1 : ◆wWS/LadavY - 2016/11/15 01:29:55.02 S9RNYDRp0 1/69

【艦これ】提督「最高練度に達した艦娘が、ことごとく無気力になっている」の設定を使用しています。
http://ayamevip.com/archives/47828715.html

独自の設定がいくつかありますが、気にしないでください。おねがいします。

・独自の設定、解釈があります。
・ハーレム提督です。
・喫煙描写があります。


元スレ
【艦これ】提督「最高練度に達した艦娘が、本気を出すそうだ」【七駆行きます!】
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1479140994/

2 : ◆wWS/LadavY - 2016/11/15 01:36:32.96 S9RNYDRp0 2/69

鎮守府の屋上。

マッチをすり、

提督「ん・・・」

くわえたタバコに火を点ける。

提督「すぅー」

ゆっくりと煙を吸い込み、

提督「えっほ!うえっほ!えほっえほっえほっ!!」

むせた。

提督「ひぃー、ひぃー・・・、あーくそ・・・」

呼吸が整うまで数分がかかり、提督が悪態をつく。
提督は、タバコが苦手だった。

3 : ◆wWS/LadavY - 2016/11/15 01:38:38.85 S9RNYDRp0 3/69

ずっと以前に、初めて参加した提督会議。

なりたてだった提督は、初期艦の叢雲を連れて参加した。
他の提督たちは、着飾った巡洋艦、戦艦を連れていた。
制服での参加は、叢雲だけだった。
子連れと笑われた。

夜の宴会でも、酒も飲めずタバコも吸えないことで、笑われた。
ガキ扱いだった。

駆逐艦しかいない鎮守府の、子連れのガキ。
力、酒、タバコ、女。
古く偏った男達の価値観では、なめられるには十分だった。

叢雲は「仕方ないわね」と笑っていた。
今なら解る。
あれは悔しさを飲み込んでいたのだ。
何も知らない自分の提督に、余計な負担をかけないために。

4 : ◆wWS/LadavY - 2016/11/15 01:45:18.10 S9RNYDRp0 4/69

今回の会議では、なめられるわけにはいかない。

これまでの挽回、それもある。
が、一番の目的。

大淀をもらう。

出向の身分である大淀を、本来の所属から転属させる。
そのために、少しでもなめられる要素は省きたい。

戦果はともかく、戦力は十分。
秘書艦として高雄と愛宕に頼み、皆の了承をもらっている。
あとは、酒とタバコ。

提督「くだらねーよなー・・・」

付き合いと称する、謎のコミュニケーションツール。
酒とタバコの練習を、提督はしていたのだ。

5 : ◆wWS/LadavY - 2016/11/15 01:45:59.19 S9RNYDRp0 5/69

「身長差ハグです!」

6 : ◆wWS/LadavY - 2016/11/15 01:59:33.29 S9RNYDRp0 6/69

「提督! こちらでしたか!」

屋上のドアを開け、提督を見つけた朧が笑顔を見せる。
とてとてと走り寄る朧は、走り回ったのか、軽く汗をかいていた。

提督「ごめん、探したよね」

「いいえ、大丈夫です」

生真面目な朧は、提督の前まで来ると、姿勢を正して報告を始める。

「報告が、」

と、言葉を切り、

「タバコ・・・、ですか?」

怪訝な表情をする。
彼女が知る限り、提督はタバコを滅多に吸わないはずだ。

提督「ああ、うん、ちょっとね」

言葉を濁し、灰皿に捨てる。

提督「ごめんね、臭うよね」

「・・・」

7 : ◆wWS/LadavY - 2016/11/15 02:06:58.26 S9RNYDRp0 7/69

「いいですよ」

提督「ん?」

「タバコ、吸ってください」

提督「・・・」

「朧、見ていますから」

てすりに頬を寄せて、提督を見上げる。

「ね」

にっこり。

提督「・・・うん」

続けて吸うつもりはなかったが、なんとなく、吸わなければいけない気がする。

8 : ◆wWS/LadavY - 2016/11/15 02:20:43.49 S9RNYDRp0 8/69

再びタバコをくわえて、マッチをする。
タバコに火を点して。

やはり苦手なことが顔に出る。眉間に皺が寄る。

提督(うう・・・やっぱりきついな)

(厳しい顔。 提督、辛そう・・・)

(なんだか、どきどきする・・・)キュンキュン

むせないように、ゆっくり吸って、ごまかすように上を向く。
軽く涙ぐんで。

提督(むせる、むせる!煙が目に染みる!)

(遠くを見て・・・、あ、涙・・・。 なにか、思い出してる・・・のかな)キューン

同じように空を見上げて。

(提督と、あたし、ふたりだけの空)

空と、提督と、自分しかいないような錯覚。
こうやってると、タバコの臭いも、気にならない。
いや、ふたりで共有したいとも思う。

(しあわせ)

なんだか、たまらなくなって。

「えいっ」

とん。
提督に、抱きついた。

9 : ◆wWS/LadavY - 2016/11/15 02:28:18.81 S9RNYDRp0 9/69

提督「とと、危ないよ」

あわててタバコを遠ざけ、朧を受け止める。
朧は提督に抱きつき、顔を胸の辺りに埋めて、動かない。

提督「臭い、うつっちゃうよ」

軽く離そうとするが、

「・・・」

ふるふる。
顔を提督の胸に埋めたまま、首を振る。

提督「いいの?」

「・・・」

こくん。
抱きついたまま、離れない。
離れたくない。

提督「そっか。 ・・・朧は、小さいなあ」

軽く朧を抱きしめ、その髪を撫でながら提督は笑う。

「・・・むー」

子ども扱いされてる。

(朧だって、キスくらいできるんですよ!)

(朧が背伸びして、提督が屈んでくれれば・・・)

その姿を想像して、想像して、想像して・・・。

(ひゃああああ!)

