1 : 以下、\... - 2017/05/08 21:01:42.697 FUaUiqcl0 1/35

 
-エンジェル珈琲-


マスター「天真くん、今日はもうあがっていいよ」

ガヴリール「うす。お疲れした」

 バタンッ


マスター「ふぅ、今日もあまりお客さんは来なかったねぇ」

 ピカッ ゴロゴロゴロッ

マスター「雷ですか、それで外が薄暗かったんですねぇ……」


 ザァァァッ

マスター「ああ、雨も降ってきましたね」

マスター「天真くん、もう家に着いていると良いけど」



 ワンワンッ

マスター「ん?」


 ワンワンワンッ

マスター「……犬の鳴き声?」

元スレ
ガヴリール「千咲ちゃん、百合少女のよさを教わる」
http://viper.2ch.sc/test/read.cgi/news4vip/1494244902/

2 : 以下、\... - 2017/05/08 21:04:06.990 FUaUiqcl0 2/35

 
-エンジェル珈琲 前-


 ザァァァッ


「わんわんっ」

マスター「可哀想に、野良犬かねぇ」

マスター「こんなにずぶ濡れになって……中に入るかい?」

「ばぅっ、はっはっはっ」ペロペロ

マスター「こらこら、そんなに舐めたらいけないよ」

マスター「さ、中に――」


 ピカッ

マスター「え」


 ズドンッ


マスター「ぎぃやぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

「わぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!」

3 : 以下、\... - 2017/05/08 21:05:53.184 FUaUiqcl0 3/35

 
 シュゥゥゥ


マスター「」

「」


 ムクッ


マスター「……ここは」

マスター「そうか、これが新しい体」

マスター「どうやら、少しおじ様みたいだけど、意外と馴染むね」

「そうだね。ボクは、また畜生だけど」

マスター「お前も来ていたのか、ちょうどよかったよ」

マスター「とりあえずは……ここがどこなのか、この体が誰なのか」

マスター「情報収集に努めよう」

「わかったよ」



タプリス「はわわわわ……」ガクガクブルブル

7 : 以下、\... - 2017/05/08 21:07:49.675 FUaUiqcl0 4/35

 
タプリス(ど、どういうことでしょう)

タプリス(マスターさんは、確かに雷に打たれたはずですが)

タプリス(あのように立ち上がって、しっかり歩いています……)

タプリス(救急車とか、呼ばなくて大丈夫でしょうか)

タプリス(聞きたくても、なんだか異様な雰囲気で近づけません)

タプリス(それに、もう一人、誰かの声が聞こえる気がします……)


