暗い夜道――
男「あーあ、予備校で自習してたらすっかり遅くなっちゃった」
男「こんな夜道は……幽霊かなんか出てきそうで怖いなぁ……」
お冷や娘「あのー……」ボァァ…
男「うわぁぁぁっ! マジで出たぁぁぁっ!」
男「お願いします! 俺、受験を控えてるんです! だから助けて……!」
お冷や娘「お冷やいかがですか?」
男「へ?」
元スレ
お冷や娘「お冷やのお代わりいかがですか?」男「ありがとう!」
http://viper.2ch.sc/test/read.cgi/news4vip/1488535755/
男「え、と……じゃあいただきます」
お冷や娘「どうぞ」
男「……」ゴクゴク
男「うまい! こんなおいしい水は初めてだ!」
お冷や娘「本当ですか? ありがとうございます!」
お冷や娘「よろしければ、お冷やのお代わりいかがですか?」
男「ありがとう!」
お冷や娘「お冷やのお代わりいかがですか?」
男「いや……もういいよ。五杯も飲んだし」
男「ところで、君は何者なの?」
お冷や娘「私は“お冷や娘”という妖怪なんです」
男「へぇ~、妖怪なんだ。見かけは普通の女の子なのに……」
お冷や娘「あ、あの……」
男「なに?」
お冷や娘「私、今までも色んな人にお冷やをおすすめしたんですけど、飲んでもらえなくて……」
お冷や娘「あなたみたいな人、初めてで……」
男「……」
お冷や娘「これからもあなたのためにお冷やを入れてもよろしいですか?」
男「もちろんいいとも! こんなおいしい水なら大歓迎だよ!」
お冷や娘「ありがとうございます!」
―自宅―
男(○○大学目指して、勉強、勉強っと……)カリカリカリカリ…
男「ノドが渇いたなぁ……」
お冷や娘「お冷やのお代わりいかがですか?」
男「おっ、ありがとう! 喜んでいただくよ!」
男「……」ゴクゴク
男「よーっし、勉強再開だ!」
男(この子の入れてくれた水を飲むと、頭がスカッと冴えるんだよな~)
―予備校―
男「やったー! 模試の成績がグンとアップした!」
お冷や娘「おめでとうございます!」
男「これも君のお冷やのおかげかもしれないな」
お冷や娘「でしたら……お冷やのお代わりいかがですか?」
男「もちろんいただくよ!」
男「……」ゴクゴク
男「よーっし、受験本番まで残りわずか! 水を飲んでラストスパートだ!」
試験当日――
―受験会場―
男「ううう~……緊張してきた……」
男(まずいな……こんなんじゃ実力の半分も出せるかどうか……)
男(あの子のお冷やが飲みたい……)
お冷や娘「お冷やのお代わりいかがですか?」
男「さすが妖怪! こんなところまでついてくるなんて!」
男「いただきます!」ゴクゴク
――
男「303番、303番……あった! あったぞ!」
男「やったーっ! 志望校に合格した!」
お冷や娘「やりましたね!」
男「うん……長年の苦労が報われたよ!」
お冷や娘「お冷やのお代わりいかがですか?」
男「いただきます!」ゴクゴク
男「ぷはーっ、うまい! よーし大学生活をエンジョイしてやるぜ!」
―大学―
学生A「おーい!」
男「ん?」
学生A「今日、飲み行こうぜ!」
男「え、でも、こないだ飲み会やったばかりじゃん」
学生B「可愛い女の子もいっぱいくんのよ~」
男「マジ? なら行く行く!」
男(大学入ってからは、酒飲んでばかりでお冷やあまり飲まなくなったな……)
―居酒屋―
カンパーイッ!!!
学生A「ウェーイ!」
学生B「ウェ~~~イ!」
女子大生「キャハハ、やだぁ~!」
男「ウェイウェイウェ~イ!」グビグビッ
男(楽しいぃ~! 毎日、飲んで酔っ払ってドンチャン騒ぎ! 大学生ってのはこうでなくちゃ!)
お冷や娘「あの……」
男「うわ、ビックリした! いきなり出てくんなよ!」
お冷や娘「お冷やのお代わりいかがですか?」
男「お冷やぁ~?」
男「いやいらないよ……。酒飲んでるし、いい感じに酔ってるし」
お冷や娘「そう……ですか」
男(こんなにノリにノッてるのに、水なんか飲んだら文字通り水差されちまうよ)
学生A「あれ? 今、そこに女の子がいなかったか?」
学生B「ああオレもたしかに見えた」
男「!」
男「え、あ……気のせいだろ? さ、つまらんことは気にせず、ガンガン飲もうぜ!」
男「イッキイッキ!」
男「ウェイウェイウェ~~~~~~~~~イ!!!」
ウェーイッ!!!