「んんん・・・!」

ぎゅううう。
恥ずかしさを振り払うように、強く、抱きつく。

提督「あ、ごめん、ごめん苦しい」

全然苦しそうじゃない声で笑いながら、朧の背をぽんぽんと叩く。
ギブアップ。

「もう!」

ちょっと怒った顔で離れる。
でも、すぐ笑顔に変わる。

楽しい。
こんな小さなことでも、楽しくてたまらない。

10 : ◆wWS/LadavY - 2016/11/15 02:33:48.53 S9RNYDRp0 10/69

提督「タバコの臭い、うつっちゃったでしょ?」

少し心配そうに。
皆が嫌がるから。

「いいんです!」

くるりと回って。

「提督と、朧だけですから!」

提督を、ひとりじめ。

「他の子には、うつしちゃダメですよ?」

11 : ◆wWS/LadavY - 2016/11/15 02:40:36.19 S9RNYDRp0 11/69

「みんなの、ために」

12 : ◆wWS/LadavY - 2016/11/15 02:42:17.79 S9RNYDRp0 12/69

提督「朝潮たちとの演習、見事だったね」

先日の駆逐艦同士の演習。
朝潮、大潮、満潮、荒潮 対 朧、曙、漣、潮。

朝潮たちに挟撃するように誘導し、旗艦の朝潮を孤立させ、大破判定での勝利。

「いいえ、あれが実戦なら、戦闘が継続されたなら、私たちの負けです」

朝潮が大破とはいえ、3人は健在。
対して、曙大破、漣中破、潮中破。

「私たちは、練度は最高に達しました。
  ・・・でも、それは機動や艤装の操作が上手くなっただけです」

頑張って、努力して、それでも。

「私たちは、未熟です。
  それは、提督も同じです」

「だから」

実力以上のものを。

「勝つために、何でもします。」

考えて、考えて、それでも。
悔しい。
皆が無事な作戦が思いつかない。

「最善のために、最悪を選ぶことも、」

朝潮を追い込むために、大潮たち3人を曙が1人で迎え撃った。
そんなことが、出来るわけが無い。

提督「でも、朧はそれを選んだ」

「・・・はい」

13 : ◆wWS/LadavY - 2016/11/15 02:50:57.39 S9RNYDRp0 13/69

自分は酷い指揮官だ。
出来もしない作戦を立てて。
自分は部下を――

提督「朧は、皆を信じてるんだね」

「・・・っ」

涙が出そうになる。

提督「その選択が出来たのは、信頼の証だ」

「・・・」

目をぎゅっと力いっぱい閉じる。
そうしないと、涙が出るからだ。

提督「それは、朧の、七駆の誇りだと思う」

「う~~~」

ぼふ。
もう一度、提督の胸に飛び込む。
今度は、涙を、泣いている顔を見せないために。

提督「皆も、一生懸命で頑張り屋さんの朧を信じている」

温もりを分けるように、朧を抱き寄せ。

提督「もちろん、私も」

「・・・」

提督「ありがとう」

「う、う、う~~」

今なら。
提督に見られていない今なら、泣いても大丈夫。

提督は優しく抱きしめ、朧が離れるまでずっと髪を撫でていた。

14 : ◆wWS/LadavY - 2016/11/15 02:55:58.22 S9RNYDRp0 14/69

「くんくん・・・」

「え、えへへ・・・?」

「タバコのにおい・・・?」

「なんと! 朧ちゃんが不良に!?」

「ち、違うよ! 提督に・・・はっ」

「かかったなアホがっ!」

「なんで、クソ提督のにおいが、朧に、ついてるの?」

「曙ちゃん、おちついて・・・」

「違うの、待って」

「イチャイチャでスリスリですか~?」

「・・・」

「黙秘キタコレ!」

「違うのー!」

「って、あれ?曙は」

「曙ちゃんなら、とっくに出て行ったよ」

「あああ・・・」


\クソテイトクー!/ \アケボノチャンマッテー/ 


潮をひきずったままの曙の飛び蹴り(手加減)からの尋問により、提督の屋上でのタバコ練習が露見。
以後、提督と4人だけの秘密となりました。

32 : ◆wWS/LadavY - 2016/11/18 02:36:18.07 Jqv3aIq60 15/69

鎮守府の屋上。

ベンチに座り、提督がタバコを吸っている。

提督「あー・・・、まっず」

ようやく慣れたとはいえ、良いところが見つからない。

提督「ま、いいんだけど」

ポーズだけだし。

提督「遠征が戻るまで、あと1時間ちょっとか」

こうやって、「ひとり考える時間」を作るのも、悪くない。

提督(この前の演習・・・、霧島怒ってたよなぁ)

33 : ◆wWS/LadavY - 2016/11/18 02:39:54.00 Jqv3aIq60 16/69

先日の駆逐艦同士の演習。
朝潮、大潮、満潮、荒潮 対 朧、曙、漣、潮。

朝潮を孤立させるために、大潮、満潮、荒潮を曙が一人で引き受けた。
結果、朝潮を大破させて勝利したとはいえ、曙自身も大破。

味方を犠牲にしての勝利、そう見えた。
そう見えたがために、霧島は激怒した。

以前の所属地で。
敵を足止めし、足止めした味方ごと敵をすり潰す作戦。
その作戦で囮とされた比叡と霧島は、味方の攻撃で沈みかけた。

艦隊運営を任される霧島は、味方を犠牲とする作戦は絶対に立てない。
そうされる悔しさ、怒り、悲しみを知っているから。

霧島『二度と、このような作戦は行わないように』

誰よりもつらいはずの部隊指揮官の曙に、静かに、それでも怒気を込めて霧島は言った。

提督(あれは怖かったなぁ・・・)

霧島の気持ちは、解る。
だが、朧の選択も否定したくない。

提督(曙はどう思ってるのかな)

それだけは、確かめたいと思う。

34 : ◆wWS/LadavY - 2016/11/18 02:43:47.61 Jqv3aIq60 17/69

「ひざまくらよ! し、仕方ないわね」

35 : ◆wWS/LadavY - 2016/11/18 02:45:38.18 Jqv3aIq60 18/69

「こらクソ提督!」

提督「うぇっ!?」

突然、目の前に曙があらわれた。

提督「え? あれ? なんで?
   遠征が戻るまでまだ1時間以上あるでしょ!?」

驚く提督に、曙は心底呆れた目を向ける。

「はあ? ちゃんと定刻に戻ったわよ」

時計を見る。
たしかに帰投時間、どころかとっくに過ぎている。

提督(うわー、時間が吹っ飛んだみたいな気分)

