いろは「せーんぱい!おはよーございまーす!」ダキッ
八幡「っ!……おい、何してんだ」
いろは「何って、普通の挨拶ですよ?」ギュ
八幡「日本の普通の挨拶では抱き着くなんてことはしないんだが」
いろは「別にいいじゃないですかー。ここはほら、アメリカンスタイルでも」
八幡「いや、アメリカでもこんなんしねぇだろ………いいから、放せ」グイッ
いろは「えー、先輩のいけずー、ぶーぶー」
八幡(ホントあざとい……)
元スレ
いろは「先輩が付き合ってくれないなら私…」 八幡「どうする気だ」
http://viper.2ch.sc/test/read.cgi/news4vip/1399387725/
いろは「ところで先輩」
八幡「……なんだよ?」
いろは「ちょっと相談g」
八幡「断る」
いろは「……まだ話してもいないんですけどー」
八幡「少し前に面倒臭い相談受けてやったんだ。しばらくはお前一人で頑張れよ」
いろは「あー、そんなこともありましたねー。でも、もうあれから時間経ったじゃないですか。その間は一人で頑張りましたよー?」
八幡「……一週間しか経ってないだろ」
いろは「えー、一週間もですよー?」
八幡(だから袖で隠しながら上目遣いとかすんなよ……可愛く見えちゃうだろ)
八幡「あのな、お前これから一年近く生徒会長として活動すんだぞ?こんな初期から俺に頼ってばっかでどうすんだよ」
いろは「だって使えるも………先輩、凄く仕事できるじゃないですかー、私の秘書にでも欲しいくらいなんですよー」
八幡(こいつ今絶対使えるものは使う、みたいなこと言おうとしたよな?したよね?)
八幡「それなら雪ノ下にでも頼めよ。事務能力ではあいつの右に出る奴はこの学校にはいないぞ」
いろは「い、いやー、あの人はそのー、なんと言いますか……」
八幡(ああ………怖いんだな)
八幡「……とりあえず、俺は今回は手伝うつもりはないぞ。一人で頑張れ」
いろは「むぅー、なら…………………"俺は、本物が欲しい"……ぐすっぐすっうえっ」
八幡「!?」
いろは「"それでも、俺は"………"俺は、ほんモガッ!?」
八幡「お、お前!それは卑怯だろ!///」グイ
いろは「モ、モガモガッ!モガガモガモガモガモガモガッ!」パチパチ
いろは(せ、先輩!放して下さい!)タップ
八幡「っ!………放してやるから、あのことは話すなよ?」
いろは「!」コクコク
八幡「……はぁ、ほらよ」
いろは「ぷはっ!……い、いきなり何するんですか!?」
八幡「それは俺のセリフだ!お前、俺の人生でもかなりというかおそらく一番恥ずかしいものを!」
いろは「それでも!お、乙女の口元をいきなり手で塞がないでくださいよ!///」
八幡「うるせぇ!人の黒歴史を掘り返そうとするお前の自業自得だ!」
いろは「むぅー!先輩が素直に手伝いに付き合ってくれないからですよ!」
八幡「……はぁ、だから俺にばっか頼んなって……」
いろは「先輩が付き合ってくれないなら、私…」
八幡「どうする気だ」
いろは「全校集会で先輩の黒歴史を暴露してやります!」
八幡「全力で手伝わさせていただきますッ!!」
いろは「むふふー、最初からそう言えばいいんですよ、先輩♪」
八幡「そんな風に脅されたら誰だって断れないだろうが……」
いろは「まぁまぁ、私だっていつか忘れますって!………いつか、ですけど」
八幡「……」
八幡(この野郎……いつか、絶対泣かす……)
雪ノ下「……二人とも、こんな往来で何をしてるのかしら?」
由比ヶ浜「……や、やっはろー、二人とも」
八幡「雪ノ下、由比ヶ浜……」
いろは「あ、おはようございます、先輩方」
雪ノ下「ええ、おはよう、一色さん」
由比ヶ浜「おはよ、いろはちゃん!……そ、それで二人とも何してたのかな?けっこう目立ってたみたいだけど……」
八幡・いろは「え?」
雪ノ下「……周囲の視線にまったく気づいていなかったみたいね。あなたたち、凄く目立ってたわよ?」
由比ヶ浜「……一部では、新生徒会長と変な奴が痴話喧嘩してるとかなんとか……」
八幡「おい、誰が変な奴だ」
雪ノ下「あなたならそう思われるのも致し方ないわね」
八幡「おい」
八幡(……それにしても、雪ノ下もだいぶ元の調子を取り戻してきたな)
