1 : 以下、名... - 2017/08/24 05:10:52 l6cbqNEg 1/21勇者・魔王もののSSです
元スレ
勇者「今日はここで食べるか」 魔物「ヒヒヒ……」
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第一話『極悪!油に隠された邪神官の罠!』
勇者「俺の名は勇者。魔王を討伐するために故郷を離れて孤独な旅をしている」
勇者「世界平和のためとはいえ、この旅は過酷だ。モンスターと戦い、未開の野山を超えて、時には砂漠や高山、氷雪の中を進み、魔王軍を撃退する」
勇者「疲労も溜まるし、戦いの恐怖や緊張感は心を蝕んでいく。おまけに携帯食や現地調達の食べ物は不味い」
勇者「なのでたまの人里での食事は俺の大切な安らぎの一時だ」
勇者「だから俺は人里に訪れた時は食事を最大限に楽しめるように準備をする」
勇者「空腹は最大の調味料。なるべくお腹は空かせておきたい。だがお腹がすきすぎると胃が荒れてしまって食べられなくなる」
勇者「人里に着く数日前から穀物系の食事を薬草と一緒に大目に食べて胃を拡張しつつ胃腸の調子を整える」
勇者「当日の朝は脂の少ない植物性の携帯食を香辛料と一緒に食べて適度な空腹を維持しつつ胃腸を活性化する」
勇者「そして予め調べておいた評判のいい名店でディナーを思う存分に楽しむというわけだ。これぞ勇者式口福律法“ブレイブミールイーティングメソッド”!」
勇者「今日着いたこの町では豚肉が評判が良いらしい。そしてこの近くにトンカツの名店があるという……。揚げ物は旅の途中じゃ食べられないからな……、今日はこの店でトンカツを食って魔王に勝つぞ!」
勇者「……、いかん、一人旅のせいで独り言で親父ギャグを言ってしまう癖がついてしまった」
???「キヒヒヒ……」
~トンカツ屋~
店員「いらっしゃいませー!」
勇者「ふーん、よさそうな店じゃないか。ふふふ。ディナータイムを少し外して客が少ない時間を選んだのも俺の計算のうちよ」
勇者「混んでると時間がかかるからな」
勇者「メニューは、ロース、ヒレが選べて、トンカツ定食1000ゴールド、上級トンカツ定食、1400ゴールド、特級黒豚トンカツ、1800……。プラス300でカツ大盛り可能、プラス100でご飯大盛り、プラス200で味噌汁を豚汁に変更可能か……」
勇者「せっかくだし贅沢するか!すいませーん!特級黒豚トンカツ定食ロース、カツ大盛り、ご飯大盛りで豚汁付きを!」
店員「特級黒豚トンカツ定食ロース、カツ大盛り、ご飯大盛り、豚汁付きですね、かしこまりました!」
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店員「特級トンカツ定食になります。キャベツはお代わり自由となっています」
勇者「お、きたきた。美味しそうだ……、ん?でもなんか微妙に油の匂いがえぐいような……? でも揚げ物なんて久しぶりだし、こんなもんだっけな」
勇者「パク、もぐもぐ……、上手い!なんて上品な豚肉の旨味だ!火の通り具合も絶妙で柔らかい!これはすごいぞ! ……、うーん、でも豚肉は美味しいけど、衣がなんか臭みがあるような……、気のせいかな?」
勇者「まあでも美味しいことは美味しいし、こんなもんだろう」
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勇者「ふう、喰った喰った、やっぱトンカツは美味しかったなぁ。揚げ物を食べると力が湧いてくるよ。旅の途中じゃ油をいっぱい使う揚げ物は作れないし……。でも揚げ物を食べるのが久しぶりすぎたせいか、ちょっと油の匂いが鼻に付いちゃったな」
???「ブヒヒヒ……」
勇者「!何者だ!」
オークの邪神官「ブヒヒヒ!私は魔王様のしもべ、邪神官です」
勇者「なんだと、町の中には魔物が入れないように防壁があるはず……、なぜ!?」
オークの邪神官「ブヒヒ!この町は豚の出入りが激しい。その豚たちに紛れ込めば邪神官たる私には侵入など造作もない」
勇者「まさかそんな手があったなんて……、だが、ここで俺が貴様を倒せばいいだけのことだ!」
オークの邪神官「ブヒヒ、威勢のいいことです。しかしあのことを知ってもその態度は続きますかねぇ」
勇者「な、なんだ、あのことだと……、いったい何を言おうというんだ!」
オークの邪神官「……あなた、あの店のトンカツを食べた時に違和感はありませんでしたか?」
勇者「なに?いや、とても美味しいトンカツだと思ったけど……」
オークの邪神官「でも油の匂いがどこか鼻に付きませんでした?」