「出迎えが無いから、みんな心配してたわよ」

提督「あー・・・、しまったなぁ」

「どうせここだと思ったから、皆は解散させといたわ」

はい、と報告書を手渡し。

「寝てたの?」

提督「そうみたいだね。 気付いたら今、みたいな?」

36 : ◆wWS/LadavY - 2016/11/18 02:50:04.39 Jqv3aIq60 19/69

そういえばタバコを手に持っていたはずだ。
指を見ると、火傷をしていた。

提督「うわー、手の中でタバコが燃え尽きてるわ」

「はあ!? それは寝たんじゃなくて、気・絶・!っていうのよ!」

驚きで目を見開き、次にじっとりと睨みつける。

「ちゃんと、夜寝てる?」

提督「・・・そういえば」

目をそらし、話題を変えようとして。

「寝てないのね」

提督「・・・」

即座に見破られる。

「まったく、だからクソ提督って言われんのよ」

ためいきをつき、提督の隣に座る。

提督「そう呼ぶのは曙だけで・・・」

「なに?」

提督「なんでもないです」

37 : ◆wWS/LadavY - 2016/11/18 02:55:14.52 Jqv3aIq60 20/69

「もう・・・、ほら!」

ぽんぽんと自分の膝を叩き。

「頭、こっち貸して」

提督「・・・」

ひざまくら。

提督「いや、今ちょっと寝たし」

「それは気絶! ちゃんと横になりなさい」

15分でいいから、と。

「横になって、休んで、・・・お願いよ」

提督「・・・わかったよ」

帽子をとり、曙の膝に頭を乗せる。

「どう? 全然違うでしょ?」

提督「そうだね・・・」

急速に意識が薄れてきて。

提督「ありがとう・・・、ぼのちゃん」

「ぼのちゃん言わないの」

軽く耳を引っ張り、抗議をする。

提督「すやぁ・・・」

「・・・もう寝ちゃった?」

ひざまくらをしてから、1分も経っていない。
余程安心したか、居心地がよかったか。
どちらにしろ、膝を貸した側としては誇らしく思う。

「子守唄を唄う暇も、なかったわね」

38 : ◆wWS/LadavY - 2016/11/18 02:58:34.29 Jqv3aIq60 21/69

(クソ提督がこんなに近いのって、いつ以来だっけ)

自分自身、提督にくっついていくようなことはしない。
そういうところは、戦艦や空母のほうが上手だと思う。

提督の髪を撫でながら、記憶を辿る。

提督を蹴ったとき。
提督を殴ったとき。
提督に噛み付いたとき。

(・・・)

(だめじゃん)

ずーんと沈む。

もっとこう、いい思い出は無いか。

(そうだ、初めて会ったときはどうだっけ)


  『こっち見んな!』


(・・・)

(こっちもだめだった)

ずずーんと沈む。

(よくもまぁ、こんなのに指輪を渡そうなんて思ったもんね)