マスター「そこの君!」

タプリス「ひっ!? ごめんなさいごめんなさいごめんなさいっ!」

マスター「何をそんなに怯えているんだい」

タプリス「えっ、そ、そんなことはありませんよ」

タプリス「それにしても……い、いいお天気ですね!」

「いや、土砂降りだけどね」


タプリス「い、いいい、いぬ、いぬっ、犬が……」

「どうしたんだい?」

タプリス「喋ったぁぁぁぁっっ!!」

14 : 以下、\... - 2017/05/08 21:10:20.085 FUaUiqcl0 5/35

 
-エンジェル珈琲-


マスター「なるほど、この人は、ここの喫茶店の店主なんだね」

マスター「それにどうやら……この人の珈琲作りの技術は」

マスター「体で覚えているみたいだ。お店を続けていくのに問題はないだろう」


タプリス「……本当に、ただ演技しているだけじゃないんですね?」

マスター「ああ、体を借りてるだけみたいだ。それに嘘なら……」

マスター「犬が喋るはずがないだろう?」

タプリス「そ、そうですね、確かに……」


マスター「ということで君には、僕たちの野望のための力になってもらうよ」

タプリス「な、なんですか、それ! 了承するはずないじゃないですか!」

マスター「おや、いいのかい。僕は、言うなれば、この体を人質にしているんだ」

マスター「僕の指先一つで、この体がどうなるか……わかるかい?」


タプリス「ぐっ……ひ、卑怯です……」

マスター「……なんてね、僕は争いごとが嫌いなんだ」

マスター「正直、僕たちも突然、ここに来てしまって困っていてね」

マスター「戻る方法もわからないし、協力してくれると助かるよ」


タプリス「……わ、わかりました。不本意ですが、あなたに協力しましょう」

マスター「ありがとう」

15 : 以下、\... - 2017/05/08 21:13:27.879 FUaUiqcl0 6/35

 
タプリス「それで、あなたたちの野望というのは、何なんですか?」

マスター「よく聞いてくれたね! 何を隠そう、僕たちは……」


マスター「百合少女が大好きなんだ」

タプリス「は? ゆ、百合、少女……?」

マスター「そう、百合少女」

マスター「百合はいい……僕たちの心を満たしてくれる」

マスター「女の子と女の子が、きゃっきゃうふふする」

マスター「素晴らしいと思わないかい!」


タプリス「えっと……少しいいですか?」

マスター「なんだい、千咲くん」

タプリス「百合って、なんですか? お花のことじゃ、なさそうですけど……」


「百合とは、女性の同性愛のこと。また、それを題材とした各種作品」

「作品の場合、女性同士の恋愛だけでなく」

「恋愛に近い友愛や広く友情を含んだ作品も百合と言うことが多い」


タプリス「そ、そそそそ、それってつまり……その……」カァァ

「どうしたんだい、そんなに顔を赤らめて」

「もしかして、心当たりでもあるのかい」ニヤッ

16 : 以下、\... - 2017/05/08 21:16:03.847 FUaUiqcl0 7/35

 
タプリス「い、いえ! 決して、そのようなことはっ!」

マスター「なるほど、言葉は知らなかったとしても」

マスター「既に素養がある子と出会えるなんて……僕も嬉しいよ」

マスター「そうだな、君を今日から、僕たちの助手に任命する!」

タプリス「え、えぇ……」


マスター「この世界を百合少女で満たすために、一緒に頑張ろう!」

「諦めたほうが良いよ。一度決めたら、絶対に曲げない男さ」

タプリス「はぁ……、とりあえず、具体的に何をするんですか」


マスター「いいね、その食いつきっぷり。理解が早くて助かるよ」

タプリス「もう諦めただけです……」

マスター「具体的には……、くっつきそうで、なかなかくっつかない」

マスター「そんな女の子同士を、そっと、僕たちがひと押しして」

マスター「めでたく結ばせる、というのが僕たちのやり方さ」

マスター「だから君には、その実行係をしてほしいんだ」


タプリス「は、話は大体わかりましたけど」

タプリス「でもそれって、別に、わたしでなくても良いんじゃ……」

マスター「え?」

17 : 以下、\... - 2017/05/08 21:18:28.420 FUaUiqcl0 8/35

 
マスター「千咲くん、一つだけ言っておく」

マスター「僕たちは男だ」

タプリス「ええ、それはわかりますけど」


マスター「百合の世界において、絶対にやってはいけないことがある」

マスター「それは……男が介入することだ」

タプリス「は、はぁ……」


マスター「女の子同士の美しい世界、そこに踏み込む男は……」

マスター「たとえ誰であろうと、絶対に許さない!」

マスター「ということで、この中で唯一」

マスター「そんな世界を通り過ぎても問題ない君に」

マスター「実行係をお願いしたいんだよ」

タプリス「うっ、もう仲間に入れられてる……」


マスター「何、そんな難しいことじゃない」

マスター「僕たちの言うとおりに動いていれば良いだけさ」


マスター「それと、そういう事情だから、僕たちのことは他言無用で頼むよ」

タプリス「はぁ……わかりましたよ、もう……」

18 : 以下、\... - 2017/05/08 21:21:13.984 FUaUiqcl0 9/35

 
マスター「それじゃあ早速、ターゲットの女の子を決めていこうか」

タプリス「……ッ」

マスター「大丈夫、助手の君は基本的に対象外さ」

タプリス「ほっ……」

マスター「てっとり早いのは……このお店は、アルバイトの子とかいないのかい?」

タプリス「えっ、えっと……いたかなー?」

マスター「天真=ガヴリール=ホワイト君」

タプリス「なっ、どうしてそれを!?」

マスター「そんなの書類を見れば、すぐにわかるさ」

マスター「それに、君とも知り合いのようだね」

タプリス「……が、学校の先輩です」


マスター「先輩、ね。この子はフリーかい? 付き合ってる女の子はいるの?」

タプリス「ナチュラルに相手を女の子にするの、やめてください……」

マスター「え? どういうこと?」

タプリス「はぁ、聞いたわたしがバカでした」

タプリス「……そういう人は、いないはず、ですよ」

マスター「なるほどね。じゃあ、この子にしよう」

19 : 以下、\... - 2017/05/08 21:23:43.170 FUaUiqcl0 10/35

 
タプリス「えぇっ、本気ですか?」

マスター「本気も本気、大マジさ。それとも、何か気になることでも?」

タプリス「い、いえ。そういうの興味なさそうな方なので……」

マスター「そうか、じゃあ余計にやりがいがあるな」

マスター「よし、ターゲットは決定」

マスター「それじゃあ、各自情報収集に励むように」

マスター「助手の君にはまた、必要になったら連絡するから」

タプリス「は、はい……わかりました」

マスター「色恋沙汰に疎い女の子を百合色に染め上げる……」

「なんだかとてもワクワクしてきたよ」

タプリス「あははは……、はぁ……」



-数日後 エンジェル珈琲-


マスター(ここで数日過ごしてみて……)