勇者「!!!た、確かに……、だ、だがそれがなんだというんだ、油は大抵独特の匂いがするものだ!」
オークの邪神官「ぶう、この程度のことすら分からないとは……、今日の曜日とあのお店の定休日を見てごらんなさい」
勇者「ん?今日は月曜日で、定休日は火曜日……、あと一日到着が遅れてたらくいっぱぐれていたということか」
オークの邪神官「ブヒヒ。まだ気が付かないのですか?」
勇者「くっ、さっきから何を言いたい!」
オークの邪神官「揚げ物専門店は大型フライヤーで揚げ物を作ります。そして油は使えば使うほどどんどん劣化していくもの……」
勇者「それくらい俺も知っている……、はっ、ま、まさか……」
オークの邪神官「ようやく気が付き始めたようですね……、美味しい揚げ物を作るには毎日新鮮な油を使うのが理想というもの。しかし商売でそれをやるとコストが高く付くし、大型フライヤーは油の交換の手間もかかる」
勇者「つ、つまり、フライヤーの油の交換は定休日に行う……」
オークの邪神官「そう!その通り!そして今日は定休日直前……、油の交換は明日行う、つまり今日はもっとも油のコンディションが悪い日だったのですよ!」
勇者「あぁ……、そ、そんな……、じゃああの油の鼻に付く匂いは、油自体の本来の匂いではなく……」
オークの邪神官「そう、劣化した油の臭気だったわけです!」
勇者「あぁ……あが……ぐわあぁぁぁぁぁぁぁ!」
オークの邪神官「ぶひゃーはははは!辛い旅の疲れをいやすために最高のディナーを食べたつもりが、実際は最悪のコンディションのトンカツを食べてしまった気持ちはいかがですか?」
勇者「そ、そんな……、俺の、勇者式口福律法“ブレイブミールイーティングメソッド”が、破られた……」
オークの邪神官「ぶふふふ、明後日に最高コンディションのトンカツを食べて口直ししようにも、あなたは明日には旅立たなければならない」
勇者「う、うぅぅぅ……ひ、酷い、こんなことがあってたまるかよ……、何のために俺は辛い旅を続けてきたんだ……」
オークの邪神官「ぶっくっく、ざまぁないぜ!休日とフライヤーの関係も分からないバカが、トンカツを食べる資格なんてねぇんだよぉぉぉ!」
勇者「あぎゃあああああああああ!」
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邪神官の邪悪な罠に嵌り、心を打ち砕かれた勇者。
だがまだ全ての希望が潰えた訳ではない!負けるな、勇者!立ち上がれ、勇者!
魔王を倒して平和を取り戻すまでけしてくじけるな!
第二話『強襲!紅の鎧に身を包むもの』
勇者「俺の名は勇者。魔王討伐のため、日々過酷な旅を続けている」
勇者「辛い戦いの悲しみを癒す俺の唯一の楽しみ。それは人里に着いた時にその土地の最も美味しい料理“マキシマムトレジャーオブタング”を最大限に楽しむことだ」
勇者「だが前回の町では邪神官の企みによりその楽しみは無残に打ち砕かれた……」
勇者「せめて次の町ではこの悲しみを癒してくれる料理と出会えればいいのだが」
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勇者「港町か。この町ではなんでもカニが名物らしい。ちょうど今の時期は新鮮なカニが水揚げされるとかで美味しいカニが食べ放題だという」
勇者「もちろん俺もカニは大好きだ。よし、金に糸目は付けずにお腹いっぱい食べるぞ!」
勇者「さて、どこで食べるかだが……、こういう時は魚市場にいくべきだろう」
勇者「お、やってるやってる!確かにカニがいっぱい売られてるな。しかし俺は料理は得意じゃないし、そもそも旅の途中だからな。カニ自体ではなくカニ料理屋を探さなければ」
おばちゃん「美味しい美味しいカニ料理小屋だよー!3000ゴールドで取れたてのカニが食べ放題だよー」
観光客A「お、ここがカニ食べ放題のカニ料理小屋か!」
観光客B「3000ゴールドでカニ食べ放題だなんて最高だぜ!」
観光客C「行ってみよう!」
勇者「3000ゴールドか。普通の食事と考えると割高だが、十分予算範囲内だ。よし、俺も行こう!」
おばちゃん「いらっしゃい!どのカニでもよりどりみどりだよ!どんどん食べていってね!」
勇者「おお、カニがいっぱいだ……、ひとまず料金を先払いして……、よし、まずは生だ!」
勇者「殻から身を引き出して、ぱく、もにゅもにゅ……、うーん、新鮮なだけあって美味い!海の香りが強烈だぜ! 液体と固体の中間みたいな独特の食感も官能的で美味い……。こういう漁港とかでないと新鮮な生のカニは食べられないからな!」
勇者「次は……、よし、茹でだ!このポン酢に漬けて、と、うん!美味い!茹でが一番オーソドックスだよな。王道で美味い」