39 : ◆wWS/LadavY - 2016/11/18 03:03:00.81 Jqv3aIq60 22/69

思い出す。
あの構内放送を。


  『口は悪いけど真面目で一所懸命だし!』


嫌われてなかった。
疎まれてなかった。
ちゃんと、見てくれていた。

「ふふ・・・」

あの放送を思い出すと。
あの後の、提督の照れた顔を思い出すと。

自然と笑顔になる。

「あんたはクソだけど」

優しく、優しく、膝の上で寝入る、愛しい人を撫でて。

「一番マシなクソよ」

個人的に最高級の褒め言葉を、送った。

40 : ◆wWS/LadavY - 2016/11/18 03:05:29.07 Jqv3aIq60 23/69

「みんなの、ために」

41 : ◆wWS/LadavY - 2016/11/18 03:16:15.88 Jqv3aIq60 24/69

提督「この前の演習、どう思う?」

「どうって?」

提督「霧島も怒ってたし・・・」

「ああ・・・」

提督「曙は、不満は無いのかな」

朧の立てた作戦。
曙一人で、三人の攻撃に耐えた。

「勝ったから、いいじゃない」

提督「それは、そうだけど」

霧島は、味方を犠牲にする作戦を許さない。
そして、作戦を実行した朧自身もまた、深く傷付いていた。

「はぁ・・・」

ため息をつき。

「朧が『全責任は自分にあります!』とか言うから黙ってたけど」

提督「・・・うん?」

「言いたいことが、三つあるわ」

42 : ◆wWS/LadavY - 2016/11/18 03:24:54.59 Jqv3aIq60 25/69

「まずひとつ、あの作戦を提案したのは、あたしよ」

提督「へっ?」

戦いは数だ。
自分が複数受け持てば、それだけ有利になれる。

「危険だと渋る朧を、説き伏せたのも、あたし」

演習だから、と甘えることもない。
全ては実戦として考える。動く。
だからこそ指揮官として姉として、朧は反対した。

だがその朧の心配をはねのけて。
任せろと、大丈夫と、曙は言い切ったのだ。

「だから、納得するとか、不満があるなんて話じゃないのよ」

提督「・・・そうか」、

43 : ◆wWS/LadavY - 2016/11/18 03:29:41.07 Jqv3aIq60 26/69

「そして、ふたつめ」


  『二度と、このような作戦は行わないように』


「霧島さんはああ言ったけど」

強い意志を込めて、絶対に退かない意志を込めて、宣言する。

「あたしは、必要だと思ったら、もう一度、やる」

多数の敵の前に立つ。立ちふさがる。

「何度でも、やる」

提督「・・・」

「あたしは、みんなを、守る」

44 : ◆wWS/LadavY - 2016/11/18 03:33:09.23 Jqv3aIq60 27/69

ずっと以前の作戦。
金剛、叢雲、七駆での侵攻作戦。
練度不足、最低限の装備、少ない情報での未熟な作戦。
潜水艦の奇襲を受け、艦隊が壊滅した。

初撃で吹き飛ぶ姉妹を見て、自分が何を叫んだかも聞こえなかった。
ただ、姉妹を助けたかった。
助けに向かおうとして、自身も魚雷を受け、大破した。

痛くなかった。
動かない体が、もどかしいだけだった。
ただ、姉妹が心配なだけだった。

強い力が欲しいわけじゃない。
そんなものは、きっと持て余す。
欲しいのは、皆を守る力。

目の前で沈む姉妹を、仲間を、見たくない。
それだけを思い、鍛えてきたのだ。

みんなを守る。
それは、曙にとっては、誇りであり、誓いなのだ。

45 : ◆wWS/LadavY - 2016/11/18 03:39:38.14 Jqv3aIq60 28/69

「みっつめ」

「これは、提督も霧島さんも、朧も勘違いしてるんだけど」

腕を組み、胸を張り、提督を見上げる。

「あたしは、誰も犠牲になんかしないわよ」

提督「あ・・・」

提督の背筋に震えが走る。
提督の肌が粟立つ。

「そりゃ、今回はちょっと食らい過ぎたけど」

提督の頭の中で、曙の言葉がかちりかちりと組み上がっていく。

「でもね、被害の判定は”自力航行は不可だが、沈没の恐れなし”よ」

組み上がった言葉が、輝くひとつの結論に達する。

提督「・・・そうか、そうなんだな」

この強くて優しい駆逐艦は。
”みんな”の中に、当然のように自身が含まれているのだ。

46 : ◆wWS/LadavY - 2016/11/18 03:44:30.11 Jqv3aIq60 29/69

沈む仲間を見るのは、頭がおかしくなるほど悲しく。辛く。苦しい。
なら、沈む自分を見る仲間も、きっとそうだ。
そんな目に遭いたくない。遭わせたくない。

誰も犠牲にしない。もちろん、曙自身も。

「次は、もっとうまくやってみせるわ」

ああ、この強くて優しい駆逐艦は。
もっと強く、もっと優しくなろうとしているのだ!

提督「はは、はははは」

「な、なによ急に」

提督「曙! お前はなんてすごいんだ!」

嬉しくて堪らない提督が、曙を抱き上げて振り回す。

「ひゃああ! 高い!高い!」

そのままぐるぐると回る。

提督「ぼのちゃんサイコー!」

「だからぼのちゃん言うなって高い怖い振り回すなー!」

47 : ◆wWS/LadavY - 2016/11/18 03:47:11.58 Jqv3aIq60 30/69

「ぼのちゃん、いいブツがあるんですが」

「ぼのちゃん言わないの・・・、って、何よブツって」

「ほい、この写真」

「・・・んなっ!?」

屋上で、提督をひざまくらしてる時の写真。

「い、いつの間に」

「遠征終わったら皆を解散させて全力ダッシュですからね~、ピンときたわけで」

「こう、こっそりパシャリと」

みゅふふふと悪い顔で笑いながら。

「いい笑顔だねぇ~」

「ち、ちが、あのクソ提督が寝てないって言うから、仕方なく、」

「ってあれ、みんなは」

「とっくに出て行ったよ」

「あああ・・・」


\テイトクー!/ \オボロチャンマッテー/


「ちなみに写真は、提督にも渡してますんで」

「ギャー!?」

「可愛いって褒めてたよ~」

「え、ほんと?」

「おやぁ~? 満更でもないキブン?」

「ぐっ・・・、うっさいうっさーい!」

朧の泣きそうな心配顔に負け、提督のタバコ練習には誰かが付いていくことに決定しました。
もちろん、七駆の独占の秘密です。

64 : ◆wWS/LadavY - 2017/03/07 02:26:27.14 WUTdIcIX0 31/69

鎮守府の屋上。

壁にもたれて、提督がタバコを吸っている。

隣に立つのは、漣。
楽しそうに鼻歌を歌いながら、提督を見上げている。

ひとりで考える時間がいいと思った。

「ふーんふんふー」

即興の歌。

提督(良いなぁ)

この時間も、悪くないと思う。
きっと自分は、自分で思っている以上に、寂しがり屋なのだろう。

「ふふんふー にゃーふーふふにゃふー」

サビに入ったようで、熱が入ってくる。

その歌声を心地よいと感じながら、先日の演習のことを思う。

65 : ◆wWS/LadavY - 2017/03/07 02:30:14.51 WUTdIcIX0 32/69

先日の駆逐艦同士の演習。
朝潮、大潮、満潮、荒潮 対 朧、曙、漣、潮。

朧が斬り込み、朝潮を孤立させた。
朧と漣に挟み込まれた朝潮は、即座に反転して逃げようとした。
その際にばらまいた、苦し紛れの弾幕。
それを食らった漣が怯み、朝潮は離脱を止めた。
漣を倒し、合流しようとしたのだ。
その結果、朝潮は潮に狙われ、大破判定を受けた。

朧が斬り込み、曙が防ぎ、潮が撃った。
残った結果は、それだ。
漣は「余計な被害を受けたドジ」としか記録に残らない。

それに気付いたのは、霧島だけだった。
離れた場所から、高い場所から、全体を俯瞰していたからこそ、気付いた。

霧島『あれは、わざと受けていますね』

わざと怯んで見せた。
朝潮の離脱を防ぐために。
こいつは倒せる、と思わせるために。

提督を「ご主人様」と呼ぶ、不思議な艦娘。

提督(やっぱり、演じてるのかなぁ・・・)

提督自身、演じている。
そうありたい、と目指す提督像を。
手始めに、未熟で甘えた自分を戒めるため、自分を「私」と呼ぶようにした。
些細で、無意味なことだ。 だが、そうすることによって少しだけ考える時間が延びた。

漣も、そうだとすれば。

提督(もし、そうだとすれば)

ニコニコと微笑んでる漣を見て、
そういえば彼女の笑顔しか見たことがないことに気付く。

提督(会ってみたいな)

