-病院 ガヴリールの病室-
タプリス「こんにちはー」
女看護師「あら、千咲さん、こんにちは」
タプリス「もうすっかり暖かくなりましたね」
女看護師「ええ、ほんとに」
タプリス「天真先輩、来ましたよ。タプリスです」
ガヴリール「……」
女看護師「ふふっ、千咲さんが来ると、喜んでいるように見えますね」
タプリス「そうですか? わたしには、また、うるさいのが来たなって」
タプリス「迷惑な顔をしているように見えちゃいます」
女看護師「そんなことありませんよ」
女看護師「千咲さんが、あれを始めてから、ですけど」
女看護師「だいぶ天真さんの表情に、変化が見られるようになったと思いますから」
タプリス「あはは……だと良いんですけど」
タプリス「……それにしても、また夏がくるということは」
タプリス「もう、あれから一年が経つんですね」
タプリス「先輩が意識不明になって、ここに運ばれてきてから」
女看護師「そうですね」
元スレ
ガヴリール「千咲ちゃん、眠り続ける天真先輩に本を朗読する」
http://viper.2ch.sc/test/read.cgi/news4vip/1495713799/
女看護師「今日も、いつものお話ですか?」
タプリス「はい、そうです」
タプリス「天真先輩とわたしが、てん……じゃなくて」
タプリス「前の学校にいた時に、一緒に読んでいた、思い出の本です」
女看護師「ふふっ、千咲さんの声は、とても綺麗で透き通っていますから」
女看護師「私は、とても好きですよ」
タプリス「そ、そんなこと、ないです……」
女看護師「他の同僚も、そう思ってますよ。あ、そうだ」
女看護師「将来は、そのお声を活かしたお仕事に就かれてみては?」
タプリス「わたしの声なんて、そんな大層なものではないですから!」
タプリス「は、恥ずかしいので、たぶん、無理です……」
女看護師「そうですか、一ファンとして残念です」
女看護師「私もゆっくり聞かせていただきたいところですが」
女看護師「他のお部屋も回らないといけないので、これで失礼しますね」
タプリス「あ、はい、わかりました」
女看護師「何かありましたら、ブザーでお呼びください」
――
タプリス「看護師さんには申し訳ないですけど……」
タプリス「他に誰もいない方が、朗読に集中できるんですよね」
ガヴリール「……」
タプリス「あの頃の先輩は……この物語のこと、登場する女の子のこと」
タプリス「とても気に入っていましたよね」
タプリス「そんな先輩が好きだった、お話ですから」
タプリス「わたしも、大好きでした」
タプリス「……それでは、始めますね」
タプリス『昔々、あるところに、とても思いやりのある王様がいました』
タプリス『王様は、いつだって国民のことを一番に思っており』
タプリス『そんな王様のことを、国民も慕っておりました』
タプリス『その王国では、国中の人たちが、幸せに暮らしていたんです』
タプリス『しかしある年、その平和な王国に、一つの不幸が訪れました』
タプリス『それは、飢饉です』
タプリス『その年は、晴れた日がとても少なく、お日様の光が足りなかったため』
タプリス『作物の実りが、全くと言っていいほど、ありませんでした』
タプリス『食べるものが極端に減ってしまった国では』
タプリス『国民が飢えに苦しみ、やがては、死んでしまう子供まで出始めました』
タプリス『もちろん王様は、そんな、国民の窮状を見て』
タプリス『まるで自分のことのように、胸を痛めます』
タプリス『王様は、王宮の食料を全て配るなど、国民のために奔走しましたが』
タプリス『その甲斐空しく、状況は一向に良くなりませんでした』
タプリス『王様は悩みます。どうすれば、国民を助けることができるのかと』
タプリス『そして、三日三晩考え抜き、ある一つの答えに、たどり着きました』
タプリス『「国外れに住んでいる、魔法使いを呼べ」』
タプリス『王様は、そう、臣下に命じたのです』
タプリス『臣下は大層驚いて、王様に聞き返します』
タプリス『「恐れながら申し上げます。王様、あの者は素性が知れませぬ」』
タプリス『「お会いになるのは、大変危険かと」』
タプリス『しかし王様は、「構わん、もうこれしか方法がないのだ」と告げました』
タプリス『次の日、国外れに住んでいる魔法使いが、王宮に呼ばれます』
タプリス『そしてその、みすぼらしい格好をした老婆が、王様に言いました』
タプリス『「これはこれは王様、本日はどのような御用でしょうか」』
タプリス『王様は、臣下の制止も聞かずに、老婆に近づきます』
