹夜組も、チケット組には敵わない」
白い死神「どうだ? コレがCOMIKEの現実だ」
少女「……そ。ん、な……」
男「…………」
男「一つ、いいか」
白い死神「おう。なんでも」
男「死神。お前は、今日もファンネルと協力して、頒布物を手に入れたようだが……」
男「その頒布物を手に入れるために、お前たちはどうやって入場した?」
白い死神「…………」
少女「……!」
少女「ま、まさか……」
白い死神「……ああ、そうさ」
白い死神「俺たちだって、一般参加者より早く入場したよ。サクチケを使って、な」
男「お前、やっぱり……」
白い死神「おっと、カン違いするなよ」
白い死神「俺たちは、転売だけは大嫌いなんだ」
白い死神「サクチケは、転売で手に入れたモノじゃなく」
白い死神「友人をはじめとした、当日のサークル参加者と協力して手に入れているし」
白い死神「頒布物を買うのは、ファンネル仲間と、サクチケを提供してくれたサークルのためだ」
白い死神「けっして頒布物を転売するためじゃない」
男「だとしても、お前たちも、一般参加者の列には並ばず」
男「サークル参加者でもないのに、先に入場しているのは、たしかだろう」
白い死神「ああ。その通りさ」
白い死神「目には目を。歯には歯を。悪には、悪をもって制す」
白い死神「それが、俺たちのやり方だ」
少女「…………」
白い死神「というより、チケットというシステムが存在する以上、それが最善手だ」
白い死神「結局のところ。準備会が内部改革しないコトには、どうしようもないんだよ」
男「…………」
白い死神「……おしゃべりが過ぎたな」
白い死神「ジューブン涼んだし、そろそろ俺は島中の絨毯爆撃に行くぜ」
白い死神「その紙袋は、ちゃんと徹夜組のあんちゃんに返しておけよ」
白い死神「じゃあな。男、聡い嬢ちゃん。機会があったら、また会おうぜ」
――ビッグサイト 入口
男「…………」
少女「…………」
男「……なあ、このあと、どうする?」
少女「…………」
男「まだ島サークルでも見に行くか」
男「友人でも探しに行くか。それとも……」
少女「……いや」
少女「……今日は、もう帰りたいです」
男「…………」
少女「死神さんのおハナシ……」
少女「まさか、COMIKEの現実が、そんなだなんて、思いませんでした」
男「おいおい。アイツのハナシを本気にしてるのか?」
男「そんなの、アイツが言ってるだけだぞ」
男「もっと他の見方だってあるだろう」
少女「ハイ。でも、彼の言うコトも、真実の一端だと思います」
少女「……それに、私は、徹夜組のヒトのモノとはいえ」
少女「一度、尊敬すべき戦士の“戦利品”を盗もうとしました」
男「…………」
少女「恥ずかしいです。今すぐ、消えてしまいたいくらい」
少女「……私に、もう、COMIKEを楽しむ資格なんて……、ありません」
男「…………」
男「…………そうか」
男「……じゃあ、今日はもう、帰ろうか」
少女「……はい」
男「その前に、コレを食っておけ」
少女「……? エナジーバー、ですか……?」
男「この暑さだ。家に帰るまでに、あの徹夜組のように倒れるとも限らん」
男「家に帰るまでが、COMIKEだぞ」
少女「…………」
少女「……、ハイ」
――ビッグサイト 周辺
魔法陣「17歳♂暇だから全レスします☆」
魔法陣「おっさんネロ。……おっさんだったわ」
魔法陣「年齢2ケタはオッサン(キリ」
魔法陣「BIPで本格的にRPG作ろうぜ」
魔法陣「未完乙、クソスレ乱立すな」
魔法陣「死ね。氏ねじゃなくて死ね」
男「……。あれは……」
男「すまん。ちょっと待っててくれ」
少女「……? ハイ」
男「すみません、BIPの魔法陣ですよね?」
魔法使い「はい、そうですよ。あ、ヘンなヤツばっかでスミマセン」
魔法陣「これぞ馴れ合いスレwwwwww」
