1 : 以下、\... - 2017/08/02 21:31:05.128 +bNRYEzx0 1/34

不良「お、こんなところに深淵があるぜ!」

金髪「ホントだ!」

長身「覗いてやろうぜ!」

深淵「やだっ……やめてっ!」

不良「うひょ~、さすが深淵っていわれるだけのことはある。すげえ深さだ!」

金髪「たまんねェな!」

長身「お前らばかりずるいぜ。オレにも覗かせろよ」

深淵「いやぁぁぁぁぁっ!」



「やめろ!!!」

元スレ
不良「お、深淵だ! 覗いてやろうぜ!」深淵「いやぁぁぁっ!」 男「やめろ!!!」
http://viper.2ch.sc/test/read.cgi/news4vip/1501677065/

11 : 以下、\... - 2017/08/02 21:34:43.552 +bNRYEzx0 2/34

不良「なんだテメェ!?」

「ムリヤリ深淵を覗くのはやめろ! 嫌がってるじゃないか!」

不良「ンだとォ……!?」

金髪「お楽しみを邪魔しやがって……」

長身「深淵があったら覗きてェと思うのが、男の本能だろが!」

「どうやらお前たちには覗かれる恐怖を教える必要があるようだ」

「ぼくがお前たちを覗いてやる」

不良「おもしれえ! やってみやがれ!」

16 : 以下、\... - 2017/08/02 21:38:06.629 +bNRYEzx0 3/34

「まず、不良……」ジロッ

不良「あ?」

「お前は見かけによらず、絵本が好きだな?」

不良「な!?」ギクッ

「きっと図書館で何度も絵本を借りてるにちがいない」

不良「!?」ギクギクッ

不良「や、やめろぉぉぉ!!!」

20 : 以下、\... - 2017/08/02 21:40:18.461 +bNRYEzx0 4/34

「次に、そっちの金髪」ジロッ

金髪「な、なんだよ」

「お前はヤンキーぶってるが、実は勉強好きだろう? 典型的な“書いて覚えるタイプ”か」

「それも……左利き!」

金髪「ぐ!」

金髪(なんで分かったんだ……!?)

22 : 以下、\... - 2017/08/02 21:43:37.697 +bNRYEzx0 5/34

「それから、一番でかい奴」ジロッ

長身「……!」

「お前は背は高いが……あっちのサイズにはコンプレックスがあるようだ」

長身「うわぁぁぁぁぁっ!!! やめてくれぇぇぇぇぇっ!!!」モジモジ



金髪「まずいぜ、こいつどんどんオレらのことを覗いてきやがる!」

長身「ひいいいっ!」

不良「ちくしょう、覚えてやがれぇ!」

スタタタタッ!

24 : 以下、\... - 2017/08/02 21:46:43.158 +bNRYEzx0 6/34

「大丈夫かい?」

深淵「あ、ありがとう……助かったわ」

深淵「だけど、すごいね……どうして不良たちの秘密や弱点が分かったの?」

「簡単な推理さ」

「不良は右手に『ぐりとぐら』の絵本、左手に使い古された図書館の貸し出しカードを持っていた」

「だから絵本好きだと分かった」

深淵「他の二人は?」

「金髪の男は、左手に巨大なペンだこができていた。日頃から勉強しまくっている証拠だ」

「長身の奴はズボンの股間部分にトウモロコシを入れていた」

「ズボンをもっこりさせて、サイズを大きく見せるためにね」

深淵「すごい推理力……」ドキン…

26 : 以下、\... - 2017/08/02 21:51:05.750 +bNRYEzx0 7/34

深淵「だけど、推理力があるってことは当然、好奇心もあるってことよね」

「まぁね」

深淵「あなたは気にならないの? 私という“深淵”を覗きたくならないの?」

「気にならない、といえばウソになるが、ムリに覗こうとは思わないよ」

深淵(なんてステキな人なの……)