タプリス『「そなたは、本当に魔法が使えるのだな?」』
タプリス『魔法使いは、王様の目をじっと見ながら、頷きました』
タプリス『「では、そなたに頼みたいことがある」』
タプリス『王様はそう言うと、魔法使いの老婆の手をとりました』
タプリス『「この国から、夜をなくしてくれないか」』
タプリス『「……それはいったい、どのような理由からで?」』
タプリス『そう聞き返された王様は、老婆に話し始めます』
タプリス『「この国では、日の光が足りなくて、作物が穫れなくなっておる」』
タプリス『「だから夜をなくしてしまえば、日の光が当たる時間も増えて」』
タプリス『「作物が、以前のようにたくさん穫れるようになるはずだ」』
タプリス『老婆は、少し黙ったあと、王様に言いました』
タプリス『「ええ、できますとも。しかし、その魔法には一つだけ条件がありまして」』
タプリス『「それを願った者が、病に伏せってしまうのです」』
タプリス『老婆がより一層、小さな声で王様に告げました』
タプリス『老婆の言葉に、王様は少しだけ躊躇しましたが』
タプリス『それで国民が助かるのならと、その条件を承諾します』
タプリス『「王様。では今晩、その魔法を国中にかけますので」』
タプリス『「これから、この国には一切、夜が訪れなくなります」』
タプリス『そう言うと老婆は、褒美の品を受け取りもせずに』
タプリス『王宮を去ってしまいました』
タプリス『王様は、その老婆の後姿を眺めながら』
タプリス『これでやっと、国民を救うことができると、安堵していました』
パタンッ
タプリス「少し、休憩しましょうか」
ガヴリール「……」
タプリス「子供の頃に、初めてこれを読んだときは」
タプリス「なんて偉い王様なんだろうって、感心してしまったのを覚えています」
タプリス「自分が病気になってしまうにもかかわらず」
タプリス「国民のために夜をなくしたいって願ったんですから」
タプリス「そんな王様だったからこそ」
タプリス「国民も王様のことが大好きだったんでしょうね」
タプリス「あとは、この魔法使いのお婆さんが、少しだけ怖かったです」
タプリス「なんでしょうね……願いを叶えてはくれるんですが」
タプリス「代償もちゃんとあって、どうして王様が病気にならないといけないのって」
タプリス「子供心に思ったものです」
タプリス「やっぱり、誰かを助けるには……犠牲が必要なんでしょうか」
タプリス「天真先輩は、どう思いますか?」
ガヴリール「……」
タプリス「……やっぱり、先輩は意地悪です」
タプリス「つづき、読みますね」
タプリス『こうして老婆の魔法により』
タプリス『国からは、夜がなくなりました』
タプリス『王様は、国民たちを集めて、事情を説明します』
タプリス『すると国民たちは、万歳三唱で王様を讃えました』
タプリス『これで作物をもっと、育てることができる、と』
タプリス『それからというもの、国民たちは』
タプリス『作物のために、一日中、働き続けます』
タプリス『夜をなくしてくれた、王様への恩を返すために』
タプリス『誰もが一生懸命、働きました』
タプリス『その国民の様子に感銘を受けた王様は』
タプリス『自身も何かできることはないかと、より一層、政務に励みます』
タプリス『その甲斐もあって、国では作物が再び、多く穫れるようになり』
タプリス『国民が飢えに苦しむことはなく、子供も元気に育つようになりました』
タプリス『以前のような幸せに満ちた生活が送れるようになり』
タプリス『国民たちは更に、王様に感謝していく一方で』
タプリス『次第に王様の体は、やせ細っていきました』
タプリス『それからしばらくして、日頃の激務もたたり』
タプリス『王様は、床に伏せってしまいます』
タプリス『それを知った国民は、怒りを自分たちにぶつけました』
タプリス『王様が倒れてしまったのは』
タプリス『我々が無理をさせすぎたせいだ』
タプリス『我々の働きが、足りなかったせいだ』
タプリス『国民の誰もが、そう思うようになっていきました』
タプリス『こうして、国民は前にも増して、働く時間を増やしていきます』
タプリス『すると作物はさらに穫れるようになって、国は潤いましたが』
タプリス『そこに住む人たちは、少しずつ疲弊していきました』
タプリス『そしてついに、王様が静かに息を引き取ってしまったのです』
タプリス『国民は大いに嘆き、悲しんで、後悔しました』
タプリス『王様は我々のせいで亡くなった』
タプリス『我々がもっと働いていれば、亡くなることはなかった』