魔法陣「股の名をBIPヌクモリティ」
男「あ、あはは……。あの、チャームって、まだあります?」
魔法使い「ええ、ありますよ。BIPPERのヨシミで、一つどうぞ」
男「ありがとうございます!」
魔法使い「いえいえ。スレのほうでは、またよろしくお願いしますね」
男「BIPも、結構仲良いですよね。罵詈雑言もあんま飛ばないし」
魔法使い「あなたCOMIKEの期間中だけBIP来てるでしょう」
男「……バレましたか」
男「すまん。お待たせ」
少女「何やってたんですか?」
少女「あそこ、なんか人が輪になって集まってるみたいですが……」
男「ああ。アレは、通称“魔法陣”」
男「とある、ネット掲示板の住民の集まりでな」
男「なんとなく仲間で集まってケータイいじってる姿から、そんな名前がついたんだ」
少女「……は、はは……。まあ、集まるのは自由ですよね」
少女「……あれ。ってコトは、男さんも、その掲示板を?」
男「まあな。COMIKEの情報とか、けっこう書き込まれるし」
男「そうじゃなくって。ハイ、これ。あげるよ」
少女「あれ? ……、コレって……」
男「チャームのアクセサリーだ。魔法陣では、毎回タダで配ってるんだよ」
男「どうだ? オレンジの輪切りみたいで、けっこうカワイイだろう?」
少女「ええ……。ソレは、そうなんですが……」
少女「私、同じの持ってますよ?」
男「……え?」
少女「ほら、この首のとこ。ネックレス」
男「……あ。ホントだ、同じだ……」
男「……同じの二つは、いらないよな……」ガックシ
少女「…………」
少女「……なら、ソレは、男さんが持っていてください」フフッ
男「へ? ……俺が?」
少女「それで、もしビビっとくる女性に出会ったら、ソレを渡す」
少女「……と、いうのはどうでしょう」
男「えぇー。俺、女には縁が無いからな……」
男「あ、今ならお前がいるけど」
少女「ふふ。私はノーカンで」
少女「男さん良いヒトですし、良い女のヒトに出会えますよ。ええ、必ず」
男「そのコンキョはどっから出てきたんだ」
少女「へへ。私、カンは良いほうなので」
少女「きっと良い出会いが、すぐ近くに待っていますよー」
男「……そうか。だと、いいんだがな」
男「ていうか、そのネックレス、ホントにこのチャームとソックリだな」
男「ソレも魔法陣産か? 毎回、チャームにCOMIKEごとの連番を押してくれるんだが……」
男「その番号も今回と同じだし」
少女「えぇ!? そ、そーですね。私のコレは貰いモノなので」
少女「元の持ち主が、COMIKEに参加していたのかもしれませんねー」
――アパート前の道路
パタン
少女「ありがとうございましたー」
運転手「今回もどうも。三日目も、お願いしますね」
少女「……、…………」
男「ええ。モチロンですよ」
運転手「では」
ブロロロロロ…
――居間
男「……はあ。けっこう、早く帰ってきちまったな」
少女「…………」
男「まだ昼か。ビッグサイトは忙しそうだな……」
男「昼飯はどうする? どっか、食べに行くか?」
少女「…………」
少女「じゃあ、ちょっとワガママ言ってもいいですか?」
男「…………」
男「……いいぞ。大学生のフトコロの深さというのを、見せてやろう」
少女「…………」フフ
少女「では、男さんの手料理が食べたいです」
男「…………?」
男「お、俺の? 料理?」
少女「ええ。昨日の口ぶりだと、作れますよね?」
少女「コンダテは問いません。ぜひ、よろしくお願いします!」
男「…………」ボリボリ
男「……マッタク。弱ったな」
少女「あれ? 作れないんですか?」
男「いや、作れるがな」
男「材料が無い」
少女「…………、あー」
男「まずソコから調達しなきゃならん。弱った」
少女「……そうですか」
少女「じゃあ、一緒に買いに行きましょうよ! 食材!」
男「……へ? 今からか?」