演じていない彼女に。

66 : ◆wWS/LadavY - 2017/03/07 02:36:12.47 WUTdIcIX0 33/69

「壁ドンキタコレ!」

67 : ◆wWS/LadavY - 2017/03/07 02:40:05.48 WUTdIcIX0 34/69

「ご主人様、タバコっておいしいですか?」

漣が提督を見上げ、尋ねてくる。
しかし、とてもタバコに興味があるようには見えない。
提督が吸っているから、ただそれだけなのだろう。

提督「ダメだよ」

「むぅー」

即座に却下されて、頬をふくらませて抗議する。

「いいですか、ご主人様は子ども扱いされてますけどね! 私たちは酒もタバコも禁止されてないんですよ!」

提督「前にお酒をなめた時、漣はどうなってたっけ」

「おぼえてません!」

提督「即座に寝ちゃったんだよ」

「た、たまたまでは」

提督「朧も、曙も、潮も寝ちゃったよ」

「ぐぬぬぅ」

提督「きっと体に合わないよ」

68 : ◆wWS/LadavY - 2017/03/07 02:47:06.89 WUTdIcIX0 35/69

提督が胸ポケットからポッキーの箱を取り出し、封を開ける。

提督「はい、あーん」

「あーん」

提督「みんなには、こっちのほうが似合うよ」

「んー」ポリポリポリ

ごく自然に差し出されたポッキーをごく自然に食べる。
たしかに、こっちのほうが自分には合ってると漣も思う。

提督「あーん」

「あー・・・、ん」ポリポリポリ

しかしこの子ども扱いはいただけない。
どうしたものかと思考する漣が、以前に読んだマンガのシーンを思い出す。

「ふぉっふぃーふぇーふっふぇふぃっふぇふぁふふぁ」

提督「・・・食べてから喋ろうね」

「んー・・・、ん」ポリポリポリ

69 : ◆wWS/LadavY - 2017/03/07 02:54:54.86 WUTdIcIX0 36/69

「ポッキーゲームって知ってますか?」

提督「・・・いや、知らないなぁ」

「こう、チョコのついてない部分をくわえて」

ポッキーをくわえて、差し出す。

「ふぉふぉのふいふぇふぁ」

提督「食べてから喋ろうね」

「んー」ポリポリポリ

「もう一人が、チョコの部分を食べるんです」

「チョコがより少なくなるように食べたチームが、勝ちです」

提督「・・・なんでそんなことするの」

「ギリギリを楽しむんです!」

提督「ギリギリ」

「ちゅーしちゃう?あと2センチ!ちゅーしちゃうの!?」

提督「おー・・・」

「というハラハラドキドキを楽しむギリギリです」

提督「なるほどなー」

「それを踏まえて」

漣の瞳がキラリと輝く。

「やってみますか?」

70 : ◆wWS/LadavY - 2017/03/07 03:06:06.55 WUTdIcIX0 37/69

提督「・・・いや、私は」

躊躇。
というか、ごく自然に、ビビる。
どれだけ接近するんだよ!と。

「んー」

ポッキーをくわえて、目を閉じ、壁にもたれたまま、おねだり。

提督「・・・あ」

思い出す。
漣から借りた、マンガ。

いたずら心が、湧き上がる。

提督(たしか、こう、壁際で・・・)

どん!

漣の顔の脇に、手をつく。

「ふおっ」

閉じていた目を開くと、視界いっぱいに提督の顔。

(かかかか壁ドン!?)

この距離は未経験だ。
しかも不意打ち。

提督「動くなよ」

じりじりと迫る提督に、漣の焦りがピークに達する。

「んんんん!」

想定外の展開に、思考が追いつかない。
ぶんぶんと首を振り、ノーを主張するが、

提督「・・・お前は、俺の、女(モノ)だろ・・・?」

耳元で、若干トーンを下げた声で囁かれて。

「ふぁ・・・」ズキュウウン

なんだか、今までに知らない感情。

「・・・ふぁい」

おとなしく、顔を上げて。
差し出した。

71 : ◆wWS/LadavY - 2017/03/07 03:20:47.19 WUTdIcIX0 38/69

目を閉じて、顔を上げて、提督を待つ。

ぽり。

自分に迫る熱を感じる。

(近・・・)

ぽり、ぽり。

前髪に、提督の前髪が触れる。

(ふおおおおお)

ぽり。

鼻の頭に、ちょんと触れる。

(鼻が触れ・・・!)

もうその距離を、想像することも出来ない。

ぽり。

(――― )

何も考えられない。
呼吸すら出来ない。

提督「ふー」

ようやく、提督が離れる。

大きな安堵と、ほんの少しの寂しさを感じながら、漣はへなへなとへたり込んだ。

「・・・・・・・・・・・・・・・なんも言えねえ」

72 : ◆wWS/LadavY - 2017/03/07 03:30:39.43 WUTdIcIX0 39/69

提督「ほら、漣」

提督が指差したのは、漣が落としたポッキーの欠片。

提督「チョコは全部食べたよ」

「うう・・・」

敗北感。
提督をからかうつもりで、してやられた。

提督「しかしこれ、恥ずかしいな」

「なんだとう!」

自分をこんな目に遭わせて。
こんな恥ずかしい目に遭わせて。

この最愛の男は、ニコニコと笑ってやがる!

「ううう~~~!!」ポカポカ

ぐるぐるパンチ。
怒りと恥ずかしさと敗北感がごっちゃになって、復讐のビーストと化す。

提督「はっはっは、どすこいどすこい」

「うううう~~~!!」ポカポカ

提督「ぐふっ ちょ 待って 待って」

「ううううう~~~!!」ポカポカ

提督「待っ ぐっ うっ がっ ・・・きゅう」

「・・・あ」

「やっちまった」

提督「やら・・・れて、ない、・・・がくり」

「ご主人様ーー!」

73 : ◆wWS/LadavY - 2017/03/07 03:35:14.87 WUTdIcIX0 40/69

「みんなの、ために」

74 : ◆wWS/LadavY - 2017/03/07 03:41:39.17 WUTdIcIX0 41/69

提督「演習のこと、なんだけどさ」

「あー、漣がミスったことですかー」

提督「・・・」

「あれがなかったらもっとかっこよく勝利宣言出来たんですけどねー、ほら漣ってドジだから」

まくしたてる漣を遮る。

提督「・・・やっぱり、わざとなんだね」

「・・・なんで」

提督「私はわからなかったよ。 でも、霧島がね」

「あー、霧島さんかぁー・・・、うまく出来たと思ったんですけど」

提督「どうして」

「ご主人様」

聞こうとする提督を、今度は漣が遮る。

「私たちは、勝つために、何でもします」

「朧は辛い作戦を選び、曙はその身を盾にして、潮は全てを捨てて一瞬を狙う」

「その皆の選択を活かすため、漣に出来ることを、します」

「やられたフリ、死んだフリ、逃げるフリ、何だって」

擬傷。
地上に巣を作る鳥が、傷を負って飛べないフリをして、巣を狙う動物の注意を引き、卵や雛から遠ざけようとする行動。
もちろん、敵の注意を一手に引き受ける、危険な役目だ。