深淵「あの……よかったら一緒にお茶しませんか」

「いいとも!」

29 : 以下、\... - 2017/08/02 21:54:32.998 +bNRYEzx0 8/34

―カフェ―

店員「ブレンドコーヒーと、紅茶です」

「ありがとうございます」

深淵「なぜブレンドコーヒーを?」

「さっきのように、ぼくはちょっと見ただけですぐ他人の底を覗けてしまうから」

「こういう底の見えない飲み物の方が好きなのさ。なんていうか、落ち着くんだよね」

深淵「……っ!」ドキン…

31 : 以下、\... - 2017/08/02 21:56:51.483 +bNRYEzx0 9/34

「――今日は楽しかったよ」

深淵「私も……」

「よかったら、また会えるかな?」

深淵「うん……ぜひ会いたい」

「じゃあ連絡先を交換しよう。近いうちにまた会おう!」

深淵「うんっ!」

34 : 以下、\... - 2017/08/02 22:01:02.294 +bNRYEzx0 10/34

―自宅―

(深淵……見るのは初めてだったけど、ものすごい深さだった……)

(いくら目を凝らしても、底があるのかどうかすら分からないほどに……)

(だけど、決して悪い気分じゃない。むしろ、その底知れなさが心地よかった)

(う~む、ぼくは彼女のことをどう思ってるんだろう?)

(自分の気持ちが分からない……!)

37 : 以下、\... - 2017/08/02 22:05:36.129 +bNRYEzx0 11/34

―学校―

「おはよう」

友人「おっす」

「……お前、今日遅刻しそうになっただろ?」

友人「!」ギクッ

友人「な、なんで分かった!?」

「パジャマのまんま登校してるからな」

友人(なんて推理力だ……!)

38 : 以下、\... - 2017/08/02 22:07:31.667 +bNRYEzx0 12/34

友人「さすがだぜ……」

友人「お前にかかれば、この世に分からないことなんてないのかもな」

「いや、そんなことはないさ……」

友人「?」

キーンコーンカーンコーン…

「おっと授業か。早く学校終わらないかなぁ」

友人(勉強好きで学校好きのこいつが、こんなこというなんて珍しいな)

39 : 以下、\... - 2017/08/02 22:10:44.464 +bNRYEzx0 13/34

放課後――

「……」

(深淵に電話をかけてみよう)ピッポッパッ

「深淵ちゃん」

深淵『なぁに?』

「今度の休み、デートしないか?」

深淵『喜んで!』

41 : 以下、\... - 2017/08/02 22:15:00.395 +bNRYEzx0 14/34

休日――

―海岸―

ザザァン… ザザァン…

深淵「わぁーっ、キレイ!」

「君は海が好きなのか」

深淵「うん」

深淵「ほら私って深淵でしょ。だから自分と正反対の浅いところが好きなの」

深淵「こういう浅瀬なんかだーい好き」バシャバシャ

「なんとなく分かるよ、その気持ち」

44 : 以下、\... - 2017/08/02 22:18:35.167 +bNRYEzx0 15/34

「よーし、じゃあ水のかけ合いでもしよっか!」

深淵「うん、やろうやろう!」

バシャバシャッ ザバッ バッシャーン

「やったなー!」バシャッ

深淵「そっちこそ!」ザバッ

「アハハハハ……」

深淵「ウフフフフ……」

46 : 以下、\... - 2017/08/02 22:22:34.733 +bNRYEzx0 16/34

―映画館―

映画『うおおおおおっ! 悪を倒すぞォォォォォ!!!』チュドドーン

映画『FUCK YOU! FUCK YOU! FUCK YOU!』

映画『キミを愛してるぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!』

ズガァァァン! ドゴォォォォン! バゴォォォォン!



「……」

深淵「……」

47 : 以下、\... - 2017/08/02 22:25:56.069 +bNRYEzx0 17/34

「なんていうか、ずいぶん浅い映画だったね。典型的なB級映画だったよ」

深淵「でも私はああいう中身のないクソ映画の方が好き。ほっとするから」

「ぼくも気楽に見れたよ」

「深い内容だと、かえって結末が読めちゃってつまらないもの」

深淵「あなたの推理力は天下一品だものねー」

深淵「私たちって気が合うのかもね!」

「そうだね!」

51 : 以下、\... - 2017/08/02 22:30:40.824 +bNRYEzx0 18/34

―高級レストラン―

店員「あさりご飯でございます」ニコッ



「このレストランのあさりご飯はおいしいんだ」

深淵「へぇ~」モグッ

「どう?」

深淵「あっさりしてて、おいしいっ!」

「気に入ってくれてよかったぁ~」

(深淵は浅いのが好きだから、あさりも好きだというぼくの推理は正しかった!)

