セミ「ミンミィーーーーーーーーンミーーーーンミーンミーンミーンミィーーーーーーーーwwwwwwww」
セミ「ジルルルルルルルルゥルルルルルルジルジルジルルルルゥ……、ルルルゥ……、ル」
セミ「ツクツクボウシ! ツクツクボウシ! ツクツクボウシ! ニィーォニ! ニィーォニ! ニィーォニ! ニィーーーーwwwwww」
男「あ……、暑い……」フラフラ
男「ダメだ……、今年の夏は涼しいんじゃなかったのか? 溶ける、溶けるぞ……」
男「大学も夏休みになったばっかだし、この三連休は、クーラーきかせて家に引き込もるか……」
男「……ん? 俺のアパートの入口……、なんだ? 大家さんと、誰かがモメてる……?」
元スレ
少女「コミケ行くので泊めてください!」男「は……?」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1503641471/
2 : ◆mclKiA7ceM - 2017/08/25 15:11:48.12 Fzl9L1Z/o 2/771・全部で600レスほどの予定です
・数日間に分けて更新します
※この作品はフィクションです。実在の人物や団体等とは関係ありません
少女「だから! 合鍵を貸してくださいと言ってるんです!」
大家「そう言われてもですね……。何か証明するモノが無い限りは」
少女「証明……? そうだ、このチャーム! 彼なら同じのを持ってるハズですよ!」
大家「そんなの知りませんよ」
男「あのー、どうかしました?」
大家「ああ。男さん。ちょうどよかったです。実はですね……」
少女「男さん!!!」ダキッ
男「うおっ!?」ヨロッ
少女(お願い、男さん! ハナシを合わせて!)ヒソヒソ
男(え……、えぇ!?)ヒソヒソ
大家「男さん。この女の子が、あなたの姪っ子だって言うんですよ。本当ですか?」ズッ
男「う……。うぅ、まあ。今は、そんなところです」ダラダラ
大家「今は……?」
男「え! あ。いや。昔から姪っ子ですとも!」
大家「こんなに歳も近そうなのに……?」
男「と、歳の離れた兄貴がおりまして……。その娘で……。ハハハ」
大家「ふうん……」
男「ハ、ハハハッ……」ダラダラ
少女「……、…………」ダラダラ
大家「…………」
大家「……まあ、いいでしょう」フゥ
少女「!」パァ
大家「―――ただし!!」
男「はっ!?」
大家「その子を部屋に置くのであれば、他の部屋にメイワクにならないように」
大家「また、今後もしばらく一緒にいるのであれば、必ず私に一言お願いします」
大家「……いいですね?」
男「は……、はぁいぃぃぃぃっっ!!!」
少女「すごいな、この大家さん……。威圧感がハンパじゃない」
大家「では、私はこれで」ガチャ
男「ごきげんようございますぅぅぅぅっっ!!!」
バタン
少女「……スゴいヒトですね」
男「あのヒト、怖いヒトに見えただろ? 本当に怖いんだよ」
男「……それで、君はいったい?」
少女「あ。その。ええ、と……」アハハ
男「…………」
男「今晩泊まるところとか、無いの?」
少女「え! ハイ! ありません!!」
男「なんでそんなに元気なんだ……」
少女「実は私、男さんにお願いがありまして」
男「いちおう聞くだけ聞くよ」
少女「ありがとうございます! それではお言葉に甘えて!!」
少女「コミケ行くので泊めてください!」
男「は……?」
少女「コミケです! 知ってますよね、コミケ!?」
男「コミ……、ケ……」
男「……いや、知らないな」
少女「えぇ!? いや、コミケですよ、コミケ! コミックマーケット!」
少女「有明は東京ビッグサイトで行われる、日本最大の同人誌即売会!!」
男「有開……、東狂ビッグサイト……? お前、まさか……」
男「“COMIKE”のコトか……?」
少女「COMIKE……?」
男「どうにもハナシが噛み合わないな」
男「まあ、とにかく部屋に入れ」
――男の部屋
少女「わあ! ボロっちいですね! ここに泊めてくれるんですか!」
男「ボロっちくて悪かったな。それにまだ泊めるとはヒトコトも言っとらん」
少女「えぇ!? てっきり、もう泊めてくれるものかと……」
男「それはハナシを聞いてから考える」
男「で? コミケ、といったか? それは何なんだ?」
少女「はい! コミケとは、全国から数十万の人々が東京に集まる、夏と冬の大イベント!」
少女「集まった人々は、三日間の会期中、自分の創作作品を発表し、また買い求めるのです!!」
男「ふうん……。聞く限りでは、COMIKEと大差無いようだな」
少女「アルファベットなのが、そこはかとなく威圧感を覚えますが……。COMIKEというのは、いったい?」
男「いや、概要は、そのコミケとやらと同じだな」
男「お盆と年末の年二回。有開の東狂ビッグサイトで三日間行われる、同人誌の即売会だ」
少女「……なんか、ちょっと漢字、違くないですか?」
少女「どことなくヤバそうというか……」
男「そうか? ムカシから、そういう地名なんでな」
男「……で、COMIKEに行くために、俺の家でどうするって?」
少女「ハイ! 男さんの家に泊めてほしいんです!」
男「……なんでまた俺の家なんだ? たしかに有開には近いが」
少女「え!? そ、それはですね……」
少女「……そう、優しそうだったので!!」
男「んな、テキトーな。どこで俺を知ったんだ?」
少女「……男さんの家の中とか?」
男「オイオイオイ盗撮されちゃってるのか」
少女「してませんけど!!」
男「まったく、弱ったな」
男「じゃあ、もし俺がココに泊まらせなかったら、どうする?」
少女「え、ええと……。ビッグサイト周辺のホテル、とか……」
男「んなモン、去年のこの時期から予約埋まってるに決まってるだろう」
少女「ぐ。では、都内のどこか、テキトーな場所……!」
男「女の子一人では危ないかもしれんなあ」
少女「ええい、ならば三日間ぶっ通しでビッグサイトに並んでやりますとも!」
男「徹夜組じゃねぇか!!!」
男「……マジでどこも行くトコ無いの?」
少女「はい……」
男「この近くに、友達とか知り合いとかは?」
少女「いません」
男「毎日実家からビッグサイトに通うのは?」
少女「……遠すぎます」
男「COMIKEに参加するのは諦めるのは?」
少女「絶対にイヤです」
男「……どうしてそんなにCOMIKEに参加したいんだ?」
少女「…………」
少女「……おじいちゃんから、聞いてたんです」
少女「コミケは、それは楽しい催し物だって」
少女「日本中から、星の数ほどの人々が集まり、創った作品を通じて交流する……」
少女「参加するのはタイヘンだけど、みんなイキイキしてて、自分も楽しかったって」
少女「そんなイベントに、私も行ってみたかったんです……!」
男「…………」
男「……わかったよ」フゥ
少女「ほ、本当ですか!!」
男「ああ。そんなハナシ聞かされて、追い出すのも薄情だろうしな」
少女「やったー!!」
少女「ありがとうございます、男さん! お礼に何でもしますから!!」
男「……何でも?」
少女「……? ハイ、何でもしますよ」
男「…………、……いや、俺から君に頼むコトは無いよ」
少女「ええっ! どうしてですか、料理くらい作れますよ!」
男「バカ。料理するとして、いったい何を作るつもりだ?」
少女「……? 普通に、冷蔵庫の中のモノを使って……」
男「……そんなコトでCOMIKEを乗り切れると思っているのか」
少女「なんですと」
男「いいか? COMIKEは、“戦場”だ」
少女「はい。おじいちゃんも言っていました。コミケは“戦場”そのもの、いや、それ以上であると」
男「調子乗って肉なんか食いまくれば、即リバースだ」
少女「なんですと……」
男「COMIKEに参加するつもりなら、まず食事から厳密に考える必要がある」
男「もちろん注意を払うべきは食事だけじゃない」
男「COMIKEに適した服装、装備、健康状態、心構え……。お前、体力に自信はあるか?」
少女「ハイ! 不肖私、元気なコトだけが取り柄なので!」
男「それはいいコトだ」
男「だが、生半可な体力では、COMIKEではとても保たない」
男「地上に存在する、あらゆるイベントよりもカコクなのが、COMIKE」
男「そう胸に刻んでおくといい」
少女「はい……。あ、質問なのですが」
男「なんだ?」
少女「男さんってCOMIKEに詳しいみたいですけど。今までに行ったコトがあるんですか?」
男「そうだな……。友人の付き添いだが、夏と冬の2回ずつ。計4回だな」
少女「うわあ……。結構なベテランですね」
男「俺なんかまだまだだぞ。その友人は、計20回近く行ってるらしいし」
男「まったく……。まさか、この三連休はCOMIKE参加だとはな」
男「しかも自主的に」
少女「というコトは、自分から行ったコトは?」
男「無いな。第一、アニメとかコスプレとか、そんなに詳しくないし」
男「だけど、友人は今回も参加するらしい。いちおう連絡は入れておくか……」
少女「友人さんは詳しいんですか? その、オタク文化ってやつに」
男「ああ。根っからのオタクというか、ロジカルというか、ム○クというか」
男「そういえば、君はアニメとか詳しいのか?」
少女「いやー、実は私も、それほどは」
男「……なのに、COMIKEに行きたいのか?」
少女「はい! コミケなのか、COMIKEなのか、わかりませんが」
少女「私はソレに参加するために、ここまで来たので!!」ムフー
男「……元気だなぁ」
少女「ハイ! 元気なコトだけが取り柄なので!!」
男「そうか。わかった。じゃあ、明日から三日間のジュンビをするとしよう」
少女「ジュンビ? 具体的には、何を?」
男「ん……。まあ、COMIKE用の服とか、携帯食料とか、飲み物の用意だな」
少女「えぇー、そんなのまで必要なんですか?」
男「さっきも言っただろう。COMIKEは、“戦場”だ」
男「戦場でジュンビを怠れば……、死、あるのみ」
少女「むぅ……。たしかにソレは同意できるところですね」
男「とりあえず、しばらく装備とか考えるから、そこらへんでもテキトーに見ててくれ」
男「……あ」
少女「……? どうしました?」
男「……俺、三日間もCOMIKEに満足に参加できるほど、金が無いぞ」
少女「ふっふっふ。ご心配なく。軍資金なら、ここに!」ビラビラビラッ
男「や、やめなさい! そういうの!!」
22 : ◆mclKiA7ceM - 2017/08/25 15:26:10.05 Fzl9L1Z/o 22/771序章は以上になります。
第一章は、本日18時ごろの開始を予定しています。
男「おい、起きろ」ユサユサ
少女「んゆ……、もう食べられましぇん……」
男「ベタな夢見てんなァ」
男「ほら、起きろ」ユサユサ
少女「んあ……。……っくぅ、ハァ。あ、朝ですか……」ガバァ
少女「……あれ? いま何時ですか?」
男「朝の3時半だな」
少女「いやソレ深夜でしょう! ほら外、真っ暗じゃないですか!」カーテンシャァッ
少女「COMIKEが始まるのって何時でしたっけ!?」
男「朝の10時だな」
少女「まだ六時間半もあるじゃないですかーっ!!」
男「……お前、知らないのか?」
男「“既にCOMIKEは始まっている”」
少女「え……?」
男「今からタクシーを呼ぶ。お前もすぐに支度をしてくれ」
少女「支度……、といっても、何を……?」
男「服を着替えて、顔を洗って、歯を磨くだけだ。他のコトは向こうで済ます」
――アパート前の道路
少女「はーい男さん。ジュンビできましたよー……、って何ですかそのカッコウ!?」
男「……? 何かおかしいか?」
少女「完全に登山服じゃないですか! それに何ですかそのバカデカいリュック!!」
男「COMIKEは登山のようなモノだ。実際、登山服が最も適していると友人の奴も言っていた」
男「それに、このくらいのリュックサックでないと、“戦利品”は積み込めない」
少女「おお……。“軍資金”に、“戦利品”。らしく、なってきましたね!」ムフー
男「やる気いっぱいで何よりだ」
少女「ええ! がんばりますとも!」グーキュルルルルルル!!!!
