1 : ◆XkFHc6ejAk - 2017/04/10 09:23:09.84 43HseE500 1/20

ザアアァアアァアアァァ……

少年「大丈夫? 疲れない?」

少女「ううん。全然辛くないよ」

少年(この小さな町では、一日に何度も信じられない勢いの雨が降る)

少年(空に突如大きな「波紋」が広がると、雲も無いのに雨が降り出す)

少年(道を歩く人達は、当然のように傘を「作り出す」事が出来るんだ)

少年(彼らの傘は鮮やかな色をしていて、雨を防ぐ以外にも、何かの能力がある)

少年(例えば少女の傘は、「花を降らす」事が出来る)

少年(そんな傘の町の中で、唯一僕だけが傘を作れない)

少年(いつも少女の傘に入れてもらう事で雨をしのいでいる)

少年(他者が握ると消えてしまうから、それを支える事すら出来ない)バチャ

少年(ふと下を向くと、水たまりに映った自分の暗い顔と目が合う)

少年(ああ、情けないなぁ)

元スレ
少年「色とりどりの傘の町」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1491783789/

2 : ◆XkFHc6ejAk - 2017/04/10 09:26:48.30 43HseE500 2/20

「はい、それでは皆さん傘を作って」

少年(学校では、傘の能力を伸ばす授業がある)

少年(それぞれの能力に対し、先生はその伸ばし方を教えてくれる)

少年(例えば、少女は「より多くの花を降らせる」ように練習している)

「……」

少年(僕の番になると、皆は自然と静まり返る)

少年(期待、軽蔑、疑問……色んな種類の視線が僕に降り注ぐ)

少年(注目されるのは嫌いだ。いつからこんなに嫌いになったんだっけ)

少年(顔が熱くなる。心臓の裏側がぞくぞくする)

少年(僕は片手に力を込める。結果は分かりきっているけど)

少年「……無理、です……」

「あー……皆の練習姿を見て感覚を掴みなさい」

少年「……はい」

少年(何とも言えない空気が漂う。少ししてから先ほどの賑やかさが戻り始める)

少年(その喧騒の中に、僕だけが一人浮かんでいる)

少年(……息苦しい)

3 : ◆XkFHc6ejAk - 2017/04/10 18:09:15.29 43HseE500 3/20

少年(授業が終われば、皆は笑いながら遊びに行く)

少年(彼らは自分達の傘を使って遊んでいる)

少年(シャボン玉を作る傘、少しだけ宙に浮かぶ事の出来る傘、風を起こす傘……)

少年(それぞれが自分の傘で皆を楽しませる)

少年(傘を出せない僕は、当然友達なんて出来ない)

少年(いつもこうして教室の隅で、色鉛筆で絵を描いているだけだ)カリカリ

少年(ああ、早く家に帰りたいな)

少年(帰った所で、この心のどうしようもない静かな痛みは治まらないんだけど)

4 : ◆XkFHc6ejAk - 2017/04/10 18:10:30.99 43HseE500 4/20

少年(傘を出すって、どんな感覚なんだろう)

少年(何も無い所から傘を生み出すなんて、どう考えても分からない)

少年(今日もこうして、未知の力を引き出そうと頑張ってみるけれど)

少年「……駄目だよなぁ」

少年(当然、傘を作る事は出来ない訳で)

少年(ああ、どうして僕は傘が作れないんだろう)

6 : ◆XkFHc6ejAk - 2017/04/10 18:13:34.56 43HseE500 5/20

少女「気にする事ないよ。まだ傘が目覚めてないだけだって」

少年「そうかな。一日中ずっと考えているんだけど、どうしても感覚が分からない」

少女「うーん、確かに感覚は大事だよね。でも、案外急に出来るようになるかもしれないよ」

少年「そうかなぁ」

少女「うん。いつかはきっと作れるようになるよ。頑張ろう?」

少年「ありがとう。いつも迷惑かけっぱなしだね……」

少女「私がしたいからしてるだけだよ。気にする事ないよ?」

少年「……うん、ありがとう」

7 : ◆XkFHc6ejAk - 2017/04/10 18:15:26.89 43HseE500 6/20

少年(ああ、少女と居ると心がふわふわして心地良いなぁ)

少年(……でも、少女は友達が多い。僕にとっての友達は彼女だけでも、少女にとっては多数の中の一つ……)