少女「そうです。東狂では、どこで食材買うんですか? やっぱスーパー?」
男「そうだな。……いや、かなりの田舎でもない限り、そうだと思うが」
少女「よっしー!! それじゃあキマリですね、レッツショッピンショッピン!」
男「…………」
男「……はあ。やれやれ」
男「わかった。だが、今日の戦利品くらい片付けておけ」
少女「…………」
男「戦場から帰った戦士としての、当然のタシナミだぞ」
少女「……。そう、ですね……」
少女「わかりました。といっても、黒ずくめさんの既刊、3冊だけですが」
男「それでもリッパな戦利品だ」
男「……そういえば、いったいどんな本だったんだ?」ガサ
男「……!!」
男「……こ、コレ、は…………」
少女「ん……? どれどれ」
少女「男のヒトが二人、見つめ合っている表紙ですね」
少女「男さん、これはいったい?」
男「…………、…………」
少女「ちょっと、私には知識が無いので、わかりません……」
少女「少なくとも、おじいちゃんはこういうの、持ってなかったですね」
男「…………」
男「……まだ早い。というか、一生早い」
少女「えー。いったいどういうコトなんですか」グラグラ
男「揺らすな……」ガクガク
パサ
少女「あ……」
男「ん……? この紙は……」
男「黒ずくめさんの連絡先だな」
男「ああ、そういえば……。今日並ばせたコトへの、お詫びがしたいと」
男「……どうする?」
少女「…………」
少女「…………」
男「…………」
少女「…………」
男「…………」
少女「…………ええ。かけてみてください」
男「そうか。……って、俺のケータイで?」
少女「ハイ。私のは、繋がりませんから」
男「俺のだって繋がる保証は無いが……」
男「まあ昼ならちょっとは空いてるだろうし、サークルもヒマしてるだろう」
男「やれ。この電話番号だな」タタターン
ケータイ「プルルル! プルルル! プルプルプル!」
ケータイ「プルルル! プルルル! プルプルプル!」
ケータイ「ぼく悪いケ……」
黒ずくめ『はい、もしもし』
男「良かった、繋がった。もしもし、黒ずくめさん?」
黒ずくめ『あ……。男さんですか?』
男「そうだ。タイミング悪かったか?」
黒ずくめ『いいえ、とんでもない。既刊もハケて、設営の撤収中だったんです』
黒ずくめ『お二人は、今、どちらに?』
男「ああ……。実は、もう家に帰ってきちまってな」
黒ずくめ『そうですか……。まあ、暑いですからね』
黒ずくめ『それで、少女ちゃんは、今ソコにいますか?』
男「うん。たしかにいるが」
黒ずくめ『……伝えたいコトがあります。良かったら、代わってもらえませんか?』
男「……わかった」
男「おい、少女。黒ずくめさんが、代わってほしいそうだ」
少女「え……」
男「ご指名だぞ。まさか、ここで居留守使う気か? もういるって言っちまったぞ」
少女「……いや。出ます」
少女「お電話代わりました。少女です」
黒ずくめ『ああ、少女ちゃん。今日はゴメンね。気分悪くさせて』
少女「いえ……。黒ずくめさんのせいじゃありませんよ」
黒ずくめ『ありがとう。でも、元は僕が言い出したコトだから……』
黒ずくめ『だから、代わりと言っちゃナンだけど、僕から提案があるんだ』
少女「提案……?」
黒ずくめ『そう。僕は、明日の三日目は一般参加で入るんだけど……』
黒ずくめ『一日目と同じように、コスプレをしようと思うんだ』
黒ずくめ『だから……』
黒ずくめ『少女ちゃんも。コスプレ、やってみませんか?』
少女「は……?」
438 : ◆mclKiA7ceM - 2017/08/26 20:06:43.02 Rg3u98mHo 428/771第二章は以上になります。
最終章は、現在鋭意制作中です。もう少々お待ちください。
続き
少女「コミケ行くので泊めてください!」男「は……?」【後編】