少女「あ……」
男「……。まあ、そりゃ腹くらい減るよな」
少女「お恥ずかしい……。そういえば朝食はどうするんですか?」
男「向こうで食べる。だが、完全に空腹というワケにもいかないな」
男「そら。エナジーバーだ。他にもノドが渇いたり、頭が痛くなったりしたら、言えよ」
少女「ありがとうございます!! むむ、カンソな見た目ながらオイシイ……」モキュモキュ
男「…………」フッ
男「……おっと。タクシーが来たぞ」
キキー
カパッ
少女「よいしょ、っと……。入っちゃっていいんですね?」
男「ああ」
運転手「では、どちらまで?」
男「有開の、ビッグサイトまで」
運転手「おお……。この時間から並ぶんですか!」
男「いえ、並ぶワケじゃないんですけどね」
男「正確には、ビッグサイト近くの、鷲ントンホテルまでお願いします」
運転手「承知しました」ブオー
少女「……? どういうコト、男さん?」
少女「こんな早くに行くからには、ビッグサイトに並ぶんじゃないの?」
男「ばか。電車の始発の時間、つまり朝5時半よりも前に待機列を形成しているのは」
男「“徹夜組”といってだな、COMIKE準備会はこういった徹夜行為を禁止している」
少女「ほーん、なんで?」
男「主な理由は近隣のメイワクになるからだが……。まあ、見ればわかる」
男「とにかく、到着はすぐだ。身を構えておけ」
少女「はーい」
――秋羽原
ゴー
少女「……誰も、歩いてませんね……」
男「いくら東狂といっても、夜明け前だからな」
男「人口1000万近いメトロポリスの中心地といっても、夜は寝静まるものさ」
少女「そう、ですか……。朝になったら、みんな出歩くんですよね?」
男「まあ、そうだろうな」
少女「そっか。良かった」
男「……?」
――豊州
ゴー
男「……さすがに人も車も増えてきたな」
少女「みんながビッグサイトのほうに吸い込まれていきますね」
運転手「実は、さっきもCOMIKEへ行くヒトを送ったのですがね」
運転手「ビッグサイトはタクシーの降車が禁止でして」
運転手「スタッフの隙を見つけて、こう、ずずいっと駐車するのですよ」
男「へぇー」
少女「運転手さんもタイヘンなんだなぁ」
――鷲ントンホテル前
運転手「さて、到着しました」
男「ああ、ありがとう」
少女「うっわー、すっごいおっきいビル!!」
男「ここは鷲ントンホテル、正しくは……なんていったかな」
男「とにかく、通称“鷲”と呼ばれる、ビッグサイト最寄りのホテルの一つだ」
少女「ほうほう。それで、今日からここに泊まるんですか?」
男「いいや。昨日も言ったが、キャンセルでも出ない限り、予約は一年前から埋まってる」
男「今日は、ここに泊まってる友人にアイサツしておこうと思ってな」
少女「おお! 何回か話に出てた、男さんの友人さんですね!」
男「既に話は通してある。行くぞ」
――鷲ントンホテル ロビー
少女「ひゃぁ~、豪華なエントランスだなぁ……」
男「こういうホテルは初めてか?」
少女「うん、そんなところ。でも、勝手に入って怒られないかなぁ?」
男「堂々としてりゃバレないモンさ。友人がいるのは10階だ、行くぞ」
――鷲ントンホテル 1029号室
男「ブジに到着できたな。それじゃあ、呼ぶぞ」
リンゴーン
少女「どんなヒトなんだろう……」
ガチャ
友人「おおwwww男氏! ヤケモーニンwwwwwwぴゃっwww」
男「久しぶりだな、友人。元気にしてたか?」
友人「んんwww健勝以外ありえないwww」
少女「…………」ポカン
男「……? どうした?」
少女「えぇ……。ええと。なんていうか、その」
少女「メガネで、シャツで、バンダナで……」
少女「……す、スゴい」
友人「おお! これはキャワイイおにゃのこではありませんかwwwwww」
友人「男氏! この、この! ヌケガケとは卑劣ですぞwww」
男「そういうんじゃないって。昨日会ったばかりだから」
友人「なんと、ナンパ……!? 男氏、いつの間に……」
男「だからそういうんじゃないから!!」
友人「照れ隠しは見苦しいですぞwwwおうふwww」
友人「失敬。しかし、知り合ってすぐにCOMIKEとは、いささかハードではありませんかなwww」
男「そうは言っても、この子が言い出したんだ。俺だって家で寝てるつもりだったからな」
友人「なんと! 少女氏、見かけによらずオタクであらせられますかなwww」
少女「うーん……。まだオタクではないと思うんですけど、私、COMIKEに行ってみたくて!」
友人「んんwwwCOMIKEに行きたいなら、既にリッパなオタクですぞwww」
少女「そ、そうかな……。エヘヘ……」
友人「んんwwwwww照れるところではありませんぞwwwwww」
友人「それで、男氏www今日は何用ですかなwww」
男「いや、今日から三日間、俺たちもCOMIKEに参加するから」
男「“戦友”に、アイサツくらいしておこうと思ってな」
友人「……!」
友人「男氏……。さすが、我が認めた漢……」
男「いや、お前こそ。毎度COMIKEに参加する気力には感服するよ」
友人「んんwww今回も無事、一日目でサークル当選できましたからなwww」
友人「一日目の今日は多忙ゆえ、次、会う時は戦場ですぞwww」
男「ああ。もしハケてなかったら、一冊買っていくとしよう」
友人「しかし男氏www参加するのがわかっていれば、ファンネルをサクチケで頼めたものをwww」
男「カンベンしてくれ、女の子連れなんだ。そこまでガッツリ参加するワケじゃない」
友人「おうふwww失敬失敬wwwいかに戦士といえど毎年は堪える内容でしたなwww」
少女「……ファンネル? サクチケ?」
男「ああ、そのへんの用語はさすがに知らないか」
男「ファンネルってのは、COMIKEで頒布物が欲しい本人に代わって、お使いを頼まれるヒトのコトだ」
男「自分の持ち場から動けないサークル主の他にも、大手の頒布物を狙う参加者が手を組んだりする」
友人「由来は某有名ロボットアニメですなwwwガノタでなくとも常識ですぞwww」
男「そして、サクチケについては……」
男「コレは直接見たほうが早いだろう」
少女「……?」
男「友人、部屋の窓、貸してもらえるか?」
友人「んんwwwこんなところで立ち話も何ですからなwww歓迎以外ありえないwww」
男「ありがとうな」
少女「友人さん、見た目や喋り方は変わってるけど、良いヒトですね」
男「ああ。俺もそう思うよ」
男「ビッグサイトのほうが見えるか?」
少女「はい。……うわぁ、もうとんでもない数のヒトが並んでますね」
男「あれが徹夜組だ。一説によると、始発までに10000人以上が集まるという」
少女「10000人? もうヘタなイベントより人数多いんじゃないですか!?」
男「ああ。だが、徹夜組による徹夜行為を、COMIKE準備会は禁止している」
少女「そういえば、タクシーの中でも言ってましたね。何でなんですか?」
男「うーん、理由は色々あるんだが……。これは友人のほうが詳しいだろう」
友人「んんwwwお呼びですかなwww」
男「COMIKEで徹夜が禁止されている理由を説明してくれないか?」
友人「んんwww承知以外ありえないwwwwww」
少女「よろしくお願いします!」
友人「まずは当然の理由としてwww大人数が長時間集まると、普通にメイワクですなwww」
友人「ビッグサイト以外の場所への不法侵入www器物損壊wwwゴミのポイ捨てwww」
友人「草も生えない悪行ですなwwwオタクは常に紳士淑女であらねばならないwww」
男「草、生えてるぞ」
友人「近隣にメイワクがかかれば、COMIKE存続の危機にも関わる由々しき事態www」
友人「合理、道徳、双方の観点から徹夜組は推奨されないのですなwwwwww」
少女「なるほど……。たしかにキンジョに知らないヒトがいっぱいいるのは、ちょっとコワいですね」
友人「第二に、東狂都の条例に反しますなwwwwww」
友人「条例では、18歳未満の青少年の深夜徘徊は認められていないwww」
友人「いかに狂った都といえど、子供は守られるべきですなwwwwww」
少女「良かった……。じゃあ私は大丈夫だね」
男「18歳以上なんだ」
友人「ちなみにwwwこの問題はCOMIKEだけでの問題ではないのでwww」
友人「警察からも強い指導を受けて取り締まっていますぞwww」
少女「あっ、本当だ。待機列の外に警察のヒトがいる」
男「COMIKEの時期はパトロールの警察官を増員しているらしいな」
友人「最後にwwwヨッパライのオヤジを辻強盗するオヤジ狩りという犯罪がありますがwww」
友人「これのオタク版、オタク狩りが夜な夜な行われているのですなwww」
少女「オ、オタク狩り……」
男「オタクだからって全員戦闘力が高いワケじゃないからな」
友人「参加者が被害に遭いwww犯罪の温床となる事態はwww避けたいところですなwww」
友人「もっともwww我は始発の時間までホテルで待機するwww善良なオタクですがwwwwww」
少女「うーん、でも無防備なほうが悪いんだし、仕方ないんじゃないかな?」
男「君、けっこうシビアだね」
少女「でも、どうしてそんなに問題があるのに、徹夜組のヒトは夜から並ぶんですか?」
友人「それはwwwひとえにwww目当ての頒布物を入手するために他ならないwww」
男「COMIKEでは、創作を発表するための数人のグループを、サークルと呼ぶ」
友人「我は今回もサークル側での参加ですなwww」
友人「むろん、サークルを出展できるのは一日だけなのでwww二日目以降は一般参加ですがwww」
少女「へえ。友人さんは、何を創ったんですか?」
友人「んんwww同人誌とだけ言っておきますぞwww」
少女「同人誌! 知ってます! マンガとかアニメとかゲームのキャラを使った、えっちぃ本ですよね!」
友人「少女氏wwwwwwそれではただのウ=ス異本wwwwww」
少女「あ、あれ……? 違うんですか?」
男「まあ、薄い本も、広義では同人誌と同じ意味なのだが……」
男「同人誌っていうのは、カンタンにいえば、仲間内で作る非商業の本だな」
男「完全なオリジナルの作品もあれば、二次創作の場合もあるし、全年齢対象のモノも多い」
男「……別にエロ同人のコトだけじゃない」
友人「同好の人が作る雑誌だから同人誌、ですなwww」
少女「あ……、そうだったんですか。ハズカシ……」
友人「ちなみに、同人制作ゆえにあまりページ数は多くならないから、厚さが薄くなるのですなwww」
友人「もっとも単に薄い本と言った場合は、ほとんどの場合はR18な内容ですがwwwwww」
友人「んんwwwですがえっちぃ表現をオブラートな言い方に変えるwww雅な文化ですぞwww」
男「そして、そういった同人誌も含めた頒布物をいち早く手に入れるために、徹夜組は並んでいる」
男「だが、そんな徹夜組よりも、さらに早く会場に入る手段があるんだ」
少女「ほ、本当ですか? それはいったい!?」
友人「んんwwwそれこそが、このサクチケですなwwwwww」
男「サクチケってのは、サークルチケットの略。正式名称は別にあったと思うが……」
男「サークル参加者は当然、頒布物を用意するために、一般参加者よりも早く入場する必要がある」
男「その通行証として、このサクチケはあるんだ」
友人「また、当然サークル参加者は自分のブースの頒布があるので、他の買い物に行けませんなwww」
友人「そんなサークル参加者が知人に依頼し、他の頒布物を手に入れるためにもあるのですぞwww」
少女「なるほど。だから、ファンネルがどうこう……」
友人「そうwwwサクチケを使えば、徹夜組をはじめとした一般参加者より有利に列に並べるwww」
友人「サクチケを持ったファンネルならば、大手の頒布物でも確実に入手できるのですなwwwwww」
少女「友人さんは、その、他のヒトにファンネルを頼んだんですか?」
友人「むろんwww一日目にも興味深い頒布物は多いゆえwwwwww」
友人「しかし売り子も我一人では人手不足な現状www気合いで何とかする以外ありえないwwwwww」
男「友人……。お前もタイヘンだな」
友人「なんのこれしきwww年に二回の大イベントなればwww」
友人「全力には全力をもって応えるのが礼儀ですぞwwwwww」
少女「…………」ホゥ
男「……どうした? ため息なんかついて」
少女「ああ、いや。やっぱりCOMIKEには、こんなに真剣に参加するヒトがいる……」
少女「とっても魅力的なイベントなんだなって」
男「……そうだな」
友人「おうふwwwいつの間にかこんな時間www」
友人「国際展覧場駅にシーサイド線の始発電車が到着する時刻ですぞwww」
男「おお……。もうそんな時間か」
少女「どういうコトですか?」
男「さっき徹夜行為は準備会に禁止されていると言ったが」
男「ならどこからなら来てもいい時間なのかというと、この始発電車が到着する時刻になる」
男「その最も早い始発が、シーサイド線の、国際展覧場駅着というワケだ」
友人「んんwww始発ダッシュ対COMIKEスタッフのバトルは見物ですぞwwwwww」
男「たしかに……。それもCOMIKEの一つの要素、風物詩といえるかもしれないな」
男「少女、行ってみるか?」
少女「ええ。なんだかわかりませんが、面白そうです!」
男「キマリだな」
男「友人、このホテルの朝食ビュッフェは、何時からだった?」
友人「んんwww6時45分ですなwww」
男「まだ二時間近くあるか……。さすがに小腹が空くな」
友人「ではwwwいつものネタも含めて、国際展覧場駅前のLAMSONはどうですかなwww」
男「ああ……。それも面白いか」
少女「……? LAMSONってコンビニですよね? 何かあるんですか?」
男「行けばわかる。行ってみよう」
友人「んんwww始発前の行動は、徹夜組と同じ、限りなくクロに近いグレーですから注意ですぞwww」
少女「自分は違う、なんて思っちゃダメだってコトですね……」
――鷲ントンホテル前
少女「お、もうかなり明るくなってきましたね!」
友人「きたるべきCOMIKE一日目への夜明けですぞwww」
男「だが、いつものこの時間帯よりは、暗い感じだな……」
友人「んんwww今日の降水確率は50%www」
友人「一日目は初心者向けのイージーCOMIKEになりそうですなwww」
少女「そうなんですか? なら良かったですけど」
男「ああ。夏コミは、気温が上がると、地獄だからな……」
友人「もっとも、雨は徹夜組にとって大きな痛手になったようですがwww」
――LAMSON 国際展覧場駅前店
店員「ラーシャッセー」
少女「あ、どうも……」
男「相変わらずココはコミケ仕様だな……。溢れかえるアニメグッズ、ストラップつきの自販機」
友人「なにしろ待機列最寄りのコンビニの一つですからなwww」
男「コンビニといえば、最寄りじゃないが、西雲駅前のデイリーザキヤマもベンリだな」
友人「西雲駅前のデイリーザキヤマなら4月にブッ潰れましたぞwww」
男「えぇ……」
少女「す……、スゴい!! なんですかコレは!!」
男「気付いたか」
少女「しょ……、商品棚一面を、埋め尽くすほどの!」
少女「ウイローinゼリー!」
少女「カロリーミート!!」
少女「レッドアオ!!!」
男「今年も臨戦態勢だな、このLAMSONは」
友人「この三日間は、ココのLAMSONがマチガイなく全国で売り上げトップのコンビニですなwww」
少女「な……、何故ですか! 何故このコンビニには、食べ物がたくさん!?」
男「そりゃ、ただでさえ多いCOMIKE参加者が、一斉に買い物に来るからな」
友人「一日のCOMIKE参加者はおよそ20万人近くwww」
友人「そんな彼らの食糧庫と考えれば、これでも足りないくらいですなwwwwww」
少女「す、スゴい……。これも、COMIKEの影響……」
男「他にもスケッチブックなんかもたくさんあるな。似顔絵とか、サイン用か?」
男「それじゃあ、適当におにぎりか手巻寿司を選んでくれ。ただし、買いすぎるなよ」
友人「ちょうど100円セールですなwwwオススメは腐りにくい梅おにぎりですぞwwwwww」
店員「324円ニナリヤス」
男「はい……、って友人、お前の分も俺が出すのか」
友人「んんwww108円くらいでカタいコトを言ってはいけませんぞwww」
男「108円くらい自分で払ってくれよ……」チャリン
店員「アリアトゴァッシター」
店員「COMIKE、お楽しみください」ニコ
少女「は……! は、ハイ!!」
男「完全に見破られてるな」
友人「今日ココを訪れるのは、どう考えてもCOMIKE目当てですからなwww」
――シーサイド線 国際展覧場駅
ザワザワ ザワザワ
少女「ここが、国際展覧場駅ですか……」
男「既に人だかりが出来ているな」
少女「みなさん、カメラを構えていますね。いったい何を……?」
友人「5時23分……。時間ですぞ」
男「ああ……」
<プシュー
<ドドドドドド…
男&友人「「……!!」」
男「この音……」
友人「来ましたな……!」
少女「え、何が? 何が来たんですか!?」
アナウンス『おはようございまーす。改札前は、走らないようにご協力お願い致しまーす』
<ドドドドドド…!