漣のそれに釣られた敵方旗艦の朝潮は離脱を止め、足止めに成功した。

「何だって、します」

75 : ◆wWS/LadavY - 2017/03/07 03:44:58.76 WUTdIcIX0 42/69

提督「でも、それじゃ」

それじゃ、漣は報われない。
評価されない。
理解して、もらえない。

「ご主人様だって、言ってたじゃないですか」


  漁港で”地蔵”と呼ばれる、仕事もせず釣りをしている軍人。
 『サボってるとか、バカ扱いされるのは仕方ないね』


「肝心なところでポカする、なんて評価は」

漣が、誇るように胸を張る。

「望む所です!」

提督「・・・そうか」

76 : ◆wWS/LadavY - 2017/03/07 03:49:51.47 WUTdIcIX0 43/69

やはりこの艦娘は、自分を抑えて、演じているのだろう。
提督として背伸びしている自分は、艦娘の皆に助けてもらっている。
甘えさせてもらっている。

では、この艦娘は?
これまでずっと抑えて、演じて、背伸びして。
これからも、ずっと、そうなのだろうか。

それは、ひとりぼっちだ。
漣がそれでいいとしても、提督として、男として、このままでは嫌だと思う。

提督(・・・よし)

77 : ◆wWS/LadavY - 2017/03/07 03:54:52.63 WUTdIcIX0 44/69



提督「漣」

「なんですか、ご主人様」

目の前で膝を突いた提督が、目線を合わせてくる。
滅多に見ない、真剣な顔で。

提督「提督、って呼んでほしい」

「!!」

息が止まる。
自分の中の、一番硬い殻で覆ったところに触れられた。
優しく、触れられた。
演じる自分のキーワード、「ご主人様」を否定された。

「で、でも」

提督「ふたりで居る時だけでも、いいから」

素の自分を見せろと言ってくれた。
わかってくれた。
わかってくれた!

「・・・いいん、ですか」

でも、怖い。
姉妹にも、見せていない。

提督「うん」

「朧ちゃんより頑固かも」

提督「うん」

「潮ちゃんより内気かも」

提督「うん」

「曙ちゃんよりツンツンしてるかも」

提督「・・・・・・うん」

嬉しい。
嬉しい!

「いまは、まだ、むりです」

提督「うん」

「でも、いつか」

提督「うん」

「まって、くれますか」

提督「待つよ」

即答。
そして、笑顔で。

提督「これから、ずっと、一緒だしね」

「あ・・・、はい!」

そうだ。
ずっと一緒と、約束してくれた。

それなら。
いつか、きっと。

78 : ◆wWS/LadavY - 2017/03/07 04:04:17.32 WUTdIcIX0 45/69

「提督にソレを無理やりくわえさせられて~」

「それで、壁ドンされて~」

「・・・」

「ご主人様に迫られて」

「・・・」

「ああ、私はこの人の女(モノ)なんだなーって」

「はわー・・・」

ぐねぐねと体をひねり、若干誇張して自慢してみる。
あの時を思い出すと、演技にも熱が入るというもの。

「お?」

我に返ると、誰もいない。


\テイトクー!/ \クソテイトクー!/ \マッテー/


「んふふ~」

「頑張ってね」

「・・・てい、とく」

朧、曙、潮に責められるところに金剛が通りかかり、ポッキーゲームが一大ブームになりかけたが、
愛宕の持ち込んだ「全チョコポッキー」により、全員が恥ずかしオーバーヒートを起こして逃亡。
事態は収束を迎えた。

提督「助かったよ」

愛宕「あらー、私は別にこれでもいいのよ?」

提督「じゃあ早速」ズイッ

愛宕「そうだ用事があったんだわちょっと失礼するわね」スタコラサー

提督「・・・逃げられた」

高雄(そりゃそうよね、あの子の経験なんてみんなと差がないんだもの)

90 : ◆wWS/LadavY - 2017/03/13 02:34:47.92 ojRXwJd50 46/69

鎮守府の屋上。

ベンチに座って、提督がタバコを取り出す。

すぐ傍に立つのは、潮。
ベンチに座ることもなく、もじもじとしている。

提督は、潮は二人きりになることを拒むと思っていた。
事実、これまでそうなったこともない。

間が、もたないのだ。

引っ張る朧、曙。
かき混ぜる漣。
受け止める潮。
積極的に動かず、やはり受け側にまわる提督とは相性が良くない。

が、屋上に付いてきてくれた。

提督(せっかくだから・・・)

少しでも、話したいと思う。
指輪を受け取ると言ってくれた、このちょっとだけ内気な艦娘と。

91 : ◆wWS/LadavY - 2017/03/13 02:35:19.26 ojRXwJd50 47/69

「これが・・・、あすなろ抱き!」

92 : ◆wWS/LadavY - 2017/03/13 02:38:18.67 ojRXwJd50 48/69

「あ、あの!」

提督「んあ?」

マッチを手にした提督が、顔を上げる。
顔を真っ赤にして、拳を握り、それでも提督の目を見て、潮が勇気を振り絞る。

「ひ、火を、おつけします!」

提督「ん・・・? タバコの?」

「はい!」

提督「・・・」

たぶん、今思いついたことじゃない。
きっと、前々から考えていてくれたのだ。
ふたりになったら、こうしてあげたい、と。

提督「うん」

嬉しかった。
避けるどころか、一所懸命考えていてくれたのだ。

提督「おねがい、するよ」

マッチ箱を、潮に渡して。

「はい!」

93 : ◆wWS/LadavY - 2017/03/13 02:42:19.10 ojRXwJd50 49/69

「で、では!」

マッチ棒を側薬に押し付け・・・

「えーい」

すかっ
たゆーん

提督「・・・」

着火失敗。
そして、謎の擬音と共に揺れる何か。

「あれ・・・?」

もう一度。

「えーい!」

すかっ
たゆーん

提督「・・・」

提督(同じスペックのはずなのに・・・、こんなに違うんだ)

