1 : ◆XkFHc6ejAk - 2017/02/16 21:34:07.12 iaEzW9dR0 1/26

元スレ
男「路地裏、三日月の負け犬」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1487248446/

2 : ◆XkFHc6ejAk - 2017/02/16 21:44:39.18 iaEzW9dR0 2/26

ザアアァアアァアアァァ――

(雨がざあざあ降っている。生憎傘は持っていない)

(走って帰ろうと思ったが、どうせずぶ濡れになるんだ)

(不毛な事は何よりも嫌いだ。俺は開き直ってゆっくりとした足取りで進む)

(どうせ心配する人間なんて誰も居やしないさ。そうやって自分をあざ笑う)

(心も身体も氷になったようだ。震えているのは寝不足のせいだと信じたい)

「……」

(俺は簡単に言うと天才だ)

(その才能は大切な親友を殺し、俺の生きる活力すら奪った)

(死ぬ勇気は無いくせに、与えられたものには不満ばかり)

(そんな自分が心底不愉快で、許せないまま今日も生きる)

(……街の看板の光は苦手だ。俺は追われる脱走者のようにそれを避けていく)

(いや、脱走者と例えるにはいささか相応しくないか。なにせ彼らには生きる目的があるものな)

(夜の路地裏は好きだ。暗くて良い。クソみたいな自分が闇に紛れる気がする)

(紛れた所で、俺の罪が消える訳もないが)

(……おや)

「……あれは……人? 何故……」

(妙だな……何故こんな路地裏で、傘も差さずに一人突っ立っている?)

(女か……やけに肌が白い。白粉でも塗っているかのようだ)

(まるで幽霊――)

「なっ……消えた!?」

(馬鹿な! 目を離していなかったと言うのに……)

「……!?」

(俺は暫くの間、何も言えず雨に打たれ続けていた)

3 : ◆XkFHc6ejAk - 2017/02/17 15:36:26.48 SVHYy5tt0 3/26


「ちっ……今日も雨か。鬱陶しい」

(幸いにも風邪は引かなかったようだ)

(しかし昨日の女は一体……)

(……今日の夜も通ってみようか。どうせ時間なんざ腐るほどある)

(傘は……ああ、骨が折れている。使えないか)

(この前盗まれたからだな……これしか残っていない)

(まるで俺のようである。ぽっきり折れてやる気が無い。手に取ってくれる人も居ない)

「くっくっく」

(そうして俺は自虐的に笑う。一体何年そうしてきた事か)

(きっとこれからも俺は何も生み出さず、ただ呼吸を繋げていくだけなんだろう)

(ああ、惨めだ)

4 : ◆XkFHc6ejAk - 2017/02/17 16:01:23.65 SVHYy5tt0 4/26

(結局、俺は傘を差さず、ずぶ濡れのまま街を彷徨う)

(風邪がどうした。引いたところで特に今と変わらん)

(時々すれ違う人々の目など、全く気にならない)

(ほんの一度だけ出会う人間に好意的に見られた所で、それが一体何の役に立つ)

(誰に聞かれている訳でも無いのに、そうやってまた言い訳を立てる)

(幸せそうなカップルを肩で避け、俺は例の路地裏へ向かう)


ザアアアァアアアァアァ……

(真っ暗な路地裏に、無愛想な雨音だけが響く)

(そこは俺の為に用意されていた留置所のように感じた)

「!」

(昨日の女……)

「今晩は。来ると思っていたよ」

(女はそう言うと儚げに笑った。俺にはそれが随分嘘っぽく見える)

「……あんたは……? 昨日消えたよな……」

「やはり見ていたか、まあいいさ」

「おい、答えになって……な……」

(女に手を伸ばしたその瞬間に、俺の意識は暗転した)

6 : ◆XkFHc6ejAk - 2017/02/17 22:04:20.20 SVHYy5tt0 5/26

「! これは……」

山椒魚『この雨は……儂の涙なのだよ』

(これは俺……あの時の山椒魚……? 時が戻っているのか……!?)

「へえ、君は随分と珍しい経験をしたんだね」

「おい、どうなってやがる!」

「別に、ただの興味本位さ」

「おい待て……」グラッ

7 : ◆XkFHc6ejAk - 2017/02/17 22:11:02.76 SVHYy5tt0 6/26

(ふと気が付くと、あの路地裏に立っていた。雨が容赦なく俺を濡れ鼠にする)

「おい、説明しろ!!」

(いつ振りだろう、大声を上げたのは)

(何年も他者とまともに話していなかったせいで、喉が随分と弱い……思わず咳き込んでしまう)

「僕は人の命を刈る者さ。ああ、別に君の命が欲しい訳じゃないよ?」

「これはただの暇つぶしさ。まさか土地神と接触していたとは思ってなかったけれど」

(嘘だろ……だが、あの山椒魚の存在からして、死神が居てもおかしくないか……!?)