アナウンス『走らないでくださーい。走らな……』
始発組「「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」」」」」」ドドドドドドドド
少女「だぁ……っ?! ななな、なんですか改札の向こうから!! す、捨て身の特攻ですか!?」
男「来るぞ……っ! 呑まれるな!!」
始発組「「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」」」」」」ドドドドドドドド
アナウンス『走らないでくださーい。危険です、大変危険です』
野次馬「がんばれー!!」パシャパシャ
野次馬「いけいけー!!」パシャパシャ
始発組「「「「「「おおおおおおオオオオオオををををををヲヲヲヲヲヲ!!!!!!」」」」」」ドドドドドドドド
アナウンス『は し ら な い で く だ さ い』
少女「だ、誰もアナウンスの言うコトを聞こうとしない……」
男「よく見るとちゃんと歩いてるヒトはいるんだけどな」
友人「嗚呼、聞き入れられるべき警鐘は虚しく響く……。狂気の中の正気こそ狂気哉……」
「「「「「「ウオオオオオオラッシャァァァァァァァァァァァァァァァァァァイイイイイイ!!!!!!」」」」」」
少女「ひゃあッ!!? こここ、今度は何ですか何ですか!!」
友人「この耳朶を打つ、鼓膜をつんざく、大音声……!」
男「伝説の300人が……、来た……!!」
スタッフ長「ここから先は! 始発組も! 野次馬も! 一歩も通すな!!!」
テルモピュライ
スタッフ長「駅前門を守れ!! 安全な来場のために!! 参加者を誘導しろ!!」
スタッフ「「「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」」」」」」
スタッフ長「行くぞ……、選ばれし300のスタッフ兵たち!!!」
ジャキン ジャキン ジャキン ジャキン
コ ミ ケ ッ ト
スタッフ長「 C o m e G e t (来たりて取れ) !!!!!!」
スタッフ「「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」」」」」」ドドドドドド
始発組「「「「「「うああああああああああああああああああ!!!!!!」」」」」」ダダダダダダ
始発組「瑠璃イイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!」
始発組「鹿島ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああ!!」
始発組「ハルトオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」
始発組「アルパカぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
始発組「定価の3倍出すから売ってくれえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ」
始発組(ファミチキください)
始発組「フラァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァン」
少女「なんですか、コレは……! 改札から来た軍勢と、半裸の軍勢が、激突して……」
男「COMIKE名物、始発ダッシュ……」
男「これから始まるCOMIKEの前哨戦ともいえる壮大な儀式だ」
友人「んんwww実情はツッコんでくる始発組をスタッフが止めているだけに過ぎないwww」パシャパシャ
スタッフ「……はーい、スタッフを先頭に並んで、ビッグサイトのほうに進んでくださーい」
始発組「トホホ……」
少女「アッサリ鎮圧されちゃいましたね」
男「こんなところでいきなり体力使ってもバカだからな。始発組も、スタッフも」
友人「それでも大迫力でしたなwwwつべにうp、と……www」
友人「さてwwwこのあと我は、サークル参加者の列のほうに移動しますがwww」
友人「男氏と少女氏はどうしますかなwww」
少女「そりゃあ、私たちも列に並びますよ!」
少女「この列に並ばないとCOMIKEに参加できないんでしょう!?」
男「いや……。少女、今から並ぶのはやめておこう」
少女「ええっ? 何でですか!?」
友人「んんwwwたしかにwww初参加で朝から並ぶのは、体力的にキツすぎるwww」
友人「行列が解消される正午前後に入場するのが安パイですなwwwwww」
男「そういうコトだ」
少女「ぐぐぅ……。でも、ベテランの皆さんがそう言うなら、ソレが正しいんだろうなあ……」
男「まずは会場の外で様子を見て、雰囲気を掴んでいくとしよう」
男「俺たちは鷲ントンホテルのビュッフェを食べていくよ。たしか泊まってなくても入れたよな?」
友人「んんwwwいかにもwwwもっとも、別料金を払う必要はありますがwww」
少女「友人さん、頑張ってくださいね!」
友人「おうふwwwおにゃのこにそう言われては、頑張らざるを得ないwww」
友人「会場に来たら我のサークルチェックもよろしくお願いしますぞwwwwww」
少女「友人さーん! それじゃあ、また後でー!!」
少女「……行っちゃいましたね」
男「戦場に向かう男の背中とは、雄々しくも、どこが物悲しいモノだ」
――鷲ントンホテル レストラン
男「大人2人です」
受付「ありがとうございます。それでは、ご自由に料理をお取りください」
少女「わーい! バイキングだー!!」
男「おい、はしゃぎすぎるなよ……。他の宿泊客もいるんだから」
少女「ねえ、何を取ってもいいの!?」
男「別にいいが。……ああ、ただ、腹が膨れすぎないようにな」
男「午後からの活動に差しつかえるぞ」
少女「はーい。それじゃあ、どうしようかな……」
少女「自分で作る海鮮丼かあ! 江戸前寿司ってやつだね!」
少女「イクラ、サーモン、シラス、マグロ、明太子……」
少女「ええい、全部乗せちゃえ!」
男「…………」フッ
男「……楽しそうだな」
男「東狂のコトも何も知らなかったみたいだから、旅行したコトも無かったのかもしれないな」
男「……。……マグロの、カブト焼き……?」
男「ゲテモノは、いらんな……」
少女「……」ニコニコ
男「……コレを取る、バカがいるとはな……」
少女「あれ、ダメでした?」
男「……いや、食いきれるのならいいが」
少女「ですよね、いただきまーす!」ガツガツ
男「…………」モグモグ
少女「うわはー、新鮮だなぁ! カンヅメとは鮮度が違う!」
少女「塩の味がしない……!? 獲れたてだと、こうも違うのか……」
少女「ううっ、ツンツンする! ワサビが! ぎょえー!!」
男(うまそうに食う、というか……、ニギヤカな奴だ)
少女「ごちそうさまでしたー!!」
男「うまかったか?」
少女「うん、とっても! また食べたいな!」
男「そうか……、じゃあ、今日の昼食もここにするか」
少女「え? いいんですか!?」
男「ああ。ランチもディナーも、ビュッフェをやってるみたいだからな」
少女「やったー! 次は何を食べようかな……、お肉かな……、中華やイタリアンもあったな……」
男(やれやれ。デカい娘でも出来たような気分だ)
男(まあ、サイフはコイツ持ちなんだが)
少女「もう7時ですね! いよいよCOMIKEに行きますか!?」
男「いや、まだ早い。どこかで時間をつぶそう」
少女「ええ……。早くビッグサイトに入りたいですよぅ」
男「そう急くな。開場は10時、今から行っても三時間並ぶだけだ……」
男「それに、COMIKEの待機列は、地獄だぞ?」
少女「むぅ。地獄冥府、何するものぞ!」
少女「こう見えて、ガッツはあるほうですから、地獄程度、ヘでもありませんよ!」
男「ほう。そう言うなら、見に行ってみるか。待機列を」
少女「よしきた!」
――ビッグサイト周辺
シトシト
ザワザワ ザワザワ
少女「ゔ……」ムアッ
男「ぐ……。雨で気温が低いとはいえ、すさまじい熱気だな」
男「むしろスチームされている気すらする……。蚊がうっとうしい!」プゥーン
少女「こ、これは……。キツいですね……」
男「だから言っただろう。地獄だと」
男「レインコートを貸してやる。服を濡らすなよ。蒸れてヒドいコトになるからな」
少女「ありがとうございます! わお、花柄……。用意シュートーですね!」
男「登山も同じ……、モノらしい。すぐに天候が変わるところが」
男「ちなみにCOMIKEで傘は推奨されない。気を付けろ」
少女「え? どうしてですか?」
男「ああなるからだ」
待機列「いてっ、傘の骨が目に入った!」
待機列「ちょっと、水滴がこっちに流れてるのよ! 落とさないでよ!」
待機列「す、すみません……!」
スタッフ「待機中の皆様! 傘はキケンです! せめて相合い傘になってくださーい!」
スタッフ「持っている方はレインコートを着てください! ゴミ袋でも構いません!」
スタッフ「積極的にメジェド様になっていくのです!」
少女「な、なるほど……」
男「夏はまだいいが、冬コミの時の降雨は死活問題だ」
少女「どうしてですか?」
男「雨に打たれて凍えて死ぬ」
少女「ああ……」
男「ヒドい時は雪になるらしいが。いずれにしろ、レインコートは必須装備の一つだ」
少女「それでも今から並べば、どれくらいになりますかね?」
男「さあな。まあ、すぐには建物に入れまい……。ちょっと、友人に電話してみるか……」
プルルルルル
男『おい、俺だ。大丈夫か? まだ繋がる程度ではあるが』
友人『んんwww男氏wwwwwwヤケモーニンwwwwwwぴゃっwww』
友人『我ほどの猛者が小雨程度でくたばるハズがありませんなwwwwww』
男『ならいいんだが。今、待機列の始発組の場所はどこくらいだ?』
友人『んんwww逆三角形はまだ遠いですなwwwwww』
男「……だ、そうだ」
少女「うう……。なかなか建物にも入れないのに、皆どうして並んでるんでしょうか?」
男「それは友人も言ってただろう? 徹夜組と同じ」
男「目当ての頒布物を手に入れるためだ」
男「もちろんアニメグッズショップやネット通販に委託される頒布物もあるが」
男「COMIKE当日限りというモノも少なくない」
男「ソレを、たとえ苦しい思いをしてでも、手に入れる……」
男「ここはそんな“戦士”たちの集まる場所なんだ」
少女「戦士……」
男「わかってきたか? COMIKEの、“戦場”たる由縁が」
少女「……ええ。ほんの、少し」
男「…………」
男「……たしかに、COMIKEは楽しいコトばかりじゃない」
男「だが、試練を乗り越えた先にこそ、これだけの人が集まる理由はある」
少女「理由……」
男「俺やお前では、とうてい推し量れないような、理由がな」
ザァー
男「……まあ、開場までの時間を並ばないのなら、COMIKEもそれほど苦痛じゃない」
男「しばらく冷房の効いている場所で時間を潰すか」
男「そして、開場の10時ごろになったら、また戻ってくるとしよう」
少女「10時ですか? でもこの人の量、開場しても行列はすぐには解消されませんよね?」
男「ああ。だが、見るだけでも、聞くだけでも価値はある」
男「これもまたCOMIKE、というようなモノが、な」
少女「……?」
男「あとで、できるだけビッグサイトへ近づける場所に陣取るぞ。ついてこい」
少女「はーい」
――ビッグサイト周辺
男「ここらへんでいいだろう。雨もやんできたな」
男「時間は……、よし、まもなく10時だ」
少女「待機列はまだ長いですねー」
少女「むしろ、さっきより延びたような気も……」
男「そりゃ、始発の後も、人はどんどん来る」
男「いま上からビッグサイトを見下ろしたなら、人がゴミのようだろう」
少女「事実だとしてもソレはちょっとヒドいんじゃないですか?」
男「…………」
男「いちおう友人にも電話してみるか」プルルルル
ケータイ「プルルル! プルルル! プルプルプル!」
ケータイ「ぼく悪いケータイじゃないよー(繋がりませんの意)」
少女「通じませんね……。ココ、電波が悪いんでしょうか?」
男「いや、これもCOMIKEでは当然だ。むしろさっき繋がったのは運が良かった」
少女「へ?」
男「COMIKEでは皆が一斉にケータイを使うから、電波が入りにくくなるんだ」
男「だから各ケータイ会社の移動Wi-Fi基地なんかもやってくるがな」
少女「へえ……。じゃあ伝令兵を飛ばすしかないですね」
男「もっとも、午前中は人間の移動もままならんがな……、と」
アナウンス『お待たせしました。ただいまより、COMIKE 92――――』
アナウンス『一日目を、開催します!!』
ババババババババババババババババババババババババババババババ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
待機列「「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」」」」」」
ババババババババババババババババババババババババババババババ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
少女「な、なんですかこの音?! じじじ地震ですか! それともバクチク!?」
男「いいや、どちらでもない。今のアナウンスが聴こえたか?」
少女「え? たしか、COMIKEを始めると……」
男「そうだ。そして今のは、アナウンスとCOMIKE開始に対する、来場者たちの拍手だ」
少女「は、拍手!? こ、この爆音が、ですか?!」
男「ああ。何万人もの人間が一斉に拍手すれば、爆音となり会場の外にもとどろく……」
男「ただの人間でしかない俺たちが、そんな爆音を起こすことが出来る……」
男「なんとも面白いコトじゃないか?」
少女「……。たしかに……」
男「それだけ参加者たちは、COMIKEの開催を喜び、祝っているというコトだ」
男「俺たちも拍手するぞ。遅れて出るとはいえ、俺たちも参加者だからな」パチパチパチ
少女「えっ……。あっ、ハイ!」パチパチパチ
男「…………」パチパチ
少女「…………」パチパチ
少女「……男さんって、意外とリチギですね?」
男「そうか? COMIKEを前にして、俺もテンションが上がってるのかもな」
男「俺も参加者の一人として、COMIKEのはじまりはスナオに嬉しい」
少女「…………」
少女「……いいですね、なんかそういうの。一体感、っていうんですか」
――ビッグサイト周辺
男「…………」スイッ スイ
少女「……男さん、さっきから何してるんですか? ケータイばっかいじって」
男「ああ、悪い。ヒマしてたか?」
少女「そりゃヒマですよ。COMIKEが始まってしばらく経ったのに、会場には入れず! 列にも並ばず!」
少女「だったら私のハナシ相手にくらいなってくださいよー!!」
男「お前はケータイ持ってないのか?」
少女「あるけど繋がりません!!」
男「ケータイ会社間でも繋がりやすさの格差があるらしいな」
男「今、現在のビッグサイトのようすをリサーチしていた」
少女「ほう! それで、中では何が?」
男「傘をさしている人も減って、雨による混乱は減ったようだが……」
男「それと同時に、正常な混乱が訪れたようだ」
少女「正常な混乱……?」
男「ああ。とりわけ、不慣れな大手の列が、とんでもないコトになってるらしい」
プルルルルル!!!