勇者「次は焼きガニにいくぞ。うん、味が濃縮されてて身がしっかりしてて美味い! ハサミの身が一番弾力があって美味いな。お腹はちょっといまいちかな。やっぱりよく動かしてるところが一番美味しいんだな」
勇者「二匹目は一匹目よりちょっと身が痩せてるな……、まあでも個体差があるだろうし」
勇者「カニ汁に、カニ味噌か。うん、これこれ。よし、御飯も頼もう……」
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勇者「ふぅ、お腹いっぱいだ。3000ゴールドで取れたてのカニが食べ放題なんて、故郷や王都じゃ考えられないぞ」
勇者「よし、満足したところで次の魔王軍の砦まで急ぐとするか……」
???「きーひっひっひ!」
勇者「何ものだ!」
軍隊ガニ「きーひっひっひ!俺様は魔王様のしもべ、軍隊ガニよ!」
勇者「巨大なハサミを持った化け物蟹か……。町は聖なるバリアで守られているはずなのに、どうやって入ってきたんだ!?」
軍隊ガニ「ふ、この町で水揚げされている松葉ガニに紛れ込んだのさ!」
勇者「なんて巧妙な……!」
軍隊ガニ「勇者よ!貴様に切り裂かれ、豚汁にされたオークの邪神官は俺の友だった。やつの仇をここで討たせてもらおう!」
勇者「やつの仲間か……、貴様も同じ目に合わせてやるぜ!」
軍隊ガニ「ふ、なかなかの気迫だ。だが、この話を聞いてもその気迫を維持できるかな?」
勇者「なんだと!?」
軍隊ガニ「貴様は漁港のカニ料理小屋で昼飯を食ってきたようだな」
勇者「それがどうした!手頃な価格で美味しいカニが食べ放題という素晴らしいお店だったぞ!」
軍隊ガニ「きーひっひっひ!愚かだな、勇者」
勇者「な、どういう意味だ!?」
軍隊ガニ「たかが3000ゴールドで、美味しいカニを何匹も食えると思っているのか?高級料亭でカニを食べれば一万ゴールドはするぞ?」
勇者「そ、それは、ここが漁港だから安くカニを仕入れることができるからだ!それに高級料亭は料理人への技術料もかかる!」
軍隊ガニ「だとしても原価的には1000ゴールド未満だぞ。カニと言えば高級食材なのに、それをドブに捨てるようなものではないか」
勇者「だ、だったら何だっていうんだ!実際に俺はそこで食事をして満足した!それが事実だ!」
軍隊ガニ「ふ、勇者ともあろうものがここまで愚かとはな。貴様、その店で喰ったカニの中には身が痩せているものもいたのではないか?」
勇者「はっ!た、たしかに何匹かはちょっと身が痩せていたが、だ、だが、野生のカニに個体差があるのは当然だ!」
軍隊ガニ「その通りよ。だからカニ漁師や魚市場はカニの身の良し悪しを丁寧に調べてランク付けする。そして最上の特級や一級品は料亭向けに高く売るのさ」
勇者「なに……!?そ、それじゃあ、まさか……」
軍隊ガニ「その通りだ。貴様が食べた料理屋のような食べ放題店は、三級以下の安物のカニをまとめて購入しているのさ!」
勇者「ば、バカな……、そんなの、詐欺じゃないか……」
軍隊ガニ「ふん!何を言っている!値段設定を見れば三級以下のカニしかないなど一目瞭然! ああいう店は漁港のすぐそばでとれたてのカニをランチに食べるというライブ感を楽しむ観光客向けの店だ! ぼったくっている訳でもない!ただ貴様が世間知らずだっただけということよ!」
勇者「あ、あ、ぁ……」
軍隊ガニ「そして観光を十分楽しんだ観光客は夜に高級料亭や高級旅館などで一級や特級のカニを楽しむという訳だ!」
勇者「そ、それじゃ、俺は本当のカニの魅力を最大限に楽しめたわけじゃないってことか……?」
軍隊ガニ「当然だ。三級以下のカニを素人のおばちゃんが適当に焼いたり茹でただけのカニだぞ。もちろん新鮮だし、三級以下と言ってもそこそこ美味しいから値段を考えれば悪いものではない。だが料亭の一流の板前が調理した特級カニ料理に比べれば天と地ほども違うというものだ」
勇者「そ、そんな……」
軍隊ガニ「久しぶりの人里で、最高の食事を楽しみたいと思っていた貴様が三級のカニで大満足している様子は最高に滑稽だったぜぇ」
勇者「うぅ、もう俺は出発しないといけないから夜から営業の高級料亭には行けそうにない……」
軍隊ガニ「貴様のような観光地の料理の楽しみ方も分からない愚か者に高級カニ料理を味わう資格なんてないんだよぉ!」
勇者「う、うわあああああああああ!」
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軍隊ガニの卑劣な罠に陥り、窮地に陥った勇者。
このままでは世界はモンスターに蹂躙されてしまう!諦めるな、勇者!戦え、勇者!