52 : 以下、\... - 2017/08/02 22:33:10.037 +bNRYEzx0 19/34

デートが終わり――

「今日は楽しかったよ」

深淵「私も」

「また一緒に……デートしようね」

深淵「……うん!」

「じゃあ、またね!」

深淵「さよなら!」

53 : 以下、\... - 2017/08/02 22:37:06.346 +bNRYEzx0 20/34

それからというもの――

「今日はどこ行く?」

深淵「プールに行かない? あんまり深くないところ! 深さ50cmぐらいの!」



深淵「あーあ、浅草や浅間山に行ってみたいなぁ~」

「どこかの大型連休で一緒に行こうよ!」



「この推理小説、面白いんだ。読んでみてよ」

深淵「わぁっ、ありがと~!」

…………

……

54 : 以下、\... - 2017/08/02 22:40:29.388 +bNRYEzx0 21/34

しばらくして――

深淵「ねえ……」

「うん?」

深淵「よかったら今日、うちの家に来ない?」

「いいのかい?」

深淵「うん、お父さんやお母さんにも会ってもらいたいの」

(やっぱり深淵にも家族はいるのか……)

56 : 以下、\... - 2017/08/02 22:46:28.524 +bNRYEzx0 22/34

―深淵の家―

深淵父「おっほん」

深淵父「君が、娘のボーイフレンドかね」

「はい」

深淵母「あらまぁ、なかなかいい男じゃないの。深淵もやるじゃない」

深淵「えへへ……」

(やはり両親は深淵以上の深さの持ち主のようだ……全く底が見えない。まるでブラックホール!)

深淵父「コホン」

深淵父「君が優秀な人間だというのは認めよう。しかし、ハッキリといっておきたいことがある」

「なんでしょう?」

57 : 以下、\... - 2017/08/02 22:49:29.053 +bNRYEzx0 23/34

深淵父「君に娘を覗く覚悟はあるか?」

「!」

深淵母「あなた!」

深淵父「お前は黙っていなさい」

深淵父「君が娘と親しく付き合うなら、娘を覗く時が必ず来る」

深淵父「だが、深淵を覗く者は必ず……深淵に覗かれることになる」

深淵父「文字通り、全てをな」

ゴゴゴゴゴ…

「……!」

深淵父「君にその覚悟はあるのか?」

59 : 以下、\... - 2017/08/02 22:53:19.489 +bNRYEzx0 24/34

(ぼくは自分の心ですら自分で分かっていない)

(そんなものを彼女に覗かせていいのだろうか?)

(もしかしたら、心のどこかで彼女に対して邪な気持ちを抱いてるかもしれない)

(もしそれを覗かれてしまったらっ……!)

「ぼくはっ……ぼくはっ……!」

深淵父「もし覚悟がないのであれば、娘と付き合うのはやめてもらおう」

深淵父「覗く覗かれるの関係でなくば、君も娘も不幸になってしまうからな」

深淵「男君……!」

(駄目だ……言い返せない! ぼくには……覚悟がない!!!)

「失礼します!」ダッ



深淵「ああっ!」

深淵父「これでよかったのだ……我らは深淵、しょせん人間とは相容れぬのだ」

深淵母「あなた……」

61 : 以下、\... - 2017/08/02 22:56:07.368 +bNRYEzx0 25/34

―自宅―

(あのお父さんがいってることは正しい)

(半端な覚悟の者が深淵を覗いたところで、自分も深淵も不幸にするだけだ)

(つまり、あの場から逃げたぼくの判断も正しかったことになる)

(なのになぜだ!? なぜ、ぼくの心はザワザワしたままなんだ!?)

(ぼくはどうすれば――!?)

63 : 以下、\... - 2017/08/02 23:00:08.600 +bNRYEzx0 26/34

―学校―

友人「おっす」

「……おはよう」

友人「なんか、やつれてないか?」

「そんなことないと思うけど」

「それよりお前、今朝はうな重を食べただろう?」

友人「いや……朝メシはウィダーinゼリーだったけど」

「!!!???」

(推理が……わずかに外れたッ!? こんなバカな……ッ!)