タプリス『まるで王様が亡くなった悲しみを、埋めるかのように』
タプリス『国民は、死に物狂いで働くようになってしまいました』
タプリス『その異常な働きぶりから、一人、また一人と、国民は倒れていきます』
タプリス『しかしそれでも、亡くなった王様に比べたらと奮い立ち』
タプリス『何かに取り憑かれたように働き続けました』
タプリス『そして半年後、魔法使いの老婆が再び街へ訪れると』
タプリス『そこには、女子供が虚ろな瞳をしながら』
タプリス『ひたすらに働き続けている光景が広がっていました』
タプリス『その異様な状況に老婆は、国中を歩いて回ります』
タプリス『すると、働き手の男たちはみな、死んでしまい』
タプリス『残った者も、疲れ切ってしまっていることを知りました』
タプリス『それを哀れに思った老婆は、ある魔法を唱えます』
タプリス『「眠りなさい。あなたたちは、十分に働いた」』
タプリス『「だからもう、休んでも良いのです」』
タプリス『老婆の魔法が、国中を覆って、全てを包み込んでいきます』
タプリス『すると、働き続けていた国民は、次々と倒れて、眠りにつきました』
タプリス『「疲れたであろう、ゆっくりとおやすみ」』
タプリス『魔法によって、眠りに落ちた人々の顔は、とても安らかでした』
パタンッ
タプリス「……天真先輩」
タプリス「魔法使いのお婆さんのしたことは、ひどいことだと思いますか?」
ガヴリール「……」
タプリス「わたしはずっと、そう思っていました」
タプリス「ですけど……ここまでに出てくる人たちの行動の元は」
タプリス「全て、善意から始まっているんです」
タプリス「王様は国民のため、国民は王様のため……」
タプリス「そして、魔法使いは国のため」
タプリス「誰かが悪意を持って、陥れようとしたわけではないのに」
タプリス「こんな結末になってしまった」
タプリス「善意が報われることのなかった、悲しい結末に」
タプリス「だったら、善意なんて、必要ないんじゃないかって」
タプリス「これだけを読んだら思ってしまいますよね」
タプリス「先輩は……どう思いますか?」
タプリス「自分に返ってこない善意なんて、向けるだけ無駄だと思いますか?」
ガヴリール「……」
タプリス「わたしたちは、何を信じたらよいのでしょうね」
タプリス「……次、読みますね」
タプリス『国の人たちを見届けた老婆は、自分の家へと踵を返します』
タプリス『すると、目の前に一人の女の子が立っていました』
タプリス『驚いた老婆が、女の子に声をかけます』
タプリス『「お嬢ちゃんは、平気なのかい?」』
タプリス『「お母さんが目を閉じて、動かなくなっちゃった」』
タプリス『老婆は思いました。この子には、自分の魔法が効いていない』
タプリス『きっと、魔法の素質があるのだと』
タプリス『「お母さんが眠ってしまって、悲しい?」』
タプリス『その老婆の問いに、女の子は首を横に振ると、こう答えました』
タプリス『「お母さんの笑顔を久しぶりに見れたから」』
タプリス『老婆は、またもや驚きました』
タプリス『この子にとっては、自分のことよりも、母親のことの方が大切だったのです』
タプリス『「お嬢ちゃんのような幼子が、一人で生きていける場所ではない」』
タプリス『「よかったら、一緒に来るかい?」』
タプリス『女の子は、少しだけ考えたあと、こくりと首を縦に振りました』
タプリス『そして、老婆と女の子は身支度をすると』
タプリス『慣れ親しんだ国を出ることにしました』
タプリス『一ヶ月に及ぶ旅の末、二人は山の中にある一軒の小屋に、たどり着きます』
タプリス『そこは以前、老婆が身を寄せたことのある家でした』
タプリス『老婆は着いて早々、女の子に魔法を教え始めます』
タプリス『この子には、素晴らしい魔法の才能がある』
タプリス『そう見抜いた老婆は、厳しく、時には優しく』
タプリス『女の子に自分のすべてを託すように、魔法を伝えました』
タプリス『女の子も、始めは戸惑っていましたが』
タプリス『次第に、老婆を祖母のように慕うようになり』
タプリス『その思いに応えて、熱心に学ぶようになりました』
タプリス『そんなある日、女の子は老婆に尋ねます』
タプリス『魔法はいったい、何のためにあるのか、と』
タプリス『すると老婆は、こう答えました』
タプリス『「魔法はね、誰かの心を助けるためにあるんだよ」』
タプリス『それを聞いてからというもの、女の子は』
タプリス『自分のために魔法を使うことを、一切やめてしまいました』