八幡(こんな風に軽口が言えるようになったんだからな)
由比ヶ浜「……そ、それで、二人は何してたのかなー、って……」
八幡「……いや、別に何も……そ、そうだよな、一色?」
いろは「……」
八幡「一色?」
いろは「ぁ………せ、先輩!では放課後、生徒会室でお待ちしていますので!お先に失礼します!///」ダッ
八幡「……何、あれ?」
雪ノ下・由比ヶ浜「……」
八幡「おい、なんだその目は」
雪ノ下・由比ヶ浜「「……別になんでも」」
八幡「一体なんだってんだ……」
雪ノ下「……おほん、それで比企谷くん?」
八幡「あん?」
由比ヶ浜「また、何か依頼されたの?」
八幡「……んや、今回はただの下働きっぽいからな。そういうのではないと思う」
雪ノ下「……本当ね?」
八幡「ああ、本当だ……それでもし、厄介そうな案件だったら、またお前らを頼るかもしれん。その時は頼む」
由比ヶ浜「!……うん!もちろん!」
雪ノ下「……まぁ、あなたの手に負えないというのなら、私が出るしかなさそうだもの」
八幡「その発言はなんかのボスっぽいぞ、雪ノ下」
雪ノ下「あら?私はあなたのボスなのだけれど?」
八幡「はいはい、そうでしたね」
由比ヶ浜「……ぷっ!あはははは!」
八幡「おい、いきなりどうした由比ヶ浜?」
雪ノ下「由比ヶ浜さん?」
由比ヶ浜「ううん!なんかそのおかしくって!あはは!」
八幡「……何がおかしいんだっての。これが普通だろ、普通」
雪ノ下「……ええ、そうね。これが"普通"よね………ふふ」
由比ヶ浜「うん!そうだね!これが私たちの普通だよね!」
八幡(この普通を取り戻すのに、随分と遠回りをしてたもんだ……)
―――放課後・生徒会室
八幡「……うぃーっす」
いろは「あ、先輩ー、お待ちしてましたよー」ダキッ
八幡「……おい」
いろは「まぁまぁ、給料の前払いみたいなものですよー」ギュ
八幡(もうホント何なんだよこいつ……こんなことされたら好きになっちゃうだろう……いやならないけどね)
八幡「わかったから、受け取ったから、もう放せって」グイ
いろは「……あのー、先輩って、実はあっち系だったりします?」
八幡「は?あっち系?」
いろは「まぁ、いわゆるホモってやつです」
八幡「いや、違うから、全然違うから、マジで」
いろは「そこまで全力で否定するあたりが怪しいですねー」
八幡「否定しないとあらぬ誤解受けんだろうが。それにお前相手だし」
いろは「え?それって私には誤解されたくないって意味ですかごめんなさいやっぱりまだ無理です」
八幡「……はぁ、まぁいい。で、仕事って何すんだ?つーか他の役員は?あの副会長とか」
いろは「あー、今日は他の役員は仕事なしで休みにしてます。なので私と先輩だけですねー」
八幡「……何故?」
いろは「いえー、今日は助っ人が来るので他の人たちは休ませてあげてもいいかなという会長なりの思いやりですよー」
八幡「……外部から助っ人呼んで他の奴ら休ませるって、お前バカなの?」
いろは「バカとは何ですかバカとは。私だってちゃんと考えてのことですよー」
八幡「ほお、どういう考えがあったんだよ?」
いろは「それが今日の仕事内容に関係するんですよー」
八幡「ふーん……で、その仕事の内容って?」
いろは「先週の合同企画の後始末みたいなものです。各方面への御礼状とか、学校への事後連絡みたいな」
八幡「……それになんで俺が必要なのか」
いろは「えー、だって私文章書くときに適切な敬語使えるか微妙なんですもん」
八幡「微妙なんですもん、じゃねーだろ。そんくらい自分で考えろ、もしくは調べろ」
いろは「えー、それだといちいち手間がかかっちゃうじゃないですかー」
八幡「そういうものは手間をかけるもんだろ。確かにめんどいとは思うけどな」
いろは「ですよね!さっすが先輩!話がわかるー」
八幡「だが残念だったな。俺も文章敬語とかあんま知らんぞ」
いろは「えー、先輩、そういうとこしっかりしてそうだと思ったのにー」
八幡「当てが外れたな………というわけで、俺は帰るぞ」
いろは「待ってくださいよー」ガシッ
八幡「なんだ。俺は戦力にはなれん。役立たずだ。むしろ邪魔になるまである」
いろは「そんなことないですよー」ギュー!
