シンジ「僕が?」【1】
シンジ「僕が?」【2】
シンジ「僕が?」【3】
- 夜 リツコ宅 -
シンジ「ただいま……」
レイ「おかえり」
シンジ「リツコさんは?」
レイ「まだ」
シンジ「そっか。……ふぅ。綾波お腹すいてる?」
レイ「いえ。碇くん、疲れてる?」
シンジ「……うん、少しね。色々データがほしいらしくて注文が多いから」
レイ「そう。今日、弐号機の人から近況を聞かれたわ」
シンジ「アスカから?」
レイ「…………」コクリ
シンジ「心配してくれてるんだな……」
レイ「なぜ、嬉しそうな顔をするの?」
シンジ「あぁ、えっと」
レイ「碇くん、弐号機の人を考えると胸があたたかくなるの?」
シンジ「そうだね……。綾波のことを考えてもそうなるよ」
レイ「私も……?」
シンジ「うん。誰かに心配してもらえるのは嬉しい。それは、感情なんだよ」
レイ「感情……」
シンジ「すこしずつでいいんだ。綾波が感じたこと、見たこと、それは綾波だけのものなんだから。他の誰でもない」
レイ「誰でもないこと……」
シンジ「夕飯作ってあげるよ。なにがいい?」
レイ「なんでも、いい」
シンジ「お肉嫌いだったよね、お味噌汁でいいかな」
- 夜 ミサト宅 アスカ部屋 -
ガンッ!!!
アスカ「ふーっ、ふーっ」
レイ『昨日、赤木博士のマンションで一緒にいたわ』
アスカ「嫌なやつっ――」
レイ『碇くんの向かいの部屋で私は寝た』
アスカ「――そこは私の場所だったのにっ!!」ガシャンッ
アスカ「なんで⁉ なんでシンジと一緒にいちゃいけないの⁉ なんでファーストなの⁉」
アスカ「碇司令のお気に入りだから⁉ ファーストが! 私はいちゃいけないの⁉」
アスカ「……はぁっ……はぁっ……シンジ、会いたい。会いたいよ」
- ミサト宅 リビング -
ガラガラ
アスカ「…………」
ミサト「ふぅ……落ち着いた?」
アスカ「ミサト、明日、私もネルフにいく」
ミサト「その方がいいみたいね。シンジくんの顔を見たら落ち着くわよ」
アスカ「明日も学校に来ないの?」
ミサト「そうね……。明日はオートパイロットのテストになってるから、シンちゃんが代表して参加するみたい」
アスカ「……わかった。それじゃ、放課後にいく」
ミサト「アスカ。物にあたるのはやめなさい」
アスカ「ミサトは知ってたの? ファーストと一緒にいたって」
ミサト「……いいえ、知らなかった。リツコが突然、連れて帰ったらしいの」
アスカ「昨日だけなんでしょ?」
ミサト「……リツコの部屋の鍵をレイも渡されたそうよ」
アスカ「……っ!」ギリッ
ミサト「シンジくんなら大丈夫よ。一緒に暮らしてたアスカがよくわかってるはずでしょ。なにも起きる心配なんかないわ」
アスカ「そういうことじゃないの! 私の場所だったのに!」
ミサト「……まぁ、そうね」
アスカ「でも、まだ2日目だから。わかってるわよ」
ミサト「シンちゃんにもアスカの近況、話しとくわ」
- 翌日 ネルフ本部 ラボ -
レイ「…………」
リツコ「ふぅん、肢体に異常はない?」
レイ「はい」
リツコ「腕を肩まであげて、手を開いて閉じてみて」
レイ「…………」グー パッ
リツコ「動きに劣化はなさそうね。次の定期検査は3日後よ」
レイ「赤木博士」
リツコ「なに?」
レイ「私、いつまで生きられますか?」
リツコ「……なぜ?」
レイ「次の私に、今の気持ちは引き継がれますか」
リツコ「気味の悪いこと言わないで。あなたはただの器なのよ」
レイ「はい……」
リツコ「近く、話しておいた移植手術が行われるわ」カキカキ
レイ「はい」
リツコ「それと、今日は昼休みに間に合うように学校に行きなさい。これをセカンドチルドレンに届けるように」スッ
レイ「……?」
リツコ「ウォークマンよ。あなたは内容を聞かなくていいわ」
レイ「はい……」
- 第三新東京市立第壱中学校 昼休み -
ガラガラ
レイ「…………」
スタスタ
ヒカリ「それでね――」
トウジ「なんや?」
アスカ「……?」
レイ「…………」ピタ
ケンスケ「綾波が僕たちのところに来るなんて……」
アスカ「ファースト、なに?」
レイ「……これ」スッ
アスカ「……なに、これ」
トウジ「ウォークマンやな」
ケンスケ「もしかしてシンジが持ってたやつか?」
アスカ「シンジに頼まれたの⁉」
レイ「…………」
ヒカリ「アスカ! よかったね! 碇くんも気にかけてくれてたんだよ!」
マナ「うんっ! そうだねっ!」
アスカ「……シンジ」
トウジ「お熱いこっちゃのー」
ヒカリ「聞いて見たら? なにか録音されてるかもしれないし」
アスカ「うん……でも、聴いていいのかしら」
マナ「いいんだよー! せっかくもらったものなんだから!」
アスカ「そ、そうよね。あ、ファーストも、ありがと……」
レイ「…………」
トウジ「これなら丸く収まりそうやのー。ほんま現金なやっちゃで」
アスカ「それじゃ、ちょっとごめん。イヤホンするから」
カチッ
ジーーーッ
レイ『……男の人は、我慢できない時があるんでしょ?』
シンジ『だめだよ! 僕たち、そんなんじゃ!』
レイ『――碇くん、見て、私、なにもつけてない!』
アスカ「――………っっっ⁉」
シンジ『綾波! ベットに乗ったら感染症が……!』
アスカ「…………な、なによこれ…………」
ヒカリ「……? アスカどうしたの?」
トウジ「感動しとるんちゃうか?」
レイ『大丈夫。怖がらなくていい……』
アスカ「――このクソやろうッッッ!!!!」
ガシャガシャガシャガシャガーーーンッ
ケンスケ「うわあああっ⁉」
マナ「な、なに⁉」
アスカ「殺してやる! 殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやるッッッ!!!」ガンッ
レイ「……あぅっ!」ドサ
ヒカリ「アスカ⁉ 鈴原、相田くん!」
トウジ「止まれっ!」グッ
ケンスケ「またかよ!」グッ
マナ「まずい! アスカ、マウントとろうとしてる! 綾波さん下になっちゃだめ! かえして!」
アスカ「このクソビッチ!! よくも、よくも、よくもよくもよくもシンジに!!!」
ガンッガンッ
レイ「かっ……かはっ……」ゴンッゴンッ
トウジ「ケンスケ! 力めいっぱいこめたらんかい!」グィ
ケンスケ「やってるよ!」グィ
マナ「腕を掴んで!」
トウジ「よしきた!」
アスカ「――離せッッ!!」
トウジ「止まれこのじゃじゃ馬!」グィ
アスカ「チッ!」
トウジ「……っ! 肘をつかめばよかったちゅーことか!」
ケンスケ「それでも僕の力じゃ……!」
マナ「綾波さん! 今のうちに!」グィ
レイ「…………」
ヒカリ「だ、大丈夫? 鼻血でてる……これハンカチ」スッ
マナ「水で濡らした方がいいよ」
アスカ「この! 離して! 離してってばぁ!」ブンブン
トウジ「暴れるなっちゅーに!」
ケンスケ「綾波をここから連れ出して!」
マナ「うんっ! わかった!」
ヒカリ「……行こう」
アスカ「まだ、私の話が終わってないのよっ!!」
トウジ「お前話する気ないやろ!」
レイ「…………」カシャ
ヒカリ「それ、碇くんのウォークマン? 壊れちゃったね」
レイ「いい……私が持っていく」スタスタ
アスカ「待てっ!! 逃げるな!」ジタバタ
レイ「ネルフで待ってる」
アスカ「……はぁっ……はぁっ……」
ヒカリ「アスカ、綾波さん、もう行っちゃったよ」
マナ「突然どうしちゃったの? なにか録音されてたの?」
アスカ「……ぅっ……うっ………」
トウジ「な、なんや? 今度は泣き――」
アスカ「いつまでも触んなっ!! うっとうしいわねぇ!!!」
ケンスケ「わぁっ⁉」
トウジ「うぉっ⁉ わ、悪かったって」
アスカ「……悔しい。こんなことってある?」
ヒカリ「アスカ……」
アスカ「私、ネルフに行く」
マナ「う、うん……」
- ネルフ本部 ラボ -
リツコ「――渡せたみたいね」
レイ「ウォークマン、壊れました」
リツコ「シンジくんには新しいのを買ってあげるから、なにも心配ないわよ」
レイ「…………」
リツコ「血がついちゃってるわね。新しい制服なら家にあるから、帰ったら着替えなさい」
レイ「赤木博士」
リツコ「ウォークマンの内容?」
レイ「はい」
リツコ「シンジくんが入院してた時のあなたとの情事のやりとりよ」
レイ「……っ!」
リツコ「アスカは最大級のショックを受けたでしょう。シンジくんはあなたとのことを夢だと思っているし、はじめて知った事実だもの」
レイ「…………」
リツコ「中学校には刺激が強すぎたかしらね。他人に寝取られるのは」
レイ「なぜですか?」
リツコ「アスカはね、あなたの存在に怯えているのよ」
レイ「…………」
リツコ「自分の好きな人を取られてしまうんじゃないか、とね。アスカは自分に自信を持っているけど、それが揺らがないかといえばそうではない」
レイ「…………」
リツコ「今までアスカがいた場所にあなたがはいりこんできた。そこに追い討ちをかけるように、身体の関係があるのがアスカだけではないと知らしめる必要があったの」
レイ「…………」
リツコ「人を信じるって持続させるのが難しいものよ。シンジくんからなにも聞いてないことがアスカの疑心を募らせる」
レイ「でも、碇くんは……」
リツコ「あなたは何も疑問を抱かず、命令に従っていればいい」
レイ「私は……」
リツコ「――さて、アスカが追いかけてくるでしょうね」
カチャ プルルルル
リツコ「私よ。オートパイロットのテストを切り上げて、サードチルドレンを家に帰して。今すぐに……えぇ……そうよ……」
- ネルフ本部 第三通路 -
タタタタッ
アスカ「……はぁっ……はぁっ……」
マヤ「あら? アスカ?」
アスカ「シンジは⁉」
マヤ「シンジくんなら、さっき、先輩のマンションに帰ったわよ。テストの疲れがあるだろうって」
アスカ「(……タイミングがよすぎる。操作されてるのね)」
マヤ「シンジくんなら、明日――」
アスカ「いい。赤木博士はどこ?」
マヤ「シンジくんじゃなくて? 先輩なら、ラボで作業を……」
タタタタッ
マヤ「――なんなのよ」
- ネルフ本部 ラボ -
リツコ「(まだまだ追い詰めなくちゃね……)」
バンッ!!!
アスカ「……ぜぇ……ぜぇ……」
リツコ「あまり走りすぎると心臓に負担がかかるわよ」
アスカ「お生憎様。ばばあと違って若いから心臓も強いのよ」
リツコ「それは結構。でも誰だって老いるのよ」
アスカ「今の時点で私は十代よ。そんな先の話はそうなってから考えればいい」
リツコ「……それで? なんのご用?」
アスカ「シンジと話させて」
リツコ「もう帰ったわ。話があるなら明日にしなさい」
アスカ「――嘘ね。話をさせる気なんかないんでしょ。最初のデートをするだけならかまわないって話も全部ウソ! 徹底的にやるつもりなのね!!」
リツコ「被害妄想はよくないわよ」
アスカ「だったらシンジと話させてよ!!」
リツコ「今日は、無理と言ったでしょう。明日なら大丈夫よ」
アスカ「明日になって話せるという保証は?」
リツコ「それは約束できないわね」
ガンッ!!
アスカ「もう一度言うわ……。シンジと、話をさせて」
リツコ「シンジくんなら帰宅して、レイと夕食の準備にとりかかっているかしらね」
アスカ「……っ!」
リツコ「2人で仲良く、アスカの存在なんていつのまにやら忘れているかも」
アスカ「煽ってるつもり⁉」
リツコ「いいえ、ただの独り言」
アスカ「シンジは、私のこと忘れるはずない」
リツコ「シンジくんからアスカがどうしているか、この2日間、聞かれたことないけど」
アスカ「――嘘よっ!!」
リツコ「事実よ」
アスカ「あんたの言うことなんて信じない!」
リツコ「あんな引き裂かれ方したら普通、聞くものよね」
アスカ「全部嘘なんでしょう!! いい加減にして!!」
リツコ「ウォークマンの中身、どうだった?」
アスカ「……っ!」ギリッ
リツコ「あれ、合成なんかじゃないわよ」
アスカ「……お願いよ……シンジと話させてよ……」ポロポロ
リツコ「できないわ。今日はもう帰りなさい」
アスカ「お願い……少しだけでいいの……」
リツコ「保安部に連絡するわよ」
アスカ「…………」
リツコ「シンジくんのことは、できるなら諦めなさい。足掻いてみてもかまわないけど、その時は誰が相手になるか覚悟しておくことね」
アスカ「……なんでファーストなの……」
リツコ「あなたには関係のないことです」
アスカ「関係あるわ! 私だって、シンジのことが好きなのよ!」
リツコ「純粋ね。痛々しいぐらいに。しかし、叶わない恋もあるということを知る機会よ」
アスカ「私は、諦めないわよ」
リツコ「どうぞ」
アスカ「…………」
リツコ「強気な台詞がいつまで持つか見ててあげるわ。今日、このまま帰って1人になった時に、あなたに孤独感と敗北感が襲うでしょう」
アスカ「……っ!」
リツコ「好きだけで耐えられる?」
アスカ「……耐えてみせる」
リツコ「ラクになる方法は次にいくことよ。忘れないことね」
アスカ「帰るわ」
リツコ「次は、録音じゃなくて、映像であげるわね」
アスカ「うあぁぁあっ!!」ガシッ
リツコ「殴りたければ殴りなさい、そうしてもなにも変わらないのよ。今この瞬間も、シンジくんとレイは2人でいる」
アスカ「……ふー……ふー……」
リツコ「あなたは頭の良い子よ。アスカ」
- 夜 リツコ宅 -
ガチャ
レイ「…………」
シンジ「綾波。おかえり」
レイ「た、ただいま」
シンジ「僕のウォークマン知らない? 探してるんだけど、見つからないんだ」
レイ「わからないわ」
シンジ「うーん、そっか。まだ荷物で届いてないのかな。そんなに多くなかったはずだけど」
レイ「碇くん」
シンジ「ん?」
レイ「悪いことをしているときってザワザワするのね」
シンジ「どうしたんだよ、急に」
レイ「いいえ、私、どうしたらいいのか」
シンジ「……なにかあったの?」
レイ「…………」
シンジ「言いづらいこと?」
レイ「碇くんは、どうしたい?」
シンジ「僕?」
レイ「私は、碇くんが悲しむことはしたくない」
シンジ「……ありがとう。その気持ちだけで充分だよ」
レイ「違うの、私、どうしたいの、言いたくない」
シンジ「綾波……?」
レイ「私、3人目だから、でも道具じゃない、人形じゃない」
シンジ「綾波は綾波だよ。何人目でもそれは変わらない」
レイ「こわいの。なくなってしまうのが、死ぬのがこわい」
シンジ「そうだね。僕も死ぬのはこわいよ」
レイ「そうじゃない。私には代わりがいるもの。器だもの。私の価値はそれだけ――」
シンジ「綾波っ!」ガシッ
レイ「……っ!」ビクッ
シンジ「何人綾波がいようとも、今の綾波は、ここにしかいないんだ。だから、死ぬのがこわいって感じるのは同じだよ」ギュウ
レイ「ぁっ……」
シンジ「大丈夫だよ」
レイ「(……ごめんなさい、弐号機の人、私、言いたくない)」
- ミサト宅 アスカ部屋 -
マリ「窓からお邪魔するよ~ん」
アスカ「…………」
マリ「あっちゃぁ~部屋の中で竜巻でも発生したのかってぐらい荒れてるね」
アスカ「…………」
マリ「おーい、お姫さまぁ~、もしもーし」
アスカ「…………」
マリ「だめだこりゃ。姫って意外に弱っちいよね。あれ? 意外ってこともないか。ま、どっちでもいいか」
アスカ「…………」
マリ「……ワンコくんと綾波シ……っとと、綾波レイのことは、私、知ってたよ」
アスカ「…………」ピクッ
マリ「ワンコくんが入院してる時にさ、逆レイプされかかってたって言ったの覚えてる? あれがウォークマンの中身」
アスカ「……どういうこと?」
マリ「おっ? 反応あった? だからー、ワンコくんを助けたのがわたし! すごいだろー! えっへん!」
アスカ「シンジを襲った?」
マリ「あらら、褒めてくれないのかにゃ。うん、そう。ワンコくん綾波レイに襲われてた。薬盛られてた。赤木リツコに」
アスカ「……っ!」
マリ「許しちゃっていいのかにゃー? 泣き寝入りしちゃうのぉ~?」
アスカ「そう、なんでもありってわけね」
マリ「だから言ってるじゃん、道具なんだって」
アスカ「もっとはやく言いなさいよ!」
マリ「聞かれなかったからさぁー」ブーブー
アスカ「でも……私、今日、あいつの前で泣いちゃった」
マリ「あーらら」
アスカ「かなわないのかもしれない」
マリ「ふぅん……ここにワンコくんからの手紙預かってきてるんだけどにゃー」
アスカ「シンジから⁉ 見せて!」
マリ「おっと」バッ
アスカ「なんで渡してくれないの⁉」
マリ「諦めるなら見る必要なくない?」
アスカ「……見てから決めてもいいでしょ」
マリ「らしくないにゃー、諦めきれないんでしょー、素直になりなよー」
アスカ「…………」
マリ「負けたからなんだってならないとぉー。負け癖がつくのはね、心が折れた時だよ? あんなのでさぁ、簡単すぎるよひめぇー」
アスカ「なんであんたがやりとり知ってんのよ!」
マリ「いたるところに情報源があるもんで」
アスカ「ちっ」
マリ「プライドが高いエリートって一度の負けで終わっちゃうわけー?」
アスカ「うっさいわねぇ! わかったわよ! 諦めない!」
マリ「それじゃ足りないにゃー」
アスカ「うっとおしい……!」
マリ「ふふん♪ 目を閉じてくださーい」
アスカ「はぁ?」
マリ「いいから、やるやる」
アスカ「……はぁ、閉じたわよ」
マリ「ワンコくんのこと思い浮かべてごらん」
アスカ「…………」
マリ「オーバーザレインボーではじめて会った時のこと、姫に言葉をかけたこと、浅間山で大火傷を負ったこと、はじめてのエッチのこと」
アスカ「……うん」
マリ「どれもこれも姫にとってかけがえのないものだよねぇ」
アスカ「もちろんよ」
マリ「他の人でもいいの?」
アスカ「……いいえ、違うわ。シンジがいてくれたから今の私はいる。シンジじゃないとだめなのよ」
マリ「それじゃ、はいこれ」ピラ
アスカ「……?」
マリ「手紙、読みかったんでしょ?」ヒラヒラ
アスカ「……っ!」バッ
シンジ『アスカ。元気にしてる? まだ短い日数だけど、僕は、アスカに会いたくてたまらないんだ。こんなこと言うのおかしいよね。
離れてくらしてみて、改めて思ったんだ。
僕は、アスカのことが好き、いや、愛してるんだって。
なかなか会えないけど、はやく会いたいと思ってるよ』
アスカ「…………」プルプル
マリ「(ワンコくんの筆跡マネて書いてみたけどどうかにゃ)」
アスカ「メガネ! 今すぐ準備して!!」
マリ「な、なにを?」
アスカ「決まってんでしょ! シンジを助けだすのよ!!」
マリ「お、おぉ~。効果すごいね。どうやって?」
アスカ「乗りこむ! 手榴弾とか用意して!!」
マリ「それで助けた後は逃避行?」
アスカ「あっ……」
マリ「そうなんだよねー。連れ出すこと自体は簡単なんだけど、逃げきるのが難しいんだにゃ」
アスカ「でもこのままだとガードが堅いし……」
マリ「ワンコくんが現状知るだけでも変化あるかな?」
アスカ「それなら、なんとかなりそうね」
マリ「それじゃいこっか、姫」
アスカ「どこに?」
- 空輸機 高度1万5000 -
アスカ「――な、なんなのよこれぇ~~~!!」
マリ「姫、スカイダイビングの経験ないんだっけ? はいこれ、ゴーグル」ヒョイ
アスカ「わっ、とと」パシッ
マリ「私が先導してあげるから、あとについてきて。夜って昼間と比べて難易度高いからね」
アスカ「スカイダイビングは、一度しか……!」
マリ「ぶっつけ本番も大丈夫っしょ♪ ねっ♪」
アスカ「えぇーーーっ⁉」
パイロット「まもなく降下予定地点です!」
マリ「はーい! ほら、いくよ! 姫! 王子様の元に!」
ウィーン
ガシャン
アスカ「い、いやぁ~~~! 風が強い~~!」
マリ「しかたないにゃー、手繋いであげるから」
アスカ「えっ⁉ ちょ、ちょ! うそっ⁉」
マリ「――ワン、ツー、スリー……! ゴー!」
- リツコ宅 シンジ部屋 -
コツンコツン
シンジ「……?」
コツンコツン
シンジ「なんだ? 窓?」
ガララ
マリ「やっ!」
シンジ「ま、マリさん――て、あす……むぐぐ」
マリ「シーっ。声が大きいよ。夜は音が響くから音量さげて」
アスカ「し、シンジ……」
シンジ「わかった、小声で話す」
マリ「ワンコくんに会いに姫が空からやってきたのだ。普通逆だけどね」
シンジ「アスカ、髪がすごいことに――」
アスカ「シンジっ!」ギュウ
シンジ「どうしたの……アスカ」
マリ「あ、ここは監視カメラないから好きなだけ抱き合っていいよ。葛城宅にも、もう監視カメラないからね。言うの忘れてたけど」
マリ「――というわけでぇ、入院中のことは夢ではなかったのだよ」
シンジ「そうだったんだ……父さんとリツコさんが……」
アスカ「……う……ぐすっ……ぐすっ……」ギュウ
シンジ「アスカ、ごめんね。僕、あの時のこと夢だと思ってて」
アスカ「……シンジも男だから……」
シンジ「あの時、綾波には悪いけど、僕、アスカのこと思い浮かべてたんだ」
アスカ「……えっ?」
シンジ「本当だよ。その後、その、アスカとした時も、我慢ができなかった」
アスカ「本当?」
シンジ「うん。本当だよ」
アスカ「シンジ……」
マリ「一発やっといたら?」
シンジ「えぇ?」
マリ「姫、声我慢できる?」
アスカ「え、えぇ?」
マリ「エッチっていうのも欲にまみれてなければ愛情表現だからね。次いつできるかわからないよ?」
シンジ&アスカ「あ……」
マリ「見張っといてあげるからさ、どーぞ」
アスカ「ちょ、ちょっと、あんたもこの部屋にいるの⁉」
マリ「だっていなきゃ見張れないじゃーん」
アスカ「人がいる状況とか無理に決まってんでしょ!」
マリ「見ないからさー、そっち」
シンジ「たしかに、次いつ会えるかわからないなら」