男「……っと。友人から電話だ。少しは繋がりやすくなったか」ピッ
男「もしもし。どうした?」
友人『んんwww男氏www繋がりましたなwwwwww』
友人『それで、貴殿らは今どこに?www』
男「ビッグサイトの近くだが。いま行っても、まだ待機列のエジキだろう?」
友人『んんwwwそれがですなwwwwww』
友人『たった今、入場規制が解除されたようですぞwww』
男「なんだと! 30分も早いぞ、マジか!?」
友人『大マジでござるwww休憩に戻った我がファンネルからのタレコミwww』
男「そうか……。なら今から入る。ありがとう!」
友人『なんのwwwwwwぴゃっwwwwww』
少女「えっ、えっ? 男さん、ついに会場に入るんですか!?」
男「ああ。通例では、正午まで入場者数が制限されているんだが……」
男「今日は規制解除が少し早かったらしい。……お、スレにも情報が来たな」
男「よし! それじゃあ、行くぞ!」
少女「やったー!!」
男「ああ、先に行っておく。会場に入ったら、絶対に俺から離れるなよ」
少女「えっ、急に情熱的ですね。どしたんですか? キャラじゃないですよ?」
男「…………」
男「忠告はしたからな」
――ビッグサイト 入口
少女「おおーっ! アレは! アレこそは!!」
少女「COMIKEの象徴たる、東狂ビッグサイトですね!!」
男「COMIKEといえば、やっぱあの逆三角形だよな」
ザワザワ ザワザワ ザワザワ ザワザワ
ガヤガヤ ガヤガヤ ガヤガヤ ガヤガヤ
ザワザワ ザワザワ ザワザワ ザワザワ
少女「うひゃぁーっ! 見渡す限りの、ヒト、ヒト、ヒト……!」
少女「朝の待機列もスゴかったですが、これは、比べモノになりません!」
男「ううん……。やっぱり実際にこれだけのヒトが動いてるのは」
男「いつ見ても、圧巻だな」
少女「いったい、これだけのヒトが、どこから来たんでしょうか?」
男「そりゃ中心は、首都圏近郊だろうが……」
男「なんといっても日本最大の同人誌即売会。北は北海堂、南は冲縄」
男「はては海外からも参加者が訪れるというハナシだ」
少女「海外からも……。他の国には、同じようなイベントは無いんでしょうか?」
男「あるにはあるだろうが。だが、数十万人規模となると、そうは無いだろうな」
少女「なるほど……。まるで観光地のお祭ですね!」
男「正しく祭だな。年に二度の大イベント、それが、COMIKEだ」
少女「むふぅー……。ソレに、私が、今から、参加できるんですね!!」
男「楽しそうだな」
少女「そりゃそうですよ! 夢にまで見た、リアルのCOMIKE!」
少女「ソレが今、目の前にあるんですから!!」
男「元気なのは良いコトだ」
男「だが、度を過ぎたヒートアップは禁物だ。そら」ポイッ
少女「わとと。これは……、スポーツドリンクですか?」
男「ああ。特に夏コミは、夏の気温と会場の熱気で、体力が激しく奪われる」
男「だから30分に一回くらいのペースで、こまめな水分と塩分の補給を心がけろ」
男「俺が何も言わなくてもな」
少女「……マジでスポーツみたいですね」
男「スポーツじゃない。戦いだ」
少女「……ええ。そうだったですね」キュポ
少女「んっ、んっ、んっ。……ぷはー! ただのスポーツドリンクなのにオイシイ!」
男「……わかってると思うが、あまり一気に飲むなよ」
少女「えっ! わ、わかってますとも! 資源は大切に!」
男「そうじゃなくてだな。まだストックはリュックにいくらかあるが……」
男「あまりヒンパンに便所に行かれると、困る」
少女「トイレですか……? 用を足すのは、早いほうですよ? お腹も強いし」
男「誰がそんなハナシをしろと言った。ちょっと、ついてこい」
――仮設トイレ前
ゾロゾロ ゾロゾロ…
ゾロゾロ ゾロゾロ…
少女「も、もう既に大量の行列が……!」
少女「コレはいったいどこに並んでるんですか!?」
男「別に会場の中じゃないぞ。ソコだ」ビッ
少女「ソコって。……ま、まさか……、トイレですか!!」
男「ああ。覚えておけ。人気サークルのコトを大手というが……」
男「COMIKEでの最大手サークルは、人気作家でも、大企業でもない」
男「―――トイレだ」
少女「ト、トイレ……。パっと見でも、数十人の列が、いくつかありますよ?」
男「こんなの序の口だ。これからもっと増える」
少女「えぇ……」
男「いちばんヒトが混む時間帯ともなると、1時間待ちとかにもなる」
男「さながら夢の国の人気アトラクションだな」
少女「な、なるほど……。さすがにトイレに時間取られたくはないですね」
男「だから一気にガブ飲みするなよ。女のお手洗い待ちはいただけん」
男「だけども、もし催したら、絶対に言えよ」
男「糞尿垂れ流し事件はカンベンだ……」
少女「またまたぁ。いちおう文化人の集まりですよ? そんなコトが……」
男「…………」
少女「……あるんですか」
男「行列は、長いからな。加えて炎天下。体調はすぐに崩れる」
少女「……食事中の方もいるかもしれないんですよ」
男「なら次はソイツの番だ……」
少女「シャレになってません」
男「とにかく、終了は16時。企業サークルはもう少し長く続くが……」
男「それまでは耐えられるように調子を整えてくれ」
少女「ラジャー。ちょっとやそっとで体調を崩す私ではありませんとも」
男「その慢心がクライシス。ボウシを渡しておく、外すなよ」ポフッ
少女「わふ。キャップですか、カッコいいですね!」キュッ
男「まあ、今日は気温が低いから、無用の長物かもしれんがな……」
男「あと頭痛がしたら、それは水分不足の影響だ。エンリョせずに俺に言え」
男「それと、タオルとウェットティッシュも持っておけ。……何故かはわかるな?」
少女「ハイ! 生乾きはヒドいものです!」
男「それじゃあ、会場に向かって歩いていくぞ」
少女「わっかりましたー。皆、あの逆三角形のタテモノに吸い込まれていきますね……」
男「別にあの逆三角形でCOMIKEやってるワケじゃないぞ?」
少女「え? そうなんですか?」
男「ああ。俺も最初はアソコでやってるモンだと思ってたが……」
男「実際は会議室になってる。COMIKE期間中はレイヤーの更衣室だったかな」
少女「……レイヤー??」
男「コスプレイヤーの略だ。コスプレをするヒトのこと、な」
少女「ああ。コスプレもCOMIKEの華だと、聞いたコトがあります」
少女「……おや? また新たな行列が現れましたね」
男「しかも複数ときたか……。こりゃ一つの案件じゃないな」
少女「片方はすぐ近くに吸い込まれていますね。これは……?」
男「……自動販売機か」
少女「ああ……。さすがに行列の長さが異常ですが、ナットクです」
男「まちがってもCOMIKE会場内で自販機を使おうなどと思うなよ」
男「この行列に並ばなければいけないのもそうだが」
男「たいていは売り切れ。その頃には行列も消えるがな」
少女「中身無けりゃタダのハコですね」
男「それに、よしんば飲み物を買うコトが出来たとしても」
男「出てくるのは、つめた~い、じゃなくて、ぬる~い、だ」
少女「ぬ、ぬる~い……。イヤな響きですね」
少女「しかしどうして。炎天下で冷却機能がオシャカとか?」
男「いや、マシントラブルじゃあない」
男「単に業者がストックを追加したそばから売れていくからだ」
少女「最初から、つめた~い、じゃないんですね……」
男「いつわりの表示だ。世の中なんてウソばっかりと知れ」
少女「世知ガラい世の中です……」
少女「だけど、となると、コッチの行列は?」
男「地平線の向こう側まで続いているな……。続く先は、東館か」
少女「東館?」
男「実際にCOMIKEを、つまりサークルが頒布を行っている場所だな」
男「となると、コレがその一つ、か……」
少女「あっ! 行列の向こうにケバブ屋さんが見えますよ! 行ってもいいですか?」
男「もう腹が空いたのか? さっき魚食ったばかりだろう」
少女「買い食いもお祭のダイゴミだと考えます!」
男「ああそう、好きにしろ……。だが、食べ過ぎるなよ」
少女「はーい! すいません行列のヒト、通りまーす!!」
ギュウギュウ
少女「んしょ、んしょ……。さすがに混みあってるなぁ」
参加者「……むふふ」ワキッ
男「おい」ガシッ
参加者「……!」アセッ
男「……ウチの娘に手を出すなよ」
参加者「……、……」フヒッ
少女「んー? 男さん、どうかしましたかー?」
男「なんでもない。早く抜けろ」
男(満員電車でも痴漢は多いのだから、当然か……)
男「すいませんねー、失礼します……」
少女「ぷは。やっと抜けた!」
男「やれやれだ。しかしこのケバブ屋、毎年見るな」
男「なら、まあ信用しても大丈夫そうか」
少女「なんかヤバいモノ売ってるところもあるんですか?」
男「そうじゃないが、実際、無許可営業してる出店はあるからな」
少女「すいませーん、ケバブ一つくださーい!!」
ケバブ店員「はーい。今すぐ作りまー……」
ケバブ店員「って、あなた、昨日の?」
少女「え? ……あ、ああ! もしかして、昨日の大家さん!?」
男「ん……? あれ、大家さんじゃないですか」
男「いったいこんなところで何やってるんですか?」
ケバブ店員「おや、男さん、奇遇ですねー」
ケバブ店員「見ての通り、ケバブを売ってるんですよ」
男「いやソレは見ればわかりますよ!」
男「そんなコトを訊いてるんじゃないです」
男「どうして大家さんが、COMIKE会場で出店なんかを?」
ケバブ店員「……気になります?」フフッ
男「……やっぱいいです」
ケバブ店主「おいおいどうした、何かモメ事か?」
ケバブ店員「あっ、おとーさん。私のアパートのタナコさんですよ」
少女「はいっ! その通りです!」
男「お前が借りてるワケじゃないだろ」
ケバブ店主「おお、おお! そうか! ウチの娘が世話になってるみてぇだな!」
ケバブ店主「それでケバブ、注文してくれるのかい?」
少女「ええ! 香ばしいお肉の香りに誘われて、やって来ました!」
ケバブ店主「そうかいそうかい。じゃあ、肉ちょっとオマケしちゃおう」ゴリゴリ
少女「やったー!!」
ケバブ店員「……で、昨日会ったばかりの女の子連れて、デートですかぁ?」
男「そんなんじゃないですから。ただ頼まれただけで……、……」
男「…………あっ」
ケバブ店員「ふふ、墓穴を掘りましたね」
ケバブ店員「やっぱり見ず知らずの女の子を家に泊めている、と」
男「ちちち違う! やましいコトは何も……!!」
ケバブ店員「ふふっ、まあ私はどっちでもいいんですけどねぇー」
ケバブ店員「というか男さんにCOMIKE行くような趣味があったほうが驚きですが」
男「別に、何か目当てがあるんじゃないんですけど……」
男「何度か友達に誘われて。そして今日は、あの子ってワケです」
ケバブ店員「そんなところだとは思ってました。ふつう、目当てあるなら朝来ますよね」
男「大家さんは、朝からココに?」
ケバブ店員「そうです。結構売れますよ?」
ケバブ店員「もっとも、今はあの行列で客足が遮られて、商売あがったりですが……」
男「そういや、あの行列……。どこかの大手の列ですか?」
ケバブ店員「ううんと、よくわかりませんね。おとーさん!」
ケバブ店主「ん? どうした?」
ケバブ店員「ココの列、どこのサークルの列だか知ってる?」
ケバブ店主「ああ、この列な。たしか、アイドルマス……、なんたらの列らしいぜ」
ケバブ店主「はい、お嬢ちゃん。パンにレタスにトマトに肉」
ケバブ店主「落とさないで食べてくれよ」
少女「わっはー! ありがとうございますー!!」
男「アイドルマス……。あのシャンシャンするソシャゲか」
ケバブ店員「そうなんですか? で、一日目で関連してそうなサークルというと……」
ケバブ店員「ああ、そのソシャゲのキャラデザのヒトかもしれないですねー」
男「公式のイラストレーターが個人でサークルを出してるというコトですか?」
ケバブ店員「そうですね。でも初参加らしいので、手際悪いのかもしれません」
ケバブ店員「もしうまくさばけてるなら、こんな行列は出来ませんから」
男「……やけに詳しいんですね」
ケバブ店員「当然ですよ。イベントのスペース間借りして店出してるんですから」
ケバブ店員「何をやってるかくらいは情報収集しておくものです」
男「そうですか。……ありがとうございます」
ケバブ店員「いえいえ。良いってコトですよー」
ケバブ店員「明日も明後日も来るなら、ぜひ当店のご利用を!」
男「は、はは……。忘れるまで覚えておきますよ」
少女「はぐ、はぐ。ケバブおいひー」
男「ったく……。館内に入るまでには食っておけよ。舌かむぞ」
少女「んぐ。そーなの?」
男「ヒトが多すぎて食い歩く余裕は無いな。行けばわかる」
男「さて……。まずはどこに行く?」
男「友人の奴がいる館内か? それとも、タテモノの外でも周るか?」
少女「そういえば、この行列は何だったんですか?」
少女「けっこう歩きましたが、まだ先頭は見えませんね……」
男「うん……。有名なイラストレーターのサークルの列らしいが」
男「まあ、行列もCOMIKEの一つの要素、か……?」
男「よし。じゃあ、この行列の先頭まで行ってみるか」
少女「これだけのヒトが並ぶ行列……」
少女「いったい先には何が待っているのでしょうか!」
――行列 中央部分
少女「うぐ……。こ、この列、本当に終わりがあるんですか……?」
男「あ、あると、思いたいが……。さすがに長すぎるな」
男「さっきと同じ列を辿ってるのかすら不安になってきた」
男「この分じゃ、行列に並んでる本人たちは、もっと不安だろうな……」
少女「その、コレは一サークル参加者の方に並んでる列なんですよね?」
少女「本当にただの参加者さんのためだけに、これほど並ぶんですか?」
少女「実はさっきみたいにトイレに並んでるのでは……?」
男「いや……。大手サークルの列なら、これくらいは普通だ」