例え何度膝をつこうとも、立ち上がりさえすれば負けではないのだ!
第三話『大いなる罠!地獄への道は天国にも似て』
勇者「俺の名は勇者。魔王の野望を打ち砕くため、1人戦い続ける流浪のホーリーソルジャー」
勇者「だが俺は兵器じゃない。心を持つ人間だ」
勇者「戦ってばかりじゃ心が曇る。旅を続ける英気を養うために、時にはひたすら美味い食事に没頭したい」
勇者「普段は魔物と戦うために荒野を駆け巡る俺にとって、たまに人里を訪れてそこで最高の食事体験“アルティメットデリシャスエクスペリエンス”を味わうことは心身をいやす最高の喜び」
勇者「だがその機会を魔王のしもべたちによって二回も邪魔されてしまった……、日頃あまり人里に降りられない俺にとっては人里での食事の一回一回はとても貴重だというのに……」
勇者「今度こそ俺は至福の料理を味わって見せる!」
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勇者「ふむ、この町は……、うーん、なんかピンとくるものがないな……訪れる町の全てが必ずしも名産があるとは限らない……、どうするか」
勇者「よし、町の人に聞いてみるか。情報収集と言えば酒場だ。行ってみよう」
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勇者「マスター、この町で何か美味しいものはないかい?」
酒場のマスター「美味しいものねぇ……、この先に高級ステーキ店がある。高いけど値段分の味は保証するぜ」
勇者「ステーキ店か……。この辺りは牛肉が有名なのか?」
酒場のマスター「いや、このあたりじゃ畜産はやってねえな。その店は遠方の牛肉の名産地から高給ブランド牛を取り寄せてるって話だ。実際すごく美味いぜ」
勇者「ふぅむ。牛肉は熟成に時間がかかるから新鮮さはあまり関係はない。それに地元民の評判もいいとなれば間違いはない、か。でも単なる高級ステーキ店なら王都でも行ったことがあるし、このあたりの特産品でもないとなると、なんか面白くないな……」
客「おいおいおい、お二人さんよ、そういうことならこの町のとっておきの名産品があるじゃねえか!」
勇者「なんだって!?」
客「この町の周辺でしか捕れない川魚の料理だよ!これで町おこしをするためにずっと宣伝してきたんだ!ぜひ食っていってくれよ!」
勇者「おお、それだ!そういうのがいいんだよ!ステーキは美味しいけどブランド牛ならどこで食べてもそんなに変わらないしな」
酒場のマスター「そんなもんかねぇ。普段食ってる地元のもんよりもブランド牛のステーキのほうが俺は美味いと思うんだが」
勇者「それは地元民だからそう感じるんだよ。あんた、さっそくお店を教えてくれ!」
客「おう。ほら、メモに地図を書いたよ。ここから10分もあれば着くぜ」
勇者「ありがと!マスター、お会計!」
酒場のマスター「あいよ。ドリンクとつまみで500ゴールドだ。達者でな」
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勇者「ここが川魚料理の店か。ちょっと地味だけど渋い店構えじゃないか。これは期待できそうだ」
店員「いらっしゃいませ」
勇者「どうも。1人です」
店員「ただいまご案内いたします。……お客様は町の外からいらっしゃった方ですか?」
勇者「あ、はい。せっかくだからこの町の特産を食べてみたいと思いまして」
店員「それでは単品料理よりも川魚のコースはいかがでしょう?我らが地元の色々な料理が楽しめますよ」
勇者「それがいいですね!それでお願いします」
店員「かしこまりました」
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店員「お待たせしました」
勇者「お、来た来た。どれどれ、川魚の塩焼き、川魚の干物、川魚の味噌漬け焼き、川魚のつみれ汁、川魚の煮付け、それにご飯か」
勇者「じゃあまず塩焼きから……、お、美味い。ちょっと塩辛いけどご飯が進むな。川魚の旨味が凝縮されてるよ。干物は……、こっちもちょっと塩辛いけど熟成された旨味がいいな。味噌漬け焼きか。味噌の風味がいいね。この味噌も地元の物なのかな? つみれ汁はいい出汁が出てるな。煮付けも美味しい」
勇者「……」