アスカ「し、シンジ?」
シンジ「アスカはしなくていいの?」
アスカ「え、えぇ? だって、メガネもいるのよ」
シンジ「うん、だけど気にしないって言ってるから」
マリ「どーぞどーぞ」
アスカ「ぁ……」
シンジ「どうする?」
アスカ「メ、メガネ、絶対こっち見んじゃないわよ」
マリ「はいはーい。でも誰か来た時は別ね」
アスカ「……わかった」
シンジ「アスカ……」
アスカ「ん……待って、シンジ。声我慢できるかわからないから……」
シンジ「うん。わかった。タオルでいい?」
アスカ「う……まかせる」
シンジ「口あけて」
アスカ「あー」
シンジ「……よっ」ギュ ギュ
アスカ「ふー、ふー」
シンジ「きつくない? 声大丈夫そう?」
アスカ「ん」
シンジ「なんか、アスカがタオルくわえてるのってゾクゾクするね」スッ
アスカ「んっ……ふぅ……ふぅ……」
シンジ「耳さわられるの好きだったよね」
アスカ「……ふぅんっ……ふぅ……ふぅ……」
シンジ「アスカ、かわいいよ」
アスカ「ふぅ……ん……ふんふ……」トロン
マリ「はぁ、何回するつもり?」
シンジ「はぁはぁ……」
マリ「途中から姫タオルとれちゃって必死で声我慢してるのはかわいかったけど」
アスカ「ぁ……あ…っ……んっ……」ピクピク
マリ「まだ帰りもあるんだよー? そんなに痙攣してて足腰大丈夫?」
アスカ「み……見ないで……」
マリ「しっかしワンコくんのおっきいね、日本人にしては」
シンジ「そ、そうかな」
マリ「硬さも良さそうだし、姫どうだった? って痙攣してるの見ればわかるかー」
シンジ「アスカ、もう一回したい……」
アスカ「だめよ、シンジ。もうだめ。私壊れちゃうから――」
シンジ「アスカ、僕のアスカ」
アスカ「シンジ。好き。好き。受け入れてあげる。きて、私を壊して。シンジの証つけて……」
マリ「――帰って寝たいなー」
シンジ「アスカ、帰り、大丈夫?」
アスカ「ん。平気」
マリ「もうさー、やりはじめて終わるまで5時間だよー勘弁してよー」
アスカ「悪かったわよ」
マリ「途中で姫失神しちゃってたね」
アスカ「うっ」
マリ「その間もワンコくん腰ふるの止めないし」
シンジ「えぇと」
マリ「まぁ、もう終わったならいいけど。妊娠してたら知らないけどね」
アスカ&シンジ「…………」
マリ「いちおー、薬飲んどきなね、これあげるから」
アスカ「終わった後でいいの?」
マリ「うん、ただ、あんまり身体には良くないよ」
アスカ「わかった」
シンジ「アスカ、次はゴムしよう。薬にはあまり頼りたくないから」
アスカ「うん。そうね」
シンジ「リツコさんは、僕がなんとかする。学校に行けるようにしてみせるよ」
マリ「頑張ってね、あと綾波レイにも気をつけて」
シンジ「綾波は……うん、でもわかった。マリさん、ありがとう」
アスカ「シンジ……。待ってる」
シンジ「うん……アスカ」ギュウ
アスカ「中にだされたのがたれてきてる……」
シンジ「えっ」
アスカ「シンジ、もう一回………」
マリ「もういい! 帰るよ!」
- 翌日 リツコ宅 -
リツコ「おはよう、レイ、シンジくん」
シンジ「おはようございます」
レイ「…………」
シンジ「リツコさん、そろそろ学校に行きたいんですけど」
リツコ「ごめんなさいね。今日もテストよ」
シンジ「毎日テストじゃ、息が詰まっちゃいますよ」
リツコ「そう? ネルフの中でなら自由に生活してかまわないわよ。勉強なら私かマヤが見てあげるし」
シンジ「学校の友達にも会いたいですし」
リツコ「そうね……」
シンジ「どうですか?」
リツコ「一週間たてば、かまわないわよ」
シンジ「どうしてその期日なんです?」
リツコ「特別委員会から監査がはいるのよ。それまでにできるだけのことは処理しておかないとね」
シンジ「(一週間か……)」
リツコ「……どう? それ以降であれば、こちらとしても何も言うことはないわ」
シンジ「3日でお願いします」
リツコ「そんなに行きたい理由でもあるの?」
シンジ「いえ、息抜きがしたいだけですよ。窮屈すぎるのはちょっと……」
リツコ「(準備期間としてはギリギリね)」
レイ「碇くん、昨日、夜中誰かいた?」
シンジ「ん? 誰もいないよ」
レイ「……そう」
リツコ「では、3日で許可します」
シンジ「よかった」
- ミサト宅 -
ミサト「まったく、連絡もよこさないでなにやってたのよ!」
アスカ「だから言ってるじゃない、ちょっと1人になりたかったの」
ミサト「あんたまだ中学生なんだからね! ちったー考えて行動しなさい!」
アスカ「はいはい、わかったわかった」
ミサト「シンちゃんとは昨日も会えなかったでしょ……」
アスカ「そうね」
ミサト「リツコが私を避けてるみたいでね。なんとか会えるようにしてあげるから、もう少し待って」
アスカ「期待しないで待ってるわ」
ミサト「……あんたなんで顔がにやけてんの?」
アスカ「は? なにが?」
ミサト「いや、隠せてないわよ」
アスカ「別に。なんでもない」
ミサト「はぁ……?」
- ネルフ本部 ラボ -
リツコ「シンジくん、ホルモンバランスがおかしいわよ」
シンジ「はい?」
リツコ「若いからあまり自家発電するなとは言わないけど、ほどほどにね」
シンジ「あ、えっと、その、気をつけます」
リツコ「溜まってるの?」
シンジ「いや、そういうわけでは」
マヤ「…………」
リツコ「男子ですもの。恥ずかしがることはないのよ。特にあなたの年齢では正常だと言える」
マヤ「あの、先輩」
リツコ「ふぅん。マヤ、あなたシンジくんとしてみる?」
マヤ「えぇ⁉」
リツコ「冗談よ。本気にしたの?」
マヤ「あぁ……なんだぁ。私そういう話題ちょっと苦手で……」
シンジ「これセクハラになりますよ」
リツコ「誰に対して?」
シンジ「僕とマヤさんです」
リツコ「わりと真面目な話なのよ。男性パイロットはシンジくんだけだけど、必要だと決定が降れば女を当てがうわよ」
シンジ「必要ありません」
リツコ「性欲が旺盛だとわかっただけでいいわ」
マヤ「先輩、あのそろそろ今日のテストの話を……」
リツコ「(試してみる価値はあるわね)」
マヤ「先輩?」
リツコ「本日の実験を変更します。B9は省略してサードチルドレンの疲労回復のため午後からに繰り下げて」
シンジ「え? 僕は大丈夫ですよ」
リツコ「テストは行ってもらうわよ。午前は点滴を投与するから休みなさい」
マヤ「了解。では、そのように手続きします」
- ネルフ本部 ??? -
シンジ「(午前中が空いたのはちょうどよかったな……よっと)」タンッ
第2使徒リリス「…………」
シンジ「(やっぱりターミナルドグマにいるのはリリス……)」
シンジ「(ということは、父さんが持っているのはアダムか)」
シンジ「(綾波、3人目だって言ってたもんな。僕が会った2人目の綾波はもう……やめよう。綾波は綾波だ)」
シンジ「(リリスがここにいるならガフの部屋は2つとも空なんだろうな……)」
マリ『マテリアルは揃うよ』
シンジ「(……もう既に遅かったんだ)」
シンジ「――いるんだね、月に。カヲルくん」
- 第三新東京都市第壱中学校 昼休み -
アスカ「あ、これおいしい」
ヒカリ「あ、う、うん。よかったら食べて」
マナ「……アスカ、なにか良いことあったの?」
アスカ「なにが?」
トウジ「あーもう考えるのやめや! やめ! こいつに付き合っとったらこっちの身がもたんわ!」
ケンスケ「はぁ……。なんだったんだよ。昨日のは」
アスカ「別に。なんてことないわよ」
ケンスケ「最近、ブロマイドの売り上げ落ちてきてるしさぁ」
トウジ「そら中身が知れ渡っとるからなぁ。こんな凶暴な女を相手にすんのセンセだけやで」
アスカ「ふん、別にシンジ以外に相手してほしいわけじゃないのよ」
トウジ&ケンスケ「……はぁ」
アスカ「あんた達みたいなバレンタインに義理チョコのひとつも貰えないようなのとシンジを一緒にしないでくれる? 月とスッポンよ」
トウジ「さよーですか」
ケンスケ「僕だって義理チョコぐらい!」
アスカ「家族とかやめてよね。キモいから」
ケンスケ「うっ」
アスカ「はんっ」
マナ「……でも、これで一安心かな」
ガラガラ
レイ「…………」
アスカ「…………」ピクッ
レイ「…………」スタスタ
アスカ「ちょっと待ちなさい、ファースト」
レイ「……なに?」
アスカ「こっちで少し話さない? 鈴原、相田、席あけて」
トウジ「お、おい」
ヒカリ「だ、大丈夫?」
アスカ「暴れないから大丈夫よ。ファースト、座って」
アスカ「話というのはシンジのことなんだけど」
レイ「……あなた、そればっかりね」
アスカ「そうね。それは認める。それで、私はあんたがシンジのことどう思ってるか聞いてないと思って」
レイ「……?」
アスカ「胸があたたかくなるって言ってたわよねぇ。でもそれってライクなの? ラヴなの?」
レイ「…………」
アスカ「命令に従ってるのかそうじゃないか。それによっては今後の付き合い方が変わってくると思うのよ」
レイ「…………」
アスカ「私はあんたとはソリが合わない。あんたも同じでしょ。だから、パイロット同士という繋がりがなければ話をすることもない。だけど、今はパイロットということもあるし、シンジということもある」
レイ「私は、好きとか、よくわからない」
アスカ「自覚がないだけじゃないの?」
レイ「……自覚」
アスカ「気がついていない気持ちってわりとあるのよ。私もシンジのこと好きって認めるまですこしかかったからそれはわかる」
ヒカリ「アスカは好きになるまでがはやかったけどね」
アスカ「ヒカリ」
ヒカリ「あ、ごめん」
レイ「碇くんは、私と対等に向き合ってくれる」
アスカ「私と同じね。それで?」
レイ「碇司令は良くしてくれる。けど、道具」
アスカ「…………」
レイ「碇くんのことはまだ、時間が必要、だと思う」
アスカ「そう。でも、様子じゃ好きになるのは時間の問題ね」
レイ「好き? 私が碇くんを?」
アスカ「その話はいい。あんたには何度か言ってるけど、私はシンジが好きなのよ」
レイ「ええ」
アスカ「あんたにも、誰にも渡すつもりはない。だから、奪いにくるなら私も全部をかけて守ろうとする」
レイ「……そう」
アスカ「あんたはそういうやつだもんね。打てば鳴くわけじゃなく、受け流す。だからあんたと私は絶対に仲良くなれない」
レイ「…………」
アスカ「私にとっては一方的に喋るぐらいでちょうどいいってわかったわ。反応を期待するからイラついてたのね」
レイ「…………」
アスカ「シンジは誰にも渡さない。それだけ。話は終わりよ」
レイ「わかったわ」
ヒカリ「はぁ……」
マナ「色々すごいね……」
トウジ「センセはホンマ伝説の男かもしれへんなー」
- 放課後 バス 車内 -
ヒカリ「(はぁ、この時間のバスってサラリーマンと被っていつも混むからやだなぁ……)」
ヒカリ「(晩御飯なににしようかな。コダマお姉ちゃん今日バイトだっけ)」
ビーッ ガチャン
運転手『発車します』
ヒカリ「…………」
サラリーマン「…………」サワッ
ヒカリ「(……ん?)」
サラリーマン「…………」チョンチョン
ヒカリ「(え、うそ、やだ。痴漢? だ、誰?)」ソォー
サラリーマン「……ふひ」
ヒカリ「(……き、気持ち悪い。……え、こわい)」
サラリーマン「……ふぅ……ふぅ……」チョンチョン
ヒカリ「(やめて、触らないで! だ、だれか!)」
サラリーマン「…………」サワサワ
ヒカリ「(ひっ⁉ やだ……スカート……やだやだやぁ)」
ガシッ
サラリーマン「……っ⁉」
シンジ「もうやめたほうがいいですよ」
サラリーマン「な、なんだキミは!」
ヒカリ「えっ……碇くん」
シンジ「この人、痴漢です」
ザワザワ
サラリーマン「勝手な言いがかりをつけるな! 失敬な!」
シンジ「洞木さん、大丈夫?」
ヒカリ「あ、う、うん」
シンジ「次の停留所で降りましょう」
サラリーマン「いい加減にしろ!」
シンジ「またするんでしょ? 逃げたら」
サラリーマン「……おい! 運転手! 今すぐ止めろ! 俺は降りる!」
シンジ「……っ!」ググッ
サラリーマン「いっ⁉ いだだだっ! ぼ、暴力はやめて!」
運転手「面倒ごとは勘弁してくださいよー、止めますから降りてください」
シンジ「僕も降ります。洞木さん。気をつけて帰ってね」
ヒカリ「……は、はい」ポー
- 第三新東京都市 派出所前 -
サラリーマン「だからぁ! 俺は何度も言ってるだろう! バスに乗ってたらこのガキがいきなり腕掴んできたんだよ!」
シンジ「はぁ……」
警官「しかしですねぇ、バス会社に問い合わせた所、目撃者もいるんですわ」
サラリーマン「こういうのって現行犯が原則だろ! そんなの当てにすんのかよ!」
警官「面倒ごとを嫌う人っつうのも多いもんでね。痴漢被害は見て見ぬふりをするまわりも問題なんですわ」
ヒカリ「あ、あのっ!」
シンジ「――洞木さん?」
ヒカリ「私っ! この人に痴漢されました! 間違いありません!」
警官「少年、この子は?」
シンジ「被害者です」
サラリーマン「ぐっ!」
ヒカリ「……っ!」キッ
警官「よく名乗りでてくれた。勇気がいっただろう。調書を取るから待ってくれ」
- 第三新東京都市 市街地 -
シンジ「よく、あの交番だってわかったね」
ヒカリ「ここらへんだとあそこぐらいしかないから。停留所止まったら追いかけてきたの」
シンジ「でも、大丈夫だったの? わざと呼ばなかったんだけど」
ヒカリ「うん。だって、逃げられたら被害増えるでしょう」
シンジ「そっか」
ヒカリ「碇くんは今帰り?」
シンジ「うん。最近は学校にいってないから、なんだか会うの久しぶりな気がするね」
ヒカリ「えへへ、そうだね。それにしてもびっくりしちゃった。碇くんって大人の人にも物怖じしないとは思わなかったし」
シンジ「あぁ、いや、その、見てられなかったから」
ヒカリ「それに、あんなの、腕掴んで」
シンジ「(ちょ、ちょっとまずかったかな)」
ヒカリ「――漫画の主人公みたい」
シンジ「え?」
ヒカリ「う、うぅん。なんでもない」
シンジ「とりあえず、うちまで送るよ。よければだけど」
ヒカリ「えっ、そんな、悪いよ」
シンジ「さっき、怖い目にあったばかりだろうし、ほっとけないから」
ヒカリ「あ、うん……それじゃお願いしようかな……」
- 洞木宅 ヒカリ部屋 -
ヒカリ「あ、あの、ごめんね。上がってなんて馴れ馴れしくて……」
シンジ「いや、かまわないよ。洞木さん、女の子らしい部屋なんだね」
ヒカリ「あの、あんまりジロジロ見ないで……」
シンジ「ごめん。つい」
ヒカリ「うちは、三姉妹だから、おさがりも多いんだ。私はちょうど真ん中だからコダマお姉ちゃんのおさがり」
シンジ「へぇ、女の子ばかりだと大変そうだね」
ヒカリ「みんなで協力してやってるの。私は家事全般してるけど」
シンジ「洞木さんは料理上手だもんね」
ヒカリ「碇くんも上手だって聞いてるよ。男の人で料理するのって嫌じゃないの?」
シンジ「抵抗はなかったよ。特別上手ってこともないと思うんだけど、人並みにはできるってだけで」
ヒカリ「そうなんだ」
シンジ「トウジには、まだ弁当作ってるんでしょ?」
ヒカリ「うん」
シンジ「そっか。うまくいくといいね」
ヒカリ「でも、鈴原は、今は恋愛に興味ないみたい。妹さんのこともあるし」
シンジ「そうなんだ……」
ヒカリ「あ、ごめんね。お茶もださずに、持ってくるからちょっと待ってて」
トタトタトタトタ
シンジ「普通の一般家庭ってこんな感じなのかな」
シンジ「いや、あのクラスにいる時点で……みんな母親がいないんだ」
シンジ「苦労してるのかも、しれない」
- 洞木宅 台所 -
ヒカリ「麦茶でいいのかな。りょ、緑茶? それともジュースかな?」
ヒカリ「(男の子部屋に上げたのはじめてだからわからない。どうしよう。聞きにいくべきかしら)」
シンジ『もうやめたほうがいいですよ』
ヒカリ「…………」トクトクトクトク
シンジ『この人、痴漢です』
ヒカリ「…………はぁ」ドボドボドボドボ
ヒカリ「つめた……あっ⁉ やだ! いけない! フキンどこだっけ!」
- 洞木宅 ヒカリ部屋 -
ヒカリ「おまたせ……」
シンジ「うん」
ヒカリ「ごめんね。待ったでしょ?」
シンジ「大丈夫だけど……すごい量だね」
ヒカリ「あの、わからなかったから緑茶、麦茶、オレンジジュース、アップルジュース持ってきたの」カチャカチャ
シンジ「だ、大丈夫? 重そうだし、受け取るよ」
ヒカリ「いいの、お客様なんだし、あのどれがいい?」
シンジ「それじゃ、アップルジュースで」
ヒカリ「うん、わかった」カチャカチャ
シンジ「洞木さん? 動きがかたいよ?」
ヒカリ「へぇっ⁉ な、なにがぁっ⁉」
シンジ「いや、なんでもないんだ、ごめん、忘れて」
ヒカリ「あ、うん――あっ⁉」
ガチャーーン
シンジ「…………」ビッチョリ
ヒカリ「た、大変! 碇くん! すぐ脱いで!」
シンジ「えぇ⁉ いや、大丈夫だよ!」
ヒカリ「制服、染みになる! はやく手洗いしなきゃ!」
シンジ「だって、脱いだら……」
ヒカリ「あっ……!」
シンジ「あの……」
ヒカリ「わ、私のシャツが、えっと、ここのタンスの中に……」
シンジ「…………」
ヒカリ「これ、洗濯してあるやつだから! 柔軟剤使ってるし、変な匂いしないと思うんだけど!」
シンジ「あ、わかった。ありがとう」
ヒカリ「部屋、でてるね! でも、なるべく急いで」
シンジ「――やっぱりすこしピチピチだな」
コンコン
ヒカリ『碇くん? はいってもいい?』
シンジ「どうぞ」
ガチャ
ヒカリ「……ぷっ、あははっ! やだ! すごいサイズ感おかしい」
シンジ「洞木さんが着ろっていったんじゃないか」
ヒカリ「あはっ、あはははっ、ご、ごめんなさい。碇くんって細いから、私のサイズで問題ないかと、あはははっ」
シンジ「はぁ……」
ヒカリ「ご、ごめんね。あ、そうだ。制服、シミ抜きしてくるね。すこし待ってて」
シンジ「洞木さん」
ヒカリ「ん?」
シンジ「カーペットはいいの?」
ヒカリ「あぁ、うん。仕方ないよ。目立たない柄だから、先に制服やっちゃう」
シンジ「……わかったよ。でもどうやって帰ったら」
ヒカリ「ドライヤーで乾かせばそんなに時間かからないと思うよ。あの、ごめんね?」
シンジ「いや、気にしてないよ」
ブォーーーッ カチッ
ヒカリ「ん……どうかな。だいぶ、乾いたと思うけど」
シンジ「……うん、本当だ。帰るぶんなら問題なさそうだね」
ヒカリ「あっ、そうだ。アイロンもかけなくちゃ」
シンジ「いや、そこまでしてもらうのは悪いよ」
ヒカリ「気にしないで。私、得意なんだ」
シンジ「わかった、洞木さんって本当にいいお嫁さんになりそうだね」
ヒカリ「そ、そうかな……」コトッ
シンジ「うん、家庭的だし。幸せになれそうな気がする」
ヒカリ「こういうの、得意なだけだよ。アスカみたいにかわいくないし、そばかすも……」
シンジ「ん?」
ヒカリ「肌、荒れやすいんだ。アスカはキレイで、本当に羨ましい。綾波さんも白くてお人形さんみたいで……」
シンジ「うーん」
ヒカリ「あ、今かけるね、このアイロン古くて、熱持つまで少し、時間かかるから――」カチッ
シンジ「洞木さんも、かわいいと思うよ」
ヒカリ「えっ?」
シンジ「見た目にコンプレックス持つのちょっとわかるんだ。僕、かわいいって言われることたまにだけど、あるし。そんな時、僕男なのにって思ったりする」
ヒカリ「あっ……ごめん、私さっき。線が細いって」
シンジ「気にしてないんだ。羨ましいって思うことは普通って言いたかっただけで、なんか変な話してごめんね」
ヒカリ「うぅん、私のこと気づかってくれたの?」
シンジ「うん、というか、自信持っていいんだと思う。洞木さんもかわいいよ」
ヒカリ「か、かわいいだなんて、そんなこと、言われたことないからっ!」
ヴィーーンッ ヴィーーンッ
シンジ「……?」
ヒカリ「……? 碇くん?」
ヴィーーンッ ヴィーーンッ
シンジ「洞木さん? なにか聞こえない?」
ヒカリ「ん……? なんだろうね。ほんと、なにか震えてる音がする」
- ネルフ 本部 -
リツコ「レイ、右手を動かすイメージを描いてみて」
レイ「はい」
オペレーター「データ収集、順調です」
リツコ「もう時間が遅くなってるわ……MAGIを通常に戻して。ジレンマか……作った人間の性格が伺えるわね」
マヤ「前任者の、赤木ナオコ博士ですか? 先輩のお母様の」
リツコ「……そうね……私はシステムアップしただけ。基礎理論と本体を作ったのは、母さんよ」
ポチャン ポチャン
リツコ「また水漏れ?」
シゲル「3日前に搬入されたパーツです。ここですね、変質しているのは」
リツコ「第87蛋白壁ね」
マヤ「拡大するとシミのようなものがあります。何でしょうね、これ」
マコト「浸蝕だろ? 温度と伝導率が若干変化しています。無菌室の劣化はよくあるんです。最近」
シゲル「工期が60日近く圧縮されてますから。また気泡が混ざっていたんでしょう。杜撰ですよ、B棟の工事は」
冬月「そこは、使徒が現れてからの工事だからな」
マコト「無理ないっすよ、みんな疲れてますからね」
冬月「明日までに処理しておけ。碇がうるさいからな」
マコト「了解」
冬月「赤木博士、あとはまかせたぞ」スタスタ
リツコ「はい……。テストに支障は?」
マヤ「今のところは何も」
リツコ「では続けて。このテストはおいそれと中断するわけにいかないわ」
マヤ「了解」
オペレーター「シンクロ位置、正常」
マヤ「シミュレーションプラグを模擬体経由でエヴァ本体と接続します」
オペレーター「了解、エヴァ零号機、コンタクト確認」
ビーッ ビーッ
シゲル「シグマユニットAフロアに汚染警報発令!