揺れる何かを見て、謎の感想を漏らす。

94 : ◆wWS/LadavY - 2017/03/13 02:46:58.83 ojRXwJd50 50/69

「あれぇ・・・」

泣きそうになる。
ちゃんと練習もしたのに。
全然うまくいかない。

「おかしいな・・・」

提督「潮」

「す、すみません!すぐ点けますから!」

提督に背を向け、

「えーい!」

すかっ
たゆーん

「どうしてぇ・・・?」

点かない。
だめ、我慢できない、泣いちゃう。

ほら涙が

95 : ◆wWS/LadavY - 2017/03/13 02:54:03.14 ojRXwJd50 51/69

提督「潮」

ふわり。

「ふあっ」

提督が、潮を後ろから抱きしめる。

提督「うしお、おちついて」

そして、ゆっくり、ゆっくり話しかける。

提督「いっしょに、やろう」

「・・・はい」

いきなり抱きしめられ、びっくりして涙がひっこんでしまった。
それどころか、この暖かさにうっとりとしてしまう。

(あれ、これって・・・マンガで読んだ・・・)

あすなろ抱き。
後ろから抱きしめ、強引に迫る。

(でも・・・)

強引さは感じない。
優しく、優しく、包まれている。

(提督・・・)

安心する。

96 : ◆wWS/LadavY - 2017/03/13 03:03:51.62 ojRXwJd50 52/69

そもそも提督は、艦娘との距離に戸惑っているようだった。
初めて会った時は、目線も合わなかった。

最初は、提督から触れることはなかった。
抱きつかれて、支える程度。

次第に馴れ合い、近づいたが。
頭を撫でるにも、恐る恐る。

艦娘を恐れる、普通の人だと思った。
避けられてる、とも思った。

そうじゃなかった。

怪我をして帰った、あの時。
泣いてくれた。
痛みを、解ってくれた。

小破以下のかすり傷でも、抱き上げてドックまで走ってくれる。
今も、泣きそうになったら、抱きしめてくれた。

自分と同じ、ただの照れ屋なのだ。
それが解れば、いつもの一歩下がる態度も、可愛く思える。

「ふふっ・・・」

提督「どうした?」

「いいえ・・・」

提督「じゃ、やるよ」

「はい」

思わずこぼれた笑いをひっこめ、キリリと気を引き締める。
そうだ、今は重要な任務の途中だった!

97 : ◆wWS/LadavY - 2017/03/13 03:11:34.81 ojRXwJd50 53/69

マッチを持つ手を提督に支えられ、耳元で囁かれる提督に声に、なんだかぽわぽわする。
恥ずかしいけど、離れたくない。

(共同作業・・・)

全然関係ないケーキとナイフが脳裏に浮かんでくる。
あわてて消す。

提督「箱のほうは動かさず」

「動かさず」

提督「棒のほうだけ」

「棒のほうだけ」

提督「すりつける」

マッチ棒を持つ潮の手を、提督の手が包み込んで。
手首を返すように。

しゅっ
ぼっ

「わ」

提督「ね」

「はい!」

「あの、もう一回」

提督「よし」

潮の要望により、マッチ着火の練習は20回を超えました。

98 : ◆wWS/LadavY - 2017/03/13 03:24:46.09 ojRXwJd50 54/69

「で、ではっ」

今度こそ。
ひとりで。

「潮、いきます!」

提督「うん」

「えーい!」

すかっ
たゆーん

「ええー!?」

提督「あはははは!」

マッチが尽きたため、本日のタバコ練習はとりやめになりました。

「ごめんなさい・・・」

しょんぼりと謝る潮だが。

提督「いいもの見られたし、全然大丈夫だよ」

「・・・? はい」

よくわからないが、提督はご機嫌のようでした。

99 : ◆wWS/LadavY - 2017/03/13 03:25:36.92 ojRXwJd50 55/69

「みんなの、ために」

100 : ◆wWS/LadavY - 2017/03/13 03:33:35.55 ojRXwJd50 56/69

「私が、MVPでよかったんでしょうか」

先日の駆逐艦同士の演習。
朝潮、大潮、満潮、荒潮 対 朧、曙、漣、潮。

確かに旗艦を撃破したのは潮だが。
本人は、納得がいってないようだ。

「朧ちゃんが斬り込んで、曙ちゃんが食い止めて。
  漣ちゃんが朝潮ちゃんを誘導して」

提督(漣・・・、”やられたフリ”はバレてるっぽいぞ)