マスター(ある程度、天真くんの人となりを理解できた)

マスター(確かに助手の千咲くんの言うとおり、手強い相手のようだが)

マスター(必ず、突破口はある)


マスター(そう、お相手の第一候補である、あの子がもうすぐ……)

20 : 以下、\... - 2017/05/08 21:25:59.904 FUaUiqcl0 11/35

 
 からんからん


ヴィーネ「お久しぶりです、マスターさん」

マスター「やあ、いらっしゃい、月乃瀬くん」

ヴィーネ「えっと、いつものコーヒーでお願いします」

マスター「了解したよ」


ヴィーネ「……はぁ」

マスター「お待たせしました、どうぞ」

ヴィーネ「あ、ありがとうございます」

マスター「……月乃瀬くん、何かあったのかい?」

ヴィーネ「えっ……ど、どうしてです?」

マスター「ため息もついて、何やら考え事をしているようだから」

ヴィーネ「あはは、すみません。変なところを見られてしまいましたね」

マスター「そんなことない、人間誰だって、そういうことはあるものさ」

ヴィーネ「そ、そうですかね」

マスター「僕で良かったら、お話聞こうか? 役に立てるかはわからないけど」

ヴィーネ「でも、ご迷惑になりますから」

マスター「そんなことないよ。誰かに話すことで、少しでも気が楽になるかもしれない」

マスター「特に僕のような、第三者にはね」

ヴィーネ「……では、少しだけよろしかったですか?」

マスター「ああ、構わないよ」

21 : 以下、\... - 2017/05/08 21:28:33.979 FUaUiqcl0 12/35

 
マスター「そうか、お友達との関係について、悩んでいると」

ヴィーネ「はい。その子の為にはならないとわかっているんですけど」

ヴィーネ「どうしても気になってしまうといいますか」

ヴィーネ「放っておけないといいますか」

ヴィーネ「余計なお節介ばかり、焼いてしまうんです」

ヴィーネ「やっぱり私が我慢して、きっぱりやめたほうが良いのかなって」

マスター「それはどうだろう」

ヴィーネ「えっ」


マスター「それはつまり、君は自分を押し殺して過ごす、ということになるよね」

ヴィーネ「そ、そうなんでしょうか」

マスター「そうだよ。そんなの、その子のこと以前に……」

マスター「君のためにならない」

ヴィーネ「……ッ」

マスター「ということで逆に、全力でお節介を焼いてみたらどうかな」

ヴィーネ「全力で……ですか?」

マスター「ああ、自分をさらけ出して、我慢せずに、お節介を焼きまくる」

マスター「そうすることで、君の鬱憤が解消されて」

マスター「次第に君自身の行動も落ち着いてくると思うんだ」

ヴィーネ「なるほど……」

22 : 以下、\... - 2017/05/08 21:30:59.708 FUaUiqcl0 13/35

 
ヴィーネ「今日は、私のお話を聞いてくださって、ありがとうございました」

ヴィーネ「なんだかとても、晴れやかな気分です」

ヴィーネ「これからは私のやりたいように、やってみようと思います」

マスター「そうか、少しでも役に立てたならよかったよ」ニコッ

ヴィーネ「はい、それではっ」

 からんからん


マスター「ふぅ……こんなものかな」

「さすがだねマスター、その話術は未だに衰えていないみたいだ」

マスター「そんなことないよ、僕だって必死さ」

マスター「あとは……っと」


 からんからん

タプリス「あの……来ましたけど」

マスター「ああ、時間ぴったりだね、素晴らしい」

タプリス「そ、それでわたしに、何の用ですか?」

マスター「喜びたまえ。助手の君に、初仕事だ」