男「むろん、こんな行列が無数にあるワケじゃないが」
男「それでも、COMIKEの日程の中では、普通に発生するモノだ」
少女「す、スゴいですね……。これが、COMIKE」
少女「朝並んでたヒトたちの目的の一つはコレだったワケですね」
男「そういうコトだ。うう、足が痛くなってきた」
男「登山靴でなければ即死だった」
少女「スニーカーも動きやすいですよー!」
男「きっと行列の終着点はもうすぐだ。もう少し、歩くか……」
――行列 先頭
少女「おっ、行列が止まってる場所がありますよ! きっとココがゴールですね!」
男「はあ、はあ。な、長かった……」
少女「で、すが。しかし……」
参加者「新刊とグッズセット、3つずつお願いします」
売り子「すみません、さっき1限にしまして……」クビサワサワ
サークル主「急いでセット作らないと~!!」
売り子「あ。お待ちの間に。名刺だけでも……」
少女「行列が! まったく進んでいません!!」
男「なるほど、渋滞の理由はコレだったか……」
男「初参加にありがちなミスといったところか」
少女「男さんは、サークルのほうにも詳しいんですか?」
男「まあな。友人の売り子として参加したコトもある」
男「だが、友人のサークルの規模なんぞ、大手とは比べモノにならん……」
男「見ろ。さっきから行列が、比喩じゃなく一歩も動いていない。コレはヒドい」
男「今回の横綱はココでキマリかもな」
少女「よ、横綱て……」
男「人気ゲームのイラストレーターなんだから、大手になるのは見えてたろうに」
少女「こういう不手際って、わりとあるコトなんですか?」
男「そうだな。本人の人気と、COMIKEの熟練度は、比例するワケじゃないし」
男「むろんCOMIKEへの参加を重ねて有名になったなら然りだろうが……」
男「人気かつ不慣れだと、こういう事態になるコトもある」
男「まあ、そんな不確定要素も含めて、COMIKEってところかな」
少女「今並んでるヒトたちが、無事に買えるよう願うばかりです……」
参加者「おい! ついさっき“サーキット”が始まったらしいぞ!」
参加者「マジかよ! 見に行こうぜ!!」
男「……!?」
男「サーキット、だと……?」
少女「どうかしましたか? 男さん」
男「……今、COMIKEへの参加を重ねて有名になったなら然り、と言っただろう」
少女「ええ、言いましたね。たしかに慣れてれば手際も良いかと」
男「どうやら、その手際の良い例が、今まさに“開催”されているらしい」
少女「開催……? あの、何が?」
男「行けばわかる。風を感じろ」
――サーキット会場
参加者「三┏( ^o^)┛」ピューッ
参加者「三┏( ^o^)┛」ピューッ
参加者「三┏( ^o^)┛」ピューッ
売り子「遅い! 遅いよ! 何やってんの!! 遅い、遅い、遅い、遅い!!!」ホイホイホイ
参加者「お前に足りないものは、それは! 情熱・思想・理念・頭脳・気品・優雅さ・勤勉さァ――――」
少女「うわっと!」ヒョイッ
男「す、すいません!!」
参加者「そしてなによりもォォォオオオオッ!! 速さが足りない!!」ドドドドドド
スタッフ「世界を縮めないでください!!!」
少女「……す、スゴい数のヒトが、タテモノの中にスゴい速度で突っ込んでは、出てきます!!」
少女「男さん!! コレはいったい!?」
男「見たか。これが、“サーキット”と呼ばれる現象だ」
少女「さ、サーキット……」
男「サーキットの中では、安全運転など許されない……」
男「最速の称号のみが絶対正義とされるのだ」
少女「COMIKEとは、速さを争う競技だったのですか!!」
男「……と、冗談はおいとくとしてだな」
男「大手には多くの参加者が行列を作る。しかし必然、列が延びても誰の利益にもならない」
男「ならば可能な限り、速く列をさばいてしまおうじゃないか」
男「……そうした思想のもと、生まれたのが」
少女「この、サーキットですか……」
少女「しかし、これだけ速いと、会計も難しいんじゃないですか?」
少女「頒布物はタテモノの中で渡してるとしても、お金はどこで……」
男「速すぎて見えないか……。タテモノの入口だ」
男「よく、目を凝らしてみろ」
少女「ん……? ……あ、アレは!!」
少女「列に並んでいるヒトたちが、ものすごい速さで……」
少女「係員のヒトが持っているハコの中に何かを入れて……」
少女「そして、走り去っていきます!!」
男「リレーのバトンを手渡すがごとき、訓練された動き……」
男「その疾風怒濤は、サイセン箱、自動改札機、ETCレーンを思わせる……」
少女「質量を持った残像のようです! 今朝の始発ダッシュにも引けを取りません!」
男「この速さについてこれない者は、そもサーキットに並ぶコトすら許されない」
男「そして、彼らはスピードを極め、いったい何を為そうとしているのか?」
男「それが、それこそは、“コレ”だ」ピラッ
少女「せ、千円札……!?」
少女「あ、あのスピードで! 入れているというのですか!」
少女「千円札を!!!!」
男「ああ。この大手サークルはそこまでわかっている」
男「千円札ならば支払いやすいというコトも考慮した上で、このサーキットを構築しているんだ」
少女「な、なんという……」
少女「なんという、オオゲサな……」
男「そうか? 列をさばく最適解の一つだと思うがな」
売り子「遅い、遅い、遅い、遅い、遅い、遅い!!!」ホイホイホイ
参加者「ぐああ!!」ドシャア
売り子「大丈夫? ちゃんと持って行ってね!! 遅い、遅い、遅い!!!」ホイホイホイ
少女「激突事故も起きちゃってるじゃないですか……」
男「クルマとナニガシは急に止まれないというからな」
男「だいたい、普段から運動してるヤツばかりが集まってるワケじゃない」
男「急に走ればこうもなるだろう。サーキットは強制参加だ」
少女「こりゃ明日は筋肉痛ですね……」
男「というか、そもそもCOMIKEで走るのは禁止だったりする」
少女「そーなんですか?」
男「体格の良いヤツが急に突貫してきたら、コワいだろう」
少女「たしかに……」
男「それでもサーキットが黙認されているのは、大手がゆえだろうな」
男「スタッフとしても、列が早くさばかれるに越したことは無いだろうし」
少女「ケースバイケース……。臨機応変というやつですね」
男「細かいコトをグチグチ言ってても列は消えないからな」
男「なお、競歩はゆるされている」
男「とまあ、同じ大手でも」
男「慣れていたり不慣れだったり、色々あるワケだ」
少女「本当に色んなヒトが参加してるんですね……」
男「ヒトとヒトとの交流こそが、COMIKEのホンシツともいえる」
男「それじゃあ、大手を見たところで、今度は小さいサークルにも行ってみるか」
少女「小さいサークル? ですか?」
男「ああ。大手のほうが話題になるが、イベントのメインは、おおよそコチラだ」
男「友人のサークルもソレに含まれる。見舞いがてら、行ってやろう」
――ビッグサイト 某所
少女「それで、友人さんのサークルはどこにあるんですか?」
男「ココ、東館の中だ。まずは館内に入る道を探す必要があるな」
少女「うわっ……。コレもまたスゴい行列ですね」
少女「さっきのイラストレーターさんの列でしょうか?」
男「いや……。ココは、フレンズの監督の行列らしいな」スイッ スイ
少女「……フレンズ?」
男「彼は行列を作るのが得意なフレンズなんだね」
――ビッグサイト 某所
少女「ココにもスゴい行列が……。だけど、進むのも速いようです」
男「わりと近くで終わってるみたいだな。……ん?」
セレブ妹「並んでくださってありがとう。グッズはもうありませんが、名刺だけでもどうぞ」
セレブ姉「あらセレブ妹さん、指の皮がめくれてしまいましたわ」
男「……あんなヒトたちもCOMIKEに来てるんだな」
少女「並んでるヒト全員に名刺配ってるんだ、スゴいねえ」
男「丁寧な対応だ。ゴージャス……、いや、ファビュラスというべきか」
――ビッグサイト 某所
売り子「いえーい! 満員御礼、全枚完売!!」グビグビ
サークル主「わははは!!」グビグビ
少女「もう頒布物が完売したんでしょうか? カンパイしてますね」
男「この時間で既に完売とか、相当な大手じゃないか……?」
少女「金色の、シュワシュワ……。ビールでしょうか」
男「COMIKEでは飲酒も禁止のハズだが……」
男「ま、コッソリ持ち込むくらい、好きなんだろう。ビール」
――東館 館内
男「よし、ここから館内に入れるな」
少女「ふーっ、外は曇ってたけど、中は冷房が効いてるからコレで涼し……」
少女「……くない!!!」ムシッ
少女「男さん! 屋内なのに涼しくありません! どういうコトですか!!」
男「俺に怒るなよ……。というか、なぜ屋内なら涼しいと思った」
男「むしろ、屋外より湿気高くないか? ムシムシしてないか……?」
少女「ぐ……。コレは、たしかに……」
男「それに、見ろ、この人の数を……」
ガヤガヤ ガヤガヤ ガヤガヤ ガヤガヤ
ガヤガヤ ガヤガヤ ガヤガヤ ガヤガヤ
少女「ココは……、何かブースがあるワケじゃないですね」
少女「大きい通路のようなモノでしょうか?」
男「そんな通り道ですら、コレだ。本来集まるべきは、ココじゃない……」
男「これだけ人がいれば、暑くなるのも当然だ。だが目的地は、さらに奥だ」
少女「ううぅ……。外の行列とは、またベクトルの違った、地獄ですね……」
――東館 ホール内
男「―――ここだ!!」
ワイワイ ガヤガヤ ワイワイ ガヤガヤ
ワイワイ ガヤガヤ ワイワイ ガヤガヤ
少女「おおー……、コレです! コレこそが!!」
少女「私がハナシに伝え聞く、COMIKEの姿!!」
少女「天井は高く、先の見渡せない広間に、床を埋め尽くすほどの人がいて……!」
少女「ロマン!! 人間の、ロマンです!!」
男「あー。喜んでるところ、悪いが……」
男「この中を通っていくんだぞ」
少女「……え?」
男「たしかに先の見渡せない広間だな」
男「たしかに床を埋め尽くすほどの人がいるな」
男「その中を歩いていくんだぞ」
少女「……マジですか?」
男「大マジです」
男「この先の見渡せない広間から、目的のサークルを見つけなきゃいけないし」
男「この床を埋め尽くすほどの人に流されず、進み続けなきゃならない」
少女「……ちなみに、友人さんのサークルは、どこに?」
男「うーん、このホールなのは間違いないが、中央あたりかな」
少女「……うげー」
男「伝え聞いたハナシと違う……、ってコトも無さそうだが」
男「とにかく伝聞じゃなくて、コレは、現実だ」
男「進み続けなければ、けっして勝利は無いぞ」
少女「……そうでしたね。ココは、“戦場”だと」
少女「ようし! ならば、行ってやろうではありませんか!!」
男「おう、おう。その意気だ」
少女「男さ――――ん……! ココ、どこですか――……!?」
男「だから俺から離れるなと入場前に言ったろう!! コッチだ!」
少女「そういうコトですか――、ぎょえー! 待ってくださ――――い……!」
少女「あっ、アレは、ハナシに聞くレトロゲーの本じゃないですか!?」
男「レトロゲー言うな! 最近だろうが! よそ見をするな、前に歩け!」
少女「15年前を最近とは言いませんよぅ……」
――友人のサークル
友人「……お? もしやwwwその姿はwww」
友人「男氏と少女氏ですかなwwwwww」
男「ああ、そうだ。来てやったぞ」
少女「ひえぇ……、疲れたぁ……」
友人「んんwwwこれはご苦労様と言わざるを得ないwww」
友人「ファンの方に差し入れてもらったキンキンのコーラですぞwww」
少女「んっ、んっ、んっ……。……プッハー!! 生き返るー!!」ゲフゥッ
男「……おい、友人。お前、一人か?」
友人「んんwwwファンネルの方々は定期的に戻ってくるのですがwww」
友人「ピークが過ぎた今、売り子は我一人で十分と言わざるを得ないwww」
男「つまり、ボッチと」
友人「けっして我は友達が少ないワケではありませんぞwwwwww」
少女「……コレ、友人さんが描いた本なんですか?」ピラッ
友人「おうふwwwいかにもwwwwww」
友人「おにゃのこに自作のえっちぃ本見られて恥ずかしいwww」キャッ
男「お客さんの中に女のヒトがいないワケじゃないだろう」
友人「奴らは魂がオッサンですぞwww」
少女「……読んでも?」
友人「一向に構わないwww気に入ったら買ってくれると嬉しいですなwww」
少女「…………、…………」ピラッ ピラ
男「……食い入るように、読んでるな……」
友人「んんwwwこういった本が物珍しいのかもしれませんなwww」
男「確認するが、対象年齢は、いくつだ?」
友人「…………紳士淑女のための本ですなwww」
男「なんだその意味深な間は!!」
友人「もちろんwww既刊にはKENZENな本もありますがwwwwww」
友人「少女氏が手に取っているのはwww新刊のwww」
友人「……紳士淑女のための本ですなwww」
男「……はあ。こういうのにキョーミがある年頃なのかね」
男「女の子なら貞淑にしていてほしいモンだが」
友人「18歳以上ならwww正当な権利と言わざるを得ないwww」
男「だいたいこういうの、売るほうも恥ずかしいんだが?」
友人「んんwwwそれは男氏が界隈に不慣れなだけwwwwww」
友人「薄い本は売るほうもwww買うほうもwwwラブアンドピースですぞwww」
男「ていうかお前、まだこの作品の同人、描いてたのか」
男「たしかに有名なシリーズだが、もう流行りでもないだろう」
友人「んんwww作品を流行り廃りで見るのは外野wwwwww」
友人「真に作品を見るべき眼は、たしかな審美眼とwww」
友人「愛ですぞwwwwww」
男「ぐっ……。昔の作品の同人を作ってるお前に言われると反論できない」
男「だが、流行りの作品を題材にするのも悪くないんじゃないか?」