タプリス『老婆が言った、誰かの心、の中には』
タプリス『自分も含まれていることに、その時は気づかなかったのです』
タプリス『二人が共に暮らし始めてから、一年が経った頃の、嵐の夜』
タプリス『老婆は「絶対に外に出ないように」と女の子に伝えると』
タプリス『少し出かけると言って、外に出ていきました』
タプリス『ですが、眠り始める時間になっても老婆が帰ってこないため』
タプリス『女の子は、老婆のことが心配になりました』
タプリス『そして、老婆の言いつけを破り、嵐の中へと飛び出します』
タプリス『荒れ狂う風が吹き付ける中、女の子は老婆を探し続けました』
タプリス『しばらく歩き続け、普段は来ることのない山道に差し掛かった時』
タプリス『急に頭上から轟音が鳴り響いたかと思うと』
タプリス『巨大な岩石が、落ちてきました』
タプリス『咄嗟に女の子は、魔法を唱えようとします』
タプリス『しかし、自分のためには魔法を使ってはいけないという』
タプリス『言葉が頭をよぎり、それを躊躇ってしまいました』
タプリス『女の子は目を瞑って、後悔します』
タプリス『これは、老婆の言いつけを破った、自分への罰だと』
タプリス『しかし次の瞬間、女の子は、そこから少し離れた場所へと移動していました』
タプリス『嫌な予感がした女の子は、すぐに岩が落ちた場所へと戻ります』
タプリス『するとそこには、岩に下敷きになった老婆がいました』
タプリス『震える声で何度も老婆を呼びましたが、返事はありません』
タプリス『女の子は、膝から崩れ落ちます』
タプリス『老婆が魔法で、女の子と自分の居場所を入れ替えたのだと』
タプリス『すぐに気づきました』
タプリス『「わたしが、言いつけを破ったのがいけないのに」』
タプリス『「どうしてお婆さんが、こんな目に合わないといけないの」』
タプリス『女の子はそう言って老婆にしがみつくと、涙を流し続けました』
タプリス『「王様は、国のみんなを思って、死んでしまった」』
タプリス『「国のみんなは、王様を思って、死んでしまった」』
タプリス『「そしてお婆さんは、国に唯一残ったわたしを助けて」』
タプリス『「命を落としてしまった」』
タプリス『「どうして? どうして、誰かのため、と思った人が」』
タプリス『「死ななければ、いけないの?」』
タプリス『「わたしも、誰かのために何かをしたら、死んでしまうの?」』
タプリス『女の子は、もう動かなくなってしまった老婆を、じっと見つめながら』
タプリス『冷たい雨にずっと、打たれていました』
パタンッ
タプリス「……疲れ果てた国に残された、たったひとりの女の子」
タプリス「お婆さんはどんな気持ちで、この子を育てたんでしょうか」
ガヴリール「……」
タプリス「仲間が欲しかったのか、それとも、罪滅ぼしだったのか」
タプリス「今のわたしでも、よくわかりません」
タプリス「ですけど、お婆さんはなぜ」
タプリス「はっきりと、自分のためにも魔法を使って良いと」
タプリス「言わなかったんでしょうか」
タプリス「岩が落ちてきた時、女の子が魔法を使っていたら」
タプリス「それ以前に、そもそも、女の子が家から出なかったら」
タプリス「こんな結末には、ならなかったのでしょうか」
タプリス「……わたしには、そうは思えません」
タプリス「どのような選択をしても、つらい現実が立ちふさがってしまう」
タプリス「そんな気がして、ならないんです」
タプリス「先輩は……どう思いますか?」
ガヴリール「……」
タプリス「わたしは……今がとても、つらいです」
タプリス「……ごめんなさい、続けますね」
タプリス「次が、最後の章、です」
タプリス『老婆を亡くしてしまった女の子は、少ない荷物をまとめると』
タプリス『一年近く住んだ家を出て、あてのない旅に出ました』
タプリス『暖かくなったら北へ向かい、寒くなったら南へ向かって』
タプリス『さまざまな場所を巡り、行く先々の風景を目に刻んでいきました』
タプリス『そして、気がついた時には』
タプリス『女の子は、自分のためだけに、魔法を使うようになっていました』
タプリス『誰かのために魔法を使うことを、忘れてしまったのです』
タプリス『まるで、悲しい思い出から、顔を背けるように』
タプリス『そんな生活を、数年続けた、ある日』
タプリス『今、旅をしている場所がちょうど』
タプリス『故郷だった国の近くであることに気づきました』
タプリス『普段なら通り過ぎるところでしたが』
タプリス『少しだけ今の暮らしに疲れ始めていたのと』