少年(ああ、駄目だ駄目だ。一人になると暗い事しか考えられない)

少年「でも……出来損ないの僕と一緒に居ると、やっぱり周りの目もあるよな」

少年(今まで平気な顔してたけど……やっぱり噂になってるよね)

少年(少女まで嫌われたら……)

少年(それだけは嫌だ)

少年(……もう甘えるのはやめよう)

8 : ◆XkFHc6ejAk - 2017/04/10 18:17:59.95 43HseE500 7/20

少女「おはよー、少年」ニコ

少年「……」

少女「あれ、どうしたの?」

少年「ねえ、少女」

少女「?」

少年「今までありがとう。でも、やっぱり僕らは一緒に居るべきじゃないよ。他人になろう」

少女「え……?」

少年「このままじゃ少女まで嫌われる」

少年「出来損ないの僕と居たら駄目なんだ。もう気を遣わなくて、いい……から……」クル

少女「……なんで」

少年「さよなら」

少女「ねえ、待ってよ!」ガシ

少年「……」ブン

少女「……!」

少年(……ごめん)

9 : ◆XkFHc6ejAk - 2017/04/10 18:20:17.48 43HseE500 8/20

「遊びに行こうぜ!」

「今日はあっちに集まろう」

少年「……」カリカリ

少年(時間が経つのが遅い)

少年(早く休み時間が終わらないかな)

少年(そんな事を考えながら、僕は色鉛筆を走らせる)

少年(夢で見た世界を、不確かな記憶を辿って再現していく)

少年(頭に浮かんだ世界では、灰色の町の道路を泳ぐ魚の姿が写っている)

少年(気分とは裏腹に、驚くほど筆が進む。無機質にさらさらと音を立てて)

少年(そうしているうちに、あっと言う間に完成してしまった)

少年(けれど、もうその感想を言ってくれるひとは居ない)

少年(空しい)クシャッ

10 : ◆XkFHc6ejAk - 2017/04/10 18:22:18.97 43HseE500 9/20

少年(いつもの帰り道が、やけに広く寂しく感じる)

少年(遠くから子供達の遊ぶ声がする)

少年(彼らは何がそんなに面白いんだろう)

少年(僕は何をしているんだろう)

少年(そんな事を尋ねた所で、答えが返ってくるはずも無く)

トプンッ

少年(! 今の音は、まさかっ)バッ

ポツッ ポツ……

少年「……雨だ……!」

11 : ◆XkFHc6ejAk - 2017/04/10 18:23:32.71 43HseE500 10/20

ザアアアアアアァァァァァァ

少年「がっ……!! っ……ぅ……!」

少年(強い強い豪雨が僕を呑み込む)

少年(その勢いは身体の奥底まで届きそうで)

少年(その痛みは世界から拒絶されているようで)

少年(……まともに呼吸が……出来ない……!)

少年(苦しい……苦しい……!)

少年(意識が朦朧とする。視界の隅が黒く侵食されてゆく)

少年(……)

12 : ◆XkFHc6ejAk - 2017/04/10 18:28:15.98 43HseE500 11/20

少年「……ううっ」フラッ

少年(どうやら意識を失っていたようだ。立ち上がろうとするとまだふらついてしまう)

少年(壁に手をついて、ゆっくりと呼吸を整えて……ようやく顔を上げる事が出来た)

少年「!」

「あ、あいつって……」

「あ、「傘無し」……さっき雨降ったもんな。直撃したんじゃない?」

「プッ……かわいそー」

「ほら、どうでも良いじゃん。行こうよ」

少年(……)

少年「しょうがないよ。僕には傘が出せないんだから」

少年(……今日は疲れた。早く帰ろう。眠りたい……)

少年(眠っている間は楽になれる。余計な事を考えなくてすむ)

少年(けれど、それは結局嫌な事から逃げているだけ。気付いている)

少年「でも、僕にはどうしようもないんだ」

少年(誰かが見ているわけでもないのにそんな弁明をする)

少年(そうして自分の罪悪感を薄れさせて、死んだ魚のような目で一人家へ帰る)

13 : ◆XkFHc6ejAk - 2017/04/10 18:30:22.76 43HseE500 12/20

少年(少女と話さなくなってから、一か月が経った)

少年(少女は完全に女子グループに入っている。最初からそうであったかのように)

少年(僕は道端の雑草のように、ひっそりと影を薄くする)