男「FG○とか、俺もやってるぞ?」
友人「たしかにFG○は我もやっているwww実際シナリオは面白いwww」
友人「だがwwwソレはソレwwwコレはコレwww」
友人「我の心身は、完全で瀟洒な嫁者に捧げしモノですからなwwwwww」
男「漢これやFG○の同人のほうが売れるんじゃないか?」
友人「そのように流行りになびくのは同人ゴロと言われざるを得ないwww」
友人「ですが、もちろんそういった作り手のコトも否定しないwww」
友人「好きな作品でなければ、そも同人を作るのは不可能ですからなwwwwww」
友人「だがwwwだからこそ、我は我の好きなモノを描くwwwwww」
友人「好きを表現していれば必ず振り向いてくれるヒトはいますなwww」
男「…………」
男「……お前、やっぱカッコいいよ」
友人「んんwww男氏に言われてもまったく嬉しくないwww」
友人「男氏がおにゃのこなら別ですがwwwwww」
男「ごめん、やっぱ死んで」
友人「おうふwwwwww辛辣wwwwww」
少女「…………友人さん」パタン
友人「少女氏www我の薄い本はどうでしたかなwww」
少女「……最後まで読ませていただきました。友人さんの考えてるコトが、よくわかりました」
少女「そこに積んである本、一冊ずつ全部ください」
男「!!!!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!」
友人「おうふwwwwwwwwwwwwキタコレwwwwwwwwwwww」
友人「おっとっとwww我『キタコレ』などとついネット用語がwww」
友人「我はけっしてハルヒをリアルタイムで観た世代ではござらんのでwwwコポォ」
少女「友人さん、私感動しました」
少女「友人さんは、普段その飄々とした態度に隠しているけれど」
少女「本当は、とてもアツい情熱を持った、表現者なんだって」
男「いや、隠してるワケじゃないと思うぞ……」
友人「んんwww我の内なるリビドーを理解するとはwww」
友人「少女氏wwwなかなか見所のあるおにゃのこですなwww」
少女「えへへ……」
男「照れていいのか照れるところなのかソコは」
友人「だがしかしwwwこの薄い本は男性向けwww」
友人「女性の少女氏には実用性が低いと思われるwwwwww」
友人「良ければ二日目の女性向けサークルを紹介しますがwww」
少女「いいえ、そんなコトありません! 友人さんの本がいいんです!」
少女「それに……、」
少女「友人さんの本みたいなやつにもたくさんお世話になっていますから!!」
男「!?!!??!?!?!!*>E!*DE{‘WDQWDQ?!?!?!????」プッシュウウウウウウ
友人「男氏wwwwwwメルトダウンwwwwww」
男「ま、待て待て待て! 少女!!」
少女「ハイっ! なんでしょうか!?」
男「その、なんだ。お世話になってるのは、個人の趣味だし、5000兆歩譲っていいとしてだ」
友人「ずいぶん譲りましたな。大陸横断できますぞ」
男「そんな本持ってるの友達とかに見つかったらシロい目で見られるんじゃないかなぁ~~~???」
少女「え? みんな持ってますよ」
男「はぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!?!??!?!?!?!?!??!?!」
友人「男氏、男氏。泡吹いてる」
男「お、俺が知らぬ間に、昨今の女子高生の性事情はそこまで進んでいたとは……」
友人「んんwww男氏、そのセリフが既に薄い本みたいwww」
男「あー、わかった。じゃあ俺は何も言わん。好きなだけ買うといい……」
少女「やったー!!」
友人「新刊1冊、既刊3冊で2000円ですなwww」
少女「ありがとうございます! あの、これよりも前の続きってありますか?」
友人「あるにはあるがwww少し前のCOMIKEで頒布を終えているwww」
友人「だがしかし家に売れ残りがあるかもしれないwwwwww」
友人「探してみてあれば、郵送するのもやぶさかではありませんなwww」
少女「ありがとうございます! 何から何まで……」
友人「んんwww直に感想をぶつけてくれる読者への返礼は惜しまぬ故www」
男「おれが おもってるよりも せかいは ひろいんだなあ byおれ」
友人「男氏www少女氏の同人誌、リュックに入れておきますぞwww」ポフッ
男「戦利品入れは……、こっちの手提げバッグだ……」
少女「あー、いい買い物しちゃったなあ!」
少女「ねえ友人さん、ココにはこんな本が他にもいっぱいあるんですか!?」
友人「んんwwwいかにもwww」
友人「自分の欲しい頒布物を狙い撃ちするのもCOMIKEですがwww」
友人「クレイモア覚悟で表紙買いするのも、タシナミの一つwwwwww」
少女「ですって男さん! 探しに行きましょう、新たな出合いを探しに!」
男「まじか……」
友人「男氏wwwなかなかハードなおにゃのこに捕まりましたなwwwぴゃっ」
――とあるサークル
サークル主「全部で、1500円になります」
少女「1500円ですね! ええと、お金、お金」
少女「あっ、一万円札しかない……」
サークル主「あはは、大丈夫ですよ。お釣り用のお金もいくらかありますから」
男「いや、待ってくれ。小銭なら俺が持っている」
少女「男さん!」
男「1500円ですね? 千円札と、百円玉が5枚でも構いませんか?」
サークル主「3,4,5……、はい、たしかに1500円ですね! ありがとうございました!」
少女「ありがとうございましたー!!」
男「ったく……。ちょっと、サイフを貸せ。そろそろ小銭を補充する」
少女「何から何まで……。男さん、いつの間に千円札や小銭のジュンビを?」
男「昨日お前から金を借りた段階で、両替は済ませておいた」
男「既に気付いていると思うが、COMIKEでは、単価500円や1000円程度の頒布物が中心だ」
男「そこで万札や五千円札を使われると、お釣りを出すのもタイヘンなんだ……」
男「むろん、そういう事態も想定して、サークル側はお釣りの小銭も多めに用意するがな」
少女「なるほど……。たしかに、サーキットでも皆、千円札を既に用意していましたね」
男「だが、小銭が多く出るコトを逆用して、ちょっとしたサギも横行する」
男「コレを見ろ」キラーン
少女「これは……。100円玉ですか? 100って書いてあるし」
少女「でも、あれれ? なんか100円玉とはフンイキ違いますね?」
男「これは、100円硬貨じゃない。“100ウォン硬貨”だ」
少女「100……、ウォン……?」
男「韓国の通貨だな。日本円換算で、およそ10円だ。コレを支払いに混ぜて使うヤカラもいる」
少女「となると、だいたい10分の1の価値……」
少女「ガチ犯罪じゃないですか!!」
男「過去のイベントでは、偽札が使われたコトもあったらしいな……」
男「で、偽札だと思ったら、実は現行でも使える旧札だったり……」
少女「お金絡みのトラブルも……、多いんですね……」
男「現金がやり取りされる場だからな。気をつけなくちゃいけない」
男「いま立ち寄った、島中のサークルならまだしも」
男「壁やシャッター際のサークルは、どうしてもお金の確認がオザナリになるからな」
少女「島中? 壁……?」
男「ああ、ソレもついでに説明しておくか」
男「このあたりのサークルは、長方形を囲うように机が四辺に配置されているだろう」
男「この長方形のカタチを指して、“島”と呼んでいる」
少女「同じカタチのブースがいくつも点在するのが、たしかに島みたいですね!」
男「島に配置されるのは、主に小規模から中規模程度のサークルだ」
男「もちろんソレに比例して、対象のサークルの数も多い」
男「このように、ホールは一面、何百何千という島のサークルで埋め尽くされる」
少女「お目当てのサークルがあるなら、見つけ出すのも一苦労ですね……」
男「そのために、事前に販売されている、COMIKEの公式カタログがあるんだがな」
少女「もっとも、フリーで良さそうなサークルを物色するのも、十分にタイヘンですが!」
男「で、島の対義語として、“壁”がある」
男「これは名の通り、壁際に配置されているサークルのコトだ」
少女「行列が出来てたのも、ほとんどは壁際のサークルでしたね」
少女「何か関係があるんですか?」
男「関係があるというか、行列が並ぶから、壁に配置されるんだ」
男「島中でこんな肉の血栓を作られたら、他のサークルにメイワクだろう?」
男「だから壁に設営して、列は外に並べ、というワケだ」
少女「壁サークルは人気のアカシ、というワケですね」
男「壁に配置されるのはCOMIKEサークル参加者の一種のステータスだな」
少女「ぐ~~~……」
少女「うっ」
男「……ん? お前、今……」
少女「へっ!? ななな、なんですか?」
少女「お、お腹の音ですか!? わわわ、私じゃありませんよ!」
男「お前以外に誰がいる……」
男「というか寝言でも言ってたが……」
男「お前、けっこうな大食いだな?」
少女「ギクリ」
少女「そそそ、そうですかねぇ~? これくらい普通だと思いますよぉ?」
男「朝飯に魚をあれだけ食って、途中ケバブをつまんで、なお空腹……」
男「ソレを普通とは言わんと思うがな?」
少女「ぐぅ……。まあ、他人よりは、少しは多く食べるかもしれませんね」
少女「少しですよ?」
男「わかったわかった」
少女「なんで半笑いなんですかぁ!!」
男「まあ、時間としては、良い頃だろう。また鷲ントンにビュッフェ食べに行くか」
少女「やったー! バイキング、バイキング!」
男「現金な女だこと……」
男「それじゃあ、一度会場を出て、ホテルに戻るぞ」
少女「ハイ! ああ、良い買い物しちゃったなぁ……!」
男「既に同人誌、十数冊か……」
男「水は減ったが、またリュックに重みを感じてきたぞ」
少女「おっ! 行きと違って、人がけっこう減ってきましたね!」
男「COMIKEの本番は、開場から、おおよそ昼までだからな」
男「昼頃には大手の頒布物も概ねハケる」
男「エンジョイ勢が乗り込むなら、それからだな……」
――鷲ントンホテル レストラン
男「大人2人です」
受付「ありがとうございます。それでは、ご自由に料理をお取りください」
少女「おっ、朝と違って、人も多いですねえ……!」
男「昼時だからな。もっとも、ビッグサイトの混み様とは、比べるべくもないが」
少女「お昼はローストビーフやってるみたいですよ! いいですか!?」
男「ビュッフェなんだから好きなように取れ」
男(肉も、魚も、コダワリは無しか……)
少女「男さぁん! 取ってきましたー!!」
男「よし、俺も終わった。じゃあ、ソコに座って……」
少女「……? どうかしましたか?」
男「……お前、皿の上が一面まっ茶色なんだが」
少女「ふふん! 肉は元気のミナモトですよー!!」
男「だからといって肉だけ取る奴があるか! 栄養バランスを考えろ!」
少女「えっ……。でも野菜とか、だいたいマズくないですか?」
男「こんなところの野菜がマズいワケがないだろう!?」
男「引き返せ! 一度取ったモノを戻せとは言わんから」
男「野菜と、あとコメかパンも取ってこい!」
男「それと果物だ! 食後のフルーツも持ってきなさい!」
少女「ちぇー。わかりましたよっと。うるさいなぁ」
少女(でも、やっぱり、お母さんみたいだなあ……)
男「取ってきたか?」
少女「ええ。マコトに遺憾ながら、空前絶後のヘルシー盛りです」
男「茶色面積7割で自称ヘルシーとはお笑いだな」
少女「では、いただきます」
男「うん。さすがに一流ホテルのビュッフェだけあって……、昼もうまいな」モグモグ
少女「おっ! 野菜もオイシイじゃないですかー!!」ムシャムシャ
男「だから言ったろう。お前は今まで何を食ってきたんだ……」
少女「焼き飯もヒエヒエかと思いきやパラパラでオイシイですねえー」
男「ピラフだろう」
少女「もちろんローストビーフも! でも、ローストビーフって、取る時」
少女「肉切ってるヒトにニラまれるから、あんまり多く取れないですよねー!」
男「わかるよ。わかるが、デカい声で言わんでくれ……」
少女「ぷっはー! ごちそうさまでしたー!」
男「あれだけの量を食いきったか。よく食べる……」
少女「食べれる時にたくさん食べないと、ですね!」
男「そのわりには、体形は引き締まってるようだが」
少女「体質でしょうか? まあ、食後の運動くらいはちゃんとしますが」
男「健康で良いコトだ。それじゃあ、この後どうする?」
男「疲れたし、もう家に戻るという手もあるが……」
少女「なーにを言ってるんですか!!」
少女「私はまだまだ元気ですよー! いざ、第2ラウンドです!!」シュッシュッ
男「その無尽蔵の体力はどこから湧いてくるんだ……」
男「まあ、三日間通してその意気でいられるかは、見物だな」
少女「目にモノ見せてやりますとも!」
男「やれやれ。といっても、一日目終了まで、あと2時間くらいか?」
男「目的は絞れよ。寄り道が過ぎると、すぐに時間は経つからな」
少女「なるほど。では計画的に、かつ衝動的に!」
男「どっちなんだ……。いや、お前なら何故か実行できそうな気がするな」
――東館 ホール内
男「……お、重い…………」ズシッ
少女「なんか、買い終わった本を入れてたら、リュック膨らんできましたね……」
少女「私も少し持ちましょうか……?」
男「い、いや……。動き回るお前が持っちゃ、他のヒトにメイワクだろう……」
男「俺のコトは気にするな。お前は、先に行け……」
少女「いやいやいや! ソレは確実にダメなやつじゃないですか!?」
男「お前がどこまで知識持ってるのか、いまだにイマイチ掴みかねるよ」
少女「さて、めぼしい本はあらかた、買ってしまいましたが……」
男「健全なのも、そうじゃないのも買ったが、コイツにとってのめぼしい基準とはいったい……?」