リツコ「なに⁉」
オペレーター「第87蛋白壁が劣化、発熱しています。第6パイプにも異常発生」
マヤ「蛋白壁の浸蝕部が増殖しています。爆発的スピードです!」
リツコ「実験中止、第6パイプを緊急閉鎖!」
マヤ「はい!」
ガシャン ガシャン ガシャン
オペレーター「60、38、39、閉鎖されました! 6の42に浸蝕発生!」
マヤ「だめです、浸蝕は壁伝いに進行しています」
ビーッ ビーッ
リツコ「ポリソーム、用意! レーザー、出力最大! 侵入と同時に、発射!エマージェンシーコール止めて! うるさい!」
マヤ「……浸蝕部、6の58に到達、なにか……ここに、来ます!」
シーーーーーン
リツコ「……?」
レイ「きゃあっ⁉」
リツコ「レイ⁉ 異常を報告して!」
マヤ「レイの模擬体が、動いています!」
リツコ「まさか⁉ レーザーは⁉」
マヤ「応答ありません! 浸蝕部、さらに拡大、模擬体の下垂システムを侵しています!」
マヤ「浸蝕部、さらに拡大、模擬体の下垂システムを侵しています!」
リツコ「レイのプラグを緊急射出! レーザーを手動に切り替えて………発射!」
ジュゥ
パキーーン
リツコ「A.T.フィールド!? マヤ、解析急いで!」
マヤ「……っ! 解析パターン出ました!」
リツコ「分析パターン、青。間違いなく、使徒ね」
冬月「使徒? 使徒の侵入を許したのか!?」
リツコ「冬月副司令……申し訳ありません」
冬月「騒しく思い戻ってみれば……言い訳はいい。セントラルドグマを物理閉鎖、シグマユニットと隔離しろ!」
シゲル「セントラルドグマを物理閉鎖、シグマユニットと隔離します!」
冬月「総員退避! ここはこのままで、発令所に急げ!」
- ネルフ本部 発令所 -
『シグマユニットをBフロアより隔離します。全隔壁を閉鎖、該当地区は総員待避』
ゲンドウ「警報を止めろ!」
シゲル「はぁっ……はぁっ……りょ、了解!」
ゲンドウ「誤報だ。探知器のミスだ。日本政府と委員会にはそう伝えろ。他のオペレーターどもは何をやっている!」
シゲル「ま、間もなく」
マヤ&マコト「お、遅れました……!」
ゲンドウ「仕事をしろ!」
マコト「……汚染区域はさらに下降! プリブノーボックスからシグマユニット全域へと広がっています!」
ゲンドウ「汚染はシグマユニットまでで抑えろ。ジオフロントは犠牲にしても構わん。エヴァは?
マヤ「第7ケイジにて待機、パイロットを回収次第、発進できます!」
ゲンドウ「パイロットを待つ必要はない。すぐ地上へ射出しろ」
シゲル&マコト「え?」
ゲンドウ「初号機を最優先だ。そのために他の二機は破棄しても構わん」
マコト「初号機を、ですか?」
シゲル「しかし、エヴァ無しでは、使徒を物理的に殲滅できません!」
ゲンドウ「その前にエヴァを汚染されたらすべて終わりだ。急げ!」
『シグマユニット以下のセントラルドグマは、60秒後に完全閉鎖されます。真空ポンプ作動まで、後30秒です』
- 洞木宅 ヒカリ部屋 -
ヴィーーンッ ヴィーーンッ
シンジ「バイブ音、かな……こっちの方から」
ヒカリ「……?」
シンジ「――ベットの方?」ギシッ
ヒカリ「あっ! い、いいいい碇くんっ! だ、だだだだだめっ!」ガシッ
シンジ「え? う、うわぁ⁉」
ヒカリ「違うの、そ、それは違うの。本当になんでもないの。気にしないで。お願い。お願いだから、気にしないで、忘れて。お願い!」ギュウ
シンジ「わ、わかった、わかったから抱きつかないで」
ヒカリ「あ、ごめん! 私、アスカいるのになんでこんなこと! 抱きつくつもりなかったの! 本当にごめん!」バッ
シンジ「あぁ、いいよ――」
ヴィーーンッ ヴィーーンッ
コトッ コロン
ヴィーーンッ ヴィーーンッ
シンジ「……? これ……」
ヒカリ「あ~~~っ! あ、あの、それ違うの! 違うんだってばぁっ!」
シンジ「(ろ、ローター?)」
ヒカリ「……あぁ、終わった……」ヘナヘナ
シンジ「あぁ、えぇと……」
ヒカリ「ごめんなさい……気持ち悪いよね……うっ……ぐすっ……」
シンジ「あぁ、これ玩具なんだね。妹さんの?」
ヒカリ「えぇっ?」
シンジ「違うの?」
ヒカリ「……あ……」
シンジ「(ちょ、ちょっと苦しかったかな)」
ヒカリ「そ、そうなんだっ! もうノゾミったら! し、仕方ないなぁ!」
シンジ「しまった方がいいと思うよ」
ヒカリ「そうだねっ! そうする!」カシャ
シンジ「……そろそろおいとましようかな」
ヒカリ「えっ? あの、アイロン」
シンジ「遅くなっても洞木さんに悪いし、気持ちだけで」
ヒカリ「あ……ごめんね。落ち着いて話せなくて。…………あの、ほ、ほんとに知らないの?」
シンジ「……?」
ヒカリ「し、知らないんだったらいいんだ」ホッ
- 洞木宅 玄関 -
シンジ「(お姉さんのおさがりってことはないだろうし、通販かなにかで買ったんだろうな)」
ヒカリ「あの、碇くん。今日は色々とありがとう。助けてくれて」
シンジ「僕こそ、洞木さん責任感強くて助かったよ」
ヒカリ「……あの、さっきの……もし、知っても……」
シンジ「誰にも言わないよ」
ヒカリ「えっ⁉ あ、あのっ!」
シンジ「今日は楽しかった、ありがとう。近い内に学校に行くから」
ヒカリ「……や、優しいんだね……うっ……ぅっ……」グスッ
シンジ「あぁ、あの、大丈夫だよ」ポンッ
ヒカリ「うぅ……ぐすっ……」
シンジ「それじゃ、また」
ヒカリ「うんっ! またね!」
- ネルフ本部 発令所 -
リツコ「ほら、ここが純水の境目、酸素の多いところよ」
マヤ「好みがハッキリしてますね」
シゲル「無菌状態維持のため、オゾンを噴出しているところは汚染されていません」
ミサト「つまり、酸素に弱い、ってこと?」
リツコ「らしいわね」
マコト「オゾン注入、濃度、増加しています」カチカチ
シゲル「効いてる効いてる」
冬月「場所が問題だな」
ゲンドウ「あぁ。アダムに近い」
ピピッ
マヤ「0Aと0Bは回復しそうです」
シゲル「パイプ周り、正常値に戻りました」
マコト「やはり、中心部は強いですね」
冬月「よし、オゾンを増やせ」
リツコ「変ね……」
シゲル「あれ? 増えてるぞ」
マコト「変です……発熱が高まってます」
ビーッ ビーッ
シゲル「汚染域、また拡大しています!」
ゲンドウ「警報を止めろ。二度と鳴らないようにしておけ」
マヤ「了解、だめです、まるで効果が無くなりました!」
マコト「今度はどんどんオゾンを吸っています」
リツコ「オゾン止めて! ……すごい……進化しているんだわ。この短い時間に」
- リツコ宅 夜 -
シンジ「ただいまぁ、あれ? 電気ついてない……綾波? いないの?」
パチッ
加持「よっ。色男」
シンジ「――加持さん?」
加持「久しぶりだな。シンジくん。こうして会って話すのはいつ以来か」
シンジ「本当に久しぶりですね。ネルフは大丈夫なんですか?」
加持「俺が指名手配されてるのを知ってるのかい?」
シンジ「僕も、いろいろと調べてますから」
加持「今頃、ネルフは使徒対応でてんてこ舞いさ。こういう時じゃないと自由に動けないんでね、寄らせてもらった」
シンジ「なにか飲みますか?」
加持「そうだな、タバコ吸ってもいいかい?」
シンジ「かまいませんよ」カチャカチャ
加持「……ふぅー」
シンジ「酒にします?」
加持「いや、やめとくよ。シンジ君に潰されそうだ。酔わないのも体質変化のせいかい?」
シンジ「わかりません。僕自身、まだ全てに慣れたわけじゃないんです」
加持「全てを思い出してもかい?」
シンジ「できることの把握と実感はまた別です。情報が多すぎるんですよ。今はひとつひとつ答え合わせをしています」
加持「…………」
シンジ「あまり見たくないんですよ。僕が人じゃないみたいで」
加持「過去やこれから起こることを知ってる時点で普通ではいられないさ。現実と向き合う覚悟はできたんだろう?」
シンジ「踏ん切りがついていない部分もあります」
加持「そうか」
シンジ「すみません」
加持「シンジくん、俺たちは5年前から秘密裏に準備を進めてきた。君が融合を果たした時に遅くならないためにね。俺たちの計画では不満か?」
シンジ「僕のやりたいことと必ずしも一致するとは限りません」
加持「甘いな。シンジくんは。時には汚れ仕事も必要だぞ」
シンジ「それじゃ父さん達と何も変わらない、それに、そんなのは屁理屈です。僕は僕のやり方でみんなを守ってみせます」
加持「…………」
シンジ「加持さんが、僕が思い出した時に繋がりやすいよう種を蒔いていたのはわかりました。でも、マリさんがわからないんです」
加持「…………」
シンジ「彼女は何者なんですか?」
加持「それは俺の口からは言えない。マリに直接聞いてくれ」
シンジ「なぜ僕と同じ視点なんです。そんなことはありえないはずなのに」
加持「ひとつだけ言えるのは、イレギュラーだからさ」
シンジ「…………」
加持「俺は、マリにセカンドインパクト、E計画、そしてきたるべき人類補完計画の全容を聞いた時、その真相に愕然とした。全ては仕組まれていたことにな」
シンジ「…………」
加持「碇司令やゼーレにとって望むべき補完は初号機による遂行だが、俺たちにとっては、シンジくん。君こそが鍵なのさ」
シンジ「勝手に頼りにされても困ります」
加持「ふー。なぜそんなにはやく記憶を取り戻せた?」
シンジ「……答えようがないんですよ」
加持「マリからも言われたかもしれないが、予定外なのさ。君の覚醒は。俺たちは参号機こそがターニングポイントになると考えている。シンジ君はどうだい? どう乗り切るつもりだ?」
シンジ「考えはあります」
加持「ガフの部屋は空だというのには気がついただろう」
シンジ「…………」
加持「リリスの器たる綾波レイ、そしてアダムの――」
シンジ「やめましょう」
加持「もう一度オーバーザレインボーでしたお願いをしたい。シンジくん、俺たちに協力してくれないか?」
シンジ「…………」
加持「君さえ、君とアスカさえいれば俺たちが汚れ仕事をなんでもやってやる、約束する」
シンジ「――目的のために利用するんでしょ⁉ アスカはなぜです? なぜ彼女を巻き込もうとするんですか!」バンッ
加持「必要だからだ。流れは止められない」
シンジ「止めてみせますよ。その為なら、僕はどうなったっていい!」
加持「……わかった。しかし、頭の片隅には置いておてくれ。俺たちは、シンジくんとアスカの味方だということを」
シンジ「いつかは道が違えますよ。その時も味方でいるんですか?」
加持「さぁな。それを決めるのは俺たちじゃない。シンジ君。キミの方さ」
- 翌日 リツコ宅 -
リツコ「…………はぁ」
シンジ「お帰りなさい、リツコさん」
リツコ「あぁ、シンジくん。ごめんなさい、少し休むわね。昨日は使徒の対応で徹夜したのよ」
シンジ「使徒? 使徒って僕たち行かなくてよかったんですか?」
リツコ「えぇ。もう殲滅したから問題ないわ。MAGIを侵食し、内部から支配しようとした使徒だったの」
シンジ「そんな使徒もいるんですね……」
リツコ「あなたは、予定通り、今日は本部にいって。私も午後から合流するわ」
シンジ「綾波は?」
リツコ「レイは、たぶん、ネルフで寝てるんじゃないかしら。あの子もエントリープラグ内で暇疲れしてたはずだから」
シンジ「……わかりました。それじゃ僕は――」
リツコ「……? シンジくん。ちょっと待ちなさい」
シンジ「はい?」
リツコ「私のじゃないタバコの吸い殻があるけど、誰か来てたの?」
シンジ「あぁ、それ加持さんですよ」
リツコ「加持くんが⁉ ここに来てたの⁉」
シンジ「えぇ、と言ってもすぐに帰りましたけど」
リツコ「なにを話したの?」
シンジ「リツコさんは元気にしているか、とかそんなとこですよ、あとミサトさんのことも」
リツコ「それだけ? あなたに何か話したいことがあると言っていたんじゃなくて?」
シンジ「……いえ? なにかあるんですか?」
リツコ「(加持くんは、シンジくんに何か用があってここに来たはず、なにかを話したがっている節があったし)」
シンジ「細かく聞きたいですか?」
リツコ「そうね、詳しく聞きたいわ」
シンジ「それだったら、リツコさんの部屋に行ってもいいですか?」
リツコ「私の部屋?」
シンジ「一度見てみたいなって。仲良くなりたいから」
リツコ「シンジくん。ふざけないでもらえる」
シンジ「ふざけてなんかいませんよ。僕は本気です」
リツコ「尚更タチが悪いわね。私は仲良くなる気なんてこれっぽっちもないわよ」
シンジ「そうですか? 同じ目的があれば歩みよるんじゃ?」
リツコ「……怒るわよ」
シンジ「それじゃ、僕からの質問にいくつか答えてくれたら、いいですよ」
リツコ「シンジくん。疲れてるのよ、子供の遊びには――」
シンジ「これ、なんですけど」スッ
リツコ「…………」
シンジ「リツコさんが気分を抑えると言った薬、これの効果はなんですか?」
リツコ「そのままよ」
シンジ「嘘はつかないでください。効果はなんですか?」
リツコ「シンジくん、いい加減に――」
シンジ「記憶障害を起こさせる薬であってますか」
リツコ「……っ!」
シンジ「……やりたいことは、なんとなくわかります。父さんの命令ですね」
リツコ「…………」
シンジ「この部屋の配置がミサトさんの所と酷似しているのは、おおかた、ミサトさんとアスカのことをリツコさんと綾波にそっくり置き換える為でしょう。違いますか」
リツコ「シンジくん、なにを言ってるの? そんな薬は存在しないわ」
シンジ「もちろん、薬だけでは無理です。でも、洗脳を行えばどうですか」
リツコ「し、シンジくん。あなた……」
シンジ「僕、ちょっと色々あって、酔わなくなったり、薬に対する抵抗力があがってたり、成分がわかったり、まぁ、いろいろあるんです」
リツコ「な、なにを言ってるの?」
シンジ「リツコさん。すみません。本当は、リツコさんも守りたかった。父さんに協力しないでほしいとお願いしても無理でしょうから、こっちに来てもらっていいですか」
- リツコ 部屋 -
リツコ「シンジくんっ! やめなさい!」ジタバタ
シンジ「昨日、加持さんが帰った後、考えてみたんですよ。たしかに僕は汚れようとはしていない。みんなを守りたいから」ギュッギュッ
リツコ「縄をほどきなさい! 大声あげるわよ!」キッ
シンジ「でも、それじゃ、どうしても無理なんだろうなって思ったのもあるんです。それだったら、せめて、僕が手を汚すべきだろうって……これガムテープです。口塞ぎますね」ベリッ ピト
リツコ「んーっ!」
シンジ「リツコさん、今から僕はリツコさんを犯します」
リツコ「んんっ⁉」
シンジ「それから少し、話をしましょう」
リツコ「んんっ! んっ! んーっ!」ジタバタ
シンジ「荒いかもしれません、覚悟してくださいね――」
- 10時間後 リツコ宅 -
ガチャ
レイ「……ただいま」
シンジ「おかえり、綾波」
レイ「碇くん。今日はネルフじゃないの?」
シンジ「リツコさんが熱出して倒れちゃったから、その看病してたんだ」
レイ「……そう」
シンジ「なんか、定期検査? 近いから今日は風邪がうつると悪いみたいで、リツコさんから綾波は自宅にいてほしいって伝言頼まれたけど?」
レイ「今も、部屋で寝てるの?」
シンジ「うん、ようやく寝ついたところだから」
レイ「わかった。他にはなにか伝言ある?」
シンジ「ううん、特にないよ」
レイ「それ、おかゆ?」
シンジ「あぁ、うん。起きたら食べさせようと思って」
レイ「……そう。それじゃ、私、もう行く」
シンジ「もう少しゆっくりしていったら?」
レイ「命令だもの……碇くん、また」
- リツコ 部屋 -
ガラガラ
リツコ「ぁっ……んぁっ……はぁはぁっ……」
シンジ「リツコさん、綾波帰りましたよ」
リツコ「ひっ⁉ もう、やめて……もう、いや……」
シンジ「そんなにこわがらなくていいですよ」スッ
リツコ「い、いやっ! さわらないでっ! こないで!」
シンジ「これで時間はたっぷりあります」
リツコ「無理なのよ……っこれ以上は無理……」
シンジ「言葉を発しなくなるまで続けますよ」
リツコ「だ、だれか、たすけ……」
シンジ「――さぁ、リツコさん」
- 翌日 リツコ宅 -
チュンチュン
シンジ「……もう朝か」
リツコ「ぁっ……あっ……」ピクピク
シンジ「リツコさん、僕の目を見てください」
リツコ「…………」
シンジ「目が赤くなってるのわかりますか? あなたにとって父さんはもう不要です。ゴミクズ以下でしかない。代わりに僕がいます」
リツコ「……ぁっ……」
シンジ「僕が守ります。あなたは、いや、あなたにとって僕しかいない」
リツコ「…………はい」
シンジ「復唱してください」
リツコ「……碇司令は、ゴミクズ、私には、シンジくんしか、いない……」
シンジ「そうです。では、そのまま目を瞑って」
リツコ「…………」スッ
シンジ「心地いい眠気があなたを包みます。深く、深く、意識を失っていきます……」
リツコ「……すぅー……」
シンジ「起きた時には、あなたは風邪をひいていたということだけを覚えています」
リツコ「…………」
シンジ「おやすみ、リツコさん」ナデナデ
- ネルフ本部 -
ミサト「リツコは今日も休み?」
マヤ「はい、さっきシンジくんから連絡があってだいぶ熱さがったそうなんですけど」
ミサト「風邪なんてめずらしいわね。先の使徒のやつで糸がきれちゃったか」
マヤ「よっぽど辛いんでしょうね。熱があっても出てきそうですし、先輩なら」
ミサト「そうね……」
マヤ「シンジくん、良い子ですよね。先輩たまに、嫌な当たり方する時あるけど、こんなに献身的に看病するなんて」
ミサト「良い子よ。でも、シンジくんまで休む必要ないと思うけど」
マヤ「あ、それなら問題ないです。先輩が落ち着いたから本日よりテストに復帰するって合わせて連絡ありました」
ミサト「そっか、そろそろシンジくんも学校に行かせてあげたいなー」
マヤ「現在のシンジくんの監督官は先輩ですから、とりあえず、回復してみないことにはなんとも……」
ミサト「マヤちゃんも協力してくれる?」
マヤ「そうですね……後押しだけなら……」
ミサト「ありがとー! 助かるわぁー!」
- 第三新東京市立第壱中学校 昼休み -
ヒカリ「はぁ……」
アスカ「ヒカリ? 昨日もずっとため息ばっかりだったけどなんかあったの?」
マナ「そうだよ。2日も引きずるなんて、どうしたの?」
ヒカリ「はぁ……」
アスカ「また聞こえてないわね」
マナ「うーん」
ケンスケ「トウジ? 今日も購買パンか?」
トウジ「おう、委員長が作り忘れたらしくての」
ケンスケ「たしかに、様子がおかしいな、トウジ聞いてみろよ」
トウジ「なんでワシが」
アスカ「この鈍感っ!」スパーンッ
トウジ「いっ⁉ おまっ! いつのまにハリセン作っとんねん!」
アスカ「どぉ? これ授業中暇だったから作ってみたのよ」ブンッブンッ
ケンスケ「器用な……よく先生にバレなかったな……」
アスカ「まぁ、なんでもいいからはやく聞いてみなさい。このハリセンが振りかぶられる前にね」
ヒカリ「はぁ……」
トウジ「……ちっ、なぁ! 委員長!」
ヒカリ「はぁ……」
トウジ「おーい! おーい! ブース!」
アスカ「……っ!」スパーンッ
トウジ「なんやねん!」
ヒカリ「(碇くん……)」
トウジ「……ちょい、委員長」チョンチョン
ヒカリ「……? 鈴原。なに?」
トウジ「あー、様子がおかしいみたいやが、なにかあったんか?」
ヒカリ「なんで鈴原がそんなこと気にするの?」
トウジ「なんでって、そらまぁ、弁当作って貰っとるからの」
ヒカリ「……?」
トウジ「なんか、あったんなら、相談のるぞ」
ヒカリ「心配してくれてるの?」
トウジ「まぁ、弁当作ってもらっとるからのー」ポリポリ
ヒカリ「お弁当だけなんだ……」
トウジ「……悪いか?」
ケンスケ「おい、トウジ」
ヒカリ「別にあんたの為に作ってるわけじゃないわよっ!」
トウジ「あぁ、ついでやったのぅ」
ヒカリ「……っ! もういい!」ガタンッ
タタタタッ
アスカ「はぁ……」
マナ「鈴原くん、追いかけなくちゃ」
トウジ「なんでワシが」
アスカ「ヒカリ泣かしたら、あんたとは二度とご飯食べない。たとえシンジの友達でも」
トウジ「ワシが悪いこと言うたわけやないやろ!」
ケンスケ「………トウジ」
マナ「とにかく、追いかけてあげて。ね?」
トウジ「ちっ」ガタッ
タタタタッ
ケンスケ「許してやってくれよ。トウジも悪いやつじゃないんだ」
アスカ「相田の気持ちもわからないでもないわ。でも、ヒカリか鈴原だったら私はヒカリの味方」
ケンスケ「…………」
アスカ「私がなに言いたいかわかるでしょ?」
ケンスケ「あぁ……わかる」
マナ「まだうまくいくってこともあるから……」
- 第三新東京市立第壱中学校 屋上 -
ガチャ
トウジ「…………」
ヒカリ「なにしにきたの?」
トウジ「……みんな心配しとるぞ」