タプリス『故郷を懐かしむ気持ちが突然、ふっと湧いてきて』
タプリス『立ち寄ってみることにしました』
タプリス『そして、故郷の国が見渡せる丘に差し掛かったとき』
タプリス『女の子は、目の前の光景に、息をのみました』
タプリス『そこには、豊かな緑が生い茂る、広大な森が存在していたのです』
タプリス『女の子が森へ入ると、様々な動物たちが歓迎をしてくれました』
タプリス『中には、最近、数の少なくなった種類のウサギも、たくさんいました』
タプリス『かつての故郷は、動物たち、植物たちの楽園となっていたのです』
タプリス『しばらく歩いていくと、色とりどりの花が咲いている場所に出ました』
タプリス『女の子は気分が良くなり、そこへ寝転がります』
タプリス『そして、木々の合間に見える、青い空を眺めました』
タプリス『みんなの思いは、決して無駄ではなかったと』
タプリス『こうやって巡り巡って、この子たちの生きる糧となっているのだと』
タプリス『そう思っただけで、女の子は、涙が溢れて止まりませんでした』
タプリス『女の子は、決意します』
タプリス『これからは、この魔法を、誰かの幸せのために使っていくと』
タプリス『みんなの思いを繋げていくために、使っていくのだと』
タプリス『その後、女の子は魔法を使って』
タプリス『森の中に小さなお家を一軒、建てました』
タプリス『そこで、森を訪れる人たちを、魔法で助けながら』
タプリス『動物たちと一緒に、幸せに暮らしました』
タプリス『おしまい』
パタンッ
ガヴリール「……」
タプリス「これが、わたしたちの大好きな、魔法使いの女の子の」
タプリス「始まりの物語です」
タプリス「女の子は、故郷に戻ってきて、わかったんです」
タプリス「誰かへ向けた善意が、自分に返ってくることは、ないかもしれないけど」
タプリス「その思いは巡り巡って、繋がって、誰かにきっと届いている、と」
タプリス「王様も、国のみんなも、お婆さんも」
タプリス「そしてこの、女の子も……」
タプリス「全ての思いが、この生命あふれる森へと、繋がっていた」
タプリス「だから決して、善意は途絶えることはないと」
タプリス「そう、わたしは信じています」
ガヴリール「……」
タプリス「……天真先輩、見てください」
タプリス「夕日が、とても綺麗です」
タプリス「あの女の子も、こうやって夕焼けを見ながら」
タプリス「魔法でたくさんの人たちを助けたんでしょうか」
タプリス「……わたしも、あの子に会ってみたい、です」
女の子『……わたしを、呼びましたか?』
タプリス「あ、あなたは……、どうして、ここに?」
女の子『あなたの声が……聞こえたんです。わたしを呼ぶ声が』
女の子『そして、あなたの思いが巡り巡って、わたしのもとまで届きました』
タプリス「わたしの、思い?」
女の子『あたたかくて、優しくて……本当に大切に思っているのだと』
女の子『すぐにわかりました。だからこうして、魔法で飛んできたんです』
タプリス「そうだったんですか……」
女の子『そのベッドで寝ている子、ですよね?』
タプリス「えっと……、はい」
女の子『……彼女に、幸せが訪れますように』
タプリス「も、もしかして、それが……?」
女の子『ええ、魔法です。あとは……彼女次第かしら』
タプリス「あ、ありがとうございます、なんとお礼を言ったら良いか……」
女の子『だったら、そうね……わたしとお友達になってくれる?』
タプリス「友達、ですか?」
女の子『ええ、天使とお友達になれるなんて、滅多にないことだもの』
タプリス「はい、ぜひ! わたしこそ、友達になってください!」
女の子『ふふっ、ありがとう。本当に嬉しいわ』
女の子『っと、もうこんな時間。それじゃあ、また会いましょう』
タプリス「はいっ、それでは、また!」
タプリス「……あれ、わたし、寝ちゃって」
ガヴリール「……」
タプリス「天真先輩、聞いてください。わたし、あの子に会えたんです」
タプリス「そしてなんと……友達になっちゃいました」
タプリス「ふふっ、羨ましいですか?」
ガヴリール「……」
タプリス「……羨ましかったら、何とか言ってください」
タプリス「ねぇ……先輩」
ぎゅぅぅ
タプリス「そうだ、魔法を唱えてあげます」
タプリス「……先輩に、幸せが訪れますように」
タプリス「なんて、ね」
スッ
タプリス「えっ?」
ガヴリール「……タプリ、ス?」
タプリス「あ、あぁ……」ポロポロ
ガヴリール「ただいま」
タプリス「おかえりなさい、先輩」ニコッ
おしまい