八幡(力強っ!)
八幡「だが、実際にやれることマジでないぞ?」
いろは「まぁまぁ、それでも私よりはマシだと思うので。私が書き終わったら審査して欲しいんですよー」
八幡「……つーか、そういうことなら、それこそ雪ノ下あたりに頼んだ方がいいぞ。今なら部室にいるだろうし」
いろは「……先輩、そこは察してください」
八幡「お、おう……」
八幡(雪ノ下、お前ホント恐怖の対象みたいになってんぞ)
いろは「というわけでお願いします、先輩♪」
八幡「……はぁ、わかったよ。じゃあ、俺は書き終わるまで本でも読んでるから」
いろは「わかりましたー、じゃあ、私はすぐに書いちゃいますねー」
八幡「いや、すぐというか、ちゃんと考えて書けよ?」
いろは「わかってますよー。ま、でも最後は先輩にちゃんと見てもらうのでいいかなと」
八幡「ダメだ」
いろは「ぶーぶー、先輩のいじわるー」
八幡「いいから、さっさと書き始めろよな」
いろは「はーい」
それからしばらく―――
いろは「……」カキカキ
八幡「……」ペラッ
いろは「……」カキカキ
八幡「……」ペラッ
いろは「……ねぇ、先輩」カキカキ
八幡「……なんだ」ペラッ
いろは「先輩は、今好きな人とかいないんですか?」
八幡「……何だ、薮から棒に」
いろは「いえ、ただの興味本位ですよ」
八幡「興味本位でそういうこと聞かないでくんない?リア充っぽい話題はぼっちにはNGだ」
いろは「じゃあ、真面目に聞きます」
八幡「あん?」
いろは「先輩、好きな人、いますか?」
八幡「…………はぁ、別にいねぇよ」
いろは「本当に?」
八幡「本当に」
いろは「雪ノ下先輩とか、由比ヶ浜先輩にはそういう感情持ってないんですか?」
八幡「なんでその二人が出てくるんだ?」
いろは「……先輩が、"あんなこと"を言う相手ですからね」
八幡「お前、それは忘れろって……」
いろは「……忘れられるはずがないですって」
八幡「おい」
いろは「言ったじゃないですか、私も、欲しくなったって」
八幡「……」
いろは「……それに初めてでしたから」
八幡「初めて?」
いろは「自分以外の誰かの言葉が、あそこまで心に響いたのが」
八幡「……」
いろは「自分で言うのもなんなんですけど、私、心から人の話を聞こうとか思ったことなかったんですよね」
八幡(ああ、それはなんとなく想像できる)
いろは「話を合わせたり、ちゃんと言うことを聞いてる風に見せたり、そういうことばっかやってましたから」
八幡「まぁ、わからんでもない。その場凌ぎというか、人の顔色窺って、角が立たないようにするのは誰だってやることだからな」
八幡「そもそも心の底から人の話を聞いて、それを自身に反映する奴の方が圧倒的に少ないだろ」
いろは「ですよねー」
いろは「……でも、あの時の先輩の言葉は、自然と心に染み込んだ気がしたんです」
八幡「……」
いろは「先輩が気づいてるかわかりませんけど、あの時の先輩の声というか話し方、凄かったんですよ」
八幡「……」
いろは「私は、先輩方の間に何があったのかは知りませんでしたけど」
いろは「でも、先輩が男としての体裁も、矜持も、全てを投げ打ってでも」
いろは「心の底から先輩方の、"本物″を願ったのは、嫌でも伝わりました」
いろは「終いには、今にも何かが溢れそうな雪ノ下先輩と、必死な顔をした先輩と由比ヶ浜先輩が出てきて」
いろは「私なんかほとんど目もくれずに、あとを追っちゃうんですから」
いろは「……それが、凄く、―――羨ましかった」
いろは「だから、無理して、私もマネしちゃったんですよ」
いろは「葉山先輩の気持ちとか、空気とか呼んで、頃合じゃないと思ってたのに、わかってたのに」
いろは「どうしても、我慢できなくて、欲してしまったんですよ」
いろは「まぁ、結果はあの通りだったんですけどね」
八幡「一色……」
いろは「まったくもう、先輩のせいですよ?我慢できなくなったのは。失恋で泣いたこととかなかったのに」
八幡「……そりゃ、悪かったな」
いろは「悪かったですよ!ですから、言いましたよね?」
いろは「責任、取ってもらいますからね、って」
八幡「……それで、俺は何をすりゃいいんだよ?」
いろは「とりあえずはそうですねー、うん、私が困ってたら、必ず助けに来てください」