ヒカリ「言われたから来たんだね……」
トウジ「まぁ、それも、ある」
ヒカリ「――鈴原、私、鈴原のこと好きだった。優しいところ」
トウジ「は、はぁ⁉ なんでそんなこと……」
ヒカリ「お弁当も鈴原の為に作ってきたの」
トウジ「あ……」
ヒカリ「でも、もうやめるね」
トウジ「…………」
ヒカリ「私、もうやめることにしたから」
トウジ「……なんでそんなこといまさら」
ヒカリ「ううん。言いたかっただけ。今さらだけど、私のために言わなくちゃいけなかったの」
トウジ「…………」
ヒカリ「さ、戻ろう? 私たちこれまで通り、友達だよね?」
トウジ「まぁ、そやな」
トウジ「…………」
- 第三新東京市第壱中学校 教室 -
ヒカリ「あの、アスカ。マナ、ちょっといい?」
アスカ&マナ「…………」コクリ
ヒカリ「鈴原、相田くんと向こう行っててもらえる?」
トウジ「……おう、わかった……」
ケンスケ「おい、トウジ! どうしたんだよ」
トウジ「ケンスケ、今はなんも言わんといてくれ。とりあえず、ワシらは話の邪魔や。今日は屋上にでも行くか」
ケンスケ「……わかったよ」
スタスタ
アスカ「――それで? どうしたの? 大丈夫?」
ヒカリ「うん、平気。不思議と全然悲しくなかった」
マナ「それって……振られた?」
アスカ「あいつっ……!!」ガタッ
ヒカリ「ま、待って! 違う、違うの。私からもうやめるって言った」
アスカ「……え」
ヒカリ「私から好きだったけど、お弁当作るのもうやめるって言っちゃった」
マナ「あ……」
アスカ「ヒカリはそれでいいの?」
ヒカリ「うん。いつまでも続けてもしかたないもの」
マナ「そっか……」
ヒカリ「だから、これまで通り、お友達」
アスカ「しっかたないわねぇ! ヒカリがそう決めたなんなら! 私も賛成よ!」
ヒカリ「アスカ……ありがと、えへへ」
アスカ「じゃあ、ずっとそのこと考えてたのね?」
ヒカリ「え?」
マナ「え? 違うの?」
ヒカリ「あ、うーんと、考えてたのは――」
シンジ『ありがとう、今日は楽しかった』
ヒカリ「……っ!」ボンッ
アスカ「ヒカリ? 顔真っ赤よ?」
- ネルフ本部 -
ミサト「シンちゃーん! お疲れ様!」
シンジ「ミサトさん、どうも」
ミサト「調子はどぉ?」
シンジ「変わりはないですよ。ミサトさんとアスカも元気ですか?」
ミサト「こっちも大丈夫よ」
シンジ「それならよかったです」
ミサト「リツコが熱だしたって聞いてるけど、本当?」
シンジ「はい、もう落ち着いてますから、明日はでてくるって言ってましたよ」
ミサト「そっか。明日、シンジくん、学校行けるように頼んでみるから」
シンジ「ありがとうございます。僕も学校行きたいですし」
ミサト「そうよね。シンジくん、リツコのこと、ずっと看病してくれてたんですってね? ありがとう」
シンジ「立ち上がるのも辛そうだったので、できることをしただけです。インフルエンザかと思ったんですけど、熱が下がったのでその心配もなくて」
ミサト「……本当にありがと。あいつ、一人で抱えこんじゃう所があるから。内心ではシンジくんに感謝してると思うの」
シンジ「いえ、そんな」
ミサト「なんかおごるわよ」
シンジ「大丈夫です。今日は帰っておかゆ作ってあげないと」
ミサト「し、しんちゃ~ん!」ギュウ
シンジ「うわぁ⁉ ちょ、ちょっと! ミサトさん、離してくださいよ!」
ミサト「きっと大丈夫よ! リツコもそのうち優しくなるわ!」
- リツコ宅 夜 -
シンジ「……ただいま」
レイ「おかえり」
シンジ「リツコさんの様子はどう?」
レイ「リビングでドラマ見てる」
トタトタ
シンジ「リツコさん、ただいま」
リツコ「あら、おかえりなさい。シンジくん」
シンジ「風邪の具合はどうですか?」
リツコ「起きた時は体がダルかったけど、時間がたつにつれて良くなったわ。薬が効いたみたいね」
シンジ「そうですか」
リツコ「――シンジくん。レイから聞いたわ。ずっと看病してくれてありがとう」
シンジ「いえ、大丈夫ですよ」
リツコ「なんだか、気分もスッキリしてるのよ。シンジくんのおかげね」
レイ「…………」
リツコ「明日に、ゴミ……碇司令に報告があるから、それが終わったら学校に行けるようになるわ。もう少し我慢してちょうだいね」
シンジ「わかりました。すみません」
リツコ「いいのよ。それじゃご飯の支度でもする?」
シンジ「あの、リツコさん」
リツコ「なに?」
シンジ「僕が守りますから」
リツコ「あ、ありがと……」
レイ「……?」
- 翌日 ネルフ本部 ??? -
ゲンドウ「報告しろ」
リツコ「シンジくんの洗脳ですが、完了いたしました」
冬月「なにっ⁉ 予定よりずっとはやくないか⁉」
リツコ「止むを得ず、私の独断で決行いたしました。経緯は文書でまとめております」
ゲンドウ「うまくいったのか?」
リツコ「はい、徐々にではありますが、レイをアスカと捉え、置き換えていきます」
冬月「すぐにではないのかね?」
リツコ「あまり無理をしないようにとなると、急激な変化は脳への負担になります。まだ時間はありますし、結果が変わらなければ同じことかと」
ゲンドウ「完璧に刷り込ませるにはどれぐらいかかる」
リツコ「長い期間は擁しません。準備期間と同じく一週間もあれば完了いたしますわ」
ゲンドウ「それならばいい」
冬月「ふぅ……これでサードチルドレンとセカンドチルドレンの問題は解決したな」
リツコ「シンジくんは明日から学校に登校させます。接触における変化も見たいので」
ゲンドウ「わかった。さがっていい」
リツコ「(簡単ね。ゴミが)」
- ネルフ本部 ラボ -
ミサト「お邪魔するわよん」
マヤ「…………」ビクビク
リツコ「ミサト? マヤ?」
ミサト「風邪がなおって何よりだわ。けっこう大変だったみたいね」
リツコ「ほとんど意識がなかったわね。記憶もおぼろげよ」
マヤ「そんなに? 病院で検査を受けた方がいいんじゃないですか?」
リツコ「一応、私だって医師のはしくれでもあるのよ。今朝方、メディカルチェックは済ませてある。何も問題なかったわ」
マヤ「それじゃぁ、完全に治ったってことですね」
ミサト「ちょっとまってよぉ~。誰のおかげか忘れてない?」
マヤ「ソ、ソウダー。シンジくんのオカゲダー」
ミサト「若いツバメに看病してもらったご感想は?」ニマニマ
リツコ「……ふぅ。ミサトもあいかわらずね」
ミサト「人間そんな簡単に変わりゃしないわよ」
リツコ「シンジくんには感謝しているわ」
ミサト「おっ?」
マヤ「先輩?」
リツコ「明日から学校に行かせる。これでいい?」
ミサト「リツコぉ~~っ!」ギュウ
リツコ「私、懐かれるのは苦手。猫派なのよ」
- 第三新東京市立第壱中学校 昼休み -
アスカ「ヒカリ、それひとつもらっていい?」
ヒカリ「うん、いいよ」
マナ「いいな、私も交換したい」
トウジ「……」もぐもぐ
ケンスケ「なぁ、トウジ。あいつらと一緒に食べないのか?」
トウジ「まぁな」あむっ
ケンスケ「やっぱり昨日なんかあったんじゃ?」
トウジ「なんもない言うとるやろ」
ケンスケ「そんなわけないけどなぁ~」
トウジ「お前もしつこいやっちゃのー。別にええやろ。あいつらと食べへんでも」
ケンスケ「はぁ……碇はまだ来ないのかなぁ……」
- 夜 ミサト宅 -
アスカ「それ本当⁉ シンジが明日から学校に来るの⁉」
ミサト「そうよ。リツコから許可がでたわ。よかったわね」
アスカ「はぁ~~~長かった」
ミサト「あんた達ぐらいの歳の1日って密度濃いものね」
アスカ「また、ばばくさいことを」
ミサト「ハタチを超えたら時間の流れなんかあっという間なんだからね! 気がつけばもう年末とかあるのよ!」
アスカ「はいはい」
ミサト「まぁ、言ってわかるもんじゃないか」
アスカ「私にだってわかることぐらいあるわよ」
ミサト「なに?」
アスカ「ミサトはね、スレてんのよ」
ミサト「こ、こらっ!」
アスカ「きゃあ! あははっ」
ミサト「……アスカもよく笑うようになったわね」
アスカ「そう?」
ミサト「シンジくんのおかげ?」
アスカ「そうよ。今の私は変わったところも、前の私もそれしかないわ」
ミサト「おーあついあつい」
アスカ「ミサトも次の恋愛見つけたら?」
ミサト「余計なお・せ・わ!」
- 夜 リツコ宅 -
リツコ「シンジくん? 起きてる?」
シンジ「はい、起きてますよ」
リツコ「なんだか、眠れなくて。話し相手になってもらっていいかしら」
シンジ「僕でよければ」
リツコ「少し、勝手に喋らさせてもらってもいい」
シンジ「はい」
リツコ「……ふぅ」
シンジ「…………」
リツコ「私はね、あなたのお父さんにレイプされたことがあるの。碇司令は、私の母とも関係を持っていたけれど」
シンジ「…………」
リツコ「母さんはね、女でありたかったんだと思う。いくつになっても。……私も同じね。研究者という傍で、男日照りな毎日を億劫に過ごしてきた」
シンジ「…………」
リツコ「研究に没頭することで、煩悩を忘れたふりをして、そうしている内に、またズルズルと碇司令と関係を持ってしまった」
シンジ「…………」
リツコ「人間としては失格なんだと思うわ。私も、あなたのお父さんも。笑っちゃうわよね。息子のあなたにこんな話をしてるんだもの」
シンジ「僕は平気ですよ」
リツコ「でも、不思議なの。碇司令を愛していたはずなのに今はゴミクズだと思える。シンジくんが、その、ずっと素敵に見えるの。異性として……」
シンジ「嬉しいです」
リツコ「シンジくんの歳からしたらおばさんでしょ?」
シンジ「いえ、そんなこと。ここ、さわってみてください」
リツコ「……? ……あら……私で?」サワサワ
シンジ「はい。ここは綾波の部屋と近いから、リツコさんの部屋行きませんか」
リツコ「えぇ……」
- リツコ宅 リツコ部屋 -
リツコ「――これが、あなたのお父さんの計画の全てよ」
シンジ「人類補完計画は起こすつもりなんですね」
リツコ「えぇ。ゼーレも碇司令も変わらないみたい」
シンジ「リツコさんの担当は?」
リツコ「私は実務的なことを除いた裏方的なことを言えば、レイの管理ね」
シンジ「それだけですか?」
リツコ「シンジくん、さっきからあなた、驚かないのね」
シンジ「まぁ父さんのやることですから」
リツコ「レイは碇司令の奥様、つまり、あなたのお母さんであるユイさんに似せて作られた。まだ奥さんを忘れられないのね、碇司令」
シンジ「出自については?」
リツコ「母さんの実験からスタートしているから、私もわからないことが多いんだけど、魂はリリスのものよ。あの子の肉体と精神はただの器でしかない」
シンジ「…………」
リツコ「ネルフの最深部に磔にされている、第2使徒と融合することによって本来の形になるの」
シンジ「だから、父さんはレイに固執しているんですね」
リツコ「えぇ。奥様とリリスの、いうなればハイブリッドですもの」
シンジ「僕のこと、洗脳されてるって誤魔化してもらえます?」
リツコ「今日済ませてあるわよ。報告と同時にね」
シンジ「ありがとうございます」
リツコ「いいのよ。私にはもうシンジくんしかいないもの」
シンジ「リツコさん……」
リツコ「あっ……元気ね……碇司令とはやっぱり違う……」
- 翌日 リツコ宅 -
シンジ「(リツコさんは僕の味方になった。人の感情を暗示まがいとはいえ操作できるなんて、ますます人間じゃなくなってくな……)」
レイ「碇くん」
シンジ「(これで、やってることは結局、父さんと変わらなくなってしまった。僕は、目的の為にリツコさんを利用してるんだ。アスカや、みんなを騙して)」
レイ「…………」
シンジ「(せめて、誠意を尽くそう。父さんとの違いを感じたいからじゃない。僕がそうしたいからそうするんだ)」
レイ「碇くん?」
シンジ「――あ、うん? どうしたの? 綾波」
レイ「今日から、学校、行くんでしょ」
リツコ「えぇ、そうよ」
レイ「私と一緒に行く?」
リツコ「そうね。レイと一緒に行ってもらうわ」
シンジ「わかりました……」
- 第三新東京市立第壱中学校 -
アスカ「…………」ソワソワ
ヒカリ「アスカ、おはよう。今日ははやいね」
アスカ「えぇ、今日からシンジがまた来るからね」
ヒカリ「えっ? 碇くん来られるようになったの?」
アスカ「本当、ようやくよね。ネルフの実験に付き合わさせられてばかりだったから」
ヒカリ「(碇くん、来るんだ……)」
マナ「おはよう、アスカ、ヒカリ」
ヒカリ「マナ、おはよう」
マナ「今日ははやいね」
ヒカリ「同じこと言ってる」
マナ「え?」
ヒカリ「今日から、また碇くんが来るんだって」
マナ「あぁ~そうなんだ」
ガラガラッ
シンジ「なんだか、久しぶりな気がするな」
レイ「私、席に行くから」
シンジ「わかっ――」
アスカ「シンジっ!」ギュウ
マナ「……わぁ……」
ヒカリ「…………」
トウジ「シンジ、おはよーさん」
ケンスケ「待ってたぞ、碇」
シンジ「トウジ、ケンスケ。久しぶりだね」
トウジ「まぁ、そんなでもないけどな。なんだか久しぶり会う気がするのー」
ケンスケ「ほんとほんと。碇もいないとな」
アスカ「お邪魔虫はあっちいって、シッシッ」
ヒカリ「あの、アスカ、みんな見てるよ」
アスカ「別に気にしてないからいいの」ギュウ
ヒカリ「ひっつきすぎだよ……」
アスカ「ヒカリ?」
シンジ「とにかく、席につこうよ」
マナ「碇くん、おかえり」
シンジ「ありがとう、マナ」
- 第壱中学校 昼休み -
アスカ「結局あんた達、シンジの金魚のフンなのよねぇ」
トウジ「なんやと!」
ケンスケ「まぁまぁ」
アスカ「だって、シンジにかこつけてまた私達と机囲んでるじゃない」
トウジ「ふん!」
ヒカリ「あの、碇くん、これ食べる?」
シンジ「いいの?」
ヒカリ「うん、食べて」
アスカ「シンジ、あんまりヒカリのとっちゃかわいそうよ」
シンジ「そうだね。僕は、自分の食べるから洞木さんも食べなよ」
ヒカリ「あ……うん」シュン
マナ「…………」
シンジ「アスカ、少し話たいことがあるんだけど、いいかな?」
アスカ「もちろんいいわよ。今?」
シンジ「食べ終わってからでいいよ」
トウジ「おっ。もう夫婦でデートか」
ヒカリ「…………」
マナ「……ヒカリ?」
シンジ「マナも、例の件で放課後話たいんだけどいいかな?」
マナ「あっ! うん! なにか進展があった⁉」
シンジ「そういうわけじゃないんだけど、今後の計画とか話あいたいから」
マナ「わかった!」
- 第三新東京市立第壱中学 屋上 -
アスカ「シンジ、どうしたの?」
シンジ「……会いたかったよ、アスカ」ギュウ
アスカ「あっ……どうしたのよ」ギュウ
シンジ「(アスカ、ごめん。僕はリツコさんと……)」
アスカ「シンジ……私も会いたかった」
シンジ「アスカに話さなきゃならないことがあるんだ」
アスカ「な、なに? まだ結婚は」
シンジ「いや、そうじゃなくて、父さんことでわかったことがあるから」
アスカ「あっ。そ、そうよね。うん、大丈夫。全然、期待なんてしてなかった」
シンジ「……実は、父さんはリツコさんを使って僕のことを洗脳しようとしていたみたいなんだ」
アスカ「えぇ⁉ 洗脳⁉」
シンジ「アスカとミサトさんがリツコさんと綾波に置き換わるようにね」
アスカ「…………」
シンジ「部屋の間取りもほとんど同じなんだ。だから刷り込ませようとしてたんだと思う」
アスカ「……許せない」
シンジ「アスカにも協力してほしいことがある」
アスカ「なんでも言って!」
シンジ「僕が洗脳にかかってるふりをして、アスカに素っ気なくしても大丈夫?」
アスカ「あっ、そっか、誤魔化す為には、そうなるわよね……」
シンジ「うん。だから事前に話し合いをしたかったんだ。アスカのことは大切だから」
アスカ「シンジ……」
シンジ「アスカが嫌なら別の方法を考えるよ」
アスカ「ううん、それが一番いいと思う。わかった。ただ、サインを決めておきましょ」
シンジ「サイン?」
アスカ「人指し指と薬指でXの文字を作るの。私にだけ見えるようにしたらそれでかまわない。シンジが洗脳にかかってない証拠にもなるし、私もそれで我慢する」
シンジ「わかったよ」
アスカ「もう、洗脳にはかかってることになってるの?」
シンジ「そうだね、かかってることにはなってるけど完全にかかりきるまで一週間てことになってる」
アスカ「それなら、今日は大丈夫だったってことね」
シンジ「うん、でも気をつけるに越したことはないから」
- 第三新東京市立第壱中学校 音楽室 放課後 -
マナ「あっ! シンジくん! お待たせ!」
シンジ「待ってたよ、マナ」
マナ「……え?」
シンジ「どうしたの?」
マナ「シンジくん、カラーコンタクトでもいれたの?」
シンジ「え?」
マナ「片目、真っ赤だよ。宝石のルビーみたいですっごくキレイ!」
シンジ「……っ!」バッ
マナ「あ、あれ? どうしたの? なんで隠すの?」
シンジ「夕日のせいじゃないかな?」スッ
マナ「……え……本当だ、元に戻った……でも、さっきはたしかに……」
シンジ「気のせいだよ。それより、学校生活はどう?」
マナ「……そうかな。学校? アスカたちともうまくできてるよ!」
シンジ「仲良くなれたみたいでよかった」
マナ「うん、アスカもね、話したらすごく面白いの。ヒカリは良い子だし」
シンジ「そっか」
マナ「ムサシとケイタの話だったよね?」
シンジ「うん。2人のことは何も心配いらないよ。僕が助けてみせる」
マナ「……シンジくん。ありがとう。私、なにもできないのに」ペコ
シンジ「いいんだ。それより、その後の生活のこと聞いてる?」
マナ「あ……まだなにも……」
シンジ「逃走用のルートは確保されてる。逃げる分には心配いらないよ。ただ――」
マナ「――ここにはもう、いられないんだね」
シンジ「そうなるかもしれない」
マナ「うぅん。はっきり言ってくれていい。シンジくん、優しいから言いずらいよね」
シンジ「…………」
マナ「私ね、助けられても、追求はきっと厳しいものになるってわかってた」
シンジ「たぶん、3人は死んだことになると思う」
マナ「それって、戸籍とかもなくなっちゃうの?」
シンジ「本人としてはね。別人の戸籍が用意されて、別人として生きていく」
マナ「…………」
シンジ「顔がわれてるから、他にどうしようもないんだ。あとは、整形でもするしか……」
マナ「いいの。覚悟はしてたことだから」
シンジ「ごめん」
マナ「謝らないで。助けてくれるだけでも充分だよ……」
シンジ「…………」
マナ「私ね、ずっと自由に憧れてた」
シンジ「自由?」
マナ「うん、籠の中で生活してる鳥みたいに、いつか大空に羽ばたいてみたいって」
シンジ「それは、叶うよ」
マナ「うん! 別人になっても私は私だものっ!」
- 帰宅中 -
マナ「シンジくんと2人で帰るのってはじめてだね!」
シンジ「……そうだね」
マナ「ん~元気ないな、私のこと気にしてくれてるの?」
シンジ「僕が、なにかもっとできることがあるんじやないかって」
マナ「アスカ達と別れるのはさみしいけど……卒業したら、もしかしたら疎遠になることもあるかもしれないよ? だから、先に私が旅立つの。そう考えない?」
シンジ「うん」
マナ「シンジくん、何も怒らないんだね」
シンジ「ん?」
マナ「私がなにを目的に近づこうとしたかも、全部聞いてるんでしょう?」
シンジ「あぁ」
マナ「私は情報、その代わりに助けてもらえる。お互いに有益かもしれないけど、シンジくんにとってなにが得になるの?」
シンジ「損得じゃないよ」
マナ「えっ」
シンジ「助けたいから助ける。僕はそれだけ」
マナ「え? でも、なにか得があるから取り引きっ……シンジくん、もしかして情報いらなかったの?」
シンジ「必要としてる人はいるだろうけど、僕自身は全然」
マナ「えぇっ⁉ そんな、だって、それじゃ、話が」
シンジ「いいんじゃないかな。必要としてる人がいれば」
マナ「あっ……」
シンジ「…………」テクテク
マナ「ごめんなさい。もっとはやくにシンジくんに聞くべきだった。勝手なことばかり言って……」
シンジ「いいよ。マナにとっては2人の安全が大切だと思うから」
マナ「うん……」
シンジ「もうすぐ、会えると思うよ」
マナ「うん、ありがとう――。あ、そうだ、あのね、話飛んじゃってもいい?」
シンジ「ん?」
マナ「私、さっきの赤い瞳のことがどうしても頭から離れなくて、あれって綾波さんと似た色だったなって」
シンジ「マナ」
マナ「あ、ん?」
シンジ「こっち見て」ガシッ
マナ「え? し、シンジくん? ……あっ……」
シンジ「赤い目のことは忘れるんだ」
マナ「……はい……」
- リツコ宅 近くの公園 -
マリ「よ~、ワンコくん」
シンジ「マリさん」
マリ「なんだか、悪いことしちゃってるねぇ~」
シンジ「…………」
マリ「その目、使いすぎると、どんどん人に戻れなくなるよ」
シンジ「いいんだ、僕はどうなっ――」
ガンッ!!
