不良「お、こんなところに深淵があるぜ!」
金髪「ホントだ!」
長身「覗いてやろうぜ!」
深淵「やだっ……やめてっ!」
不良「うひょ~、さすが深淵っていわれるだけのことはある。すげえ深さだ!」
金髪「たまんねェな!」
長身「お前らばかりずるいぜ。オレにも覗かせろよ」
深淵「いやぁぁぁぁぁっ!」
男「やめろ!!!」
元スレ
不良「お、深淵だ! 覗いてやろうぜ!」深淵「いやぁぁぁっ!」 男「やめろ!!!」
http://viper.2ch.sc/test/read.cgi/news4vip/1501677065/
不良「なんだテメェ!?」
男「ムリヤリ深淵を覗くのはやめろ! 嫌がってるじゃないか!」
不良「ンだとォ……!?」
金髪「お楽しみを邪魔しやがって……」
長身「深淵があったら覗きてェと思うのが、男の本能だろが!」
男「どうやらお前たちには覗かれる恐怖を教える必要があるようだ」
男「ぼくがお前たちを覗いてやる」
不良「おもしれえ! やってみやがれ!」
男「まず、不良……」ジロッ
不良「あ?」
男「お前は見かけによらず、絵本が好きだな?」
不良「な!?」ギクッ
男「きっと図書館で何度も絵本を借りてるにちがいない」
不良「!?」ギクギクッ
不良「や、やめろぉぉぉ!!!」
男「次に、そっちの金髪」ジロッ
金髪「な、なんだよ」
男「お前はヤンキーぶってるが、実は勉強好きだろう? 典型的な“書いて覚えるタイプ”か」
男「それも……左利き!」
金髪「ぐ!」
金髪(なんで分かったんだ……!?)
男「それから、一番でかい奴」ジロッ
長身「……!」
男「お前は背は高いが……あっちのサイズにはコンプレックスがあるようだ」
長身「うわぁぁぁぁぁっ!!! やめてくれぇぇぇぇぇっ!!!」モジモジ
金髪「まずいぜ、こいつどんどんオレらのことを覗いてきやがる!」
長身「ひいいいっ!」
不良「ちくしょう、覚えてやがれぇ!」
スタタタタッ!
男「大丈夫かい?」
深淵「あ、ありがとう……助かったわ」
深淵「だけど、すごいね……どうして不良たちの秘密や弱点が分かったの?」
男「簡単な推理さ」
男「不良は右手に『ぐりとぐら』の絵本、左手に使い古された図書館の貸し出しカードを持っていた」
男「だから絵本好きだと分かった」
深淵「他の二人は?」
男「金髪の男は、左手に巨大なペンだこができていた。日頃から勉強しまくっている証拠だ」
男「長身の奴はズボンの股間部分にトウモロコシを入れていた」
男「ズボンをもっこりさせて、サイズを大きく見せるためにね」
深淵「すごい推理力……」ドキン…
深淵「だけど、推理力があるってことは当然、好奇心もあるってことよね」
男「まぁね」
深淵「あなたは気にならないの? 私という“深淵”を覗きたくならないの?」
男「気にならない、といえばウソになるが、ムリに覗こうとは思わないよ」
深淵(なんてステキな人なの……)
深淵「あの……よかったら一緒にお茶しませんか」
男「いいとも!」
―カフェ―
店員「ブレンドコーヒーと、紅茶です」
男「ありがとうございます」
深淵「なぜブレンドコーヒーを?」
男「さっきのように、ぼくはちょっと見ただけですぐ他人の底を覗けてしまうから」
男「こういう底の見えない飲み物の方が好きなのさ。なんていうか、落ち着くんだよね」
深淵「……っ!」ドキン…
男「――今日は楽しかったよ」
深淵「私も……」
男「よかったら、また会えるかな?」
深淵「うん……ぜひ会いたい」
男「じゃあ連絡先を交換しよう。近いうちにまた会おう!」
深淵「うんっ!」
―自宅―
男(深淵……見るのは初めてだったけど、ものすごい深さだった……)
男(いくら目を凝らしても、底があるのかどうかすら分からないほどに……)
男(だけど、決して悪い気分じゃない。むしろ、その底知れなさが心地よかった)
男(う~む、ぼくは彼女のことをどう思ってるんだろう?)
男(自分の気持ちが分からない……!)
―学校―
男「おはよう」
友人「おっす」
男「……お前、今日遅刻しそうになっただろ?」
友人「!」ギクッ
友人「な、なんで分かった!?」
男「パジャマのまんま登校してるからな」
友人(なんて推理力だ……!)