23 : 以下、\... - 2017/05/08 21:33:31.128 FUaUiqcl0 14/35

 
タプリス「これを、天真先輩のノートパソコンにですか?」

マスター「ああ、そのUSBメモリの中には、あるプログラムが入ってるんだ」

タプリス「プログラム?」

マスター「そう、月乃瀬くんの顔の画像をだね」

マスター「パソコン上の画面に一瞬だけ表示させるのを、繰り返すプログラムさ」

タプリス「そんなの、すぐに天真先輩にバレるんじゃ……」

マスター「もちろん、人が認識できないくらいの、短時間だけ表示させるんだ」

マスター「そうすることで、見ている人に気づかれることなく」

マスター「その人の潜在意識下に、その画像を植え付けることができる」

「サブリミナル効果とも言われているね」

タプリス「ということは、天真先輩は、月乃瀬先輩を……」

マスター「ああ、次第に顔を見ただけで、意識してしまうようになるだろうね」


タプリス「そ、それって、いわゆる洗脳っていうんじゃ……」

マスター「洗脳だなんて人聞きの悪い」

マスター「それに、ある程度の好意をもっていなければ」

マスター「拒否反応を起こすはずだからね。その実験も兼ねて、さ」

マスター「まぁ、とにかく頼むよ。メモリは十秒くらい差し込むだけでいいから」

マスター「彼女がトイレにでも行った時に、ね」

タプリス「わかりました……」

24 : 以下、\... - 2017/05/08 21:35:59.454 FUaUiqcl0 15/35

 
-二週間後 エンジェル珈琲-


マスター「……時は満ちた」

「ついに、Xデーがやってきたね」

タプリス「えっ、何のことですか?」

マスター「とある信頼できる情報筋によると、だね」

マスター「今晩、天真くんは月乃瀬くんの家に、お泊り、するらしい」

タプリス「なっ、どこでそんな情報を……」

「それは言えないよ」ニヤッ


タプリス「……それで、何をどうするおつもりですか」

マスター「何を言ってるんだ、助手。女の子二人が、お泊りだよ?」

マスター「大人の階段を上らせる、に決まってるじゃないか」

タプリス「なっ、ななななっ!?」カァァ

マスター「この二週間で、天真くんの頭の中は、月乃瀬くんでいっぱいになっているだろう」

マスター「そこに、お節介増し増しの月乃瀬くんを投入し」

マスター「プラスアルファのエッセンスを加えれば……」

マスター「赤子の手をひねるよりも簡単さ」


「プラスアルファが不安で仕方ないよ、マスター」

25 : 以下、\... - 2017/05/08 21:39:11.648 FUaUiqcl0 16/35

 
マスター「君たちは先に、現場へ向かってくれ」

タプリス「現場って、どこですか?」

マスター「月乃瀬くんの部屋の、真下の部屋さ」

マスター「どうやらこの男、そのアパートのオーナーみたいでね」

マスター「鍵はなんなく入手できたよ。あと部屋も改造しておいた」

「マスターは、どうするんだい?」

マスター「僕はもうひと仕事してから、現場へ向かうよ」

マスター「月乃瀬くんに見つからないように、こっそりと中に入ってね」

「わかったよ、マスター」

タプリス「はぁ、本当にいいのかなぁ」



-スーパーマーケット-


ヴィーネ(今晩は、ガヴの好きなハンバーグにしようかしら)

ヴィーネ(ふふっ、とびきりおいしいの作ってあげなきゃ)


店員「ただいまー、ひき肉の大セールを実施中です!」

店員「なんと、お値段通常の半額! 半額でご奉仕中でございまーす!!」

ヴィーネ(す、すごい、半額ですって……!)