勇者「うん、美味しかった。食べ終えたし、出るか」
店員「川魚のコース一人前で、4000ゴールドになります」
勇者「……あ、はい」
店員「またのご来店をお待ちしていますね」
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勇者「いやー、美味しかったなぁ!ステーキも美味しいだろうけど、やっぱりこういう地元の特産品を楽しむのが旅の醍醐味だよね! まあ俺は観光旅行してるわけじゃないんだけど!」
勇者「ほんとに美味しかったよ!ここに来てよかったなぁ!ほんと最高!いやっほーう!」
???「グフフフ」
勇者「何者だ!」
ミノタウロス「俺様は魔王さまのしもべ、ミノタウロス様よ!貴様に手足を引き千切られてカニ汁にされた軍隊ガニの仇を討ちに来た!」
勇者「巨大な牛の化け物か。どうやらまた俺のゴールデンデリシャスエクスペリエンスを邪魔しに来たようだが、無駄だ! 今回俺はこの地元の最高の特産品を味わったんだからな!マジでほんとにガチで美味しかったんだからな!」
ミノタウロス「グフフフ。本当にそう思っているのかな?」
勇者「なにぃ!?どういう意味だ!」
ミノタウロス「ならば、その不自然なハイテンションはいったい何なのかな?」
勇者「……!な、なにを言っているんだ……、お、俺はけして不自然なんかじゃ……」
ミノタウロス「グフフ。本当はこう思っているんだろう?あの川魚、そんなに美味しくなかったと」
勇者「はぅっ!……、な、なにを……、うう、なぜ俺は反論できないんだ、あの川魚は美味しかったじゃないか……」
ミノタウロス「けして不味くはない。しかし同じような塩っ辛い味付けの魚料理がいくつも出てきても飽きる、そう思わなかったか?」
勇者「はぐぅ!?い、いや、そんなことはない……ちゃんと味の変化はあった……」
ミノタウロス「なんであんなのに4000ゴールドも払ったんだろう、それくらいなら無難にステーキにしとけばよかった、そう思っているのだろう?」
勇者「あ、あぁ、ああああ……」
ミノタウロス「グフフ、しばしば旅行者が陥る罠だ。旅先ではその地元でしか食べられない特産品を食べてみたい、と」
勇者「そ、それの何が悪いというんだ!その地元でしか食べられない美味しい特産品はいっぱいあるじゃないか!」
ミノタウロス「もちろんそれは否定はせん。だが、そういう美味しい特産品は大抵遠方まで評判が広まっているものだ。町おこしのためにずっと宣伝しているにも関わらず全然知名度のない川魚が美味しいと思うかね?」
勇者「あぐぅぅう~~~、で、でも、もしかしたら美味しいかもしれないし、それにその土地でしかできない貴重な体験ができた!」
ミノタウロス「もちろん隠れた美味しい特産品もまだまだありうるだろう。だがそういうものに運よく出会うためには失敗も数多く積み重ねる必要がある」
ミノタウロス「失敗を貴重な体験だと楽しむのもまた旅の醍醐味の1つだな。しかし貴様は失敗したことを認められず、必死に美味しかったと自分に言い聞かせて現実逃避しているではないか」
勇者「う、うぅぅ……」
ミノタウロス「外れを引くリスクを覚悟して珍品巡りをする心の余裕もなく、かといって無難に美味しい料理を選ぶ判断力もない」
勇者「あ、あわわわわ……」
ミノタウロス「お前、そんなんでよく勇者を名乗れるねぇ」
勇者「あ、あああ、あああああああああああああ!」
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ミノタウロスの恐るべきパワーの前に勇者はなすすべもなかった!
このまま勇者は敗北してしまうのか!?すべては無意味だったというのか!?
それでも我々は信じている!勇者の勝利を!頼む!負けないでくれ、勇者!
勇者「俺は負けない!魔王を倒す、その日まで!」
勇者「……」
勇者「ここしばらく毎日ミノタウロスの干し肉ばかりでうんざりだな……、次の町には美味しい料理があればいいけど」
21 : 以下、名... - 2017/08/24 05:29:52 l6cbqNEg 21/21以上です
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勇者「今日はここで食べるか」 魔物「ヒヒヒ……」【続き】
でも結局食われてて草