友人「さすがだぜ……」
友人「お前にかかれば、この世に分からないことなんてないのかもな」
男「いや、そんなことはないさ……」
友人「?」
キーンコーンカーンコーン…
男「おっと授業か。早く学校終わらないかなぁ」
友人(勉強好きで学校好きのこいつが、こんなこというなんて珍しいな)
放課後――
男「……」
男(深淵に電話をかけてみよう)ピッポッパッ
男「深淵ちゃん」
深淵『なぁに?』
男「今度の休み、デートしないか?」
深淵『喜んで!』
休日――
―海岸―
ザザァン… ザザァン…
深淵「わぁーっ、キレイ!」
男「君は海が好きなのか」
深淵「うん」
深淵「ほら私って深淵でしょ。だから自分と正反対の浅いところが好きなの」
深淵「こういう浅瀬なんかだーい好き」バシャバシャ
男「なんとなく分かるよ、その気持ち」
男「よーし、じゃあ水のかけ合いでもしよっか!」
深淵「うん、やろうやろう!」
バシャバシャッ ザバッ バッシャーン
男「やったなー!」バシャッ
深淵「そっちこそ!」ザバッ
男「アハハハハ……」
深淵「ウフフフフ……」
―映画館―
映画『うおおおおおっ! 悪を倒すぞォォォォォ!!!』チュドドーン
映画『FUCK YOU! FUCK YOU! FUCK YOU!』
映画『キミを愛してるぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!』
ズガァァァン! ドゴォォォォン! バゴォォォォン!
男「……」
深淵「……」
男「なんていうか、ずいぶん浅い映画だったね。典型的なB級映画だったよ」
深淵「でも私はああいう中身のないクソ映画の方が好き。ほっとするから」
男「ぼくも気楽に見れたよ」
男「深い内容だと、かえって結末が読めちゃってつまらないもの」
深淵「あなたの推理力は天下一品だものねー」
深淵「私たちって気が合うのかもね!」
男「そうだね!」
―高級レストラン―
店員「あさりご飯でございます」ニコッ
男「このレストランのあさりご飯はおいしいんだ」
深淵「へぇ~」モグッ
男「どう?」
深淵「あっさりしてて、おいしいっ!」
男「気に入ってくれてよかったぁ~」
男(深淵は浅いのが好きだから、あさりも好きだというぼくの推理は正しかった!)
デートが終わり――
男「今日は楽しかったよ」
深淵「私も」
男「また一緒に……デートしようね」
深淵「……うん!」
男「じゃあ、またね!」
深淵「さよなら!」
それからというもの――
男「今日はどこ行く?」
深淵「プールに行かない? あんまり深くないところ! 深さ50cmぐらいの!」
~
深淵「あーあ、浅草や浅間山に行ってみたいなぁ~」
男「どこかの大型連休で一緒に行こうよ!」
~
男「この推理小説、面白いんだ。読んでみてよ」
深淵「わぁっ、ありがと~!」
…………
……
しばらくして――
深淵「ねえ……」
男「うん?」
深淵「よかったら今日、うちの家に来ない?」
男「いいのかい?」
深淵「うん、お父さんやお母さんにも会ってもらいたいの」
男(やっぱり深淵にも家族はいるのか……)
―深淵の家―
深淵父「おっほん」
深淵父「君が、娘のボーイフレンドかね」
男「はい」
深淵母「あらまぁ、なかなかいい男じゃないの。深淵もやるじゃない」
深淵「えへへ……」
男(やはり両親は深淵以上の深さの持ち主のようだ……全く底が見えない。まるでブラックホール!)
深淵父「コホン」
深淵父「君が優秀な人間だというのは認めよう。しかし、ハッキリといっておきたいことがある」
男「なんでしょう?」
深淵父「君に娘を覗く覚悟はあるか?」
男「!」
深淵母「あなた!」
深淵父「お前は黙っていなさい」
深淵父「君が娘と親しく付き合うなら、娘を覗く時が必ず来る」
深淵父「だが、深淵を覗く者は必ず……深淵に覗かれることになる」
深淵父「文字通り、全てをな」
ゴゴゴゴゴ…
男「……!」
深淵父「君にその覚悟はあるのか?」
男(ぼくは自分の心ですら自分で分かっていない)
男(そんなものを彼女に覗かせていいのだろうか?)
男(もしかしたら、心のどこかで彼女に対して邪な気持ちを抱いてるかもしれない)
男(もしそれを覗かれてしまったらっ……!)
男「ぼくはっ……ぼくはっ……!」
深淵父「もし覚悟がないのであれば、娘と付き合うのはやめてもらおう」
深淵父「覗く覗かれるの関係でなくば、君も娘も不幸になってしまうからな」
深淵「男君……!」
男(駄目だ……言い返せない! ぼくには……覚悟がない!!!)