男(あー……すっかり酔っ払っちまったな……いい気分だ……)ヒック…
男(これで、女の子と知り合えれば最高なんだけど……)
女子大生「ねえねえ」
男「……ん?」
女子大生「あたし、なんだか酔っちゃったかな~なんて……」ヨロッ…
男(おいおいマジかよ! お持ち帰りチャ~ンス!)
男「じゃさじゃさ、俺この近くでアパート借りてるから、そこ行こうよ!」
女子大生「いいけど、変なことしないでよ?」
男「しないしない!(するする!)」
―アパート―
男「ささ、どうぞどうぞ! 上がって上がって!」
女子大生「へ~、結構キレイにしてるんだね」
男「もちろん!」
男「ほら、布団もバッチリ……」
女子大生「ほぉら~、やっぱり下心あるんじゃない~」
男「ハハ、まぁね……」
女子大生「でも、とりあえずまずは水を飲みたいなぁ~」
男「ああ、水ね、うんうん。ちょっと待っててね、すぐ持ってくるから」
男(水を飲ませたら……やったるでぇ!)
お冷や娘「お冷やのお代わりいかがですか?」
男「!?」
女子大生「!?」
男(ちょっ……なんで今出てくんだよ……!)
男「いらない! いらないから! さ、早く消えろ!」
お冷や娘「ええっ……でも……その女の人、お冷やを……」
男「いいから消えろ!」
女子大生「……」
女子大生「ちょっとぉ、今の子なんなの?」
男「あ、いや、親戚の子で……」
女子大生「そんな子が来てるなら、最初に言ってよ! あ~あ、もうすっかり冷めちゃった」
女子大生「あたし帰るね」バタンッ
男「……」
男(ふざけやがって~……!)ギリッ…
やがて――
―アパート―
男「よしっ! いよいよ就職活動だ!」
男「スーツよし、ネクタイよし、ヘアスタイルよし、バッグよし!」ビシッ
男「面接にしゅっぱーつ!」
男(絶対一流企業に入社してやるぞ……!)
―面接会場―
面接官「それではまず……志望動機をお答え下さい」
男「は、はいっ!」
男「えぇ~と、私は、私は御社の……えぇ~と……あの、その……」
男「なんと申しますか……その……隠蔽体質が素晴らしいと思いまして……」
男(まずい……うまく声が出せない……!)
面接官「落ち着いて、ゆっくり話して下さい」
男「すみません、緊張してノドが……」
お冷や娘「お冷やのお代わりいかがですか?」
男「うわっ!?」
面接官「え!?」
男「いらねえよ!」
お冷や娘「ひっ!」
男「なんでこんな大事な場面で出てくんだよ! 空気読めよなぁ~!」
お冷や娘「ご、ごめんなさい……」
面接官「あの……私はいただこうかな」
お冷や娘「はいっ!」
男「……」イライラ…
男(あ~もう落ちたよ、この面接! こいつのせいで!)
―アパート―
男「……」
お冷や娘「あの……今日はごめんなさい……」
お冷や娘「今度からは出てくるタイミングに気をつけますから……」
男「……出てけよ」
お冷や娘「え」
男「俺ももういい大人だ! もうお冷やなんていらねーんだよ!」
男「酒を飲みたいし、コーヒー飲みたいし、紅茶飲みたいし、緑茶飲みたいんだよ!」
男「バイトだってやってるし、就職するし、水が飲みたきゃ自分でミネラルウォーター買うわ!」
男「もうお前なんかいらねえんだよ!」
男「――出てけっ!!!」
お冷や娘「分かりました……出ていきます……」
お冷や娘「失礼します……」フッ…
男「……」
男(これでよかったんだ……)
男(俺だってもう社会人になるんだ……)
男(いつまでもあいつにつきまとわれたんじゃ、たまったもんじゃないからな)
―会社―
プルルル…
男「お電話ありがとうございます、××株式会社です」
男「はい……はいっ……! あ、すみません、すぐ確認します!」
男「はいっ、すみませんでした……」ガチャッ
男「あ~……毎日忙しい。水分補給するヒマもねーや」
男「おーい、お冷や!」
男(……って、あいつはもういないんだった……)
男「あのー、OLさん」
OL「なに?」
男「お茶を入れてくれたら、嬉しいなぁ~……なんて……」
OL「ハァ? 女子社員をお茶くみ係扱いするなんてサイテー!」
OL「セクハラよ、セクハラ! 訴えてやる! 社会的に抹殺してやる!」
男「ひっ、すみません! 訴えないで下さい!」
男「……はぁ」
男(なんつうか、あいつがいなくなってから、調子悪くなったような気がする……)
課長「君ィ!」
男「は、はいっ!」
課長「なにをやっとるんだ!」
課長「こんな初歩的なミスをしでかすなんて! 損害は1000万を超えるぞ!」
男「申し訳ありません! 申し訳ありません!」ペコペコ
課長「謝って済む問題じゃないだろう!」
男(あぁ~……俺としたことが、なんでこんな凡ミスを……!)