店員「そこのお嬢さん、ひき肉、買っていかないかい!」

ヴィーネ「あ、いただきます」

店員「お買上げ、どうもー!」ペコッ


店員「……」ニヤッ

26 : 以下、\... - 2017/05/08 21:41:07.581 FUaUiqcl0 17/35

 
-ヴィーネの家の真下の部屋-


 ガチャ

マスター「ふぅ、ひと仕事おわりっと」

「お疲れ、マスター」

タプリス「あ、あの……」

マスター「どうしたんだい、助手。そんなに怯えて」

タプリス「この部屋の、この機材、いったい何に使うんですか?」

マスター「ああ、これかい。いろいろさ」

「いろいろだね」


 ザッ ザザァ

マスター「これでチューニング完了っと」


 『ああ、ヴィーネお帰り』

 『あんたねぇ、人の部屋でくつろぎすぎでしょ、別にいいけど』


タプリス「なっ!? この声は……」

マスター「ああ、上の部屋の声」

「さすが外道だね、マスター」

タプリス「これ盗聴じゃないですか! 犯罪ですよ!」

マスター「助手よ、これは二人の将来のためだ」

マスター「いずれ二人もわかってくる日が来るさ、きっと」

タプリス「いやいやいや……」

27 : 以下、\... - 2017/05/08 21:44:10.539 FUaUiqcl0 18/35

 
ヴィーネ『ほらガヴ、ハンバーグできたわよー』

ガヴリール『ああ、わかったー』


ヴィーネ『いただきます』

ガヴリール『いただきます』

ガヴリール『……あ、うまい』

ヴィーネ『本当? よかったぁ、今日たまたまスーパーで』

ヴィーネ『安くていいお肉が手に入ってね』

ガヴリール『そ、そうなんだ』

ヴィーネ『まだまだおかわりあるから、たくさん食べてね』

ガヴリール『あ、ああ』


――

タプリス「うぅ、罪悪感が……」

マスター「大丈夫、じきに慣れるさ」

「それよりマスター。さっきの、ひと仕事って?」

マスター「ああ、実はこの二人が食べてるハンバーグのひき肉に」

マスター「徐々に体が火照ってくる漢方を仕込んだのさ」

タプリス「も、盛ったんですか!?」

「わけがわからないよ」

28 : 以下、\... - 2017/05/08 21:46:12.703 FUaUiqcl0 19/35

 
ヴィーネ『ごちそうさまでした』

ガヴリール『ごちそうさん、だけど。なんというか……』

ヴィーネ『どうしたの?』

ガヴリール『今まで食べた中で……、一番うまかった』

ヴィーネ『ほんと? よかったぁ』ニコッ

ガヴリール『……ッ』カァァ

ヴィーネ『ガヴ? どうしたの?』

ガヴリール『い、いや、なんでもない。なんでもないからっ』

ヴィーネ『そう? じゃあ、私、後片付けしちゃうね』

ガヴリール『お、おう』


――

マスター「月乃瀬くんの笑顔に、デレッデレの天真くんきた!」

「おかしいなぁ、ボクたち声しか聞こえてないはずだよね」

タプリス「すごい想像力ですね……」


マスター「思っていた以上に、天真くんの中の月乃瀬くん祭りは」

マスター「盛り上がっていたみたいだね」

マスター「というわけで、どんどんいこう、次はこれだ……」

「二人を休ませる気がないね、マスター」

29 : 以下、\... - 2017/05/08 21:48:39.257 FUaUiqcl0 20/35

 
ヴィーネ『そうだ、前に録画していた映画があるの』

ヴィーネ『これから一緒に見ない?』

ガヴリール『映画か……』

ヴィーネ『だめ?』

ガヴリール『いや、別にいいぞ……』

ヴィーネ『ふふっ、ありがとうね、ガヴ』


 ぎゅぅ

ヴィーネ『うぅぅぅっ……』

ガヴリール『ヴィーネ、ちょ、くっつきすぎっ』カァァ

ヴィーネ『だって……だってぇ……』

ガヴリール『お前が見ようって言ったのに、なんで怖そうな映画選んだんだよ』

ヴィーネ『恋愛映画だと思って録画したのに……』

ガヴリール『間違えすぎだろ……』


――

タプリス「これもあなたの仕業ですか……」

マスター「ああ、ホラーが苦手な月乃瀬くんのために」

マスター「恋愛映画とデータを入れ替えておいた」

「鬼畜だね、マスター」


マスター「さて、こんな状況で……これを押すとどうなるか?」

タプリス「それは……なんのボタンなんです?」

マスター「それ、ポチッとな」

30 : 以下、\... - 2017/05/08 21:50:56.745 FUaUiqcl0 21/35

 
 パッ


ガヴリール『えっ、停電!?』

ヴィーネ『いやっ、いやぁぁぁぁっ!!』

 ぎゅぅぅ

ガヴリール『ちょ、ヴィーネ!? それやばい、やばいからっ!』

ヴィーネ『怖い怖い怖いぃぃぃっ!!』

 ぎゅぅぅぅ

ガヴリール『はぁ……はぁっ……』

ヴィーネ『助けて助けて助けてぇっ!!』

ガヴリール『ヴィーネ……ダメだ……ダメだから……』

ヴィーネ『いやぁぁぁぁっ!!』


――

マスター「暗闇は二人の距離を近くする」

「さすがだね、マスター」

タプリス「これはでも、やりすぎでは……」