シンジ「いつっ!」
マリ「勝手なこと言うなっ! 人の気持ちを操作するなんて最低なことしてるってわかってんだろうな!」
シンジ「僕が手を汚さないと」
マリ「はぁ。ワンコくんにはガッカリだよ。そんなもんなんだね」
シンジ「…………」
マリ「いい? 人には適材適所ってある。手を汚すなら私たちが汚してあげる。ワンコくんはそのままでいな」
シンジ「……なんでだよ……」
マリ「その目使い続けたらワンコくんの感情がなくなるって! 融合が進むと人の感情がなくなるんだよ!」ガシッ
シンジ「そうしなきゃ助けられないんだ! 仕方ないだろう⁉」グイッ
マリ「……ゲンドウくんと同じじゃん。ほんと、ガッカリ……」
シンジ「……っ!」
マリ「あんな大層な口きいて、加持くんにちょっとなんか言われたらそうなるんだにゃ~」
シンジ「ぼ、僕だって!」
マリ「せめて姫だけは助けろ!」グイッ
シンジ「……っ! なんでアスカだけなんだよ!」
マリ「自分を守れないやつに、他人なんか守れるはずないじゃん? あはっ。もしかしてまだ大勢を守れるなんて思ってる?」
シンジ「…………」
マリ「私たちは勝手にやるから、ワンコくんもご勝手に~」ヒラヒラ
- 第三新東京市 某所 -
マリ「……はぁ」
コツコツ
加持「余計なことしちまったかな」
マリ「いいんじゃん? あんな程度で揺らぐならどっちみち無理な話なんだし」
加持「えらくご機嫌ななめじゃないか」
マリ「べっつにぃ~かったるいだけ」
加持「人の気持ちを操作する、か。使徒でさえありえないことだな」
マリ「汚いだけだよ。あんなの」
加持「しかし、効果だけを見れば絶大だ。頼りたくなる気持ちもわかる」
マリ「帰っていい~?」
加持「まぁ、待てよ。シンジくんがこのままズルズルと力を使い続ければどれくらいで人じゃなくなる」
マリ「……もって一ヶ月、ってところかにゃ」
加持「見てみたい気もするね。完璧な融合、歴史の創設者誕生の瞬間を」
マリ「次のステージも救済もないよ。そうなれば、一旦、無に帰すだけ」
加持「どっちみち見られないってわけか」
マリ「さてと、帰ろっと」
- リツコ宅 シンジ部屋 -
ハレルヤ、全能者であり、わたしたちの神である主が王となられた。
黙示録19:6
シンジ「………くそっ!」ガンッ
この世の国は、我らの主と、そのメサイアのものとなった。主は世々限りなく統治される。
黙示録11:15
シンジ「くそっ!くそっ!」ガンッガンッ
王の中の王、主の中の主。
黙示録19:16
シンジ「……はぁっはあっ……」
シンジ「なにやってるんだ、僕は!」ガンッ
- 洞木宅 ヒカリ部屋 -
アスカ「なにこれ? 新刊?」
ヒカリ「うん。あんまり人気はないみたいなんだけど絵だけで買っちゃったんだ」
アスカ「ふーん」ペラペラ
ヒカリ「それ、読んでみたら面白いんだよ。優しい青年が女の子を救う話なんだけど」
アスカ「王道ってやつね」
ヒカリ「まだはやいわよ。それでね、なんていうか、普段は頼りないけど、ここぞって時はちゃんと決めるっていうか」
アスカ「だから、王道でしょ」
ヒカリ「んもう! たまには私の話最後まで聞いてよ!」
アスカ「あははっ、ごめんごめん」
ヒカリ「もー」
アスカ「でも、なんとなくこれシンジに似てる気がする」
ヒカリ「えっ? そ、そうかな」
アスカ「まぁ所詮漫画だけどね。他にはっと」
ヒカリ「あ、これもおすすめ」
アスカ「どれどれ」ペラペラ
ヒカリ「それも最近ハマってるんだ、えへへ」
アスカ「……ヒカリ、これ、さっきのやつと何が違うの?」
ヒカリ「ぜ、全然違うじゃない!」
アスカ「そお? どんな所が?」
ヒカリ「顔立ちとか、あと、こっちはみんなを守ろうとするし」
アスカ「付け加えただけじゃない。それに絵のテイストは一緒よ」
ヒカリ「だ、だって、そういう絵が好きなんだもん」
アスカ「前ってもっと元気系が好きだったじゃない。さっきのもこれもかわいい系だし」
ヒカリ「あ、そ、それは……」
アスカ「……?」
ヒカリ「漫画だし! 元気系はもう飽きちゃっただけ!」
アスカ「ま、そういうもんかしらね」
- マナ宅 -
マナ「……もうすぐ、助けられるからね」
ピンポーン
マナ「あ、はーい」
ガチャ
加持「こんばんは」
マナ「えっと……?」
加持「失礼、ネルフ関係者の者です。伝言をお伝えしにきました」
マナ「あ、ネルフの……」
加持「こちらが身分証明書になります」ピラ
マナ「……はい。たしかに、間違いないですね」
加持「玄関先だと話づらい内容なので、上がってもよろしいでしょうか?」
マナ「わかりました、どうぞ」
- マナ宅 リビング -
マナ「粗茶ですが……」コト
加持「おかまいなく。なんの連絡もなく、突然お伺いして申し訳ない。それに不躾にお邪魔までしてしまい……」
マナ「いえ、それで特別監査員の方が私にどんなご用件ですか?」
加持「戦略自衛隊に配属されている少年兵の件です」
マナ「ムサシとケイタに何が⁉」
加持「いえ、そういうわけではなく、ロボットについて動きがありまして」
マナ「…………」ホッ
加持「ロボットは試験段階のテストを終え、いよいよ実用化に向けての最終フェイズにはいりました」
マナ「……っ! そんな⁉ 早すぎます!」
加持「我々としても困惑しております。お話だと、実用化の目処は6年後だったはずでは?」
マナ「それは間違いありません。技術的にも先を見越して採用された案が数多くあり、パイロットも合わせて選定されました」
加持「つまり、あなたの言葉を信用すれば、未完成品のまま実戦運用されるかもしれないということになりますが」
マナ「……そうなりますね」
加持「しかし、これはあくまで信用すればの話です。ネルフがあなたを保護している理由はご存知ですよね?」
マナ「どういうことですか……」
加持「オフレコの話になりますが、あなたをもう保護できないという意見もでています」
マナ「そんな⁉」
加持「情報が間違っていたという事実は、すなわち、あなたの価値の低下を意味する」
マナ「…………」
加持「情報屋というのは信頼が全てです。正確性とね」
マナ「新しい情報があればどうですか?」
加持「まだなにか聞いてないことでも?」
マナ「いえ、私が情報を探ります」
加持「…………」
マナ「それなら、価値はでますか?」
加持「なんでもいいという話ではないんですよ」
マナ「……なにが、必要なんですか」
加持「人事部からはこういう意見もでています。あなたを戦自との交渉に使うと」
マナ「身柄を引き渡すつもりですか⁉」
加持「どうでしょうか、この機会に一度戻ってみられては」
マナ「そ……そんな……」
加持「我々が調べた結果、戦自のロボットは対エヴァンゲリオン用に開発された兵器だと判明しました。表向きは対使徒になっていますがね」
マナ「私はエヴァに対抗して開発されたと聞きました」
加持「わかったでしょう。例え新しいネタを仕入れたとしてあなたの情報に信頼性がないんですよ。精査しなければならない。そうなれば、弱者の使い道はひとつ、駒としての役割です」
マナ「……っ!」ギュウ
加持「我々としても残念です」
マナ「……お願いします。助けてください、戻ったら、私はきっと……」
加持「内部告発者の待遇がとうなるかはこちらの関与するところではありません」
マナ「…………」
加持「あなたを助けられるとしたらサードチルドレンでしょうか」
マナ「……え?……シンジくんが……」
加持「彼は碇司令のご子息ですからね。ま、私には関係のないことですが。それでは、失礼します」
- リツコ宅 リビング -
シンジ「…………」
リツコ「シンジくん? どうかしたの?」
シンジ「あ、いえ。リツコさん、最近ははやいですね」
リツコ「あら、帰ってこない方がよかった?」
シンジ「そういうわけじゃないですよ。大人数で食べた方がおいしいですから」
リツコ「ふふっ。気をつかわなくていいのに」
シンジ「嬉しいのが本音ですから、気をつかってるわけじゃありませんよ」
レイ「………」もぐもぐ
リツコ「素直に受け取っておくわね。……レイ」
レイ「はい」
リツコ「明日は予定通り、地下で定期検査を行うわ。碇司令立ち会いのもとでね」
レイ「はい、あの、赤木博士」
リツコ「なに?」
レイ「地下の件、碇くんの前でお話してもいいんですか?」
リツコ「ええ。そのかわりこの事は他言無用よ。例え碇司令相手でもね。できる?」
レイ「……はい」
リツコ「結構。信じましょう」
シンジ「ダミーシステムは綾波をベースに?」
リツコ「そうよ。レイの性格思考プログラムを取り入れてある。エヴァの遠隔操作が目的ね。実用化されれば無人機と同様にパイロットは必要なくなる」
レイ「…………」
シンジ「最終的な目標はやはりはそこですか」
リツコ「パイロットのコアを書き換えるのは大変ですもの。シンクロ率管理ひとつとっても効率的とは言えない。その点、ダミーが掲げるシステムはメリットが大きい」
シンジ「エヴァは何体開発が進められてます?」
リツコ「私が知る範囲だと6体ね。ネルフに配属されてる3体を含めずに」
シンジ「…………」
レイ「あの、赤木博士」
リツコ「どうしたの?」
レイ「いいんですか?」
リツコ「ええ。全て他言無用よ? いい?」
レイ「……はい」
- リツコ宅 レイ部屋 -
シンジ『綾波、ちょっといい?』
レイ「……どうぞ」
ガラガラ
シンジ「お邪魔しま……やっぱり、簡素な部屋なんだね」
レイ「必要ないもの。それで、なに?」
シンジ「あぁ、うん。リツコさんから聞いたんだけど、近く移植手術が行われるんだって?」
レイ「……ええ」
シンジ「そっか。嫌じゃないの? 手術」
レイ「命令には逆らえない。するしかない」
シンジ「うーん、そういうことじゃなくて、綾波がどう感じてるか」
レイ「私が?」
シンジ「うん、なにを移植されるか聞いてる?」
レイ「…………」ふるふる
シンジ「そっか。それじゃ嫌かどうかもわからないね」
レイ「与えられた命令に疑問をもつな。そう教わったわ」
シンジ「僕は教えてるんじゃないんだ。綾波がとう感じるか、それを理解して共有したい」
レイ「共有?」
シンジ「そう、なにを考え、どう感じるか。それを知りたかっただけだよ」
レイ「……私の、考え」
シンジ「僕はなにも命令しない。だから考えを言ってもいいんだよ」
レイ「わからない、嫌なのかも、しれない」
シンジ「そっか、綾波、手をかして」
レイ「……?」スッ
シンジ「…………」ギュウ
レイ「……なに、碇くんの手のひら、熱い」
シンジ「……っ!」グッ
レイ「碇くん、熱でもある?」
シンジ「……ふぅ……熱はない、もういいよ」スッ
レイ「……? 碇くん、汗、かいてる」
シンジ「ちょっとした、おまじないをかけておいたんだ。手術をするのは避けられないかもしれないけど、受けても大丈夫だよ」
レイ「どういう?」
シンジ「気にしなくていいよ」
- 翌日 ネルフ本部 ??? -
ゲンドウ「レイ、調子はどうだ」
レイ「問題ありません」
リツコ「…………」カキカキ
ゲンドウ「赤木博士、アダムの移植手術の件はどうなっている」
リツコ「いつでも開始できますわ。本日、行われますか?」
ゲンドウ「レイの肉体はどれくらいもつ」
リツコ「レイにはすでにリリスの魂がはいっています。そこに胎児とはいえ、アダム本体が移植されるとなると器たる肉体のキャパシティを超えます」
ゲンドウ「具体的にいつまでもつか聞いている」
リツコ「一か月ほどで新しい器が必要になります」
ゲンドウ「老人たちはまだ、我々にアダムとリリスがあると気がついていない。今後気がつかれないためにも、然るべき時までレイの肉体に隠すのは必要なことだ」
リツコ「はい」
ゲンドウ「移植手術を本日執り行え。新しい器については赤木博士に一任する」
リツコ「承知いたしました。手術自体は簡単なものです。日帰りできますわ。ただ、性格について一点。移植することにより、アダムの影響を受けることが考えられます。狂暴性を持つかもしれません」
ゲンドウ「かまわん」
レイ「…………」
ゲンドウ「レイ、上がっていい」
レイ「……はい」
- 第三新東京市立第壱中学校 昼休み 屋上 -
マナ「ごめんね、急に呼び出して」
アスカ「かまわないわよ」
シンジ「なにかあった?」
マナ「実は、昨日、ネルフの人が家にきて、もう、保護できないって言われたの」
シンジ「なんだって?」
アスカ「情報を渡してるからその見返りに保護してもらえるんじゃなかったの?」
マナ「情報が間違ってたみたい。だから、もう価値はないって言われちゃった……」
アスカ「えぇ……どうするの?」
マナ「この前の、名前聞いてないんだけど、メガネかけてた人となんとか連絡とれないかな?」
アスカ「……私も連絡先知らないのよ」
マナ「そんな……。あの人からネルフに話してって言われたのに……」
アスカ「まぁ、擁護するわけじゃないけど、話したお陰で今まで保護は受けられてたわけでしょ」
マナ「うん……だけど」
シンジ「…………」
マナ「シンジくんのお父さんに頼んだらなんとかならないかな?」
シンジ「え?」
アスカ「ちょっと、マナ」
マナ「お願い。内部告発者が出戻りなんかしたら、生きていけない……」
アスカ「……っ! いい加減にしなさいよ! つらいのがあんただけだと思ってるの⁉ シンジの父親はね!」
シンジ「いいんだ。マナ、辛いね。僕の父さんに話してなんとかなるなら、そうしてあげたいけど、僕の頼みは聞いてくれそうもないんだ」
マナ「そ、そうかな? シンジくんがお願いすれば、きっと……親子だもの」
シンジ「うちは、ちょっと違うから」
マナ「私のこと、シンジくん、見捨てるの?」
アスカ「こいつっ……!」
シンジ「アスカ、おさえて。見捨てるつもりはない、なんとか助けたいと思ってるよ」
マナ「だったら、なんとかして! 私、不安なのっ!」
シンジ「…………」
マナ「お願い! できるなら……」
バチンッ!!
アスカ「……あんた、私が思ってたやつと違う」
マナ「なによっ! なんでぶつの⁉」キッ
アスカ「わからないの?」
マナ「シンジくんに頼んでなにが悪いのよ!」
アスカ「人って、追い詰められると本性見えるって言うけど、ほんとね」
マナ「アスカ、嫉妬してるの? 私は頼みごとをしてるだけだよ」
アスカ「軽蔑してるだけよ。あんたを」
マナ「嘘。嫉妬してるんだわ。シンジくんが私の頼みごとをきくのが嫌なんでしょ。アスカ、最初の頃、私にシンジくんに近づかないでって言ったし」
アスカ「その件については謝ったわ。あんたも許してくれた。今さら蒸し返すつもり?」
マナ「蒸し返すつもりなんかない! 嫉妬してるって言ってるだけよ!」
アスカ「…………」
マナ「シンジくんが他の子の目にとまるのがこわいの?」
アスカ「ふぅ……。バカね。あんたがシンジを友達としてではなく、利用しようとしてるのに私は怒ってるのよ」
マナ「命がかかってるのよ⁉」
アスカ「私たちパイロットは、いつも命をかけてるわ」
マナ「……っ!」
アスカ「シンジを好きな女としても、シンジの友達からでもどっちでもいい。シンジを大切に思ってる身としては、あんたは許せない」
マナ「私のことだって大切にしてくれていいじゃない!」
アスカ「どうして大切にしていないことになるのよ」
マナ「助けてよ!」
シンジ「アスカ、マナ、もういいよ」
アスカ「……わかった」
マナ「シンジくん、お願い、助けて」スッ
アスカ「シンジにさわるな!」バシッ
マナ「……っ!」キッ
シンジ「マナのことは、僕が助ける」
マナ「ほ、本当⁉」
アスカ「でも、どうやって? 個人が組織を相手取るには難しいわよ」
シンジ「父さんは無理だけど、頼める人がいないわけじゃないから」
マナ「……ありがとう、シンジくん」
アスカ「シンジがやりたいようにやって。協力して欲しい時は声かけてね」
シンジ「ありがとう、アスカ。とりあえず、マナはこれまで通り生活して。なにか進展があれば、すぐに連絡するよ」
マナ「わかった。あの、本当にありがとう」ペコ
アスカ「お礼なんて言うだけタダですもんねぇ」
マナ「……アスカ、喧嘩売ってるでしょ」
アスカ「どうとでも。最初の頃と違ってずいぶん強気じゃない、戦自隠すために猫かぶってたの?」
マナ「別に。ただやられたらやり返すよ」
アスカ「上等よ。こちとら負けるつもりなんかさらさらないわよ」
シンジ「2人とも、そこまでにしておきなよ」
アスカ「シンジ、先に戻ってて。私はこいつと少し話がある」
マナ「誰がこいつよ」
シンジ「…………」ポリポリ
アスカ「心配しないで、友達だってたまにぶつかりあうの」
マナ「…………」
シンジ「……わかった、僕は先に戻ってる」
アスカ「……さて、2人しかいないわよ」
マナ「だからなに?」
アスカ「猫被る必要ないってこと。それともまだ被る?」
マナ「最初から被ってなんかないわ。嫌味な言い方をされたら誰だってムッとする」
アスカ「私はあんたの言い方にムッとしてんのよ」
マナ「シンジくんはあなただけの物じゃないでしょ⁉」
アスカ「利用するつもりしか最初からないくせに」
マナ「そんなことない!」
アスカ「だったらあんたはシンジになにをしてあげるの?」
マナ「できることは、わからないけど、困ってたら助けようって思うよ! それでいいじゃない!」
アスカ「……ふぅ。だめね。やっぱりもう一発ぶたせて」ブンッ
マナ「黙ってさせるわけないよ」パシッ
アスカ「…………」
マナ「クスッ。シンジくんを誘惑しちゃおっかな」
アスカ「なんですって?」
マナ「私、できることないから身体で慰めようかと思う。それもお礼になるし」
アスカ「…………」
マナ「どうせこのまま戻ってもレイプされるかもしれないんだもん。それなら知ってる相手の方がいいな。シンジくんなら優しくしてくれそうだし」
アスカ「あんたの、その全部打算なところが……っ!」
マナ「やっぱり嫉妬なんでしょ?」
アスカ「……もういい」
マナ「逃げるの?」
アスカ「これ以上喋ったらあんたの腐った性根がうつりそうで嫌なだけ」
マナ「なんでそうなるの!」
アスカ「あんた、女すぎるのよ。男がなにを求めてるかわかってる。だから演じことができる。その点は私達似た者同士ね」
マナ「…………」
アスカ「でも、私はあんたみたいに計算で身体を許したりしない。プライドも高い。あんたと同じ状況になってもなりふりかまわず頼ったりしないわ」
マナ「私が弱いって言いたいのね」
アスカ「とてもしたたかだわ。計算できる程度には頭がいいし、ルックスもかわいい」
マナ「…………」
アスカ「誘惑したいならすれば? でも、シンジが乗るとは限らないわよ」
マナ「ふふっ。強がり。本当は不安でいっぱいなくせに。シンジくんのこと信じてる自分が好きなんでしょ」
アスカ「…………」
マナ「私のこと分析していい気にならないでよ! 私だってアスカのこと見てきたんだから!」
アスカ「鏡を見てるみたいで嫌な気分だわ」
マナ「奇遇ね。私も、アスカのことムカつく!」
アスカ「やる気?」
マナ「やったらやり返すってさっき言ったよ」
アスカ「ふん、勝手にすれば」
マナ「勝手にするわよ。シンジくんのこと誘惑してやる」
アスカ「あっそ。シンジのこと傷つけたら許さないわよ」
マナ「喜ぶんじゃないかな? ねえ、アスカ。シンジくんになんで誘惑するか聞かないの?」
アスカ「アホらし。私、先に戻るわよ」
マナ「余裕ぶらないでよ! クラスの男子達に輪姦させるぐらいまた言えば⁉」
アスカ「ファーストが私にかわいそうって言った意味が少しわかる。かわいそうね、あんたって」
マナ「……っ!」
- 第壱中学校 教室 -
ヒカリ「アスカ、マナ、黙っちゃってどうしたの?」
アスカ「なんでもないわよ」
マナ「うん! ちょっと考えごとしてただけ」
ヒカリ「そう? 様子おかしいから喧嘩でもしたのかと」
トウジ「こいつと喧嘩したら、マナはか弱いからすぐやられるやろ」
マナ「そんなことないよぉー」
アスカ「…………」
トウジ「いいや! 誰が見ても明らかや! なぁ、ケンスケ」
ケンスケ「まぁそうだろうなー」
マナ「そ、そうかな」
ケンスケ「マナのブロマイドの売り上げは今やアスカをおさえてナンバー2だぞ!」
マナ「えぇ⁉ 私の写真なんか売ってるの?」
ケンスケ「小遣い稼ぎにさ。いいだろ? ちょっとぐらい」
マナ「いいけど、今度なにかおごってよね」
ケンスケ「へいへい」
ヒカリ「んもう、鈴原達は本当にバカなんだから」
トウジ「売れるもの売ってなにが悪い!」
マナ「……あはは。でもアスカに勝つなんて思わなかったな」チラッ
アスカ「…………」
トウジ「あ? そらー、ルックスはどっこいやけど、中身がな。マナは男子ウケめっちゃいいし」
マナ「ルックス? そうかな?」
トウジ「ま、まぁ、その、ワシも悪くないと……」もごもご
マナ「嬉しいな! 鈴原くんにそう言ってもらえると!」
トウジ「お、おう」
マナ「シンジくんも、その、私、悪くないと思う?」
シンジ「誰が見てもかわいいと思うよ」
マナ「わぁっ! 嬉しいなー!」ギュウ
ヒカリ「ちょ! ちょっとマナ!」ガタッ
マナ「どうしたの?」
ヒカリ「碇くんには、アスカが。それにひっつきすぎだよ」
アスカ「ヒカリ、いいのよ」
ヒカリ「え? アスカ?」
アスカ「そいつはね、やり返してるつもりなだけ。相手にする必要なんかないわ」
ヒカリ「……やっぱり喧嘩してるんじゃない。でも、碇くんにくっついてていの?」
アスカ「別にぃ」
ヒカリ「私、アスカだから我慢してるのに」ボソ
アスカ「ん?」
ヒカリ「はぁ……。なんでもない」
マナ「ねぇねぇ、シンジくん。これ食べて。あ、食べさせてあげよっか?」
シンジ「いや、悪いからいいよ」
ヒカリ「…………」
マナ「えー、遠慮しなくていいよ。あ、ハシ、私の使う?」
ヒカリ「……ちょっと! マナ!」バンッ
マナ「ひ、ヒカリ?」
ヒカリ「あんまりすぎると迷惑になるよ!」
マナ「……ごめん」シュン
シンジ「(こんなことしてる場合じゃないと思うんだけどなぁ)」
- 女子トイレ -
ヒカリ「アスカ、なにがあったの?」
アスカ「ちょっと言い合いしただけ。そのやり返しにシンジにベタついてる感じ」
ヒカリ「碇くん巻き込まれてるだけじゃない」
アスカ「……そうね。でも、それが女のやり方なのよ」
ヒカリ「2人だけで、話つかなかったの?」
アスカ「もう少し時間がたてば、折り合いがつけられると思うわよ」
ヒカリ「…………」
アスカ「それに、ちょっと事情があって、これからシンジにあんまり話しかけられなくなるし」
ヒカリ「え? ど、どういうこと?」
アスカ「ヒカリにも言えないんだ、ごめん」
ヒカリ「なんだか、私、仲間はずれにされてる気がする……」
アスカ「あ、え? そ、そんなつもりは全然ないわよ!」
- 第壱中学校 授業中 音楽室 -
先生「今日は弦楽器の音についてがテーマです。そこの君。弦楽器というとなにを思い浮かべる」
男子生徒「ギターです」
先生「じゃあそっちの君は」
女子生徒「私はバイオリンです」
先生「2人とも正解だ。他にもピアノなども弦楽器の一種になる。これらの楽器特有の音は、弦の張り方や出し方、箱になるものの空洞によって決まる。この中で弦楽器を弾ける者はいるかな?」
シーーーン
先生「吹奏楽部員は? いないかね?」
シンジ「あの、少しなら」スッ
ザワザワ
トウジ「おっ?」
ケンスケ「え? 弾けるのか?」
ヒカリ「アスカ、碇くん。なにかできるの?」
アスカ「わ、私も知らない。はじめて聞いた」
シンジ「チェロです」
先生「ふむ。たしか、裏にあったな。チューニングはできるかね? メトロノームぐらいしかないが」
シンジ「できますよ」
先生「それでは碇くん、前に来なさい。あとそこの君、裏の準備室にチェロがあるから持ってきたまえ。弓も忘れるなよ」
男子生徒「え? 弓ってなんですか?」
先生「バカモン。そんなことも知らんのか。弾くための細長い棒状のものだ」
アハハハ
男子生徒「だったら最初からそう言ってくれりゃいいじゃないすか」ブツブツ
先生「松脂はここにある。これを使いたまえ」
シンジ「ありがとうございます」
トウジ「ほんまに弾けるんかいな?」
ケンスケ「さぁ? 先生も前にでて弾かせるとか鬼畜だよなぁ。これで下手だったら笑い者だぞ」
先生「練習曲はなにをしていた?」
シンジ「エチュードです。それからベートヴェンのソナタやバッハの無伴奏にはいりました」
先生「ふむ。そこそこできそうだな、楽譜読みで弾いてみたまえ」
シンジ「はい」
カチャ カチャ
シーーーン
ヒカリ「ど、どんな感じになるのかな」
アスカ「シッ。ヒカリ、黙って」
シンジ「…………」スッ
「無伴奏チェロ組曲」第1番ト長調、BWV.1007. 第1楽章プレリュード
(Suiten fur Violoncello solo Nr.1 G-dur, BWV.1007 1.Vorspier)
―――
――
―
パチパチパチパチッ
トウジ「やるやんけ! めっちゃうまいな!」
ケンスケ「へぇ」
マナ「わぁ……凄かったね」
ヒカリ「ほんと、凄いね、碇くん、こんなこともできたんだ」
アスカ「うん……まぁまぁね」
ヒカリ「惚れ直した?」
アスカ「ちがっ! べ、別に私は!」
ヒカリ「今さら照れなくてもいいのに」
アスカ「はぁ……はいはい」
先生「はいはい、静かに。碇くん、深みがあり、いい音色でした。席に戻ってよろしい」
シンジ「はい」
先生「いいですか、チェロというものは――」
- 放課後 教室 -
女子生徒A「あの、碇くん、音楽の授業の時、かっこよかった」
女子生徒B「うんうん! それでさ、よかったらなんだけど――」
ケンスケ「ちょぉっとまった! マネージャーを通してもらおうか!」
女子生徒B「相田? なんでシャシャリでてくんの?」
ケンスケ「そりゃ親友だからさ!」
トウジ「せや! ワシたちを通してもらわんとのぉ」
女子生徒A「きもーい」
シンジ「僕は先に帰るよ」
女子生徒B「あ、あのっ、碇くんっ」
ヒカリ「ちょっと、迷惑になるよ」
女子生徒A「委員長? いーじゃん別に。減るもんじゃないしさぁ」
アスカ「なにやってんの……?」
女子生徒A&B「げっ」
アスカ「あんた達、ヒカリいじめてんじゃないでしょうね」
女子生徒A「そ、そんなことしてないよ」
女子生徒B「い、碇くん。またねー」ソソクサー
トウジ「アスカの評判にビビっとるなあいつら」
アスカ「私の評判?」
トウジ「この前お前、綾波押し倒して殴ったり男3人がかりじゃないと止められんかったりしたやろ」
ケンスケ「あれ、学年中にひろがっててさぁ」
アスカ「あぁ、そんなこと」
トウジ「それにしても女っちゅうのはほんま現金やのー」
ケンスケ「まぁ、今回は仕方ないんじゃないか。チェロ弾けるなんてなかなかいないだろうしさぁ」
- 放課後 下駄箱 -
女子生徒C「あの、碇くん」
女子生徒D「あのさ、よかったらなんだけど、これから暇?」
シンジ「ええと」
トウジ「――あれ? あそこに見えるのは……なんや? シンジまた捕まっとるで」
マナ「うわぁ……なんか一気に爆発してきたね」
ヒカリ「……かっこよかったもん。弾いてる姿が不自然じゃなかったし王子様みたいだった」
アスカ「…………」
マナ「アスカ、不安でしょ?」
アスカ「あんたがそう感じてほしいんでしょ」
マナ「ふぅん。あの女子生徒Dって男子がすぐヤレるって話てたの聞いたことあるよ」
ヒカリ「やだ……そんな話してるの? 私たちまだ中学生なのに」
マナ「最近は中学生でもあるんだよー。なんかね、キス魔らしいよ、あの子」
アスカ「へー」
マナ「シンジくん、意外とそういうとこ隙だらけ――」
ガンッ!