男「失礼します!」ダッ
深淵「ああっ!」
深淵父「これでよかったのだ……我らは深淵、しょせん人間とは相容れぬのだ」
深淵母「あなた……」
―自宅―
男(あのお父さんがいってることは正しい)
男(半端な覚悟の者が深淵を覗いたところで、自分も深淵も不幸にするだけだ)
男(つまり、あの場から逃げたぼくの判断も正しかったことになる)
男(なのになぜだ!? なぜ、ぼくの心はザワザワしたままなんだ!?)
男(ぼくはどうすれば――!?)
―学校―
友人「おっす」
男「……おはよう」
友人「なんか、やつれてないか?」
男「そんなことないと思うけど」
男「それよりお前、今朝はうな重を食べただろう?」
友人「いや……朝メシはウィダーinゼリーだったけど」
男「!!!???」
男(推理が……わずかに外れたッ!? こんなバカな……ッ!)
友人「お前が推理を外すなんてどうしちまったんだよ!? 何があったんだよッッッ!?」
男「実は……」
友人「なるほど……深淵を覗くべきか、覗かぬべきか、ねえ」
男「ぼくは自分がどうしたいのか、自分の気持ちすら分からないんだ」
友人「ふっふっふ、ならいつもと立場逆転だな」
友人「オレは分かるぜ……お前の本当の気持ちがな」
男「な、なんだって!? ――教えてくれ!」
友人「なにバカなこといってやがる」
友人「お前だって本当はもう分かってるんだろ?」
友人「今みたいに“最後の後押し”をして欲しかったんだろ? 世話が焼ける奴だぜ」フッ
友人「行けよ、先生には早退したって伝えとく」
男「……ありがとう、親友!」
男(深淵に電話をかけよう)ピッ
男「もしもし、深淵ちゃん?」
深淵『……なに? 私を覗く覚悟もない底の浅いあなたがなんの用?』
男「それについては……すまなかった。弁解の余地もない」
男「だけどもし、君がもう一度ぼくにチャンスをくれるというのなら――」
男「もう一度、君に会いたい……!」
深淵『私、その言葉を待ってた……!』
男「それじゃ……初めてデートした海岸で会おう」
深淵『私、待ってる……! 浅瀬でっ……!』
―海岸―
ザザァン… ザザァン…
男「待たせた?」
深淵「ううん、今来たとこ」
男「それじゃ、ぼくの本当の気持ちを単刀直入に伝えさせてもらうよ」
男「今こそ、君のことを覗きたい……!」
深淵「ええ、思う存分覗いて……!」
男「……いくよ!」ジロジロジロッ
男「深いなぁ……なんて深さだ……」
深淵「んっ……」
男「底がまるで見えない……。深さが何百、いや何千メートルあるか、見当もつかない……」
深淵「ああっ……」
男「だけど、全然怖くない……どこまでもどこまでも覗ける……」
深淵「んふうっ……」
男「さ、もっと深くまで覗くよ……」
深淵「い、いいよっ! とことんやっちゃってっ!」
深淵(他人からここまで深くまで覗かれるのは初めて……! なんて快感なのかしら!)
深淵(でも、これ以上覗かれたら……私は彼のことも覗いてしまう!)
深淵(なぜなら“深淵は誰かに覗かれた時、その誰かを覗いてしまう”から! これは本能!)
深淵(どんなに相手のプライバシーを尊重しようとしても、止められない!)
深淵(もう我慢できないっ!)
深淵(私、彼の中を覗いちゃう!)
深淵「――――!」
ぼくは深淵が好きだ。
ぼくは深淵が好きだ!
ぼくは深淵が好きだ!!
ぼくは深淵が好きだ!!!
ぼくは深淵が好きだ!!!!
ぼ く は 深 淵 が 大 好 き だ ! ! ! ! !
深淵「あああああああああああああああああっ!!!!!」
男「今の必要以上に黄色い声……どうやらぼくを覗いてくれたようだね」
深淵「……うん」
男「じゃあ今度はぼくの口からちゃんと言おう」
男「好きだっ!」
男「ぼくは一生かけて、君の底の底まで覗いてみせる!」
深淵「ふんっ! そう簡単に覗かせないんだからっ!」
男「いーや、絶対覗いてみせる!」
深淵「いーえ、私の底はそう浅くないわよ!」
アハハハハ… ウフフフフ…
……
深淵父「フッ、深淵を覗いて、呑まれない人間がいたとはな……」
深淵母「人間もまだまだ奥が深い、ということね」
おわり