男(頭を落ち着かせるためにお冷やを飲みたい……でも、あいつはもういない……!)
そして――
男「お話しとはなんでしょう、課長」
課長「うむ、君のサハラ砂漠支社への転勤が決定した」
課長「頑張ってくれたまえ」
男「!」ガーン
男(サハラ砂漠支社勤務っていったら、左遷中の左遷だ……流刑みたいなもんだ……)
男(終わったな……俺の人生)
―サハラ支社―
男(辞めることもできず、本当に来ちゃったよ、サハラ砂漠……)
サハラ課長「この書類をオアシスにある取引先まで届けてくれたまエ!」
男「は、はい……」
男「あのー、オアシスってどうやって行けばいいんですか?」
サハラ課長「ここから西へ500kmほどダ」
男「500km!?」
男「ここには営業車も電車もありませんし……まさか……徒歩で?」
サハラ課長「ラクダがあるヨ」
男(マジかよ……)
―サハラ砂漠―
ラクダ「……」ポッコポッコ
男「ハァ、ハァ、ハァ……」
男(見渡す限りの砂、砂、砂……)
男(いったいどこまで続くんだ、この砂漠は……)
男(しかも昼はクソ暑いし、夜はクソ寒いし、空気は乾いてるし……生き地獄とはこのことだな……)
男「……」グビグビ…
男(やべえ、水もうなくなっちまった……ペース配分ミスった)
男(今日中にオアシスにたどり着かないと……死んじまう……!)
男「ハァ、ハァ、ハァ……」
男「ううっ……」ドサッ…
ラクダ「……」
男「ラクダ、助けて……」
ラクダ「お前がいない方が楽だ」ポッコポッコ
男「そんな……見捨てないで……!」
ポッコポッコ…
男「あああ……!」ガクッ
男(もう……体が、動かない……)
男(体がみるみるうちに干からびていく……)
男(俺はここで死んでミイラになるのか……)
男(ノド渇いた……水飲みたい……)
男(日本にいる時は、水がこんなに大切なものだなんて分からなかった……)
男(水が……お冷やが……飲みたいよぉ……!)
「お冷やのお代わりいかがですか?」
男「……え!?」
お冷や娘「なんていってる場合じゃありませんね」
お冷や娘「さ、飲んで下さい! ムリヤリ飲ませますよ!」グイッ
男「……」ゴクゴク
男「っぷはっ! あ、ありがとう! 生き返ったよ!」
お冷や娘「お冷やのお代わりいかがですか?」
男「もちろんいただくよ!」
ゴクゴク…
男「うまい! もう一杯!」
お冷や娘「喜んで!」
男「ありがとう……助かった……。おかげで、生きてオアシスまでたどり着けそうだ……」
お冷や娘「いえいえ」
男「でも、どうして……!? どうして戻ってきたんだ!? 俺はあんなひどいこといったのに……」
お冷や娘「ひどいことって……私があなたの邪魔をしたのは事実ですし」
お冷や娘「それに……あなたが私のお冷やを必要とすれば、どこへでも駆けつけますよ!」
お冷や娘「たとえ火の中水の中、砂漠の中!」
男「うっ……」グスッ…
男「ごめんよ!」ギュッ…
お冷や娘「あっ……」ポッ…
男「あんなひどいこといって、本当にごめん!」
男「だけど、もし許してくれるなら……まだ俺にお冷やを入れてくれるっていうなら……」
男「これからずっと……一生……俺にお冷やを入れてくれ! ――俺のために!」
お冷や娘「……!」
お冷や娘「……はいっ」
――――
――
―サハラ支社―
サハラ課長「おーい、この書類仕上げてくレ!」
男「分かりました!」
サハラ課長「いやー、このところ君の仕事ぶりはめざましいネ」
サハラ課長「この調子なら、日本の本社に帰れる日も近いだロウ」
男「いやー、俺はこのままサハラ砂漠に骨をうずめてもいいですけどね」
男「砂漠生活もすっかり気に入っちゃいましたし」
サハラ課長「ハハハ……お世辞でもそういってもらえると嬉しいヨ」
男「しっかし、今日も暑いな~、サハラ砂漠は」
男「俺も砂漠にだいぶ適応してきたけど、ノドが渇いてきちゃった」
男「ってわけで……」
お冷や娘「お冷やのお代わりいかがですか?」
男「ありがとう!」
―おわり―