マスター「完全に月乃瀬くんには聞こえていないみたいだけど」

マスター「天真くんはもう、心臓バクバク」

マスター「そろそろ限界かもしれないね……」

「大人の階段上っちゃうかい?」

マスター「いや、まだだ。次のフェーズにシフトしよう」

31 : 以下、\... - 2017/05/08 21:53:06.462 FUaUiqcl0 22/35

 
ガヴリール『ほら、ブレーカー見てくるから、離して』

ヴィーネ『……』フルフル

ガヴリール『わかったよ、じゃあ一緒に行こうな?』

ヴィーネ『……』コクッ


ガヴリール『ブレーカーは……あったっと』

 ポチッ パッ

ガヴリール『ほら、電気ついたぞ』

ヴィーネ『ご、ごめんね、ガヴ。恥ずかしいところ見せちゃって』

ガヴリール『別にいいよ。気にしてない』

ヴィーネ『あ、ありがとう』

ガヴリール『……でも、ちょっと危なかった』

ヴィーネ『えっ、なにが?』

ガヴリール『い、いや、なんでもない……』


――

マスター「お互いの弱いところを知り合って、それを補い合い、助け合う」

マスター「そして最後には、相互依存になる」

「素晴らしい筋書きだね、マスター。作為的だけど」

タプリス「言ってることはまともなんですけどね……」


マスター「そろそろ汗もかいただろうし、あれかな」

「次は何を仕込んだんだい」

マスター「それは聞いてみてのお楽しみさ」

34 : 以下、\... - 2017/05/08 21:57:03.797 FUaUiqcl0 23/35

 
ガヴリール『なんか妙に体が熱くて、汗かいたし』

ガヴリール『ヴィーネ、シャワー借りてもいいか?』

ヴィーネ『あ、お風呂は沸かしてるけど……』

ガヴリール『ん、どうした?』

ヴィーネ『ガヴ、これから先に入っちゃうってことよね』

ガヴリール『ああ、そうだけど』

ヴィーネ『ということは、私はその後で入らなきゃいけないってことよね……』

ガヴリール『そうなるな』

ヴィーネ『うぅ……』

ガヴリール『おいおい、まさか……』

ヴィーネ『怖くて、一人で……ぐすっ……入れない』

ガヴリール『子供かっ!』

ヴィーネ『ガヴぅ……、一緒に入りましょう?』

ガヴリール『い、今はだな……その……』

ヴィーネ『ぐすっ……だめ?』

ガヴリール『ああもう! 入ればいいんだろ入れば!!』


――

タプリス「まさかここまで見越して……」

マスター「戦況は常に一手二手、先を見据えるものさ」

「軍師だね、マスター」

35 : 以下、\... - 2017/05/08 22:00:14.525 FUaUiqcl0 24/35

 
 ちゃぷちゃぷ


ヴィーネ『ふふっ、お礼に体、洗ってあげるわね』

ガヴリール『い、いいよっ! そのくらい自分でやるからっ!』

ヴィーネ『私に、洗えーって言ってたこともあるじゃない』

ヴィーネ『遠慮しなくていいのよ』

ガヴリール『遠慮なんてしてない!』


 プシュプシュ

ヴィーネ『あれ、ボディソープ、こんな感触だったかしら』

ヴィーネ『なんだかすごく、ヌルヌルする』

ガヴリール『ん、どうした』

ヴィーネ『ううん、何でもない。きっと気のせいよね』

ヴィーネ『ほら、腕上げて』

ガヴリール『……』スッ


――

タプリス「お風呂場なのに、普通に音声が聞こえるんですが」

マスター「任せて、抜かりはないよ」

「防水だね、マスター」


「それにしても、ボディソープにも何か仕込んだのかい」

マスター「さすがだね、そこに気づくとは」

タプリス「もう盛ることに、あまり驚かなくなってきました……」

36 : 以下、\... - 2017/05/08 22:02:37.270 FUaUiqcl0 25/35

 
ガヴリール『おい、これなんか……ヌルヌルすぎないか?』

ヴィーネ『やっぱりそう思う? でも、肌に良さそうじゃない』

ガヴリール『そ、そうか? というか、椅子がどんどん滑って……』

ヴィーネ『だ、大丈夫? 少し体を押さえてあげ……って、きゃっ!』

 ズルッ

ガヴリール『どうした、ヴィーネって、うわっ!』

 ズルッ ドッテーン


ヴィーネ『あいたたたっ』

ガヴリール『ヴィ、ヴィーネ苦しい!』

ヴィーネ『あ、ごめんなさいっ! 今どくから!』

 ヌルッ

ヴィーネ『あ、あれ』

 スルッ ヌルヌルッ

ヴィーネ『す、滑って動けない……』

ガヴリール『マ、マジかよ……』



――

マスター「月乃瀬くんが上か……上だな」

タプリス「な、何言ってるんですか!? 今お二人とも、裸なんですよ!」

タプリス「裸で抱き合ってるんですよっ! たぶんっ!」

マスター「助手もだいぶ、想像力豊かになってきたな」

「不慮の事故だからね、そういう面もあるよ」

タプリス「ああもう……、どうなっても知らないですからねっ」

37 : 以下、\... - 2017/05/08 22:04:26.352 FUaUiqcl0 26/35

 
ガヴリール『はぁ……はぁっ……』

ヴィーネ『ガヴ? 大丈夫? 苦しいの?』