男「まだまだわからないコトだらけだな」
男「昨日会ったばかりだから、当然だが」
少女「今日売ってるモノは、だいたいこんな感じなんですか?」
男「いいや。西館に行けば、企業サークルの頒布物もあるが……」
男「まあソッチは、朝のうちに売り切れてるだろうな」
男「だけど本じゃなくて、アクセサリーや自作CDなんかを売っているサークルもある」
男「見に行ってみるか?」
少女「ええ! ぜひとも!!」
男「わかった。じゃあ、このホールを出て、通路の向かいのホールに入れ」
男「その後は、また別の離れのホールだな」
男「金は……、まだまだあるな。俺のじゃないけどな」
少女「わっかりましたー! いざ、突撃!」ダダダ
スタッフ「ちょっと、ソコの女の子! COMIKEでは走らないでください!!」
少女「うわっと! すみません!!」
男「はは、バカめ。怒られてやんの……」
――東館 館内
少女「たっはー!! いっぱい買っちゃいましたー!!」
男「買っちゃいましたーじゃないぞ、お前……。ああ、重……」
少女「やっぱ少し持ちますよ。男さんだけには任せられません」
男「そうか……。じゃあ、こっちのアクセサリー袋を頼む」
男「コワレ物だ。あんまり持って走り回るなよ」
少女「了解です。こう見えて、危険物処理は、お手の物でして……」
ピンポンパンポーン
少女「……? アナウンスですか。何でしょう?」
男「ああ……。来たか、この時が」
パチパチパチパチパチパチパチパチ
少女「わわっ! 皆、拍手しはじめましたよ! これって……!」
男「ああ。そういうコトだ」
アナウンス『これにて、COMIKE 92 一日目を終了します』
アナウンス『皆さん、お疲れ様でした。残り二日も頑張りましょう』
ピンポンパンポーン
パチパチパチパチパチパチパチパチ
少女「ああ……。終わったんですね」パチパチパチ
男「いや、まだだ。まだ、一日目が終わったに過ぎん」パチパチパチ
男「本当の戦いはこれからだぞ」
少女「ええ。わかっていますとも!」
少女「そういえば、この後、サークルの参加者さんたちはどうするんですか?」
男「ん? そりゃあ、俺たち一般参加者は、ただ帰るだけだが……」
男「サークル参加者は、設営を撤収する作業も残っているな」
少女「友人さん、大丈夫でしょうか?」
男「何度も参加してるから大丈夫だと思うけどな」
男「まあ、アイサツくらいはしてやるか」
――友人のサークル
男「おーい、友人。生きてるかー?」
少女「友人さん! お昼ぶりです!」
友人「これは男氏、少女氏www無事で何よりですなwwwぴゃっwwwwww」
友人「それであの後、良い買い物は出来ましたかなwww」
少女「んもー、バッチリです!! 気になる本とか、グッズとか、いっぱい買えちゃいました!」
友人「んんwwwそれは何よりwww」
男「はたしてコレで良かったのか……」
白い死神「おい友人ー、ダベってないでゴミ片付けてくれよー」
友人「んんwwwこれはwww申し訳ないwwwwww」
男「お、白い死神か。お前も、毎回ご苦労なコトだな」
白い死神「あれ、男? 今回も来てたのか?」
男「いや、本当は不参加のつもりだったんだが……」
男「この子が、どうしてもCOMIKEに行きたいっていうんでな」
少女「こんにちは! 友人さんの、ご友人ですか!?」
白い死神「ああ、そうだ。今回はコイツ専属のファンネルでやらせてもらってる」
白い死神「“白い死神”って者だ。ヨロシクな」
少女「白い死神……? たしかに見た目、白いカンジですけど……」
友人「彼はwww通称“ビッグサイトの白い死神”wwwwww」
友人「狙った頒布物は必ず狙い撃つといわれるwww凄腕ファンネルですなwww」
白い死神「必ず狙い撃つといわれる、じゃない。必ず狙い撃つんだ」
少女「なるほど……。スナイパーの方ですか……」
少女「ちなみに、仕留めた敵のご遺族の方から恨みを買ったりは?」
白い死神「はっはっは! たしかに買えなかったヤツから恨みを買うコトはある!」
白い死神「だが、だからこそ転売はしないし、逃げも隠れもしない」
白い死神「その象徴が、この白い服なのさ」パリッ
少女「狙撃手でありながら、歴とした戦士でもある、というコトですね」
少女「……感服します」スッ
白い死神「おいおい、オオゲサだな。単に早くに並んで頒布物買ってるだけだぜ?」
少女「いえ。COMIKEに参加される方々には、敬意を払うべきだと思っていますので」
男「それで、白い死神。今日の釣果はどうだった?」
白い死神「上々だな! 友人のヤツに頼まれた依頼はすべて完遂した」
友人「まったくありがたいですなwwwwww」
白い死神「今回は、列が長くなりそうな大手は他のファンネルに任せて」
白い死神「俺自身は信用できる大手を複数回る作戦だったんだが……」
白い死神「コレが大当たり! 初参加の大手の列の、長いコト長いコト」
白い死神「案外列を早くさばいた新参の大手もいたのは予想外だったがな」
白い死神「その後は、しつこく島中を爆撃して、俺の目当ても買って、終わり」
男「まったく。お前もお前で、COMIKE、エンジョイしてるな」
白い死神「それよりも、男。どうしたこの子は? アキバで引っかけてきたのか?」クイクイ
男「……ホント、出会うヤツ出会うヤツ、マジで全員同じ質問するな……」
男「だからそんなんじゃないって。……実は、俺の姪っ子なんだ」
白い死神「うわウソくさ」
男「ちっ……」
黒ずくめ「友人さん、お疲れ様です」
友人「おうふwww黒ずくめ氏、お疲れ様ですなwww」
白い死神「黒ずくめちゃん、今日もイケメンだねー」
黒ずくめ「茶化すな死神。それよりも、朗報だ」
白い死神「あっコレ絶対朗報じゃないやつ」
黒ずくめ「ほらお前、ツイに写真アップされてるぞ。昼ごろ、戦利品チェックしてただろう」
白い死神「え? ……うわ、マジじゃん! 俺が写真撮ってるところを撮られてる!」
友人「どれどれ……、『白い死神、今日の大手の頒布物ほとんど持ってる……震える……』wwwwww」
白い死神「かーっ! 有名人はつらいわー、かーっ!!」
少女「友人さん、ホントに友達いっぱいいたんですね……」
男「アイツ、ああ見えて交流広いからな」
男「やはり時代は動けるオタクか……」
友人「あ、そうそうwww少女氏www」
少女「はいっ!? 何でしょうか!」
友人「こちら、黒ずくめ氏wwwwww」
友人「昼ごろに言ってた、我の知り合いの二日目の女性向けサークルの方ですぞwww」
黒ずくめ「おや。貴女が、友人さんのおっしゃっていた……」
黒ずくめ「初めまして。ご紹介に預かった、黒ずくめです」
少女「えっ!? あっ、ハイ!」ビクッ
少女「どどど、どうも。よよよよろしくお願いします」ドキドキ
男「何をビクビクしてるんだ」
少女「だだだだって、男さん! 黒ずくめさん、スゴいイケメンなんですもん!!」
黒ずくめ「あはは。言いすぎですよ」
男「…………」
男「……黒ずくめさん。あんたその服、まさかフォーマルスーツでCOMIKEに来たワケじゃないよな」
男「というコトは、レイヤーか?」
黒ずくめ「ええ。今日はコスプレエリアで、コスプレをしていました」
男「……重ねて訊くが、男が黒ずくめのコスプレなんてしないよな?」
黒ずくめ「はい、その通りです。お察しの通り、男装レイヤーですよ」
少女「えええっ!! ……お、女のヒト、ってコトですか!?」
黒ずくめ「そうですよ。似合っていますか?」
少女「似合ってるも何も……。ほ、本当に男のヒトだと思いましたよ!!」
黒ずくめ「ありがとうございます。イチバンの誉め言葉ですよ」ニコ
少女「うっ……。い、いえ、コチラこそ……」ドキドキ
男「……なあ、友人」
男「どんどん少女がアブナイ領域に引きずりこまれてる気がするんだが」
友人「んんwwwCOMIKEは参加者のカルマを映す鏡www」
友人「少女氏が初めからそれだけの宿業を背負っていたというだけのハナシですなwww」
友人「さてwwwwww男氏www少女氏www」
友人「黒ずくめ氏は明日、二日目にサークルを出されるんでしたな?www」
黒ずくめ「はい。今回も、自作の同人誌を出させていただきます」
少女「ち、ちなみに、どんな同人誌を……?」
黒ずくめ「ふふ。当日のヒミツ、というコトで」
友人「というワケでwww我は明日の朝、黒ずくめ氏のサークルに並ぼうと思うのですがwww」
友人「男氏と少女氏も一緒にどうですかな?wwwwww」
少女「えっ! 私たちも、黒ずくめさんのサークルに並ぶんですか!?」
男「おい、友人。ちょっと待て」
男「黒ずくめさん、あんたのサークルはどこだ。島か? 壁か?」
黒ずくめ「センエツながら、壁でやらせてもらっています」
男「……なら必然、始発と同時に並ぶ、というコトになるな……」
友人「何か問題がありますかな?www」
男「いや、俺としては問題無いが」
男「心配なのは少女だ。コイツは、COMIKE初参加だぞ?」
男「今日も安全策を取って、昼から会場に入った」
男「なのに、いきなり二日目で、待機列に並んでも大丈夫なモノか……」
少女「男さん……」
少女「心配してくださってありがとうございます」
少女「でも、私は大丈夫ですよ!」
少女「今日一日で、COMIKEのフンイキは掴みましたし!」
少女「今なら、朝から待機列にだって、並べる気がします!!」
男「…………」
友人「男氏www少女氏が心配なのはわかりますがwww」
友人「少女氏はCOMIKEに来るというチャレンジを既に行っているwww」
友人「何事もチャレンジですぞwwwwww」
男「…………」
男「……そうか」
男「なら、わかった。いいだろう」
少女「男さん!!」
男「ただし! 明日に備えて、今日は早く寝ること」
男「待機中は必ず俺の指示に従うこと」
男「……いいな?」
少女「ええ、もちろんですとも!!」
友人「明日は我も一緒に並びますからなwww」
友人「共に頑張りますぞwwwwww」
黒ずくめ「あの……、男さん」
男「なんだ?」
黒ずくめ「大丈夫でしょうか、彼女……」
黒ずくめ「ジマンじゃないですが、僕の列には、かなり人が並びます」
黒ずくめ「明日の天気もどうなるかわからないし、やはり初参加では……」
男「いえ、黒ずくめさん」
男「俺が許可を出したからには、最後まで責任を持ちますよ」
黒ずくめ「……そうですか」
黒ずくめ「彼女を、よろしくお願いしますね」
白い死神「おい友人ー、撤収作業終わったぞー」
友人「んんwww死神氏wwwありがたいwwwwww」
友人「では、我らはこれにて失礼いたすwww」
友人「男氏、少女氏、黒ずくめ氏wwwまた明日会いましょうぞwww」
男「ああ。明日行く時は、またホテルに寄るよ」
友人「大歓迎ですぞwwwwwwぴゃっwww」
白い死神「俺は明日もファンネルとして行動する。ココで会ったら、またヨロシクな」
少女「ええ! 二日目で、また会いましょう!」
男「さて、俺たちも帰るか」
少女「そうですね。黒ずくめさんは?」
黒ずくめ「僕も着替えたら帰ります。皆さんは、お先にどうぞ」
少女「着替える……? 何でですか?」
男「COMIKEでは、会場の外でのコスプレは禁止されているんだ」
男「だからコスプレイヤーは、会場で衣装を着て、会場で衣装を脱がなきゃならない」
黒ずくめ「そういうコトですね」
少女「…………」ウズウズ
男「……?」
少女「ちなみに、黒ずくめさん! 今日のお泊まりは、どこに?」
黒ずくめ「えっ……。都内のホテルですが」
少女「なら、私たちがタクシーで送っていきますよ!」
男「おい……」
少女「いいじゃないですか。お金は私持ちなんですから!」
男「……そうだったな。なら、俺からは異存は無い。黒ずくめさんは?」
黒ずくめ「……、そうですね……」
黒ずくめ「では、おコトバに甘えて」
少女「やったー!」
黒ずくめ「……?」
男「……?」
黒ずくめ「では、更衣室で着替えてくるので、少々お待ちいただけますか?」
少女「ええ、ええ! もちろんですとも! 待ってますね!!」
黒ずくめ「ありがとうございます。それでは、後で」
男「……お前、なんで黒ずくめさんを引き止めたんだ?」
少女「だって一緒に帰れば、コスプレしてない黒ずくめさんが見れるじゃないですか!」
少女「私服の黒ずくめさんって、どんなヒトなんだろうなぁ……!」
男「ああ、ナルホドね……」
黒ずくめ「皆さん、お待たせしました」
少女「あっ、黒ずくめさ…………」
少女「……ん?」
黒ずくめ「……? はい、黒ずくめですよ」
男「黒ずくめじゃない黒ずくめさんだな」
少女「……男さん」
男「なんだ?」
少女「フツーの、女のヒトですね」
男「……お前はいったい、何を期待してたんだ?」
少女「ええ!? そりゃ、こう……」
少女「私服でも隠し切れないイケメンオーラが、バリバリ出てるモノかと!」
男「お前は幻想を抱きすぎだ……」
男「コスプレってのは、たいてい、メイクで理想の姿に近づけるモンだぞ」
少女「そ、そうだったんですね……。メイク、スゴすぎます……」
男「ああ。ここはメイクがスゴいんだと思っておけ」
男「むしろ俺は黒ずくめさんが普通の美人な女のヒトで良かったと思うぞ」
――ビッグサイト周辺
少女「へい、タクシー」ビッ!
スーッ キキッ
カパッ
運転手「お乗りください」
少女「あっ、今朝の運転手さん!!」
運転手「おや。奇遇ですな」
――秋羽原
少女「……それでですね、ホールに入ったら、そりゃもうスゴかったんですよ!」
運転手「なるほど。私も昔は行ってましたが、最近はスゴいですな」
黒ずくめ「ふふ。三日目はいちばんスゴいよ?」
少女「そうなんですか!? うわはぁ、楽しみだなぁ……!」
男(女子同士の会話にはついていけんな)
男(俺は家につくまで黙ってるとしよう)
男(……というか、しれっと会話についていける運転手さんは何なんだ?)