「ねー、少女ってあの「傘無し」と友達だったんでしょ? 話してあげなくていいの?」

少年「!」

少女「……うん」

「まあ「傘無し」と一緒に居ても楽しくなさそうだしね。正解正解」

少年「……」

少年(これで良かったんだよ)

少年(僕は何を言われたって平気なんだ。でも、僕のために少女が傷つくのは嫌だ)

少年(これで良かったんだ。守りたいって気持ちは、きっと間違ってない)

少年(……少しだけ、寂しいけれど)

14 : ◆XkFHc6ejAk - 2017/04/10 18:32:09.32 43HseE500 13/20

少年(ああ、帰り道に雨を恐れて歩くのも、当たり前になっちゃったな)

少年(今は、大丈夫……かな?)

少年(出来るだけ屋根がある所を選んで進もう)

少年(! あれは、少女の……)サッ

「少女って……何か気に入らないよね」

「うんうん。今までは私達を放りっぱなしで「傘無し」と居たくせにね」

「よくあんな澄ました顔で平然と私達のグループに入れるよねー」

「……そろそろさ、追い出さない?」

「ああ、良いね! もしかしたらまた「傘無し」の所に戻るかもよ?」

「あっはは! 面白そう!」

少年「……!」

15 : ◆XkFHc6ejAk - 2017/04/10 18:33:30.71 43HseE500 14/20

少年(それから、少女は少しずつ一人になる事が多くなっていった)

少年(忘れ物……と言うよりも、なくし物が増えるようになった)

少年(間違いない、あいつらの仕業だ)

少年(けれど、僕に何が出来るんだろうか)

少年(自分から離れていった僕に……)


少年(そうして何も出来ずにいたある日)

少年(ついに少女は笑わなくなった)

16 : ◆XkFHc6ejAk - 2017/04/10 18:34:35.03 43HseE500 15/20

少年(少女、今日も一人だ……人の事は言えないんだけど)

少年(遠くで女子達が少女を見て笑っている)

少年(どうしてそうやって人を見下して笑えるんだ?)

少年(胸の中に発散しようがない怒りが僕の血を湧き立たせる)

少年(いくら心に力が入った所で、それを行動に移せる勇気は無い)

少年(僕に何が出来るんだ)

17 : ◆XkFHc6ejAk - 2017/04/10 18:38:58.46 43HseE500 16/20

「はい、今日は傘の発表をしてみましょう。二、三人でチームを作って」

少年(うわあ、一番嫌な授業だ。チームか……)

少年(組んでもらえる相手が居ない僕は、ただ下を向いて余りが出るのを待つ)

少年(もう余るのには慣れた。出来れば優しいひとが良いなぁ)

「……くすくす」

少年「? ……あっ」

「……じゃあ二人で頑張ってね」

少年(先生は何とも言えない表情を浮かべて立ち去る)

少女「……」

少年(……気まずい)

少女「私がやるから、何もしないでいいよ」

少年「……え、でも」


少女「……どうせ何も出来ないじゃん」


少年「!」

少年(何も言えない。何も否定出来ない)

少年(僕はいつものように俯いてしまう)

少年(水たまりには、いつもの僕が居る。暗い表情を浮かべた、出来損ないの「傘無し」……)

19 : ◆XkFHc6ejAk - 2017/04/10 19:27:04.65 43HseE500 17/20

どうせ何も出来ない。

少年『――違うだろ』

少年(水たまりに映った心の自分が、僕の目を見て話しかけてくる)

少年(違わない。僕には何も出来ないんだから)

少年『‘まだ’何も出来てないんだろ』

少年(これからも、だよ)

少年『悔しくないのか?』

少年(……悔しくないよ)

少年『嘘つけ。僕は皆に馬鹿にされて悔しいはずだ』

少年『少女に何も出来ないって言われて、それで良いのかよ』

少年(……その通りだから)

少年『「悔しくないフリ」や「諦めたフリ」をするのはもうやめようぜ』

少年『そのまま何も伝えずに終わってしまうのか? 謝らずに終わってしまうのか?』

少年(そんな勇気、無いから……)

少年『嘘をつくな。本当は自分が持っている事に気付いているはずだ』

少年(……)