ガヴリール『大丈夫、大丈夫だから』

ヴィーネ『なんとかして動いて、どけないと……』

ガヴリール『や、やめて……』

ヴィーネ『ガ、ガヴ?』

ガヴリール『はぁ……動かないで……動いたら……、もっと……』

ヴィーネ『あっ……』カァァ

ガヴリール『ヴィーネッ』

ヴィーネ『な、なに?』

ガヴリール『……だ、抱き締めて、いい?』

ヴィーネ『な、何言って……』

ガヴリール『ダメかな……ダメだったら……我慢する』

ヴィーネ『ガ、ガヴがしたいのなら……別にいいけど』

ガヴリール『……ありがと』

 ぎゅぅ

ヴィーネ『……ッ』


――

タプリス「きゃー! 先輩たちきゃー!!」

 バンッ バンッ

マスター「い、痛い! 痛いって助手!」

「あれだけ躊躇ってた助手が一番、大興奮だね、マスター」

38 : 以下、\... - 2017/05/08 22:06:30.360 FUaUiqcl0 27/35

 
 ちゃぽん


ガヴリール『……』

ヴィーネ『……』

ガヴリール『……さっきは、ごめん』

ヴィーネ『どうして謝るの?』

ガヴリール『だって……いきなり抱きついて、しかも裸で』

ヴィーネ『それを言ったら、私だって映画を見てから』

ヴィーネ『抱きつきっぱなしだったじゃない』

ガヴリール『それとは理由が違うというか……』

ヴィーネ『理由ってどんな?』

ガヴリール『それは……』

ヴィーネ『ねえ、ガヴ教えて? ガヴはどうして……』

ヴィーネ『どうして……私のこと、抱きしめようと思ったの?』


ガヴリール『……いやらしいと思うかもしれないけど』

ガヴリール『お前の素肌の熱を感じて、気持ちが溢れてとまらなかったというか』

ガヴリール『もっと触れ合いたい、熱を感じたいって……そう、思ってしまった』

ヴィーネ『そ、そう……なんだ』

ガヴリール『……軽蔑したか』

ヴィーネ『ううん、そんなことない。むしろ……なんだろう、この気持ち』

ヴィーネ『私……嬉しかった、のかもしれない』

ガヴリール『えっ?』

39 : 以下、\... - 2017/05/08 22:09:02.410 FUaUiqcl0 28/35

 
ヴィーネ『なんて、ね。さ、そろそろ上がりましょうか』

ヴィーネ『これ以上は、のぼせちゃうから』

ガヴリール『ヴィーネ……ま、待って。い、今のって……』

ヴィーネ『ガヴ……のぼせ、ちゃうから……ね?』

ガヴリール『……あ、ああ、わかった』


――

タプリス「あぁ、きゅんきゅん! きゅんきゅんしますぅ!!」

 ダンッ ダンッ ダンッ

マスター「ようやく助手も、百合少女の良さがわかってきたようだね」

「二人の仲も、あと一息だしね」

タプリス「それで、マスター! 次の一手は何ですか!?」

マスター「ああ、次かい? もうないよ」

タプリス「えっ、そ、そんな……」

マスター「ここまで高まりあった二人に、余計な小細工なんて、もう不要さ」

マスター「あとは流れるままに、自然に、行く末を見守ろうじゃないか」

「この緩急が、百合を育むために必要なんだよね」

タプリス「べ、勉強になります……」

40 : 以下、\... - 2017/05/08 22:11:50.453 FUaUiqcl0 29/35

 
ヴィーネ『ガヴ、どうする? 少し早いけど……もう寝ちゃう?』

ガヴリール『そ、そうだな。そうするか』

ヴィーネ『ちょっと待っててね、準備するから』

ガヴリール『お、おう』


ガヴリール『あれ、ヴィーネ。いつもの来客用の布団は?』

ヴィーネ『えっと……』カァァ

ガヴリール『ま、まさか……』

ヴィーネ『だめ、かな?』

ガヴリール『そ、そんなの今まで一度もなかっただろ』

ヴィーネ『まだその……こ、怖くて……』

ガヴリール『そ、そうか。それなら……仕方ないか』

ヴィーネ『ご、ごめんね』

ガヴリール『い、いや、謝ることなんてない。へーき』


ヴィーネ『じゃあ、電気消すね?』

ガヴリール『お、おう』



――

マスター「大人の階段のーぼるー♪」

「君はまだー♪」

タプリス「シ、シンデレラさー」

41 : 以下、\... - 2017/05/08 22:13:41.537 FUaUiqcl0 30/35

 
 ぎゅぅ


ヴィーネ『……』

ガヴリール『まだ、怖いか?』

ヴィーネ『……う、うん』

ガヴリール『そうか、わかった』

ヴィーネ『でも……私のこと気遣って、このまま夜が明けてしまう方が』

ヴィーネ『もっと怖いから』

ガヴリール『ヴィーネ?』

ヴィーネ『ガヴは私に、もっと触れたいって言ってくれたよね』

ガヴリール『あ、ああ』

ヴィーネ『私……ガヴになら……ガヴにだったら』

ヴィーネ『触れて、欲しいから』

ガヴリール『それは、その……そう思っていいんだな?』

ヴィーネ『うん……ガヴも、だよね?』

ガヴリール『そうだな、そうだと思う……いや、そうだ』

ガヴリール『私は……私はヴィーネのことが――』

 ぎゅぅぅ

ヴィーネ『……えへへ、私も』


ガヴリール『ヴィーネ……』