「迷惑をかけたね。それじゃ」

「! 待っ……」

「ふふっ」ニヤ

(俺の静止を聞かず、女は陽炎のように消えてしまい)

ザアアァアアァァァ――

(雨音が支配する闇の中に、独り取り残されてしまった)

(俺の小さな心臓が、ばくばくと脈動してクズの血の循環を速める)

(この気持ちは……何だ……?)


「何を期待してやがる……クソ野郎」

8 : ◆XkFHc6ejAk - 2017/02/17 22:13:34.00 SVHYy5tt0 7/26

(あの女の事が頭から離れない)

(別に恋をしたとか、そんなのじゃない。俺にそんな資格なんて無い)

(だが、相手は人間とは違う。俺の想像のつかない力を持っている)

(もし……過去に戻れるのならば)

(……本当に戻れるのだとしたら……!)

9 : ◆XkFHc6ejAk - 2017/02/17 22:28:07.53 SVHYy5tt0 8/26

(翌日、俺は同じ時刻にあの路地裏に向かっていた)

(今宵はのっぺりとした雲は一切姿を見せず、明るい月がよく見える)

(俺はさながら白熱灯に導かれる羽虫のように、闇の隙間に足を踏み入れた)

「……おや、どうしたんだい?」

(月明かりが女を照らしている。黒い衣とすらりとした白い脚が対照的に生える)

(女は何処か余裕そうだ。俺が此方を訪れるのを確信していたのだろう)

(不愉快だが、確かに俺に選択肢は無い)

「頼む! 俺を過去に連れて行ってくれ!」

「おいおい、僕は時を司っているんじゃないんだぜ? そんな事出来る訳ないだろう」

「っそれでも……俺の過去の記憶を覗く事は出来るだろう!」

「随分と過去に縋り付くねぇ。そんな事してやる義理はないな」

「俺の命をやる!」

「いらない」

「……!」

「そうだね、他の人の命でもくれるのなら考えようかな」

「は!?」

「無理強いはしないよ。明日……此処を抜けた交差点でやってもらおうかな」スッ

「お、おい……」

(消えた)

(……俺は……)

10 : ◆XkFHc6ejAk - 2017/02/17 22:37:37.48 SVHYy5tt0 9/26

(……俺は、友に会いたい)

(たとえ過去の出来事だとしても……)

(戻りたい……あの頃の……きらきら光っていた、何よりも幸せだった時代へ……!!)

13 : ◆XkFHc6ejAk - 2017/02/18 22:33:40.15 7101tiau0 10/26

「……くすくす」

(もうすっかり暗い。俺は交差点の上の歩道橋で立ち呆けている)

(寒空の夜と言う事もあり、人通りも今はほとんど無い)

(! 前から子供が歩いてきた。塾帰りか……?)

ドクン

(……隙だらけだ。あの歳の子供なら……ナイフで確実に……いける……!)

ドクン

(チャンスは一回だけ……しくじれば終わり……)フー

ドクン

子供「……?」キョトン

(友……!!)

ドクン!!

――

14 : ◆XkFHc6ejAk - 2017/02/21 21:48:22.89 n8hviNMg0 11/26

「……さて、話を聞かせてもらおうか?」

「……」

「君は幸せな記憶に向かう唯一の機会を逃したんだぜ? それこそ自分の命を売ってもいいくらいの」

「……山椒魚の事を思い出したんだ」

「……大切な人が居なくなった奴の事を……考えちまったんだ……」

「結局……俺は何も出来ない根性無しだったよ……」

「ふーん」

「……もう良いか。さっさと酒を呑んで潰れちまいたい気分なんだが」

「まあ分かってたけどね……思った通りだ。相応しい」ボソ

「あ?」

「己を赦す事が出来ず、呪い続ける者……君みたいな人間が継ぐべきだ」

(女はそう言うと、紫色に揺らめく気を纏った)

(その気は複数の奔流となり、女の身体を走り……右手に集まっていく……)

(そうして巨大な禍々しい鎌へと姿を変えた。なんだよ、結局殺されるのか)

(ああ、でもやっと死ねるんだな)

「まあ、最期に良い思いくらいはさせてあげようか」

「……!」

15 : ◆XkFHc6ejAk - 2017/02/21 21:56:04.76 n8hviNMg0 12/26

(……戻っていく……戻っていく……!!)