八幡「あのな、俺はヒーローかなんかかよ」
いろは「それとー、私が呼んだら、すぐに駆けつけてください」
八幡「おい、内容がほとんど変わってないぞ。しかも、俺にもその時々で事情というものが」
いろは「あとですねー、私が傍にいて欲しいと思ったら、傍にいてください」
八幡「おい、話を……って、は?」
いろは「最後にですねー、ちょっと、今すぐ、背中を貸してください」
八幡「は?」
いろは「さぁ、立って立って!」グイッ
八幡「お、おい、一色」
いろは「じゃあ、失礼しまーす」ダキッ
八幡「お前、また……」
いろは「あと、最後の最後にですねー」ギュッ
八幡「!」
いろは「……私、が……うぅ……泣き、たく………なった、時は……ぐす………背中、貸して……ください……」ギュ
八幡(そうして、彼女は泣いた。俺の背中に縋りながら、静かに涙を流した)
八幡(葉山とまた何かあったのか、生徒会の仕事による重圧か、それともシリアスな会話による場の雰囲気というやつか)
八幡(彼女が何故、失恋してから一週間以上も経過した今日またここで泣いたのか、その理由は定かではない)
八幡(ともかく、彼女は俺の背中で泣いていた)
八幡(そんな彼女に、俺は、ただ黙って背中を貸し続けた)
しばらくして―――
いろは「いやー、先輩、お背中、ありがとうございましたー」
八幡「……おう、どういたしまして。……その、なんだ、大丈夫か?」
いろは「はい、とりあえずは大丈夫です!」
八幡「目とか凄いことなってるけど……」
いろは「それは言わないでくださいよ!///」
八幡「わ、悪かった」
いろは「まったく!ホント先輩って乙女心がわかってませんよね!………今日だって雪ノ下先輩呼べとか言うし」
八幡「あん?なんだって?」
いろは「いえー、なんでもー」
八幡「それで、お前が泣いた理由は………聞くだけ野暮、か」
いろは「おー、先輩それですよそれ。ホントはそれすら言わないのが一番ですけどー」
八幡(はぁ、女心は難しいな。というかめんどくさい……)
いろは「……まぁ、それは、強いて言うなら空気ですよ、空気。湿っぽい話しちゃいましたからねー」
八幡「さいで……」
いろは「……あとは、前に進むために必要な、新たな決意とでも言いますか」
八幡「?」
いろは「まぁ、色々ですよー」
八幡「あっそう」
いろは「まぁ、とりあえず先輩、これからもどうぞよろしくお願いしますね?」
八幡「……まぁ、できる限りで力にはなるが、甘やかすつもりもない。最悪、雪ノ下でも召喚する」
いろは「あの、さらっと怖いこと言わないでくださいよ……」
八幡(うん、こいつにはこれが一番良い薬みたいだな……)
八幡「……ほら、じゃあそろそろ仕事に戻れ。さっさと書き上げろよ」
いろは「ん?あ、いえ、実を言うと、手紙とか書類とか、もう全部終わってます」
八幡「は?……はぁあああああ!?」
いろは「いやー、今日は先輩と話すことが目的でしたので。でも先輩、何かちゃんとした理由がないと来てくれなさそうですしー」
八幡「おいふざけんな。俺の時間を返しやがれ」
いろは「私が呼んだら、すぐに駆けつけてください、って言ったじゃないですかー」
八幡「承諾した覚えはない。それにそれ話したの呼んだ後だから。しかも脅しで」
いろは「もー、先輩は細かいですねー……細かい男はモテませんよ?」
八幡「安心しろ。元からモテん」
いろは「えー、私は先輩のこと大好きなのにー」
八幡「……え?」
いろは「……あ、本気にしちゃいました?でもごめんなさいもうちょっとだけ無理です」
八幡「……アホらし。俺はもう帰るぞ」
いろは「ええ、では、今日はもうこれで大丈夫です。お先にどうぞ」
八幡「おう……よし、それじゃあな、一色」ガラッ
いろは「……あ、せーんぱい、最後に一つだけ」
八幡「……なんだ」
いろは「責任は、必ず取ってもらいますからねー?あと、これから覚悟してくださいね♪」
八幡「……はいはい。出来る限りで頑張らせてもらいますよ」ピシャ
八幡(ホント、あざとい奴………まぁ、そこがあいつの可愛いとこなのかもしれないが)
いろは「……」
いろは「……はぁー」
いろは「……"ごめんなさいまだちょっとだけ無理です″か……」
いろは「……うーん、やっぱり、"本物"を素直に求めるのは、難しいねー」
fin