ヴィーネ『ガヴ……』

42 : 以下、\... - 2017/05/08 22:15:18.179 FUaUiqcl0 31/35

 
 ポチッ ブツンッ


マスター「あぁっ、な、何するんだ、助手! これからが、いいところなのに!」

タプリス「もう、これで大成功で良いじゃないですか」

タプリス「これ以上は……野暮ってものですよ」

タプリス「あとはお二人の、お二人だけの世界にお任せしましょう」

マスター「……そうか、まぁ、そうだな……、一理ある」

マスター「あとは各々で、妄想をふくらませる訓練だ」ポロポロ

「泣くほど悔しかったんだね、マスター」



-ヴィーネの家 前-


マスター「ふっ、また新たな百合カップルを成立させてしまった」

「今回は楽勝だったね、マスター」

マスター「ああ、バレることがなかったからね」

タプリス「あなたたち……こんなことずっと続けているんですね」

マスター「もちろん。百合少女あるところに、我あり」

マスター「決して表舞台に立つことはないけどね」

「やってることは、ド最低だけど格好良いよ、マスター」

44 : 以下、\... - 2017/05/08 22:17:29.509 FUaUiqcl0 32/35

 
 ゴロゴロゴロッ


マスター「ん? 雲行きが……」


 ピカッ ズドンッ

「きゅぷぷぷぷぷぷぷっ!!」


マスター「きゅ、じゃなかった、犬ーーーーー!!!」


「」

タプリス「犬さん! 犬さん! しっかりしてください!」


 ムクッ

「……わん、わんわんっ」


タプリス「よ、よかったぁ、無事だったんですね」

タプリス「でも、急にどうしたんですか、犬さん。犬の真似なんかして……」

マスター「いや、助手。これは……」

タプリス「えっ」

マスター「あいつはもう……消えて、しまったんだ」

45 : 以下、\... - 2017/05/08 22:19:56.927 FUaUiqcl0 33/35

 
タプリス「そ、そんな……」

マスター「そうか、ようやくわかった。僕たちがここに来た理由」

マスター「それは……この子たちを結ばせるためだったんだ」


 ゴロゴロゴロッ


タプリス「じゃあ……マ、マスターさんも?」

マスター「ああ、そういうことだろう」

タプリス「嫌です! わたし……まだまだ、あなたから教わりたいことが山ほど!」

マスター「いや、助手に教えられることは、もう何もない」

マスター「既に君は、僕と同じ……百合少女を愛する人間だ!」


タプリス「そんな、師匠! いかないで!」

マスター「ははっ、そうやって呼ばれるのは本当に久しぶりだ」


マスター「よく聞くんだ!」

マスター「この世界にも、悩める百合少女が、たくさんいる!」

マスター「だから君が、そんな子たちの導き手となってくれ!!」

マスター「頼んだぞ、我が助手よ!!」


 ピカッ ズドンッ

マスター「あばばばばばばばばっ!!」


タプリス「ししょぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」

46 : 以下、\... - 2017/05/08 22:22:04.161 FUaUiqcl0 34/35

 
-数日後 エンジェル珈琲-


タプリス(こうして一連の騒動は……)

タプリス(あの二人……いえ、一人と一匹が)

タプリス(再び雷に打たれるという奇跡によって、幕を下ろしました)


マスター「て、天真くん」

マスター「お客さんとあまりそういうことするのは……」


タプリス(マスターさんも、すっかり元通りとなり)

タプリス(天真先輩に、頭が上がらない日々が続いています)

タプリス(そして、この二人は……)


ヴィーネ「はい、ガヴ。あーん」

ガヴリール「あーむ。うん、うまいな!」

ヴィーネ「そう? よかったぁ」

ガヴリール「きっと、ヴィーネが食べさせてくれたからだな」

ヴィーネ「えへへ、ガヴったら。私にも食べさせて?」


タプリス(すっかり、バカップルが板についてしまいました)

47 : 以下、\... - 2017/05/08 22:24:38.171 FUaUiqcl0 35/35

 
タプリス(あの正体不明の一人と一匹が残した功績は……)

タプリス(あまりにも大きいものだったのです)


 からんからん

サターニャ「遊びに来たわよー、ってあんたたち……」

ラフィエル「あらあら、相変わらず仲がよろしいみたいで」



タプリス(師匠だったら……)

タプリス(今来た、このお二人を見て、なんと言うんですかね)


 『目の前に女の子が二人いれば、それはもう、百合なのさ!』


タプリス「ふふっ」


タプリス(なんですかそれ……)

タプリス(でも、そうですね、わたし一人でも……)

タプリス(やってみましょうか!)



タプリス「わたしの戦いは、まだ始まったばかりなんですからっ!」



おしまい

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