――都内 某ホテル前
黒ずくめ「それでは、僕はここで」
少女「はい! また明日、ビッグサイトで会いましょう!」
黒ずくめ「ええ。……おっと、少女ちゃん」
少女「ひゃぁっ!! きゅ、急に私の首元を触ってどうしたんですか!?」
黒ずくめ「いえ。せっかくのかわいいネックレスのチャームが曲がっていたモノで」
黒ずくめ「身だしなみも油断しないように。家に帰るまでが、COMIKEですよ」ニコ
少女「うっ……。は、ハイ!」
少女「そ、それでは、お疲れ様でしたー!」
ブロロロロロ…
少女「……はぁ。黒ずくめさん、やっぱり私服でもイケメンだなぁ……」ウットリ
少女「あんなヒトが書く同人誌って、どんな本なんでしょうね!?」
男「さあな。オシャレなモノも好きそうだし、茶葉の解説本とか……」
男「いや、それなら最初から解説本だと言うか。……同人誌か」
男「まあ、二日目というだけで、だいたい想像はつくがな」
少女「……? まあ、楽しみにしておきます」
――アパート前の道路
パタン
少女「ありがとうございましたー!!」
運転手「いえいえ。またのご利用を」
ブロロロロロ…
少女「……はー、やっと帰ってきましたよー!! 懐かしき我が家!」
少女「なんだか何日も家を空けていたような気がします!」
男「ああ、そうだな。……まあ、お前は昨日初めてウチに来たハズだが」
少女「細かいコトは言いっこナシですよ。ほいガチャ、っと……」
――居間
ドシン!!!
少女「ハァー、重かったー!!」
男「まったくだ。こんなに買い物したのは、いつ振りかな……」
男「さて、俺の疲れが取れたら晩飯の時間にする」
男「それまでは、戦利品チェックでもしておけ」
少女「はーい! ああ、これが手に入れたお宝をあらためる感覚……!」
少女「ふーん、ふーん。健全な本はコッチ、えっちぃ本はコッチ……と」
少女「げ……。この健全じゃない本、ちょっとカゲキすぎません?」
少女「私、こんなの買ってましたっけ?」
男「嬉々として買ってたろうが。俺もサークルさんも顔引きつってたわ」
男「というかカゲキだと思うなら俺に見せるな」
少女「えー。いいじゃないですかぁ、男さんなんだから」
男「どうして俺ならオッケーなんだ」
少女「冷静な自分なら困惑するようなモノでも、無意識のうちに買ってしまう……」
少女「さすがCOMIKE、恐ろしい場所です。熱気にあてられないよう注意しなければ」
少女「コッチはCDですね。……これって、音楽ですよね?」
男「そりゃそうだが。お前、わからないで買ってたのか」
少女「そうじゃないんですが。ただ、どうやってCDで音楽を聴くのかな、って」
男「な……。ダウンロード世代は、CDの使い方もわからないのか? ウソだろ……」
少女「音楽はケータイで聴くモノじゃないんですか?」
男「ソレも間違っちゃいないが。……とりあえず、CDを貸せ」
男「まず、CDから音楽を俺のパソコンに取り込んで、そこからお前のケータイにコピーする」
少女「よろしくです! ああ、直に話したヒトの作った音楽が聴けるなんて、カンゲキだなぁ……!」
男「人生楽しそうだな、コイツ」
男「よし、そろそろ晩飯の時間だ」コト
少女「……? なんですかコレ」
男「何って、ココナッツミルクだが」
少女「いやソレはわかりますが。ば、晩ご飯が……、コレですかぁ?」
男「いちおう聞いてやるが、お前は晩飯に何を期待していた」
少女「そりゃあ高そうなところに外食とか、豪華に出前のお寿司ですね!」
少女「まあ男さんの手作り料理でもいいですよ?」
男「俺の料理が二の次に置かれているのが何となく腹立たしいんだが」
男「まず第一に、いちど家に帰った以上、わざわざ外に食べに行ったりしない」
男「寝る時間も遅くなるし、疲れるだけだ」
少女「むーぅ。出不精ですねぇ」
男「次に、なんでわざわざ出前とか高いモン取らなきゃならんのだ」
少女「家にお客さんが来てるんですよ? それにお金は私持ちですし」
男「こういう時だけ客気取りか……。だとしても。だとしてもだ」
男「お前、明日は朝から待機列に並ぶと言っただろう」
少女「ハイ、そうですね。ソレが何か?」
男「よほど死にたいらしいな」
男「明日、朝から何時間も並ぶとわかってるのに、前日の夜にバカ食いする奴があるか」
男「討ち死にが目に見えているだろう」
少女「えぇ……。12時間くらいじゃ食べたモノは出てきませんよ」
男「だったら腹に残ってるんだろう。人間、非日常の場では緊張もするし委縮もする」
男「その時、いま食ったモノが胃袋でカーニバらないと何故言える?」
男「それに、排泄のサイクルが24時間だというのなら」
男「お前は今朝から昼にかけて何を食ったか。その腹に訊いてみろ」
少女「うぅ。でも、さすがにココナッツミルクだけでは、空腹でお腹が痛くなります!」
男「わかったよ……。じゃあ、赤いき○ねと緑のた○きがあるから、好きなほう選べ」
少女「やったー! 私、カップ麺、大好きなんですよね」
男「インスタント中毒者か。ハンバーガーとか、ファストフードはどうだ?」
少女「あまり食べる機会はありませんでしたが、モチロン好きですよぉ」ベリベリ
男「まあ、今朝にしたって、ケバブ食ってたか……」
少女「おほー、容器の中の乾燥した香りがたまらない」スンスン
少女「お湯あります? ありませんね? 沸かしますよー」
男「急に元気になりやがって。まあ、俺も何か食うか……」
男「……アイツ、どん左ェ門もっていきやがった」
少女「ごちそうさまでしたー。このチープな感じは、他に代えられませんね」
男「ココナッツミルクを忘れるな。整腸の役割も兼ねてるんだぞ」
男「それでも胸焼けがすると思うなら、野菜ジュースを飲んでおけ」パカ
男「ヨーグルトもいいぞ」
少女「なんで冷蔵庫の食材は少ないのに、健康食品みたいなのはいっぱいあるんですか……?」
男「食材が少ないのは、この三連休に買いに行こうと思ってたからだ」パタン
男「それに、一人暮らしとなると、どうにも栄養バランスが偏りがちでな」
少女「あはは、きっと良いお婿さんになれますね……」
ピーッ ピーッ
男「お……っ。ようやく風呂が沸いたな」
少女「へえ、気付かなかったけど、お風呂もあったんですねー」
男「このアパート、わりと設備は整ってるからな」
男「……それが何故かは、察しろ」
少女「???」
少女「とにかくカラダも服もベタベタしてたので、ようやく汗を落とせそうで、助かります!」
男「今は夏の時期だからな。ましてやCOMIKEの後」
男「ちゃんと風呂に入っておかないと自分も他の参加者もヒドいコトになる」
少女「ああ……。たしかに、ちょくちょくですが、異臭を放ってるヒトもいましたね」
男「今日の天気は、朝が雨、昼が曇りだったから、夏コミにしてはかなり楽だったが」
男「その分、湿度が高くて、生乾き臭がスゴかった」
少女「自分の臭いは、自分じゃわからないのが、悩みのタネですね」スンスン
男「それに二日目以降は、家にも帰らず、カラダも服も洗わず」
男「通しで参加しているような野生のモンスターが幾度となく現れる」
少女「草むらならぬ人ごみから飛び出してくるという風情ですか」
男「まあヤツらは野生だから仕方ないが」
男「せめて俺たちはモンスターにならないよう、湯舟につかるぞ」
男「で、どっちから先に入る? 俺としては……」
少女「ハイ! 一番風呂、行かせていただきます!!」
男「元気でよろしい」
男「脱いだ服は、脱衣所のデカいカゴに入れておいてくれ」
男「あとで洗濯機で洗うが……。俺と一緒でいいか?」
少女「はあ。構いませんよ」
男「あっそう。まあ、水が節約できて助かるがね」
少女「資源は大切にしないといけませんからね」
少女「それじゃあ、また後でー」ダダダ
少女「んー! スッポンポンは快適だなあ!」
少女「わお、洗剤がいっぱい揃ってる! セッケンとボディーソープってどう違うの?」
少女「蛇口をヒネれば水が出るんだよね……。ひゃあ! 冷たぁい!」
男「…………」ハァ
男「知らない男の家でハダカになれば、襲われるかもしれないとか、考えないのかね」
男「いや、泊めてくれるなら何でもするとか言いやがるし、今さらか……」
男「……それとも、俺の常識がまちがってるのか……?」
少女「はー! サッパリしました! お風呂、お先です!!」モクモク
男「あ……っ、着替えはあるんだよな?」
少女「ハイ。持参していますが」
男「良かった。さすがに、女モノの服までは用意できないからな」
男「じゃあ、俺も入ってくる。戦利品でも見ながら好きにしててくれ」
少女「はーい! 実は中身が気になってる本があるんだよね……、と!」
男(……なんて、知らない女を一人で部屋に放置する俺も、大概か)
男(お互い、甘い親に育てられたモンだな)
男「あがったぞー」
少女「あ、うーん」シャクシャク
男「…………」
男「……てめえ、そのアイス、どこから出してきた」
少女「え? そこの冷凍庫からですが」
男「お前の親は人様の家の食い物を勝手に漁って良いとでも教えたか」
少女「そんなワケないでしょう。えへへ」
男「……頭が痛い。もう、好きにしろ」
少女「う。あ、いたたた。痛たた。きゅ、急に足が……!」
男「ふ。アドレナリンが切れて、痛みの波が来たか」
少女「痛みの波って無知の知みたいですね」
少女「でも痛い、痛いですよぅ。男さんは大丈夫なんですか?」
男「……今は、大丈夫だな」
少女「え? それって……」
男「……最近、痛みが来るのが遅くてな」
少女「…………」
少女「……イヤですね、老化って」
男「だが、当座の問題はお前だ。足は大丈夫か?」
少女「うーん、歩くのには問題無いと思いますけど。やっぱり痛いです」
男「どれ……。うーん、たしかに両足とも熱持ってるな」ピタ
男「とりあえず、冷水でひやすか」
――浴室
シャワー
少女「わっはー、つっめたーい!!」バシャバシャ
男「暴れるな、俺にもかかるから! ヒエッ、つめてっ!!」
――居間
少女「ふえ~、冷えた冷えた」
男「体温が下がって硬直したままだと筋肉痛めるぞ。揉んでやる」
少女「いいんですか? じゃあ、背中もマッサージお願いします」
男「誰がそこまでやるか。エステ屋いってこい」グイグイ
少女「―――あ゙ッ、気持ちイ゙ィ゙~~……」ゴキゴキ
男「えらい音が出てるぞ、色々と。普段カラダいたわってるか?」
少女「はあ? 疲れなんて、寝れば治るでしょう」
男「若いっていいね。でも、たまにはじっくり休むのもダイジ……」
男「…………」
少女「……? どうかしましたか」
男「……へ? あ、いや」
男「脚、長いな、と思ってな」
少女「どこ見てんですか。んー、他のヒトの脚とか意識しないんで、何とも言えませんが」
少女「あ、でも、回し蹴りとかトクイですよ?」シュッシュッ
男「トクイと自称できるほど回し蹴りを撃つ機会があったのか」
男「陸上部?」
少女「そこはカラテとかじゃないんですか? まあ、いずれでもありませんが」
男「ふーん。あっ、そう」
男(……なんだ、この足のマメの数)
男(片足だけで軽く10個は超えてる。ハッキリ言って異常だな)
男(だが、今日のCOMIKEで出来たのかといわれると)
男(そんなに新しいマメが多いようには見えない)
男(マメは前からあったと考えるべきか)
男(……コイツ、いったい今までどこで、何をしてきたんだ?)
男(知識が食い違う部分もあるし。ワケがわからんな)
男「……よし、こんなモンだな」スッ
少女「ふいー! ありがとうございます、だいぶ足が軽くなりました!」ブンブン
男「そりゃ良かった。あとはサロロンパスを貼っといてやる」ペタ
少女「うーん、つめた~い……」
少女「あ、そうだ。余ったサロロンパス、ちょっと分けてもらえます?」
男「別にいいが。何に使う?」
少女「ふふん。鼻にペタリ」
少女「どうですか! 勝利の勲章です!」ヘヘッ
男「アホだコイツ……」
男「よし、そろそろ寝るぞ」
少女「えー? まだ7時ですよ? 若い時から、お年寄りですか?」
男「年寄り扱いするな、まだ大学生だぞ」
男「……今日、何時に起きたか覚えているか?」
少女「ああ……。たしかに、まだ暗い時でしたね」
男「そういうコトだ。早く起きなきゃならないし、睡眠時間を欠いてもいけない」
男「COMIKEはスポーツだ。戦場だ。まず万全の体調が大前提と知れ」
少女「んー、ハイ! そうですね! おやすみなさい!!」
男「ちょっと待て。何故お前は当然のようにベッドを占領している?」
少女「え……? あ、たしかにベッド一つしかありませんね」
少女「ごめんなさい。このベッドは男さんに譲るべきですね」
男「お、おう……。急に殊勝だな」
少女「衣食住の重要性は心得ているつもりです」
男「でも、いいよ。お前がベッドで、俺がザコ寝。それで構わない」
少女「え? いいんですか?」
男「別に。礼儀には礼儀を、というやつだ。例えば友人とかなら蹴り飛ばしてたがな。じゃ、消すぞ」
少女「はーい」
パチ
男(……やれやれ。やっと一日目が終わったか)
男(本当に長い一日だった)
男(……まさか、三連休がこんなコトになるとはな)
男(昨日までは思いもしなかった……)
男(さて、今日は比較的うまくいったが、明日はどうかな)
男(……考えても仕方ないな。答えの出る問題じゃない)
男(……寝るか)
222 : ◆mclKiA7ceM - 2017/08/25 19:42:08.82 Fzl9L1Z/o 218/771第一章は以上になります。
第二章は、明日18時ごろの開始を予定しています。
続き
少女「コミケ行くので泊めてください!」男「は……?」【中編】