アスカ「あんたね、私への当てつけにしても、シンジに助けてもらえるって忘れてない?」
マナ「…………」
アスカ「シンジに感謝してるんだったら、やることあるでしょ」
マナ「……そうだね、ごめん」
トウジ「おー、こわ。マナ、気にすることないで」
マナ「今のは、シンジくんに対して私が悪いの」
トウジ「シンジに?」
マナ「うん、ちょっとごめん」タタタッ
マナ「シンジくん、ごめんね。待った?」
シンジ「……マナ?」
女子生徒C「霧島?」
女子生徒D「えー、霧島と約束してたの?」
マナ「そうなんだ、ごめん。ちょっと相談事があって」
シンジ「……あぁ。そゆことか。いや、僕の方こそごめん」
女子生徒D「それじゃ、次は遊びいこうねぇ~」
女子生徒C「またねぇ碇くん」
シンジ「うん、またね」
マナ「…………」
シンジ「マナ、ありが――」
マナ「シンジくん! 無防備すぎ!」
シンジ「えぇ?」
マナ「あのねぇ、世の中には男子だけが悪い人いるわけじゃないんだからね。女子にもいっぱいいるよ」
シンジ「はぁ……」
マナ「さっきの子、良くない噂いっぱいあるから、気をつけて」
シンジ「うん、まぁ、気をつけるよ。でも、マナは大丈夫なの?」
マナ「私は八方美人だから。うまく付き合ってるし、なんとか誤魔化すよ」
- ミサト宅 夜 -
ピンポーン
ミサト「はーい」
ガチャ
シンジ「こんばんは。ミサトさん」
ミサト「あら?シンジくん。アスカに会いに来たの?」
シンジ「いえ、そういうわけでもないんですけど、上がってもかまわないですか?」
ミサト「た・だ・い・ま。でしょ? 今はリツコの家に住んでるけと、ここはあなたの家よ」
シンジ「はい……。ただいま、ミサトさん」
ミサト「よろしい♪ それじゃどーぞ」
アスカ「ミサトぉ~? 新聞の勧誘?」
ミサト「シンジくんよー」
ドタドタドタドタッ
アスカ「シンジっ⁉」
シンジ「こんばんは。アスカ」
アスカ「我慢できなくなって私に会いに来てくれたのね⁉」
シンジ「うん、まぁ、それもあるけど」ポリポリ
アスカ「嬉しい! 私も会いたかった……」
ミサト「さっきまで学校で一緒だったんでしょ」
アスカ「家の中で会えるのはまた違うのよ」
シンジ「アスカ、今日はミサトさんと話しにきたんだ」
アスカ「えぇ~⁉ 私に会いに来たんじゃないのぉ⁉」
シンジ「もちろんアスカに会いにきたよ。ミサトさんに話があるのも本当だけど」
- ミサト宅 リビング -
ミサト「それで、シンちゃん。話って?」
シンジ「マナのことなんですけど、現状確認しておきたいんです」
アスカ「あぁ、そのことだったの」
ミサト「霧島、マナちゃん? どうしたの? 突然」
シンジ「マナから聞いたんですけど、保護を解除されるかもしれないって」
ミサト「そんな話は初めて聞いたわね……」
アスカ「そうなの?」
ミサト「えぇ。人事からはそういった決定は降りていないはずだけど」
アスカ「それなら簡単ね。ミサトが知らされてないか、マナの勘違いか。このどちらかよ」
ミサト「そうね……。それじゃ、シンちゃんとしては保護が解除されると仮定してそのお話なのかしら?」
シンジ「はい、保護が解除されるなら、野に放たれたウサギと同じですから。いつ襲われるか」
ミサト「……わかったわ。私も人事に確認してみる」
シンジ「あまり時間的猶予があるわけではないので、急かすようで悪いんですが」
ミサト「いいわ。マナちゃんも不安だろうし、ちょっと待ってて」スタスタ
プルルルルッ
ミサト「葛城です……日向くん、ちょっと確認してもらいたいことがあるんだけど」
- 1時間後 リビング -
ミサト「……えぇ……間違いないのね……わかったわ……ありがとう」
ガチャ
アスカ「シンジ、この唐揚げどう?」
シンジ「おいしいよ。どんどん料理が上手になってくね」
アスカ「まぁね! どんどん食べてっ!」
ミサト「う~ん」
シンジ「ミサトさん、もう今の電話」
ミサト「えぇ。日向くんからだったわ。急ぎで調べてくれたみたい」
シンジ「それで……?」
ミサト「結果だけを先に言うと、保護解除の動きはたしかにある」
アスカ「…………」もぐもぐ
ミサト「ただ、決定的というわけでもないんだけど」
シンジ「なにか問題が?」
ミサト「えぇ。彼女の持ちこんだ情報に誤りがあったみたい。それで、今後の取り扱いについて様々な意見がでている」
アスカ「ミサトが知らなかったわけね」
ミサト「そうね。まず1つ目はネルフとの関係を断つ。2つ目は戦自との交渉に使う。3つ目はこのままネルフで保護して使う」
シンジ「…………」
ミサト「割合的には4:4:2と言ったところかしら。単純にネルフとの関係をなかったことにするか、戦自との交渉に使うか、この2つで意見が割れてるみたい」
シンジ「価値がないと判断されたわけですか」
ミサト「一般企業でいうところの事実上の戦力外通知ね。つまり、クビ。ネルフとしても自分達で調べた方が都合がいい」
シンジ「なんとかならないですか?」
ミサト「普通の人なら、なんとかすることはできる。だけど、マナちゃんは普通とは違う。情報屋という立場でしょ」
シンジ「…………」
ミサト「ネルフが骨までしゃぶる為に、マナちゃんを戦自に引き渡すというのも納得できる面もあるわ。それで得られるものがあるから」
シンジ「マナを引き渡した場合、ネルフはなにを得るんです」
ミサト「交渉が進む仮定で駆け引きはあるからまだわからないけど、おそらく、ロボットに関することか、それとも使徒が来た時に、これまで以上に戦自が協力してくれるか、どの可能性を考えても、ネルフにとって悪い話ではないわ」
シンジ「流れを変える方法はありますか?」
ミサト「厳しいわね……。マナちゃんが新しい情報を提示したとしても、人事が交渉のテーブルにつくとは限らない」
シンジ「テーブルにつかせるには?」
ミサト「うぅん。私よりもっと上の立場の人間が必要になる。人事の決定に口を挟めるような。それこそ、碇司令や冬月副司令クラスのね」
シンジ「…………」
ミサト「シンジくんは、マナちゃんを助けたいのね」
アスカ「じゃなかったらこんな話しないでしょ」
ミサト「大人の世界は、時には非情よ。感情だけではない、損得勘定で物事が判断されることもある」
シンジ「わかってます。組織ってそういうものでしょうから」
ミサト「どうするの?」
シンジ「待つだけでは、もったいないですから。父さんに話してみます」
アスカ「し、シンジ⁉」ガタッ
ミサト「碇司令が会ってくれるとは限らないわよ?」
シンジ「駄目もとですよ。できることだけやるだけです」
アスカ「……みわかんない」
シンジ「アスカ?」
アスカ「なんでそこまでするの? たしかにかわいそうだけど、あいつがもっと情報を精査してネルフに提示してればこんなことにならなかった」
ミサト「…………」
アスカ「自業自得ってやつよ。あいつからシンジが得られるものなんて何にもないのに」
ミサト「アスカの言うことももっともだわ。シンジくん、あなたが父親に頭を下げるのは生半可ではないでしょう?」
シンジ「いえ、そんな大袈裟な。アスカも」
アスカ「理由を説明して」
シンジ「……マナはきっと助けたいだけなんだよ。友達を」
アスカ「…………」
シンジ「ネルフに亡命みたいな形で逃げこんだのだって友達を助けたい一心だよね」
ミサト「…………」
シンジ「悪い子じゃないと思うんだ。ただ、少し、友達のことになると必死になりすぎてるだけで」
アスカ「あいつは、私たちよりもテストパイロットの友達を選んでるのよ」
シンジ「……そうだね」
アスカ「あいつにとって、シンジも私たちも、友達なんかじゃないわ。本当の友達が戻ってくるまでのただの繋ぎ」
シンジ「わかってる」
アスカ「あいつの中でテストパイロットを助けるまでという線引きがあるから、私たちに本当の意味で友達になりきれないのよ」
ミサト「…………」
アスカ「あいつ、たまに私たちのやりとりを見て寂しそうな顔をするもの。自分でもわかってるんだわ。馴染みきれてないってことに」
シンジ「…………」
アスカ「少し仲良くなったけど、上っ面だけ。だから、いつまでたってもあいつは、転校生の霧島マナなのよ。クラスメイトじゃない」
ミサト「それでも、シンちゃんはいいの?」
シンジ「はい、それでも僕は助けたいと思います」
アスカ「シンジッ!」バンッ
シンジ「アスカ。全部をわかってくれとは言わない。僕たちは突き詰めると他人だから」
アスカ「…………」
シンジ「アスカが僕のことを考えてくれてるって感じる。ありがとう。だけど、守れるなら、守りたいんだ」
アスカ「どうして?」
シンジ「僕は友達と思ってるから。マナがそうじゃなくてもいい」
アスカ「……あんた、本当にバカね」
アスカ「あいつは、シンジに感謝しても、口先だけなのよ。あんたもわかってるんでしょ」
シンジ「いいんだ」
アスカ「はっきり言って、いくらシンジでも理解できない」
ミサト「アスカ……」
シンジ「アスカにはアスカの考えがあるのもわかる」
アスカ「私は! あんたがそこまでやる必要ないって言ってるの!」
シンジ「なにもなにがなんでもって言ってるわけじゃない。できることをやるだけ」
アスカ「それ、本当?」ジトー
シンジ「うん。本当だよ。無理だったら諦める。アスカだったら諦めないけどね」
アスカ「あ……そ、そんなんで誤魔化されると……っ!」
シンジ「アスカ、部屋に行かない?」
ミサト「あらあら」
アスカ「え、えぇ?」
シンジ「少し話たいんだ。だめかな」
アスカ「い、いいけど……」
シンジ「ミサトさん、音楽でも聞いておいてください」
ミサト「……はいはい。シンジくん、女の扱いばかりうまくなってもどっかのバカみたいになるわよ」
- リツコ宅 リビング -
シンジ「……ただいま」
リツコ「あら、シンジくん。今日は遅かったのね」
シンジ「はい、用事があってミサトさんの所に寄ってました」
リツコ「ミサトの? ……あまりアスカと馴れ馴れしいところを見られてはダメよ。例えミサトでもね。そうしないと誤魔化しきれなくなる。人の口に戸は立てられないもの」
シンジ「すみません」
リツコ「アスカに会いに行ったの?」
シンジ「いえ、リツコさんは霧島マナっ子をご存知ですか?」
リツコ「あぁ、戦自の。内部告発をした子よね。資料には目を通してある」
シンジ「その子がネルフの保護下から外されそうで、ミサトさんに相談しに行ってたんです」
リツコ「ふぅん。なにをやらかしたの?」
シンジ「情報の間違いですね。そんな子には思えないんですけど」
リツコ「ありきたりな話ね。情報というものは生き物だから、状況によって変わることもある」
シンジ「なるほど……」
リツコ「例え現時点で間違っていない情報を渡していたとしても、後で変わる可能性もある。しかし、情報をソースとして扱う側には間違った情報はいらないもの」
シンジ「ふぅん。そこで、僕は彼女を助けたいんですが」
リツコ「保護下をはずれる理由と他の話があれば詳しく話してごらんなさい」
シンジ「――というわけなんですが」
リツコ「人事の動きとしては正しいわね。個人なんか考える必要ないもの」
シンジ「やっぱり、リツコさんもそう思いますか」
リツコ「えぇ。ミサトも同意見でしょ。腐っても作戦司令ですからね」
シンジ「腐ってはいないと思いますけど、そこで父さんか冬月副司令に面談したいんです」
リツコ「ふん……はっきりと言ってもかまわないかしら?」
シンジ「はい」
リツコ「話をしても無駄よ」
シンジ「…………」
リツコ「シンジくんになにか好材料があるわけでもない、ただお願いするだけでの状況では碇司令や副司令は会ってさえくれないでしょう」
シンジ「そう、ですよね」
リツコ「霧島マナって子が人事との交渉のテーブルにつくのが難しいのと同様に、シンジくんが碇司令達との交渉のテーブルにつくのもまた、難しい」
シンジ「なんとか、なりませんか?」
リツコ「私も表向きはシンジくんに肩入れしているというのを隠さなければならないのよ。マナって子のために私を危険に晒す気?」
シンジ「…………」
リツコ「私はシンジくんのためなら危険をおかしてもかまわないけれど、誰かれかまわずでは嫌よ? せめて私のためという名目がほしい。私だって女ですもの」
シンジ「たしかに、マナのために、リツコさんを危険には晒せません」
リツコ「マナって子を捨てられる?」
シンジ「……少し、考えてみます」
- リツコ宅 マンション 屋上 -
シンジ「……ふぅ」
マリ「なんか用?」
シンジ「あぁ、やっぱり来てくれた」
マリ「別にワンコくんの為に来たわけじゃないけど」
シンジ「それでいいんだ。少し話ができるなら」
マリ「なに?」
シンジ「この間は、ごめん」
マリ「ワンコくんが謝る相手がいるとすれば私じゃない。もっとも赤木リツコが事実を知ったら謝っても許さないだろうけど」
シンジ「うん、そうだね」
マリ「で?」
シンジ「リツコさんは、このままにする。父さんと添い遂げても、どうせロクなことにはならない」
マリ「……っ! だからいいってわけ⁉」
シンジ「そうじゃないよ。僕はリツコさんにしたことを死ぬまで誰にも言わない。やったことの罪悪感を抱えて生きていく」
マリ「人としての意思は? 赤木リツコに選ばせないの?」
シンジ「それは僕のエゴだ。リツコさんには知らないままでいてほしいだけ。どんなに綺麗事を並べても意味がないから」
マリ「…………」
シンジ「僕は、僕のエゴでひとりの人生を僕の思いのままに歪めてしまったんだ」
マリ「あっそ」
シンジ「マナについて話たいことがある」
マリ「その目を使えばいいんじゃん。ゲンドウくんにも使えば?」
シンジ「マナはともかく、父さんに使えば1人では済まない。冬月副司令をはじめとして次から次に使わなけれいけない状況に追い込まれる」
マリ「…………」
シンジ「そうなってもいい。僕なんかどうなってもいいんだから。でも、完全に融合してしまえばなにもかも意味がなくなる」
マリ「ふぅ、まぁそうだね」
シンジ「僕の中にある3つの魂は、本来なら1つの肉体では共存できない。魂に肉体が耐えられないから」
マリ「…………」
シンジ「それが融合してしまえばどうなってしまうのか、僕も、わかるよ」
マリ「ま、気がつけたってことね」
シンジ「うん、今後はできれば協力したい」
マリ「それは、私たちの計画に?」
シンジ「そうじゃない。僕はやっぱり、みんなを守りたい。だから、道が違えるまでの間は共同戦線をとらない?」
マリ「私たちにメリットないじゃん」
シンジ「マリさんや加持さんは僕が目的なんでしょ。アスカもはいってるみたいだけど」
マリ「うーん」
シンジ「共同戦線の間は僕も全面的に協力するよ。といってもこのまま使徒を倒し続けることが、協力になるんだろうけど」
マリ「あぁ、もう! わかったよ! それで? 霧島のなんの話?」
シンジ「あの子も僕も交渉のテーブルにつくことは難しい」
マリ「ま、反則技を使えばできないこともないけどにゃー」
シンジ「僕が人でいられなくなるようなマネはしたくない。だから、別の方法を考えたんだ」
マリ「なに?」
シンジ「使徒とロボットをぶつけてほしい」
マリ「ワンコくん、正気かにゃ? 次の使徒はディラックの海だよ」
シンジ「うん、わかってるよ」
マリ「戦自のロボットなんて一瞬で詰むよ? もちろんパイロットも」
シンジ「うん」
マリ「どうするの?」
シンジ「ロボットの無力化を知らしめたいんだ。使徒にはエヴァしかいないってことを」
マリ「……ワンコくん、その情報は古いよ。ロボットは対使徒じゃない。どういうわけか、対エヴァ用兵器になってる」
シンジ「えぇ?」
マリ「前に話たルートの話覚えてる?」
シンジ「あぁ、AとがBとか?」
マリ「そう、私たちが知るのをAだとすれば、今はBになってる。ロボットもそういう感じ。結末は変わらないけど」
シンジ「うぅん」
マリ「ロボットの無力化を知らしめるならエヴァでやっちゃえば?」
シンジ「それだと、改良をくわえて再チャレンジって話にならないかな」
マリ「予算がある内はそうなるね。だけど結果がでなければ予算を取りずらくはなるよ」
シンジ「そもそも、なんで対エヴァなんだろう」
マリ「メンツだよ。戦自は顔を潰されるのを1番嫌うから」
シンジ「…………」
マリ「え? もう万策尽きたの?」
シンジ「いや、思いついたことがあるんだけど」
マリ「おっ? なに?」
シンジ「やっぱり、使徒にはぶつけよう」
マリ「えぇ? なんで?」
シンジ「ディラックの海に飲みこませる直前に僕が助けて戦自のメンツを潰すんだ」
マリ「……逆撫でしちゃうんじゃないかにゃ?」
シンジ「まだ、終わらないよ。ディラックは海は、とてつもない物だから、それを僕、エヴァが撃破して戦自にネルフには敵わないと思わせるんだ」
マリ「エヴァに対する恐怖心を植え付けるの?」
シンジ「うん、どうかな」
マリ「ふーん…………」
シンジ「もしかしたら、結果が変わるかもしれない」
マリ「え?」
シンジ「さっきの話、AでもBでも結果は1つなんだよね」
マリ「まぁ……」
シンジ「でも、全てがうまくいけば、ロボットはいなくなり、テストパイロットとマナは少年兵としての価値がなくなるかもしれない」
マリ「それは甘いよ。駒はいくらあってもいい。捨て駒にできるからにゃ」
シンジ「でも、そうならない未来を作ることができるかもしれない。ほんのわずかな可能性でも、生みだすきっかけになる」
マリ「…………」
シンジ「どう?」
マリ「そうだねぇ~。ま、考えておくよ。期待はしないでね」
- リツコ宅 シンジ部屋 -
シンジ「(マナに戦自が執着してるのは、少年兵としてよりも情報を持っているからなのかな)」
シンジ「(でも、マナはもう、ネルフに情報を全て渡してるはず。だとすれば、情報源としてマナの存在を戦自が危険視しているわけではない)」
シンジ「(……と、すれば、メンツを潰されたからなのかな。でも、メンツを潰されたからマナに復讐したい、そんな理由で戦自がネルフとの交渉のテーブルにつくだろうか……)」
- 第三新東京都市 某所 -
マリ「やっほー」
加持「お前から会いにくるなんてめずらしいな」
マリ「うん、まぁ、 次の使徒なんだけど、ワンコくんからロボットぶつけないかって提案があってさ」
加持「シンジくんから? ……おおかた、霧島マナ絡みか」
マリ「加持くんがあの子の家に行ったんしょ?」
加持「あぁ、ネルフ関係者と言って偽造の身分証を提示したらあっさり信じたよ。ま、渡してる情報は本物だから信じていいんだがね」
マリ「どーでもいいけど、それ絡みなのは正解」
加持「なぜだ?」
マリ「戦自のメンツを潰すこと、エヴァに恐怖心を与えたいみたい」
加持「ふむ……」
マリ「どうしよっか」
加持「しかし、戦自がロボットを作りはじめるきっかけとなったのは日本政府による意向もあるとちゃんと伝えたのか?」
マリ「あ、忘れちった」
加持「おいおい、まぁ、予算が降りてるのかどこからと考えれば辿り着けるかもしれないが」
マリ「政府がネルフのこと嫌いなんだよね」
加持「利権争いさ。醜いね。ネルフは政府にとって目の上のたんこぶだからな」
マリ「ま、私たちが協力するなら、ワンコくんも協力するって言ってたよ」
加持「ようやくかっ⁉」ガタッ
マリ「あくまでも一時的にってだけ。使徒殲滅ぐらいしかないけど」
加持「……ふぅ。ぬかよろこびをさせるなよ」
- 翌日 第三新東京都市立第壱中学校 昼休み 屋上 -
シンジ「マナ、聞きたいことがあるんだ」
マナ「……?」
シンジ「どうして、マナに戦自は執着するの?」
マナ「どういうこと?」
シンジ「考えてもどうしてもわからなかったんだ。裏切った相手を取り戻したいって思う理由が。ネルフに有利につけられてもなぜマナを取り戻したいと戦自は思うの?」
マナ「あぁ……」
シンジ「なにか、心当たりあるんだね?」
マナ「シンジくんは慣例って知ってる?」
シンジ「当たり前に行われてること?」
マナ「うん、ずっと続くしきたりみたいなこと。戦自はね、少し変わってるんだ」
シンジ「……?」
マナ「脱走兵に対して地の果てまで追っかけてくるの。ずっと昔から。敵前逃亡や裏切りは、死ぬよりも罪が重い」
シンジ「だから、マナを取り戻すためなら、ネルフに有利になってもいいの?」
マナ「きっと、交渉を重ねて行く上で落とし所があると思う。私なんか個人だもの。ネルフもきっと私に対した価値がないことわかってる」
シンジ「…………」
マナ「でも、なにも引き換えにできなければ、ネルフの保護下から外れた瞬間、私は戦自に拉致される。そうなれば、ネルフにとって得られるものはなにもない」
シンジ「最初から、お互いに限度が見えてる交渉だってこと?」
マナ「うん。戦自が提示する条件もさして痛手にならず、ネルフが提示する条件もあったらいいなぐらいのもの。予定調和なのよ。それが、理由なんだと思う」
シンジ「(じゃあエヴァに対する恐怖心を植えつけてもロボットを無力化しても、マナは……裏切り者は許されることはない……)」
マナ「私、どうなりそう?」
シンジ「まだわからない。今は色々と手を尽くしてる」
マナ「ありがとう……」
シンジ「いいよ」
マナ「ムサシやケイタを助ける前に、私が、ダメになりそうだね……」
シンジ「そうはならない。マナは友達に会って普通に生活したい。それだけじゃないか」
マナ「うん……」
シンジ「なんとか、してみせるよ」
マナ「ありがとう。本当に、ごめんなさい」
シンジ「(やっぱり、交渉のテーブルにつけるようにするのは必要ってことか……)」
シンジ「ん……?」
マナ「……?」
シンジ「マナ、ロボットの予算てどこから降りてるの?」
マナ「予算? ええと国防費から特別会計されてるはずだよ」
シンジ「国防費の枠の中でやりくりしてるわけじゃないんだ?」
マナ「うん、別に予算が組まれてる」
シンジ「どうしてかな? 国がロボットの製作を援助してるってこと?」