「おや……これはこれは」

(……友の……葬式……)

「おいおい、何項垂れているんだよ。君が望んだ事なんだぜ?」

「分かってる……」

(……ああ……この部屋だ……)

(友と二人で笑いあった部屋……俺がその夢をぶち壊した部屋……!)

『……うーん、この鳥は白の方が映えるんじゃね?』スッ

「――馬鹿!! やめろ!!」

「うるさいな、どうせ聞こえやしないさ」

「……」

(俺のほんのちょっとした気まぐれが……友を……)

『男、たまには散歩でもしようよ。身体が鈍くなるよ』

『おー、そうだなぁ』

『ねえ、レポートってもう終わった?』

『当然。飯食いに行こうぜ』

『あはははは』

『はははっ!』

「……もう十分だ」

(これ以上は……見れない……!!)

「自分から言ったくせに……それじゃあ戻るよ」

(友……)

16 : ◆XkFHc6ejAk - 2017/02/21 22:03:33.41 n8hviNMg0 13/26

「……」

「……さて、覚悟は良いかな?」

「いいや」

(ん? 目つきが変わった?)

「俺は友の分まで生きる。これからも自分の罪を背負いながら」

「おいおい、それは君が決める事じゃないだろ」

「……」

――男の金魚の糞のくせに。なんか目障りだよな。

――良いよなぁ天才は、人生さぞかし楽しいだろうよ。

「ッ!」ギリッ

「そんなもん知った事か!! 俺達は……もう他人に左右されない!!」

「俺達は自由なんだよ!! もう誰にも縛られてたまるか!!」

(我ながら言っている事が滅茶苦茶だ。それでも)

(友の分まで……俺は死ぬ気で頑張らなければ)

(そうだ、絵を……絵を描き続けよう。あいつが好きだった絵を。あいつを殺した絵を)

(惨めに苦しんで生き続けよう……それがあいつへの贖罪だ)

「ふぅん」ヒュン

「がっ……!」

(しかし、俺の抵抗空しく、死神の鎌が俺の胸に突き刺さる)

(目に見える速度では無かった……次元が違う)

(……痛みすら感じない。気だるげな眠さが視界をじわじわと侵食していく)

(畜生……畜生……! 友……!!)

(重くのしかかる瞼の隙間から、奴が血の滴る左腕をこちらへ伸ばしているのが見えた)

17 : ◆XkFHc6ejAk - 2017/02/21 22:14:59.57 n8hviNMg0 14/26

(……!)パッ

(これは……どうなってる? 死んだ……のか?)

「どうだい、身体の調子は」

「てめっ……え……?」

(黒い衣……? 服が先ほどとは違う。では俺は一体?)

(ふと自分の手を触ると、こつこつとした無機質な肌触りが――いや)

「骸骨……!?」

「お憑かれさま。今日からは君が死神だよ」

「は、はぁっ!? どういう事だよ!?」

「今言ったじゃないか……君は一度死んで、死神になりました」

「……!?」

「時間が無いからさっさと伝えるよ、黙って聞いてね」

「死神の力を君は使う事が出来る」

「元に戻るには百人の魂を刈る事が必要」

「百人目を殺し、その遺体に「自らの血」と「その者を含めた百人分の魂」を心臓に注ぐんだ」

「そうすると、百人目が新たな死神となり、君は本当の意味で死ぬ」

「以上だよ。継承しないと何をやっても死ねないからね。君が望んだ‘生き続けられる’とも取れるが」

「……俺に人を殺せと?」

「さあ、別に期限は無いから何をしていても構わないよ。どうせ人の死なんてすぐに慣れる」

「数が違ってて失敗すると、またそこから百人やり直しだから……」

(! 女が消えていく……)

「ああ……魔力が馴染んで来たら……姿はすぐに擬態出来るようになるよ……それと……」

「……「死者に会える湖」へ……行ってみると良い……」

「すぐにやり方が分かるよ……」

「君も……謝れるといいね……」

「おい、待てよ!!」

「ああ……やっと、死ねる……僕もようやく一緒になれるんだね……」

「おい!!」

(俺が肩に触れた瞬間、女の身体はふわりと煙のように消えて無くなってしまった)

(言葉を無くす俺の前には、女の物であろうピアスだけが残った)

18 : ◆XkFHc6ejAk - 2017/02/21 22:28:59.21 n8hviNMg0 15/26

「俺は、どうすればいいんだろう」

(取り残された俺は、ピアスを拾って情けなく独り呟く)

(魂を刈る……この鎌で? 俺が……?)フッ

「うお、鎌が消えた」

(ついさっき、子供一人すら殺せなかったのに……?)