友人「お前が推理を外すなんてどうしちまったんだよ!? 何があったんだよッッッ!?」

「実は……」

66 : 以下、\... - 2017/08/02 23:03:59.815 +bNRYEzx0 27/34

友人「なるほど……深淵を覗くべきか、覗かぬべきか、ねえ」

「ぼくは自分がどうしたいのか、自分の気持ちすら分からないんだ」

友人「ふっふっふ、ならいつもと立場逆転だな」

友人「オレは分かるぜ……お前の本当の気持ちがな」

「な、なんだって!? ――教えてくれ!」

友人「なにバカなこといってやがる」

友人「お前だって本当はもう分かってるんだろ?」

友人「今みたいに“最後の後押し”をして欲しかったんだろ? 世話が焼ける奴だぜ」フッ

友人「行けよ、先生には早退したって伝えとく」

「……ありがとう、親友!」

68 : 以下、\... - 2017/08/02 23:09:08.014 +bNRYEzx0 28/34

(深淵に電話をかけよう)ピッ

「もしもし、深淵ちゃん?」

深淵『……なに? 私を覗く覚悟もない底の浅いあなたがなんの用?』

「それについては……すまなかった。弁解の余地もない」

「だけどもし、君がもう一度ぼくにチャンスをくれるというのなら――」

「もう一度、君に会いたい……!」

深淵『私、その言葉を待ってた……!』

「それじゃ……初めてデートした海岸で会おう」

深淵『私、待ってる……! 浅瀬でっ……!』

70 : 以下、\... - 2017/08/02 23:12:32.217 +bNRYEzx0 29/34

―海岸―

ザザァン… ザザァン…

「待たせた?」

深淵「ううん、今来たとこ」

「それじゃ、ぼくの本当の気持ちを単刀直入に伝えさせてもらうよ」


「今こそ、君のことを覗きたい……!」


深淵「ええ、思う存分覗いて……!」

「……いくよ!」ジロジロジロッ

71 : 以下、\... - 2017/08/02 23:15:33.912 +bNRYEzx0 30/34

「深いなぁ……なんて深さだ……」

深淵「んっ……」

「底がまるで見えない……。深さが何百、いや何千メートルあるか、見当もつかない……」

深淵「ああっ……」

「だけど、全然怖くない……どこまでもどこまでも覗ける……」

深淵「んふうっ……」

「さ、もっと深くまで覗くよ……」

深淵「い、いいよっ! とことんやっちゃってっ!」

73 : 以下、\... - 2017/08/02 23:20:16.275 +bNRYEzx0 31/34

深淵(他人からここまで深くまで覗かれるのは初めて……! なんて快感なのかしら!)

深淵(でも、これ以上覗かれたら……私は彼のことも覗いてしまう!)

深淵(なぜなら“深淵は誰かに覗かれた時、その誰かを覗いてしまう”から! これは本能!)

深淵(どんなに相手のプライバシーを尊重しようとしても、止められない!)

深淵(もう我慢できないっ!)

深淵(私、彼の中を覗いちゃう!)

深淵「――――!」

74 : 以下、\... - 2017/08/02 23:24:26.076 +bNRYEzx0 32/34

ぼくは深淵が好きだ。

ぼくは深淵が好きだ!

ぼくは深淵が好きだ!!

ぼくは深淵が好きだ!!!

ぼくは深淵が好きだ!!!!


 ぼ く は 深 淵 が 大 好 き だ ! ! ! ! ! 





深淵「あああああああああああああああああっ!!!!!」

75 : 以下、\... - 2017/08/02 23:27:48.412 +bNRYEzx0 33/34

「今の必要以上に黄色い声……どうやらぼくを覗いてくれたようだね」

深淵「……うん」

「じゃあ今度はぼくの口からちゃんと言おう」

「好きだっ!」

「ぼくは一生かけて、君の底の底まで覗いてみせる!」

深淵「ふんっ! そう簡単に覗かせないんだからっ!」

77 : 以下、\... - 2017/08/02 23:31:48.130 +bNRYEzx0 34/34

「いーや、絶対覗いてみせる!」

深淵「いーえ、私の底はそう浅くないわよ!」

アハハハハ… ウフフフフ…


……

深淵父「フッ、深淵を覗いて、呑まれない人間がいたとはな……」

深淵母「人間もまだまだ奥が深い、ということね」







おわり

記事をツイートする 記事をはてブする