マナ「そうみたい、かなりの金額が動いてるみたいだよ」
シンジ「へえ……ロボットの計画が失敗すれば、それだけ動いてるなら、誰かが責任とらなきゃいけなくなるね」
マナ「……それは間違いないと思うけど。責任のなすりつけ合いがはじまると思うよ」
シンジ「なるほどね……」
マナ「……?」
- 教室 昼休み -
女子生徒F「あ、やっともどってきた。霧島、邪魔」
マナ「きゃっ」
女子生徒D「ねぇねぇ碇くん、たまには私たちと食べようよ」
シンジ「あぁ、うん、でも」
マナ「あの、私、ヒカリ達と食べるね」
タタタッ
トウジ「モテ期到来やな~」
アスカ「…………」もぐもぐ
ケンスケ「アスカはいい気しないんじゃないか?」
アスカ「別に」
ヒカリ「……アスカと碇くん、なにかあったの?」
アスカ「ん?」
ヒカリ「なんか、アスカ、碇くんに冷たい」
マナ「……?」
アスカ「(シンジが洗脳されてるふりだから、とは言えないわよね。本当は昨日、エッチしちゃってるし。あ、ちゃんとサイン送ってくれてる。もう、シンジったら……)」
ヒカリ「喧嘩でもした?」
アスカ「あいつは、ファーストがいるでしょ」
ヒカリ「え? 綾波さん」
アスカ「…………」もぐもぐ
ケンスケ「おぉ、シンジって綾波を選んだのか?」
ヒカリ&マナ「えぇ⁉」
ケンスケ「今のってそういうことじゃ?」
アスカ「そうとは言ってないわよ。だけど、なんとなくそう思っただけ」
ヒカリ「あ、アスカ……」
- 授業中 -
シンジ「(まいったな……マナにそれほど価値がないのはネルフも戦自も折り込み済みなのか)」
シンジ「(だから、ネルフ内でもこのまま保護解除するか、取り引きするかで意見が割れてるんだ。取り引きしたところでメリットは微々たるものだから)」
シンジ「(ううん……)」
トウジ「おい、シンジ」コショコショ
シンジ「ん?」
トウジ「アスカとなんかあったんか?」
シンジ「はぁ……トウジ。悪いけど今はそれどころじゃないんだ」
トウジ「……?」
シンジ「マナのこと考えなくちゃいけないから」
トウジ「マナ⁉ おまっ! マナやったんか?」
シンジ「……?」
ケンスケ「ダークホースのご登場か……」
- 放課後 教室 -
ケンスケ「碇は?」
トウジ「シンジなら、もうネルフに行きよったで」
ケンスケ「ふーん、それにしても碇がマナをねぇ」
マナ「なんの話っ?」
トウジ&ケンスケ「わあっ⁉」
ヒカリ「また悪だくみしてるんでしょう?」
トウジ「そんなことするか!」
ケンスケ「あれ? アスカは?」
ヒカリ「ネルフに行ったよ。テストがあるんだって」
トウジ「……なぁ、霧島。シンジのこと、どう思ってる?」
マナ「シンジくん? え、なに、どして?」
ケンスケ「実は! シンジの頭の中はマナのことで一杯なんだよ!」
マナ「…………あぁ」
ヒカリ「…………」
トウジ「あぁって! なにかシンジから言われたんか⁉」
マナ「たぶん、あのことだと思うよ」
ケンスケ「愛の告白か⁉」
マナ「あはは。ちが――」
ヒカリ「……そんなわけないじゃない」
トウジ「……?」
ヒカリ「マナに碇くんがそんなこと言うはずない」
マナ「むっ! そりゃないかもしれないけどー」
ヒカリ「わかってるならいいんだ、えへへ」
マナ「だけど! 絶対ないってことも言い切れないと思うけどなー」
ヒカリ「ううん、ないよ。だって、マナはずっと後だもの。アスカよりも私よりもずっと後」
マナ「……? 仲良くなったのが?」
ヒカリ「(好きだって気がつくのに決まってるじゃない! 私にだってわかるよ! 碇くんのこと好きでもなんでもないくせにっ!)……そうだね」
マナ「うーん……そうかもね」
ケンスケ「なんだぁ、碇の告白て話でもないのか」
- ネルフ本部 発令所 -
冬月「昨日キール議長から、計画遅延の文句が来たぞ。相当苛ついてたなぁ。仕舞いにはおまえの解任も仄めかしていたぞ」
ゲンドウ「エヴァ計画もダミープラグに着手している。ゼーレの老人は何が不満なのだ」
冬月「肝心の人類補完計画が遅れてる」
ゲンドウ「全ての計画はリンクしている。問題はない」
冬月「日本政府から支払いはどうなっていると矢の催促も止まらんよ」
ゲンドウ「充分に割り当てられてるはずだが」
冬月「ハゲタカどもはな、金の匂いのするところにはたかるものだ」
ゲンドウ「そういったことは冬月にまかせる」
冬月「また仕事が増えるのか」
ゲンドウ「…………」
冬月「そういえば、明日か。ユイくんの命日は」
- ネルフ本部 ラボ -
アスカ「あ~ぁ、テストテストばっかりで肩がこるわね~」
リツコ「平和を喜んだら?」
アスカ「退屈なのもつまんないじゃない。停滞は」
シンジ「…………」
リツコ「シンジくん? どうかした?」
シンジ「……いえ。少し考え事を」
リツコ「あまり考えすぎないようにね」
レイ「赤木博士、今日はもうテストは終わりですか?」
リツコ「あなた達3人のアンケートをとったら終わり。その為にここに呼んだのよ」
アスカ「アンケートぉ?」
リツコ「チェックシートに該当する項目にレ点をいれていってちょうだい」
アスカ「どれどれぇ……なんだ。なにかと思えば健康チェックシートじゃない」
リツコ「なんだと思ったの?」
アスカ「意外なの期待しただけ」
リツコ「遊びじゃないのよ。終わった子から帰っていいわ」
シンジ「…………」カキカキ
リツコ「シンジくん? 明日は碇司令と会うの?」
アスカ「…………」ピクッ
シンジ「え? 父さんと?」
リツコ「お母様の命日でしょう?」
シンジ「あ、そうか……ありがとうございます。リツコさん」
リツコ「いいえ、ただの確認よ」
- ミサト宅 夜 -
プルルルルッ プルルルルッ
アスカ「ミサトー? 電話ー」
ペンペン「クェー」
アスカ「あ、まだ帰ってないのね」
ガチャ
アスカ「ヘロー、じゃなかった。はい、もしもし」
ヒカリ『もしもし。洞木といいますが……』
アスカ「ヒカリ?」
ヒカリ『あ。……アスカ?』
アスカ「えぇ、そうよ」
ヒカリ『よかった。アスカに電話するの初めてだから少し緊張しちゃった』
アスカ「どうしたの?」
ヒカリ『あのね、明日ってアスカ暇してる?』
アスカ「明日? そうね、明日はなにもないけど」
ヒカリ『よ、よかった。お願いがあるんだけど』
アスカ「――えぇ~~⁉ ダブルデートぉ⁉」
ヒカリ『うん、コダマお姉ちゃんにどうしてもって頼まれちゃって』
アスカ「断ればいいじゃな~い」
ヒカリ『それが、バイト先で良くしてもらってる人だからって……』
アスカ「これだから日本人は……」
ヒカリ『私とアスカと2人なんだけど』
アスカ「妹を売る姉ってのもどうなのよ」
ヒカリ『そんな、深刻な話じゃないよ。ちょっとお茶して帰るだけ。もちろんお金は男の子達持ち』
アスカ「はぁ……」
ヒカリ『アスカには、碇くんがいるのはわかってるけど、お願い』
アスカ「……わかった。ヒカリの頼みなら。お茶するだけよね」
ヒカリ『ありがとう! うん! そうだよ!』
- 夜 リツコ宅 レイ部屋 -
シュルシュル パサッ
レイ「…………」
シンジ『綾波。はいるよ』
レイ「……っ!」
ガラガラ
シンジ「ん? どうしたの? 手を隠して」
レイ「……見られたくないから」
シンジ「(そうか。アダムのことだな)」
レイ「少し、出ててもらえる」
シンジ「いや、そのことできたんだ」
レイ「……?」
シンジ「手、見せてみて」
レイ「……い、嫌」ギュ
シンジ「大丈夫だよ」スッ
レイ「あっ……」
シンジ「…………」ジー
レイ「あの、碇くん、気持ち悪くない?」
シンジ「そんな。綾波の手じゃないか」
レイ「あ、ありがとう」
シンジ「おまじないはうまくいったみたいだ」
レイ「……?」
シンジ「綾波は少し、気味がわるい模様だと思えばいいよ」
レイ「え……?」
シンジ「それじゃ、確認しにきただけだから」スッ
レイ「(碇くんの手が離れるのが、さみしい?)」
シンジ「おやすみ、綾波」
レイ「……おやすみなさい」
- 翌日 墓地 -
『IKARI・YUI 1977~2004』
シンジ「…………」
ゲンドウ「三年ぶりか。2人でここに立つのは」
シンジ「父さん。来たんだね」
ゲンドウ「ああ。毎年きている」
シンジ「そう、来なかったのは僕だ」
ゲンドウ「…………」
シンジ「今日は少し、父さんと話がしたい」
ゲンドウ「なんだ」
シンジ「母さんのこと、覚えてないんだ。どんな人だったの?」
ゲンドウ「人は思い出を忘れることで生きている。だが、決して忘れてはならないこともある。ユイはそのことを教えてくれた」
シンジ「確認をするために来てるんだね」
ゲンドウ「そうだ。……シンジ。思い出は心の中にある。今は、それでいい」
シンジ「僕は母さんの思い出なんかない。だけど、今の学校で仲の良い友達ができたんだ。だから、思い出が大切だってことも、忘れちゃいけないことがあるのも、わかる気がする」
ゲンドウ「…………」
シンジ「……父さん。お願いがあるんだ」
ゲンドウ「…………」
ピリリリリッ ピッ
ゲンドウ「私だ……あぁ……わかった」
シンジ「…………」
ゲンドウ「シンジ、時間だ」
シンジ「わかったよ……わかった」
シンジ「(なにを期待しようとしてたんだ。僕は)」
- 第三新東京都市 繁華街 -
ヒカリ「今日はありがとね」
アスカ「まぁ、ちょっとお茶して帰るだけなんだし」
男A「お、きたきた」
男B「待ってたよーん」
ヒカリ「おはようございます」
男A「おはよ、そっちの子も」
アスカ「……おはよう」
男B「とりあえず自己紹介は後にして店はいろっか。ほら、あそこ。すぐ目の前にあるとこだよ」
ヒカリ「あ、近いんですね」
男A「まぁね。移動させるのも悪いから近場でセッティングしたんだ」
男B「それじゃはいろー」グイ
アスカ「……っ!」
ヒカリ「あの! 会ったばかりでいきなり手は!」
男B「あ、馴れ馴れしかった? ごめんごめん」パッ
ヒカリ「アスカ、大丈夫?」
アスカ「……平気。行きましょ。店はいるんでしょ」
- 1時間後 喫茶店 -
男B「――やっちゃってさぁ」
男A「ぎゃはは、それお前が悪いんじゃん!」
ヒカリ「あ、そ、そうなんですね」
アスカ「……はぁ」
男B「ちょっと俺ら、トイレ行ってくるわ」
男A「お。そうだな、ちょっと失礼♪」
ガタッ
ヒカリ「……ちょっと、疲れちゃったね」
アスカ「私、あいつらの笑い方嫌い。見てよ、ケーキ、食べ方も汚い」
ヒカリ「うん……。でも、もう少しだと思うから」
アスカ「…………」
ヒカリ「――あれ? 碇くん?」
アスカ「え、えぇ⁉」
ヒカリ「ほら、窓の外、歩いてるの……」
アスカ「し、シンジ⁉」ガタッ
タタタタッ
ヒカリ「えぇっ⁉ アスカ⁉ 待って!」
タタタタッ
- 喫茶店 外 -
アスカ「シンジッ!」
シンジ「……?」
アスカ「あんた、こんなとこでなにやってるの?」
シンジ「アスカじゃないか。僕は母さんの墓参りの帰りだよ」
ヒカリ「ちょ、ちょっとアスカ! ……はぁ……はぁ……」
シンジ「洞木さんも?」
ヒカリ「碇くん、こんにちは。あの、アスカ、戻らないと」
アスカ「……嫌」
ヒカリ「えぇ? もうちょっとだから……」
シンジ「どうしたの?」
ヒカリ「ええと、あのう……」
アスカ「……ヒカリと遊んでただけ」
ヒカリ「あ、アスカ……」
シンジ「だったら、僕のことは気にしなくていいよ」
男A「――なんで外にいるんだよ?」
男B「いないから焦っちゃったよ、俺ら」
シンジ「え?」
アスカ「ちっ……」
ヒカリ「あぁ……」
男A「どっか別のとこいく?」
男B「そいつは友達?」
シンジ「(あぁ、そういえばこんなこともあったようななかったような……)」
アスカ「もうおしまい! 私こっちと遊ぶから!」
ヒカリ「あ、あの、その……」
男A「えぇ? だってまだ1時間だぜ?」
男B「この後もどっか行こうよー」
シンジ「…………」
アスカ「しつこい! タイプじゃないのよ!」
男A「なんだと?」
アスカ「……」キッ
男B「うひゃひゃ、タイプじゃないとか言われてやんの」
アスカ「あんたもよ、このサル」
男B「……あぁん?」
ヒカリ「アスカ! ご、ごめんなさい、私たち、次の予定があるから……」
男A「いいじゃん、別にさ」グイ
ヒカリ「えっ、あのっ、やめて」
男B「そうそう、これからこれから」グイ
アスカ「……っ! 私になに触って」
シンジ「あの、そこまでにしといた方が」
男A&男B「……あぁん?」
アスカ&ヒカリ「…………」
シンジ「2人とも嫌がってますし」
男A「ぷっ、ぎゃははっ」
男B「あー、はいはい。良いとこ見せたいよなぁ~」
シンジ「はぁ」
男A「わかった、わかった。ちょっとそこの路地裏行こうか」
シンジ「いいですよ」
男B「強がるねー、さっさと済ませようぜ」
スタスタ
ヒカリ「……アスカ!」
アスカ「……え?」
ヒカリ「なにボーっとしてるのよ! 碇くんが!」
アスカ「あっ、だって、シンジが入ってくるなんて思わなくて、ヒカリこそ、目が点になってたじゃない」
ヒカリ「男の人2人相手に声かけるなんて思わなかったんだもん!」
アスカ「追いかけるわよ!」
ヒカリ「うん! あ、警察大丈夫かな?」
アスカ「あんなの2人ぐらい私がいれば楽勝よ!」
- 第三新東京都市 繁華街 路地裏 -
アスカ「――シンジッ!」
ヒカリ「碇くん!」
男A「ちょっと待っててねー、すぐ終わるからさ」
アスカ「男2人でなんて卑怯とか思わないの⁉」
男B「別にー」
ヒカリ「……っ!」キッ
アスカ「ヒカリ、あんたの姉さんには悪いけど……」
ヒカリ「ううん、いいよ。アスカ、やっちゃって」
男A「なんだぁ?」
タタタタッ
アスカ「このっ!」ブンッ
男A「――ぐっ⁉」
男B「うぉ⁉ なんだこいつ⁉」
アスカ「シッ!」ゴンッ
男B「がはっ!」ドテン
アスカ「……あっけない、シンジ、平気?」
シンジ「まぁ……」ポリポリ
アスカ「あんたねぇ、弱いんだから――⁉」
バチバチッ
ヒカリ「アスカッ!!」
アスカ「……っ⁉」
男A「……へ、へへ。持っててよかったスタンガン」
男B「いでー」
男A「ほら、立てよ」
アスカ「くっ……雑魚のくせに。油断した」
男A「やってくれたな」
男B「ちっ、高いのにこのズボン。泥ついてるじゃん」
アスカ「ヒカリ、足に力がはいらない、誰か呼んで――」
スッ
男A「逃がすわけないだろー」
ヒカリ「アスカ……」
アスカ「わかった……。私を殴っていいけど、2人のことは……」
男B「殴るだけじゃなぁ?」グイ
ヒカリ「……っ! いや! 離して!」
アスカ「クズね」
シンジ「あの……」
男A「まぁ、俺らもこんなつもりなかったよなぁ」
ヒカリ「……離してってば!」
男B「離さな――あいだだだだっ⁉」
シンジ「そこらへんで」グイ
ヒカリ「え?」
男A「なにやってんだよ! はやくふり払え!」
シンジ「洞木さん、アスカのとこに」ググィ
男B「ち、ちが。すげぇ力で」
ヒカリ「あ、う、うん」
タタタタッ
ヒカリ「アスカ? 大丈夫?」
アスカ「…………」
ヒカリ「アスカ?」
アスカ「……あれ、誰?」
ドゴッ バキッ
男A「――ぐはっ!」
男B「」
シンジ「どうします?」
ヒカリ「碇くんって……凄いんだね。前に痴漢から助けてもらったことあるんだけど」
アスカ「……そうなの?」
ヒカリ「うん、だけど、喧嘩、強かったなんて知らなかった」
アスカ「私だって、知らなかったわよ……」
男A&B「」
アスカ&ヒカリ「…………」
シンジ「2人とも、平気?」パンッパンッ
アスカ「あ、はい」
ヒカリ「う、うん」
シンジ「痺れはどう? アスカ」
アスカ「……うぅん、まだ少し痺れるけど、あんまり」
シンジ「洞木さんは、腕、どう?」
ヒカリ「わ、私は、強めに掴まれただけだから」
シンジ「それなら、少し休めば平気そうだね」
アスカ「…………」
シンジ「(やりすぎたかな。でも、保安部はどこまで助けてくれるかわからないからな)」
アスカ「シンジ、あんた、格闘技やってたの?」
シンジ「いや、違うよ。僕は、護身術みたいなもの(ということにしておこう)」
ヒカリ「そうなんだ……かっこいい」
アスカ「……もっとはやく言ってよね。そんなに強いなら」
シンジ「ごめん、隠してるつもりはなかったんだけど」ポリポリ
アスカ「いい。助けてくれてありがと」
シンジ「うん、いいよ」
- 1時間後 繁華街 -
アスカ「疲れた」
ヒカリ「ほんとね。でも碇くんがいてくれてよかった」
シンジ「(あ、思い出した。たしかアスカと誰かがデートした日だったな。でもこんなことにはなってないし、また、ズレてるのか)」
アスカ「……まぁ、そうね」ひょこひょこ
シンジ「アスカ、まだ足痺れてるならおぶろうか?」
アスカ「えぇ?」
ヒカリ「(アスカ、いいなぁ)」
アスカ「い、いい。別に」
シンジ「遠慮することないよ、さ、どうぞ」スッ
アスカ「…………」
ヒカリ「アスカ、甘えたら?」
アスカ「ふん……」ギュウ
シンジ「よっと」
アスカ「おんぶしたりして洗脳のこと、大丈夫なの」コショコショ
シンジ「……いいんだ。アスカの方が大事だから」
アスカ「…………」ギュウ
ヒカリ「あ、そうだ、2人とも、私のうちにこない?」
- 三ヶ月後 芦ノ湖 -
カヲル「久しぶり、シンジくん」
シンジ「…………」
カヲル「変わらないね、キミは。あの時のまんまだ」
シンジ「やっぱりカヲルくんも覚えているんだね」
カヲル「僕がキミのことを忘れるはずないじゃないか。そして、キミの中に何があるのかも」
シンジ「だったら、どうして! またこっちに来てしまったんだよ!」
カヲル「言ったはずだよ。今度こそ、君だけは幸せにしてみせると」
シンジ「僕の中にアダムとリリスの魂があることは知ってるんだろ⁉」
カヲル「わかっているよ」
シンジ「カヲルくんと綾波はもう、縛られる必要なんかないんだ!」
カヲル「残念ながら、そうはならない。キミが消えてしまったら、残された人達はどうなるんだい?」
シンジ「……僕はどうなったっていいんだ」
カヲル「シンジくん、それじゃ残されたヒトがあまりにもかわいそうだ。思い出は枷となって生き続ける。なにより、キミが幸せになれない」
シンジ「どうしてだよ!」
カヲル「ヒトは哀れだね。純粋な願いの為におおくのものを犠牲にして、悲しみの連鎖を生み出してしまう」
シンジ「僕が完全に融合すれば、人類補完計画ははじまってしまう。アダムのリリスの融合はきっかけにすぎない」
カヲル「完全なる個体を生み出すための人類補完計画。それはもはや完成しているんだよ、キミこそが、完全な個体なんだ。綾波レイや僕のような片割れとは違ってね」
シンジ「僕がいたってなにも変わらなかったじゃないか!」
カヲル「霧島マヤを鈴原トウジを救えたじゃないか」
シンジ「でも! 融合してしまえば、なにもかも意味がなくなってしまう! マリさんの言った通りだったんだ!」
カヲル「それは違うよ。きっかけは始まりにしか過ぎない。さぁ、フィナーレをはじめよう。すべての願いのために」
- ネルフ本部 発令所 -
ビーッビーッ
ミサト「なにっ⁉」
マコト「この信号は……⁉ パターン青! 使徒です!」
シゲル「データ受信! 発生源は芦ノ湖です!」
ミサト「そんな⁉ 使徒は全部倒したんじゃなかったの⁉」
ゲンドウ「…………」
冬月「ゼーレが送りこんだやつか?」
ゲンドウ「老人達は急ぎすぎているようだ」
マヤ「そ、そんな、嘘でしょ⁉」
リツコ「マヤ、どうしたの?」
マヤ「この識別信号と登録番号は、い、碇シンジくんのものです」
リツコ「まさか⁉」
- 芦ノ湖 -
マリ「ちょぉーっとまったー!」
カヲル「イレギュラーか……」
マリ「気を失ってるワンコくんをどうするつもり?」
カヲル「ボクたちは、人の価値を、可能性を見出さなければならない。その為に、シンジくんの助けが必要だ」
マリ「ワンコくんは自分を犠牲にしようとした! 自分のためにね! このままの幕引きは許さないよ!」
カヲル「キミもわかっているんだろう? ヒトの進化の可能性は行き詰まっていると」
マリ「…………」
カヲル「政治闘争、諸外国で起きる紛争、人類の歴史は血で染め上げられている。限界を感じたのはヒトそのものじゃないか?」
マリ「たしかに、私たちは未熟よ。でも、それでも次の世代に託して不器用でも生きてる!」
カヲル「僕も前回はキミたちに、シンジくんにバトンを託した。だから、その気持ちはわからないでもない」
マリ「だったら、もう一度チャンスちょーだいよ! くれたっていいじゃん!」
カヲル「完全たる個体であるシンジくんがやり直したいと強く願い、実現した世界ですら不可能だったんだよ」
マリ「今のワンコくんなら、きっと次、だいじょーぶ! だから、もう一回サードインパクトを起こす!」
カヲル「……愚かだね、ヒトは同じ過ちを繰り返す」
マリ「考えたけど、世界がそういう流れで出来ちゃってんだもの! ……やっぱり、話だけじゃ通じないかぁ……」
- 芦ノ湖 上空 -
パイロット「投下準備、スタンバイ」
加持「座標は?」
通信士「問題ありません」
加持「それなら、いい。さぁ、五年間、準備してきたものをお披露目する機会だ。俺たちも総力戦を開始するぞ」
パイロット「了解! F-01から0Bへ、目標は芦ノ湖にて視認。繰り返す」
通信士「試作4号機投下、カウント、スタートします。5.4.3」
加持「震えるが来ちまうな。笑っても泣いてもこれで人類の行く末が決まるのか」
- ネルフ本部 -
ミサト「アスカ! レイ! 聞こえてるわね! 目標は現在、芦ノ湖にいるわ!」
アスカ「わかってるわよ!」
レイ「…………」
アスカ「くっ! ラスボスがシンジってわけ⁉ そんなのありえないわよ!」
ミサト「わかってる。私たちも、碇司令でさえも驚きを隠せないわ、だから、自分の目で確かめてきて」
レイ「……零号機、でます」
マヤ「了解! カタパルト解放!」
ミサト「頼んだわよ、レイ、アスカ!」ギリっ
- 芦ノ湖 -
カヲル「試作4号機か。アダムとリリスより生まれしエヴァンゲリオンシリーズ、リリンもわかってるんだろう? オリジナルには勝てないと」