(俺は……)

「……「死者に会える湖」があるとか言ってたな……」

(そこに行けば……友に……会えるのだろうか……?)

(とにかく、顔を何とかしないと……)ズズ

「……! 出来た……ようだな。妙な感覚だ」

(ぺたぺたと自分の頬を触る。柔らかい。うん、大丈夫みたいだ)

(これが魔力を使う感覚なのだろうか? 今まで体験した事の無い感じだ……)

「……!」

そう、血の流れを指先に集中させる感じだ。すっと心を研ぎ澄ませるんだ。

(何だこれは、あの女の残留思念のようなものか……?)

さて、「繋ぐ」のを覚えないとね。まずは強力な魔力球を作って、その中心にさらに魔力を注いでくるくる回すんだ。渦を作るようにね。

(その言葉に従うと、壁に黒く渦巻く水面のようなものが出来上がった)

ゴボボ……!

(覗き込むと、深淵が広がっている)

「繋がって……いるのか?」

(しかし、初めて作ったものだぞ……もし失敗していたら……)

おいおい、怖がってちゃ何も掴めないぜ。まさしく君の人生のようにね。

(うるさい、知ったような口を叩くな)

……もう僕の声も消えてしまう。後は君次第だよ。

(……うだうだしていられない。どうせ俺に失うものなんてもう無いんだ)

「……行くしかない!」

(俺は知らずの内に震えていた出来立ての脚を叩くと、意を決してその渦に飛び込んだのである)

20 : ◆XkFHc6ejAk - 2017/02/23 12:47:23.56 vHJlMSv10 16/26

ホー……ホー……

(激流に身を任せて投げ出された場所は、静かな夜の森だった)

(……何だか、妙な雰囲気の森だな……梟の声がやけに遠く感じる)

(世界の喧騒から隔離されたような……そんな感じだ。静かにしないといけない、ような……そんな空気が漂っている)

(だが、強制されていると言うか……自然とそうしたくなるような……不思議だ)

(これは……繋げたのだろうか? 一体何処なんだろう。俺の居た世界では無い事は確かだが)

「おい、此処で大丈夫なのか?」

(……駄目だ。もう聞こえない)

(進んでみよう。進むしかない)ザッ

21 : ◆XkFHc6ejAk - 2017/02/23 12:58:17.09 vHJlMSv10 17/26

(二十分ほど歩いた。体力が無かった生前と違い、いくら歩いても疲れない)

(この世界にも月はあるのか。本当にあれが月かどうかは分からないが……満月の光が道を照らしてくれている)

「……」ギュンッ

(自分の身体能力が、想像以上に強化されている。人間とは思えない速度で走る事が出来る!)

(いや、もう俺は人間じゃないんだ。そんな比喩はやめよう)

(しかし、人間の頃はこんな風に走れなかったな……それこそ、学生の時くらいか……)

(……死神となった今の方が、あのクソみたいな人生よりもよっぽど生き生きしてる気がするぜ)

(皮肉なものだ)

22 : ◆XkFHc6ejAk - 2017/02/23 13:17:55.09 vHJlMSv10 18/26

(進んでも進んでも同じ景色だ。さすがに心細くなってくる)ザッザッ

(俺の立てる足音だけが、暗闇の中でぽつりと浮き彫りになる)

(本当に前に進めているのだろうか? 何だか同じ場所をぐるぐる回っているような気分だ)

(何だろう、昔こんな気持ちになったような……)

(ああ、これは小さな頃、知らない場所に一人で行った時の感覚だ)

(帰り道が分からなくて、自分が夜に追いつかれてしまいそうに感じていた)

「……ゴミクズ。今更何を怖がってやがる」

(俺は拳を胸に打ち付けると、歩く速度を速める)

(おや)

「……何だあれは……?」

(緑……と言うよりは翡翠色の……何だ? オーロラのようなものが漂っている)

(……近くに行ってよく見ると、木々に茸のようなものが生えていて、それが放っているらしい。胞子なのだろうか)

(この先に、何やら開けた所があるみたいだ。……)