少年『皆に、少女に、自分にさえ。馬鹿にされたまま終われないだろ!』

少年『顔を上げろよ!! 「傘無し」のままで終わって良いのか!!』

少年(……)グッ

少年『僕は怯えたまま何もできない腰抜けじゃないはずだ』

少年『今悔しさで湧き立っているその血は! 心は!! 紛れも無い僕のものだろ!?』

少年「――!!」ブルッ

少年『さあ動こうぜ。もうどうするべきか、自分で気付いているだろ』

少年(……ああ。とっくの昔に分かってた)ザッ

少年(そうだ、いつの間にか僕は自分で自分を殺してしまっていた)

少女「……なに?」

少年(ただ怯えて震えてるだけじゃ、何も出来ない……変えられない)

少年(思い出せ。どんな傘を出せるようになるのか、楽しみにしていたあの頃を)

少年(あの頃の熱意を、もう一度……!)

少年(そうだ)

少年(僕の名前は……「傘無し」なんかじゃない!!)スッ

少女「! 嘘っ……傘が!」

少年「やああああぁあぁっ!!」ブンッ!

少年(湧き立つ血と思いに任せて、無我夢中で何かを握って腕を振った)

少年(ふわりと宙に舞いあがったのは、柔らかな霧雨)

少年(それが日光を反射して、虹色に輝く)

少年(その虹色の霧雨に包まれる事で、ようやくそれが何なのか分かった)

少年「あ……」

少年「……やっと、やっと……っ!!」

少年(僕の手は、しっかりと傘を握っていた)

20 : ◆XkFHc6ejAk - 2017/04/10 19:31:20.07 43HseE500 18/20

「え、あれって……」

「うわ、あいつ傘持ってる……何だあれ、透明な傘?」

「あんな傘初めて見た!」

少年(辺りが一気にざわめき始める)

少年(自分の事が話題に上がるのが怖くて仕方なかった。今までは)

少年(……もうまったく気にならない。それで良いんだ)

少年(だからこうして、人の目の中で自分の思いを伝えられる)

少年「少女、ごめん。僕は自分勝手だった」

少年「君のためと思ってたけれど、結局ただの自己満足だった」

少年「そのせいで少女まで一人になって……本当にごめんなさい!」

少女「……」

少年「……許してくれなくて良いんだ。でも、謝りたかった。ずっと」

少女「本当だよ。私の気持ちも知らずに……自分勝手に傷つけて」

少年「うっ」

少女「もう……雨に呑まれて気を失ってたんだって? まったく、私が居ないと駄目なんだから!」ニコ

少年「え、じゃあ……」

少女「許しますっ! ほら、発表しに行こ?」

「え、良いけど……練習しなくて大丈夫? さっき発現したばかりなんでしょう?」

少年「……大丈夫です!」

少年(ああ、こんなにはっきり喋ったのはいつぶりだろう。気持ちが良いなぁ)

少年(人の目を恐れてたのが、自己主張をしなくなったのが、傘の邪魔をしていた)

少年(もう自分を殺さなくて良いんだ。僕は何も出来ない「傘無し」じゃない)

「えー、では次は彼らの発表です!」

少女「行くよ!」

少年「うん!」

少年(虹色の霧雨と共に降り落ちる花々。その発表が終わった後は、その場の誰もが拍手喝采をしていた)

21 : ◆XkFHc6ejAk - 2017/04/10 19:40:19.72 43HseE500 19/20

ザアアァアァアァアァ……

少年「相変わらず、すごい雨だねぇ」

少女「うん。いつもよりはちょっと穏やかだけど」

少年「まさか、君とこうして歩けるなんて思いもしなかったな」ニコ

少女「……うん、そうだけど……」

少年「?」

少女「少年の傘、大きいよね」

少年「そうかな? 一緒くらいだよ?」

少女「……」ハァ

少年「えっ? 僕変かな?」

少女「うん。変だよ。すっごく変」

少年「えぇ……」

少女「……ねえ、せっかく傘が出来たんだしさ」

少年「?」

少女「これからは、そっちの傘に……入って、良いかな?」

少年「! ……うん、おいで!」ニコ

少年(ずっと大嫌いだったこの町の雨だけれど)

少年(これからは、きっと心地良い雨になるだろう)

ギュッ

少年(今日もこの町には雨が降る)

22 : ◆XkFHc6ejAk - 2017/04/10 19:45:42.36 43HseE500 20/20

終わりです。ありがとうございました。

関連作

少年「魚が揺れるは灰の町」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1463836215/
http://ayamevip.com/archives/47616947.html

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