ドォンッ
ドォンッ
マリ「……動きが、重いっ!」
加持『すまないな、4号機をパクる。それが精一杯だ』
パキーーン
カヲル「…………」
マリ「人類が諦めたら終わる! だったら! 私たちは諦めるわけにゃいかないんだよっ!」
カヲル「悲しいね、君も何十年も変わらない姿のままで……」キュイーーン
マリ「ぐっ!」
- ??? -
委員会04「NERV。われらSEELEの実行機関として結成されし組織」
委員会03「われらのシナリオを実践するために用意されたモノ」
委員会02「だが、今は一個人の占有機関と成り果てている」
委員会06「さよう。われらの手に取り戻さねばならん。
委員会01「契約と約束の日は来た」
キール「アダムとの契約を守る為にNERVとEVAシリーズを本来の姿にしておかねばならん。碇、SEELEへの背任、その責任は取ってもらうぞ」
- ネルフ本部 発令所 -
冬月「どうなっている! 息子が使徒だとはどのシナリオにもないぞ!」
ゲンドウ「慌てることはない。我々人類も使徒だ」
冬月「だが! 俺はこんなことは聞いていない! 碇シンジは何番目の使徒なのだ⁉」
ゲンドウ「ゼーレのマテリアルであるロンギヌスの槍は月の外周をまわっている。回収は不可能だ。シンジが何者であれ、殲滅すればいい」
冬月「……ううむっ……」
ゲンドウ「我々に残された時間はもう少ない。シンジが最後の使徒だというのならば、消せば願いが叶う。もうすぐだよ、ユイ……」
オペレーター「目標は移動を開始! 芦ノ湖からこちらに向かっています!」
マコト「これは……⁉」
冬月「今度はなんだ?」
シゲル「所属不明機が続々と集結しています、これは、アメリカ、ドイツ?」
ゲンドウ「各ゲートを緊急閉鎖しろ」
マヤ「は?」
ゲンドウ「急げ。全ユニットを緊急閉鎖だ」
- 第三新東京都市 -
アスカ「どぉぅりやぁああ~~っ!」ドォンッ
パキーーン
カヲル「惣流アスカラングレー、君もシンジくんに救われたんだったね」
レイ「くっ!」
カヲル「そして、君も。三人目の綾波レイ」
マリ「ATフィールドが中和できない!」
カヲル「EVAは僕と同じ体でできている。僕もアダムより生まれしものだからね。しかし、僕のATフィールドは強力だ。リリンも知っているんだろう? ATフィールドは心の壁だという事を」
マリ「ひめぇっ!」
アスカ「ちっ! フィフスが使徒だったのね! シンジをどうするつもり⁉」
カヲル「……それを教えるつもりはない」
キィーーン
マリ「やばっ!」
- ネルフ本部 発令所 -
リツコ「フィフスの少年が使徒⁉ シンジくんは⁉」
シゲル「光波、電磁波、粒子も遮断しています! 何もモニターできません!」
ミサト「まさに結界か……」
マヤ「目標およびEVA弐号機、零号機、不明機共にロスト、パイロットとの連絡も取れません!」
ミサト「目指すのはここしかないわ! 防御機能は⁉」
シゲル「既に各ユニットは閉鎖済みです!」
冬月「まだ、終わらないか」
ゲンドウ「あぁ。老人達は予定を繰り上げるつもりのようだ」
冬月「まったく、老人には変化についていけんよ」
ゲンドウ「ありのままだ。我々は選択するだけに過ぎない」
カヲル「シンジくん、キミの背負った十字架は僕が引き継ぐ。もうなにも苦しまなくていい」
シンジ「……かはっ……」ビクンッ
アスカ「シンジ⁉ ファースト! フィールド全開!」
レイ「零号機、フィールド全開!」
マリ「いったぁ~」
アスカ「メガネ! ぐずぐずするな! 援護!」
マリ「まったく、人使い荒いんだからさぁ~……でも、生きてるって、楽しいから、いい!」
ドンドンドンッ
カヲル「喜び、それは、美しき神々の閃光。見てごらん、シンジくん。キミを助けた人達が君を助けようとしている。キミには未来が必要だ」
シンジ「うぅぅ……」ビクン
カヲル「キミの中のアダムとリリスを僕に渡すんだ」
加持『マリ、ゼーレが動いてきてるぞ。いよいよ本チャンがはじまりそうだ』
マリ「了解! そっちで足止めして!」
加持『長くはもたない! 量産機もそちらに移動している!」
マリ「カシウスの槍は⁉」
加持『ロンギヌスと同様、輸送中だ」
マリ「急いでね!」
加持『……マリ』
マリ「なに⁉ こっち今それどころじゃないんだけど!」
加持『エヴァの研究者としていた頃の君は、こうなることを望んでいたのか?』
マリ「はぁっ?」
加持『教えてくれ、碇司令と碇ユイ、彼らと同期だったんだろう?』
マリ「私のはじまりは……」
加持『エヴァの呪縛、その真実を知りたい』
マリ「…………」
加持『イレギュラーとして別の時間軸から入りこんだ君は、この世界の全てを知っていた、なぜ知り得た?』
マリ「その話は、生きて帰れたら教えてあげるよ!」
加持『お、おい』
プチッ
アスカ「くっ!」
レイ「……っ!」
マリ「姫達も頑張ってるけど、このままじゃ勝てないないなぁ~。弐号機に乗ってればよかったかにゃ? ま、いってもしかないか。さぁて、こっちも機体捨てる覚悟で突貫するよー!」
シンジ「……か、カヲルくん……⁉」
カヲル「気がついたかい? もうすぐ全てが終わる。ボクが世界を作り変えてあげるよ。その世界では、シンジくんは幸せに暮らせる」
シンジ「な、なにを……っ⁉」
カヲル「気がついたんだ。ボクがやらなければキミは罪の意識に潰されてしまう。キミはなにも悪くない」
シンジ「……だめだ、カヲルくんの肉体じゃ耐えられい……」
カヲル「あぁ、そんなに悲しまないで。きっとまた会えるよ」
アスカ「シンジィーーっ!!」
シンジ「アスカ⁉」
パキーーン
カヲル「キミもしつこい」
アスカ「ふざけんじゃないわよ! こちとら黙って引き下がるような女じゃないんだからぁっ!」ガンッガンッ
カヲル「だが、ボクはキミ達を拒絶する。何者にも邪魔はさせない!」ググッ
レイ「碇くんが、もう! 戦わなくていいようにする!」
カヲル「……っ!」
- ネルフ本部 発令所 -
マコト「大気圏外より高速で飛来する物体を確認!」
冬月「ばかなっ! まさかロンギヌスの槍か!」
ゲンドウ「…………」
冬月「いかんぞ! このままでは、我々の計画は破綻する!」
ゲンドウ「冬月、あとは頼む」
冬月「どこへ行く⁉」
ゲンドウ「4人目のレイの元へだ」
冬月「……そうか。ついにその時がきたのだな」
ゲンドウ「ああ。予定より早いが、合わせればいい」
冬月「ユイくんによろしくな」
ゲンドウ「……ありがとうございます……冬月先生」
- ??? -
委員会05「アダムより生まれし存在、分身たる渚カヲル」
委員会03「ロンギヌスの槍もオリジナルが還る」
委員会02「リリスと禁断の融合を。我ら人類に福音をもたらす真の姿に。等しき死と祈りを以て、人々を真の姿に」
キール「人類の可能性はその先にある」
委員会全員「祈りを持って、全てをひとつに」
キール「タブリス。約束は果たした。初号機による遂行を願うぞ」
シンジ「うああああぁぁぁーーーっ!!」ビクンッ
アスカ「シンジィっ! なんで破れないのよ! フィフスからはほとんど攻撃してこないのに!」
レイ「とてつもなく強力、このままじゃ破れない!」
マリ「どいて、どいて!」
アスカ「メガネ⁉」
マリ「ゼロ距離ならばっ!」
カヲル「……っ!」
マリ「ぐぅぅっ! こんちくしょぉぉおぉっ!」
ビー、ビー
『自爆装置、作動します』
マリ「ひめぇ! あとよろしくー!」
アスカ「やばい! フィールド全開!」
レイ「……っ!」
ドドォーーーンッ!!
- ネルフ本部 発令所 -
ブーッブーッ
ミサト「なんの警報⁉」
マコト「01番ケイジにて初号機が起動!」
リツコ「パイロットもいないのに⁉」
マヤ「第1ロックボルト解除! S2機関による起動です! このままでは」
ミサト「作業員を緊急退避させて!」
シゲル「初号機より-値の次元測定値を確認! 数値化できません!」
冬月「アンチATフィールドか。身の丈を過ぎた望みを抱えたのかもしれんな」
ミサト「モニターは⁉」
初号機『ウオオオオオォオォオオ』
冬月「我々はどうすればよかったのだ」
アスカ「……メガネは⁉」
レイ「プラグの射出を確認してる」
アスカ「よかった、ていうか、シンジまで巻き込まれたらどうするつもりよ!」
レイ「その心配は杞憂」
アスカ「……っ!」
モクモクッ
カヲル「…………」
アスカ「そんな……」
カヲル「もうすぐ初号機と量産機がここにくる。キミたちはそれで終わりだ……!」
- ネルフ本部 地下 -
ゲンドウ「欠けた心、人は心の穴を埋めることはできない」
レイ(4人目)「…………」
ゲンドウ「人類は一つになるべきだ。しかし、それは初号機による遂行ではない」
レイ「…………」
ゲンドウ「サルベージに成功した、ユイの魂がお前の中にある」
レイ「…………」
ゲンドウ「行くぞ。セントラルドグマにリリスがいる」
ベートーヴェン 交響曲第9番 歓喜の歌
Freude schöner Götterfunken,
Tochter aus Elysium,
Wir betreten feuertrunken,
Himmlische dein Heiligtum!
歓喜よ 美しき神々の御光よ
エリュシオン(楽園)の乙女よ
我等は情熱と陶酔の中
天界の汝の聖殿に立ち入らん
|:Deine Zauber binden wieder,
Was die Mode streng geteilt;
Alle Menschen werden Brüder,
Wo dein sanfter Flügel weilt.:|
汝の威光の下 再び一つとなる
我等を引き裂いた厳しい時代の波
すべての民は兄弟となる
汝の柔らかな羽根に抱かれて
アスカ「なに? この曲? どこから?」
カヲル「あぁ、やっぱり、歌はいい」
シンジ「…………」スゥ
レイ「いけない! 碇くんが消えてしまう!」
アスカ「はぁ⁉」
レイ「……っ!」キィーーン
カヲル「……そうだったね。キミはボクと同じだった。ボクがアダムの分身であると同様に、キミもリリスの」
レイ「碇くんは、私が守る!」ググッ
カヲル「惣流アスカラングレー。キミも覚えているはずだよ」
アスカ「なに言ってんのこいつ!」
カヲル「ただのヒトには、断片的にしか、デジャヴュという形でしか思い出せないんだね。魂に刻まれている記憶をボクが呼び起こしてあげよう」スッ
レイ「させない! ……きゃぁ⁉」ガガン
アスカ「ファースト⁉」
カヲル「過去を見ずに前には進めない」
レイ「碇くんが積み上げてきたものを、壊させない!」
カヲル「救済と言ってくれ。ボクたちは皆、シンジくんの為に行動しているということを忘れてもらっちゃ困るね」
アスカ「フィフス! さっきからことあるごとにシンジ、シンジって言ってるけど! シンジがなにしたって言うの⁉」
カヲル「彼は完全な個体だよ。ボク達、全ての生命体にとって母なる、そして父たる存在」
アスカ「神だとでも思ってんの⁉」
カヲル「それ以上さ」
アスカ「だったら! 神様なんてのは万能なんかじゃない! だってシンジは悩んでいたもの! あんたみたいなのが神だって言うほうがしっくりくる!」
カヲル「…………」
アスカ「うらやましいんでしょ⁉ 人間らしさを捨てきれない、捨てないことを選んでいるシンジのことが! あんたはうらやましくて、シンジのことがまぶしくて」
カヲル「な、なにを……」
アスカ「シンジの方がよっぽど人間くさいって言ってんのよ! どこからどう見ても不完全じゃない! 試行錯誤してる! あんたみたいにひとつのことが正しいととらわれているわけじゃない!」
カヲル「だまれ」
アスカ「完全なる個体? はんっ! だからなんだっていうの? そんなのは記号よ! 神というモノだって記号だわ! だって神が本当に万能なら私たちがなぜこんなにも悩むの⁉」
カヲル「だまれぇ!」
アスカ「シンジを私たちに返して!」
シンジ「…………」
カヲル「ヒトは、時にこんなにも情熱を見せる。生への執着、他人への執着。だが、それでも傷つけ合う」
シンジ「…………」
カヲル「ヒトがそれぞれ違う世界。それがシンジくんの望んでいた世界なのかい?」
シンジ「か、カヲル……」
カヲル「振り上げた拳はおろさなければならない。賽は投げられたんだ」
アスカ「シンジを殺したら私があんたをヤルわよ!」
カヲル「できもしないのに?」
アスカ「ぐううぅぅっ」ボコボコ
カヲル「……暴走させる気か!」
- ネルフ本部 発令所 -
マコト「地下より新たなフィールドが発生!」
ミサト「地下⁉ ここから⁉」
シゲル「こ、これは……パターン青! 使徒です!」
ミサト「2体目⁉」
マヤ「セントラルドグマからです!」
ミサト「まずい! 場所が近すぎる!」
マコト「もう間に合いません!」
ミサト「本部の自爆装置は⁉」
リツコ「ミサト⁉」
マヤ「そ、そんな⁉」
ミサト「みんなごめん……冬月副司令……よろしいですね?」
冬月「……好きにしたまえ」
シゲル「最終安全装置、解除!……ヘブンズドアが開いていきます」
ミサト「日向くん、カウントスタートして」
リツコ「ここまでね」
マコト「……カウントスタートします、マヤちゃん」
マヤ「……うっ……ぅ……」グスグス
- ネルフ本部 セントラルドグマ -
ゲンドウ「レイ、いや。綾波ユイ。リリスと同化して乗っ取れ」
ユイ「…………」
ゲンドウ「そうすれば全てが終わる」
ユイ「…………」スゥ
ゲンドウ「……どうした」
ユイ「あなた、言わなくてごめんなさい。私の身体にはリリスの魂のかけらはない」
ゲンドウ「……っ⁉ ユイ⁉」
ユイ「行かなくちゃ。シンジが待ってる」
ドドーンッ!!
ゼーレ、連合軍がネルフに向け侵攻開始。
同時刻
ネルフ本部の自爆装置を起動。しかし、MAGIの否決により作動せず。
地下から初号機とリリスが浮上。
第一使徒タブリス(渚カヲル)ロンギヌスの槍を入手。
弐号機、暴走状態へ移行を確認。
量産機6体が第三新東京市上空に現れる。ダミープラグによりオートパイロット化に成功。
ダミープラグの思考回路は渚カヲルをベースにしている。
カシウスの槍が渚カヲルのATフィールドを貫き同目標と量産機は沈黙。EVAシリーズ、並びに初号機を依り代にするゼーレの計画は頓挫する。
カシウスの槍とロンギヌスの槍が揃うことにより碇シンジは完全に融合。同体内に槍を取り込みサードインパクトは起こらず。
弐号機、並びに零号機は激戦の末沈黙。
パイロットの脱出は確認。
碇シンジ、生命の樹になり、再び選択を迫られる。
リリス(ユイ)、碇シンジと同化。トランジスタシスとホメオスタシス(変わろうとする力と維持しようとする力)は崩壊し、魂の均衡は崩れる。
加持率いるレジスタンス部隊も同時に撤退を開始。
- 第三新東京都市 -
シンジ「アスカ、今日から学校だよね」
アスカ「えぇ、そうね」
シンジ「そっか」
アスカ「なぁ~にしみったれた顔してんのよ」
シンジ「いや、そんなつもりは……」
アスカ「あんたは選んだんでしょ、続けること」
シンジ「うん……」
アスカ「それならそれでいいじゃない。私たちはそれでいいの」
シンジ「そうかな」
アスカ「そういうもんなのよ、ほら、さっさと歩く!」
- 第三新東京市 大学 -
リツコ「……ふぅ」
ミサト「あー、どうしよぉ~再就職先」
リツコ「はやく決めたら? 私の研究室に入り浸ってないで」
ミサト「簡単に言わないでよぉ~。今さら事務員なんかしたくないし」
リツコ「軍にでもはいったらいいじゃない。経歴から見れば引く手数多だと思うけど。あぁ、実務能力は別としてね」
ミサト「ぐっ……」
リツコ「もうひとつ、道があると言えばあるわよ」
ミサト「なぁに?」
リツコ「結婚よ。加持くん、待ってるんでしょ?」
ミサト「ぶっ」
リツコ「加持くんは新聞社に決めたんですって? 収入は安定してるんじゃない?」
ミサト「だ、だぁ~れが! あんなやつと!」
- 第三新東京都市 某所 -
加持「結局、俺たちの計画通りにはならなかったな」
マリ「まぁいいんじゃん? ゼーレもゲンドウくんの計画も潰れたんだしさ」
加持「俺たちは、サードインパクトを再び起こそうとした。次にバトンを託してな」
マリ「ゲンドウくんとゼーレはワンコくんが自分たちの望んでいた可能性そのものだと知らなかったもんね」
加持「……この先どうなる?」
マリ「それこそ神のみぞ知るってやつじゃん? わかってたら面白くないし」
加持「俺たちで作っていかなくちゃな」
マリ「人間ってのはね、高め合うこともできるけど、足を引っ張り合うこともできる」
加持「…………」
マリ「なにものにも干渉されない、完璧な世界なんてものは個人の中でしかありえないんだよ」
加持「そうだな……」
マリ「なにが言いたいか本当にわかってんの?」
加持「全てはわからないさ。それも人間、だろ?」
マリ「ふふん、まぁいいよ」
加持「エヴァの呪縛、その答えを聞かせてくれないか」
マリ「んー?」
加持「これからマリはどうするつもりだ」
マリ「さぁて、どうしよっかなー」
加持「おいおい、約束だったじゃないか」
マリ「約束したつもりはないよ?」
加持「……はぁ」
マリ「ひとつ言えることは、ここでの私はイレギュラー。だから私も選ばなくちゃいけない」
加持「なにを?」
マリ「この世界で生きていくかどうか」
加持「はぁ?」
マリ「可能性のひとつってやつだよ♪」
- 第三新東京都市立 第壱中学校 昼休み -
アスカ「ヒカリ、ちょっとそっち詰めて」
ヒカリ「う、うん」
レイ「あ、あの……」
マナ「綾波さんこっちこっち。よいしょ、この並びでいいかな」
トウジ「しっかし、なんでいきなり記念写真なんか」
ケンスケ「碇、もっと笑えよ、かたいぞー」
シンジ「あ、う、うん」
アスカ「まぁ、いいでしょ。私たち大人になってくんだもの。思い出作りは必要よ」
トウジ「たまにはいいか」
ケンスケ「冬休みもどっかいくんだろ?」
アスカ「それはそれ、これはこれよ。思い出はいくつあってもいいじゃない」
トウジ「とかなんとか言いながら、忘れるんちゃうやろな」
アスカ「…………」
トウジ「図星かいっ!」
アスカ「あぁ、細かいことうっさい!」
ケンスケ「そろそろタイマーセットするぞ」
全員「はい、チーズ!」カシャ
828 : 以下、名... - 2017/03/17 16:51:45.88 aPFJMFhj0 689/697これで完結です。
最後は予定していた形ではなかったのでかなり説明不足&雑になりましたが全部回収するとまだ終わらないので割愛します。
長く続けるのはモチベ管理が難しいですね。
次エヴァネタでSSを書くことがあれば100レスぐらいで終わるものを書きたいと思います。
これまで読んでいただきありがとうございました。
829 : 以下、名... - 2017/03/17 17:41:44.07 ZfbfCvs7O 690/697内容についての質問とか答えてくれますか?
830 : 以下、名... - 2017/03/17 17:53:49.49 aPFJMFhj0 691/697いろいろ消化不良あるので答えますよ
835 : 以下、名... - 2017/03/17 23:28:14.31 LgLYFs6SO 692/697なんでマナ出した?イレギュラーならマリだけでもじゅうぶんだろうに
836 : 以下、名... - 2017/03/18 00:28:30.96 DVZ4HbeIO 693/697割愛した部分てなに?
837 : ◆y7//w4A.QY - 2017/03/18 00:52:23.30 S2MCS6nN0 694/697>>835
マナはPC版からの登場なのでTV版では登場していませんが、旧の設定なのは共通項目なのです
なので、イレギュラーというよりはゲストですね
同様にセカンドインプレッションの山岸マユミともこのシンジくんは会ったことがあるということになります
このSSでのイレギュラーはマリのように式波アスカや使徒の設定そのものが違う世界からきた人のことを指しています
だした理由についてはシンジくんの内面の成長過程に必要だと判断したからです
>>856
様々ありますが、思い浮かぶのはラストまでの間の話と山岸マユミが登場しなかったことです
マナの話やターニングポイントだったはずの三号機についても放り投げたまま終わりました
やりながら入れようと思っていたネタを数えたらかなりあります
エヴァの面白さの核は人間模様や葛藤にあると個人的には個人的に思っているので、シンジくんスゲェ一辺倒になると書いてて面白くないとボヤいてたのもそのせいです
しかし、シンジくんはヒトではなかったので常人と違う完璧さを強調する部分を書く必要性は感じていました
838 : 以下、名... - 2017/03/18 03:23:10.43 aj1GLJyoo 695/697やはりシンジsugeeeで飽きてしまったか。
そこでなお山場が作れるかが難しいところだね。
839 : ◆y7//w4A.QY - 2017/03/18 10:02:19.08 S2MCS6nN0 696/697>>838
そうですね。
もう少しすれば山場を作れそうだったんですが、持っていくまでにモチベをガリガリとドリルで削られていきました。
最初からある程度TV版をなぞる大筋とラストは決まっていてそこに入れたいことを+αでつっこむという形式で進行してました。
シンジくんスゲーを含み、こういう持っていきかたをする予定だったのですが書いてみないとわからないことってやっぱりあります。
今回ははじめて台本SSを書いてみてそれが実感としてわかりました。
みなさん色々と暖かいレスありがとうございました。
返レスもこれにて終了とさせていただきます。
840 : 以下、名... - 2017/03/23 00:10:27.18 pDJWYllVo 697/697おつおつ