(自分の胸が高鳴っているのが分かる。俺の一番求めていたものが、この先にある)

(俺は砂漠でオアシスを見つけた旅人のように、無我夢中で駆け出していた)

23 : ◆XkFHc6ejAk - 2017/02/23 23:16:14.89 vHJlMSv10 19/26


(辿り着いたのは、小さな湖だった)

(辺り一面に漂う翡翠色のオーロラと満月の光が、何とも言えぬ神秘さを感じさせる)

(湖の中央では、白い孔雀が水面に立っている)

「……静かだ」

(湖の上では、無数の火が星海のように浮遊している)

(俺がそれに見とれていると、孔雀がこちらへ歩いてきた)

「あんたは……一体……?」

あなたが新しい死神ですね。彼女から話は聞いていますよ。

(! 直接声が頭に)

私はこの湖で、未練を残したまま死んでしまった魂を呼び寄せています。

彼らの心残りが晴れるその時まで、この夜の森に居場所を与えています。

「……」

そして、貴方も大切な方を探しに来たのでしょう?

「!」

(白孔雀が見上げたその先から、紫色の火がこちらへ向かってきている)

(あ、あれは……)

(火は俺の目の前までやって来ると、激しく燃え盛り始めた)

(形が変わって……い、いや、これは……まさか!?)

「……」

「……あ……」

24 : ◆XkFHc6ejAk - 2017/02/23 23:21:11.01 vHJlMSv10 20/26

(……間違いない、友だ……)

(言葉が……出てこない……)

(俺は怯えながら彼の顔色を伺うが、友は何も言わない)

(作り物の心臓が、一気に激しく鼓動する)

(……友……友……!)

(そこからは、思考が上手く纏まらず、心の思いだけが飛び出していた)

「――すまなかった!! 許してもらえるとは思っていない!!」バッ

「俺はお前の大切なものを壊してしまった!! ずっとずっと謝りたかった!!」

「ずっと傍に居たのに、お前の苦しみを分かってやれなくて……すまない……!!」

「……男」

「謝るのは僕のほうだよ。君に悪意があったわけでもないのに」

「心のどこかでずっと君の才能を僻んでいた。あの時、それが爆発してしまったんだ」

「僕のせいで、随分と苦労をかけたみたいだね……御免よ」

「……あ……」

「もう良いんだ、どうか……自分を赦してやってくれないか?」

「……う……あっ……!」

(今までずっと、そんな言葉を夢見ていた)

(そうして都合良く考えてしまう自分を呪い続けていた)

(それでも俺は、俺は……謝りたかった!)

「……あああ、ああっ……!!」

(友が俺の肩を優しく抱き寄せる)

(その瞬間、俺はついに目から溢れるものを抑えきれなくなった)

25 : ◆XkFHc6ejAk - 2017/02/23 23:23:30.61 vHJlMSv10 21/26

(友が消えてからは、ずっと心が荒んでいた)

(涙を流したのは何年ぶりだろうか。慣れていないので目がずきずきと痛む)

(今までの空白の人生の分の涙を流し切り、俺はようやく深呼吸をする)

「それで、これからはどうするつもりなんだい?」

「……俺は、死神になっちまったんだ……もう普通に生きる事は出来ないさ」

「どうしてそう思うんだ?」

「どうして、って……」

「死神が普通に生きちゃ駄目だなんて誰が決めたんだよ」

「誰が何と言おうと、君は君だろ?」

「……!」

「顔だって普通だし、きっと大丈夫だよ」

「死んだ僕が言うのも何だけど、世界は僕らが思ってたよりも広いんだよ」

「きっと生きてて良かったって思う日が来るよ。僕の分まで生きてくれないか?」

「友……」

「……分かったよ、俺は生きてみる。何せ親友に頼まれちまったからな」

「俺、絵を描いてみようと思うんだ。お前が描けなかった分まで」

「! そうか……うん、それは良い事だよ。是非とも沢山綺麗な絵を描いてくれ!」

「ああっ!!」ニッ

「良い顔だ、もう安心して……逝けるよ」フワッ

「! ……友……お前にも苦労をかけたな……」

「あはは、どうって事ないさ。親友だろ?」

「……そうだな」

「じゃあね、男」

「じゃあな……友」

(友は穏やかな笑みを浮かべると、満足そうに消えていった)


(……ん、もう一つ火が近づいてくるぞ)