「みんなで勝ったのに。 ・・・評価は、潮だけなんて」

提督「そうだ」

「・・・提督?」

提督「みんながそれぞれの役割を果たし、勝った」

率いる朧。
守る曙。
誘う漣。
その三人が、全幅の信頼を寄せるのが、狙い撃つ潮だ。

姉妹で最も不器用な潮だが、そのために皆の何倍も訓練をしている。
その積み重ねを、姉妹は認めているのだ。
誰も、損をしているとは思っていない。


提督「潮も、誇ってほしい」

「・・・はい」

提督「勝利も、敗北も、つらいことも、たのしいことも。」

提督「皆の、ものだ」

提督「私の、誇りだ」

「はい!」

101 : ◆wWS/LadavY - 2017/03/13 03:37:06.38 ojRXwJd50 57/69

演習よりももっと以前に、潮が工廠で明石に頼んだ物。
自分専用の、装備。

明石『錨を、海底に打ち込みたい?」

潮が明石に頼んだのは、自身を固定するための錨。

明石『できなくはないけど・・・、動けないよ?』

『はい』

明石『うーん・・・、わかった、作ってみるよ』

『おねがいします』

明石『あなた達は皆、面白いものを頼んでくるよねぇ』

『・・・皆、ですか?』

明石『朧ちゃんは緊急制動機。曙ちゃんは大盾。漣ちゃんは大型電探」 

『・・・』

明石『本来の艤装のバランスが崩れるような物ばっかり!
   こっちは設計するだけでハラハラだよ」

明石『・・・でもね』

明石『皆の気持ちが、解るから。 何がしたいか、解るから。 断れないの』

『・・・はい』

明石『明石さんの弱音、皆には内緒だよ!』

102 : ◆wWS/LadavY - 2017/03/13 03:42:47.09 ojRXwJd50 58/69

そして、演習の時。


演習だから、と甘えることもない。
全ては実戦として考える。動く。

出来ることは、なんでも、全部、やる。

勝つために。

103 : ◆wWS/LadavY - 2017/03/13 03:43:17.17 ojRXwJd50 59/69

『演習、開始』

緊急制動機を使った朧が突っ込み、朝潮を孤立させる。

『無理は、承知、でも、お願い』

「投錨」

射出型の錨、明石命名「パイルアンカー」を海底に打ち込む。
波の影響を受けないよう、体を固定する。

「機関、停止」

艤装の機関を止める。
狙い撃つには、機関の振動すら邪魔だ。

104 : ◆wWS/LadavY - 2017/03/13 03:45:22.64 ojRXwJd50 60/69

『15秒経過』

曙が、大盾を構えて、大潮荒潮満潮を食い止める。

『一分稼いでやるわ、頼むわね』

「ふぅぅー・・・」

膝を落とし、右手の砲を構える。
息を吐き、止める。
呼吸も、邪魔だ。

105 : ◆wWS/LadavY - 2017/03/13 03:47:55.82 ojRXwJd50 61/69

『30秒経過」

離脱しようとした朝潮だが、被弾した漣を追って反転する。

『潮ちゃんにおまかせ~』

「――― 」

意識を、朝潮の挙動に集中させる。
集中して、集中して、時間が、間延びしていく。
音も聞こえない。

106 : ◆wWS/LadavY - 2017/03/13 03:49:54.62 ojRXwJd50 62/69

『45秒経過』

朝潮は漣に注意を向けるあまり、潮の存在を忘れている。


朝潮が旋回する。

徐々に、艤装の、機関部を晒している。

機関部の継ぎ目、弱点が見えてくる。

(あと、すこしで)

一秒が十倍にも二十倍にも感じる、潮の世界。

ゆっくりゆっくり朝潮が動く。

107 : ◆wWS/LadavY - 2017/03/13 03:52:30.71 ojRXwJd50 63/69

その時。

被弾。

曙の防御をかいくぐった荒潮の砲撃。

(左腕に、直撃)

砲を支える左腕が、動かなくなる。
だが、関係ない。
右手で構えた砲は微動だにしない。

被弾。さらに被弾。

(左足。機関部)

関係ない。
とっくに機動は止めている。

痛みは感じない。
感じている暇は無い。

そして。

(見えた、ここ!)

「てーっ!」

108 : ◆wWS/LadavY - 2017/03/13 03:55:09.70 ojRXwJd50 64/69

「そしたら、提督が後ろから抱きしめて」

「・・・」

「あったかくて」

「・・・」

「恥ずかしくって、でも離れたくなくって」

「んふふ~」

「・・・あれ、朧ちゃんと曙ちゃんは」

「とっくに出て行ったよ~」


\テイトクー!/ \クソテイトクー!/ 


「行こっか」

「う、うん」

提督の前で反転、背を見せて待機するが、気付いてもらえず噛み付く曙。
遅れてきた漣が、マッチ着火の練習というパクリにて、あすなろミッションクリア。
泣きそうな曙を見て、ようやく気付くボンクラ提督でした。

109 : ◆wWS/LadavY - 2017/03/13 03:56:40.77 ojRXwJd50 65/69

そして、無事に大淀が転籍して。

110 : ◆wWS/LadavY - 2017/03/13 03:58:13.26 ojRXwJd50 66/69

「・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・」

執務室に報告に来た四人の前に、秘書艦に復帰した大淀と、提督。

提督「大淀さん、この資料は・・・」

大淀「提督、ダメですよ」

大淀「大淀、とお呼びください」

提督「ああ、そうでしたね」

提督「大淀」

大淀「はい、・・・もう一度」

提督「大淀」

大淀「提督」

提督「大淀」

大淀「提督」

(・・・なんでしょう、この胸の中のザワザワは)
(あたしが一番って言ったくせに!)←言ってない
(なんでイチャイチャを見せられてるのかな~・・・)
(いいなあ・・・)

呼び合うたびに近づくふたりに、四人が同時に一歩踏み出す。

更に同時に、二歩。
艦娘の身体能力なら、二歩あれば全速が出せる。
飛ぶ。

「「だめクソこんにゃろやー!!!」」

大淀「ひらり」

提督「あ痛ーー!」

数時間後、廊下で正座する四人の姿が目撃されました。
バケツをかぶり、罪状を書いた看板を下げています。

「わたしたちは、しつむしつで、あばれました」

「「・・・」」

満潮「バッカじゃないの」

「「・・・とほほ」」

111 : ◆wWS/LadavY - 2017/03/13 03:59:43.17 ojRXwJd50 67/69

「朧、行きます!」

「曙、出撃します!」

「漣、出るっ!」

「潮、まいります」

自分のため、姉妹のため、仲間のため、人のため。
そして、あの人のため。

戦う。
そして、戦う以外の、恋も。

「「負けません!」」

112 : ◆wWS/LadavY - 2017/03/13 04:01:41.12 ojRXwJd50 68/69

終わりです。

えらく間が空いてしまった。

このペースでは、続きは厳しいかも。

113 : ◆wWS/LadavY - 2017/03/13 04:02:32.73 ojRXwJd50 69/69

待ってくれて
保守してくれて

ありがとうございました。

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