26 : ◆XkFHc6ejAk - 2017/02/23 23:25:07.56 vHJlMSv10 22/26

「やあ、どうだった?」

「この声は……お前か」

「謝った所で何も変わらないが、ごめんね。怒ってるだろ?」

「当たり前だろ……でも、お前のおかげで親友に謝れた」

「それに、元々俺を救うつもりで死神にしたんだろ?」

「僕はそんな優しい人じゃないさ」

「……よく言うぜ。まぁ……ありがとな」

「ふふっ、まるで人が変わったようだね」

「ああ、そうかもな」

(そう言えば、最後に人に感謝した時はいつだろう)

(女の魂の傍には、黄色い火が……あの魂はきっと)

「……お前も、大切な人と一緒になれたんだな」

「……うん。君のおかげでね」

「ちっ、全く……幸せにな」

「ありがとう、どうか君も……幸せにね」

「……ああ。感謝してる」

(女ともう一つの魂は、ゆっくりと上へ昇って行き……消えた)

27 : ◆XkFHc6ejAk - 2017/02/23 23:26:33.01 vHJlMSv10 23/26

「さて」

行くのですか。

「ああ、あんたは……ずっと此処に居るんだな」

それが私の役目ですから。随分と格好良い顔立ちになりましたね。

「あんたにも感謝しないとな。友人に会わせてくれてありがとう」

ふふふ。そう言って頂けるのが一番嬉しいです。

「此処は良い所だな……そろそろ行くよ」

はい。死神の力の使い方もまだ分からないでしょうし、また暇な時にでも遊びに来てくださいね。

「気軽に遊びに来るような所じゃないと思うが……また来るよ」ゴボボッ

28 : ◆XkFHc6ejAk - 2017/02/23 23:28:19.97 vHJlMSv10 24/26

「おお、無事に戻れた」

(夢じゃないんだよな……本当に……まさかこんな日が来るとは)

(寒かった風が、今はとても心地良い)

(死神になれて良かった)

「なぁ山椒魚。俺はやっと……生きる事が出来そうだよ」

(ずっと胸に突き刺さっていた杭がすっぽりと抜けた気分だ)

(そうだな、まずは明日スケッチブックを買いに行こうか)


「ああ、今なら何でも出来そうだ」

29 : ◆XkFHc6ejAk - 2017/02/23 23:36:10.85 vHJlMSv10 25/26

男は黒い衣を深くかぶり直し、しっかりとした足取りで夜の街を歩き始める。

後ろから吹いてきた冷たい夜風が、ひゅるりと彼を包み込む。

しかし、以前とは違い、その風に嫌悪感を抱くことは無い。むしろ彼には、夜が自分を歓迎しているように感じる。

これからの彼の生活は、心配しなくても大丈夫だろう。もう彼には生きる理由があるのだから。

死神となった負け犬が、一人闇の中へと消えていく。その表情は何処か柔らかい。

彼の見上げた先では、巨大な鎌のような三日月が、静かに光っているのであった。

30 : ◆XkFHc6ejAk - 2017/02/23 23:40:18.24 vHJlMSv10 26/26

終わりです。ありがとうございました。

過去作

男「夏の通り雨、神社にて」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1437922627/
http://ayamevip.com/archives/44942633.html

少年「鯨の歌が響く夜」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1438310494/
http://ayamevip.com/archives/45154503.html

少年「アメジストの世界、鯨と踊る」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1449757236/
http://ayamevip.com/archives/46799899.html

男「慚愧の雨と山椒魚」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1447667382/
http://ayamevip.com/archives/46046779.html

男「とある休日、昼下がり」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1455541122/
http://ayamevip.com/archives/47239140.html

男「とある平日、春の夜に」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1460366051/
http://ayamevip.com/archives/47336575.html

男「とある街の小さな店」
https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1457533059/
http://ayamevip.com/archives/47135235.html

「奇奇怪怪、全てを呑み込むこの街で」
https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1458734925/
http://ayamevip.com/archives/47239149.html

「喧々囂々、全てを呑み込むこの街で」
https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1470921413/
http://ayamevip.com/archives/48227151.html

「死屍累々、全てを呑み込むこの街で」
https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1478089126/
http://ayamevip.com/archives/48898365.html

旅人「死者に会える湖」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1463231919/
http://ayamevip.com/archives/47560979.html

少年「魚が揺れるは灰の町」
https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1463836215/
http://ayamevip.com/archives/47616947.html

男「浮き彫り」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1465456264/
http://ayamevip.com/archives/47750243.html

男「リビングデッド・ジェントルマン」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1467292922/
http://ayamevip.com/archives/48214419.html

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